JP7162856B2 - 更年期女性用のエストロジェン分泌を増進させる芳香治療用組成物、芳香治療用入浴剤、芳香治療用食品、及び、芳香治療用具 - Google Patents

更年期女性用のエストロジェン分泌を増進させる芳香治療用組成物、芳香治療用入浴剤、芳香治療用食品、及び、芳香治療用具 Download PDF

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本発明は、芳香として鼻から或いは食品添加物として口腔から嗅覚神経を介して脳に伝達されるように投与することを特徴とし、特に、更年期以降の女性のエストロジェン減少によってもたらさせる精神・身体的症状(更年期障害諸症状)を軽減・改善するエストロジェン分泌を増進させる芳香用組成物、エストロジェン分泌を増進させる芳香治療用食品、及び、芳香治療用具に関する。
一般に、黄体後期(月経が始まる7~10日前から月経開始日まで)、出産直後(出産後、3~5日目から2週間)、更年期(通常45~55歳)に起こる、女性特有の精神・身体的症状(抑うつ気分、全身倦怠感、意欲低下、睡眠障害、疼痛・むくみ等身体的不調)は、エストロジェン分泌の低下によってもたらされる。
排卵直後にエストロジェン分泌の急峻な減少が見られるが、その後エストロジェン分泌は徐々に増加するが、受精しないと急激に低下する(黄体期)。この時期に月経前緊張症が起こる。この疾患では、女性特有の精神・身体的症状が黄体後期に起こり、月経の始まりとともに徐々に消失するが、月経期間中までも続く場合もある。生殖年齢にある女性の20~50%は月経前緊張症の症状の少なくとも一つを有する(Verbrugge L, Journal of Health and Social Behaviour, 1985(非特許文献1))。
分娩数日後にエストロジェン分泌の急激な減少が起こるが、この時期に約80%の女性でマタニティーブルーが起こる(Beck CT, Advances in Neonatal Care, 2003(非特許文献2))。マタニティーブルーは、月経前緊張症と同様、女性特有の精神・身体的症状を示す。症状は、通常、出産後3~5日目から始まり2週間以内に消失する。また、産後のエストロジェン分泌の急激な低下により、産後うつ病となることもある。
エストロジェンの分泌レベルは生涯を通じて変化する。思春期に上昇し始め、20代にピークを迎える。その後、卵巣機能は徐々に衰え、エストロジェンは減少し、更年期を迎える。更年期は通常45~55歳に起こり、早まることも遅くなることもある。更年期障害はこの時期の女性の60~70%に見られる。
更年期は、若年者の生理的な一過性のエストロジェン分泌減少と異なり、卵巣自体の老化による、不可逆的機能低下によるもので、卵巣からのエストロジェン分泌低下が年齢とともに進行するのである。一方、他のエストロジェン分泌器官である副腎皮質の老化は卵巣ほど顕著でないため、更年期のエストロジェン分泌は、相対的に卵巣より副腎皮質からの分泌が多くなされると考えられる(Robin H et al, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2007(非特許文献5))。
更年期障害の症状は、若年者の月経前緊張症やマタニティーブルーに似たような女性特有の精神・身体的症状が主であるが、特有な身体症状も出現する。その身体症状とは、クッパーマン更年期指数に示されるように、血管運動神経障害、知覚障害様症状、めまい、心悸亢進、蟻走感、頭痛・関節痛・筋肉痛である(日産婦誌61巻7号 N238-242(非特許文献3))。また、更年期障害の発症も若年化しており、30代からもその症状に悩まされる女性も少なくない。
以上のことから、女性特有の精神・身体的症状が出現する時期はエストロジェン分泌が減少するという特徴を持つ時期である、黄体後期(月経中も含む)、出産後、更年期に出現することがわかる。ところで、エストロジェン分泌を制御する組成物として、非特許文献1には、エストロジェン(女性ホルモンの1群)の主成分である17β-エストラジオールの分泌促進剤として、香科組成物のアンプレット・シード油やアンブレットリドを用いることが開示している 。
また、非特許文献2には、女性ホルモン不足による症状を治療するものとして菌生冬虫夏草の抽出物を用いることが開示している。
また、特許文献1、非特許文献5は、本発明者らによるものであるが、β-カリオフィレンの芳香成分の女性に対する更年期障害等を含む影響が開示されている。
特許文献2も、本発明者らによるものであるが、女性特有の不定愁訴を緩和するために1,8-シネオールやドデセニルアセテートの芳香成分によるエストロジェン分泌の増進が開示されている。
