JP7435930B1 - 電縫鋼管の溶接管理装置、電縫鋼管の溶接管理方法、電縫鋼管の製造方法および電縫鋼管の溶接管理システム - Google Patents
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Abstract
Description
上記問題を解決する方法として、電縫鋼管の製造における溶接欠陥抑止には種々の技術が開示されており、例えば、電縫溶接現象を映像化し、かつ、溶融加熱過程におけるエッジ部の温度を測定した溶接工程の溶接管理システムが提案されている。
さらに、電縫溶接において、両エッジ部に沿って収束する2つの直線が幾何学的に成す角度(V収束角度θ)、および上記2つの直線の交点をV収束点としたとき、両エッジが接合して溶接を開始する溶接点とV収束点との間の距離である狭間隙長さLの関係に着目した。そして、本発明者らは、V収束角度θおよび狭間隙長さLが、スクイズロールによるアプセット後の溶接部に残存する酸化物(ペネトレータ)の形態および溶接部特性に及ぼす影響について鋭意研究を行った。その結果、以下のことが明らかになった。
従来、電縫溶接では、直接通電加熱方式、あるいは誘導加熱方式による高周波電流を用いた加熱を行っている。このとき、高周波加熱特有の加熱現象で、加熱の初期段階に表皮効果が発現する。そのため、肉厚中央部に比べて先にエッジ部の外表面および内表面側の温度が高温になる。このエッジ部の熱伝導により肉厚中央部への熱の移動が発生する。
この問題に対して、加熱過程において、肉厚中央部の近接効果を早期に発現させる必要がある。そのためには、V収束角度を調整することや、ワークコイルとスクイズロールとの距離を短くするといった対策を講じること等が必要になる。
また、加熱過程において、エッジ部の内面および外面の温度偏差は接合する両エッジの突合せ状態によって変化する。すなわち、電縫溶接において、管の円筒断面を正面(管軸方向正面)からみたときの両エッジの突合せが傾かず、両エッジ面が真正面から接合されるI形突合せが理想的であり、このときの両エッジ部の内面および外面の温度偏差はほぼ無く、スクイズロールによるアプセットにおいて管の内面側および外面側の外部へペネトレータが滞りなく排出される。
一方、両エッジの突合せが傾くと、エッジ部の接合面に均等な近接効果が発生せず、両エッジ間距離が短い箇所に加熱が偏ってしまう。例えば、円筒断面を正面からみたときの両エッジの突合せがV形突合せであればエッジ部の内面側、逆V形突合せであればエッジ部の外面側の温度上昇が顕著になり、両エッジ間距離が長くなった部位では加熱が不十分になってしまう。その結果、スクイズロールのアプセットにおいて、加熱が不十分であった側のペネトレータの排出が阻害され、溶接部品質の悪化の原因となる。
そのため、電縫溶接ではスクイズロールによるアプセットを行うまでの加熱工程において肉厚中央部の加熱の遅延と、エッジ部の内面および外面の温度偏差を抑制できる溶接条件を確立することが溶接部品質を確保するうえで重要である。
[1]鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対してアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理装置であって、
電縫溶接前において、オープン管の少なくとも片側のエッジ部の肉厚方向の温度分布の情報に基づいて、前記エッジ部の外表面温度To、内表面温度Tiおよび肉厚中心温度Tcを検出する電縫溶接前エッジ温度検出部と、
前記外表面温度Toと前記内表面温度Tiとの温度差ΔTを算出するエッジ温度差算出部と、
前記オープン管の両エッジ部と、前記オープン管の両エッジ部が接合して溶接を開始する溶接点とを含む領域の画像情報に基づいて、
前記エッジ部に沿って収束する2つの直線を抽出して、前記2つの直線の交点であるV収束点を抽出するV収束点抽出部と、
前記2つの直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出部と、
前記V収束点から前記溶接点までの距離を狭間隙長さLとして算出する狭間隙長さ算出部と、
