JP7243405B2 - 冷却ロール、双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法 - Google Patents
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そこで、例えば特許文献1-3には、冷却ロールの外周面に酸化物からなる溶射層を形成することにより、冷却ロールの外周面における緩冷却化を図り、熱ひずみに起因した割れや変形を抑制する技術が提案されている。
しかしながら、上述の特許文献1-3に示すように、冷却ロールの外周面に酸化物からなる溶射層を形成した場合には、酸化物と溶鋼との濡れ性が悪いため、凝固核起点が少なくなり、凝固が不均一になりやすくなる。このため、均一で粗大な結晶組織を有する薄肉鋳片を、安定して製造することはできなかった。
溶射層を形成する酸化物としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、イットリア、シリカ、チタニア等が挙げられる。この中で、チタニアは、溶鋼との濡れ性が比較的良好で、溶鋼の接触角が90°未満となる。
しかしながら、チタニアは耐熱性が低く、耐熱性に優れたアルミナやジルコニア等と混合して使用されるため、溶鋼との濡れ性が悪くなる。
以上のことから、溶射層を構成する酸化物の組成(すなわち、溶射層を構成する酸化物の平滑面における接触角)に応じて、溶射層表面の粗化率を調整することにより、溶射層表面の濡れ性(接触角)を制御することが可能となる。
そこで、予め溶融金属への浸漬実験等によって、溶融金属において凝固遅れが生じない臨界接触角αを把握しておく。
そして、溶射層表面の濡れ性(接触角)を、臨界接触角αよりも小さくなるように構成すれば、凝固遅れの発生を抑制することが可能となる。
(1)式:θ=WT×θT+Σ(WMi×θMi)
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rが調整されていることを特徴としている。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
この構成の双ロール式連続鋳造装置によれば、上述の冷却ロールを備えているので、均一で粗大な結晶粒を有する薄肉鋳片を安定して製造することができる。
この構成の薄肉鋳片の鋳造方法によれば、上述の冷却ロールを用いているので、均一で粗大な結晶粒を有する薄肉鋳片を安定して製造することができる。
(1)式:θ=WT×θT+Σ(WMi×θMi)
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rを調整することを特徴としている。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
この場合、予め粗化率を調整したロール本体の外周面に溶射層を形成することで、溶射層の表面の粗化率rを所定の範囲に調整することができ、凝固遅れの発生を抑制可能な冷却ロールを安定して製造することが可能となる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
図1に示す双ロール式連続鋳造装置10は、一対の冷却ロール20(20A,20B)と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12,12及び13,13と、一対の冷却ロール20(20A,20B)の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ロール20(20A,20B)とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル19と、を備えている。
ロール本体21は、熱伝導性に優れた金属で構成されており、本実施形態では、銅又は銅合金で構成されている。
溶射層25は、酸化物からなる溶射粒子がロール本体21の外周面に堆積することで形成されている。
ここで、溶射層25を構成する酸化物の一例を表1に示す。
そこで、本実施形態においては、溶射層25は、チタニアを含有するチタニア含有酸化物で構成されている。
このため、本実施形態では、溶射層25を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶鋼3との接触角θを、チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をWT、チタニアの平滑面における溶鋼3との接触角θT、チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、チタニア以外の酸化物の平滑面における溶鋼3との接触角θMiとしたとき、以下の(1)式で定義した。
(1)式:θ=WT×θT+Σ(WMi×θMi)
(A)式:cosφ=r×cosθ
ここで、図3に示すように、表面の凹凸の幅をX、深さをRzと定義すると、見かけの表面積はX、実際の表面積は(X2+Rz2)0.5であるため、粗化率rは、図3の(B)式で表すことができる。
そこで、本実施形態においては、鋳造する溶鋼3において凝固遅れが生じない限界接触角αを予め求めておき、下記の(2)式を満足するように、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合(チタニア含有酸化物の平滑面における接触角θ)と、粗化率rと、を設定している。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
本実施形態では、双ロール式連続鋳造法を模擬した鋳型浸漬実験を実施した。100mm×100mm×30mm厚の銅板の表面にアルミナ(Al2O3)からなる溶射層を成膜し、表面の粗化率を変更した各種鋳型板を準備した。これらの鋳型板を、大気溶解炉に貯留された温度1575℃の溶鋼(本実施形態では、質量比で3.0%のSiを含有するSi含有鋼)に、20mpmの速度で浸漬させ、0.8秒浸漬した後、同様の速度で引き上げ、鋳型板(溶射層)の表面に鋳片を形成した。
以下の(C)式で定義した凝固不均一度CV値が15以上のときに、凝固遅れが生じたと判断した。ここで、dAVEは鋳片厚の平均値、σは鋳片厚の標準偏差である。
(C)式:CV=(σ/dAVE)×100
図4に、アルミナの場合の粗化率rと実質接触角φとの関係を示す。上述の鋳型浸漬実験の結果、粗化率r=1.2(実質接触角φ=126°)では凝固遅れが確認されず、粗化率r=1.3(実質接触角φ=131°)では凝固遅れが確認された。
そこで、本実施形態では、質量比で3.0%のSiを含有するSi含有鋼における限界接触角αを126°とした。
図5に、チタニアとアルミナの2元系のチタニア含有酸化物、及び、チタニアとジルコニアの2元系のチタニア含有酸化物において、チタニアの含有量と上述の(1)式で算出される接触角θとの関係を示す。なお、アルミナとジルコニアは、表1に示すように、いずれも接触角が120°であることから、図5において同様の関係を示すことになる。
この図5から、チタニアの含有量が60%を超えると接触角θが90°未満となり、粗化率rを大きくすることで実質接触角φがさらに小さくなり、濡れ性が向上する。一方、チタニアの含有量が60%以下の場合には接触角θが90°以下となり、粗化率rを大きくすることで実質接触角φがさらに大きくなり、濡れ性が劣化する。
この図6に示すように、チタニアの含有量が増加するにつれて粗化率rが大きくなっても凝固遅れが生じなくなることが確認される。この図6のグラフから、チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量、及び、溶射層25表面の粗化率rを、設定することが可能となる。
