JP7202092B2 - 揚げ衣用組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、揚げ衣用組成物、並びにこれを用いて調製される未油ちょう衣付き食品、及び衣揚げ食品に関する。また本発明は、揚げ衣について、油ちょう処理後の食感を改善または向上する方法、また食感の経時的低下を抑制する方法に関する。
天ぷらやから揚げ、パン粉付きフライ食品など、衣を付けて油ちょうして製造される揚げ物は、揚げたて時に衣が適度な硬さを有し、またサクサクと歯切れの良い食感であることが求められる。また、一般に、油ちょう後に時間が経過すると、具材から水分が移行し、衣がふやけて軟らかくなり、またヒキが出て歯切れが悪くなるなど、食感が低下しやすいため、経時後もサクサクとした食感や歯切れの良さを維持していることが求められる。特に、昨今、外食や中食化が進み、市販の弁当や総菜を購入して食する人口が増えているため、油ちょう後、時間が経過した後でも、揚げたてのサクサクとした食感が維持された揚げ物に対するニーズは高い。
揚げ物の食感改良として、天ぷらなどでは米粉を配合する方法等が有効であることが知られている(例えば、特許文献1~3等参照)。
一方、米を製粉せずに米粒のままでゲル状にした米ゲルが、食品に対して、増粘性や弾力性の付与向上、モチモチ感の付与、とろみ付与、しっとり感付与、保湿性付与、離水防止、保形性向上、乾燥や老化の防止、冷凍耐性等といった種々の特性が付与できるとして、菓子類、パン類、水練り製品、ドレッシング、総菜等に広く適用されている(例えば、特許文献4~7等参照)。しかし、米ゲルを、揚げ物の衣の調製に用いることで、揚げ物の食感が改良できること、具体的には揚げたてのサクサク感が向上され、または油ちょう後、時間が経過しても、その低下が有意に抑制されて美味しい食感が持続することは知られていない。
特開平6-269255号公報 特開2010-104246号公報 特開2013-34440号公報 特開2013-70663号公報 特開2015-65934号公報 国際公開第2014/199961号 特開2017-225379号公報
本発明は、油ちょう直後に、適度な硬さのあるサクサクとした歯切れの良さを有し、油ちょう後も、その食感の低下が有意に抑制されて、できるだけ長く持続することができる揚げ衣用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、揚げ衣に上記の特性、つまり油ちょう直後に適度な硬さのあるサクサクとした歯切れの良さを付与し、油ちょう後は、その食感の低下が有意に抑制されて、できるだけ長く持続する特性を付与する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討したところ、揚げ衣用組成物の調製に際して、糊化米加工素材を配合することで、上記課題が解決できることを見出した。具体的には、揚げ衣用組成物にゲルに相転移した糊化米加工素材を配合することで、配合しない場合と比べて、油ちょう直後の食感(歯切れがよくてサクサクとした食感)が向上すること、さらに、油ちょう後も、当該食感の低下が有意に抑制されて、比較的長く持続することを確認した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含する。
(I)揚げ衣用組成物、及びその調製方法
(I-1)穀物粉、及び糊化米加工素材を含むことを特徴とする、揚げ衣用組成物。
(I-2)さらに糖質を含有する、(I-1)に記載する揚げ衣用組成物。
(I-3)粉状または顆粒状組成物である、(I-1)または(I-2)に記載する揚げ衣用組成物。
(I-4)水を含有する液状組成物である、(I-1)または(I-2)に記載する揚げ衣用組成物。
(I-5)前記糊化米加工素材が、高アミロース米及び/または中アミロース米を含む米を水存在下で加熱処理して得られる糊化米を機械的撹拌処理して得られるゲル状物、その乾燥物、またはそれらの液状物である、(I-1)~(I-4)のいずれかに記載する揚げ衣用組成物。
(I-6)前記穀物粉が、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム小麦粉等)、ライ麦粉、大麦粉、米粉、玄米粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、ホワイトソルガム粉、及びトウモロコシ粉からなる群より選択される少なくとも一種である、(I-1)~(I-5)のいずれかに記載する揚げ衣用組成物。
(I-7)前記糖質が、糖類(単糖類、二糖類等)、三糖以上の多糖類(澱粉、澱粉分解物、オリゴ糖)、及び糖アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種である、(I-2)~(I-6)のいずれかに記載する揚げ衣用組成物。
(I-8)下記の工程を有する、(I-4)に記載する揚げ衣用組成物の製造方法:
糊化米加工素材、穀物粉及び水を混合して液状組成物を調製するか、または糊化米加工素材、穀物粉、糖質及び水を混合して液状組成物を調製する工程。
(I-9)前記糊化米加工素材が、液状糊化米加工素材であり、ゲル状糊化米加工素材または乾燥糊化米加工素材に水を加え、加熱処理し、撹拌処理して調製されるものである(I-8)に記載する製造方法。
(II)未油ちょうの衣付き食品、及びその製造方法
(II-1)具材の表面に、(I-1)~(I-7)のいずれかに記載する揚げ衣用組成物が付着してなる未油ちょうの衣付き食品。
(II-2)冷蔵または冷凍状態にある(II-1)に記載する未油ちょうの衣付き食品。
