JP7074466B2 - 鞍乗型車両 - Google Patents
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Description
特許文献1に示された多段変速機では、歯車の回転速度差を利用して、第2の係合手段による第2の歯車の歯車軸への係合によって、第1の係合手段による第1の歯車の歯車軸への係合が解除される。このため、変速段の変更が、係合解除に力を要さず滑らかに行われる。従って、動力伝達が切断されることなく変速段の変更が行われる。特許文献1に開示された多段変速機は、動力伝達が切断されることなく変速段を変更するシームレス変速機である。
歯車及びこの歯車と同期して回転する軸等の部材は、慣性を有している。このため、変速段が変更される際には、変更前の歯車とは異なる回転速度で回転し慣性を有する歯車に係合することにより、出力軸から出力される動力の大きさが不連続に変化する。つまり、動力におけるショックが生じる。変速段が変更される際に、異なる回転速度で回転し慣性を有する歯車との係合によって生じるショックを、イナーシャ相ショックと称する。
このイナーシャ相ショックは、例えば車輪が受ける動力を通じ、車体の挙動の変化として現れる。
この検討の中で、本発明者らは、変速機に動力を供給する動力源を制御することでショックを抑えることを考えた。
具体的には、ドグを有する通常の多段変速機における変速段の変更では、動力を伝達しているドグの係合を解除し、その後、別のドグの係合を行うことが求められる。動力を伝達しているドグは、この動力を形成する強い力で係合している。そこで、係合状態を解除するため、例えば、動力源から変速機に供給される動力を一旦減少させることによって、動力を伝達しているドグの係合状態を解除することが考えられる。
本発明者らは、更なる検討の結果、シームレス変速機の入力軸から出力軸への動力伝達が、新たな変速段のギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、動力源の動力の減少を開始することで、変速段の変更によるショックが抑えられることを見出した。
回転可能に配置され、動力が入力される入力軸と、
前記入力軸と平行な軸線上に回転可能に配置される出力軸と、
前記入力軸に設けられ、前記入力軸と常に共に回転するか又は前記入力軸と相対回転可能であるように構成され、それぞれが各変速段に対応する複数の駆動ギアと、
前記出力軸に設けられ、前記出力軸と常に共に回転するか又は前記出力軸と相対回転可能であるように構成され、対応する前記駆動ギアと常時噛み合う複数の被駆動ギアと、
いずれか一つの変速段に係る前記駆動ギア及び前記被駆動ギアを介した前記入力軸から前記出力軸への動力伝達を機械的に且つ選択的に有効に設定するように構成された変速段設定機構と、を有するシームレス変速機であって、
前記変速段設定機構は、第n速に対応する第n速被駆動ギア又は第n+1速に対応する第n+1速被駆動ギアのいずれか一方を介して前記出力軸を通る動力の伝達を機械的に且つ選択的に有効に設定するためのラチェット機構を含み、
前記ラチェット機構は、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを通る加速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n速加速用ポールと、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを通る減速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n速減速用ポールと、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n+1速に対応する駆動ギア及び段被駆動ギアを通る加速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n+1速加速用ポールと、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n+1速に対応する駆動ギア及び段被駆動ギアを通る減速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n+1速減速用ポールと、を含み、
前記変速段設定機構は、さらに、周方向に延びるカム部が外周面に形成され、シフトアップ時の回転方向とシフトダウン時の回転方向とが反対になるようにシフトアップ時及びシフトダウン時に回転するように構成され、回転に伴って、前記第n速加速用ポールと、前記第n速減速用ポールと、前記第n+1速加速用ポールと、前記第n+1速減速用ポールと、を伏倒又は起立させるポール制御用シフトカムとを備えた、シームレス変速機と、
前記出力軸から伝達される動力によって駆動される車輪と、
前記シームレス変速機の前記入力軸に供給される動力を出力する動力源と、
前記動力源の動力を制御する制御装置であって、前記鞍乗型車両の加速中に前記動力源から前記入力軸への動力伝達が切断されることなく前記シームレス変速機の第n速から第n+1速へのシフトアップ操作が行われた場合、前記ポール制御用シフトカムの回転開始後で、前記入力軸から前記出力軸への動力伝達が、第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態から、当該動力伝達が途切れることなく、第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、前記動力源の動力の減少を開始する処理、及び、前記鞍乗型車両の減速中に前記動力源から前記入力軸への動力伝達が切断されることなく前記シームレス変速機の第n+1速から第n速へのシフトダウン操作が行われた場合、前記ポール制御用シフトカムの回転開始後、前記入力軸から前記出力軸への動力伝達が、第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態から、当該動力伝達が途切れることなく、第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、前記動力源の動力の増加を開始する処理の少なくとも一方を実行する制御装置と、
を備えた鞍乗型車両。
