以下、場合により図面を参照して、幾つかの実施形態を説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。なお、各部材の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
図1は、一実施形態に係るフェライト焼結磁石を模式的に示す斜視図である。異方性のフェライト焼結磁石10は、端面が円弧状となるように湾曲した形状を有しており、一般にアークセグメント形状、C形形状、瓦型形状、又は弓形形状と呼ばれる形状を有している。フェライト焼結磁石10は、例えばモータ又は発電機用の磁石として好適に用いられる。ただし、フェライト焼結磁石の形状は図1の形状に限定されるものではない。
フェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト型の結晶構造を有するフェライト相からなる主相を含有する。本開示において「主相」とはフェライト焼結磁石に最も多く含まれる結晶相をいう。フェライト焼結磁石において最も多く含まれる結晶相はフェライト相である。フェライト焼結磁石の断面における主相の面積割合は、例えば80%以上であってもよく、85%~98%であってもよい。
フェライト焼結磁石は、主相とは異なる結晶相(異相)として、第1副相と第2副相を有する。第1副相は、La、Ca及びFeを含み、主相よりもLaの原子比率が高く、Laの原子比率がCaの原子比率よりも高い。また、第1副相のFeの原子比率は、主相よりも低くてもよい。第2副相は、La、Ca、Si、B及びFeを含み、Caの原子比率がLaの原子比率よりも高く、Bの原子比率がFeよりも高く、Feの原子比率が主相よりも低い。
フェライト焼結磁石における、主相、第1副相及び第2副相のそれぞれの面積比率は、フェライト焼結磁石の断面の走査型透過電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(STEM/EDX)を用いて観察し、画像処理を行うことによって求めることができる。主相及び第1副相のそれぞれの組成は、STEM/EDXを用いて測定することができる。第2副相の組成は、走査型透過電子顕微鏡/電子エネルギー損失分光法(STEM/EELS)を用いて測定することができる。
図2は、フェライト焼結磁石の断面の一部を拡大してその微細構造を模式的に示す図である。フェライト焼結磁石10は、主相12、並びに主相12の粒子間に含まれる第1副相13及び第2副相14を含有する。主相12は六方晶のマグネトプランバイト型の結晶構造を有するフェライト相である。一方、第1副相13及び第2副相14は主相12とは異なる結晶構造を有する異相である。第1副相は、オルソフェライトを含んでいてもよい。オルソフェライトは、希土類元素(R)と鉄元素(Fe)を含むペロブスカイト構造を有する化合物(RFeO3)である。
第1副相は、La、Ca及びFeの合計を100原子%としたときに、例えば、Laの比率は10~60原子%、Caの比率は0~19原子%、及び、Feの比率は10~60原子%であってもよい。第1副相13は、La、Ca及びFe以外の元素を含んでもよい。そのような元素としては、例えば、Siが挙げられる。La、Ca、Fe及びSiの合計を100原子%としたときに、例えば、Siの比率は0~19原子%であってもよい。第1副相の組成は、図2に示すようなフェライト焼結磁石の断面において、少なくとも10個の第1副相13を任意に抽出し、それぞれの分析結果の平均値として求めることができる。
フェライト焼結磁石の断面における第1副相の面積比率は、5%以下であってもよく、0.5~4%であってもよく、1~3%であってもよい。第1副相の面積比率が大きくなり過ぎると、十分に優れた保磁力が損なわれる場合がある。一方、第1副相の面積比率が小さくなり過ぎても、十分に優れた保磁力が損なわれる場合がある。第1副相の面積比率は、例えば、原材料を配合の際のLaを含む原料化合物の配合割合を変えることによって調節してもよい。
第2副相は、La、Ca、Si、B及びFeを含み、Caの原子比率がLaの原子比率よりも高く、Bの原子比率がFeよりも高く、Feの原子比率が主相よりも低い。第2副相は、La、Ca、Si、B及びFeの合計を100原子%としたときに、例えば、Laの比率が1~25原子%、Caの比率が30~70原子%、Siの比率が50原子%以下、Bの比率が8~60原子%、及び、Feの比率が20原子%以下である。第2副相は、主相におけるCoの含有量を高くする観点から、Coを含まなくてもよい。第2副相は、La、Ca、Si、B、Fe及びCoの合計を100原子%としたときに、Coの比率は0.5原子%以下であってもよい。これによって、主相におけるCoの原子比率を高くすることができる。
第2副相において、La、Ca、Si、B及びFeの合計を100原子%としたときに、Caの原子比率とLaの原子比率の合計は、例えば31~95原子%である。第2副相は、上述の元素以外の元素を含んでもよい。第2副相の組成は、図2に示すようなフェライト焼結磁石の断面において、少なくとも10個の第2副相14を任意に抽出し、それぞれの分析結果の平均値として求めることができる。
