以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、添付図面及び説明において、上下前後左右方向は、図示を省略する車両に変速機が搭載された状態における前後、左右、上下の各方向である。なお、車両の左右方向は車幅方向とも表現される。また、以下の各図では、説明の便宜上、一部の構成を省略している。
各図面を参照して、本実施の形態に係る車両の手動変速機の概略構成について説明する。本実施の形態に係る車両は、車体の前部に搭載したエンジンによって前輪を駆動する、いわゆるFF式の四輪車である。図1に示すように、エンジン1と変速機2は車体の前部で左右に並んで配置され、右側にエンジン1が位置し、エンジン1の左側に変速機2が位置する。
エンジン1は、例えばガソリンエンジン等の内燃機関であり、エンジンケース(不図示)内にクランク軸(不図示)等の各種構成部品が収容されている。クランク軸の軸方向は、車幅方向(左右方向)に向けられる。なお、エンジン1は、ガソリンエンジンに限らず、例えばディーゼルエンジン等、他のタイプのエンジンであってもよい。
変速機2は、乗員の手動操作によって変速を行う、いわゆる有段の手動変速機である。なお、有段の手動変速機に関し、乗員の手動操作に代えてアクチュエータを用いて変速操作される有段変速機であってもよい。変速機2は、クランク軸の回転を変速ギヤ機構10により有段的に変速(減速)して駆動輪(不図示)に伝達する。変速機2は、変速機ケース20内に各種構成部品を組み付けて構成される。各種構成部品としては、クラッチ(不図示)、変速ギヤ機構10を構成する各種軸と複数の変速ギヤ等、シフト装置7、内部シフト機構8等が挙げられる。
図1に示すように、変速機ケース20は、左右方向に分割される左右割であって、ライトケース21及びレフトケース22を有している。ライトケース21は、変速機ケース20の右側空間(クラッチ配置空間)を形成し、レフトケース22は、ライトケース21とともに変速機ケース20の左側空間(変速ギヤ機構10の配置空間)を形成する。ライトケース21は、変速機ケース20内の空間を左右(上記の左側空間及び右側空間)に仕切る隔壁23を有している(図4、図8、図10参照)。レフトケース22は、左端側を塞ぐ左端壁25と、左端壁25の周縁から隔壁23に向かって右方に延びる周壁24とを有している(図10参照)。そして、左側空間は、レフトケース22の周壁24と左端壁25、及び、ライトケース21の隔壁23にて囲まれて区画されている。
図3に示すように、レフトケース22の周壁24は、前方上部に位置する上壁部24aと、上壁部24aの前端部分から下方に延びる前壁部24bと、上壁部24aの後端部分から下方に延びる後壁部24cと、前壁部24b及び後壁部24cの下部を接続する底壁部24dと、を有している。
ライトケース21とレフトケース22は、互いの合わせ面21aと合わせ面22aを合わせて複数のボルト(不図示)によって締結されることにより、変速機ケース20を構成する。レフトケース22では周壁24の端面が合わせ面22aを形成する。ライトケース21の右側にエンジンケース(クランクケース)が締結される。
図10に示すように、ライトケース21は、隔壁23の周縁から左方に突出する周壁を有し、この周壁の端面が合わせ面21aを形成する。ライトケース21とレフトケース22を組み合わせた状態では、ライトケース21の周壁とレフトケース22の周壁24が連続して、変速ギヤ機構10の配置空間の周壁を構成する。説明の便宜上、以降の周壁24は、ケースの限定をしない場合、ライトケース21の周壁とレフトケース22の周壁24を含むものとする。そのため、図2、図4、図8において、このライトケース21の周壁(周壁、上壁部、前壁部、後壁部、底壁部)は、レフトケース22の周壁24と同じ符号(24、24a、24b、24c、24d)で示している。
隔壁23の右側におけるライトケース21内(右側空間)には、クランク軸と同軸上に配置されるクラッチ(不図示)が設けられる。また、隔壁23の左側におけるレフトケース22内(左側空間)には、変速ギヤ機構10を構成する変速軸として、入力軸3とカウンタ軸4とリバース軸5が配置される(図2、図3、図11から図13参照)。これらの変速軸は、クランク軸と同様に軸方向が車幅方向となるように配置されている。
入力軸3は、エンジン1からの動力がクラッチを介して入力される軸である。入力軸3は、クランク軸と同軸上に配置される。図2及び図3に示すように、入力軸3は、側面視において変速機ケース20内の中央よりやや前寄り上方に偏った位置に設けられる。図12及び図13に示すように、入力軸3は軸受3aと軸受3bが取り付けられている。入力軸3は、軸受3aと軸受3bを介して、ライトケース21の隔壁23及びレフトケース22の左端壁25に対して軸回りに回転自在に支持されている。ライトケース21の隔壁23には、軸受3aを保持する支持凹部110が形成され(図4参照)、レフトケース22の左端壁25には、軸受3bを保持する支持凹部111が形成されている(図5、図6参照)。支持凹部110の中心には、隔壁23を貫通する貫通孔110aが形成されている。入力軸3は貫通孔110aに挿入され、入力軸3の右方の端部は、貫通孔110aを通過してライトケース21内(右側空間)に突出している(図10参照)。入力軸3の右方の端部には、クラッチ(不図示)が取り付けられる。
入力軸3上には、右側から順に、第1入力ギヤ30、第2入力ギヤ31、第3入力ギヤ32、第4入力ギヤ33、第5入力ギヤ34が支持されている(図11から図13参照)。これらの各入力ギヤのうち、第1入力ギヤ30の径が最も小さく、第2入力ギヤ31、第3入力ギヤ32、第4入力ギヤ33、第5入力ギヤ34の順で段階的に径が大きくなる。なお、入力ギヤは、駆動ギヤと呼ばれてもよい。入力軸3上にはさらに、第1入力ギヤ30と第2入力ギヤ31の間に、リバース用入力ギヤ35が支持されている。
第1入力ギヤ30、第2入力ギヤ31、及びリバース用入力ギヤ35は、入力軸3と一体回転するギヤである。第3入力ギヤ32、第4入力ギヤ33、及び第5入力ギヤ34は、入力軸3に対して相対回転可能に支持される遊転ギヤであり、後述するシフトスリーブ(第2シフトスリーブ36、第3シフトスリーブ37)が係合したときに入力軸3と共に回転するようになる。
図2及び図3に示すように、入力軸3の後やや下方にはカウンタ軸4が配置される。図12及び図13に示すように、カウンタ軸4は軸受4aと軸受4bが取り付けられている。カウンタ軸4は、軸受4aと軸受4bを介して、ライトケース21の隔壁23及びレフトケース22の左端壁25に対して軸回りに回転自在に支持されている。ライトケース21の隔壁23には、軸受4aを保持する支持凹部112が形成され(図4参照)、レフトケース22の左端壁25には、軸受4bを保持する支持凹部113が形成されている(図5、図6参照)。
カウンタ軸4上には、右側から順に、第1カウンタギヤ40、第2カウンタギヤ41、第3カウンタギヤ42、第4カウンタギヤ43、第5カウンタギヤ44が支持されている(図11から図13参照)。これらの各カウンタギヤのうち、第1カウンタギヤ40が最も径が大きく、第2カウンタギヤ41、第3カウンタギヤ42、第4カウンタギヤ43、第5カウンタギヤ44の順で段階的に径が小さくなる。なお、カウンタギヤは、従動ギヤと呼ばれてもよい。第1カウンタギヤ40と第1入力ギヤ30、第2カウンタギヤ41と第2入力ギヤ31、第3カウンタギヤ42と第3入力ギヤ32、第4カウンタギヤ43と第4入力ギヤ33、第5カウンタギヤ44と第5入力ギヤ34がそれぞれ噛み合っており、それぞれ、1速、2速、3速、4速、5速の各変速段を構成している。カウンタ軸4上にはさらに、第1カウンタギヤ40の右側にファイナルドリブンギヤ60に噛み合うファイナルドライブギヤ45が支持されている。
第3カウンタギヤ42、第4カウンタギヤ43、第5カウンタギヤ44、及びファイナルドライブギヤ45は、カウンタ軸4と一体回転するギヤである。第1カウンタギヤ40及び第2カウンタギヤ41は、カウンタ軸4に対して相対回転可能に支持される遊転ギヤであり、後述するシフトスリーブ(第1シフトスリーブ46)が係合したときにカウンタ軸4と共に回転するようになる。
図2及び図3に示すように、入力軸3のやや前下方には、リバース軸5が配置される。リバース軸5の右端部は、ライトケース21の隔壁23に形成した支持凹部114(図4参照)に挿入される。リバース軸5の左端部には、径方向に向くネジ孔5a(図13参照)が形成されており、ネジ孔5aに対して、レフトケース22の外部から締付け作業されるボルト115(図5、図6参照)が締め込まれる。ネジ孔5aとボルト115の螺着によって、リバース軸5は、レフトケース22に固定されて軸方向の移動と軸回りの回転が規制される。リバース軸5上にはリバースアイドラギヤ50が支持されている(図13参照)。リバースアイドラギヤ50は、リバース軸5に対して相対回転可能に支持される遊転ギヤであり、且つリバース軸5の軸方向へ移動可能である。
リバース軸5に沿ってリバースアイドラギヤ50を移動させるリバース駆動レバー51が設けられる(図11から図13参照)。リバース駆動レバー51は、変速機ケース20内に固定されたブラケット52により軸支されており、この軸支部分から二股状に分岐する2つの腕部を有している。リバース駆動レバー51の一方の腕部の先端は、リバースアイドラギヤ50に形成された溝に係合しており、リバース駆動レバー51の他方の腕部には、連係孔51aが形成されている。リバース駆動レバー51の回転(揺動)に応じてリバースアイドラギヤ50がリバース軸5の軸方向に移動する。リバースアイドラギヤ50がリバース軸5の軸方向に移動することで、入力軸3のリバース用入力ギヤ35及び後述する第1シフトスリーブ46に形成されたリバース用カウンタギヤ47にリバースアイドラギヤ50が噛み合い、リバースアイドラギヤ50が入力軸3の回転を逆転させてカウンタ軸4に伝える。なお、リバース駆動レバー51の他方の腕部の連係孔51aには、後述するリバース操作腕83dの先端が挿入されている。
また、図11から図13に示すように、入力軸3とカウンタ軸4上には、それぞれ所定の位置に同期装置(シフトスリーブを含む)が配置される。カウンタ軸4には、第1カウンタギヤ40と第2カウンタギヤ41の間に第1シフトスリーブ46が配置されている。第1シフトスリーブ46の側部には、第1シフトスリーブ46と一体化されたリバース用カウンタギヤ47が設けられている。入力軸3上には、第3入力ギヤ32と第4入力ギヤ33の間に第2シフトスリーブ36が配置され、第5入力ギヤ34の左方に第3シフトスリーブ37が配置される。
第1シフトスリーブ46は、ハブ(不図示)を介してカウンタ軸4に取り付けられ、カウンタ軸4と一体回転し、且つカウンタ軸4の軸方向にスライド可能に支持されている。第2シフトスリーブ36と第3シフトスリーブ37はそれぞれ、ハブ(不図示)を介して入力軸3に取り付けられ、入力軸3と一体回転し、且つ入力軸3の軸方向にスライド可能に支持されている。
詳細は後述するが、乗員のシフト操作に応じて所定のシフトスリーブ36、37、46又はリバースアイドラギヤ50が軸方向にスライドすることで、入力軸3とカウンタ軸4との間で回転を伝達する入力ギヤとカウンタギヤのギヤ対が切り替えられて変速が行われる。
カウンタ軸4の後下方には、カウンタ軸4からの駆動力を両車輪(駆動輪)に伝える差動歯車装置であるディファレンシャル装置6が設けられる(図2、図3、図11から図13参照)。ディファレンシャル装置6は、差動歯車が内蔵されたデフケース61と、デフケース61に固定されるファイナルドリブンギヤ60とを有している。ファイナルドリブンギヤ60の回転軸は車幅方向に沿って配置されている。ファイナルドリブンギヤ60は、入力軸3やカウンタ軸4やリバース軸5に支持される各ギヤよりも径が大きく、側面視で変速機ケース20内の下部後方に配置されている。車幅方向においては、ファイナルドリブンギヤ60は、隔壁23の左側面に近接した位置に配される(図10参照)。