(II-3)具材の表面に、前記(I-1)~(I-7)のいずれかに記載する揚げ衣用組成物を付着させる工程を有する、未油ちょうの衣付き食品の製造方法。
(II―4)さらに冷蔵または/及び冷凍処理する工程を有する、(II-3)に記載する製造方法。
(III)衣揚げ食品、及びその製造方法
(III-1)(I-4)~(I-7)のいずれかに記載する揚げ衣用組成物、または(II-1)または(II-2)に記載する未油ちょうの衣付き食品が油ちょう処理されてなる、衣揚げ食品。
(III-2)冷蔵または冷凍状態にある(III-1)に記載する衣揚げ食品。
(III-3)前記(I-4)~(I-7)のいずれかに記載する揚げ衣用組成物を油ちょう処理する工程、または前記(II-1)または(II-2)に記載する未油ちょうの衣付き食品を油ちょう処理する工程を有する、衣揚げ食品の製造方法。
(III-4)さらに冷蔵または/及び冷凍処理する工程を有する、(III-3)に記載する製造方法。
(IV)食感の改善または向上または食感の経時的低下の抑制方法
(IV-1)揚げ衣用組成物の調製に穀物粉及び糊化米加工素材、または穀物粉、糊化米加工素材及び糖質を用いることを特徴とする、油ちょう処理後の揚げ衣の食感を改善若しくは向上するか、または/及び食感の経時的低下を抑制する方法。
本発明によれば、揚げ衣用組成物に糊化米加工素材を配合することで、配合しない場合と比べて、油ちょう直後の食感(歯切れがよくてサクサクとした食感)が向上すること、さらに、油ちょう後も、当該食感を比較的長く持続させることができる。
(I)揚げ衣用組成物、及びその調製方法
本発明が対象とする揚げ衣用組成物は、穀物粉に加えて、糊化米加工素材を含むことを特徴とする。また本発明が対象とする揚げ衣用組成物には、穀物粉及び糊化米加工素材に加えて、糖質を配合することができる。
まず各成分について説明する。
(1)糊化米加工素材
本発明の揚げ衣用組成物の調製に使用する糊化米加工素材は、米を水の存在下で加熱して調製される糊化米(α化米)を機械的撹拌処理して得られるものであり、撹拌処理後はゾル(ペースト)からゲルに相転移をした半固形物の性状(ゲル状)を有している。ここで加熱処理する対象の米は、米粒や破砕米粒のような粒状のものでもよいし、また米粉のような米や破砕米の製粉処理物でもよく、両者の混合物であってもよい。
本発明で使用する糊化米加工素材は、当該半固形状(ゲル状)の糊化米加工素材であってもよい。また、これをさらに乾燥固化し、さらに必要に応じて粉砕若しくは顆粒化したものであってもよく、あるいは、半固形状(ゲル状)の糊化米加工素材またはその乾燥固化物に水を加えて緩くし、液状(溶液または分散液)にしたものであってもよい。本明細書において、「糊化米加工素材」という用語にはこれらのものが区別されることなく包含される。これらを区別して指し示す場合、ゲル状を有しているものは「ゲル状糊化米加工素材」または単に「米ゲル」と称し、乾燥したものは「乾燥糊化米加工素材」または単に「米ゲル乾燥物」と称し、液状を有しているものは「液状糊化米加工素材」または単に「米ゲル溶液」と称する。
使用される米は、特に限定されず、各種のうるち米を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。うるち米としては、ジャポニカ種、インディカ種及びジャパニカ種のいずれも使用することができ、高アミロース米、中アミロース米、及び低アミロース米のいずれでもよいが、好ましくは高アミロース米及び/または中アミロース米を含む米である。より好ましくは高アミロース米及び/または中アミロース米であり、さらに好ましくは高アミロース米を含むか、または高アミロース米である。
低アミロース米とはアミロース含量が通常12質量%未満の米を指し、例えばミルキークイーン、ミルキーサマー、ミルキーパール、ゆめぴりか、スノーパール、ねばり勝ちなどの品種が知られている。また中アミロース米とはアミロース含量が通常12~20質量%の米を指し、例えばコシヒカリ、あきたこまち、日本晴、きらら397、ひとめぼれ、ササニシキなどの品種が知られている。高アミロース米とはアミロース含量が通常20質量%以上、特に25%質量以上の米を指し、例えばモミロマン、夢十色、ホシユタカ、ホシニシキ、ミレニシキ、中国134号、越のかおり、ミズホチカラなどの品種が知られている。これらの米は、精米の程度、品種などの異なる2種以上の混合物であってもよい。なお、米の精米の程度には特に制限はなく、玄米、分搗き米、白米の何れであってもよい。
糊化米加工素材の調製に使用される糊化米は、前述する米を水の存在下で加熱処理して糊化(α化)されてなるものである。加熱処理の際に用いる水の量は、米のアミロース含量に応じて設定することができる。通常、米の質量に対して0.8倍量を超える量、好ましくは1倍量以上の水を用いることができる。具体的には一例としてモミロマン(アミロース含量28%)等の高アミロース米の場合、米の質量に対して1.5倍量を超える量、好ましくは2倍量以上、より好ましくは2.8倍量以上の水の配合量を挙げることができる。水の配合量が少なすぎる場合、得られる糊化物の粘度が上昇しすぎて、その後の機械的撹拌処理において撹拌が困難となる。水の配合量の上限値は特に制限されないが、4倍程度を例示することができる。
なお、米として米粒や破砕米粒などの粒状物を使用する場合、水存在下で加熱する前に、予め水に浸漬しておいてもよい。浸漬時間は、通常10~120分程度を例示することができるが、これに制限されず、水温や米の吸水性に応じて適宜120分以上とすることもできる。また、本発明の効果を損なわないことを限度として、浸漬または加熱処理に使用する水に、酵素(例えば、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ)製剤、該酵素を含有する物質(例えば、モルト、米麹)、糖類、酸、油脂等の成分を配合してよい。
