JP7171021B2 - 水性樹脂組成物および塗膜 - Google Patents

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Description

本発明は、水性樹脂組成物および塗膜に関する。
主として屋外で塗料として使用することが意図された水性樹脂組成物が様々に検討されている。
例えば、特許文献1には、α,β-エチレン性不飽和単量体を重合してなる水性樹脂分散体Aと、ポリエチレンオキサイド-ポリアルキレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(アルキレン鎖は炭素数3以上)を基本骨格とする水性樹脂組成物Bと、水分散コロイダルシリカCを含むことを特徴とする塗料組成物が記載されている。
また、特許文献2には、基材の表面に低汚染性塗膜を形成するために用いられる低汚染性塗料組成物であって、アルキルシリケート化合物及びその部分加水分解縮合物の両方又は一方からなる親水化剤(A)と、フッ素化合物からなる消泡剤(B)と、を含み、親水化剤(A)に対する消泡剤(B)の質量比率が0.009~20%であることを特徴とする低汚染性塗料組成物が記載されている。
特開2010-70607号公報 特開2016-3250号公報
水性樹脂組成物が塗料などとして使用可能なためには、まず、組成物の調製時点において、有機物である樹脂成分が、水を含む溶媒成分に安定に溶解または分散していることが必要である。
また、実用性の観点から、樹脂成分の安定な溶解/分散状態が比較的長期間にわたって維持され、変質しないこと(つまり、経時安定性が良好であること)が好ましい。
一方、水性樹脂組成物を基材に塗布して塗膜としたときには、基材との密着性が高いことや、耐候性が良好であることが求められる。これら性能の向上のためには、組成物中の樹脂成分同士、または、樹脂成分と基材とが十分に反応/相互作用することが求められる。
ここで、水性樹脂組成物中の樹脂成分が「安定」であることと、樹脂成分同士、または、樹脂成分と基材とが「十分に反応/相互作用すること」は、通常は相反する性質と考えられる(つまり、両立が難しいと考えられる)。
本発明者らのこれまでの知見においても、樹脂成分を、水を含む溶媒成分に安定に溶解または分散させること(さらにはその状態を比較的長期間にわたって維持すること)と、塗膜としたときの密着性や耐候性を高めることとの両立は難しかった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、樹脂成分が水を含む溶媒成分に安定に溶解または分散し、また、経時安定性が良好で、さらに、塗膜としたときに密着性および耐候性が良好な水性樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明をなし、上記課題を達成できることを見出した。
本発明によれば、
水を含む溶媒成分と、
前記溶媒成分に溶解または分散したポリマー粒子とを含み、
前記ポリマー粒子のZ平均粒子径は1~100nmであり、
前記ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含む、水性樹脂組成物
が提供される。なお、この発明を「第1発明」とも表記する。
また、本発明によれば、
水を含む溶媒成分と、
前記溶媒成分に溶解または分散したポリマー粒子とを含み、
前記ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含み、
前記ポリマー粒子は、前記溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質を内包している、水性樹脂組成物
が提供される。なお、この発明を「第2発明」とも表記する。
また、本発明によれば、
上記第1発明または第2発明の水性樹脂組成物により形成された塗膜
が提供される。
本発明によれば、調製時点において樹脂成分が水を含む溶媒成分に安定に溶解または分散しており、また、経時安定性が良好で、さらに、塗膜としたときに密着性および耐候性が良好な水性樹脂組成物が提供される。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
以下では、第1発明の実施の形態を「第1実施形態」、第2発明の実施の形態を「第2実施形態」として説明する。ただし、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同様の事項については適宜説明を省略する。
<水性樹脂組成物(第1実施形態)>
第1実施形態の水性樹脂組成物は、水を含む溶媒成分と、その溶媒成分に溶解または分散したポリマー粒子とを含む。
ここで、ポリマー粒子のZ平均粒子径は1~100nmである。
また、ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含む。
この水性樹脂組成物において、樹脂成分(ポリマー粒子)が水を含む溶媒成分に安定に溶解または分散し、また、経時安定性が良好であり、さらに、塗膜としたときに密着性および耐候性が良好となる理由については、以下のように説明することができる。
念のため述べておくが、以下の説明は推測を含む。また、以下の説明により本発明は限定されない。
ポリマーが、カルボキシル基を含む構造単位(a2)を含むことにより、樹脂成分(ポリマー粒子)が水を含む溶媒成分に安定に溶解または分散すると考えられる。
また、ポリマーは、親水的なカルボキシル基を含む構造単位(a2)だけでなく、疎水的な脂環式基を含む構造単位(a1)も含むことから、組成物中ではミセルのような構造を形成し、これが安定な溶解/分散や良好な経時安定性に寄与しているとも推測される。
さらに、ポリマーが含む加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)の一部(全部ではない)が、分子内縮合し、ポリマーが「粒子」として存在しやすくなっているとも推測される。
加えて、ポリマー粒子のZ平均粒子径が1~100nmであること等により、ポリマー粒子の沈降が一層抑えられる。このことは良好な経時安定性に関係していると推測される。
塗膜としたときの密着性や耐候性が良好である理由については、以下3点が推定される。
(i)基材に水性樹脂組成物を塗布したとき、ポリマー中の加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)が、基材と反応する、および/または、構造単位(a3)同士が反応することで、密着性および耐候性に優れた塗膜となると推測される。
(ii)ポリマー中の脂環式基を含む構造単位(a1)は、化学構造として剛直で機械的に強く、また、紫外線等に対して比較的安定と考えられる。つまり、ポリマーが構造単位(a1)を含むことで、耐候性の向上効果が得られると考えられる。
(iii)ポリマー粒子のZ平均粒子径が1~100nmであることにより、より緻密な塗膜構造が形成されやすくなる。これが密着性や耐候性の向上につながると推測される。
なお、上記では、便宜上、第1実施形態の水性樹脂組成物の「Z平均粒子径が1~100nmのポリマー粒子を含むこと」や、ポリマーが「構造単位(a1)」「構造単位(a2)」および「構造単位(a3)」の構造単位を含むといった特徴のそれぞれと、効果とを関連付けて説明した。しかし、おそらくは、第1実施形態の水性樹脂組成物の各々の特徴は、独立して各性能に寄与するというよりも、(各性能への寄与の軽重はあるが)各々の特徴は一体的なものとして性能良化に寄与すると推測される。
第1実施形態の水性樹脂組成物の具体的態様についてより詳しく説明する。
(水を含む溶媒成分)
第1実施形態の水性樹脂組成物の溶媒成分は、水を含む。
典型的には、第1実施形態の水性樹脂組成物中の溶媒成分(塗膜を形成したときに、塗膜中に実質的に残存しない揮発成分と言うこともできる)のうち、50質量%以上は水である。つまり、典型的には、第1実施形態の水性樹脂組成物において、主溶剤は水である。より具体的には、溶媒成分のうち、好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上が水である。
溶媒成分は、有機溶剤を含んでもよいが、有機溶剤の量は、通常は水の量より少ない。有機溶剤としては、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系などの中から、水と均一に混合する溶剤が選択される。溶媒成分が有機溶剤を含む場合、有機溶剤を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
溶媒成分の量は、塗膜形成の際の所望の膜厚や塗布性などに応じて適宜調整すればよい。典型的には、水性樹脂組成物中の不揮発成分の濃度が1~60質量%、好ましくは1~40質量%、さらに好ましくは1~30質量%程度となるように調整される。
なお、有機溶剤の低減、固形分濃度を上げる、その他目的などのため、減圧や加熱などの各種処理を行ってもよい。
(ポリマー粒子)
第1実施形態の水性樹脂組成物の溶媒成分は、ポリマー粒子を含む。このポリマー粒子は、上記の溶媒成分に溶解または分散している。このポリマー粒子のZ平均粒子径は、1~100nm、好ましくは5~50nm、より好ましくは10~30nmである。
ポリマー粒子のZ平均粒子径については、例えば、ポリマー粒子を構成するポリマーの重合度を適切に調整したり、後述の、構造単位(a2)および構造単位(a3)に対する構造単位(a1)の質量比を調整したりすることで、1~100nmとすることができる。
ポリマー粒子のZ平均粒子径の測定方法について補足しておく。
Z平均粒子径は、動的光散乱装置を用いて、25℃にて測定することができる。ただし、動的光散乱装置を用いた測定の場合、ポリマー粒子の濃度が高すぎると、散乱光が精度よく検出しづらくなるなどして、Z平均粒子径を適切に測定できない場合がある。よって、一例として、組成物の固形分濃度が1質量%を超える場合には、水により希釈して固形分濃度を1質量%に調整したうえで、動的光散乱装置による測定を実施し、Z平均粒子径を求めることができる。組成物の固形分濃度が1質量%未満である場合には、基本的にはそのままの状態でZ平均粒子径を測定すればよいが、念のため、さらに水で希釈した組成物のZ平均粒子径を数点測定し、固形分濃度とZ平均粒子径の関係をプロットし、外挿法により固形分濃度1質量%相当でのZ平均粒子径を見積もってもよい。
なお、上記の水による希釈等は、基本的に「測定の精度」を高めることを意図している。ポリマー粒子が組成物中で溶媒成分に安定に溶解または分散している限りにおいて、基本的には、ポリマー粒子のZ平均粒子径そのものが、組成物の固形分濃度により大きく変化することは無いと考えられる。
ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含む(この(メタ)アクリル系ポリマーを、単に「ポリマー」とも表記する)。
ポリマーを構成する構造単位の100%が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造単位でなくてもよい。つまり、ポリマーは、(メタ)アクリル系ではないモノマーに由来する構造単位を一部(全部ではない)含んでいてもよい。例えば、上記の構造単位(a1)、構造単位(a2)および構造単位(a3)のうちの1つまたは2つ以上が、(メタ)アクリル構造を含まないモノマーに由来する構造であってもよい。
ただし、(メタ)アクリル構造に由来する効果を十二分に得る観点では、ポリマーの全構造単位の50質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造単位であることが好ましい。より好ましくは、ポリマーの全構造単位の80質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造単位である。さらに好ましくは、ポリマーの全ての(100%の)構造単位が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造単位である。
・構造単位(a1)
ポリマーは、脂環式基を含む構造単位(a1)を含む。この構造単位(a1)は、好ましくは、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造を有する(つまり、好ましくは主鎖が(メタ)アクリル構造である)。
構造単位(a1)が含む脂環式基は、単環であっても多環(例えば2~4環)であってもよい。
単環構造としては、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロノナン環、シクロデカン環、シクロウンデカン環、シクロドデカン環などを挙げることができる。単環構造としては、5~8員環のものが好ましく、5~7員環のものがより好ましい。
多環構造としては、アダマンタン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、ボルナン環、イソボルナン環、パーヒドロインデン環、デカリン環、パーヒドロフルオレン環(トリシクロ[7.4.0.03,8]トリデカン環)、パーヒドロアントラセン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、トリシクロ[4.2.2.12,5]ウンデカン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環などが挙げられる。多環構造の炭素数として好ましくは7~20、より好ましくは7~15である。
構造単位(a1)が含む脂環式基は、任意の置換基で置換されていてもよいし、無置換であってもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などを挙げることができる。ただし、塗膜としたときの耐候性や雨水に対する強さなどの観点では、脂環式基は、極性の高い置換基(例えば酸素原子含有基)で置換されていないことが好ましい。
構造単位(a1)が(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造を有する場合、脂環式基は、通常、構造単位(a1)の側鎖に存在しうる。別の言い方としては、構造単位(a1)は、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基の水素を脂環式基で置換したモノマーを重合することで構成されうる。
この「(メタ)アクリル酸のカルボキシル基の水素を脂環式基で置換したモノマー」として、具体的には、一般式CH=CR-COO-Rにおいて、Rが水素原子またはメチル基であり、Rが脂環式基であるモノマーを挙げることができる。Rの脂環式基としては、上述の単環構造または多環構造の脂環から水素原子を1つ除いた基を挙げることができる。
構造単位(a1)に対応するモノマーの具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
ポリマーは、構造単位(a1)に該当する構造単位を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
ポリマーに含まれる構造単位(a1)の含有量は、ポリマー全体を100質量%としたとき、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。ポリマー中の構造単位(a1)の含有量を適切に調整することで、塗膜としたときの耐候性を一層高めることができる。また、後述の第2実施形態において、疎水性物質の内包化がされやすくなるという効果も得られる。
・構造単位(a2)
ポリマーは、カルボキシル基を含む構造単位(a2)を含む。この構造単位(a2)は、好ましくは、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造を有する(つまり、好ましくは主鎖が(メタ)アクリル構造である)。
構造単位(a2)は、例えば、(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸、クロトン酸等を重合することでポリマー内に導入される。
ポリマーは、構造単位(a2)に該当する構造単位を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
ポリマー中に含まれる構造単位(a2)の含有量は、ポリマー全体を100質量%としたとき、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~17質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。ポリマー中の構造単位(a2)の含有量を適切に調整することで、水を含む溶媒成分に対するポリマー粒子の溶解/分散性と、塗膜としたときの耐水性とを高度に両立させることができる。
・構造単位(a3)
ポリマー粒子を構成するポリマーは、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)を含む。この構造単位(a3)は、好ましくは、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造を有する(つまり、好ましくは主鎖が(メタ)アクリル構造である)。
加水分解性シリル基は、典型的にはアルコキシシリル基である。アルコキシシリル基とは、Si原子とそれに結合する1~3個のアルコキシ基とを有する基をいう。従って、アルコキシシリル基には、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基及びトリアルコキシシリル基が含まれる。
アルコキシシリル基は、少なくとも1つのアルコキシ基を有している限り、アルコキシ基以外の加水分解性基をSi原子に結合して備えていてもよい。こうした加水分解性基としては、ハロゲン原子、アシロキシ基、水酸基等を挙げることができる。
構造単位(a3)が(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構造を有する場合、加水分解性シリル基は、通常、構造単位(a3)の側鎖に存在しうる。別の言い方としては、構造単位(a3)は、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基の水素を、加水分解性シリル基を含む基で置換したモノマーを重合することで構成されうる。
上記の「(メタ)アクリル酸のカルボキシル基の水素を、加水分解性シリル基を含む基で置換したモノマー」として、具体的には、一般式CH=CR-COO-X-Si(ORで表されるものを挙げることができる。ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、Xは単結合または2価の連結基であり、3つのRはそれぞれ独立に1価の有機基である。
Xの2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、脂環式基、芳香族基、エーテル基、エステル基、チオエーテル基、スルフィド基、カルボニル基、アミド基(-CONH-)、および、これらのうち2つ以上が連結された基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖でも分岐でもよく、好ましい炭素数は1~12、より好ましい炭素数は1~6である。脂環式基は、単環でも多環でもよく、好ましい炭素数は3~12である。芳香族基の好ましい炭素数は6~20である。
Xとしては、(i)アルキレン基、または、(ii)エーテル基、エステル基、チオエーテル基、スルフィド基、カルボニル基およびアミド基(-CONH-)からなる群から選ばれる少なくとも1つの基とアルキレン基とが連結された基、であることが好ましい。
の1価の有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、飽和または不飽和の脂環式基、芳香族構造を有する基などが挙げられる。アルキル基およびアルケニル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~4である。飽和または不飽和の脂環式基は、単環でも多環でもよく、好ましい炭素数は3~12である。芳香族基の好ましい炭素数は6~20である。
としては、アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
構造単位(a3)に対応するモノマーの具体例としては、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ジメトキシメチルシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ジエトキシメチルシリルスチレンなどを挙げることができる。
ポリマーは、構造単位(a3)に該当する構造単位を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
ポリマーに含まれる構造単位(a3)の含有量は、ポリマー全体を100質量%としたとき、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2.5~17.5質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。ポリマー中の構造単位(a3)の含有量を適切に調整することで、塗膜としたときの耐候性、基材との密着性などをより高めることができる。