なお、図1に示すように、変速機ケース20は左にいくほど小さくなっている。このため、変速機ケース20における周壁24の断面形状は、左右方向の位置に応じて変化する。例えば、図3から図6に示すように、隔壁23に近い部分では、後壁部24cと底壁部24dが後下方に膨出して、ファイナルドリブンギヤ60を収容する空間を形成している。これに対し、隔壁23から左方に離れた位置(図7)では、周壁24には、ファイナルドリブンギヤ60を収める後下方の膨出部分が存在しない。
隔壁23の左側方における変速ギヤ機構10の上方には、内部シフト機構8が配置される(図2、図3参照)。内部シフト機構8の後方にはシフト装置7が配置される。つまり、シフト装置7は、前後方向で入力軸3やカウンタ軸4よりも後方に配置されている。そして、乗員の変速操作がシフト装置7に伝達され、シフト装置7を介して内部シフト機構8が動作して、入力軸3とカウンタ軸4の間で駆動力を伝達する変速ギヤ機構10のギヤ対を変更させる。
シフト装置7は、軸方向を上下方向に向けてレフトケース22内に挿入されるシフトアンドセレクト軸70と、シフトアンドセレクト軸70を支持するシフトケース71とを備えている。レフトケース22には、周壁24の上壁部24aを上下方向に貫通する開口26(図7)が形成されている。シフトケース71は、レフトケース22の上面側に位置して開口26を塞ぐ蓋部71aと、蓋部71aから上方に突出する上方突出部71bと、蓋部71aから下方に突出してレフトケース22内に挿入される下垂部71cと、を備えている。
図7に示すように、シフトアンドセレクト軸70は、上下方向に軸線を向けてシフトケース71に形成した軸孔に対して挿入されており、軸方向(セレクト方向)に移動可能且つ軸回り(シフト方向)に回転可能にシフトケース71に支持される。シフトアンドセレクト軸70の上端部は上方突出部71bから上方に突出しており、この突出部分には、シフトアウタレバー72の基端部72aが固定されている。図7に示すように、基端部72aは、シフトアンドセレクト軸70の上端部が挿入固定される筒状部と、上下方向に間隔を開けて筒状部に支持される一対の板状部とを有している。シフトアウタレバー72は、シフトアンドセレクト軸70と共に、シフトアンドセレクト軸70の軸線を中心として揺動する。シフトアウタレバー72の基端部72aには、セレクトアウタレバー73の係合部73aが係合している。セレクトアウタレバー73は、上下方向に対して垂直な軸73bを中心として揺動自在にシフトケース71に軸支されている。係合部73aは軸73bから偏心して設けられており、基端部72aの一対の板状部の間に係合部73aが挿入されている。セレクトアウタレバー73が軸73bを中心に揺動すると係合部73aが上下方向に移動し、この係合部73aの移動が基端部72aに伝達されて、シフトアウタレバー72とシフトアンドセレクト軸70が上下方向に移動する。シフトアンドセレクト軸70の下部は、開口26を貫通してレフトケース22内に挿入されている。
レフトケース22内には、後壁部24cの前方に軸支持部29が設けられている(図6及び図7参照)。軸支持部29は、上下方向に貫通する孔を有し、この孔に対してシフトアンドセレクト軸70の下端部が挿入されて、シフトアンドセレクト軸70の下端部を支持する。軸支持部29は、シフトアンドセレクト軸70の軸方向(セレクト方向)の移動及び軸回り(シフト方向)の回転を許容する。
シフトアウタレバー72のうち基端部72aから離れた先端側には、図示しないシフトケーブルの一端が連結される。シフトケーブルの他端は、乗員が操作するシフトレバー(不図示)に連結される。また、セレクトアウタレバー73のうち係合部73aや軸73bから離れた先端側には、図示しないセレクトケーブルの一端が連結される。セレクトケーブルの他端は、上記したシフトレバーに連結される。
乗員によってシフトレバーがセレクト方向に操作されると、セレクトアウタレバー73は、シフトアウタレバー72を介してシフトアンドセレクト軸70を軸方向(セレクト方向)に移動させる。一方、乗員によってシフトレバーがシフト方向に操作されると、シフトアウタレバー72は、揺動してシフトアンドセレクト軸70を軸回り(シフト方向)に回転させる。この乗員によるシフトレバーのセレクト方向の操作をセレクト操作と呼び、シフト方向の操作をシフト操作と呼ぶ。
本実施の形態に係るシフト装置7は、シフトアウタレバー72とセレクトアウタレバー73に対してケーブルを介して遠隔的に操作力を伝達するリモートコントロール式のシフト装置を例に挙げているが、これに限定されず、適宜変更が可能である。例えば、シフト装置7は、シフトアンドセレクト軸70に直接シフトレバーを取り付けた、いわゆるダイレクトコントロール式のシフト装置で構成されてもよい。
シフトアンドセレクト軸70のうち、レフトケース22内に挿入された部分にカム部材74が設けられる(図7参照)。カム部材74は、シフトアンドセレクト軸70に対して固定されており、乗員のシフト操作又はセレクト操作に応じて、カム部材74がシフトアンドセレクト軸70と共に軸方向に移動又は軸回りに回転する。カム部材74の外周部にはフィンガ部74aが設けられている。
また、図7に示すように、シフトアンドセレクト軸70には、カム部材74の上下及び前方を覆うようにインタロックプレート77が設けられる。インタロックプレート77は、カム部材74の上方に位置して前端部が下方に屈曲する上側プレート77aと、カム部材74の下方に位置して前端部が上方に屈曲する下側プレート77bとを有する。上側プレート77aと下側プレート77bの互いの屈曲部分の先端は上下方向に離間してスリット77cが形成されている。カム部材74のフィンガ部74aは、スリット77cを通じてインタロックプレート77の前方に突出する。
インタロックプレート77は、スナップリング(不図示)を介してシフトアンドセレクト軸70に対して軸方向への相対移動が規制されており、シフトアンドセレクト軸70と共に上下方向に移動する。また、インタロックプレート77は、シフトケース71の下垂部71cに形成された凹部に嵌合して、シフトアンドセレクト軸70の軸回りへの回転が規制される(図10参照)。インタロックプレート77には、シフトアンドセレクト軸70を相対回転可能に挿通させる貫通孔が形成されている。すなわち、インタロックプレート77は、軸方向(セレクト方向)にはシフトアンドセレクト軸70と共に移動し、シフトアンドセレクト軸70の軸回り(シフト方向)の回転には追随しない。
インタロックプレート77の上側にシフトガイド78が設けられる(図2、図7参照)。シフトガイド78は、シフトアンドセレクト軸70に固定されており、シフトアンドセレクト軸70と共に上下方向(セレクト方向)及び軸回り(シフト方向)に移動する。
シフトガイド78の外周面にはシフト操作パターンに沿った形状のガイド溝(不図示)が形成されている。ガイド溝は、上下に3列並んだ水平溝と、各水平溝の中央を通り上下に延びる鉛直溝とによって構成される。このガイド溝に対して、シフトケース71の下垂部71cに設けたガイドピン(不図示)の先端が挿入されている。シフトアンドセレクト軸70の上下方向(セレクト方向)への移動とシフト方向への回転に伴って、ガイドピンがガイド溝に沿って移動する。ガイド溝の水平溝がシフト方向に対応し、鉛直溝がセレクト方向に対応している。ガイドピンがガイド溝の壁面に当接することにより、シフトアンドセレクト軸70の移動範囲と移動量が制限されると共に、シフトアンドセレクト軸70のガタつきが防止される。
カム部材74の外周部には、フィンガ部74aと異なる位置にカム面(不図示)が形成されている。カム部材74のカム面に対向する位置にプランジャ75(図10参照)が設けられている。プランジャ75は、インタロックプレート77に支持される筒状部内に、シフトアンドセレクト軸70の軸方向と直交する方向に移動自在な嵌合部を有し、嵌合部がカム面に当接する方向に付勢されている。カム部材74のカム面に対してプランジャ75の嵌合部が嵌合することにより、シフトアンドセレクト軸70が動作するときに所定の抵抗を付与するとともに、カム部材74のシフト方向の位置を保持することができる。
内部シフト機構8は、シフトアンドセレクト軸70のシフト方向への動作(回転)に応じて所定のシフトスリーブを軸方向に移動させるものである。内部シフト機構8は、第1シフトユニット81と、第2シフトユニット82と、第3シフトユニット83とを備えている(図10及び図11参照)。
第1シフトユニット81は、第1シフトスリーブ46をカウンタ軸4の軸方向に移動させるものである。第1シフトユニット81は、カウンタ軸4の上方で左右方向に延びる第1シフター軸81aと、カム部材74のフィンガ部74aに係合可能な第1シフトヨーク81bと、第1シフトスリーブ46に係合する第1シフトフォーク81cとを有する。
第1シフター軸81aの軸方向は、入力軸3、カウンタ軸4、及びリバース軸5の軸方向と平行である。第1シフター軸81aの両端は、ライトケース21の隔壁23に形成した軸ガイド孔120(図4参照)と、レフトケース22の左端壁25に形成した軸ガイド孔121(図5、図6参照)にて軸方向(左右方向)にスライド可能に支持されている。
第1シフトヨーク81bは、水平方向に広がりを有する板状体であり、前端部が第1シフター軸81aに連結される(図2、図3、図7参照)。第1シフトヨーク81bの後端部には、後方に向けて開口する凹部が形成されている。当該凹部にはカム部材74のフィンガ部74a、あるいは、上側プレート77aの屈曲部分の先端が配置される。上下方向におけるフィンガ部74aの位置が、第1シフトヨーク81bの高さ位置と一致したときに、フィンガ部74aが第1シフトヨーク81bの凹部内に位置して係合可能になる。
第1シフトフォーク81cは、先端部分が二股に分岐した側面視C字状の板状体である。第1シフトフォーク81cの基端部分が第1シフター軸81aに連結し、第1シフトフォーク81cの先端部分が第1シフトスリーブ46に形成された溝に係合する。
第1シフトユニット81は、第1シフター軸81aと第1シフトヨーク81bと第1シフトフォーク81cが結合した一体構造であり、フィンガ部74aのシフト方向の移動が第1シフトヨーク81bに伝えられると、第1シフター軸81aが軸方向にスライドする。第1シフター軸81aのスライドによって、第1シフトフォーク81cが第1シフトスリーブ46をカウンタ軸4の軸方向に移動させて、第1シフトスリーブ46に隣接する第1カウンタギヤ40及び第2カウンタギヤ41の係合関係が切り替えられる。具体的には、第1シフトユニット81は、第1カウンタギヤ40及び第2カウンタギヤ41のいずれにも第1シフトスリーブ46を係合させない中立位置を有する。そして、第1シフトユニット81が中立位置から右方にスライドすると、第1シフトスリーブ46が第1カウンタギヤ40に係合し、第1シフトユニット81が中立位置から左方に第1シフトスリーブ46がスライドすると、第1シフトスリーブ46が第2カウンタギヤ41に係合する。
第1シフトスリーブ46が第1カウンタギヤ40に係合すると、第1カウンタギヤ40がカウンタ軸4と一体回転するようになる。すると、第1入力ギヤ30から第1カウンタギヤ40を経て入力軸3の回転がカウンタ軸4に伝えられる。この状態が変速ギヤ機構10における1速のギヤ比となる。
第1シフトスリーブ46が第2カウンタギヤ41に係合すると、第2カウンタギヤ41がカウンタ軸4と一体回転するようになる。すると、第2入力ギヤ31から第2カウンタギヤ41を経て入力軸3の回転がカウンタ軸4に伝えられる。この状態が変速ギヤ機構10における2速のギヤ比となる。
第2シフトユニット82は、第2シフトスリーブ36を入力軸3の軸方向に移動させるものである。第2シフトユニット82は、第1シフター軸81aの前方で左右方向に延びる第2シフター軸82aと、カム部材74のフィンガ部74aに係合可能な第2シフトヨーク82bと、第2シフトスリーブ36に係合する第2シフトフォーク82cとを有する。
第2シフター軸82aの軸方向は、入力軸3、カウンタ軸4、及びリバース軸5の軸方向と平行である。第2シフター軸82aの両端は、ライトケース21の隔壁23に形成した軸ガイド孔122(図4参照)と、レフトケース22の左端壁25に形成した軸ガイド孔123(図5、図6参照)にて軸方向(左右方向)にスライド可能に支持されている。
