以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態のSrフェライト焼結磁石を模式的に示す斜視図である。異方性のSrフェライト焼結磁石10は、端面が円弧状となるように湾曲した形状を有しており、一般にアークセグメント形状、C形形状、瓦型形状、又は弓形形状と呼ばれる形状を有している。Srフェライト焼結磁石10は、例えばモータ又は発電機用の磁石として好適に用いられる。
Srフェライト焼結磁石10は、主成分として、六方晶構造を有するM型のSrフェライトの結晶粒を含有する。フェライトは、例えば以下の式(1)で表わされる。
SrFe12O19 (1)
上式(1)のSrフェライトにおけるAサイトのSr及びBサイトのFeは、不純物又は意図的に添加された元素によって、その一部が置換されていてもよい。また、AサイトとBサイトの比率が若干ずれていてもよい。この場合、フェライトは、例えば以下の一般式(2)で表わすことができる。下式(2)中、x及びyは、例えば0.1〜0.5であり、zは0.7〜1.2である。
RxSr1−x(Fe12−yMy)zO19 (2)
一般式(2)におけるMは、例えば、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)及びCr(クロム)からなる群より選ばれる1種以上の元素である。また、一般式(2)におけるRは、例えば、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)及びSm(サマリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素である。
Srフェライト焼結磁石10におけるフェライト結晶相の比率は、好ましくは90体積%以上であり、より好ましくは95体積%以上であり、さらに好ましくは97体積%以上である。このように、Srフェライト結晶相とは異なる相の比率を低減することによって、磁気特性を一層高くすることができる。Srフェライト焼結磁石10におけるフェライト相の比率(%)は、フェライトの飽和磁化の理論値をσt、実測値をσsとしたとき、(σs/σt)×100の計算式で求めることができる。
Srフェライト焼結磁石10は、副成分として、Na,Si,Caを含有する。これらの成分はそれぞれの酸化物や複合酸化物としてSrフェライト焼結磁石10に含まれる。また、副成分の一部はフェライトに固溶する場合もある。
Srフェライト焼結磁石10におけるNaの含有量は、NaをNa2Oに換算して、例えば0.2質量%以下であってもよく、0.01〜0.15質量%であってもよく、0.02〜0.1質量%であってもよい。
Srフェライト焼結磁石10におけるSiの含有量は、SiをSiO2に換算して、例えば、1.5質量%以下であってもよく、0.1〜1.0質量%であってもよい。Srフェライト焼結磁石10におけるCaの含有量は、CaをCaOに換算して、例えば、2.0質量%以下であってもよく、0.05〜1.0質量%であってもよい。
Srフェライト焼結磁石10におけるSrの含有量は、例えば、SrO換算で10〜13質量%である。Srフェライト焼結磁石は、少量のBaを含有していてもよい。Srフェライト焼結磁石におけるBaの含有量は、例えば、BaO換算で0.01〜2.0質量%である。Srフェライト焼結磁石10には、これらの成分の他に、原料に含まれる不純物又は製造設備に由来する不可避的な成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、Ti(チタン),Cr(クロム),Mn(マンガン),Mo(モリブデン),V(バナジウム)及びAl(アルミニウム)等が挙げられる。これらの成分はそれぞれの酸化物又は複合酸化物としてSrフェライト焼結磁石10に含まれる。Srフェライト焼結磁石における各成分の含有量は、蛍光X線分析、又は誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)によって測定することができる。Na、Si及びCa等の副成分は、Srフェライト焼結磁石10におけるSrフェライト結晶粒子の粒界に偏析して存在する傾向にある。
図2は、本実施形態のSrフェライト焼結磁石に含まれるSrフェライト結晶粒子の粒界付近を拡大して示す模式図である。本明細書において、2つのSrフェライト結晶粒子20,22に挟まれる粒界を二粒子粒界という。Srフェライト焼結磁石10は、二粒子粒界にアモルファス相40を有する。図2のような構造は、Srフェライト焼結磁石10を例えば集束イオンビーム装置を用いたFIB(Focused Ion Beam)法によりイオン研磨して得られる試料を、HRTEM(高分解能透過電子顕微鏡)を用いて観察することができる。二粒子粒界におけるアモルファス相40の厚みは、例えば0〜100nm(但し、0を除く。)である。
Srフェライト結晶粒子20,22は、HRTEM(高分解能透過電子顕微鏡)を用いて所定の条件で結晶構造を解析したときに、それぞれ周期性のある結晶格子縞を有する。一方、二粒子粒界におけるアモルファス相40は、HRTEM(高分解能透過電子顕微鏡)を用いて所定の条件で結晶構造を解析したときに、双方のSrフェライト結晶粒子20,22とは、結晶格子縞の周期性が連続していない。