フェライト焼結磁石の断面における第2副相の面積比率は1%以上である。保磁力と残留磁束密度を十分に高くする観点から、第2副相の面積比率は、例えば3~20%であってもよく、7~15%であってもよい。第2副相の面積比率は、原材料を配合の際のホウ素(B)を含む原料化合物の配合割合を変えることによって調節することができる。
フェライト焼結磁石はCaB2O4を含んでもよい。CaB2O4は、融点(1128℃)がフェライト焼結磁石の焼成温度に近いため、液相焼結における濡れ性等の改善作用がある。このため、CaB2O4を含有することによって、フェライト焼結磁石中の各元素の分散性が向上し、主相におけるFeがCoに置換されやすくなる。したがって、フェライト焼結磁石全体におけるCoの含有量が少ない場合であっても、主相中にCoを効率的に取り込むことが可能となる。これによって、Coの使用量が少なくても、フェライト焼結磁石の保磁力を十分に高くすることができる。
CaB2O4は、例えば第2副相に含まれる。第2副相がCaB2O4を含むことによって、液相焼結における濡れ性が一層向上できるものと考えられる。フェライト焼結磁石の断面全体に対する、第2副相に含まれるCaB2O4の面積比率は、非磁性体の割合を抑制しつつ主相のCo含有量を十分に高くする観点から、例えば2%以下であってよく、0.1~1%であってもよい。同様の観点から、第2副相に対するCaB2O4の面積比率は、例えば11%以下であってよく、1.5~6.3%であってもよい。
フェライト焼結磁石に含まれるCaB2O4は、フェライト焼結磁石の断面を、HRTEM(高分解能透過電子顕微鏡)を用いて観察し、観察画像を2次元フーリエ変換して結晶面の面間隔と面角を求めて同定することができる。また、フェライト焼結磁石の断面においてCaB2O4と同定された部分と第2副相の面積から、第2副相におけるCaB2O4の面積比率を求めることができる。
フェライト焼結磁石全体におけるFeとCoの合計に対するCoの原子比率(S)[Co/(Fe+Co)]は、例えば2~4であってよい。また、主相におけるFeとCoの合計に対するCoの原子比率(P)[Co/(Fe+Co)]は、例えば3~5であってよい。原子比率(S)に対する原子比率(P)の比は、1.2を超えてよく、1.3以上であってよく、1.4以上であってもよい。このように、原子比率(S)に対する原子比率(P)の比を大きくすることによって、Coの使用量を低減しても十分に高い保磁力を有するフェライト焼結磁石とすることができる。本実施形態のフェライト焼結磁石は、CaB2O4を含むことから、原子比率(S)に対する原子比率(P)の比を大きくすることができる。
主相、第1副相及び第2副相を含有するフェライト焼結磁石の全体の組成は、下記一般式(I)で表したときに、下記式(1)、(2)及び(3)を満たすものであってもよい。一般式(I)におけるx、y及びmはモル基準の比率を示している。一般式(I)において、Rは、La、又は、LaとYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素とを示し、AはCa、又は、CaとSr及びBaの一方又は双方とからなる元素を示す。
R1-xAxFem-yCoy (I)
0.2≦x≦0.8 (1)
0.1≦y≦0.65 (2)
3≦m<14 (3)
一般式(I)におけるxは、保磁力を一層高くする観点から、0.7以下であってもよく、0.6以下であってもよい。xは、同様の観点から、0.25以上であってもよく、0.3以上であってもよい。また、xは、不可逆低温減磁を抑制する観点から0.55未満であってもよく、0.5以下であってもよい。一般式(I)におけるyは、磁気特性を一層高くする観点から、0.6以下であってもよく、0.5以下であってもよい。
一般式(I)におけるyは、同様の観点から、0.15以上であってもよく、0.2以上であってもよい。一般式(I)におけるmは、保磁力を一層高くする観点から、4以上であってもよく、5以上であってもよい。一般式(I)におけるmは、同様の観点から、13以下であってもよく、12以下であってもよい。一般式(I)におけるmは、不可逆低温減磁を抑制する観点から、7.5を超えることが好ましく、8以上であることがより好ましい。一般式(I)におけるmは、保磁力を一層高くしつつ不可逆低温減磁を抑制する観点から、8~13であってもよく、8~12であってもよい。
上記フェライト焼結磁石は式(4)及び(5)を満たすことが好ましい。
0.2≦x<0.55 (4)
7.5<m<14 (5)
上記式(4)及び(5)を満たすことによって、不可逆低温減磁が一層抑制され、低温における磁気特性に一層優れるフェライト焼結磁石とすることができる。
一般式(I)におけるAは、磁気特性を高くする観点から、主成分としてCa又はCa及びSrを含むことが好ましい。AはCaのみ、又は、Ca及びSrのみからなっていてもよい。
一般式(I)は、幾つかの実施形態において、一般式(II)で表されるものであってもよい。一般式(I)におけるxは、一般式(II)におけるx1+x2に等しい。したがって、xの範囲に関する記載内容は、x1+x2の範囲にも適用される。一般式(II)において、Rは、La、又は、LaとYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素とを示し、EはSr及びBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を示す。
R1-x1-x2Cax1Ex2Fem-yCoy (II)