第2シフトヨーク82bは、水平方向に広がりを有する板状体であり、前端部が第2シフター軸82aに連結される(図2、図3、図7参照)。第2シフトヨーク82bの後端部には、後方に向けて開口する凹部が形成されており、当該凹部にはカム部材74のフィンガ部74a、上側プレート77aの屈曲部分の先端、あるいは、下側プレート77bの屈曲部分の先端が配置される。上下方向におけるフィンガ部74aの位置が、第2シフトヨーク82bの高さ位置と一致したときに、フィンガ部74aが第2シフトヨーク82bの凹部内に位置して係合可能になる。
第2シフトフォーク82cは、先端部分が二股に分岐した側面視C字状の板状体である。第2シフトフォーク82cの基端部分が第2シフター軸82aに連結し、第2シフトフォーク82cの先端部分が第2シフトスリーブ36に形成された溝に係合する。
第2シフトユニット82は、第2シフター軸82aと第2シフトヨーク82bと第2シフトフォーク82cが結合した一体構造であり、フィンガ部74aのシフト方向の移動が第2シフトヨーク82bに伝えられると、第2シフター軸82aが軸方向にスライドする。第2シフター軸82aのスライドによって、第2シフトフォーク82cが第2シフトスリーブ36を入力軸3の軸方向に移動させて、第2シフトスリーブ36に隣接する第3入力ギヤ32及び第4入力ギヤ33の係合関係が切り替えられる。具体的には、第2シフトユニット82は、第3入力ギヤ32及び第4入力ギヤ33のいずれにも第2シフトスリーブ36を係合させない中立位置を有する。そして、第2シフトユニット82が中立位置から右方にスライドすると、第2シフトスリーブ36が第3入力ギヤ32に係合し、第2シフトユニット82が中立位置から左方にスライドすると、第2シフトスリーブ36が第4入力ギヤ33に係合する。
第2シフトスリーブ36が第3入力ギヤ32に係合すると、第3入力ギヤ32が入力軸3と一体回転するようになる。すると、第3入力ギヤ32から第3カウンタギヤ42を経て入力軸3の回転がカウンタ軸4に伝えられる。この状態が変速ギヤ機構10における3速のギヤ比となる。
第2シフトスリーブ36が第4入力ギヤ33に係合すると、第4入力ギヤ33が入力軸3と一体回転するようになる。すると、第4入力ギヤ33から第4カウンタギヤ43を経て入力軸3の回転がカウンタ軸4に伝えられる。この状態が変速ギヤ機構10における4速のギヤ比となる。
第3シフトユニット83は、第3シフトスリーブ37を入力軸3の軸方向に移動させると共に、リバース駆動レバー51を介してリバースアイドラギヤ50をリバース軸5の軸方向に移動させるものである。第3シフトユニット83は、第2シフター軸82aの前上方に位置して左右方向に延びる第3シフター軸83aと、カム部材74のフィンガ部74aに係合可能な第3シフトヨーク83bと、第3シフトスリーブ37に係合する第3シフトフォーク83cと、リバース駆動レバー51に接続するリバース操作腕83dとを有する。
第3シフター軸83aの軸方向は、入力軸3、カウンタ軸4、及びリバース軸5の軸方向と平行である。第3シフター軸83aの両端は、ライトケース21の隔壁23に形成した軸ガイド孔124(図4参照)と、レフトケース22の左端壁25に形成した軸ガイド孔125(図5、図6参照)にて軸方向(左右方向)にスライド可能に支持されている。
第3シフトヨーク83bは、水平方向に広がりを有する板状体であり、前端部が第3シフター軸83aに連結される(図2、図3、図7参照)。第3シフトヨーク83bの後端部には、後方に向けて開口する凹部が形成されており、当該凹部にはカム部材74のフィンガ部74a、あるいは、下側プレート77bの屈曲部分の先端が配置される。これにより、上下方向におけるフィンガ部74aの位置が、第3シフトヨーク83bの高さ位置と一致したときに、フィンガ部74aが第3シフトヨーク83bの凹部内に位置して係合可能になる。
第3シフトフォーク83cは、先端部分が二股に分岐した側面視C字状の板状体である。第3シフトフォーク83cの基端部分が第3シフター軸83aに連結し、第3シフトフォーク83cの先端部分が第3シフトスリーブ37に形成された溝に係合する。第3シフトフォーク83cは、第3シフトヨーク83bよりも左方の位置で第3シフター軸83aに連結している(図10及び図11参照)。
リバース操作腕83dは、第3シフトヨーク83bよりも右方の位置で第3シフター軸83aに連結している(図10及び図11参照)。リバース操作腕83dの先端部が、リバース駆動レバー51の連係孔51aに挿入されている(図11及び図13参照)。
第3シフトユニット83は、第3シフター軸83aと第3シフトヨーク83bと第3シフトフォーク83cとリバース操作腕83dが結合した一体構造であり、フィンガ部74aのシフト方向の移動が第3シフトヨーク83bに伝えられると、第3シフター軸83aが軸方向にスライドする。第3シフター軸83aのスライドによって、第3シフトフォーク83cが第3シフトスリーブ37を入力軸3の軸方向に移動させて、第3シフトスリーブ37に隣接する第5入力ギヤ34の係合関係が切り替え可能となる。また、第3シフター軸83aのスライドによって、リバース操作腕83dが連係孔51aの内面を押圧してリバース駆動レバー51が回転し、リバース駆動レバー51がリバースアイドラギヤ50をリバース軸5の軸方向(左方向)に移動させる。すると、リバース軸5の軸方向で、リバースアイドラギヤ50がリバース用入力ギヤ35及びリバース用カウンタギヤ47と同じ位置になり、リバースアイドラギヤ50がリバース用入力ギヤ35及びリバース用カウンタギヤ47と噛み合う。
具体的には、第3シフトユニット83の中立位置では、第5入力ギヤ34に対して第3シフトスリーブ37が左方に離間していて係合しない。また、リバース用入力ギヤ35及びリバース用カウンタギヤ47に対して、リバースアイドラギヤ50が右方に離間していて噛合しない。
第3シフトユニット83が中立位置から右方にスライドすると、第3シフトスリーブ37が第5入力ギヤ34に係合する。第3シフトスリーブ37が第5入力ギヤ34に係合すると、第5入力ギヤ34が入力軸3と一体回転するようになる。すると、第5入力ギヤ34から第5カウンタギヤ44を経て入力軸3の回転がカウンタ軸4に伝えられる。この状態が変速ギヤ機構10における5速のギヤ比となる。なお、第3シフトユニット83が中立位置から右方にスライドする際には、リバース操作腕83dの先端はリバース駆動レバー51を回転させることなく連係孔51a内で移動可能であり、リバース操作腕83dからリバース駆動レバー51を回転させる力は付与されない。
第3シフトユニット83が中立位置から左方にスライドすると、リバース操作腕83dの先端が連係孔51aの内面を押圧してリバース駆動レバー51を回転させる。回転するリバース駆動レバー51がリバースアイドラギヤ50を押圧し、リバースアイドラギヤ50がリバース軸5上で左方に移動して、リバース用入力ギヤ35及びリバース用カウンタギヤ47に噛合する。すると、リバース用入力ギヤ35、リバースアイドラギヤ50、及びリバース用カウンタギヤ47を経て、入力軸3の回転がカウンタ軸4に伝えられる。リバースアイドラギヤ50を介在させることで、先に述べた1速から5速までの動力伝達時とはカウンタ軸4の回転方向が逆になる。すなわち、変速ギヤ機構10により駆動輪がリバース(後進)方向に回転される状態になる。
それぞれが板状をなす第1シフトヨーク81bと第2シフトヨーク82bと第3シフトヨーク83bは、上下方向に重なるように配置される(図7参照)。また、第1シフトヨーク81bの凹部、第2シフトヨーク82bの凹部、第3シフトヨーク83bの凹部は、直線上に並ぶように配置されている。具体的には、下方から順に、第1シフトヨーク81b、第2シフトヨーク82b、第3シフトヨーク83bの順で並んでいる。カム部材74のフィンガ部74aは、乗員のセレクト操作によるシフトアンドセレクト軸70の上下方向の移動に応じて、直線上に並んだ3つのシフトヨーク81b、82b及び83bの凹部内を移動する。そして、フィンガ部74aは、乗員のシフト操作によるシフトアンドセレクト軸70の回転に応じて、位置する凹部に対して択一的に係合して当該シフトユニットを軸方向に移動させる。なお、3つのシフトヨーク81b、82b及び83bのうち、フィンガ部74aが存在していない残り2つの各凹部に対して、インタロックプレート77の上側プレート77a又は下側プレート77bの屈曲部分(前端部分)が配置される。インタロックプレート77が凹部内に存在しているシフトヨークは、インタロックプレート77と係合して左右方向への移動(シフト方向の移動)が規制される。従って、シフトアンドセレクト軸70をシフト方向に動作させたときに、3つのシフトヨーク81b、82b及び83bのうち1つのみがフィンガ部74aに伴って移動し、他の2つは移動が規制されて各々が上述の中立位置に保持される。
乗員が操作するシフトレバーが、セレクト方向及びシフト方向の両方におけるニュートラル位置にあるとき、第1シフトユニット81、第2シフトユニット82、及び第3シフトユニット83は、いずれもシフト方向における中立位置にあり、入力軸3の回転がカウンタ軸4に伝達されない。すなわち、ファイナルドリブンギヤ60に駆動力は伝わらない。また、シフトレバーのニュートラル位置では、カム部材74のフィンガ部74aは、上下方向(セレクト方向)で第2シフトヨーク82bの凹部に対応する位置となるようにバネにて付勢されている。従って、シフトレバーをニュートラル位置からそのままシフト操作すると、第2シフトユニット82がシフト方向に移動して3速又は4速が選択される。
シフトレバーをニュートラル位置からセレクト方向の一方に操作するとシフトアンドセレクト軸70が下方に移動して、カム部材74のフィンガ部74aが上下方向(セレクト方向)で第1シフトヨーク81bの凹部に対応する位置になる。この状態でシフトレバーをシフト操作すると、第1シフトユニット81がシフト方向に移動して1速又は2速が選択される。
シフトレバーをニュートラル位置からセレクト方向の他方に操作するとシフトアンドセレクト軸70が上方に移動して、カム部材74のフィンガ部74aが上下方向(セレクト方向)で第3シフトヨーク83bの凹部に対応する位置になる。この状態でシフトレバーをシフト操作すると、第3シフトユニット83がシフト方向に移動して5速又はリバース(後進)が選択される。
以上のように、シフト装置7及び内部シフト機構8を利用して変速ギヤ機構10の変速段を選択して、入力軸3の駆動力にてカウンタ軸4が回転すると、カウンタ軸4上のファイナルドライブギヤ45からファイナルドリブンギヤ60に回転が伝達されて、駆動軸が回転駆動される。1速から5速の前進時には、ファイナルドリブンギヤ60は図2及び図3に矢印FWで示す前進方向に回転する。
変速機2は、変速機ケース20内で潤滑油を循環させて各部に供給する潤滑構造を有する。図2及び図3に示すように、変速機ケース20(レフトケース22)の内部は、前方寄りの上部に変速ギヤ機構10及び内部シフト機構8が配置され、後方寄りの下部にディファレンシャル装置6(ファイナルドリブンギヤ60)が配置されている。レフトケース22の後方寄りには、左方に向けて開口する潤滑油注入口22b(図1、図5、図6参照)を有し、エンジン停止時の液面位置が潤滑油注入口22b付近になるように、変速機ケース20内に潤滑油が注入される。すなわち、変速機ケース20の下部にオイル溜まりが形成される。この状態で、変速ギヤ機構10とディファレンシャル装置6のそれぞれの一部が、変速機ケース20の下部に貯留された潤滑油に浸かる。
そして、走行またはエンジン1を始動して変速ギヤ機構10が回転した状態では、変速機ケース20内の各ギヤ等の動作によって、変速機ケース20内で潤滑油の循環が生じる。特に、変速機ケース20内で後方下部に位置する大径のファイナルドリブンギヤ60の走行時の回転により、変速機ケース20下部に貯留された潤滑油が掻き揚げられて上方に進む。ファイナルドリブンギヤ60の上方には周壁24の後壁部24cが斜め上方に向けて伸びている(図8参照)。前進方向FWに回転するファイナルドリブンギヤ60によって掻き揚げられた潤滑油は、後壁部24cに当たって周囲に飛散したり、後壁部24cに沿って流動したりする。変速機ケース20内を飛散や流動する潤滑油は、変速ギヤ機構10や内部シフト機構8を潤滑し、下方に落下して変速機ケース20の下部に戻る。