前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tc、前記V収束角度θおよび前記狭間隙長さLの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定部と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理装置。
[2]前記溶接状態判定部は、
前記狭間隙長さLが、前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tcおよび前記V収束角度θの値に応じて予め設定された上限値以下である場合に電縫溶接条件が良好であると判定する、前記[1]に記載の電縫鋼管の溶接管理装置。
[3]前記溶接状態判定部は、
前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tcが、前記V収束角度θの値および前記Lの値に応じて予め設定された範囲内であるか否かで電縫溶接条件の良否を判定する、前記[1]または[2]に記載の電縫鋼管の溶接管理装置。
[4]鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対してアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理方法であって、
電縫溶接前において、オープン管の少なくとも片側のエッジ部の温度分布の情報に基づいて、前記エッジ部の外表面温度To、内表面温度Tiおよび肉厚中心温度Tcを検出する電縫溶接前エッジ温度検出工程と、
前記外表面温度Toと前記内表面温度Tiとの温度差ΔTを算出するエッジ温度差算出工程と、
前記オープン管の両エッジ部と、前記オープン管の両エッジ部が接合して溶接を開始する溶接点とを含む領域の画像情報に基づいて、
前記エッジ部に沿って収束する2つの直線を抽出して、前記2つの直線の交点であるV収束点を抽出するV収束点抽出工程と、
前記2つの直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出工程と、
前記V収束点から前記溶接点までの距離を狭間隙長さLとして算出する狭間隙長さ算出工程と、
前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tc、前記V収束角度θおよび前記狭間隙長さLの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定工程と、
を含む、電縫鋼管の溶接管理方法。
[5]鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対してアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の製造方法であって、
前記電縫溶接の際、前記[4]に記載の電縫鋼管の溶接管理方法により溶接管理を行う、電縫鋼管の製造方法。
[6]前記[1]~[3]のいずれかに記載の電縫鋼管の溶接管理装置と、
電縫溶接前において、オープン管の少なくとも片側のエッジ部の温度分布の情報を取得するエッジ温度情報取得装置と、
電縫溶接前において、オープン管の両エッジ部および該両エッジ部が収束して形成される溶接点を撮影する溶接部撮影装置と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理システム。
この撮影機によりコンタクトチップ31a、31bと溶接スタンド40の間に位置するオープン管1のエッジ部の所定領域を肉厚方向に全厚撮影できるように、エッジ温度情報取得装置11は設置され、位置調整がなされる。エッジ温度情報取得装置11の撮影機は、少なくとも向い合う一方のエッジ部において管外面から管内面まで加熱された表面を撮影する。このとき、上記温度計としては放射温度計や、二色温度計などが挙げられるが、温度分布を取得できる温度計であればいずれでもよい。また、エッジ温度情報取得装置11は、光学系の調整のためのズームレンズや露光調整器などの調整器も有する。上記調整器は、撮影視野は100mm×40mmとし、分解能としては500μm/画素もしくはそれよりも高い分解能を確保することが好ましい。分解能は、100μm/画素もしくはそれよりも高い分解能であることがより好ましい。
このとき、撮影機(カメラ)の画素数は1920×1080以上であることが好ましい。分解能が500μm/画素よりも低い分解能であるとエッジ部温度の検出精度が悪化する場合がある。