フェライト焼結磁石の組成は、一般式(II)で表したときに、下記式(6)、(7)、(8)及び(9)を満たす。一般式(II)におけるx1、x2、y及びmは、モル基準の比率を示している。すなわち、フェライト焼結磁石の組成は、一般式(I)で表したときに式(1)を満たしつつ、一般式(II)で表したときに式(6)、(7)、(8)及び(9)を満たすものであってもよい。
0.1≦x1≦0.65 (6)
0≦x2<0.5 (7)
0.1≦y≦0.65 (8)
3≦m<14 (9)
一般式(II)におけるx1は、保磁力を一層高くする観点から、0.6以下であってもよく、0.5以下であってもよい。x1は、同様の観点から、0.2以上であってもよく、0.3以上であってもよい。一般式(II)におけるx2は、保磁力を一層高くする観点から、0.4以下であってもよく、0.3以下であってもよい。一般式(II)におけるx2は、0であってもよい。
一般式(II)におけるyは、磁気特性を一層高くする観点から、0.6以下であってもよく、0.5以下であってもよい。一般式(II)におけるyは、同様の観点から、0.15以上であってもよく、0.2以上であってもよい。一般式(II)におけるmは、保磁力を一層高くする観点から、4以上であってもよく、5以上であってもよい。一般式(II)におけるmは、同様の観点から、13以下であってもよく、12以下であってもよい。一般式(II)におけるmは、低温における磁気特性を向上する観点から、7.5を超えることが好ましく、8以上であることがより好ましい。一般式(II)におけるmは、保磁力を一層高くしつつ不可逆低温減磁を抑制する観点から、8~13であってもよく、8~12であってもよい。
上記フェライト焼結磁石は式(10)及び(11)を満たすことが好ましい。
0.2≦x1+X2<0.55 (10)
7.5<m<14 (11)
上記式(10)及び(11)を満たすことによって、不可逆低温減磁が一層抑制され、低温における磁気特性に一層優れるフェライト焼結磁石とすることができる。
一般式(I)及び一般式(II)に示される各元素の含有比率は、蛍光X線分析によって測定することができる。なお、一般式(I)及び一般式(II)に示される各元素の含有比率は、通常、後述する配合工程における各原材料の配合比率と同一である。B(ホウ素)の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP発光分光分析)で測定することができる。
フェライト焼結磁石におけるBの含有量はB2O3換算で0.1~0.6質量%である。磁気特性を一層高くする観点から、Bの上記含有量は、0.5質量%以下であってもよく、0.4質量%以下であってもよい。磁気特性を一層高くする観点から、Bの上記含有量は、0.1質量%を超えていてもよく、0.11質量%以上であってもよい。Bの上記含有量は、第2副相の生成を促進する観点から0.14質量%以上であってもよく、CaB2O4の生成を促進する観点から0.20質量%を超えていてもよい。また、低温における保磁力を十分に向上する観点から、Bの上記含有量は0.20質量%を超えることが好ましく、0.21質量%以上であってもよい。第2副相の含有比率及びCaB2O4の含有量を増やす観点から、Bの上記含有量は、0.2質量%を超え且つ0.4質量%以下であることが好ましい。
一般式(II)におけるEは、磁気特性を高くする観点から、主成分としてSrを含むことが好ましい。EはSrのみからなっていてもよい。
一般式(I)及び一般式(II)におけるRは、La(ランタン)、又は、La(ランタン)と、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)及びSm(サマリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素と、を含むことが好ましい。Rは、Laのみからなっていてもよい。
フェライト焼結磁石は、上記一般式(I)又は(II)に示されていない元素を副成分としてSiを含有する。Si以外の副成分としては、Naが挙げられる。これらの副成分は、例えば、それぞれの酸化物又は複合酸化物としてフェライト焼結磁石に含まれる。
フェライト焼結磁石におけるSiの含有量は、SiをSiO2に換算して、例えば、3質量%以下であってもよい。磁気特性を一層高くする観点から、フェライト焼結磁石及びフェライト粒子におけるSiの含有量は、SiをSiO2に換算して、0.3質量%未満であってもよい。同様の観点から、フェライト焼結磁石及びフェライト粒子におけるSiとBの合計含有量は、SiとBをそれぞれSiO2及びB2O3に換算して、0.1~0.8質量%であってもよく、0.2~0.5質量%であってもよい。Si(ケイ素)の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP発光分光分析)で測定することができる。フェライト焼結磁石及びフェライト粒子におけるNaの含有量は、NaをNa2Oに換算して、例えば0~0.2質量%であってもよい。
フェライト焼結磁石におけるNaの含有量は、NaをNa2Oに換算して、例えば0.2質量%以下であってもよく、0.01~0.15質量%であってもよく、0.02~0.1質量%であってもよい。