ところで、変速機ケース20内でファイナルドリブンギヤ60が配されているのは、左側空間内の右後方位置であって隔壁23に近いレフトケース22内の右端側であり、変速ギヤ機構10の大部分はファイナルドリブンギヤ60よりも左方に位置している。そのため、本実施の形態の変速機2における潤滑構造は、ファイナルドリブンギヤ60が掻き揚げた潤滑油を捕集して、潤滑対象である変速ギヤ機構10の各部へ潤滑油を供給するオイルガター9を備えている。オイルガター9の単体形状を図14から図16に示した。
オイルガター9は、変速機ケース20内で上壁部24aに近い上部に位置している(図2から図5参照)。そして、オイルガター9は、ファイナルドリブンギヤ60の上方に位置する捕集部90から、左端壁25に隣接する供給端部95まで、レフトケース22内を左右方向に横断する油路を形成する(図10から図13参照)。オイルガター9では捕集部90から供給端部95に向けて潤滑油が流れ、捕集部90が位置する右方が上流、供給端部95が位置する左方が下流となる。オイルガター9の各部は、底壁と、底壁の縁部から上方に突出する側壁とで囲まれる樋状の断面形状を有しており、オイルガター9の上面側(側壁の上部)は開放されている。
図14及び図15に示すように、オイルガター9は、最も上流側に位置する捕集部90と、捕集部90に続く流入部91と、流入部91に連続して延びる第1油路92と、流入部91から分岐する第2油路93と、第1油路92及び第2油路93が合流する合流部94と、合流部94に続く下流側の端部である供給端部95と、を有している。第1油路92と第2油路93と合流部94に囲まれる領域には、上下方向に貫通する貫通部96が形成されている。言い換えれば、第1油路92と第2油路93は、貫通部96を挟んで分岐した関係にある。つまり、オイルガター9は、第1油路92と第2油路93の間に、オイルガター9の上側と下側を連通する貫通孔となる貫通部96を有している。
捕集部90は、流入部91や第1油路92に対して後方に突出しており、平坦形状の底壁部90aと、底壁部90aの左右の縁部から上方に突出する右側壁部90b及び左側壁部90cとを有する。捕集部90の後端は、右側壁部90bと左側壁部90cの間が開放された捕集開口90dとなっている。底壁部90aはファイナルドリブンギヤ60の外周部に近い位置にある。つまり、底壁部90aは、図8に示すようにファイナルドリブンギヤ60の上方で外周部に接近した位置に配置されるとともに、図12に示すように少なくともその一部が左右方向でファイナルドリブンギヤ60と同じ位置に配置される。そして、前進方向FWへ回転するファイナルドリブンギヤ60により掻き揚げられた潤滑油が、捕集開口90dや捕集部90上側の開放部分から捕集部90に流れ込む。
流入部91は、捕集部90の前方から左方に向けて延びている。流入部91の底壁は、捕集部90の底壁部90aの前方に位置する湾曲底壁部91aと、湾曲底壁部91aから左方に延びる平坦形状の平坦底壁部91bと、平坦底壁部91bの前縁部分に位置する湾曲底壁部91cと、平坦底壁部91bの左方に連続する傾斜底壁部91dと、を有する。
湾曲底壁部91aは、底壁部90aに連続して形成され、前方となるほど下方への突出量が大きくなる円弧状の形状を備える(図5及び図8参照)。この湾曲底壁部91aの円弧形状は、その直下に位置するファイナルドリブンギヤ60の外周形状に沿うものである。言い換えれば、湾曲底壁部91aは、ファイナルドリブンギヤ60に対してオイルガター9を干渉させずに近接配置させるための逃げ部分であり、その下方はファイナルドリブンギヤ60の配置空間となる。
平坦底壁部91bは、湾曲底壁部91aの最も深い領域に連続しており、捕集部90の底壁部90aや湾曲底壁部91aよりも下方に位置する(図5、図14参照)。平坦底壁部91bには滴下孔100が貫通形成されている。滴下孔100は、平坦底壁部91bのうち前方右端寄りの位置に形成されており、滴下孔100の下方近傍に第1カウンタギヤ40が位置する(図12及び図13参照)。平坦底壁部91bは、潤滑油注入口22bよりも上方に位置している。そのため、平坦底壁部91b上の潤滑油は、滴下孔100によって全て下方に滴下することができる。
湾曲底壁部91cは、平坦底壁部91bの前部に連続して形成され、前方となるほど上方となる円弧状の形状を備える(図5、図15参照)。この湾曲底壁部91cの円弧形状は、その直下に位置する第1カウンタギヤ40や第1シフトスリーブ46(リバース用カウンタギヤ47を含む)の外周形状に沿うものである。言い換えれば、湾曲底壁部91cは、第1カウンタギヤ40や第1シフトスリーブ46に対してオイルガター9を干渉させずに近接配置させるための逃げ部分であり、その下方は第1カウンタギヤ40や第1シフトスリーブ46の配置空間となる。平坦底壁部91bの左端に連続して形成されている傾斜底壁部91dは、平坦底壁部91bから左方に進むにつれて徐々に浅くなり(上方に突出し)第1油路92に連続する傾斜形状を有する。傾斜底壁部91dは、レフトケース22の軸支持部29の右側に位置し、軸支持部29よりも高い位置にまで達している。つまり、流入部91(平坦底壁部91b)は、左右方向で軸支持部29の右側に位置し、上下方向で軸支持部29の側方まで下方に膨出している。そのため、流入部91は、捕集部90や第1油路92よりも低い部分を有し、潤滑油を貯留するキャッチタンクとして機能する。
流入部91の側壁は、捕集部90の右側壁部90bから連続して前方へ延びる右側壁部91eと、右側壁部91eの前端から左方に延びる前側壁部91fと、前側壁部91fの左方に連続する隔壁部91gと、捕集部90の左側壁部90cから左方に延びる後側壁部91hと、を有する。右側壁部90b、隔壁部91g、左側壁部90c、後側壁部91hの各上端はほぼ同じ高さに形成されている。これに対して、右側壁部91e、前側壁部91fの各上端は図8に示すように周壁24の内面に沿って高く形成されている。
また、捕集部90の左側壁部90cを前方に延長して、整流リブ91iが設けられている。整流リブ91iと右側壁部91eによって、捕集部90に流入した潤滑油を円滑に流入部91に誘導することができる。特に、整流リブ91iによって、潤滑油の流れを指向させて滴下孔100近辺へ潤滑油を確実に誘導できるとともに、流入部91から捕集部90への逆流を抑制して第1油路92への流れを形成する。
捕集部90の底壁部90aは、ファイナルドリブンギヤ60の外周に近い位置にあり、ファイナルドリブンギヤ60により掻き揚げられた潤滑油を取り込みやすい(図8参照)。流入部91の湾曲底壁部91aは、ファイナルドリブンギヤ60の外周形状に沿って、前方に進むにつれて下方への突出量を大きくしている(図8参照)。また、右側壁部90bと右側壁部91eは、後方から前方に進むにつれて上下方向の高さを徐々に大きくして周壁24の内面に接近するように構成されており、前側壁部91fに接続する前端部分で最も高くなる(図5及び図8参照)。従って、捕集開口90dから前側壁部91fまでのオイルガター9の最上流部分は、側面視で後方から前方に向けて広がる三角状の形状を有している。レフトケース22の後部上方には、上壁部24aと後壁部24cとファイナルドリブンギヤ60とで囲まれる、側面視で略三角形状の空間が存在しており、オイルガター9の最上流部分は、当該空間にスペース効率良く収まっている(図8参照)。
流入部91のうち、前側壁部91fと後側壁部91hの間は前後方向の間隔が広くなっている。これに対して、隔壁部91gは、前側壁部91fよりも後側壁部91hに接近した位置にあり、流入部91の前後間隔を狭めている。隔壁部91gは、左方となるほど後側壁部91hに接近する傾斜部分を有し、この傾斜部分に切り欠き91jが形成されている。すなわち、流入部91側から見て、左斜め前方に向けて切り欠き91jが開口している。切り欠き91jは、隔壁部91gの上端から下方に向けて切り込まれた矩形状の開口部である。
隔壁部91gは、流入部91と後述する第2油路93との境界を形成している。流入部91内の潤滑油は、切り欠き91jを通らずに第1油路92へ進む流れと、切り欠き91jを通過して第2油路93側に進む流れとに分かれる。これら2つの油路のうち、まず第1油路92について説明する。
第1油路92は、流入部91から連続して左方に延びる後方油路部92aと、後方油路部92aの左端部から前方に向けて延びて合流部94に達する左方油路部92bとを有する。後方油路部92aは貫通部96の後方に位置し、左方油路部92bは貫通部96の左方に位置する。
第1油路92の底壁を構成する底壁部92cは、流入部91の傾斜底壁部91dのうちで最も高くなっている左端部分に連続しており、平坦底壁部91bよりも上方に位置している。さらに、底壁部92cは、捕集部90の底壁部90aよりも上方に位置している。そして、図7に示すように、底壁部92cはレフトケース22の軸支持部29よりも上方に位置し、第1油路92は軸支持部29の上方を通過するように配置されている。底壁部92cは、後方油路部92aから左方油路部92bにかけて、途中に段差のない平滑な形状になっている。
第1油路92の側壁は、貫通部96を囲む内周側に位置する内周側壁部92dと、第1油路92の外縁(後縁)部分を構成する外周側壁部92eと、を有する。後方油路部92aにおいて、内周側壁部92dは、底壁部92cの前端から上方に立設されており、流入部91の隔壁部91gに連続して左右方向に延びている。内周側壁部92dの上端の高さ位置は、隔壁部91gの上端とほぼ同等の高さ位置であって、外周側壁部92eの上端とほぼ同等の高さ位置となっている。図7に示すように、内周側壁部92dの上端はレフトケース22の後壁部24cと離間しており、内周側壁部92dの上端と後壁部24cの間の空間を通過して流入する潤滑油を後方油路部92aにて受け止めることができる。また、後方油路部92aにおいて、外周側壁部92eは、底壁部92cの後端から上方に立設されており、流入部91の後側壁部91hに連続して左右方向に延びている。外周側壁部92eの上端の高さ位置は、後側壁部91hの上端と同等の高さ位置であって、内周側壁部92dの上端とほぼ同等の高さとなっている。図7に示すように、外周側壁部92eの上端はレフトケース22の後壁部24cに近接配置されており、後方油路部92aの上部空間を通過する潤滑油の量を減らしてより多くの潤滑油を後方油路部92aにて受け止めることができるとともに、後方油路部92aから外周側壁部92eの上方を通過して後方側に漏れ出す潤滑油の量を減らすことができる。そして、これらの内周側壁部92dと外周側壁部92eの延設方向の設定により、流入部91から後方油路部92aへスムーズに潤滑油を流動させることができる。後側壁部91hと外周側壁部92eは、レフトケース22の後壁部24cに近接しており、後壁部24cに沿って配置されるので、流入部91と第1油路92は、レフトケース22内で最も後方となる位置(設置限界)に配されている(図7及び図10参照)。また、後方油路部92aは、軸支持部29の上方であって、シフト装置7と後壁部24cの間を通過するように配置されている。
左方油路部92bでは、内周側壁部92dと外周側壁部92eはそれぞれ、後方油路部92aから左斜め前方へ延びている。左方油路部92bにおいて、内周側壁部92dは、底壁部92cの右端から上方に立設されており、外周側壁部92eは、底壁部92cの左端から上方に立設されている。レフトケース22の左端近くでは、後壁部24cが左方に進むにつれて前方へ突出する(前壁部24bに近づく)ように傾斜しており、左方油路部92bにおける外周側壁部92eは、後壁部24cの当該傾斜に対応した形状になっている(図10参照)。つまり、レフトケース22は左端に向かって先細りの形状となっており、左方油路部92bの外周側壁部92eは後壁部24cの内面に沿った形状で後方油路部92aの外周側壁部92eから屈曲している。また、図2、図16に示すように、左方油路部92bの外周側壁部92eの上端の高さ位置は、前側(左側)が低くなっている。左方油路部92bでは、前方に進むにつれて外周側壁部92eに対する内周側壁部92dの間隔が広くなる。左方油路部92bは後方油路部92aに対して屈曲しているが、屈曲角度が小さく抑えられ、且つ内周側壁部92dと外周側壁部92eの間隔を徐々に大きくしているため、後方油路部92aから左方油路部92bにかけて潤滑油をスムーズに流動させることができる。
