{A.電力変換器およびその制御装置の構成}
図1は直接形電力変換器100の構成を例示するブロック図である。当該直接形電力変換器100に、本開示にかかる制御技術を適用することができる、当該直接形電力変換器100は、整流回路3と、フィルタ2と、充放電回路4と、インバータ5と、直流リンク7とを備える。
整流回路3には単相交流電源1から単相交流電圧Vin(=Vm・sin(ωt))が入力される。整流回路3は単相交流電圧Vinを単相全波整流した後の整流電圧Vrec(=|Vin|)を得て、整流電圧Vrecをフィルタ2へ出力する。整流回路3には単相交流電源1から電流Iinが流れ込む。整流回路3は電流irec(=|Iin|;Iin=Im・sin(ωt))を出力する。
整流回路3は例えばダイオードブリッジを採用し、ダイオードD31~D34を備える。ダイオードD31~D34はブリッジ回路を構成する。
フィルタ2は、リアクトルL2とコンデンサC2とを備えている。コンデンサC2は整流回路3の出力端子対3A,3Bの間でリアクトルL2と直列に接続される。
リアクトルL2の一端は整流回路3の出力端子対3A,3Bのうちの高電位端3A、具体的にはダイオードD31,D33のカソードの両方に接続される。リアクトルL2の他端はコンデンサC2を介して、整流回路3の出力端子対3A,3Bのうちの低電位端3B、具体的にはダイオードD32,D34のアノードの両方に接続される。
フィルタ2では、リアクトルL2とコンデンサC2との直列接続において整流電圧Vrecが入力され、コンデンサC2が支持する電圧V2が出力される。
直流リンク7は直流電源線LLと、直流電源線LLよりも電位が高い直流電源線LHとを有する。直流電源線LHは、後述する逆電流阻止回路8とリアクトルL2とを介して、整流回路3の高電位端3Aに接続される。直流電源線LLは整流回路3の低電位端3Bに接続される。
リアクトルL2は、インバータ5と整流回路3との間で直流電源線LHまたは直流電源線LLと直列に接続される。
充放電回路4は放電回路4a、充電回路4bを有する。充放電回路4は整流回路3および直流リンク7との間で電力を授受するアクティブバッファとして機能する。
放電回路4aはバッファコンデンサとしてコンデンサC4を含み、充電回路4bは電圧V2を昇圧してコンデンサC4を充電する。
放電回路4aはダイオードD42と、ダイオードD42と逆並列接続されたトランジスタ(ここでは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:以下「IGBT」と略記)Scとを更に含んでいる。トランジスタScはコンデンサC4に対して直流電源線LH側で、直流電源線LH,LLの間で直列に接続されている。
ここで逆並列接続とは、順方向が相互に逆となって並列に接続されていることを指す。具体的にはトランジスタScの順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向であり、ダイオードD42の順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向である。トランジスタScとダイオードD42とはまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSc)として把握することができる。スイッチScの導通によってコンデンサC4が直流リンク7に接続され、コンデンサC4が放電して直流リンク7へと電流icを流す。
充電回路4bは、例えばダイオードD40と、リアクトルL4と、トランジスタ(ここではIGBT)SLとを含んでいる。ダイオードD40は、カソードと、アノードとを備え、当該カソードはスイッチScとコンデンサC4との間に接続される。かかる構成はいわゆる昇圧チョッパとして知られている。
リアクトルL4は高電位端3AとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSLは直流電源線LLとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSLにはダイオードD41が逆並列接続されており、両者をまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSL)として把握することができる。具体的にはトランジスタSLの順方向は高電位端3Aから低電位端3Bへと向かう方向であり、ダイオードD41の順方向は低電位端3Bから高電位端3Aへと向かう方向である。
コンデンサC4は充電回路4bにより充電され、コンデンサC4の両端の電圧Vc(以下、単に「両端電圧」とも称す)は整流電圧Vrecよりも高い。スイッチSLは、自身が導通することにより、リアクトルL4に整流回路3を(フィルタ2を考慮すればリアクトルL2を介して)接続してリアクトルL4にエネルギーを蓄積する。具体的には高電位端3AからスイッチSLを経由して低電位端3Bへと電流を流すことによってリアクトルL4にエネルギーが蓄積される。その後にスイッチSLをオフすることによって当該エネルギーがダイオードD40を経由してコンデンサC4に蓄積される。
両端電圧Vcは整流電圧Vrecより高いので、基本的にはダイオードD42には電流が流れない。従ってスイッチScの導通/非導通は専らトランジスタScのそれに依存する。ここで、ダイオードD42は両端電圧Vcが整流電圧Vrecより低い場合の逆耐圧を確保するとともに、インバータ5が異常停止したときに誘導性負荷6から直流リンク7へ還流する電流を逆導通させるように作用する。
また、ダイオードD41の順方向は低電位端3Bから高電位端3Aに向う方向であるので、基本的にはダイオードD41には電流が流れない。従ってスイッチSLの導通/非導通は専らトランジスタSLのそれに依存する。ここで、ダイオードD41は逆耐圧や逆導通をもたらすためのダイオードであり、IGBTで実現されるトランジスタSLに内蔵されるダイオードとして例示したが、ダイオードD41それ自体は回路動作には関与しない。