しかし、更年期は、エストロジェンが低下するという点では若年者の黄体後期、出産後と同じであっても、若年者の場合は、排卵や出産という一過性の現象として起こるのに比べ、更年期は卵巣の老化という不可逆的老化現象として起こるという点では違いがある。したがって、更年期の血中エストロジェン量のうち卵巣分泌由来の比率は若年者と比べて低下し、副腎皮質分泌由来の分泌の比率が増してくる(Robin H et al, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2007(非特許文献5))。
エストロジェンは、以下のアンチエージング効果(あるいは更年期及び閉経女性のエストロジェン低下に伴う疾患リスク低減効果)を有することが明らかにされている。
(1)コラーゲンの生成促進(美肌効果、ハリ・つやの衰え予防)
(2)カルシウムの骨への吸収促進(骨粗鬆症のリスク低減)
(3)毛髪の新生促進(増毛促進)
(4)基礎代謝亢進(リンゴ型肥満の予防)
(5)認知機能亢進(認知症リスク低減)
(6)血管拡張促進(動脈硬化のリスク低減)
(7)免疫機能亢進(膠原病、リューマチ等自己免疫疾患リスク低減)
(8)乳腺の発達促進(乳房の弾力やハリの維持による美容効果)
(9)善玉コレステロール(HDL)増加(動脈硬化のリスク低減)
最近、代替医療として、精油(多数雑多な芳香組成物を含む)を用いたアロマテラピーによる健康法が広まりつつあるが、効用は経験に基づくものであり基礎医学研究による裏付けがほとんどない 。また、エストロジェン分泌に及ぼす研究も本発明者らによるもの以外ないと言っても過言でない(Shinohara K et al, Neuroendocrinology Letters, 2017(非特許文献5))。また、精油は多数雑多な芳香組成物を含み、産地、気候によって芳香組成物の含まれている量が異なっていることが知られているため、症状緩和をもたらす精油を、客観的根拠を元に選定し難い。
また、アロマテラピーにおける精油の効果も、嗅覚神経ルートに限らず、経口、経静脈、経皮的ルートや入浴での香も含むとされ、複合的である。本発明においては、芳香組成物は、芳香として鼻から或いは食品添加物として口腔から嗅覚神経を介して脳に伝達されるように投与し、その脳内嗅覚情報は大脳新皮質を介さず、直接、ホルモン分泌中枢である視床下部に入力することを考えると、芳香物質は経口、経静脈、経皮的ルートを介さない新しい中枢神経系薬物として発展しうる可能性がある。
特開2004-339191号公報 特開2015-36368号公報
Verbrugge L, Gender and health: an update on hypotheses and evidence. Journal of Health and Social Behaviour, 26(3):156-182, 1985 Beck CT, Postpartum depression predictors inventory-revised. Advances in Neonatal Care, 3(1):47-48, 2003 日産婦誌61巻7号 N238-242 Robin H et al, Ovarian Androgen Production in Postmenopausal Women, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 92(8):3040-3043, 2007 Shinohara K et al, Effects of essential oil exposure on salivary estrogen concentration in perimenopausal women. Neuroendocrinology Letters, 37(8):567-572, 2017
本発明は、更年期女性においては、通常、卵巣の老化による機能低下により、エストロジェンがあまり分泌されなくなるので、これを補うために、副腎皮質機能を活性化する、エストロジェン分泌の増進用の芳香組成物、芳香治療用入浴剤、芳香治療用食品、及び芳香治療用具を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンの匂いが、若い女性には効果が見られないが、特に、更年期以降の女性のエストロジェン分泌を増進する作用を見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであり、卵巣機能の低下した更年期女性を対象にしたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する主に副腎皮質由来のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用組成物、芳香治療用入浴剤、芳香治療用食品、及び芳香治療用具である。
即ち、請求項1の発明は、合成されたcis-ジャスモン又は 天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用組成物である。
