詳細な説明
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈からそうではないことが明らかでない限り、単数および複数両方の指示対象を含む。
用語「を含んでなる(comprising)」、「を含んでなる(comprises)」および「からなる(comprised of)」は、本明細書で使用する場合、「を含む(including)」、「を含む(includes)」または「を含有する(containing)」、「を含有する(contains)」と同義であり、包括的または非限定的であり、追加の列挙されていない部材、要素または方法の工程を排除しない。これらの用語は、特許用語法において十分に確立された意味を享受する「からなる」および「から実質的になる」も包含する。
終点による数値範囲の記載は、それぞれの範囲内に包含される総ての数および分数、ならびに記載した終点を含む。
本明細書で使用する場合、用語「約」または「およそ」は、パラメーター、量、時間的期間などの測定可能な値を指す場合、開示された発明を実施するのにそのような変動が適当である限り、明示された値のおよびからの変動、例えば、明示された値のおよびからの+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下の変動を包含することを意味する。修飾語「約」が指す値自体も、具体的に、および好ましく開示されると理解されるべきである。
用語「1以上の」または「少なくとも1つの」、例えば、1以上の部材または部材の群の少なくとも1つの部材は、それ自体明確であるが、さらなる例示によって、この用語は、とりわけ、前記部材のいずれか1つ、または前記部材のいずれか2つ以上、例えば、前記部材のいずれか3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上もしくは7つ以上など、および総ての前記部材までへの言及を包含する。別の例では、「1以上の」または「少なくとも1つの」は、1、2、3、4、5、6、7以上を指し得る。
本明細書における発明の背景の考察は、本発明の文脈を説明するために含まれる。これは、言及される材料が、特許請求の範囲のいずれかの優先日の時点で、いずれかの国において発表された、公知であった、または共通の一般知識の一部であったことを容認するものとしてみなされるものではない。
本開示を通じて、種々の刊行物、特許および発表済みの特許明細書は、引用を確認することにより参照される。本明細書において引用される総ての文書は、ここに引用することによりその全体が本明細書の一部とされる。特に、本明細書において具体的に言及されるそのような文書の教示または項は、引用することにより本明細書の一部とされる。
そうではないことが定義されない限り、技術および科学用語を含む、本発明の開示において使用される総ての用語は、本発明が属する当技術分野の当業者により一般に理解される意味を有する。さらなるガイダンスにより、本発明の教示をよく理解するために用語の定義が含まれる。本発明の特定の側面または本発明の特定の実施形態に関連して特定の用語が定義される場合、そのような含意は、そうではないことが定義されない限り、本明細書全体を通じて、すなわち、本発明の他の複数の側面または実施形態の文脈においても適用されることを意味する。
以下の節では、本発明の異なる複数の側面または実施形態をより詳細に定義する。そのように定義された各側面または実施形態は、そうではないことが明確に示されていない限り、いずれかの他の1つまたは複数の側面または実施形態と組み合わせてよい。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された任意の他の1つまたは複数の特徴と組み合わせてよい。
本明細書全体を通じて、「一つの実施形態」、「ある実施形態」への言及は、実施形態と関連して説明される特定の特徴(feature)、構造または特徴(characteristic)が、本発明の少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通じて種々の場所における句「一つの実施形態において」または「ある実施形態において」の出現は、必ずしも総てが同じ実施形態に言及するわけではないが、そうである場合もある。さらに、特定の複数の特徴(features)、構造または特徴(characteristics)は、1以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかなように、任意の好適な様式で組み合わせてよい。さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の複数の実施形態に含まれる他の複数の特徴ではないいくつかの特徴を含むが、異なる複数の実施形態の複数の特徴の組合せは、当業者により理解されるように、本発明の範囲内であり、異なる複数の実施形態を形成することを意味する。例えば、添付の特許請求の範囲では、特許請求の範囲に記載の複数の実施形態のいずれかを任意の組合せで使用することができる。
本発明の特定の代表的な複数の実施形態を説明する実験の項により実証されるように、本発明者らは、移植能が増大したMSC由来細胞またはMSC由来細胞の集団を得る方法を同定した。より詳しくは、本発明者らは、意外にも、MSCまたはMSC由来細胞をヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体、好ましくは、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させると、標準的で均一な、小さな細胞サイズを有する新たなMSC由来細胞集団を得ることができることを見出した。特定の複数の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、FGF-2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の組合せ、好ましくは、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触する。このような標準的で均一な、小さなサイズは、改善された移植特性、例えば、(i)前記MSC由来細胞の非経口(例えば、静脈内を含む血管内)投与の可能性、(ii)容量が制限された調節可能かつ高い細胞濃度をin vivoで送達できる可能性、(iii)優れたin vivo安全性プロファイル、および/または(iv)非経口で送達した場合の優れた注射筒の操作性を示す。従って、第1の側面は、MSC由来細胞をMSCから得る方法であって、MSCをin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよび少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを含んでなる方法を提供する。
本明細書で使用する場合、用語「間葉系幹細胞」または「MSC」は、間葉系統、一般に、2以上の間葉系統、より一般に、3以上の間葉系統、例えば、骨軟骨芽細胞(骨および軟骨)、骨芽細胞(骨)、軟骨芽細胞(軟骨)、筋細胞(筋肉)、腱細胞(腱)、線維芽細胞(結合組織)、脂肪細胞(脂肪)および間質生成細胞(stromogenic)(骨髄間質)系統の細胞を産生する能力を有する成熟中胚葉由来幹細胞を指す。MSCは、生体サンプル、好ましくは、ヒト対象の生体サンプル、例えば、骨髄、海綿骨、血液、臍帯、胎盤、胎児卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には、胎児および青年の皮膚、骨膜、歯髄、腱ならびに脂肪組織から単離され得る。本明細書で使用する場合、用語「生体サンプル」または「サンプル」は、生物源、例えば、動物またはヒト対象、細胞培養物、組織サンプルなどの生物体から得られたサンプルを指す。動物またはヒト対象の生体サンプルは、動物またはヒト対象から除去された、その細胞を含んでなるサンプルを指す。動物またはヒト対象の生体サンプルは、1以上の組織型を含んでなり得、1以上の組織型の細胞を含んでなり得る。動物またはヒト対象の生体サンプルを得る方法は、当技術分野で周知であり、例えば、組織生検または採血が挙げられる。ヒトMSC、それらの単離、in vitroでの増殖、および分化は、例えば、米国特許第5,486,359号;米国特許第5,811,094号;米国特許第5,736,396号;米国特許第5,837,539号;または米国特許第5,827,740号に記載されている。当技術分野で記載の、および当技術分野で記載の任意の方法により単離された任意のMSCは、本発明の方法において好適であり得る。特に、MSCは、骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨芽細胞へのin vitroでの三系統間葉系分化の能力を示すことと定義され得る(Dominici et al., 2006, vol. 8, 315)。
用語「MSC」は、MSCの後代、例えば、動物またはヒト対象の生体サンプルから得られたMSCのin vitroまたはex vivoでの増殖(proliferation)(繁殖/増殖(expansion))により得られた後代も包含する。
用語「幹細胞」は、一般に、非特殊化のまたは比較的特殊化されていない増殖能を有する細胞を指し、この細胞は、自己複製能を有する、すなわち、分化せずに増殖することができ、また、この細胞またはこの細胞の後代は、少なくとも1つの比較的より特殊化された細胞型を生じることができる。この用語は、実質的に無制限の自己複製が可能な幹細胞、すなわち、幹細胞の後代またはその少なくとも一部が、母幹細胞の非特殊化のまたは比較的特殊化されていない表現型、分化能、および増殖能を実質的に保持している幹細胞、ならびに、制限された自己複製を示す幹細胞、すなわち、その後代または一部のさらなる増殖能および/または分化能が、母細胞と比較して明らかに低減している幹細胞を包含する。例示として、限定されるものではないが、幹細胞は、1以上の系統とともに分化して、いっそう比較的より特殊化された細胞を産生することができる子孫を生じ得、そのような子孫および/またはいっそう比較的より特殊化された細胞は、それ自身が本明細書に定義される幹細胞であり得、またはさらには、最終分化細胞、すなわち、有糸分裂後であり得る完全に特殊化された細胞を産生し得る。
本明細書で使用する場合、用語「成熟幹細胞」は、例えば、成熟期に達した後など、胎生期または好ましくは出生後(例えば、限定されるものではないが、特に、ヒト生物体に関しては、出生後少なくとも1ヵ月齢、例えば、出生後少なくとも2ヵ月、少なくとも3ヵ月、例えば、少なくとも4ヵ月、少なくとも5ヵ月、例えば、少なくとも6ヵ月齢、例えば、出生後1年以上、5年以上、少なくとも10年以上、15年以上、20年以上、または25年以上の齢)の生物体において存在する、またはその生物体から得られた(例えば、単離された)幹細胞を指す。例示として、成熟幹細胞は、さもなければ従来の用語「乳児」、「小児」、「若年者」、「青年」または「成人」で記載されるヒト対象から得ることができる。
好ましいMSCは、少なくとも骨軟骨芽細胞系統の細胞、例えば、骨芽細胞系統の細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞および/もしくは骨前駆細胞および/もしくは前骨芽細胞および/もしくは骨芽細胞および/もしくは骨細胞、ならびに/または軟骨芽細胞系統の細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞および/もしくは軟骨前駆細胞および/もしくは前軟骨芽細胞および/もしくは軟骨芽細胞および/もしくは軟骨細胞を産生する能力を有する。
さらに好ましいMSCは、少なくとも骨芽細胞(骨)系統の細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞および/もしくは骨前駆細胞および/もしくは前骨芽細胞および/もしくは骨芽細胞および/もしくは骨細胞など;または少なくとも軟骨芽細胞(軟骨)系統の細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞および/もしくは軟骨前駆細胞および/もしくは前軟骨芽細胞および/もしくは軟骨芽細胞および/もしくは軟骨細胞;線維芽細胞(結合組織)系統の細胞、例えば、線維芽細胞、線維細胞;または少なくとも滑膜細胞(滑液)の細胞;または腱細胞などを産生する能力を有する。
特に断りのない限り、「対象」または「患者」は、互換的に使用され、動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物を指し、具体的には、ヒト患者および非ヒト哺乳動物を含む。好ましい患者は、ヒト対象である。動物対象は、動物の出生前形態、例えば、胎児を含む。ヒト対象は、胎児を含み得るが、胚は含まない。
ある実施形態において、MSCは、健常対象から得てよく、このことは、前記MSCから得られたMSC由来細胞の機能性を保証する助けとなり得る。
別の実施形態において、MSCは、MSC由来細胞の移植を必要とするヒト対象から得られる。
本明細書で教示する製品または方法の特定の複数の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、処置される対象に対して同種であり得る。MSCまたはMSC由来細胞に関する用語「同種」または「相同」は、MSCまたはMSC由来細胞が、MSC由来細胞と接触するまたはそれで処置される対象以外の、1以上の(プールされた)対象から得られることを意味する。
本明細書で教示する製品または方法の特定の複数の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、処置される対象に対して自己由来であり得る。MSCまたはMSC由来細胞に関する用語「自己由来」は、MSCまたはMSC由来細胞が、MSC由来細胞と接触するまたはそれで処置される同じ対象から得られることを意味する。
本明細書で教示する製品または方法の特定の複数の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、上記で定義される自己由来および同種(すなわち、相同)のMSCまたはMSC由来細胞の混合物を含んでなり得る。好ましくは、MSCまたはMSC由来細胞は、処置される対象に対して同種である。
本明細書で使用する場合、用語「間葉系幹細胞由来細胞」または「MSC由来細胞」は、MSCの分化により得られた、特に、MSCのin vitro(ex vivoを含む)での分化により得られた間葉系統(例えば、骨軟骨芽細胞(骨および軟骨)、骨芽細胞(骨)、軟骨芽細胞(軟骨)、筋細胞(筋肉)、腱細胞(腱)、線維芽細胞(結合組織)、脂肪細胞(脂肪)、または間質生成細胞(stromogenic)(骨髄間質)系統)の細胞を指す。
MSCの分化は、所望の細胞型に向かったMSCの分化を誘導することが可能な条件下でのMSCの培養、より一般に、所望の細胞型に向かったMSCの分化を誘導する能力を有する1以上の剤(例えば、成長因子)を含んでなる培地中でのMSCの培養が関与し得る。MSCの分化に関するプロトコールは、それ自体公知である(とりわけ、WO 2007/093431;さらには、Mesenchymal Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology), D.J. Prockop et al.編 Humana Press, 2008, 449巻, 93-107頁におけるREGER, R.L. et al. ‘Differentiation and Characterization of Human MSCs’; VERMURI, M.C. et al. (編). Mesenchymal Stem Cell Assays and Applications (Methods in Molecular Biology). Humana Press, 2011, 698巻, 特に201-352頁参照)。
本明細書で使用する場合、用語「成長因子」は、単独でまたは他の物質により調節された場合のいずれかで、種々の細胞型の増殖、成長、分化、生存および/または遊走に影響を及ぼす、また、生物体における発生的、形態的および機能的変化に影響を及ぼし得る生物活性物質を指す。成長因子は、一般に、成長因子に応答する細胞内に存在する受容体(例えば、表面または細胞内受容体)にリガンドとして結合することにより、作用する。本明細書における成長因子は、特に、1以上のポリペプチド鎖を含んでなるタンパク質性実体であり得る。例示として、限定されるものではないが、用語「成長因子」は、線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリー、骨形成タンパク質(BMP)ファミリー、血小板由来成長因子(PDGF)ファミリー、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)ファミリー、神経成長因子(NGF)ファミリー、表皮成長因子(EGF)ファミリー、インスリン様成長因子(IGF)ファミリー、増殖分化因子(GDF)ファミリー、肝細胞成長因子(HGF)ファミリー、造血成長因子(HeGF)、血小板由来内皮細胞成長因子(PD-ECGF)、アンジオポエチン、血管内皮成長因子(VEGF)ファミリー、グルココルチコイドなどのメンバーを包含する。当業者は、成長因子または成長因子の組合せは、所望の細胞型に向かったMSCの分化を誘導する能力を有することで知られる任意の成長因子または成長因子の組合せであってよいことを理解するであろう。当業者は、所望の細胞型に向かった(例えば、骨軟骨芽細胞、骨芽細胞、または軟骨芽細胞系統の細胞に向かった)MSCの分化を誘導するin vitroの方法は、所望の細胞型の実質的に純粋な(すなわち、主にそれから構成される)細胞集団をもたらし得ることを認識するであろう。限定されるものではないが、そのような由来細胞集団は、少なくとも90%(細胞数基準)の所望の細胞型、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%の所望の細胞型を含有し得る。
特定の複数の実施形態において、MSC由来細胞は、骨軟骨芽細胞系統(骨および軟骨)、骨芽細胞系統(骨)、例えば、骨軟骨前駆細胞および/もしくは骨前駆細胞および/もしくは前骨芽細胞および/もしくは骨芽細胞および/もしくは骨細胞など;軟骨芽細胞(軟骨)系統、例えば、骨軟骨前駆細胞および/もしくは軟骨前駆細胞および/もしくは前軟骨芽細胞および/もしくは軟骨芽細胞および/もしくは軟骨細胞;脂肪生成細胞(脂肪);筋原細胞(筋肉);腱形成細胞(tenogenic)(腱細胞)系統;線維芽細胞(結合組織)系統、例えば、線維芽細胞、線維細胞;または滑膜細胞(滑液)系統である。
特定の複数の実施形態において、MSC由来細胞は、骨軟骨芽細胞系統である。本明細書で使用する場合、記載「骨軟骨芽細胞系統のMSC由来細胞」は、骨芽細胞系統の細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞、骨前駆細胞および/もしくは前骨芽細胞および/もしくは骨芽細胞および/もしくは骨細胞など、または軟骨芽細胞系統の細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞、軟骨前駆細胞および/もしくは前軟骨芽細胞および/もしくは軟骨芽細胞および/もしくは軟骨細胞へ分化する能力を有する前駆細胞を指し得る。当業者は、前駆細胞は、それらが曝露する条件、例えば、物理的因子、および/または成長因子などの化学的もしくは生物学的成分に応じて、骨芽細胞系統の細胞(例えば、前骨芽細胞もしくは骨芽細胞)、または軟骨芽細胞系統の細胞(例えば、前軟骨芽細胞もしくは軟骨芽細胞)のいずれかに分化することを理解するであろう。
特定の複数の実施形態において、MSC由来細胞は、骨芽細胞または軟骨芽細胞系統のMSC由来細胞である。好ましい複数の実施形態において、MSC由来細胞は、骨芽細胞系統のMSC由来細胞である。さらに好ましい複数の実施形態において、MSC由来細胞は、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、または骨細胞である。
特定の特に好ましい複数の実施形態において、記載「骨芽細胞系統のMSC由来細胞」または「MSC由来骨形成細胞」は、骨芽細胞表現型を有する細胞型、および骨軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、もしくは骨細胞、またはその混合物などの、骨材料または骨基質の形成に寄与し得る細胞型、あるいはその形成に寄与し得る細胞に発達できる細胞型を等しく指し得る。本明細書で使用する場合、「骨前駆細胞」は、初期および後期の骨前駆細胞を特に含んでなり得る。さらにより好ましくは、「骨芽細胞系統のMSC由来細胞」または「MSC由来骨形成細胞」は、骨軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、もしくは骨芽細胞、またはその混合物を等しく指し得、さらにより好ましくは、この句は、骨軟骨前駆細胞もしくは前骨芽細胞もしくは骨芽細胞、またはその混合物を指し得、例えば、特定の例では、この句は、前骨芽細胞を指し得、あるいは、特定の他の例では、この句は、骨芽細胞を指し得る。総てのこれらの用語は、それ自体周知である。
さらなるガイダンスとして、限定されるものではないが、骨前駆細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞、ならびに骨前駆細胞、前骨芽細胞および/または骨芽細胞を含んでなる細胞集団は、以下の特徴を示し得る:
a)これらの細胞は、骨芽細胞の分化を調節する多機能性転写因子であるRunt関連転写因子2(Runx2)の発現、および骨芽細胞の分化中における多くの細胞外マトリックスタンパク質遺伝子の発現を含んでなる;
b)これらの細胞は、アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には、骨・肝臓・腎臓型のALPのうち少なくとも1つの発現を含んでなり;より好ましくは、オステオカルシン(OCN、BGLAP)、1型プロコラーゲンアミノ末端プロペプチド(P1NP)、オステオネクチン(ON、SPARC)、オステオポンチン(OPST、SPP1、OPN)および/もしくは骨シアロタンパク質(BSP)などの1以上のさらなる骨マーカー、ならびに/またはデコリンおよび/もしくはオステオプロテゲリン(OPG)などの1以上のさらなる骨基質タンパク質の発現も含んでなる;
c)これらの細胞は、CD45を実質的に発現しない(例えば、約10%未満、好ましくは約5%未満、より好ましくは約2%未満のこれらの細胞が、CD45を発現し得る);
d)これらの細胞は、外部環境を石灰化する、またはカルシウム含有細胞外マトリックスを合成する能力の証拠を示す(例えば、骨形成培地に曝露した場合;Jaiswal et al. J Cell Biochem, 1997, vol. 64, 295-312参照)。細胞内のカルシウム蓄積および基質タンパク質内へのカルシウム沈着は、例えば、45Ca2+中で培養し、洗浄および再培養した後、細胞内に存在するもしくは細胞外マトリックス内に沈着したいずれかの放射能を定量することにより(US5,972,703)、またはアリザリンレッドに基づいた石灰化アッセイを使用することにより(例えば、Gregory et al. Analytical Biochemistry, 2004, vol. 329, 77-84参照)、慣習的に測定することができる;
