JP7097050B2 - 効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法 - Google Patents

効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法 Download PDF

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本発明は、人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」ともいう。)の効率的な樹立方法、並びに当該方法に適したレポーター細胞等に関する。
ヒト体細胞にリプログラミング因子 (例:OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYC: OSKM) を導入することでiPS細胞を作製することができるが、その詳細な分子機構は不明な部分が多い。この分子機構を理解するにはリプログラミング途中の細胞を解析する必要があるが、OSKMが引き起こすリプログラミング効率が極めて低いことが種々の解析を困難にしている。一方で、裏を返せば、この効率の低さの原因を理解することがリプログラミングの分子機構を理解することにつながるとも考えられる。
本発明者らは、TRA-1-60というヒト多能性細胞特異的表面抗原が初期化されている細胞で発現していることを見出した (特許文献1、非特許文献1、2)。TRA-1-60はリプログラミングされていない (され損なった) 細胞では発現しないことから、抗TRA-1-60抗体を用いて初期化されている細胞のみを純化することが可能となった。本発明者らは、この純化系を用いて、初期化途中で起こる複数の重要なイベントを明らかにしてきた。
しかし、TRA-1-60陽性細胞は将来的にiPS細胞へと成熟していく細胞集団であるが、どのようにして体細胞がTRA-1-60陽性細胞へと変化するのかは明らかになっていない。この最も初期に起こる細胞の性質変化を捉えることが、リプログラミングの分子機構を理解するにあたって重要である。
国際公開第2014/200114号公報
Tanabe, K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110(30):12172-12179 (2013) Takahashi, K. et al., Nat. Commun., 5: 3678 (2014)
TRA-1-60陽性細胞へと変化する過程を捉えるためには、将来TRA-1-60陽性細胞へと変化する細胞をあらかじめ予測することが重要である。従って、本発明の目的は、TRA-1-60よりもさらに早い時期に発現するマーカー遺伝子を同定し、該マーカー遺伝子を用いてリプログラミングの分子機構を理解する手段を提供することである。また、本発明の別の目的は、当該マーカー遺伝子の発現を指標とした効率的なiPS細胞の樹立方法を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成するために、5種類のヒト体細胞にOSKMの4因子を導入し、導入前と導入7日後とで、それらの体細胞における遺伝子発現をマイクロアレイを用いて網羅的に解析し、すべての細胞種で5倍以上発現が変動していた遺伝子を抽出した。抽出された194種の上方制御遺伝子の中には、L1TD1、SALL4、NANOG等の早期リプログラミングマーカー遺伝子が含まれていたことから、本発明者らは、これらの上方制御された遺伝子の中に、TRA-1-60遺伝子より早期に発現するリプログラミングマーカー遺伝子があるのではないかと予測した。そこで、(1) 体細胞で発現が検出できない、(2) リプログラミング因子導入後3日目の細胞集団で不均一に発現する、及び(3) 導入後7日目の全てのTRA-1-60陽性細胞で発現している、との条件で、上記194遺伝子を選別したところ、ヒト内在性レトロウイルスH型(HERV-H)駆動性の長鎖非コーディングRNA(lncRNA)を産物とするESRG遺伝子のみが、上記の3条件を満たすことを見出した。
次いで、ESRGの遺伝子座にレポーター遺伝子を導入して、ESRGを発現する細胞を生きたまま識別できる系を作製した。ESRG-レポーター線維芽細胞にOSKMを導入したところ、導入後3日目において数%のレポーター陽性細胞が確認された。フローサイトメトリーを用いた継時的な解析により、ESRG-レポーター陽性細胞のみからTRA-1-60陽性細胞が出現してくることが分かった。OSKM導入から3日目に出現したESRG-レポーター陽性及び陰性細胞をそれぞれ純化し、各細胞集団からiPS細胞の樹立を行った結果、ESRG-レポーター陽性細胞から有意に多くのiPS細胞が樹立されることを見出した。
以上のように、本発明者らは、ESRG-レポーターは最初期のリプログラミングされた細胞を検出することができ、該レポーター陽性細胞を選別することでiPS細胞の樹立効率を顕著に改善し得ることを実証して、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下のものを提供する。
[1]以下の工程を含むiPS細胞の製造方法:
(i) 初期化因子が導入された体細胞集団を培養する工程;
(ii) 該培養された細胞集団からESRG遺伝子を発現する細胞を選別する工程;及び
(iii) 該選別された細胞を培養し、iPS細胞を得る工程。
[2]工程(i)の前に、体細胞に初期化因子を導入する工程を含む、[1]に記載の方法。
[3]工程(ii)を初期化因子の導入後3~11日の間に行う、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]体細胞が、内因性ESRG遺伝子のプロモーターの制御下にレポータータンパク質をコードする核酸を含み、工程(ii)が該レポータータンパク質の発現を指標に行われる、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]レポータータンパク質が蛍光タンパク質である、[4]に記載の方法。
