以下図面について、本発明の一実施形態を詳述する。以下の説明において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
<溶接操業管理システムの構成>
図1は、本発明に係る溶接操業管理方法を実行する溶接操業管理システムの構成の一例を示す概略図である。本実施形態では、帯状の鋼板6aが造管方向Xに向けて搬送されながらスクイズロール4a,4bによって鋼板6aが連続的に管状に成形されてゆき、電縫小径管6bが製造されてゆく。本実施形態の溶接操業管理システム1は、板厚tが20mm以下の鋼板6aから、管外直径Dが250mm以下、板厚t/管外直径Dが35%以下でなる管状の電縫小径管6bを製造する際に、鋼板6aに対する溶接操業を管理する。
この際、溶接操業として、例えば、誘導コイル3から供給される高周波電流により、鋼板6aの突合せ端部7a,7bを加熱及び溶融する。この高周波電流については、鋼板6aが造管方向Xに搬送される際の造管速度に応じて入熱制御が行われている。加熱溶融された鋼板6aの両突合せ端部7a,7bは、V字状に収束した溶接部5付近でスクイズロール4a,4bによるアプセットが加えられ、電縫溶接される。
本実施形態の場合、電縫小径管6bの中心部には、インピーダ2が配置されている。また、鋼板6aには、周方向にある突合せ端部7a,7b付近に誘導コイル3が配置されている。誘導コイル3には、溶接操業管理装置9の制御に従って、電源装置10から高周波電力が供給される。
これにより、インピーダ2と誘導コイル3との作用により、高周波電流を鋼板6aに流して入熱を与える。高周波電流は、表皮効果により鋼板6aの突合せ端部7a,7bに集中する。これにより、鋼板6aは、突合せ端部7a,7bに入熱が与えられて加熱溶融される。
かかる構成に加えて、溶接操業管理システム1は、ボアスコープ8を備えており、鋼板6aの突合せ端部7a,7bが溶融されて突合わせする溶接部5を、ボアスコープ8により撮像している。ボアスコープ8は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)又はCCD(Charge Coupled Device)によるカメラ11と、変換レンズ12と、リレーレンズユニット13とを有している。カメラ11は、例えばVGA以上の解像度を有する撮像装置である。変換レンズ12は、リレーレンズユニット13から得られた画像をカメラ11内の撮像面に結像するための光学モジュールである。
リレーレンズユニット13は、本体部の表面に非導電体製のエアパイプが螺旋状に取り付けられた構成を有している。リレーレンズユニット13は、本体部の先端部で取り込まれた、鋼板6aの溶接部5の撮像画像を、変換レンズ12に伝えるためのものである。リレーレンズユニット13は、エアパイプの内部にエアポンプ14から供給されたエアーが通風される。
エアポンプ14は、リレーレンズユニット13のエアパイプに、例えば常温よりも低温のエアーを通風することにより、リレーレンズユニット13の温度上昇を抑制することができる。また、リレーレンズユニット13は、エアパイプからのエアーが、本体部先端に排出されるようにすることにより、本体部先端にスケール等が付着することを抑制することができる。
なお、この実施形態の場合、ボアスコープ8の配置の一例として、リレーレンズユニット13の軸方向が、造管方向Xとほぼ平行になるように配置し、リレーレンズユニット13の先端面を、溶接部5と略正対させるようにしている。
ここで、図2は、鋼板6aの突合せ端部7a,7bが突合わされる溶接部5の一例を示す概略図である。このように突合せ端部7a,7bは、溶接部5においてV字状に収束しており、突合せ端部7a,7bに与えられた入熱により全板厚に亘って溶融している。ボアスコープ8は、このようにV字状に収束する突合せ端部7a,7bを直接観察するために、リレーレンズユニット13の先端が溶接部5と近接する位置に配置されている。
ボアスコープ8は、突合せ端部7a,7bが突合わされる溶接部5を正面(造管方向Xに向かって、鋼板6aの板厚方向断面を見る方向)から撮像し、得られた撮像画像を溶接操業管理装置9に入力する。溶接操業管理装置9は、ボアスコープ8から撮像画像を受け取ると、例えば、当該撮像画像を表示部(図示せず)に表示させ、溶接部5が写った撮像画像を作業員に視認させる。これにより、作業員は、溶接部5における突合せ端部7a,7bの溶融状態や、アーキングの発生頻度、スパッタの発生有無等を目視で確認することができる。
