以下、図面を参照しながら本発明の苗移植機の一実施の形態にかかる乗用田植機について説明する。
図1及び図2は本実施の形態にかかる乗用田植機1の側面図と平面図である。
また、図3は、本実施の形態にかかる乗用田植機1の要部における動力伝動経路を示す概略ブロック図である。
また、図4は、本実施の形態の乗用田植機1の制御系の概要を示すブロック図である。
図1、図2に示す通り、本実施の形態の乗用田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して植付装置52が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両である。また、走行車体2の前部にはトランスミッションケース12が配置され、そのトランスミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に上記左右一対の前輪10,10が各々取り付けられている。
また、トランスミッションケース12の背面部に車体メインフレーム15の前端部が固着されており、他方、その車体メインフレーム15の後端左右中央部に、走行車体2の前後方向に水平に設けた後輪上下動支点軸(図示省略)を軸中心にして左右一対の後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その左右一対の後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸17に上記左右一対の後輪11,11が取り付けられている。
尚、左右一対の後輪ギヤケース18,18には、トランスミッションケース12の後壁から突出して設けた、左右一対の後輪ギヤケース18,18に連結した左右一対の後輪伝動軸18a,18aにて動力が伝達される構成となっている。
エンジン20は車体メインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及び第1HST(静油圧式無段階変速機)23を介してトランスミッションケース12内の副変速機構40(図3参照)に伝達される。副変速機構に伝達された回転動力は、複数のギヤ部材により変速された後、走行系への走行動力と、植付装置52等のPTO系への外部取出動力とに分離して出力される。
そして、走行動力は、デフロック機能付きのディファレンシャル機構を経由した後、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが左右後輪ギヤケース18,18に伝達されて左右後輪11,11を駆動する。
また、本実施の形態の乗用田植機1では、左右一対の後輪11、11の何れか一方(例えば、右側の後輪11)の回転数を検知する後輪回転数検知センサ42(図4参照)が設けられており、その検知結果は制御部100(図4参照)に送信される構成である。
また、トランスミッションケース12内の副変速機構40(図3参照)は、第1HST23からの回転動力を路上走行用速(高速モード)と走行中立速(中立モード)と植付作業用速(低速モード)の三段に切り替え可能なギヤシフト式の構成であり、その副変速機構40は作業者が、ハンドル34の左側に設けられた副変速レバー36(図1、2、3参照)の位置を切替操作することにより上記三段の何れかに切り替えられる構成である。
なお、副変速レバー36が、上記走行中立速に対応する位置(中立位置)に切り替えられた場合には、副変速機構40からの動力は、植付装置52等のPTO系側にのみ出力されて、走行系側には出力されない構成である。
また、副変速機構40の外部取出動力の出力側と植付装置52等のPTO系側との間には、植付クラッチ(図示省略)が設けられているので、副変速機構40からPTO系側に出力された動力が、植付装置52等に伝達されるか否かは、植付クラッチが入り状態であるか否かに依存している。
また、トランスミッションケース12の右側側面より取出された外部取出動力は、植付伝動軸26によって植付装置52へ伝動される。
施肥装置5の肥料繰出し機構へは、右後輪ギヤケース18から動力が駆動軸にて取出されて伝動される。