Srフェライト焼結磁石10の二粒子粒界におけるアモルファス相40は、以下の手順で解析することができる。Srフェライト焼結磁石10を例えば集束イオンビーム装置を用いたFIB(Focused Ion Beam)法によりイオン研磨して、厚さ100nm以下の薄片形状の試料を作製する。次に、HRTEM(高分解能透過電子顕微鏡)を用いて、試料の拡大画像の観察を行う。観察する試料は、配向軸に平行であってもよく、配向軸に垂直であってもよい。ただし、配向軸に平行な試料を観察することが好ましい。これによって、a面の粒界とc面の粒界とを同時に観察することが可能となる。
試料の観察は、エッジオン条件で、且つ2つのSrフェライト結晶粒子のそれぞれの結晶格子縞がみえるようにした方位及び倍率で行う。そのような倍率は、例えば、1万〜100万倍である。当該倍率は、Srフェライト結晶粒子20,22の大きさ及び二粒子粒界におけるアモルファス相40の大きさに応じて適宜調整することができる。
エッジオン条件での観察は以下のとおりにして行う。図3は、Srフェライト結晶粒子の粒界の結晶構造を解析する方法を示す説明図(平面図)である。HRTEMによって、2つのSrフェライト結晶粒子20,22と、これらの間に挟まれる二粒子粒界におけるアモルファス相40とを観察する。二粒子粒界と平行な軸αを中心軸として図3に示す矢印の方向に±30°の範囲で試料を回転させて試料を傾斜させる。
この±30°の回転角度の中に、二粒子粒界のアモルファス相40の深さ方向(奥行方向)が電子線入射方向と平行になる傾斜角度(当該傾斜角度を「θ」という。)が存在する場合には、この傾斜角度θにおける観察をエッジオン条件での観察とする。このような傾斜角度θが見出せない場合には、この二粒子粒界のアモルファス相40の解析に不適である。したがって、このような二粒子粒界はアモルファス相の厚みの測定に用いない。そして、別の二粒子粒界のアモルファス相40において同様の観察を行い、傾斜角度θが見出される二粒子粒界のアモルファス相40を特定する。
図4は、Srフェライト結晶粒子の粒界の結晶構造を解析する方法を示す説明図(断面図)である。図4の(A)は、試料を傾斜させる前の断面を示しており、図4の(B)は、二粒子粒界のアモルファス相40の深さ方向が電子線入射方向と平行になるように傾斜角度θで傾斜させたときの断面を示している。
図4の(B)に示すような傾斜角度θで傾斜させた状態におけるHRTEMの観察画像は、他の角度での観察画像に比べて、二粒子粒界のアモルファス相40が最も明瞭であり、且つアモルファス相40の厚みが最小となる。一方、傾斜角度がθではない観察画像(例えば、図4の(A)に示すような状態での観察画像)では、傾斜角度θにおける観察画像よりも、二粒子粒界のアモルファス相は不明瞭であり、且つアモルファス相40の厚みは大きくなる傾向にある。
上述のとおり、エッジオン条件に設定した後、以下の手順で、2つのSrフェライト結晶粒子20,22の結晶格子縞がみえるようにする。エッジオン条件(傾斜角度:θ)に調整した観察画像において、軸αに垂直な軸βを中心軸として図3及び図4に示す矢印の方向に回転させて試料を傾斜させる。そして、隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22の両方の結晶格子縞が観察できる傾斜角度(当該傾斜角度を「φ」という。)を見出す。傾斜角度φが見出せない場合、その観察位置は二粒子粒界におけるアモルファス相40の解析に不適であることから、このアモルファス相40の解析は行わない。また、傾斜角度によっては、隣接するSrフェライト結晶粒子20,22の結晶格子縞が重畳する場合がある。このような観察位置も二粒子粒界のアモルファス相40の厚みの測定に不適であることから、この二粒子粒界におけるアモルファス相40の解析は行わない。そして、別の二粒子粒界においてアモルファス相40を同様に観察して、傾斜角度φが見出された場合には、アモルファス相40の厚みの測定を行う。
アモルファス相40の解析は、傾斜角度θ及び傾斜角度φが見出される二粒子粒界のアモルファス相40を少なくとも10視野特定して行う。アモルファス相40は、二粒子粒界において、結晶格子縞の周期性がみられない領域である。なお、二粒子粒界には、数nmの粒子状の領域が観察される場合もある。このような粒子状領域は微結晶とも考えられるが、これらはSrフェライト結晶粒子20,22よりも結晶性が明らかに低い状態であることから、本明細書においてはアモルファス相に該当する。
図5は、本実施形態のフェライト焼結磁石の(A)TEM像及び(B)微細構造を示す図である。図5の(A)は、本実施形態のフェライト焼結磁石の試料を、エッジオン条件で、且つ隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22のそれぞれの結晶格子縞がみえるように調節した方位にて観察したHRTEM画像の写真である。すなわち、図5の(A)に示すHRTEM画像は、図3及び図4を参照して説明した手順を行うことによって、アモルファス相40の解析に適した条件となっている。
