以下、図面を参照して一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
なお、本明細書において、「層」、「シート」及び「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて互いから区別されるものではない。例えば「層」という用語は、シート或いはフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。
また、「板面(シート面、フィルム面)」とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となる板状部材(シート状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
図1には、調光部材を備えた移動体の一例としての自動車を概略的に示す図である。図2は、調光部材をその板面の法線方向から見た図である。図3は、図2のIII-III線に沿った調光部材の断面を示す図である。図4は、調光部材の一部を拡大して示す平面図である。
図1に示されているように、移動体の一例としての自動車1は、サンルーフ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ等の窓ガラスを有している。ここでは、サンルーフ5が調光部材10で構成されているものを例示する。また、自動車1は、図示しないバッテリー等の電源を有している。調光部材10は、電圧を印加されることで、可視光透過率を変化させることができる。例えば、調光部材10は、可視光透過率を70%から1%の間で変化させることができる。調光部材10の可視光透過率を適宜に調節することで、太陽光等の外光を適切な光量で透過させることができる。また、調光部材10で外光を遮蔽することもできる。
ここで、可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JIS K 0115準拠品)を用いて測定波長380nm~780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。
図2は、この調光部材10をその板面の法線方向から示している。また、図3は、図2の調光部材10のIII-III線に対応する断面図を示している。図2及び図3に示された例では、調光部材10は、一対の基板である第1基板11及び第2基板12と、第1基板11と第2基板12との間に配置された調光ユニット20と、第1基板11と調光ユニット20とを接合する第1接合層13と、第2基板12と調光ユニット20とを接合する第2接合層14と、を有している。また、調光部材10は、外部の電源と接続するための配線15を有している。配線15を介して、電源から調光部材10に電圧を印加することができる。図2に示されるように、調光部材10は、平面視において、平板状の矩形形状を有しているが、調光部材10は、湾曲していてもよい。調光部材10は、適用されるものに応じた形状及び大きさを、適宜にとることができる。
以下、調光部材10の各構成要素について説明する。
まず、第1基板11及び第2基板12について説明する。第1基板11及び第2基板12は、図1で示された例のように自動車1のサンルーフ5に用いる場合、調光部材10が外光を遮蔽しない状態で外光を十分に透過させることができるよう、可視光透過率が高いもの、例えば可視光透過率が90%以上のものを用いることが好ましい。このような第1基板11及び第2基板12の材質としては、ソーダライムガラスや青板ガラス等の無機ガラスや、ポリカーボネートやアクリル等の樹脂ガラスが例示できる。第1基板11及び第2基板12に無機ガラスを用いた場合、耐熱性、耐傷性に優れた調光部材10とすることができる。第1基板11及び第2基板12に樹脂ガラスを用いた場合、調光部材10を軽量にすることができる。
また、第1基板11及び第2基板12は、1mm以上5mm以下の厚みを有していることが好ましい。このような厚みであると、強度及び光学特性に優れた第1基板11及び第2基板12を得ることができる。第1基板11及び第2基板12は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
次に、第1接合層13及び第2接合層14について説明する。第1接合層13が、第1基板11と調光ユニット20との間に配置され、第1基板11と調光ユニット20とを互いに接合する。第2接合層14が、第2基板12と調光ユニット20との間に配置され、第2基板12と調光ユニット20とを互いに接合する。
