JP7138841B2 - 未分化マーカー遺伝子高感度検出法 - Google Patents
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Description
しかしながら、高感度な方法として知られているqRT-PCR法を未分化マーカー遺伝子の検出に用いたとしても、定量および/または判定精度は十分とは言えない。これは、再生医療等製品の中間製品および/または最終製品中の標的となる未分化マーカー遺伝子の分子数が非常に少ないため、標的分子の増幅効率が低下し、指数関数的な増幅が起こらなくなるためである。こうした場合、1反応あたりの核酸供試量を増やし、標的分子を多くすることで増幅効率を担保することが可能であるが、一般的な液量でのqRT-PCR法の場合、1反応あたり100ng程度が上限とされる。これは、夾雑核酸の増加に伴う増幅反応阻害や非特異的増幅が生じるためである。この上限以上に核酸供試量を増やすためには、1反応あたりの反応液量を増やす必要があるが、一般的なPCR反応は、上述の三段階の温度変化を迅速かつ正確に行うために、専用機器であるサーマルサイクラー上のサーマルブロックに反応チューブが収まる5~100μL程度の反応液量に限定され、好ましくない。
PCRは従来ひとつの容器内で行ってきた反応であるが、デジタルPCRは核酸試料を微小区画内(油滴など)に分散させて限界希釈したのちに核酸増幅反応を行うものであり、統計的手法を利用して標的核酸の分子数を定量する方法として注目されている。しかしながら、特殊で高価な専用装置を必要とする、試験コストが高いなどのデメリットもあり、広く普及するに至っていない。
いずれの方法も、それぞれ一定の温度(40~70℃)にて増幅反応が連続的に進行するため、PCR法のように厳密な温度制御を必要としないことによるメリットはあるが、現在のところ、等温核酸増幅法の利点を活かし、高感度な未分化マーカー遺伝子検出法を確立した報告はない。
すなわち、本発明は以下のような構成からなるものである。
(2)未分化細胞から非未分化細胞への分化誘導時および/または分化誘導後の検査の対象となる細胞集団の分化状態を評価する、(1)記載の方法。
(3)未分化細胞が多能性幹細胞または体性幹細胞である(2)記載の方法。
(4)非未分化細胞集団中に未分化細胞が混在している試料における未分化マーカー遺伝子由来のRNA存在量が前記等温核酸増幅法の検出限界以上であり、非未分化細胞中のRNA存在量が前記等温核酸増幅法の検出限界以下であるRNAを検出の対象とし、試料中に検出の対象となるRNAが検出された場合には、陽性と判定し、試料中に検出の対象となるRNAが検出されなかった場合には、陰性と判定する、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)未分化マーカー遺伝子由来のRNAが下記の(i)及び/又は(ii)の条件を満たす(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(i)未分化細胞におけるRNA発現量と非未分化細胞における発現量の比が、104倍以上である。
(ii)非未分化細胞におけるRNA発現量が、全RNA量1μgあたり1x104コピー以下である。
(6)検出の対象となるRNAを鋳型として合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーを用いて等温で核酸増幅する、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより核酸が増幅される(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)検出の対象となるRNAを鋳型として逆転写酵素により合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーを用いて、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより等温で核酸増幅する工程を含む(7)に記載の方法。
(9)さらに、反応を促進するためのプライマーを用いて核酸増幅を行う(6)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)検出の対象となるRNAを鋳型として逆転写酵素により合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーに、さらに反応を促進するためのプライマーを追加し、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより等温で核酸増幅する工程を含む(9)に記載の方法。
(11)検出の対象となるRNAの逆転写から増幅、そして検出までを連続的に行う、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)未分化細胞と非未分化細胞との間で発現量に有意差がある未分化マーカー遺伝子由来のRNAを等温核酸増幅法により検出できる試薬を含む、非未分化細胞集団中の未分化細胞の混在の有無または混在量を検査するためのキット。
(13)試薬がプライマーを含む、(12)記載のキット。
(14)試薬がさらにプローブおよび/または比色試薬を含む、(13)記載のキット。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2019‐207004の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本発明は、非未分化細胞集団中の未分化細胞の混在の有無または混在量を検査する方法であって、検査の対象となる細胞集団由来の核酸を含む試料における、未分化細胞と非未分化細胞との間で発現量(存在量)に有意差がある未分化マーカー遺伝子由来のRNAを等温核酸増幅法により検出することを含む、前記方法を提供する。