図5の(B)は、(A)の電子顕微鏡写真の模式図である。図5の(A)及び(B)に示すように、HRTEM画像において、隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22の二粒子粒界には、所定の厚みを有するアモルファス相40が存在している。この相の厚みは、HRTEM画像に基づいて求めることができる。
図6は、別の実施形態のSrフェライト焼結磁石の(A)TEM像及び(B)微細構造を示す図である。図6の(A)は、本実施形態のSrフェライト焼結磁石の試料を、エッジオン条件で、且つ隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22のそれぞれの結晶格子縞がみえるように調節した方位にて観察したHRTEM画像の写真である。すなわち、図6の(A)に示すHRTEM画像も、図5の(A)と同様に、図3及び図4を参照して説明した手順を行うことによって、アモルファス相40の解析に適した条件となっている。
図6の(B)は、(A)の電子顕微鏡写真の模式図である。図6の(A)及び(B)に示すように、HRTEM画像において、隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22の二粒子粒界にはアモルファス相40が存在している。
図5と図6を対比すると分かるように、図5のアモルファス相40の厚みの方が、図6のアモルファス相40の厚みよりも大きくなっている。このように二粒子粒界のアモルファス相40の厚みが大きい方が、保磁力を高くすることができる。0.8nmよりも大きい厚みを有するアモルファス相40の比率は、以下の手順で求めることができる。
図5の(A)及び図6の(A)に示すようなHRTEM画像において、アモルファス相40の厚みを、L1,L2,L3の三箇所において測定する。L1,L2,L3は、以下の(i)及び(ii)の条件を満たす任意の位置における線分であり、この線分の長さがアモルファス相40の厚みに相当する。
(i)L1,L2,L3は、いずれも粒界三重点から100nm以上離れている。
(ii)L1,L2,L3のうち、隣り合う2つの線分の間隔が10nm以上である。
異なる二粒子粒界におけるアモルファス相40を少なくとも10視野で観察し、各視野において、上記(i)及び(ii)の条件を満たすL1,L2,L3の測定を行う。全ての測定値に対して、厚みが0.8nmを超える測定値の数の比率を算出する。本明細書では、この比率が、0.8nmよりも大きい厚みを有するアモルファス相の比率に相当する。本実施形態のSrフェライト焼結磁石10の二粒子粒界において、0.8nmよりも大きい厚みを有するアモルファス相40の比率は、50%以上であり、好ましくは60%以上であり、より好ましくは65%以上である。0.8nmよりも大きい厚みを有するアモルファス相40の比率を大きくすることによって、高い保磁力を有するSrフェライト焼結磁石10にすることができる。
アモルファス相40の組成は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)とこれに付属するエネルギー分散型X線分光装置(STEM−EDS)を用いた点分析によって求めることができる。具体的には、図5,6に示すような、Srフェライト焼結磁石のエッジオン条件におけるTEM観察画像を特定する。そして、当該観察画像において、L1、L2又はL3のいずれかに沿って、アモルファス相40とこれを挟む2つのSrフェライト結晶粒子20,22の上を走査する。これによって、アモルファス相40の組成を分析することができる。
アモルファス相40におけるCaの濃度は、例えば3〜15原子%であってもよく、5〜10原子%であってもよい。アモルファス相40におけるSiの濃度は、例えば4〜20原子%であってもよく、6〜18原子%であってもよい。アモルファス相40におけるNaの濃度は、例えば0.5〜8原子%であってもよく、1〜4原子%であってもよい。アモルファス相40におけるSrの濃度は、例えば1〜20原子%であってもよく、2〜15原子%であってもよい。
上述の各元素の濃度は、Ca,Si,Na,Sr及びFeの合計濃度を基準として求められる濃度である。したがって、当該組成におけるFeの濃度は、上述の各元素の濃度の合計値の残部となる。各元素は、通常、化合物としてアモルファス相40に含まれる。磁壁のピニング効果を高めて保磁力を一層高くする観点から、アモルファス相40は、Srフェライト結晶粒子20,22よりも高い濃度でSrを含有することが好ましい。このように高い濃度でSrを含有するアモルファス相40は、粒界相の形成の際に、Srフェライト結晶粒子の一部がアモルファス化することによって形成されるとも考えられる。
Srフェライト焼結磁石10は、下記式(3)を満足することが好ましい。Srフェライト焼結磁石10は、アモルファス相40を含有する二粒子粒界の割合が高いことから、式(3)を満足するような高い磁気特性を有する。この式(3)を満足するSrフェライト焼結磁石10は、十分に優れた磁気特性を有する。このようなSrフェライト焼結磁石10によって、一層高い効率を有するモータ及び発電機を提供することができる。また、Srフェライト焼結磁石10は、下記式(4)を満足することがより好ましい。また、式(5)を満足することが好ましく、式(6)を満足することがより好ましい。これによって、Srフェライト焼結磁石10の磁気特性が一層高くなり、一層高い効率を有するモータ及び発電機を提供することができる。