フェライト焼結磁石には、上述の成分の他に、原料に含まれる不純物又は製造設備に由来する不可避的な成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、Ti(チタン),Cr(クロム),Mn(マンガン),Mo(モリブデン),V(バナジウム)及びAl(アルミニウム)等が挙げられる。これらの成分はそれぞれの酸化物又は複合酸化物としてフェライト焼結磁石に含まれていてもよい。上述の副成分、不純物及び不可避的成分の含有量は、蛍光X線分析、又はICP発光分光分析によって測定することができる。上述の副成分、不純物及び不可避的成分は、フェライト焼結磁石におけるフェライト結晶粒の粒界に偏析して、第1副相及び第2副相とは異なる異相を構成してもよい。
フェライト焼結磁石における主相の組成範囲は、上述のフェライト焼結磁石の全体の組成が上述の範囲となるように設定される。
フェライト焼結磁石における主相を含む結晶粒(フェライト粒子)の平均粒径は、例えば5μm以下であってもよく、4μm以下であってもよく、0.5~3μmであってもよい。このような平均粒径を有することで、保磁力を一層高くすることができる。フェライト焼結磁石の結晶粒の平均粒径は、TEM又はSEMによるフェライト焼結磁石の断面の観察画像を用いて求めることができる。具体的には、数百個の結晶粒を含むSEM又はTEMの観察画像において、画像処理を行って粒径分布を測定する。測定した個数基準の粒径分布から、結晶粒の粒径の個数基準の平均値を算出する。このようにして測定される平均値を、結晶粒の平均粒径とする。
フェライト焼結磁石の20℃における保磁力は、例えば、好ましくは4900Oe以上であり、より好ましくは5000Oe以上である。フェライト焼結磁石の20℃における残留磁束密度は、好ましくは3000G以上であり、より好ましくは3500G以上である。フェライト焼結磁石は、保磁力(HcJ)と残留磁束密度(Br)の両方に優れることが好ましい。
フェライト焼結磁石の-30℃における保磁力は、例えば、好ましくは4900Oe以上であり、より好ましくは5000Oe以上である。-30℃と20℃におけるHcJの値から算出されるHcJ温度係数は、-0.06~0[%/℃]であってもよいし、-0.01~0[%/℃]であってもよい。
着磁させたフェライト磁石の残留磁束密度は、十分に低い温度まで冷却した後、再び元の温度に戻した時に、低下してしまうことがある。これを不可逆低温減磁という。このような不可逆低温減磁は、従来のフェライト磁石の本質的な弱点である。本実施形態のフェライト焼結磁石は、十分に高い保磁力を有することから不可逆低温減磁を抑制することができる。また、HcJ温度係数を0[%/℃]以下にすることによっても、不可逆低温減磁を抑制することができる。
フェライト焼結磁石は、例えば、モータ又は発電機に用いることができる。より具体的には、フューエルポンプ用、パワーウィンドウ用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータの磁石として使用することができる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータの磁石として使用することができる。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータの磁石としても使用することができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータの磁石としても使用することが可能である。
図3は、モータの一実施形態を示す模式断面図である。本実施形態のモータ30は、フェライト焼結磁石10を備える。モータ30は、ブラシ付き直流モータであり、有底筒状のハウジング31(ステータ)と、ハウジング31の内周側に同心に配置された回転可能なロータ32と、を備える。ロータ32は、ロータ軸36とロータ軸36上に固定されたロータコア37とを備える。ハウジング31の開口部にはブラケット33が嵌め込まれており、ロータコアは、ハウジング31とブラケット33とで形成される空間内に収容されている。ロータ軸36は、互いに対向するように、ハウジング31の中心部とブラケット33の中心部にそれぞれ設けられた軸受34,35によって回転可能に支持されている。ハウジング31の筒部分の内周面には、2個のC型のフェライト焼結磁石10が互いに対向するように固定されている。
図4は、図3のモータ30のIV-IV線断面図である。モータ用磁石としてのフェライト焼結磁石10は、その外周面を接着面として、ハウジング31の内周面上に接着剤で接着されている。フェライト焼結磁石10は、厚みを薄くすること可能であることから、ハウジング31とロータ32の隙間を十分に小さくすることができる。したがって、モータ30は、その性能を維持しながら小型化することができる。
次に、フェライト焼結磁石の製造方法の一例を説明する。以下に説明する製造方法は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、成形工程及び焼成工程を含む。各工程の詳細を以下に説明する。