逆電流阻止回路8はフィルタ2と直流電源線LHとの間に設けられ、放電回路4aからフィルタ2へと逆流する電流を阻止する。逆電流阻止回路8は例えばダイオードD43で実現される。ダイオードD43のアノードはフィルタ2、より具体的にはリアクトルL2を介して高電位端3Aに接続される。ダイオードD43のカソードは直流電源線LHに接続される。かかる逆電流阻止回路8は例えば特許第5772915号公報(以下「特許文献2」と称す)によって公知である。
整流回路3から逆電流阻止回路8を介して直流電源線LHへ流れる電流irec1と、整流回路3から充放電回路4へ(具体的には充電回路4bへ)流れる電流iLと、コンデンサC2に流れる電流I2とを導入すると、整流回路3から出力される電流irecは、電流irec1,iL,I2の和である。リアクトルL4には電流iLが流れ、iL=irec-irec1-I2の関係にある。電流iLは例えば周知の電流センサによって測定できる。
両端電圧Vcは整流電圧Vrecより高いので、スイッチScが導通するときには電流irec1は値0をとる。
なお、リアクトルL4を、リアクトルL2を介さずに高電位端3Aへ直接に接続することもできる。この場合、フィルタ2には電流iLが流れない。フィルタ2の電流容量を低減し、ひいてはフィルタ2を小型化する観点ではリアクトルL4をフィルタ2よりも整流回路3に近い側に接続することが望ましい。
インバータ5は直流リンク7における、より具体的には直流電源線LH,LLの間の直流電圧を三相(U相、V相、W相)の交流電圧に変換して出力端Pu,Pv,Pwに出力する。当該直流電圧は、スイッチScが導通するときには両端電圧Vcをとる。当該直流電圧は、逆電流阻止回路8およびリアクトルL2での電圧降下を無視すると、スイッチScが導通しないときには整流電圧Vrecをとる。
インバータ5は例えば三相の電圧形インバータであって、6つのスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを含む。スイッチング素子Supは出力端Puと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Svpは出力端Pvと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Swpは出力端Pwと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sunは出力端Puと直流電源線LLとの間に接続され、スイッチング素子Svnは出力端Pvと直流電源線LLとの間に接続され、スイッチング素子Swnは出力端Pwと直流電源線LLとの間に接続される。インバータ5はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Supと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvpはスイッチング素子Svpと並列に接続され、ダイオードDwpはスイッチング素子Swpと並列に接続され、ダイオードDunはスイッチング素子Sunと並列に接続され、ダイオードDvnはスイッチング素子Svnと並列に接続され、ダイオードDwnはスイッチング素子Swnと並列に接続される。出力端Puからは負荷電流iuが出力され、出力端Pvからは負荷電流ivが出力され、出力端Pwからは負荷電流iwが出力される。負荷電流iu,iv,iwは三相交流電流を構成する。例えばスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,SwnのいずれにもIGBTが採用される。
誘導性負荷6は例えば回転機であり、誘導性負荷であることを示す等価回路で図示されている。具体的には、リアクトルLuと抵抗Ruとが相互に直列に接続され、この直列体の一端が出力端Puに接続される。リアクトルLv,Lwと抵抗Rv,Rwについても同様である。またこれらの直列体の他端同士が相互に接続される。
誘導性負荷6を同期機として説明を行う。速度検出部9は、誘導性負荷6に流れる負荷電流iu,iv,iwを検出する。速度検出部9は、負荷電流iu,iv,iwから得られる同期機6の回転角速度ωm、q軸電流Iqおよびd軸電流Idを(正確に言えばそれらを示す情報を;以下同様)直接形電力変換器用の制御装置10に与える。
制御装置10には、回転角速度ωm、q軸電流Iqおよびd軸電流Idの他、単相交流電圧Vinの振幅Vm,角速度ω(あるいはこれと時間tとの積である位相θ=ωt)、回転角速度ωmの指令値ωm*およびリアクトルL2にかかる電圧VLが入力される。この実施の形態では電圧VLとして、コンデンサC2側のリアクトルL2の端の電位を基準とした、高電位端3A側のリアクトルL2の端の電位を採用して説明する。
{B.直接形電力変換器の等価回路と各種デューティ}
図2は、図1に示された直接形電力変換器100の等価回路を示す回路図である。当該等価回路は、例えば特許文献2で紹介されている。但し、本実施の形態では電圧源は整流回路3とフィルタ2の両方を統合して示している。電圧源は電圧V2、電流(irec-I2)を出力する。
当該等価回路において電流irec1は、スイッチSrecが導通するときにこれを経由する電流irec1として等価的に表されている。同様に、電流icは、スイッチScが導通するときにこれを経由する電流icとして等価的に表されている。
インバータ5において出力端Pu,Pv,Pwが直流電源線LH,LLのいずれか一方に共通して接続されるときにインバータ5を介して誘導性負荷6に流れる電流は、スイッチSzが導通するときにこれを経由して流れる零相電流izとして等価的に表されている。
インバータ5および誘導性負荷6は、直流電流Idcを流す電流源Idcとして等価的に表されている。