Br+1/3HcJ≧5.5 (3)
Br+1/3HcJ≧5.6 (4)
(BH)max+1/2HcJ≧6.1 (5)
(BH)max+1/2HcJ≧6.5 (6)
式(3)〜(6)中、Br、HcJ、及び(BH)maxは、それぞれ残留磁束密度(kG)、保磁力(kOe)、及び最大エネルギー積(MGOe)を示す。
Srフェライト焼結磁石10の角型は好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。このような優れた磁気特性を有することによって、モータや発電機に一層好適に用いることができる。
Srフェライト焼結磁石10は、例えば、フューエルポンプ用、パワーウィンドウ用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータの磁石として使用することができる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータの磁石として使用することができる。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータの磁石としても使用することができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータの磁石としても使用することが可能である。
Srフェライト焼結磁石10は、上述のモータの部材に接着してモータ内に設置される。優れた磁気特性を有するSrフェライト焼結磁石10は、クラックの発生が十分に抑制されていることから、モータ部材と十分強固に接着される。このように、Srフェライト焼結磁石10がモータの部材から剥離することを十分に抑制することができる。このため、Srフェライト焼結磁石10を備える各種モータは、高い効率と高い信頼性とを兼ね備える。
図7は、Srフェライト焼結磁石10を備えるモータ30の実施形態を模式的に示す断面図である。本実施形態のモータ30は、ブラシ付き直流モータであり、有底筒状のハウジング31(ステータ)と、ハウジング31の内周側に同心に配置された回転可能なロータ32と、を備える。ロータ32は、ロータ軸36とロータ軸36上に固定されたロータコア37とを備える。ハウジング31の開口部にはブラケット33が嵌め込まれており、ロータコアは、ハウジング31とブラケット33とで形成される空間内に収容されている。ロータ軸36は、互いに対向するように、ハウジング31の中心部とブラケット33の中心部にそれぞれ設けられた軸受34,35によって回転可能に支持されている。ハウジング31の筒部分の内周面には、2個のC型のSrフェライト焼結磁石10が互いに対向するように固定されている。
図8は、図7のモータ30のVIII−VIII線断面図である。モータ用磁石としてのSrフェライト焼結磁石10は、その外周面を接着面として、ハウジング31の内周面上に接着剤で接着されている。Srフェライト焼結磁石10は、表面において粉体等の異物の析出が十分に抑制されていることから、ハウジング31とSrフェライト焼結磁石10との接着性は良好である。したがって、モータ30は優れた特性とともに優れた信頼性を有する。
Srフェライト焼結磁石10の用途は、モータに限定されるものではなく、例えば、発電機、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、又はアイソレータ等の部材として用いることもできる。また、磁気記録媒体の磁性層を蒸着法又はスパッタ法等で形成する際のターゲット(ペレット)として用いることもできる。Srフェライト焼結磁石10は、以下に説明する製造方法によって製造することができる。
この製造方法は、鉄化合物の粉末、ストロンチウム化合物の粉末、並びに、ナトリウム化合物を混合して混合物を調製する混合工程と、該混合物を850〜1100℃で焼成して、六方晶構造を有するSrフェライト粒子を含む仮焼体を得る仮焼工程と、Srフェライト粒子を含む仮焼体を粉砕して粉砕粉を得る粉砕工程と、粉砕粉を磁場中成形して成形体を得る成形工程と、成形体を1000〜1250℃で焼成してSrフェライト焼結磁石を得る焼結工程と、を有する。
混合工程は、仮焼用の混合物を調製する工程である。混合工程では、まず、出発原料を秤量して所定の割合で配合し、湿式アトライタ、又はボールミル等で1〜20時間程度混合するとともに粉砕処理を行う。出発原料としては、鉄化合物(Fe化合物)の粉末、ストロンチウム化合物(Sr化合物)の粉末、及び、ナトリウム化合物(Na化合物)が挙げられる。ナトリウム化合物は粉末状であってもよく、液状であってもよい。