このような第1接合層13及び第2接合層14としては、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いることができる。また、第1接合層13及び第2接合層14は、可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。典型的な接合層としては、ポリビニルブチラール(PVB)からなる層を例示することができる。あるいは、接合層は、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)、COP(シクロオレフィンポリマー)等からなる層であってもよい。第1接合層13及び第2接合層14の厚みは、それぞれ0.15mm以上1mm以下であることが好ましい。第1接合層13及び第2接合層14は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
なお、調光部材10には、図示された例に限られず、特定の機能を発揮することを期待されたその他の機能層が設けられても良い。また、1つの機能層が2つ以上の機能を発揮するようにしてもよいし、例えば、調光部材10の第1基板11及び第2基板12、第1接合層13及び第2接合層14、後述する調光ユニット20の第1積層体30及び第2積層体40の、少なくとも一つに何らかの機能を付与するようにしてもよい。調光部材10に付与され得る機能としては、一例として、反射防止(AR)機能、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等を例示することができる。
次に、調光ユニット20について説明する。調光ユニット20は、可撓性を有するフィルム状に形成されている。調光ユニット20は、電圧を印加されることで、可視光透過率を変化させることができる。すなわち、調光ユニット20は、調光部材10に調光機能を付与している。調光ユニット20は、第1積層体30及び第2積層体40と、第1積層体30及び第2積層体40の間に配置された液晶層25と、第1積層体30及び第2積層体40の間に配置されたビーズスペーサ50と、を有している。また、調光ユニット20は、第1積層体30及び第2積層体40の間において液晶層25を取り囲むシール材27を有している。
第1積層体30は、第1樹脂基材31と、第1樹脂基材31に積層された第1配向膜33と、第1樹脂基材31と第1配向膜33との間に配置された第1電極37と、を有している。同様に、第2積層体40は、第2樹脂基材41と、第2樹脂基材41に積層された第2配向膜43と第2樹脂基材41と第2配向膜43との間に配置された第2電極47と、を有している。第1積層体30及び第2積層体40は、第1配向膜33と第2積層体40の第2配向膜43とが互いに対面するように、配置されている。
第1樹脂基材31は、第1配向膜33及び第1電極37を適切に支持するための部材である。同様に、第2樹脂基材41は、第2配向膜43及び第2電極47を適切に支持するための部材である。第1樹脂基材31及び第2樹脂基材41の材料は、可撓性を有し、可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。このような第1樹脂基材31及び第2樹脂基材41としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、EVA等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリサルホン(PEF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリエーテル(PE)、ポリエーテルケトン(PEK)、(メタ)アクロニトリル、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー等の樹脂を例示することができ、特に、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂が好ましい。第1樹脂基材31及び第2樹脂基材41の可視光透過率は90%以上であることが好ましい。また、第1樹脂基材31及び第2樹脂基材41は、例えばポリエチレンテレフタレートの場合、30μm以上250μm以下の厚みを有していることが好ましい。このような厚みであると、強度及び光学特性に優れた第1樹脂基材31及び第2樹脂基材41を得ることができる。第1樹脂基材31及び第2樹脂基材41は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
第1配向膜33及び第2配向膜43は、液晶層25に隣接する層であって、液晶層25中の液晶分子の配向を規制する。第1配向膜33及び第2配向膜43の製造方法は、特に限定されない。任意の手法によって液晶配向能を有する第1配向膜33及び第2配向膜43を作製することができる。例えば、ポリイミド等の樹脂層に対してラビング処理を施すことで第1配向膜33及び第2配向膜43が作製されてもよいし、高分子膜に直線偏光紫外線を照射して偏光方向の高分子鎖を選択的に反応させる光配向法に基づいて第1配向膜33及び第2配向膜43が作製されてもよい。このようなラビング処理による第1配向膜33及び第2配向膜43に代えて、ラビング処理により製造した微細なライン状凹凸形状を賦型処理により製造して第1配向膜33及び第2配向膜43を作製してもよい。また、後述する液晶層25にGH方式を用いる場合、ラビング処理がされていなくともよい。