本発明の非未分化細胞集団中の未分化細胞の混在の有無を検査する方法において、分化過程において発現量が減少するRNAを検出対象とすることが望ましく、さらにはその発現量の減少が顕著な変化であることが望ましい。高感度な検出性能が必要とされる未分化細胞の混在を否定する目的の検査では、検出対象のRNAは未分化細胞での発現量が高いほどよく、なおかつ、非未分化細胞での発現量が低いほどよい。具体的には、未分化細胞におけるRNA発現量と非未分化細胞における発現量の比が、104倍以上であることが望ましく、105倍以上であることがより望ましく、106倍以上であることが最も望ましい。および/または、非未分化細胞におけるRNA発現量が、全RNA量1μgあたり1x104コピー以下であることが望ましく、1x103コピー以下であることがより望ましく、1x102コピー以下であることがより望ましく、1x10コピー以下であることがさらに望ましく、理想的にはゼロに近いとよい。本発明で使用できるRNAの具体例として、LINC00678、SFRP2、PRDM14、 USP44、ESRG、CNMD、LIN28A、SOX2、OCT4、NANOG、TDGF1, TNFRSF8のほか、トランスクリプトーム解析、さらには定量的PCR法において、未分化細胞で発現が高く、非未分化細胞で発現が低いと論文などで公知となっている遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
なおRNAは、ゲノムDNA(真核生物の場合、ミトコンドリアゲノムなど細胞小器官が持つゲノムDNAも含まれる)から転写されたRNAであるとよく、さらには転写後に修飾やプロセシングを受けたもの、例えばmicroRNAや環状RNAであってもよい。またさらには、タンパク質をコードしていないものであってよく、また核酸増幅の標的配列を含むRNAの部分分解産物などであってもよい。ゲノムは、タンパク質をコードする領域、プロモーターやエンハンサーなどの転写調節領域をコードする領域、それ以外のノンコーディング領域のいずれであってもよい。
[1]一反応あたりの核酸供試量については、被検試料である非未分化細胞集団の培養状況や細胞の回収数、細胞回収後の抽出操作における核酸試料の抽出率、精製度および濃縮率が関与する。その一方で、遺伝子増幅反応における反応あたりの核酸供試量について、一定の制限量があることが知られている。遺伝子検査における遺伝子増幅反応でよく知られているPCR法では、大過剰の核酸供試量がPCR反応や標的産物の検出を阻害することが知られている。その要因として、核酸の構造安定化に寄与するマグネシウムイオンが枯渇することによるポリメラーゼの機能低下や、熱変性による核酸試料の一本鎖化が滞ることが挙げられる。そのため、PCRではヒトゲノムDNAの場合、反応あたり最大500 ng(0.5μg)までが、一反応当たりの供試量の上限量目安とされている。また、定量を目的とした一般的な液量でのqRT-PCR法の場合、1反応あたり100ng程度が上限とされる。このことから、PCR反応では、一反応あたりの核酸供試量が少なく制限されることにより、未分化細胞の混在率の検出限界(LOD; Limit of Detection)をさらに高めることは難しい。本発明の試験の特徴として、一度の遺伝子検査において、未分化細胞が混在している可能性のある細胞集団由来の核酸試料を可能な限り大量に供試することが求められるため、大過剰量の核酸試料に阻害されない、または阻害されにくい試験法が望ましい。
被検試料である非未分化細胞の分化過程においてRNA発現量に変化がない、またはほとんど変化しない特性をもつ遺伝子の場合、RNA発現量を定量可能な測定系であっても、分化過程の進行度、あるいは未分化細胞の混在率を把握することができない。
また、未分化細胞の状態でのRNA発現量がない、または微量であり、分化過程においてRNA発現量が増加する特性をもつ遺伝子の場合、造腫瘍性を有する未分化細胞がわずかにでも混在することを否定する試験におけるマーカーとしては不適当である。
前述の通り、未分化細胞でのRNA発現量が高く、なおかつ、分化細胞でのRNA発現量が低いことが本発明におけるマーカー遺伝子の条件であり、さらにその分化過程におけるRNA発現量の減少変化が顕著であることがさらに望ましい。
例として、未分化細胞および非未分化細胞に分化する過程でマーカー遺伝子のRNA発現量を、以下に条件設定する。
非常に高い:
1x107コピー以上 / 1μg(全RNA) (1x102コピー以上 / 10pg 全RNA)
3x106コピー以上 / 1μg(全RNA) (3x10コピー以上 / 10pg 全RNA)
1x106コピー以上 / 1μg(全RNA) (1x10コピー以上 / 10pg 全RNA)
高い:
3x105コピー以上 / 1μg(全RNA) (3コピー以上 / 10pg 全RNA)
1x105コピー以上 / 1μg(全RNA) (1コピー以上 / 10pg 全RNA)
やや低い:
3x104コピー以上 / 1μg(全RNA)
1x104コピー以上 / 1μg(全RNA)
3x103コピー以上 / 1μg(全RNA)
低い:
1x103コピー以下 / 1μg(全RNA)
3x102コピー以下 / 1μg(全RNA)
1x102コピー以下 / 1μg(全RNA)
非常に低い:
3x10コピー以下 / 1μg(全RNA)
1x10コピー以下 / 1μg(全RNA)
0コピー / 1μg(全RNA)
分化過程での非未分化細胞集団における未分化細胞の混在率を、0.1%(1x10-3)から0.00005%(5x10-7)の範囲にて、全RNA10μgあたりのマーカー遺伝子RNA発現量を以下の6通りのパターンを想定し計算した。
1)マーカー遺伝子が、未分化細胞で非常に高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で非常に低い(ゼロに近い)場合:(分化前後の発現量比が106~107以上)
2)マーカー遺伝子が、未分化細胞で高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で非常に低い(ゼロに近い)場合:(分化前後の発現量比が105~106まで)
3)マーカー遺伝子が、未分化細胞でやや低いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で非常に低い(ゼロに近い)場合:(分化前後の発現量比が104~105まで)
4)マーカー遺伝子が、未分化細胞で非常に高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で低い場合:(分化前後の発現量比が104~105まで)
5)マーカー遺伝子が、未分化細胞で高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で低い場合:(分化前後の発現量比が102~103まで)