Fe化合物及びSr化合物としては、酸化物又は焼成により酸化物となる、炭酸塩、水酸化物又は硝酸塩等の化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えば、SrCO3、Fe2O3等が挙げられる。また、これらの成分の他にLa(OH)3、及びCo3O4などを添加してもよい。Na化合物としては、例えば、炭酸塩、珪酸塩、Naを含む有機化合物(分散剤)が挙げられる。ナトリウムの珪酸塩としては、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、または水ガラスなどでもよく、これらは粉体でも液体でもよい。有機化合物としては、ナトリウム塩が挙げられる。具体的には、脂肪酸のナトリウム塩、及び、ポリカルボン酸のナトリウム塩等が挙げられる。
混合工程におけるNa化合物の配合量は、Na2O換算で、Fe化合物及びSr化合物の合計に対して、例えば、0.01〜1.5質量%とする。混合工程では、Fe化合物、Sr化合物及びNa化合物の他に、他の副成分を添加してもよい。そのような副成分としては、SiO2及びCaCO3等が挙げられる。なお、各副成分は、湿式で成形を行う場合にスラリーの溶媒とともに流出することがあるため、Srフェライト焼結磁石における目標の含有量よりも多めに配合することが好ましい。
出発原料の平均粒径は特に限定されず、例えば0.1〜2.0μmである。出発原料のBET法による比表面積は、2m2/g以上であることが好ましい。これによって、一層微細な粉砕粉を得ることができる。混合工程で調製する混合物は、粉末状であってもよく、溶媒中に混合粉末が分散したスラリーであってもよい。
仮焼工程は、混合工程で得られた混合物を仮焼する工程である。仮焼は、空気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。仮焼工程における焼成温度は、例えば850〜1100℃であり、好ましくは900〜1000℃である。仮焼温度が高くなり過ぎると、アモルファス相40の厚みが小さくなる傾向にある。仮焼温度における仮焼時間は、好ましくは0.1〜5時間、より好ましくは0.5〜3時間である。仮焼して得られるSrフェライト粒子におけるSrフェライトの含有量は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。本実施形態の製造方法では、仮焼工程の前にNa化合物を添加するとともに、上述の条件で仮焼を行うことが、アモルファス相40の厚みの増大に寄与している。
Srフェライト粒子の飽和磁化は、好ましくは67emu/g以上であり、より好ましくは70emu/g以上であり、さらに好ましくは70.5emu/g以上である。このように高い飽和磁化を有するSrフェライト粒子を生成させることによって、一層高い磁気特性を有するSrフェライト焼結磁石10が得られる。本明細書における飽和磁化は、市販の振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定することができる。
仮焼工程で得られるSrフェライト粒子のBET法による比表面積は、最終的に得られるSrフェライト焼結磁石の組織を十分に微細にする観点から、2m2/g以上であり、好ましくは2.5m2/g以上であり、より好ましくは2.7m2/g以上である。また、Srフェライト粒子のBET法による比表面積は、成形体を作製する際の成形性を良好にする観点から、15m2/g以下であり、好ましくは10m2/g以下であり、より好ましくは7m2/g以下である。なお、本明細書における比表面積は、市販のBET比表面積測定装置(Mountech製、商品名:HM Model−1210)を用いて測定することができる。
仮焼工程で得られるSrフェライト粒子の一次粒子の平均粒径は、焼結性を良好にしつつ最終的に得られるSrフェライト焼結磁石の組織を十分に微細にする観点から、1.0μm以下であり、好ましくは0.8μm以下であり、より好ましくは0.7μm以下であり、さらに好ましくは0.6μm以下である。また、Srフェライト粒子の一次粒子の平均粒径は、成形体を作製する際の成形性を良好にする観点から、0.1μm以上であり、好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.3μm以上である。なお、本明細書における一次粒子の平均粒径は、TEM又はSEMによる観察画像を用いて求めることができる。具体的には、数百個の一次粒子を含むSEM又はTEMの観察画像において、画像処理を行って粒径分布を測定する。測定した個数基準の粒径分布から、一次粒子の粒径の個数基準の平均値を算出する。このようにして測定される平均値を、Srフェライト粒子の一次粒子の平均粒径とする。
粉砕工程では、混合工程で得られた混合物を仮焼して得られるSrフェライト粒子の粉砕を行い、粉砕粉を調製する。本実施形態では、粉砕工程を、粗粉砕工程と微粉砕工程の二段階で粉砕を行う。なお、別の幾つかの実施形態では、粉砕工程は、一段階で行ってもよい。Srフェライト粒子は、通常顆粒状又は塊状であるため、まずは粗粉砕工程を行うことが好ましい。粗粉砕工程では、振動ロッドミル等を使用して乾式で粉砕を行って、粗粉砕粉を得る。本実施形態のフェライト粒子は、粗粉砕粉に限定されるものではなく、後述する微粉砕粉であってもよい。