また、溶接部撮影装置12には、光学系の調整のためのズームレンズや露光調整器などの調整器も含まれる。上記調整器は、撮影視野は100mm×40mmとし、分解能としては100μm/画素もしくはそれよりも高い分解能を確保することが好ましい。分解能は、50μm/画素もしくはそれよりも高い分解能であることがより好ましい。このとき、カメラの画素数は1920×1080以上であることが好ましい。分解能が100μm/画素よりも低い分解能であると、V収束点や溶接点の検出精度が悪化する場合がある。また、電縫溶接の溶接速度は、100m/minを超える速度で溶接される場合があり、撮影視野100mmの領域以内で、任意の撮影点を1回以上撮影するためにはフレーム速度を20fps(frames per second)以上に設定することが好ましい。フレーム速度が20fps未満の場合、電縫管の溶接部には溶接の画像解析が実施できていない領域が発生し、溶接欠陥を見逃す可能性がある。
また、溶接管理装置100は、溶接状態判定部141による判定結果を出力する出力部142を有してもよい。
溶接管理装置100は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータで構成され、CPU等による演算処理機能、GPU等による画像処理機能、後述の記憶部143の一例としてのROMやRAM等の各種メモリ機能を有する。また、溶接管理装置100は、その他、データ通信端子で接続されたハードディスク等の記録媒体、グラフィックへの表示装置やアラーム装置等の出力部を備える。
電縫溶接前エッジ温度検出部122は、空間座標算出部123(温度検出範囲の空間座標算出部123)と肉厚方向温度分布検出部124(指定位置肉厚方向温度分布検出部124)とを有していてよい。
空間座標算出部123では、温度分布の情報を得るための所定領域のエッジ部における、温度分布情報が含まれた画素情報に基づいて、3次元の空間の座標を算出する。
特に限定されないが、空間座標算出部123は、2次元座標として表示し得る画像データに基づいて空間座標を算出することができる。空間座標算出部123は、2次元の画像データ内の画像そのものに対してX座標およびY座標を設定し、さらに、画像の奥行方向にZ座標を設定し、画像データを3次元データとして扱うことができる。
また、肉厚方向温度分布検出部(指定位置肉厚方向温度分布検出部)124では、管長手方向の予め設定された位置における温度分布の検出を行う。肉厚方向温度分布検出部124は、少なくとも、エッジ部の外表面温度To、内表面温度Tiを検出する。また、肉厚方向温度分布検出部124は、肉厚中心温度Tcも検出する。
エッジ温度分布処理部121における上記の処理と並行して、まず、管エッジ画像検出部132では、溶接画像の情報に基づいて、V収束点周辺の赤熱したエッジ部の両端を検出する。
エッジ温度分布処理部121は、撮像された画像情報を含む温度分布の情報のうち、エッジ部の接合面上の2次元の温度分布の情報、すなわち、管長手方向と肉厚方向の2次元の温度分布の情報を検出する。
これにより、ステップS1の処理は完了し、溶接管理処理はステップS2の処理に進む。
管の長手方向の任意の位置については、特に限定されないが、スクイズロール41a、41bのロール中央部に対して溶接方向の反対方向へ3mmの位置から、スクイズロール41a、41bのロール中央部と、コンタクトチップ31あるいはワークコイル(図示せず)との中間位置までにおける任意の位置であることが好ましい。
肉厚方向温度分布検出部124が温度分布を検出する範囲は、指定した管の長手位置に対して±0.5mmの長手方向の領域を含み、肉厚方向温度分布検出部124はエッジ部の全厚の領域を検出する。
エッジ部の外表面および内表面に該当する角部は、高周波加熱特有の表皮効果によって、角部以外の平坦部などに比べ加熱されやすい傾向を示す。
そのため、肉厚方向の温度分布は、エッジ部の外面および内面の角部位置を頂点(ピーク)とした温度分布となる。この特徴より、全厚領域の判定として、肉厚方向の温度分布に基づいて、エッジ部の外面および内面位置に検出されたピーク間の距離を、管の肉厚と判定する。そして、その判定した管の肉厚(管肉厚判定値)と、予め設定していた管の肉厚(実肉厚)との誤差が±3%以内であれば、温度分布測定結果は十分な精度が得られていると判断する。