第1配向膜33の厚さTは、例えば60nm以上150nm以下となっている。同様に、第2配向膜43の厚さTは、例えば60nm以上150nm以下となっている。なお、第1配向膜33の厚さ及び第2配向膜43の厚さは、それぞれ、全体の傾向を反映し得ると考えられる数の測定位置(例えば三十点)における第1配向膜33の厚さの平均及び第2配向膜43の厚さの平均として特定することができる。とりわけ後述する製造方法で作製され且つここで説明する具体的な構成を有する第1配向膜33の厚さ及び第2配向膜43の厚さは、三十点の測定値の平均値によって、特定することができる。第1配向膜33の厚さは、後述する第1凸部35を除いた部分、具体的には第1凸部35から6μm以上離間した部分のある点において、測定される。第1配向膜33及び第2配向膜43の厚さは、例えば第1積層体30及び第2積層体40の断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって撮像した画像から測定することができる。
図3に示すように、第1配向膜33は、液晶層25側に突出した複数の第1凸部35を含んでいる。図3に示すように、第1凸部35の一部である第1保持凸部351は、ビーズスペーサ50を少なくとも部分的に取り囲んで、当該ビーズスペーサ50を保持している。また、ビーズスペーサ50を保持していない第1凸部35の他の一部である第1非保持凸部352が存在する。ビーズスペーサ50を保持していない第1非保持凸部352は、ビーズスペーサ50から離間している。言い換えると、第1凸部35の一部のみが、ビーズスペーサ50を少なくとも部分的に取り囲んで、当該ビーズスペーサ50を保持している。
第1凸部35の第1保持凸部351がビーズスペーサ50を保持することで、第1配向膜33にビーズスペーサ50が固着している。第1凸部35のうちビーズスペーサ50を保持していない第1非保持凸部352は、図4に示すように、平面視において周状パターンの少なくとも一部を線状に延びている。図4に示した例では、第1非保持凸部352は、平面視において周状パターンの全体に沿って延びている。
第1非保持凸部352は、後述する製造工程において、第1配向膜33からビーズスペーサ50が脱落することで残される脱落跡である。第1配向膜33に対して固着強さが弱いビーズスペーサ50が、第1配向膜33から脱落して除去される。例えば、製造工程において凝集したビーズスペーサ50は、ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35の長さに対して保持されるビーズスペーサ50の個数が多くなるため、第1配向膜33に対する固着強さが弱くなる。凝集したビーズスペーサ50の脱落跡の第1非保持凸部352がなす周状パターンによって取り囲まれる領域は、平面視における複数個のビーズスペーサ50の大きさとなる。すなわち、図4に示すように、周状パターンによって取り囲まれる領域の面積は、平面視におけるビーズスペーサ50の面積の1.02倍以上となっている。
ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35(第1保持凸部351)の突出高さHaは、0.2μm以上0.5μm未満となっている。また、ビーズスペーサ50を保持しない第1凸部35(第1非保持凸部352)の突出高さ、すなわちビーズスペーサ50を保持する第1凸部35以外の第1凸部35の突出高さHbは、0.2μm以上0.5μm以下となっている。ここで、第1凸部35の突出高さは、全体の傾向を反映し得ると考えられる数(例えば三十個)の第1凸部35の突出高さの平均として特定することができる。各第1凸部35の突出高さは、当該第1凸部35の最高点における突出高さ(厚さ)によって規定される。とりわけ後述する製造方法で作製され且つここで説明する具体的な構成を有する第1凸部35の突出高さは、三十点の測定値の平均値とすることができる。第1凸部35の突出高さHa,Hbは、例えば走査型白色干渉計(Zygo Corporation製「Zygo」)によって測定することができる。