また、図1、図2に示す通り、植付装置52の下部には、中央にセンターフロート53aと、その左右両側にサイドフロート53b、53cがそれぞれ設けられている。これらフロート53が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付部55により苗が植え付けられる。苗植付部55には、回転動作により苗を圃場に植え付ける植込杵55aが、右側と左側にそれぞれ一対ずつ回動可能に取り付けられている。
また、フロート53の前方には、エンジン20からの駆動力により整地ロータ91が回動することで圃場面を整地する整地装置90が昇降可能に設けられている。整地ロータ91の高さ調節は、操作パネル37(図2参照)上に設けられたロータ高さ調節ダイヤル(図示省略)により所定段数(例えば、9段階)の調節が可能である。ここで、所定段数は、植付深さに対応した段数である。
また、図1に示す通り、エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に操縦席31が設置されている。操縦席31の前方には各種操作機構を内蔵し、操縦席31側の上面において後述する第2HST操作ダイヤル44(図4参照)、その他の操作ダイヤル、及び各種操作ボタン等を配置した操作パネル37(図2参照)が設けられたフロントカバー32があり、その上方に突き出したハンドルポスト35には、前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。
ここで、第2HST操作ダイヤル44は、圃場における苗の植付け間隔である、株間を設定する際に、作業者が手動により操作するためのダイヤル式の操作部であり、当該操作部の設定位置は、その位置で第2HST操作ダイヤル44を下方に押し込むことで確定し、確定信号が出力される。なお、この様にして確定した第2HST操作ダイヤル44の設定位置の情報は、例えば、第2HST操作ダイヤルを回すことでその回動位置に応じてリニアに変化する第2HST操作ダイヤル内の抵抗値として、上記確定信号と共に制御部100に送信される。従って、この場合、第2HST操作ダイヤル44の設定位置を検知するための位置検知センサは別途設ける必要はない。
例えば、株間(又は、所定区間に植え付ける株数(以下、単に「株数」と称す))を30cm(又は、株数を37株)に設定する場合、作業者は、後述するモニター装置46を見ながら、第2HST操作ダイヤル44を手動で回動させて、モニター装置46に表示される「株間」の数値(及び/又は、「株数」の数値)が、30cm(及び/又は、37株)になる様に設定する。
また、本実施の形態の乗用田植機1では、操作パネル37の前方であって、側面視で、ハンドル34より高い位置で且つセンターマスコット24と同等又はそれより低い位置にモニター装置46が配置されている(図1、図2参照)。このモニター装置46は、後述する受信アンテナ61(図4参照)を走行車体2の前側上方に取り付けるための前後一対のアンテナ取付門型ステー63a、63bの内の前側のアンテナ取付門型ステー63aに対して、横長形状のモニター装置固定プレート64(図1参照)を介して固定されている。なお、モニター装置46の固定は、これに限らず例えば、フロントカバー32側から立設された縦長形状のモニター装置46固定プレート(図示省略)に固定する構成でも良い。
また、このモニター装置46には、後述する制御部100による制御状況(例えば、後輪11のスリップ率を算出し、その算出結果に基づいて、第2HST70の回転出力を制御するという制御モードを実行中である等の制御状況)や、第2HST操作ダイヤル44等の操作ダイヤルによる操作内容や操作結果(例えば、第2HST操作ダイヤル44により設定された「株間」及び/又は「株数」の数値)等が表示される構成である。
本実施の形態では、モニター装置46がハンドル34の前方で、ハンドル34より高い位置に配置されているので、作業者が、例えば、手元の操作ダイヤルを見ずに、その操作ダイヤルを手で操作しながらモニター装置46を見てその操作内容や操作結果を確認することが出来ると共に、視線が前方に向けられているので、乗用田植機1の前方をも同時に確認することが出来て、安全性の向上と操作性の向上が図られる。
また、ハンドル34の右側には、走行車体2の前進走行と後進走行の切り替え、及び走行速度などを設定する第1HST操作レバー(主変速レバー)33(図2、4参照)が設けられている。第1HST操作レバー33を操作することにより、制御部100を介して、第1HST23の出力が制御される。