上記誤差が±3%以内の範囲になければ、エッジ温度分布情報取得装置11の視野調整を行い、再度、ステップS1~S3の処理を行い、上記誤差が±3%以内になるまで繰り返す。これにより、ステップS3の処理は完了し、溶接管理処理はステップS4の処理に進む。
具体的には、上記の検出した肉厚方向の温度分布の情報を用いて、電縫溶接前エッジ温度検出部122(肉厚方向温度分布検出部124)が、エッジ部の管外表面および管内表面位置における温度情報のピーク中央位置(ピークの頂点位置)の温度をそれぞれ、外表面温度To、内表面温度Tiとして検出する。
また、電縫溶接前エッジ温度検出部122(肉厚方向温度分布検出部124)は、管エッジ部の外表面および内表面位置における温度のピーク間の中央部位置の温度を検出し、これを肉厚中央部の温度Tcとする。
これにより、ステップS4の処理は完了し、溶接管理処理はステップS5の処理に進む。
まず、管エッジ画像検出部132は、撮像された画像を用いて加熱部201周辺の輝度の変化から、溶接部のエッジ検出画像20を得る。また、同時に画像の画素数から長さ単位へ換算処理を行う。ここでは、エッジ検出画像20の左下の端部を原点としたXYの2軸の座標系とし、長さをミリメートルとして扱うが、この限りではない。画素数から長さ単位への換算処理においてはあらかじめ、ゲージなどの標準試料を同一の視野で撮影することで、100mmあたりの画素数を検出し、画素数から長さへの換算処理を行う。以上により、ステップS6の処理は完了し、溶接管理処理はステップS7の処理に進む。
V収束点抽出部133は、直線La、Lbの交点をV収束点204として抽出する。
これにより、ステップS7の処理は完了し、溶接管理処理はステップS8の処理に進む。
溶接部のエッジ検出画像におけるV収束点204はLa、Lbの2直線が成す交点である。検出されたV収束角度θについては、V収束角度算出部134が、幾何学的な式を用いて算出することができる。また、V収束点204については、V収束点抽出部133が、それぞれ幾何学的な式を用いて算出し、数値化および座標データ化を行うことができる。これにより、ステップS8の処理は完了し、溶接管理処理はステップS9の処理に進む。
狭間隙長さ算出部135は、V収束点204の位置よりも下流側(溶接方向側)に開口部202の有無を判定する。このとき、狭間隙長さ算出部135は、V収束点204よりも下流側において所定の閾値よりも小さい輝度を有する画素が溶接方向に連続的に存在する場合を開口部202有りと判定する。この開口部202の有無の判定は一定時間の間におけるエッジ検出画像20で繰り返し行い、狭間隙長さ算出部135は、開口部202有りと判定された最下流位置を溶接点205とみなし、溶接点205の座標データとして検出する。判定に要する時間はスクイズロール(SQロール)1周期以上であることが好ましい。
なお、V収束点204の位置と溶接点205の位置との鉛直方向側のずれについては、電縫鋼管の製造中に生じるねじれ(管の周方向の回転)により発生する可能性があるが、必要に応じて位置補正により調整することができる。しかしながら、上述した溶接点205の位置検出において、この鉛直方向側のずれは発生しても検出結果に影響しない範囲内である。
この良否判定について、溶接状態判定部141は、狭間隙長さLが、肉厚中心温度Tcに対する上記温度差ΔTの割合:ΔT/TcおよびV収束角度θの値に応じて予め設定された上限値以下である場合に電縫溶接条件が良好であると判定してもよい。
また、溶接状態判定部は、肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tcが、V収束角度θの値および前記Lの値に応じて予め設定された範囲内であるか否かで電縫溶接条件の良否を判定してもよい。
ΔT/Tcは正負の値を取り得る。ΔT/Tcの絶対値が大きい場合、すなわち、ΔTが過度に大きい、あるいはTcが過度に小さい場合、管外部へのペネトレータの排出が阻害されやすい。よって、ΔT/Tcについては、正負の許容範囲の上下限内であれば、ペネトレータの排出が阻害されていない溶接条件であることを示している。
上記許容範囲の設定においては、上記狭間隙長さLと、上記V収束角度θとをパラメーターとして扱う。オフラインでの溶接部の評価試験はへん平試験、溶接部中の酸化物を検知する超音波探傷試験(JIS G 0583『鋼管の自動渦電流探傷検査方法』に準じる)、溶接部から試験片を切出したシャルピー衝撃試験(JIS Z 2242『金属材料のシャルピー衝撃試験方法』に準じる)等があるが、所望の特性に合わせて試験方法を選定する。