・その他の構造単位
ポリマーは、上述の構造単位(a1)、(a2)および(a3)以外の構造単位を含んでもよい。
例えば、ポリマーは、以下の(i)または(ii)で表されるモノマーに由来する構造単位を含んでもよい。ポリマーにこのような構造単位を導入することで、ポリマーのガラス転移温度、塗膜としたときの物性(塗膜の硬さ、柔らかさなど)などを調整・最適化することができる。
(i)一般式CH=CR-COO-R’において、Rが水素原子またはメチル基であり、R’が、直鎖または分岐のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であるモノマー。
具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、R’が炭素数1~8のアルキル基であるものが好ましく、R’が1~6のアルキル基であるものがより好ましく、R’が1~4のアルキル基であるものがさらに好ましい。
なお、R’がメチル基であるモノマー(メチル(メタ)アクリレート)に由来する構造単位については、炭化水素構造が比較的少なく、構造全体としては幾分親水的であるため、ポリマー全体の親疎水性のバランスを微調整するために用いることが考えられる。
ポリマーが(i)のモノマーに由来する構造単位を含む場合、1種のみを含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
ポリマーが(i)のモノマーに由来する構造単位を含む場合、ポリマー中の含有量は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。
(ii)一般式CH=CR-COO-R’’において、Rが水素原子またはメチル基であり、R’’がヒドロキシ基等の極性基で置換された有機基(アルキル基、単環または多環のシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)であるモノマー。
この具体例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、(ii)のモノマーに由来する構造単位については、ヒドロキシ基等の極性基が構造単位(a3)の加水分解性シリル基と反応する可能性があり、塗膜の硬化性の調整などの効果があるとも考えられる。
ポリマーが(ii)のモノマーに由来する構造単位を含む場合、1種のみを含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
ポリマーが(ii)のモノマーに由来する構造単位を含む場合、ポリマー中の含有量は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~30質量%である。
・構造単位の「比率」について補足
ポリマーに含まれる「構造単位(a2)および構造単位(a3)」に対する「構造単位(a1)」の質量比((a1)/{(a2)+(a3)})は、好ましくは、0.5~2.8、より好ましくは0.8~2.5、さらに好ましくは0.9~2.3である。
構造単位(a2)および構造単位(a3)は比較的親水的な構造単位であり、一方で構造単位(a1)は比較的疎水的な構造単位である。上記の質量比を適切に調整することで、ポリマー粒子の親水性または疎水性が適切となり、例えば、ポリマー粒子のZ平均粒子径を1~100nmに調整しやすくなる。
また、ポリマー粒子のZ平均粒子径を1~100nmと小さくできることにより、ポリマー粒子中のシラノール基の密度が高まり、塗膜としたときの耐候性の更なる向上効果が得られる。さらに、ポリマー粒子のZ平均粒子径が1~100nm程度であることにより、塗料に含まれうる別粒子(例えば、後述の無機粒子)との混和性の向上や、塗料としての製膜性の向上が図られ、さらには塗膜の耐クラック性が向上する。
・ポリマーの分子量、分散度、ガラス転移温度など
ポリマーの重量平均分子量は特に限定されない。組成物の良好な製膜性などの観点から、例えば1万~10万、好ましくは1.5万~5万、より好ましくは2万~4万とすることができる。
重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算値として測定することができる。なお、GPCの特性上、ポリマーの重量平均分子量の測定は、典型的には、後述のアンモニアおよび/またはアミン化合物の添加によるポリマーの水性化の前に行われることが好ましい。
ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば5~40℃、好ましくは10~30℃である。ポリマーのガラス転移温度を適切に調整することで、塗布性(製膜性)や塗膜の耐候性などを高めることができる。
なお、本明細書において、ポリマー(少なくとも3元ポリマーである)のガラス転移温度は、以下式(Foxの式として知られる)により定義することができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+・・・+(W/Tg
〔式中、Tgは、樹脂のガラス転移温度(K)、W、W、W・・・Wは、それぞれのモノマーの質量分率、Tg、Tg、Tg・・・・Tgは、それぞれ各モノマーの質量分率に対応するモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示す。〕
特殊モノマー、多官能モノマーなどのようにガラス転移温度が不明のモノマーについては、ガラス転移温度が判明しているモノマーのみを用いてガラス転移温度が求められる。
・ポリマーの合成法
ポリマーは、典型的には重合反応により得ることができる。重合反応としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合などの各種方法であってよいが、ラジカル重合が好ましい。また、重合は、溶液重合、懸濁重合、および乳化重合などのいずれであってもよい。これらのうち、重合の精密な制御等の観点から、溶液重合が好ましい。
ラジカル重合の重合開始剤としては、公知のものを用いることができる。たとえば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシオクタノエート、ジイソブチルパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシピバレート、デカノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエートなどの過酸化物系開始剤、過酸化水素と鉄(II)塩、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムなど、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の配合量は、特に限定されないが、重合するモノマーの混合液全体を100質量部とした場合に、0.001~10質量部とすることが好ましい。
溶液重合の際の重合溶媒は特に限定されないが、本発明者らの知見として、重合溶媒はアルコール系溶媒を含むことが好ましい。より好ましくは重合溶媒中の50質量%以上、さらに好ましくは重合溶媒中の80質量%以上、特に好ましくは重合溶媒中の実質上全てがアルコール系溶媒であることが好ましい。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、これらの混合溶媒などが挙げられる。重合溶媒は、特にエタノールを含むことが好ましい。
親水性と疎水性を併せ持つアルコールを重合溶媒に含めることで、比較的疎水的である構造単位(a1)と、比較的親水的である構造単位(a2)および構造単位(a3)とを含むポリマーを、安定的に重合できると推定される。
重合反応に際しては、適宜、公知の連鎖移動剤、重合禁止剤、分子量調整剤などを用いてもよい。さらに、重合反応は、1段階で行ってもよいし、2段階以上で行ってもよい。重合反応の温度は特に限定されないが、典型的には50~200℃、好ましくは60~150℃の範囲内である。
(アンモニアおよび/またはアミン化合物)
第1実施形態の水性樹脂組成物は、好ましくは、アンモニアおよび/またはアミン化合物を含む。アンモニアやアミン化合物はポリマー粒子中のカルボキシル基と相互作用し、塩を形成する(カルボキシル基がアンモニアまたはアミンにより中和される)。これにより、ポリマー粒子の溶解/分散性が一層高まり、経時安定性などの一層の向上が図られる。
例えば、上記「・ポリマーの合成法」に記載の方法より得られた樹脂組成物(ポリマーと重合溶媒とを含む)に対し、水と、アンモニアおよび/またはアミン化合物を添加することで、ポリマーの水性化(水を含む溶媒成分に対する溶解/分散性の一層の向上)を図ることができる。
添加されるアンモニアおよび/またはアミン化合物の量は、ポリマー中に含まれるカルボキシル基の量に対し、モル比で、例えば0.5~3.0、好ましくは0.7~2.0、より好ましくは0.8~1.5、さらに好ましくは1.0~1.5程度とすることができる。なお、特にアンモニアを添加する場合は、揮発によるアンモニアの減少や完全な中和などを考慮し、若干多めにアンモニアを用いることが好ましい。
(無機粒子)
第1実施形態の水性樹脂組成物は、無機粒子を含むことができる。例えば、上述の、ポリマーに対して水とアンモニアおよび/またはアミン化合物が添加された組成物に対し、更に無機粒子を加えることができる。
組成物が無機粒子を含むことで、塗膜としたときの耐汚染性、耐温水性、耐候性などの向上を図ることができる。
また、第1実施形態の水性樹脂組成物においては、ポリマー粒子中の加水分解性シリル基が無機粒子と結合するなどして、無機粒子の均一分散などに寄与するとも推測される。無機粒子が均一分散することで、組成物としての経時安定性が高まるとともに、基材上に塗布した時により緻密な塗膜が形成され、耐汚染性、耐温水性、耐候性などが向上すると考えられる。
使用可能な無機粒子は特に限定されず、塗料分野などで公知のものを適宜用いることができる。
例えば、無機粒子は、金属や半金属の酸化物、窒化物、ホウ素化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩であることが好ましい。無機粒子は、2種類の金属、半金属を含む複合酸化物であってもよいし、格子間に異元素が導入されたものであってもよいし、格子点が異種元素で置換されたものであってもよいし、格子欠陥が導入されたものであってもよい。
無機粒子は、Si、Al、Ca、Zn、Ga、Mg、Zr、Ti、In、Sb、Sn、BaおよびCeよりなる群から選ばれる少なくとも一つの金属や半金属が酸化された酸化物粒子であることがさらに好ましい。