e)これらの細胞は、脂肪細胞系統の細胞(例えば、脂肪細胞)に向かっても、軟骨芽細胞系統の細胞(例えば、軟骨芽細胞、軟骨細胞)に向かっても実質的に分化しない。そのような細胞系統に向かう分化がないことは、当技術分野で確立された標準的な分化誘導条件(例えば、Pittenger et al. Science, 1999, vol. 284, 143-7参照)、およびアッセイ法(例えば、誘導された場合、脂肪細胞は一般に、脂質蓄積を示すオイルレッドOで染色され;軟骨細胞は一般に、アルシアンブルーまたはサフラニンオレンジで染色される)を用いて試験され得る。脂肪生成および/または軟骨形成分化に向かう傾向が実質的に欠けていることは、一般に、それぞれの試験に供した場合、試験細胞の20%未満、または10%未満、または5%未満、または1%未満が、脂肪生成または軟骨形成分化の徴候を示すことを意味し得る。
例示として、限定されるものではないが、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の細胞同一性を評価するための好適な細胞表面マーカーは、CD105、CD90、CD73、CD45およびALP、特に骨・肝臓・腎臓型のALPを含み得る。これらの細胞表面マーカーは、例えば、フローサイトメトリーによる細胞検出を可能にする蛍光色素標識モノクローナル抗体などの市販のモノクローナル抗体により検出することができる。特に、CD105、CD90、およびCD73は、間葉系マーカーであり、一般に、骨芽細胞系統のMSC由来細胞により高度に発現する;CD45は、造血マーカーであり、一般に、骨芽細胞系統のMSC由来細胞を実質的に欠いている;ALPは、前骨芽細胞および骨芽細胞のマーカーであり、一般に、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の実質的な画分により発現する。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、骨誘導特性を有し得る。
本明細書で使用する場合、用語「骨誘導特性」、「骨誘導能」または「骨誘導活性」は、他の骨基質分泌細胞を誘引する、および/または骨基質分泌細胞への他の細胞の分化(分化転換)を誘導する細胞の能力を指す。
例えば、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の細胞能力は、そのような細胞の骨形成特性を測定することにより決定することができる。骨形成を誘導する骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の能力は、例えば、それらの細胞を頭蓋冠上の皮下注射によりマウスに投与した後、新たに石灰化した骨の厚さを評価することにより、in vivoで測定することができる。骨形成を誘導する骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の能力は、例えば、ALP基質染色によるアルカリホスファターゼ(ALP)活性評価を通じて測定することもできる。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、骨形成特性を有し得る。
例えば、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の細胞能力は、そのような細胞の骨形成活性を測定することにより決定することができる。骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のヒトMSC由来細胞の骨形成活性は、例えば、それらの細胞を頭蓋冠上の皮下注射によりマウスに投与した後に、ヒト起源の少なくとも1つの石灰化小結節の存在を決定することにより、in vivoで測定することができる。ヒト骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の骨形成活性は、例えば、それらの細胞を頭蓋冠上の皮下注射によりマウスに投与した後に、ヒト起源の新たに石灰化した小結節の厚さを評価することにより、in vivoで測定することができる。
例えば、100μl賦形剤に処方された2.5×106個などの骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のヒトMSC由来細胞は、頭蓋冠骨上の単回皮下投与により、ヌードマウスに投与することができる。骨新形成を経時的に標識するために、アリザリンレッド(赤色)、カルセイン(緑色)、カルセイン(青色)およびテトラサイクリン(黄色)などのカルシウム結合蛍光色素を、それぞれMSC由来細胞の細胞投与の3日前および4、8、および12日後に、腹腔内注射によりマウスに逐次的に投与することができる。マウスは、細胞投与の2週後に安楽死させることができ、各マウスの頭蓋冠を回収し、組織形態計測(例えば、骨形成の定量化)により骨形成特性を評価することができる。頭蓋冠の最初および最後の厚さを用いて、細胞投与後の新骨形成のパーセンテージを算出することができる。さらに、骨形成特性は、免疫蛍光(例えば、骨形成のマウスまたはヒト起源)により評価することもできる。骨芽細胞活性は、ALP酵素活性検出法を用いて、頭蓋冠切片上で評価することができる。破骨細胞活性は、TRAP酵素活性検出法を用いて、頭蓋冠切片上で評価することができる。新形成された骨の石灰化の状態は、例えば、市販のキット(例えば、Bio-Optica(登録商標))を用いてALPで染色された頭蓋冠切片上のマッソントリクロームゴールドナー染色を用いて評価することができる。軟骨形成は、頭蓋冠矢状断パラフィン切片上のサフラニンオレンジ染色を用いて評価することができる。
本明細書で使用する場合、用語「骨形成能」は、in vivoで、場合によりin vitroで、骨基質分泌細胞へ分化(分化転換)する細胞の能力または骨基質を分泌する細胞の能力(すなわち、分化(分化転換)段階を必要とせずに)を指す。この用語は、膜内骨化または軟骨内骨化により骨組織を形成する細胞の能力を包含する。膜内骨化により骨組織を形成する細胞の能力は、一般に、テンプレートとしての石灰化軟骨基質を必要とせずに骨組織を形成する細胞の能力を表す。軟骨内骨化による骨組織を形成する細胞の能力は、一般に、最初に石灰化軟骨基質を形成し、その後、前記石灰化軟骨基質を骨組織形成用のテンプレートとして使用することにより、骨組織を形成する細胞の能力を表す。この用語は、他の骨基質分泌細胞を誘引する、および/または骨基質分泌細胞への他の細胞の分化(分化転換)を誘導する細胞の能力を表す、細胞の骨誘導能を包含しない。当業者は、本明細書で意図する骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、骨形成能および骨誘導能の両方を有し得ることを理解するであろう。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、骨誘導特性および骨形成特性の両方を有し得る。有利には、本明細書で教示する骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、それを必要とする対象への移植時に、従来技術の方法により得られたMSCまたはMSC由来細胞での移植と比較した骨新形成を上回る骨新形成を可能とする。
例示として、限定されるものではないが、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の細胞同一性を評価するための好適な細胞表面マーカーは、CD73、CD105、CD10、およびCD44を含み得る。これらの細胞表面マーカーは、例えば、フローサイトメトリーによる細胞検出を可能にする蛍光色素標識モノクローナル抗体などの市販のモノクローナル抗体により検出することができる。特に、CD73およびCD105は、間葉系マーカーであり;CD44は接着マーカーであり;CD10は、一般に、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の高画分により発現する骨軟骨芽細胞マーカーである。骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の細胞表面上のCD73の量は、一般に高く;骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の細胞表面上のCD105の量は、一般に低く;骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞の細胞表面上のCD44の量は、一般に高い。
特定の複数の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD73、CD63およびCD166に対して陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD45に対して陰性である。
特定の複数の実施形態において、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD90、CD105、CD73、CD63およびCD166に対して陽性である。
特定の複数の実施形態において、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD90、CD105、CD73、CD63およびCD166に対して陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD45、CD14およびCD19に対して陰性である。
特定の複数の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD45、CD14およびCD19に対して陰性である。
特定の複数の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD45、CD34およびCD3に対して陰性である。
特定の複数の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD45、CD34、CD3、CD14およびCD19に対して陰性である。
特定の複数の実施形態において、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD73、CD105、CD10またはCD44のいずれか1つ以上、例えば、1つ、2つ、3つまたは総てに対して陽性である(すなわち、細胞表面上でCD73、CD105、CD10またはCD44のいずれか1つ以上、例えば、1つ、2つ、3つまたは総てを発現する)。好ましくは、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD73、CD105、CD10およびCD44に対して陽性である(すなわち、細胞表面上でCD73、CD105、CD10およびCD44を発現する)。
特定の複数の実施形態において、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、少なくとも500のCD73に対する蛍光強度(nMFI)(nMFICD73)、少なくとも100のCD44に対するnMFI(nMFICD44)、または最大150のCD105に対するnMFI(nMFICD105)の正規化中央値のいずれか1つ以上を有する。例えば、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、少なくとも550、少なくとも600、少なくとも650、少なくとも700、少なくとも750、少なくとも800、少なくとも850もしくは少なくとも900のnMFICD73;少なくとも110、少なくとも120、少なくとも130、少なくとも140、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300もしくは少なくとも350のnMFICD44;または最大180、最大170、最大160、最大150、最大140、最大130、最大120、最大110もしくは最大100のnMFICD105のいずれか1つ以上を有する。好ましくは、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、少なくとも500のnMFICD73、少なくとも100のnMFICD44、および最大150のnMFICD105を有する。
特定の複数の実施形態において、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD73、CD105、CD10またはCD44のいずれか1つ以上、例えば、1つ、2つ、3つまたは総てに対して陽性であり(すなわち、細胞表面上でCD73、CD105、CD10またはCD44のいずれか1つ以上、例えば、1つ、2つ、3つまたは総てを発現する)、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、少なくとも500のnMFICD73、少なくとも100のnMFICD44または最大150のnMFICD105のいずれか1つ以上を有する。好ましくは、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD73、CD105、CD10およびCD44に対して陽性であり(すなわち、細胞表面上でCD73、CD105、CD10およびCD44を発現する)、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、少なくとも500のnMFICD73、少なくとも100のnMFICD44、および最大150のnMFICD105を有する。
本明細書で使用する場合、「蛍光強度の正規化中央値」または「nMFI」は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、アロフィコシアニン(APC)またはフィコエリトリン(PE)などの蛍光色素と抱合した免疫グロブリンG(IgG)対照などの、1以上の蛍光色素抱合アイソタイプ対照抗体で標識された細胞集団のMFI(MFIアイソタイプ_チャネル)に対する1以上の蛍光色素抱合抗体で標識された全分析細胞集団のMFI(MFIマーカー_チャネル)の比を指す。nMFIの結果は、目的の集団の細胞表面に存在するマーカーの量に比例する。(n)MFIは、一般に、蛍光シグナルの発光が測定される波長と関連している。
本明細書で使用する場合、記載「CD73に対するnMFI」または「nMFICD73」は、APCと抱合したIgG対照(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:555751)で標識された細胞集団のMFIに対する、CD73に対するAPC抱合抗体(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:560847)で標識された全分析細胞集団のMFIの比を指す。好ましくは、nMFICD73は、APCに対して633nmの励起波長および660nmの発光波長で測定される。
本明細書で使用する場合、記載「CD44に対するnMFI」または「nMFICD44」は、PEと抱合したIgG対照(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:556650)で標識された細胞集団のMFIに対する、CD44に対するPE抱合抗体(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:550989)で標識された全分析細胞集団のMFIの比を指す。好ましくは、nMFICD44は、PEに対して488nmの励起波長および580nmの発光波長で測定される。
本明細書で使用する場合、記載「CD105に対するnMFI」または「nMFICD105」は、APCと抱合したIgG対照(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:555751)で標識された細胞集団のMFIに対する、CD105に対するAPC抱合抗体(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:562408)で標識された全分析細胞集団のMFIの比を指す。好ましくは、nMFI105は、APCに対して633nmの励起波長および660nmの発光波長で測定される。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、MSCにおけるそれぞれの遺伝子の発現と比較して、
- RUNX2、SOX9、ZNF521、ALPL、BMP2、OPG、POSTN、CHI3L1、MMP13、CADM1、CX43、CD10、およびWISP1からなる群から選択される骨軟骨芽細胞マーカーをコードする遺伝子の増加した発現;
- DCNまたはSPON1から選択される骨または軟骨基質タンパク質をコードする遺伝子の増加した発現;
- 骨軟骨形成阻害物質をコードする遺伝子DKK1の減少した発現;ならびに/あるいは
- KI67またはPCNAから選択される増殖マーカーをコードする遺伝子の減少した発現、
のうち1つ以上を含んでなる。
特定の複数の実施形態において、BCL2またはBAXから選択されるアポトーシス関連マーカーをコードする遺伝子の発現は、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞およびMSCで類似し得る。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、ヘパリンまたはその類似体もしくは誘導体の存在対非存在以外に、MSC由来細胞をMSCから得る本明細書で教示する方法と実質的に総てのパラメーターにおいて実質的に同じである方法により産生された骨形成細胞におけるそれぞれの遺伝子の発現と比較して、
- 脂肪生成に関与するタンパク質をコードする遺伝子PPARGの増加した発現;
- CD73またはBMP2から選択される骨軟骨芽細胞タンパク質をコードする遺伝子の増加した発現;ならびに/あるいは
- COL1A1、BGN、SPARC、ALPL、およびBCL2からなる群から選択される骨軟骨芽細胞タンパク質をコードする遺伝子の減少した発現、
のうち1つ以上を含んでなる。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、本明細書に定義される対応する対照細胞における前記遺伝子の発現に対して(すなわち、比較して)少なくとも約1%増加(すなわち、亢進)し得る(すなわち、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、少なくとも約1.01倍であり得る)。例えば、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、本明細書に定義される対応する対照細胞における前記遺伝子の発現に対して(すなわち、比較して)少なくとも約2%(すなわち、1.02倍)、少なくとも約5%(すなわち、1.05倍)、少なくとも約10%(すなわち、1.10倍)、少なくとも約15%(すなわち、1.15倍)、少なくとも約20%(すなわち、1.20倍)、少なくとも約25%(すなわち、1.25倍)、少なくとも約30%(すなわち、1.30倍)、少なくとも約35%(すなわち、1.35倍)、少なくとも約40%(すなわち、1.40倍)、少なくとも約45%(すなわち、1.45倍)、少なくとも約50%(すなわち、1.50倍)、少なくとも約55%(すなわち、1.55倍)、少なくとも約60%(すなわち、1.60倍)、少なくとも約65%(すなわち、1.65倍)、少なくとも約70%(すなわち、1.70倍)、少なくとも約75%(すなわち、1.75倍)、少なくとも約80%(すなわち、1.80倍)、少なくとも約85%(すなわち、1.85倍)、少なくとも約90%(すなわち、1.90倍)、少なくとも約95%(すなわち、1.95倍)、または少なくとも約100%(すなわち、2倍)増加(すなわち、亢進)し得る。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、本明細書に定義される対応する対照細胞における対照遺伝子の発現の少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約500倍、少なくとも約1000倍、少なくとも約2000倍、少なくとも約3000倍、または少なくとも約5000倍であり得る。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、本明細書に定義される対応する対照細胞における前記遺伝子の発現に対して(すなわち、比較して)少なくとも約1%減少(すなわち、低減)し得る(すなわち、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、少なくとも約0.99倍であり得る)。例えば、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、本明細書に定義される対応する対照細胞における前記遺伝子の発現に対して(すなわち、比較して)少なくとも約2%(すなわち、0.98倍)、少なくとも約5%(すなわち、0.95倍)、少なくとも約10%(すなわち、0.90倍)、少なくとも約15%(すなわち、0.85倍)、少なくとも約20%(すなわち、0.80倍)、少なくとも約25%(すなわち、0.75倍)、少なくとも約30%(すなわち、0.70倍)、少なくとも約35%(すなわち、0.65倍)、少なくとも約40%(すなわち、0.60倍)、少なくとも約45%(すなわち、0.55倍)、少なくとも約50%(すなわち、0.50倍)、少なくとも約55%(すなわち、0.45倍)、少なくとも約60%(すなわち、0.40倍)、少なくとも約65%(すなわち、0.35倍)、少なくとも約70%(すなわち、0.30倍)、少なくとも約75%(すなわち、0.25倍)、少なくとも約80%(すなわち、0.20倍)、少なくとも約85%(すなわち、0.15倍)、少なくとも約90%(すなわち、0.10倍)、少なくとも約95%(すなわち、0.05倍)、または少なくとも約99%(すなわち、0.01倍)減少(すなわち、低減)し得る。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の発現は、本明細書に定義される対応する対照細胞における対照遺伝子の発現の少なくとも約0.005倍、少なくとも約0.001倍、少なくとも約0.0005倍、または少なくとも約0.0001倍であり得る。
特定の複数の実施形態において、本明細書で教示する対照細胞は、MSCであってもよいし、または、ヘパリンまたはその類似体もしくは誘導体の存在対非存在以外に、MSC由来細胞をMSCから得る本明細書で教示する方法と実質的に総てのパラメーターにおいて実質的に同じである方法により産生された骨形成細胞であってもよい。
特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、MSCあるいは、ヘパリンまたはその類似体もしくは誘導体の存在対非存在以外に、MSC由来細胞をMSCから得る本明細書で教示する方法と実質的に総てのパラメーターにおいて実質的に同じである方法により産生された骨形成細胞と比較して、高い量のCHI3L1またはMMP13から選択される骨軟骨形成に関与するタンパク質を分泌する。特定の複数の実施形態において、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、MSCあるいは、ヘパリンまたはその類似体もしくは誘導体の存在対非存在以外に、MSC由来細胞をMSCから得る本明細書で教示する方法と実質的に総てのパラメーターにおいて実質的に同じである方法により産生された骨形成細胞と比較して、低い量の骨形成の阻害に関与するDKK1タンパク質を分泌する。
前述のように、上記の詳細な方法は、細胞が、例えば同種対象に対する細胞移植により好適であることを示す、優れた特徴、例えば、特に、(i)骨軟骨芽細胞もしくは骨芽細胞系統に向かう細胞のコミットメントを表す、ALPの高発現、および(ii)骨軟骨芽細胞もしくは骨芽細胞系統のMSC由来細胞の限られた免疫原性を表す、低HLA-DR発現、を有する、骨軟骨芽細胞もしくは骨芽細胞系統のMSC由来細胞、またはそのようなMSC由来細胞の集団を得ることができる。