[6]初期化因子が、Octファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Soxファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Klfファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Mycファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Lin28ファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、及びNanog又はそれをコードする核酸からなる群より選択される1種以上を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]iPS細胞の樹立効率を改善する方法であって、初期化因子が導入された体細胞集団からESRG遺伝子を発現する細胞を選別することを含む、方法。
[8]該選別を初期化因子の導入後3~11日の間に行う、[7]に記載の方法。
[9]内因性ESRG遺伝子のプロモーターの制御下にレポータータンパク質をコードする核酸を含む、哺乳動物由来の細胞。
[10]レポータータンパク質が蛍光タンパク質である、[9]に記載の細胞。
[11]多能性幹細胞である、[9]又は[10]に記載の細胞。
[12]iPS細胞から分化誘導した分化細胞集団から、ESRG遺伝子を発現する細胞を除去することを含む、分化細胞の純化方法。
[13]iPS細胞クローンの分化抵抗性の評価方法であって、被検iPS細胞クローンから分化誘導した分化細胞集団におけるESRG遺伝子の発現レベルを指標とすることを特徴とする、方法。
ESRG遺伝子はリプログラミングの極めて初期の段階でその発現が活性化される。また、該遺伝子は、iPS細胞ではすべての細胞で均一に発現し、分化後は速やかに発現が消失する。従って、本発明によれば、ESRG遺伝子の発現を指標としてリプログラミングされた細胞の早期検出及び該細胞を選別することによるiPS細胞樹立化効率の改善、並びに、iPS細胞から分化誘導した分化細胞集団中に残存する未分化細胞の除去及びiPS細胞クローンの分化抵抗性の評価などに有用である。
初期リプログラミングマーカー遺伝子としてのESRG遺伝子の同定、及びESRG陽性細胞の選別によるiPS細胞樹立効率の改善を示す図である。A.初期リプログラミングマーカー遺伝子の同定までの概略を模式的に示す。B.親HDF (d0)、導入後3日目のOSKM発現細胞 (d3)、各時点でのTRA-1-60陽性細胞 (d7~d28) 及びiPS細胞 (iPSC) でのESRG発現を、シングルセルRNA-Seqにより解析した。各時点において24個の単一細胞を調べた。中間値をドットで示す。C.図1Aに示す5種の体細胞からOSKM導入によりiPS細胞を誘導した場合の、親細胞 (d0)、導入後3日目のOSKM発現細胞 (d3)、各時点でのTRA-1-60陽性細胞 (d7~d28) におけるESRGの発現をマイクロアレイを用いて測定した(n=3)。D.EC1B3-Fibにレトロウイルスを用いてOSK又はOSKMを導入し、継時的にESRG-CloverおよびTRA-1-60の発現をフローサイトメトリーで解析した。OSKM導入後3日目において少数のESRG-Clover陽性細胞が出現し、4, 7日目において、ESRG-Clover陽性の集団からTRA-1-60陽性細胞が出現した。E.OSKM導入後3日目にESRG-Clover陽性及び陰性細胞をセルソーティングによりそれぞれ回収し、マウスフィーダー細胞上にまき直し、iPS細胞を樹立する条件で3週間培養した。その後、アルカリフォスファターゼ染色を行い、iPS細胞を可視化した。ESRG-Clover陽性細胞から優位にiPS細胞が出現することが確認された。 ESRG-Cloverレポーター細胞の作製を示す図である。A.ESRG-Cloverレポーターの概略を示す。ESRG遺伝子の第4エクソンにSA-IRES-Clover-Frt-PGK-Neo-pA-Frtカセットを相同組み換えにより導入した (ECN)。その後、FLPoリコンビナーゼを一過的に発現させ、PGK-Neo-pAカセットを除去した (EC)。ゲノム上の黒塗りのボックスはESRG遺伝子のエクソンを示している。3’末端側(プローブ1)又はClover部分の下部(プローブ2)のバーはサザンブロット (図2B、C) に用いたプローブの位置を示している。ゲノムの上部の線および数字は、各プローブを用いてサザンブロット (図2B、C) を行った際の予測バンド及びそのサイズを示している。E5 (EcoRV) およびB (BamHI) はサザンブロット (図2B、C) の際に用いた制限酵素の認識場所を示している。「EC」に示した対向する三角印はRT-PCR (図2E) に用いたプライマーの位置を示している。B.iPS細胞から抽出したゲノムDNAをBamHIで消化し、プローブ1でサザンブロットを行い、正しく相同組換えが起こっていることを確認した。C.iPS細胞から抽出したゲノムDNAをEcoRVで消化し、プローブ2でサザンブロットを行い、ESRG遺伝子座以外に導入カセットの非特異的な挿入がないことを確認した。D.Gバンド解析により、ESRG-Clover iPS細胞の核型が正常であることを確認した。E.図2Aに示したプライマーセットでRT-PCRを行い、ESRG-Clover iPS細胞において、レポーター遺伝子が正しく発現していることを確認した。F.野生型iPS細胞 (975E4)、ESRG-Clover iPS細胞 (EC1B3) およびEC1B3から試験管内分化誘導により作製した線維芽細胞 (EC1B3-Fib) におけるCloverの発現をフローサイトメトリーで確認した。EC1B3において特異的にCloverの発現が検出された。G.元のiPS細胞 (975E4)、ESRG-Clover iPS細胞 (EC1B3) およびEC1B3から試験管内分化誘導により作製した線維芽細胞 (EC1B3-Fib) におけるESRG-Cloverの発現をフローサイトメトリーで確認した。EC1B3においてはESRG-Cloverが発現しているが、EC1B3-FibではESRG-Cloverの発現は検出できなかった。H.成人由来皮膚線維芽細胞 (HDF)、ESRG-Clover iPS細胞 (EC1B3) およびEC1B3から試験管内分化誘導により作製した線維芽細胞 (EC1B3-Fib) におけるTRA-1-60の発現をフローサイトメトリーで確認した。EC1B3においてはTRA-1-60が発現しているが、EC1B3-FibではHDFと同程度までTRA-1-60の発現が低下していることが確認できた。 ESRG-Clover iPS細胞から試験管内分化誘導により線維芽細胞を作製するプロトコルを示す図である。