より具体的には、無機粒子は、シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化アンチモン(Sb)およびインジウムスズ酸化物(In・SnO)からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属酸化物や半金属酸化物であることが好ましい。特に好ましくはシリカ(SiO)の粒子である。
シリカ粒子は、コロイダルシリカであることがより好ましい。シリカ粒子および/またはコロイダルシリカは、適度に親水的であること等から、水性樹脂組成物中での分散性が良好であり、好ましい。また、水性樹脂組成物にシリカ粒子を含めることで、塗膜としたときの耐汚染性、耐温水性、耐候性などを一層高めることができる。
コロイダルシリカとしては、水分散コロイダルシリカが好ましい。水分散コロイダルシリカとは、シリカ粒子が水媒体中に分散したものである。
コロイダルシリカには、様々なタイプがある。例えば、平均粒子径が5~100nmのほぼ球状のシリカ粒子が媒体中に分散したタイプ、太さ5~50nm、長さ40~400nm程度の鎖状に凝集したシリカ粒子が媒体中に分散したタイプ、平均粒子径10~50nmの球状シリカ粒子が長さ50~400nmのパールネックレス状に連なったものが媒体中に分散したパールネックレス状タイプ、平均粒子径5~50nmのシリカ粒子が環状に凝集して媒体中に分散した環状タイプ等が挙げられる。
第1実施形態の水性樹脂組成物では、耐汚染性の観点などから、球状シリカ粒子が媒体中に分散したタイプのコロイダルシリカを使用することが好ましい。もちろん、鎖状に凝集したシリカ粒子が媒体中に分散したタイプや、パールネックレス状タイプのものであってもよい。
球状シリカ粒子の平均粒子径は5~150nmであることが好ましい。平均粒子径が5nm以上の球状シリカ粒子を用いることで、塗膜としたときの耐汚染性を一層高めることができる。また、平均粒子径が150nm以下の球状シリカ粒子を用いることで、塗膜の意匠性を高めることができる。
なお、無機粒子の平均粒子径は、典型的には動的光散乱法により測定することができる。具体的には、無機粒子を適当な溶媒(例えばメタノール)にて希釈し、25℃で、Malvern Instruments Ltdの装置「ゼータサイザー」を用い、光強度分布よりキュムラント解析(ISO13321)を行い、得られたZ-Averageの値を平均粒子径とすることができる。ただし、無機粒子が市販品の場合には、販売元のデータ(カタログ等)に記載の粒径を採用してもよい。
無機粒子としては市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、日産化学工業株式会社製の「スノーテックス」シリーズや、ADEKA社製の「アデライトAT」シリーズなどのシリカ粒子を挙げることができる。
無機粒子の使用量は、所望の目的に応じて適宜調整すればよい。無機粒子の量は、ポリマー100質量部に対し、例えば50~400質量部、好ましくは100~300質量部、より好ましくは150~250質量部である。
(その他成分)
第1実施形態の水性樹脂組成物は、上記以外の成分を適宜含んでよい。例えば、公知の増粘剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、凍結防止剤、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、防腐剤などを含んでもよい。
例えば、水性樹脂組成物がシリカ粒子などの無機粒子を含む場合、乳化剤を加えることで、無機粒子の分散性をより高めることなどができる。乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。これら乳化剤は、三洋化成工業株式会社などから購入することができる。
(ゼータ電位)
第1実施形態の水性樹脂組成物は、そのゼータ電位が適当な数値にあることにより、ポリマー粒子同士が適度に反発するなどして、経時安定性などを一層高められると考えられる。具体的には、第1実施形態の水性樹脂組成物のゼータ電位は、好ましくは-20mV以下、より好ましくは-30mV以下である。基本的にはこれらの値以下のゼータ電位であれば経時安定性が一層良好となる。ゼータ電位の下限は特にないが、通常の調製においては例えば-50mV以上である。
ゼータ電位の値は、例えば、ポリマー中のカルボキシル基の量や、前述のアンモニアまたはアミン化合物の添加量などにより調整することができる。
ゼータ電位の測定は、例えば、電気泳動光散乱法による測定が可能な装置を用いて行うことができる。
なお、ゼータ電位は、通常、電気泳動法によって測定されるところ、組成物の固形分濃度が大きすぎると、粒子の泳動が制限/阻害され、適切な測定結果が得られない場合がある。
よって、ゼータ電位の測定も、Z平均粒子径の測定と同様、組成物の固形分濃度が1質量%を超える場合には、水により希釈して固形分濃度を1質量%に調整したうえで行うことができる。また、組成物の固形分濃度が1質量%未満である場合には、基本的にはそのままの状態でゼータ電位を測定すればよいが、念のため、さらに水で希釈した組成物のゼータ電位を数点測定し、固形分濃度とゼータ電位の関係をプロットし、外挿法により固形分濃度1質量%相当でのゼータ電位を見積もってもよい。
ちなみに、技術常識によれば、希釈によるゼータ電位の変動は、±10%程度であり、さほど大きくない。
(pH)
第1実施形態の水性樹脂組成物のpHは、例えば7.0以上であり、好ましくは7.5以上であり、より好ましくは8以上である。上限は特にないが、例えば11以下、好ましくは10以下である。
pHが適切に調整されることで、上記のゼータ電位が適切な値となりやすくなり、結果、経時安定性などを一層高めることができる。
pHは、例えば、前述のアンモニアまたはアミン化合物の添加量などにより調整することができる。
pHは、市販のpH測定計を用いるなどして測定可能である。
(水性樹脂組成物の性状について)
第1実施形態の水性樹脂組成物の性状について説明を加える。
既に述べているように、第1実施形態の水性樹脂組成物の経時安定性は良好である。この良好な経時安定性については、例えば、高温で組成物を経時させたときに、ポリマー粒子のZ平均粒子径の増大が抑えられていること(ポリマー粒子の凝集が抑えられていること)により評価することができる。
具体的には、第1実施形態の水性樹脂組成物を、60℃で7時間経時させた後のZ平均粒子径の増大は、好ましくは75%以内、より好ましくは30%以内である。
第1実施形態の水性樹脂組成物は、Z平均粒子径が1~100nmという比較的小さいポリマー粒子が溶媒成分に溶解または分散していることにより、可視光領域(例えば波長380~780nmの領域)において透明度が高い。
具体的には、水性樹脂組成物を、光路長10mmの石英ガラス製のセルに封入して測定したときの、波長380~780nmの範囲における全光線透過率が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
全光線透過率は、市販のヘーズメーター等により測定することができる。
<水性樹脂組成物(第2実施形態)>
第2実施形態の水性樹脂組成物は、水を含む溶媒成分と、その溶媒成分に溶解または分散したポリマー粒子とを含む。
ここでのポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマー(単に「ポリマー」とも表記する)を含む。
また、ポリマー粒子は、溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質を内包している。
本発明者らは、樹脂成分の溶解性/分散性、経時安定性、塗膜としたときの密着性や耐候性が良好な水性樹脂組成物を検討する中で、上述の第1実施形態の水性樹脂組成物を見出した。本発明者らは、この、第1実施形態の水性樹脂組成物の性質や製造方法などを様々な観点から検討した。
検討の中で、本発明者らは、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを製造する際(例えば、第1実施形態で説明した「・ポリマーの合成法」において、樹脂組成物に対し、水と、アンモニアおよび/またはアミン化合物を添加する際)に、系中に不溶性物質(典型的には疎水性物質、例えば水不溶の有機化合物など)を共存させた。すると、ポリマーが不溶性物質を「抱え込む」ことができるという特異な現象を見出した。この現象は、不溶性物質を組成物中に均一に分散させることができるという点で、今後の新たな塗料組成物等の検討において非常に興味深いものである。
この「疎水性物質を抱え込んだポリマー粒子」を含む水性樹脂組成物の実施形態を、第2実施形態として以下説明する。
ここで、「溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質」とは、20℃の溶媒成分100gに対して0.1g以下しか溶解しない物質を意味する。例えば、溶媒成分が水のみからなる場合、20℃の水100gに対して0.1g以下しか溶解しない物質が不溶性物質に当たる。
なお、第2実施形態において、溶媒成分の主成分は、第1実施形態と同様、好ましくは水である。よって、大まかには、「20℃の溶媒成分100gに対して0.1g以下しか溶解しない物質」は「20℃の水100gに対して0.1g以下しか溶解しない物質」と考えても差し支えない場合が多い。
上記のポリマー粒子が溶媒成分に不溶な物質(疎水性物質等)を内包できる理由は必ずしも明らかではないが、おそらくは、親水性基と疎水性基を併せ持つポリマーにおいて、疎水性基の部分が疎水性物質を内包しつつ、水中での低分子乳化剤に類似するミセル様のものを形成して、安定に分散するものと推定される。なお、この説明は推定であり、本発明を限定するものではない。
ポリマー粒子に内包させる不溶性物質については、水を含む溶媒成分に不溶なものである限り特に限定されないが、例えば有機化合物である。つまり、第2実施形態の水性樹脂組成物により、通常は水に溶解も分散もしない有機化合物を、水を含む溶媒成分に分散させることができる。
特に、不溶性物質として具体的には、紫外線吸収剤、光安定剤、防かび剤、防藻剤などを挙げることができる。疎水性の紫外線吸収剤、光安定剤、防かび剤、防藻剤などを、水を主成分とする溶媒に均一に分散できれば、塗料設計のバリエーションが大きく広がると考えられる。第2実施形態の水性樹脂組成物は、このような点で今後の新たな塗料組成物等の検討に有用たりうる。