第1電極37及び第2電極47には、例えば、酸化錫系、酸化インジウム系、酸化亜鉛系の透明な金属薄膜を適用することができる。酸化錫(SnO2)系の例としてはネサ(酸化錫SnO2)、ATO(Antimony Tin Oxide:アンチモンドープ酸化錫)、フッ素ドープ酸化錫が挙げられる。酸化インジウム(In2O3)系の例としては、酸化インジウム、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide)が挙げられる。酸化亜鉛(ZnO)系の例としては、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、ガリウムドープ酸化亜鉛が挙げられる。本実施の形態では、第1電極37及び第2電極47は、ITOによって透明電極として形成される。第1電極37及び第2電極47の配置態様は特に限定されず、パターニング形成によって所定箇所にのみ電極が配置されてもよいし、ベタ状に電極が配置されてもよい。第1電極37及び第2電極47に印加される電圧に応じて、第1電極37及び第2電極47との間に配置される液晶層25に作用する電界が形成され、液晶層25に含まれる液晶分子の配向が制御される。第1電極37及び第2電極47の可視光透過率は、例えば50%以上であることが好ましい。第1電極37及び第2電極47の厚さは、例えば50μm以上175μm以下である。
液晶層25は、例えばVA(Vertical Alignment)方式、TN(Twisted Nematic)方式、IPS(In Plane Switching)方式またはFFS(Fringe Field Switching)方式、GH(Guest Host)方式を用いることができる。本実施の形態では、一例として、液晶層25は、GH方式を用いている。GH方式を用いる場合、液晶層25は、液晶分子と、二色性色素組成物と、を含んでいる。
配線15を介して電極37,47の少なくとも一方に電圧を印加することにより、電界が形成され、電界の作用により、液晶層25の液晶分子の配向を変化させることができる。液晶分子の配向によって、液晶層25を透過する光の偏光方向は変化し得る。例えば、GH方式の液晶を用いる場合、電圧が印加されていない状態では、液晶分子及び二色性色素組成物が第1配向膜33及び第2配向膜43に対して垂直に並び、光が透過する。電圧が印加されるにつれて、液晶分子及び二色性色素組成物が第1配向膜33及び第2配向膜43に対して垂直から水平になっていき、可視光透過率が減少する。電圧が十分に印加されている状態では、液晶分子及び二色性色素組成物が第1配向膜33及び第2配向膜43に対して水平に並び、光を遮光する。このように、調光ユニット20は、電圧の印加の制御により液晶層25の液晶分子の配向を変化させ、可視光透過率を調節することができる。
液晶層25の厚さは、例えば6μm以上9μm以下である。液晶層25の厚さは、ビーズスペーサ50によって確保された第1積層体30と第2積層体40との間のスペースの大きさに等しい。ここで、液晶層25の厚さは、全体の傾向を反映し得ると考えられる数の測定位置(例えば三十点)における液晶層25の厚さの平均として特定することができる。とりわけ後述する製造方法で作製され且つここで説明する具体的な構成を有する液晶層25の厚さは、三十点の測定値の平均値とすることができる。
シール材27は、図2に示すように、液晶層25を周状に取り囲んでいる。すなわち、このシール材27が、液晶層25を区画している。また、シール材27は、図3に示すように、第1積層体30及び第2積層体40の間に設けられている。シール材27は、液晶層25を構成する液晶分子が第1積層体30及び第2積層体40の間から漏出することを防ぐ役割を果たしているとともに、第1積層体30及び第2積層体40に接着して両者を相互に固定する役割を果たしている。シール材27は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂等から形成することができる。
ビーズスペーサ50は、第1積層体30と第2積層体40との間に配置され、第1積層体30と第2積層体40との間にスペースを確保している。このスペースに液晶分子を含む液晶材料が充填されることで、液晶層25が形成されている。上述した液晶層25は、透過光の位相変調量を制御するものであり、したがって、第1積層体30と第2積層体40との間で或る程度一定の厚さを有していることが求められる。このため、ビーズスペーサ50は、球形であることが好ましい。ビーズスペーサ50の直径は、例えば6μm以上9μm以下となっている。ここで、ビーズスペーサ50の直径は、全体の傾向を反映し得ると考えられる個数(例えば三十個)のビーズスペーサの直径の平均として特定することができる。とりわけ、ここで説明するビーズスペーサ50の直径は、三十個の測定値の平均値とすることができる。
また、ビーズスペーサ50の直径〔μm〕に対する、当該ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35の突出高さ〔μm〕の比は、2.2%以上5.5%未満であることが好ましい。上述したように、ビーズスペーサ50の直径〔μm〕は、全体の傾向を反映し得ると考えられる十分な個数の平均値として特定することができ、第1凸部35の突出高さも、全体の傾向を反映し得ると考えられる十分な個数の平均値として特定することができる。
なお、ビーズスペーサ50の直径は、例えば、動的光散乱法、レーザー回折法によって測定することができる。