従って、特定の複数の実施形態において、少なくとも70%(細胞数基準)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、アルカリホスファターゼ(ALP)に対して陽性であり;10%(細胞数基準)未満の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、HLA-DRに対して陽性である。
特定の複数の実施形態において、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD73、CD63およびCD166に対して陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD45に対して陰性であり;少なくとも70%の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、アルカリホスファターゼ(ALP)に対して陽性であり;10%未満の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、HLA-DRに対して陽性である。
特定の複数の実施形態において、MSCから骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞を得る方法により得られた実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、CD90、CD105、CD73、CD63およびCD166に対して陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(細胞数基準)、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%)の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞のMSC由来細胞は、CD45、CD14およびCD19に対して陰性であり;少なくとも70%の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、アルカリホスファターゼ(ALP)に対して陽性であり;10%未満の骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、HLA-DRに対して陽性である。
特定の特に好ましい複数の実施形態において、記載「軟骨芽細胞(軟骨)系統のMSC由来細胞」は、軟骨芽細胞表現型を有し、軟骨または軟骨基質の形成に寄与し得る、またはそれに寄与し得る細胞に発達できる細胞型を指し得る。本明細書で使用する場合、「軟骨前駆細胞」は、初期および後期の軟骨前駆細胞を特に含んでなり得る。さらにより好ましくは、「軟骨芽細胞(軟骨)系統のMSC由来細胞」は、骨軟骨前駆細胞、軟骨前駆細胞、前軟骨芽細胞、もしくは軟骨芽細胞、またはその混合物を指し得、さらにより好ましくは、この句は、前軟骨芽細胞もしくは軟骨芽細胞、またはその混合物を指し得、例えば、特定の例では、この句は、前軟骨芽細胞を指し得、あるいは、特定の他の例では、この句は、軟骨芽細胞を指し得る。総てのこれらの用語は、それ自体周知である。
さらなるガイダンスとして、限定されるものではないが、骨軟骨芽細胞および/または軟骨芽細胞系統の細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞、軟骨前駆細胞、前軟骨芽細胞および軟骨芽細胞、ならびに骨軟骨前駆細胞、軟骨前駆細胞、前軟骨芽細胞および/または軟骨芽細胞を含んでなる細胞集団は、以下の特徴を示し得る:
a)これらの細胞は、軟骨芽細胞分化および軟骨形成中に中心的な役割を果たす転写因子であるSOX9の発現を含んでなる;
b)これらの細胞は、アグリカン(ACAN)、II型コラーゲン、またはCD90のうち少なくとも1つの発現を含んでなる;
c)これらの細胞は、CD45を実質的に発現しない(例えば、約10%未満、好ましくは約5%未満、より好ましくは約2%未満のこれらの細胞が、CD45を発現し得る);
d)これらの細胞は、高レベルの、in situでのヒアリン細胞外マトリックス(ECM)の主成分であるII、IX、およびXI型コラーゲンならびにプロテオグリカンを産生する能力の証拠を示す。軟骨形成は、例えば、それぞれプロテオグリカンおよび非コラーゲン性タンパク質を染色するためのサフラニンオレンジ/ファストグリーンアッセイを用いて、慣習的に測定することができる(例えば、Lee et al. Tissue Engineering, 2011, vol. 18, 484-98参照);
e)ヒト関節軟骨細胞は、Diaz-Romero et al. 2005 (J Cell Physiol, vol. 202(3), 731-42)において要約されている細胞発現の特徴を示し得、例えば、それらは、インテグリンおよび他の接着分子(CD49a、CD49b、CD49c、CD49e、CD49f、CD51/61、CD54、CD106、CD166、CD58、CD44)、テトラスパニン(CD9、CD63、CD81、CD82、CD151)、受容体(CD105、CD119、CD130、CD140a、CD221、CD95、CD120a、CD71、CD14)、エクトエンザイム(CD10、CD26)、ならびに他の表面分子(CD90、CD99)を発現し得る。単層培養中、軟骨細胞は、間葉系幹細胞に特有なものとしてみなされる特定のマーカー(CD10、CD90、CD105、CD166)をアップレギュレートし得る。従って、そのようなマーカーは、さほど成熟していない前軟骨芽細胞または軟骨芽細胞によっても発現され得る。
f)これらの細胞は、脂肪細胞系統の細胞(例えば、脂肪細胞)に向かっても、骨芽細胞系統の細胞(例えば、骨芽細胞、骨細胞)に向かっても実質的に分化しない。そのような細胞系統に向かう分化がないことは、当技術分野で確立された標準的な分化誘導条件(例えば、Pittenger et al. Science, 1999, vol. 284, 143-7参照)、およびアッセイ法(例えば、誘導された場合、脂肪細胞は一般に、脂質蓄積を示すオイルレッドOで染色され;前骨芽細胞および骨芽細胞は一般に、ALPに対して染色される)を用いて試験され得る。脂肪生成および/または骨芽細胞分化に向かう傾向が実質的に欠けていることは、一般に、それぞれの試験に供した場合、試験細胞の20%未満、または10%未満、または5%未満、または1%未満が、脂肪生成または骨芽細胞分化の徴候を示すことを意味し得る。
当技術分野で公知なように、線維芽細胞系統の細胞は、結合組織の形成に寄与し得る、またはそれに寄与し得る細胞に発達できる。
さらなるガイダンスとして、限定されるものではないが、線維芽細胞は、以下の特徴を示し得る:
a)これらの細胞は、FSP1(線維芽細胞特異的タンパク質1)の発現を含んでなる;
b)これらの細胞は、コラーゲン、ビメンチン、デスミンまたはCD90のうち少なくとも1つの発現を含んでなる;
c)これらの細胞は、CD45を実質的に発現しない(例えば、約10%未満、好ましくは約5%未満、より好ましくは約2%未満のこれらの細胞が、CD45を発現し得る);
d)これらの細胞は、コラーゲン、グリコサミノグリカン、細網および弾性線維、糖タンパク質を産生して、結合組織の細胞外マトリックスを形成する能力の証拠を示す。線維芽細胞は、靱帯および腱の構造的完全性に寄与し、組織修復機能を有する。コラーゲン沈着は、トリクローム染色を用いて可視化することができる(Li et al. World J Gastroenterol, 2014 vol. 20(16), 4648-61)。I型コラーゲン(Chondres、レドモンド、ワシントン州)およびテネイシンC(Tn-C;IBL-America、ミネアポリス、ミネソタ州)は、靱帯線維芽細胞に対する2つのマーカーであり、ELISAによりアッセイすることができる(Brissett et al. Arthritis Rheum, 2012, vol. 64(1), 272-80)。
当技術分野で公知なように、腱細胞(tendinocytic)系統の細胞は、腱材料または腱基質の形成に寄与し得る。腱は、コラーゲン原線維のネットワークを含んでなる大きな線維束と、滑膜細胞、内皮細胞、腱芽細胞、およびコラーゲン分子内に列として縦方向に位置する腱細胞を含む異なる種類の細胞とで構成される。腱芽細胞は、代謝活性の低下とともにそれらが加齢するにつれ、腱細胞に向かって分化する腱細胞の未熟型である。
さらなるガイダンスとして、限定されるものではないが、腱細胞は、以下の特徴を示し得る:
a)これらの細胞は、腱における細胞分化および細胞外マトリックスの組織化に関与する転写因子のベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックスファミリーのメンバーであるスクレラキシス(SCX)の発現を含んでなる;
b)これらの細胞は、テノモジュリン(TNMD)およびテネイシンC(TNC)のうち少なくとも1つの発現を含んでなる;
c)これらの細胞は、CD44、CD73、CD90およびCD105を実質的に発現するが、CD34、CD45、CD146、またはstro-1を発現しない;
d)これらの細胞は、腱組織再生のためにI、IIIおよびV型コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、および弾性原線維からなる腱の細胞外成分を産生する能力の証拠を示す(Guengoermues et al. Connect Tissue Res, 2008, vol. 53(6), 485-91);
e)これらの細胞は、脂肪細胞系統の細胞(例えば、脂肪細胞)に向かっても、軟骨芽細胞系統の細胞(例えば、軟骨芽細胞、軟骨細胞)に向かっても、骨芽細胞系統の細胞(例えば、骨芽細胞、骨細胞)に向かっても実質的に分化しない。
当技術分野で公知なように、滑膜細胞(滑液)系統の細胞は、一般に、A型またはマクロファージ様滑膜細胞およびB型または線維芽細胞様滑膜細胞(FLC)を包含し、滑膜および滑液の形成に寄与し得る。総てのこれらの用語は、それ自体周知である。従って、本明細書で使用する場合、用語「滑膜細胞」は、いずれか1つおよびまとめて総てのそのような細胞型を指す。
さらなるガイダンスとして、限定されるものではないが、滑膜細胞は、以下の特徴を示し得る:
a)これらの細胞は、プロテオグリカン4(PRG4)を分泌する能力の証拠を示し、表面活性リン脂質(SAPL)および滑液に存在するヒアルロナン(HA)の主要源である(Tamer et al. Interdiscip Toxicol, 2013, vol. 6(1), 111-125);
b)A型またはマクロファージ様滑膜細胞は、CD11b、CD86、CD14、CD163、DR抗原およびFc受容体を含む造血起源マーカーの発現を含んでなる。B型または線維芽細胞様滑膜細胞は、IVおよびV型コラーゲン、ビメンチン、およびCD90の発現を含む、線維芽細胞の多くの特徴を示す間葉系細胞である。さらに、B型細胞は、下内層の常在線維芽細胞を含む、多くの他の線維芽細胞系統と区別するin situでのいくつかの独特の特性を有する。例えば、カドヘリン-11(FLSの同型凝集において重要な役割を果たす特異的接着分子)、CD55(崩壊促進因子)、VCAM-1(血管接着分子1)およびICAM-1(細胞間接着分子1)(Bartok et al. Immunol Rev, 2011, vol. 233(1), 233-255);
c)これらの細胞は、CD45を実質的に発現しない(例えば、約10%未満、好ましくは約5%未満、より好ましくは約2%未満のこれらの細胞が、CD45を発現し得る);
d)これらの細胞は、脂肪細胞系統の細胞(例えば、脂肪細胞)に向かっても、軟骨芽細胞系統の細胞(例えば、軟骨芽細胞、軟骨細胞)に向かっても、骨芽細胞系統の細胞(例えば、骨芽細胞、骨細胞)に向かっても実質的に分化しない。
細胞は、特定のマーカーに対して陽性である(またはそれを発現するもしくはその発現を含んでなる)と言われており、このことは、当業者ならば、好適な対照と比較して、適当な測定を実施した場合、そのマーカーに対する明確なシグナル、例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応による抗体検出可能なまたは検出、の存在または証拠を結論付けるであろうことを意味する。方法がマーカーの定量的評価を可能にする場合、陽性細胞は、平均して、対照と有意に異なるシグナル、例えば、限定されるものではないが、対照細胞により生成されたそのようなシグナルよりも少なくとも1.5倍高い、例えば、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高いまたはそれより高いシグナルを生成し得る。
上記の細胞特異的マーカーの発現は、当技術分野で公知の任意の好適な免疫学的技法、例えば、免疫組織化学もしくはアフィニティー吸着、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー、ELISAなどを用いて、または酵素活性(例えば、ALPに対して)の任意の好適な生化学的アッセイにより、またはマーカーmRNAの量を測定する任意の好適な技法、例えば、ノーザンブロット、半定量的もしくは定量的RT-PCRなどにより、検出することができる。本開示に記載のマーカーに対する配列データは公知であり、ジェンバンク(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)などの公開データベースから得ることができる。
本明細書で教示する方法の特定の複数の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、動物細胞、好ましくは、温血動物細胞、より好ましくは、ヒト細胞または非ヒト哺乳動物細胞などの哺乳動物細胞、および最も好ましくは、ヒト細胞であり得る。
本明細書で意図するMSCまたはMSC由来細胞は、好ましくは、接着性である、すなわち、成長のための表面を必要とし、一般に、培養培地中の浮遊細胞(懸濁培養物)としてではなく、前記表面上の接着性単層(すなわち、接着性細胞培養物)として成長する。組織培養プラスチック容器の表面などの表面への細胞の接着は、倒立顕微鏡下での目視検査により容易に調べることができる。接着培養において成長した細胞は、定期的な継代を必要とし、それらの細胞は、表面から酵素的に(例えば、トリプシンを用いて)除去され、増殖培地に懸濁され、新しい培養容器に再播種され得る。一般に、それへの細胞の接着を可能とする表面または基質は、任意の実質的に親水性の基質であってよい。当技術分野で公知なように、組織培養容器、例えば、培養フラスコ、ウェルプレート、ディッシュなどは、通常、多種多様なポリマー材料製であり得、好適には、親水性基質表面を提供するために、成形後に表面処理または被覆され得る。本明細書で使用する場合、用語「接触」は、直接的または間接的のいずれかで、1以上の分子、成分または材料を別のものと合わせて、それにより、それらの間の相互作用を促進することを意味する。一般に、MSCまたはMSC由来細胞の増殖および/または分化を誘導する能力を有する1以上の剤は、MSCまたはMSC由来細胞が培養される培地にそれらを含めることにより、MSCまたはMSC由来細胞と接触し得る。
本明細書で使用する場合、用語「in vitro」は、動物またはヒトの身体の外側、または外部を意味する。本明細書で使用する場合、用語「in vitro」は、「ex vivo」を含むものと理解されるべきである。用語「ex vivo」は、一般に、動物またはヒトの身体から除去され、身体の外側、例えば、培養容器中で維持または繁殖された組織または細胞を指す。用語「線維芽細胞成長因子2(FGF-2)」、「塩基性FGF」、「FGF-b」、「FGFB」、「BFGF」、「ヘパリン結合性成長因子2(HBGF-2)」、または「プロスタトロピン」は、互換的に使用され得、線維芽細胞成長因子ファミリーのよく知られたメンバーを指す。本発明者らは、FGF-2は、本発明の方法において特に有効であることを認識している。
本明細書で使用する場合、用語「トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)」、「TGFB」または「TGFベータ」は、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)ファミリーのメンバーを指す。本発明者らは、TGFβは、本発明の方法において特に有効であることを認識している。さらなる実施形態において、TGFβファミリーの前記メンバーは、TGF-β-1、TGF-β-2、TGF-β-3、TGF-β-4、GDF1(増殖分化因子1)、GDF-2、GDF-3、GDF-5、GDF-6、GDF-7、GDF-8、GDF-9、GDF-11、GDF-15、INHA(インヒビンα鎖)、INHBA(インヒビンβA鎖)、INHBB(インヒビンβB鎖)、INHBC(インヒビンβC鎖)、INHBE(インヒビンβE鎖)、MIS(ミュラー管抑制因子)、およびさらには、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、NRTN(ニュールツリン)、PSPN(パーセフィン)を含むGDNFサブファミリーのメンバー、ならびにその混合物からなる群から選択される。
特定の実施形態において、TGFβは、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、およびその混合物からなる群から選択される。特定の実施形態において、TGFβはTGFβ1である。例示として、TGFβ1は、単独のTGFBサイトカインとして本発明の方法において使用され得る。
さらなる実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、FGF-2およびTGFβに加えて、FGF-2およびTGFβ以外の1以上の追加の外因的に加えられた成長因子と接触し得る。別の実施形態において、FGF-2およびTGFβは、MSCまたはMSC由来細胞が接触する単独の外因性成長因子であり得る。
好ましい実施形態において、本発明の方法において使用される成長因子は、ヒト成長因子である。本明細書で使用する場合、用語「ヒト成長因子」は、天然に存在するヒト成長因子と実質的に同じ成長因子を指す。例えば、成長因子がタンパク質性実体である場合、その成分ペプチドまたはポリペプチドは、天然に存在するヒト成長因子と同一の一次アミノ酸配列を有し得る。本発明の方法におけるヒト成長因子の使用は、そのような成長因子は細胞機能に対して望ましい効果を誘発することが期待されるため、好ましい。
用語「天然に存在する」は、ヒトにより人工的に製造されたものとは異なる、自然に見出され得る物体または実体を説明するために使用される。例えば、自然における資源から単離され得、実験室においてヒトによって意図的に改変されていない、生物体に存在するポリペプチド配列は、天然に存在するものである。特定の実体、例えば、ポリペプチドまたはタンパク質に言及する場合、この用語は、例えば、個体間の正常な多様性のために、天然に存在する総ての形態およびその多様体を包含する。例えば、タンパク質性成長因子に言及する場合、用語「天然に存在する」は、個体間の正常な対立遺伝子多様性のために、それらの成分ペプチドまたはポリペプチドの一次配列の差を有する成長因子を包含する。
本発明の方法は、成長因子の生物学的に活性な多様体または断片を利用し得る。本発明の方法では、成長因子の「生物学的に活性な」多様体または断片は、他の条件が実質的に同じである場合、それぞれの成長因子としてMSC由来細胞をMSCから少なくとも約同程度に得ることを達成する。
ポリペプチドの「多様体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列と実質的に同一の(すなわち、全体がではないが大部分が同一の)アミノ酸配列を有する。本明細書において、「実質的に同一」は、少なくとも85%同一、例えば、少なくとも90%同一、好ましくは、少なくとも95%同一、例えば、少なくとも99%同一を指す。配列の差は、1以上の(one of more)アミノ酸の挿入(付加)、欠失および/または置換から生じ得る。
別の実施形態において、本発明の方法において使用される成長因子、すなわち、少なくともFGF-2およびTGFβは、非ヒト動物成長因子、特に非ヒト哺乳動物成長因子、またはその生物学的に活性な多様体もしくは誘導体であり得る。本明細書で使用する場合、用語「非ヒト動物成長因子」および「非ヒト哺乳動物成長因子」は、それぞれ、天然に存在する非ヒト動物または非ヒト哺乳動物成長因子と実質的に同じ成長因子を指す。例えば、成長因子がタンパク質性実体である場合、その成分ペプチドまたはポリペプチドは、天然に存在する非ヒト動物または非ヒト哺乳動物成長因子と同一の一次アミノ酸配列を有し得る。当業者ならば、非ヒト動物または非ヒト哺乳動物成長因子は、後者はMSC細胞と同じ起源であるため、ヒト動物成長因子より低い程度でではあるが、本発明の方法において適用可能であり得ることを理解するであろう。特に、非ヒト動物または非ヒト哺乳動物成長因子は、それらが所望の効果、例えば、(類似の)ヒト成長因子と類似の効果を誘発する場合、使用され得る。
好ましい実施形態において、成長因子またはその生物学的に活性な多様体もしくは誘導体は、組換えである、すなわち、宿主生物体またはその祖先に導入されており、かつ前記ポリペプチドをコードする配列を含んでなる組換え核酸分子の発現を通じて宿主生物体により産生される。本明細書で使用する場合、用語「組換え核酸分子」は、組換えDNA技術を用いてともに連結されたセグメントからなる核酸分子(例えば、DNAまたはcDNA分子)を指す。
特定の複数の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、血漿、血清またはその代替物の1以上、例えば、培地に付加的に含まれる血漿、血清またはその代替物の1以上とさらに接触する。
用語「血漿」は、慣習的に定義された通りであり、新鮮血漿、解凍された凍結血漿、溶媒/洗浄剤処理血漿、処理血漿(例えば、PRP)、またはそのいずれか2つ以上の混合物を含んでなる。血漿は通常、全血のサンプルから得られ、抗凝固剤(例えば、ヘパリン(非常に低濃度、一般に約15×10-5IU/ml)、クエン酸塩、シュウ酸塩もしくはEDTA)が与えられるまたはそれと接触する。その後、血液サンプルの細胞成分は、適当な技法、一般に遠心分離により、液体成分(血漿)から分離される。具体例として、限定されるものではないが、本発明における使用に好適な血漿を得るために、血液サンプルは、抗凝固剤EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含有するバキュテナーチューブ(例えば、BDバキュテイナプラスチックEDTAチューブ、10ml、1.8mg/mL)に採取され得る。サンプルを緩やかに振り混ぜた後、1,000~2,000gにて室温で10分間遠心分離し、血漿を赤血球から分離する。上清(血漿)を回収し、場合によりプールし(複数の血液サンプルを使用する場合)、クライオバイアルに分取し、使用するまで-80℃で保存する。用語「血漿」は、ヒトまたは動物の身体の一部を形成しない組成物を指す。用語「血漿」は、特定の複数の実施形態において、具体的には、処理血漿、すなわち、その組成、具体的には、その化学的、生化学的、または細胞組成を変化させる1以上の処理工程に、全血から分離された後に供された血漿を含み得る。従って、本明細書で意図する用語「血漿」は、多血小板血漿(PRP)、すなわち、血小板に富んでいる血漿を含み得る。一般に、PRPは約1.0×106血小板/μlを含有し得、一方、全血中血小板濃度は約1.5×105~3.5×105/μLであり得る。