微粉砕工程では、上述のようにして調製した粗粉砕粉を、湿式アトライタ、ボールミル、又はジェットミル等を用いて湿式で粉砕して微粉砕粉を得る。粉砕時間は、例えば湿式アトライタを用いる場合、30分間〜10時間であり、ボールミルを用いる場合、5〜50時間である。これらの時間は、粉砕方法によって適宜調整することが好ましい。本実施形態の製造方法では、従来よりも低い温度で仮焼を行っているため、Srフェライトの一次粒子は従来よりも微細である。したがって、粉砕工程(特に微粉砕工程)では、主に一次粒子が凝集して形成された二次粒子が、微細な一次粒子に分散されることとなる。
粗粉砕工程及び/又は微粉砕工程では、副成分であるSiO2,CaCO3,SrCO3及びBaCO3等の粉末を添加してもよい。このような副成分を添加することによって、焼結性を向上すること、及び磁気特性を向上することができる。なお、これらの副成分は、湿式で成形を行う場合にスラリーの溶媒とともに流出することがあるため、Srフェライト焼結磁石における目標の含有量よりも多めに配合することが好ましい。
フェライト焼結磁石の磁気的配向度を高めるために、上述の副成分に加えて、多価アルコールなどの分散剤を微粉砕工程で添加することが好ましい。分散剤の添加量は、Srフェライト粒子を基準として0.05〜5.0質量%、好ましくは0.1〜3.0質量%、より好ましくは0.3〜2.0質量%である。なお、添加した分散剤は、焼結工程で熱分解して除去される。
粉砕工程で得られる粉砕粉のBET法による比表面積は、最終的に得られるSrフェライト焼結磁石の組織を十分に微細にする観点から、好ましくは6m2/g以上であり、より好ましくは8m2/g以上である。また、粉砕粉のBET法による比表面積は、成形体を作製する際の成形性を良好にする観点から、好ましくは12m2/g以下であり、より好ましくは10m2/g以下である。このような比表面積を有する粉砕粉は、十分に微細で、且つ取扱い性及び成形性に優れることから、工程の簡便性を維持しつつ、Srフェライト焼結磁石の組織を一層微細化して、Srフェライト焼結磁石の磁気特性を一層向上することができる。
成形工程は、粉砕粉を磁場中成形して成形体を作製する工程である。成形工程では、まず、粉砕工程で得られた粉砕粉を磁場中で成形して成形体を作製する磁場中成形を行う。磁場中成形は、乾式成形、又は湿式成形のどちらの方法でも行ってもよく、磁気的配向度を高くする観点から、好ましくは湿式成形である。湿式成形を行う場合、粉砕粉と分散媒とを配合して粉砕する湿式粉砕を行ってスラリーを調製し、これを用いて成形体を作製することもできる。スラリーの濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行うことができる。
スラリー中における固形分の含有量は、好ましくは30〜85質量%である。スラリーの分散媒としては水又は非水系溶媒を用いることができる。スラリーには、水に加えて、グルコン酸、グルコン酸塩、又はソルビトール等の界面活性剤(分散剤)を添加してもよい。このようなスラリーを用いて磁場中成形を行って、成形体を作製する。成形圧力は例えば0.1〜0.5トン/cm2であり、印加磁場は例えば5〜15kOeである。
焼結工程は、成形体を、1000〜1250℃で焼成してSrフェライト焼結磁石を得る工程である。焼成は、通常、大気中等の酸化性雰囲気中で行う。焼成温度は、1000〜1250℃であり、例えば1100〜1200℃である。焼成温度における焼成時間は、例えば0.5〜3時間である。焼成時の降温速度は、2〜10℃/分とすることが好ましい。焼成温度及び降温速度を調整することによって、アモルファス相40の厚みを調整することができる。以上の工程によって、焼結体、すなわちSrフェライト焼結磁石10を得ることができる。
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、Srフェライト焼結磁石の形状は、図1の形状に限定されず、上述の各用途に適した形状に適宜変更することができる。また、本発明のモータも図7,8の実施形態に限定されるものではなく、種々のモータが含まれる。同様に、発電機にも種々の形態が含まれる。
本発明の内容を実施例及び比較例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
[Srフェライト焼結磁石の調製]
以下の出発原料を準備した。Fe2O3粉末はルスナー法によって製造されたものである。比表面積はBET法によって測定された値である。
・Fe2O3粉末(比表面積:4.4m2/g)220g
・SrCO3粉末(比表面積:5.0m2/g)35.23g
上述のFe2O3粉末及びSrCO3粉末を、湿式ボールミルを用いて16時間粉砕しながら混合してスラリーを得た。このスラリーに、このスラリーに、メタ珪酸ナトリウム粉末を添加した。このときの添加量は、Fe2O3粉末及びSrCO3粉末の合計質量に対して、Na2O換算で0.42質量%とした。その後、スラリーのスプレー乾燥を行って粒径が約10μmの顆粒状の混合物を得た後、当該混合物を大気中、950℃の仮焼温度で1時間焼成して、顆粒状のSrフェライト粒子を得た。
Srフェライト粒子130gに、水、ソルビトール、SiO2粉末、CaCO3粉末を添加し、ボールミルで湿式粉砕を22時間行ってスラリーを得た。このとき、各添加物は、フェライト粒子を基準として、ソルビトールを1.0質量%、SiO2粉末を0.10質量%、CaCO3粉末を0.6質量%の割合で加えた。このスラリーを脱水して粉砕粉を得た。得られた粉砕粉のBET法による比表面積は10.0m2/gであった。