図2では、充電回路4bを構成するリアクトルL4とダイオードD40とスイッチSLとが示される。リアクトルL4を流れる電流iLが示される。
当該等価回路において、スイッチSrec,Sc,Szが導通するそれぞれのデューティdrec,dc,dzを導入する。特許文献2から公知のように、0≦drec≦1,0≦dc≦1,0≦dz≦1,drec+dc+dz=1である。
デューティdrecは整流回路3が直流リンク7に電流をインバータ5に流し得る期間を設定するデューティである。以下、整流回路3が直流リンク7に電流をインバータ5に流し得る期間を設定するデューティを「第1デューティ」と称することがある。
デューティdcは、コンデンサC4が放電するデューティである。以下、コンデンサC4が放電するデューティを「第2デューティ」と称することがある。
デューティdzはインバータ5においてその出力する電圧によらずに必ず零相電流izが流れるデューティである。インバータ5においてその出力する電圧によらずに必ず零相電流izが流れるデューティを以下「第3デューティ」と称することがある。
直流電流Idcはインバータ5を経由して誘導性負荷6に流れる電流である。電流irec1,ic,izはそれぞれ、直流電流Idcとデューティdrec,dc,dzの積である。電流irec1,ic,izはそれぞれ、スイッチSrec,Sc,Szのスイッチング周期における平均値である。デューティdrec,dc,dzは、各電流irec1,ic,izに対する直流電流Idcのデューティと見ることもできる。
整流回路3にダイオードブリッジを採用する場合、整流回路3は能動的に第1デューティdrecでスイッチングすることはできない。第3デューティdzと、第2デューティdcとに従って、それぞれインバータ5と、スイッチScがスイッチングすることによって、電流irec1を得ることができる。
図3は本実施の形態における放電回路4aおよびインバータ5の動作を示すグラフである。キャリヤC3は最小値0および最大値1を有する周期tsの鋸波である。
上述のように第3デューティdzと、第2デューティdcとに従って、それぞれインバータ5と、スイッチScがスイッチングすることによって、電流irec1を得ることができる。
スイッチSrec,Sc,Szのオンは、それぞれの矩形波の高い値で示される。スイッチSrec,Sc,Szのオフは、それぞれの矩形波の低い値で示される。
スイッチScはキャリヤC3の値が0以上第2デューティdc未満のときにオンし、第2デューティdc以上1以下のときにオフする。
スイッチSz(図2参照)はキャリヤC3の値が第2デューティdc以上、値(dc+dz/2)未満のとき、および値(dc+dz/2+drec)以上1以下のときにオンする。スイッチSzはキャリヤC3の値が0以上第2デューティdc未満のとき(このときスイッチScがオンする)、および値(dc+dz/2)以上値(dc+dz/2+drec)未満のときにオフする。
スイッチSrec(図2参照)はキャリヤC3の値が値(dc+dz/2)以上値(dc+dz/2+drec)未満のときにオンする。スイッチSrecはキャリヤC3の値が0以上値(dc+dz/2)未満のとき、および値(dc+dz/2+drec)以上1以下のときにオフする。
期間の長さtc,trec,tzを導入する。長さtcは、キャリヤC3の値が0以上第2デューティdc以下である期間(以下「期間Tc」とも称す:これはキャリヤC3が第2デューティdcをとる瞬間を無視することでスイッチScが導通する期間と見なせる)の長さである。
長さtrecは、キャリヤC3の値が値(dc+dz/2)以上(dc+dz/2+drec)以下である期間(以下「期間Trec」とも称す:これはキャリヤC3が値(dc+dz/2+drec)をとる瞬間を無視することでスイッチSrecが導通する期間と見なせる)の長さである。
長さtzは、キャリヤC3の値が値dc以上(dc+dz/2)以下である期間(以下「期間Tz1」とも称す:これはキャリヤC3が値(dc+dz/2)を採る瞬間を無視することでスイッチSzが連続して導通する期間の一つと見なせる)の長さの二倍である。長さtzは、キャリヤC3の値が値(dc+dz/2+drec)以上1以下である期間(以下「期間Tz2」とも称す:これはスイッチSzが連続して導通する期間の他の一つと見なせる)の長さの二倍であるとも言える。
キャリヤC1は、期間Tz1,Trec,Tz2に亘って長さ(trec+tz)を一周期とする三角波C11と、期間Tcにおいて長さtcを一周期とする三角波C12とを有する。三角波C11,C12はいずれも対称三角波である。
三角波C11,C12はいずれも期間Tcの両端において最小値0をとる。三角波C12は期間Tcの中央において第2デューティdcと等しい最大値をとる。三角波C11は期間Trecの中央において値(1-dc)と等しい最大値をとる。後の表現の便宜のため、値(1-dc)を補デューティ(1-dc)と称すこともある。
スイッチング素子Sup,Svp,Swpのオンは、それぞれの矩形波の高い値で示される。スイッチング素子Sup,Svp,Swpのオフは、それぞれの矩形波の低い値で示される。
スイッチング素子SunのオンおよびオフはそれぞれSupのオフおよびオンに対応する。スイッチング素子SvnのオンおよびオフはそれぞれSvpのオフおよびオンに対応する。スイッチング素子SwnのオンおよびオフはそれぞれSwpのオフおよびオンに対応する。よって図3ではスイッチング素子Sun,Svn,Swnの動作の図示を省略した。
スイッチング素子Supは、三角波C12が値dc(1-Vu2*)よりも大きな値をとるとき、および三角波C11が値((1-dc)-drec・Vu1*)よりも大きな値をとるときにオンする。スイッチング素子Svpは、三角波C12が値dc(1-Vv2*)よりも大きな値をとるとき、および三角波C11が値((1-dc)-drec・Vv1*)よりも大きな値をとるときにオンする。スイッチング素子Swpは、三角波C12が値dc(1-Vw2*)よりも大きな値をとるとき、および三角波C11が値((1-dc)-drec・Vw1*)よりも大きな値をとるときにオンする。
