[組成物(組成物A)]
本発明の組成物(組成物Aなどということがある)は、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物とを含んでいる。後述のように、この組成物において、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物とは錯形成していてもよい。換言すれば、本発明の組成物は、トリアリールホウ素化合物とエポキシ化合物との錯体(錯体組成物)であってもよい。
(トリアリールホウ素化合物)
トリアリールホウ素化合物は、ボラン(BH3)を構成する水素原子がいずれもアリール基で置換された化合物である。そのため、トリアリールホウ素化合物のホウ素原子は、中性であり、イオン(例えば、ホウ素アニオンなど)を形成していない。
具体的なトリアリールホウ素化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物などが挙げられる。
(式中、Ar
1、Ar
2及びAr
3は、同一の又は異なる、置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
なお、置換基を有するアリール基とは、置換基を有さないアリール基を構成する水素原子の1又は2以上が置換基で置換された基をいう。置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
上記式(1)において、Ar1、Ar2及びAr3(置換基を有していてもよいアリール基)において、アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基などのC6-20アリール基、好ましくはC6-12アリール基、さらに好ましくはC6-10アリール基が挙げられる。
アリール基は置換基を有していてもよい。置換基としては、特に限定されず、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基などのC1-20アルコキシ基、好ましくはC1-10アルコキシ基、さらに好ましくはC1-4アルコキシ基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1-10アルキルカルボニル基;ベンゾイル基などのC6-10アリールカルボニル基など)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基などのC1-10アルキルカルボニルオキシ基;フェニルカルボニルオキシ基などのC6-10アリールカルボニルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1-10アルコキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基などのC6-10アリールオキシカルボニル基)、メルカプト基、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基などのC1-20アルキルチオ基、好ましくはC1-10アルキルチオ基、さらに好ましくはC1-4アルキルチオ基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基などのC6-10アリールチオ基)、アミノ基、置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのモノ又はジC1-4アルキルアミノ基)、アミド基(例えば、N,N’-ジメチルアミノカルボニル基などのモノ又はジC1-4アルキルアミノカルボニル基)、シアノ基、ニトロ基、置換スルホニル基(例えば、メシル基などのC1-10アルキルスルホニル基、トシル基などのC6-10アリールスルホニル基)、炭化水素基{例えば、脂肪族炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基などのC1-20アルキル基、好ましくはC2-10アルキル、さらに好ましくはC2-6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基、好ましくはC4-8シクロアルキル基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリールC1-4アルキル基)など]、芳香族炭化水素基[例えば、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6-20アリール基、好ましくはC6-12アリール基、さらに好ましくはC6-10アリール基)など]など}、これらの置換基を組み合わせた基(例えば、ハロゲン化炭化水素基など)などが挙げられる。
これらの置換基は、単独で又は2種以上の組み合わせとして用いても良く、アリール基は1又は2以上の置換基を含んでもよい。
好ましい態様では、Ar1、Ar2及びAr3の少なくとも1つ(好ましくは2又は3つ、さらに好ましくは3つ)がハロゲン原子(特にフッ素原子)を有するアリール基[前記例示の基、例えば、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、(フルオロアルキル)フェニル基、フルオロ-(フルオロアルキル)フェニル基など]である態様などが挙げられる。
中でも、Ar1、Ar2及びAr3の少なくとも2つが少なくとも1つのハロゲン原子を有するアリール基であることがより好ましく、Ar1、Ar2及びAr3の3つが少なくとも1つのハロゲン原子を有するアリール基であることがさらに好ましい。
ハロゲン原子を有するアリール基のうち、少なくとも1つのハロゲン原子を有するアリール基が好ましく、少なくとも3つのハロゲン原子を有するアリール基がより好ましく、少なくとも5つのハロゲン原子を有するアリール基がさらに好ましい。
また、Ar1、Ar2及びAr3のうち少なくとも2つが、ハロゲン原子を有するアリール基であることがより好ましく、Ar1、Ar2及びAr3の3つが、ハロゲン原子を有するアリール基であることがさらに好ましい。
ハロゲン原子を有するアリール基において、ハロゲン原子は、アリール基に直接結合していてもよく、ハロゲン原子含有基がアリール基に置換する態様で有していてもよく、これらを組み合わせる態様で有していてもよい。
ハロゲン原子含有基としては、例えば、ハロゲン含有炭化水素基[例えば、ハロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、パーフルオロオクチル基などのハロC1-20アルキル基、好ましくはフルオロC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-4フルオロアルキル基、通常パーフルオロアルキル基)、ハロシクロアルキル基(例えば、パーフルオロシクロプロピル基、パーフルオロシクロブチル基、パーフルオロシクロペンチル基、パーフルオロシクロヘキシル基などのハロC3-20シクロアルキル基、好ましくはフルオロC4-8シクロアルキル基、通常パーフルオロシクロアルキル基)など]、ハロアルコキシ基(例えば、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基、パーフルオロオクトキシ基などのハロC1-20アルキコキシ基、好ましくはフルオロC1-10アルコキシ基、さらに好ましくはC1-4フルオロアルコキシ基、通常パーフルオロアルコキシ基)、ハロゲン化スルファニル基(例えば、ペンタフルオロスルファニル基(-SF5)など)などが挙げられる。
具体的なハロゲン原子(特にフッ素原子)を有するアリール基としては、例えば、フルオロアリール基[例えば、ペンタフルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、2,3-ジフルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、2,3,6-トリフルオロフェニル基、2,4,6-トリフルオロフェニル基、2,3,4,6-テトラフルオロフェニル基、2,3,5,6-テトラフルオロフェニル基、2,2’,3,3’,4,4’,5,5’,6-ノナフルオロ-1,1’-ビフェニル基、好ましくはペンタフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、2,4,6-トリフルオロフェニル基、2,3,5,6-テトラフルオロフェニル基、2,2’,3,3’,4,4’,5,5’,6-ノナフルオロ-1,1’-ビフェニル基など]、(フルオロアルキル)アリール基[例えば、2-トリフルオロメチルフェニル基、3-トリフルオロメチルフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、2-ペンタフルオロエチルフェニル基、3-ペンタフルオロエチルフェニル基、4-ペンタフルオロエチルフェニル基、2,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、好ましくは2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)フェニル基など]、フルオロ-(フルオロアルキル)アリール基[例えば、フルオロ-トリフルオロメチルフェニル基(-C6H3FCF3)、フルオロ-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基(-C6H2F(CF3)2)、フルオロ-ペンタフルオロエチルフェニル基(-C6H3FCF3CF2)、