本発明は、初期化因子導入後の適切な時期に、初期化因子を導入された体細胞集団からESRG遺伝子を発現する細胞を選別することを特徴とする、iPS細胞の樹立効率改善方法、並びに当該方法を利用した効率的なiPS細胞の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)を提供する。本発明の製造方法は、以下の工程を含む。
(i) 初期化因子が導入された体細胞集団を培養する工程
(ii) 該培養された細胞集団からESRG遺伝子を発現する細胞を選別する工程
(iii) 該選別された細胞を培養し、iPS細胞を得る工程
工程(i)では、初期化因子が導入された体細胞集団を培養する。
「人工多能性幹(iPS)細胞」は、特定の初期化因子を、核酸(DNAもしくはRNA)またはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって製造することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(Takahashi, K.及びS. Yamanaka (2006) Cell, 126: 663-676; Takahashi, K. et al. (2007) Cell, 131: 861-872; Yu, J. et al. (2007) Science, 318: 1917-1920; Nakagawa, M.et al. (2008) Nat. Biotechnol. 26: 101-106; WO2007/069666)。
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞及び分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
体細胞のソースとしての哺乳動物個体の選択は特に制限されない。しかしながら、iPS細胞を、ヒトにおける疾患の治療に使用する場合、移植片拒絶及び/又はGvHDを予防するという観点から、体細胞は、患者本人の細胞であるか、あるいは患者のHLA型と同一又は実質的に同一であるHLA型を有する他人から採取されることが好ましい。本明細書中で使用される「実質的に同一であるHLA型」とは、ドナーのHLA型が、免疫抑制剤等の使用を伴う患者に移植した場合に、ドナーの体細胞由来のiPS細胞からの分化誘導により得られた移植細胞が生着可能である程度に、患者のものと一致することを意味する。例えば、主たるHLA(HLA-A、HLA-B及びHLA-DRの主要な3遺伝子座、あるいはさらにHLA-Cwを含む4遺伝子座)が同一であるHLA型等が挙げられる。
初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはノンコーディング(non-coding)RNA、またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはノンコーディングRNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3、Glis1等が例示される。これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu, D. et al. (2008) Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi, Y. et al. (2008) Cell Stem cell, 2: 525-528、Eminli, S. et al. (2008) Stem Cells, 26: 2467-2474、Huangfu, D. et al. (2008) Nat. Biotechnol., 26: 1269-1275、Shi, Y. et al. (2008) Cell Stem Cell, 3: 568-574、Zhao, Y. et al. (2008) Cell Stem Cell, 3: 475-479、Marson, A. (2008) Cell Stem Cell, 3: 132-135、Feng, B. et al. (2009) Nat. Cell Biol., 11: 197-203、Judson, R.L. et al. (2009) Nat. Biotechnol., 27: 459-461、Lyssiotis, C.A. et al. (2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106: 8912-8917、Kim, J.B. et al. (2009) Nature, 461: 649-653、Ichida, J.K. et al. (2009) Cell Stem Cell, 5: 491-503、Heng, J.C. et al. (2010) Cell Stem Cell, 6: 167-74、Han, J. et al. (2010) Nature, 463: 1096-100、Mali, P. et al. (2010) Stem Cells, 28: 713-720及びMaekawa, M. et al. (2011) Nature, 474: 225-9に記載の組み合わせが例示される。