図3ではいわゆる二相変調方式が採用されている場合が例示される。このような動作は例えば特許第5962804号公報(以下「特許文献3」と称す)で公知であるので、詳細な説明は割愛する。ここではスイッチング素子Swpがオフし、かつスイッチング素子Swnがオンする状態について説明する。このような状態は、出力端Pu,Pv,Pwがそれぞれ出力する三相の交流電圧Vu,Vv,Vwの位相φを導入して、0≦φ≦2π/3(但しφ=0でVv=Vw、φ=π/3でVu=Vv、φ=2π/3でVw=Vu)である状態として説明できる。
但し、三相の対称性から、スイッチング素子Supがオフし、かつスイッチング素子Sunがオンする状態(2π/3≦φ≦4π/3)、あるいはスイッチング素子Svpがオフし、かつスイッチング素子Svnがオンする状態(4π/3≦φ≦2π)についても同様に説明できることは明白である。
スイッチング素子Sup,Svp,Swpのいずれもがオフしている状態が期間V0で示される。スイッチング素子Supがオンし、スイッチング素子Svp,Swpのいずれもがオフしている状態が期間V4で示される。スイッチング素子Sup,Svpのいずれもがオンし、スイッチング素子Swpがオフしている状態が期間V6で示される。
三角波C11,C12のそれぞれに対して、信号波の異なる組を用いてスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnのオン/オフを制御することは、例えば特許文献3で公知である。
上述の例で言えば、三角波C11は信号波((1-dc)-drec・Vu1*),((1-dc)-drec・Vv1*),((1-dc)-drec・Vw1*)の組と比較され、三角波C12は信号波dc(1-Vu2*),dc(1-Vv2*),dc(1-Vw2*)の組と比較される。
本実施の形態では変調率の指令値ks(>0)および値ks6(>0)を導入して0≦φ≦2π/3において、下記のように設定する:
Vu1*=(τ41+τ61)/ts,Vv1*=τ61/ts,Vw1*=0…(1);
Vu2*=(τ42+τ62)/ts,Vv2*=τ62/ts,Vw2*=0…(2);
τ41/ts=k1・sin(π/3-φ),τ61/ts=k1・sin(φ)…(3);
τ42/ts=k2・sin(π/3-φ),τ62/ts=k2・sin(φ)…(4);
k1=ks-ks6+ks6・cos(6φ/2πt+θ)…(5);
k2=ks…(6)。
変調率はインバータ5に入力する直流電圧(ここでは直流リンク7における直流電圧)に対するインバータ5が出力する交流電圧の比であり、電圧制御率と称されることもある(例えば特許第4488122号(以下「特許文献4」と称す)参照)。
式(5)、(6)では補正された(変調率の)指令値k1,k2が導入された。このように補正された指令値k1,k2とデューティdc,drecとを用いてインバータ5の動作を制御することは、例えば特許文献3で公知である。
値Vu1*,Vu2*は交流電圧Vuの指令値に対応し、値Vv1*,Vv2*は交流電圧Vvの指令値に対応し、値Vw1*,Vw2*は交流電圧Vwの指令値に対応する。
式(5)は指令値ksと指令値k1との関係を示す。指令値k1は直流成分(ks-ks6)と、交流電圧Vu,Vv,Vwの基本周波数の6倍の周波数(6φ/2πt)(但しtは時間)の交流成分ks6・cos(6φ/2πt+θ)とを有する。指令値k1は式(3)および式(1)を介して、三角波C11に対する信号波((1-dc)-drec・Vu1*),((1-dc)-drec・Vv1*),((1-dc)-drec・Vw1*)の組を、デューティdrec,dcと共に設定する。
式(6)は指令値ksと指令値k2との関係を示す。指令値k2は指令値ksを直流成分ksとして有し、交流成分を有しない。指令値k1は式(4)および式(2)を介して、三角波C12に対する信号波dc(1-Vu2*),dc(1-Vv2*),dc(1-Vw2*)の組を、デューティdcと共に設定する。
期間TrecはスイッチSrecが導通し、電流irec1が流れる期間である。このような期間では整流回路3からインバータ5に電流irec1が流れる。例えば誘導性負荷6が同期機であるとき、当該同期機が有する電機子のスロットに由来する高調波が電流irecに重畳する。当該高調波は同期機に印加される交流電圧Vu,Vv,Vwの基本周波数に対する5次高調波および7次高調波が顕著である。
特許文献4で開示されるように、変調率が直流成分と、交流電圧Vu,Vv,Vwの基本周波数の6倍の周波数の交流成分とを有することで、電流irecの、ひいては電流Iinの5次高調波および7次高調波が低減される。
よって期間Trecにおいて式(1),(3),(5)に従った信号波((1-dc)-drec・Vu1*),((1-dc)-drec・Vv1*),((1-dc)-drec・Vw1*)の組と、三角波C11とを比較して、インバータ5のスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの動作を制御することは、直接形電力変換器100に流れる電流、例えば電流Iinの高調波成分を低減する観点で有利である。
指令値ksは、電流irecの高調波成分の抑制を行わないときのインバータ5の変調率である、上述の例では、直流リンク7における直流電圧が維持されるとき、指令値ksが大きいほどインバータ5が出力する交流電圧Vu,Vv,Vwの振幅が大きくなる。
期間Tc,Tz1,Tz2では電流irec1が流れず、電機子のスロットに由来する高調波がインバータ5に発生しても、当該高調波は電流irecには重畳しない。よってこれらの期間における変調率は直流成分のみで足り、式(2)、(4),(6)のように設定される。