また、平面視におけるビーズスペーサ50の面密度は、例えば30〔個/mm2〕以上160〔個/mm2〕以下となっている。なお、ビーズスペーサが調光ユニット20の全体に均一に分散している場合、ビーズスペーサの面密度は、調光ユニット20のある領域(例えば1mm角)に含まれるビーズスペーサ50の個数を数えることで、規定することができる。とりわけ後述する製造方法で作製される調光ユニット20におけるビーズスペーサ50の面密度は、1mm角に含まれるビーズスペーサ50の個数によって規定することができる。なお、ビーズスペーサ50が凝集している場合、すなわち複数のビーズスペーサ50が塊となっている場合、ビーズスペーサ50の凝集体すなわちビーズスペーサ50の塊を1個のビーズスペーサ50として個数を数える。
複数のビーズスペーサ50は、第1積層体30と第2積層体40との間に、離散的に配置されている。ビーズスペーサ50は、シリカ等による無機材料、有機材料、またはこれらを組み合わせたコアシェル構造によって形成されている。
ビーズスペーサ50は、第1配向膜33に固着している。すなわち、液晶層25において、ビーズスペーサ50は第1配向膜33に対する移動が規制されている。このため、ビーズスペーサ50の移動により、液晶層25内に気泡が発生してしまうことや、筋状の傷が発生してしまうことを防止し、調光部材10を介した視界を悪化させることを防止することができる。
なお、ビーズスペーサ50以外にも、第1積層体30と第2積層体40との間には、柱状のスペーサ等が配置されていてもよい。柱形状のスペーサは、フォトリソグラフィ技術を利用して所望の位置に形成することができる。
次に、調光部材10及び調光ユニット20の製造方法の一例について、図5乃至図10を参照しながら、説明する。
まず、図5に示すように、ビーズスペーサ50が均一に分散した第1板材30aを用意する。第1板材30aは、トリミングされることで第1積層体30を形成するようになる部材である。ビーズスペーサ50が均一に分散した第1板材30aは、例えば次のようにして作製することができる。まず、第1樹脂基材31上に第1電極37をスパッタリング等により成膜する。次に、ビーズスペーサ50が第1電極37上に散布される。その後、第1配向膜33をなすようになる組成物を第1樹脂基材31上に塗布する。このとき、第1配向膜33をなすようになる組成物の粘性やビーズスペーサ50と第1配向膜33をなすようになる組成物との表面張力により、第1凸部35をなすようになる第1裾野部35aがビーズスペーサ50と第1樹脂基材31との間に形成される。なお、第1配向膜33をなすようになる組成物中にビーズスペーサ50を分散させ、ビーズスペーサ50を含有した組成物を第1樹脂基材31上に塗布するようにしてもよい。その後、乾燥炉において組成物を揮発させて、乾燥させる。次に、ラビングや光配向等によって配向規制力を塗膜に付与し、第1配向膜33を形成する。以上によって、ビーズスペーサ50を散布された第2板材40aが得られる。
なお、ビーズスペーサ50の一部は、第1配向膜33をなすようになる組成物に分散された後であって乾燥前に、凝集してしまう。すなわち、図5に示すように、複数のビーズスペーサ50が集まってしまう。
第1配向膜33をなすようになる組成物が乾燥することで、第1裾野部35aが固まって第1凸部35となる。第1凸部35の一部は、ビーズスペーサ50を保持するようになる。これにより、第1配向膜33にビーズスペーサ50が固着する。第1凸部35がビーズスペーサ50を確実に保持することができるよう、第1凸部35の突出高さは、0.2μm以上と十分に高くなっている。また、ビーズスペーサ50の直径〔μm〕に対する、ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35の突出高さ〔μm〕の比は、2.2%以上となっている。
なお、第1配向膜33をなすようになる組成物に含まれるポリイミド等の量を調節することで、当該組成物の粘度を調節することができる。これにより、第1裾野部35aの高さを調節することができる。すなわち、第1裾野部35aから形成される第1凸部35の高さを調節することができる。
次に、図6に示すように、第1配向膜33上に分散するビーズスペーサ50のうちの一部を脱落させて除去する。除去されるビーズスペーサ50は、第1配向膜33への固着強さが弱いビーズスペーサ50である。具体的には、粘着性を有するローラー70によって、ビーズスペーサ50の一部を第1配向膜33から脱落させて除去する。脱落するビーズスペーサ50は、第1凸部35に保持されたビーズスペーサ50のうち、第1配向膜33に対して固着強さが弱いものである。ただし、ビーズスペーサ50を脱落させて除去する方法は、粘着性を有するローラー70による脱落に限られず、他の方法、例えば吸引による脱落等を用いることもできる。