本実施形態の場合、作業員は、溶接部5における突合せ端部7a,7bが全板厚で溶融状態となっており、かつ、アーキングの発生頻度が少なく、スパッタも発生していないときの、鋼板6aへの入熱量を最適な入熱量として決定する。
このような最適な入熱量は、例えば、作業員が撮像画像を基に溶接部5における突合せ端部7a,7bの溶融状態等を確認しつつ、電源装置10により鋼板6aに与えている、そのときの入熱量を確認することで特定することができる。
ここでは、最適な入熱量として、後述する上限入熱量QMmax及び溶融限界入熱量QLminが特定される。溶接操業管理装置9には、これら鋼板6aの溶接速度VXや、溶接速度VXのときに特定した上限入熱量QMmax及び溶融限界入熱量QLmin等が、作業員によって入力される。
溶接操業管理装置9は、鋼板6aの溶接速度VXや、溶接速度VXのときの上限入熱量QMmax及び溶融限界入熱量QLmin等を基に、演算処理を実行し、第1種溶接状態の中で最適な入熱量を示した適正操業範囲ER1(図4にて後述する)を決定する。このようにして決定された適正操業範囲ER1は、例えば、溶接操業管理装置9の表示部に表示され、作業員に対して呈示される。これにより、溶接操業管理装置9は、電縫小径管6bを製造する際に、適正操業範囲ER1を目安として、作業員に対して、入熱量及び溶接速度が最適な条件になるよう管理させることができる。
<第1種溶接状態及び第2種溶接状態の説明>
次に、第1種溶接状態及び第2種溶接状態について説明する。図3Aは、第1種溶接状態のときの、鋼板6aの突合せ端部7a,7bがV字に収束する領域(以下、V字収束領域と称する)の一例を示した概略図である。図3Bは、第2種溶接状態のときのV字収束領域の一例を示した概略図である。図3A及び図3Bは、V字収束領域を上方から見た図である。
第1種溶接状態では、比較的、入熱量が低いときに生じ、溶接部5の溶接状態を上方から観察すると、幾何学的V収束点V0、物理的衝合点V1及び溶接点Wの3つの点の位置が略一致している。なお、幾何学的V収束点V0は、V字状に収束する鋼板6aの両突合せ端部7a,7bの近似直線が幾何学的に交わる点である。物理的衝合点V1は、V字状に収束する鋼板6aの両突合せ端部7a,7bが物理的に衝合(接触)する点である。溶接点Wは、スクイズロール4a,4bの圧下による溶鋼の排出が始まる点である。
第2種溶接状態は、第1種溶接状態の入熱量よりも高い入熱量のときに生じ、入熱量を高くすることで、第1種溶接状態から移行するものである。第2種溶接状態では、溶接部5の溶接状態を上方から観察すると、幾何学的収束点V0及び物理的衝合点V1から、溶接点Wが分離して溶接スリットSが発生する。このような第2種溶接状態では、入熱量を段階的に増加させるにつれて、幾何学的収束点V0及び物理的衝合点V1も分離する方向に移動することが確認されている。また、このような第2種溶接状態に特有の現象として、溶接スリットSにおいてアークの発生頻度が顕著に高くなることが確認されている。
<入熱量及び溶接速度により定まる適正操業範囲について>
本発明は、板厚tが20mm以下、管外直径Dが250mm以下、板厚t/管外直径Dが35%以下でなる管状の電縫小径管6bを製造する際に、第1種溶接状態の中で、最適な入熱量及び溶接速度を適正操業範囲として決定し、適正操業範囲を基に入熱量及び溶接速度を管理するものである。このように、電縫小径管6bを製造する際に、入熱量及び溶接速度を、第1種溶接状態の適正操業範囲内に収まるように管理することで、スパッタによる溶接部5の欠陥発生を防止し、溶接部5での酸化物排出不足による強度低下を防止することができる。
ここで、溶接操業管理システム1では、鋼板6aを造管方向Xに所定の造管速度で搬送しながら、突合せ端部7a,7bに入熱を与えて加熱溶融して電縫小径管6bを製造してゆく。この場合、鋼板6aの突合せ端部7a,7bを溶接する溶接速度とは、鋼板6aから電縫小径管6bを製造する際の造管速度を示す。
図4は、電縫小径管6bを製造する際に鋼板6aに与えられる入熱量Q[KVA]と、溶接速度VX[m/min]との関係を示したグラフである。なお、本実施形態では、入熱量Qの単位は[KVA]とし、溶接速度VXの単位は[m/min]としており、以下、これら単位については省略する。
図4では、入熱量Qを縦軸に示し、溶接速度VXを横軸に示す。この場合、スパッタ等による欠陥や酸化物排出不足による強度低下が発生していない電縫小径管6bを製造するためには、溶接操業時の入熱量Qと溶接速度VXを、上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QLで規定される、図4の斜線部分で示した適正操業範囲ER1内で、管理することが望ましい。
