JP7244622B2 - デファレンシャル装置 - Google Patents

Description

以下の開示は、入力ギアを一対の車軸に脱連結可能に連結するデファレンシャル装置に関し、特に僅かな潤滑油であってもその全体を潤滑するのに有利な構造を有するデファレンシャル装置に関する。

自動車において、左右の車軸は必ずしも等速で回転するわけではないので、その間の差動を許容する必要がある。差動を許容しながら両車軸へトルクを伝達するために、デファレンシャル装置が利用される。

ある種のデファレンシャル装置は、車軸をプロペラシャフトから力学的に切断することができるように構成されている。その一例でありフリーランニングデファレンシャルなどと呼ばれる装置は、常時プロペラシャフトに駆動的に結合しているアウタケースと、クラッチによりこれと脱連結可能に連結するインナケースとを備え、デファレンシャルギア組はインナケースに結合している。クラッチが連結した時にのみトルクはデファレンシャルギア組を介して車軸に伝達され、脱連結した時には車軸は自由に回転する。この種のデファレンシャル装置を利用すれば、他の脱連結装置を利用することなく、２輪駆動モードと４輪駆動モードとを機動的に切り替えることが可能になる。

特許文献１は、関連する技術を開示する。

日本国特許出願公開２０１１－１１２１１４号

上述の装置は、インナケースとアウタケースとによる二重構造を必然的に包含する。二重構造はその内外の間で潤滑油が循環することの障害となるので、焼き付きに注意を払う必要がある。通常は、車軸が浸る程度に、あるいはそれ以上に、潤滑油をデフキャリア中に充填し、潤滑油が車軸側からデファレンシャル装置に侵入して回転による遠心力を利用して外方へと循環することにより、デファレンシャル装置をくまなく潤滑している。本発明者らによる検討によれば、かかる多量の潤滑油は回転に抗する抵抗を生ずるので、エネルギ効率を損なってしまうことが明らかとなった。潤滑油の量を減ずればかかる問題は解決するが、車軸側から潤滑油を供給することができなくなり、さらに上述の遠心力は潤滑油をデファレンシャル装置内部から遠ざけるように作用するので、焼き付きの問題が生じかねない。以下に開示する装置は、かかる問題に鑑みて創造されたものである。

一局面によれば、潤滑油と共にキャリアに収容されて入力ギアを一対の車軸に脱連結可能に連結するデファレンシャル装置は、前記軸の周りに並び前記入力ギアに噛合する歯列を備えたリングギアと、前記リングギアに結合して前記軸の周りに回転可能なアウタケースと、前記アウタケースに対して相対的に前記軸の周りに回転可能であって、前記軸の方向にドッグ歯を立てられた一端を有するインナケースと、前記インナケースに支持され、前記一対の車軸に結合して前記車軸間の差動を許容するデファレンシャルギア組と、前記アウタケースに係合し、前記インナケースを前記アウタケースに対して回り止めするべく前記ドッグ歯と脱連結可能に連結するクラッチ部材と、前記アウタケースを貫通して外面に開口する貫通孔であって、前記ドッグ歯を前記アウタケースから径方向に外方に露出させるべく配置された貫通孔と、を備え、前記貫通孔は前記歯列が生ずる前記潤滑油の流れに浴する領域に沿って配置され、少なくとも前記ドッグ歯と前記クラッチ部材とが連結したときに前記貫通孔から露出するべく配置された、前記アウタケースの外部と前記インナケースの内部とを連通する連通孔を、さらに備え、前記連通孔は前記インナケースと前記クラッチ部材との何れか一以上に開けられた複数の穴を含み、前記複数の穴の少なくとも一が前記貫通孔から露出するべく前記複数の穴は配置されている。

図１は、一実施形態によるデファレンシャル装置の断面立面図である。 図２は、キャリアに収容されたデファレンシャル装置を示す側面図である。 図３は、デファレンシャル装置の立面図であって、リングギアのみを部分断面図で示す立面図である。 図４は、クラッチの歯が開口から露出した態様を主に示すアウタケースの平面図であって、クラッチが連結した状態を示す。 図５は、クラッチの歯が開口から露出した態様を主に示すアウタケースの平面図であって、クラッチが脱連結した状態を示す。 図６は、他の実施形態によるクラッチ歯を主に示す平面図である。 図７は、さらに他の実施形態によるクラッチ歯を主に示す平面図である。 図８は、代替的な実施形態によるクラッチ歯を主に示す平面図である。 図９は、さらに代替的な実施形態によるクラッチ歯を主に示す平面図である。 図１０は、他の例による開口を主に示す平面図である。

