以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1に示す本実施形態に係るコイル装置としてのトランス10は、たとえばEV(Electric Vehicle:電動輸送機器)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle:プラグインハイブリッド自動車)、あるいはコミュータ(車両)用の車載用充電器などに用いられ、たとえばLLC回路の一部を構成するために用いられる。
分解斜視図である図4に示すように、このトランス10は、ボビン20と、磁性コア40aおよび40bと、サイドカバー50と、台座86と、これらを内部に収容するケース90と(図3参照)、底板92、端子部70とを有する。また、図4では図示を省略しているが、トランス10は、ボビン20に巻回してある第1ワイヤ38及び第2ワイヤ37によって形成されるコイル300を有する(図9)。なお、図面において、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直であり、Z軸は、トランス10の高さ(厚み)に対応する。本実施形態では、トランス10のZ軸方向の下方が、トランスの設置面となる。また、Y軸は、楕円形のボビン20の短軸方向に一致する。さらに、X軸は、ボビン20の長軸方向に一致するようになっている。
本実施形態では、図2及び図6に示すように、底板92がケース90の底部開口部に、カシメや接着などの手段で取り付けられている。図6に示すように、ケース90の上部開口部は開放してある。底板92は、放熱性に優れたアルミニウム銅、鉄などの金属で構成してあることが好ましいが、PPS、PET、PBTなどの樹脂で構成しても良い。底板92には、後述する磁性コア40bのZ軸方向の下端面が直接または樹脂を介して接触又は近接することから、底板92は、放熱性に優れた材質で構成されることが好ましい。ケース90の下方には、底板92を介して、あるいは、直接に冷却パイプ、冷却フィンなどの冷却装置を装着しても良い。また、ケース90と底板92とは、図4に示すように別体であってもよいが、一体に成形されていてもよい。
図2及び図6に示すように、ケース90はZ軸方向から見て略矩形となる四角筒状の外形状を有しており、ケース90は、トランス10を固定する基板やフレームなどの外部の部材に取り付けられる。ケース90は、ケース90を外部に直接固定するための取付部を有していてもよい。ケース90を外部に直接固定する取付部は、たとえばボルト孔やZ軸方向に延びる切り欠きのような、ボルト等の固定部材を設けるための構造であってもよく、ケース90を固定するための固定面や接着面のような構造であってもよい。ケース90は、合成樹脂などで構成されてもよく、金属で構成されてもよい。なお、底板92とケース90とを樹脂成形などにより樹脂材料で一体成型しても良い。図1および図2に示すように、ケース90には、第1ワイヤ38及び第2ワイヤ37からなるワイヤが接続される端子部70(図7参照)が固定されている。端子部70については、後程述べる。
図3等に示すように、ケース90の内部、より具体的にはケース90内に収容されるボビン20及び磁性コア40a、40bとケース90の内面との隙間には、放熱用の樹脂88が充填してある。放熱用の樹脂88としては、特に限定されないが、たとえば熱伝導率が0.5~5、好ましくは1~3W/m・Kである放熱性に優れた樹脂が好ましい。放熱性に優れた樹脂88としては、たとえばシリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などがあるが、中でも、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂が好ましい。また、放熱性を高めるために、樹脂88は、熱伝導性の高いフィラーを含んでいてもよい。
また、本実施形態の放熱用樹脂88は、ショアA硬度が100以下、好ましくは60以下であることが好ましい。磁性コア40a、40bやボビン20が熱により変形したとしても、その変形を吸収し、磁性コア40a、40bに過大な応力を発生させないようにするためである。このような樹脂としては、ポッティング樹脂が例示される。
ケース90及び樹脂88を除くトランス10の断面図である図5に示すように、ケース90に収容されるボビン20には、第1ワイヤ38及び第2ワイヤ37によって形成されるコイル300が巻回してある。図9および図10は、トランス10の第1ワイヤ38と第2ワイヤ37を表示したものである。図10は、トランス10内での第1ワイヤ38と第2ワイヤ37の配置状態を側面から観察した図である。図9は、第1ワイヤ38と第2ワイヤ37の形状を分かりやすく表すために、第1ワイヤ38と第2ワイヤ37とを、トランス10内での配置状態に対してX方向にオフセットして表示した斜視図である。
図9および図10に示すように、トランス10は、第1ワイヤ38と、第1ワイヤ38とは不連続である第2ワイヤ37との2本のワイヤを有している。第1ワイヤ38と第2ワイヤ37とは、ボビン20のボビン本体21回りに巻回されてコイル300を形成している。コイル300は、上部コイル301と、下部コイル302と、これらの上部コイル301と下部コイル302との間に位置する中部コイル303とを有する。
図9に示すように、第1ワイヤ38は、Z軸方向に平行である巻き軸に沿って互いに離間して配置される上部コイル301と下部コイル302とを形成している。第2ワイヤ37は、上部コイル301と下部コイル302との間に中部コイル303を形成しており、中部コイル303は、コイル300の巻き軸(Z軸方向)に沿って、上部コイル301と下部コイル302とで挟まれている。
本実施形態では、第1ワイヤ38による上部コイル301及び下部コイル302は一次コイルを構成し、第2ワイヤ37による中部コイル303は二次コイルを構成する。すなわち、図11に示すように、第1ワイヤ38で形成される上部コイル301および下部コイル302が1次側巻線、第2ワイヤ37で形成される中部コイル303が二次側巻線となることにより、両者間でトランスが形成される。
本実施形態では、一次コイルには、二次コイルに比較して高電圧が作用し、二次コイルには比較的に低電圧が作用する。ここで、図11に示すLaは漏れインダクタンスである。
第1ワイヤ38および第2ワイヤ37は、それぞれ単線で構成されてもよく、あるいはそれぞれ撚り線で構成されてもよく、あるいは一方が単線で他方が撚り線であってもよい。第1ワイヤ38および第2ワイヤ37は、同じ材質で構成されていても異なっていても良い。第1ワイヤ38および第2ワイヤ37の外径は、特に限定されないが、好ましくは1.0~4.0mmの範囲である。たとえば、二次コイルに流れる電流が大きくなる場合は、二次コイルを形成する第2ワイヤ37の外径が、一次コイルを形成する第1ワイヤ38の外径よりも大きく、たとえば3.0~4.0mmが好ましい。また、第1ワイヤ38および第2ワイヤ37は、絶縁被膜で被覆された被覆線であることが好ましい。