フルオロ-ビス(ペンタフルオロエチル)フェニル基(-C6H2F(CF3CF2)2)などのフルオロ-(フルオロC1-20アルキル)C6-10アリール基、好ましくはフルオロ-(フルオロC1-10アルキル)C6-10アリール基、さらに好ましくはフルオロ-(C1-4フルオロアルキル)フェニル基、通常フルオロ-パーフルオロアルキルアリール基など]、クロロアリール基[例えば、ペンタクロロフェニル基、2-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、2,3,6-トリクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、2,3,4,6-テトラクロロフェニル基、2,3,5,6-テトラクロロフェニル基、好ましくはペンタクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基など]、(フルオロスルファニル)アリール基[例えば、2-ペンタフルオロスルファニルフェニル基、3-ペンタフルオロスルファニルフェニル基、4-ペンタフルオロスルファニルフェニル基、2,4-ビス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基、2,5-ビス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基、2,6-ビス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基、3,5-ビス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基、2,4,6-トリス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、好ましくは2,6-ビス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基、3,5-ビス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基、2,4,6-トリス(ペンタフルオロスルファニル)フェニル基など]などが挙げられる。
これらの中でも、特に、ペンタフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、2,4,6-トリフルオロフェニル基、2,3,5,6-テトラフルオロフェニル基、2,2’,3,3’,4,4’,5,5’,6-ノナフルオロ-1,1’ -ビフェニル基、ペンタクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、2-トリフルオロメチルフェニル基、2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)フェニル基などが好ましい。
Ar1、Ar2及びAr3の少なくとも1つが、ハロゲン原子(特にフッ素原子)を有するアリール基を有する場合、ハロゲン原子を有するアリール基の数は、1~3、好ましくは2~3、特に3であってもよい。
Ar1、Ar2及びAr3は、同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、Ar1、Ar2及びAr3のすべてがフッ素原子を有するアリール基である場合、これらはすべて同じフッ素原子を有するアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基など)であってもよく、異なるフッ素原子を有するアリール基の組み合わせであってもよい。
具体的なトリアリールホウ素化合物(又は式(1)で表される化合物)としては、ハロゲン原子を有するアリール基を少なくとも1つ有するボラン、例えば、トリ(ハロアリール)ボラン{例えば、トリ(フルオロアリール)ボラン[例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(テトラフルオロフェニル)ボラン(例えば、トリス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボランなど)などのトリス(フルオロC6-12アリール)ボラン、好ましくはトリス(モノ乃至オクタフルオロC6-10アリール)ボラン、さらに好ましくはトリス(モノ乃至ペンタフルオロフェニル)ボラン]など}、トリス(ハロアルキルアリール)ボラン{例えば、トリス(フルオロアルキルアリール)ボラン[例えば、トリス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラン]などのトリス(フルオロC1-10アルキル-C6-12アリール)ボラン、好ましくはトリス(モノ乃至オクタフルオロC1-4アルキル-C6-10アリール)ボラン、さらに好ましくはトリス(パーフルオロC1-4アルキルフェニル)ボラン}、ジ(ハロアリール)アリールボラン{例えば、ジ(フルオロアリール)アリールボラン[例えば、ビス(テトラフルオロフェニル)アリールボラン(例えば、ビス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)メシチルボラン、ビス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)-2-メチルナフチルボランなど)などのジ(フルオロC6-12アリール)C6-20アリールボラン、好ましくはジ(モノ乃至オクタフルオロC6-10アリール)C6-12アリールボラン、さらに好ましくはジ(モノ乃至ペンタフルオロフェニル)C6-12アリールボラン]など}などが挙げられる。
このようなハロゲン原子(特にフッ素原子)が比較的多い基(例えば、ペンタフルオロフェニル基、テトラフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基など)を有する化合物は、ルイス酸性度が高く、重合速度の向上、重合温度の低温度化などの点で有利である。
なお、トリアリールホウ素化合物は、市販品を利用してもよく、公知の方法にて製造したものを用いてもよい。
(環状エーテル化合物)
本発明の組成物(組成物A)は、環状エーテル化合物を含んでいる。このような環状エーテル化合物は、通常、カチオン重合性(カチオン重合性環状エーテル化合物)であってもよい。また、環状エーテル化合物は、後述のように、トリアリールホウ素化合物と錯体を形成可能な化合物であってもよく、特に、組成物において、トリアリールホウ素化合物と錯体を形成していてもよい。
環状エーテル化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物(テトラヒドロフラン、置換テトラヒドロフランなど)などのカチオン重合性(開環重合性)化合物が挙げられる。
環状エーテル化合物は、代表的には、エポキシ化合物及びオキセタン化合物から選択される化合物であってもよい。
エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物(エポキシド)であり、その態様は特に限定されず、種々のエポキシ化合物を使用できる。
エポキシ化合物において、エポキシ基の態様は、特に限定されず、例えば、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、オレフィン酸化(脂環式)型などであってもよい。
エポキシ化合物において、エポキシ基の数は1以上であればよい。
具体的なエポキシ化合物としては、単官能性エポキシ化合物(1つのエポキシ基を有する化合物)、多官能性エポキシ化合物(2以上のエポキシ基を有する化合物)などが挙げられる。
単官能性エポキシ化合物としては、例えば、アルキレンオキシド[例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,2-エポキシヘキサンなどのC2-10アルキレンオキシド]、エポキシシクロアルカン(例えば、シクロヘキセンオキシド、シクロオクテンオキシド、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートなどのエポキシC4-10シクロアルカン)、エピハロヒドリン(例えば、エピクロロヒドリンなど)、モノオールのグリシジルエーテル[例えば、アルキルグリシジルエーテル(例えば、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、2-メチルオクチルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテルなどのC1-20アルキル-グリシジルエーテルなど)、アルケニルグリシジルエーテル(例えば、アリルグリシジルエーテル)、アリールグリシジルエーテル(例えば、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのC6-10アリールグリシジルエーテル)など]、モノカルボン酸のグリシジルエステル(例えば、酢酸グリシジル、グリシジル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
多官能性エポキシ化合物(エポキシ樹脂)としては、例えば、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物などが挙げられる。
脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル[例えば、アルカンジオールジグリシジルエーテル(例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどのC2-20アルカンジオールジグリシジルエーテルなど)、ポリアルカンジオールジグリシジルエーテル(例えば、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリC2-6アルカンジオールジグリシジルエーテル)、3官能以上の(ポリ)アルカンポリオールのポリグリシジルエーテル(例えば、トリメチロールプロパンジ又はトリグリシジルエーテル、グリセリンジ又はトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなど)、ビスフェノール類の水添物のジグリシジルエーテル(例えば、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルなど)など]、脂肪族ポリカルボン酸のポリグリシジルエステル[例えば、アルカンジカルボン酸ジグリシジルエステル(例えば、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステルなどのC2-20アルカンジカルボン酸ジグリシジルエステル)、シクロアルカンジカルボン酸ジグリシジルエステル(例えば、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルなど)、ジグリシジルテトラヒドロフタレートなど]などが挙げられる。
脂環式エポキシ化合物としては、例えば、ポリエポキシシシクロアルカン(例えば、ジエポキシシクロオクタンなどのジエポキシシクロアルカン)、アルキレンオキシド骨格とエポキシシクロアルカン骨格を有する化合物[例えば、アルケニルシクロアルケンジオキシド(例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド、アリルシクロヘキセンジオキシドなど)、3,4-エポキシ-4-メチルシクロヘキシル-2-プロピレンオキシドなど]、エポキシシクロアルカン骨格(エポキシシクロアルキル基)を2以上有する化合物などが挙げられる。
エポキシシクロアルカン骨格(例えば、シクロヘキセンオキシドなどのシクロアルケンオキシド骨格)を2以上有する化合物としては、例えば、複数のエポキシシクロアルカン骨格が直接結合した化合物(例えば、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン等)、複数のエポキシシクロアルカン骨格が連結基を介して結合した化合物などが挙げられる。
連結基としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素基[例えば、アルキレン基又はアルキリデン基(例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基などのC1-10アルキレン基又はアルキリデン基)、シクロアルキレン基又はシクロアルキリデン基(例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基などのC4-10シクロアルキレン基又はシクロアルキリデン基)など]、カルボニル基(-CO-)、エーテル基(-O-)、エステル基(-OCO-)、カーボネート基(-OCOO-)、アミド基(-CONH-)、これらが複数個連結した基などが挙げられる。
具体的な複数のエポキシシクロアルカン骨格が連結基を介して結合した化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3’,4’-エポキシシクロヘキシルエチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなど)、アルカンジカルボン酸のジ(3,4-エポキシシクロヘキシル)エステル[例えば、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート]、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エーテル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル)エーテル[例えば、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテルなど]、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)カーボネート、ラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルアルキル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ε-カプロラクトン変性 3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなど)などが挙げられる。
芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ポリヒドロキシアレーンのポリグリシジルエーテル(例えば、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテルなど)、複数のヒドロキシアレーン又はそのアルキレンオキシド付加物構造を有する化合物のポリグリシジルエーテル[例えば、ビスフェノール類のジグリシジルエーテル(例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、テトラメチルビフェノールジグリシジルエーテルなど)、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物のジグリシジルエーテル(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジグリシジルエーテルなど)、トリスフェノールメタン類のトリグリシジルエーテル、テトラキスフェノールエタン類のポリグリシジルエーテルなど]、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のグリシジルエーテル、ビスフェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル)、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、芳香族ポリカルボン酸のポリグリシジルエステル(例えば、ジグリシジルフタレートなど)、グリシジルアミン化合物[例えば、芳香族アミン型として4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)などの芳香族アミン型のグリシジルアミン化合物;N,N-ビス(オキシラニルメチル)-4-(オキシラニルメトキシ)アニリンなどのアミノフェノール型のグリシジルアミン化合物]などが挙げられる。
これらのエポキシ化合物のうち、入手コストや物性のバランスなどの点で、ビスフェノール類のジグリシジルエーテル(例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等)を好適に使用してもよい。
エポキシ化合物は、液体として取り扱うことができるものが好ましい。このようなエポキシ化合物は、例えば、40℃で流動性を有するエポキシ化合物(40℃で液状のエポキシ化合物)であってもよい。
エポキシ化合物のエポキシ当量は、特に限定されないが、例えば、400以下、好ましくは300以下、さらに好ましくは200以下であってもよい。このようなエポキシ当量のエポキシ化合物は液体として取り扱うことが可能であり、組成物の調製(種々の化合物の混合・撹拌)のしやすさなどの点で有利である。
オキセタン化合物は、オキセタン骨格(オキセタン環)を有する化合物である。
具体的なオキセタン化合物としては、例えば、単官能性オキセタン化合物{オキセタン(トリメチレンオキシド)、置換オキセタン[例えば、アルキルオキセタン(例えば、2-メチルオキセタン、3,3-ジメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、2-エチルヘキシルオキセタン、3-(クロロメチル)-3-メチルオキセタンなど)など]など}、多官能性オキセタン化合物{2以上のオキセタン環を有する化合物、例えば、キシリレンビスオキセタン、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタンなどの複数のオキセタン環が連結基(前記例示の連結基など)を介して結合した化合物など}などが挙げられるが、特に限定されない。
環状エーテル化合物は、特に、エポキシ化合物であるのが好ましい。
本発明の組成物は、トリアリールホウ素化合物及び環状エーテル化合物を含んでいるが、通常、トリアリールホウ素化合物は熱力学的に安定な状態で組成物中に存在している。
このような本発明の組成物において、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物との存在形態は、特に限定されないが、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物とが接触ないし相互作用する態様で存在してもいてもよく、特に、トリアリールホウ素化合物が環状エーテル化合物と錯形成しているのが好ましい。このような組成物は、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物との錯体組成物(又は錯体)ということもできる。
