以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る潤滑構造を備えた変速機を模式的に示す図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る変速機1は、フロントエンジン・リアドライブ車用の縦置き式の手動変速機であり、前進6速、後退1速を達成可能に構成されている。変速機1は、変速機ケース5を備えている。変速機ケース5は、車体前方側から順に配置されるクラッチハウジング2、ミッションハウジング3およびエクステンションハウジング4を有している。
変速機ケース5内には、図示しないエンジンなどの駆動源の出力軸6に接続される第1の軸としての入力軸10と、入力軸10と同一軸線上に配設されるとともに後輪に連結される出力軸20とが設けられている。入力軸10および出力軸20は、車体水平方向(路面に平行な方向)に対して略平行、または、僅かに後方に傾斜して配置されている。
入力軸10は、クラッチハウジング2に収容されたクラッチ7を介して断接可能に駆動源に接続されている。入力軸10は、駆動源側がクラッチハウジング2に設けられた縦壁部2aに軸受41を介して回転自在に支持されている。入力軸10の反駆動源側の端部は、出力軸20の駆動源側の端部に回転可能に嵌合されている。
出力軸20は、ミッションハウジング3に設けられた縦壁部3aおよびエクステンションハウジング4に設けられた縦壁部4aに、それぞれ軸受42および軸受43を介して回転自在に支持されている。
また、変速機ケース5内には、入力軸10および出力軸20より低位置に、入力軸10および出力軸20と平行に配置された第2の軸としてのカウンタ軸30が備えられている。カウンタ軸30は、駆動源側がクラッチハウジング2の縦壁部2aに軸受44を介して回転自在に支持され、反駆動源側がミッションハウジング3の縦壁部3aにおよびエクステンションハウジング4の縦壁部4aにそれぞれ軸受45および軸受46を介して回転自在に支持されている。
入力軸10には、駆動源側から順に、1速用駆動ギヤ11、2速用駆動ギヤ12、3速用駆動ギヤ13、4速用駆動ギヤ14、および5速用駆動ギヤ15が設けられ、1速用駆動ギヤ11の駆動源側には、後退速用駆動ギヤ16が配置されている。1速用駆動ギヤ11、2速用駆動ギヤ12、および、後退速用駆動ギヤ16は、入力軸10に固設されており、3速用駆動ギヤ13、4速用駆動ギヤ14、および、5速用駆動ギヤ15は、入力軸10に遊嵌合されている。1速用駆動ギヤ11と後退速用駆動ギヤ16とは一体的に形成されている。また、出力軸20には、エクステンションハウジング4に収容された出力用被動ギヤ17が固設されている。
カウンタ軸30には、駆動源側から順に、1速用被動ギヤ21、2速用被動ギヤ22、3速用被動ギヤ23、4速用被動ギヤ24、5速用被動ギヤ25、および出力用駆動ギヤ27が設けられ、1速用被動ギヤ21の駆動源側には、後退速用被動ギヤ26が配置されている。1速用被動ギヤ21、2速用被動ギヤ22、および、後退速用被動ギヤ26は、カウンタ軸30に遊嵌合され、3速用被動ギヤ23、4速用被動ギヤ24、5速用被動ギヤ25および出力用駆動ギヤ27は、カウンタ軸30に固設されている。
そして、入力軸10に設けられた1速用駆動ギヤ11、2速用駆動ギヤ12、3速用駆動ギヤ13、4速用駆動ギヤ14、5速用駆動ギヤ15と、カウンタ軸30に設けられて1速用駆動ギヤ11、2速用駆動ギヤ12、3速用駆動ギヤ13、4速用駆動ギヤ14、5速用駆動ギヤ15にそれぞれ常時噛み合う1速用被動ギヤ21、2速用被動ギヤ22、3速用被動ギヤ23、4速用被動ギヤ24、5速用被動ギヤ25とで、1速用ギヤ列G1、2速用ギヤ列G2、3速用ギヤ列G3、4速用ギヤ列G4、5速用ギヤ列G5がそれぞれ構成されている。なお、6速については、入力軸10と出力軸20とを直接連結させることで形成されるようになっている。