また、本実施の形態の乗用田植機1では、図3に示す様に、副変速機構40と植付装置52の間に、第2HST70と不等速度合い切替ギア機構80とが設けられている。即ち、副変速機構40からPTO系に送られる回転動力は、第2HST70へ供給される。
第2HST70は、一定の車速で走行中の乗用田植機1において、作業者が第2HST操作ダイヤル44を操作することにより設定される「株間」の数値の設定通りに苗を植付けることが出来る様に、制御部100からの指令により、上記設定される「株間」の数値に応じて、不等速度合い切替ギア機構80へ供給する回転数を適切に切り替えることが出来る構成である。
即ち、第2HST70では、制御部100が、上記設定された「株間」の数値に応じた指令を第2HST70のトラニオン軸回動モータ71に出力することにより、第2HST操作ダイヤル44の設定位置に連動して、第2HST70のトラニオン軸72(図4参照)の回動量の調節が、トラニオン軸回動モータ71により行われる。これにより、第2HST70からの出力は、第2HST操作ダイヤル44の設定位置に応じて、適切に切り替えることが出来る。
また、不等速度合い切替ギア機構80は、作業者の手動でのギア切替レバー81の切り替え操作によるギア切替レバー81の設定位置に応じて、植込杵55aの回転動作の不等速の度合い、即ち、不等速度合いを切り替えることが出来る構成である。
なお、ここでは、不等速度合いを切り替えるという記載には、植込杵55aの回転動作の1周分を等速回転させる場合も含めるものとする。
即ち、本実施の形態の不等速度合い切替ギア機構80では、ギア切替レバー81を適切に操作することにより、植込杵55aの回転動作において、株間が密植の場合(例えば、株数が60株、70株、80株)、その1周分の回転を等速回転させる様に構成されており、株間が標準から疎植に向かうに従って(例えば、株数が50株から37株に向かうに従って)、その1周分の回転を不等速回転させると共に、その不等速の度合いが高くなる様に構成されている。
この様に構成されている理由は、一定の車速で走行中の乗用田植機1において、設定される株間が標準から疎植に向かうに従って、植込杵55aの回転数はより低く設定されることになり、植込杵55aの1周分の回転動作の内、植込杵55aの先端が圃場の表面に突入してから離脱するまでの期間の速度をその他の期間の速度より速くすることで、苗の植付け姿勢が悪くなるのを防止するためである。
ここで、不等速の度合いが高くなるとは、不等速度合い切替ギア機構80において、株数が50株に設定されている場合に比べて37株に設定されている場合の方が植込杵55aの回転数は低くなるので、植込杵55aの1周分の回転動作の内、植込杵55aの先端が圃場の表面に突入してから離脱するまでの期間の速度をその他の期間の速度より速くする度合いを相対的に高くするという意味である。これにより、苗が倒れたり、苗の植付けに失敗したりすることを防止出来る。
また、設定される株間が密植の場合、その1周分の回転を等速回転させる様に構成されているが、その理由は、密植の場合、標準や疎植の場合に比べて、植込杵55aの回転数は高く設定されることになるので、植込杵55aの1周分の回転動作を等速回転させたとしても、苗の植付け姿勢が悪くなることがないからである。
なお、不等速度合い切替ギア機構80のギヤ構成は、公知技術によるギヤ構成を採用すれば良い。
また、本実施の形態の乗用田植機1では、ギア切替レバー81のレバー位置を検知するためのレバー位置検知センサ82(図4参照)が設けられている。レバー位置検知センサ82による検知結果は、制御部100に送信される。
ここで、作業者の誤操作等により不適切な株間の設定が行われた場合、その様な設定を受け付けない制御を行う制御部100の制御内容について更に説明する。
ここで、まず、作業者が株間を設定する場合の正しい設定の仕方について、説明する。
即ち、株間の正しい設定は、作業者が、自らの所望する株間に合わせる様に、第2HST操作ダイヤル44を回動操作して設定すると共に、その所望する株間に対応した位置にギア切替レバー81を切り替えるための切替操作を行うことで完了する。
なお、株間の設定において、第2HST操作ダイヤル44の操作と、ギア切替レバー81の操作の順番は、何れを先に行っても良い。