好ましい態様において、Oct3/4、Sox2及びKlf4(OSK)を初期化因子として用いることができる。より好ましくは、該3因子に加え、L-Myc、N-Myc及びc-Myc(T58A変異体を含む)から選択されるMycファミリーメンバー(M)を用いることができる。さらに、Lin28は、TRA-1-60陽性細胞の形成を促進し、TRA-1-60陰性細胞への逆戻り転換を阻害するので、3因子(OSK)又は4因子(OSKM)に加え、Lin28を初期化因子として使用することも好ましい。
上記初期化因子には、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327及びPD0325901)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-アザシチジン)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-チャネルカルシウムアゴニスト(例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wntシグナリングアゴニスト(例えば可溶性Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLIS1、PITX2、DMRTB1等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれるが、それらに限定されない。本明細書においては、これらの樹立効率を高めることを目的として用いられる因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
初期化因子がDNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(Cell, 126: 663-676, 2006; Cell, 131: 861-872, 2007; Science, 318: 1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322: 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Hemagglutinating Virus of Japanのベクター)(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322: 949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができ、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびシュードウリジン(pseudouridine)(TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren, L. (2010) Cell Stem Cell, 7: 618-630)。
工程(i)において、初期化因子が導入された体細胞集団を培養し、iPS細胞を誘導するための培養液としては、例えば、10~15% FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。
工程(i)の培養の具体例としては、10% FBSを含有するDMEM又はDMEM/F12培養液中、5% CO2を含む雰囲気下、37℃で、初期化因子が導入された体細胞集団を培養することが挙げられる。無血清培地を用いる培養方法もまた例として挙げることができる(Sun, N. et al. (2009) Proc Natl Acad Sci USA, 106: 15720-15725)。さらに、樹立効率を増進させるため、低酸素条件(酸素濃度0.1~15%、好ましくは1~10%)で該体細胞集団を培養してもよい(Yoshida, Y. et al. (2009) Cell Stem Cell, 5: 237-241又はWO2010/013845)。
上記培養の間、培養開始2日目以降から、培養液を1日1回新鮮な培養液と交換することが望ましい。核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103~約5×106細胞である。
工程(ii)では、工程(i)で培養した細胞集団からESRG遺伝子を発現する細胞を選別する。本発明は、少なくとも部分的には、TRA-1-60よりもさらに早いリプログラミングの最初期の段階で、リプログラミングのプロセスに入った体細胞が、細胞種に関係なくESRG遺伝子を発現すること、即ち、ESRG遺伝子がユニバーサルな初期リプログラミングマーカー遺伝子であることを、本発明者らが初めて見出したことに基づく。これまで初期リプログラミングマーカーとして知られていたTRA-1-60の場合、初期化因子導入後11日目までに選別を行っても、いったんTRA-1-60陽性となった初期化途中の細胞の半数以上が、その後の培養の間にTRA-1-60陰性に戻るため、最終的にiPS細胞とならず、選別しない場合とiPS細胞の樹立効率は変わらないのに対し、ESRG陽性細胞を選別した場合、初期化因子導入後3日目に選別しても、高い効率でiPS細胞を樹立することができる。
後述の実施例で示されるとおり、ESRG遺伝子の発現は、リプログラミングの成熟プロセスの間上昇し、完全に初期化されたiPS細胞でも高発現が維持されるので、工程(ii)における選別は、少なくとも体細胞集団の一部の体細胞がESRG遺伝子を発現し始めた後であれば、いかなるタイミングで実施してもよい。例えば、初期化因子導入後1日目以降に選別を行うことができるが、好ましくは2日目以降、より好ましくは3日目以降である。選別実施時期の上限は特に制限されないが、初期化因子導入後11日を超えると、TRA-1-60陽性細胞を選別するのと同等の効果を奏することとなるので、本発明の優位性が顕著な選別実施時期としては、初期化因子導入後11日目までが挙げられる。従って、工程(ii)における選別は、初期化因子導入後3~11日の間に行うことが好ましい。