図1及び図2に示す第1リード部38a、38bは、図9及び図10に示す第1ワイヤ38の両端部である。図9に示すように、第1リード部38aは下部コイル302から引き出されており、第1リード部38bは上部コイル301から引き出されている。図1に示すように、第1リード部38a、38bは、ボビン20のワイヤ案内台23上を引き回されたのち、ケース90に固定されている第1端子部76、78に接続される。
また、図1及び図2に示す第2リード部37a、37bは、図9及び図10に示す第2ワイヤ37の両端部である。図9に示すように、第2リード部37a、37bは中部コイル303から引き出されている。図1に示すように、第2リード部37a、37bは、第1リード部38a、38bが引き回されるワイヤ案内台23とはコア40を挟んで反対側に配置されるワイヤ案内台22上を引き回されたのち、ケース90に固定されている第2端子部72、74に接続される。
図9に示すように、本実施形態では、上部コイル301および下部コイル302における第1ワイヤ38の合計巻数n1と、中部コイル303を構成する第2ワイヤ37の合計巻数n2とは、等しくなっている。しかしながら、n1とn2は異なっていてもよく、たとえば、n1>n2としてもよく、あるいはn1<n2としてもよい。本実施形態では、これらの巻き数の比率(n1/n2)が大きい場合あるいは小さい場合でも、結合係数を比較的に大きくすることが可能であり、リーケージ特性の安定化に寄与する。
第1ワイヤ38が形成する上部コイル301および下部コイル302の合計巻数n1は、上部コイル301および下部コイル302に略均等に分けられることが好ましいが、多少異なっていても良い。すなわち、上部コイル301における第1ワイヤ38の巻き数は、(0.3~0.7)×n1であることが好ましく、下部コイル302における第1ワイヤ38の巻き数は、(0.7~0.3)×n1であることが好ましい。一次コイルと二次コイルとの結合係数を向上させるためである。
図10に示すように、第1ワイヤ38は、上部コイル301と下部コイル302との間を巻き軸(Z軸)方向に延びる第1コイル間接続部380を有する。本実施形態では、上部コイル301と下部コイル302とが第1ワイヤ38で連続して形成してあるため、第1ワイヤ38には、上部コイル301と下部コイル302の間を巻き軸方向に延びる第1コイル間接続部380が形成されることになる。
図10に示すように、第1コイル間接続部380は、中部コイル303の内径側を通過している。詳細については後述するが、本実施形態では、最初に第1ワイヤ38をボビン20に巻回して、上部コイル301および下部コイル302を形成し、次いで第2ワイヤ37をボビン20に巻回して、中部コイル303を形成している。
このように、第1ワイヤ38をボビン20に巻回したのちに第2ワイヤ37をボビン20に巻回することにより、第1コイル間接続部380は、中部コイル303の外径側ではなく内径側を通過する。図5に示すように、第1コイル間接続部380を中部コイル303から絶縁するために、第1絶縁カバー81が、ボビン20に装着してある。第1絶縁カバー81については、後で詳細に説明する。
図10に示すように、第2ワイヤ37は、中部コイル303の一層目と二層目との間を巻き軸(Z軸)方向に延びる第2コイル間接続部370を有する。本実施形態では、中部コイル303の一層目と二層目とが第2ワイヤ37で連続して形成してあるため、第2ワイヤ37には、中部コイル303の一層目と二層目との間を巻き軸方向に延びる第2コイル間接続部370が形成されることになる。
図9に示すように、第2ワイヤ37においては、中部コイル303の一層目(上層)から第2リード部37aが引き出されており、中部コイル303の二層目(下層)から第2リード部37bが引き出されている。
より詳細には、図9に示すように、第2ワイヤ37の両端に形成してある第2リード部37a、37bは、コイル300の巻き軸(Z軸)方向に延びる立上部371a、371bと、ワイヤ案内台22およびワイヤ案内台22から第2端子部72、74まで略水平方向に延びる上部ワイヤ部372b、372bとを有する。なお、立上部371a、371bは、Z軸に対して必ずしも平行ではなく傾斜していてもよい。
上部ワイヤ部372b、372b同士の間隔や、立上部371a、371b同士の隙間間隔は、トランス10に求められる特性に応じて変更することが可能である。例えば、上部ワイヤ部372b、372b同士の間隔や、立上部371a、371b同士の隙間間隔により、二次側コイルのリーケージを調整可能である。
一方、図9に示すように、第1ワイヤ38においては、上部コイル301から第1リード部38bが引き出されており、下部コイル302から第1リード部38aが、それぞれ引き出されている。第1ワイヤ38の両端に形成してある第1リード部38a、38bは、コイル300の巻き軸(Z軸)方向に延びる立上部381a、381bと、ワイヤ案内台22およびワイヤ案内台22から第1端子部76、78まで略水平方向に延びる上部ワイヤ部382b、382bとを有する。なお、立上部381a、381bは、Z軸に対して必ずしも平行ではなく傾斜していてもよい。
第1ワイヤ38に関しても、上部ワイヤ部382b、382b同士の間隔や、立上部381a、381b同士の隙間間隔を、トランス10に求められる特性に応じて変更することが可能である。たとえば、上部ワイヤ部382b、382b同士の間隔や、立上部381a、381b同士の隙間間隔により、一次側コイルのリーケージを調整可能である。
図8に示すように、ボビン20は、ボビン本体21と、ボビン本体21のX軸方向の両端上部に一体に成形してあるワイヤ案内台22、23とを有する。ボビン20は、たとえばPPS、PET、PBT、LCP、ナイロンなどのプラスチックで構成してあるが、その他の絶縁部材で構成されても良い。ただし、本実施形態では、ボビン20としては、たとえば1W/m・K以上に熱伝導率が高いプラスチックで構成することが好ましく、たとえばPPS、ナイロンなどで構成してある。
ボビン20におけるX軸負方向側の上端部に設けられるワイヤ案内台22は、側壁部221と、係合突起部224を有する。側壁部221は、第2リード部37a、37bが引き出されるX軸負方向側を除き、ワイヤ案内台22の周縁を包囲するように形成してある。上面図である図3に示すように、側壁部221は、磁性コア40aと第2リード部37a、37bとの絶縁距離を拡大することができる。ワイヤ案内台22には、一対の係合突起部224のY軸方向の中間位置に、分離凸部223が形成してある。分離凸部223は、第2リード部37aと第2リード部37bとを隔てることにより、第2ワイヤ37(図8参照)の両端が短絡することを防止できる。