加熱処理には、蒸す、茹でる、煮る、焼く、炒める、揚げる、電子レンジ加熱等の方法が挙げられる。また、加熱器具・装置としては、炊飯器、鍋、圧力鍋、電磁調理器(例:電子レンジ)等を用いることができる。加熱温度、加熱時間は、いずれの加熱手段を用いるかにより異なり、一義的に特定することはできないが、米が焦げ付かず、糊化が十分に進む時間であればよく、その限りで適宜調整することができる。また、加熱器具・装置内に内蔵された条件モード(例えば、お粥モード)に従って加熱してもよい。
かかる加熱処理によって糊化(α化)された米(糊化米)は、次いで機械的撹拌処理に供され、ゾル(ペースト)からゲルへと相転移されて糊化米加工素材として調製される。なお、当該機械的撹拌処理の前に冷却処理を行ってもよい。冷却処理することにより、冷却処理を行わない場合よりも粘度の低い糊化米加工素材を得ることができる。冷却処理の際の温度は、通常は常温(例えば15~30℃程度)である。
次いで行われる機械的撹拌処理は、物理運動により組織を破壊し得る処理を意味し、単なる混合処理とは異なる。機械的撹拌処理は、例えばフードプロセッサー、ホモジナイザー、ミキサー、ニーダー、混練機、押出機等の撹拌機器を用いて行えばよい。撹拌機器は、制限されないものの、トルクが大きい機器であるほうが、機械的撹拌処理中に糊化米の粘度が上昇しても撹拌が妨げられることがないため、好ましい。トルクの大きい撹拌機器としては、例えば、フードプロセッサー等が挙げられるが、これに制限されるものではない。
機械的撹拌処理の条件は、糊化米の状態、撹拌機器の種類等によって適宜定めることができる。例えば、機械的撹拌処理時の撹拌条件としては、制限はされないが、無負荷時の回転数で1000~3000rpmであることが好ましく、1200~2000ppmであることがより好ましく、1500~1800rpmであることが更に好ましい。また、機械的撹拌処理時の温度条件としては、制限はされないが、品温が60℃以下、好ましくは室温以下の温度になるように調整することが好ましい。
前述するように、かかる機械的撹拌処理により、糊化米はゾルからゲルへと相転移し、ゲル状の糊化米加工素材(米ゲル)を得ることができる。なお、前記機械的撹拌処理に続き、再加熱処理を行ってもよい。再加熱処理は機械的撹拌処理後に行えばよく、機械的撹拌処理後直ちに行ってもよいし、期間が経過してから行ってもよい。再加熱処理を機械的撹拌処理後、期間が経過してから行うことにより、ゲル状糊化米加工素材の硬さや質感を、調製直後の状態に戻すことができる。再加熱処理として、例えば、湯(例えば沸騰している湯)への浸漬(例えば2~5分程度)、マイクロウェーブ加熱(電子レンジ処理)、蒸気による加熱を挙げることができる。
斯くして調製されるゲル状糊化米加工素材は、ペースト状ではなく一定のゲル形状を維持している。なお、制限はされないが、ゲル状糊化米加工素材は、ゲル形状を有するとともに、適度な硬さと質感を備えることができる。
当該ゲル状糊化米加工素材の硬さは、複素弾性率により総合的に評価することができる。複素弾性率G*は弾性成分と粘性成分の和であり、総合的な硬さを意味する。複素弾性率G*は具体的には、貯蔵弾性率G’をX軸、損失弾性率G”をY軸に取ったときのベクトルの長さにより示される。貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の測定は、動的粘弾性測定装置(AR-G2、TA Instruments)を用いて、温度25℃、回転数1Hz、応力1Paの条件で実施することができる。貯蔵弾性率G’は、ばねに相当する弾性情報である。損失弾性率G”は、ピストンの摩擦に相当する粘性情報である。またゲル状糊化米加工素材の質感は、粘性/弾性の比率により総合的に評価することができる。粘性/弾性の比率tanδは、いわゆるぷるぷる感(tanδが小さいほどぷるぷる感がある)、ぐにゃ感(tanδが大きいほどぐにゃ感がある)の指標である。具体的には、式tanδ=G”/G’で算出される。δは複素弾性率G*のベクトルと貯蔵弾性率G’(X軸)との間の角度を意味する。こうしたゲル状糊化米加工素材の物性及びその測定方法は、ゲル状糊化米加工素材の製造方法について記載する特開2013-70663号公報に記載されている通りであり、その記載は本明細書に援用することができる。
こうしたゲル状糊化米加工素材は、前述する方法で調製することもできるが、簡便には商業的に入手することができる。商業的に入手できるものとして、ライスジュレ(Rice gelee)(白米ソフトタイプ(白米:水分=1:4)、白米ハードタイプ(白米:水分=1:2)、玄米ソフトタイプ(白米:水分=1:4)、玄米ハードタイプ(白米:水分=1:2)(ライステクノロジーかわち(株)製)を挙げることができる。
本発明で使用する糊化米加工素材は、前記の方法で調製されるゲル状糊化米加工素材(米ゲル)であってもよいし、これを乾燥して水分を除去してなる乾燥物(乾燥糊化米加工素材(米ゲル乾燥物))であってもよい。さらに乾燥物を粉砕した粉砕物(粉末)または顆粒化してなるものであってもよい。乾燥は、当業界で慣用される方法で行うことができ、自然乾燥(例えば陰干し、天日干し)であっても、また人工乾燥(熱風乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、低温乾燥、凍結乾燥、加圧乾燥、真空乾燥)であってもよい。また、ゲル状糊化米加工素材またはその乾燥糊化米加工素材に水を加えて緩くし、液状(溶液または分散液)にしたもの(液状糊化米加工素材(米ゲル溶液))であってもよい。