このため、例えば、鞍乗型車両の加速中に第n速から第n+1速へのシフトアップ操作が行われる場合、第n速及び第n+1速の双方で加速する向きの動力の伝達が選択されると、ギアに回転速度差が生じる。このため、第n+1速で加速する向きの動力の伝達開始によって、第n速での係合が解除される。従って、変速段が変更される際に動力伝達が切断されない。このことは、鞍乗型車両の減速中に第n+1速から第n速へのシフトダウン操作が行われる場合も同様である。従って、このシームレス変速機では、動力伝達が切断されることなく変速段が変更できる。
鞍乗型車両の加速中にシームレス変速機の第n速から第n+1速へのシフトアップ操作が行われる場合、制御装置は、ポール制御用シフトカムの回転開始後で、入力軸から出力軸への動力伝達が第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、動力源の動力の減少を開始する処理を実行する。このため、動力伝達が、第n速に対応する駆動ギアを介して行われる状態から、第n速に対応する駆動ギアよりも高い速度で回転する第n+1速に対応する駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられるときのイナーシャ相ショックが抑えられる。動力源の動力の減少を開始する処理は、ポール制御用シフトカムの回転開始後に実行される。このため、ポール制御用シフトカムが回転せずイナーシャ相ショックが生じない状況で動力源の動力を変更する制御が行われる事態の発生が抑制される。
この逆に、鞍乗型車両の減速中にシームレス変速機の第n+1速から第n速へのシフトダウン操作が行われた場合、制御装置は、ポール制御用シフトカムの回転開始後、動力伝達が第n速に対応する駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、動力源の動力の増加を開始する処理を実行する。このため、動力伝達が、第n+1速に対応する被駆動ギアを介して行われる状態から、第n速に対応する駆動ギアよりも低い速度で回転する第n速に対応する被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられるときのイナーシャ相ショックが抑えられる。動力源の動力の増加を開始する処理は、ポール制御用シフトカムの回転開始後に実行される。このため、ポール制御用シフトカムが回転せずイナーシャ相ショックも生じない状況で動力源の動力が変更される事態が抑制される。
本発明に係る制御装置は、上記した動力源の動力の減少を開始する処理、及び動力源の動力の増加を開始する処理の少なくとも1つを実施する。これによって変速段が変更される際に動力伝達が切断されないシームレス変速機において、変速段の変更によるショックが抑えられる。
前記動力源は、エンジンである。
前記鞍乗型車両は、更に、前記エンジンと前記入力軸との間に設けられ、前記エンジンと前記入力軸との間での動力の伝達及びその切断を行うクラッチを備える。
前記制御装置は、前記動力源の回転速度及び前記ポール制御用シフトカムの回転速度の少なくとも一方に応じて、前記動力源の動力の減少又は増加を開始する時点の前記ポール制御用シフトカムの角度位置を変更するように、前記動力源を制御する。
前記制御装置は、前記ポール制御用シフトカムの回転速度が0から増加に転じた時における前記ポール制御用シフトカムの角度と前記ポール制御用シフトカムの回転速度とに基づいて定められる係合タイミングよりも前に、前記動力源の動力の減少又は増加を開始し、
前記係合タイミングは、前記シームレス変速機の変速時において変速先の変速段に係る駆動ギア及び被駆動ギアを介した前記入力軸から前記出力軸への動力の伝達が開始されるタイミングである。
前記変速段設定機構は、前記入力軸及び前記出力軸の少なくとも一方の軸に設けられ、前記ポール制御用シフトカムの回転に応じてその軸の軸方向に移動して、前記入力軸と相対回転可能である前記駆動ギア又は前記出力軸と相対回転可能である前記被駆動ギアと周方向にドグ係合することにより、前記入力軸から前記出力軸までの動力伝達を有効にするように構成されたドグリングを備え、
前記ドグリングは、前記ポール制御用シフトカムの回転に応じて前記軸方向に移動している時に、前記駆動ギア若しくは前記被駆動ギアと前記軸方向に接触するドグ当たりが生じた後に前記駆動ギア若しくは前記被駆動ギアと前記周方向にドグ係合するか、又は前記ドグ当たりが生じることなく前記駆動ギア若しくは前記被駆動ギアと前記周方向にドグ係合するように構成され、 前記制御装置は、
前記動力源の動力の減少又は増加を開始する時点の前記ポール制御用シフトカムの角度位置を変更するように、前記動力源を制御し、
前記動力源の動力の減少又は増加を開始することなく、前記ポール制御用シフトカムの角度が、前記ドグ当たりの状態が生じる時の前記ポール制御用シフトカムの角度を超えた時には、前記動力源の動力の減少又は増加を開始する。
なお、上述したポール制御用シフトカムの角度位置の変更は、例えば、動力源の回転速度及びポール制御用シフトカムの回転速度の少なくとも一方に応じて変更される。この変更は、(6)の構成の一例である。(6)の構成におけるポール制御用シフトカムの角度位置の変更は、この例に限定されない。
シームレス変速機は、ドグ係合により動力を伝達するためのドグを有していてもよい。また、シームレス変速機は、ドグを有していなくてもよい。シームレス変速機は、ドグ係合及び係合の解除ではなく、例えば、ポールの起立又は伏倒のみによって、変速段の切替えが行われるタイプであってもよい。
第1速及び第2速 (n=1)
第2速及び第3速 (n=2)
第3速及び第4速 (n=3)
第4速及び第5速 (n=4)
第5速及び第6速 (n=5)
鞍乗型車両は、クラッチを備えていてもよく、また、クラッチを備えていなくてもよい。
鞍乗型車両は例えば自動二輪車である。自動二輪車としては、特に限定されず、例えば、スクータ型、モペット型、オフロード型、オンロード型の自動二輪車が挙げられる。また、鞍乗型車両としては、自動二輪車に限定されず、例えば三輪車であってもよい。また、鞍乗型車両としては、例えば、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよい。
図1を参照して、本実施形態の鞍乗型車両1の概要を説明する。
動力源11は、動力を出力する。本実施形態の動力源11はエンジンである。図1には、動力源11として4気筒エンジンが示されている。図1では、1つの気筒のみ構成が概略的に示され、残りの気筒については構成の図示が省略されている。動力源11は、動力軸90と、シリンダ102と、ピストン103と、点火プラグ107を備えている。動力軸90はクランクシャフトである。
