本発明者は鋭意検討を重ねた結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂、繊維状充填材およびカルボジイミド化合物からなる樹脂組成物並びに反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムを用いることで、機械強度、密着性、外観意匠性に優れたインサート成形体を形成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、上記課題は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)繊維状充填材(B成分)10~150重量部および(C)カルボジイミド化合物(C成分)0.001~10重量部を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物並びに反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムよりなるインサート成形体により達成される。
本発明の好適な態様の1つは、(2)A成分が、カルボキシル基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂であることを特徴とする上記構成1のインサート成形体である。
本発明の好適な態様の1つは、(3)C成分が、カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている下記式(1)で表される環状構造を含み、環状構造を直接形成する原子数が8~50である化合物であることを特徴とする上記構成1または2のインサート成形体である。
(式中、Qは、下記式(1-1)、(1-2)または(1-3)で表される2~4価の結合基である。)
(式中、Ar
1およびAr
2は各々独立に、2~4価の炭素数6~15の芳香族基である。R
1およびR
2は各々独立に、2~4価の炭素数1~20の脂肪族基、2~4価の炭素数3~20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2~4価の炭素数6~15の芳香族基の組み合わせである。sは0~10の整数である。kは0~10の整数である。X
1およびX
2は各々独立に、2~4価の炭素数1~20の脂肪族基、2~4価の炭素数3~20の脂環族基、2~4価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。X
3は、2~4価の炭素数1~20の脂肪族基、2~4価の炭素数3~20の脂環族基、2~4価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ar
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2およびX
3はヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2およびX
3は全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2およびX
3の内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2およびX
3の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
本発明の好適な態様の1つは、(4)式(1)中のQが下記式(2-1)、(2-2)または(2-3)で表される2価の結合基であることを特徴とする上記構成3のインサート成形体である。
(式中、Ara(aは下付、以下同様)
1およびAra
2は各々独立に、2価の炭素数6~15の芳香族基である。Ra
1およびRa
2は各々独立に、2価の炭素数1~20の脂肪族基、2価の炭素数3~20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2価の炭素数6~15の芳香族基の組み合わせである。s
aは0~10の整数である。k
aは0~10の整数である。Xa
1およびXa
2は各々独立に、2価の炭素数1~20の脂肪族基、2価の炭素数3~20の脂環族基、2価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。Xa
3は、2価の炭素数1~20の脂肪族基、2価の炭素数3~20の脂環族基、2価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ara
1、Ara
2、Ra
1、Ra
2、Xa
1、Xa
2およびXa
3はヘテロ原子を含有していてもよい。)
本発明の好適な態様の1つは、(5)C成分が下記式(3)で表される化合物であることを特徴とする上記構成1または2のインサート成形体である。
(式中、Qb(bは下付、以下同様)は下記式(3-1)、(3-2)または(3-3)で表される3価の結合基であり、Yは環状構造を担持する担体であり、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである。)
(式中、Arb
1、Arb
2、Rb
1、Rb
2、Xb
1、Xb
2、Xb
3、s
bおよびk
bは、各々式(1-1)~(1-3)のAr
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2、X
3、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。)
本発明の好適な態様の1つは、(6)C成分が下記式(4)で表される化合物であることを特徴とする上記構成1または2のインサート成形体である。
(式中、Qc(cは下付、以下同様)は下記式(4-1)、(4-2)または(4-3)で表される4価の結合基であり、Z
1およびZ
2は、環状構造を担持する担体であり、各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである。)
(式中、Arc
1、Arc
2、Rc
1、Rc
2、Xc
1、Xc
2、Xc
3、s
cおよびk
cは、各々式(1-1)~(1-3)の、Ar
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2、X
3、sおよびkと同じである。但し、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
本発明の好適な態様の1つは、(7)B成分が、ガラス繊維、炭素繊維およびアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の繊維状充填材であることを特徴とする上記構成1~6のいずれかのインサート成形体である。
本発明の好適な態様の1つは、(8)塗布層が有する反応性官能基がエポキシ基、オキサゾリン基、シラノール基、イソシアネート基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基であることを特徴とする上記構成1~7のいずれかのインサート成形体である。
以下、本発明の詳細について説明する。
(A成分:ポリアリーレンスルフィド樹脂)
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができ、その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらに、ポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の総塩素含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下である。総塩素含有量が500ppmを超える場合には、発生ガス量が増加しウエルド強度を低下させる場合がある。
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の総ナトリウム含有量は、好ましくは39ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは8ppm以下である。39ppmを超える場合には、発生ガスの増加によるウエルド強度を低下させるだけではなく、高温高湿環境下において、ナトリウム金属と水分子の配位結合による樹脂の吸水量の増加によって耐湿熱性を低下させる場合がある。