ESRG遺伝子は非翻訳性のlncRNAをコードするので、該遺伝子を発現する細胞(ESRG陽性細胞)の選別は、該RNAの発現を指標として行われる。細胞表面の糖鎖抗原であるTRA-1-60と異なり、ESRG RNAは細胞内に局在するので、抗体を用いたフローサイトメトリーによりESRG陽性細胞を選別することはできない。そこで、例えば、体細胞の内因性ESRG遺伝子のプロモーターの制御下に置かれるように、レポータータンパク質をコードする核酸をESRG遺伝子座に導入し、ESRG遺伝子の発現を、該レポータータンパク質の発現により可視化することで、ESRG陽性細胞の選別が可能となる。特に、レポータータンパク質として、蛍光タンパク質を用いることにより、フローサイトメーターを用いてFACSによりESRG陽性細胞を選別することができる。ここで蛍光タンパク質として、例えば、GFP、EGFP、Clover、TurboGFP、Azami-Green等の緑色蛍光タンパク質、Sirius、EBFP等の青色蛍光タンパク質、CFP、ECFP、AmCyan等のシアン色蛍光タンパク質、YFP、EYFP、Venus等の黄色蛍光タンパク質、mOrange、KusabiraOrange等の橙色蛍光タンパク質、RFP、DsRed、mStrawberry、mCherry等の赤色蛍光タンパク質などから適宜選択して用いることができる。
ESRG遺伝子座へのレポータータンパク質をコードする核酸の導入は、自体公知の相同組換え法により行うことができる。ESRG遺伝子座にレポータータンパク質をコードする核酸が導入された細胞(ESRG-レポーター細胞)は、レポーターを用いたESRG陽性細胞の選別が可能である限り、ヘテロ接合性にレポーターを有していても、ホモ接合性にレポーターを有していてもよいが、好ましくはホモ接合性である。本発明の製造方法を、再生医療用のヒトiPS細胞の樹立のために利用する場合、体細胞として、移植を受ける患者本人又は実質的にHLA型が同一の他人から採取した細胞(例:皮膚線維芽細胞、末梢血もしくは臍帯血単核球等)を用いることから、相同組換え法としては、高頻度にかつ同時に相同染色体の両方の遺伝子座にレポーターを導入することができる、CRISPR/Cas9、TALEN、ZFNを用いたゲノム編集により、ESRG遺伝子配列とターゲッティングベクターとの相同組換えを生じさせることが望ましい。一方、リサーチツールとして、マウスやラット等由来のESRG-レポーター細胞を作製する場合には、ES細胞等の多能性幹細胞にレポーターを含むターゲッティングベクターを導入し、常法によりキメラ動物を作製し、生殖系列に多能性幹細胞が寄与したマウスを交配して、ホモ接合性のESRG-レポーター動物を作製しておき、該動物から線維芽細胞等を単離してESRG-レポーター細胞として用いてもよいが、やはり簡便さの面から、ゲノム編集を用いることが好ましい。
例えば、ESRG-レポーター細胞を作製するためのターゲッティングベクターとして、図2Aに記載のコンストラクトを用いることができるが、これに限定されない。図2Aでは、ESRG遺伝子の第4エクソン及びその近傍と相同な配列を用い、第4エクソンの内部にレポーター(Clover)を挿入するように設計されている。この場合、レポータータンパク質の翻訳を可能とするために、該タンパク質をコードする核酸の上流にポリシストロニックな発現を可能にする配列(例:IRES、2A配列)を挿入しておけばよい。また、レポータータンパク質をコードする核酸の下流には、転写終結シグナルであるポリアデニル化シグナルや、ポリA部位のリードスルーを防ぎ、RNAのプロセッシングと成熟の促進、RNAの核外への輸送促進に寄与するWPRE配列等を付加してもよい。さらに、選択マーカーとして、カナマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を挿入してもよい。該選択マーカー遺伝子の両端にloxPやFrt配列を導入しておけば、ESRG-レポーター細胞の選択後にCre又はFlpリコンビナーゼを作用させることにより、該選択マーカー遺伝子を除去することができる。さらに、本発明の製造方法により得られたiPS細胞を分化誘導してヒトへの移植細胞として用いる場合、残存する未分化細胞をレポーターの発現を指標として除去した後に、不要となったレポーターを含む挿入配列を除くために、該配列の両端にFrtやloxP配列を配置しておけば、Flp又はCreリコンビナーゼを作用させることにより、挿入配列全体を除去することもできる。もちろん、移植部位がレポーターの発現を検出可能な部位であれば、レポーター発現カセットを保持しておくことで、移植後の細胞の脱分化(腫瘍化)をモニタリングすることもできる。
工程(iii)においては、工程(ii)で選別されたESRG陽性細胞を、フィーダー細胞(例:マイトマイシンCで処理したSTO細胞、SNL細胞等)上に再播種し、bFGFを含有する霊長類ES細胞用培養液中で培養することができる。細胞は、10% FBSを含有するDMEM培養液(さらにLIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含有むことができる)中で、フィーダー細胞上、5% CO2を含む雰囲気下、37℃で培養することもできる。
あるいは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞自体又は細胞外基質(例:ラミニン-5 (WO2009/123349)及びマトリゲル (BD))を用いる方法(Takahashi, K. et al. (2009) PLoS One, 4: e8067又はWO 2010/137746)を挙げることができる。
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