請求項2の発明は、合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用入浴剤である。
請求項3の発明は、合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用食品である。
請求項4の発明は、合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用具である。
本発明の合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させる更年期以降の女性用の芳香治療用組成物、また、該芳香治療用組成物を芳香として入浴剤に混入して入浴の際の浴室の空気を鼻から嗅覚神経を介して脳に伝達されるように投与することによって、又は、該芳香治療用組成物を芳香として鼻から或いは食品添加物として口腔から嗅覚神経を介して脳に伝達されるように投与することにより、或いは、その芳香治療用具により、更年期以降の女性においてエストロジェン分泌をより増進することができる。
特に、cis-ジャスモンによる芳香治療用組成物は、ジャスミンの香りを有し、大変華やかで甘い花の香りで、その濃厚な香りからは、熱帯のエキゾチックさも感じられ、複雑な繊細さの中にはわずかに動物的(アニマリック)に感じられる独特な香りが含まれているのが特長であり、この香りを有する芳香治療用組成物は商品価値を高める。
この為、女性に対してエストロジェン分泌低下に伴い生じる更年期障害による精神身体症状の改善、エストロジェン分泌増進によるアンチエージング効果を期待できる。
また、本発明の組成物は、嗅覚神経を介する方法によって投与できるので、短時間で効果を発揮させることができ、さらに、血液を介さないので肝臓や腎臓等の臓器に副作用を及ぼさないという利点もある。
卵胞期の23歳~35歳の若年女性(n=6)で30%のリナロール(Sigma Aldrich Co)、45歳~54歳の更年期女性(n=10)で15%のリナロール(Sigma Aldrich Co)の含有した溶液(溶媒はジプロピレングリコールDPG))を嗅がせた場合のエストロジェンについての変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)と、コントロールとしてDPG溶液を嗅がせた場合の変化量を示した実施例のグラフの図。 卵胞期の20歳~36歳の若年女性(n=6)、40歳~50歳の更年期女性(n=16)での30%のリナリルアセテート(Sigma Aldrich Co)の含有した溶液(溶媒はDPG)を嗅がせた場合のエストロジェンについての変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)と、コントロールとしてDPG溶液を嗅がせた場合の変化量を示したグラフの図。 卵胞期の21歳~31歳の若年女性(n=8)、41歳~50歳の更年期女性(n=16)での80%のcis-ジャスモン(東京化成工業株式会社)の含有した溶液(溶媒はPG)を嗅がせた場合のエストロジェンについての変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)と、コントロールとしてPG溶液を嗅がせた場合の変化量を示したグラフの図。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンの匂いが、特に、卵巣機能の低下する更年期の女性(更年期は、エストロジェン分泌が低下し、更年期障害を起こす)においてエストロジェン分泌を増進する作用を見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
発明者らは、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンの匂いは、若い女性には効果はないが、更年期女性のエストロジェン分泌を増進する作用があることを見出したが、以下のような新規な用途に利用できることに想到した。
(1)リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンは、更年期女性にみられるエストロジェン分泌の低下が原因の精神身体症状(更年期障害の症状など)の改善に効果があると推定できる。また、エストロジェン分泌低下によって起こるエイジングに対するアンチエージング効果も期待できる。
(2)植物の精油(エッセンシャルオイル)を用いて症状の改善や健康維持を図る療法を一般にアロマテラピー(芳香治療、芳香療法)というが、この植物精油(多くの芳香物質の混合物)の代わりに、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモン(それぞれ、精油に含まれる単一芳香物質)を用いて、病気の治療を図ることも可能である。従って、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンは、「エストロジェン分泌増進の芳香による症状の改善組成物」としても利用できると考えられる。