血漿は、溶媒/洗浄剤処理され得る。用語「溶媒/洗浄剤処理血漿」、「S/D処理血漿」、または「S/D血漿」は、一般に、(a)血漿を溶媒および洗浄剤で処理する工程、ならびに(b)溶媒/洗浄剤処理血漿を濾過する工程、を含んでなる方法により得ることができるまたは得られた脱細胞化血漿を指す。そのような処理に好適な溶媒は、ジまたはトリアルキルリン酸塩などの溶媒ならびにUS4,764,369に記載の洗浄剤である。S/D血漿の調製に使用される洗浄剤は、好ましくは、無毒性洗浄剤(例えば、ツイーン(登録商標)20またはツイーン(登録商標)80)である。
用語「血清」は、慣習的に定義された通りであり、新鮮血清、解凍された凍結血清もしくは血漿から調製された血清、またはそのいずれか2つ以上の混合物を含んでなる。血清は、通常、最初にサンプル中で凝固を生じさせ、引き続き、適当な技法、一般に遠心分離により、そのように形成された凝塊および血液サンプルの細胞成分を液体成分(血清)から分離することにより、全血のサンプルから得ることができる。凝固は、不活性触媒、例えば、ガラスビーズまたは粉末により促進することができる。あるいは、血清は、抗凝固剤およびフィブリンを除去することにより、血漿から得ることができる。具体例として、限定されるものではないが、本発明における使用に好適な血清を得るために、血液サンプルは、抗凝固剤を含有するバキュテナーチューブ(例えば、BDバキュテイナプラスプラスチック血清チューブ、10ml)に採取され得、室温で30~45分間インキュベートし、凝固を可能にし得る。次に、チューブを1,000~2,000gにて室温で15分間遠心分離し、血清を赤血球から分離する。上清(血清)を回収し、場合によりプールし(複数の血液サンプルを使用する場合)、クライオバイアルに分取し、使用するまで-80℃で保存する。従って、用語「血清」は、ヒトまたは動物の身体の一部を形成しない無細胞組成物を指す。本明細書で意図する血清は、ヒト血清である、すなわち、単一のヒト対象または複数のヒト対象(例えば、血清混合プール)から得られる。血清は、未処理血清、すなわち、全血からの分離により得られ、任意選択の熱不活化、保存(極低温もしくは非極低温)、滅菌、凍結乾燥および/または濾過以外の、その化学的、生化学的、または細胞組成を変化させる下流の処理工程に供しない血清であり得る。特定の複数の実施形態において、血清は、溶媒/洗浄剤処理血漿から得られ得る。
単離された血漿、血清またはその代替物は、本発明の方法において直接使用することができる。それらは、その後の使用のために適当に保存することもできる(例えば、血漿、血清もしくはその代替物のそれぞれの凝固点より高い温度であるが、周囲温度未満で(この温度は通常約4℃~5℃となる)、短期間、例えば、最大約1~2週間;または通常約-70℃~約-80℃の間の凍結保存により長期間)。
単離された血漿、血清またはその代替物は、特に補体を除去するために、当技術分野で公知のように熱不活化され得る。本発明の方法が、その存在下で培養された細胞に対して自己由来の血漿、血清、またはその代替物を利用する場合、血漿、血清またはその代替物を熱不活化することは不要であり得る。血漿、血清またはその代替物が、培養細胞に対して少なくとも部分的に同種である場合、血漿、血清またはその代替物を熱不活化することが有利であり得る。場合により、血漿、血清またはその代替物は、好ましくは、孔径が0.2μm以下の従来の微生物学的フィルターを用いて、保存または使用する前に滅菌してもよい。
ある実施形態において、本発明の方法は、それと接触するヒトMSCまたはMSC由来細胞に対して自己由来であるヒト血漿、血清またはその代替物を利用し得る。血漿、血清またはその代替物に関する用語「自己由来」は、血漿、血清またはその代替物が、前記血漿、血清またはその代替物と接触するMSCまたはMSC由来細胞と同じ対象から得られることを意味する。自己由来の血漿、血清またはその代替物の使用は、対象による細胞の最適な受容を保証し得、かつ/または、例えば、他の血清からの感染病原体の偶発的な伝播を回避し得る。
別の実施形態において、方法は、それと接触するヒトMSCまたはMSC由来細胞に対して「相同」または「同種」である、すなわち、MSCが得られる対象以外の1以上の(プールされた)ヒト対象から得られるヒト血漿、血清またはその代替物を利用し得る。
さらなる実施形態において、方法は、上記で定義される自己由来および同種(すなわち、相同)の血漿、血清またはその代替物の混合物を利用し得る。本明細書で使用する場合、句「血清または血漿の代替物」は、MSCまたはMSC由来細胞の成長および/または増殖を誘導する能力を有する組成物など、血漿および/または血清の機能の1以上を有する天然または人工の無毒性の組成物を指す。血清または血漿の代替物の限定されない例としては、血小板ライセート、ならびにヒト血清アルブミンなどの血漿または血清の1以上の分画成分を含んでなる細胞培養のための組成物が挙げられる。当業者ならば、ヒト血漿、血清およびその代替物は、複雑な生物学的組成物であり、これは、1以上の成長因子、サイトカインまたはホルモンを含んでなり得ることを認識する。
血漿、血清またはその代替物の1以上に加えて、すなわち、それに対して外因的にまたはそれを補って、成長因子FGF-2およびTGFβまたはそれらのそれぞれの生物学的に活性な多様体または誘導体が提供されることが意図される。
本明細書で使用する場合、用語「ヘパリン」は、その抗凝固作用を特徴とする、分子量が3~30kDaの範囲の、炭水化物のグリコサミノグリカンファミリーのポリマーを指す。ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の効力は、ヒツジまたはヤギまたはヒト血漿の凝固を防止するのに必要なヘパリンの濃度を、ミリグラムあたりのヘパリン活性の単位に基づいた国際的に容認された参照標準の濃度と比較する生物学的アッセイにより、in vitroで決定され得る。ヘパリン1mgは、一般に、140~180国際単位(IU)と等しい。
用語「IU」または「国際単位」は、生物学的物質の量の標準尺度であり、前記生物学的物質の生物学的活性または効果として表される。この単位が割り当てられる総ての物質に対して、国際的に容認された生物学的手順に従って試験した場合、1IUの用量の国際的に容認された生物学的活性または効果が期待される。
特定の複数の実施形態において、ヘパリンまたはヘパリン誘導体もしくは類似体は、未分画ヘパリン(UFH);エノキサパリン、ダルテパリン、ナドロパリン、チンザパリン、セルトパリン、レビパリン、アルデパリン、パルナパリン、ベミパリンなどの低分子量ヘパリン(LMWH)、またはその混合物;ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、アカラン硫酸、ケラタン硫酸などのヘパリノイド、またはダナパロイドなどのその混合物;ヘパリン塩;ヘパリノイド塩;ヘパリン断片;ヘパリノイド断片;およびその混合物からなる群から選択される。好ましくは、ヘパリンまたはヘパリン誘導体もしくは類似体は、UFH、ダルテパリン、ダナパロイドおよびヘパラン硫酸からなる群から選択される。
特定の複数の実施形態において、前記FGF-2、前記TGFβ、前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体、および場合により血漿、血清またはその代替物の1以上は、培地、一般に液体細胞培養培地に含まれる。一般に、培地は、当技術分野で公知の基本培地処方物を含んでなる。多くの基本培地処方物(例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ATCC;またはInvitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州から入手可能)は、本明細書における細胞の培養に使用することができ、その例としては、限定されるものではないが、InvitrogenまたはCambrex(ニュージャージー州)から入手可能な、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地α改変型(α-MEM)、基本必須培地(BME)、BGJb、F-12 Nutrient Mixture(Ham)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、またはX-VIVO(商標)無血清培地(臨床グレード)、ならびにその改変および/または組合せが挙げられる。上記の基本培地の組成は、一般に当技術分野で公知であり、培養された細胞に必要な培地および/または培地添加物の濃度を改変または調節することが、当技術分野の技術の範囲内である。そのような基本培地処方物は、それ自体公知である哺乳動物細胞の発生に必要な成分を含有する。例示として、限定されるものではないが、これらの成分は、無機塩(特に、Na、K、Mg、Ca、Cl、PならびにおそらくCu、Fe、SeおよびZnを含有する塩)、生理学的緩衝剤(例えば、HEPES、重炭酸塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよび/または核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤(例えば、グルタチオン)ならびに炭素源(例えば、グルコース、ピルビン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)などを含み得る。
培養に使用するために、基本培地は、1以上のさらなる成分を供給され得る。例えば、追加の添加物を使用して、最適な成長および増殖のために、必要な微量元素および物質を細胞に供給することができる。そのような添加物としては、インスリン、トランスフェリン、セレニウム塩、およびその組合せが挙げられる。これらの成分は、限定されるものではないが、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、アール塩類溶液などの塩類溶液に含まれ得る。例えば、β-メルカプトエタノールなど、さらなる抗酸化剤添加物を加えてよい。多くの基本培地がすでにアミノ酸を含有しているが、例えば、溶液中の場合安定性が低いことで知られるL-グルタミンなど、いくつかのアミノ酸を後で添加してよい。培地には、抗生物質および/もしくは抗真菌化合物、例えば、一般に、ペニシリンとストレプトマイシンの混合物、ならびに/または他の化合物、例として、限定されるものではないが、アムホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ナリジクス酸、ネオマイシン、ナイスタチン、パロモマイシン、ポリミキシン、ピューロマイシン、リファンピシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、タイロシン、およびゼオシンをさらに供給してよい。脂質および脂質担体も、細胞培養培地に添加するために使用することができる。そのような脂質および担体としては、限定されるものではないが、とりわけ、シクロデキストリン、コレステロール、アルブミンに抱合したリノール酸、アルブミンに抱合したリノール酸およびオレイン酸、非抱合リノール酸、アルブミンに抱合したリノール・オレイン・アラキドン酸、アルブミンに非抱合のおよび抱合したオレイン酸が含まれ得る。アルブミンは、脂肪酸不含処方物において同様に使用することができる。
特定の複数の実施形態において、ヒト血漿、血清またはその代替物の1以上は、約0.5%~約30%の間、好ましくは、約1%~約15%の間、より好ましくは、2%~10%の間の割合(血漿、血清、またはその代替物の1以上の容量/培地の容量)で、前記培地に含まれ得る。本発明の方法は、MSCまたはMSC由来細胞を培養するために得ることが必要な血漿、血清またはその代替物の1以上の容量を減少させることが可能な、血漿、血清またはその代替物の1以上が比較的少量で、例えば、約5または10容量%以下、例えば、約1、約2、約3または約4容量%で、良好に実施され得る。
なおさらなる複数の実施形態において、濃縮血漿製品(例えば、凍結血漿からの濃縮物などの血漿濃縮物)、濃縮血清製品または血漿もしくは血清の濃縮代替物の製品の1以上が利用され得る。そのような濃縮製品は、濃度係数を相殺する(平衡させる、補償する)ためなど、血漿、血清またはその代替物の1以上の所望の濃度より低い濃度で、組成物中に含まれ得る。
特定の複数の実施形態において、ヒト血漿、血清および/またはその代替物のいずれか2つ以上の組合せまたは混合物が使用され得る。
特定の複数の実施形態において、FGF-2およびTGFβは、所望の細胞型に向かう分化を誘導するのに十分な濃度で、前記培地に含まれる。
特定の複数の実施形態において、FGF-2およびTGFβは、骨軟骨芽細胞または骨芽細胞系統のMSC由来細胞へのMSCの分化を誘導するのに十分な濃度で、前記培地に含まれる。一般に、FGF-2またはその生物学的に活性な多様体もしくは断片は、0.1~100ng/mlの間、好ましくは、0.5~20ng/mlの間の濃度、例えば、約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7もしくは6ng/ml、または約5ng/ml以下、例えば、約4、3、2、1もしくは0.5ng/mlで、培地に含まれ得る。一般に、TGFβ1などのTGFβ、またはその生物学的に活性な多様体もしくは断片は、0.1~100ng/mlの間、好ましくは、0.25~20ng/mlの間の濃度、例えば、約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7もしくは6ng/ml、または約5ng/ml以下、例えば、約4、3、2、1もしくは0.5ng/mlで、培地に含まれ得る。前記値は、培地に外因的に添加された、それぞれの成長因子またはその生物学的に活性な多様体もしくは断片の濃度を指すものとする。
特定の複数の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、少なくとも0.01IU/ml、少なくとも0.02IU/ml、少なくとも0.03IU/ml、少なくとも0.04IU/ml、少なくとも0.05IU/ml、少なくとも0.06IU/ml、少なくとも0.07IU/ml、少なくとも0.08IU/ml、少なくとも0.09IU/ml、少なくとも0.1IU/ml、少なくとも0.5IU/ml、少なくとも1IU/ml、少なくとも5IU/ml、少なくとも10IU/ml、少なくとも20IU/ml、少なくとも30IU/ml、少なくとも40IU/ml、少なくとも50IU/ml、少なくとも60IU/ml、少なくとも70IU/ml、少なくとも80IU/ml、少なくとも90IU/ml、または少なくとも100IU/mlの濃度で、前記培地に含まれる。特定の複数の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、少なくとも0.10IU/mlの濃度で前記培地に含まれる。特定の好ましい複数の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、約0.1IU/mlの濃度で前記培地に含まれる。特定の複数の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、約0.10IU/ml、0.20IU/ml、0.30IU/ml、0.40IU/ml、0.50IU/ml、0.60IU/ml、0.70IU/ml、0.80IU/ml、0.90IU/mlまたは1.0IU/mlの濃度で、前記培地に含まれ得る。
特定の複数の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度は、少なくとも0.05IU/ml、好ましくは約0.1IU/mlである。
ある実施形態において、上記の濃度は、培地中の成長因子またはその生物学的に活性な多様体もしくは断片あるいは前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の総濃度、すなわち、前記成長因子またはその生物学的に活性な多様体もしくは断片あるいは血漿、血清または代替物により寄与されたおよびそれに加えて提供された前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の合計濃度を指し得る。
別の実施形態において、上記の濃度は、前記成長因子またはその生物学的に活性な多様体もしくは断片あるいは血漿または血清によりすでに寄与されたものに加えて提供された前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度を指し得る。当然ながら、加えられる成長因子あるいはヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体が、血漿、血清またはその代替物中に正常に存在していない(検出不可能である)場合、成長因子あるいはヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の総濃度および添加濃度は、(実質的に)同じになる。
特定の複数の実施形態において、本明細書に記載のMSC由来細胞をMSCから得る方法は、以下の工程:
(a)FGF-2、TGFβおよび少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を含んでなる培地において、対象の生体サンプルから回収されたMSCを培養する工程;
(b)非接着性物質を除去し、FGF-2、TGFβおよび少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を含んでなる培地において、接着性細胞をさらに培養し、それにより、MSC由来細胞を得る工程、を含んでなる。好ましい実施形態において、本明細書において他所に定義される対象の生体サンプルから回収されたMSCは、培養容器中で培養される。培養容器は、細胞接着を可能にするプラスチック表面を提供し得る。別の実施形態において、表面はガラス表面であり得る。さらに別の実施形態において、表面は、細胞の接着および成長を可能にする適当な材料、例えば、マトリゲル(登録商標)、ラミニンまたはコラーゲンで被覆され得る。
特定の複数の実施形態において、MSCは、基質表面、例えば、プラスチック表面に接着することができるそれらの(単核)細胞を選択することにより、骨髄(または他の源)から回収され得る。
特定の複数の実施形態において、細胞は、工程(b)における非接着性物質を除去する前に、約1~8日間、より一般に約2~6日間の間、より一般に約4日間接着させてよい。さもなければ、工程(b)は、工程(a)の開始後、最大8日目、最大6日目、最大4日目、好ましくは最大4日目に実施される。
特定の複数の実施形態において、細胞は、約7~約35日の間、通常約10~約28日の間、より好ましくは約12~21日の間の期間、まとめて工程(a)および(b)において培養することができる。さもなければ、細胞は、それらのコンフルエンスが約60%以上、または約80%以上、または約90%以上、またはさらには最大100%に達するまで、まとめて工程(a)および(b)において培養してよい。
ある実施形態において、工程(b)の後、方法は、そのように得られた細胞または細胞集団を回収すること含んでなり得る。
ある実施形態において、工程(b)の後、方法は、FGF-2、TGFβおよび好ましくは、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を含んでなる培地において、MSC由来細胞を剥離、再播種および培養することを含んでなり得る。
ある実施形態において、工程(b)の後、方法は、骨形成または軟骨形成分化培地においてMSC由来細胞を剥離、再播種および培養することを含んでなり得る。
骨形成および軟骨形成分化培地は、当技術分野で公知である。限定されるものではないが、骨形成分化培地は、アスコルビン酸、β-グリセロリン酸、およびデキサメタゾンが供給された基本培地を含み得る。限定されるものではないが、軟骨形成分化培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、アスコルビン酸、TGFβ-1、ピルビン酸ナトリウムおよびデキサメタゾンが供給された基本培地を含み得る。
工程(b)の後のMSC由来細胞の剥離、再播種および培養は、1回以上、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回または10回実施してよい。当業者は、これは、それぞれ継代1(P1)、継代2(P2)、継代3(P3)、継代4(P4)、継代5(P5)、継代6(P6)、継代7(P7)、継代8(P8)、継代9(P9)または継代10(P10)を生じ得ることを理解するであろう。継代0(P0)は、剥離および/または再播種されていないMSCまたはMSC由来細胞を指し得る。
特に、MSCの骨形成分化など、MSCの分化は、一般に、それらが由来するMSCよりも大きい細胞サイズを有するMSC由来細胞をもたらす。本発明者らは、MSCまたはMSC由来細胞をin vitroまたはex vivoで、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることにより、MSC由来細胞をMSCから得る場合、この細胞サイズの増加は生じないまたは低減するもしくは最小限になることを見出した。そのような小さなMSC由来細胞は、本明細書において他所に記載の有利に改善された移植特性を有する。
従って、さらなる側面は、移植特性が改善されたMSC由来細胞をMSCから得る方法であって、前記方法はサイズ縮小工程を含んでなり、前記サイズ縮小工程は、MSCまたはMSC由来細胞をin vitroまたはex vivoで、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを特徴とする方法を提供する。
本明細書で使用する場合、用語「サイズ縮小」は、(i)サイズ縮小工程を含まないその他の点で同一の方法により得られたMSC由来細胞と比較して、サイズ縮小工程を含んでなる方法により得られたMSC由来細胞の低減した物理的寸法またはサイズ(例えば、平均サイズ、直径もしくは容量により測定されたもの、または好適な細胞サイズ指示変数、例えば、D60、D65、D70、もしくはD75)を指す。サイズ縮小は、サイズ縮小工程を用いずに得られたMSC由来細胞の平均細胞サイズと比較して、サイズ縮小工程を用いて得られたMSC由来細胞の少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも20%、好ましくは、少なくとも30%の平均細胞サイズの減少であり得る。
特定の複数の実施形態において、本明細書に記載の移植特性が改善されたMSCからMSC由来細胞を得る方法は、適当な添加培養培地においてMSCをin vitroまたはex vivoで培養して、後期および初期の分化の特徴を伴う高い増殖率に到達させる工程を含んでなり、前記工程は、サイズ縮小工程と同時にまたはその前に実施される。
特定の複数の実施形態において、方法は、細胞を少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させると同時にまたはその前に、MSCの増殖および/または分化を誘導する能力を有する1以上の剤とMSCを接触させることを含んでなり得る。
用語「剤」は、大まかに、任意の化学的(例えば、無機もしくは有機)、生化学的もしくは生物学的物質、分子もしくは高分子(例えば、生物学的高分子)、その組合せもしくは混合物、未確定の組成のサンプル、または細菌、植物、真菌、もしくは動物の細胞もしくは組織などの生物学的材料から作られた抽出物を指す。MSCの増殖および/または分化を誘導する能力を有する剤の限定されない例としては、FGF-2およびTGFβなどの成長因子、ならびに血漿または血清もしくはその代替物が挙げられる。当業者は、成長因子または成長因子の組合せは、所望の細胞型に向かったMSCの分化を誘導する能力を有することで知られる任意の成長因子または成長因子の組合せであってよいことを理解するであろう。