6)マーカー遺伝子が、未分化細胞でやや低いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で低い場合:(分化前後の発現量比が10~102まで)
従って、本発明に用いる反応基質(dNTPs)の濃度は、至適濃度の±50%以内(例えば、至適濃度1.0mMの場合、0.5~1.5mM)、好ましくは±30%以内(例えば、至適濃度1.0mMの場合、0.7~1.3mM)としてもよく、その濃度によって検出感度を調整することができる。
1)マーカー遺伝子が、未分化細胞で非常に高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で非常に低い(ゼロに近い)場合:(分化前後の発現量比が106~107以上)
反応あたりのLAMP反応(全RNA10μgを反応に供試)の最小検出感度を10コピーとした場合、混在率の検出限界(LOD)は0.00005%(5x10-7)となる。テストあたりの全RNA供試量を1/10の1μgまで減じても、0.0001%(1x10-6)まで検出可能である。
非未分化細胞でのRNA発現量がゼロでなくとも、ごく僅かであれば、LAMP反応の最小検出感度を調整する(例えば50~100コピーで陽性となるように調整する)ことで、混在率の検出限界(LOD)を大きく損なわない。
2)マーカー遺伝子が、未分化細胞で高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で非常に低い(ゼロに近い)場合:(分化前後の発現量比が105~106まで)
反応あたりのLAMP反応(全RNA10μgを反応に供試)の最小検出感度を10コピーとした場合、混在率の検出限界(LOD)は0.0005%(5x10-6)となる。
ただし、LAMP反応の最小検出感度をさらに高めるように調整することで、上述1)のLODと同等とすることも可能である。
3)マーカー遺伝子が、未分化細胞でやや低いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で非常に低い(ゼロに近い)場合:(分化前後の発現量比が104~105まで)
反応あたりのLAMP反応(全RNA10μgを反応に供試)の最小検出感度を10コピーとした場合、混在率の検出限界(LOD)は0.005%(5x10-5)までとなる。
4)マーカー遺伝子が、未分化細胞で非常に高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で低い場合(分化前後の発現量比が104~105まで)
反応あたりのLAMP反応(全RNA10μgを反応に供試)の最小検出感度を4x103コピーとした場合、混在率の検出限界(LOD)は0.001%(1x10-5)となる。
上記1)~3)と異なり、非未分化細胞でも、一定量のマーカー遺伝子のRNAが発現されるため、LAMP反応の最小検出感度を調整する必要があるが、プライマーの種類や量など反応組成を含む諸条件を調整することで、感度調整が可能である。
5)マーカー遺伝子が、未分化細胞で高いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で低い場合:(分化前後の発現量比が102~103まで)
反応あたりのLAMP反応(全RNA10μgを反応に供試)の最小検出感度を4x103コピーとした場合、混在率の検出限界(LOD)は0.1%(1x10-3)となる。
6)マーカー遺伝子が、未分化細胞でやや低いレベルまで発現し、検査する非未分化細胞で低い場合:(分化前後の発現量比が10~102まで)
反応あたりのLAMP反応(全RNA10μgを反応に供試)の最小検出感度を4x103コピーとした場合、混在率0.1%(1x10-3)でも未分化細胞の検出は困難となる。
以上のことから、本発明の非未分化細胞集団中の未分化細胞の混在の有無を検査する方法において、分化過程において発現量が減少するRNAを検出対象とすることが望ましく、さらにはその発現量の減少が顕著な変化であることが望ましい。高感度な検出性能が必要とされる未分化細胞の混在を否定する目的の検査では、検出対象のRNAは未分化細胞での発現量が高いほどよく、なおかつ、非未分化細胞での発現量が低いほどよい。具体的には、未分化細胞におけるRNA発現量と非未分化細胞における発現量の比が、104倍以上であることが望ましく、105倍以上であることがより望ましく、106倍以上であることが最も望ましい。また、非未分化細胞におけるRNA発現量が、全RNA量1μgあたり1x104コピー以下であることが望ましく、1x103コピー以下であることがより望ましく、1x102コピー以下であることがより望ましく、1x10コピー以下であることがさらに望ましく、理想的にはゼロに近いとよい。
なお、反応あたりの全RNA供試量は、LAMP反応の最小検出感度を制御可能な範囲である限り10μg以上であってもよく、30μg、100μgと増やしてもよい。このとき、反応あたりの未分化マーカー遺伝子のRNAコピー数は、未分化細胞が混在していない非未分化細胞と比較し、未分化細胞が混在した非未分化細胞の方が大きな増分で増えるため、本法による未分化細胞の混在率の検出限界(LOD)をさらに高感度にすることが可能である。
さらに、反応を促進するためのプライマー(例えば、LAMP法で用いられるループプライマー)を添加して核酸増幅を行うことも可能である。
本発明の方法において、等温核酸増幅法としてRT-LAMP法を用いる場合、等温核酸増幅法は、検出の対象となるRNAを鋳型として逆転写酵素により合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーを用いて、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより等温で核酸増幅する工程を含むとよい。RT-LAMP法でループプライマーを用いる場合、検出の対象となるRNAを鋳型として逆転写酵素により合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーに、さらに反応を促進するためのプライマーを追加し、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより等温で核酸増幅する工程を含むとよい。