紫外線吸収剤、光安定剤、防かび剤および防藻剤の具体例としては、塗料分野等で公知のものや市販のものを挙げることができる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン(HPT)系紫外線吸収剤、高分子紫外線吸収剤などを挙げることができる。紫外線吸収剤の市販品としては、BASF社製の「TINUVIN(登録商標)」シリーズが挙げられ、より具体的には、TINUVIN PS、TINUVIN 99-2、TINUVIN 384-2、TINUVIN 900、TINUVIN 928、TINUVIN 1130、TINUVIN 400、TINUVIN 405、TINUVIN 460、TINUVIN 477、TINUVIN 479、TINUVIN 571、TINUVIN 213、TINUVIN 234、TINUVIN Pなどが挙げられる。
光安定剤としては、いわゆるヒンダードアミン系化合物を挙げることができる。市販品としては、豊国製油株式会社製のHSエステル292、HSエステル765、BASF社製のTINUVIN 765、TINUVIN 770、TINUVIN 622LD、ADEKA社製のアデカスタブLA-52、アデカスタブLA-57、アデカスタブLA-63P、アデカスタブLA-68、アデカスタブLA-72、アデカスタブLA-82、アデカスタブLA-87などを挙げることができる。
防かび剤および/または防藻剤についても、公知のものを適宜使用できる。例えば、有機ヨウ素系化合物、ピリジン系化合物、ニトリル化合物、ジスルフィド系化合物、含窒素環化合物(チアゾリン系化合物、イソチアゾリン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物等)を挙げることができる。市販品としては、日本曹達株式会社の「バイオカット」シリーズ、例えばバイオカット-BM100F、バイオカット-BM100、バイオカット-2210、バイオカット-NT、バイオカット-ZP、バイオカット-SP100等を挙げることができる。これらは特に防かび性能が良好である。また、防藻性を有するトリアジン系化合物として、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン(別名:シブトリン)、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-エチルアミノ-s-トリアジン(別名:テルブトリン)、2-クロロ-4,6-ジエチルアミノ-s-トリアジン(別名:シマジン)、2-クロロ-4-エチルアミノ-6-イソプロピルアミノ-s-トリアジン(別名:アトラジン)、2-メチルチオ-4-エチルアミノ-6-(1,2-ジメチルプロピルアミノ)-s-トリアジン(別名:ジメタメトリン)などが挙げられる。
なお、公知の防かび剤の中には、防かびだけでなく防藻の効果を有するものもある。同様に、公知の防藻剤の中には、防藻だけでなく防かびの効果を有するものもある。
第2実施形態の水性樹脂組成物は、不溶性物質を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。ここで、第2実施形態の水性樹脂組成物が「2種以上」の不溶性物質を含むとは、例えば、第2実施形態の水性樹脂組成物が、化学構造が異なる2種の紫外線吸収剤を含む態様や、1種の紫外線吸収剤および1種の防かび剤を併用する態様などを含むことを意味する。
第2実施形態の水性樹脂組成物における不溶性物質の量は、ポリマー中に内包可能であり、また、水性樹脂組成物が所望の効果を奏する限り、特に制限は無い。不溶性物質の量は、ポリマー100質量部に対し、例えば0.1~15質量部、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.75~5質量部とすることができる。
第2実施形態の水性樹脂組成物において、水を含む溶媒成分の具体的態様は、第1実施形態と同様である。
第2実施形態の水性樹脂組成物において、ポリマーそのものの具体的態様や合成法などは、第1実施形態と同様である。例えば、構造単位(a1)、(a2)および(a3)の具体的態様、構造単位間の比率、任意に含んでもよい構造単位等については第1実施形態と同様である。なお、特に、ポリマー中の構造単位(a1)の量、ポリマー中に含まれる「構造単位(a2)および構造単位(a3)」に対する「構造単位(a1)」の質量比((a1)/{(a2)+(a3)})などを適切に調整することで、不溶性物質の内包性を一層高めることができる。
第2実施形態の水性樹脂組成物において、不溶性物質を内包したポリマー粒子の粒子径(Z平均粒子径)は、例えば1~100nm、好ましくは5~50nm、より好ましくは10~30nmである。粒子径を調整する方法としては、第1実施形態で説明した方法と同様の方法を適用することができる。
第2実施形態の水性樹脂組成物が、水を含む溶媒成分および不溶性物質を内包しているポリマー粒子以外に含んでもよい成分については、第1実施形態と同様である。
例えば、組成物がアンモニアおよび/またはアミン化合物を含むことで、ポリマー粒子の溶解/分散性を一層高めることなどができる。また、組成物が無機粒子を含むことで、塗膜としたときの耐汚染性、耐温水性、耐候性などの向上を図ることができる。
第2実施形態の水性樹脂組成物のゼータ電位、pH、60℃で7時間経時させた後のZ平均粒子径の増大、波長380~780nmの範囲における全光線透過率などは、第1実施形態と同様であることが好ましい。
(第2実施形態の水性樹脂組成物の製法など)
第2実施形態の水性樹脂組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
(1)第1実施形態の「・ポリマーの合成法」で説明したようにして、樹脂組成物(ポリマーと重合溶媒とを含む)を得る。
(2)上記(1)の樹脂組成物に対して不溶性物質を加え、攪拌する。攪拌時間は例えば10分~1時間程度である。必要に応じて加熱などを行ってもよい。
(3)上記(2)の後、樹脂組成物に、水と、アンモニアおよび/またはアミン化合物を加える。アンモニアおよび/またはアミン化合物については第1実施形態で述べたとおりである。
<水性樹脂組成物の使用法、塗膜の形成など>
例えば、第1実施形態または第2実施形態の水性樹脂組成物を基材上に塗布し、溶媒成分を乾燥させることで塗膜を形成することができる。
基材については特に限定されないが、基材との高い密着性や良好な耐候性を生かす点からは、各種の建材、建物の屋根や外壁材などに塗布されることが好ましい。特に、加水分解性シリル基との相性の点で、金属やコンクリートの基材に対して好ましく塗布される。
塗膜の密着性や耐久性などを高めるため、またはその他の目的のため、基材には何らかの表面処理がされていてもよいし、何らかの下塗り層が設けられていてもよい。下塗り層の形成には、公知の着色塗料やクリヤー塗料などを使用することができる。
塗布の方法は特に限定されない。塗料一般に適用される方法、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、ロール刷毛による方法などを適用することができる。
塗布の膜厚は特に限定されないが、十分な耐候性などの観点からは、乾燥時の膜厚が0.5~50μm程度となることが好ましい。また、別観点として、塗布量は例えば5~150g/m程度とすることができる。
塗布後の溶媒成分の乾燥は、自然乾燥でもよいし、熱風乾燥でもよい。自然乾燥と熱風乾燥を組み合わせてもよい。
また、溶媒成分が乾燥した後の塗膜を(基材とともに)加熱してもよい。加熱することで、ポリマー中の加水分解性シリル基の反応が進行して基材との密着性、耐候性、耐水性などが向上するとも考えられる。このような加熱は、例えば50~200℃で5~60分程度行うことができる。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
水を含む溶媒成分と、
前記溶媒成分に溶解または分散したポリマー粒子とを含み、
前記ポリマー粒子のZ平均粒子径は1~100nmであり、
前記ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含む、水性樹脂組成物。
2.
1.に記載の水性樹脂組成物であって、
前記ポリマー中に含まれる前記構造単位(a2)の含有量は、前記ポリマー全体を100質量%としたときに1~20質量%である、水性樹脂組成物。
3.
1.または2.に記載の水性樹脂組成物であって、
前記ポリマー中に含まれる前記構造単位(a3)の含有量が、前記ポリマー全体を100質量%としたときに1~20質量%である、水性樹脂組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の水性樹脂組成物であって、
前記ポリマー中に含まれる前記構造単位(a2)および前記構造単位(a3)に対する前記構造単位(a1)の質量比が0.5~2.8である、水性樹脂組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の水性樹脂組成物であって、
ゼータ電位が-50~-20mVである、水性樹脂組成物。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の水性樹脂組成物であって、
pHが7.5以上である、水性樹脂組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の水性樹脂組成物であって、
アンモニアおよび/またはアミン化合物が添加されている、水性樹脂組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の水性樹脂組成物であって、
60℃で7時間経時させた後のZ平均粒子径の増大が75%以内である、水性樹脂組成物。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の水性樹脂組成物であって、
前記水性樹脂組成物を、光路長10mmの石英ガラス製のセルに封入して測定したときの、波長380~780nmの範囲における全光線透過率が90%以上である、水性樹脂組成物。
10.
水を含む溶媒成分と、
前記溶媒成分に溶解または分散したポリマー粒子とを含み、
前記ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含み、
前記ポリマー粒子は、前記溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質を内包している、水性樹脂組成物。
11.
10.に記載の水性樹脂組成物であって、
前記不溶性物質が、有機化合物である、水性樹脂組成物。
12.
10.または11.に記載の水性樹脂組成物であって、
前記不溶性物質が、紫外線吸収剤、光安定剤、防かび剤および防藻剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかである、水性樹脂組成物。
13.