ここで、スパッタ等による欠陥や酸化物排出不足による強度低下が発生していない電縫小径管6bを製造する際には、下記の事項を考慮する必要がある。1つは、鋼板6aの板厚や、材質等の「(i)鋼板・鋼種」がある。また、予め規定することが困難な事項として「(ii)溶接状態依存要因」があり、これは溶接部5近傍の突合せ端部7a,7bの突合せ状態(形状)や、誘導コイル3と鋼板6aとの相対的な位置関係等、実溶接中の状態に影響されるものである。さらに、高周波電流により制御される「(iii)入熱条件」と、「(iv)溶接速度条件」とがある。
このうち、「(i)鋼板・鋼種」については、事前に規定が可能な事項である。「(ii)溶接状態依存要因」については、わずかな条件差により製造毎に微妙に変化するため、電縫小径管6bの管サイズ等の外形的に決定される要素のみで事前に決定することは困難である。そのため、実際の溶接状態を観察して、溶接現場で個々に決定する必要がある。一方、「(iii)入熱条件」及び「(iv)溶接速度条件」については、溶接操業時に制御可能な溶接条件項目となる。
従って、実際の溶接状態の観察により、一度、「(ii)溶接状態依存要因」についての影響量の補正を行うことができれば、第1種溶接を行うのに適当な入熱量Q及び溶接速度VXの範囲を、適正操業範囲ER1(図4)として一義的に決定することができる。このように、適正操業範囲ER1を定めることができれば、溶接操業の途中で、適正操業範囲ER1内で自由に造管速度(溶接速度)VXや入熱量Qを設定することが可能となる。
ここで、図4に示す上限入熱線QMは、第1種溶接状態と第2種溶接状態との境界を示す線である。また、この上限入熱線QMは、鋼板6aの突合せ端部7a,7bがV字状に突合わせられて成型される際に、両突合せ端部7a,7bが近接する速度(以下、近接速度と称する)veと、両突合せ端部7a,7bに流れる高周波電流による斥力によって両突合せ端部7a,7b同士が反発して離反する速度(以下、離反速度と称する)viと、が一致する線である。
第1種溶接状態では、突合せ端部7a,7bが形成するV字状形状がほぼ一定と見做せるので、近接速度veは溶接速度VXに比例する。離反速度viは高周波電流に比例するので、入熱量Qに比例する。従って、図4に示すように、上限入熱線QMは原点を通る直線になり、下記の式(3)により示すことができる。
QMmax=γ・VX …(3)
QMmaxは上限入熱量を示し、γは所定の係数を示す。γは、溶接速度VX1のときの上限入熱量をQMmax1としたとき、γ=(QMmax1/Vx1)で示すことができる。VXは鋼板6aの溶接速度を示す。
ここで、図5に示すように、上限入熱線QM以下の領域ER2は第1種溶接状態に対応する領域(以下、第1種領域とも称する)である。一方、上限入熱線QMを超えた付近の領域は第2種溶接状態に対応する領域(以下、第2種領域とも称する)となる。
電縫小径管6bでは、突合せ端部7a,7b同士が溶接される際にスパッタによる内面傷等の欠陥を防止したり、或いは、溶接部5での酸化物排出不足による強度低下を防止するために、溶接点Wの位置変動が非常に小さい第1種溶接状態で適切な溶接を行うことが望ましい。よって、入熱量Qについては、上限入熱線QM以下の領域である、Q≦γ・VXを満たすことが望ましい。
ここで、上限入熱線QMと、後述する溶融限界入熱線QLとが交わる臨界溶接速度Vm未満の領域で、上限入熱線QMを超えた付近にある第2種領域では、両突合せ端部7a,7bの近接速度veよりも離反速度viが大きくなる。その結果、図3Bに示すように、溶接部5の両突合せ端部7a,7bが幅狭かつ平行に近接した溶接スリットSが形成される。
また、臨界溶接速度Vm以上の領域で、上限入熱線QMを超えた付近にある第2種領域では、両突合せ端部7a,7bの近接速度veと離反速度viとが、おおよそ釣り合っているものの、この場合であっても、図3Bに示すように、溶接部5の両突合せ端部7a,7bが幅狭かつ平行に近接した溶接スリットSが形成される。
鋼板6aの突合せ端部7a,7bが完全に溶接される前段階で生じる溶接スリット(両突合せ端部7a,7b間の幅狭かつ平行な領域)Sでアーキングが頻発する現象は、第2種溶接状態のときに生じる特有の現象であることが知られている。第2種溶接状態では、鋼板6aの突合せ端部7a,7bの溶け込み量が少ないため、両突合せ端部7a,7bの性状が固体に近い状態、若しくは、表面凹凸が残る状態にあり、このような両突合せ端部7a,7b間において短絡が起こり、アーキングが発生する確率が高くなっているものと推測されている。