添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。以下の説明および請求の範囲を通じて、特段の説明がなければ、軸はデファレンシャル装置の回転軸の意味であり、通常は車軸の中心とも一致する。また軸方向はこれに平行な方向であり径方向はこれに直交する方向を意味し、周方向は軸の周りの方向を意味する。

以下の説明は、例示的にフリーランニングデファレンシャルなどと呼ばれる種類のデファレンシャル装置に関するが、これは説明の便宜のために選択されたものであって、説明は網羅的でなく限定的でもない。

図１に示すデファレンシャル装置は、入力ギアを有するプロペラシャフトを一対の車軸に脱連結可能に連結する。デファレンシャル装置は、図示されていない入力ギアに噛合するリングギア１と、リングギア１に結合して軸Ｃの周りに回転可能なアウタケース３と、アウタケース３内に嵌合してこれに対して相対的に回転可能なインナケース５と、インナケース５に支持されたデファレンシャルギア組７と、インナケース５と組み合わせてクラッチ９を構成するクラッチ部材１５と、クラッチ９の連結，脱連結を切り替えるアクチュエータ１３と、を備える。

クラッチ９が脱連結しているときにはインナケース５はアウタケース３に対して自由に回転可能だが、クラッチ９が連結したときには、クラッチ部材１５がアウタケース３に係合しているためにインナケース５はアウタケース３に対して回り止めされ、以ってアウタケース３とインナケース５との間でトルクが伝達される。デファレンシャルギア組７は、一対の車軸とそれぞれ結合するサイドギア２３Ｒ，２３Ｌを備え、その間の差動を許容しながら、かかるトルクを伝達する。

リングギア１は、入力ギアに噛合するべく、軸Ｃの周りに並ぶ歯列２１を備える。かかる歯列２１は、軸Ｃに対して径方向に突出したスパーギアないしヘリカルギアまたは軸方向に突出したフェースギアであってもよいが、軸Ｃに対して傾いたベベルギア歯列にすることができ、さらにアウタケース３に向かって傾いていてもよい。詳しくは後述するが、アウタケース３に向かって傾いたベベルギア歯列２１は、それが吐出する潤滑油をデファレンシャル装置の内部に向かわせるのに有利である。歯列２１には、いわゆるハイポイドギアの形式を適用することができるが、必須ではない。

デファレンシャルギア組７は、インナケース５に支持されており、入力されたトルクをサイドギア２３Ｒ，２３Ｌに出力すると共に、その間の差動を許容するように構成されている。インナケース５に支持されたシャフトの周りに回転可能なピニオンがサイドギア２３Ｒ，２３Ｌに噛合し、これらは例えばその内面にスプラインを備え、それぞれ車軸に結合する。すなわちデファレンシャルギア組７は、インナケース５に入力されたトルクを、差動を許容しながら両車軸へ出力する。これは図１に示されたベベルギア式の構造に基づく説明だが、フェースギア式や遊星ギア式のごとき他の形式をデファレンシャルギア組７に採用することができる。

インナケース５は、アウタケース３に対して固定されておらず、クラッチ９が連結していないときには、少なくとも軸Ｃ周りに自由に回転可能である。図１に組み合わせて図４，５を参照するに、インナケース５の一端にはドッグ歯５１が軸方向に立てられており、これに対応してクラッチ部材１５もドッグ歯５３を備え、両者の組み合わせはクラッチ９を構成する。クラッチ部材１５は、ドッグ歯５３とは反対側の一端においてアウタケース３に係合しており、アウタケース３からトルクを受容して共に回転する。図４に示すごとくクラッチ９が連結したときにはデファレンシャル装置はトルクをプロペラシャフトから車軸へ伝達するが、図５に示すごとくクラッチ９が脱連結したときには車軸はプロペラシャフトから自由になる。

本実施形態においては、インナケース５はサイドギア２３Ｒ，２３Ｌを介してアウタケース３に拘束されており、実質的に軸方向には移動不能である。クラッチ部材１５が軸方向に移動することにより、連結・脱連結が切り替わる。かかる構造に代えて、クラッチ部材１５が移動不能であってインナケース５が移動する構造を採用することもできる。