図14、図16に示すように、左方油路部92bの前端部分には、底壁部92cから上方に突出する板状の整流リブ92fが設けられている。整流リブ92fは、左右方向に延びて内周側壁部92dと外周側壁部92eの間を部分的に塞いでいる。また、整流リブ92fの上端の高さ位置は、内周側壁部92dの上端よりも低い高さ位置となっているが、外周側壁部92eの上端とほぼ同等の高さ位置となっており、捕集部90、流入部91、第1油路92に潤滑油を貯留する堰として働く。整流リブ92fの上端の高さ位置は、切り欠き91jの下端部の高さよりも高く設定されている(図16参照)。整流リブ92fの両端部分には、内周側壁部92d及び外周側壁部92eとの間に隙間がある。潤滑油は、これらの隙間を通って第1油路92から合流部94へ流れる。特に、整流リブ92fと外周側壁部92eの間の隙間の方が大きく設定されており、外周側壁部92eに沿う部分から合流部94の供給端部95側(合流部94の左側)へ潤滑油が流れやすくなっている。
続いて、第2油路93について説明する。第2油路93は、流入部91と合流部94とを接続する油路であって、隔壁部91gに形成した切り欠き91jを通して、流入部91から潤滑油が流れ込む。図12のようにオイルガター9を上面視すると、第2油路93は、捕集部90が配置される側の反対側であって流入部91から概ね左斜め前方に向けて延びている。第2油路93と流入部91の接続部であって第2油路93の始端部分に位置する切り欠き91jは、この第2油路93の延設方向に向けて開口している。すなわち、切り欠き91jが形成された隔壁部91gは第2油路93の延びる方向に略垂直に形成されており、第2油路93は切り欠き91jを通して流入する潤滑油の流動(進行)方向に延びているので、第2油路93での潤滑油の流れをスムーズにさせることができる。
第2油路93は、流入部91の隔壁部91gの前側に位置するオイルキャッチタンク部93aを上流側に有し、下流側に位置する前方油路部93bがオイルキャッチタンク部93aと合流部94の間を接続する。オイルキャッチタンク部93aは貫通部96の右方に位置し、前方油路部93bは貫通部96の前方に位置する。
第2油路93の底壁は、隔壁部91gの前側に隣接して位置する下段底壁部93cと、下段底壁部93cの前側に位置する湾曲底壁部93dと、湾曲底壁部93dの左前方に位置する上段底壁部93eと、湾曲底壁部93d及び上段底壁部93eを接続する移行底壁部93fと、を有する。下段底壁部93cと湾曲底壁部93dがオイルキャッチタンク部93aの底壁を構成し、上段底壁部93eが前方油路部93bの底壁を構成している。移行底壁部93fは、オイルキャッチタンク部93aと前方油路部93bの境界部分の底壁を構成している。
下段底壁部93cは平坦な形状を有している。下段底壁部93cは、オイルガター9における底壁のうち最も下方に位置している(図4、図5、図16参照)。上段底壁部93eは前縁側から後縁側に向けて徐々に下方へ湾曲する円弧形状である(図7参照)。上段底壁部93eは、下段底壁部93cよりも上方に位置し、且つ第1油路92の底壁部92cよりも下方に位置する(図16参照)。
湾曲底壁部93dは、下段底壁部93cから前方に進むにつれて上方への突出量を大きくする形状の円弧部になっている(図4及び図5参照)。この湾曲底壁部93dの円弧形状は、リバース用カウンタギヤ47、第2カウンタギヤ41、及び第3カウンタギヤ42の外周形状に沿うものである。言い換えれば、湾曲底壁部93dは、リバース用カウンタギヤ47、第2カウンタギヤ41、及び第3カウンタギヤ42に対してオイルガター9を干渉させずに近接配置させるための逃げ部であり、その下方はリバース用カウンタギヤ47、第2カウンタギヤ41、及び、第3カウンタギヤ42の配置空間となる。移行底壁部93fは、湾曲底壁部93dと同様の円弧形状を基本とする円弧部であり、上段底壁部93eの円弧形状から湾曲底壁部93dの円弧形状へ徐々に移行する部分である。なお、上段底壁部93eの円弧形状と湾曲底壁部93dの円弧形状は、カウンタ軸4の軸心を中心軸とする同心形状に形成されており、上段底壁部93eの円弧形状の方が小径に形成されている。
湾曲底壁部93dには滴下孔101が貫通形成され、移行底壁部93fには滴下孔102が貫通形成されている。滴下孔101は、湾曲底壁部93dの中央付近に形成されており、滴下孔101の下方に第2カウンタギヤ41が位置する(図12及び図13参照)。滴下孔102は、滴下孔101よりも前方左寄りに位置し、滴下孔102の下方に第3カウンタギヤ42が位置する(図12及び図13参照)。下段底壁部93cにはドレン孔105が貫通形成されている。ドレン孔105の下方には、変速ギヤ機構10を構成するギヤ等が位置していない。上段底壁部93eの下方には、カウンタ軸4における第3カウンタギヤ42と第4カウンタギヤ43との間の領域が位置している。
第2油路93の側壁は、貫通部96を囲む内周側に位置する内周側壁部93gと、第2油路93の外縁(前縁)部分を構成する外周側壁部93hと、を有する。オイルキャッチタンク部93aにおいて、内周側壁部93gは、下段底壁部93cの貫通部96側端縁(左側端縁)から上方へ立ち上げられた形状になっており、内周側壁部92dから前方に向けて延び、前方油路部93bにおいて左方に屈曲している。そして前方油路部93bにおいて、内周側壁部93gは、上段底壁部93eの貫通部96側端縁(後側端縁)から上方へ立ち上げられた形状になっており、左右方向に延びている。また、内周側壁部93gの上端部の高さは、第1油路92の底壁部92cよりも下方に位置している。外周側壁部93hは、オイルキャッチタンク部93a及び前方油路部93bにおいて、湾曲底壁部93d及び上段底壁部93eの前縁から上方へ立ち上げられた形状になっている。また、外周側壁部93hの一部は、前方に進むにつれて左方に位置するように傾斜する傾斜部93iとなっている。傾斜部93iは、オイルキャッチタンク部93aの前部から左斜め前に延びて前方油路部93bの前部にまで配置されており、この傾斜部93iの形状により、前方油路部93bでは、左方に進むにつれて内周側壁部93gと外周側壁部93hの間隔が広くなる。
前方油路部93bの左端部分には、上段底壁部93eから上方に突出する板状の整流リブ93jが設けられている。整流リブ93jは、前後方向に延びて内周側壁部93gと外周側壁部93hの間を部分的に塞いでいる。整流リブ93jは、隣接する内周側壁部93gと外周側壁部93hよりも上方への突出量が小さい(低い)。また、整流リブ93jと外周側壁部93hの間に隙間がある。潤滑油は、この隙間や整流リブ93jの上部を通って、第2油路93から合流部94へ流れる。なお、整流リブ93jは、合流部94から第2油路93への潤滑油の流れを抑制する。
合流部94は、第1油路92の左方油路部92bの前方、及び第2油路93の前方油路部93bの左方に位置している。合流部94の底壁は、第2油路93の上段底壁部93eの左側に隣接して(整流リブ93jを挟んで)位置する上段底壁部94aと、上段底壁部94aの左側に位置する下段底壁部94bと、を有する。
上段底壁部94aは、第2油路93の上段底壁部93eの前端よりもやや高い高さ位置にあり、第1油路92の底壁部92cよりも下方に位置している(図16参照)。上段底壁部94aには、滴下孔103と滴下孔104が貫通形成されている。滴下孔103は、上段底壁部94aの右寄りの位置に形成されており、滴下孔103の下方に第4カウンタギヤ43が位置する(図12及び図13参照)。滴下孔104は、滴下孔103の左側に形成されており、滴下孔104の下方に第5カウンタギヤ44が位置する(図12及び図13参照)。上段底壁部94aは、前側が低くなるように傾斜した平面となっている。
下段底壁部94bは、上段底壁部94aに対して一段低い位置に形成されている。また、下段底壁部94bは、上段底壁部94aと同様に前側が低くなるように傾斜している。つまり、下段底壁部94bは、上段底壁部94a及び底壁部92cよりも下方に位置して潤滑油が流れ込み易く、流れ込んだ潤滑油を前方に集めて、潤滑油をスムーズに供給端部95へ供給することができる。下段底壁部94bの下方には、カウンタ軸4における第5カウンタギヤ44と軸受4bとの間の領域が位置している。
合流部94の側壁は、下段底壁部94bの左端縁から上方に立設されて第1油路92の外周側壁部92eの前端に連結されて前方に延びる左側壁部94cと、上段底壁部94aの前端縁または下段底壁部94bの前端縁から上方に立設されて第2油路93の外周側壁部93hの左端に連結されて左方に延びる前側壁部94dと、上段底壁部94aの後端縁から上方に立設されて内周側壁部92d及び内周側壁部93gを接続する内周側壁部94eと、を有する。合流部94の側壁の上端の高さ位置は、第2油路93の側壁の上端と同じ高さ位置となっている。
合流部94の下段底壁部94b上には、整流リブ94fが設けられている。整流リブ94fは、左方油路部92bに設けた整流リブ92fの左方の端部付近から前方に向けて延びている。整流リブ94fの前端は、前側壁部94dとの間に潤滑油が流動する隙間を確保しつつ前側壁部94dの近くに位置している。第1油路92における整流リブ92fの左端部と外周側壁部92eとの間を通過して合流部94に流れ込んだ潤滑油は、整流リブ94fと左側壁部94cとの間を通って供給端部95に向けて流動する。一方、第2油路93から合流部94に入った潤滑油は、整流リブ94fの前端と前側壁部94dとの間を通って供給端部95に向けて流動する。整流リブ94fは、前方に進むにつれて徐々に左側壁部94cとの間隔が狭くなるように立設されており(図12及び図14参照)、第1油路92と第2油路93のいずれからも供給端部95側へ潤滑油をスムーズに流動させることができる。このように、合流部94内を区画する整流リブ94fによって、第1油路92を経由した潤滑油と第2油路93を経由した潤滑油が、互いに干渉せずにスムーズに供給端部95へ誘導される。なお、整流リブ94fは左側壁部94cよりも低い高さに設定されており、潤滑油が多量に合流部94に流れ込んだ場合は、潤滑油は整流リブ94fの上方を通過することができる。
供給端部95は、合流部94の前部の左縁部分から左方に突出している。供給端部95の底壁を構成する底壁部95aは、後端部分が下段底壁部94bに連続する高さであり、前方に進むにつれて下方となる傾斜形状になっている。
供給端部95の側壁は、左側壁部94cの前端から左方に延びる後側壁部95bと、底壁部95aの前縁から上方へ立ち上げられて前側壁部94dに接続する前側壁部95cと、後側壁部95bの左端から前方に屈曲する端壁部95dと、前側壁部95cの左端から前方に屈曲する端壁部95eと、を有する。端壁部95dと端壁部95eの間(端壁部95dと前側壁部95cの間)には、左方に向けて開口する端部開口95fが形成されている。端壁部95eは、底壁部95aの傾斜に沿って、前方に進むにつれて下方へ突出する傾斜形状になっている(図4参照)。端壁部95dは端壁部95eよりも僅かに左方に突出している。
貫通部96は、オイルガター9を上下方向に貫通するように形成された孔であって、図12等に示すオイルガター9の上面視にて、第1油路92の内周側壁部92dと、第2油路93の内周側壁部93gと、合流部94の内周側壁部94eとによって囲まれる上下に開放された空間である。なお、第1油路92と第2油路93は上下方向の位置が互いに異なっており、第1油路92が上方で、第2油路93が下方に位置する(図7及び図16参照)。これに応じて、内周側壁部92dと内周側壁部93gの位置も上下にずれており、上下方向における貫通部96の範囲は、第1油路92の内周側壁部92dの上端から第2油路93の内周側壁部93gの下端までとなる。