(3)上記(2)と同様に、器具や道具のような形態でも、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンによる症状の改善や健康維持は可能である。従って、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンは、「芳香による症状の改善用用具」としても利用できると考えられる。
以下、上記の各用途について説明する。
(4)エストロジェン分泌増進用組成物(以下、「本発明の増進用組成物」という場合がある) 本発明のエストロジェン分泌増進用組成物は、cis-ジャスモンを有効成分として含有するものである。 使用するcis-ジャスモンは、天然物どから抽出されたものでもよく、人工的に合成されたものであってもよい。また、cis-ジャスモンは、試薬・香料として既に市販されているのでそれを用いてもよい。
本発明のエストロジェン分泌増進用組成物は、その使用態様に応じて様々な組成で調製されるが、通常は、後述するエストロジェン分泌芳香組成物と同様の組成で調製される。本発明のエストロジェン分泌芳香組成物は、その使用態様に応じて様々な組成で調製されるが、通常は、cis-ジャスモン濃度が80%になるように、適当な溶媒、例えば、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ミネラルオイル、クエン酸トリエチル、エタノール、ベンジルベンゾエート、水等と混合することにより調製される。
一般には、アロマポット、ディフーザーを用いて、芳香浴としてその香りを吸入する。 また、必要に応じて他の成分を加え、化粧品(スキンケア製品、香水等)、入浴剤、芳香剤、スプレー、マッサージオイル、シャンプー、洗濯洗剤、歯磨き粉・マウスウオッシュ等として使用することもできる。また、マスク等に塗布して吸入する方法も考えられる。
(5)エストロジェン分泌芳香用具 本発明のエストロジェン分泌芳香用具は、合成されたリナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたリナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンを含有する部分を持つものである。
使用するcis-ジャスモンは、芳香組成物と同様に、合成された又は天然物から単離、 精製されたものを用いる。また、飲食物を口に入れる前又は咀嚼中、通常その食品の匂いを嗅いでいる。従って、 食品或いは飲料という形態でもcis-ジャスモンはその効果を発揮でき、cis-ジャスモンは女性特有の精神身体症状の改善用飲食物としても利用できる。 飲食物の種類は限定されず、フレーバーティー、フレーバーコーヒー、フレーバービール、飴、ガム、ブレスケア、調味料、食品添加物などを例示できる。例えば、本発明の食品は、通常の 食品の製造工程に、cis-ジャスモンを添加する工程を追加することにより製造され、食品中のcis-ジャスモンの含有量は、食品の種類により異なるが、通常は80%(cis-ジャスモン)、程度が適量である。
芳香用具は、芳香に使用される器具、道具等であればどのようなものでもよく、生理用品、紙類、繊維製品(下着、ストキング等)、貼布薬、石鹸、ろうそく、枕、布団、などを例示することがきる。 本発明の芳香用具は、植物の精油の代わりにcis-ジャスモンを用いること以外は、一般の芳香用具と同様に製造することができる。
(6)エストロジェン分泌の増進用組成物の使用において、本発明におけるエストロジェン分泌の増進用芳香組成物の使用対象及び投与方法は、cis-ジャスモンを、エストロジェンの低下を示す者に投与することを特徴とするものである。
cis-ジャスモンの投与方法は特に限定されず、通常の医薬等と同様に経口的、経静脈的、経皮的に投与してもよいが、好ましくは、cis-ジャスモンによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達されるような手段で投与する。このような投与手段の一例としては、cis-ジャスモンを含む空気を、エストロジェン分泌の低下を示す者に嗅がせる手段を例示することができる。
このときの空気中のcis-ジャスモンの量は厳密には計測できないが 、芳香を発散する溶液の使用するcis-ジャスモンの含有量は、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールを溶媒に用いた場合には、80%(cis-ジャスモン)の濃度が好ましい。使用対象としては健常者が、症状治癒改善目的だけでなく、上記方法でアンチエージングに用いることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