まず、上述した手順によって、鋳造対象となる溶鋼の凝固遅れが生じない限界接触角αを確認し、(1)式及び(2)式から、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合、溶射層25表面の粗化率rを設定する。
まず、ロール本体21に対して表面処理を行い、ロール本体21の外周面の粗化率を調整する。このとき、上述の溶射層設定工程S01において設定された溶射層25表面の粗化率rに応じて、ロール本体21の外周面の粗化率を調整する。
なお、表面処理方法について特に限定はなく、ショットブラスト加工、切削加工や研磨加工等の表面処理手段を適宜選択して適用すればよい。
次に、粗化率を調整したロール本体21の外周面に対して、溶射処理を行って、溶射層25を形成する。このとき、上述の溶射層設定工程S01において設定されたチタニア含有酸化物を用いて溶射層25を形成する。
溶射処理は、溶射粒子を加熱・加圧し、高速で母材に衝突させ、母材の表面を被覆する表面処理方法である。本実施形態では、上述のように、各種酸化物からなる溶射粒子を用いている。溶射方法には、フレーム溶射、アーク溶射、プラズマ溶射、高速フレーム溶射、爆発溶射などがあるが、それぞれで溶射粒子の加熱・加圧方法が異なる。本実施形態では、爆発溶射によって溶射層25を形成する。
また、溶射層25の厚みDは、0.1mm以上1mm以下の範囲内とすることが好ましく、0.1mm以上0.15mm以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
その後、乾式研磨を行い、溶射層25の外周面の粗化率rを目的の粗化率に調整する。
例えば、本実施形態では、図1に示すように、ピンチロールを配設した双ロール式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
また、図5においては、チタニアとアルミナの2元系のチタニア含有酸化物、及び、チタニアとジルコニアの2元系のチタニア含有酸化物を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、その他のチタニア含有酸化物によって溶射層を構成してもよい。
ここで、上述の実施形態の欄に記載したように鋳型浸漬実験を実施した結果、3.0%Si鋼の限界接触角α=126°、3.5%Si鋼の限界接触角α=143°であった。
上述のサンプルの幅方向において、中央から±30mmの領域の鋳片厚を5mmピッチでマイクロメータを用いて測定した。そして、鋳片の厚さの平均値dAVE、及び鋳片の厚さの標準偏差σを算出し、上述の(C)式からCV値を求めた。評価結果を表2、3に示す。
上述のサンプルから60mm幅の断面を研磨し、ナイタールエッチングを施し、結晶粒界を顕出し、光学顕微鏡観察した。
平均結晶粒径は、1/4厚部において切片法によって測定した。
結晶粒の均一性は、切片法で求めた平均結晶粒径よりも2倍以上大きい結晶粒が存在する場合を均一性「×」と評価し、切片法で求めた平均結晶粒径よりも2倍以上大きい結晶粒が存在しない場合を均一性「〇」と評価した。評価結果を表2、3に示す。
比較例7,8においては、溶射層の粗化率を考慮した接触角φが、3.5%Si鋼の限界接触角α=143°を超えており、凝固CV値が25を超え、結晶粒均一性の評価が「×」となった。
また、本発明例12~16においては、溶射層の粗化率を考慮した接触角φが、3.5%Si鋼の限界接触角α=143°よりも小さく、凝固CV値が15以下となり、結晶粒均一性の評価が「〇」となった。
3 溶鋼(溶融金属)
5 凝固シェル
10 双ロール式連続鋳造装置
15 サイド堰
16 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
20 冷却ロール
21 ロール本体
25 溶射層
Claims (5)
- 回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置に用いられる冷却ロールであって、
ロール本体と、このロール本体の外周面に形成された溶射層と、を有し、前記溶射層は、チタニア含有酸化物で構成されており、
前記チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をWT、前記チタニアの平滑面における溶融金属との接触角θT、前記チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、前記チタニア以外の酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θMiとして、前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θが以下の(1)式で定義され、
(1)式:θ=WT×θT+Σ(WMi×θMi)
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rが調整されていることを特徴とする冷却ロール。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α - 回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、
請求項1に記載の冷却ロールを備えていることを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。 - 回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の鋳造方法であって、
請求項1に記載の冷却ロールを用いることを特徴とする薄肉鋳片の鋳造方法。 - 回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置に用いられる冷却ロールの製造方法であって、
前記冷却ロールは、ロール本体と、このロール本体の外周面に形成された溶射層と、を有し、前記溶射層は、チタニア含有酸化物で構成されており、
前記チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をWT、前記チタニアの平滑面における溶融金属との接触角θT、前記チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、前記チタニア以外の酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θMiとして、前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θが以下の(1)式で定義され、
(1)式:θ=WT×θT+Σ(WMi×θMi)
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rを調整することを特徴とする冷却ロールの製造方法。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α - 前記ロール本体の外周面の粗化率を調整するロール本体表面処理工程を有し、粗化率が調整された前記ロール本体の外周面に溶射処理を行うことにより、前記溶射層の粗化率を調整することを特徴とする請求項4に記載の冷却ロールの製造方法。
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