(2)穀物粉
本発明の揚げ衣用組成物の調製に使用する穀物粉としては、小麦粉、米粉、玄米粉、大麦粉、大豆粉、そば粉、ライ麦粉、オーツ粉、ヒエ粉、アワ粉、ホワイトソルガム粉、及びトウモロコシ粉、コーングリッツ粉砕物等を挙げることができる。ここで小麦粉には、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉が含まれる。また、これら穀物粉に熱処理を施した熱処理穀物粉等も含まれる。これらの穀物粉は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは小麦粉であり、より好ましくは薄力粉である。
(3)糖質
本発明の揚げ衣用組成物の調製に使用する糖質としては、糖類(単糖類、二糖類等)、三糖以上の多糖類(澱粉、澱粉分解物、オリゴ糖)、及び糖アルコールを挙げることができる。ここで糖類には、ブドウ糖及び果糖等の単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース等の二糖類が含まれ、複数の糖類の混合物(例えば異性化糖)の形態であってもよい。
澱粉には、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉等の澱粉;並びにこれらの澱粉に物理的、化学的な加工を単独または複数組み合わせて施した加工澱粉等の澱粉が含まれる。
澱粉分解物には、上記の澱粉を酵素または酸等の処理により加水分解等して得られるものであり、例えばα-グルコースの重合物であるデキストリンが含まれる。ここでデキストリンは、デキストロース当量(dextrose equivalent、以下DEと略す)が、5~40程度のものをいう。DEは、還元糖をグルコースとして測定し、その全固形分に対する割合を示す値であり、下記式(1)から求められる澱粉の加水分解の程度(分解度)を示す指標である。
[式(1)]
DE=[直接還元糖(グルコースとして表示)/全固形分]×100 (1)
本発明において、デキストリンの種類には特に制限はなく、従来公知の一般的なデキストリン、分岐デキストリン等のいずれでも良い。デキストリンのDEは、5~35が好ましく、5~33がさらに好ましく、特に8~30が好ましい。
オリゴ糖には、グルコースを構成糖とするイソマルトオリゴ糖、ショ糖にフルクトースが結合したフラクトオリゴ糖、ガラクトースを主成分とするガラクトオリゴ糖、キシロビオースを主要成分とするキシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、ゲンチオオリゴ糖、及びニゲロオリゴ糖などが含まれる。
糖アルコールには、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、オリゴ糖アルコールなどが含まれる。
これらの糖質は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、異性化糖、水飴等の混合物の形態で用いることができる。好ましくは単糖類、二糖類、澱粉分解物、及び糖アルコールであり、より好ましくはブドウ糖、トレハロース、デキストリン(DE8~30)、及び糖アルコールである。
(4)揚げ衣用組成物
本発明が対象とする揚げ衣用組成物は、衣揚げ食品を調製する際に使用される衣材であり、揚げ衣用ミックス粉、及び揚げ衣用バッターが含まれる。なお、本発明において「衣揚げ食品」とは、揚げ衣そのもの、並びに具材の表面に揚げ衣が存在する揚げ物を意味し、例えば、揚げ玉(天かす)、天ぷら、から揚げ、竜田揚げ、フリッター、チキンナゲット等が挙げられる。また、具材の表面に揚げ衣とともに、パン粉、クラッカー粉、ナッツ粉、またはコーンフレーク粉などの揚げ粉が存在する、コロッケ、とんかつ、メンチカツ、魚介フライ等の揚げ物(フライ)であってもよい。また本発明が対象とする「揚げ物」の調理方法は、油脂を用いて加熱処理される調理であればよく、150℃以上に加熱した比較的多量の食用油脂の中に入れて加熱処理する調理方法のほか、具材表面の衣に食用油脂を噴霧または塗布して焼成(グリル)する調理方法、具材から染み出る油を利用して焼成(グリル)する調理方法も含まれる。本発明及び本明細書では、これらをいずれも「油ちょう」または「油ちょう処理」と称する。好ましくは、150℃以上に加熱した比較的多量の食用油脂の中に入れて加熱処理する調理方法である。「揚げ衣用ミックス粉」は、衣揚げ食品の衣材を構成する成分の粉体混合物であり、「揚げ衣用バッター」は、衣揚げ食品の衣材を構成する成分に水を加えた分散液であり、例えば、前記揚げ衣用ミックス粉を水に分散させて調製することもできる。
本発明の揚げ衣用組成物が揚げ衣用バッターである場合、当該揚げ衣用バッターは、前述する糊化米加工素材及び穀物粉(または糊化米加工素材、穀物粉及び糖質)を水と混合して調製することができる。ここで、糊化米加工素材は、ゲル状糊化米加工素材、乾燥糊化米加工素材、または液状糊化米加工素材のいずれであってもよく、適宜選択して使用することができる。乾燥糊化米加工素材を使用する場合はあらかじめ水で膨潤または分散させてゲル状または液状に調整したうえで用いることもできる。即座に使用できる点で、好ましくはゲル状糊化米加工素材または液状糊化米加工素材である。なお、混合は、糊化米加工素材と穀物粉、または糊化米加工素材と穀物粉と糖質とが水に均一に分散すればよく、その限りにおいて特に制限されず、箸やホイッパーなどを用いて撹拌するほか、ミキサーや混練機等の撹拌機器を用いて行うこともできる。ここで揚げ衣用バッターを均質な分散液として調製するためには、制限されないものの、糊化米加工素材に必要に応じて水または湯を加え、また必要に応じて加熱し、そのうえで糊化米加工素材がより均質な状態になるように撹拌した後、これに穀物粉及び必要に応じて水(または穀物粉、糖質及び必要に応じて水)を配合して混合撹拌する方法を例示することができる。