ピストン103は、シリンダ102内に往復移動自在に設けられている。点火プラグ107は、シリンダ102内に形成される燃焼室104に設けられている。燃焼室104に続く吸気通路には、スロットルバルブ105、燃料噴射装置106が設けられている。スロットルバルブ105、燃料噴射装置106、及び点火プラグ107の動作は、制御装置8によって制御される。
スロットルバルブ105は、燃焼室104に供給される空気の量を調整する。また、燃料噴射装置106は、燃焼室104に供給される空気に燃料を噴射する。空気と燃料の混合気が燃焼室104に供給され、点火プラグ107の点火によって燃焼することで、ピストン103を往復動させる。ピストン103の往復動が、動力軸90の回転に変換される。動力源11から、動力軸90の回転として動力が出力される。図中では、1つのスロットルバルブ105のみが示されているが、鞍乗型車両1は、シリンダ102と同数のスロットルバルブ105を備えている。スロットルバルブ105は、シリンダ102ごとに設けられている。
多段変速機13は、複数の変速段を有する。本実施形態の多段変速機13は、シームレス変速機である。多段変速機13は、動力伝達を切断することなく、変速段を切替えることができる。
多段変速機13は、入力軸20と、出力軸30と、駆動ギア241~246と、被駆動ギア341~346と、変速段設定機構139とを有する。図1では、出力軸30及び出力軸に設けられた部材の断面が示されている。
出力軸30は、入力軸20と平行な軸線上に回転可能に配置される。複数の駆動ギア241~246は、入力軸20に設けられ、常に入力軸20と共に回転するように構成されている。また、複数の駆動ギア241~246のそれぞれは、各変速段に対応する。複数の被駆動ギア341~346は、出力軸30に設けられ、出力軸30と相対回転可能であるように構成される。複数の被駆動ギア341~346は、対応する駆動ギア241~246と噛み合い可能であるように構成されている。常時、複数の被駆動ギア341~346の少なくとも一つが、駆動ギア241~246と噛み合う。
詳細には、図1に示す多段変速機13に備えられた複数の駆動ギア241~246は、常に入力軸20と共に回転するように構成されている。また、複数の被駆動ギア341~346は、出力軸30と相対回転可能であるように構成される。また、複数の被駆動ギア341~346のそれぞれが、駆動ギア241~246と常時噛み合う。
本実施形態の多段変速機13は、6速の変速機である。従って、上記nには、1から5までのいずれかが該当する。例えば、n=2の場合、ラチェット機構400は、第2速に対応する第2速被駆動ギア342又は第3速に対応する第3速被駆動ギア343のいずれか一方を介して出力軸30を通る動力の伝達を機械的にかつ選択的に有効に設定する。
本実施形態における変速段設定機構139は、詳細には、ラチェット機構400及びドグ係合機構138によって、第n速に対応する第n速被駆動ギア又は第n+1速に対応する第n+1速被駆動ギアのいずれか一方を介して出力軸30を通る動力の伝達を機械的に且つ選択的に有効に設定する。
ドグリング37a~37cは、出力軸30の軸線上で移動可能なように出力軸30に設けられている。詳細には、ドグリング37a~37cのそれぞれは、ハブ38を介して出力軸30に支持されている。ドグリング37a~37cは、ハブ38と常に共に回転する。ドグリング37a~37cは、ハブ38に対し出力軸30の軸線上で移動可能なようにハブ38に設けられている。第1のドグリング37aは、第1速の被駆動ギア341及び第3速の被駆動ギア343と対応する。第2のドグリング37bは、第5速の被駆動ギア345及び第6速の被駆動ギア346と対応する。第3のドグリング37cは、第2速の被駆動ギア342及び第4速の被駆動ギア344と対応する。
ドグリング37a~37cが、出力軸30の軸線上で移動することによって被駆動ギア341~346のいずれかと係合する。ドグリング37a~37cが、被駆動ギア341~346のいずれかとドグ係合する。このとき、周方向に間隔を空けて配置された第2ドグD2の間隔に第1ドグD1が入り込み、且つ第2ドグD2が第1ドグD1と周方向で当たることによりドグ係合する。周方向は、被駆動ギア341~346及びドグリング37a~37cの回転方向Rを含む方向である。ドグ係合によって、回転方向Rの動力が伝達される。
本実施形態において、加速用ポール35a~35c及び減速用ポール36a~36cは、ドグリング37a ~37cに対応して設けられている。ドグリング37a~37cのそれぞれに、加速用ポール35a~35c及び減速用ポール36a~36cが設けられている。加速用ポール35a及び減速用ポール36a の組は、第1速段及び第3速段に対応する。加速用ポール35b及び減速用ポール36bの組は、第5速段及び第6速段に対応する。加速用ポール35c及び減速用ポール36cの組は、第2速 段及び第4速段に対応する。
加速用ポール35a~35c及び減速用ポール36a~36cは、径方向でドグリング37a~37cより中に配置されている。加速用ポール35a~35c及び減速用ポール36a~36cは、出力軸30に揺動可能に設けられている。加速用ポール35a~35c及び減速用ポール36a~36cは、起立又は伏倒の状態を有する。
加速用ポール35a~35cのそれぞれは、起立時に入力軸20から出力軸30へ、対応する速段に対応する駆動ギア241~246及び被駆動ギア341~346を通る加速する向きの動力を伝達する。加速用ポール35a~35cのそれぞれは、この一方、伏倒時に動力を伝達しない。
また、減速用ポール36a~36cのそれぞれは、起立時に入力軸20から出力軸30へ、対応する速段に対応する駆動ギア241~246及び被駆動ギア341~346を通る減速する向きの動力を伝達する。減速用ポール36a~36cのそれぞれは、一方、伏倒時に動力を伝達しない。
詳細には、加速用ポール35a~35c及び減速用ポール36a~36cは、出力軸30とハブ38との間における動力の伝達及び伝達の中断を切り替える。これによって、加速用ポール35a~35c及び減速用ポール36a~36cは、出力軸30と被駆動ギア341~346との間における動力の伝達及び伝達の中断を切り替える。
第2速減速用ポール36cは、起立時に入力軸20から出力軸30へ第2速(第n速)に対応する駆動ギア242及び被駆動ギア342を通る減速する向きの動力を伝達する。一方、第2速減速用ポール36cは、伏倒時に動力を伝達しない。