正常月経周期(26日~34日)を回帰する精神的・身体的に健常で喫煙をしない若年被験者(正常月経周期を示す、36歳以下の女性)、更年期被験者(月経が不規則な40歳以上の女性)の非喫煙女性を対象として、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモン、を嗅いだ場合に生じるホルモン変化を調べた。
実験方法
説明会
被験者には、事前に実験内容を説明して承諾を得てから、実験当日は匂いが強い食べ物や刺激物(ニンニク・タマネギ・香辛料・香草など)を朝から食べないようにし、実験開始30分前からは何も食べないようにしてもらうようにした。喫煙者は実験対象からは除外した。
1-2.実験当日
若年被験者(正常月経周期を示す、36歳以下の女性)及び更年期被験者(月経が不規則な40歳以上の女性)を対象に、月経開始後5-10日(卵胞期)に実験を行った。各々のグループの被験者に、リナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンを含む溶媒(プロピレングリコール、ジプロピレングリコール)又は溶媒のみを嗅がせ、実験開始前と実験開始20分後に唾液採取を行い、分泌されるエストロジェン(女性ホルモン)の内、最も作用が強い17βエストラジオール(E2)を酵素免疫測定法により測定した。
前記の酵素免疫測定法に用いたのは、SALIMETRICS社製の唾液中成分の定量キット(測定キット)で、型番が1-3702 Estradiol, EIA Kit, High Sensitivity, Salivaryで、測定手法は、(A)「未知の濃度の17βエストラジオールを含む唾液検体」を、それに結合する抗体(96穴プレートというプラスティックプレートの穴にコーティングされている)と反応させ、その際、(B)「酵素を予め結合させた既知濃度の17βエストラジオール」も同時に反応させ、(A)と(B)で競合反応((A)と(B)で抗体を取り合う)をさせた。
一定時間の反応後、プレート状の抗体に結合しているもの以外の溶液を捨て、酵素反応(発色する)を誘発する基質を添加する。こうすることで、発色は(B)の結合量を反映した色合いになる。この色合いは、吸光光度計による測定から定量化し、(A)が少なければ、(B)の方が抗体を多く取るので、発色の強さは強くなり、一方、(B)が多ければ、相対的に(B)が抗体を取る量が減り、発色の強さは弱くなる。こうした原理を利用して、「既知の濃度の17βエストラジオール(標準検体)」を複数濃度測定し、検量線を算出しておくことで、発色の色合いから(A)「未知の濃度の17βエストラジオールを含む唾液検体」の濃度を算出した。
前記酵素免疫測定法で使用した酵素である「西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)」は、以下のような物性を有する。
ペルオキシダーゼ(Hydrogen peroxidase,Horseradish peroxidase,HRP)
反応 : 色原性基質+H22 ⇔酸化型色素+2H2
起源 : 西洋わさび(Horseradish)
分子量 : 40,000,至適pH:pH6.5
基質特異性 : 色原性基質(水素供与体)については特異性はない。
実験は、空気を2L/minの風量で本実施例のリナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンを含む溶媒(プロピレングリコール)の入ったガラス瓶に送り、そこから出てきた空気を被験者の鼻から10cm離したロートから放出させることにより行い、これを20分間続けた。実験中は、被験者には椅子に座ってリラックスした状態で普段と変わらない呼吸をしてもらい、実験開始前と実験開始20分後に唾液採取を行った。このとき、何らかの異常を認めた場合、その場で実験を中止し適切な処置を行うこととした。
1.実験結果
[実施例1]
実施例1:リナロール(シグマアルドリッチ)の濃度が15%となるようジプロピレングリコール(DPG)で溶かしたものを更年期女性に、一方濃度が30%となるようジプロピレングリコールで溶かしたものを卵胞期の若年女性にそれぞれ曝露した。そして比較例2:コントロールとしてジプロピレングリコール(DPG)だけのものと比較実験を行った。
被験者は45歳~54歳の更年期女性10人と卵胞期の23歳~35歳の若年女性6人で、比較例2と実施例2のそれぞれの実験結果を示す。
結果の表し方として、各被験者のベースラインを揃えるために、匂い曝露前後のエストロジェン濃度の変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)について比較(DPG vs リナロール)すると、コントロールのジプロピレングリコール(DPG)に比べ、17βエストラジオールの濃度の増加傾向が得られた(対応のあるt検定、P=0.09)(図1)。