かかる揚げ衣用バッター中に含まれる糊化米加工素材の割合は、制限されないものの固形物換算で、揚げ衣用バッター中に含まれる固形物の総量を100質量%とした場合、通常0.3~20質量%(糊化米加工素材の固形物)の範囲から選択することができる。好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくは1~10質量%、特に好ましくは2~10質量%である。ここで「揚げ衣用バッター中に含まれる固形物の総量」は、揚げ衣用バッターの調製に使用される原材料が固形物であればその質量を、また原材料が糖液等のように液状または半固形状である場合はそれから水分含量を除いた固形物の質量を求め、それらを総計した質量を意味する。以下、「固形物換算」という場合も同様である。
揚げ衣用バッターに含まれる穀物粉の割合は、制限されないものの、固形物換算で、通常70~99.6質量%の範囲から選択することができる。好ましくは75~99質量%であり、より好ましくは80~95質量%である。揚げ衣用バッター中に、前述する糊化米加工素材及び穀物粉に加えて糖質を含有する場合、糖質の割合は、制限されないものの、固形物換算で、通常10質量%以下の範囲から選択することができる。好ましくは8質量%以下の範囲である。下限値は特に制限されず、例えば0.1質量%、好ましくは0.5質量%を例示することができる。好ましくは0.5~8質量%であり、より好ましくは0.5~5質量%である。
揚げ衣用バッター中には、本発明の効果を損なわない限り、その用途に合わせて、その他の副成分を適宜含有させることができる。副成分としては、例えば、卵白粉、卵黄粉、全卵粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材;重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤;グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;食用油脂;食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料;酵母エキス、畜肉または魚介由来エキス等のエキス類;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;その他、かぼちゃ粉、色素、香料、香辛料、種々の品質改良剤等が挙げられる。ここで食用油脂としては、食用の植物性、動物性の油脂、またはそれらを加工した食用加工油脂を使用することができる。植物性油脂としては、大豆油、ひまわり油、なたね油、キャノーラ油、綿実油、ごま油、コーン油、米油、紅花油、オリーブ油、ぶどう種子油、落花生油、パーム油、カカオ脂等が挙げられ、動物性油脂としては、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等が挙げられる。食用加工油脂としては、植物性油脂、動物性油脂またはこれらを混合した油脂を、水素添加、分別またはエステル交換等の処理を行うことにより得た硬化油、分別油、エステル交換油、ショートニング、マーガリン、ファットスプレッド、及び粉末油脂等が挙げられる。これらを単独で、または2種以上の混合物で使用することができる。
揚げ衣用バッターは、上記各種成分を水と混合して、適度な粘度になるように調製される。粘度としては、通常揚げ物のバッターに適した粘度であればよく、制限されないものの、例えばB型粘度計を用いて、ローターNo.2、温度20℃、ローター回転数12rpm、ローター回転時間1分の条件で測定した粘度(V12rpm)が700~2000mPa・sとなるような粘度を挙げることができる。このような粘度に調整するための水分量は、上記粘度に調整できる量であればよく、制限されないものの、例えば揚げ衣用バッターに含まれる固形物の総量を100質量部とした場合、それに対する水分量として、80~500質量部を挙げることができる。好ましくは100~300質量部であり、より好ましくは130~180質量部である。
揚げ衣用組成物が揚げ衣用ミックス粉である場合、糊化米加工素材は乾燥物(乾燥糊化米加工素材)であることが好ましい。揚げ衣用ミックス粉に含まれる乾燥糊化米加工素材の割合は、制限されないものの、通常0.3~20質量%の範囲から選択することができる。好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、特に好ましくは2~10質量%である。揚げ衣用ミックス粉に含まれる穀物粉の割合は、制限されないものの、通常70~99.6質量%の範囲から選択することができる。好ましくは75~99質量%であり、より好ましくは80~95質量%である。揚げ衣用ミックス粉が、前述する乾燥糊化米加工素材及び穀物粉に加えて糖質を含有する場合の糖質の割合は、制限されないものの、固形物換算で、通常10質量%以下の範囲から選択することができる。好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは0.5~8質量%であり、さらに好ましくは~0.5~5質量部である。揚げ衣用ミックス粉は、水または湯を添加混合して、前述する適度な粘度の揚げ衣用バッターになるように調製されてもよい。揚げ衣用バッターの粘度としては、前述した通りであり、そのような粘度に調整するための水分量としては、制限されないものの、前述の揚げ衣用バッターに含まれる固形物(総量)100質量部に対する水分量を参考として、80~500質量部の範囲を例示することができる。