第3速加速用ポール35aは、起立時に入力軸20から出力軸30へ第3速(第n+1速)に対応する駆動ギア243及び被駆動ギア343を通る加速する向きの動力を伝達する。一方、第3速加速用ポール35aは、伏倒時に動力を伝達しない。
第3速減速用ポール36aは、起立時に入力軸20から出力軸30へ第3速(第n+1速)に対応する駆動ギア243及び被駆動ギア343を通る減速する向きの動力を伝達する。一方、第3速減速用ポール36aは、伏倒時に動力を伝達しない。
このとき、制御装置8は、シフトカム50の回転開始後に、動力源11の動力の減少を開始する処理を行う。また、制御装置8は、動力伝達が、第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態から、第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる時刻t14の前の時刻t13に、動力源11の動力の減少を開始する処理を行う。
このとき、制御装置8は、シフトカム50の回転開始後に、動力源11の動力の増加を開始する処理を行う。また、制御装置8は、動力伝達が、第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態から、当該動力伝達が切断されることなく、第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、動力源11の動力の増加を開始する処理を行う。なお、動力の増加又は減少が行われている時に、動力伝達が切断されることなく、変速元の速段を介した動力伝達が、変速先の速段を介した動力伝達に切り替えられる。これにより、イナーシャ相ショックが低減される。
図1及び図2に示す鞍乗型車両1は、自動二輪車である。鞍乗型車両1は、リーン姿勢で旋回可能に構成されている。鞍乗型車両1は、エンジンユニット6を備えている。動力源11と、多段変速機13とは、エンジンユニット6に含まれている。動力源11の動力は、制御装置8によって制御される。また、鞍乗型車両1は、シート2と、ハンドル3と、車輪4,5と、クラッチレバー7aと、アクセル操作子7bと、シフトペダル501とを備えている。クラッチレバー7a及びアクセル操作子7bは、運転者の手によって操作されるようにハンドル3に設けられる。シフトペダル501は、運転者の足によって操作されるように設けられている。シフトペダル501に対する運転者の操作が、シフト操作として、多段変速機13に入力される。
図3を参照して、多段変速機13の詳細を説明する。
入力軸20には、複数の駆動ギア241~246が設けられている。複数の駆動ギア241~246は、図3における入力軸20の右端部から、第1速駆動ギア241、第3速駆動ギア243、第5速駆動ギア245、第6速駆動ギア246、第4速駆動ギア244、第2速駆動ギア242の順に並んでいる。また、出力軸30には、複数の被駆動ギア341~346が設けられている。複数の被駆動ギア341~346は、図1における出力軸30の右端部から、第1速被駆動ギア341、第3速被駆動ギア343、第5速被駆動ギア345、第6速被駆動ギア346、第4速被駆動ギア344、第2速被駆動ギア342の順に並んでいる。駆動ギア241~246と被駆動ギア341~346とが、変速段の組ごとに、入力軸20及び出力軸30の軸方向における同じ位置において、互いに噛み合うように設けられている。
変速段設定機構139は、上述したように、ラチェット機構400、ドグ係合機構138、及びシフトカム50を有する。また、変速段設定機構139は、シフトフォーク53a~53c及びフォークガイド軸60を有する。
シフトカム50の外周面には、カム溝52a~52cが形成されている。カム溝52a~52cには、それぞれシフトフォーク53a~53cの一部が受け入れられる。シフトフォーク53a~53cの一部は、シフトカム50の回転に伴ってシフトフォーク53a~53cがカム溝52a~52cに案内されて軸方向に移動するように、カム溝52a~52cに受け入れられる。
シフトペダル501の操作によってシフトカム50が回転すると、シフトフォーク53a~53cが、カム溝52a~52cに応じて軸方向に移動する。これにより、ドグリング37a~37cが、シフトフォーク53a~53cと共に軸方向に移動する。ドグリング37a~37cが移動して被駆動ギア341~346のいずれかと係合することにより、動力の伝達の経路が選択される。このとき、変速段設定機構139で選択されたドグリング37a~37cに設けられた第2ドグD2と、被駆動ギア341~346の第1ドグD1とが、周方向で当たることによってドグ係合する。
図4には、1~6速のうち一例として2速に対応する加速用ポール35c、減速用ポール36c、ドグリング37c、及び被駆動ギア342が示されている。図4に示す基本的な構造は、他の変速段についても同じである。
図4(A)では、動作を把握し易くするため、加速用ポール35c及び減速用ポール36cを周方向に並べて示している。
第1ドグD1は、図4(B)に示すように周方向に並んだ第2ドグD2の間隔(穴)に入り込むことによって、第1ドグD1に周方向で当たっている。即ち、第1ドグD1と第2ドグD2とがドグ係合している。これによって、被駆動ギア342からドグリング37cに、加速方向Rの動力が伝達される。即ち、被駆動ギア342とドグリング37cがドグ係合している。
加速用ポール35cが径方向外側に起立しているとき、ドグリング37cから、加速用ポール35cを介して出力軸30に加速方向Rの動力が伝達される。この一方、加速用ポール35cが伏倒しているとき、ドグリング37cから出力軸30への加速方向Rの動力は伝達されない。
この場合、減速用ポール36cが起立しているとき、ドグリング37cから加速用ポール35cを介して出力軸30に、加速方向Rとは反対の減速方向の動力が伝達される。
このことを車輪(図1参照)からの視点で言い換えると、動力源11から出力されるトルクが負になる場合、出力軸30が車輪5(図1参照)によって駆動される。減速用ポール36cが起立しているとき、出力軸30から減速用ポール36cを介してドグリング37cに加速方向Rの動力が伝達される。
減速用ポール36cが伏倒しているとき、ドグリング37cから出力軸30への減速方向の動力は伝達されない。
ラチェット機構400は、第2速以外の変速段についても、第2速の場合と同じく動力の伝達を機械的に且つ選択的に有効に設定する。