1.~12.のいずれか1つに記載の水性樹脂組成物により形成された塗膜。
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
I.水性樹脂組成物(溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質を含まない)の製造と評価
<水性樹脂組成物の製造>
(実施例1-1)
還流管、攪拌機、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、エタノール68質量部及びイソプロパノール12質量部の混合溶媒を仕込み、撹拌しながら80℃に加熱した。
これとは別に、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)15質量部、ブチルアクリレート(BA)30質量部、メチルメタクリレート(MMA)15質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)20質量部、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)10質量部、メタクリル酸(MAA)10質量部、および重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)5質量部を混合したものを用意した(以下、モノマー組成物という)。
用意したモノマー組成物を、上記の溶剤を仕込んだフラスコ中に2時間かけて定量滴下し、さらに2時間撹拌して重合反応を行った。その後、エタノール17質量部及びイソプロパノール3質量部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)1質量部を混合したものを10分かけて滴下し、さらにその後2時間反応させ、(メタ)アクリル系ポリマーAを合成した。重合反応を終了させたのちに、加熱を止めて冷却し、(メタ)アクリル系ポリマーAを含む樹脂組成物(固形分率50質量%)を得た。
得られた樹脂組成物に対し、水と25質量%アンモニア水を添加して、上記樹脂組成物の水性化処理を行った。アンモニア水の添加量は、(メタ)アクリル系ポリマーAが有するカルボキシル基の数(モル数)に対して、アンモニアが1.2当量程度となるようにした。
以上により、水性樹脂組成物(固形分率10質量%、pH9)を得た。
(実施例1-2~実施例1-17、比較例1~1~比較例1-11)
表1及び表2に記載した配合(モノマー組成物の配合)に従い、実施例1-1と同様にして水性樹脂組成物を得た。
<評価用の試験板の作製>
基材としてスレート板(日本テストパネル株式会社製、サイズ70mm×150mm×6mm)に、シーラー塗料(ナトコ株式会社製、ナトコシーラー)をエアスプレーで塗布量150g/mとなるように均一に塗布し、23℃で24時間乾燥させた。
これに水性着色塗料(ナトコ株式会社製、製品名:ウオーラCR、色:ホワイト)をエアスプレーにて、塗布量100g/m(乾燥後塗布量30g/m)となるように塗装した。塗装後、熱風乾燥機にて130℃で10分間乾燥させた。
続いて、水性クリヤー塗料(ナトコ株式会社製、製品名:リブレCRPRクリヤー)をエアスプレーで塗布量が80g/m(乾燥後塗布量25g/m)となるように塗装した。塗装後、熱風乾燥機にて130℃10分間乾燥させ、着色層とクリヤー層が備わった基材(以下、着色基材という)を得た。
この着色基材に、各水性樹脂組成物をエアスプレーで塗装し、常温で7日間乾燥させた。その後、105℃で3分間加熱して、水性樹脂組成物による膜厚20μmの塗膜を備えた着色基材(以下、試験板という)を得た。
<評価>
各水性樹脂組成物と試験板を用い、以下の評価を行った。
[重合安定性]
水性樹脂組成物の製造の際、(メタ)アクリル系ポリマーの重合反応の様子を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、本評価にて「×」となったものについては、以降の評価を行っていない。
○(良い):問題なく重合が終了し、均質な樹脂組成物が得られる。
×(悪い):重合反応の途中で著しく増粘またはゲル化し、樹脂組成物が得られない。
[ポリマー粒子の溶解/分散性]
水性樹脂組成物の製造の際の水性化処理(アンモニア水の添加)の状況について目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、本評価にて「×」となったものについては、以降の評価していない。
○(良い):問題無く水性化処理が可能で、得られた水性樹脂組成物も透明。つまり、ポリマー粒子が良好に溶解または分散している。
△(やや悪い):水性化処理は問題無いが、得られた樹脂組成物に若干の析出物が確認され、組成物もやや濁っている。
×(悪い):水性化の途中で激しく析出物が生じ、ポリマー粒子が適切に溶解または分散した水性樹脂組成物を製造することができない。
[全光線透過率]
得られた各水性樹脂組成物(固形分率10質量%、pH9)を、光路長10mmの石英ガラス製のセルに封入し、ヘーズメーター(日本電色株式会社製、商品名:NDH4000)を用いて、波長380~780nmの範囲における全光線透過率(%)を測定した。
[Z平均粒子径、粒子径の経時安定性、経時による色変化の有無]
まず、得られた各水性樹脂組成物に水を添加して固形分1質量%になるまで希釈した。
得られた希釈物について動的光散乱装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS測定装置)を使用し、希釈物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーの粒子径の測定を行った。
測定の結果、算出されたZ-Average値をZ平均粒子径とした(表中では「初期のZ平均粒子径」と記載)。なお、測定は25℃で行った。
また、各水性樹脂組成物(水で希釈していないもの)を60℃で7日間保管したあとのものについて、上記と同様に固形分1質量%に希釈して粒子径測定を行い、下記(式)で示される「変化率」(絶対値)を算出した。この変化率が小さいもののほうが、貯蔵安定性に優れていることを示す。
(式)
変化率(%)=|(60℃・7日後の粒子径÷初期粒子径)×100-100|
さらに、7日間の保管前後での水性樹脂組成物の状態を目視で観察し、その色変化の有無についても評価した(表中では「色変化有無」と記載)。
[ゼータ電位測定]
各水性樹脂組成物に水を添加して固形分1質量%に希釈したものについて、上記と同じ装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS測定装置)を用いてゼータ電位を測定した。なお、測定は25℃で行った。
[造膜性]
試験板を作製する際、105℃で3分間加熱した直後の塗膜の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
5:塗膜中にクラックなどの異常は全く認められない。
4:塗膜中にクラックが観察されるが、その面積は塗膜全体の10%未満。
3:塗膜中にクラックが観察され、その面積は塗膜全体の10%以上30%未満。
2:塗膜中にクラックが観察され、その面積は塗膜全体の30%以上50%未満。
1:塗膜中にクラックが観察され、その面積は塗膜全体の50%以上。
[密着性]
試験板について、JIS K5600-5-6(1999)「塗膜の機械的性質―付着性(クロスカット法)」に基づいた試験を行い、基材に対する塗膜の密着性を、以下の基準で評価した。
5:カットのふちが完全に滑らかで、どの格子の目にもハガレがない。
4:カットの交差点における塗膜の小さなハガレがあり、剥離部分の面積が5%未満。
3:剥離部分の面積が5%以上15%未満。
2:剥離部分の面積が15%以上35%未満。
1:剥離部分の面積が35%以上。
[耐温水性]
得られた試験板を80℃の温水に浸漬させた。浸漬開始から3時間後、温水から試験板を取り出し、常温で24時間乾燥させた。温水浸漬中の塗膜の状態と、乾燥後の塗膜の状態についてそれぞれ目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎(とても良い):浸漬中および乾燥後の両方で、塗膜外観に変化が認められない。
○(良い):浸漬中の塗膜で軽微な白化が認められるが、塗膜乾燥後には変化は認められない。
△(やや悪い):浸漬中では塗膜白化が著しいが、塗膜乾燥後では光沢低下や白化等の軽微な変化が認められる。
×(悪い):浸漬中での塗膜白化が著しいことに加え、塗膜乾燥後でも光沢低下や白化等の顕著な変化が認められる。
[耐候性]
試験板について、下記(試験条件)に記載の条件で耐候性試験を行った。試験前と試験後の60°鏡面光沢を、光沢計(日本電色工業株式会社製、VG2000)を用いて測定し、以下(式)により光沢保持率を算出し、下記の5段階の基準で評価した。
(式)
光沢保持率(%)=(耐候性試験後の光沢÷耐候性試験前の光沢)×100
5:光沢保持率85%以上。
4:光沢保持率70%以上85%未満。
3:光沢保持率55%以上70%未満。
2:光沢保持率40%以上55%未満。
1:光沢保持率40%未満。
(試験条件)
使用機器:ダイプラ・ウィンテス社製メタルウェザー
試験条件:UVカットフィルター:KF-1
UV照射・・・・63mW/cm、65℃、70%、16時間
暗黒・・・・・・65℃、70%、2時間
結露・・・・・・30℃、98%、6時間
降雨条件・・・・結露前後 30秒
試験時間総計・・480時間
組成物の詳細および評価結果を表1および表2に示す。
表1および表2において、モノマーの量(数値)の単位は質量部である。
表1および表2に記載のポリマーのガラス転移温度は、前述のFoxの式に基づく計算値である。
表1および表2中のモノマーの略号の意味は以下のとおりである。
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
IBXA:イソボルニルアクリレート
DCPA:ジシクロペンタニルアクリレ-ト
Sty:スチレン
2-EHA:2-エチルへキシルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MEA:メトキシエチルアクリレート
MPTMS:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
MPDMS:3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
Figure 0007171021000001
Figure 0007171021000002
表1からわかるとおり、実施例1-1~1-17の水性樹脂組成物において、ポリマー粒子は水を含む溶媒成分に安定に溶解または分散した。このことは、[ポリマー粒子の溶解/分散性]の評価からだけでなく、[全光線透過率]の評価結果からも明らかである。
また、実施例1-1~1-17の水性樹脂組成物において、経時による粒子径変化は小さく(加えて経時による色変化も無く)、ポリマー粒子の安定な溶解/分散状態が比較的長期間維持されることが示された。