アクチュエータ１３は、本実施形態においてはクラッチ部材１５を軸方向に駆動してクラッチ９の連結・脱連結を制御する装置である。その一例は図示のごとく、電気的に励磁されるソレノイドと、ソレノイドにより駆動されるプランジャと、プランジャを逆方向に付勢するスプリングの組み合わせである。プランジャがクラッチ部材１５を軸方向に押すことによりクラッチ９を連結させ、スプリングが脱連結を促す。もちろんこれに代えて、油圧装置、空圧装置、あるいはモータ駆動されたカム機構等、適宜の他の駆動装置を利用することができる。

図２を参照するに、デファレンシャル装置は、潤滑油と共にキャリア１７に収容される。なお図２において矢印Ｕは重力の向きに対して上方を、矢印Ｄは下方を表す。一方の車軸が図の中央に現れているサイドギア２３Ｒに結合し、他方の車軸は図に現れないサイドギア２３Ｌに結合する。

キャリア１７内のキャビティ１９には、静止時において例えば線ＬＳまたはＬＲに達するように潤滑油が封入され、かかる潤滑油によりデファレンシャル装置の各部が潤滑される。アウタケース３は、潤滑油の出入りを促すべく、図１，３に示すごとく、貫通孔１１を備え、かかる貫通孔１１はアウタケース３を貫通して外面に開口してその内外を連通する。デファレンシャル装置はさらに、インナケース５の内外を連通する連通孔を備える。その一例はドッグ歯５１，５３の間の隙間だが、連通孔については後により詳しく述べる。

図２に戻って参照するに、線ＬＳに例示されるように、キャビティ１９に封入された潤滑油が車軸に届く程度、あるいはそれ以上であるときには、潤滑油は車軸側からデファレンシャル装置に侵入し、回転による遠心力を利用してインナケース５からアウタケース３へ向かうことが期待できる。貫通孔１１から排出された潤滑油は再び車軸を通ってデファレンシャル装置内へ侵入する循環が成立する。この場合に各部材や貫通孔１１の配置は比較的に制限されない。

封入された潤滑油が、線ＬＲに例示されるように、車軸に届かないときには、上述のごとき遠心力を利用した循環は期待できない。本発明者らは、噛合したリングギア１が潤滑油を吐出する作用を有することを見出した。すなわち、リングギア１は軸Ｃ周りに回転する間、キャビティ１９の下端付近を通過するときに、潤滑油を歯列２１に載せて引き上げ、プロペラシャフトの入力ギアと噛合するときに、歯筋に沿ってこれを吐出する。かかる作用はデファレンシャル装置内に潤滑油を供給するのに利用できる。かかる作用は多量の潤滑油を封入したときには観察されず、少量にして初めて顕在化するものである。特に、歯列２１が軸Ｃに対して傾きを有するベベルギア歯列の場合には、遠心的な流れＦＰと求心的な流れＦＣとの両方を生み出すので、潤滑油をアウタケース３に向かわせるのに有利であり、さらに歯列２１がアウタケース３に向かって傾いていれば、より有利である。

主に図３を参照するに、流れＦＣをよりよく利用するため、貫通孔１１はドッグ歯５１，５３間の隙間と整列せしめてもよい。インナケース５は軸方向には不動であるから、そのドッグ歯５１が常に貫通孔１１を通してアウタケース３から径方向に外方に露出するように配置すれば、貫通孔１１と隙間とが整列する。これに代えてクラッチ部材１５が不動な場合には、ドッグ歯５３を基準に各要素を配置してもよい。かかる配置は、流れＦＣを受容してインナケース５の内部に潤滑油を導くのに有利なだけでなく、クラッチ９が連結しようとするときに潤滑油をドッグ歯５１，５３間から排出するのにも有利であり、クラッチ９の連結を容易にする。

貫通孔１１は、ベベルギア歯列２１が生ずる流れＦＣに浴する領域ＦＡに沿って、あるいは整列して、あるいは重複するように、配置することができる。例えば歯列２１の延長線がアウタケース３の外面に交差する位置に合わせて、貫通孔１１を配置することができる。より詳しくは、歯列２１の歯頭の延長線および歯底の延長線がそれぞれアウタケース３の外面に交差して描く２本の外周線に挟まれた領域は、潤滑油の流れＦＣに浴する領域ＦＡと認識することができ、貫通孔１１はかかる領域に沿って配置することができる。

貫通孔１１は、図１０に示すごとく円形であってもよいが、図４乃至９に示すごとく、領域ＦＡに沿って延びた楕円形ないし長円形にすることができる。あるいは可能ならば長方形、またはこれらの何れかに均等な形状であってもよい。