(II)未油ちょうの衣付き食品、衣揚げ食品、及びそれらの製造方法
本発明が対象とする未油ちょうの衣付き食品は、食品の表面に前述する本発明の揚げ衣用ミックス粉または揚げ衣用バッターによる衣が付着してなる調理前の食品である。具体的には、葉菜、根菜、花菜などの野菜類;エビ、イカ、白身魚などの魚介類;鶏肉、豚肉、牛肉などの畜肉類等を必要に応じて加工成形した具材に、本発明の揚げ衣用ミックス粉を付着させるか、または必要に応じて打ち粉を付着させた後に本発明の揚げ衣用バッターに浸漬して調製される油ちょう処理前の食品である。また製造する衣揚げ食品がパン粉等により衣が形成される衣付き食品の場合、本発明の揚げ衣用バッターを具材に付着させた後、パン粉等の粉粒体を付けて未油ちょうの衣付き食品としてもよい。これらの未油ちょうの衣付き食品は、そのまま油ちょう処理に供してもよいし、また未油ちょうの状態で冷蔵または冷凍保存されてもよい。
斯くして調製される未油ちょうの衣付き食品は、そのままの状態で、または冷蔵または冷凍処理後、油ちょう処理することで衣揚げ食品を製造することができる。油ちょう処理は、常法に従って実施することができる。例えば、前述する未油ちょうの衣付き食品を、150℃以上の適当な温度(通常160~200℃)の食用油脂の中に投入し、具材に応じて適当な時間(通常1~10分)加熱処理する方法を挙げることもできる。食用油脂の中に投入する以外の油ちょう処理方法として、前述する未油ちょうの衣付き食品の表面に、食用油脂を噴霧または塗布して加熱処理する方法を用いることもできる。なお、衣付き食品の具材が比較的多くの油分を含み、具材から衣に染み出る油分が利用できる場合は食用油の噴霧または塗布を省略することもできる。この場合の加熱調理器具・装置としては、例えば、電子レンジ、オーブン、スチームオーブン、コンベクションオーブン、オーブントースター、ホットプレート、鉄板、フライパンなどを用いることができる。また、食材に含まれる油分を使って調理する調理器具(例えば、フィリップス社製ノンフライヤー)を用いることもできる。
斯くして調製される衣揚げ食品は、油ちょう直後は、揚げ衣が適度な硬さを有し、サクサクとした歯切れのよい良好な食感を有し、また時間が経過した場合でも食感の低下が抑えられて、比較的長くサクサクとした歯切れのよい食感を維持している。こうした食感の向上効果は、揚げ衣用組成物に、穀物粉及び糊化米加工素材に加えて、糖質を配合することで、より高めることができ、さらに糖質を配合しない場合と比較して、揚げ衣の口溶けを向上させることができる。なお、衣揚げ食品は、油ちょう後、冷蔵または/及び冷凍処理されてよく、再加熱して食することができる。
(III)揚げ衣の食感向上または食感の経時的低下の抑制方法
前述するように、揚げ衣用組成物の調製に穀物粉及び糊化米加工素材、または穀物粉、糊化米加工素材及び糖質を用いることで、当該揚げ衣用組成物を使用して製造した衣揚げ食品について、油ちょう処理した後の揚げ衣の食感を改善または向上することができる。ここで、「油ちょう処理した後の揚げ衣の食感」とは、揚げたての揚げ物(揚げ玉(天かす)、天ぷら、から揚げ、竜田揚げ、フリッター、チキンナゲット、コロッケ、とんかつ、メンチカツ、魚介フライ等)の、適度な硬さを有し、ヒキがなくてサクサクとした歯切れのよい揚げ衣の食感を意味し、「改善または向上」とは、揚げ衣用組成物に「穀物粉及び糊化米加工素材」、または「穀物粉、糊化米加工素材及び糖質」を用いない場合と比較して、「穀物粉及び糊化米加工素材」、または「穀物粉、糊化米加工素材及び糖質」を用いることで、前記揚げ衣の食感が良好になっていることを意味する。当該揚げ衣の食感の改善または向上効果は、油ちょう処理直後よりも、時間が経過した後のほうがより大きい。つまり、揚げ衣用組成物を使用して製造した衣揚げ食品によれば、油ちょう処理から時間が経過することによる上記食感の低下を抑制することで、揚げたてに近い揚げ衣の食感を長く維持することが可能になる。
当該方法は、揚げ衣用組成物に穀物粉及び糊化米加工素材、または穀物粉、糊化米加工素材及び糖質を用いることで実施することができ、使用する穀物粉、糊化米加工素材、及び糖質の種類、その配合割合、揚げ衣用組成物の調製方法、衣揚げ食品の製造方法は、前述した通りであり、ここに援用することができる。
なお、本明細書において、「を含む」及び「を含有する」という用語には、「から実質的になる」及び「からなる」という意味も包含される。
以下に本発明を実験例に基づいて説明する。但し、本発明はかかる実験例に何ら制限されるものではない。なお、以下の実験例において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。また特に言及しない限り、実験は室温(25±2℃)及び大気圧条件下で実施した。
実験例1 揚げ玉の作製(その1)
小麦粉に糊化米加工素材を配合した揚げ衣用組成物を油ちょうして揚げ玉を作製し、その食感から、揚げ玉の食感に与える糊化米加工素材の効果を評価した。
(1)揚げ衣用組成物の材料
・小麦粉:薄力粉(昭和産業(株)製)
・α化米粉:白味甚(うるち米をα化した後、粉砕したもの)((株)舘山製)
・糊化米加工素材:ゲル状糊化米加工素材である市販米ゲル〔ライスジュレ(Rice gelee)(仕様:白米ソフトタイプ(固形分18.5%、水分81.5%)(ライステクノロジーかわち(株)製)〕