図11に示すように、内周側壁部94eと内周側壁部92dの境界付近には、貫通部96の内側に向けて突出する支持突起96aが設けられている。支持突起96aは先端を自由端とした片持ち状の突出部であり、基端を支点として前後方向に弾性変形可能である。
図11に示すように、オイルガター9はさらに、フック部97及びフック部98を有する。フック部97は、捕集部90の左側壁部90cから左方に突出する鉤状の部位である。フック部98は、流入部91の右側壁部91eを前方に延長した壁部から左方に突出する鉤状の部位である。
図6に示すように、レフトケース22内には、合わせ面22aに近い位置に合わせ面22aに平行な面が配置され、これらの平行な面に、フック部97が係合する被係合部27と、フック部98が係合する被係合部28が形成されている。被係合部27、28は、レフトケース22に形成された穴であり、右方向に開放している。フック部97、98を被係合部27、28に挿入すると、鉤形状が弾性変形してフック部97、98が被係合部27、28に対して係合することにより、レフトケース22内にオイルガター9が保持される。レフトケース22内にオイルガター9を取り付けた状態で、上壁部24aに形成された開口26の下方にオイルガター9の貫通部96が位置する。また、貫通部96の内方に突出する支持突起96aが、レフトケース22内の軸支持部29の外面に接触して、オイルガター9を安定させるとともに、後述するように供給端部95の左端側の端壁部95dが左端壁25の連通凹部116内に挿入されることにより、オイルガター9を安定させることができる。なお、被係合部27、28が形成された面は、左右方向で合わせ面22aに近い位置に配置されており、レフトケース22とライトケース21が結合された後には、ライトケース21によってオイルガター9の右側への移動が規制され、フック部97、98は被係合部27、28から抜け出ることができない。
レフトケース22の左端壁25には、軸受3bを支持する支持凹部111に連通する連通凹部116が形成されている(図6及び図9参照)。連通凹部116は、支持凹部111から後上方へ向けて延びる凹部であり、右側に向けて開放している溝形状となっている。フック部97、98を被係合部27、28に係合させてレフトケース22内にオイルガター9を取り付けると、供給端部95の左端側の端壁部95dと端壁部95eが連通凹部116内に挿入される。また、端壁部95eは連通凹部116の形状に合致して連通凹部116の右側の開口を閉じていることと、前方の端壁部95eよりも後方の端壁部95dの方が左方に突出しているため(端壁部95eの方が連通凹部116の奥壁との隙間が大きいため)、端部開口95fから流出する潤滑油は、端壁部95eと連通凹部116の隙間を通って支持凹部111側に流動しやすくなる。
軸受3bに支持される入力軸3の内部には、軸方向に向けて延びる軸方向孔3c(図2参照)と、軸方向孔3cから径方向に延びて入力軸3上の各ギヤやシフトスリーブの支持位置まで連通する径方向孔(不図示)と、が形成されている。軸方向孔3cは入力軸3の左端に開口しており(図2参照)、レフトケース22を組み付けた状態では、支持凹部111内に軸方向孔3cの軸端開口が面する(図9参照)。すなわち、軸方向孔3cと支持凹部111及び連通凹部116とが連通する関係になる。従って、オイルガター9の端部開口95fから連通凹部116内へ流入した潤滑油は、入力軸3の軸方向孔3c内に導かれ、径方向孔を通して入力軸3上の各変速ギヤやシフトスリーブ周りに供給される。なお、支持凹部111内に供給された潤滑油は、軸受3bを潤滑して通過し変速機ケース20の左側空間に流れ出すが、支持凹部111内に配置された潤滑油導入部材117によって軸受3bを通過する潤滑油の量が制限されている(図9参照)。潤滑油導入部材117は、軸受3bの側面の一部を覆う円盤部分と、この円盤部分から突出して軸方向孔3c内に挿入される筒部分を有し、円盤部分にて軸受3bへの流量を規制し、筒部分にて軸方向孔3c内に潤滑油を導く部材である。
カウンタ軸4の内部にも、軸方向に向けて延びる軸方向孔4c(図2、図3、図7、図8及び図9参照)と、軸方向孔4cから径方向に延びてカウンタ軸4上の各ギヤやシフトスリーブの支持位置まで連通する径方向孔(不図示)と、が形成されている。軸方向孔4cはカウンタ軸4の両端に開口している。軸方向孔4cと径方向孔を通じてカウンタ軸4上の各変速ギヤやシフトスリーブ周りに潤滑油が供給される。
変速機2を組み立てる際には、左側を上方に向けた立てた状態にて変速ギヤ機構10や内部シフト機構8をライトケース21側に予め組み込む。そして、レフトケース22内にオイルガター9を組み付けた状態で、ライトケース21に対してレフトケース22を上から被せるように組み付ける。
このレフトケース22を組み付ける時には、レフトケース22内のオイルガター9を視認できない。そのため、ライトケース21に対して所定の位置からずれた状態でレフトケース22を組み付けると、ライトケース21に取り付けられた構造物に対してオイルガター9が接触するおそれがある。特に、オイルガター9のうち、前方油路部93bから合流部94及び供給端部95にかけての部分が、第1シフター軸81a及び第2シフター軸82aとカウンタ軸4との間の狭いスペースに入り込むので、この部分での接触や衝突が生じやすい。より詳しくは、第1シフター軸81aや第2シフター軸82aの先端が、前方油路部93b付近に対して当接しやすい。
オイルガター9の前方油路部93bは、外周側壁部93hに傾斜部93iを有している。傾斜部93iは、第1シフター軸81aや第2シフター軸82aの軸方向(左右方向)に対して傾斜した形状である。そのため、第1シフター軸81aや第2シフター軸82aの先端が傾斜部93iに当接した場合に、組み付け困難となることなく傾斜部93iがレフトケース22の組み付けを案内するガイド部分として機能する。特に傾斜部93iの傾斜は、左方となるほど前方への突出量を大きくするものであるため、傾斜部93iに第1シフター軸81aや第2シフター軸82aの先端が当接し状態でレフトケース22がライトケース21に接近する方向に進もうとすると、オイルガター9に対して後方への移動分力を生じさせる。すると、オイルガター9及びレフトケース22が前後方向の適正な位置に案内される。これにより、部品の破損を防止して、組み付け作業性を向上させることができる。つまり、傾斜部93iによって力を逃がすことが可能となって、樹脂材料で作製されるオイルガター9に対する衝突や引っ掛かりを抑制して、オイルガター9の破損を防止することができる。
ライトケース21へのレフトケース22の組み付けが完了すると、変速ギヤ機構10及び内部シフト機構8の周辺スペースにオイルガター9が収まる。図2、図3及び図7に示すように、オイルガター9のうち、貫通部96よりも前側に配置される前方油路部93bから合流部94及び供給端部95にかけての部分が、カウンタ軸4の上方で、第1シフター軸81a及び第2シフター軸82aの下側に位置する。特に、前方油路部93bは、前後方向にて、第2シフトフォーク82cと軸支持部29の間に配置され、上下方向で、各シフトヨーク81b、82b及び83bとカウンタ軸4の間に配置され、各シフトヨーク81b、82b及び83bの直下に位置する(図7及び図11参照)。
ライトケース21とレフトケース22を結合した後、さらに、レフトケース22に対してシフト装置7を取り付ける。シフト装置7は予めユニット化されており、シフト装置7のうち蓋部71aよりも下方に突出する部分が、上壁部24aに形成された開口26を通してレフトケース22内に挿入される。このシフト装置7の挿入部分は、シフトアンドセレクト軸70の一部、シフトケース71の下垂部71c、カム部材74、プランジャ75、インタロックプレート77、シフトガイド78を含む。シフトアンドセレクト軸70の下端部は、レフトケース22内の軸支持部29の孔に挿通されて、軸支持部29によって摺動自在に支持されている(図7参照)。
シフトケース71の蓋部71aを上壁部24aの上面に重ねてボルト留め等で締結させると、シフト装置7の取り付けが完了する。この状態で、カム部材74のフィンガ部74aが、第1シフトヨーク81b、第2シフトヨーク82b、及び第3シフトヨーク83bのいずれかの凹部に位置し、シフト装置7から内部シフト機構8への操作力伝達が可能になる。このシフト装置7の取り付けが完了した状態で、前方油路部93bは、フィンガ部74aやインタロックプレート77の直下に位置し上面視で重なる位置となっている。また、貫通部96よりも後側に配置される後方油路部92aは、軸支持部29の上方であって、カム部材74と後壁部24cの間を通過するように配置されている。
上述したように、レフトケース22の開口26の下方にオイルガター9の貫通部96が位置している。そして、開口26からレフトケース22内に挿入されたシフト装置7の一部は、貫通部96の内側に位置する。すなわち、オイルガター9は、レフトケース22内に挿入されたシフト装置7の挿入部分を囲む分岐した油路を構成しており、シフト装置7の挿入部分の後方を第1油路92(後方油路部92a)が通り、シフト装置7の挿入部分の前方を第2油路93(前方油路部93b)が通っている(図7参照)。
以上のようにして変速機ケース20内に組み付けられたオイルガター9の作用を説明する。エンジン1を駆動して入力軸3の回転がカウンタ軸4を経て伝達され、ファイナルドリブンギヤ60が前進方向FWに回転すると、変速機ケース20下部のオイル溜まりからファイナルドリブンギヤ60が掻き揚げた潤滑油が、オイルガター9の捕集部90に流れ込む。捕集部90に入った潤滑油は、整流リブ91i等による案内を受けながら流入部91に進む。捕集部90の前方に位置する右側壁部91eや前側壁部91fが、ファイナルドリブンギヤ60から上壁部24aまでの間をほぼ塞ぐようにその上端が上壁部24aに接近する配置になっている(図8参照)。そのため、上壁部24aに沿って流れて捕集部90を超えて前方に勢いよく飛散しようとする潤滑油についても、流入部91内に確実に取り込むことができる。
流入部91内に所定量の潤滑油が溜まると、潤滑油が第1油路92と第2油路93に分流して下流に流れる。流入部91から第1油路92への流れは、流入部91内の液面位置が第1油路92の底壁部92cまで達すると生じる。流入部91から第2油路93への流れは、流入部91内の液面位置が切り欠き91jの下端部まで達すると生じる。底壁部92cと切り欠き91jの下端部との高さ位置を適宜設定することにより、流入部91からから第1油路92へ潤滑油が流動するタイミングと、流入部91からから第2油路93へ潤滑油が流動するタイミングとを調整することができる。
第1油路92へ流入した潤滑油は、後方油路部92aから左方油路部92bを経てシフトアンドセレクト軸70の後方及び左方のスペースを流れる。整流リブ92fまで潤滑油が達すると一旦堰き止められ、整流リブ92fを回り込んで合流部94へ流れる。このとき潤滑油は、整流リブ92fと外周側壁部92eとの隙間から合流部94に入り、整流リブ94fに誘導されて前方へ進む流れが支配的となる。
一方、第2油路93へ流入した潤滑油は、流入部91に隣接するオイルキャッチタンク部93a内に溜まる。オイルキャッチタンク部93a内の潤滑油が所定量を超えると、湾曲底壁部93dや移行底壁部93fを越えて前方油路部93b内に潤滑油が流れる。
前方油路部93bへ流入した潤滑油は、シフトアンドセレクト軸70の前方のスペースを流れる。整流リブ93jまで潤滑油が達すると一旦堰き止められ、整流リブ93jと外周側壁部93hの隙間を通過するか整流リブ93jを越えて合流部94へ流れる。第2油路93経由で合流部94内に入った潤滑油は、整流リブ94fによって前方へ誘導される。
第1油路92を経由した潤滑油と、第2油路93を経由した潤滑油は、合流部94内で整流リブ94fに沿って誘導されて合流し、供給端部95に至る。供給端部95に達した潤滑油は、端部開口95fからオイルガター9外へ排出される。端部開口95fはレフトケース22の連通凹部116内に開口しており、端部開口95fから排出された潤滑油は連通凹部116に入り、連通凹部116及び支持凹部111を経て入力軸3の軸方向孔3c内に入る(図9参照)。このとき、支持凹部111内の潤滑油導入部材117(図9)によって、軸受3bを通過する潤滑油の量が調整され、軸方向孔3c内に潤滑油が導かれる。そして、潤滑油が入力軸3の軸方向孔3c及び径方向孔を通って、入力軸3に支持される各変速ギヤ(30、31、32、33、34、35)や各シフトスリーブ(36、37)の支持位置まで供給されて、これらの部位を潤滑する。