入力軸10に設けられた前進変速用ギヤ列の駆動ギヤ11、12、13、14、15は、高速用のものほど、すなわち車体後方側に位置するものほど径が大きく形成され、カウンタ軸30に設けられた被動ギヤ21、22、23、24、25は、高変速段のものほど、すなわち車体後方側に位置するものほど径が小さく形成されている。
入力軸10に設けられた後退速用駆動ギヤ16とカウンタ軸30に設けられた後退速用被動ギヤ26とは互いに噛み合うことなく、後退速用駆動ギヤ16と後退速用被動ギヤ26とはそれぞれ、変速機ケース5内に入力軸10、出力軸20およびカウンタ軸30に平行に配設されたリバース軸(不図示)に遊嵌合された後退速用アイドルギヤ(不図示)に常時噛み合い、後退速用駆動ギヤ16と後退速用被動ギヤ26と後退速用アイドルギヤとで、後退速用ギヤ列GRが構成されている。
また、出力軸20に設けられた出力用被動ギヤ17とカウンタ軸30に設けられて出力用被動ギヤ17に常時噛み合う出力用駆動ギヤ27とで、カウンタ軸30の回転を一定の減速比で減速して出力軸20に伝達する減速用ギヤ列GNが構成され、減速用ギヤ列GNは、5速用ギヤ列G5よりも反駆動源側に設けられている。なお、減速用ギヤ列GNの減速比として1を設定することも可能である。
さらに、出力軸20上の1速用被動ギヤ21と2速用被動ギヤ22との間に1-2速用同期装置51が設けられ、入力軸10上の3速用駆動ギヤ13と4速用駆動ギヤ14との間に3-4速用同期装置52が設けられ、入力軸10上の5速用駆動ギヤ15の反駆動源側に5-6速用同期装置53が設けられ、出力軸20上の後退速用被動ギヤ26の駆動源側に後退速用同期装置54が設けられている。
1-2速用同期装置51は、チェンジレバー(不図示)が1速または2速に操作されたときに、1速用被動ギヤ21または2速用被動ギヤ22をカウンタ軸30に固定して1速用ギヤ列G1または2速用ギヤ列G2を動力伝達状態とするようになっている。
チェンジレバーが1速または2速に操作されたときは、1-2速用同期装置51によって1速用被動ギヤ21または2速用被動ギヤ22とカウンタ軸30とが連結されて、入力軸10の回転が、1速用ギヤ列G1または2速用ギヤ列G2によりカウンタ軸30に伝達され、カウンタ軸30に伝達された回転が、減速用ギヤ列GNにより一定の減速比で減速されて出力軸20に伝達されるようになっている。
3-4速用同期装置52は、チェンジレバーが3速または4速に操作されたときに、3速用駆動ギヤ13または4速用駆動ギヤ14をカウンタ軸30に固定して3速用ギヤ列G3または4速用ギヤ列G4を動力伝達状態とするようになっている。
チェンジレバーが3速または4速に操作されたときは、3-4速用同期装置52によって3速用駆動ギヤ13または4速用駆動ギヤ14と入力軸10とが連結されて、入力軸10の回転が、3速用ギヤ列G3または4速用ギヤ列G4によりカウンタ軸30に伝達され、カウンタ軸30に伝達された回転が、減速用ギヤ列GNにより一定の減速比で減速されて出力軸20に伝達されるようになっている。
5-6速用同期装置53は、チェンジレバーが5速に操作されたときに、5速用駆動ギヤ15を入力軸10に固定して5速用ギヤ列G5を動力伝達状態とし、チェンジレバーが6速に操作されたときに、入力軸10と出力軸20とを直接連結するようになっている。
チェンジレバーが5速に操作されたときは、5-6速用同期装置53によって5速用駆動ギヤ15と入力軸10とが連結されて、入力軸10の回転が、5速用ギヤ列G5によりカウンタ軸30に伝達され、カウンタ軸30に伝達された回転が、減速用ギヤ列GNにより一定の減速比で減速されて出力軸20に伝達されるようになっている。一方、チェンジレバーが6速に操作されたときは、5-6速用同期装置53によって入力軸10と出力軸20とが連結されて、入力軸10の回転が、カウンタ軸30を経由することなく直接出力軸20に伝達されるようになっている。
後退速用同期装置54は、チェンジレバーが後退速に操作されたときに、後退速用被動ギヤ26をカウンタ軸30に固定して後退速用ギヤ列GRを動力伝達状態とするようになっている。