配合工程では、複数の原材料を配合して原料組成物を得る。原材料としては、一般式(I)又は(II)に示す元素及びホウ素からなる群から選ばれる少なくとも一つを構成元素とする1種又は2種以上を含む化合物(原料化合物)が挙げられる。原料化合物は、例えば粉末状のものが好適である。原料化合物としては、酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物(炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等)が挙げられる。例えばSrCO3、La(OH)3、Fe2O3、BaCO3、CaCO3、Co3O4、及びB2O3等が例示できる。原料化合物の粉末の平均粒径は、例えば、配合を容易にする観点から、例えば0.1~2.0μm程度である。
酸化ホウ素等のホウ素化合物は、他の原材料に比べて水に溶けやすく且つ加熱条件下で飛散し易い傾向にある。このため、フェライト焼結磁石におけるホウ素の含有割合に比べて、配合工程の原料組成物におけるホウ素化合物の配合割合を多くする必要がある。上記含有割合に対する配合割合の比率は、例えば120~300%である。
配合工程では、必要に応じて、副成分の原料化合物(元素単体、酸化物等)を配合してもよい。原料組成物は、例えば、各原材料を、所望とするフェライト焼結磁石が得られるように秤量し、混合した後、湿式アトライタ、ボールミル等を用い、0.1~20時間程度、混合、粉砕処理することにより原料組成物を得ることができる。
仮焼工程では、配合工程で得られた原料組成物を仮焼する。仮焼は、例えば、空気等の酸化性雰囲気中で行ってもよい。仮焼の温度は、例えば1100~1400℃であってもよく、1100~1300℃であってもよい。仮焼の時間は、例えば1秒間~10時間であってもよく、1秒間~3時間であってもよい。仮焼により得られる仮焼粉(フェライト粒子)におけるフェライト相(M相)の比率は、例えば70体積%以上であってもよく、75体積%以上であってもよい。このフェライト相の比率は、フェライト焼結磁石におけるフェライトの主相の比率と同様にして求めることができる。
粉砕工程では、仮焼工程により顆粒状や塊状となった仮焼粉を粉砕する。このようにしてフェライト粒子が得られる。粉砕工程は、例えば、仮焼粉を粗い粉末となるように粉砕(粗粉砕工程)した後、これを更に微細に粉砕する(微粉砕工程)、2段階の工程に分けて行ってもよい。
粗粉砕は、例えば、振動ミル等を用いて、仮焼粉の平均粒径が0.5~5.0μmとなるまで行うことができる。微粉砕では、粗粉砕で得られた粗粉を、さらに湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等によって粉砕する。微粉砕では、得られる微粉(フェライト粒子)の平均粒径が、例えば0.08~2.0μm程度となるように粉砕を行う。微粉の比表面積(例えばBET法により求められる。)は、例えば7~12m2/g程度とする。好適な粉砕時間は、粉砕方法によって異なり、例えば湿式アトライタの場合、30分間~10時間であり、ボールミルによる湿式粉砕では10~50時間である。フェライト粒子の比表面積は、市販のBET比表面積測定装置(Mountech製、商品名:HM Model-1210)を用いて測定することができる。
微粉砕工程では、焼成後に得られる焼結体の磁気的配向度を高めるため、例えば一般式Cn(OH)nHn+2で示される多価アルコールを添加してもよい。一般式におけるnは、例えば4~100であってもよく、4~30であってもよい。多価アルコールとしては、例えばソルビトールが挙げられる。また、2種類以上の多価アルコールを併用してもよい。さらに、多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤を併用してもよい。
多価アルコールを添加する場合、その添加量は、添加対象物(例えば粗粉)に対して、例えば0.05~5.0質量%であってもよく、0.1~3.0質量%であってもよい。なお、微粉砕工程で添加した多価アルコールは、後述する焼成工程で熱分解して除去される。
粗粉砕工程及び/又は微粉砕工程では、副成分としてSiO2等の粉末を添加する。このような副成分を添加することによって、焼結性を向上すること、及び磁気特性を向上することができる。ただし、磁気特性を十分に高くする観点から、SiO2の添加量は過剰にならないようにすることが好ましい。
成形工程では、粉砕工程で得られたフェライト粒子を、磁場中で成形して、成形体を得る。成形は、乾式成形及び湿式成形のいずれの方法でも行うことができる。磁気的配向度を高くする観点からは、湿式成形で行うことが好ましい。
湿式成形により成形する場合は、例えば上述した微粉砕工程を湿式で行うことでスラリーを得た後、このスラリーを所定の濃度に濃縮して、湿式成形用スラリーを得る。この湿式成形用スラリーを用いて成形を行うことができる。スラリーの濃縮は、遠心分離又はフィルタープレス等によって行うことができる。湿式成形用スラリーにおけるフェライト粒子の含有量は、例えば30~80質量%である。スラリーにおいて、フェライト粒子を分散する分散媒としては例えば水が挙げられる。スラリーには、グルコン酸、グルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤を添加してもよい。分散媒としては非水系溶媒を使用してもよい。非水系溶媒としては、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加してもよい。なお、湿式成形用スラリーは、微粉砕後の乾燥状態のフェライト粒子に、分散媒等を添加することによって調製してもよい。