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は好ましくは2.7以上、より好ましくは2.8以上、さらに好ましくは2.9以上である。分散度が2.7未満の場合は、成形時のバリ発生が多くなる場合がある。なお、分散度(Mw/Mn)の上限は特に規定されないが、10以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出された値である。なお、溶媒には1-クロロナフタレンを使用し、カラム温度は210℃とした。
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではなく、既知の方法で重合されるが、特に好適な重合方法としては、米国登録特許第4,746,758号、第4,786,713号、特表2013-522385、特開2012-233210および特許5167276等に記載された製造方法が挙げられる。これらの製造方法は、ジヨードアリール化合物と固体硫黄を、極性溶媒なしに直接加熱して重合させる方法である。
前記製造方法はヨウ化工程および重合工程を含む。該ヨウ化工程ではアリール化合物をヨードと反応させて、ジヨードアリール化合物を得る。続く重合工程で、重合停止剤を用いてジヨードアリール化合物を固体硫黄と重合反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する。ヨードはこの工程において気体状で発生し、これを回収して再びヨウ化工程に用いられる。実質的にヨードは触媒である。
前記製造方法で用いられる代表的な固体硫黄としては、室温で8個の原子が連結されたシクロオクタ硫黄形態(S8)が挙げられる。しかしながら重合反応に用いられる硫黄化合物は限定されるものではなく、常温で固体または液体であればいずれの形態でも使用し得る。
前記製造方法で用いられる代表的なジヨードアリール化合物としては、ジヨードベンゼン、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノールおよびジヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、またアルキル基やスルホン基が結合していたり、酸素や窒素が導入されたりしているヨードアリール化合物の誘導体も使用される。ヨードアリール化合物はそのヨード原子の結合位置によって異なる異性体に分類され、これらの異性体のうち好ましい例は、p-ジヨードベンゼン、2,6-ジヨードナフタレン、及びp,p’-ジヨードビフェニルのようにヨードがアリール化合物の分子両端に対称的に位置する化合物である。該ヨードアリール化合物の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し500~10,000重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
前記製造方法で用いられる代表的な重合停止剤としては、モノヨードアリール化合物、ベンゾチアゾール類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバメート類、芳香族スルフィド化合物などが挙げられる。モノヨードアリール化合物のうち好ましい例としては、ヨードビフェニル、ヨードフェノール、ヨードアニリン、ヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ベンゾチアゾール類のうち好ましい例としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ベンゾチアゾールスルフェンアミド類のうち好ましい例としては、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール2-スルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、2-モルホリノチオベンゾチアゾール、ベンゾチアゾールスルフェンアミド、ジベンゾチアゾールジスルファイド、N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾール2-スルフェンアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。チウラム類のうち好ましい例としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ジチオカルバメート類のうち好ましい例としては、ジメチルジチオカルバメート酸亜鉛、ジエチルジチオカルバメート酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。芳香族スルフィド化合物のうち好ましい例としては、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジフェニルエーテル、ビフェニル、ベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。重合停止剤の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し1~30重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
前記製造方法では重合反応触媒を使用しても良く、代表的な重合反応触媒としては、ニトロベンゼン系触媒が上げられる。ニトロベンゼン系触媒のうち好ましい例としては、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、1-ヨード-4-ニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロフェノール、ヨードニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。重合反応触媒の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し0.01~20重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
この重合方法を使うことにより、実質的に塩素含有量およびナトリウム含有量を低減させる必要が無く、コストパフォーマンスに優れたポリフェニレンスルフィド樹脂を得ることができる。
また本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂は、その他の重合方法によって得られたポリフェニレンスルフィド樹脂を含んでいてもよい。
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、より高いフィルム密着性を得ることができることから、カルボキシル基やカルボキシル基誘導体基、チオール基、スルホン基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、ニトロ基等の反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂であることが好ましい。該反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることで、反応性官能基を有する塗布層との優れた密着性を示し、より向上したフィルム密着性を有する樹脂組成物を得ることができる。該反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂のうちより好ましい例としては、カルボキシル基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が挙げられる。前記カルボキシル基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂とは、FT-IR分光法のFT-IRスペクトルにて、カルボキシル基由来の約1600~1800cm-1またはアミノ基由来の約3300~3500cm-1のピークを示し、かつ1400~1600cm-1で現れる芳香環伸縮ピークの高さ強度を100%としたとき、前記約1600~1800cm-1または約3300~3500cm-1のピークの相対的高さ強度が0.001~10%であるポリアリーレンスルフィド樹脂である。