このような表面凹凸や、アーキングの発生位置が、物理的衝合点V1に近い場合は、短絡電流密度が大きくなる場合があり、アーキングにより、溶融メタルの一部が吹き飛ばされてスパッタとなり、電縫小径管6bの内外面に付着してしまい、後工程での疵欠陥となる。従って、このアーキングの発生頻度やスパッタを検知することで、第1種溶接状態及び第2種溶接状態の境界である上限入熱線QMの上限入熱量QMmaxを特定することができる。
第1種溶接状態及び第2種溶接状態の境界を示す上限入熱線QMの上限入熱量QMmaxであるか否かの判断は、溶接部5にアーキングの発生が一定頻度以下であり、かつ、溶接部5にスパッタが発生していない入熱量Qのうち、最も高い入熱量Qを特定することにより行われる。
ここで、溶接部5にアーキングが発生しているか否かの判断は、ボアスコープ8による溶接部5の撮像画像の輝度解析により行う。通常、溶接部5の輝度はプランクの輻射則による輝度分布を持つ。鋼板6aの溶融温度は1500~1600℃程度であるため、輻射のピーク波長は1.3μmから1.4μm程度となり、一般的なCMOSやCCD等のカメラ11の感度範囲においては、長波長になる程輝度が大きくなる分布を持ち、カラー画像における、R、G、Bの各画像において、主にR画像に強い輝度を持つ画像が得られる。一方、B画像には低い輝度の信号しか得られない。
これに対し、アーキングは、付近の空気層が電離して発生するものであるため、アーキングの発生部位においては、酸素や窒素分子の電離による短波長成分にも強い発光が発生する。そのため、アーキングの発光では、R画像以外のB画像においても強い発光信号が検知される。したがってボアスコープ8で撮影した溶接部5近傍の撮像画像において、B画像を用いて、予め閾値を決めた2値化処理などの画像処理を行うことで、アーキングに相当する発光が発生しているか否かを判定することができる。
また、アーキングの発生が一定頻度以下とは、カメラ11の全撮影フレーム中におけるアーキングが検出されるフレームの発生頻度の割合により決定される。例えば、鋼板6aを管状に成形するときの内部スパッタの付着状況と、アーキング発生頻度及びB画像を用いて決定するアーキング発光の大きさと、を予め試験的に調査しておく。そして、内部スパッタの付着状況と、アーキング発生頻度及びアーキング発光の大きさとの関係に基づいて、内部スパッタが発生する恐れのあるアーキング発生頻度及びアーキング発光のサイズの管理値を決定して、適正操業を管理することができる。
ここで、第1種溶接状態や第2種溶接状態等の分類は、アーキングの発生有無の他に、突合せ端部7a,7bの近接速度veと離反速度viとにより、突合せ端部7a,7bが形成するV字状形状により分類することもできる(図3A及び図3B)。しかしながら、管外直径Dが非常に小さい電縫小径管6bでは、アーキングによるチリ発生が品質に大きな影響を与えるため、電縫小径管6bの上方など外部観察からは検知できない鋼管内面側も含めた、溶接部5の全領域でのアーキングの発生頻度の判定を行うことが望ましい。
そこで、溶接操業管理システム1では、突合せ端部7a,7bが形成するV字状形状を単に真上から撮像するのではなく、ボアスコープ8のリレーレンズユニット13を電縫小径管6bの管内に挿入し、溶接部5に近接した位置から溶接部5の全板厚領域を撮像するようにした。これにより、溶接部5の内面側で発生したアーキングについても確実に撮像することができる。
第1種領域ER2のうち、図4に示す溶融限界入熱線QLは、鋼板6aにおいて突合せ端部7a,7bの全板厚が溶融し、突合せ端部7a,7bの正常な溶接が達成されるための、下限の入熱量(溶融限界入熱量)を表す線である。すなわち、溶融限界入熱線QL未満の領域は、溶接部5における突合せ端部7a,7bの全板厚を溶融させる入熱量Qが不足している領域となるため、冷接不良が発生する領域となる。
従って、電縫小径管6bを製造する際の入熱量Qは、第1種領域ER2のうち、溶融限界入熱線QL以上の入熱量Qとする必要がある。溶融限界入熱線QLは、突合せ端部7a,7bの板厚方向に均一な入熱が与えられると仮定した、線熱源溶接の近似式により、下記の式(4)で規定できる。
QLmin=α・(VX)β …(4)