これに対して、次に、作業者の誤操作により不適切な株間の設定が行われた場合について説明する。
即ち、作業者が、例えば、株間を自らが所望する疎植の30cm(即ち、株数を37株)に設定しようとして、モニター装置46を見ながら第2HST操作ダイヤル44を30cm(即ち、37株)に設定した場合において、正しい設定の仕方であれば、ギア切替レバー81も30cm(即ち、37株)に対応する位置に設定しなければならないところを、誤操作により密植の14cm(即ち、80株)に対応する位置に設定してしまう場合がある。仮に、この様な不適切な株間の設定に従って、植付動作を実行した場合、苗の圃場における植付姿勢が悪くなったり、苗の植付を失敗したり、或いは、機械の故障を誘発する恐れがある。
そこで、本実施の形態の乗用田植機1では、その様な不適切な株間の設定を受け付けない様にするために、制御部100を次の様に構成した。
即ち、制御部100は、第2HST操作ダイヤル44による設定と、ギア切替レバー81による設定とにおける、正しい対応関係を示す情報を対応テーブル111(図5参照)として制御部100のメモリ部110(図4参照)に予め格納している。
そして、制御部100は、第2HST操作ダイヤル44による設定と、ギア切替レバー81による設定とが、対応テーブル111に記載された対応関係に照らして、対応しないと判定した場合、その何れか一方の設定を受け付けず、「株間の設定が不適切であるため植付動作を行わない」旨の警告表示をモニター装置46に表示して、作業者に注意を喚起する。なお、制御部100は、上述した何れか一方の設定を受け付けないという構成に限定されるものではなく、例えば、何れの設定も受け付けないという構成としても良い。
ここで、図5は、メモリ部110に予め格納されている対応テーブル111の概念図である。
図5に示す様に、第2HST操作ダイヤル44による設定位置は、株間(株数)に応じて6段階に分けられており、ギア切替レバー81による設定位置は、株間(株数)に応じて4段階に分けられている。
従って、対応テーブル111では、図5に示す様に、設定される株間(株数)が30~21cm(37~50株)の場合は、第2HST操作ダイヤル44による設定位置とギア切替レバー81による設定位置は、一対一に対応しているが、設定される株間(株数)が密植の18~14cm(60~80株)の場合は、第2HST操作ダイヤル44による異なる3つの設定位置の何れについても、ギア切替レバー81による同じ1つの設定位置に対応している。なお、図5の対応テーブル111において、密植の場合にこの様な対応関係に構成されている理由は、不等速度合い切替ギア機構80において、密植の場合(株数が60株、70株、80株)に、植込杵55aの回転動作の1周分の回転を等速回転させるギア構成になっているからである。
ここで、制御部100の動作を、第2HST操作ダイヤル44による設定と、ギア切替レバー81による設定の何れの設定が先に行われたかによって場合分けして説明する。
まず、作業者による株間の設定において、第2HST操作ダイヤル44による設定が先に行われて、その後に、ギア切替レバー81による設定が行われた場合について説明する。
この場合、例えば、作業者は、モニター装置46を見ながら、まず第2HST操作ダイヤル44を操作して、所望の株間である「30cm(37株)」の位置に設定するものとする。そのとき、制御部100は、第2HST操作ダイヤル44による株間の設定データとして、第2HST操作ダイヤル44から送信されてくる「30cm(37株)」であることを示すデータを受信する。
その後、作業者がギア切替レバー81を操作した際に誤操作により「18cm~14cm(60株~80株)に適用される等速回転のギア設定」を選択する位置に切り替えてしまったとする。そのとき、レバー位置検知センサ82は、ギア切替レバー81が、「18cm~14cm(60株~80株)に適用される等速回転のギア設定」の位置に位置することを検知して、その検知結果を制御部100に送信する。