(逆転写反応(RT)ステップ)
STEP3(図2(3)):STEP2のステップにより、BIPから伸長合成した後に1本鎖DNA状態となったcDNAに対してFIPがアニールする。
(起点構造ができるまでのステップ)
STEP6(図2(6)):F3 Primerから合成されたDNA鎖と鋳型DNAが2本鎖となる。
(LAMP法増幅サイクルステップ)
Xは、検出の対象とするRNAの存在量に応じて適宜設定することができ、検出限界を挟んで正しく陽性、陰性の判定ができれば良い。例えば、非未分化細胞中に未分化細胞が混在している状態から調製した試料を検査する場合、非未分化細胞で全く発現していないRNAを検出の対象とすれば、未分化細胞での発現量がそれ程高くなくても、供試するRNA量を増やすことで正しく陽性と判定可能となる。
未分化細胞と非未分化細胞との間で発現量に有意差がある未分化マーカー遺伝子由来のRNAを等温核酸増幅法により検出できる試薬は、プライマーを含むとよい。増幅された核酸を検出するためには、試薬がさらにプローブおよび/または比色試薬を含むとよい。プライマーおよびプローブの機能・構成等については上述した。プローブは蛍光標識されているとよい。比色試薬は、増幅された核酸の検出を可能とする物質であればよく、濁度測定を可能とするピロリン酸マグネシウムを生成するマグネシウムイオン、蛍光目視検出試薬としてのカルセイン、電気泳動で用いられる染色用試薬であるエチジウムブロマイド、SYBR Green Iなどを例示することができる。
[実施例1]
1.各細胞の取り扱いは、Cell Rep. 2017 Dec 5;21(10):2661-2670.に従った。
2.iPS細胞を10日間の分化誘導によりHE細胞とした後、Trypsin-EDTA(ギブコ社)を用いて細胞を回収し、HE細胞懸濁液とした。
3.未分化状態のままのiPS細胞を、Accutase(ICT社)を用いて回収し、iPS細胞懸濁液とした。
4.それぞれの細胞数を計測後、HE細胞懸濁液に対しiPS細胞が図4の「iPS細胞混在率」となるようにiPS細胞懸濁液を混合し、試料とした。
5.各試料から遠心分離により上清を除いた細胞沈査から、PureLink RNA Mini Kit(インビトロジェン社)を用いてRNAを精製した。
6.ナノドロップ2000c(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、精製したRNAの濃度を定量した。
7.精製したRNAを鋳型とし、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用い、cDNAを合成した。
LINC00678検出用RT-PCRプライマー・プローブ
[qRT-PCR反応プロトコール]
上記試料調製法7までで得られたcDNAについて2ステップRT-PCRを実施した。THUNDERBIRD Probe qPCR Mix(東洋紡)、上記のプライマー、プローブ、LightCycler480(ロシュ社)を用い、qRT-PCR反応を行い、18S rRNA(ABI社)を内部標準としたΔΔCp法により遺伝子発現量を定量した。本反応におけるRNA最終供試量は、12.5ng/テストで反応液を調製した。
この試験を5回繰り返し行い、各iPS細胞混在試料と非混在試料とのt検定による有意差検定を実施した。有意水準を5%として、有意差なしと判定される最大のiPS細胞混在率より1段階混在率の大きなiPS細胞混在率を、検出限界(Limit Of Detection:LOD)とした。
[結果]
図4(a), (b)に示すように、qRT-PCR法のLODは0.05%であった。
実施例1と同様に、HE細胞まで分化した段階を非未分化細胞とし、そこにiPS細胞を段階的に添加した希釈系列を試料として、未分化細胞の検出をRT-LAMP法とqRT-PCR法で比較した。検出対象の未分化マーカー遺伝子は、実施例1と同じくLINC00678とした。
RT-LAMP法において、LAMPプライマーセットは、PrimerExplorerを用いて設計し(セット1)、上記試料調製法6までで得られたRNAを用い、逆転写反応を含むRT-LAMPを行った。
qRT-PCRは実施例1と同様の方法で試験を行った(RNA最終供試量は、12.5ng/テスト)。
・RT-LAMP法
使用した各プライマーおよびプローブの塩基配列を以下に示す。
LINC00678検出用RT-LAMPプライマー・プローブ(セット1)
[RT-LAMP反応プロトコール]
1.上記試料調製法6までで得られたRNAについて、RNA最終供試量 1.0μg/テストで反応液を調製した。
2.Lightcycler480(ロシュ社)を用い、55℃・10分間にて逆転写反応した後、63℃・90分間にてLAMP増幅反応を行い、プローブの蛍光強度を20秒間隔ごとにリアルタイム測定した。蛍光強度は、465/510 nmにて測定した。
3.装置始動後、対初発蛍光強度差が-1となった時間をTt値とし、Tt値が90分未満であった場合を「LAMP反応あり」と判定し、Tt値が90分以上であった場合を「LAMP反応なし」とした。各試料を同時に複数回(N=2)試験し、いずれも「LAMP反応あり」となった試料を陽性(下表中〇で示す)と判定し、いずれも「LAMP反応なし」となった試料を陰性(下表中×で示す)と判定した。
結果
qRT-PCR法においては、検出不可と判定される最大のiPS細胞混在率より1段階混在率の大きなiPS細胞混在率を、検出限界(Limit Of Detection:LOD)とした。RT-LAMP法においては、すべて陰性と判定される最大のiPS細胞混在率より1段階混在率の大きなiPS細胞混在率を、検出限界(Limit Of Detection:LOD)とした。
その結果、qRT-PCR法のLODは実施例1よりも高感度な0.005%であったが、RT-LAMP法のLODはさらに高感度な0.0025%であった。また、このLAMP反応において供試した1テストあたりの試料中の核酸重量は、一般的なPCR反応における上限量目安である500ng(0.5μg)を超える1.0μgであったが、良好に検出可能であった。
[実施例2]と同様に、HE細胞(内胚葉組織)まで分化した段階のほかに、EC細胞(血管内皮細胞(endothelial cells)、中胚葉組織)まで分化した段階を非未分化細胞とし、そこにiPS細胞を段階的に添加した希釈系列を試料として、未分化細胞の検出をRT-LAMP法で試験した。