図3および図9に示すように、一対の係合突起部224には、立上部371a、371bでZ軸方向に立ち上げられた第2リード部37a、37bが、上部ワイヤ部372a、372bの部分でX軸負方向側から内側に巻き付けられ、係合突起部224、側壁部221および分離凸部223の間を通過して案内され、再びX軸負方向の外側に折り返される。第2リード部37a、37bが、ワイヤ案内台22においてX軸方向に折り返されることにより、製造中等における中部コイル303(図9参照)の巻き解しを防止することができる。
さらに、図1及び図3に示すように、第2リード部37a、37bは、ワイヤ案内台22から、ボビン20の外周を囲むケース90に固定された第2端子部72、74まで引き回され、第2端子部72、74のワイヤ接続部72b、74bに固定される。
ボビン20におけるX軸正方向側の上端部に設けられるワイヤ案内台23も、ワイヤ案内台22と同様に、側壁部231と、係合突起部234を有する。図3に示すように、ワイヤ案内台23の形状は、ワイヤ案内台22の形状とは非対称であるが、ワイヤ案内台22、23の形状は実施形態に示す形状のみに限定されず、相互に対称な形状を有していてもよい。
ワイヤ案内台23の側壁部231は、第1リード部38a、38bが引き出されるX軸正方向側を除き、ワイヤ案内台23の周縁を包囲するように形成してある。ワイヤ案内台22の側壁部221と同様に、側壁部231は、磁性コア40aと第1リード部38a、38bとの絶縁距離を拡大することができる。ワイヤ案内台23には、一対の係合突起部234のY軸方向の中間位置に、分離凸部233が形成してある。分離凸部233は、第1リード部38aと第1リード部38bとを隔てることにより、第1ワイヤ38(図9参照)の両端が短絡することを防止できる。
図3および図9に示すように、一対の係合突起部234には、立上部381a、381bでZ軸方向に立ち上げられた第1リード部38a、38bが、上部ワイヤ部382a、382bの部分でX軸正方向側から内側(巻き軸側)に巻き付けられ、係合突起部234、側壁部231および分離凸部233の間を通過して案内され、再びX軸正方向の外側に折り返される。第1リード部38a、38bが、ワイヤ案内台23においてX軸方向に折り返されることにより、製造中等における上部及び下部コイル301、302(図9参照)の巻き解しを防止することができる。
さらに、図2及び図3に示すように、第1リード部38a、38bは、ワイヤ案内台23から、ボビン20の外周を囲むケース90に固定された第1端子部76、78まで引き回され、第1端子部76、78のワイヤ接続部76b、78bに固定される。
図5および図8に示すように、ボビン20のボビン本体21に含まれる巻回筒部28のZ軸方向の両端には、端部隔壁鍔24および25が半径方向の外方に延びるように、XY平面に略平行に一体成形してある。端部隔壁鍔24および25のZ軸方向の間に位置する巻回筒部28の外周面には、巻回隔壁鍔26を構成する第1巻回隔壁鍔26aと、第2巻回隔壁鍔26bと、第3巻回隔壁鍔26cとが径方向外方に突出するように、Z軸方向に所定間隔で形成してある。これらの端部隔壁鍔24および25の間に形成された第1~第3巻回隔壁鍔26a~26cにより、これらの隔壁鍔の間には、Z軸方向の下から順に、図5に示すような区画S1~S4が形成される。なお、巻回隔壁鍔26a~26cおよび区画S1~S4の数は、特に限定されない。
図5に示すように、区画S1、S4には、第1ワイヤ38が連続して数ターン(図5では5T)ずつ巻回されて、上部コイル301および下部コイル302が形成されている。また、区画S2、S3には、第2ワイヤ37が連続して数ターン(図5では5T)ずつ巻回され、中部コイル303が構成される。本実施形態では、第1巻回隔壁鍔26aが、上部コイル301と、区画S3に巻回してある中部コイル303の一層目とをZ軸方向に仕切る役割を果たす。また、第2巻回隔壁鍔26bが、区画S3に巻回してある中部コイル303の一層目と、区画S2に巻回してある中部コイル303の二層目とをZ軸方向に仕切る役割を果たす。また、第3巻回隔壁鍔26cが、下部コイル302と、区画S2に巻回してある中部コイル303の二層目とをZ軸方向に仕切る役割を果たす。
図5に示すように、上部コイル301および下部コイル302を形成する第1ワイヤ38が巻回される区画S1、S4におけるZ軸に沿っての区画幅T1は、Z軸方向に1本の第1ワイヤ38が入り込める幅に設定してある。ただし、区画幅T1は、Z軸方向に2本以上の第1ワイヤ38が入り込める幅に設定してもよい。また、本実施形態では、区画幅T1は、全て同じであることが好ましいが、多少異なっていても良い。
また、中部コイル303を構成する第2ワイヤ37が巻回される区画S2、S3におけるZ軸に沿っての区画幅T2は、Z軸方向に1本の第2ワイヤ37が入り込める幅に設定してある。ただし、区画幅T2は、Z軸方向に2本以上の第2ワイヤ37が入り込める幅に設定してもよい。また、本実施形態では、区画S2、S3におけるZ軸に沿っての区画幅T2は、第2ワイヤ37の線径に合わせて、区画幅T1と異なっていることが好ましいが、同じであってもよい。
本実施形態では、区画S1およびS4に巻回される第1ワイヤ38の巻回方法はα巻であり、図10に示す第1コイル間接続部380から、図5に示す各区画S1およびS4に第1ワイヤ38が通されて巻始められ、各区画S1およびS4で下部コイル302および上部コイル301を形成したのち、図9に示す第1リード部38a、38bに引き出される。このため、図5及び図10に示すように、上部コイル301の最内層と下部コイル302の最内層は第1コイル間接続部380で接続される。また、図9に示すように、上部コイル301の最外層から第1リード部38bが引き出され、下部コイル302の最外層から第1リード部38aが引き出される。
また、本実施形態では、区画S2およびS3に巻回される第2ワイヤ37の巻回方法もα巻であり、図10に示す第2コイル間接続部370から、図5に示す各区画S2およびS3に第2ワイヤ37が通されて巻始められ、各区画S2およびS3に中部コイル303を形成したのち、図9に示す第2リード部37a、37bに引き出される。このため、図5及び図10に示すように、区画S2の中部コイル303の最内層と区画S3の中部コイル303の最内層は、第2コイル間接続部370で接続される。また、図9に示すように、区画S2の中部コイル303の最外層から第2リード部37bが引き出され、区画S3の中部コイル303の最外層から第2リード部37aが引き出される。