例えば、上記肉厚中央部Tcの温度と管の素材の融点との差(該融点(℃)-Tc(℃))が300℃以下となる位置で温度測定が行われる。
上記肉厚中央部Tcが融点よりも300℃を超えて低くなった場合、すなわち、上記管の素材の融点(℃)-Tc(℃)が300℃超となる場合、溶接するまでの両エッジの加熱過程が不明確になり、上記狭間隙長さLと両エッジ端面の温度分布の関係性が認められにくくなる。
上記の温度測定において、管の素材の融点(℃)-Tc(℃)は、200℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。
図5に示す例では、溶接部のへん平率H/D(へん平率H/Dの最大値)が0.5以下を合格として〇と表記し、0.5超で不合格として×と表記する。溶接状態判定部141は、この合否判定の境界を定め、任意の上記狭間隙長さLにおける温度比ΔT/Tcの上下限を設定する。溶接部品質の合否の境界については、狭間隙長さLを関数として境界曲線を設定して記憶部143に記録する方法や、任意の狭間隙長さLに対して、温度比ΔT/Tcの上下限をあらかじめ設定して記憶部143に記録する方法などがあるがこの限りではない。
また、溶接状態判定部141は、狭間隙長さLについて、ΔT/Tcに応じて上限値を設定し、V収束角度θを変更して、合否判定の境界を定めることもできる。
V収束角度θは、スクイズロールよりも上流側に存在するフィンパススタンド群のうち最も溶接機側に配置される最終フィンパススタンドのフィンロールのフィン幅を変更することで調整することができるが、この限りではない。
図6は、V収束角度θ1~θ3それぞれにおいて、狭間隙長さLとΔT/Tcの値に応じた電縫溶接の良否結果を説明するための概念図である。図6では、狭間隙長さLと温度比ΔT/Tcの関係およびそれぞれの許容範囲(へん平高さ合格範囲)を縦に並べた概念図を示す。
任意のV収束角度θ2の条件から得られた任意の狭間隙長さLにおける温度比ΔT/Tcの許容範囲(へん平高さ合格範囲)を内挿計算から算出する。
この算出方法の具体例については、例えば、まず、変数を角度θとし、合格判定の領域R(L,ΔT/Tc)はθの関数とする。既知の領域R1とR3から想定している角度θ2の合格判定領域R2をθの一次関数で計算する。
図6を参照しながら説明すると、θ1とθ3の合格判定領域R1とR3が分かっているとき、例えば、各領域における同一の狭間隙長さLに対するΔT/Tcの下限|ΔT/Tc|1、|ΔT/Tc|3を求める。
次に、これら2点(θ1、L、|ΔT/Tc|1)と(θ3、L、|ΔT/Tc|3)を結ぶ直線を引く。これにより、|ΔT/Tc|はθの一次関数として表すことができるため、任意の角度θ2において、狭間隙長さLにおける下限|ΔT/Tc|2が求められる。これを繰り返し行い、合格領域全体を導出する。
なお、この処理で得られた結果については、記憶部143に記録しておくことができる。これにより、ステップS10の処理は完了し、溶接管理処理はステップS11の処理に進む。
本発明では、上述した溶接管理装置に用いた溶接管理方法、この溶接管理方法を含む電縫鋼管の製造方法、さらには溶接管理装置を有する溶接管理システムも提供される。
電縫鋼管の製造方法は、鋼板又は鋼帯に対して周方向に連続的な曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対して、連続的にアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の製造方法であって、電縫溶接の際、前述した溶接システムにより行われる処理(溶接管理方法)により溶接管理を行う。
より具体的には、電縫溶接時の肉厚方向の温度分布を小さくし、入熱調整の精度を向上させることで、溶接欠陥を抑止することができる。
このとき、フィンパススタンドの最終スタンドのフィンロールのフィン幅を変更してV収束角度θを3~5°まで0.5°ピッチで変更した。
そして、各V収束角度θ条件における、任意の狭間隙長さLに対する温度比ΔT/Tcの上下限を導出した。ここで、ΔTは測定位置における管エッジの内表面温度Tiから外表面温度Toを引いた値である。