このスラリー(固形分濃度:75~80質量%)に調整した後、湿式磁場成形機に導入し、12kOeの印加磁場中で成形して円柱形状の成形体を得た。この成形体を、大気中、1170℃の焼成温度で1時間焼成して、実施例1のSrフェライト焼結磁石を得た。
[Srフェライト焼結磁石の評価]
<磁気特性の評価>
フェライト焼結磁石の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを用いて磁気特性を測定した。測定では、Br、HcJ、bHc及び(BH)maxを求めるとともに、Brの90%になるときの外部磁界強度(Hk)を測定し、これに基づいて角型(Hk/HcJ(%))を求めた。また、Br(kG)+1/3HcJ(kOe)の値と、(BH)max(MGOe)+1/2HcJ(kOe)の値を算出した。これらの結果を表1及び表2に示す。
<組成分析>
Srフェライト焼結磁石の組成を蛍光X線分析で測定した。Srフェライト焼結磁石全体を基準としたとき、各元素を酸化物に換算したときの含有量(質量基準)を表3に示す。Srフェライト焼結磁石は、Na,Si,Ca,Fe,Srの他に、原料不純物に起因する微量成分(Mn,Al,Ba,Cr)を含んでいた。上記各酸化物の含有量は、これらの不純物についても酸化物に換算して算出したうえで求められた値である。なお、表3における各酸化物の合計値が100質量%とならないのは、有効数字以下を四捨五入していることと、上記微量成分以外の成分の影響によるものである。
<二粒子粒界におけるアモルファス相40の厚み測定>
Srフェライト焼結磁石を、集束イオンビーム装置(FEI社製、製品名:NOVA 200)を用いたFIB(Focused Ion Beam)法によりイオン研磨して、厚さ100nmの薄片形状の試料を作製した。HRTEM(高分解能透過電子顕微鏡、日本電子株式会社製、製品名:JEM−2100F)を用いて、配向軸に平行な断面を12万倍に拡大して観察した。観察は、図3及び図4を参照して説明した操作に基づいて、エッジオン条件で、且つ隣接する2つのSrフェライト結晶粒子のそれぞれの結晶格子縞がみえるようにした方位にて行った。
図9は、実施例1のSrフェライト焼結磁石の(A)TEM像及び(B)微細構造を示す図である。図9の(A)は、実施例1のSrフェライト焼結磁石の試料を、エッジオン条件で、且つ隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22のそれぞれの結晶格子縞がみえるように調節した方位にて観察したHRTEM画像の写真である。図9の(B)は、(A)の電子顕微鏡写真における構造を模式的に示している。図9の(A),(B)に示すように、HRTEM画像において、隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22の間の二粒子粒界には、結晶格子縞の周期性が見られないアモルファス相40が存在していた。
図9のような観察ができる画像を30視野特定し、それぞれの二粒子粒界におけるアモルファス相40の厚みL1,L2,L3を測定した。測定結果は、表4に示すとおりであった。また、この測定結果に基づく、アモルファス相40の厚みの度数分布を表6に示す。表6及び図10は、表4に示す測定結果を0.2nm毎の階級に分けた場合の累積度数分布を示す。なお、HRTEMの分解能を考慮して、度数分布の階級は0.2nm毎とした。
アモルファス相40の組成は、走査透過型電子顕微鏡にエネルギー分散型X線分光装置が付属した測定装置(STEM−EDS,日本電子株式会社製,製品名:JEM−2100F)を用いた点分析によって求めた。STEM−EDSによる測定では、図9に示すような観察画像において、アモルファス相40とこれを挟む2つのSrフェライト結晶粒子20,22上を走査して、アモルファス相及びSrフェライト結晶粒子20,22のNa,Ca,Si,Fe,Srの濃度を測定した。
図11は、上記測定装置によるアモルファス相40及びその周辺部における組成分析の測定結果を示すグラフである。図11は、アモルファス相40を横断する測定ラインに沿って、Na,Ca,Si,Fe,Srの濃度(原子%)を測定した場合の結果を示している。なお、図11に示す濃度は、軽元素(酸素)を除いて算出された値である。図11における横軸は、アモルファス相40の幅方向に沿ってSTEM−EDSを走査した距離であり、縦軸は各元素の濃度である。
図11に示すとおり、横軸の値が概ね2〜8nmの距離で、Ca及びSiの濃度が高くなっている。図11の横軸2〜8nmにおける組成は、二粒子粒界に含まれるアモルファス相40の組成に相当する。Ca濃度が最も高い距離(約4.2nm)におけるアモルファス相40の組成を表7に示す。表7に示されるSrフェライト結晶粒子20,22の組成は、Srフェライト結晶粒子20の組成分析値5点とSrフェライト結晶粒子22の組成分析値5点の計10点から算出された平均値である。10点の測定点はいずれも二粒子粒界42から10nm以上離れている。
(実施例2)