上述のように、ESRG遺伝子は、iPS細胞ではすべての細胞で均一に発現し、分化後は速やかに発現が消失する。従って、ESRG遺伝子の発現を指標として、iPS細胞から分化誘導した分化細胞集団中に残存する未分化細胞を除去することが可能である。即ち、本発明はまた、iPS細胞から分化誘導した分化細胞集団から、ESRG遺伝子を発現する細胞を除去することを含む、分化細胞の純化方法(残存する未分化細胞の除去方法)(以下、「本発明の純化方法」ともいう。)を提供する。
本発明の純化方法に用いられるiPS細胞集団は、好ましくは、上記ESRG-レポーター細胞から誘導されたiPS細胞の集団である。該iPS細胞集団はすべての細胞でESRG-レポーターを発現しており、該レポーターの発現により可視化されている。
iPS細胞から所望の分化細胞への分化誘導法としては、目的の分化細胞の種類に応じて、自体公知の方法を用いることができる。分化誘導後に細胞集団を回収し、レポータータンパク質を発現する細胞を選択除去する。該選択除去方法としては、例えば、該レポータータンパク質が蛍光タンパク質である場合、フローサイトメーターを用いて、該蛍光タンパク質に特有の波長の励起光を照射し、該蛍光タンパク質に特有の波長の蛍光を発する細胞を分離除去して、蛍光を発しない細胞集団を純化して回収する方法が挙げられる。
本発明の純化方法により得られた分化細胞集団は、未分化細胞の混入がないので、移植用細胞として、ヒトの再生医療に好ましく使用することができる。
WO 2010/137348に記載されるように、iPS細胞から分化誘導した細胞の生体への移植後の腫瘍形成は、iPS細胞から分化細胞への分化誘導工程に依存して起きるのではなく、元のiPS細胞クローンが固有に有していた特徴であることを、本発明者らは以前に見出している。さらに、iPS細胞クローンから誘導したニューロスフェアにおける未分化細胞の含有率を、対照含有率(即ち、ES細胞や腫瘍形成リスクがないことが既に知られているiPS細胞から誘導したニューロスフェアにおける未分化細胞の含有率)と比較することで、予め腫瘍形成リスクの低いiPS細胞クローンを選別することができることを見出し、該iPS細胞クローンから分化誘導した移植用細胞における腫瘍形成リスクをその都度確認せずとも、安全な移植用細胞を提供することを可能にした。WO 2010/137348では、Nanog等の未分化細胞特異的遺伝子を指標として腫瘍形成リスクの少ないiPS細胞クローンを選択していたが、未分化細胞特異的遺伝子としてESRG遺伝子を用いることによっても、iPS細胞クローンの分化抵抗性(腫瘍形成リスク)を評価することができる。従って、本発明はまた、被検iPS細胞クローンから分化誘導した分化細胞集団におけるESRG遺伝子の発現レベルを指標とすることを特徴とする、iPS細胞クローンの分化抵抗性の評価方法(本発明の評価方法)を提供する。
本発明の評価方法は、WO 2010/137348の実施例に記載される方法を、未分化細胞特異的遺伝子をESRG遺伝子に代えて実施することにより行うことができる。
本発明の評価方法により、腫瘍形成リスクがES細胞や腫瘍形成リスクがないことが既知のiPS細胞と同等以下であると判定されたiPS細胞クローンから分化誘導された分化細胞集団は、移植用細胞として、ヒトの再生医療に好ましく使用することができる。
以下に、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
1.材料及び方法
(マイクロアレイによる遺伝子発現解析)
細胞をTrizol試薬 (Thermo Fisher Scientific) を用いて溶解し、全RNAをmiReasy Mini Kit (QIAGEN) を用いて精製した。全RNA 50 ngをシアニン3-CTPでラベルし、SuperPrint G3 Human GE 8x60K (G4851A, Agilent Technologies) を用いてワンカラープロトコルによりハイブリダゼーションを行った。Microarray Scanner System (G2565BA, Agilent Technologies) を用いてアレイをスキャンし、GeneSpring version 12.6 (Agilent Technologies) を用いて、抽出されたシグナルを解析した。
(プラスミド)
ESRG遺伝子座に挿入するレポーター遺伝子を作製すべく、以下の手順で蛍光遺伝子を含むターゲッティングベクターを構築した。pCXLE由来のウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)-ウサギβ-グロビンポリAシグナル配列(RbgpA)フラグメントを、プライマーセット(WPRE-EcoR1-BamH1-IF-S/RbgpA-Hind3-IF-AS)を用いてPCR増幅し、In-Fusion HD Cloning Kit(639648; Clontech)を用いてpBS-PMAのEcoRI/HindIIIサイトに挿入し、pBS-WPRE-RbgpAを得た。FRTでフランキングしたPGK-Neo-pAカセット(PNF, Gene Bridges) をプライマーセット(PNF-IF-S2/PNF-Hind3-IF-AS2) を用いてPCR増幅し、In-Fusion HD Cloning Kitを用いてpBS-WPRE-RbgpAのHindIIIサイトに挿入し、pBS-WPRE-RbgpA-PNFを得た。pcDNA3-Clover (Addgene #40259) 由来のCloverフラグメントをプライマーセット (Clover-IF-BstX1-S3/Clover-IF-Not1-AS4) を用いてPCR増幅し、In-Fusion HD Cloning Kitを用いてpIRES2-ZsGreen1 (Clontech) のBstXI/NotIサイトにサブクローニングし、pIRES2-Cloverを得た。pIRES2-CloverのBamHIフラグメントをpBS-WPRE-RbgpA-PNFのBamHIサイトに挿入し、pBS-IRES-Clover-WPRE-RbgpA-PNFを得た。Rosa26 TVベクターのスプライシングアクセプター配列 (SA) をプライマーセット(Ad-SA-IF-Mfe1-S/Ad-SA-IF-Mfe1-AS) を用いてPCR増幅し、In-Fusion HD Cloning Kitを用いてpBS-IRES-Clover-WPRE-RbgpA-PNFのMfeIサイトにサブクローニングし、pBS-SA-IRES-Clover-WPRE-RbgpA-PNFを得た。最後に、5’及び3’ホモロガスアームをプライマーセット (ESRG-5HA-Pac1 -S/ESRG-5HA-Pac1-AS及びESRG-3HA-Asc1-S/ESRG-3HA-Asc1-AS) を用いてPCR増幅し、In-Fusion HD Cloning Kitを用いてpBS-SA-IRES-Clover-WPRE-RbgpA-PNF のPacIサイト及びAscIサイトにそれぞれ挿入した。