前記カルボキシル基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂のうち特に好ましい例としては、カルボキシル基の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂であり、その末端構造は下記一般式(5)で表される構造単位で示される。
ここで、前記アリーレン基は、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、および、置換されたフェニレン基などを使用することができる。具体的に、置換されたフェニレン基は、一つ以上のF、Cl、Br、C1~C3のアルキル基、トリフルオロメチル基、C1~C3のアルコキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチルチオ基、ジメチルアミノ基、シアノ基、(C1~C3アルキル)SO2-、(C1~C3アルキル)NHSO2-、(C1~C3アルキル)2NSO2-、NH2SO2-により任意に置換されたフェニレン基である。
ポリアリーレンスルフィド樹脂に前記反応性官能基を導入する方法としては特に限定されるものではなく、既知の方法で重合されるが、共役芳香環骨格上に一つまたは複数の下記一般式(6)で表される基を有する重合停止剤を使用する方法が挙げられる。前記重合停止剤で用いられる共役芳香環骨格としては、例えば、ジフェニルジスルフィド、モノヨードベンゼン、チオフェノール、2,2’-ジベンゾチアゾリルジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾール、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、2-(モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、N,N’-ジシクロヘキシル-1,3-ベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドなどが挙げられる。
(式中、Rは水素原子またはアルカリ金属原子である)
カルボキシル基の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の好適な重合方法としては、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階を進行しながら、カルボキシル基を有する化合物を添加してポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中をカルボキシル基で置換する製造方法が挙げられる。前記カルボキシル基を有する化合物としては、2-ヨード安息香酸、3-ヨード安息香酸、4-ヨード安息香酸、および2,2’-ジチオ安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記カルボキシル基を有する化合物は、ジヨード芳香族化合物100重量部を基準に約0.0001~5重量部添加することが好ましい。
(B成分:繊維状充填材)
本発明のB成分として用いられる繊維状充填材は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンミルドファイバー、メタルファイバー、アスベスト、ロックウール、セラミックファイバー、スラグファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、およびセピオライトなどの繊維状無機充填材、アラミド繊維、ポリイミド繊維およびポリベンズチアゾール繊維などの耐熱有機繊維に代表される繊維状耐熱有機充填材、並びにこれらの充填材に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した繊維状充填材などが例示される。異種材料を表面被覆した充填材としては、例えば金属コートガラス繊維および金属コート炭素繊維などが例示される。異種材料の表面被覆の方法としては特に限定されるものではなく、例えば公知の各種メッキ法(例えば、電解メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、およびスパッタリング法などを挙げることができる。これら繊維状充填材の中でも、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維が好ましく、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。繊維状充填材の繊維径の上限は18μmが好ましく、15μmがより好ましい。一方繊維径の下限は1μmが好ましく、4μmがより好ましい。ここでいう繊維径とは数平均繊維径を指す。尚、かかる数平均繊維径は、成形体の高温灰化、溶剤による溶解、および薬品による分解等の処理で採取される残渣を走査電子顕微鏡観察した画像から算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維長以下の長さのものはカウントしない方法による値である。
本発明のB成分として用いられる繊維状充填材がガラス繊維である場合、ガラス繊維のガラス組成は、Aガラス、Cガラス、およびEガラス等に代表される各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。かかるガラス充填材は、必要に応じてTiO2、SO3、およびP2O5等の成分を含有するものであってもよい。これらの中でもEガラス(無アルカリガラス)がより好ましい。かかるガラス繊維は、周知の表面処理剤、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、またはアルミネートカップリング剤等で表面処理が施されたものが機械的強度の向上の点から好ましい。また、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂が機械的強度の点から特に好ましい。集束処理されたガラス繊維の集束剤付着量は、ガラス繊維100重量%中、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~1重量%である。ガラス繊維として、扁平断面ガラス繊維を用いることもできる。この扁平断面ガラス繊維としては、繊維断面の長径の平均値が好ましくは10~50μm、より好ましくは15~40μm、さらに好ましくは20~35μmで、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が好ましくは1.5~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2.5~5であるガラス繊維である。長径と短径の比の平均値がこの範囲の扁平断面ガラス繊維を使用した場合、1.5未満の非円形断面繊維を使用した場合に比べ、異方性が大きく改良される。また扁平断面形状としては扁平の他、楕円状、まゆ状、および三つ葉状、あるいはこれに類する形状の非円形断面形状を挙げることができる。なかでも機械的強度、低異方性の改良の点から扁平形状が好ましい。また、扁平断面ガラス繊維の平均繊維長と平均繊維径の比(アスペクト比)は2~120が好ましく、より好ましくは2.5~70、さらに好ましくは3~50であり、繊維長と平均繊維径の比が2未満であると機械的強度の向上効果が小さくなる場合があり、繊維長と平均繊維径の比が120を超えると異方性が大きくなる他、成形体外観も悪化する場合がある。かかる扁平断面ガラス繊維の平均繊維径とは、扁平断面形状を同一面積の真円形に換算したときの数平均繊維径をいう。
本発明のB成分として用いられる繊維状充填材が炭素繊維である場合、具体的な炭素繊維としては、カーボンファイバー、カーボンミルドファイバーおよびカーボンナノチューブ等が挙げられる。カーボンナノチューブは繊維径0.003~0.1μmであることが好ましい。またそれらは単層、2層、および多層のいずれであってもよく、多層(いわゆるMWCNT)が好ましい。カーボンミルドファイバーは平均繊維長0.05~0.2mmであることが好ましい。これらの中でも機械的強度に優れる点において、カーボンファイバーが好ましい。