第1配向膜33に対して固着強さが弱いビーズスペーサ50には、典型的には、凝集したビーズスペーサ50が含まれる。ローラー70の粘着性を適切に設定することで、第1配向膜33に対して固着強さが弱いビーズスペーサ50のみを選択的に第1配向膜33から脱落させて除去することができる。また、第1配向膜33に対して固着強さが弱いビーズスペーサ50を容易に脱落させて除去することができるよう、例えば凝集したビーズスペーサ50を脱落させて除去することができるよう、さらには凝集したビーズスペーサ50を選択的に脱落させて除去することができるよう、ビーズスペーサ50の第1配向膜33への固着の程度が調整されている。具体的には、ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35(第1保持凸部351)の突出高さが、0.5μm以下と十分に低くなっている。また、ビーズスペーサ50の直径〔μm〕に対するビーズスペーサ50を保持する第1凸部35(第1保持凸部351)の突出高さ〔μm〕の比が、5.5%未満となっている。
ビーズスペーサ50が脱落した跡には、脱落跡として、ビーズスペーサ50を保持しない第1凸部35である第1非保持凸部352が残される。第1非保持凸部352は、ビーズスペーサ50から離間している。第1非保持凸部352は、図4に示すように、平面視において、ビーズスペーサ50を保持していた形状である周状パターンの少なくとも一部を線状に延びる形状となっている。
次に、図7に示すように、シール材料27aを周状に塗布する。シール材料27aは、接着性または粘着性を有した粘稠性液体材料である。シール材料27aは、硬化することでシール材27を形成するようになる。その後、図8に示すように、シール材料27aで取り囲まれた第1板材30a上の領域に、液晶分子を含んだ液晶材料25aを供給する。
次に、図9に示すように、減圧下で、第2板材40aを第1板材30a上に積層する。第2板材40aを第1板材30a上に積層する際、ローラー等を用いてしごくようにしてもよい。第2板材40aは、トリミングされることで第2積層体40を形成するようになる部材であって、例えば第1板材30aと同様の工程で作製することができる。すなわち、第2板材40aは、まず、第2樹脂基材41上に第2電極47を成膜し、次に、第2配向膜43をなすようになる組成物を第2樹脂基材41上に塗布して乾燥炉において揮発させ、その後に配向規制力を塗膜に付与することで、第2配向膜43を作製することで、作製され得る。
第1板材30aと第2板材40aとの間のビーズスペーサ50によって確保されたスペースに充填された液晶材料25aが液晶層25となる。その後、紫外線照射及び加熱処理によりシール材料27aが変形および硬化してシール材27となり、第1板材30a及び第2板材40aを接合する。以上の工程によって、第1板材30aと、第2板材40aと、第1板材30aと第2板材40aとの間に配置された液晶層25と、を含んでいる積層体が準備される。
次に、第1板材30a及び第2板材40aの一部を切断して余分な領域である第1板材30a及び第2板材40aの外周を取り除く、すなわち第1板材30a及び第2板材40aをトリミングする。この切断は、少なくとも一部においてシール材27上で実施されることが好ましい。第1板材30a及び第2板材40aのトリミングは、打ち抜き刃やカッター等からなる工具を用いることで実施され得る。このようにして、第1板材30aが第1積層体30となり、第2板材40aが第2積層体40となることで、調光ユニット20が得られる。
最後に、図10に示すように、調光ユニット20の第1積層体30の側に第1接合層13及び第1基板11を積層して、調光ユニット20と第1基板11とを接合する。同様に、調光ユニット20の第2積層体40の側に第2接合層14及び第2基板12を積層して、調光ユニット20と第2基板12とを接合する。これにより、図3に示した調光部材10が作製される。
ところで、図11に示すように、従来の調光部材110では、調光ユニット120に凝集したビーズスペーサ150が含まれている。凝集したビーズスペーサ150は、第1配向膜133に対する固着強さが弱いため、容易に脱落し得る。とりわけ、上述したような調光部材の製造工程において第1板材と第2板材とを積層する際に、ビーズスペーサ150に圧力がかかりやすいため、凝集したビーズスペーサ150は脱落し得る。脱落したビーズスペーサ150は、液晶層125内に残り、液晶層125内を配向膜33,43に対して移動し得る。凝集したビーズスペーサ150が配向膜133,143に対して移動すると、配向膜133,143に筋状の傷を発生させ得る。また、凝集したビーズスペーサ150があると、液晶層125の耐圧性が不均一になり、特に高温高湿度環境において、第1積層体130及び第2積層体140の変形によって液晶層125内に気泡を発生させ得る。調光部材110に筋状の傷や気泡が発生すると、調光部材110を介した視界を悪化させ得る。