期間Tc,Tz1,Tz2では、電機子のスロットに由来する高調波がインバータ5に発生しても、当該高調波は電流irecには重畳しない。よって期間Tc,Tz1,Tz2において式(1),(3),(5)を採用しても電流irecの5次高調波および7次高調波が低減される効果は損なわれない。
しかし式(1)~(6)から理解されるように、信号波の組は変調率に依存する。そして三角波C11と信号波((1-dc)-drec・Vu1*),((1-dc)-drec・Vv1*),((1-dc)-drec・Vw1*)の組とで電流irecに重畳する5次高調波および7次高調波を低減する観点からは指令値k1が1以下であることが望ましい。この観点から指令値k1の直流成分(ks-ks6)は、指令値k2の直流成分ksよりも小さくなる。
よってインバータ5の変調率を高め、交流電圧Vu,Vv,Vwの振幅を大きくする観点からは、期間Tc,Tz1,Tz2において式(2),(4),(6)に基づいて信号波dc(1-Vu2*),dc(1-Vv2*),dc(1-Vw2*)の組を採用することが有利である。
{C.直接形電力変換器の等価回路と電圧VLに基づく電流iLの制御}
図4は図1に示された直接形電力変換器100の一部、具体的には整流回路3、フィルタ2および充放電回路4の等価回路を示す回路図である。当該等価回路において、電流iL,irec1が、それぞれ電流源として表される。
電流iLは、電圧VLに依存しない値I0から、電圧VLに正比例する値k・VL(但し係数kは正)を減じた値である。値I0は、電圧VLがその指令値VL*と等しいときの電流iLの値である。
このようにして電圧VLが高い程小さい電流iLを採用することは、フィルタ2における共振を抑制する観点で有利である。かかる技術はそれ自体は例えば特許文献1で公知である。
図5は図4の等価回路をブロック図として書き直した図である。更に図5において値I0に代えて指令値VL*を導入して等価変換を行い、図6のブロック図が得られる。更に等価変換を行って図7、図8、図9、図10、図11のブロック図が順次に得られる。このような等価変換は例えば特許第5257533号公報(以下「特許文献5」と称す)で公知である。
図11に示されたブロック図から理解されるように、また特許文献5でも説明されるように、指令値VL*を入力して電圧VLが得られる構成は、破線で囲まれた微分系の処理と、鎖線で囲まれた二次系の処理とが直列に接続された制御系として表される。
電圧VLが高い程小さい電流iLを採用してフィルタ2の共振を抑制するとき、係数kは、所望の減衰係数を得る観点のみで設定されてもよい。
係数kを高めることで電機子のスロットに由来する高調波の低減をも企図することが可能である。電機子のスロットに由来する5次および7次の高調波は、直流リンク7においては6次高調波として現れる。例えば同期機の回転速度が毎秒20~120回転であり、当該同期機が有する電機子の極対数が3であれば、当該6次高調波は360~2160Hzである。例えばフィルタ2の共振周波数は1700Hzである。電機子のスロットに由来する高調波とフィルタ2の共振に由来する高調波との両方が存在するとき、波形の合成による周波数成分が発生する。よって上記の制御系の帯域が360~3040(=1700×2-360)Hzに拡がる程度に係数kを高めることで、電機子のスロットに由来する高調波も低減できる。
係数kを増加させると、インバータ5の動作にも影響を与えて交流電圧Vu,Vv,Vwの波形を歪ませ、却って低次の高調波を増加させる可能性がある。これはインバータ5の制御で採用される制御信号(後述する)が、キャリヤC1(例えばその周波数は5.9kHz)を用いたパルス幅変調で得られるとき、当該制御信号の周波数成分にまで上記帯域幅が拡がるためである。
図12および図13は、電流Iinの次数毎の高調波電流含有率と、全高調波ひずみ(total harmonic distortion:図中THと表記)と、部分加重高調波ひずみ(partial weighted harmonic distortion:図中PWと表記)とを示すスペクトルである。高調波電流含有率は、電流Iinの実効値に対する次数毎の高調波電流の含有率を示す。
高調波に関する規格IEC61000-3-12(2011年版)では13次までの高調波成分についての許容値(上限)が規定される。当該許容値は図12および図13において折れ線G21,G22,G23,G24,G25で示される。
折れ線G21は短絡比(需要家地点の短絡容量/機器容量:Rsce)が350以上の場合を、折れ線G22は短絡比が250の場合を、折れ線G23は短絡比が120の場合を、折れ線G24は短絡比が66の場合を、折れ線G25は短絡比が33の場合を、それぞれ示す。
規格IEC61000-3-12では、電流についての全高調波ひずみと、部分加重高調波ひずみについても、許容値(上限)が規定される。図12および図13においてこれらの許容値が直線G31,G32,G33,G34,G35で示される。全高調波ひずみについての許容値と、部分加重高調波ひずみについての許容値とは等しいので、直線G31,G32,G33,G34,G35は折れ線とはなっていない。
これらの許容値はいずれも電流Iinの実効値に対する高調波電流の実効値の比を含有率に換算して示される。部分加重高調波ひずみは13次以上の成分について重み付けを行って求められる。よって電機子のスロットに由来する高調波たる交流電圧Vu,Vv,Vw5次高調波および7次高調波によって発生する電流成分のうち、電流Iinの基本周波数の14次以上の周波数となる成分を低減することは、部分加重高調波ひずみの余裕度を確保し、以て全高調波ひずみを抑制する観点で望ましい。
直線G31は短絡比が350以上の場合を、直線G32は短絡比が250の場合を、直線G33は短絡比が120の場合を、直線G34は短絡比が66の場合を、直線G35は短絡比が33の場合を、それぞれ示す。