特定の複数の実施形態において、本明細書に記載の移植特性が改善されたMSCからMSC由来細胞を得る方法は、MSCまたはMSC由来細胞をin vitroまたはex vivoでFGF-2およびTGFβと接触させる工程をさらに含んでなる。前記MSCまたはMSC由来細胞をin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよび少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることは、好ましくは、同時に実施される。
特定の複数の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、例えば、培地が、血漿、血清またはその代替物の1以上をさらに含んでなるように、血漿、血清またはその代替物の1以上とさらに接触する。
前述のように、上記の詳細な方法は、優れた特徴、例えば、特に、前述のMSC由来細胞より小さくかつ均一なサイズを有する、MSC由来細胞、またはそれを含んでなる集団をもたらす。本明細書に記載の方法により得ることができるMSC由来細胞のより小さくかつより均一なサイズは、移植特性が改善された細胞をもたらす。より詳しくは、本明細書に記載の方法により得ることができるMSC由来細胞のより小さくかつより均一なサイズは、とりわけ、優れたin vivo安全性プロファイルおよび/または注射筒の操作性を提供することにより、肺塞栓および肺梗塞のリスクを低減または排除することにより、総ての投与経路、特に血管内投与に適した細胞をもたらす。さらに、本明細書に記載の方法により得ることができるMSC由来細胞は、投与容量が制限された部位に調節可能かつ高い細胞濃度を送達することを可能にする。
本明細書を考慮すると、本発明の方法は、MSCをFGF-2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることにより得られたMSC由来細胞の、細胞の直径および/または容量により特徴付けられるサイズによって、さらに定義され得る。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径は、30μm未満、29μm未満、28μm未満、27μm未満、26μm未満、25μm未満、または24μm未満である。好ましくは、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径は、24μm未満である。
用語「懸濁液」および「細胞懸濁液」は、一般に、液相に分散された、MSC由来細胞、特に生存MSC由来細胞を指す。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径は、10μm超、11μm超、12μm超、13μm超、14μm超、15μm超、16μm超、17μm超または18μm超である。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径は、16μm~26μmの間、好ましくは、20μm~25μmの間である。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも60%が、25μm以下(D60≦25μm)、24μm以下(D60≦24μm)、23μm以下(D60≦23μm)、22μm以下(D60≦22μm)、21μm以下(D60≦21μm)、または20μm以下(D60≦20μm)、好ましくは、25μm以下(D60≦25μm)の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも65%が、25μm以下(D65≦25μm)、24μm以下(D65≦24μm)、23μm以下(D65≦23μm)、22μm以下(D65≦22μm)、21μm以下(D65≦21μm)、または20μm以下(D65≦20μm)、好ましくは、25μm以下(D65≦25μm)の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも70%が、25μm以下(D70≦25μm)、24μm以下(D70≦24μm)、23μm以下(D70≦23μm)、22μm以下(D70≦22μm)、21μm以下(D70≦21μm)、または20μm以下(D70≦20μm)、好ましくは、25μm以下(D70≦25μm)の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも75%が、25μm以下(D75≦25μm)、24μm以下(D75≦24μm)、23μm以下(D75≦23μm)、22μm以下(D75≦22μm)、21μm以下(D75≦21μm)、または20μm以下(D75≦20μm)、好ましくは、25μm以下(D75≦25μm)の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、25μm以下のD60(D60≦25μm)を示し、懸濁液中のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する。特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、25μm以下のD65(D65≦25μm)を示し、懸濁液中のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、25μm以下のD70(D70≦25μm)を示し、懸濁液中のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、25μm以下のD75(D75≦25μm)を示し、懸濁液のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、約25μm~約10μmの間(10μm≦D60≦25μm)、約24μm~約10μmの間(10μm≦D60≦24μm)、約23μm~約10μmの間(10μm≦D60≦23μm)、約22μm~約10μmの間(10μm≦D60≦22μm)、約21μm~約10μmの間(10μm≦D60≦21μm)または約20μm~約10μmの間(10μm≦D60≦20μm)、好ましくは、約25μm~約10μmの間(10μm≦D60≦25μm)のD60を示す。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、約25μm~約10μmの間(10μm≦D65≦25μm)、約24μm~約10μmの間(10μm≦D65≦24μm)、約23μm~約10μmの間(10μm≦D65≦23μm)、約22μm~約10μmの間(10μm≦D65≦22μm)、約21μm~約10μmの間(10μm≦D65≦21μm)または約20μm~約10μmの間(10μm≦D65≦20μm)、好ましくは、約25μm~約10μmの間(10μm≦D65≦25μm)のD65を示す。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、約25μm~約10μmの間(10μm≦D70≦25μm)、約24μm~約10μmの間(10μm≦D70≦24μm)、約23μm~約10μmの間(10μm≦D70≦23μm)、約22μm~約10μmの間(10μm≦D70≦22μm)、約21μm~約10μmの間(10μm≦D70≦21μm)または約20μm~約10μmの間(10μm≦D70≦20μm)、好ましくは、約25μm~約10μmの間(10μm≦D70≦25μm)のD70を示す。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、約25μm~約10μmの間(10μm≦D75≦25μm)、約24μm~約10μmの間(10μm≦D75≦24μm)、約23μm~約10μmの間(10μm≦D75≦23μm)、約22μm~約10μmの間(10μm≦D75≦22μm)、約21μm~約10μmの間(10μm≦D75≦21μm)または約20μm~約10μmの間(10μm≦D75≦20μm)、好ましくは、約25μm~約10μmの間(10μm≦D75≦25μm)のD75を示す。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも90%が、30μm以下(D90≦30μm)、29μm以下(D90≦29μm)、28μm以下(D90≦28μm)、27μm以下(D90≦27μm)、26μm以下(D90≦26μm)または25μm以下(D90≦25μm)、好ましくは、30μm以下(D90≦30μm)の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、30μm以下のD90(D90≦30μm)を示し、懸濁液中のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞は、約30μm~約10μmの間のD90(10μm≦D90≦30μm)を示す。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中の各MSC由来細胞の直径は、10μm超、11μm超、12μm超、13μm超、14μm超または15μm超、好ましくは、10μm超である。
細胞の直径は、当技術分野で公知の任意の方法により、例えば、デジタル顕微鏡および付属の画像解析用ソフトウエア(例えば、Motic Image Plus 2.02)により、決定され得る。本明細書で言及される平均細胞直径は、浮遊非接着状態の細胞、従って、懸濁液中の細胞の直径に基づいて決定すべきである。細胞は、好ましくは、PBSなどの透明で無毒性の等張緩衝液、および場合により、トリパンブルーなどの生細胞と死細胞を区別するための色素を含んでなる溶液に懸濁される。好ましくは、解析を統計的に有意とみなすためには、少なくとも100個の細胞を測定する必要がある。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中の各MSC由来細胞の直径は、38μm未満、37μm未満、36μm未満、35μm未満、好ましくは、35μm未満である。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径の標準偏差は、7.0μm未満、6.5μm未満、6.0μm未満、5.5μm未満、5μm未満、4.5μm未満、4μm未満または3.5μm未満である。好ましくは、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径の標準偏差は、4.0μm未満、例えば、3.0~3.5μmの間である。
本発明者らは、本明細書に記載の方法により得られたMSC由来細胞の細胞サイズ分布は安定であることを見出した。従って、本明細書に記載の方法により得られたMSC由来細胞の直径および/または容量は、in vitroでの培養中に、任意の時点および任意の集密度で決定され得る。好ましい複数の実施形態において、細胞が、30%~80%の間、好ましくは、40%~70%の間、例えば、40%、45%、50%、55%、60%、65%または70%の集密度に達したとき、MSC由来細胞の直径および/または容量は決定される。
さらなる側面は、MSC由来細胞をMSCから得る方法であって、MSCをin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを含んでなり、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径は、25μm未満、例えば24μm未満または例えば20μm~25μmの間である方法を提供する。
さらなる側面は、MSC由来細胞をMSCから得る方法であって、MSCをin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを含んでなり、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも60%が、25μm以下の直径(D60≦25μm)を有し、好ましくは、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも70%が、25μm以下の直径(D70≦25μm)を有し、細胞集団の最大5%が、35μm超の直径を有する方法を提供する。
MSC由来細胞の平均直径、MSC由来細胞の最大個別直径、MSC由来細胞の平均容量、D60、D65、D70、D75、D90、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度、MSCの増殖および/または分化を誘導する能力を有するMSC由来細胞の系統および剤に関するそれらの実施形態を含む、前述の総ての実施形態は、本明細書で教示するMSC由来細胞を得る総ての方法に適用されることは、当業者にとって明らかであろう。
さらなる側面は、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径が、30μm未満、29μm未満、28μm未満、27μm未満、26μm未満、25μm未満または24μm未満である、MSCのin vitroまたはex vivoでの増殖により得ることができるMSC由来細胞の集団を提供する。好ましくは、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径は、24μm未満である。
さらなる側面は、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも60%が、25μm以下の直径(D60≦25μm)を有し、好ましくは、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも70%が、25μm以下の直径(D70≦25μm)を有し、細胞集団の最大5%が、35μm超の直径を有する、MSCのin vitroまたはex vivoでの増殖により得ることができるMSC由来細胞の集団を提供する。本明細書で使用する場合、用語「集団」は、所望のMSC由来細胞型の細胞の実質的に純粋な(すなわち、主にそれから構成される)、均一な群を指す。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中の各MSC由来細胞の直径は、38μm未満、37μm未満、36μm未満、好ましくは、35μm未満である。
特定の複数の実施形態において、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径の標準偏差は、6.0μm未満、5.5μm未満、5.0μm未満、4.5μm未満、4.0μm未満または3.5μm未満である。好ましくは、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径の標準偏差は、4.0μm未満、例えば、3.0~3.5μmの間である。
特定の複数の実施形態において、MSC由来細胞の集団は、本明細書で教示するMSC由来細胞をMSCから得る方法により、得ることができる。
MSC由来細胞の平均直径、MSC由来細胞の最大個別直径、MSC由来細胞の平均容量、D60、D65、D70、D75、D90、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度、MSCの増殖および/または分化を誘導する能力を有するMSC由来細胞の系統および剤に関するそれらの実施形態を含む、前述の総ての実施形態は、本明細書で教示するMSC由来細胞を得る総ての方法に適用され、従って、本明細書で教示する前記方法により得ることができるMSC由来細胞およびMSC由来細胞の集団にも適用されることは、当業者にとって明らかであろう。
従って、さらなる側面は、本明細書に定義されるMSC由来細胞またはMSC由来細胞の集団を含んでなる組成物に関する。本明細書で教示するMSC由来細胞またはMSC由来細胞の集団を含んでなり、1以上の他の成分をさらに含んでなる組成物も提供される。例えば、細胞の生存率を維持または亢進することができる成分が含まれ得る。例示として、限定されるものではないが、そのような成分としては、実質的に等張の条件を保証するための塩、緩衝系などのpH安定剤(例えば、実質的に中性のpHを保証するためのもの、例えば、リン酸または炭酸緩衝系)、例えばアルブミンなどの担体タンパク質、基本培地および/もしくは培地添加物、血清もしくは血漿を含む培地、栄養素、炭水化物源、保存剤、安定剤、抗酸化剤または当業者に周知の他の材料が挙げられ得る。また、それぞれのMSC由来細胞またはMSC由来細胞の集団を上記の前記1以上のさらなる成分と混合することにより、前記組成物を製造する方法も開示される。組成物は、例えば、液体であってもよいし、または半流動もしくは固体であってもよい(例えば、凍結組成物であってもよいし、またはゲルとして存在してもよいし、または固体支持体もしくは足場上に存在してもよい、など)。とりわけ、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保存剤は、当技術分野で周知である。
用語「組成物」、「処方物」、または「調製物」は、本明細書において互換的に使用され得る。
特定の複数の実施形態において、組成物は、本明細書に定義されるMSC由来細胞またはMSC由来細胞の集団、および場合により、1以上の薬学上許容可能な賦形剤を含んでなる医薬組成物である。
本明細書で使用する場合、用語「薬学上許容可能な」は、当技術分野と一致し、医薬組成物の他の成分と適合し、かつその受容者に対して有害ではないことを意味する。
本明細書で使用する場合、「担体」または「賦形剤」は、任意のおよび総ての溶媒、希釈剤、緩衝剤(例えば、中性緩衝生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)、可溶化剤、コロイド、分散媒、ビヒクル、増量剤、キレート化剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、アミノ酸(例えば、グリシン)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、芳香剤、増粘剤、デポ効果を達成するための剤、コーティング剤、抗真菌剤、保存剤、安定剤、抗酸化剤、張度調節剤、吸収遅延剤などを含む。医薬活性物質に対するそのような培地および剤の使用は、当技術分野で周知である。そのような材料は、無毒性であるべきであり、細胞の活性を妨げてはならない。
担体または賦形剤または他の材料の正確な性質は、投与経路に依存する。例えば、組成物は、発熱物質不含であり、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形態であり得る。医薬処方における一般原則については、読者は、Cell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy, by G. Morstyn & W. Sheridan編, Cambridge University Press, 1996; and Hematopoietic Stem Cell Therapy, E. D. Ball, J. Lister & P. Law, Churchill Livingstone, 2000を参照されたい。
液体医薬組成物は、一般に、水または薬学上許容可能な水溶液などの液体担体を含み得る。例えば、生理食塩水、組織もしくは細胞培養培地、デキストロースもしくは他の糖類溶液またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールが挙げられ得る。
組成物は、1以上の細胞保護分子、細胞再生分子、成長因子、抗アポトーシス因子または細胞における遺伝子発現を調節する因子を含み得る。そのような物質は、細胞をその環境に依存しないようにし得る。
そのような医薬組成物は、その中の細胞の生存率を保証するさらなる成分を含有し得る。例えば、組成物は、望ましいpH、より通常は、中性に近いpHに達するための好適な緩衝系(例えば、リン酸もしくは炭酸緩衝系)を含んでなり得、浸透圧ストレスを防ぐために細胞に対して等張条件を保証するために十分な塩を含んでなり得る。例えば、これらの目的のための好適な溶液は、当技術分野で公知のように、リン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、リンゲル注射液または乳酸リンゲル注射液であり得る。さらに、組成物は、細胞の生存率を増加させ得る担体タンパク質、例えば、アルブミン(例えば、ウシまたはヒトアルブミン)を含んでなり得る。
さらに好適に薬学上許容可能な担体または添加剤は、当業者に周知であり、例えば、コラーゲンまたはゼラチンなどのタンパク質、デンプンなどの炭水化物、多糖、糖(デキストロース、グルコースおよびスクロース)、カルボキシメチルセルロースナトリウムもしくはカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、アルファ化デンプン、ペクチン寒天、カラゲナン、粘土、親水性ガム(アカシアガム、グアーガム、アラビアガムおよびキサンタンガム)、アルギン酸、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、ポリグリコール酸およびポリ乳酸、デキストラン、ペクチン、水溶性アクリルポリマーまたはポリビニルピロリドンなどの合成ポリマー、プロテオグリカン、リン酸カルシウムなどから選択され得る。
所望により、改善された組織再生を提供するために、細胞調製物を、支持体、足場、マトリックスまたは材料に投与することができる。例えば、材料は、粒状セラミック、またはゼラチン、コラーゲン、またはフィブリノーゲンなどの生体高分子であり得る。多孔質マトリックスは、標準的な技法に従って合成することができる(例えば、Mikos et al., Biomaterials 14: 323, 1993; Mikos et al., Polymer 35:1068, 1994; Cook et al., J. Biomed. Mater. Res. 35:513, 1997)。そのような支持体、足場、マトリックスまたは材料は、生分解性であってもよく、または非生分解性であってもよい。従って、細胞は、移植に供するために、好適な基質、例えば多孔質または非多孔質基質に移され得るおよび/またはその上で培養され得る。例えば、増殖している、または培養皿において分化中の細胞は、必要に応じて、本発明の液体栄養培地中で固体支持体をインキュベートすることにより、それらの細胞を増殖させるおよび/または分化過程を継続させるために、三次元固体支持体上に移すことができる。例えば、前記細胞を含有する液体懸濁液に前記支持体を含浸させることにより、細胞を三次元固体支持体上に移すことができる。このように得られた含浸支持体は、対象に移植することができる。そのような含浸支持体は、最終的に移植される前に、液体培養培地にそれらを浸漬することにより、再培養することもできる。三次元固体支持体は、それをヒトに移植可能とするために、生体適合性である必要がある。これは、生分解性であってもよく、または非生分解性であってもよい。
細胞または細胞集団は、それらが、生存、成長、増殖および/または例えば肝細胞などの所望の細胞型に向かった分化をすることを可能にする様式で、投与され得る。細胞または細胞集団は、例えば肝臓などの意図する臓器に移植され得る、またはそれに向かって遊走するおよびその中に生着し得る。他の場所、組織または臓器、例えば、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓被膜、腹膜または網における細胞または細胞集団の生着が、想定され得る。
ある実施形態において、上記で定義される医薬細胞調製物は、液体組成物の形態で投与され得る。複数の実施形態において、細胞またはそれを含んでなる医薬組成物は、全身的、局所的、臓器内、臓器機能不全もしくは病変の部位または組織病変の部位に投与され得る。