カーボンファイバーとしては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、およびピッチ系などのいずれも使用可能である。また芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン型結合による重合体と溶媒よりなる原料組成を紡糸または成形し、次いで炭化するなどの方法に代表される不融化工程を経ない紡糸を行う方法により得られたものも使用可能である。これらの中でも特にポリアクリロニトリル系の高弾性率タイプが好ましい。但し、カーボンファイバーの引張弾性率が600GPaを超えるとカーボンファイバーが非常に高価となり、かつ原料供給面から汎用性が低下するため、使用するカーボンファイバーの引張弾性率の好ましい範囲は250~600GPaであり、より好ましくは260~500GPaである。また、JIS R7608により測定されたカーボンファイバーの引張強度は3,000MPa以上が好ましい。但し、カーボンファイバーの引張強度が7,000MPa超えると引張弾性率と同様にカーボンファイバーが非常に高価となり、かつ原料供給面から汎用性が低下するため、使用するカーボンファイバーの引張強度の好ましい範囲は3,000~7,000MPaであり、より好ましくは5,000~6,500MPaである。カーボンファイバーの平均繊維径は特に限定されないが、3~15μmが好ましく、より好ましくは4~13μmである。かかる範囲の平均繊維径を持つカーボンファイバーは、成形体外観を損なうことなく良好な機械的強度および疲労特性を発現することができる。また、カーボンファイバーの好ましい繊維長は、樹脂組成物中における数平均繊維長として60~500μmが好ましく、より好ましくは80~400μm、特に好ましくは100~300μmである。カーボンファイバーは、カーボンファイバーの表面に金属層をコートしてもよい。金属としては、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。金属コートの方法としては、先に異種材料による表面被覆で述べた各種の方法が採用できる。中でもメッキ法が好適に利用される。また、かかる金属コートカーボンファイバーの場合も、元となるカーボンファイバーとしては上記のカーボンファイバーとして挙げたものが使用可能である。金属被覆層の厚みは好ましくは0.1~1μm、より好ましくは0.15~0.5μmである。更に好ましくは0.2~0.35μmである。かかる金属未コートのカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーは、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましい。特にウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂で処理されたカーボンファイバーは、機械的強度に優れることから本発明において好適である。また金属未コートのカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーの集束剤量に特に限定はないが、ウエルド強度を向上させる点において集束剤量は少ない方が好ましい。好ましい集束剤量は0~4%であり、より好ましくは0.1~3%である。
B成分の含有量はA成分100重量部に対し、10~150重量部であり、好ましくは15~120重量部、さらに好ましくは20~100重量部である。B成分の含有量が10重量部未満では機械強度が劣り、150重量部を超えると、混練押出時にストランド切れやサージングなどが起こり生産性が低下し、最悪の場合押し出しができなくなる。
(C成分:カルボジイミド化合物)
本発明のC成分として使用されるカルボジイミド化合物は、フィルム密着性、アウトガス性に優れることから環状構造を有することが好ましく、環状構造は複数有していてもよい。
環状構造は、カルボジイミド基(-N=C=N-)を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている。一つの環状構造中には、1個のカルボジイミド基のみを有する。環状構造中の原子数は好ましくは8~50であり、より好ましくは10~30、さらに好ましくは10~20、最も好ましいのは10~15である。
ここで、環状構造中の原子数とは、環構造を直接構成する原子の数を意味し、例えば、8員環であれば8、50員環であれば50である。環状構造中の原子数が8より小さいと、環状カルボジイミド化合物の安定性が低下して、保管、使用が困難となる場合がある。また反応性の観点よりは原子数の上限値に関しては特別の制限はないが、50を超える原子数の環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合がある。
環状構造は、下記式(1)で表される構造である。
式中、Qは、下記式(1-1)、(1-2)または(1-3)で表される2~4価の結合基である。
式中、Ar
1およびAr
2は各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2~4価の炭素数6~15の芳香族基である。
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数6~15のアリーレン基、炭素数6~15のアレーントリイル基、炭素数6~15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基(2価)として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
R1およびR2は各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2~4価の炭素数1~20の脂肪族基、2~4価の炭素数3~20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2~4価の炭素数6~15の芳香族基の組み合わせである。
脂肪族基として、炭素数1~20のアルキレン基、炭素数1~20のアルカントリイル基、炭素数1~20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
脂環族基として、炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数3~20のシクロアルカントリイル基、炭素数3~20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。シクロアルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。シクロアルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数6~15のアリーレン基、炭素数6~15のアレーントリイル基、炭素数6~15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これら芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
X1およびX2は各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2~4価の炭素数1~20の脂肪族基、2~4価の炭素数3~20の脂環族基、2~4価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
脂肪族基として、炭素数1~20のアルキレン基、炭素数1~20のアルカントリイル基、炭素数1~20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
脂環族基として、炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数3~20のシクロアルカントリイル基、炭素数3~20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数6~15のアリーレン基、炭素数6~15のアレーントリイル基、炭素数6~15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
式(1-1)、(1-2)においてs、kは0~10の整数、好ましくは0~3の整数、より好ましくは0~1の整数である。sおよびkが10を超えると、環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より整数は好ましくは0~3の範囲が選択される。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX1、あるいはX2が、他のX1、あるいはX2と異なっていてもよい。