本実施例において、予め測定できていない狭間隙長さLにおける温度比ΔT/Tcの上下限の値は、その前後で明らかになっている狭間隙長さLにおける温度比ΔT/Tcの上下限の値を用いた。上記明らかになっている狭間隙長さLを関数にした一次関数式を用いて、内挿計算を行い、測定できていない狭間隙長さLにおける温度比ΔT/Tcの上下限の値を得た。
同様に、本実施例において、予め測定できていないV収束角度θの条件における温度比ΔT/Tcの上下限の値は、その前後で明らかになっている一定の狭間隙長さLにおける温度比ΔT/Tcの上下限の値を用いた。上記V収束角度θを関数にした一次関数式を用いて、内挿計算を行い、予め測定できていないV収束角度θの条件における温度比ΔT/Tcの上下限の値を得た。
以上のことから溶接条件の許容範囲を導出した。
ここでは、エッジ肉厚中央部の温度Tcおよび上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差ΔTの測定条件や狭間隙長さLと、前記V収束角度θを測定する方法は前記共用範囲の導出の条件と同じである。図7に上記条件であらかじめ導出していた溶接条件の許容範囲例を示す。また、得られた鋼管を100mm長さに切り出し、JIS G3478:2015に基づいて溶接部のへん平試験を行い、へん平率を測定した。へん平試験を10回行い、いずれにおいても、9回以上のへん平率H/Dが0.5以下であった条件を合格とした。
発明例1は、成形条件一定のもと許容範囲の狭間隙長さL、温度比ΔT/Tcの関係を満たすように電縫溶接の投入電力を調整した。
発明例2は、投入電力一定のもと許容範囲の狭間隙長さL、温度比ΔT/Tcの関係を満たすように成形中のエッジベンドを調整した。
これに対して、比較例1、2は、電縫溶接時の溶接管理を行わず、溶接電力を調整し、排出溶鋼の状態を目視のみで確認した。
発明例3は、成形条件一定のもと許容範囲の狭間隙長さL、温度比ΔT/Tcの関係を満たすように電縫溶接の投入電力を調整した。これに対して比較例3は、発明例3の条件から、ワークコイル-スクイズロール間距離を長くし、かつ、電縫溶接時の溶接管理を行わず、エッジ部の内外面の温度差Ti-Toが発明例3と同等になるように投入電力を調整した。
発明例4は、成形条件一定のもと許容範囲の狭間隙長さL、温度比ΔT/Tcの関係を満たすように電縫溶接の投入電力を調整した。これに対して比較例4は、発明例4の条件から、エッジベンド量を大きくし、かつ、電縫溶接時の溶接管理を行わず、エッジ部の肉厚中央部の温度Tcが発明例4と同等になるように投入電力を調整した。
2 フィンパスロール
3 高周波発振装置
31、31a、31b コンタクトチップ
40 溶接スタンド
41a、41b スクイズロール
42a、42b トップロール
10 溶接管理システム
11 エッジ温度情報取得装置
12 溶接部撮影装置
100 溶接管理装置
110 入力部
111 エッジ温度分布データ入力部
112 溶接部撮影データ入力部
121 エッジ温度分布処理部
122 電縫溶接前エッジ温度検出部
123 空間座標算出部
124 肉厚方向温度分布検出部
125 エッジ温度差算出部
131 溶接画像処理部
132 管エッジ画像検出部
133 V収束点抽出部
134 V収束角度算出部
135 狭間隙長さ算出部
141 溶接状態判定部
142 出力部
143 記憶部
20 溶接部画像のエッジ検出画像
201 加熱部
202 開口部
202a、202b オープン管の両エッジ端面
La、Lb 直線
θ V収束角度
203 溶接ビード
204 V収束点(接合点)
205 溶接点
L 狭間隙長さ
Claims (7)
- 鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対してアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理装置であって、
電縫溶接前において、オープン管の少なくとも片側のエッジ部の肉厚方向の温度分布の情報に基づいて、前記エッジ部の外表面温度To、内表面温度Tiおよび肉厚中心温度Tcを検出する電縫溶接前エッジ温度検出部と、
前記外表面温度Toと前記内表面温度Tiとの温度差ΔTを算出するエッジ温度差算出部と、
前記オープン管の両エッジ部と、前記オープン管の両エッジ部が接合して溶接を開始する溶接点とを含む領域の画像情報に基づいて、