湿式成形では、次いで、この湿式成形用スラリーに対し、磁場中成形を行う。その場合、成形圧力は、例えば9.8~49MPa(0.1~0.5ton/cm2)である。印加する磁場は、例えば398~1194kA/m(5~15kOe)である。
焼成工程では、成形工程で得られた成形体を焼成してフェライト焼結磁石を得る。成形体の焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。焼成温度は、例えば1050~1270℃であってもよく、1080~1240℃であってもよい。また、焼成時間(焼成温度に保持する時間)は、例えば0.5~3時間である。
焼成工程では、焼成温度まで到達させる前に、例えば室温から100℃程度まで、0.5℃/分程度の昇温速度で加熱してもよい。これによって、焼結が進行する前に成形体を十分に乾燥することができる。また、成形工程で添加した界面活性剤を十分に除去することができる。なお、これらの処理は、焼成工程のはじめに行ってもよく、焼成工程よりも前に別途行っておいてもよい。
このようにしてフェライト焼結磁石を製造することができる。ただし、フェライト焼結磁石の製造方法は、上述の例に限定されない。例えば、成形工程及び焼成工程は、以下の手順で行ってもよい。すなわち、成形工程は、CIM(Ceramic Injection Molding(セラミック射出成形)成形法、又は、PIM(Powder Injection Molding、粉末射出成形の一種)で行ってもよい。CIM成形法では、まず、乾燥させたフェライト粒子をバインダ樹脂とともに加熱混練してペレットを形成する。このペレットを、磁場が印加された金型内で射出成形して予備成形体を得る。この予備成形体を脱バインダ処理することによって成形体が得られる。より詳細な手順を以下に説明する。
湿式粉砕で得られたフェライト粒子を含む微粉砕スラリーを乾燥させる。乾燥温度は、例えば80~150℃であってもよく、100~120℃であってもよい。乾燥時間は、1~40時間あってもよく、5~25時間であってもよい。乾燥後の磁性粉末の一次粒子の平均粒径は、例えば0.08~2μmであってもよく、0.1~1μmであってもよい。
乾燥後のフェライト粒子を、バインダ樹脂、ワックス類、滑剤、可塑剤、及び昇華性化合物等の有機成分と共に混練し、ペレタイザなどで、ペレットに成形する。有機成分は、成形体中に、例えば35~60体積%含まれていてもよく、40~55体積%含まれていてもよい。混練は、例えば、ニーダーなどで行えばよい。ペレタイザとしては、例えば、2軸1軸押出機が用いられる。混練及びペレット成形は、使用する有機成分の溶融温度に応じて、加熱しながら実施してもよい。
バインダ樹脂としては、熱可塑性樹脂などの高分子化合物が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン、及びポリアセタール等が挙げられる。
ワックス類としては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックス以外に、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、及びポリエチレングリコール等の合成ワックスが用いられる。
滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、フタル酸エステルが挙げられる。
バインダ樹脂の添加量は、フェライト粒子100質量%に対して、例えば3~20質量%である。ワックス類の添加量は、フェライト粒子100質量%に対して、例えば3~20質量%である。滑剤の添加量は、フェライト粒子100質量%に対して、例えば0.1~5質量%である。可塑剤の添加量は、バインダ樹脂100質量%に対して、例えば0.1~5質量%である。
次に、通常の磁場射出成形装置にペレットを導入し、所定形状のキャビティを有する金型内に射出成形する。金型への射出前に、金型には磁場が印加される。ペレットは、押出機の内部で、たとえば160~230℃に加熱溶融され、スクリューにより金型のキャビティ内に射出される。金型の温度は、例えば20~80℃である。金型への印加磁場は398~1592kA/m(5~20kOe)程度とすればよい。このようにして磁場射出成形装置によって予備成形体が得られる。
得られた予備成形体を、大気中又は窒素中において100~600℃の温度で熱処理して、脱バインダ処理を行って成形体を得る。有機成分を複数種使用している場合、脱バインダ処理を複数回に分けて実施してもよい。
次いで焼成工程において、脱バインダ処理した成形体を、例えば、大気中で1100~1250℃、又は1160~1230℃の温度で0.2~3時間程度焼成して、フェライト焼結磁石を得る。
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、また、モータは、図3,4の実施形態に限定されるものではなく、別の形態のモータであってもよい。
本発明の内容を実施例及び比較例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[フェライト焼結磁石の製造]
(製造例1~11)