HE細胞を用いる希釈系列における検出対象の未分化マーカー遺伝子は、実施例1及び2と同じくLINC00678としたが、実施例2とは異なるLAMPプライマーセット(セット2)を設計した。一方、EC細胞を用いる希釈系列における検出対象の未分化マーカー遺伝子はESRGを選択し、設計を行った。
RT-LAMP法において、前述の試料調製法6までで得られたRNAを用い、逆転写反応を含むRT-LAMPを行った。
・RT-LAMP法
使用した各プライマーおよびプローブの塩基配列を以下に示す。
LINC00678検出用RT-LAMPプライマー・プローブ(セット2)
ESRG検出用RT-LAMPプライマー・プローブ
[RT-LAMP反応プロトコール]
1.前述の試料調製法6までで得られたRNAについて、RNA最終供試量 5.0μg/テストで反応液を調製した。
2.RT-LAMP反応当たりの各試薬濃度(RNAサンプル添加後の最終濃度)は、LIN00678(セット2)では1.4mM dNTPs、3U Warmstart Bst、3U Warmstart RTxに対し、ESRGでは0.9mM dNTPs、9U Warmstart Bst、1.5U Warmstart RTxと、プライマー・プローブセットごとに基質および各酵素の濃度が異なるほかは、[実施例2]で示した条件と同様である。
3.Lightcycler480(ロシュ社)を用い、55℃・10分間にて逆転写反応した後、LINC00678(セット2)は67℃、ESRGは63℃の反応温度にて、90分間LAMP増幅反応を行い、プローブの蛍光強度を20秒間隔ごとにリアルタイム測定した。蛍光強度は、465/510 nmにて測定した。
4.装置始動後、対初発蛍光強度差が-1となった時間をTt値とし、Tt値が90分未満であった場合を「LAMP反応あり」と判定し、Tt値が90分以上であった場合を「LAMP反応なし」とした。各試料を同時に複数回(N=2)試験し、いずれも「LAMP反応あり」となった試料を陽性(下表中〇で示す)と判定し、いずれも「LAMP反応なし」となった試料を陰性(下表中×で示す)と判定した。
結果
二つのRT-LAMP法の各LODは、LINC00678(セット2)は0.00003%、ESRGは0.00032%であり、実施例2のRT-PCRのLODの約102~103以上も高い感度を示した。同じ未分化マーカー遺伝子のLINC00678を標的としたRT-LAMPであるが、セット1よりも高い感度を示したのは、プライマーおよび検出プローブの設計を含む反応条件の最適化に起因し、さらに供試した1テストあたりの試料中の核酸重量を5.0μgへ増量した結果による。これは夾雑核酸が増えても、検出対象の特異配列を含む少量の核酸を良好に検出可能であることを示す。また、同じiPS細胞から分化した細胞であるが、HE細胞(肝内胚葉細胞)とEC細胞(血管内皮細胞)と別の細胞機能を示す分化細胞に対しても、同様に微量のiPS細胞の混在を検出可能であった。
多能性幹細胞由来の分化細胞に限らない培養細胞であるヒト胎児腎細胞株のHEK293T(外胚葉組織(非特許文献7))、またはヒト子宮頸がん由来細胞のHeLa細胞を非未分化細胞として用い、実施例1、2および3と同様に、iPS細胞を段階的に添加した希釈系列を試料として、未分化細胞の検出をRT-LAMP法で試験した。
検出対象の未分化マーカー遺伝子は、実施例1、2および3と同様にLINC00678としたほか、SFRP2、CNMD、USP44およびLIN28Aを選択した。
LINC00678のRT-LAMPプライマー・プローブセットは、上述のセット1およびセット2を使用した。これにより、新たに設計したSFRP2、CNMD、USP44およびLIN28Aのプライマー・プローブセットも含めて、計6種類のRT-LAMPの検出感度を比較した。
SFRP2検出用RT-LAMPプライマー・プローブ
CNMD検出用RT-LAMPプライマー・プローブ
USP44検出用RT-LAMPプライマー・プローブ
LIN28A検出用RT-LAMPプライマー・プローブ
・試料調製法
1.HEK293T細胞およびHeLa細胞をそれぞれ個別に培養・回収し、各細胞懸濁液を調製した。
2.未分化状態のままのiPS細胞を、Accutase(ICT社)を用いて回収し、iPS細胞懸濁液とした。
3.それぞれの細胞数を計測後、HEK293T細胞およびHeLa細胞の各細胞懸濁液に対しiPS細胞が下表の「iPS細胞混在率」となるようにiPS細胞懸濁液を添加し、試料とした。
4.各試料から遠心分離により上清を除いた細胞沈査から、PureLink RNA Mini Kit(インビトロジェン社)を用いてRNAを精製した。
5.ナノドロップ2000c(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、精製したRNAの濃度を定量した。
[RT-LAMP反応プロトコール]
1.RT-LAMP反応当たりの各試薬濃度(RNAサンプル添加後の最終濃度)は、SFRP2およびLIN28Aでは1.4mM dNTPs、3U Warmstart Bst、3U Warmstart RTxに対し、CNMDおよびUSP44では0.9mM dNTPs、9U Warmstart Bst、1.5U Warmstart RTxと、プライマー・プローブセットごとに基質および各酵素の濃度が異なるほかは、[実施例2]で示した条件と同様である。なお、LIN00678セット1および同セット2については、それぞれ[実施例2]および[実施例3]で示した条件と同様である。
2.上記試料調製法5までで得られたRNAについて、Lightcycler480(ロシュ社)を用い、55℃・10分間にて逆転写反応した後、63℃(LINC00678セット1、CNMD、USP44、LIN28A)または65℃(SFRP2)または67℃(LINC00678セット2)にて、90分間LAMP増幅反応を行い、プローブの蛍光強度を20秒間隔ごとにリアルタイム測定した。蛍光強度は465/510 nmにて測定した。
3.装置始動後、対初発蛍光強度差が-1となった時間をTt値とし、Tt値が90分未満であった場合を「LAMP反応あり」と判定し、Tt値が90分以上であった場合を「LAMP反応なし」とした。各試料を同時に複数回(N=2)試験し、いずれも「LAMP反応あり」となった試料を陽性(下表中〇で示す)と判定し、いずれも「LAMP反応なし」となった試料を陰性(下表中×で示す)と判定した。いずれか一方が「LAMP反応あり」となった試料については、下表中△で示した。