図5のパート(a)~(e)のそれぞれには、加速用ポール、減速用ポール、ドグリング、及び被駆動ギアを軸方向に見た模式図が示されている。パート(a)~(e)には、シフトカム50の回転に伴う動作が順に示されている。
図5を参照して、鞍乗型車両の加速時で多段変速機が第2速から第3速にシフトアップ(パワーオンアップシフト)する場合のポールとドグの動作を説明する。図5のパート(a)~(e)のそれぞれには、第2速と第3速に関する動作を対比するため、下半分に第2速に関する部材が示され、上半分に第3速に関する部材が示されている。また、下半分と上半分とで、被駆動ギア342,343は同じ大きさに合わせて示されている。
一方、第3速に対応する第3速被駆動ギア343の第1ドグD1は、ドグリング37aの第2ドグD2とドグ係合していない。このため、第3速被駆動ギア343の動力は、出力軸30へ伝達されない。
減速用ポール36a,36cが伏倒することによって、多段変速機13で動力伝達が切断されることなく、且つ、動力源11(図1参照)から出力される動力を減少させることなく、第2速から第3速にシフトアップが行われる。
しかし、本実施形態では、加速時のシフトアップ(パワーオンアップシフト)及び減速時のシフトダウン(パワーオフダウンシフト)が行われる場合、制御装置8が、動力源11の出力を変更する。
制御装置8は、プログラムを実行するプロセッサ8a、及びプログラム及びデータを記憶する記憶装置8bを備えている。制御装置8では、記憶装置8bに記憶されたプログラムをプロセッサ8aが実行することにより、動力源11を制御する。
制御装置8には、シフトカム角度検出器55、アクセル検出器7c、クラッチ検出器12a、スロットル開度検出器191、燃料噴射装置106、スロットルモータ108、点火プラグ107、及び動力軸速度検出器192が接続されている。アクセル検出器7cは、アクセル操作子7b(図2参照)の操作量を検出する。クラッチ検出器12aは、クラッチ12(図1参照)の操作量を検出する。点火プラグ107は図示しない点火装置を介して制御装置8と接続されている。また、制御装置8には、操作荷重検出器730、入力軸速度検出器27、及び出力軸速度検出器28が接続されている。
制御装置8は、スロットルモータ108、燃料噴射装置106、及び点火プラグ107を制御することにより、動力源11から出力される動力を制御する。
制御装置8は、変速制御部801及びエンジン制御部802を備えている。変速制御部801及びエンジン制御部802のそれぞれは、図6に示す記憶装置8bに記憶されたプログラムをプロセッサ8aが実行することにより実現される。
変速制御部801には、シフト荷重、シフトカム位相、動力軸回転速度、入力軸回転速度、出力軸回転速度、車両速度、クラッチ操作量、及びスロットル開度が入力される。変速制御部801は、多段変速機13の状態に応じて、動力源11から出力される動力の大きさを変更する。具体的には、変速制御部801は、エンジントルク補正値を出力する。
エンジン制御部802には、エンジントルク目標値が入力される。エンジントルク目標値は、基本エンジントルク目標値がエンジントルク補正値で補正された値である。基本エンジントルク目標値は、アクセル検出器7cで検出されたアクセル操作子7bの操作量に基づく値である。エンジン制御部802は、エンジントルク目標値に応じて、動力源11から出力される動力の大きさを制御する。具体的には、エンジン制御部802は、スロットル開度目標値、点火角度目標値、及び燃料供給量を出力する。スロットル開度目標値はスロットルモータ108の動作に対する目標値である。点火角度目標値は、点火プラグ107についての目標値である。燃料供給量は、燃料噴射装置106についての目標値である。
図8には、動力軸回転速度、車輪回転速度、シフトカム角度、係合時間カウンタ、シフトカム速度、出力トルク、点火角度、及びピッチ角速度が示されている。
車輪回転速度は、出力軸30から伝達される動力によって駆動される車輪5の回転速度である。シフトカム角度は、シフトカム50の回転角度である。係合時間カウンタは、ドグ係合までの時間を表す制御装置8内部の値である。エンジントルク目標値は、制御装置8内部の計算の値である。図8には、鞍乗型車両1の加速中に、多段変速機13が第2速から第3速へシフトアップ(パワーオンアップシフト)する場合の各状態が示されている。図3及び図5も参照して、変速段の切替えについて説明する。
時刻t14で、図5のパート(c)に示すように、第3速に対応する第3速被駆動ギア343の第1ドグD1が、ドグリング37aの第2ドグD2とドグ係合する。この結果、第3速被駆動ギア343の加速方向Rへの動力が、第3速被駆動ギア343の第1ドグD1から、ドグリング37aの第2ドグD2、及び第3速加速用ポール35aを介して出力軸30へ伝達される。
時刻t14におけるドグ係合より前の時点で、第3速被駆動ギア343は、第2速被駆動ギア342より大きな回転速度で回転している。即ち、ドグ係合より前、第3速被駆動ギア343は、第2速被駆動ギア342と係合したドグリング37cより大きな回転速度で回転している。つまり、ドグ係合より前、第3速被駆動ギア343は、ドグリング37c、出力軸30、及びドグリング37aより大きな回転速度で回転している。
ドグリング37aより大きな回転速度で回転している第3速被駆動ギア343が、時刻t14でドグリング37aと係合する。このため、時刻t14で、ドグリング37aの回転速度が上昇する。即ち、出力軸30から出力される動力が増加する。この結果、車輪回転速度が上昇する。
図9には、図8に示す状態に加え、スロットル開度が示されている。図9には、鞍乗型車両1の減速中に、多段変速機13が第3速から第2速へシフトダウン(パワーオフダウンシフト)する場合の各状態が示されている。
シフトダウンにおいて、制御装置8は、動力源11の動力を増加させる。即ち、制御装置8は、鞍乗型車両1の減速中に動力源11から入力軸20への動力伝達が切断されることなく多段変速機13の第3速から第2速へのシフトダウン操作が行われる場合、動力源11の動力を増加させる。詳細には、制御装置8は、シフトカム50の回転開始(時刻t22)より後に、動力源11の動力の増加を開始する処理を実行する。制御装置8は、動力伝達が、第3速に対応する駆動ギア243及び被駆動ギア343を介して行われる状態から、当該動力伝達が途切れることなく、第2速に対応する駆動ギア242及び被駆動ギア342を介して行われる状態へ切り替えられるタイミング(時刻t24)より前に、動力源11の動力の増加を開始する処理を実行する(時刻t23)。