ここで、α巻きについて説明する。たとえば図8に示すボビン20に、第1ワイヤ38をα巻きするには、まず、巻回隔壁鍔26の周方向一部が切り欠かれている部分(ボビン本体21におけるX軸負方向側の端部)に、第1ワイヤ38の第1コイル間接続部380を通して、図5に示す区画S1と区画S4とを連絡する。そして、第1リード部38aに近い側の第1ワイヤ38の一部は、区画S4の内部で、たとえば右回りに巻回筒部28の外周に巻回される。また、第1リード部38bに近い側の第1ワイヤ38の他の一部は、区画S1の内部で、区画S1における巻き方とは逆の方向(または同一方向でもよい)に、巻回筒部28の外周に巻回される。なお、これらの作業は、自動巻機を用いて行っても良い。
図5に示す区画S2、S3に巻回される第2ワイヤ37は、巻回隔壁鍔26の周方向一部が切り欠かれている部分(ボビン本体21におけるX軸正方向側の端部)に、第2ワイヤ37の第2コイル間接続部370を配置する前後に、第1絶縁カバー81がボビン本体21に装着される。第1絶縁カバー81の装着後、第2リード部37aに近い側の第2ワイヤ37の一部は、区画S3の内部で、たとえば右回りに巻回筒部28の外周に巻回される。同時に、第2リード部37bに近い側の第2ワイヤ37の他の一部は、区画S2の内部で、区画S3における巻き方とは逆の方向(または同一方向でもよい)に、巻回筒部28の外周に巻回される。なお、これらの作業は、自動巻機を用いて行っても良い。
図8に示すように、Z軸方向の最下部に位置する端部隔壁鍔25のX軸方向の両端には、それぞれボビン脚部29が一体に成形してある。各ボビン脚部29は、端部隔壁鍔25のX軸方向の両端から、Z軸方向の下方に突出して形成してある。各ボビン脚部29には、図5に示す各台座86が収容される。
図8に示すように、第1~第3巻回隔壁鍔26a、26b、26cのワイヤ案内台22側には、第1絶縁カバー81のY軸方向幅よりも狭い幅で、切欠部264a、264b、264cが形成してある。また、第1巻回隔壁鍔26aのZ軸方向の下側表面には、切欠部264aが形成されている周方向位置で、Z軸方向に貫通しないザグリ面261aが形成してある。また、第3巻回隔壁鍔26cのZ軸方向の上側表面には、切欠部264cが形成されている周方向位置で、Z軸方向に貫通しないザグリ面261cが形成してある。
ザグリ面261aおよび261cに沿って、第1絶縁カバー81が第1巻回隔壁鍔26aおよび第3巻回隔壁鍔26cの間に取り付けられ、切欠部264a、264cを閉じるようになっている。図5に示すように、第1絶縁カバー81は、たとえば、第1コイル間接続部380を中部コイル303から絶縁するためのものである。
図8に示すように、第1絶縁カバー81は、第1部分鍔811と、第2部分鍔812と、中間部分鍔813と、上方部分鍔814と、中間部分筒815(図5を合わせて参照)と、垂直部816とを有する。
図5に示すように、中間部分筒815は第2ワイヤ37が巻回される円筒の一部を構成する。なお、断面図である図5に示すように、円筒の他の部分は、ボビン20の巻回筒部28で構成される。すなわち、中間部分筒815は、ボビン20の巻回筒部28の一部分である重複部28aに外径側から重ねて設置され、ボビン20の巻回円筒部の他の部分である非重複部28bと組み合わされて円筒を構成し、その円筒の外周に、中部コイル303の最内層が巻回される。図5に示すように、中間部分筒815の内周面は、第1コイル間接続部380を挟んで、ボビン20の巻回筒部28における重複部28aの外周面と対向する。このように、第1コイル間接続部380と第2ワイヤ37(中部コイル303)とが隔離されるように、第1絶縁カバー81を介在させることで、両者の絶縁を確実に図ることができる。
図5および図8に示すように、第1部分鍔811および第2部分鍔812は、それぞれ中間部分筒815のZ軸方向の一端および他端に、XY平面に平行に形成してある。図8に示すように、第1部分鍔811の上面のY軸方向両端には、ザグリ面811aが形成してある。ザグリ面811aは、所定のY軸方向幅を有し、X軸方向に所定距離だけ延びるように形成してある。ザグリ面811aは、第1巻回隔壁鍔26aのザグリ面261aに重ね合わせられ、接触している。第2部分鍔812の下面のY軸方向両端には、ザグリ面812aが形成してある。ザグリ面812aは、所定のY軸方向幅を有し、X軸方向に所定距離だけ延びるように形成してある。ザグリ面812aは、第3巻回隔壁鍔26cのザグリ面261cに重ね合わせられ、接触している。
中間部分鍔813は、第1部分鍔811と第2部分鍔812とで挟まれるように、中間部分筒815のZ軸方向の略中央部に、XY平面に平行に形成してある。図示の例では、中間部分鍔813は、Y軸方向一端側およびY軸方向他端側の2つの部分に分離されている。
垂直部816は、所定のY軸方向幅を有し、第1部分鍔811の上面からZ軸方向に延びるように形成してある。垂直部816は、所定のZ軸方向幅を有し、垂直部814のY軸方向中央部において、第2リード部37a、37bの立上部371a、371bを互いに離して配置するための突起が形成してある。上方部分鍔814は、垂直部816のZ軸正方向端部に接続し、かつ、XY平面に平行に形成してある。
図5に示すように、垂直部816は、第2リード部37a、37bの立上部371a、371bを、第1部分鍔811の上方を通過する第1ワイヤ38から隔てて絶縁するように形成してある。このように、第2ワイヤ37(中部コイル303)と第1ワイヤ38(上部コイル301および下部コイル302)とが隔離されるように、第1絶縁カバー81を介在させることで、両者の絶縁を確実に図ることができる。
また、第2ワイヤ37(中部コイル303の一層目)と、第1ワイヤ38(上部コイル301)との間に、第1部分鍔811および垂直部816を配置することにより、トランス10を大型化することなく、第2ワイヤ37と、第1ワイヤ38との間の沿面距離を十分に確保することができる。
また、第2ワイヤ37(中部コイル303の二層目)と、第1ワイヤ38(下部コイル302)との間に、第2部分鍔812を配置することにより、トランス10を大型化することなく、第2ワイヤ37と、第1ワイヤ38との間の沿面距離を十分に確保することができる。