図12および図13のいずれにおいても、高調波電流率を示す棒グラフは5本一組で次数毎に配置される。同じ次数において示された5本の中では、右側に配置される棒グラフほど係数kが大きい。当該5本のうち、最も左側に配置される棒グラフではk=0である。また当該5本のうち、残りの4本についても係数kの値は異なる次数の棒グラフにおいて揃えられ、図12と図13でも係数kは揃えられている。
図12は、上述の指令値k1,k2を用いなかった場合、つまり式(5)において便宜上、ks6=0(このときk1=k2=ks)とした場合を示す。
図13は、値ks6として正の一定値を採用した場合を示す。記述の通り、期間Trec以外で指令値k1を用いた信号群の組でインバータ5を制御しても、高調波を抑制する効果は変わらない。
図12および図13から、奇数次においては、係数kが大きいほど高調波電流率が高い傾向が看取される。これは上述の通り、電圧VLに基づく電流iLの制御が、インバータ5の動作に影響を与えたためと考えられる。
図12および図13から、係数kの増大に対して、全高調波ひずみおよび部分加重高調波ひずみのいずれもが極小値をとることが看取される。これから、係数kの増大で入力電力の6次高調波の低減を企図することは、必ずしも有利に働くとは言えないことを示す。
図12と図13との比較から、指令値k1,k2を用いたインバータ5の制御は、指令値ksを用いたインバータ5の制御と比較して、
(i)係数kが大きいとき(棒グラフの5本の組の内で最も右側に配置されるもの)の奇数次の高調波が低減されることと、
(ii)係数kが小さくても全高調波ひずみおよび部分加重高調波ひずみのいずれもが低減することと、
が認められる。
図14および図15は、上記制御系のゲインと歪率との関係を示すグラフである。いずれも縦軸には歪率が採用され、横軸には制御ゲインが採用される。制御ゲインは上記制御系のゲインであり、係数kと正の相関がある。
図14における歪率は電流Iinの部分加重高調波ひずみを電流Iinの実効値で除した値を百分率で示す。図15における歪率は電流Iinの全高調波ひずみを電流Iinの実効値で除した値を百分率で示す。
図14において折れ線G41はks6=0とした場合の歪率を示し、折れ線G42は値ks6として正の一定値を採用した場合の歪率を示す。図15において折れ線G51はks6=0とした場合の歪率を示し、折れ線G52は値ks6として正の一定値を採用した場合の歪率を示す。
図14における折れ線G41,G42同士の比較により、指令値k1,k2を用いたインバータ5の制御は、指令値ksを用いたインバータ5の制御と比較して、電圧VLによる電流iLの制御の有無(つまり係数kが0であるか否か)に拘らず、部分加重高調波ひずみが低減することが認められる。図14からは、上記制御系のゲインを増大させることで、部分加重高調波ひずみが低減することも認められる。
図15における折れ線G51,G52同士の比較により、指令値k1,k2を用いたインバータ5の制御は、指令値ksを用いたインバータ5の制御と比較して、電圧VLによる電流iLの制御の有無に拘らず、全高調波ひずみが低減することが認められる。
図16は、誘導性負荷6である同期機の回転速度と変調率との関係を示すグラフである。縦軸に採用される変調率は、直流リンク7における直流電圧に対する交流電圧Vuの振幅の比である。横軸に採用される回転速度が高い程、インバータ5が出力する電力は大きい。
折れ線G61は電圧VLに基づく電流iLの制御と、指令値k1,k2を使い分ける制御とのいずれも採用されなかった場合を示す。
折れ線G62は電圧VLに基づく電流iLの制御と、期間Trecにおいて指令値k1を採用し、かつ期間Tz1,Tz2,Tcにおいて指令値k2を採用した制御とを採用した場合を示す。
折れ線G63は電圧VLに基づく電流iLの制御と、期間Trec,Tz1,Tz2,Tcの全てにおいて指令値k1を採用した制御とを採用した場合を示す。
折れ線G61と、折れ線G62,G63との比較から、直流成分(ks-ks6)と交流成分ks6・cos6φ/2πtとに基づいた制御を行うことによって交流電圧Vuの振幅が低下することが看取される。かかる振幅の低下はインバータ5の変調率の低下に相当する。
折れ線G62,G63同士の比較から、期間Trec,Tz1,Tz2,Tcにおける指令値k2の採用は、インバータ5の変調率を低下させにくい観点で有利である。
{D.制御装置10の構成例}
図17は制御装置10の概念的な構成の一例を示すブロック図である。制御装置10は、主として充放電回路4の制御を行うブロック10aと、主としてインバータ5を制御するインバータ制御装置として機能するブロック10bとを有する。
ブロック10aは、デューティ生成部11と、比較器12,13,14と、共振抑制制御部15と、減算器17と、チョッパ制御部16と、キャリヤ生成部23,24とを備える。
ブロック10bは、速度制御部30と、出力電圧指令生成部37と、演算部31,32と、比較器33,34と、論理合成部36とを備える。
デューティ生成部11は単相交流電圧Vinの振幅Vmと、両端電圧Vcについての指令値Vc*と、角速度ωとを入力する。振幅Vmおよび角速度ωは公知の技術によって検出され、デューティ生成部11に入力される。指令値Vc*は不図示の外部構成から入力される。
デューティ生成部11は、デューティdrec,dc,dz、および電流指令値iL*を出力する。
電流指令値iL*は、フィルタ2の共振の抑制を考慮しない場合に、充電回路4bに入力する、より具体的にはリアクトルL4に流す電流iLの指令値である。例えばiL*=I0である。
デューティdrec,dc,dz、および電流指令値iL*を決定する手法については特許文献2等に詳述されているので、ここではその詳細を省略する。
共振抑制制御部15には電圧VLが入力される。電圧VLは公知の技術によって検出される。図1では図面が煩雑とならないように電圧VLはフィルタ2から制御装置10への矢印で示される。