動力源11の出力は、エンジンの点火角度の変化に対し短時間で変化する。このため、前処理として時刻t22でスロットル開度を増加すると共に点火角度を遅延させる。そして、時刻t23でエンジンの点火遅角を停止することよって、動力源11の出力を急速に増加することができる。
制御装置8は、時刻t23で動力源11の出力を増加した後、時刻t25で動力源11の出力の増加を停止する。
図10には、制御装置8の変速制御部801及びエンジン制御部802の処理が示されている。変速制御部801の処理及びエンジン制御部802の処理は、実質的に並行して実行される。また、エンジン制御部802は、変速制御部801が出力するトルク補正値を動力源11の制御に反映させる。そこで、変速制御部801の処理及びエンジン制御部802の処理を、単に、制御装置8の処理として説明する。
制御装置8は、運転者によって、多段変速機13の変速段の変更の操作が行われたか否かを検出する。制御装置8は、例えば、操作荷重検出器730が検出したシフトペダル501への荷重によって、変更の操作が行われたか否かを検出する。なお、制御装置8は、シフトカム角度検出器55で検出されたシフトカム50のシフトカム角度に基づいて、変更の操作が行われたか否かを検出してもよい。
制御装置8は、例えば、操作荷重検出器730で検出されたシフトペダル501への荷重の向きによって、シフトアップ又はシフトダウンを判別する。なお、制御装置8は、シフトカム角度検出器55で検出されたシフトカム角度に基づいて、シフトアップ又はシフトダウンを判別することも可能である。
また、制御装置8は、アクセル検出器7cで検出されたアクセル操作子7b(図2参照)の操作量、又は、スロットル開度検出器191で検出されたスロットルバルブ105の開度に基づいて、鞍乗型車両1が加速中か又は減速中かを判別する。
制御装置8は、ステップS12で、次の4つの動作種類を判別する。
(1)鞍乗型車両1の加速時でシフトアップ(パワーオンアップシフト)
(2)鞍乗型車両1の加速時でシフトダウン(パワーオンダウンシフト)
(3)鞍乗型車両1の減速時でシフトダウン(パワーオフダウンシフト)
(4)鞍乗型車両1の減速時でシフトアップ(パワーオフアップシフト)
また、制御装置8は、ステップS12で、クラッチ検出器12aでクラッチ12(図1参照)の操作が検出された場合、動作種類の判別を行わず、図10に示す変速制御を終了する。従って、以下で説明するステップS13以降の処理は、動力源11と入力軸20との間の動力伝達がクラッチ12によって切断されない場合に実施される。
動作種類が、上記(3)鞍乗型車両1の減速時でシフトダウンの場合、又は、上記(4)鞍乗型車両1の減速時でシフトアップの場合、制御装置8は、このステップS13の処理よりも後に、設定されたタイミングで、動力源11の出力を増加する。
ステップS13で、制御装置8は、後に実行される動力源11の出力の増加に先立ち、動力源11としてのエンジンの吸気量を増加させる増加処理、並びに、吸気量の増加に伴う動力源11の出力の増加を抑えるようなエンジンの点火遅角を開始する処理を行う。
動力源11の出力は、エンジンの点火角度の変化に対し短時間で変化する。このため、ステップS13の処理よりも後に、設定されたタイミングで、エンジンの点火遅角を停止することによって、動力源11の出力を急速に増加することができる。
なお、制御装置8は、点火遅角の代わりに、燃料供給量を減少させることも可能である。
上記(2)鞍乗型車両1の加速時にシフトダウン、又は、上記(4)鞍乗型車両1の減速時にシフトアップする場合、多段変速機13では、変更前の現行の変速段に係る動力伝達を解除するため、動力源11の出力を変化させることが求められる。
例えば、上記(2)鞍乗型車両1の加速時で第n+1段から第n段にシフトダウンの場合、本実施形態の多段変速機13では、変更前の第n+1段に係る加速用ポール35a~35cを伏倒させるため、動力源11の出力を減少することが求められる。
また、上記(4)鞍乗型車両1の減速時で第n段から第n+1段にシフトアップの場合、本実施形態の多段変速機13では、変更前の第n段に係る減速用ポール36a~36cを伏倒させるため、動力源11の出力を増加することが求められる。
このステップS14の処理によって、変更前の現行の変速段に係る動力伝達が解除可能となる。
制御装置8は、このステップS15で、イナーシャ相ショックの影響を低減するため、動作種類に応じて動力源11の出力を減少又は増加する。制御装置8は、ステップS15で、動力制御開始のタイミングを設定し、設定したタイミングで動力制御を開始する。動力制御開始処理の詳細については、後述する。
制御装置8は、ステップS15で開始した動力制御を終了する。制御装置8は、ステップS15で、動力制御終了のタイミングを設定し、設定したタイミングで動力制御を終了する。
制御装置8は、このステップS17よりも前のステップS13で、前処理として、動力源11としてのエンジンの吸気量を増加させる増加処理、並びに、吸気量の増加に伴う動力源11の出力の増加を抑えるようなエンジンの点火遅角を開始している。
制御装置8は、このステップS17で、上記前処理を終了する。即ち、制御装置8は、このステップS17で、後処理として、動力源11としてのエンジンの吸気量の増加を終了させる処理、並びに、吸気量の増加の終了に伴う動力源11の出力の減少を抑えるようなエンジンの点火遅角を終了する処理を行う。
動力制御開始の処理において制御装置8は、クラッチ12が操作されたか否かを判別する(S21)。このステップS21で、制御装置8は、クラッチ検出器12aにクラッチ12(図1参照)の操作を検出する場合、動力制御開始の処理を行わず、図11に示す処理を終了する。
なお、図10に示すステップS12の実行タイミングにおけるクラッチ12の操作の判別のみでクラッチ12についての判別の精度が確保できる場合、ステップS21での判別は省略することも可能である。
制御装置8は、図10に示す動作種類の判別(図10のS12)の結果に基づいて、判別を行う。
動作種類が、パワーオンアップシフト、即ち上記(1)の鞍乗型車両1の加速時にシフトアップする場合(S22でYes)、制御装置8は、動力減少開始のための処理を行う。制御装置8は、ドグ係合のタイミングを計算する(S23)。
制御装置8は、シフトカム50の回転速度に応じて、ドグ係合のタイミングを計算する。第1ドグD1及び第2ドグD2は、シフトカム50の回転に応じて、ドグリング37a~37cが軸方向に移動することによって係合する。制御装置8は、運転者の足の操作力によって回転するシフトカム50の回転速度に応じてドグ係合のタイミングを計算することによって、高い精度で動力減少の処理を開始することができる。