X3は、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2~4価の炭素数1~20の脂肪族基、2~4価の炭素数3~20の脂環族基、2~4価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
脂肪族基として、炭素数1~20のアルキレン基、炭素数1~20のアルカントリイル基、炭素数1~20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂肪族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
脂環族基として、炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数3~20のシクロアルカントリイル基、炭素数3~20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂環族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリーレン基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数6~15のアリーレン基、炭素数6~15のアレーントリイル基、炭素数6~15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
また、Qが2価の結合基であるときは、Ar1、Ar2、R1、R2、X1、X2およびX3は全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar1、Ar2、R1、R2、X1、X2およびX3の内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar1、Ar2、R1、R2、X1、X2およびX3の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
<環状カルボジイミド化合物(2)>
式中、Qは、下記式(2-1)、(2-2)または(2-3)で表される2価の結合基である。
式中、Ara(aは下付、以下同様)
1およびAra
2は各々独立に、2価の炭素数6~15の芳香族基である。Ra
1およびRa
2は各々独立に、2価の炭素数1~20の脂肪族基、2価の炭素数3~20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2価の炭素数6~15の芳香族基の組み合わせである。s
aは0~10の整数である。k
aは0~10の整数であるXa
1およびXa
2は各々独立に、2価の炭素数1~20の脂肪族基、2価の炭素数3~20の脂環族基、2価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。Xa
3は、2価の炭素数1~20の脂肪族基、2価の炭素数3~20の脂環族基、2価の炭素数6~15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ara
1、Ara
2、Ra
1、Ra
2、Xa
1、Xa
2およびXa
3はヘテロ原子を含有していてもよい。かかる環状カルボジイミド化合物(2)としては、以下の化合物が挙げられる。
<環状カルボジイミド化合物(3)>
式中、Qb(bは下付、以下同様)は、下記式(3-1)、(3-2)または(3-3)で表される3価の結合基であり、Yは環状構造を担持する担体である。
式中、Arb
1、Arb
2、Rb
1、Rb
2、Xb
1、Xb
2、Xb
3、s
bおよびk
bは、各々式(1-1)~(1-3)のAr
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2、X
3、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである。Yは結合部であり、複数の環状構造がYを介して結合し、式(3)で表される構造を形成している。かかる環状カルボジイミド化合物(3)としては、下記化合物が挙げられる。
<環状カルボジイミド化合物(4)>
式中、Qc(cは下付、以下同様)は、下記式(4-1)、(4-2)または(4-3)で表される4価の結合基であり、Z
1およびZ
2は環状構造を担持する担体である。Z
1およびZ
2は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
Arc
1、Arc
2、Rc
1、Rc
2、Xc
1、Xc
2、Xc
3、s
cおよびk
cは、各々式(1-1)~(1-3)の、Ar
1、Ar
2、R
1、R
2、X
1、X
2、X
3、sおよびkと同じである。但し、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
Z1およびZ2は各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである。Z1およびZ2は結合部であり、複数の環状構造がZ1およびZ2を介して結合し、式(4)で表される構造を形成している。かかる環状カルボジイミド化合物(4)としては、下記化合物が挙げられる。
C成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.001~10重量部であり、好ましくは、0.01~7重量部、より好ましくは、0.1~5重量部である。C成分の含有量が0.001重量部より少ない場合、十分なフィルム密着性の向上効果が得られない。また、C成分の含有量が10重量部よりも多い場合は、生産または成形加工性が低下し、最悪の場合押し出しができなくなる。
<環状カルボジイミド化合物の製造方法>
環状カルボジイミド化合物は従来公知の方法により製造することができる。例として、アミン体からイソシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からイソチオシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からトリフェニルホスフィン体を経由して製造する方法、アミン体から尿素体を経由して製造する方法、アミン体からチオ尿素体を経由して製造する方法、カルボン酸体からイソシアネート体を経由して製造する方法、ラクタム体を誘導して製造する方法などが挙げられる。
また、本発明の環状カルボジイミド化合物は、以下の文献に記載された方法を組み合わせ及び改変して製造することができ、製造する化合物によって適切な方法を採用する事が出来る。
Tetrahedron Letters,Vol.34,No.32,515-5158,1993.
Medium-and Large-Membered Rings from Bis(iminophosphoranes):An Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.61,No.13,4289-4299,1996.
New Models for the Study of the Racemization Mechanism of Carbodiimides.Synthesis and Structure(X-ray Crystallography and 1H NMR) of Cyclic Carbodiimides, Pedro
Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.43,No8,1944-1946,1978.
Macrocyclic Ureas as Masked Isocyanates,
Henri Ulrich etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.48,No.10,1694-1700,1983.
Synthesis and Reactions of Cyclic Carbodiimides,
R.Richteretal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.59,No.24,7306-7315,1994.
A New and Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides from Bis(iminophosphoranea)and the System Boc2O/DMAP,Pedro Molina etal.