ただし、別の統計解析を更年期女性で行うと、リナロールは嗅いだ前に比べ、嗅いだ後はエストロジェン濃度が有意に増加している(p=0.003)。
一方、若年女性では、変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)について比較(DPG vs リナロール)すると、リナロールとジプロピレングリコール(DPG)の間には濃度に違いはなかった(図1)。
[実施例2]
実施例2:リナリルアセテート(シグマアルドリッチ)の濃度が30%となるようジプロピレングリコール(DPG)で溶かしたものと比較例3:コントロールとしてジプロピレングリコールだけのもので比較実験を行った。
被験者は40歳~50歳の更年期女性16人と20歳~36歳の若年女性6人で、比較例2と実施例2のそれぞれの実験結果を示す。
結果の表し方として、各被験者のベースラインを揃えるために、匂い曝露前後のエストロジェン濃度の変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)について比較(DPG vs リナリルアセテート)すると、ジプロピレングリコールに比べ、17βエストラジオールの濃度の有意な増加が得られた(対応のあるt検定、P<0.055)(図2)。
ただし、別の統計解析を更年期女性で行うと、リナリルアセテートは嗅いだ前に比べ、嗅いだ後はエストロジェン濃度が有意に増加している(p=0.008)。
一方、若年女性では、変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)について比較(DPG vs リナリルアセテート)すると、リナリルアセテートとジプロピレングリコールの間には濃度に違いはなかった(図2)。
[実施例3]
実施例3:cis-ジャスモン(東京化成工業)の80%をプロピレングリコール(PG)で溶かしたものと、比較例3:コントロールとしてプロピレングリコール(PG)だけのもので比較実験を行った。
被験者は23歳~35歳の更年期女性16人と卵胞期の若年女性8人で、比較例3と実施例3のそれぞれの実験結果を示す。
結果の表し方として、各被験者のベースラインを揃えるために、匂い曝露前後のエストロジェン濃度の変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前))について比較(PG vs cis-ジャスモン)すると、コントロールのプロピレングリコール(PG)に比べ、17βエストラジオールの濃度で有意な増加が見られた(対応のあるt検定、P<0.036)(図3)。
一方、若年女性では、変化量(嗅いだ後―嗅ぐ前)について比較(PG vs cis-ジャスモン)すると、cis-ジャスモンとプロピレングリコール(PG)の間には濃度に違いはなかった(図3)。
以上説明したように、本発明の各実施例によれば、合成されたリナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたリナロール、リナリルアセテート、cis-ジャスモンを有効成分として含有するエストロジェン分泌(主に副腎皮質由来)を増進させる芳香組成物、芳香組成物、芳香治療用入浴剤、芳香治療用食品、及び、芳香治療用具を更年期女性に対して使用することにより、エストロジェン分泌を増進することができる。
この為、更年期障害はもとより、特に更年期にはエストロジェン分泌が増進することによるアンチエージング効果が期待できる。また、若年者のエストロジェン分泌低下に伴い生じる、月経前緊張症、月経期の諸症状、マタニティーブルー、産後うつ病、といった女性特有の精神身体症状(病気を含む)を緩和する可能性もある。また、本発明の組成物は、嗅覚神経を介する方法によって投与できるので、短時間で効果を発揮させることができ、また、血液を介さないので肝臓や腎臓等の臓器に副作用を及ぼさないという利点もある。

Claims (4)

  1. 合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用組成物。
  2. 合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用入浴剤。
  3. 合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用の芳香治療用食品。
  4. 合成されたcis-ジャスモン又は天然物から単離、精製されたcis-ジャスモンを有効成分として80%含有する更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させるために用いられる更年期以降の女性用のエストロジェン分泌を増進させる更年期以降の女性用の芳香治療用具。
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