共振抑制制御部15は電圧VLが高いほど大きい補正値を出力する。例えば当該補正値は電圧VLに比例する。本実施の形態では電圧VLと係数kとの積が補正値k・VLとして出力される。
減算器17は電流指令値iL*から補正値k・VLを減算し、補正された電流指令値(iL*-k・VL)を出力する。電流指令値iL*に追従した電流I2は値(I0-k・VL)をとる(図4参照)。
第2デューティdcが比較器12においてキャリヤC3と比較される。キャリヤC3はキャリヤ生成部23で生成される。例えばキャリヤC3は鋸波である(図3参照)。
比較器12の比較結果は制御信号SScとして出力される。制御信号SScはスイッチScへ与えられ。スイッチScのオン/オフを制御する。図1では図面が煩雑とならないように制御信号SScは放電回路4aへの矢印で示される。
例えば制御信号SScはキャリヤC3の値が0以上第2デューティdc未満のときに活性であり、第2デューティdc以上1以下のときに非活性である。スイッチScは、制御信号SScの活性によってオンする。
比較器13には、デューティdc,drec,dzが入力される。比較器13は、期間Trecと期間Tc,Tz1,Tz2とを区別する信号SSrを出力する。例えば信号SSrは期間Trecにおいて活性であり、期間Tc,Tz1,Tz2のいずれにおいても非活性である。
信号SSrは、キャリヤC3が値(dc+dz/2)以上値(dc+dz/2+drec)未満のときに活性であり、キャリヤC3が値(dc+dz/2+drec)以上1以下のときおよび値0以上値(dc+dz/2)未満のときに非活性である。
比較器13はデューティdc,drecを用いて、値(1+dc-drec)/2(=dc+dz/2)と、値(1+dc+drec)/2(=dc+dz/2+drec)とを求め、これらの値をキャリヤC3と比較して、信号SSrを生成し、信号SSrを出力する。
チョッパ制御部16は両端電圧Vcおよび単相交流電圧Vin(より正確にはそれぞれを示す値)を入力し、補正された電流指令値(iL*-k・VL)に基づいて昇圧デューティdLを出力する。与えられた電流指令値に基づいて、両端電圧Vcおよび単相交流電圧VinとリアクトルL4のインダクタンスLmとから昇圧デューティdLを決定する技術も、例えば特許文献2で公知の技術であるので、ここでは詳細を省略する。
昇圧デューティdLは比較器14においてキャリヤC5と比較される。キャリヤC5はキャリヤ生成部24で生成される。比較器14の比較結果はスイッチSLの開閉を制御する制御信号SSLとして出力される。
例えば比較器14は、キャリヤC5が昇圧デューティdL以下となる期間で活性化した信号を制御信号SSLとして出力する。スイッチSLは、制御信号SSLの活性によってオンする。図1では図面が煩雑とならないように制御信号SSLは充電回路4bへの矢印で示される。
速度制御部30には、同期機6の回転角速度ωm、q軸電流Iqおよびd軸電流Idが速度検出部9(図1参照)から入力される。速度制御部30には回転角速度ωmの指令値ωm*も、不図示の外部構成によって入力される。
速度制御部30は公知の手法によって位相φおよび指令値ksを求める。速度制御部30は更に式(5),(6)に従って指令値k1,k2を求める。
出力電圧指令生成部37には、位相φと指令値ks1,ks2とが速度制御部30から入力される。出力電圧指令生成部37は式(1)~(4)に従って、値Vu1*,Vu2*,Vv1*,Vv2*,Vw1*,Vw2*を生成する。
演算部31には、デューティdc,drecがデューティ生成部11から、値Vx1*(但しxはu,v,wを代表する:以下同様)が出力電圧指令生成部37から、それぞれ入力される。演算部31は値(1-dc-drec-Vx1*)を求める。
演算部32には、第2デューティdcがデューティ生成部11から、値Vx2*が出力電圧指令生成部37から、それぞれ入力される。演算部32は値dc(1-Vx2*)を求める。
値(1-dc-drec-Vx1*)は比較器33においてキャリヤC1と比較される。比較器33は例えばキャリヤC1が値(1-dc-drec-Vx1*)以上のときに活性化する信号を出力する。
値dc(1-Vx2*)は比較器34においてキャリヤC1と比較される。比較器34は例えばキャリヤC1が値dc(1-Vx2*)以上となる期間で活性化した信号を出力する。
このようにキャリヤC1はブロック10a,10bのいずれに対しても用いることができるので、図2においてキャリヤ生成部23はブロック10a,10bの境界を跨がって設けられているように示した。
比較器33,34の比較結果が論理合成部36に入力される。論理合成部36は制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnは、スイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの動作をそれぞれ制御する。図1では図面が煩雑とならないように制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnはインバータ5への矢印で示される。
値Vu1*,Vv1*,Vw1*は期間Trecにおいて用いられることが望ましく、値Vu2*,Vv2*,Vw2*は期間Tz1,Tc,Tz2において用いられることが望ましい。よって論理合成部36には信号SSrも入力される。
論理合成部36は、比較器33による3つの比較結果のそれぞれと信号SSrとの論理積を求める。論理合成部36は、比較器34による3つの比較結果のそれぞれと信号SSrの否定論理との論理積を求める。よって相毎に一対の論理積が求められる。論理合成部36は、相毎に一対の論理積同士の論理和を得る。U相に対応する論理和が活性であるときに制御信号SSupは活性である。V相に対応する論理和が活性であるときに制御信号SSvpは活性である。W相に対応する論理和が活性であるときに制御信号SSwpは活性である。