このように、オイルガター9は、ファイナルドリブンギヤ60によって掻き揚げられる潤滑油を、隔壁23とは反対のレフトケース22の左端壁25側に位置する入力軸3の軸端まで誘導する樋の役割を果たす。オイルガター9は、分岐してシフト装置7の前後を通る第1油路92と第2油路93を有するため、十分な潤滑油の流量を確保しながら、シフト装置7と干渉せずに該シフト装置7周りの制約されたスペースに配置することができる。
また、カウンタ軸4上の各変速ギヤ(40、41、42、43、44)及びシフトスリーブ(46)に対しては、オイルガター9の底壁に設けた滴下孔から滴下される潤滑油を供給することができる。オイルガター9は、流入部91の底壁に滴下孔100を有し、第2油路93の底壁に滴下孔101、102を有し、合流部94のうち第2油路93に隣接する位置に滴下孔103、104を有している。これらの各滴下孔からは、カウンタ軸4上の第1カウンタギヤ40から第5カウンタギヤ44までの各変速ギヤのギヤ歯面に対して直接に潤滑油を供給することができる。
特に、カウンタ軸4においては高速段ほど変速ギヤが小径になり、滴下孔の位置を前方に設定する必要が生じる。そのため、シフト装置7の前方を通る第2油路93を備えることで、シフト装置7の後方を通る第1油路92の下方に位置しない各変速段用ギヤの直上まで確実に潤滑油を導くことができる。これにより、カウンタ軸4上の全てのギヤに対して優れた潤滑性能を付与することが可能になった。
図16に示すように、オイルガター9では、各滴下孔が形成される底壁の上下方向位置が異なっている。具体的には、ドレン孔105が形成される下段底壁部93cが、最も下方に位置する。1速用の第1カウンタギヤ40に潤滑油を滴下する滴下孔100が形成される平坦底壁部91bが、2番目に低い位置にある。2速用の第2カウンタギヤ41に潤滑油を滴下する滴下孔101が形成される湾曲底壁部93dが、3番目に低い位置にある。3速用の第3カウンタギヤ42に潤滑油を滴下する滴下孔102が形成される移行底壁部93fが、4番目に低い位置にある。そして、4速用の第4カウンタギヤ43と5速用の第5カウンタギヤ44に潤滑油を滴下する滴下孔103、104が形成される上段底壁部94aが、最も上方に位置する。つまり、低速段用の滴下孔を有する底壁ほど低い位置に形成されている。
従って、オイルガター9内に潤滑油が貯留されていない状態からエンジン1を駆動させて走行を開始すると、捕集部90から流入部91に潤滑油が流入し、最も上流且つ下方に位置する滴下孔100から潤滑油の滴下が始まる。オイルガター9内の保持油面が上がって流入部91から第2油路93に潤滑油が流入すると、2番目に上流且つ下方に位置する滴下孔101からの潤滑油の滴下が行われる。続いて、滴下孔101が設けられているオイルキャッチタンク部93aに潤滑油が満たされていくと、3番目に上流且つ下方に位置する滴下孔102からの潤滑油の滴下が行われる。さらに、第2油路93に続いて合流部94に潤滑油が満たされていくと、滴下孔102よりも下流且つ上方に位置する滴下孔103、104から順次潤滑油が滴下される。また、第2油路93のオイルキャッチタンク部93aに潤滑油が流入すると、全ての滴下孔100、101、102、103、104よりも下方に位置するドレン孔105から、所定量の潤滑油が下方に落下する。
このように、オイルガター9は、カウンタ軸4上の各変速ギヤのうち低速段用のギヤから潤滑油の滴下を行い、車速が高まりファイナルドリブンギヤ60が高回転になってオイルガター9に保持される潤滑油の流量が増えるにつれて、順次高速段用のギヤに潤滑油を滴下するように構成されている。そのため、低速走行時には低速段用のギヤを優先的に潤滑し、低速走行から高速走行への移行に伴って、使用する変速ギヤ段に対して効率的に潤滑油を供給することができる。
滴下孔101と滴下孔102については、第2カウンタギヤ41と第3カウンタギヤ42の外周形状に沿う円弧状の湾曲底壁部93d及び移行底壁部93fに形成されており、各ギヤ41、42に対して滴下孔101、102が近接している。そのため、滴下孔101、102から滴下した潤滑油を、第2カウンタギヤ41と第3カウンタギヤ42へ確実且つ効率的に到達させることができる。
また、湾曲底壁部93d及び移行底壁部93fの前方に連続して上方に立ち上がる外周側壁部93h(傾斜部93iを含む)によって、第2カウンタギヤ41や第3カウンタギヤ42に連れ回る潤滑油を掻き落とすことができる。これにより、第2カウンタギヤ41や第3カウンタギヤ42に連れ回る潤滑油の量を制限して、潤滑油の粘性による回転抵抗の低減を図ることができる。
滴下孔103と滴下孔104については、第4カウンタギヤ43と第5カウンタギヤ44の外周形状に沿う円弧状の上段底壁部94aに形成されており、各ギヤ43、44に対して滴下孔103、104が近接している。そのため、滴下孔103、104から滴下した潤滑油を、第4カウンタギヤ43と第5カウンタギヤ44へ確実且つ効率的に到達させることができる。
また、上段底壁部94aの前方に連続して上方に立ち上がる前側壁部94dによって、第4カウンタギヤ43や第5カウンタギヤ44に連れ回る潤滑油を掻き落とすことができる。これにより、第4カウンタギヤ43や第5カウンタギヤ44に連れ回る潤滑油の量を制限して、潤滑油の粘性による回転抵抗の低減を図ることができる。
なお、本実施の形態では滴下孔100が平坦底壁部91bに形成されているが、平坦底壁部91bの前側に位置する湾曲底壁部91cに形成することも可能である。湾曲底壁部91cは第1カウンタギヤ40の外周形状に沿う円弧状であり、湾曲底壁部91cに滴下孔100を設けることにより、第1カウンタギヤ40に対してさらに接近した位置から潤滑油を滴下することができる。
湾曲底壁部91cの前方に連続して上方に立ち上がる前側壁部91fによって、第1カウンタギヤ40や第1シフトスリーブ46(リバース用カウンタギヤ47を含む)に連れ回る潤滑油を掻き落とすことができる。これにより、第1カウンタギヤ40や第1シフトスリーブ46に連れ回る潤滑油の量を制限して、潤滑油の粘性による回転抵抗の低減を図ることができる。
変速機ケース20内では、オイルガター9が誘導する変速ギヤ機構10への潤滑油の流通だけでなく、各所に潤滑油が飛散しており、内部シフト機構8等の潤滑も行われている。内部シフト機構8においては、シフトヨーク81b、82b及び83bが、水平方向に広がりを持つ板状のため、変速ギヤ機構10の変速ギヤから飛散した潤滑油を受け止めやすい構造になっている。その結果、シフトヨーク81b、82b及び83bに潤滑油が溜まって落下しやすくなる。
ここで、上下方向に積層するシフトヨーク81b、82b及び83bの下側をオイルガター9の前方油路部93bが通っている(図7、図10参照)。そのため、シフトヨーク81b、82b及び83bから下方に落下した潤滑油は、オイルガター9によって捕集され、その下方のカウンタ軸4側への到達が防がれる。上述のように、カウンタ軸4上の各変速ギヤに対しては、オイルガター9からの滴下によって適量の潤滑油が供給されるようにコントロールされており、シフトヨーク81b、82b及び83bから落下する潤滑油が各変速ギヤに付着すると、余分な粘性抵抗を与えるおそれがある。オイルガター9は、上下方向の位置にて、内部シフト機構8と変速ギヤ機構10の間の位置に配置されることによって、こうした変速ギヤ機構10への余剰な潤滑油の付着を防ぐ機能も果たしている。
また、オイルガター9はシフト装置7の前後左右を囲むように油路を構成しているため、オイルガター9上から貫通部96の内側に飛散する潤滑油を、貫通部96に挿入されているシフト装置7の潤滑に利用することができる。特に、レフトケース22内の軸支持部29に対して直受けされているシフトアンドセレクト軸70の摺動抵抗の軽減や、カム部材74の動作における潤滑性向上により、シフトやセレクト動作の性能向上を実現できる。図7に示すように、第2油路93の内周側壁部93gの上端位置は、軸支持部29の上面とほぼ同じ高さ位置となっており、第1油路92の内周側壁部92dの上端位置は、インタロックプレート77の上側プレート77aとほぼ同じ高さ位置となっており、各内周側壁部93g、92dを乗り越えた潤滑油が軸支持部29やカム部材74に供給される。
シフト装置7を囲むように油路を分岐させたオイルガター9は、分岐せずに左右方向に延設された細長い形状のオイルガターに比して、剛性においても優れている。特に、流入部91と第2油路93とを隔てる隔壁部91gは上下方向に高く、オイルガター9の油路分岐部分の断面強度向上に大きく寄与している。また、整流リブ91iは、捕集部90から流入部91への潤滑油の流れを円滑にさせると共に、捕集部90と流入部91の境界付近の剛性向上に寄与している。整流リブ92fと整流リブ93jは、第1油路92及び第2油路93から合流部94への潤滑油の流れを適切に制御すると共に、第1油路92及び第2油路93の下流端付近の剛性向上に寄与している。加えて、オイルガター9は、底壁の深さや形状を部分的に変化させることによっても、剛性の確保を実現している。
シフトアンドセレクト軸70の前側において、内部シフト機構8と変速ギヤ機構10の間の上下方向に狭いスペースに配置するべく、オイルガター9の前方油路部93bや合流部94は、上下方向のサイズが小さい(側壁が低い)形状になっている。一方、シフトアンドセレクト軸70の前側では、変速ギヤ機構10と内部シフト機構8の各軸が前後方向に並列配置されたり、各シフトヨーク81b、82b及び83bが前後方向に延びていたりするため、前後方向にある程度の広さのスペースが得られる。従って、前方油路部93bや合流部94は、上下方向の高さ(深さ)に比して前後方向の長さ(幅)を広くすることで通路断面積(容量)を確保している(図2、図4、図5及び図7参照)。
シフトアンドセレクト軸70はレフトケース22の後方寄りに配されている。そのため、シフトアンドセレクト軸70の後側において、シフトアンドセレクト軸70とレフトケース22の後壁部24cとの間の前後方向の狭いスペースに配置するべく、オイルガター9の後方油路部92aは、前後方向のサイズが小さい(内周側壁部92dと外周側壁部92eの間隔が狭い)形状になっている(図7参照)。一方、シフトアンドセレクト軸70の後側では、内部シフト機構8や変速ギヤ機構10によるスペースの制約を受けないので、後方油路部92aは、前後方向の長さ(後方油路部92aの幅)に比して上下方向の高さ(後方油路部92aの深さ)を大きくすることで通路断面積(容量)を確保している。具体的には、上壁部24aと軸支持部29との間に得られる上下方向のスペースに後方油路部92aが配されている。第1油路92の外周側壁部92eは、後壁部24cに沿って上下方向に立ち上がるとともに、その上端は上壁部24aに近接配置されている。
このように、オイルガター9は、分岐した第1油路92と第2油路93がそれぞれ周囲の部材に干渉せずにスペース効率良く配置されており、変速機2の小型化と潤滑性能の高さを両立させることができる。
また、オイルガター9は、シフトアンドセレクト軸70よりも右方、且つファイナルドリブンギヤ60よりも左側の領域に、潤滑油を貯留する中間貯留部として機能を有する部位を備えている。この領域は、上下方向に占める範囲の大きいディファレンシャル装置6(ファイナルドリブンギヤ60)やシフト装置7(シフトアンドセレクト軸70)の間であり、上下方向に関してスペースを確保しやすく、オイルガター9の形状設定の自由度が高い。具体的には、潤滑油を貯留可能な深さを備えた中間貯留部として、流入部91と第2油路93のオイルキャッチタンク部93aを備えている。