CRIPR/Cas9による遺伝子編集のために、ESRGの第4エクソンに対するガイドRNA (gRNA-ESRG-Ex4-1) を設計した。gRNAオリゴとユニバーサルプライマー (gRNA-universal-rev) とを用いてプライマー伸長法を実施した。得られたフラグメントをIn-Fusion HD Cloning Kitを用いてpHL-H1-ccdB-EF1a-RiHのBamHI/EcoRIにサブクローニングした。EcoRI及びNotI認識配列でフランキングしたESRG配列 (NR_027122.1) をLife Technologiesにより合成し、pMXのEcoRI/NotIサイトに挿入した。RT-PCRで増幅するか、DNAFORMから入手した他の遺伝子は、既報のとおりpMXにクローニングした。
FLPoのORFを、pPGKFLPobpA (Addgene #13793) から、プライマーセット (FLPo-S/FLPo-AS) を用いてPCR増幅し、pENTR-D-TOPO (Thermo Fisher Scientific; K240020) にサブクローニングした。次いで、該フラグメントをGateway LR反応を用いてpPyCAG-gw-IP (Mitsui et al., 2003) に移し、pPyCAG-FLPo-IPを得た。
(遺伝子編集)
Cas9をコードするプラスミド (pHL-EF1a-SphcCas9-iC-A; Addgene #60599)、gRNAベクター及びターゲッティングベクター各5 μgを、NEPA21 electroporator (NEPAGENE) を用いたエレクトロポーレーションにより975E4 iPS細胞に導入した。その後、4 ng/ml bFGF及び10 μM Y-27632 (Wako) を添加した霊長類ES細胞培地中のマイトマイシンC処理したSNLフィーダー上に細胞を播種した。3日後に、250 μg/ml ジェネティシン (Life Technologies) を用いて細胞を選択した。次いで、単離したiPSCクローンに、エレクトロポーレーションによりpPyCAG-FLPo-IPを導入し、PNFカセットを除去した。翌日、細胞を1 μg/ml ピューロマイシン (Life Technologies) により2日間選択した。細胞を回収し、マイトマイシンC処理したSNLフィーダー上に再播種し、コロニーを形成するまで維持した。サンガーシーケンシングにより、CRISPRの標的部位の周辺領域に予期せぬ挿入・欠失がないことを確認し、PCRとサザンブロッティングにより相同組換えとカセット除去が正しく行われていることを確認した。
(サザンブロット)
細胞を細胞溶解液 (QIAGEN 158906) で溶解し、DNeasy blood and tissue kit (QIAGEN 69504) を用い、製造者のプロトコルに従ってゲノムDNAを精製した。ゲノムDNA 10 μgをBamHI-HF (New England Biolabs) 又はEcoRV-HF (New England Biolabs) で一晩消化し、0.8% アガロースゲル電気泳動により分離し、ナイロンメンブレン (Amersham) に転写した。メンブレンをDIG Easy Hyb buffer (Roche) 中でジゴキシゲニン (DIG) 標識したDNAプローブと、常時回転させながら42℃で一晩インキュベートした。洗浄後、アルカリホスファターゼをコンジュゲートした抗DIG抗体 (1:10,000, Roche) をメンブレンに添加した。CDP-star reagent (Roche) でシグナルを生成させ、LAS3000イメージングシステム (FUJI FILM) を用いて検出した。相同組換えの確認のための外部プローブをプライマーセット (ESRG-southern-probe-S/ESRG-southern-probe-AS) を用いてPCRにより作製した。予期せぬランダムインテグレーションがないことを確認するための内部プローブをプライマーセット (Clover-BamH1-S/Clover-AS) を用いてPCR増幅した。
プラスミド構築、遺伝子編集及びサザンブロットのために用いたオリゴ核酸を表1に示す。
Figure 0007097050000001
2.結果
(初期リプログラミングマーカーとしてのESRGの同定)
TRA-1-60陽性細胞へと変化する過程を捉えるためには、将来TRA-1-60陽性細胞へと変化する細胞をあらかじめ予測することが重要である。そこで、TRA-1-60よりもさらに早い時期に発現するマーカー遺伝子の同定を試みた。5種類のヒト体細胞(皮膚線維芽細胞(HDF;中胚葉系列)、脂肪由来間葉系肝細胞(HAdMSC;中胚葉系列)、アストロサイト(HA;外胚葉系列)、気管支上皮細胞(HBEC;内胚葉系列)、前立腺上皮細胞(HPrEC;内胚葉系列))に、OSKMの4因子を導入し、導入前と導入7日後とで、それらの体細胞における遺伝子発現をマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。すべての細胞種で5倍以上発現が変動していた遺伝子(false discovery rate (FDR)<0.05)を抽出した結果、発現が上昇する遺伝子として194遺伝子、発現が低下する遺伝子として74遺伝子が抽出された(図1A)。上方制御された遺伝子の中には、L1TD1、SALL4、NANOG等の早期リプログラミングマーカー遺伝子が含まれていたことから、これらの上方制御された遺伝子の中に、TRA-1-60遺伝子より早期に発現するリプログラミングマーカー遺伝子が存在する可能性が示唆された。