前記エッジ部に沿って収束する2つの直線を抽出して、前記2つの直線の交点であるV収束点を抽出するV収束点抽出部と、
前記2つの直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出部と、
前記V収束点から前記溶接点までの距離を狭間隙長さLとして算出する狭間隙長さ算出部と、
前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tc、前記V収束角度θおよび前記狭間隙長さLの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定部と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理装置。 - 前記溶接状態判定部は、
前記狭間隙長さLが、前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tcおよび前記V収束角度θの値に応じて予め設定された上限値以下である場合に電縫溶接条件が良好であると判定する、請求項1に記載の電縫鋼管の溶接管理装置。 - 前記溶接状態判定部は、
前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tcが、前記V収束角度θの値および前記Lの値に応じて予め設定された範囲内であるか否かで電縫溶接条件の良否を判定する、請求項1または2に記載の電縫鋼管の溶接管理装置。 - 鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対してアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理方法であって、
電縫溶接前において、オープン管の少なくとも片側のエッジ部の肉厚方向の温度分布の情報に基づいて、前記エッジ部の外表面温度T0、内表面温度Tiおよび肉厚中心温度Tcを検出する電縫溶接前エッジ温度検出工程と、
前記外表面温度Toと前記内表面温度Tiとの温度差ΔTを算出するエッジ温度差算出工程と、
前記オープン管の両エッジ部と、前記オープン管の両エッジ部が接合して溶接を開始する溶接点とを含む領域の画像情報に基づいて、
前記エッジ部に沿って収束する2つの直線を抽出して、前記2つの直線の交点であるV収束点を抽出するV収束点抽出工程と、
前記2つの直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出工程と、
前記V収束点から前記溶接点までの距離を狭間隙長さLとして算出する狭間隙長さ算出工程と、
前記肉厚中心温度Tcに対する前記温度差ΔTの割合:ΔT/Tc、前記V収束角度θおよび前記狭間隙長さLの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定工程と、
を含む、電縫鋼管の溶接管理方法。 - 鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対してアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の製造方法であって、
前記電縫溶接の際、請求項4に記載の電縫鋼管の溶接管理方法により溶接管理を行う、電縫鋼管の製造方法。 - 請求項1または2に記載の電縫鋼管の溶接管理装置と、
電縫溶接前において、オープン管の少なくとも片側のエッジ部の温度分布の情報を取得するエッジ温度情報取得装置と、
電縫溶接前において、オープン管の両エッジ部および該両エッジ部が収束して形成される溶接点を撮影する溶接部撮影装置と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理システム。 - 請求項3に記載の電縫鋼管の溶接管理装置と、
電縫溶接前において、オープン管の少なくとも片側のエッジ部の温度分布の情報を取得するエッジ温度情報取得装置と、
電縫溶接前において、オープン管の両エッジ部および該両エッジ部が収束して形成される溶接点を撮影する溶接部撮影装置と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理システム。
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