さらに、実施例1-1~1-17の水性樹脂組成物により形成された塗膜の密着性、耐候性、造膜性、耐温水性などは非常に良好であった。このことは、第1実施形態の水性樹脂組成物が、建物の屋根や外壁等の塗装に特に好まく適用されることを示す。
加えて、実施例1-1~1-17の水性樹脂組成物の製造において、ポリマーの重合安定性については特に問題なかった。
II.無機粒子を含む水性樹脂組成物の製造と評価
<水性樹脂組成物の製造>
(実施例2-1)
実施例1-3で作製した水性樹脂組成物(ポリマーCを固形分として10質量%含む)20質量部、ノニオン系乳化剤(三洋化成工業株式会社製、ポリオキシアルキルエーテル、有効成分40%)0.5質量部、水59.5質量部、スノーテックスC(日産化学工業株式会社製、水分散コロイダルシリカ、平均粒径10~20nm、pH9.0、固形分20質量%)20質量部を混合し、15分撹拌して水性塗料組成物を得た。
なお、スノーテックスCの平均粒径の値は、メーカのカタログ値である。実施例で使用の他のコロイダルシリカの平均粒径についても同様である。
(実施例2-2~実施例2-13、参考例2-2、比較例2-1、比較例2-2)
後掲の表3および表4記載の配合に従って、実施例2-1と同様にして各水性塗料組成物を製造した(表3および表4にはノニオン系乳化剤および水は明記されていないが、実施例2-1と同様に用いた)。
なお、参考例ではコロイダルシリカ、比較例では(メタ)アクリル系ポリマー(成分としては水性樹脂組成物)をそれぞれ使用していないが、これらについては使用していない成分を水で代替した配合で水性塗料組成物を調製した。
表3及び表4では、(メタ)アクリル系ポリマー(固形分)を100質量部としたときの各成分の質量部(固形分)を記載している。例えば、実施例2-2では、(メタ)アクリル系ポリマーCを100質量部(固形分)としたときに、コロイダルシリカを200質量部(固形分)含有している、ということを示している。他の実施例等も全て同様である。
<評価用の試験板の作製>
着色基材としては、上記I.における<評価用の試験板の作製>で作製した着色基材をそのまま利用した。
着色基材を80℃に加熱し、得られた各水性塗料組成物をエアスプレーにて、乾燥後塗布量が1g/mとなるように塗装した。着色基材の余熱でそのまま乾燥させ、水性樹脂およびコロイダルシリカからなる塗膜を備えた着色基材(以下、試験板という)を得た。
<評価>
得られた各試験板を用い、以下の評価を行った。
なお、参考例2-1については、着色基材をそのまま用いて各評価を行った。
[耐温水性]
得られた試験板を80℃の温水に浸漬させた。浸漬開始から3時間後、温水から試験板を取り出し、その後、常温で24時間乾燥させた。
温水浸漬中の塗膜の状態と、乾燥後の塗膜の状態についてそれぞれ目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎(とても良い):浸漬中および乾燥後の両方で、塗膜外観に変化が認められない。
○(良い):浸漬中の塗膜で軽微な白化が認められるが、塗膜乾燥後には変化は認められない。
△(やや悪い):浸漬中では塗膜白化が著しいが、塗膜乾燥後では光沢低下や白化等の軽微な変化が認められる。
×(悪い):浸漬中での塗膜白化が著しいことに加え、塗膜乾燥後でも光沢低下や白化等の顕著な変化が認められる。
[耐汚染性]
水平に対して10°傾斜した屋根を有する架台上(南向き)に、降った雨が塗膜表面に筋状に流れ落ちるよう、垂直にして試験板を取り付け、その状態で3か月間の屋外暴露試験を行った。
試験前の塗膜状態と、3か月間の試験後の塗膜状態とを目視観察によって比較し、塗膜表面の汚染状態について、以下の基準で評価した。
◎(とても良い):汚れは無く、雨筋も確認されない。
○(良い):わずかな汚れは有るが、雨筋は確認されない。
△(やや悪い):局所的に汚れが有り、雨筋が薄く確認される。
×(悪い):試験板全面にかなりの汚れが有り、雨筋がはっきりと確認される。
[耐候性]
試験板について、下記(試験条件)に記載の条件で耐候性試験を行った。試験前と試験後の60°鏡面光沢を、光沢計(日本電色工業株式会社製、VG2000)を用いて測定し、以下(式)により光沢保持率を算出し、下記の5段階の基準で評価した。
なお、試験時間については、水性樹脂組成物単独(表1および表2)の3倍以上である1500時間としている。
(式)
光沢保持率(%)=(耐候性試験後の光沢÷耐候性試験前の光沢)×100
5:光沢保持率85%以上。
4:光沢保持率70%以上85%未満。
3:光沢保持率55%以上70%未満。
2:光沢保持率40%以上55%未満。
1:光沢保持率40%未満。
(試験条件)
使用機器:ダイプラ・ウィンテス社製メタルウェザー
試験条件:UVカットフィルター:KF-1
UV照射・・・・63mW/cm、65℃、70%、16時間
暗黒・・・・・・65℃、70%、2時間
結露・・・・・・30℃、98%、6時間
降雨条件・・・・結露前後 30秒
試験時間総計・・1500時間
[接触角]
試験板作製直後の塗膜に対し、4μLの純水を塗膜表面に滴下した。液滴の接線と固体表面とのなす角度を求め、求めた値を初期接触角θとした。また、試験板を60℃で1週間保存し、1週間経過後の塗膜の水接触角についても同様に測定を行い、得られた値をθとした。そして、θおよびθから、Δθ(θ-θ)を算出した。
θが小さく、かつ、Δθが小さいほど、優れた塗膜と言える。
なお、接触角の測定は、固液界面解析装置Drop Master 500(協和界面科学社製)を用い、θ/2法によって行った。
組成物の含有成分の詳細および評価結果をまとめて表3および表4に示す。
表3および表4中、ポリマーNo.については表1および表2に示されたものと同様である。
無機粒子の詳細は以下のとおりである。
スノーテックスC:日産化学工業株式会社製、Na安定型の水分散コロイダルシリカ、粒子径10~15nm、pH9.0、固形分20質量%
スノーテックス20:日産化学工業株式会社製、Na安定型の水分散コロイダルシリカ、粒子径10~20nm、pH9.8、固形分20質量%
スノーテックスN:日産化学工業株式会社製、NH 安定型の水分散コロイダルシリカ、粒子径10~15nm、pH8.5、固形分20質量%
スノーテックスUP:日産化学工業株式会社製、Na安定型の水分散コロイダルシリカ(鎖状)、粒子径40~100nm、pH8.9、固形分20質量%
スノーテックスPS-S:日産化学工業株式会社製、Na安定型の水分散コロイダルシリカ(パールネックス形状)、粒子径80~120nm、pH8.8、固形分20質量%
Figure 0007171021000003
Figure 0007171021000004
表3に示される通り、実施例2-1~2-13の水性樹脂組成物により形成された塗膜の耐候性は極めて良好であった(これらの耐候性評価の試験時間は、実施例1-1~1-17における耐候性評価の時間の3倍以上であることに留意されたい)。また、実施例2-1~2-13の水性樹脂組成物により形成された塗膜は、耐汚染性や耐温水性についても良好であった。
III.溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質(有機化合物)を含む水性樹脂組成物の製造と評価
<水性樹脂組成物の製造>
(実施例3-1)
実施例1-3の水性樹脂組成物の製造工程の際に、(メタ)アクリル系ポリマーCを含む樹脂組成物(固形分率50質量%)を得られた段階で、ポリマーCの固形分100質量部に対して、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF株式会社製、TINUVIN400)1質量部を加えて1時間撹拌する工程を追加した以外は、実施例1-3と同様にして水性樹脂組成物を得た。
(実施例3-2~3-16、比較例3-1~3-4および参考例3-1~3-4)
表5および表6記載の配合に従い、実施例3-1と同様にして実施例3-2~3-16、比較例3-1~3-4および参考例3-1~3-4の水性樹脂組成物を製造した。なお、表5および表6では、基準として水性樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーの固形分を100質量部とし、これに対して各添加剤の量(固形分)を質量部として記載している。
<評価>
各水性樹脂組成物について、以下の評価を行った。
[不溶性物質の内包性]
(メタ)アクリル系ポリマーを含む樹脂組成物に各種添加剤を加えて1時間撹拌したあとの水性化処理(アンモニア水の添加)の状況について目視で観察を行い、以下の基準で評価した。
○(良い):添加剤が全てポリマーに内包されて、均質な水性樹脂組成物ができている。
△(やや悪い):添加剤の一部がポリマーに内包されず、水性樹脂組成物に若干の濁りが認められる。
×(悪い):添加剤が分離している。
[粒子径測定]
まず、得られた各水性樹脂組成物に水を添加して固形分1質量%になるまで希釈した。
得られた希釈物について、動的光散乱装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS測定装置)を使用し、希釈物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーの粒子径の測定を行った。測定の結果、算出されたZ-Average値を粒子径とした(表中では「初期粒子径」と記載)。
[貯蔵安定性(60℃×7日間)]
得られた各水性樹脂組成物(希釈はしていない)を60℃で保管し、7日間経過後の水性樹脂組成物状態の状態について目視観察を行った。
添加剤の分離や析出の有無について、以下の基準に従って評価した。
○(良い):添加剤の分離や析出は全くない。
△(やや悪い):添加剤の分離や析出が観察され、組成物が若干濁っている。
×(悪い):添加剤が激しく分離または析出し、組成物全体が白濁している。
また、上記評価で「○」又は「△」であったものについては、上記[粒子径測定]と同様に水で固形分1質量%に希釈して粒子径測定を行い、下記式で示される「変化率」を算出した。変化率が小さいもののほうが、添加剤の析出等の不具合も少なく、水性樹脂組成物として安定していることを示す。
(式)
変化率(%)=|(7日後の粒子径÷製造直後の粒子径)×100-100|
さらに、7日間の保管前後での水性樹脂組成物の状態を目視で観察を行い、その色変化の有無についても評価した(表中では「色変化の有無」と記載)。
なお、上記評価で「×」となったものについては、7日間保管後の評価を行わなかった。
組成物の含有成分の詳細および評価結果をまとめて表5および表6に示す。
なお、表5および表6中、ポリマーNo.については表1および表2に示されたものと同様である。
また、添加剤の詳細は以下のとおりである。
TINUVIN400:BASF株式会社製、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物の紫外線吸収剤、20℃の純水に対して不溶