そこで、(1) 体細胞で発現が検出できない、(2) リプログラミング因子導入後3日目の細胞集団で不均一に発現する、及び(3) 導入後7日目の全てのTRA-1-60陽性細胞で発現している、との条件で、上記194遺伝子を選別した。シングルセルRNAシーケンシング(RNA-Seq)を用い、親のHDF、導入後3日目のOSKM発現細胞、並びに導入後7~28日目のTRA-1-60陽性細胞について調べた。その結果、ヒト内在性レトロウイルスH型(HERV-H)駆動性の長鎖非コーディングRNA(lncRNA)を産物とするESRG遺伝子のみが、上記の3条件を満たすことを見出した(図1A、B)。
次に、上記5種の体細胞からiPS細胞樹立の過程でのESRGの発現を調べたところ、すべての細胞種で類似の発現パターンを示すことが確認された(図1C)。これらの結果は、ESRGが、出発材料となる体細胞の種類に関係なくリプログラミングの初期マーカー遺伝子として機能することを示している。
(ESRG-レポーター細胞を用いた解析)
ESRGの発現を指標としたリプログラミング機構の解析を行うために、CRISPR/Cas9システムを用いた相同組換えにより、iPS細胞にESRG遺伝子座に緑色蛍光遺伝子Cloverを導入し、ESRGが発現する細胞を生きたまま識別できる系を作製した (図2A~E)。得られたESRG-Clover iPS細胞はすべての細胞で均一にCloverを発現していた (図2F~H)。一方で、既報の方法(Park et al., Nature, 451: 141-146 (2008);図3)に従い、試験管内分化誘導により線維芽細胞へと分化させると、Cloverの発現は完全に消失した (図2F~H)。
ESRG-Clover iPS細胞由来の線維芽細胞に、既報のとおりOSK又はOSKMをレトロウイルスを用いて導入し(Tanabe, K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110(30):12172-12179 (2013)、Takahashi, K. et al., Nat. Commun., 5: 3678 (2014))、ESRG-Clover及びTRA-1-60の発現を調べた。初期化因子導入前の線維芽細胞はESRG及びTRA-1-60のいずれも発現していなかった(図1D、図2F~H)。導入後3日目に、OSK導入では2.39±0.56%、OSKM導入では2.13±0.54%のESRG-Clover陽性細胞がそれぞれ検出されたが、TRA-1-60陽性細胞は検出されなかった(図1D)。このことは、ESRGがリプログラミングのプロセスにおいてTRA-1-60よりも早期に活性化されることを示している。導入後4日目には少数のESRG陽性/TRA-1-60陽性細胞が出現した(図1D)。一方で、ESRG陽性細胞の割合は増加しなかった。導入後3日目に出現したESRG-Clover陽性細胞と陰性細胞とを選別し、それぞれを再播種してiPS細胞を誘導したところ、ESRG-Clover陽性細胞からは多くのiPS細胞クローンが得られたのに対し、陰性細胞からは極めて少数のiPS細胞クローンしか生成しなかった(図1E)。これらのデータは、ESRG-Clover陽性細胞のみからTRA-1-60陽性細胞が出現してくることを示している。
本発明によれば、ESRG遺伝子の発現を指標としてリプログラミングされた細胞の早期検出及び該細胞を選別することによるiPS細胞樹立化効率の改善、並びに、iPS細胞から分化誘導した分化細胞集団中に残存する未分化細胞の除去及びiPS細胞クローンの分化抵抗性の評価などが可能となる。従って、本発明はiPS細胞のリプログラミング機構の解明のためのリサーチツールとして、あるいは、再生医療に利用可能な安全なiPS細胞由来の移植細胞を作製するのに、きわめて有用である。

Claims (6)

  1. 以下の工程を含むiPS細胞の製造方法:
    (i) 初期化因子が導入された体細胞集団を培養する工程;
    (ii) 初期化因子の導入後3~11日の間に、該培養された細胞集団からESRG遺伝子を発現する細胞を選別する工程;及び
    (iii) 該選別された細胞を培養し、iPS細胞を得る工程。
  2. 工程(i)の前に、体細胞に初期化因子を導入する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 体細胞が、内因性ESRG遺伝子のプロモーターの制御下にレポータータンパク質をコードする核酸を含み、工程(ii)が該レポータータンパク質の発現を指標に行われる、請求項1又は2に記載の方法。
  4. レポータータンパク質が蛍光タンパク質である、請求項に記載の方法。
  5. 初期化因子が、Octファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Soxファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Klfファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Mycファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、Lin28ファミリーメンバー又はそれをコードする核酸、及びNanog又はそれをコードする核酸からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  6. iPS細胞の樹立効率を改善する方法であって、初期化因子の導入後3~11日の間に、初期化因子が導入された体細胞集団からESRG遺伝子を発現する細胞を選別することを含む、方法。
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