制御装置8は、シフトカム50の回転速度が0から増加に転じた時におけるシフトカム50の角度とシフトカム50の回転速度とに基づいてドグ係合のタイミングを計算する。
ここで、サイクルは、動力源11であるエンジンの燃焼サイクルである。動力源11が4ストロークエンジンの場合、サイクルは動力軸90の2回転に相当する。
mは、例えば1である。なお、mは、多段変速機13の性能及び鞍乗型車両1の種類に応じて異なる値に設定されることが可能である。mとして、例えば、1/2、又は1/4といった、0より大きい値が採用可能である。
mサイクルとして、例えばエンジンの1燃焼間隔以上の期間が設定される。ここで、燃焼間隔は、エンジンで生じる燃焼の間隔である。エンジンの1燃焼間隔は、例えばエンジンが単気筒エンジンの場合、エンジンの1サイクルに相当する期間である。エンジンが複数気筒を有する場合、1燃焼間隔は、複数の気筒で順次生じる燃焼の間隔に相当する期間である。例えば、4気筒エンジンの場合の1燃焼間隔は1/4サイクルである。
例えば1燃焼間隔以上の期間が設定される場合、制御装置8は、出力軸30への動力伝達が第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられるタイミングの燃焼間隔分前のタイミングより更に前に動力源の動力の減少を開始する処理を実行することとなる。また、制御装置8は、動力伝達が第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられるタイミングの燃焼間隔分前のタイミングより更に前に動力源の動力の増加を開始する処理を実行することとなる。
mが1の場合、ドグ係合タイミングの1サイクル前のタイミングが到来すると(S24でYes)、動力減少開始処理が行われる(S26)。
制御装置8は、このステップS26で、動力源11から出力される動力の減少を開始する。制御装置8は、動力源11であるエンジンの点火遅角を開始する。
計算されたドグ係合タイミングより前のタイミングで動力源11から出力される動力の減少を開始することにより、ドグ係合によって生じるイナーシャ相ショックを低減するように、動力源11から出力される動力が減少する。従って、イナーシャ相ショックの影響が抑えられる。
詳細には、動力軸90の回転速度が大きいほど、動力減少処理の開始タイミングからドグ係合タイミングまでの時間間隔が短い。即ち、動力軸90の回転速度が大きいほど、動力源11の動力の減少を開始する時点のシフトカム50の角度位置が小さい。
動力増加開始のためのステップS33~S36の処理は、上述したステップS23~S26と同じである。但し、ステップS36の動力増加開始の処理が異なる。
ステップS36で、制御装置8は、動力源11から出力される動力の増大を開始する。具体的には、制御装置8は、ステップS13(図10)の前処理で開始したエンジンの点火遅角を停止する。これによって、動力源11から出力される動力が増大する。
これによって、シフトカム50の回転開始後、動力伝達が、第3速に対応する駆動ギア243及び被駆動ギア343を介して行われる状態から、当該動力伝達が途切れることなく、2速に対応する駆動ギア242及び被駆動ギア342を介して行われる状態へ切り替えられる前に、動力源11の動力の増加を開始する処理が行われる。
図12には、多段変速機13が第2速から第3速にシフトアップした場合の測定値が示されている。測定値は、動力軸回転速度、入力軸回転速度、出力軸回転速度、車輪回転速度、シフト荷重、シフトカム角度、動力源の出力トルク、点火角度、スロットル開度、車両のピッチ角速度、前後方向加速度、及び上下方向加速度である。車輪回転速度は、出力軸回転速度に換算され、示されている。シフトカム角度として、60度周期内での位相が示されている。前後方向は、鞍乗型車両1の前後方向である。動力源の出力トルクとして、目標値と、実際の出力トルク(算出値)が示されている。
図12に示す時刻t31で、シフト操作が検出されている。時刻t34で、入力軸20から出力軸30への動力伝達が、第2速に対応するギアから第3速に対応するギアに切り替わっている。詳細には、時刻t34でドグ係合が生じている。
本実施形態において、制御装置8は、ドグ係合が生じる時刻t34より前の、時刻t33で、動力源11の動力を減少する処理を開始している。動力源11の動力を減少する処理は、ドグ係合が生じる時刻t34に対し、1燃焼間隔1.5サイクル前である。動力源11の動力は、最終的に、ドグ係合が生じる時刻t34で、目標値まで低下している。
この結果、イナーシャ相ショックの指標となるピッチ角速度の最大変動幅P1が小さい。
図13に示す比較例では、入力軸から出力軸への動力伝達が第2速に対応するギアから第3速に対応するギアに切り替わる時刻t94と同時に、動力源11の動力を減少する処理が開始している。
図13に示す比較例では、動力伝達が第3速に対応するギアを介して入力軸20から出力軸30へ行なわれるt94に対し、動力源11の動力の減少が遅れている。このため、イナーシャ相ショックの指標となるピッチ角速度の最大変動幅P2が大きい。
図14に示す第2の測定例において、制御装置8は、ドグ係合が生じる時刻t44より前の、時刻t43で、動力源11の動力を減少する処理を開始している。動力源11の動力を減少する処理は、ドグ係合が生じる時刻t44より、1/4サイクル前である。つまり、動力源11の動力を減少する処理は、ドグ係合が生じる時刻t44より、1燃焼間隔分前である。
5 車輪
8 制御装置
11 動力源
12 クラッチ
13 多段変速機
20 入力軸
30 出力軸
35a~35c 加速用ポール
36a~36c 減速用ポール
37a~37c ドグリング
50 シフトカム
90 動力軸
139 変速段設定機構
241~246 駆動ギア
341~346 被駆動ギア
400 ラチェット機構
Claims (6)
- 鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、
回転可能に配置され、動力が入力される入力軸と、
前記入力軸と平行な軸線上に回転可能に配置される出力軸と、
前記入力軸に設けられ、前記入力軸と常に共に回転するか又は前記入力軸と相対回転可能であるように構成され、それぞれが各変速段に対応する複数の駆動ギアと、