なお、糊化米加工素材は、これに同量の湯(90℃)を加えて、電子レンジ(500W)で1分間加熱した後、撹拌機(1000rpm、東京理化器械製)で5分間撹拌して、液状糊化米加工素材である米ゲル溶液(糊化米加工素材由来の固形分9.3%、水分90.7%)を調製し、これを以下の実験に使用した。
(2)揚げ衣用組成物、及び揚げ玉の調製方法
容器に、表1に記載する割合に従って、水、前記で調製した米ゲル溶液、及び小麦粉を加え、撹拌機(回転数:1000rpm)で5分間撹拌して、揚げ衣用組成物(バッター)を調製した。
上記で調製した揚げ衣用組成物(バッター)(用量:大さじ3)を、穴あきお玉を使用して、175℃に加温した大豆油の中に投入し、1分30秒間油ちょうし、次いで、網じゃくしですくってキッチンペーパーに載せて油を切り、揚げ玉(実施例1-1~1-6)を作製した。
また比較として、上記糊化米加工素材(米ゲル溶液)に代えてα化米粉を用いて同様に調製した揚げ衣用組成物(バッター)から、上記と同様にして揚げ玉(比較例)を作製した。
(3)食感の評価方法
上記で作製した揚げ玉(実施例1-1~1-6、比較例)を、キッチンペーパーに載せた状態で、恒温恒湿(25±5℃、40±5%)条件下で、1時間または24時間放置した後に、良く訓練されたパネラー10名が食し、食感を評価した。食感の評価は、糊化米加工素材(液状糊化米加工素材である米ゲル溶液)を配合せずに調製した揚げ衣用組成物(バッター)を上記方法で油ちょうして作製した揚げ玉(対照例)の1時間経過後の食感(対照食感)を「評価3」とし、これとの比較で、下記の5段階の判断基準に従って実施した。
[食感評価の判断基準]
評価5:対照食感と比較して、硬さがあり、サクサクとして歯切れが非常によい
評価4:対照食感と比較して、やや硬さがあり、サクサクとして歯切れがよい
評価3:サクサクとした食感がある(対照食感:対照例の1時間経過後の食感)
評価2:対照食感と比較して、やや軟らかく、歯切れが悪い
評価1:対照食感と比較して、軟らかく、歯切れが非常に悪い
(4)食感評価の結果
結果を表1に併せて示す。評価結果は10名のパネラーの得点の平均値を示す。
Figure 0007202092000001
表1に示す「1時間後評価」の「揚げ玉の食感」の結果から、揚げ衣用組成物(バッター)の調製に糊化米加工素材である米ゲル溶液を使用することで、揚げ衣に求められる食感(サクサクとした歯切れのよさ)が向上することが確認された(実施例1-1~1-6)。その効果は特に揚げ衣用組成物(バッター)中の糊化米加工素材の割合を、固形物換算で4質量%以上にすることで顕著に高くなることが認められた(実施例1-4~1-6)。しかし、4質量%を超えて配合しても、配合量に見合う大きな向上は認められなかった。なお、糊化米加工素材である米ゲル溶液の添加量が多くなるにつれて、揚げ玉がポーラス状になり、油っぽさが増す傾向が認められた。また油ちょうによる着色が高まる傾向も認められた(実施例1-5~1-6)。一方、糊化米加工素材に代えてα化米粉を配合して調製した揚げ玉は、油ちょうから1時間経過後の食感は対照例と相違せず、24時間経過すると逆に食感が低下する傾向が認められた。つまり、α化米粉には糊化米加工素材の効果は認められなかった。
表1に示す「24時間後評価」の「揚げ玉の食感」結果から、揚げ衣用組成物(バッター)の調製に糊化米加工素材である米ゲル溶液を使用し、揚げ衣用組成物中の糊化米加工素材由来の固形分を1.5質量%以上にすることで、油ちょうから24時間経過した後でも、油ちょう後1時間の食感(サクサクとした歯切れのよさ)を維持することができること、さらに糊化米加工素材由来の固形分含量を多くすることで、その効果はさらに高くなることが確認された(実施例1-3~1-6)。但し、糊化米加工素材である米ゲル溶液の添加量が多くなるにつれて、油っぽさが増す傾向が認められた(実施例1-5~1-6)。
これらのことから、揚げ衣用組成物(バッター)の調製に糊化米加工素材を配合することで、揚げ玉や揚げ衣に求められる食感(サクサクとした歯切れのよさ)を向上することができることが確認できた。また、糊化米加工素材の配合量を、固形物換算で1.5質量%以上にすることで、油ちょう後、時間が経過した場合でも、その食感の低下(劣化)が格段に抑制され、サクサクとした歯切れのよい食感を維持することができることが確認できた。さらに、揚げ玉や揚げ衣に関するこうしたその食感向上及び食感低下抑制効果は、揚げ衣用組成物の調製に糊化米加工素材を固形物換算で1.5質量%よりも多く、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上配合することで、より好適に得られることが確認された。
実験例2 揚げ玉の作製(その2)
小麦粉に米ゲル溶液に加えて糖質を配合する以外は、実験例1と同様にして揚げ衣用組成物を調製し、油ちょうして揚げ玉を作製し、その食感から、揚げ玉の食感に与える糊化米加工素材及び糖質の効果を評価した。
(1)揚げ衣用組成物に配合する糖質(糖質以外の材料は実験例1と同じ)
・澱粉分解物A:SPD(昭和産業(株)製)、DE値:約30
・澱粉分解物B:L-SPD(昭和産業(株)製)、DE値:約17
・澱粉分解物C:VIANDEX-BH(昭和産業(株)製)、DE値:約9
・糖アルコール:ソルビトール(物産フードサイエンス(株)製)
・ぶどう糖:昭和含水結晶ぶどう糖AZ(昭和産業(株)製)
・トレハロース:トレハ((株)林原製)
(2)食感評価の結果
結果を表2に併せて示す。評価結果は10名のパネラーの得点の平均値を示す。
Figure 0007202092000002