QLminは、溶融限界入熱量を示す。α及びβは、所定の係数である。αは、溶接速度VX1のときの溶融限界入熱量をQLmin1としたとき、βを用いて、α=QLmin1/(VX1)βで示すことができる。VXは鋼板6aの溶接速度を示す。
上述したように、電縫小径管6bを製造する際の入熱量Qは、溶融限界入熱線QL以上の入熱量Qとする必要があるため、入熱量Qについては、Q≧α・(VX)βを満たすことが望ましい。
βは、0.5~0.7の範囲内にある任意の数値であることが望ましいが、後述する係数算出処理によって算出してもよい。上記式(4)については、例えば、先行文献である「Nippon Steel Technical report1985.No.26、鉄と鋼Vol.71、No.2、P53」により詳細な説明がされており、この先行文献では、βについて、近似解として0.6と規定されている。このことから、βについては、多少の誤差があっても、溶融限界入熱線QLを示すことができるので、0・5~0.7の範囲内であることが望ましい。よって、後述する係数算出処理を行わずに、βを0・5~0.7の範囲内で予め規定してもよい。
ここで、溶融限界入熱線QLで規定される溶融限界入熱量QLminは、実際にボアスコープ8を用いて、溶接部5における突合せ端部7a,7bの板厚方向の溶融状態を観察して決定する。すなわち、溶融限界入熱量QLminは、ボアスコープ8により溶接部5を撮像した撮像画像から、溶接部5の突合せ端部7a,7bが全板厚で溶融し始めたことをもって決定する。
溶接部5の突合せ端部7a,7bが全板厚で溶融し始めたか否かの判断は、例えば、撮像画像内に写った突合せ端部7a,7bを作業員が目視により確認して判断する他、撮像画像内の輝度分布を基に判断してもよい。高周波電流を用いる電縫溶接においては、表皮効果により、突合せる鋼板6aの上下のエッジ部分に電流が集中するため、両側の鋼板6aを突合せて溶接が行われた溶接部位において、鋼板6aのエッジ部に相当する、電縫小径管6bの鋼管外面側と鋼管内面側の溶融温度が、鋼板6aの平坦部にあたる厚み方向の中央部分に比べて、高くなっている。
この状態をボアスコープ8にて撮影すると、溶接部5の上下端部近傍(鋼管外面と鋼管内面にあたる位置)に輝度の高い部分があり、溶接部5の中央(溶接中央)が輝度のやや低い部分となる撮像画像が得られる。溶接中央部分の溶融が不十分で、冷接欠陥等が発生する状態においては、電縫小径管6bの表裏面にあたる溶接部5の上下端部近傍の輝度に対して、溶接中央部分の輝度が低下する。例えば、ボアスコープ8により得られた撮像画像内において、溶接部5の上下端部での輝度を基準として、溶接中央部付近の輝度の相対的な基準値を決定しておき、溶接中央部付近の輝度が基準値以下の場合を冷接が発生する恐れのある、最低入熱条件QLminとして判断するようにしてもよい。
なお、電縫溶接では、鋼板6aの溶融に加えて、スクイズロール4a、4bによって、溶融状態にある鋼板6aの突合せ端部7a,7b同士を押し付けるアップセットを行うことで、内部の溶融酸化層を外部に排出するとともに、強固な溶接状態を得ている溶接プロセスである。したがって、単に鋼板6aの表層が溶融状態に達していても、その直後に行われる突合せ端部7a,7b同士のアプセットが十分に行われるだけの温度や溶融体積条件を満足していない場合は、接合が不十分な冷接欠陥が発生する場合がある。
溶接部5の撮像画像による輝度情報には、溶融温度の情報は反映されるが、上記のアプセットを含めた十分な接合が実現されるかの溶接判定には、温度情報のみでは不十分な場合がある。したがって、冷接が発生しない溶接中央部近傍の相対輝度の管理閾値については、予め、溶接部5の扁平試験や曲げ試験などの破壊検査により、鋼種や鋼管サイズ毎に、閾値を決定した条件管理マップを作成しておくことが望ましい。
上述したように、係数βを0.5~0.7の範囲内で予め規定した場合には、下記のようにして、係数αを特定して溶融限界入熱線QLを算出する。この場合、鋼板6aの溶接速度(造管速度)をV1とし、ボアスコープ8により溶接部5を撮像しながら、鋼板6aに与える入熱量Qを変えてゆく。この際、ボアスコープ8により撮像した撮像画像を基に、溶接部5の溶融状態を確認する。そして、溶接速度VX1のときに、溶接部5の突合せ端部7a,7bが全板厚で溶融し始めたときの入熱量Qを、溶融限界入熱量QLmin1として決定する。
これにより、係数βを所定数値に規定した上記式(4)に、溶接速度VX1及び溶融限界入熱量QLmin1を代入(QLmin1=α・V1