制御部100は、レバー位置検知センサ82から送信されてくるギア切替レバー81による設定位置が「18cm~14cm(60株~80株)に適用される等速回転のギア設定」の位置であるので、メモリ部110に予め格納されている対応テーブル111(図5参照)と比較して、ギア切替レバー81による設定位置が第2HST操作ダイヤル44により先に設定された設定位置である「30cm(37株)」に対応する以外の設定位置であると判定する。その判定の結果、制御部100は、ギア切替レバー81によるその設定位置を受け付けず、「ギア切替レバー81の設定が不適切であるため植付動作を行わない」との警告表示をモニター装置46に表示して、作業者に注意を喚起する。
次に、作業者による株間の設定において、ギア切替レバー81による設定が先に行われて、その後に、第2HST操作ダイヤル44による設定が行われた場合について説明する。
この場合、例えば、作業者は、ギア切替レバー81を操作して、「30cm(37株)に適用される不等速回転のギア設定」を選択する位置に切り替えたとする。そのとき、制御部100は、レバー位置検知センサ82から送信されてくるギア切替レバー81による設定位置が「30cm(37株)に適用される不等速回転のギア設定」である旨を示す検知結果を受信する。
その後、作業者が第2HST操作ダイヤル44を操作した際に誤操作により、「14cm(80株)」の位置に設定してしまったとする。そのとき、制御部100は、第2HST操作ダイヤル44による株間の設定データとして、「14cm(80株)」であることを示すデータを受信する。
制御部100は、第2HST操作ダイヤル44から送信されてくる株間の設定データが「14cm(80株)」であることを示しているので、メモリ部110に予め格納されている対応テーブル111(図5参照)と比較して、第2HST操作ダイヤル44がギア切替レバー81により先に設定された設定位置である「30cm(37株)」に対応する以外の設定位置であると判定する。その判定の結果、制御部100は、第2HST操作ダイヤル44によるその設定位置を受け付けず、「第2HST操作ダイヤル44の設定が不適切であるため植付動作を行わない」との警告表示をモニター装置46に表示して、作業者に注意を喚起する。
なお、上記の注意喚起は、モニター装置46に表示するだけではなく、ランプを点滅させたり、警告音を発したり、或いは、警告メッセージを発したりする構成であっても良い。
以上説明したことから、本実施の形態の乗用田植機1によれば、制御部100が、不適切な株間の設定を受け付けない様に構成されているため、苗の圃場における植付姿勢が悪くなったり、苗の植付を失敗したり、或いは、機械の故障を誘発する恐れが無く、誤操作による無理な植付動作を防止出来ると共に、植付性能の向上が図られる。
なお、車速が変更された場合でも、第2HST操作ダイヤル44による株間の設定通りに苗の植付け間隔が確保されるようにするために、変更後の車速に応じて、第2HST70の出力回転数が適切に変化する様に、制御部100は、トラニオン軸回動モータ71を自動で制御する構成である。
なお、本実施の形態の左右一対の前輪10と後輪11は、本発明の走行装置の一例にあたる。また、本実施の形態の第2HST70は、本発明の株間切替装置の一例にあたり、本実施の形態の不等速度合い切替ギア機構80は、本発明の不等速度合い切替機構の一例にあたる。また、本実施の形態のギア切替レバー81は、本発明の切替部の一例にあたり、本実施の形態のレバー位置検知センサ82は、本発明の位置検知部の一例にあたる。
次に、制御部100において、乗用田植機1のスリップ率を算出して、その算出結果に基づいて、第2HST70の出力回転数を制御する構成について説明する。
即ち、本実施の形態の乗用田植機1では、位置情報取得装置60(図4参照)が設けられている。
位置情報取得装置60は、GNSS(Global Navigation Satellite System)に基づいて地球上での乗用田植機1の位置情報(即ち、座標情報)を取得する構成であり、人工衛星からの信号を所定間隔で受信する為の受信アンテナ61を備え、位置情報取得装置60により取得された位置情報は、制御部100に送られる構成である。
なお、受信アンテナ61は、前後一対のアンテナ取付門型ステー63a、63bの上端部の左右幅方向の中央部に固定されている。
また、制御部100は、位置情報取得装置60から送られてくる乗用田植機1の位置情報を利用して乗用田植機1の現実の走行速度を算出し、その算出した現実の走行速度と、後輪回転数検知センサ42による検知結果である後輪11の回転数とに基づいて、乗用田植機1のスリップ率を算出する構成である。