制御信号SSup,SSvp,SSwpの活性は、それぞれ図3のスイッチング素子Sup,Svp,Swpのオンを示す高い値に対応する。制御信号SSup,SSvp,SSwpの非活性は、それぞれ図3のスイッチング素子Sup,Svp,Swpのオフを示す低い値に対応する。
制御信号SSun,SSvn,SSwnは、制御信号SSup,SSvp,SSwpが非活性のときに活性である。制御信号SSun,SSvn,SSwnは、制御信号SSup,SSvp,SSwpが活性のときに非活性である。
制御信号SSun,SSvn,SSwnの活性は、それぞれ図3のスイッチング素子Sup,Svp,Swpのオフを示す低い値に対応する。制御信号SSun,SSvn,SSwnの非活性は、それぞれ図3のスイッチング素子Sup,Svp,Swpのオンを示す高い値に対応する。
このように構成された制御装置10は直接形電力変換器100の動作を制御する。直接形電力変換器100では制御装置10の制御によって上述の動作が行われる。
制御装置10は、マイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)などの各種記憶装置の1つまたは複数で構成可能である。
当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御装置10はこれに限らず、制御装置10によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段または各種機能の一部または全部をハードウェアで実現しても構わない。
{E.変形例}
指令値k1,k2を用いた制御は、電圧VLに基づいた電流iLの制御を前提とはしない。電圧VLに基づいた電流iLの制御を行わないときには、共振抑制制御部15および減算器17を省略することができる。
比較器33における比較は期間Trecにおいて意義がある。よって比較器33にはキャリヤC1の一部である三角波C11が与えられ、三角波C12が与えられなくてもよい。
比較器34における比較は期間Tz1,Tc,Tz2において意義がある。よって比較器34にはキャリヤC1の一部である三角波C12が与えられ、三角波C11が与えられなくてもよい。
期間Trecのみならず期間Tz1,Tc,Tz2においても指令値k1が採用されてもよい(図16の折れ線G63参照)。この場合、信号SSrは不要であるので、比較器13を省略することができる。
期間Tcのみで指令値k2が採用されてもよい。期間Tz1,Tz2では直流リンク7における直流電圧はインバータ5が出力する電圧Vxに寄与せず、指令値k1,k2がインバータ5における実際の変調率には寄与しないからである。つまり少なくとも期間Tcで指令値k1ではなく指令値k2が採用されることで変調率が改善する。
{F.他の説明}
上記の説明から本実施の形態は以下のように説明できる。制御装置10は直接形電力変換器100を制御する。直接形電力変換器100は、直流リンク7と、整流回路3と、充放電回路4と、インバータ5とを備える。
整流回路3は、単相交流電圧Vinが印加される入力端子対と、直流リンク7に接続される出力端子対3A,3Bとを有し、全波整流を行う。充放電回路4は、整流回路3から充電され、直流リンク7へ放電する。インバータ5は、直流リンク7における直流電圧を交流電圧Vu,Vv,Vwに変換する。
制御装置10は、デューティ生成部11と、ブロック10bとを備える。ブロック10bはインバータ制御部として機能する。
デューティ生成部11は、第1デューティdrecと第2デューティdcとを生成する。第1デューティdrecは整流回路3から直流リンク7へ電流irec1が流れるデューティである。第2デューティdcは充放電回路4から直流リンク7に電流icが流れるデューティである。
ブロック10bは、第1デューティdrecと、第2デューティdcと、インバータの指令値k1,k2とを用いて、制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnはインバータ5の動作を制御する。
変調率の指令値には、少なくとも期間Trecにおいて、直流成分(ks-ks6)と、交流電圧Vu,Vv,Vwの基本周波数φ/2πtの6倍の周波数である周波数6φ/2πtの交流成分ks6・cos6φ/2πtとを有する指令値k1が採用される。期間Trecは電流irecが流れる期間である。
少なくとも期間Trecにおいて指令値k1を採用することで、電流irec、ひいては電流Iinの高調波成分が低減する。つまり直接形電力変換器100に流れる電流の高調波成分が低減する。
更に変調率の指令値には、少なくとも期間Tcにおいて、直流成分ksのみを有する指令値k2が採用される。期間Tcは電流icが流れる期間である。
期間Tcでは電流irecの高調波成分は変調率の指令値と関係が薄い。よって指令値k2を採用することで変調率が改善される。
直接形電力変換器100が整流回路3と直流リンク7との間に設けられるフィルタ2を更に備える場合を説明する。電流irec1はフィルタ2を介して整流回路3から直流リンク7へ流れる。直流リンク7は直流電源線LH,LLを含む。フィルタ2は、リアクトルL2とコンデンサC2とを有する。リアクトルL2は、インバータ5と整流回路3との間で直流電源線LHまたは直流電源線LLと直列に接続される。コンデンサC2は、出力端子対3A,3Bの間でリアクトルL2と直列に接続される。充放電回路4を充電する電流iLは、リアクトルL2の電圧VLが高いほど低減する。
電圧VLに基づいて電流iLを制御することで、フィルタ2の共振に由来する高調波が低減される。
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。上述の実施形態および変形例は相互に組み合わせることができる。