β)することで未知数である係数αを算出でき、溶融限界入熱線QLを求めることができる。
一方、上記式(4)の係数α,βの両方を未知数として、これら係数α,βを係数算出処理により算出する場合には、下記の手法により係数α,βを求め、溶融限界入熱線QLを算出する。
この場合、先ず始めに、上述したように、ボアスコープ8により溶接部5を撮像した撮像画像を基に、溶接速度VX1のときに、溶接部5の突合せ端部7a,7bが全板厚で溶融し始めたときの入熱量Qを、溶融限界入熱量QLmin1として決定する。
次いで、鋼板6aの溶接速度を、溶接速度VX1とは異なる他の溶接速度VX2とし、ボアスコープ8により溶接部5を撮像しながら、再び鋼板6aに与える入熱量Qを変えてゆく。この際、ボアスコープ8により撮像した撮像画像を基に、溶接部5の溶融状態を確認する。そして、溶接速度VX2のときに、溶接部5の突合せ端部7a,7bが全板厚で溶融し始めたときの入熱量Qを、溶融限界入熱量QLmin2として決定する。
このようにして求めた、溶接速度VX1のときの溶融限界入熱量QLmin1を上記式(4)に代入し、同じく溶接速度VX2のときの溶融限界入熱量QLmin2を上記式(4)に代入して、上記式(4)の係数α,βを算出する。これにより、溶融限界入熱線QLを求めることができる。
以上のようにして、上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QLを算出することで、上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QLの交点(以下、臨界点と称する)mを求めることができる。臨界点mは、電縫小径管6bを製造する際に、スパッタによる欠陥や、酸化物排出不足による強度低下を防止するために必要となる、溶接速度VXの最下限値(以下、臨界溶接速度と称する)Vmと、入熱量Qの最下限値(以下、臨界入熱量と称する)Qmとを示すものである。
そして、これら上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QLで囲まれ、かつ臨界溶接速度Vm以上(すなわち、溶接速度VX≧臨界溶接速度Vm)での領域を、適正操業範囲ER1として決定することができる。かくして、電縫小径管6bを製造する際に、入熱量Q及び溶接速度VXを適正操業範囲ER1内となるよう管理することで、スパッタによる溶接部5の欠陥発生を防止し、溶接部5での酸化物排出不足による強度低下を防止することができる。
また、適正操業範囲ER1に基づいて入熱量Qを設定する場合には、所定の溶接速度VXにおいて、上限入熱線QMを0%の基準とし、上限入熱線QMから溶融限界入熱線QLに向かう入熱量範囲を0~100%で表したとき、上限入熱線QMから30~70%の入熱量範囲で入熱量Qが制御されることが望ましい。
図4に示すように、本発明の電縫小径管6bの適正条件は上下の線(上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QL)に囲まれたER1の狭い領域で発現するものであり、適正操業範囲ER1の内部のどこの状態で溶接されているかは、溶接中の鋼板6aにおける突合せ端部7a,7bの成型状態などの変動により、常に変化しているものである。そのため、電縫小径管6bを製造する際の入熱量Qを、所定の溶接速度VXにおいて、上限入熱線QMから30~70%の入熱量範囲とすることで、溶接中の突合せ端部7a,7bの成型状態などの変動により急な適正条件からの逸脱の無い安定した溶接が実現できる。
図4に示したように、適正操業範囲ER1は、溶接速度VXが大きくなるほど、上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QL間の入熱量範囲が広くなっており、溶接操業が安定し易いものとなる。実際の溶接操業においては、電縫小径管6bの製造し始めた初期段階のときには、成型が不安定なため、溶接速度VXをあまり速くすることができない。そのため、やや遅い溶接速度VXで試験造管(低速製造での電縫小径管6bの成形調整)を開始し、その後、成型が安定した状態になったら、溶接速度VXを次第に速めてゆき、主製造時の生産性向上が図られている。
本発明では、例えば、溶接速度VXが遅い初期段階(低速製造での電縫小径管6bの成形調整)のときに、上限入熱量QMmax及び溶融限界入熱量QLmin1を求めて、適正操業範囲ER1を決定することで、溶接速度VXを次第に速めてゆくことなく、適正操業範囲ER1内の適切な入熱量Qとしつつ、即座に、より溶接速度VXが大きな、任意の溶接速度VXに設定できる。よって、高速な電縫小径管製造時の実操業の効率改善に大きく寄与させることができる。