製造する化合物に応じて、適切な製法を採用すればよいが、例えば、(1)下記式(a-1)で表されるニトロフェノール、下記式(a-2)で表されるニトロフェノールおよび下記式(b)で表される化合物を反応させ、下記式(c)で表されるニトロ体を得る工程、
(2)得られたニトロ体を還元して下記式(d)で表わされるアミン体を得る工程、
(3)得られたアミン体とトリフェニルホスフィンジブロミドを反応させ下記式(e)で表されるトリフェニルホスフィン体を得る工程、および
(4)得られたトリフェニルホスフィン体を反応系中でイソシアネート化した後、直接脱炭酸させる工程により製造したものは、本願発明に用いる環状カルボジイミド化合物として好適に用いることができる。なお、上記式中、Ar1およびAr2は各々独立に、炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい芳香族基である。E1およびE2は各々独立に、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基およびメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p-ブロモベンゼンスルホニルオキシ基からなる群から選ばれる基である。Araは、フェニル基である。Xは、下記式(i-1)~(i-3)の結合基である。
(式中、m
i-2およびn
i-2は各々独立に0~3の整数である。)
(式中、R
i-3およびR’
i-3は各々独立に、炭素数1~6のアルキル基、フェニル基を表す。)
(その他の添加剤について)
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマー成分を含むことができる。好適なエラストマー成分としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)およびシリコーン・アクリル複合ゴム系グラフト共重合体などのコア-シェルグラフト共重合体樹脂、あるいはシリコーン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。
本発明における樹脂組成物中は本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を含むことができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂などに代表される汎用プラスチックス、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、などのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスと呼ばれるものを挙げることができる。
本発明における樹脂組成物中には本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(赤燐、リン酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)および他の重合体を添加することができる。
本発明における樹脂組成物中には本発明の効果を損なわない範囲で、繊維状充填材以外の充填材を含むことができる。その材料は特に限定されるものではないが、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には例えば、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビ-ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどの非繊維状充填材が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填材を2種類以上併用することも可能である。また、これら充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、およびエポキシ化合物などのカップリング剤および膨潤性の層状珪酸塩では有機化オニウムイオンで予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
(樹脂組成物の製造)
本発明の樹脂組成物は上記各成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。好ましくは二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、任意の成分をサイドフィーダー等を用いて第二供給口より、溶融混合された他の成分中に供給することが好ましい。押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
二軸押出機に使用するスクリュは、輸送用順フライトピースの間に多種多様な形状のスクリュピースを挿入して複雑に組合せ、一体化して一本のスクリュとして構成されており、順フライトピース、順ニーディングピース、逆ニーディングピース、逆フライトピース、切り欠きを有する順フライトピース、逆フライトピースなどのスクリュピースを処理対象原材料の特性を考慮して、適宜の順序および位置に配置して組み合わせたものなどを挙げることができる。溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.5mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~4mmである。
(反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルム)
本発明における反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムは、少なくとも基材フィルムと反応性官能基を有する塗布層(以下、易接着層Aと称することがある)とからなり、さらに必要に応じて、さらに基材フィルムの易接着層Aの配されていない表面に、易接着層Bを設けてもよい。以下、本発明における基材フィルム、易接着層A、易接着層Bの好ましい態様について、説明する。
<基材フィルム>
本発明における基材フィルムは、その厚みが25~500μmの範囲であることが好ましい。厚みの上限が超えると、一体成形における加工性が損なわれ、他方下限を下回ると表面を被覆したときの平坦性が損なわれる場合がある。より好ましい基材フィルムの厚みの下限は50μm、さらに75μm、特に100μmである。他方より好ましい基材フィルムの厚みの上限は300μm、さらに250μm、特に188μmである。
本発明における基材フィルムは、熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムを好適に用いることができ、熱可塑性樹脂としてはフィルムやシートに成形できるものであれば特に制限されない。具体的な熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリアセタールなどのポリオレフィン樹脂、ノルボルネン類の開環メタセシス重合体、付加重合体、他のオレフィン類との付加共重合体などのシクロオレフィン、ポリ乳酸・ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6,11,12,66などのポリアミド樹脂、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグリコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合コポリマーなどそれ自体公知のものを用いることができる。これらの中でも、表面を被覆したときに高度の平坦性を発現させやすく、光沢に要求される透明性を付与しやすいことからポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、特に延伸などによってより平坦性を高度に具備させやすいことからポリエステル樹脂が好ましい。これらはホモポリマーでも共重合ポリマー、さらには他の熱可塑性樹脂の混合物であってもよい。また、各熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などを添加して樹脂組成物として使用されていてもよい。