図5に示すように、上方部分鍔814、第1部分鍔811および端部隔壁鍔24で挟まれた領域には、第1ワイヤ38による上部コイル301が配置される。図5に示すように、上方部分鍔814は、上部コイル301を形成する第1ワイヤ38を、上方部分鍔814の上方を通過する第2ワイヤ37の第2リード部37a、37bから隔離するように形成してある。このように、第1ワイヤ38(上部コイル301)と第2ワイヤ37の第2リード部37a、37bとが隔離されるように、第1絶縁カバー81を介在させることで、両者の絶縁を確実に図ることができる。
また、第2ワイヤ37の第2リード部37a、37b(上部ワイヤ部372a、372b)と、第1ワイヤ38(上部コイル301)との間に、上方部分鍔814を配置することにより、トランス10を大型化することなく、第2ワイヤ37の第2リード部37a、37bと、第1ワイヤ38との間の沿面距離を十分に確保することができる。
図8に示すように、第1絶縁カバー81は、第1部分鍔811のザグリ面811aが第1巻回隔壁鍔26aのザグリ面261aに当接し、第2部分鍔812のザグリ面812aが第3巻回隔壁鍔26cのザグリ面261cに当接して、スライド挿入可能に、ボビン20に固定される。図5に示すように、本実施形態では、第1コイル間接続部380は、中部コイル303の内側を通過するが、図5に示すように、第1コイル間接続部380と中部コイル303とが、第1絶縁カバー81の中間部分筒815によって確実に絶縁される。
また、第1及び第3巻回隔壁鍔26a、26cのワイヤ案内台23側には、図8に示す第2絶縁カバー82が取り付けられるように、切欠部(図5参照)が形成してある。図5に示すように、第2絶縁カバー82は、第1ワイヤ38の第1リード部38aの立上部381aを、中部コイル303から絶縁するとともに、中部コイル303を上部コイル301および下部コイル302から絶縁するためのものである。
図8に示すように、第2絶縁カバー82は、そのZ軸方向の両端にXY軸平面で平行に形成してある第1部分鍔821および第2部分鍔822と、壁部823とを有する。図5に示すように、第2絶縁カバー82は、第1および第2部分鍔821、822をワイヤ案内台23側の第1及び第3巻回隔壁鍔26a、26cに形成してある切欠部にはめ込み、第1および第2部分鍔821、822をワイヤ案内台22側の第1及び第3巻回隔壁鍔26a、26cに形成してあるザグリ面に当接させてスライド挿入することにより、ボビン20に固定される。
図5に示すように、第1ワイヤ38の第1リード部38a(立上部381a)がコイルの上方に向かって引き出される途中で、中部コイル303と隔離されるように、立上部381aと中部コイル303との間に第2絶縁カバー82を介在させることで、両者の絶縁を確実に図ることができる。
また、上部コイル301および下部コイル302と中部コイル303とが隔離されるように、上部コイル301および下部コイル302と中部コイル303との間に第2絶縁カバー82を介在させることで、両者の絶縁を確実に図ることができる。
これらの第1及び第2絶縁カバー81、82は、ボビン20と同様または異なるプラスチックなどの絶縁部材で構成してある。絶縁カバー81、82は、ボビン20とは別に成形されて、ボビン20の周方向の一部に取り付けられる。
図4に示す磁性コア40a、40bは、本実施形態では、同じ形状であり、ZY断面で断面E字形状を有し、いわゆるE型コアを構成する。磁性コア40a、40bは、さらにXZ平面に平行に切断してなる分割コアであるが、磁性コア40a、40bは分割コアのみに限定されない。また、磁性コア40a、40bの形状もE型コアのみに限定されず、他の形状の磁性コアであってもよい。
図4に示すように、磁性コア40a、40bを分割コアとする場合、コア40aの上面を覆う部分と、分割されたコア40a、40b(中脚部46a、46b)の間の隙間をZ軸方向の下側に向かって延びる部分とからなる放熱用天板を磁性コア40a、40bに設けてもよい。これにより、トランス10の放熱性を効果的に向上させることができる。
図4に示すように、Z軸方向の上側に配置される磁性コア40aは、Y軸方向に延びるベース部44aと、ベース部44aのY軸方向の両端からZ軸方向に突出している一対の側脚部48aと、これらの側脚部48aの間でY軸方向の中央からZ軸方向に突出する中脚部46aとを有する。Z軸方向の下側に配置される磁性コア40bは、Y軸方向に延びるベース部44bと、ベース部44bのY軸方向の両端からZ軸方向に突出している一対の側脚部48bと、これらの側脚部48bの間でY軸方向の中央からZ軸方向に突出する中脚部46bとを有する。
中脚部46aは、ボビン20のコア脚用貫通孔21aの内部にZ軸方向の上側から挿入されるようになっている。同様に、中脚部46bは、ボビン20のコア脚用貫通孔21aの内部にZ軸方向の下側から挿入され、コア脚用貫通孔21aの内部において、それらの先端が向き合うように構成してある。なお、図示の例では、中脚部46bの先端が、コア脚用貫通孔21aの内部において、中脚部46aの先端に接触しているが、中脚部46aの先端と、中脚部46bの先端との間に、所定のギャップ(図示略)が形成してあってもよい。このように、ギャップを形成することにより、ギャップの幅に応じてリーケージ特性を調整することができる。
中脚部46aおよび中脚部46bは、コア脚用貫通孔21aの内周面形状に一致するように、略楕円柱形状を有しているが、その形状は、特に限定されず、コア脚用貫通孔21aの形状に合わせて変化させても良い。また、側脚部48a、48bは、ボビン本体21の外周面形状に合わせた内側凹曲面形状を有し、その外面は、X-Z平面に平行な平面を有している。本実施形態では、各コア40a、40bの材質は、金属、フェライト等の軟磁性材料が挙げられるが、特に限定されない。
図3に示すように、側脚部48a、48bの内周面とボビン本体21の外周面との間には、それぞれサイドカバー50が配置してある。サイドカバー50は、ボビン20におけるワイヤ案内台22、23の間に位置するボビン本体21の外周を覆うカバー本体52を有する。サイドカバー50におけるカバー本体52のZ軸方向の両端には、ボビン本体21の外周を覆うカバー本体52から、ボビン本体21に向けて略垂直方向に折り曲げられている係止片54が一体成形してある。カバー本体52のZ軸方向の両側に形成してある一対の係止片54は、ボビン本体21のZ軸方向の上下面を挟み込むように取り付けられる。
また、カバー本体52のX軸方向の両端外面には、それぞれZ軸方向に延びる側脚ガイド片56が一体に成形してある。一対の側脚ガイド片56の間に位置するカバー本体52の外面には、側脚部48a、48bの内面が接触し、側脚部48a、48bのX軸方向の移動が、一対の側脚ガイド片56により制限されるようになっている。これらのサイドカバー50は、ボビン20と同様なプラスチックなどの絶縁部材あるいは金属で構成してある。