潤滑油をインナケース５の内部へと導入する連通孔としては、既に述べた通りドッグ歯５１，５３間の隙間を利用することができる。ドッグ歯５１，５３間には、互いに噛合したときであっても、例えば歯の側面間に（周方向に）隙間がある。より大きな連通孔を確保するべく、図４に示すごとく、ドッグ歯５１の歯頭がドッグ歯５３の歯底に届かないようにドッグ歯５１，５３を寸法づけてもよい。もちろんこれに代えて、ドッグ歯５１の歯底にドッグ歯５３の歯頭が届かないようにこれらを寸法づけてもよい。図４に示すごとく、歯の側面間（周方向）のみならず歯頭と歯底との間にも（軸方向にも）隙間が保持され、潤滑油を通す連通孔として作用する。また図６に示すごとく、ドッグ歯５１，５３の寸法を調整して隙間を拡大することができる。

あるいはこれに代えて、または加えて、図７に示すごとく、ドッグ歯５１，５３の一部を切り欠いてもよい。切り欠きは連通孔を拡大する。切り欠きは単数に限らず、複数の切り欠きを設け、何れかの切り欠きが常に貫通孔１１から露出するように配置することができる。残るドッグ歯の噛合がトルクを負担するに十分である限り、かかる構造を利用することができる。

さらにこれらに代えて、または加えて、図８に示すごとく、ドッグ歯５１，５３の一方の歯底部を他方の歯頭部よりも周方向に延長し、以って周方向に隙間を拡大してもよい。

またさらにこれらに代えて、または加えて、図９に示すごとく、インナケース５とクラッチ部材１５の一方または両方は、貫通孔５５，５７を備えてもよい。貫通孔５５，５７もそれぞれ単数に限らず、複数の貫通孔であってもよく、何れかの貫通孔が常に貫通孔１１から露出するように配置してもよい。

上述の何れの実施形態によっても、リングギアが生み出す求心的な潤滑油の流れを利用して、潤滑油を装置の内部に導入し、その各部を潤滑することができる。かかる構造によれば、潤滑油を減じても十分に装置の各部を潤滑することができるので、潤滑油による回転に抗する抵抗を減じ、以ってエネルギ効率を改善することができる。

幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。

Claims (4)

1. 潤滑油と共にキャリアに収容されて入力ギアを一対の車軸に脱連結可能に連結するデファレンシャル装置であって、
   前記軸の周りに並び前記入力ギアに噛合する歯列を備えたリングギアと、
   前記リングギアに結合して前記軸の周りに回転可能なアウタケースと、
   前記アウタケースに対して相対的に前記軸の周りに回転可能であって、前記軸の方向にドッグ歯を立てられた一端を有するインナケースと、
   前記インナケースに支持され、前記一対の車軸に結合して前記車軸間の差動を許容するデファレンシャルギア組と、
   前記アウタケースに係合し、前記インナケースを前記アウタケースに対して回り止めするべく前記ドッグ歯と脱連結可能に連結するクラッチ部材と、
   前記アウタケースを貫通して外面に開口する貫通孔であって、前記ドッグ歯を前記アウタケースから径方向に外方に露出させるべく配置された貫通孔と、
   を備え、
   前記貫通孔は前記歯列が生ずる前記潤滑油の流れに浴する領域に沿って配置されているデファレンシャル装置であって、
   少なくとも前記ドッグ歯と前記クラッチ部材とが連結したときに前記貫通孔から露出するべく配置された、前記アウタケースの外部と前記インナケースの内部とを連通する連通孔を、さらに備え、
   前記連通孔は前記インナケースと前記クラッチ部材との何れか一以上に開けられた複数の穴を含み、前記複数の穴の少なくとも一が前記貫通孔から露出するべく前記複数の穴は配置されているデファレンシャル装置。
2. 請求項１のデファレンシャル装置であって、前記歯列は前記軸に対して傾いたベベルギア歯列である。
3. 請求項１のデファレンシャル装置であって、前記クラッチ部材は前記ドッグ歯と連結する第２のドッグ歯を備え、前記第２のドッグ歯は前記ドッグ歯と連結したときにも前記連通孔となる隙間を保持するべく寸法づけられている。
4. 請求項１のデファレンシャル装置であって、前記貫通孔は前記領域に沿って前記アウタケースの周方向に延びた長円形、楕円形、および長方形の何れかである。

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