オイルキャッチタンク部93aは、シフトアンドセレクト軸70を挿通させる貫通部96の右側に隣接した位置にある。レフトケース22内の当該位置には、シフトアンドセレクト軸70を支持するための軸支持部29の右側で軸支持部29が存在しないため、シフトアンドセレクト軸70の後方空間に比して下方のスペースの制約が少ない。そのため、オイルキャッチタンク部93aの下段底壁部93cを、後方油路部92aの底壁部92c、上段底壁部93e等よりも下方に膨出させることが可能である(図7参照)。つまり、オイルキャッチタンク部93aは、軸支持部29よりも右方、且つ第1シフトフォーク81cよりも左側の領域に配置され、その底壁(下段底壁部93c)は第2カウンタギヤ41、及び第3カウンタギヤ42の後方で後壁部24cとの間にまで入り込んでいる。
これは、カウンタ軸4の直上に位置する前方油路部93bや合流部94とは異なり、オイルキャッチタンク部93aの下段底壁部93cは、カウンタ軸4よりも後側に位置するため変速ギヤ機構10による下方へのスペースの制約を受けないことに基づいている。そのため、オイルキャッチタンク部93aの下段底壁部93cは、前方油路部93bの上段底壁部93eや合流部94の上段底壁部94aよりも下方に膨出させることが可能である(図7参照)。
さらに、下段底壁部93cは、オイルキャッチタンク部93aの上流側に位置する流入部91の平坦底壁部91bよりも下方に膨出している。平坦底壁部91bは、オイルガター9の底壁のうち、下段底壁部93cに次いで2番目に低い位置に形成されている(図16参照)。このように、下段底壁部93cはオイルガター9の底壁において最も下方に形成されており、この下段底壁部93cの深さによって、オイルキャッチタンク部93aの容量を確保している。
但し、オイルキャッチタンク部93aは、シフトアンドセレクト軸70の前方を通る前方油路部93bに接続するべく、前方へ張り出している。このオイルキャッチタンク部93aの前方への張り出し部分は、第2カウンタギヤ41及び第3カウンタギヤ42と上下方向に重なる関係にあるため、下段底壁部93cの高さ位置のままでは第2カウンタギヤ41及び第3カウンタギヤ42と干渉する。そこで、オイルキャッチタンク部93aの前方張り出し部分では、前方に進むにつれて徐々に浅くなる湾曲底壁部93dにより底壁を形成して、第2カウンタギヤ41及び第3カウンタギヤ42との干渉を防いでいる。
さらに、オイルキャッチタンク部93aと前方油路部93bの境界部分では、互いに曲率が異なる湾曲底壁部93dと上段底壁部93eを滑らかに接続する移行底壁部93fを有している。これにより、上下方向へ段差をもって離間する下段底壁部93cと上段底壁部93eとの間を、湾曲底壁部93dと移行底壁部93fにより滑らかに接続し、オイルキャッチタンク部93aから前方油路部93bへ潤滑油を円滑に流通させることができる。
なお、流入部91はオイルキャッチタンク部93aの右後方に位置し、流入部91は、軸支持部29よりも右方、且つファイナルドリブンギヤ60よりも左側の領域に配置され、その底壁(平坦底壁部91bと湾曲底壁部91c)は第1カウンタギヤ40、及び第1シフトフォーク81cの後方で後壁部24cとの間にまで入り込んでいる。
このように、捕集部90における底壁部90a(第1底壁部)と供給端部95における底壁部95a(第2底壁部)よりも下方に底壁が位置する中間貯留部であるオイルキャッチタンク部93a、流入部91を設けたことで、オイルガター9は、単に潤滑油を流すだけでなく、潤滑油の貯留機能(走行時やエンジン動作時の油量調整機能)を備えている。オイルガター9が所定量の潤滑油を保持するので、エンジン1の駆動や車両が走行して潤滑油が循環している間に、変速機ケース20の下部に貯留される潤滑油の量が相対的に少なくなる。従って、変速機ケース20内の潤滑油量を、エンジン停止状態からの初期潤滑を考慮して多めに設定した場合でも、エンジン1の駆動や走行している状態では、変速機ケース20内のギヤ類が浸かる潤滑油の量(液面の高さ)が抑えられ、ギヤ回転の際に潤滑油を撹拌することで生じる撹拌抵抗を小さくできる。すなわち、変速機2における動作抵抗を低減して、効率的な動力伝達による燃費向上を図ることができる。
オイルガター9は、オイルキャッチタンク部93aや流入部91のような中間貯留部に加えて、上述した油路の分岐構造によっても潤滑油の保持量を大きくしており、より高度な油量調整機能を備えている。
そして、オイルガター9自体が潤滑油の貯留機能を備えるので、オイルガター9とは別に大型のキャッチタンクを設ける必要がない。オイルガター9によって既存のキャッチタンクを省略することで、部品点数が少なく省スペースな潤滑構造にすることができる。あるいは、キャッチタンクを設けるにしても小型のもので済むため、配置の自由度が向上する。また、オイルキャッチタンク部93aと流入部91は、大径のファイナルドリブンギヤ60と上下方向に長いシフト装置7との間の車幅方向におけるデッドスペースを有効活用して配されており、スペース効率に優れている。これらの要素によって、変速機全体の小型化を図ることができる。
また、オイルガター9が潤滑油の貯留機能を備える構成は、独立したキャッチタンクを備える構成に比して、潤滑油の貯留と各部への供給をスムーズに連係させることができ、潤滑油の循環状態と供給量を高精度にコントロールしやすいという点でも優れている。すなわち、入力軸3の軸端に潤滑油を供給する端部開口95fや、カウンタ軸4上の各ギヤに潤滑油を滴下する各滴下孔100、101、102、103及び104と連続する油路上にオイルキャッチタンク部93aと流入部91が存在するので、これらの潤滑油供給部分に対して、適量の潤滑油を遅滞なく供給できるという利点がある。
なお、エンジン1を停止して変速機ケース20内の潤滑油の循環が止まった状態では、中間貯留部の底壁(下段底壁部93c、平坦底壁部91b)に設けたドレン孔105や滴下孔100から潤滑油が下方に落下して、オイルガター9が過剰な量の潤滑油を保持し続けることがない。特にドレン孔105は、オイルガター9で最も下方に位置する下段底壁部93cに形成されているので、オイルキャッチタンク部93aから確実に潤滑油を抜くことができる。ドレン孔105の下方には変速ギヤ機構10を構成するギヤ等が配置されておらず、ドレン孔105から落下した潤滑油は、変速ギヤ等に付着せずに変速機ケース20下部のオイル溜まりに戻る。これにより、エンジン停止状態では十分な量の潤滑油が下方のオイル溜まりに確保され、次のエンジン始動時に潤滑油不足が生じるおそれがない。
隔壁部91gを挟んでオイルキャッチタンク部93aに隣接する流入部91は、捕集部90の底壁部90aや第1油路92の底壁部92cに比して平坦底壁部91bを下方に膨出させている。この平坦底壁部91bの深さによって、流入部91の容量を確保している。流入部91には、平坦底壁部91bから切り欠き91jの下端までの高さ範囲で、潤滑油を貯留することができる。すなわち、オイルキャッチタンク部93aの上流側に隣接する流入部91も、所定量の潤滑油を貯留可能な補助的な中間貯留部として機能する。
流入部91と第1油路92の境界部分では、平坦底壁部91bから底壁部92cにかけて滑らかにつなぐ傾斜底壁部91dが設けられている。傾斜底壁部91dによって、流入部91に貯留された潤滑油を、第1油路92へ円滑に流すことができる。
流入部91はオイルキャッチタンク部93aに比して前方への張り出し量が小さいが、流入部91の前側の一部は第1カウンタギヤ40及び第1シフトスリーブ46と上下方向に重なる関係にあるため、平坦底壁部91bの高さ位置のままでは第1カウンタギヤ40及び第1シフトスリーブ46と干渉する。そのため、流入部91の前縁部分では、前方に進むにつれて徐々に浅くなる湾曲底壁部91cにより底壁を形成して、第1カウンタギヤ40及び第1シフトスリーブ46との干渉を防いでいる。
流入部91内で切り欠き91jの下端位置まで潤滑油が溜まると、切り欠き91jを通してオイルキャッチタンク部93aに潤滑油が流れ落ちる。切り欠き91jの下端から下段底壁部93cまでの上下方向の段差が大きいため(図16参照)、流入部91から第2油路93へ潤滑油を勢いよく流動させることができる。流入部91から第2油路93への潤滑油の流量や勢いは、切り欠き91jの形状や位置の変更によって適宜調整することが可能である。つまり、切り欠き91jの幅寸法によって切り欠き91jを通過する潤滑油の量を制限することが可能となって、捕集部90への流入量と第1油路92への流出量の関係で、切り欠き91jの下端位置よりも高い位置まで流入部91内に潤滑油を溜めることが可能となる。
また、上述したように、オイルガター9を上面視すると(図12参照)、切り欠き91jの開口の向きの延長上(流入部91側から見て左斜め前方)に第2油路93が延びている。そのため、切り欠き91jから第2油路93に向けて潤滑油をスムーズに流動させることができる。加えて、第2油路93の底壁は、深い下段底壁部93cと浅い上段底壁部93eとを、滑らかな形状の湾曲底壁部93dと移行底壁部93fで接続しており、この底壁形状も潤滑油のスムーズな流動に寄与している。
以上説明したように、本実施の形態に係る変速機の潤滑構造によれば、中間貯留部の設置や油路の分岐構造によって潤滑油の保持容量を大きくしたオイルガター9を備えている。これにより、エンジン駆動状態での変速機ケース20下部の潤滑油を適量にさせ、ギヤ類の回転に対する潤滑油の撹拌抵抗を低減して、駆動効率及び燃費の向上を図ることができる。オイルガター9自体が潤滑油を貯留するので、大型のキャッチタンクを別途設けるための費用や手間を削減でき、さらに変速機の小型化や変速機ケース20内部のスペース効率向上にも寄与する。
また、本実施の形態に係る変速機の潤滑構造では、オイルガター9が上下方向に貫通する貫通部96を備え、貫通部96内にシフト装置7の一部が位置する。この構成により、シフト装置7との干渉を生じずに、オイルガター9における潤滑性能(流量や潤滑油供給位置の自由度)を高めることができる。また、貫通部96を挟んで分岐する油路構造を備えることによって、オイルガター9の剛性向上等の効果も得ることができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、上記実施の形態では、第1油路92及び流入部91と第2油路93との高さ位置を異ならせた上で、流入部91の側壁である隔壁部91gに形成した切り欠き91jを通じて第2油路93へ潤滑油を流動させている。この構成とは異なり、分岐箇所では2つの油路の高さを同等にした上で、仕切り壁によって2つの油路を分岐させる形態のオイルガターを用いることも可能である。
上記実施の形態の切り欠き91jは上端が開放された矩形状であるが、矩形以外の形状の切り欠きや、周縁が開放されていない閉鎖形状の貫通孔によって、分岐する油路へ潤滑油を誘導することも可能である。
上記実施の形態では、シフト装置7の前側を経由する第2油路93の上流部分にオイルキャッチタンク部93aを設けているが、第2油路93上の異なる位置や第1油路92上に中間貯留部を設けることも可能である。
また、オイルガターに設ける中間貯留部は単数でも複数でもよく、複数の中間貯留部を設ける場合の互いの容量や位置関係等は任意に設定可能である。例えば、上記実施の形態のオイルガター9では、捕集部90の底壁部90a及び供給端部95の底壁部95aよりも下方に底壁が位置するという要件を満たす中間貯留部は、オイルキャッチタンク部93a(下段底壁部93c)と流入部91(平坦底壁部91b)である。この構成とは異なり、流入部91の底壁位置を高くして、オイルキャッチタンク部93aのみを中間貯留部にすることも可能である。あるいは、第1油路92上に別途中間貯留部を設けてもよい。
変速機における変速ギヤ機構等の構成は、上記実施の形態に限定されない。例えば、上記実施の形態の変速ギヤ機構10は、変速軸として入力軸3とカウンタ軸4とリバース軸5を備えているが、変速軸の数や各変速軸の役割が異なるタイプの変速機にも適用が可能である。また、上記実施の形態のオイルガター9は、入力軸3の軸端の軸方向孔3cに潤滑油を誘導し、カウンタ軸4上の各変速ギヤに潤滑油を滴下するが、変速機の構成によっては、カウンタ軸4の軸端の軸方向孔4cに潤滑油を誘導し、入力軸3上の各変速ギヤに潤滑油を滴下するようなオイルガターとして構成することも可能である。