なお、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物との相互作用ないし錯形成は、慣用の手法(例えば、NMRなど)により確認しうる。
トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物とが、このような態様で存在することで、ルイス酸たるトリアリールホウ素化合物が効率よく安定化されるようである。しかも、意外なことに、安定でありながら、本発明の組成物を用いることで、所定の重合条件において、容易にカチオン重合を進行させうる。特に、このような重合条件は、一般的なカチオン重合におけるような高温を要しない場合が多い。
このような理由は定かではないが、トリアリールホウ素化合物が環状エーテル化合物との何らかの作用(特に錯形成)により安定化されるものの、この安定化状態は強いものではなく、低いエネルギーでも容易に解放される(例えば、トリアリールホウ素化合物が遊離の状態になる)ためであると考えられる。
本発明の組成物において、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物との割合は、特に限定されないが、トリアリールホウ素化合物1モルに対して、環状エーテル化合物を、環状エーテル基又は環状エーテル骨格(エポキシ基又はエポキシ骨格、オキセタン基又はオキセタン骨格など)換算で、0.1モル以上(例えば、0.3モル以上)、好ましくは0.5モル以上(例えば、0.7モル以上)、さらに好ましくは0.8モル以上(例えば、0.9モル以上)、特に1モル以上などとしてもよい。
なお、環状エーテル化合物の割合の上限値は、特に限定されず、組成物の使用目的などに応じて適宜選択してもよい。トリアリールホウ素化合物を環状エーテル化合物によって安定化させるという観点からは、過剰の環状エーテル化合物を含んでいてもよい。特に、安定化させる環状エーテル化合物と同じ環状エーテル化合物の重合に使用する場合等においては、トリアリールホウ素化合物に対して過剰の環状エーテル化合物を含んでいても何ら問題はない。
一方、本発明の組成物を、安定化に供する環状エーテル化合物とは別のカチオン重合性化合物の重合に用いる場合等においては、トリアリールホウ素化合物を安定化できる範囲で環状エーテル化合物を最低限の割合ないし比較的少ない割合(例えば、環状エーテル基又は環状エーテル骨格換算でトリアリールホウ素化合物1モルに対して、5モル以下、3モル以下、2モル以下、1.5モル以下、1モル以下などの割合)で用いてもよい。
なお、本発明の組成物は、必要に応じて、溶媒等の他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分は、通常、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物との相互作用に影響のない又は少ない成分(例えば、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物との錯形成を阻害しない成分)であってもよい。
このような組成物(特に錯体又は錯体組成物)は、ルイス酸として機能しうるトリアリールホウ素化合物を含んでいるため、ルイス酸を利用する種々の用途(触媒など)に使用できる。
代表的には、本発明の組成物は、カチオン重合開始剤などの重合開始剤(重合触媒、硬化触媒)などとして使用してもよい。このような組成物(例えば、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物との錯体)は、重合開始剤用組成物ということができる。
このような組成物は、前記のように、通常、安定化された状態でトリアリールホウ素化合物を含んでいるため、ルイス酸としての重合開始機能を穏やかに発揮しうる。そのため、本発明の組成物は、重合開始剤として使用されるとき、トリアリールホウ素化合物を含んでいながらも、十分なポットライフ(可使時間)を有する重合性組成物を構成することができる。
そのため、本発明の組成物を含む重合性組成物(本発明の組成物を重合開始剤とする重合性組成物)は、通常、可使時間を有してもよい。
このような重合性組成物の可使時間は、重合性化合物(カチオン重合性化合物)の種類や温度等にもよるが、例えば、3分以上(例えば、4分以上)、好ましくは5分以上(例えば、7分以上)、さらに好ましくは10分以上程度であってもよく、15分以上(例えば、18分以上、20分以上、22分以上、25分以上、28分以上、30分以上など)であってもよい。
可使時間の上限値は、特に限定されず、有限値である場合には、例えば、24時間、20時間、15時間、12時間、10時間、8時間、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、1時間などであってもよい。
なお、可使時間は、使用条件{例えば、重合温度(後述の重合温度、例えば、100℃以下(例えば、-20~100℃)、80℃以下(例えば、0~80℃)、60℃以下(例えば、0~60℃)など)など}における可使時間であればよく、所定の温度[例えば、室温又は常温程度[例えば、20~30℃(例えば、23℃など)]、20℃未満(例えば、0~10℃)、30℃超(例えば、35~100℃、40~80℃、50~70℃など)など]における可使時間であってもよい。
可使時間は、例えば、JIS K 6870 : 2008 , 6.4(方法3 手塗による求め方)などに基づいて測定してもよい。
このように本発明の組成物は、比較的ルイス酸として強いと考えられるトリアリールホウ素化合物を含んでいるにもかかわらず、比較的安定であり、取扱性に優れる。
また、本発明の組成物は、意外なことに、安定化された状態でありながらも、比較的低エネルギーであっても重合開始能を発揮できる。そのため、本発明の組成物は熱潜在性重合開始剤としても使用できる。特に、本発明の組成物は、通常の状態では安定でありながら、比較的低温度での加温下で重合開始能を発現する、熱潜在性重合開始剤として使用しうる。
重合開始能は、重合性組成物の熱挙動を分析することによって確認できる。例えば、本発明の組成物を含む重合性組成物の発熱ピーク温度は、重合性化合物(カチオン重合性化合物)の種類等にもよるが、130℃以下(例えば、120℃以下)、好ましくは110℃以下(例えば、105℃以下)、さらに好ましくは100℃以下であってもよく、90℃以下、80℃以下、70℃以下などであってもよい。
発熱ピーク温度の下限値は、特に限定されず、例えば、-20℃、-10℃、0℃、10℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃などであってもよい。
なお、発熱ピーク温度は、例えば、示差走査熱分析(DSC)により測定しうる。測定は、特に限定されないが、例えば、昇温速度10℃/分で所定の温度範囲にて行ってもよい。
本発明の組成物は、比較的低温であっても(又は格別に高温としなくても)、重合開始剤として効率よく機能しうる。
例えば、本発明の組成物は、重合性化合物(カチオン重合性化合物)の種類等にもよるが、重合温度(硬化温度)100℃以下(例えば、90℃以下、80℃以下、70℃以下、65℃以下、60℃以下、55℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下、35℃以下など)で使用してもよい。
なお、重合温度(硬化温度)の下限値は、特に限定されないが、例えば、-20℃、-10℃、0℃、10℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、60℃などであってもよい。
本発明の組成物を含む重合性組成物のゲルタイム(ゲル化時間)は、重合性化合物(カチオン重合性化合物)の種類等にもよるが、60℃において20分以下(例えば、15分以下、12分以下、10分以下、8分以下、7分以下、6分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下など)であってもよい。
また、本発明の組成物を含む重合性組成物のゲルタイムは、80℃において15分以下(例えば、12分以下、10分以下、8分以下、7分以下、6分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、1.5分以下、1分以下など)であってもよい。
さらに、本発明の組成物を含む重合性組成物のゲルタイムは、100℃において10分以下(例えば、8分以下、7分以下、6分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、1.5分以下、1分以下、0.5分以下、実質的に0分又は即硬化など)であってもよい。
ゲルタイムは、例えば、JIS K 5909、JIS K 6910(ゲル化時間、5.14)やJIS C 6521に従って測定してもよい。
ゲルタイムは、通常、調製した重合性組成物を所定温度に加熱した熱板上に載せ、この熱板上で組成物を攪拌しながら行ってもよい。すなわち、熱板上に載せてから、重合性組成物が熱板上でゲル化(固化)するまでの時間を計測し、この時間をゲルタイムとしてもよい。
本発明の組成物は、このような比較的低温においても重合又は硬化開始機能を有するため、安全に重合又は硬化(成型)を行うことができる。例えば、重合性組成物に希釈のために溶媒を用いる場合であっても、溶媒の沸点未満の温度で硬化させることができる。そのため、重合又は硬化のための型として、プラスチックフィルムのような金属以外の型を使用することもでき、幅広い成形体を製造しうる。