チェンジレバーが後退速に操作されたときは、後退速用同期装置54によって後退速用被動ギヤ26とカウンタ軸30とが連結されて、入力軸10の回転が、後退速用ギヤ列GRによりカウンタ軸30に伝達され、カウンタ軸30に伝達された回転が、減速用ギヤ列GNにより一定の減速比で減速されて出力軸20に伝達されるようになっている。
変速機ケース5内には、ギヤの噛み合い部などの各種要潤滑部を潤滑するためのオイルが収容されている。これにより、変速機ケース5の底部には、オイルを貯留するオイル貯留部5aが形成されている。
オイル貯留部5aに貯留されたオイルは、該オイルに浸漬された被動ギヤによって掻き上げられることで、所謂掻き上げ給油が行われる。この掻き上げ給油によって、被動ギヤと駆動ギヤとの噛み合い部、および該噛み合い部以外の要潤滑部が潤滑されるようになっている。
図1の破線OL1は、水平な路面での停車状態におけるオイル貯留部5aのオイル液面を示す。このとき、オイルの液面OL1は、車体幅方向から見て、路面および車体水平方向に対して平行に配置される。変速機ケース5内のオイル貯留量は、車体幅方向から見て路面に対してオイルの液面OL1が平行に配置される状態(以下、「平行状態」という)において、1、2速用被動ギヤ21、22の下部がオイル貯留部5aのオイルに浸漬され、かつ3~5速用被動ギヤ23~25が液面OL1よりも上側に配置されるような量に設定されている。すなわち、平行状態では、1、2速用被動ギヤ21、22の最下部およびその近傍に位置する歯部が、オイル貯留部5aのオイルに浸漬されるようになっている。
なお、本実施形態では、平行状態において、後退速用被動ギヤ26の下部も、オイル貯留部5aのオイルに浸漬されている。
このとき、3、4、5速用被動ギヤ23、24、25がオイルの液面OL1よりも上方に配置されることにより、オイルに浸漬するギヤ数が低減されることで、攪拌抵抗の低減を図ることができる。なお、3、4、5速用ギヤ列G3、G4、G5のギヤの噛み合い部は、後述のオイル捕集手段65を経由した給油によって潤滑され得る。ただし、平行状態において、3~5速用被動ギヤ23~25のうちの一部のギヤ(例えば3速用被動ギヤ23)は、オイル貯留部5aのオイルに浸漬為れるようにしてもよい。
1、2速用被動ギヤ21、22の下部がオイル貯留部5aのオイルに浸漬されていることで、1、2速用被動ギヤ21、22は、該1、2速用被動ギヤ21、22の回転により、オイル貯留部5aのオイルを掻き上げる。この1、2速用被動ギヤ21、22により掻き上げられたオイルが、1、2速用駆動ギヤ11、12と1、2速用被動ギヤ21、22との噛み合い部61、62、後述するオイル捕集部材65、および、その他の要潤滑部に供給される。
図1に示すように、本実施形態においては、掻き上げ給油によって噛み合い部以外の要潤滑部へオイルを供給するオイル捕集部材65を備えている。ここで、オイル捕集部材65について説明する。
オイル捕集部材65は、ミッションハウジング3内の上部に設けられている。より具体的に、オイル捕集部材65は、軸方向から見て入力軸10の斜め上方に配置され、2速用被動ギヤ22によりオイル貯留部5aから掻き上げられたオイルを捕集するようになっている。このオイル捕集部材65は、入力軸10の軸方向に延び、上側が開放された樋状に形成されている。
オイル捕集部材65は、該オイル捕集部材65に導入されたオイルを変速機ケース5内の要潤滑部、例えば例えば軸受41~46、入力軸10と駆動ギヤ11~16との嵌合面、カウンタ軸30と被動ギヤ21~25との嵌合面、駆動ギヤ11~16と被動ギヤ21~26との噛合部などに供給するように構成されている。
以上のような潤滑構造により、例えば平坦路における停車状態および慣性走行状態など、オイル液面OL1の平行状態において、変速機ケース5内における良好な潤滑が達成され得る。
ところで、図1の仮想線OL2で示すように、例えば登坂時および加速時等では、変速機ケース5のオイル貯留部5a内に貯留されたオイルは、変速機ケース5の反駆動源側(車体後方側)に流れ込み、オイル貯留部5a内のオイルが変速機ケース5の反駆動源側に比して駆動源側が浅くなるように、車体幅方向から見てオイルの液面OL2が路面、車体水平方向、変速機ケース5、および、カウンタ軸30に対して相対的に後上方に傾斜した状態(以下、「所定傾斜状態」という)になることがある。