好ましくは、医薬組成物は、治療上有効な量の所望の細胞を含んでなり得る。用語「治療上有効な量」は、研究者、獣医師、医師または他の臨床家により探究されている組織、系、動物またはヒトにおいて生物学的または医薬的応答を誘発し得る量、特に、処置されている疾患または状態の局所または全身症状または特徴の1以上を予防または軽減し得る量を指す。適当な治療上有効な量は、所望の細胞の性質、病態および重症度、ならびに対象の年齢、サイズおよび状態に相応の注意を払い、有資格医師により決定され得る。
また、本発明の細胞を、上記の1以上のさらなる成分および上記の1以上の医薬賦形剤と混合することにより、前記医薬組成物を製造する方法も提供される。
また、例えば全身的に、例えば注射により、など、対象に対して本明細書で教示するMSC由来細胞もしくはMSC由来細胞の集団または本明細書に定義される医薬組成物を投与するための外科機器またはデバイスを含んでなり、本明細書で教示するMSC由来細胞もしくはMSC由来細胞の集団または本明細書に定義される医薬組成物をさらに含んでなる、部品の配置またはキットも開示される。
ある実施形態において、上記で定義される医薬組成物は、液体または粘性組成物の形態で投与され得る。
関連側面において、本発明は、医薬としての使用のための、上記で定義されるMSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団または前記MSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団を含んでなる医薬組成物を提供する。関連側面において、本発明は、MSC由来細胞の移植を必要とする対象の処置における使用のための、上記で定義されるMSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団または前記MSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団を含んでなる医薬組成物を提供する。関連側面において、本発明は、MSC由来細胞の移植を必要とする対象を処置する方法であって、前記対象に、治療上有効な量の上記で定義されるMSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団または前記MSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団を含んでなる医薬組成物を投与することを含んでなる方法を提供する。関連側面において、本発明は、MSC由来細胞の移植を必要とする対象の処置のための医薬の製造のための、上記で定義されるMSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団または前記MSC由来細胞もしくはMSC由来細胞集団を含んでなる組成物の使用を提供する。
本明細書で使用する場合、用語「処置する」または「処置」は、治療的処置および予防的(prophylactic)または予防的(preventive)処置の両方を指し、その目的は、望まれない生理学的変化または障害を予防または減速(軽減)することである。有益なまたは所望の臨床結果としては、限定されるものではないが、症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の安定した(すなわち、悪化していない)状態、疾患進行および合併症の発生の遅延または緩徐化、病態の寛解または緩和が含まれる。「処置」は、処置を受けていない場合に予想される生存期間と比較した、生存期間の延長も意味し得る。
本明細書で使用する場合、用語「MSC由来細胞の移植を必要とする対象」は、所与の状態、好ましくは、上記の状態または疾患の処置から利益が得られる哺乳動物またはヒト対象などの対象を含む。そのような対象は、一般に、限定されるものではないが、状態と診断されている対象、前記状態を有するもしくは発症する傾向がある対象、および/または状態が予防されるべき対象を含む。
用語「移植」または「細胞移植」は、その通常の意味を有し、特に、対象に対する細胞の投与を指す。用語「細胞移植」は、「細胞療法」と互換的に使用され得る。細胞移植は、当技術分野で公知の任意の技法により実施され得る。例示として、限定されるものではないが、細胞は、注入により対象に移植され得る。一般に、細胞注入は、非経口、例えば、血管内、皮下、皮内、または筋肉内、好ましくは、血管内で実施され得る。細胞は、例えば、限定されるものではないが、全身的、局所的または病変の部位に投与され得る。特定の適用、標的組織、治療目的または細胞型に応じて、投与経路および処方、濃度などに関して、それに合うように調整してよいことは明らかであり得る。
本明細書で教示するMSC由来細胞の均一で小さな細胞サイズは、対象に対する前記細胞の静脈内投与時、急性毒性の低減または抑制をもたらす。従って、本明細書で教示するMSC由来細胞は、血管内または経皮投与に特に好適である。
従って、特定の複数の実施形態において、上記で定義されるMSC由来細胞もしくはMSC由来細胞の集団または医薬組成物は、MSC由来細胞の移植を必要とする前記対象に対して、経皮または血管内で投与され得る。
さらに、本発明者らは、骨軟骨芽細胞系統または骨芽細胞系統のMSC由来細胞は、本明細書で教示する方法により得られ、より強力な骨形成特性を有することを見出した。
従って、特定の実施形態において、前記状態または疾患は、筋骨格疾患である。
本明細書で使用する場合、用語「筋骨格疾患」は、いずれかの種類の骨疾患、筋肉疾患、関節疾患、または軟骨異栄養症を指し、その処置は、疾患を有する対象に対する本発明の医薬処方物の投与から利益が得られ得る。特に、そのような疾患は、例えば、減少した骨および/もしくは軟骨形成または過剰な骨および/もしくは軟骨吸収、骨に存在する骨芽細胞もしくは骨細胞および/または軟骨に存在する軟骨芽細胞もしくは軟骨細胞の数、生存率または機能の減少、対象における減少した骨質量および/または軟骨質量、骨の非薄化、損なわれた骨の強度または弾性などによって特徴付けられ得る。
筋骨格疾患の限定されない例としては、局所または全身障害、例えば、いずれかの種類の骨粗鬆症または骨減少症、例えば、原発性、閉経後、老人性、コルチコイド誘発性、ビスホスホネート誘発性、および放射線療法誘発性;いずれかの続発性、単一または多部位骨壊死;いずれかの種類の骨折、例えば、偽関節、変形癒合、遷延治癒骨折または圧迫、顎顔面骨折;骨の癒合(例えば、脊椎固定および再建)を要する状態;先天性骨欠損;骨再建、例えば、外傷後または癌手術後、および頭蓋顔面骨再建;外傷性関節炎、限局性軟骨および/または関節欠損、限局性変形性関節症;変形性関節症、変形性関節症、変形性膝関節症、および変形性股関節症;骨形成不全症;溶骨性骨癌;パジェット病;内分泌学的障害;低リン酸血症;低カルシウム血症;腎性骨異栄養症;骨軟化症;無形成骨症、副甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、続発性副甲状腺機能亢進症;歯周病;ゴーハム・スタウト病およびマッキューン・オルブライト症候群;関節リウマチ;強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、腸炎性関節症、および未分化脊椎関節炎を含む脊椎関節症、ならびに反応性関節炎;全身性エリテマトーデスおよび関連症候群;強皮症および関連障害;シェーグレン症候群;巨細胞性動脈炎(ホートン病)、高安動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、ANCA関連血管炎(ウェゲナー肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、およびチャーグ・ストラウス症候群など)、ベーチェット症候群、および他の多発動脈炎を含む全身性血管炎、ならびに関連障害(結節性多発動脈炎、コーガン症候群、およびバージャー病など);アミロイドーシスおよびサルコイドーシスを含む他の全身性炎症性疾患を伴う関節炎;痛風、ピロリン酸カルシウム二水和物疾患、リン酸カルシウムまたはシュウ酸カルシウム結晶の関節沈着に関連した障害または症候群を含む結晶性関節炎;軟骨石灰化症および神経障害性関節症;フェルティ症候群およびライター症候群;ライム病およびリウマチ熱が挙げられ得る。
特定の実施形態において、前記状態または疾患は、骨関連障害である。
従って、本明細書で使用する場合、用語「骨関連障害」は、いずれかの種類の骨疾患を指し、その処置は、障害を有する対象に対する、骨形成特性を有する細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞の移植から利益を得られ得る。特に、そのような障害は、例えば、減少した骨形成または過剰な骨吸収、骨に存在する骨芽細胞または骨細胞の数、生存率または機能の減少、対象における減少した骨質量、骨の非薄化、損なわれた骨の強度または弾性などによって特徴付けられ得る。
例示として、限定されるものではないが、本発明の方法により得られた骨形成特性を有するMSC由来細胞(例えば、骨芽細胞系統の細胞)の移植から利益を得られ得る骨関連障害としては、局所または全身障害、例えば、いずれかの種類の骨粗鬆症または骨減少症、例えば、原発性、閉経後、老人性、コルチコイド誘発性、いずれかの続発性、単一または多部位骨壊死、いずれかの種類の骨折、例えば、偽関節、変形癒合、遷延治癒骨折または圧迫、骨の癒合(例えば、脊椎固定および再建)を要する状態、顎顔面骨折、骨再建、例えば、外傷後または癌手術後、頭蓋顔面骨再建、骨形成不全症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌学的障害、低リン酸血症、低カルシウム血症、腎性骨異栄養症、骨軟化症、無形成骨症、関節リウマチ、副甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、続発性副甲状腺機能亢進症、歯周病、ゴーハム・スタウト病およびマッキューン・オルブライト症候群が挙げられ得る。
本明細書に記載のMSC由来細胞、MSC由来細胞の集団および医薬組成物は、単独で使用してもよいし、または、それぞれの障害に対する公知の療法または有効化合物のいずれかと組み合わせて使用してもよい。投与は、他所に説明するように、同時でもよいし、または任意の順序での逐次的でもよい。
細胞が、異種(すなわち、非自己、非相同または非同種)の源に由来する場合、例えば、シクロスポリンまたはタクロリムス(FK506)などの免疫抑制剤を用いて、併用免疫抑制療法が一般に投与され得る。
投与される細胞の量は、処置されている対象によって変わる。好ましい実施形態において、投与される細胞の量は、102~1010個の間もしくは102~109個の間、または103~1010個の間もしくは103~109個の間、または104~1010個の間もしくは104~109個の間、例えば、104~108個の間、または105~107個の間であり、例えば、約1×105、約5×105、約1×106、約5×106、約1×107、約5×107、約1×108、約5×108、約1×109、約2×109、約3×109、約4×109、約5×109、約6×109、約7×109、約8×109、約9×109または約1×1010個の細胞が、ヒト対象に投与され得る。さらなる複数の実施形態において、kg体重あたり106~108個の間の細胞またはkg体重あたり1×107~9×107個の間の細胞、例えば、kg体重あたり約1×107、約2×107、約3×107、約4×107、約5×107、約6×107、約7×107、約8×107、約9×107または約1×108個の細胞が、ヒト対象に投与され得る。例えば、そのような数の細胞またはそのような数のkg体重あたりの細胞は、特に、対象投与される細胞の総数を指し得、その投与は、1日以上にわたって(例えば、1、2、3、4または5日以上にわたって)投与される1以上の用量にわたって好適に分布し得る(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10以上の用量にわたって分布し得る)。しかしながら、治療上有効な量の正確な決定は、患者のサイズ、年齢、組織損傷のサイズ、および損傷が生じてからの期間を含む、各患者に個別の因子に基づき得、本開示および当技術分野における知識から当業者により容易に確認することができる。
好適には、投与される組成物において、細胞は、約104/ml~約109/mlの間、好ましくは、約105/ml~約108/mlの間、さらにより好ましくは、約1×106/ml~約1×108/mlの間、さらにより好ましくは、約1×107/ml~約1×108/ml、例えば、約7.5×107/mlの濃度で存在し得る。本明細書で教示するのMSC由来細胞の低減した細胞サイズは、調節可能なおよび/または高い細胞濃度を可能とする。従って、組成物が液体組成物である場合、MSC由来細胞の移植を必要とする対象に投与される本明細書で教示する方法により得られたMSC由来細胞を含んでなる組成物の容量は、他の方法により得られたMSC由来細胞を含んでなる組成物の容量より小さい。
従って、本発明の複数の側面および複数の実施形態は、以下の陳述(statements)のいずれか1つおよび総てにおいて示される主題を包含し、本明細書はそれを説明している。
陳述1:間葉系幹細胞由来細胞を間葉系幹細胞(MSC)から得る方法であって、MSCをin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよび少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを含んでなる、方法。
陳述2:以下の工程:
(a)FGF-2、TGFβおよび少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を含んでなる培地において、対象の生体サンプルから回収されたMSCを培養する工程;
(b)非接着性物質を除去し、FGF-2、TGFβおよび少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を含んでなる培地において、接着性細胞をさらに培養し、それにより、MSC由来細胞を得る工程
を含んでなる、陳述1に記載の方法。
陳述3:TGFβが、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、およびその混合物からなる群から選択され、好ましくは、TGFβがTGFβ1である、陳述1または2に記載の方法。
陳述4:移植特性が改善されたMSC由来細胞をMSCから得る方法であって、前記方法はサイズ縮小工程を含んでなり、前記サイズ縮小工程は、MSCまたはMSC由来細胞をin vitroまたはex vivoで、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを特徴とする、方法。
陳述5:ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度が、少なくとも0.05IU/ml、好ましくは約0.1IU/mlである、陳述1~4のいずれか一つに記載の方法。
陳述6:ヘパリンまたはヘパリン誘導体もしくは類似体が、未分画ヘパリン(UFH);エノキサパリン、ダルテパリン、ナドロパリン、チンザパリン、セルトパリン、レビパリン、アルデパリン、パルナパリン、ベミパリンなどの低分子量ヘパリン(LMWH)、またはその混合物;ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、アカラン硫酸、ケラタン硫酸などのヘパリノイド、またはダナパロイドなどのその混合物;ヘパリン塩;ヘパリノイド塩;ヘパリン断片;ヘパリノイド断片;およびその混合物からなる群から選択される、陳述1~5のいずれか一つに記載の方法。
陳述7:懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径が、25μm未満、例えば24μm未満、例えば20μm~25μmの間である、陳述1~6のいずれか一つに記載の方法。
陳述8:懸濁液中の各MSC由来細胞の直径が、35μm未満である、陳述1~7のいずれか一つに記載の方法。
陳述9:懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも60%が、25μm以下の直径(D60≦25μm)を有し、懸濁液中のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する、陳述1~8のいずれか一つに記載の方法。
陳述10:MSC由来細胞が、骨軟骨芽細胞系統である、陳述1~9のいずれか一つに記載の方法。
陳述11:MSC由来細胞が、骨芽細胞または軟骨芽細胞系統、好ましくは、骨芽細胞系統である、陳述1~10のいずれか一つに記載の方法。
陳述12:MSCが、血漿、血清またはその代替物の1以上、例えば、培地に付加的に含まれる血漿、血清またはその代替物の1以上とさらに接触する、陳述1~11のいずれか一つに記載の方法。
陳述13:MSC由来細胞をMSCから得る方法であって、MSCをin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを含んでなり、懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径は、25μm未満、例えば24μm未満、例えば20μm~25μmの間である、方法。
陳述14:懸濁液中の各MSC由来細胞の直径が、35μm未満である、陳述13に記載の方法。
陳述15:MSC由来細胞をMSCから得る方法であって、MSCをin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを含んでなり、懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも60%が、25μm以下の直径(D60≦25μm)を有し、懸濁液中のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する、方法。
陳述16:MSCが、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触する、陳述13~15のいずれか一つに記載の方法。
陳述17:TGFβが、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、およびその混合物からなる群から選択され、好ましくは、TGFβがTGFβ1である、陳述13~16のいずれか一つに記載の方法。
陳述18:懸濁液中のMSC由来細胞の平均直径が、25μm未満、例えば24μm未満、例えば20μm~25μmの間である、MSCのin vitroまたはex vivoでの増殖により得ることができるMSC由来細胞の集団。
陳述19:懸濁液中の各MSC由来細胞の直径が、35μm未満である、陳述18に記載のMSC由来細胞の集団。
陳述20:懸濁液中のMSC由来細胞の少なくとも60%が、25μm以下の直径(D60≦25μm)を有し、懸濁液中のMSC由来細胞の最大5%が、35μm超の直径を有する、MSCのin vitroまたはex vivoでの増殖により得ることができるMSC由来細胞の集団。
陳述21:MSC由来細胞が、MSCをin vitroまたはex vivoで、FGF-2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触させることを含んでなる方法により得ることができる、陳述18~20のいずれか一つに記載のMSC由来細胞の集団。
陳述22:MSCが、少なくとも0.01IU/mlの濃度のヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体と接触する、陳述21に記載のMSC由来細胞の集団。
陳述23:MSC由来細胞が、骨軟骨芽細胞系統である、陳述18~22のいずれか一つに記載のMSC由来細胞の集団。
陳述24:MSC由来細胞が、骨芽細胞または軟骨芽細胞系統、好ましくは、骨芽細胞系統である、陳述18~23のいずれか一つに記載のMSC由来細胞の集団。
陳述25:MSCが、血漿、血清またはその代替物1以上とさらに接触する、陳述18~24のいずれか一つに記載のMSC由来細胞の集団。
陳述26:TGFβが、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、およびその混合物からなる群から選択され、好ましくは、TGFβがTGFβ1である、陳述18~25のいずれか一つに記載のMSC由来細胞の集団。
陳述27:骨軟骨芽細胞系統の実質的に総てのMSC由来細胞が、CD90、CD105、CD73、CD63およびCD166に対して陽性であり;骨軟骨芽細胞系統の実質的に総てのMSC由来細胞が、CD45、CD14およびCD19に対して陰性であり;骨軟骨芽細胞系統のMSC由来細胞の少なくとも70%が、アルカリホスファターゼ(ALP)に対して陽性であり;骨軟骨芽細胞系統のMSC由来細胞の10%未満が、HLA-DRに対して陽性である、陳述23~27のいずれか一つに記載の骨軟骨芽細胞系統のMSC由来細胞の集団。
陳述28:陳述18~27のいずれか一つに定義されるMSC由来細胞の集団を含んでなる、医薬組成物。
陳述29:医薬としての使用のための、陳述18~27のいずれか一つに記載のMSC由来細胞の集団または陳述28に記載の医薬組成物。
陳述30:MSC由来細胞の集団が、約1×107/ml~約1×108/mlの間の濃度で、好ましくは、7.5×107個/mlの濃度で存在する、陳述29に記載の使用のためのMSC由来細胞の集団。
陳述31:MSC由来細胞の移植を必要とする対象の処置における使用のための、陳述18~27のいずれか一つに記載のMSC由来細胞の集団または陳述28に記載の医薬組成物。
陳述32:MSC由来細胞の集団または医薬組成物が、経皮または血管内投与に好適である、陳述29~31のいずれか一つに記載の使用のためのMSC由来細胞の集団。
その特定の複数の実施形態について本発明を説明したが、多くの代替、改変、および変形が、先の記載を踏まえて当業者には明らかであることは明白である。従って、添付の特許請求の範囲の趣旨および広範な範囲において、以下の通り総てのそのような代替、改変、および変形を包含するものとする。
上記の複数の側面および複数の実施形態は、以下の限定されない例によりさらに支持される。
実施例1:小サイズのMSC由来骨形成細胞を得る方法
1.実験手順
1.1 ヒト骨髄の回収およびヒトBM-MSC培養物
20~60mlのヒト骨髄(BM)吸引液を、8名の健常者ドナーの腸骨稜から得た。回収後、骨髄白血球を数え、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有する従来の培養培地において50,000個/cm2の密度で播種し、5%CO2を含有する加湿雰囲気下にて37℃でインキュベートした。24時間後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Lonza BioWhittaker(登録商標))ですすぐことにより、非接着性細胞を除去し、新鮮培地を加えた。培養培地は、2~3日毎に交換した。80%の細胞集密度が達成されるまで、接着性細胞のコロニーを培養した。次に、細胞をトリプシン-EDTA(TrypZean(登録商標)EDTA、Lonza BioWhittaker(登録商標))で剥離した。ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)により、トリプシン活性を中和した。細胞を数え、さらなる培養のために再播種した。80%の細胞集密度が達成されるまで、培養培地を2~3日毎に交換した。間葉系幹細胞(MSC)を、上記のように剥離した。
1.2 MSC由来骨形成細胞ならびに細胞培養および血漿調製
上記のように、20~60mlのヘパリン化骨髄(BM)を、8名のヒト健常者の腸骨稜から得た。回収後、骨髄を一定の白血球密度(50000個/cm2)で培養フラスコに播種し、以下のいずれかにおいて培養した。