一方、本実施の形態では、調光ユニット20の製造工程において、第1板材30aと第2板材40aとを積層させる前に、ローラー70によって、固着強さの弱いビーズスペーサ50を脱落させて除去している。除去する固着強さの弱いビーズスペーサ50には、凝集したビーズスペーサ50が含まれている。したがって、第1板材30aと第2板材40aとを積層させる際には、凝集したビーズスペーサ50が除去されている。このため、凝集したビーズスペーサに起因する筋状の傷や気泡の発生を抑制することができる。
凝集したビーズスペーサ50等の固着強さの弱いビーズスペーサ50を脱落させた結果、本実施の形態の調光ユニット20では、第1配向膜33の第1凸部35の一部である第1保持凸部351のみが、ビーズスペーサ50を少なくとも部分的に取り囲んで当該ビーズスペーサ50を保持している。一方、ビーズスペーサ50を保持していない第1凸部35の他の一部である第1非保持凸部352は、保持していたビーズスペーサ50が脱落した脱落跡であり、ビーズスペーサ50から離間している。第1非保持凸部352は、周状パターンの少なくとも一部を線状に延びている。第1非保持凸部352は、第1配向膜33からビーズスペーサ50が脱落した脱落跡であるため、第1非保持凸部352が存在することは、ビーズスペーサ50が脱落したことを示している。言い換えると、第1凸部35の一部のみがビーズスペーサ50を保持することによって、凝集したビーズスペーサに起因する筋状の傷や気泡の発生を抑制されている。
また、第1非保持凸部352の周状パターンによって取り囲まれる面積は、平面視におけるビーズスペーサ50の面積の1.02倍以上である。言い換えると、第1非保持凸部352は、複数のビーズスペーサ50、すなわち凝集したビーズスペーサを取り囲んでいたことを示している。このような第1非保持凸部352が存在することで、凝集したビーズスペーサ50が脱落したことが示され、したがって、凝集したビーズスペーサに起因する筋状の傷や気泡の発生を抑制されている。
さらに、本実施の形態の調光ユニット20において、ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35(第1保持凸部351)の突出高さは、0.2μm以上0.5μm未満であり、ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35以外の第1凸部35(第1非保持凸部352)の突出高さは、0.2μm以上0.5μm未満である。このような場合、第1凸部35が確実にビーズスペーサ50を保持しながら、第1凸部35から固着強さの弱いビーズスペーサ50を容易に脱落させて除去することができる。このため、調光ユニット20の製造工程において、凝集したビーズスペーサ50をローラー70等によって容易に脱落させて除去することができる。したがって、凝集したビーズスペーサ50に起因する筋状の傷や気泡の発生を抑制することができる。
また、第1配向膜33の厚さは、60nm以上150nm以下である。このような場合、第1配向膜33からビーズスペーサ50を容易に脱落させることができる。凝集したビーズスペーサ50をローラー70等によって容易に脱落させることができる。したがって、凝集したビーズスペーサ50に起因する筋状の傷や気泡の発生を抑制することができる。
さらに、ビーズスペーサ50の直径〔μm〕に対する、ビーズスペーサ50を保持する第1凸部35の突出高さ〔μm〕の比は、2.2%以上5.5%未満である。このような場合、第1凸部35に保持されたビーズスペーサ50は、脱落しにくくなっている。また、調光ユニット20の製造工程において、凝集したビーズスペーサ50は、ローラー70等によって、容易に脱落させることができる。したがって、凝集したビーズスペーサ50に起因する筋状の傷や気泡の発生を抑制することができる。
以上のように、本実施の形態の調光ユニット20は、第1樹脂基材31と、第1樹脂基材31に積層された第1配向膜33と、を有する第1積層体30と、第2樹脂基材41と、第2樹脂基材41に積層された第2配向膜43と、を有し、且つ、第1配向膜33と第2配向膜43とが互いに対面するように配置された、第2積層体40と、第1積層体30と第2積層体40との間に配置され、第1積層体30及び第2積層体40の少なくとも一方に設けられた電極37,47への電圧の印加により配向が制御される液晶分子を含む液晶層25と、第1積層体30と第2積層体40との間に配置された複数のビーズスペーサ50と、を備え、第1配向膜33は、液晶層25側に突出した複数の第1凸部35を含み、第1凸部35の一部のみが、ビーズスペーサ50を少なくとも部分的に取り囲んで当該ビーズスペーサ50を保持する。このような調光ユニット20において、ビーズスペーサ50を保持しない第1凸部35の他の一部である第1非保持凸部352が存在する。第1非保持凸部352の存在は、ビーズスペーサ50が脱落したこと、とりわけ第1配向膜33に対する固着強さの弱いビーズスペーサ50である凝集したビーズスペーサ50が脱落して除去されたことを示す。したがって、第1凸部35の一部のみがビーズスペーサ50を保持することによって、凝集したビーズスペーサに起因する筋状の傷や気泡の発生を抑制されている。