更に、制御部100は、第2HST70から不等速度合い切替ギア機構80へ供給される回転駆動力の回転数が、上記算出したスリップ率が高い場合の方が低い場合に比べて低くなる様に、第2HST70を制御する構成である。
例えば、制御部100により算出されたスリップ率がゼロの場合、即ち、スリップ現象が生じていないと制御部100が判定した場合、制御部100は、第2HST70に対して、予め定められた基準値通り、各株間に対応した回転数の駆動力を不等速度合い切替ギア機構80に供給させる様に制御する。
しかし、制御部100により算出されたスリップ率が所定値を超えていると制御部100が判定した場合、制御部100は、第2HST70に対して、予め定められた基準値より低い値であって、各株間に対応した回転数の駆動力を不等速度合い切替ギア機構80に供給させる様に制御する。この様にスリップ率が高い場合に低い場合(スリップ率がゼロの場合を含む)に比べて、不等速度合い切替ギア機構80に供給する回転数を基準値より低い値とすることにより、結果的に、各株間をより正確に実現することが出来る。
これにより、不等速度合い切替ギア機構80へ供給される回転駆動力の回転数が、スリップ率に基づいて調整されるので、株間を一定に保つことが出来て、植付け性能の向上が図れる。
また、制御部100が、上述した様に、スリップ率に基づいて、第2HST70の出力を制御している際には、乗用田植機1がその様な制御状況下にあることが、作業者に分かるメッセージ等をモニター装置46に表示する。
これにより、作業者にとって、植付作業中において、制御部100により制御されている内容、箇所、機体の動き等を把握し易くなる。
なお、本実施の形態のモニター装置46は、本発明の表示装置の一例にあたり、本実施の形態の第2HST操作ダイヤル44は、本発明の操作ダイヤルの一例にあたる。
なお、上記実施の形態では、作業者による株間の設定において、ギア切替レバー81による設定が先に行われて、その後に、第2HST操作ダイヤル44による設定が行われる場合、ギア切替レバー81による設定位置に対応しない不適切な設定が、第2HST操作ダイヤル44により行われた場合でも、その不適切な設定を受け付けない構成について説明したが、これに限らず例えば、作業者による株間の設定において、ギア切替レバー81による設定が先に行われて、その後に、第2HST操作ダイヤル44による設定が行われる場合、そもそも、ギア切替レバー81による設定位置に対応しない不適切な設定自体が、第2HST操作ダイヤル44により行われないように構成しても良い。即ち、この構成の場合、作業者は、モニター装置46を見ながら第2HST操作ダイヤル44による設定を行うので、モニター装置46には、ギア切替レバー81による設定位置に対応しない不適切な株間の設定が行われようとした場合において、その不適切な株間を非表示とするか、或いは「設定不可」の文字を表示することで、作業者に対して、不適切な設定が行えない旨の注意喚起をする構成としても良い。
また、上述した、そもそも、ギア切替レバー81による設定位置に対応しない不適切な設定自体が、第2HST操作ダイヤル44により行われないようにする構成の別の例として、次の様にしても良い。即ち、モニター装置46の画面において、ギア切替レバー81による設定位置に対応しない不適切な株間を除く適切な株間のみを、設定可能な株間として表示することにより、作業者が不適切な株間の設定を出来ない様にしても良い。
また、上記実施の形態では、作業者による株間の設定において、ギア切替レバー81による設定と、第2HST操作ダイヤル44による設定との両方の設定を必要とする構成について説明したが、これに限らず例えば、第2HST操作ダイヤル44を設けない構成としても良い。この構成の場合、第2HST70から不等速度合い切替ギア機構80に供給される回転動力の回転数を、制御部100が、レバー位置検知センサ82によって検知されるギア切替レバー81による設定位置に対応する様に自動で決定する構成としても良い。これにより、作業者による操作が簡略化されると共に、第2HST操作ダイヤル44による誤設定が防止出来る。