原材料として、酸化鉄(Fe2O3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化コバルト(Co3O4)、水酸化ランタン(La(OH)3)を準備した。これらの原材料を、一般式(I)の組成が、表1のとおりになるように配合した。このようにして得られた配合物に対して酸化ホウ素(B2O3)を所定量添加し、湿式アトライタを用いて10分間の混合及び粉砕を行ってスラリーを得た(配合工程)。製造例1~11では、表1に示す組成を有するフェライト焼結磁石が得られるように各原材料の配合比を変更した。
このスラリーを乾燥した後、大気中、1300℃で2時間保持する仮焼を行って仮焼粉を得た(仮焼工程)。得られた仮焼粉を、小型ロッド振動ミルで10分間粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉に対して、0.2質量%の酸化ケイ素(SiO2)を添加した。その後、湿式ボールミルを用いて35時間微粉砕し、フェライト粒子を含むスラリーを得た(粉砕工程)。
微粉砕後に得られたスラリーを、固形分濃度が73~75%となるように調整して湿式成形用スラリーとした。この湿式成形用スラリーを、湿式磁場成型機を使用して、796kA/m(10kOe)の印加磁場中で成形し、直径30mm×厚み15mmの円柱状を有する成形体を得た(成形工程)。得られた成形体を、大気中、室温にて乾燥し、次いで大気中、1180℃で1時間保持する焼成を行った(焼成工程)。このようにして円柱状のフェライト焼結磁石を得た。
<組成分析>
各製造例のフェライト焼結磁石におけるB(ホウ素)及びSi(ケイ素)の含有量を以下の手順で測定した。フェライト焼結磁石の試料0.1gを、過酸化ナトリウム1g及び炭酸ナトリウム1gと混合して加熱し融解した。融解物を、純水40ml及び塩酸10mlの溶液に溶解した後、純水を加えて100mlの溶液とした。この溶液を用いて、ICP発光分光分析(ICP-AES)によってホウ素のB2O3換算の含有量、及びケイ素のSiO2換算の含有量を求めた。ICP発光分光分析には島津製作所製の分析装置(装置名:ICPS 8100CL)を用い、測定にあたってはマトリックスマッチングを行った。上記一般式(I)におけるx,y及びmは、配合工程における原材料の配合比率に基づいて算出した。これらの結果を表1に示す。
<副相の分析>
各製造例のフェライト焼結磁石における、主相、第1副相及び第2副相の有無、及びそれぞれの面積比率の測定を、TEM(FEI社 製、商品名:Titan G2)、TEM/EDX(FEI社製、商品名: Super-X)及びTEM/EELS(Gatan社製、商品名:GIF Quantum ER)を用いて行った。具体的には、フェライト焼結磁石を配向軸に平行な断面が見られるように切断し、走査型透過電子顕微鏡を用いて切断面を観察した。図5に示すような観察画像において、フェライト焼結磁石の全体の組成とほぼ同一の組成を有する主相と、主相とは色が異なる2種類の異相を同定した。そして、TEM/EDXとTEM/EELS(TEM付属の電子エネルギー損失分光装置、Gatan社製、商品名:GIF Quantum ER)によって、第1副相(観察画像における白色部分)及び第2副相(観察画像における黒色部分)を同定した。観察画像の画像解析を行って、フェライト焼結磁石の切断面における第1副相と第2副相の面積比率を求めた。これらの結果を表2に示す。また、実施例及び比較例の区別を、表2の備考欄に示した。
<第2副相の結晶相の同定>
図6は、製造例6のフェライト焼結の断面において、主相12に取り囲まれた第2副相14及びその近傍を、HRTEM(高分解能透過電子顕微鏡)で観察したときの画像である。図6に示すように第2副相14の中に、回りとは色が異なる化合物22(結晶)が生成していることが確認された。そこで、化合物22の高分解能像の2次元フーリエ変換を行い、図7のフーリエ変換像を得た。電子回折像と同様にしてフーリエ変換像を解析し、化合物22の結晶相の同定を行った。具体的にはフーリエ変換像に現れる周期性を示すスポットから結晶面の面間隔を求め、2つのスポット間の角度から2つの結晶面の間の角度(面角)を求めた。この2つの結晶面の面間隔と面角に基づいて結晶相を同定した。面間隔、及び面角の値は、測定による誤差及び組成によるゆらぎが影響するため、面間隔は±8%、面角は±2度を許容誤差範囲とした。
2つの結晶面の面間隔と面角に基づいて、この化合物22の結晶相の同定を行った結果、化合物22は、CaB2O4であることが確認された。第2副相を含む各製造例のフェライト焼結磁石について、同様の分析を行って、CaB2O4の有無を確認した。
<CaB2O4の定量>
CaB2O4を含む各製造例のフェライト焼結磁石について、図6に示すようなHRTEM画像を用いてCaB2O4の定量分析を行った。図8は、分析方法を説明するための図6のHRTEM画像に対応するモデル図である。図6及び図8に示すように、CaB2O4化合物22は第2副相14中に点在している。そこで、第2副相14の画像解析を行って、第2副相14に対するCaB2O4化合物22の面積比率を求めた。そして、当該面積割合と、フェライト焼結磁石の切断面における第2副相14の面積比率とを掛け合わせて、フェライト焼結磁石の切断面におけるCaB2O4化合物22の面積比率を算出した。これらの結果を表2に示す。
[フェライト焼結磁石の評価]
<磁気特性の評価>