なお、環状エーテル化合物(エポキシ化合物など)のような重合性化合物の重合又は硬化方法として、硬化剤やオニウム塩を使用する方法が知られている。
例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂)などの重合又は硬化には、一般的に、硬化剤(酸無水物、アミンなど)が使用されるが、このような硬化剤は重合物又は硬化物を構成するものであるため、重合物又は硬化物の物性等が硬化剤に大きく左右される。
一方、前記特許文献2~6のようにオニウム塩を使用した重合又は硬化も知られているが、このようなオニウム塩では、アニオン成分としてアンチモンのような毒性の金属が含まれている場合がある。また、オニウム塩は、酸強度が強い場合が多く、成形工程等における腐食の問題が生じる場合がある。
さらに、硬化剤やオニウム塩を用いた重合又は硬化は、一般的に高温を要する場合が多い。しかも、オニウム塩では、一旦プロトン酸が発生すると直ちに重合又は硬化が進行しやすい。このような硬化剤やオニウム塩を用いる場合には、より低温で速やかに重合又は硬化を行いがたい。
本発明の組成物によれば、硬化剤やオニウム塩によらずとも、重合又は硬化を行うことができるため、硬化剤やオニウム塩を使用することに伴う上記のような問題を回避することができる。また、硬化剤を使用しなくてもよいため、重合物又は硬化物に、重合性化合物由来の物性を直接的に反映させることができる。さらに、上記の通り、安定でありながら、比較的低エネルギー下での重合又は硬化が可能であるため、非常に有用である。
[重合性組成物(組成物B)及び重合物]
本発明の重合性組成物(硬化性組成物)は、トリアリールホウ素化合物と、重合性化合物とを含む。
トリアリールホウ素化合物としては、前記組成物Aにおいて記載の化合物と同様の化合物が使用できる。トリアリールホウ素化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
重合性化合物としては、特に限定されないが、例えば、カチオン重合性化合物[例えば、環状エーテル化合物(カチオン重合性環状エーテル化合物、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物など)、ビニルエーテル類、窒素含有モノマー(例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾールなど)など]などが含まれる。なお、重合性化合物は、オリゴマー状又はポリマー状であってもよい。
重合性化合物は、通常、環状エーテル化合物を少なくとも含んでいてもよい。環状エーテル化合物としては、前記組成物Aで例示の化合物(エポキシ化合物、オキセタン化合物など)が使用でき、好ましい態様等も前記と同様である。
重合性化合物(特にエポキシ化合物)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
なお、本発明の重合性組成物において、トリアリールホウ素化合物は、特に、前記組成物(組成物A)において記載したように、環状エーテル化合物と接触ないし相互作用する態様で、重合性組成物中に存在していてもよい。
換言すれば、本発明の重合性組成物は、トリアリールホウ素化合物を環状エーテル化合物と接触ないし相互作用する態様で(特に、環状エーテル化合物との錯体として)含んでいてもよい。
このような場合、トリアリールホウ素化合物と接触ないし相互作用する環状エーテル化合物は前記重合性化合物を構成してもよい。
代表的には、本発明の重合性組成物は、トリアリールホウ素化合物と、環状エーテル化合物(環状エーテル化合物(A)という場合がある)を含む重合性化合物を含み、環状エーテル化合物(A)が、トリアリールホウ素化合物と錯体を形成していてもよい。
なお、このような場合、トリアリールホウ素化合物は、環状エーテル化合物(A)の一部又は全部と相互作用(例えば、錯体を形成)してもよい。
通常、トリアリールホウ素化合物は、重合開始剤として機能するため、環状エーテル化合物(A)そのものを重合性化合物とする[環状エーテル化合物(A)を(主たる)重合成分とする]重合性組成物では、トリアリールホウ素化合物が、環状エーテル化合物(A)の一部と相互作用(例えば、錯体を形成)している場合が多い。
このような場合、環状エーテル化合物(A)は、トリアリールホウ素化合物と相互作用(錯体を形成)している環状エーテル化合物(環状エーテル化合物(B)ということがある)と、トリアリールホウ素化合物と相互作用(錯体を形成)していない環状エーテル化合物(環状エーテル化合物(C)ということがある)とで構成されている(環状エーテル化合物(A)は、環状エーテル化合物(B)と環状エーテル化合物(C)との総量)ということができる。
また、このような重合性組成物は、前記組成物(組成物A)と、重合性化合物[例えば、環状エーテル化合物(C)]を含む重合性組成物ということもできる。
重合性組成物において、トリアリールホウ素化合物と重合性化合物(カチオン重合性化合物)との割合は、特に限定されず、重合物又は硬化物の物性等に応じて適宜選択できるが、例えば、トリアリールホウ素化合物1モルに対して、重合性化合物が、2モル以上、好ましくは5モル以上、さらに好ましくは10モル以上となる割合であってもよい。
重合性組成物において、トリアリールホウ素化合物の割合は、重合物の形態・用途などに応じて選択でき、特に限定されないが、トリアリールホウ素化合物及び重合性化合物の総量に対して、例えば、0.001質量%以上(例えば、0.003質量%以上)程度の範囲から選択でき、0.005質量%以上(例えば、0.007質量%以上)、好ましくは0.01質量%以上(例えば、0.03質量%以上)、さらに好ましくは0.05質量%以上(例えば、0.07質量%以上)などであってもよく、0.1質量%以上(例えば、0.2質量%以上)などであってもよい。
トリアリールホウ素化合物の割合の上限値は、特に限定されず、トリアリールホウ素化合物及び重合性化合物の総量に対して、例えば、50質量%、40質量%、30質量%、20質量%、10質量%、7質量%、5質量%、3質量%、2質量%、1質量%などであってもよい。
重合性組成物において、トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物(B)の総量(又は組成物(A))の割合は、トリアリールホウ素化合物及び重合性化合物の総量に対して、例えば、0.001質量%以上(例えば、0.003質量%以上)程度の範囲から選択でき、0.005質量%以上(例えば、0.007質量%以上)、好ましくは0.01質量%以上(例えば、0.03質量%以上)、さらに好ましくは0.05質量%以上(例えば、0.07質量%以上)などであってもよく、0.1質量%以上(例えば、0.2質量%以上)などであってもよい。
トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物(B)の総量(又は組成物(A))の割合の上限値は、特に限定されず、トリアリールホウ素化合物及び重合性化合物の総量に対して、例えば、50質量%、40質量%、30質量%、20質量%、10質量%、7質量%、5質量%、3質量%、2質量%、1質量%などであってもよい。
重合性組成物は、必要に応じて、溶媒[例えば、カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)、ケトン類(アセトンなど)、アルコール類(メタノールなど)、エーテル類(テトラヒドロフランなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、ハロゲン化炭化水素(クロロホルムなど)、ラクトン類(γ-ブチロラクトンなど)などの慣用の溶媒]、添加剤(例えば、増感剤、顔料、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、消泡剤、安定剤、酸化防止剤など)を含んでいてもよい。
また、本発明の重合性組成物は、実害のない範囲であれば、添加剤として、硬化剤(例えば、酸無水物、アミン類など)を含んでいてもよい。本発明では、トリアリールホウ素化合物を重合開始剤として機能できるため、重合又は硬化に一般的な硬化剤は必要ではないが、硬化剤を併用することで、重合温度や重合速度を調整しうる。例えば、硬化剤を併用することで、重合温度を上昇させたり、重合速度を低下(硬化遅延)しうる。
溶媒や添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
本発明の重合性組成物(特に前記組成物Aと重合性化合物とを含む組成物)は、通常、前記組成物Aにおいて記載した物性・特性(可使時間、発熱ピーク温度、ゲルタイムなど)を有していてもよい。
例えば、重合性組成物は、通常、可使時間を有していてもよい。このような重合性組成物の可使時間は、例えば、5分以上、10分以上、15分以上、20分以上、25分以上、30分以上などであってもよい。なお、可使時間は、常温又は室温[例えば、20~30℃(例えば、23℃など)]における可使時間であってもよい。
また、重合性組成物の重合開始能は、発熱ピーク温度(DSCによる発熱ピーク温度)は、130℃以下、110℃以下、100℃以下などであってもよい。
さらに、重合性組成物のゲルタイムは、重合性化合物(カチオン重合性化合物)の種類等にもよるが、60℃において20分以下などであってもよく、80℃において15分以下(例えば、10分以下、5分以下)などであってもよく、100℃において10分以下(例えば、1分以下、実質的に0分又は即硬化)などであってもよい。