熱可塑性樹脂として、ポリエステルを使用する場合について、さらに詳述する。本発明におけるポリエステル樹脂としては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とする単量体の重合により得られるポリエステル樹脂が好ましく挙げられ、それ自体公知のものを使用できる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。
また、脂肪族ジカルボン酸としては、例えばアジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。これらの中でも耐熱性に優れ、一体成形した後の平坦性を高度に具備できることから、芳香族ジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸と2,6ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体を用いることが好ましい。これらの酸成分は1種のみを用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらにはヒドロキシ安息香酸のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
また、ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2―プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2―ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。これらの中でも得られるポリエステル樹脂の耐熱性に優れ、一体成形した後の平坦性を高度に具備できることから、エチレングリコールが好ましい。これらのジオール成分は1種のみで用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明におけるポリエステルは、成形性と平坦性とを両立させる観点から、エチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンナフタレンジカルボキシレート、ヘキサメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンナフタレンジカルボキシレート、1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、1,4-シクロヘキサンジメチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましく、特にエチレンテレフタレートやエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましい。また本発明におけるポリエステルは、ホモポリマーに限らず、前述の他の酸成分やジオール成分などを共重合体したものであってもよく、特に一体成形時の成形性に優れることから、繰り返し単位のモル数を基準として、エチレンテレフタレートやエチレンナフタレンジカルボキシレートを80モル%以上有し、その他の繰り返し単位を2~20モル%共重合したものが特に好ましい。
本発明における基材フィルムは、一体成形における成形性と平坦性とを両立させる観点から、面内の直交する2方向に延伸などによって分子鎖を配向させた二軸配向フィルムであることが好ましい。
<反応性官能基を有する塗布層:易接着層A>
本発明における易接着層Aは、少なくともエポキシ基、オキサゾリン基、シラノール基、イソシアネート基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種類の官能基を含有することが好ましい。これらの官能基を有しない場合、一体成型後の密着性が低下する。これらの中でも、繊維含浸樹脂との密着性の観点からエポキシ基もしくはオキサゾリン基を含有することが好ましく、特にエポキシ基を含有することが好ましい。この際、官能基の数は特に制限されないが、フィルムに塗工した塗膜の造膜性および成形後の密着性をもとに、塗膜硬化速度を速くする場合は2官能性の架橋剤比率を多くし、硬化速度を遅くする場合は4官能性の架橋剤比率を少なくすることが好ましい。
また、本発明における易接着層Aは、その厚さが10nm~20μmの範囲であることが好ましく、より好ましい厚さの下限は、密着性の観点から15nm、さらに20nm、特に40nmである。他方より好ましい厚さの上限は、15μm、さらに10μm、特に5μmである。
本発明における易接着層Aは、前述の通り、少なくともエポキシ基、オキサゾリン基、シラノール基、イソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種類の官能基を含有していることが好ましく、易接着層を形成する樹脂自体は、基材フィルムや繊維強化プリプレグとの密着性に優れるものであれば、それ自体公知のものを採用でき、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などの中から任意のものが、1種単独で又は2種以上を混合して用いられる。本発明における一体成形は、好ましくは成形温度が150℃程度に至ることから、この温度よりもガラス転移温度が低い状態に設計されていることが好ましく、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましく用いることができる。
<基材フィルムおよび表面被覆フィルムの製造方法>
本発明の反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムに用いる基材フィルムを得る製造方法を概説する。本発明における基材フィルムは、前述の通り、二軸延伸されていることが好ましい。これは、二軸延伸されることにより、耐薬品や耐久性の向上が見込め、膜としての強度を付与できることにある。
そこで、本発明における基材フィルムおよび表面被覆の製造方法の一例として、二軸延伸ポリエステルフィルムを例にとって説明する。まず原料となるポリエステル樹脂は、例えばポリエチレンテレフタレートであれば購入することもでき、それ自体公知の手法で重縮合して得ることが出来る。
続いて、上述のようにして得られたポリエステルを二軸延伸フィルムとするには、まず使用するポリエステル樹脂を計量の上、必要に応じて添加剤や他の樹脂と混合する。次いで、窒素雰囲気、真空雰囲気などで、例えば、160℃で5時間程度の乾燥を行い、ポリエステル中の水分率を好ましくは50ppm以下とする。その後、押出機に供給し溶融押出する。なお、ベント式二軸押出機を用いて溶融押出を行う場合は樹脂の乾燥工程を省略してもよい。次いで、フィルターやギアポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を行い、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出する。その際、たとえば、ワイヤー状電極もしくはテープ状電極を使用して静電印加する方法、キャスティングドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けるキャスト法、キャスティングドラム温度をポリエステルのガラス転移点~(ガラス転移点-20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から、静電印加する方法が好ましく使用される。