フェライト焼結磁石の上下面を加工した後、最大印加磁場29kOeのB-Hトレーサを用いて、20℃及び-30℃における磁気特性を測定した。これによって、それぞれの温度における残留磁束密度[Br(G)]及び保磁力[HcJ(Oe)]と、HcJ温度係数及びBr温度係数を求めた。-30℃における磁気特性の測定は、チラーとペルチェ素子を使用した冷却装置を用いて、作製したフェライト焼結磁石の試料と、BHトレーサの試料測定周辺部及び雰囲気を-30℃に冷却し、試料及び測定周辺部の温度が安定した後に測定を行った。これによって、-30℃における残留磁束密度[Br(G)]及び保磁力[HcJ(Oe)]を測定した。これらの結果を表3に示す。なお、-30℃における磁気特性は、一部の製造例について行った。
表3中、HcJ温度係数及びBr温度係数は、以下の式によって求めた。
HcJ温度係数(%/℃)=[HcJ(20℃)-HcJ(-30℃)]/50(℃)/HcJ(20℃)×100
Br温度係数(%/℃)=[Br(20℃)-Br(-30℃)]/50(℃)/Br(20℃)×100
上式中、HcJ(20℃)及びHcJ(-30℃)は、それぞれ20℃及び-30℃におけるHcJ(Oe)を示す。Br(20℃)及びBr(-30℃)は、それぞれ20℃及び-30℃におけるBr(G)を示す。
表1~表3に示すとおり、B2O3の含有量が0.11質量%以下である製造例1、製造例2、製造例3及び製造例10は、第2副相が検出されず、保磁力が低かった。また、B2O3の含有量が0.6質量%を超える製造例9も、第2副相が検出されず、残留磁束密度及び保磁力の両方が低かった。第2副相が検出された製造例4~8及び製造例11は、保磁力が十分に高かった。また、製造例5,6は、HcJ温度係数が負特性を示し、不可逆低温減磁が発生しないことが確認された。
<各相の組成の分析1>
図5は、走査型透過電子顕微鏡を用いて製造例6のフェライト焼結磁石の切断面を観察したときの観察画像(倍率:2000倍)の写真である。図9は、走査型透過電子顕微鏡を用いて製造例6のフェライト焼結磁石の切断面を観察したときの観察画像(倍率:10,000倍)の写真である。図5、図9の写真に示される白色部分が第1副相、黒色部分が第2副相であり、それ以外の灰色部分が主相である。製造例6及び製造例11のフェライト焼結磁石に含まれる主相、第1副相の組成を上述のTEM/EDXを用いて測定し、第2副相の組成を上述のTEM/EELSを用いて測定した。製造例1についても同様に測定した。
製造例6,11の主相、第1副相及び第2副相の組成は、表4に示すとおりであった。製造例6,11の主相の組成は、フェライト焼結磁石の全体の組成とほぼ同一であった。主相及び第1副相については、任意に選択した13箇所のそれぞれにおいて測定を行い、Si,Ca,Fe,Co,Laの合計を100原子%としたときのそれぞれの元素の原子比率を求めた。これらの算術平均値を、各相の組成とした。第2副相についても、任意に選択した13箇所のそれぞれにおいて測定を行い、Si,Ca,Fe,Co,La,Bの合計を100原子%としたときのそれぞれの元素の原子比率を求めた。これらの算術平均値を、第2副相の組成とした。製造例6,11の第2副相には、Coが含まれていなかった。
製造例1のフェライト焼結磁石は、主相と第1副相を含有していたが、第2副相を含有していなかった。そして、主相及び第1副相とは異なる異相を含有していた。各相の組成を製造例6,11と同様にして測定した。その結果は表5に示すとおりであった。製造例1の主相の組成は、フェライト焼結磁石の全体の組成とほぼ同一であった。
製造例1のフェライト焼結磁石に含まれる異相は、Bの原子比率がFeよりも低く、且つCoを含んでいた。
<各相の組成の分析2>
「各相の組成の分析1」と同様にして、各製造例のフェライト焼結磁石に含まれる主相の組成を上述のTEM/EDXを用いて測定し、Si,Ca,Fe,Co,Laの合計を100原子%としたときの各元素の元素比率を求めた。そして、主相における、FeとCoの合計に対するCoの原子比率を求めた。これらの結果は表6に示すとおりであった。また、表1の測定値に基づいて、フェライト焼結磁石全体におけるFeとCoの合計に対するCoの原子比率を求めた。これらの結果は表6に示すとおりであった。
上述の主相及びフェライト焼結磁石全体における、それぞれの原子比率[Co/(Fe+Co)]の値から、フェライト焼結磁石のCo原子比率に対する主相のCo原子比率の比を算出した。この値を、表6に「主相中のCo/焼結磁石中のCo」として示した。
各製造例のうち、第2副相がCaB2O4を含有する製造例5~8については、「主相中のCo/焼結磁石中のCo」の比が1.2を超えていた。このことは、主相中にCoが効率的に取り込まれ、主相中のFeがCoによって十分に置換されていることを示している。このように主相中のFeのCoによる置換割合の向上が、保磁力及び温度特性の向上に寄与していると考えられる。
第2副相がCaB2O4を含有する製造例11は、製造例5~8よりも「主相中のCo/焼結磁石中のCo」の比が低かった。これは、製造例11では、表1に示すとおり、フェライト焼結磁石全体におけるFeに対するCoの比率が高いため、主相にすでにCoが十分に取り込まれていることが要因として考えられる。このことから、第2副相のCaB2O4は、フェライト焼結磁石全体におけるCoの含有量が比較的低い場合(製造例5~8)でも、主相中にCoを効率よく取り込む作用があるといえる。