なお、重合性組成物は、各成分を混合することにより製造(調製)できる。混合方法は、少なくともトリアリールホウ素化合物と重合性化合物とを混合できる限り、特に限定されない。
例えば、組成物Aを含む重合性組成物は、組成物Aを予め調製した後、重合性化合物と混合してもよく、重合性組成物の調製時に組成物Aを得てもよい。具体的には、(i)トリアリールホウ素化合物と環状エーテル化合物とを予め混合した後、重合性化合物に混合してもよく、(ii)トリアリールホウ素化合物と、環状エーテル化合物を含む重合性化合物とを混合してもよい。特に、(ii)のように、トリアリールホウ素化合物と、重合性化合物(例えば、環状エーテル化合物(A))とを混合するのが簡便である。前記のように、組成物Aは、比較的安定であるため、このような混合方法も採用できる。
なお、重合性組成物を調製する際の温度(又は重合性組成物の保存温度)は、トリアリールホウ素化合物(又は組成物A)の安定性や組み合わせる重合性化合物の種類等に応じて適宜選択できる。通常、当該調製温度又は保存温度は、重合温度よりも低温としてもよい。特に、本発明の重合性組成物は、比較的安定であるため、0℃~室温又は常温(例えば、0~40℃、15~35℃、20~30℃など)で調製又は保存することが可能である場合が多く、極端な低温での調製又は保存を要しない場合が多い。
このような本発明の重合性組成物を重合(又は硬化)することで、重合物(硬化物)を製造できる。
重合(硬化)方法としては、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。特に、本発明の重合性組成物は、前記組成物Aの項において記載したようにより低温で速やかに重合又は硬化しうる。
例えば、重合温度(硬化温度)は、100℃以下(例えば、90℃以下、80℃以下、70℃以下、65℃以下、60℃以下、55℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下、35℃以下など)であってもよい。
重合温度(硬化温度)の下限値は、特に限定されないが、例えば、-20℃、-10℃、0℃、10℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、60℃などであってもよい。
なお、重合温度は、重合性組成物の調製温度や保存温度と同じであってもよく、調製温度や保存温度より高温であってもよい。代表的には、重合性組成物を加温し、上記のような重合温度で重合又は硬化してもよい。
また、前記のように、本発明の重合性組成物は、可使時間を有する。このような可使時間を有する本発明の重合性組成物によれば、所望の形状に成形する等の時間を確保しうる。
そのため、重合又は硬化において、特に前記のような可使時間を有する重合性組成物を使用してもよい。このような重合性組成物によれば、重合性組成物の調製から重合までの時間を確保できる。例えば、重合性組成物を調製後、所定の時間[例えば、1分以上、2分以上、3分以上(例えば、4分以上)、5分以上(例えば、7分以上)、10分以上、15分以上、20分以上、25分以上、30分以上など)]経過後に重合又は硬化させてもよい。
換言すれば、重合性組成物を調製するための時間、及び調製した重合性組成物を成形(重合又は硬化)するための時間として上記所定の時間(1分以上など)を確保できる。すなわち、重合性組成物は、調製後、上記所定の時間をかけて成形(重合又は硬化)できる。
重合時間は、特に限定されないが、前記のように、本発明の重合性組成物は、通常比較的短いゲルタイムを有している場合が多いため、比較的短時間とできる。
なお、重合は、重合物又は硬化物の形態に応じて、金型などの型内で行ってもよい。
上記のようにして、重合性組成物の組成等を反映した重合物又は硬化物を得ることができる。特に、本発明によれば、トリアリールホウ素化合物を重合開始剤としてできるため、重合物又は硬化物に、オニウム塩由来の成分(例えば、アンチモンなどの金属成分)や硬化剤(アミン類、酸無水物など)由来の成分を、実質的に含まないか又は含んでいてもごく少量含む重合物又は硬化物を得ることも可能である。
このような重合物又は硬化物において、アンチモンなどの金属成分の割合は、例えば、1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下であってもよい。
重合物又は硬化物において、窒素原子(N)の割合は、例えば、5質量%以下、好ましくは3質量%以下(例えば、2.5質量%以下)、さらに好ましくは2質量%以下(例えば、1.5質量%以下)であってもよく、1質量%以下(例えば、0.7質量%以下、0.5質量%以下など)であってもよい。
重合物又は硬化物において、エステル基(-COO-)の割合は、例えば、30質量%以下(例えば、28質量%以下)、好ましくは25質量%以下(例えば、22質量%以下)、さらに好ましくは20質量%以下(例えば、18質量%以下)であってもよく、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下などであってもよい。
このようなエステル基含量の少ない重合物又は硬化物は、エステル基を含有しない重合性化合物を使用することで、より一層容易に得やすい。
重合物又は硬化物において、ホウ素原子(B)の割合は、重合に使用したトリアリールホウ素化合物の量などに応じて適宜選択できるが、例えば、0.00002質量%以上(例えば、0.00005質量%以上、0.00006質量%以上)程度の範囲から選択でき、0.0001質量%以上(例えば、0.0002質量%以上)、さらに好ましくは0.001質量%以上(例えば、0.002質量%以上)などであってもよく、0.005質量%以上(例えば、0.007質量%以上、0.01質量%以上など)であってもよい。
ホウ素原子の割合の上限値は、特に限定されず、重合物又は硬化物において、例えば、1.5質量%、1.2質量%、1質量%、0.8質量%、0.7質量%、0.6質量%、0.5質量%、0.4質量%、0.3質量%、0.2質量%、0.1質量%、0.07質量%、0.05質量%、0.02質量%などであってもよい。
なお、重合物又は硬化物におけるこれらの元素や基の量は、原料に用いた重合性組成物の組成から算出することもできるし、慣用の分析手法[例えば、元素分析(燃焼分析)、NMR、赤外分光法(IR)、ICP発光分析装置(ICP、ICP-MS)、原子吸光分光光度計、蛍光X線分析装置など]により測定することもできる。
重合物又は硬化物の熱分解温度は、使用する重合性化合物の種類等に応じて選択でき、特に限定されないが、例えば、180℃以上、190℃以上、200℃以上、220℃以上、250℃以上、260℃以上、270℃以上、280℃以上、290℃以上、300℃以上、310℃以上、320℃以上、330℃以上、340℃以上、350℃以上、360℃以上、370℃以上などであってもよい。
重合物又は硬化物の熱分解温度の上限値は、特に限定されず、例えば、600℃、550℃、520℃、500℃、480℃、460℃、450℃、440℃、430℃、420℃、410℃、400℃、390℃、380℃などであってもよい。
本発明では、トリアリールホウ素化合物(又は組成物(A))を重合開始剤とできるため、重合性化合物そのものの重合物又は硬化物の物性を反映しやすく、上記のような比較的高い熱分解温度を有する重合物又は硬化物を効率良く得やすい。
なお、熱分解温度は、例えば、熱重量示差熱分析(熱重量・示差熱同時分析、TG-DTA)により測定しうる。測定条件は、特に限定されないが、例えば、昇温速度10℃/分で所定の温度範囲にて行ってもよい。
本発明の重合性組成物又は重合物(硬化物)の用途としては、例えば、塗料、コーティング剤、各種被覆材料(ハードコート、耐汚染被覆材、防曇被覆材、耐触被覆材、光ファイバー等)、粘着テープの背面処理剤、粘着ラベル用剥離シート(剥離紙、剥離プラスチックフィルム、剥離金属箔等)の剥離コーティング材、印刷板、歯科用材料(歯科用配合物、歯科用コンポジット)インキ、各種接着剤(各種電子部品用仮固定剤、HDD用接着剤、ピックアップレンズ用接着剤、FPD用機能性フィルム(偏向板、反射防止膜等)用接着剤等)、光学部材、成形材料(建築材料用、光学部品、レンズ)、注型材料、目止め材、シーリング材、封止材、光半導体(LED)封止材、光導波路材料などが挙げられる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明に含まれる。
[製造例1]トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン・水錯体/炭酸プロピレン混合溶液の調製
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPB、下記化合物)・水錯体[(株)日本触媒製、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン成分90質量%]100質量部、及び炭酸プロピレン80質量部を常温で混合し、溶液(TPBを濃度50質量%で含む溶液)を得た。
[製造例2]トリス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボラン/炭酸プロピレン混合溶液の調製方法
トリス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボラン(下記化合物)100質量部と炭酸プロピレン100質量部を常温で混合し、均一溶液とした。