結果
HEK293T細胞へのiPS細胞スパイク試験において、LINC00678(セット1)はLOD 0.001%(RNA最終供試量10.0μg)、LINC00678(セット2)はLOD 0.001%(RNA最終供試量1.0μg)、SFRP2はLOD 0.001%(RNA最終供試量1.0μg)およびLOD 0.0001%(RNA最終供試量5.0μg)、CNMDはLOD 0.0005%(RNA最終供試量3.0μg)であった。HeLa細胞へのiPS細胞スパイク試験において、LINC00678(セット2)、USP44およびLIN28Aのいずれにおいても、LOD 0.00032%(RNA最終供試量5.0μg)であった。
試験に用いた非未分化細胞の種類、検出対象に選択した未分化マーカー遺伝子のいずれにおいても、LODは0.001~0.0001%と高い検出感度が確認できた。特にSFRP2においては、同じプライマー・プローブセットを用いてRNA供試量を増やすことで、LODが改善できることが示された。また、非未分化細胞の種類に関して、実施例3で内・中胚葉、実施例4で外胚葉に分類される細胞を用い、本法の有用性を確認できた。このことから、非未分化細胞は内胚葉、中胚葉、および外胚葉のいずれの分化細胞の集団であってもよいと考えられる。
上述の実施例に示した既知量の未分化細胞を添加するスパイク試験とは異なり、培養により未分化細胞を分化誘導して得られた分化細胞中に、想定通りの分化が進まず残存した未分化細胞を高感度に検出することが可能であるか否かを検討した。iPS細胞由来分化細胞としては、HE細胞を用いた。
なお、当該分野において一般的に使用が勧められる、およそ35継代未満の継代数の少ないiPS細胞株(「正常株」とする)では、本明細記載の培養条件でHE細胞への分化誘導を行った場合には未分化細胞は残存しないため、本検討においては、未分化細胞が残存しやすいiPS細胞株(非特許文献8)として、35継代以上の継代数の多いiPS細胞株(「過継代株」とする)を併用した。分化させたHE細胞中に残存した未分化細胞数は、培養増幅法(非特許文献3)により確認した。
[培養増幅法]
正常株および過継代株を用い、[実施例1]と同様にHE細胞懸濁液を調製し、RNA精製およびRT-LAMP法の試験に移るとともに、細胞懸濁液の一部を分取し、ラミニンコート済み24-well plateを用い、ROCK inhibitor(和光純薬)添加StemFit培地(味の素)中に1.6x105 cells/wellで播種後、毎日StemFit培地で培地交換しながら37℃で培養し、未分化細胞のコロニーを形成させた。
一週間後、未分化細胞コロニーを検出するために、多能性マーカーの一次抗体として抗SOX2抗体、もしくは抗OCT4A抗体 (Cell Signaling Technologies)と、一次抗体を検出可能である蛍光標識済み二次抗体(Thermo Fisher Scientific)を用いて免疫染色を行った。免疫染色により取得した画像をもとに、ポジティブなコロニーの数をカウントし、このコロニー数を播種細胞数で除することにより、未分化細胞残存率を算出した。
なお、免疫染色は、以下の手順で実施した。
4%パラホルムアルデヒドを15分間処理することで細胞を固定した。PBSで2回洗浄後、0.1% TritonX-100 in PBS(PBST)を加えて10分間処理することで細胞膜を透過させた。その後、5% FBS in PBSTを用いてブロッキング処理をした。1時間後、ブロッキングバッファーを取り除き、適切に希釈した一次抗体溶液を添加して、4℃でovernight処理した。その後、PBSで3回洗浄し、希釈した二次抗体溶液を添加して、遮光下室温で1時間静置した。最後にPBSで3回洗浄し、アパチ封入剤(和光純薬)を添加して観察に用いた。観察にはオールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X710(キーエンス)を用い、4倍対物レンズにより1well全体の緑色蛍光を撮影した。コロニー数は取得した画像をもとに目視でカウントした。
[RT-LAMP反応プロトコール]
検出対象の未分化マーカー遺伝子は、実施例3と同様にESRGとLINC00678(セット2)としたほか、PRDM14を選択した。
新たに設計したPRDM14のプライマー・プローブセットを以下に示す。
1.前述の試料調製法6までで得られたRNAについて、RNA最終供試量 1.0μg/テストで反応液を調製した。
2.PRDM14のRT-LAMP反応当たりの各試薬濃度(RNAサンプル添加後の最終濃度)は、0.6mM dNTPs、9U Warmstart Bst、1.5U Warmstart RTxと、基質および各酵素の濃度が異なるほかは、[実施例2]で示した条件と同様である。なお、LIN00678セット2およびESRGについては、それぞれ[実施例3]で示した条件と同様である。
3.Lightcycler480(ロシュ社)を用い、55℃・10分間にて逆転写反応した後、LINC00678(セット2)は67℃、ESRGおよびPRDM14は63℃の反応温度にて、90分間LAMP増幅反応を行い、プローブの蛍光強度を20秒間隔ごとにリアルタイム測定した。蛍光強度は、465/510 nmにて測定した。
4.装置始動後、対初発蛍光強度差が-1となった時間をTt値とし、Tt値が90分未満であった場合を「LAMP反応あり」と判定し、Tt値が90分以上であった場合を「LAMP反応なし」とした。各試料を同時に複数回(N=2)試験し、いずれも「LAMP反応あり」となった試料を陽性(下表中〇で示す)と判定し、いずれも「LAMP反応なし」となった試料を陰性(下表中×で示す)と判定した。
結果
正常iPS細胞株由来HE細胞については、培養増幅法では残留未分化細胞が検出されなかった。一方、過継代iPS細胞株由来HE細胞については、培養増幅法により微量の残留未分化細胞が検出された。培養増幅法で以上のような結果が得られた細胞懸濁液より抽出したRNAを被験試料として、RT-LAMP法の試験を行った結果、培養増殖法で残留未分化細胞が検出されなかったRNAを被験試料とした場合は陰性と判定し、培養増殖法で残留未分化細胞が検出されたRNAを被験試料とした場合は、すべて陽性と判定した。