表2の「揚げ玉の食感」の結果に示すように、揚げ衣用組成物(バッター)の調製に糊化米加工素材である米ゲル溶液に加えて糖質を使用することで、揚げ衣に求められる食感(サクサクとした歯切れのよさ)が向上し、また油ちょうから24時間経過した後でも、油ちょう1時間後の食感(サクサクとした歯切れのよさ)を顕著に維持することができることが認められた(実施例2-1~2-9)。また、表2には示していないが、「1時間後評価」により、糊化米加工素材に加えて糖質を使用することで、全般的に揚げ玉を口にいれたときに感じる口溶けのよさが向上することが確認された。特に揚げ衣用組成物(バッター)への糖質の配合量を、固形物換算で4質量%以上にすることで、油ちょうから24時間経過した後でも、硬さ及びサクサク感が強く、揚げたてに近い食感が維持できることが確認された(実施例2-2~2-9)。但し、糖質の配合量が多くなると、油ちょう後の着色が強くなる傾向が認められた。なお、糖質のうち、表面の軽さ(サクサク感)という点で、澱粉分解物A、B、C、及びトレハロースがもっとも良好であり、次いでぶどう糖、及び糖アルコールの順で良好であった。なお、ぶどう糖、及び糖アルコールは、若干ひき(歯切れの悪さ)が感じられる点で、他の糖質よりもやや評価が低かった。なお、澱粉分解物A~C間で揚げ玉の食感に差は認められなかったことから、糖質として、分解度(DE値)に関係なく広く澱粉分解物が使用できるものと考えられる。
これらのことから、揚げ衣用組成物(バッター)の調製に糊化米加工素材に加えて糖質を配合することで、糊化米加工素材を配合した場合と同様に、揚げ玉や揚げ衣に求められる食感(サクサクとした歯切れのよさ)が向上するだけでなく、糊化米加工素材のみを配合した場合よりも、油ちょう後、時間が経過した場合の食感の低下(劣化)が顕著に抑制され、揚げたてのサクサクとした歯切れのよい食感に近い食感を維持することができることが確認できた。
実験例3 えび天の作製
小麦粉に米ゲル溶液または米ゲル溶液と糖質を配合した揚げ衣用組成物(バッター)を用いて、えび天を作製し、その食感から、揚げ衣の食感に与える糊化米加工素材、及び糊化米加工素材と糖質の効果を評価した。
(1)揚げ衣用組成物の材料
・小麦粉:薄力粉(昭和産業(株)製)
・糊化米加工素材:ゲル状糊化米加工素材である市販米ゲル〔ライスジュレ(Rice gelee)(仕様:白米ソフトタイプ(固形分(白米)18.5%、水分81.5%)(ライステクノロジーかわち(株)製))
なお、糊化米加工素材は、前記実験例1と同様にして、液状糊化米加工素材である米ゲル溶液(固形分(白米)9.3%、水分90.7%)として調製し、以下の実験に使用した。
・澱粉分解物A:SPD(昭和産業(株)製)
・糖アルコール:ソルビトール(物産フードサイエンス(株)製)
・ぶどう糖:昭和含水結晶ぶどう糖AZ(昭和産業(株)製)
・トレハロース:トレハ((株)林原製)
(2)揚げ衣用組成物、及びえび天の調製方法
容器に、表3に記載する割合に従って、水、前記で調製した液状糊化米加工素材である米ゲル溶液、糖質(実施例3-2~3-5のみ)及び小麦粉を加え、撹拌機(1000rpm)で5分間撹拌して、揚げ衣用組成物(バッター)を調製した。
2Lサイズのエビに、小麦粉を打ち粉として付着させ、上記揚げ衣用組成物(バッター)中にくぐらせて、その表面に当該組成物を付着させた後、これを、170℃のフライ油中に投入した後、15mlの追い種を行い、2分30秒間油ちょうして、えび天を作製した。
(3)食感の評価方法
上記で作製した揚げたてのえび天と、これをキッチンペーパーに載せた状態で、恒温恒湿(25±5℃、40±5%)条件下で3時間放置したえび天を、それぞれ良く訓練されたパネラー10名が食し、食感を評価した。食感の評価は、糊化米加工素材を配合せずに調製した揚げ衣用組成物(バッター)を用いて上記方法で作製したえび天(対照例)の揚げたての衣の食感を「評価3」とし、これとの比較で、実験例1と同じ5段階の判断基準に従って実施した。
(4)食感評価の結果
結果を表3に併せて示す。
Figure 0007202092000003
表3に示す「揚げ衣の食感」の結果から、揚げ衣用組成物(バッター)の調製に糊化米加工素材である米ゲル溶液を使用することで、水分を含む具材の天ぷらについても揚げ衣に求められる食感(サクサクとした歯切れのよさ)が顕著に向上することが確認された(実施例3-1)。またその効果は、糊化米加工素材である米ゲル溶液に加えて糖質を配合することで特により向上することが確認された(実施例3-2~3-5)。油ちょうから3時間経過後は、具材(えび)の水分移行もあり、揚げたてよりも食感は低下するものの、対照例と比較すると格段に衣の硬さとサクサク感を維持し、歯切れがよいことが確認された。また、本発明の糊化米加工素材は、天ぷらの衣と同様に、唐揚げ、コロッケ、及び魚のフライを作製するときに用いる衣に使用した場合でも、糊化米加工素材を用いない場合と比べて、揚げ衣に求められる食感(サクサクとした歯切れのよさ)が有意に向上することが確認された。

Claims (5)

  1. 穀物粉、及び糊化米加工素材を含む揚げ衣用組成物であって、
    揚げ衣用組成物の固形分の総量100質量%に対して糊化米加工素材の固形物の割合が0.47~20質量%であることを特徴とする揚げ衣用組成物。
  2. さらに糖質を含有する、請求項1に記載する揚げ衣用組成物。
  3. 水を含有する液状組成物である、請求項1または2に記載する揚げ衣用組成物。
  4. 具材の表面に、請求項1~3のいずれか一項に記載する組成物が付着してなる未油ちょうの衣付き食品。
  5. 請求項3に記載する揚げ衣用組成物、または請求項4に記載する未油ちょうの衣付き食品が油ちょう処理されてなる、衣揚げ食品。
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