図6は、図1に示すトランス10に含まれるケース90、底板92およびケース90に固定される端子部70を表す斜視図である。上述したボビン20、コイル300および磁性コア40a、40bは、ケース90の内部に収容される。ケース90における対向する一対の側面には、第1端子設置部98と第2端子設置部97とが、それぞれ形成されている。第1端子設置部98及び第2端子設置部97は、ケース90における他の部分より肉厚になっており、X軸正方向側の側面に備えられる第1端子設置部98には第1端子部76、78が固定されており、X軸負方向側の側面に備えられる第2端子設置部97には、第2端子部72、74が固定されている。
図7は、ケース90に固定される端子部70を表す斜視図である。端子部70は、2つの第1端子部76、78と、2つの第2端子部72、74の、4つの分離された金属端子を有する。また、第1端子部76、78及び第2端子部72、74の4つの金属端子は、互いに絶縁されている。また、第1端子部76、78及び第2端子部72、74は、良導体の金属材料等で作製されることが好ましい。第1端子部76、78及び第2端子部72、74は、図6に示すようにケース90の第1端子設置部98および第2端子設置部97に、ケース90と一体にインサート成形されている。ただし、第1端子部76、78及び第2端子部72、74のケース90への固定方法はインサート成形に限定されず、接着やねじ止めなどの他の方法により、第1端子部76、78及び第2端子部72、74は、ケース90に固定されていてもよい。
図2に示すように、第1端子部76、78には第1ワイヤ38の両端部が固定されている。図7に示すように、第1端子部76は、端子固定部である第1端子固定部76aと、ワイヤ接続部である第1ワイヤ接続部76bと、外部接続部である第1外部接続部76cとを有する。第1端子固定部76aは、ケース90における第1端子設置部98に接触及び固定されている。第1端子固定部76aは、インサート成形によりケース90に固定されているため、図1及び図2に示すような組み立て状態では、ケース90を構成する樹脂の内部に埋め込まれている。
図7に示す第1端子部76における第1ワイヤ接続部76bは、第1端子固定部76aから一方側へ延びており、第1ワイヤ38における第1リード部38aが接続される(図2及び図3参照)。第1ワイヤ38の一方の端部である第1リード部38aは、第1ワイヤ接続部76bにヒュージング(熱圧接の一種)されているが、第1リード部38aの第1ワイヤ接続部76bへの固定方法は特に限定されない。
図7に示す第1端子部76における第1外部接続部76cは、第1端子固定部76aから他方側へ延びており、トランス10以外の外部への配線経路が接続可能になっている。第1外部接続部76cには、たとえばトランス10を実装したのちに、バスバー(導体棒)やワイヤ等が溶接その他の方法で接続されるが、第1外部接続部76cの形状や、第1外部接続部76cへの配線方法は、実施形態に限定されない。
第1端子部78は、第1端子部76と同様に、端子固定部である第1端子固定部78aと、ワイヤ接続部である第1ワイヤ接続部78bと、外部接続部である第1外部接続部78cとを有する。第1端子部78では、第1ワイヤ接続部78bに第1ワイヤ38の他方の端部である第1リード部38bが固定されている。第1端子部78は、第1端子部76とは具体的な形状が異なるが、各部の機能や概略構造は同様であるため、詳細については説明を省略する。なお、第1端子部76と第1端子部78とは、図7に示すように形状が異なっていてもよいが、第1端子部76と第1端子部78とは同一形状であってもよく、互いに対称な形状を有していてもよい。
図1に示すように、第2端子部72、74には第2ワイヤ37の両端部が固定されている。図7に示すように、第2端子部72は、端子固定部である第2端子固定部72aと、ワイヤ接続部である第2ワイヤ接続部72bと、外部接続部である第2外部接続部72cとを有する。第2端子固定部72aは、ケース90における第2端子設置部97に接触及び固定されている。第2端子固定部72aは、第1端子固定部76a、78aと同様に、インサート成形によりケース90に固定されているため、図1及び図3に示すような組み立て状態では、ケース90を構成する樹脂の内部に埋め込まれている。
図7に示す第2端子部72における第2ワイヤ接続部72bは、第2端子固定部72aから一方側へ延びており、第2ワイヤ37における第2リード部37aが接続される(図1及び図3参照)。第2ワイヤ37の一方の端部である第2リード部37aは、第2ワイヤ接続部72bにヒュージング(熱圧接の一種)されているが、第2リード部37aの第2ワイヤ接続部72bへの固定方法は特に限定されない。
図7に示す第2端子部72における第2外部接続部72cは、第2端子固定部72aから他方側へ延びており、トランス10以外の外部への配線経路が接続可能になっている。第2外部接続部72cには、たとえばトランス10を実装したのちに、バスバー(導体棒)やワイヤ等が溶接その他の方法で接続されるが、第2外部接続部72cの形状や、第2外部接続部72cへの配線方法は、実施形態に限定されない。
第2端子部74は、第2端子部72と同様に、端子固定部である第2端子固定部74aと、ワイヤ接続部である第2ワイヤ接続部74bと、外部接続部である第2外部接続部74cとを有する。第2端子部74では、第1ワイヤ接続部74bに第2ワイヤ37の他方の端部である第2リード部37bが固定されている。第2端子部74は、第2端子部72とは詳細形状が異なるが、各部の機能や概略構造は同様であるため、詳細については説明を省略する。なお、第2端子部72と第2端子部74の形状は、互いに異なっていてもよく、同一であってもよく、互いに対称であってもよい。
トランス10を上方から見た図3から理解できるように、第1端子部76、78及び第2端子部72、74における第1ワイヤ接続部76b、78b、及び第2ワイヤ接続部72b、74bは、上方から見てケース90の外周より外側に配置されている。このように、第1ワイヤ接続部76b、78b、及び第2ワイヤ接続部72b、74bをケース90の外周より外側に配置することにより、各端子部の絶縁を確実にするとともに、トランス10を低背化することが可能である。なお、第1外部接続部76c、78cはケース90の外周より外側に配置されており、第2外部接続部72c、74cはケース90の外周より内側に配置されているが、第1外部接続部76c、78c及び第2外部接続部72c、74cの配置は、実装後の配線作業が円滑に行える配置であればよく、特に限定されない。