酵素反応に基づく核酸増幅反応は、基質濃度や酵素活性をはじめとする反応組成条件や温度等によって反応速度が変化するため、一定時間内に増幅可能な鋳型核酸量が変わる。本発明における等温核酸増幅法、特にLAMP法も同様に、用いるプライマーの塩基配列、プライマーの量、基質、酵素やその触媒などの濃度を含む反応組成条件を変更することで、検出感度が変化する。これを利用して、検体中に含まれる鋳型核酸量を検査可能か検討した。
・試料調製法
上述の[実施例3]で示したLINC00678検出用RT-LAMPプライマー・プローブ(セット2)で増幅される塩基配列を含む人工遺伝子(配列番号53)を試料とした。吸光度測定により定量した人工遺伝子を、テストあたり0~1,000コピーとなるように段階希釈系列を作成し、下記のRT-LAMP反応に供試した。
[RT-LAMP反応プロトコール]
1.上述の[実施例2]で示したLINC00678検出用RT-LAMPプライマー・プローブ(セット2)のRT-LAMP反応当たりの各試薬濃度(サンプル添加後の最終濃度)のうち、基質であるdNTPsのみ0.4から1.4mMまで変化させた各増幅反応液を調製した。
2.上記の試料調製法で作成した人工遺伝子の段階希釈系列を、各増幅反応液に添加後、Lightcycler480(ロシュ社)を用い、67℃にて90分間LAMP増幅反応を行い、プローブの蛍光強度を20秒間隔ごとにリアルタイム測定した。蛍光強度は465/510 nmにて測定した。
3.装置始動後、対初発蛍光強度差が-1となった時間をTt値とし、Tt値が90分未満であった場合を「LAMP反応あり」と判定し、Tt値が90分以上であった場合を「LAMP反応なし」とした。各試料を同時に複数回(N=2)試験し、いずれも「LAMP反応あり」となった試料を陽性(下表中〇で示す)と判定し、いずれも「LAMP反応なし」となった試料を陰性(下表中×で示す)と判定した。
結果
基質のdNTPs濃度が減少するに従い、陽性と判定するために、より多くのコピー数の人工遺伝子が必要となる。これは、反応組成のひとつである基質dNTPsの濃度によって、検出感度を容易に調整することが可能であることを示す。
この複数の反応条件の違いによる検出感度の差異を利用することで、供試する検体中に含まれる鋳型核酸量を検査できる。
例えば、dNTPs濃度が[1]1.2mM、[2]1.0mM、[3]0.6mMと3種類のLINC00678 RT-LAMP(セット2)反応組成にて、LINC00678のRNAコピー数未知の同一検体を反応に供試し、例1)[1][2][3]すべての条件で陽性となった場合、反応に供試した検体中に1000コピー以上のLINC00678RNAが存在している、または、例2)[1]および[2]の条件のみで陽性となった場合、反応に供試した検体中に10コピー以上1000コピー未満のLINC00678RNAが存在している、例3)[1]の条件のみで増幅した場合、反応に供試した検体中に10コピー以上100コピー未満のLINC00678RNAが存在している、と検体中の鋳型核酸の存在量を検査することが可能である。
上記[実施例6]は人工遺伝子を用いた試験であったが、[実施例3]および[実施例4]と同様に非未分化細胞中に未分化細胞が混在している条件で、混在量の検査の検討を行った。
・試料調製法
1.HeLa細胞を培養・回収し、細胞懸濁液を調製した。
2.未分化状態のままのiPS細胞を、Accutase(ICT社)を用いて回収し、iPS細胞懸濁液とした。
3.それぞれの細胞数を計測後、HeLa細胞の細胞懸濁液に対しiPS細胞が下表の「iPS細胞混在率」となるようにiPS細胞懸濁液を添加し、試料とした。
4.各試料から遠心分離により上清を除いた細胞沈査から、PureLink RNA Mini Kit(インビトロジェン社)を用いてRNAを精製した。
5.ナノドロップ2000c(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、精製したRNAの濃度を定量した。
[RT-LAMP反応プロトコール]
1.上述の[実施例4]で示したUSP44検出用RT-LAMPプライマー・プローブのRT-LAMP反応当たりの各試薬濃度(サンプル添加後の最終濃度)のうち、基質であるdNTPsのみ0.8mMおよび0.9mMの各増幅反応液を調製した。
2.上記試料調製法5までで得られたRNAについて、Lightcycler480(ロシュ社)を用い、55℃・10分間にて逆転写反応した後、63℃にて90分間LAMP増幅反応を行い、プローブの蛍光強度を20秒間隔ごとにリアルタイム測定した。蛍光強度は465/510 nmにて測定した。
3.装置始動後、対初発蛍光強度差が-1となった時間をTt値とし、Tt値が90分未満であった場合を「LAMP反応あり」と判定し、Tt値が90分以上であった場合を「LAMP反応なし」とした。各試料を同時に複数回(N=2)試験し、いずれも「LAMP反応あり」となった試料を陽性(下表中〇で示す)と判定し、いずれも「LAMP反応なし」となった試料を陰性(下表中×で示す)と判定した。
結果
[実施例6]と同様に、基質のdNTPs濃度が減少するに従い、反応感度が変化し、増幅反応を示すためにはより多くのiPS細胞の混在が必要となる。この複数の反応条件の違いによる検出感度の差異を利用することで、供試する非未分化細胞集団中に含まれる未分化細胞の混在量を検査できる。
例えば、dNTPs濃度が[1]0.9mM、[2]0.8mMと2種類のUSP44 RT-LAMP反応組成にて、未分化細胞(iPS細胞)混在率未知の同一検体を反応に供試し、例1)[1][2]いずれの条件でも増幅した場合、未分化細胞の混在率は0.0032%以上であり、例2)[1]の条件のみで増幅した場合、同混在率は0.001%以上0.0032%未満であり、例3)[1][2]いずれの条件で増幅しなかった場合、同混在率は0.001%未満、と未分化細胞の混在量を検査することが可能である。
考察
未分化マーカー遺伝子LINC00678のqRT-PCRでのLODは0.05~0.005%であったのに対し、今回のLAMP法によるLODは 0.00032~0.00003%と高い検出感度を示した。また、検出対象の未分化マーカー遺伝子は、分化の過程でその発現量が減少する量的変化を示すものを選択すべきであるが、今回数多くの遺伝子を対象とした実施例で示した通り、特定の未分化マーカー遺伝子に限定することなく、汎用性に富んだマーカー遺伝子を選択すべきである。また、未分化細胞が混入する可能性のある非未分化細胞としては、多能性幹細胞(ヒトES細胞、ヒトiPS細胞など)や体性幹細胞から分化および/または由来するものに限らず、HEK293T細胞やHeLa細胞など体細胞から分離された細胞であってもよい。