このような調光部材10は、図1に示したような自動車1のサンルーフに限らず、リアウィンドウ、サイドウィンドウに用いてもよい。また、自動車以外の、鉄道車両、航空機、船舶、宇宙船等の移動体の窓或いは扉の透明部分に用いてもよい。
さらに、調光部材10は、移動体以外にも、特に室内と室外とを区画する箇所、例えばビルや店舗、住宅の窓或いは扉の透明部分、建物の窓又は扉、冷蔵庫、展示箱、戸棚等の收納乃至保管設備の窓あるいは扉の透明部分等に使用することもできる。
上述した実施の形態では、調光部材10は、調光ユニット20が第1基板11及び第2基板12の間に配置されることで、形成されていた。しかしながら、調光部材10は、1つの基板に調光ユニット20が貼合されることで、形成されていてもよい。
また、上述した実施の形態では、ビーズスペーサ50は、第1配向膜33に均一に分散されて製造されていた。しかしながら、ビーズスペーサ50は、第1配向膜33に不均一に分散されていてもよい。
さらに、上述した実施の形態では、調光ユニット20は、第1配向膜33に固着したビーズスペーサ50のみを有していた。しかしながら、調光ユニット20は、第2配向膜43に固着した第2ビーズスペーサをさらに有していてもよい。この場合、上述した第1配向膜33と同様に、第2配向膜43は、液晶層25側に突出した複数の第2凸部を含んでいる。第2凸部の一部は、第2ビーズスペーサを少なくとも部分的に取り囲んで、当該第2ビーズスペーサを保持している。第2凸部が第2ビーズスペーサを保持することで、第2配向膜43に第2ビーズスペーサが固着されている。第2凸部のうち第2ビーズスペーサを保持していない他の一部の第2凸部は、平面視において周状パターンの少なくとも一部を線状に延びている。
第2ビーズスペーサを保持する第2凸部の突出高さは、0.2μm以上0.5μm未満であり、第2ビーズスペーサを保持していない第2凸部の突出高さは、0.2μm以上0.5μm未満であることが好ましい。また、第2ビーズスペーサを保持する第2凸部の突出高さ〔μm〕の比が、2.2%以上5.5%未満であることが好ましい。このような場合、調光ユニット20の製造工程において、第1積層体30を形成するようになる第1板材30aと同様に、粘着性を有するローラーによって、第2ビーズスペーサのうち固着強さが弱いものを第2配向膜43から脱落させて除去することで、凝集した第2ビーズスペーサを容易に脱落させて除去することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例として、第1凸部の突出高さ及び第1配向膜33の厚さの異なる調光ユニットを有する調光部材を用意した。調光ユニットを有する調光部材の製造方法は、上述した製造方法を採用し、実施例及び比較例で共通とした。第1凸部の突出高さ及び第1配向膜の厚さ以外の各要素については、実施例及び比較例で共通している。実施例及び比較例の調光部材において、第1樹脂基材及び第2樹脂基材は、厚さ100μmのポリカーボネート樹脂からなり、第1配向膜及び第2配向膜はポリイミド樹脂からなる。また、液晶層にはGH方式を用いている。ビーズスペーサは、直径が9.0μmのアクリル樹脂からなる。第1基板及び第2基板は、厚さ100μmのポリカーボネート樹脂からなり、第1接合層及び第2接合層は、厚さ20μmのアクリルエポキシ樹脂からなる。
実施例における第1凸部の突出高さは、0.3μmであり、第1配向膜の厚さは、100nmである。したがって、実施例におけるビーズスペーサの直径に対する第1配向膜の厚さの比は、5%である。一方、比較例における第1凸部の突出高さは、0.7μmであり、第1配向膜の厚さは、200nmである。したがって、比較例におけるビーズスペーサの直径に対する第1配向膜の厚さの比は、8%である。
実施例の調光ユニットは、比較例の調光ユニットより、第1凸部の突出高さが低くなっており、第1配向膜の厚さは薄くなっている。このため、実施例の調光ユニットでは、比較例の調光ユニットより、ビーズスペーサが第1凸部から脱落しやすくなっている。実際に光学顕微鏡を用いて確認したところ、実施例の調光ユニットの配向膜には、脱落跡としてのビーズスペーサを保持していない周状の凸部が確認された。一方、比較例の調光ユニットでは、ビーズスペーサから離間した周状の凸部は確認されなかった。
実施例の調光ユニットを有する調光部材を介した視界においては、筋状の傷や気泡は観察されなかった。これは、調光ユニットの製造工程において、凝集したビーズスペーサが脱落しているためであると考えられる。一方、比較例の調光ユニットを有する調光部材を介した視界においては、筋状の傷や気泡が観察された。これは、調光ユニットの製造工程において、凝集したビーズスペーサを脱落させることができなかったためであると考えられる。