本実施形態に係るトランス10は、図2に示す各部材を組み立てると共に、ボビン20に第2ワイヤ37および第1ワイヤ38を巻回することによって製造される。以下に、トランス10の製造方法の一例を、図4などを用いて説明する。トランス10の作製においては、まず、ボビン20を準備する。ボビン20の材質は特に限定されないが、ボビン20は、樹脂等の絶縁材料によって形成される。
次に、ボビン20の巻回筒部28の外周に第1ワイヤ38をα巻により巻回し、上部コイル301および下部コイル302を形成する。上部コイル301および下部コイル302の形成に使用される第1ワイヤ38としては、特に限定されないが、リッツ線等が好適に使用される。
次に、第1ワイヤ38が巻回されたボビン20に第1絶縁カバー81を装着する。なお、第1絶縁カバー81は、第1ワイヤ38をボビン20の外周に巻回する前にボビン20に装着してもよい。
次に、ボビン20の巻回筒部28の外周に第2ワイヤ37を巻回し、中部コイル303を形成する。中部コイル303から第2リード部37a、37bを巻き軸上方に引き出し、ワイヤ案内台22に係止させる。中部コイル303の形成に使用される第2ワイヤ37としては、第1ワイヤ38と同じでもよいし、異なっていてもよい。
さらに、ボビン20に第2絶縁カバー82を装着して、上部コイル301および下部コイル302から第1リード部38a、38bを巻き軸上方に引き出し、ワイヤ案内台23に係止させる。なお、第2絶縁カバー82は、第1ワイヤ38をボビン20の外周に巻回する前にボビン20に装着してもよい。
次に、サイドカバー50をボビン20におけるY軸方向の両側に取り付け、その後に、Z軸方向の上下方向から磁性コア40a、40bを取り付ける。すなわち、磁性コア40a、40bの中脚部46a、46bの先端同士の間に必要に応じてギャップを持たせつつ、側脚部48a、48bの先端同士を接合する。磁性コア40a、40bの材質としては、金属、フェライト等の軟磁性材料が挙げられるが、特に限定されない。
次に、台座86をボビン脚部29の内部に収容する。なお、ボビン脚部29には、予め台座86が装着してあってもよい。さらに、ボビン20や磁性コア40a、40bとは別途、第1端子部76、78及び第2端子部72、74が固定されたケース90(図6参照)を準備する。第1端子部76、78及び第2端子部72、74が固定されたケース90は、例えばインサート成形により作成される。また、底板92は、ケース90の底部開口部に接着等により固定される。
次に、図6に示すように上部が開放してあるケース90に、上述したボビン20、第1ワイヤ38、第2ワイヤ37及び磁性コア40a、40b等による組立体を収容するとともに、ケース90の内部に放熱用樹脂を充填し、樹脂88を形成する。さらに、第1リード部38a、38bの先端を第1端子部76、78における第1ワイヤ接続部76b、78bに連結し、第2リード部37a、37bの先端を第2端子部72、74における第2ワイヤ接続部72b、74bに連結することにより、本実施形態に係るトランス10を得る。
第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bと、第1ワイヤ接続部76b、78b及び第2ワイヤ接続部72b、74bとの連結は、例えば以下のようなヒュージング工程により実施することができる。すなわち、ヒュージング工程では、まず、第1リード部38a、38bの先端を第1ワイヤ接続部76b、78bに、第2リード部37a、37bの先端を第2ワイヤ接続部72b、74bに仮固定する。仮固定は、第1ワイヤ接続部76b、78b及び第2ワイヤ接続部72b、74bに、第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bの先端を通し、第1ワイヤ接続部76b、78b及び第2ワイヤ接続部72b、74bで、第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bを挟み込むことにより行われる。仮固定を行う際、第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bの先端部分の絶縁被覆を除去する必要は無く、仮固定工程直後の段階では、第1ワイヤ38及び第2ワイヤ37と、第1端子部76、78及び第2端子部72、74とは導通していなくてもよい。
仮固定工程の後、第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bを挟み込んだ第1ワイヤ接続部76b、78b及び第2ワイヤ接続部72b、74bを、発熱した電極(ヘッド)で挟み込むことにより、第1ワイヤ接続部76b、78b及び第2ワイヤ接続部72b、74bに電極の抵抗発熱を伝えながら押しつぶし、熱圧接工程(熱カシメ)を行う。熱圧接工程では、第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bの先端部分の絶縁被覆が、第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bの内部の導線と、第1ワイヤ接続部76b、78b及び第2ワイヤ接続部72b、74bとが通電することにより生じる抵抗発熱により除去される。さらに、熱圧接工程では、第1リード部38a、38b及び第2リード部37a、37bの先端部分の絶縁被覆が除去されることにより露出した導線と、第1ワイヤ接続部76b、78b及び第2ワイヤ接続部72b、74bとが加熱圧接されて、各ワイヤと金属端子とが、電気的かつ物理的に連結される。
本実施形態に係るトランス10では、中部コイル303を、上部コイル301と下部コイル302とで挟む構造(サンドイッチ構造)である。そのため、これらのコイル部間の結合を高くすることができ、リーケージ特性の安定化を図ることが容易となる。また、高周波帯においても、安定したリーケージ特性を得ることができる高結合なトランス10を実現することができる。
特に、本実施形態に係るトランス10では、第2ワイヤ37がボビン20にα巻きしてある。α巻きは、巻数を増大させても、巻軸方向の層数を少なくすることができるために、トランス10の低背化、小型化に寄与する。さらにα巻きにすることで巻線中心部からのワイヤ引き出しがなくなるため、第2ワイヤ37が重ならないことからトランス10の低背化に寄与する。
また、中部コイル303において、α巻きにすることによって、リーケージ特性の安定化に寄与する。また、中部コイル303の一層目と二層目との間でコイルの巻き数を同じにすることも容易であり、また、巻き数を変化させることも容易である。