HSエステル292:豊国製油株式会社製、ヒンダードアミン系エステル化合物の光安定剤、20℃の純水に対する溶解性:0.1g/L程度
バイオカット2210:日本曹達株式会社製、トリアゾール系化合物の防カビ剤、20℃の純水に対する溶解性:36mg/L程度
DP-2159:日本曹達株式会社製、シブトリン(正式名:2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン)の防藻剤、20℃の純水に対する溶解性:7ppm程度
Figure 0007171021000005
Figure 0007171021000006
表5に示される通り、実施例3-1~3-16の水性樹脂組成物においては、不溶性物質(紫外線吸収剤、光安定剤、防かび剤、防藻剤などの有機化合物)が分離または析出することは無かった。つまり、不溶性物質がポリマー粒子に内包されて溶媒成分中に分散した。
また、実施例3-1~3-16の水性樹脂組成物において、経時による不溶性物質の分離や析出は無いかまたは抑えられており、粒子径変化も小さかった。さらに、経時による色変化は認められなかった。
IV.無機粒子および溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質(有機化合物)を含む水性樹脂組成物の製造と評価
<水性樹脂組成物の製造>
(実施例4-1)
水性樹脂組成物として実施例3-10で作製した水性樹脂組成物を利用すること以外は実施例2-7と同様にして、水性塗料組成物を作製した。すなわち、実施例3-10で作製した水性樹脂組成物に対し、さらに2種の水分散コロイダルシリカを混合、攪拌して水性塗料組成物を作製した。
(実施例4-2~4-5、参考例4-1)
表7記載の配合に従って、実施例4-1と同様にして実施例4-2~4-5、および参考例4-1の水性塗料組成物を得た。
<評価用の試験板の作製>
上記II.の<評価用の試験板の作製>と同様にして試験板を作製した。
<評価>
得られた各試験板を用い、以下の評価を行った。
[耐温水性]
得られた試験板を80℃の温水に浸漬させた。3時間後、温水から試験板を取り出し、常温で24時間乾燥させた。温水浸漬中の塗膜の状態と、乾燥後の塗膜の状態についてそれぞれ目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎(とても良い):浸漬中および乾燥後の両方で、塗膜外観に変化が認められない。
○(良い):浸漬中の塗膜で軽微な白化が認められるが、塗膜乾燥後には変化は認められない。
△(やや悪い):浸漬中では塗膜白化が著しいが、塗膜乾燥後では光沢低下や白化等の軽微な変化が認められる。
×(悪い):浸漬中での塗膜白化が著しいことに加え、塗膜乾燥後でも光沢低下や白化等の顕著な変化が認められる。
[耐汚染性]
水平に対して10°傾斜した屋根を有する架台上(南向き)に、降った雨が塗膜表面に筋状に流れ落ちるよう、垂直にして試験板を取り付け、その状態で3か月間の屋外暴露試験を行った。
試験前の塗膜状態と、3か月間の試験後の塗膜状態とを目視観察によって比較し、塗膜表面の汚染状態について、以下の基準で評価した。
◎(とても良い):汚れは無く、雨筋も確認されない。
○(良い):わずかな汚れは有るが、雨筋は確認されない。
△(やや悪い):局所的に汚れが有り、雨筋が薄く確認される。
×(悪い):試験板全面にかなりの汚れが有り、雨筋がはっきりと確認される。
[耐候性]
試験板について、下記(試験条件)に記載の条件で耐候性試験を行った。試験前と試験後の60°鏡面光沢を、光沢計(日本電色工業株式会社製、VG2000)を用いて測定した。以下(式)により光沢保持率を算出し、下記の5段階の基準で評価した。なお、試験時間については上記I.の評価(表1および表2)の約3倍の1500時間としている。
(式)
光沢保持率(%)=(耐候性試験後の光沢÷耐候性試験前の光沢)×100
5:光沢保持率85%以上。
4:光沢保持率70%以上85%未満。
3:光沢保持率55%以上70%未満。
2:光沢保持率40%以上55%未満。
1:光沢保持率40%未満。
(試験条件)
使用機器:ダイプラ・ウィンテス社製メタルウェザー
試験条件:UVカットフィルター:KF-1
UV照射・・・・63mW/cm、65℃、70%、16時間
暗黒・・・・・・65℃、70%、2時間
結露・・・・・・30℃、98%、6時間
降雨条件・・・・結露前後 30秒
試験時間総計・・1500時間
[接触角]
試験板作製直後の塗膜に対し、4μLの純水を塗膜表面に滴下した。液滴の接線と固体表面とのなす角度を求め、求めた値を初期接触角θとした。また、試験板を60℃で1週間保存し、1週間経過後の塗膜の水接触角についても同様に測定し、得られた値をθとした。θ及びθから、Δθ(θ-θ)を算出した。
θが小さく、かつ、Δθが小さいほど、優れた塗膜ということを示している。
なお、接触角の測定は、固液界面解析装置Drop Master 500(協和界面科学社製)を用い、θ/2法によって行なった。
[防藻性]
JISに規定のカビ抵抗性試験法において、カビの代わりに藻類を用いて防藻性を評価した。
具体的には、カビに代わり、Chlorella vulgaris、Pleurococcuss、Protococcussを混合したものを使用し、かつ、上記試験板を用いたこと以外は、JIS Z 2911(カビ抵抗性試験方法)の「7 繊維製品の試験 c) 湿式法」に準拠した方法により、防藻性試験を行った。試験後、以下の基準に従って評価した。
○(良い):塗膜上に藻の発育は認められない。
△(やや悪い):塗膜上に藻の発育は認められるが、認められる部分は塗膜全面積の1/3未満
×(悪い):塗膜の1/3以上の面積で藻の発育が認められる。
[防カビ性]
得られた試験板を使用し、JIS Z 2911(カビ抵抗性試験方法)の「8 塗料の試験」に準拠した防カビ性試験を行った。試験後、以下の基準に従って評価した。
なお、カビとしては、Aspergillus niger、Penicillium pinophilum、Cladosporium cladosporioides、Aureobasidium pullulans、Trichoderma virensおよびAlternaria alternataを混合したものを用いた。
○(良い):塗膜上に菌糸の発育は認められない。
△(やや悪い):塗膜上に菌糸の発育は認められるが、認められる部分は塗膜全面積の1/3未満。
×(悪い):塗膜の1/3以上の面積で菌糸の発育が認められる。
Figure 0007171021000007
表7に示される通り、実施例4-1~4-5の水性樹脂組成物により形成された塗膜の耐候性は極めて良好であった。また、耐温水性や耐汚染性も極めて良好であった。さらに、接触角測定の結果も良好であり、これら水性樹脂組成物が屋外塗装用途等に好適なことが示された。
加えて、実施例4-1~4-5において、防藻剤が(ポリマーに内包されたうえで)添加された場合は防藻性が良好であり、防かび剤が(ポリマーに内包されたうえで)添加された場合は防かび性が良好であった。防藻剤と防かび剤の両方が添加された実施例4-5においては、防藻性と防かび性の両方が良好であった。

Claims (13)

  1. 水を含む溶媒成分と、
    前記溶媒成分に分散したポリマー粒子とを含み、
    前記ポリマー粒子のZ平均粒子径は1~100nmであり、
    前記ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含み、
    前記(メタ)アクリル系ポリマーは、溶液重合により製造されたものであり、乳化重合により製造されたものではない、水性樹脂組成物。
  2. 請求項1に記載の水性樹脂組成物であって、
    前記ポリマー中に含まれる前記構造単位(a2)の含有量は、前記ポリマー全体を100質量%としたときに1~20質量%である、水性樹脂組成物。
  3. 請求項1または2に記載の水性樹脂組成物であって、
    前記ポリマー中に含まれる前記構造単位(a3)の含有量が、前記ポリマー全体を100質量%としたときに1~20質量%である、水性樹脂組成物。
  4. 請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物であって、
    前記ポリマー中に含まれる前記構造単位(a2)および前記構造単位(a3)に対する前記構造単位(a1)の質量比が0.5~2.8である、水性樹脂組成物。
  5. 請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物であって、
    ゼータ電位が-50~-20mVである、水性樹脂組成物。
  6. 請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物であって、
    pHが7.5以上である、水性樹脂組成物。
  7. 請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物であって、
    アンモニアおよび/またはアミン化合物が添加されている、水性樹脂組成物。
  8. 請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物であって、
    60℃で7時間経時させた後のZ平均粒子径の増大が75%以内である、水性樹脂組成物。
  9. 請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物であって、
    前記水性樹脂組成物を、光路長10mmの石英ガラス製のセルに封入して測定したときの、波長380~780nmの範囲における全光線透過率が90%以上である、水性樹脂組成物。
  10. 水を含む溶媒成分と、
    前記溶媒成分に分散したポリマー粒子を含み、
    前記ポリマー粒子は、脂環式基を含む構造単位(a1)と、カルボキシル基を含む構造単位(a2)と、加水分解性シリル基を含む構造単位(a3)とを含む(メタ)アクリル系ポリマーを含み、
    前記(メタ)アクリル系ポリマーは、溶液重合により製造されたものであり、乳化重合により製造されたものではなく、
    前記ポリマー粒子は、前記溶媒成分に実質的に不溶な不溶性物質を内包している、水性樹脂組成物。
  11. 請求項10に記載の水性樹脂組成物であって、
    前記不溶性物質が、有機化合物である、水性樹脂組成物。
  12. 請求項10または11に記載の水性樹脂組成物であって、
    前記不溶性物質が、紫外線吸収剤、光安定剤、防かび剤および防藻剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかである、水性樹脂組成物。
  13. 請求項1~12のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物により形成された塗膜。
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