次いで、かかる未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行う。かかる延伸方法における延伸倍率としては、樹脂の種類により異なるが、それぞれの方向に、好ましくは、2.5~4.0倍、さらに好ましくは2.8~3.5倍、特に好ましくは3.0~3.4倍が好ましく例示でき、面積倍率として6~20倍が製膜安定性の観点で好ましく、ポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、面積倍率として8~20倍が特に好ましく用いられる。また、延伸速度はそれぞれの延伸方向において1,000~200,000%/分であることが望ましい。また延伸温度は、ガラス転移点~(ガラス転移点+120℃)、さらにガラス転移温度+10℃~ガラス転移温度+60℃の温度が好ましく採用でき、例えばポリエチレンテレフタレートの場合、75~130℃、特に長手方向の延伸温度を80~120℃、幅方向の延伸温度を90~110℃とすることが好ましい。なお、延伸は各方向に対して複数回おこなっても良い。延伸方法自体は、それ自体公知の例えばロール延伸やテンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送する延伸方法など、いずれも採用することができる。
こうして二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うことが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での配向分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行っても良い。
ところで、本発明における易接着層Aは、前述の官能基としてエポキシ基、オキサゾリン基、シラノール基、イソシアネート基のうちの1種類の架橋基を含有せしめた塗剤を、溶剤分散もしくは水分散させて塗液とし、それを基材フィルム上に塗工することで形成することが好ましい。その際、塗工は基材フィルムの製膜工程で設ける(以下、インラインコーティングと称することがある。)ことが好ましく、特に未延伸フィルムから延伸が完了するまでの間の製膜中に塗工することが好ましい。
上記塗剤を溶剤に分散させる場合は、一般に使用されているメチルエチルケトン、酢酸ブチル、トルエンなどの溶剤を用いることができるが、基材フィルムの製膜中に塗工を行い、塗膜を形成する場合、フィルムの製膜装置が開放系であることから、水分散体にした塗料を用いることが特に好ましい。塗工はロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、バーコーター、ダイコーター、ディップコーター等の公知の塗工設備・塗工法式を用いることができ、所望の厚みを均一に簡便に形成させる目的で、ロールコーターをリバース法で用いることが好ましい。また本発明の効果を損なわない範囲で、塗剤には易滑性のためのフィラー粒子、紫外線防止剤、酸化防止剤などの添加剤を添加していてもよい。
このようにして塗布された易接着層Aは、前述の熱処理において、乾燥され硬化される。その際、本発明の効果を得るには、塗膜を処理する熱量が重要になる。比熱容量は樹脂が硬化される動的な過程の中で材料によって決定する特性値であり、操作変更するのは困難であるが、一方で、高温で短時間に加熱する方法と、比較的低温で時間をかけて加熱する方法がある。乾燥させる塗膜厚みや、生産速度、塗料に使用している溶媒の乾燥速度によって、適切に選択することが好ましい。高温で短時間に加熱する方法では、180℃~220℃で、1~15秒間加熱することが好ましく、より好ましくは190~215℃で、1~10秒間、さらに好ましくは195~210℃で、1~5秒間の処理がよい。他方、低温で長時間加熱する方法では、75~110℃で15~180秒間加熱することが好ましく、より好ましくは80~100℃で、20~120秒間、さらに好ましくは85~95℃で、25~60秒間の処理がよい。なお、コーティングの前に、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよいし、熱処理はフィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させて行ってもよい。
<反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルム>
本発明における反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムは、前述の方法によって得られるが、以下その好ましい態様について説明する。
まず、本発明の反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムは、150℃の伸度が製膜方向、幅方向ともに100%以上であることが好ましい。これは繊維強化樹脂の形状に追従させるためであり、伸度の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましい。一方で、表面被覆フィルムは、成形などによって伸長されるとともに、引張応力も増加する。引張応力は、成形時の成形力に対する抵抗力となるため、低い方が好ましいが、低すぎると、基材形状の凸部などが過多に延伸されてしまい、厚み斑などの不具合を生じやすい。そのような観点から、150℃における引張応力は3~50MPaであることが好ましく、さらに、5~30MPaが好ましい。引張応力は、伸長と共に単調に増加する傾向であることが好ましい。この場合の伸長と共に単調に増加するとは、伸度を横軸、応力を縦軸とした場合に、破断するまでの段階で、引張応力の増加が0もしくは負、すなわち傾きがゼロ以下になる領域が、破断するまでの伸度において30%以下、さらに20%以下であることを意味する。
また、本発明における反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムに用いる基材フィルムは、上述のようにして得られた結果、150℃における製膜方向の熱収縮をχMD、幅方向の熱収縮をχTDとした場合の熱収縮差の絶対値Δχが下記式(1)を満足することが好ましい。
Δχ=|χMD-χTD|≦3.0 ・・・(1)
Δχが3以上となると、製膜方向、幅方向に熱収縮による差が大きく、例えば、プレス成形などで基材フィルムが被熱した場合、成形で伸ばされるのに打ち勝ってシワが生じうるなどの不具合を生じやすい。基材フィルムの熱収縮差が小さいことで、成形後の外観を良好に保つことができる。
本発明における反応性官能基を有する塗布層を設けたフィルムは、その全光線透過率が80%以上であることが好ましい。全光線透過率が80%以上であることで、深みのある意匠を創ることができ、加飾層などを設ける場合、加飾層の意匠性をより効果的に発現できる。好ましい全光線透過率は、82%以上、特に好ましくは85%以上である。
本発明の表面被覆フィルムは、易接着層Aの反対側に易接着層Bが形成されていることが好ましい。易接着層Bとしては易接着層Aと同様なものを好ましく例示できるが、特にエポキシ基もしくはシラノール基を有することが好ましい。
(フィルムインサート成形体)
本発明のフィルムインサート成形体は、上記の樹脂組成物および上記の反応基を含有する塗布層を設けたフィルムをインサート成形することにより得られる成形体である。以下、インサート成形方法について説明する。
[予備成形工程]
成形体形状に応じて、インサート成形に先立ってフィルムを所望形状に加工する予備成形を実施する工程である。予備成形をすることでフィルムを複雑な立体形状にもインサート成形することができるため、実施することが好ましい。予備成形の方法としては以下の方法が挙げられる。すなわち、先ずフィルムをクランプ等で把持しながら加熱し、当該フィルムを軟化させて塑性変形可能とする。その後、この軟化されたフィルムを真空成形型の複数の真空孔を介して真空吸引し、フィルムを金型表面の形状に沿って密着させる。金型表面に密着させる方法は必ずしも真空吸引である必要はないが、真空吸引が一般的である。そしてフィルムが冷却されて硬化すると、所望の成形体形状が転写されたフィルムが得られる。
[トリミング工程]
予備成形工程で得られたフィルムの金型鏡面部以外の余分な部分を切り取り、所望の形状にトリミングする。レーザー、ダイカット型等を用いてトリミングすることができる。レーザーよりもダイカット(打ち抜き)が一般的である。
[インサート成形工程]
可動側に予備成形及びトリミング工程により所望形状に加工されたフィルムをバッキング層側が基材樹脂と接触するように取り付ける。次に、射出成形機のノズルから基材樹脂を射出し、キャビティ内に導入する。その際、フィルムは基材樹脂から圧力を受け金型に沿って密着する。そして、基材樹脂の熱によってフィルムのバッキング層の一部が溶融して基材樹脂と互いに密着する。