前記出力軸に設けられ、前記出力軸と常に共に回転するか又は前記出力軸と相対回転可能であるように構成され、対応する前記駆動ギアと常時噛み合う複数の被駆動ギアと、
いずれか一つの変速段に係る前記駆動ギア及び前記被駆動ギアを介した前記入力軸から前記出力軸への動力伝達を機械的に且つ選択的に有効に設定するように構成された変速段設定機構と、を有するシームレス変速機であって、
前記変速段設定機構は、第n速に対応する第n速被駆動ギア又は第n+1速に対応する第n+1速被駆動ギアのいずれか一方を介して前記出力軸を通る動力の伝達を機械的に且つ選択的に有効に設定するためのラチェット機構を含み、
前記ラチェット機構は、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを通る加速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n速加速用ポールと、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを通る減速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n速減速用ポールと、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n+1速に対応する駆動ギア及び段被駆動ギアを通る加速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n+1速加速用ポールと、
起立時に前記入力軸から前記出力軸へ前記第n+1速に対応する駆動ギア及び段被駆動ギアを通る減速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように構成される第n+1速減速用ポールと、を含み、
前記変速段設定機構は、さらに、周方向に延びるカム部が外周面に形成され、シフトアップ時の回転方向とシフトダウン時の回転方向とが反対になるようにシフトアップ時及びシフトダウン時に回転するように構成され、回転に伴って、前記第n速加速用ポールと、前記第n速減速用ポールと、前記第n+1速加速用ポールと、前記第n+1速減速用ポールと、を伏倒又は起立させるポール制御用シフトカムとを備えた、シームレス変速機と、
前記出力軸から伝達される動力によって駆動される車輪と、
前記シームレス変速機の前記入力軸に供給される動力を出力する動力源と、
前記動力源の動力を制御する制御装置であって、前記鞍乗型車両の加速中に前記動力源から前記入力軸への動力伝達が切断されることなく前記シームレス変速機の第n速から第n+1速へのシフトアップ操作が行われた場合、前記ポール制御用シフトカムの回転開始後で、前記入力軸から前記出力軸への動力伝達が、第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態から、当該動力伝達が途切れることなく、第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、前記動力源の動力の減少を開始する処理、及び、前記鞍乗型車両の減速中に前記動力源から前記入力軸への動力伝達が切断されることなく前記シームレス変速機の第n+1速から第n速へのシフトダウン操作が行われた場合、前記ポール制御用シフトカムの回転開始後、前記入力軸から前記出力軸への動力伝達が、第n+1速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態から、当該動力伝達が途切れることなく、第n速に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して行われる状態へ切り替えられる前に、前記動力源の動力の増加を開始する処理の少なくとも一方を実行する制御装置と、
を備えた鞍乗型車両。 - 請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
前記動力源は、エンジンである。 - 請求項2に記載の鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、更に、前記エンジンと前記入力軸との間に設けられ、前記エンジンと前記入力軸との間での動力の伝達及びその切断を行うクラッチを備える。 - 請求項1から3のいずれか1に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記動力源の回転速度及び前記ポール制御用シフトカムの回転速度に応じて、前記動力源の動力の減少又は増加を開始する時点の前記ポール制御用シフトカムの角度位置を変更するように、前記動力源を制御する。
- 請求項1から4のいずれか1に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記ポール制御用シフトカムの回転速度が0から増加に転じた時における前記ポール制御用シフトカムの角度と前記ポール制御用シフトカムの回転速度とに基づいて定められる係合タイミングよりも前に、前記動力源の動力の減少又は増加を開始し、
前記係合タイミングは、前記シームレス変速機の変速時において変速先の変速段に係る駆動ギア及び被駆動ギアを介した前記入力軸から前記出力軸への動力の伝達が開始されるタイミングである。 - 請求項1から3のいずれか1に記載の鞍乗型車両であって、
前記変速段設定機構は、前記入力軸及び前記出力軸の少なくとも一方の軸に設けられ、前記ポール制御用シフトカムの回転に応じてその軸の軸方向に移動して、前記入力軸と相対回転可能である前記駆動ギア又は前記出力軸と相対回転可能である前記被駆動ギアと周方向にドグ係合することにより、前記入力軸から前記出力軸までの動力伝達を有効にするように構成されたドグリングを備え、
前記ドグリングは、前記ポール制御用シフトカムの回転に応じて前記軸方向に移動している時に、前記駆動ギア若しくは前記被駆動ギアと前記軸方向に接触するドグ当たりが生じた後に前記駆動ギア若しくは前記被駆動ギアと前記周方向にドグ係合するか、又は前記ドグ当たりが生じることなく前記駆動ギア若しくは前記被駆動ギアと前記周方向にドグ係合するように構成され、
前記制御装置は、前記動力源の動力の減少又は増加を開始することなく、前記ポール制御用シフトカムの角度が、前記ドグ当たりの状態が生じる時の前記ポール制御用シフトカムの角度を超えた場合には、前記動力源の動力の減少又は増加を開始する。
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