所定傾斜状態では、上記のようにオイル貯留部5a内のオイル貯留量が低減されていることにより、オイルの液面OL2が、オイル貯留部5a内の車体前方側部分において低くなりやすい。そのため、仮に何らの対策も施さない場合、車体前方側(駆動源側)に配置された1速用被動ギヤ21、場合によっては更に2速用被動ギヤ22が、所定傾斜状態でのオイルの液面OL2下に浸漬しない可能性がある。この場合、1速用被動ギヤ21によるオイルの掻き上げが、場合によっては2速用被動ギヤ22によるオイルの掻き上げも十分にできなくなって、変速機ケース5内の要潤滑部に供給するオイル供給量が不足することがある。
これに対して、本実施形態の変速機ケース5は、所定傾斜状態(例えば、登坂時および加速時)における変速機1のオイルの液面OL2を上昇させるための容積縮小部70を有している。
以下、図1~図4を参照しながら変速機ケース5の容積縮小部70の構成について説明する。
図1~図4に示すように、容積縮小部70は、変速機ケース5のミッションハウジング3の周壁における車体幅方向一方側の側壁部5bを内側に膨らませるように突出させて形成されている。これにより、仮に容積縮小部70が設けられていない場合に比べて、変速機ケース5の内容積が縮小されている。
なお、ミッションハウジング3の厚みに関して、容積縮小部70は、その周辺部と概ね同じ厚みを有する。これにより、容積縮小部70は、ミッションハウジング3の側壁部5bの外側表面において凹部80を形成している。したがって、凹部80の外側の空間を利用して外部機器を配設することが可能になっている。
容積縮小部70は、側面視で、車体前方側に向かって先細り状の略三角形状に形成されている。容積縮小部70は、変速機ケース5における車体前後方向の中間部から後部にかけて設けられている。なお、本実施形態においては、容積縮小部70の前端部は、車体前後方向において、2速用ギヤ列G2近傍の位置に配置されている。容積縮小部70の後縁部は、車体前後方向において、ミッションハウジング3の縦壁部3aの位置に配置されている。
容積縮小部70は、車体幅方向から見て、後下方のコーナ部が略直角とされた概ね直角三角形状であり、車体前後方向に延びる底辺部70aと、底辺部70aの後端から上側に向かって車体上下方向に延びる縦辺部70bと、底辺部70aの前端と縦辺部70bの上端とを繋ぐ斜辺部70cとを有する。底辺部70aは、ミッションハウジング3の側壁部5bにおける下端近傍に配置され、縦辺部70bは、ミッションハウジング3の縦壁部3aに設けられている。
ミッションハウジング3の縦壁部3aには、容積縮小部70の縦辺部70bが設けられた部分において、車体幅方向外側に解放した切り欠き部90が形成されている。切り欠き部90は、概ね車体幅方向に延びる上縁部91と、該上縁部91の車体幅方向内側縁部から下方に延びる内縁部92とを有する。
容積縮小部70は、切り欠き部90の上縁部91から車体前方側に向かって斜め下方に延びる傾斜面部71と、切り欠き部90の内縁部92とから車体前方側に向かって延びる縦面部72とを備えている。
傾斜面部71は、容積縮小部70の上縁部を構成しており、車体幅方向から見て、上述の斜辺部70cに沿って前下方に傾斜して配置されている。傾斜面部71は、ミッションハウジング3の側壁部5bから車体幅方向内側に延びるように設けられている。正面視において、傾斜面部71の前端部の幅は、先端に向かって先細り状とされている。
縦面部72は、車体幅方向から見て直角三角形状とされている。縦面部72は、ミッションハウジング3の側壁部5bから車体上方側に延びるように設けられている。縦面部72の下縁部72aは、車体幅方向から見て上述の底辺部70aに沿って車体前後方向に延びるように配置されている。縦面部72の上縁部72bは、車体幅方向から見て上述の斜辺部70cに沿って配置され、傾斜面部71の車体幅方向内側縁部に連なっている。縦面部72の後縁部72cは、切り欠き部90の内縁部92で構成されており、車体幅方向から見て上述の縦辺部70bに沿って配置されている。