- MSC由来骨形成細胞Bを得るため:5%v/v溶媒/洗浄剤処理(S/D)血漿(Octaplas(登録商標)、Octapharma AG、ヒト起源)、0.1IU/mlヘパリン(Heparin LEO、LEO Pharma SA、ベルギー、ロットA17605)、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2)およびトランスフォーミング成長因子β(TGFβ1)を添加した従来の培養培地;
- MSC由来骨形成細胞Zを得るため:5%v/v溶媒/洗浄剤処理(S/D)血漿(Octaplas(登録商標)、Octapharma AG、ヒト起源)および塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2)を添加した従来の培養培地;または
- MSC由来骨形成細胞Aを得るため:5%v/v溶媒/洗浄剤処理(S/D)血漿(Octaplas(登録商標)、Octapharma AG、ヒト起源)、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2)およびトランスフォーミング成長因子β(TGFβ1)を添加した従来の培養培地。
細胞を、5%CO2を含有する加湿雰囲気下にて37℃で培養した。最初の培地交換の前に、MSCを接着させた。培地は、3または4日毎に交換した。初代培養の最後に、トリプシン/EDTA溶液を用いて、37℃で1~5分間細胞を剥離し、細胞を数え、同じ培地において培養フラスコ中で二次培養のために再播種した。二次培養の最後に、MSC由来骨形成細胞を回収し、PBSで洗浄した。
1.3 in vitro細胞キャラクタリゼーション
1.3.1.細胞の計数および生存率
トリパンブルー排除アッセイを用いて、細胞密度および生存率を決定した。回収後、細胞をトリパンブルー(0.4%、Lonza BioWhittaker(登録商標))で1:2に希釈し、細胞生存率をビルケルチャンバー(Sigma-Aldrich(登録商標))および倒立顕微鏡(AE31、Motic(登録商標))を用いて分析した。細胞生存率はまた、アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD、BD Biosciences(登録商標))、BD FACSCanto II(商標)およびBD FACSDiva(商標)ソフトウエア(Becton Dickinson(登録商標))を用いたフローサイトメトリーによっても分析した。回収後、2.5μlの7-AADとともにPBS-1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Lonza BioWhittaker(登録商標))中で、室温にて10分間暗所において50,000個の細胞をインキュベートした。
1.3.2 マーカーの発現
1.3.2.1 フローサイトメトリー分析
上記の1.1項に記載の、二次培養後に得られたMSC由来骨形成細胞を回収し、細胞表面マーカーをフローサイトメトリー(BD FACSCanto II(商標)およびBD FACSDiva(商標)ソフトウエア;Becton Dickinson、米国)により分析した。細胞を、以下の抱合モノクローナル抗体:抗CD73、抗CD90、抗CD105および抗CD166(これらは間葉系マーカーであり、MSCまたはMSC由来細胞により高度に発現するはずである)、抗CD3、抗CD34および抗CD45(これらは造血マーカーであり、MSCまたはMSC由来細胞を実質的に欠いているはずである)、抗CD44、抗CD51/61、抗CD49a-e、抗CD29(これらは接着マーカーである)、抗CD40、抗CD86および抗HLA-DR(これらは免疫原性マーカーである)、ならびに抗アルカリホスファターゼ(ALP)で、室温にて15分間インキュベートし、次に、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した後、遠心分離し、0.3ml PBSに再懸濁させた。
細胞表面マーカーCD105、CD73、CD10およびCD44のキャラクタリゼーションのために、PBS-1%BSA中1×106個/mlの濃度の50000個の細胞を、5μlの抗体で暗所にて10分間インキュベートした。このインキュベーション時間の後、細胞をPBSで1回洗浄した。細胞外染色に用いた異なる抗体は、CD105(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:562408)、CD73(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:560847)に対するアロフィコシアニン(APC)抱合抗体、CD10(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:555375)、CD44(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:550989)に対するフィコエリトリン(PE)抱合抗体である。非特異的染色は、FITC、APCおよびPE(総てBD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:それぞれ556649;555751;556650)と抱合した免疫グロブリンG(IgG)対照で細胞をインキュベートすることにより、決定した。分析の前に、一重項および目的の集団のゲーティングを行った。FACS CantoII(BD Biosciences(登録商標))およびFACS Diva(登録商標)8.0ソフトウエア(BD Biosciences(登録商標))を用いて、ゲーティングした集団の10000イベントに対して、フローサイトメトリー分析を行った。分析に用いた設定パラメーターは、ビーズ(BD CompBeads Plus(登録商標)、カタログ番号560497)で自動的に行った。各抱合体に対して、陽性カットオフを対照アイソタイプ抗体の陽性の1%に固定し、各マーカーの陽性を決定した。全分析集団の蛍光強度(MFI)の中央値も決定し、それを、対応するアイソタイプ対照抗体のMFIで割り、正規化MFI(nMFI)を得た。
1.3.2.2.ALP染色
細胞を、それらのそれぞれの培養培地において60.000個/cm2で製造方法の最後に播種し、加湿インキュベーター(37℃-5%CO2)に入れる。24時間後に、ALP染色を接着性細胞に対して実施する。細胞を、クエン酸緩衝アセトンで固定し、4%v/vナフトールAS-MXリン酸アルカリ(Sigma;参照番号:855)から構成されるALP染色溶液および96%v/vファストブルーRR塩溶液(Sigma;参照番号:FBS25)で、暗所にて30分間インキュベートする。
1.3.2.3.ALP酵素活性測定
ALP酵素活性を、p-ニトロフェニルリン酸(pNPP)の加水分解に基づいた生化学的アッセイにより測定した。ALPにより脱リン酸化した後、pNPPは黄色となり、410nmで分光光度計により検出することができる。細胞のALP酵素活性は、精製仔ウシ腸アルカリホスファターゼ活性に基づいた標準曲線を基準にして決定する。ALP活性は、ALP/mgタンパク質の単位で報告される。1単位のALPは、37℃で1分間中に1μmolのpNPPを加水分解する。
1.3.3.逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)
回収後、RNA抽出まで、細胞を乾燥ペレット(500,000個の細胞)として-80℃で保存した。製造業者の説明書に従って、RNeasy(登録商標)Miniキット(Qiagen(登録商標))を用いて、全RNAを抽出した。DropSense(登録商標)16(Trinean(登録商標))を用いて、RNA濃度を測定した。製造業者の説明書に従って、PrimeScript(登録商標)RT試薬キット(Takara(登録商標))を用いて、1μgの全RNA抽出物からRTを行った。製造業者の説明書に従って、2μlのcDNAから、Premix Ex Taq(登録商標)(Takara(登録商標))を用いて、qPCRを行った。以下の目的の遺伝子の発現レベルを定量化した:
RUNX2(フォワード:GGTTCCAGCAGGTAGCTGAG(配列番号1)、リバース:AGACACCAAACTCCACAGCC(配列番号2))、SOX9(F:TAAAGGCAACTCGTACCCAA(配列番号3)、R:ATTCTCCATCATCCTCCACG(配列番号4)、BMP2(F:GGAACGGACATTCGGTCCTT(配列番号5)、R:CACCATGGTCGACCTTTAGGA(配列番号6))、ALPL(F:ACCATTCCCACGTCTTCACATTTG(配列番号7)、R:AGACATTCTCTCGTTCACCGCC(配列番号8))、MMP13(F:TGGAATTAAGGAGCATGGCGA(配列番号9)、R:AACTCATGCGCAGCAACAAG(配列番号10))、CHI3L1(F:TGGGTCTCAAAGATTTTCCAAGA(配列番号11)、R:GCTGTTTGTCTCTCCGTCCA(配列番号12))、DCN(F:AAAATGCCCAAAACTCTTCAGG(配列番号13)、R:GCCCCATTTTCAATTCCTGAG(配列番号14))、OCN(F:AAGGTGCAGCCTTTGTGT(配列番号15)、R:GCTCCCAGCCATTGATACAG(配列番号16))、SPON1(F:CCTGCGGAACTGCCAAGTA(配列番号17)、R:CACGGGTGAGCCCAATTCT(配列番号18))、POSTN(F:TTTGGGCACCAAAAAGAAAT(配列番号19)、R:TTCTCATATAACCAGGGCAACA(配列番号20))。
qPCRは、LightCycler(登録商標)480(Roche(登録商標))を用いて、繰り返して実施した。3つのハウスキーピング遺伝子:
RPL13A(F:CATAGGAAGCTGGGAGCAAG(配列番号21)、R:GCCCTCCAATCAGTCTTCTG(配列番号22))、TBP(F:AACAACAGCCTGCCACCTTA(配列番号23)、R:GCCATAAGGCATCATTGGAC(配列番号24))、HPRT(F:CCCTGGCGTCGTGATTAGT(配列番号25)、R:GTGATGGCCTCCCATCTCCTT(配列番号26))
から得られた幾何平均を用いて、正規化を行った。目的の各遺伝子に対して2-ΔΔCt法を用いて、遺伝子発現(倍率変化)を算出することにより、同じドナーからの異なるMSC由来細胞製品間の比較を行った(Schmittgen and Livak, 2008, 3(6), 1101-8; Nature Protocols, 3(6), 1101-1108)。
統計解析は、JMP(登録商標)(13.1.0)ソフトウエアを用いて行った。倍率変化で表されたRT-qPCRデータを対数変換し、スチューデント検定(α=0.05で)を行い、細胞型間で認められた差の統計的有意性を評価した。
得られたp値(p)に応じて、統計的有意性を図示した:*はp<0.05を表し、**はp<0.01を表し、***はp<0.001を表す。
1.3.4.マルチプレックスアッセイ
回収後、細胞を50,000個/cm2の密度で播種した。5%CO2を含有する加湿雰囲気下における37℃でのインキュベーションの48時間後、細胞培養上清を回収し、遠心分離し(室温にて1500rpmで5分間)、-80℃で保存した。Human Magnetic Luminex(登録商標)アッセイ(R&D System(登録商標))を用いたLuminex(登録商標)アッセイにより、上清を分析した。プレミックスマルチプレックスは、注文製であった(R&D System(登録商標))。以下の分泌因子を検討した:BMP-2、COL1A1、MMP13、OPN、OPG、SPARC、RANKL、CHI3L1。アッセイは、製造業者の説明書に従って行い、分析は、MAGPIX(登録商標)(R&D System(登録商標))およびBio-Plex Manager5.0TMソフトウエア(Bio-Rad(登録商標))を用いて行った。
1.4 細胞サイズの測定
上記の1.1項に記載の、二次培養後に得られたMSC由来骨形成細胞を回収し、12.5×106個/mlの細胞密度で、0.4%トリパンブルーとともにPBS中に懸濁させた。10μlの細胞懸濁液を目盛り付きスライド(Motic(登録商標))に載せた後、カバーガラスで保護し、倍率40倍の倒立顕微鏡(AE31;Motic)下に置いた。細胞直径を測定するために、顕微鏡に置かれたカメラ(Moticam)で撮影された画像を、Motic Image Plus2.02ソフトウエアにより解析した。解析を統計的に有意とみなすために、少なくとも100個の細胞を測定した。
ex vivo培養の異なる時点で得られたMSC由来骨形成細胞のサイズも、フローサイトメトリー(BD FACS Canto II(商標)およびBD FACS Diva(商標)ソフトウエア;Becton Dickinson SA)により分析した。簡単に述べれば、1.1項に記載のex vivo細胞培養の開始後21、23、26および28日目に、細胞を回収し、1.106個/mlの細胞密度でリン酸緩衝食塩水(PBS)に懸濁させ、前方散乱(FSC)測定(相対蛍光単位で表す)のためにフローサイトメーターで分析した。前方散乱は、レーザーパスの方向の散乱光を測定し、従って、フローチャンバーを通過する細胞に対して相対サイズを与える。
2.結果
2.1 細胞マーカー発現プロファイル
フローサイトメトリー分析では、骨形成細胞A(FGF-2およびTGFβ-1で産生)ならびに骨形成細胞B(FGF2、TGFβ1およびヘパリンで産生;本発明の実施形態)の細胞表面マーカー発現プロファイルに基づいた細胞同一性は、同等であることが明らかにされた。
骨形成細胞AおよびB両方の集団は、間葉系マーカーCD73、CD90、CD105、CD63、CD166を発現し、造血マーカーCD45、CD34およびCD3を発現しない(細胞集団の5%未満が、これらのマーカーを発現した)(表2および3)。骨形成細胞Bは、(i)低レベルのHLA-DRなどのMHCクラスII細胞表面受容体を発現し続け、(ii)ALPを高度に発現した。HLA-DRの弱発現により示される弱免疫原性は、有利には、例えば、同種対象に対する細胞移植を可能にする(表5)。さらに、骨形成細胞Aおよび骨形成細胞Bは、未分化MSCと比較して、それらの表面に接着マーカーCD49e、CD44および酵素ALPを高度に発現した(表3および4)。この最後のマーカー(ALP)の高発現は、骨形成細胞の骨芽細胞系統に向かうコミットメントを強調している。さらに、ALPの高発現は、骨形成細胞Bの骨芽細胞系統に向かうコミットメント(未分化MSCと比較して)を証明している。表6はまた、ALP発現は、ヘパリンの非存在下で培養された細胞(骨形成細胞A)よりも、ヘパリンの存在下で培養された細胞(骨形成細胞B)に対して高かったことを示す。
細胞表面マーカー発現プロファイルは、細胞表面上のマーカーの存在(集団陽性パーセンテージ)によってのみならず、異なるマーカーの細胞表面上に発現したマーカーの量を分析すること(蛍光の集団正規化中央値)によっても特徴付けられた。これらの分析は、異なるMSC由来骨形成細胞間のいくつかの差を強調するものであった。
ヘパリンの存在下で培養された骨形成細胞Bは、ヘパリンの非存在下で培養されたMSCおよび骨形成細胞Aよりも高いレベルのALPを発現し(表7、ALP-PE nMFIの結果)、このことにより、骨形成細胞の骨芽細胞系統に向かうコミットメントが確認された。
細胞表面での間葉系マーカーCD73およびCD105の発現も、細胞型に依存する。ヘパリンの存在下で産生された骨形成細胞(骨形成細胞B)は、骨形成細胞Aよりも高いレベルのCD73およびCD105を発現した(表7)。
2.2 RT-qPCRおよびマルチプレックスアッセイ
分析では、骨軟骨芽細胞マーカーをコードする遺伝子RUNX2、SOX9、ZNF521、ALPL、BMP2、OPG、POSTN、CHI3L1、MMP13、CADM1、CX43、CD10、WISP1ならびに骨および軟骨基質タンパク質をコードする遺伝子DCN、SPON1は、MSCと比較して、骨形成細胞AおよびBにおいて有意に過剰発現したことが明らかにされた(表8)。一貫して、骨軟骨形成阻害物質をコードするDKK1の遺伝子発現は、MSCと比較して、骨形成細胞AおよびBにおいて有意にダウンレギュレートした(表8)。
増殖マーカーをコードする遺伝子KI67およびPCNAの発現は、MSCと比較して、骨形成細胞AおよびBの両方において有意にダウンレギュレートし、アポトーシス関連マーカーBCL2およびBAXの遺伝子発現は、全細胞型において同等であった(表8)。
骨形成細胞Aと比較した場合、骨形成細胞Bは(得られたp値(p)に応じて、統計的有意性を図示した:*はp<0.05を表し、**はp<0.01を表し、***はp<0.001を表す):
- 高いレベルの(脂肪生成に関与するタンパク質をコードする)遺伝子PPARG(***)を発現し;
- 高いレベルの(骨軟骨芽細胞タンパク質をコードする)遺伝子CD73(***)、BMP2(***)を発現し;
- 低いレベルの(骨軟骨芽細胞タンパク質をコードする)遺伝子COL1A1(***)、BGN(***)、SPARC(***)、ALPL(*)、BCL2(***)を発現した。
骨形成細胞Aと比較して骨形成細胞Bにおいて過剰発現した遺伝子に関しては、PPARG、MMP13、BMP2も、MSCと比較して骨形成細胞Bにおいて有意に過剰発現したが、一方、発現は、骨形成細胞BおよびMSCにおいて同じ発現レベルを示した。
骨形成細胞Aと比較して骨形成細胞Bにおいてダウンレギュレートした遺伝子(すなわち、COL1A1、BGN、SPARC、BCL2)に関しては、MSCと比較して骨形成細胞Bにおいて依然として過剰発現していたALPLを除き、それらの総てが、MSCと比較して骨形成細胞Bにおいて同じ発現レベルを示した。
細胞分泌分析は、骨形成細胞Bは、骨形成細胞AおよびMSCよりも、高い量の骨軟骨形成に関与するタンパク質CHI3L1およびMMP13を分泌し(表9)、骨形成細胞AおよびMSCよりも、低い量の骨形成の阻害に関与するDKK1を分泌したことを示した。分泌されたCOL1A1の量に関して、細胞型間に有意差は認められなかった(表9)。
2.3 細胞サイズ
(i)Motic Image Plus2.0/3.0ソフトウエアおよび(ii)フローサイトメトリーFSC分析を用いた細胞サイズの測定では、FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生されたMSC由来骨形成細胞(骨形成細胞B)は、ヘパリンを用いずにFGF-2およびTGFβ1で産生されたMSC由来骨形成細胞(例えば、骨形成細胞A)より小さくかつより均一であることを確認した(表10および11、図1および11)。
非常に興味深いことに、大多数の骨形成細胞B(70%以上)は、直径25μmを超えておらず、それらの5%以下が、直径35μmを超えている(表8および9)。対照的に、ヘパリンの供給なしに得られた骨形成細胞集団(骨形成細胞A)は、直径25μmを超えない細胞を20%しか含まず、直径35μmを超える細胞を41%含む(図1および表10)。実施例3においてさらに詳述するように、そのような大きな直径の細胞は、対象への移植時に有害になり得る。
フローサイトメトリーFSC実験を用いて、in vitroでの培養の異なる時点における、従って、異なる細胞コンフルエンス、すなわち、45%、70%、90%および100%の集密度における、FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生された骨形成細胞Bの相対平均細胞サイズを評価した。表14は、骨形成細胞Bの細胞サイズは安定であり、細胞培養コンフルエンスとともに最終的に増加することを示す。すなわち、表14は、よりコンフルエントな細胞フラスコからの骨形成細胞Bの平均サイズは、低いコンフルエントの培養フラスコからのものよりも大きいことを示す。フローサイトメトリーFSC実験は、異なるサンプルの平均細胞サイズを比較できるが、平均細胞サイズの絶対値に関する情報は与えないことに留意されたい。
実施例2:実施例1のMSC由来細胞を調製する方法の特異性
1.実験手順
1.1 細胞培養および血漿調製
細胞培養および血漿調製を、実施例1に記載の通りに実施した。
ヘパリンとその類似体との比較に関する実験のために、従来の培養培地に、(i)5%v/v S/D血漿;(ii)塩基性FGF-2;(iii)TGFβ1;および(iv)0.1IU/mlの未分画ヘパリン(UFH)、ダルテパリン、ヘパラン硫酸、またはダナパロイドを添加した。
ヘパリンと他の抗凝固剤との比較に関する実験のために、従来の培養培地に、(i)5%v/v S/D血漿;(ii)塩基性FGF-2;(iii)TGFβ;および(iv)1IU/mlヘパリン(Heparin LEO、LEO Pharma SA、ベルギー、ロットA17605)、100IU/mlヘパリン、2mg/mlのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)または0.1mg/mlActilyse(登録商標)を添加した。
S/D血漿と血清との比較に関する実験のために、従来の培養培地に、(i)5%v/v S/D血漿または5%血清;(ii)塩基性FGF-2;(iii)TGFβ;および(iv)0.1IU/mlのヘパリンを添加した。
S/D血漿または血清の存在または非存在の比較に関する実験のために、従来の培養培地に、(i)5%v/v S/D血漿、5%v/v血清、または0%S/D血漿および0%血清;(ii)塩基性FGF-2;(iii)TGFβ;および(iv)0.1IU/mlのヘパリンを添加した。
2.結果
2.1 ヘパリン対その類似体
図2および表15は、培養培地中に存在するヘパリンは、その誘導体(ヘパリノイド化合物)、すなわち、ダルテパリン、ヘパラン硫酸、またはヘパラン硫酸を含むダナパロイドなどのグリコサミノグリカン混合物により置換され得ることを示す。4つのヘパリン誘導体は、細胞生存率およびマーカー発現プロファイルに対して、ヘパリンと同じ効果を有する(表15)。
2.2 ヘパリン対他の抗凝固剤
図3は、ヘパリンおよびその誘導体(1IU/mlまたは100IU/mlの濃度)は、EDTA2mg/ml(E8008、Sigma-Aldrich、ロットRNBBB7793)、Actilyse(登録商標)0.1mg/ml(Boehringer Ingelheim、ロット001408)などの他の抗凝固剤により置換されることはできないことを示す。
2.3 血漿対血清
図4は、S/D血漿は、本発明によるMSC由来骨形成細胞を産生するために、血清により置換され得ることを示す。本明細書を考慮すると、ヘパリンまたはその類似体は、骨形成細胞Bを調製する方法において重要な要素であると思われる。
実施例3:実施例1の方法により得られたMSC由来細胞Bのin vitro石灰化能
1.実験手順
石灰化アッセイでは、細胞を骨形成培地で数週間培養することにより、石灰化基質を生じるin vitroでの細胞の能力を検討する。石灰化基質は、後に、アリザリンレッドS(ARS)染色を用いて染色される。
簡単に述べれば、上記の実験1の1.1項に記載の、二次培養後に得られたMSC由来骨形成Bを回収し、それらがコンフルエンスに達するまで(1~2日)、48ウェルプレート中にて60,000個/cm2で、ペニシリン-ストレプトマイシン(Lonza)およびウェルあたり5%の血清を添加した塩基性培地α-MEM(Lonza)に播種した。引き続き、培地を、ペニシリン-ストレプトマイシン(Lonza)、5%の血清、10-8Mデキサメタゾン(Sigma)、50μg/mlアスコルビン酸(Sigma)および5mMβ-グリセロリン酸(Sigma)を添加した塩基性培地α-MEM(Lonza)を含んでなる骨形成培地と交換した。骨形成培地は、3±2日毎に新鮮調製骨形成培地と交換した。