また、上述した、第2HST操作ダイヤル44を設けない構成において、レバー位置検知センサ82によって検知されるギア切替レバー81による設定位置が、「18cm~14cm(60株~80株)に適用される等速回転のギア設定」の位置である場合(図5参照)、制御部100により自動で決定される、第2HST70から供給される回転数は、例えば、株間が18cm、16cm、及び14cmの内から何れか一つに予め決めておかなければならず、株間設定において密植の調節の自由度が低くなる。そこで、ギア切替レバー81による設定位置が、「18cm~14cm(60株~80株)に適用される等速回転のギア設定」の位置であると制御部100が判定した場合は、制御部100が、モニター装置46上に、設定可能な適切な株間として、3つの株間、即ち、18cm、16cm、及び14cmを表示して、作業者がその中から何れか一つを選択できる様に構成しても良い。
また、上記実施の形態では、第2HST操作ダイヤル44の操作と、ギア切替レバー81の操作の順番は、何れを先に行った場合でも、不適切な株間の設定が行われたと制御部100が判定すれば、その不適切な設定を受け付けない構成としたが、これに限らず例えば、作業者による株間の設定において、第2HST操作ダイヤル44による設定が先に行われて、その後に、ギア切替レバー81による設定が行われた場合においてのみ、不適切な株間の設定が行われたと制御部100が判定すれば、その不適切な設定を受け付けない構成としても良いし、或いは、作業者による株間の設定において、ギア切替レバー81による設定が先に行われて、その後に、第2HST操作ダイヤル44による設定が行われた場合においてのみ、不適切な株間の設定が行われたと制御部100が判定すれば、その不適切な設定を受け付けない構成としても良い。
なお、上記実施の形態では、第2HST操作ダイヤル44の設定位置を検知するための位置検知センサを別途設ける必要が無い場合について説明したが、これに限らず例えば、第2HST操作ダイヤル44の設定位置を検知するための位置検知センサを別途設けた構成としても良い。この構成の場合、第2HST操作ダイヤル44の設定位置を検知した位置検知センサからの位置検知信号が制御部100に送信されることになる。これにより、制御部100は、第2HST操作ダイヤル44の設定位置を取得することが出来る。
また、上記実施の形態では、ギア切替レバー81の動きが、不等速度合い切替ギア機構80に伝達される構成であって、ギア切替レバー81の切替操作が、制御部100を介さずに不等速度合い切替ギア機構80を切り替える構成について説明したが、これに限らず例えば、ギア切替レバー81の位置がレバー位置検知センサ82により検知されて、制御部100がその検知結果に基づいて、不等速度合い切替ギア機構80を切り替える構成であっても良い。この構成の場合、不等速度合い切替ギア機構80のギヤの切り替えは、制御部100からの指令により動作する電動モータ或いは油圧バルブ等を用いて行う構成としても良い。また、この構成の場合、ギア切替レバー81に代えてダイヤル式のスイッチ(例えば、上述した第2HST操作ダイヤル44と同様のスイッチ)であっても良い。
また、上記実施の形態では、作業者による株間の設定において、ギア切替レバー81による設定と、第2HST操作ダイヤル44による設定との両方の設定を必要とする構成について説明したが、これに限らず例えば、ギア切替レバー81を設けない構成としても良い。即ち、この場合、不等速度合い切替ギア機構80のギヤの切り替えは、制御部100からの指令により動作する電動モータ或いは油圧バルブ等を用いて行う構成とし、不等速度合い切替ギア機構80のギアの切り替えを、第2HST70の設定内容(即ち、第2HST操作ダイヤル44による設定内容)に基づいて、制御部100が対応テーブル111(図5参照)に照らして自動で決定する構成としても良い。