Srフェライト粒子に対するソルビトールの添加量を、ボールミルを用いた湿式粉砕時に0.2質量%とし、粉砕終了後に0.8質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、Srフェライト焼結磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1〜4、表6及び図10に示す。
(比較例1)
Fe2O3粉末1000g、SrCO3粉末161.2g、及びSiO2粉末2.3gを、湿式アトライタを用いて粉砕しながら混合し、乾燥及び整粒を行った。このようにして得られた粉末を、大気中、1250℃の仮焼温度で3時間焼成し、顆粒状のSrフェライト粒子を得た。乾式振動ロッドミルを用いて、このSrフェライト粒子を粗粉砕して、BET法による比表面積が1m2/gのSrフェライト粒子を調製した。
粗粉砕したSrフェライト粒子130gに、ソルビトール1.3g(1.0質量%)、を添加し、ボールミルを用いて湿式粉砕を21時間行ってスラリーを得た。ソルビトールの添加量は、粗粉砕したSrフェライト粒子の質量を基準として、1質量%とした。粉砕後の微粉末の比表面積は6〜8m2/gであった。粉砕終了後のスラリーに対してNa2CO3粉末を成形後に0.1質量%残存するように添加して攪拌した。その後、スラリーの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を用いて12kOeの印加磁場中で成形を行って成形体を得た。これらの成形体を、大気中で、1220℃の焼成温度で焼成して、Srフェライト焼結磁石を得た。このようにして得られたSrフェライト焼結磁石を、実施例1と同様にして評価した。ただし、アモルファス相40の厚みの測定(L1,L2及びL3)は、10視野にて行った。評価結果を表1〜4、表6及び図10に示す。
(比較例2)
SiO2粉末0.78g(Srフェライト粒子に対して0.6質量%)及びCaCO3粉末1.3g(Srフェライト粒子に対して1.0質量%)を添加したこと、粉砕終了後のスラリーに対してNa2CO3粉末を成形後に0.05質量%残存するように添加したこと、並びに成形体の焼成温度を1200℃に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、Srフェライト焼結磁石を調製し、評価を行った。ただし、アモルファス相40の厚みの測定(L1,L2及びL3)は、21視野にて行った。評価結果を表1〜3,表5,表6及び図10に示す。
図12は、比較例2のSrフェライト焼結磁石の(A)TEM像及び(B)微細構造を示す図である。図12の(A)は、実施例1と同様に、比較例2のSrフェライト焼結磁石の試料を、エッジオン条件で、且つ隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22のそれぞれの結晶格子縞がみえるように調節した方位にて観察したHRTEM画像の写真である。図12の(B)は、(A)における構造を模式的に示している。図12の(A)及び(B)に示すように、HRTEM画像において、隣接する2つのSrフェライト結晶粒子20,22の二粒子粒界42には、厚みが測定できるほどのアモルファス相が存在していなかった。このような場合のアモルファス相40の厚みの測定値は、表4で「0」と示した。
図13は、上記測定装置による比較例2の二粒子粒界42及びその周辺部における組成分析の測定結果を示すグラフである。図13は、二粒子粒界42を横断する方向に沿って、Na,Ca,Si,Fe,Srの濃度(原子%)を測定した場合の結果を示している。図13に示すとおり、横軸の値が3〜9nmの距離で、Ca及びSiの濃度が高くなっている。図13に示すとおり、Ca及びSiのピークの位置と、Srのピークの位置(距離)が一致しなかった。図12及び図13に示す結果から、二粒子粒界42には、厚みの測定ができるほどのアモルファス相が形成されていないことが確認された。表7には、二粒子粒界42の組成のうち、Ca濃度が最も高い距離(約5.3nm)における組成を示している。表7に示されるSrフェライト結晶粒子20,22の組成は、Srフェライト結晶粒子20の組成分析値5点とSrフェライト結晶粒子22の組成分析値5点の計10点から算出された平均値である。10点の測定点はいずれも二粒子粒界42から10nm以上離れている。
(比較例3)
SiO2粉末0.78g(フェライト粒子に対して0.6質量%)及びCaCO3粉末1.82g(フェライト粒子に対して1.4質量%)を添加したこと、Na2CO3粉末を添加しなかったこと、成形体の焼成温度を1240℃に変更したこと、並びに、Na2CO3粉末を添加しなかったこと以外は、比較例1と同様にして、Srフェライト焼結磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1〜3,表5,表6、及び図10に示す。
表1,2,6に示すとおり、0.8nmよりも大きい厚みを有するアモルファス相の比率が50%以上である実施例1,2のSrフェライト焼結磁石は、該比率が低い比較例1〜3のSrフェライト焼結磁石よりも高い磁気特性(Br,HcJ,(BH)max)を有することが確認された。