図1に示すように、容積縮小部70の上縁部である傾斜面部71は、車体幅方向から見て所定傾斜状態におけるオイルの液面OL2に沿うように設けられている。より具体的には、オイルの液面OL2が登坂限界角度(車両が登坂可能な路面の最大傾斜角度)と同程度の角度、または、これよりも僅かに(例えば2~4度程度)大きな角度で路面に対して傾斜している状態において、傾斜面部71は、車体幅方向から見て上述の斜辺部70cに沿って配置されている。
変速機ケース5内の全てのオイルがオイル貯留部5aに貯留された所定傾斜状態において、傾斜面部71は、オイルの液面OL2よりも僅かに下側に配置されることが好ましく、これにより、所定傾斜状態において、容積縮小部70の全体がオイルに浸漬される。
一方、容積縮小部70の下縁部である縦面部72の下縁部72aは、車体幅方向から見て平行状態におけるオイルの液面OL1に沿うように設けられている。より具体的には、変速機ケース5内の全てのオイルがオイル貯留部5aに貯留された平行状態において、縦面部72の下縁部72aは、オイルの液面OL1よりも僅かに上側に間隔を空けて配置される。これにより、平行状態において容積縮小部70がオイルに浸漬されることが抑制されることにより、平行状態におけるオイルの液面OL1の低下が図られている。
変速機ケース5において、容積縮小部70は、所定傾斜状態(図1のオイルの液面OL2参照)におけるオイルの深さが、平行状態(図1のオイルの液面OL1参照)に比べて大きくなる車体前後方向部位で、かつ、平行状態でのオイルの液面OL1よりも高い車体上下方向部位に設けられている。これにより、容積縮小部70は、平行状態ではオイルに浸漬されず、所定傾斜状態ではオイルに浸漬されるようになっている。
上下方向位置に関して、容積縮小部70の下縁部72a(底辺部70a)は、2速用被動ギヤ22の下端部よりも高く、3速用被動ギヤ23の下端部よりも低い位置に設けられている。なお、容積縮小部70の上縁部を構成する傾斜面部71の上端(後端)71aは、変速機ケース5の上下方向中間部、例えば、入力軸10とカウンタ軸30との間の高さ位置に設けられている。
また、図1に示すように、本実施形態においては、容積縮小部70の底辺部70a、縦辺部70b、および、斜辺部70cで囲まれた領域Sは、比較的径の小さな3速用、4速用、5速用被動ギヤ23、24、25の一部と、側面視で見てオーバラップして設けられている。これにより、比較的大径の1速用、2速用被動ギヤ21、22とオーバラップする場合に比べて、変速機ケース5の側壁部5bを、ギヤ21~25との干渉を回避しつつ変速機ケース5の内側に突出させやすくなっている(図4参照)。
図4に示すように、変速機ケース5内には、軸方向から見て、入力軸10およびカウンタ軸30を含む変速機構を挟んで、容積縮小部70とは反対側の側部に、シフトフォーク等を含む変速操作系部品9が配設されている。これにより、変速機ケース5の内面において、変速操作系部品9との干渉を回避しつつ容積縮小部70を変速機ケース5内方に突出させることができる。
上述のように、本実施形態においては、内面側に突出した容積縮小部70に対応する変速機ケース5の側壁部5bの外側表面には、部分的に凹ませる凹部80が形成されている。容積縮小部70は、所定傾斜状態における液面OL2の上昇に寄与する部位にのみ設けているので、仮に液面OL2の上昇に寄与しない部分を含む部分において変速機ケースを大きく窪ませる場合に比して、変速機ケース5を部分的に凹ませることによる該変速機ケース5の剛性の低下を抑制し得る。
次に、本発明の実施形態にかかる変速機のケース構造を備えた変速機1のオイルの液面が路面に対して傾斜する所定傾斜状態における変速機1の潤滑動作について説明する。
登坂時および加速時等の所定傾斜状態では、図1に示すように、変速機ケース5内に貯留されたオイルは、変速機ケース5の反駆動源側に流れ込み、オイルの液面OL2は変速機ケース5の反駆動源側に比して駆動源側が浅くなるように相対的に傾斜する。