また、上部コイル301と下部コイル302とは、第1ワイヤ38で連続して形成してある。このような構成とすることにより、上部コイル301および下部コイル302のいずれか一方に、電流が偏って流れることが防止できる。電流が偏って流れることが防止されるため、いずれか一方の上部コイル301または下部コイル302が異常発熱することを防止することができる。また、上部コイル301および下部コイル302を別々のワイヤで構成する場合に比較して、上部コイル301および下部コイル302を構成する第1ワイヤ38のワイヤ長を短くすることが可能になり、銅損を小さくすることができる。銅損を小さくできれば、効率が向上し、発熱も低減することができる。
また、トランス10では、一次コイルと二次コイルとの結合係数が高いため、一次コイルの巻き数と二次コイルの巻き数とが大きく異なる場合であっても、リーケージ特性の安定化を図ることが容易である。すなわち、本実施形態によれば、上部コイル301および下部コイル302における第1ワイヤ38の巻数と、中部コイル303における第2ワイヤ37の巻数との巻数比が大きい場合でも効果が大きい。具体的には第1ワイヤ38の合計巻数n1と第2ワイヤ37の巻数n2との巻数比n1/n2が、2以上、3以上、5以上の場合でも、より顕著な効果が得られる。
また、トランス10では、第1ワイヤ38は、ボビン20にα巻きされている。このような構成とすることで、単一の第1ワイヤ38を用いて、巻き軸方向に離れて配置される上部コイル301と下部コイル302とを容易に形成することができる。また、上部コイル301と下部コイル302とでコイルの巻き数を同じにすることも容易であり、また、巻き数を変化させることも容易である。
また、α巻きは、巻数を増大させても、巻軸方向の層数を少なくすることができるために、トランス10の低背化、小型化に寄与する。さらにα巻きにすることで巻線中心部からのワイヤ引き出しがなくなるため、ワイヤが重ならないことからトランス10の低背化に寄与する。
トランス10は、図8に示す第1絶縁カバー81を用いることにより、図5及び図8に示すような1本の第1ワイヤ38によるサンドイッチ構造を、第1ワイヤ38と第2ワイヤ37との絶縁を保ちながら、かつ、容易に製造可能な構造で実現することができる。また、図5に示すように、トランス10は、上部コイル301と下部コイル302とを、中部コイル303の内径側を軸方向に通過する第1コイル間接続部380で接続する構造を採用しているため、小型化に対して有利である。
また、トランス10は、樹脂88を充填したケース90にボビン20が収容されるため、放熱性に優れており、また、第1及び第2端子部72、74、76、78が外部へ直接取り付けられるケース90に固定されているため、他の装置に対して実装した際に第1及び第2端子部72、74、76、78の位置ばらつきが少ない。
例えば、ボビンに端子台を設けるタイプの従来のトランスでは、ボビンの寸法誤差、ボビンのケースへの取付誤差、放熱用樹脂の膨張・収縮に伴う歪等の影響により、実装時における端子部の位置精度がばらつく問題を有している。しかしながら、第1及び第2端子部72、74、76、78がケース90に固定されているトランス10では、ボビン20の寸法誤差、ボビン20のケース90への取付誤差、樹脂88の膨張・収縮に伴う歪等が、第1及び第2端子部72、74、76、78の位置精度に与える影響を低減または排除することが可能である。したがって、トランス10は、放熱特性に優れており、かつ、他の装置に実装した際に、第1及び第2端子部72、74、76、78を精度良く配置することが可能である。さらに、トランス10は、実装状態において第1及び第2端子部72、74、76、78が精度良く配置されるため、実装後に外部接続部72c、74c、76c、78cに対して行う配線作業を、迅速かつ容易に行うことができる。
また、トランス10では、第1及び第2端子部72、74、76、78がケース90にインサート成形してある。このようなトランス10は、第1及び第2端子部72、74、76、78の位置精度をさらに高めることが可能であり、また、端子部を接着やねじ止めにより固定するものに比べて、組み立てが容易である。第1及び第2端子部72、74、76、78の取付位置は特に限定されないが、第1ワイヤ38が接続される第1端子部76、78をケース90の一方側に固定し、第2ワイヤ37が接続される第2端子部72、74をケース90の他方側に固定することにより、トランス10は良好な絶縁特性を奏する。
また、第1及び第2端子部72、74、76、78は、ケース90に埋め込まれた端子固定部72a、74a、76a、78aの一方側から延びるワイヤ接続部72b、74b、76b、78bと、端子固定部72a、74a、76a、78aの他方側から延びる外部接続部72c、74c、76c、78cとを有する。このような第1及び第2端子部72、74、76、78を有するトランス10は、実装後において外部接続部72c、74c、76c、78cに対して行われる配線作業が行いやすく、また、外部接続部72c、74c、76c、78cに対する配線作業時の熱が、ワイヤ接続部72b、74b、76b、78bへ伝わる問題も防止できる。なお、図1及び図2に示すように、トランス10は、外部接続部72c、74c、76c、78cが上方に突出するように配置することにより、実装後における外部接続部72c、74c、76c、78cに対して行われる配線作業を、さらに容易にしている。
また、トランス10では、第1ワイヤ38及び第2ワイヤ37の端部は、第1及び第2端子部72、74、76、78に対してヒュージングされているため、製造が容易であり、かつ、第1ワイヤ38及び第2ワイヤ37と第1及び第2端子部72、74、76、78との連結に関する信頼性が高い。また、ヒュージングで形成されるワイヤ接続部72b、74b、76b、78bは、ネジを用いた接続部よりサイズを小さくできるため、トランス10は低背化および小型化の観点で有利である。なお、ワイヤ接続部72b、74b、76b、78bをケース90の外周から水平方向に引き出すことにより、トランス10の製造におけるヒュージング工程を効率的に行うことができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえばボビン20の外周にコイル300を装着する他の態様としては、最初に第2ワイヤ37をボビン20に巻回して、中部コイル303を構成し、次いで第1ワイヤ38をボビン20に巻回して、上部コイル301および下部コイル302を構成する態様も考えられる。このような態様でコイル300をボビン20に装着した場合、第1コイル間接続部380は、中部コイル303の外側を通過することになる。
また、上述した一次コイルと二次コイルの関係は逆にしてもよい。すなわち、第1ワイヤ38が二次コイルを構成し、第2ワイヤ37は、一次コイルを構成してもよい。また、その場合には、各ワイヤの外径の大小関係は、上述した例と逆であってもよい。あるいは、これらのワイヤの外径は、同じであってもよい。