<適正操業範囲決定処理手順>
次に、上述した適正操業範囲決定処理手順について、図6のフローチャートを用いて以下説明する。図6に示すように、適正操業範囲決定処理は、開始ステップから開始し、溶融限界入熱線算出処理RT1及び上限入熱線算出処理RT2に移り、上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QLを算出する。
溶融限界入熱線QLを算出する溶融限界入熱線算出処理RT1では、図7に示すように、開始ステップからステップS11に移り、溶接速度VX1のときの溶接部5をボアスコープ8で撮像して、得られた撮像画像を基に溶接部5における突合せ端部7a,7bの板厚方向での溶融状態を特定し、次のステップS12に移る。
ステップS12において、溶接部5における突合せ端部7a,7bの全板厚が溶融していると判断すると、このときの入熱量Qを、溶接速度VX1での溶融限界入熱量QLmin1として決定し、次のステップS13に移る。
ステップS13において、ステップS11とは異なる溶接速度VX2を設定する。次いで、溶接速度VX2のときの溶接部5をボアスコープ8で撮像して、得られた撮像画像を基に溶接部5における突合せ端部7a,7bの板厚方向での溶融状態を特定し、次のステップS14に移る。
ステップS14において、溶接部5における突合せ端部7a,7bの全板厚が溶融していると判断すると、このときの入熱量Qを、溶接速度VX2での溶融限界入熱量QLmin2として決定し、次のステップS15に移る。
ステップS15において、ステップS12で特定した溶接速度VX1のときの溶融限界入熱量QLmin1と、ステップS14で特定した溶接速度VX2のときの溶融限界入熱量QLmin2とを上記式(4)にそれぞれ代入して、未知数である係数α,βを算出し、溶融限界入熱線QLを算出する。
一方、上限入熱線QMを算出する上限入熱線算出処理RT2では、図8に示すように、開始ステップからステップS21に移り、入熱量Q及び溶接速度VX1のときの溶接部5をボアスコープ8で撮像して、得られた撮像画像を基に溶接部5における突合せ端部7a,7bにアーキングの発生が一定頻度以下であるか否かを判断する。なお、ここでは、第1種溶接状態及び第2種溶接状態の境界となる上限入熱線QMを決定することから、始めに鋼板6aに与える入熱量Qとしては、例えば、予測される上限入熱量QMmaxよりも低い入熱量Qとすることが望ましい。
ステップS21において肯定結果が得られると、このことはアーキングの発生が一定頻度以下であることを示しており、このとき次のステップS25に移る。ステップS25において、入熱量Qを上げて、再びステップS21に戻り、ステップS21で否定結果が得られるまで、ステップS21、ステップS25の処理を繰り返す。ステップS21で否定結果が得られると、このことはアーキングが一定頻度を超えて発生していることを表しており、このとき次のステップS22に移る。
ステップS22において、入熱量Q及び溶接速度VX1のときにボアスコープ8で撮像した溶接部5の撮像画像を基に、溶接部5における突合せ端部7a,7bにスパッタが発生していないか否かを判断する。
スパッタの発生検知については、例えば、予め決定した画素数以下の面積で、かつ、予め決定した輝度しきい値以上となった領域が、撮像画像内から検知された場合に、スパッタが発生していると判定することができる。また、他の判断手法としては、スパッタが発生する溶接点近傍に、スパッタ検知領域を予め設定しておき、1つの撮像画像のスパッタ検知領域内で観測されたスパッタの個数を測定し、過去の操業データと比較して、判断基準とするスパッタが発生しているか否かを判定することもできる。さらに、他の判断手法としては、連続する複数の撮像画像において、それぞれ各スパッタ検知領域内で観測されたスパッタの総数を測定し、過去の操業データと比較して、判断基準とするスパッタが発生しているか否かを判定する等の方法もある。
ステップS22で肯定結果が得られると、このことは、第2溶接状態に移行している恐れが高いと判断可能なスパッタが発生していないことを表しており、このとき次のステップS25に移る。ステップS25において、入熱量Qを上げて、再びステップS21に戻り、ステップS21及びステップS22で否定結果が得られるまで、ステップS21、ステップS22、ステップS25の処理を繰り返す。ステップS22で否定結果が得られると、このことは、スパッタが発生していることを表しており、このとき次のステップS23に移る。