このとき、変速機ケース5の反駆動源側の部位に設けられた容積縮小部70によって、変速機ケース5の当該部位における容積が縮小されているので、容積縮小部70を備えていない従来の構造に比べて、オイル貯留量を増大させることなくオイルの液面OL2を上昇させることができる。
これにより、オイル貯留量の低減を図りつつ、オイルが比較的浅くなる駆動源側の部位においても、カウンタ軸30に設けられた1速用、2速用被動ギヤ21、22を浸漬させて、これらのギヤ21、22によるオイルの掻き上げを促進できる。そのため、上述した変速機ケース5内の潤滑を良好に果たしやすくなる。したがって、路面の勾配および車両の走行状態によらない良好な潤滑の実現と、変速機ケース5に貯留されるオイル量の低減との両立を図ることができる。
なお、所定傾斜状態において、容積縮小部70は、必ずしも全体がオイルに浸漬されなくてもよく、容積縮小部70の少なくとも一部がオイルに浸漬することで、傾斜した液面OL2の上昇を図ることができる。そのため、オイルの浅い駆動源側の部位に位置する1速用被動ギヤ21および2速用被動ギヤ22による掻き上げ給油を利用した潤滑を良好に確保しやすくなる。
容積縮小部70の傾斜面部71が所定傾斜状態における液面OL2に沿うように配置されるので、仮に当該液面よりも上側に露出するように容積縮小部が設けられる場合に比べて、容積縮小部70のコンパクト化を図りつつ、所定傾斜状態での容積縮小部70による液面の上昇機能を効果的に発揮させることができる。
容積縮小部70の下縁部72aが平行状態における液面OL1に沿うように配置されることで、平行状態において容積縮小部70がオイルに浸漬することを効果的に抑制しつつ、液面が路面に対して傾斜したときには、容積縮小部70の少なくとも下縁部を確実にオイルに浸漬させることができる。
一方、平行状態において、変速機ケース5の容積縮小部70がオイルに浸漬しないことにより、オイルの液面OL1を効果的に低下させることができる。そのため、平行状態において、3速用。3速用、5速用被動ギヤ23、24、25が液面OL1よりも上方に露出することにより、これらのギヤ23、24、25の攪拌抵抗が効果的に低減され、これにより、燃費性能の向上を図ることができる。
容積縮小部の具体的な構成は、上述の容積縮小部70の構造に限られるものでなく、変速機ケース内の容積を縮小させ得るものである限り、種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態では、変速機ケース5の容積縮小部70を変速機ケース5の内面を膨出させるとともに、変速機ケース5の側壁部5bを凹ませて形成したが、変速機ケース5の側壁部5bを凹ませずに、変速機ケース5の容積縮小部70を形成する部位の壁が変速機ケース5の内部に膨出する厚さを有する肉厚部によって形成されてもよい。
容積縮小部70は、変速機ケース5内に容積縮小部70に相当する容積縮小するための部材を配置することによって形成されてもよい。
また、上述の実施形態では、車体幅方向の一方側にのみ容積縮小部が設けられる例を説明したが、本発明は、周辺部材との干渉を回避可能である限り、車体幅方向の両方に容積縮小部が設けられることを妨げるものでない。
さらに、上述の実施形態では、所定傾斜状態においてオイルの液面OL2が後下方に傾斜する例を説明したが、所定傾斜状態においてオイルの液面が前下方に傾斜する場合にも適用可能である。
以上のように、本実施形態では、入力軸10の回転を入力軸10とカウンタ軸30との間に設けられた変速用ギヤ列GR、G1、G2、G3、G4、G5により減速してカウンタ軸30に伝達し、カウンタ軸30に伝達された回転を減速用ギヤ列GNにより一定の減速比で減速して出力軸20に伝達するアウトプットリダクションタイプの手動変速機を例に挙げて説明したが、インプットリダクションタイプの手動変速機でもよい。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。