未分化細胞の混在を検出する本試験においては、未分化細胞が混在している可能性のある細胞集団由来の核酸試料を可能な限り大量に供試する必要があるため、反応液量および核酸供試量が制限される方法は好ましくない。一般的に過剰量の核酸存在下で、PCRは反応阻害を受けやすいため、iPS細胞の微量混在をPCR検出するには、混在率が相対的に高いことが前提となってしまう。それに対し、LAMP法はRNA最終供試量が1~10μgと過剰の場合でも、良好な増幅反応を示し、検出感度も高いため、混在試験法としてふさわしい方法である。また、本法で検出対象として選択する未分化マーカー遺伝子として、未分化細胞でのRNA発現量が高く、なおかつ、分化細胞でのRNA発現量が低い遺伝子が好ましいが、本法は、上述の通り、特定のマーカー遺伝子に限定されることなく、また混在先となる非未分化細胞の範囲も限定されることもない、広く汎用性も認められる方法である。
また、本発明における等温核酸増幅法、特にLAMP法においては、用いるプライマーの塩基配列、プライマーの量、基質、酵素やその触媒などの濃度を含む反応組成条件を変更することで、検出感度を10コピー/テストから数千コピー/テストにまで調整することも可能である。つまり、反応に関与する諸条件に応じて、その検出感度は可変である。この特性を利用し、検出感度が異なる反応組成条件を複数用意し、ひとつの試料を各条件の試験に供試することによって、未分化細胞の有無の判定のみならず、未分化細胞の混在量も検査することが可能となる。なお、複数の検出感度の異なる反応組成条件は、反応容器(チューブ)ごとに設定するほか、ひとつのデバイスでありながら内部流路の分岐により一度に複数の反応条件での試験が可能な形態であっても良く、詳細に限定されない。
未分化細胞マーカー遺伝子としてのLINC00678およびPRDM14
iPS細胞の指標となるマーカー遺伝子の抽出を目的に、マウス発生段階のマイクロアレイ解析およびiPS細胞由来肝細胞の分化誘導過程のシングルセルRNAシークエンス解析を実施し、未分化iPS細胞で特異的かつ高発現しており、分化細胞において発現が低い遺伝子を探索した。
結果
複数の候補遺伝子のうち、qRT-PCRによりiPS細胞で発現が高く、iPS細胞由来の胚体内胚葉細胞(DE)および肝内胚葉細胞(HE)など、分化細胞で発現が低下する遺伝子として、LINC00678(図5)およびPRDM14(図6)を抽出した。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
Claims (11)
- 非未分化細胞集団中の未分化細胞の混在の有無または混在量を検査する方法であって、検査の対象となる細胞集団由来の核酸を含む試料における、未分化細胞と非未分化細胞との間で発現量に有意差がある未分化マーカー遺伝子由来のRNAを等温核酸増幅法により検出することを含み、検査の対象となる細胞集団由来の核酸を含む試料の総核酸供試量が、1テストあたり0.5μg以上であり、検出対象のRNAが下記の(i)及び(ii)の条件を満たす、前記方法。
(i)未分化細胞におけるRNA発現量と非未分化細胞におけるRNA発現量の比が、104倍以上である。
(ii)非未分化細胞におけるRNA発現量が、全RNA量1μgあたり1x104コピー以下であるが、0ではない。 - 未分化細胞から非未分化細胞への分化誘導時および/または分化誘導後の検査の対象となる細胞集団の分化状態を評価する、請求項1記載の方法。
- 未分化細胞が多能性幹細胞または体性幹細胞である請求項2記載の方法。
- 非未分化細胞集団中に未分化細胞が混在している試料における未分化マーカー遺伝子由来のRNA存在量が前記等温核酸増幅法の検出限界以上であり、非未分化細胞中のRNA存在量が前記等温核酸増幅法の検出限界以下であるRNAを検出の対象とし、試料中に検出の対象となるRNAが検出された場合には、陽性と判定し、試料中に検出の対象となるRNAが検出されなかった場合には、陰性と判定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
- 検出の対象となるRNAを鋳型として合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーを用いて等温で核酸増幅する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
- 鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより核酸が増幅される請求項1~5のいずれかに記載の方法。
- 検出の対象となるRNAを鋳型として逆転写酵素により合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーを用いて、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより等温で核酸増幅する工程を含む請求項6に記載の方法。
- さらに、反応を促進するためのプライマーを用いて核酸増幅を行う請求項5~7のいずれかに記載の方法。
- 検出の対象となるRNAを鋳型として逆転写酵素により合成される核酸を、前記核酸の少なくとも6箇所の領域にアニールすることができる少なくとも4種類のプライマーに、さらに反応を促進するためのプライマーを追加し、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼにより等温で核酸増幅する工程を含む請求項8に記載の方法。
- 検出の対象となるRNAの逆転写から増幅、そして検出までを連続的に行う、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
- 非未分化細胞集団中に未分化細胞が0.1%以下の割合で混在する請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
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