[製造例3]トリス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラン/炭酸プロピレン混合溶液の調製方法
トリス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラン(下記化合物)100質量部と炭酸プロピレン100質量部を常温で混合し、均一溶液とした。
[実施例1]トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを用いた脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P)組成物の製造
製造例1で製造した混合溶液1質量部を脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P、ダイセル社製、下記化合物)99質量部と0~10℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン及び窒素の割合は0質量%、エステル基の割合は17質量%、ホウ素の割合は0.011質量%と見積もられる。
[実施例2]トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを用いた芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)組成物の製造
製造例1で製造した混合溶液1質量部を芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、東京化成工業社製、下記化合物)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0.011質量%と見積もられる。
[実施例3]トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを用いた水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000)組成物の製造
製造例1で製造した混合溶液1質量部を水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000、三菱ケミカル社製、下記化合物)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0.011質量%と見積もられる。
[実施例4]トリス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボランを用いた脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P)組成物の製造
製造例2で製造した混合溶液1質量部を脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P、ダイセル社製)99質量部と0~10℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン及び窒素の割合は0質量%、エステル基の割合は17質量%、ホウ素の割合は0.012質量%と見積もられる。
[実施例5]トリス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボランを用いた芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)組成物の製造
製造例2で製造した混合溶液1質量部を芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、東京化成工業社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0.012質量%と見積もられる。
[実施例6]トリス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボランを用いた水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000)組成物の製造
製造例2で製造した混合溶液1質量部を水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000、三菱ケミカル社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0.012質量%と見積もられる。
[実施例7]トリス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボランを用いた脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P)組成物の製造
製造例3で製造した混合溶液1質量部を脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P、ダイセル社製)99質量部と0~10℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン及び窒素の割合は0質量%、エステル基の割合は17質量%、ホウ素の割合は0.0083質量%と見積もられる。
[実施例8]トリス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボランを用いた水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000)組成物の製造
製造例3で製造した混合溶液1質量部を水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000、三菱ケミカル社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0.0083質量%と見積もられる。
[実施例9]トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン/フェニルグリシジルエーテル組成物の調製
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPB、前記化合物)・水錯体[(株)日本触媒製、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン成分90質量%]100質量部、及びフェニルグリシジルエーテル80質量部を0~10℃の範囲で混合し、TPBを濃度50質量%で含む均一溶液とした。
[実施例10]トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン/フェニルグリシジルエーテル組成物を用いた芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)組成物の製造
実施例9で製造した組成物1質量部を芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、東京化成工業社製、前記化合物)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0.011質量%と見積もられる。
[実施例11]トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン/フェニルグリシジルエーテル組成物を用いた水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000)組成物の製造
実施例9で製造した組成物1質量部を水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000、三菱ケミカル社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及びトリアリールホウ素化合物の総量に対する、トリアリールホウ素化合物の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモン、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0.011質量%と見積もられる。
[比較例1]サンエイドSI-80Lを用いた脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P)組成物の製造
サンエイドSI-80L(三新化学工業社製、下記化合物を50質量%の割合で含むγ-ブチロラクトン溶液)1質量部を脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P、ダイセル社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及び開始剤(上記式で表される化合物)の総量に対する、開始剤の割合は、0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモンの割合は0.13質量%、窒素の割合は0質量%、エステル基の割合は17質量%、ホウ素の割合は0質量%と見積もられる。
[比較例2]サンエイドSI-80Lを用いた芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)組成物の製造