ステップS23では、このときの入熱量Qを、溶接速度VX1での上限入熱量QMmaxとして決定し、次のステップS24に移る。
ステップS24では、溶接速度VX1のときの上限入熱量QMmaxと溶接速度VX1とを上記式(3)に代入し、未知数である係数γを算出して上限入熱線QMを算出する。
このようにしてステップS21及びステップS22にて否定結果が得られるまで入熱量Qを変更してゆき、溶接速度VX1のときの上限入熱量QMmaxを特定する。
そして、溶融限界入熱線算出処理RT1及び上限入熱線算出処理RT2において、上限入熱線QM及び溶融限界入熱線QLを算出すると、図6に示すように、次のステップS1に移る。ステップS1では、溶融限界入熱線QL及び上限入熱線QMが交差する臨界点mを算出し、次のステップS2に移る。ステップS2では、溶融限界入熱線QL及び上限入熱線QMにより囲まれ、かつ臨界溶接速度Vm以上での領域を適正操業範囲ER1として決定し、適正操業範囲決定処理を終了する。
このようにして得られた適正操業範囲ER1は、電縫小径管6bを製造する際に、作業員に呈示され、入熱量Q及び溶接速度VXの管理に活用させることができる。例えば、電縫小径管6bを製造する際に、スパッタによる溶接部5の欠陥発生を防止し、溶接部5での酸化物排出不足による強度低下を防止しつつ、溶接操業の途中で、適正操業範囲ER1内で自由に造管速度(溶接速度)VXや入熱量Qを設定することが可能となる。
<作用及び効果>
以上のように、板厚tが20mm以下、管外直径Dが250mm以下、板厚t/管外直径Dが35%以下でなる管状の電縫小径管6bの溶接操業管理方法は、鋼板6aの溶融速度に対する、1種溶接状態における入熱量Qの適正操業範囲ER1に基づいて、突合せ端部7a,7bの溶接を行うものである。より具体的には、この溶接操業管理方法では、突合せ端部7a,7bが溶接される溶接部5をボアスコープ8で撮像した撮像画像を取得する(画像取得ステップ)。そして、溶接操業管理方法では、撮像画像から特定した溶接部5のアーキング発生状態を基に上限入熱量QMmaxを決定するとともに、撮像画像から特定した溶接部5の溶融状態を基に溶融限界入熱量QLminを決定する(入熱量決定ステップ)。
溶接操業管理方法では、鋼板6aの溶接速度VXに対する、第1種溶接状態における入熱量Qの適正操業範囲ER1を、上限入熱量QMmax及び溶融限界入熱量QLminに基づいて決定できる(適正操業範囲決定ステップ)。かくして、作業員は、適正操業範囲ER1に基づいて、鋼板6aへ与える入熱量Qと鋼板6aの溶接速度VXとを管理することができる(管理ステップ)。
以上、本発明の溶接操業管理方法及び溶接方法によれば、電縫小径管6bを製造する際に、スパッタによる欠陥や、溶接部5での酸化物排出不足による強度低下が生じない適正操業範囲ER1を決定することができるので、電縫小径管6bを製造する際に、適正操業範囲ER1に基づいて溶接することができ、溶接操業を適切に管理することができる。
本発明によれば、比較的低速製造での電縫小径管6bの成形調整時に得られた、スパッタによる欠陥や溶接部5での酸化物排出不足による強度低下が生じない適正操業範囲ER1を基に、その後の主製造における比較的高速な電縫小径管製造時の適正条件を決定することができる。よって、電縫小径管6bを製造する際に、上記の適正条件を基に溶接操業を管理することで、任意の速度条件においても、好ましい第1種溶接状態で確実に溶接することができる。
<他の実施形態>
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、適正操業範囲ER1を示す際には、横軸に入熱量Qを示し、縦軸に溶接速度VXを示したグラフを用いてもよい。
また、上述した実施形態においては、ボアスコープとして、直線的なリレーレンズユニット13を備えたボアスコープ8を用い、リレーレンズユニット13が造管方向Xとほぼ平行になるように配置して、溶接部5を正面から撮像するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、L字状に曲がったリレーレンズユニットを備えたボアスコープを用い、上方から突合せ端部7a,7b間の隙間にリレーレンズユニットを挿入し、リレーレンズユニットの直角に曲がった先端のみを溶接部5の正面に近接させ、溶接部5を正面から撮像するようにしてもよい。