また、上記実施の形態では、第2HST操作ダイヤル44は、株間設定専用である場合について説明したが、これに限らず例えば、一つの操作ダイヤルスイッチに複数の機能を持たせた構成としても良い。この構成の場合、例えば、外観形状が円盤状のダイヤル式の操作ダイヤルスイッチであって、操作パネル37において、左右方向に回動可能に配置されている。また、その操作ダイヤルスイッチは、円盤の上面の中央部から円盤の外周縁部側の4方向に向けてそれぞれ矢印が表示されており、外周縁部の4箇所の矢印の先端部の何れかを選択的に下方に押圧することで、その操作ダイヤルスイッチは、押圧した側の外周縁部が下方に傾斜して、その操作ダイヤルスイッチが有する4つの機能の内、その矢印の位置に対応する機能を選択することが出来る構成である。更に、その操作ダイヤルスイッチは、円盤の上面の中央部を下方に押圧することで、操作ダイヤルスイッチ自体が下方に移動し、上述の選択した機能を確定させることが出来る。また、この確定を取り消すと共に、設定開始状態に戻すための「戻るボタン(ホームボタン)」は、別途、操作パネル37上に設けられている。ここで、4つの機能の一例として、株間設定、植付装置の操作、施肥装置の操作、薬剤散布の操作が挙げられる。また、この操作ダイヤルスイッチによる操作方法の一例は次の通りである。作業者は、モニター装置46を見ながら、この操作ダイヤルスイッチの4つの矢印の内の、株間設定に対応する矢印の外周縁部を下方に押圧する。これにより、モニター装置46の表示画面が、株間設定用の表示画面に切り替わる。作業者は、株間設定用の表示画面を見ながら、その操作ダイヤルスイッチを左右方向の何れかに回動させることで、所望の株間の数値に設定し、操作ダイヤルスイッチの円盤の中央部を下方に押圧することで、設定した株間の数値が確定されて制御部100に送信される。その後、「戻るボタン(ホームボタン)」を操作することで、モニター装置46の表示画面が初期状態(ホーム画面)に戻り、操作ダイヤルスイッチにおいて、上記の4つの機能の内の何れかの機能を選択し操作することが可能となる。この様に、一つの操作ダイヤルスイッチに複数の機能を持たせると共に、モニター装置46が高い位置に配置されているので、作業者が、例えば植付作業中において、手元の操作ダイヤルスイッチを見ずに、その操作ダイヤルスイッチを手で操作しながらモニター装置46を見てその操作内容や操作結果を確認することが出来ると共に、視線が前方に向けられているので、乗用田植機1の前方をも同時に確認することが出来て、安全性の向上と操作性の向上が図られる。
また、上記実施の形態で説明したモニター装置46は、タッチ式のパネルとしても使用可能な構成としても良い。これにより、植付作業中以外のメンテナンス作業や設定を行うときに使い易い。
また、上記実施の形態の乗用田植機1において、操作ダイヤルスイッチがダイヤル式でありダイヤル操作を行うため、車速を調節する操作はペダル式、又はペダル操作に切り換え可能な構成としても良い。これにより、車速の調節操作がレバー式の場合に比べて容易になる。
また、上記実施の形態の乗用田植機1では、整地装置90の整地ロータ91は、ロータ高さ調節ダイヤルの操作により、所定段数(例えば、9段階)の高さ調整が可能に構成されている場合について説明した。しかし、植付深さの他に圃場条件等に起因して、ロータ高さの調節可能な段数を増加させることが要望されているが、ロータ高さ調節ダイヤルの精度上の観点から設定可能な段数には制限があり、段数をこれ以上に増加させることが困難な状況にある。そこで、ロータ高さ調節ダイヤルの設定可能段数を増やすことなく、ダイヤル調節範囲を選択可能な選択スイッチを追加する構成とした。即ち、この構成の場合、植付深さのみならず圃場条件等にも対応できる様に、ロータの高さ調節機構側には、ロータ高さ調節ダイヤルの設定可能段数(例えば、9段階)を超える高さ段数レンジ(例えば、13段階)を設けると共に、その高さ段数レンジを「上」、「中」、「下」の3段階に切り換え可能な選択スイッチを設ける構成とする。即ち、選択スイッチにより、高さ段数レンジ(例えば、高さレベル1~高さレベル13の13段階)内での、ロータ高さ調節ダイヤルによる調整可能範囲を、「上」、「中」、「下」の何れかに選択できる様にする構成である。具体的には、例えば、高さ段数レンジが13段階であるとした場合、選択スイッチを「上」の位置に設定すると、ロータ高さ調節ダイヤルによる調整可能範囲は、高さレベル1~9の範囲となり、選択スイッチを「中」の位置に設定すると、ロータ高さ調節ダイヤルによる調整可能範囲は、高さレベル3~11の範囲となり、選択スイッチを「下」の位置に設定すると、ロータ高さ調節ダイヤルによる調整可能範囲は、高さレベル5~13の範囲となる。これにより、ロータ高さ調節ダイヤルの設定可能段数を増やすことなく、即ち、現状のロータ高さ調節ダイヤルを使用したまま、ロータ高さの調節可能な段数を増加することが出来て、圃場適応性の向上を実現出来る。