サンエイドSI-80L(三新化学工業社製)1質量部を芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、東京化成工業社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及び開始剤の総量に対する、開始剤の割合は0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモンの割合は0.13質量%、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0質量%と見積もられる。
[比較例3]サンエイドSI-80Lを用いた水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000)組成物の製造
サンエイドSI-80L(三新化学工業社製)1質量部を水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000、三菱ケミカル社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及び開始剤の総量に対する、開始剤の割合は0.5質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモンの割合は0.13質量%、窒素及びエステル基の割合は0質量%、ホウ素の割合は0質量%と見積もられる。
[比較例4]TPB・アミン錯体を用いた脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P)組成物の製造
特許第5579859号の実施例2を参照して熱潜在性重合開始剤[下記化合物とトリスペンタフルオロフェニルボラン(TPB)との錯体化合物]を調製した。下記化合物(ピペリジン構造)/TPB比率は1.03(mol/mol)であった。
この熱潜在性重合開始剤1質量部を脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P、ダイセル社製)99質量部と20~30℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
なお、得られた溶液(組成物)において、重合性化合物及び開始剤の総量に対する、開始剤の割合は1質量%、TPBの割合は0.40質量%である。
また、得られた溶液(組成物)の重合物又は硬化物における、アンチモンの割合は0質量%、窒素の割合は0.006質量%、エステル基の割合は17質量%、ホウ素の割合は0.0085質量%と見積もられる。
[重合性評価試験]
実施例および比較例で得られた溶液について、DSC(示差走査熱量)分析および所定温度でのゲル化試験を行った。
DSCは、5mgのサンプルを用いて、昇温速度10℃/分、10~300℃の範囲で測定し、重合発熱温度(発熱ピーク温度)を確認した。
また、ゲル化試験はJIS K6910(ゲル化時間、5.14)に準拠して実施し、所定温度でのゲル化時間(ゲルタイム)を測定した。
なお、実施例1及び4で得られた溶液(組成物)は、常温(20~30℃)において硬化が徐々に進行し、常温にて硬化物が得られたため、DSC分析及びゲル化試験を行っていない。
重合性評価試験の結果を下記表に示す。
上記表の結果からも明らかなように、実施例で得られた組成物は、比較例で得られた組成物に比べると、より低温での硬化が可能であり、硬化も速やかである傾向があることがわかった。
また、実施例で得られた組成物の硬化物の熱分解温度を測定したところ、それぞれ、379℃(実施例1で得られた組成物の硬化物)、409℃(実施例2で得られた組成物の硬化物)、370℃(実施例3で得られた組成物の硬化物)であった。
なお、熱分解温度は、次のようにして測定した。
得られた硬化物をカッターナイフで削って微細化し、これを熱重量示差熱分析装置(Bruker製、TG-DTA 2000SR)を用いて熱分解温度を測定した。10mgのサンプルを用いて、昇温速度10℃/分、20-500℃の範囲で実施した。重量減少の見られない温度域と重量減少が起こっている温度域との交点を熱分解温度とした。
[参考例1]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラン酸を用いた芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)組成物の製造
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラン酸(下記化合物)100量部と炭酸プロピレン100量部を20~50℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
上記の混合溶液1質量部を芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、東京化成工業社製)99質量部と0~10℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
[参考例2]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラン酸を用いた水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000))組成物の製造
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラン酸100量部と炭酸プロピレン100量部を20-50℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
上記の混合溶液1質量部を水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER YX-8000、三菱ケミカル社製)99質量部と0~10℃の範囲で混合し、均一溶液とした。
[可使時間の測定]
前記の通り、実施例で得られた溶液では、所定の温度で速やかに硬化が進行したが、溶液調製時や所定温度(使用温度)において即座に硬化してしまうようなものではなく、十分なポットライフを有していた。
このことを具体的に確認(定量化)すべく、一例として、実施例1、2及び3で得られた溶液について、所定の温度における可使時間を測定した。
可使時間の測定は、JIS K 6870 : 2008 , 6.4 方法3 手塗による求め方を参考にして実施した。
具体的には、実施例1、2及び3で得られた溶液1gを、それぞれ、所定の温度でガラス瓶中に保持し、時間を記録した。ガラス瓶からスパチュラで少量の溶液を取り出し、アルミニウム板に塗り広げたとき、もはや塗り広げられなくなった時間までの経過時間をポットライフ(可使時間)とした。
なお、比較として、参考例1及び2で得られた溶液についても、同様に可使時間を測定した。これらの溶液では、ブレンステッド酸(プロトン酸)であるテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラン酸を用いているが、このようなアニオン構造を持つスルホニウム塩やヨードニウム塩は酸発生剤として用いられている。
結果を下記表に示す。
上記表の結果からも明らかなように、実施例で得られた組成物は十分な可使時間を示した。一方、参考例で得られた組成物においては、常温又は室温(23℃)下における可使時間は無いか又は極めて短いものであり、低温(0~10℃)でさえも可使時間は比較的短いものであった。
[錯体形成の確認実験]
上記の通り、実施例で得られた組成物は、所定の温度では硬化が進行するものの、調製時においては安定である。
このような安定性を示す要因が、エポキシ樹脂との錯形成にあることを、一例として、実施例1~3で使用したトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン・水錯体について確認した。
具体的には、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、東京化成工業社製)(10mg)を重クロロホルム2mL中で混合し、そこに所定量のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン・水錯体[(株)日本触媒製、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン成分90質量%]を加え、得られた均一溶液をH-NMRにより分析した。
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPB)と芳香族エポキシ樹脂のモル比を変化させたときの、エポキシ分子のプロトンの化学シフトを観測した。モル比について、芳香族エポキシ樹脂は分子量340.42の単独成分として算出した。
結果を下記表に示す。
なお、上記表において、ピーク1~6(に対応する水素原子)は下記の通りである。
上記表から明らかなように、プロトンの化学シフトは、エポキシ基に対するトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランのモル比によって値が変化することが分かった(ピーク1~5)。一方、メチル基プロトンの化学シフトは、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランのモル比にかかわらず実質的に変化がなかった(ピーク6)。
エポキシ基の近くのプロトンのみ化学シフトに影響を受けていることから、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランとエポキシ基が十分接近し、錯形成していることが示された。