以下のように、骨形成誘導後21日目および28日目に、ARS染色を行った:細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、室温にて15分間ホルムアルデヒド4%でインキュベートし、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、脱塩水で洗浄した。次に、細胞を、室温で10分間、pH4.2のARS溶液(20g/L)に曝露させた。洗浄液が澄明になるまで、細胞を脱塩水で洗浄し、肉眼的および顕微鏡的に観察した。ウェルを、倒立顕微鏡(AE31;Motic)下に置いた。ウェルに沈着したカルシウムの橙赤色染色を評価するために、顕微鏡に置かれたカメラ(Moticam)で撮影された画像を解析した。
2.結果
肉眼的および顕微鏡的観察では、陽性のARS染色が明らかとなり、21日目~28日目にARS染色が増加し、従って、カルシウム/リン酸塩の沈着が経時的に増加した(図5)。これらの結果は、FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生された骨形成細胞Bは、骨基質を合成することができ、カルシウムおよびリン酸塩の沈着により、骨基質を石灰化することを示している。より詳しくは、これらの結果は、骨形成細胞Bは、高い骨形成特性を示すことを示している。
実施例4:実施例1の方法により得られたMSC由来細胞Bのin vitro軟骨形成能
1.実験手順
特定の培養条件下で、実施例1の方法により得られたMSC由来細胞は、軟骨細胞分化を受けることができる。これらの条件には、高い細胞密度および細胞間相互作用が軟骨形成の機序に寄与する、凝集体中の細胞の三次元立体構造が含まれる。簡単に述べれば、上記の実施例1の1.1項に記載の、二次培養後に得られたMSC由来骨形成細胞Bを回収し、軟骨形成分化培地に再懸濁し、2.5×105個/ウェルの密度で96ウェルプレート(非接着性円錐形底部)に入れた。軟骨形成培養培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、10%ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、および亜セレン酸ナトリウム(ITS)(ITS+1、Sigma-Aldrich)を添加した高グルコース(4.5g/l)(DMEM-HG、Lonza)、1%ピルビン酸ナトリウム(Lonza)、10-7Mデキサメタゾン(Sigma)、1μMアスコルビン酸(Sigma)および10ng/ml TGFβ1(HumanZyme)からなる。陰性対照品目は、可溶性分化因子デキサメタゾン、アスコルビン酸およびTGFβ1を含まない軟骨形成培地からなるものであった。次に、マルチウェルプレートを、200×gで5分間遠心分離して、細胞凝集体を形成し、次に、95%空気および5%CO2の加湿雰囲気下に37℃で3週置いた。軟骨形成培養培地は、2または3日毎に交換した。凝集体形成の24時間後の肉眼的観察では、細胞凝集体が培養培地中で自由に浮遊していることが示された。
軟骨形成誘導の3週後に、細胞凝集体を回収し、組織学的分析のために処理した:回収した細胞凝集体を3.7%ホルムアルデヒドに固定し、パラフィンワックスに包埋した。パラフィンブロックを5μmの切片に切り出した。切片は、(i)ヘマトキシリン・エオシン(H&E)、(ii)プロテオグリカンを染色するためのトルイジンブルーおよびサフラニンオレンジ、ならびに(iii)コラーゲン線維を染色するためのシリウスレッドを用いて、染色した。方法は、標準的な脱パラフィン、染色、脱水およびスライドガラスへの積載からなるものであった。染色後の切片を、顕微鏡で定性的に観察した(細胞充実性、細胞の局在および外観、細胞外マトリックスの外観ならびにコラーゲンおよびプロテオグリカンの含量)。
2.結果
顕微鏡観察所見および凝集体直径の測定値からは、軟骨形成培地で培養された細胞凝集体は、対照培地で培養された細胞凝集体よりも大きなサイズを示したことが示された(資料未記載)。軟骨形成培地におけるこのサイズの増加は、(1)細胞による細胞外マトリックスの産生および蓄積、ならびに/または(2)凝集体における細胞増殖と関連していた可能性がある。
ヘマトキシリン・エオシンで染色された凝集体切片の定性的観察は、対照と軟骨形成培地との間の細胞形態の差を示した(H&E染色、図6)。実際に、対照培地において「小核」が観察され、細胞質を観察することは困難であった。一方、軟骨形成培地においては、2つの細胞型が観察することができ、すなわち、平らな核を有する細胞(凝集体の周辺)と、周辺から離れるにつれ、円形の核を有する細胞が観察された。軟骨細胞外マトリックスのプロテオグリカンおよびコラーゲンの染色を通じて、軟骨形成分化が確認された。比較すると、対照凝集体は、総ての試験した染色に対して陽性の染色を示していない(トルイジンブルー、サフラニンオレンジおよびシリウスレッド染色、図6)。
これらの結果は、FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生された骨形成細胞Bは、軟骨形成培地で培養した場合、コラーゲンおよびプロテオグリカンなどの軟骨特異的分子から主に構成される豊富な細胞外マトリックスを産生できることを示している。
実施例5:実施例1の方法により得られた骨形成細胞AおよびBのin vivo安全性
1.実験手順
1.1 細胞培養および血漿調製
細胞培養および血漿調製を、実施例1に記載の通りに実施した。
投与前に、骨形成細胞AおよびBを、生存率、細胞サイズ、同一性(フローサイトメトリー分析による表面抗原の発現、ALP酵素活性およびALP染色アッセイを含む)ならびに無菌性に関して試験した。
1.2 マウス毒性試験
12週齢の雌雄NMRIヌードマウスに対し、以下の試験品目:(i)骨形成細胞A(200μlの賦形剤中に懸濁された500万個の細胞)、(ii)ヘパリン(Heparin LEO 100UI/ml、LEO Pharma SA、ロットA17605;4単位)ありの骨形成細胞A(200μlの賦形剤に懸濁された500万個の細胞)または(iii)骨形成細胞B(200μlの賦形剤に懸濁された500万個の細胞)のうち1つを静脈内注射した。対照品目は、200μlの賦形剤(単独)からなるものであった。対照および試験品目の投与は、尾側静脈への静脈内注射により、緩徐ボーラスとして行った。注射の時間は、少なくとも60秒であった。動物あたりの細胞の量および投与容量は、一定であった。
動物を最大6ヵ月間観察し、とりわけ、以下のいくつかのパラメーターを追跡期間中にモニタリングおよび/または評価した:死亡率および罹病率、動物の体重、臨床観察/理学的検査、血液学的および化学的血液分析、ならびに動物の安楽死後の病理組織学的分析のための臓器回収。
1.3. 病理組織学的分析
マウス肺を、病理組織学的分析のために回収した。回収したマウス肺を、病理組織学的分析のために処理した:サンプルを脱水し、パラフィンワックスに包埋した。切片を3~5μm厚(横断面)に切り出し、ヘマトキシリン・エオシンで染色した。スライドを上級病理学者に提出し、急性死亡率の原因を判定した。
2.結果
2.1 急性毒性
毒性試験を実施し、マウスにおける骨形成細胞A(FGF-2およびTGFβ1で産生)ならびに小サイズの骨形成細胞B(FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生)の静脈内注射の潜在的な有害作用を評価した。
表16に示すように、骨形成細胞A(A-1およびA-2)の静脈内投与後に急性死亡率(10~35%)が認められ、細胞懸濁液中の抗凝固剤ヘパリン(4単位)の添加は、そのような死亡率を低減させなかった(ヘパリンありのA-3~A-5)。対照的に、対照品目(賦形剤)および小サイズの骨形成細胞B(B-1~B-4)の静脈内投与後には、急性毒性は認められなかった。
2.2 病理組織学的検査
安楽死の後、全動物に対して剖検を行った。小サイズの骨形成細胞Bを注射されたマウスは、全体的に正常な肺構造を示し、肺胞および細気管支毛細血管の細胞塞栓は認められなかった(図7A)。骨形成細胞Aを注射されたマウスは、しばしば急性間質性炎症を伴う多数の中サイズの細胞(注射細胞と解釈される)による肺胞および細気管支毛細血管の中等度~重度の播種性塞栓を特徴とする肺病変を示した(図7B):30%~50%の肺胞毛細血管および小~中サイズの細気管支小動脈が、血管腔の全体を閉塞する細胞の群により、無作為に拡張されていた。閉塞した毛細血管のより大きな群が、それらの近傍で細気管支を圧迫し、肺胞虚脱により囲まれていた。肺胞内および細気管支内微小出血は、細胞群の近傍ではほとんど認められなかった。
総ての観察された標本の主な特徴は、多数の注射細胞(骨形成細胞A)による肺胞および細気管支毛細血管の中等度~重度の播種性塞栓であった。これらの細胞の数および閉塞した肺胞毛細血管の数は、肺胞におけるガス交換が著しく妨げられ、呼吸器系の虚脱に至っている可能性を示唆している。この過程が、調べた動物の死の原因である可能性が非常に高い。観察された血管のうっ血および微小出血は、死戦期変化と解釈される。
心臓、肝臓、腎臓または脾臓において微小血栓の形成は認められなかった。
実施例6:実施例1の方法により得られた骨形成細胞AおよびBのin vivo骨形成特性
頭蓋冠骨形成モデルは、12週齢の雌NMRIヌードマウスの頭蓋冠上の、100μlの賦形剤中に処方された2.5×106個の骨形成細胞(または陰性対照として100μlの賦形剤単独)の単回皮下投与からなるものであった。特定の時点で、カルシウム結合蛍光色素(すなわち、アリザリンレッド、カルセイングリーン、カルセインブルー、テトラサイクリン)を投与し、新骨形成を標識した。アリザリンレッドは、骨形成細胞投与前に投与したが、一方、カルセイングリーン、カルセインブルーおよびテトラサイクリンは、骨形成細胞投与後に投与した。体重、一般臨床徴候および投与部位の臨床徴候に関して、投与後2週間実験動物をモニタリングした。2週間後、実験動物を安楽死させ、X線イメージング、組織形態計測(骨形成の定量化)および免疫蛍光により、骨形成細胞の骨形成特性を評価した。
1.実験手順
1.1 細胞培養および血漿調製
細胞培養および血漿調製を、実施例1に記載の通りに実施した。
1.2 マウス
9~10週齢の雌NMRIヌード(nu/nu)マウスをJanvier S.A.S.(Le Genest-St-Isle、フランス)から購入し、飼料および水を自由摂取させる標準条件下で飼育した。合計196匹のマウスを本試験に使用した。
1.3 頭蓋冠骨形成マウスモデル
12週齢の雌NMRIヌード(nu/nu)マウス(n=137)をイソフルラン(IsoFlo(登録商標))で麻酔し、頭蓋冠骨上に、MSC、骨形成細胞A(FGF-2およびTGFβ1で産生)、または骨形成細胞B(FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生)(マウスあたり100μl中2.5×106個)または賦形剤(100μl)の単回皮下投与を行った。骨新形成を経時的に標識するため、カルシウム結合蛍光色素をマウスに逐次的に投与した。アリザリンレッド(赤色)、カルセイン(緑色および青色)ならびにテトラサイクリン(黄色)(総てSigma-Aldrich(登録商標)から)を、それぞれ細胞投与の3日前および4、8、および12日後に、腹膜内に注射した。体重、一般臨床徴候および投与部位の臨床徴候に関して、投与後2週間実験動物をモニタリングした。マウスを頸椎脱臼により細胞投与の2週後に安楽死させ、各マウスの頭蓋冠を回収し、組織形態計測(骨形成の定量化)および免疫蛍光により骨形成細胞の骨形成特性を評価した。
1.4 サンプル包埋および組織切片作成
組織形態計測、ALP、TRAP(酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ)、マッソントリクロームゴールドナー染色および免疫蛍光のために、頭蓋冠を固定し、穏やかに振り混ぜながら、4℃で、70%、80%および90%エタノールバス中で各12時間の連続インキュベーションにより脱水し、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)プラスチック樹脂(HistoResin、Leica(登録商標))に包埋した。4μm厚および8μm厚の冠状切片を、ミクロトーム(Leica(登録商標)、RM2255)を用いて切り出した。サフラニンオレンジ染色および免疫ペルオキシダーゼのために、頭蓋冠を3.7%ホルムアルデヒドに24時間固定し、pH7.4の10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)中で3日間脱灰し、パラフィンに包埋した。7μm厚の冠状断および矢状断パラフィン切片を、ミクロトーム(Leica(登録商標)、RM2255)を用いて切り出した。
1.5.免疫蛍光染色
免疫蛍光によるヒトおよびマウスコラーゲンIの評価を、頭蓋冠の4μm厚の冠状断プラスチック組織切片に対して行った。簡単に述べれば、PBS1倍/トリトン0.3%の溶液を用いた室温(RT)で30分間の透過処理の工程の後、組織切片をブロッキング溶液(すなわち、PBS/BSA/ウマ血清/トリトン(商標))中にてRTで1時間インキュベートし、非特異的結合部位を飽和させた。次に、組織学的スライドをマウス抗ヒトおよびウサギ抗マウスコラーゲンI一次抗体(それぞれAbcam;#ab138492およびAbcam;#ab21286)で4℃にて一晩インキュベートした。RTで5分間のPBS中でのすすぎの3工程の後、ブロッキング溶液を用いてRTで1時間ブロッキングを実現した。次に、ブロッキング溶液に希釈した二次抗体を、遮光してRTで2時間加えた。二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488 Donkey抗ウサギIgG H&L(ThermoFisher、#A21206)およびAlexa Fluor(登録商標)Cy3(登録商標)ヤギ抗マウスIgG H&L(Abcam;#ab97035)を用いて、それぞれマウスコラーゲンIを緑色で、ヒトコラーゲンIを赤色で可視化した。次に、スライドをPBS1倍でRTにて5分間3回すすぎ、NucBlue(登録商標)溶液でRTにて1分間インキュベートし、核を染色した。最後に、スライドをPBS中で簡単に1回すすぎ、次に、GlycerGel(登録商標)試薬を載せた。免疫蛍光の陰性対照として、隣接する組織学的スライドに対して一次抗体の省略を行った。
1.6 組織学的染色
骨芽細胞および破骨細胞活性を、それぞれALPおよびTRAP酵素活性検出法を用いて、それぞれ頭蓋冠切片上で評価した。ALP染色のために、4μm厚の頭蓋冠冠状断プラスチック切片を、ファストブルーRR塩(Sigma-Aldrich(登録商標))およびナフトールAS-MXリン酸アルカリ(Sigma-Aldrich(登録商標))の溶液で、1時間インキュベートした。製造業者の説明書に従って、酸ホスファターゼ白血球(TRAP)キット(Sigma-Aldrich(登録商標))を用いて、TRAP染色を8μm厚の頭蓋冠冠状断プラスチック切片上で行った。新形成された骨の石灰化の状態を評価するため、製造業者の説明書に従って、キット(Bio-Optica(登録商標))を用いて、ALPで染色された頭蓋冠切片上でマッソントリクロームゴールドナー染色を行った。軟骨形成を証明するため、7μm厚の頭蓋冠矢状断パラフィン切片上でサフラニンオレンジ染色を行った。簡単に述べれば、脱パラフィン後、組織切片を、ワイゲルトヘマトキシリン(Klinipath(登録商標))中で10分間、0.1%ファストグリーン(Klinipath(登録商標))中で5分間、1%酢酸(VWR Chemicals)中で15分間および0.1%サフラニンオレンジ(Fluka(登録商標)参照番号:84120)中で5分間、順次インキュベートした。脱水後、スライドに、Pertex(登録商標)(HistoLab(登録商標))を用いてガラス製カバーガラスを載せた。光学顕微鏡(Leica(登録商標))およびLeica(登録商標)LAS EZソフトウエアを用いて、デジタル画像を撮影した。
1.7 免疫ペルオキシダーゼ
脱パラフィン後、7μm厚の頭蓋冠冠状断または矢状断パラフィン切片を、2.5%ヒアルロニダーゼ(Sigma-Aldrich(登録商標))で37℃にて30分間、3%H2O2(Sigma-Aldrich(登録商標))中で室温にて30分間、0.3%トリトンX-100を含有するPBS(Sigma-Aldrich(登録商標))中で室温にて30分間、およびブロッキング溶液(すなわち、PBS/BSA/ウマ血清/トリトン)中で室温にて1時間、順次インキュベートした。切片を、マウス抗ヒトI型コラーゲン一次抗体(Abcam、ab90395)、ウサギ抗マウスI型コラーゲン一次抗体(Abcam、ab21286)またはウサギ抗Ku80一次抗体(Abcam、ab80592)で4℃にて一晩インキュベートした。製造業者の説明書に従って、ベクタステインキット(Vector Laboratories、PK6200)および3,3’ジアミノベンジジン(Vector Laboratories)を用いて、染色を可視化した。切片をマイヤーヘマトキシリン(Klinipath(登録商標))で対比染色した。スライドにPertex(登録商標)を用いてガラス製カバーガラスを載せた。
1.8 頭蓋冠の組織形態計測学的分析:骨形成の定量化
骨形成の定量化(すなわち、骨形成のパーセンテージ)を、プラスチック包埋組織上で行った。頭蓋冠の最初(アリザリンレッドにより蛍光標識された基底石灰化前線)および最後の厚さ(カルセインおよびテトラサイクリンにより蛍光標識された新骨形成)の測定値を、ZEN(登録商標)画像解析ソフトウエア(Zeiss)により、4μm厚の冠状切片上で測定した(単位μm)。次に、頭蓋冠の最初および最後の厚さを用いて、投与後の各実験動物における新骨形成のパーセンテージを算出した。各動物につき、最初および最後の厚さの4回の測定を、各レベル間に200μmの距離をとった5つの独立したレベルに対して行った。最初の工程として、最初および最後の厚さ±SDの平均(すなわち、5つのレベル上のレベルあたり4回の測定値の平均)を、各動物に対して算出した。次に、各マウスに対する骨形成のパーセンテージを、最初の厚さの平均に対する最後の厚さの平均の比として算出した。
1.9 組織画像上での新形成された骨の表面積の定量化(ImageJ(登録商標)ソフトウエア)
骨誘導および骨形成小結節の表面積分析のために、冠状縫合後の2レベル毎にとられた6つの独立したレベルのデジタル画像を、蛍光顕微鏡(Zeiss Axioscope A1、Zeiss、ドイツ)の複数の蛍光および明視野フィルターの組合せを用いて、頭蓋冠のプラスチック樹脂組織切片(4μm)から撮影した。各測定レベル上で、骨誘導された骨新形成の選択は、ImageJ(登録商標)ソフトウエアを用いて、明視野ステッチ画像において手動で定義した。この選択の石灰化された全表面積を測定した(単位mm2)。同じ手順を、骨形成小結節の石灰化された全表面積に対して行った。
骨誘導および骨形成小結節に関して、次に、全表面積の平均および石灰化表面積の平均を、実験動物あたりおよび群あたりで算出した。骨新形成の全表面積を、骨誘導および骨形成小結節の表面積の和として、最後に算出した。
1.10 統計解析
結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)として表す。統計解析は、JMP(登録商標)ソフトウエア(SAS Institute Inc.)を用いて行った。in vitroデータ(フローサイトメトリー、RT-qPCRおよびマルチプレックス)に関しては、log10変換値に対して対応のあるt検定を行い、in vivoデータに関しては、マン・ホイットニーのU検定を用いた。特に断りのない限り、p<0.05の場合、群間差は統計的に有意とみなした。
2.結果
骨形成細胞A(FGF-2およびTGFβ1で産生)および骨形成細胞B(FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生)の両方とも、投与の2週後に、対照(賦形剤)よりも有意に高い骨形成を示した(図8~9、表17)。より詳しくは、図10は、骨形成細胞Bが、骨誘導特性(頭蓋冠上のマウス起源の均一な骨形成)、および骨形成特性(ヒトおよびマウス起源の石灰化小結節)を示したことを示す。
骨誘導特性(すなわち、移植後に新形成されたマウス骨の量)は、骨形成細胞AとBとで同等であった(図8~9)。
非常に興味深いことに、本発明の骨形成細胞Bは、移植後に新形成されたヒトおよびマウス骨の量が高いことにより示されるように、強力な骨形成特性および骨誘導特性を示した(ヒトおよびマウスColI IF染色、図10)。
骨形成細胞Bでは7/8のドナーおよび80%のマウスにおいて、骨形成細胞Aでは4/11のドナーおよび20%のマウスにおいて、小結節の存在が認められた。MSCまたは賦形剤の投与後には、小結節は認められなかった。骨誘導活性に加えて、骨形成細胞Bは、従って、処置マウスの80%において認められた大きな石灰化小結節の存在により強調される高い骨形成活性を促進しているが、一方、骨形成細胞Aは、処置マウスのわずか20%において、弱い骨形成活性、すなわち、小さな小結節を示している(表18)。
投与(賦形剤単独、MSC、骨形成細胞A(FGF-2およびTGFβ1で産生;b-f細胞A)または骨形成細胞B(FGF-2、TGFβ1およびヘパリンで産生;b-f細胞B))の2週後におけるマウス骨頭蓋冠冠状切片の組織学染色では、総ての処置条件(MSC、b-f細胞Aおよびb-f細胞B)は、骨誘導により形成された骨における中等度のリモデリング活性(ALPおよびTRAP染色)を伴う高い骨誘導能を有することが明らかにされた。
興味深いことに、骨形成細胞Bで処置されたマウスにおいて認められた石灰化小結節は、マウス(宿主)およびヒト(ドナー)両方の骨組織から構成されており(ヒトおよびマウスI型コラーゲン染色により証明される)、このことは、小結節は、両方の骨形成過程:骨形成(ドナーの骨形成)および骨誘導過程(宿主の骨形成)により形成されたことを示している。高い骨芽細胞および破骨細胞活性(ALP+TRAP染色)に加えて、小結節は、類骨組織(非石灰化組織)を示し、このことは、投与の2週後においても骨形成は依然として進行していたが、全条件において認められた骨誘導過程は、すでに完了したことを示唆している(図12)。
図12は、ヒト骨形成(bone formation)(すなわち、骨形成(osteogeny))(抗ヒトI型コラーゲン染色で認められた)、ならびに高い骨芽細胞および破骨細胞活性(それぞれALP+ゴールドナー染色およびTRAP染色で認められた)は、大部分が、骨形成細胞Bを投与されたマウスの小結節において検出され、それにより、完了したように思われたMSCおよび骨形成細胞Aの骨誘導過程とは異なり、小結節における骨形成過程は進行中であり、2週目において完了していなかったことが示されることを示す。総ての処置条件(MSC、b-f細胞A、b-f細胞B)は、骨誘導された骨形成における中等度のリモデリング活性(ALPおよびTRAP染色)を伴う高い骨誘導能を有していた(図12)。
賦形剤単独、MSC、b-f細胞Aまたはb-f細胞Bでの処置の2週後において、骨新形成を蛍光により評価した(図13)。この目的を達成するため、特定の時点において、骨カルシウム結合蛍光色素(すなわち、アリザリンレッド、カルセイングリーンおよびブルー、テトラサイクリンイエロー)をマウスに投与し、新形成された骨を標識した。投与される最後の蛍光色素は、テトラサイクリンであり、細胞の投与の12日後に投与した。
図13に示されるように、骨形成細胞Bを投与されたマウスの小結節は、大部分が、テトラサイクリン蛍光色素により染色され(黄色の染色は、図13において点線で囲まれている)、このことは、骨誘導された骨形成において認められた骨誘導(アリザリンレッド(赤色)、カルセイン(緑色)およびカルセインブルー(青色):これらの染色は淡灰色で出現し、二重矢印は骨形成の厚さを示す)と比較して、遅い段階の形成を確認するものである。
処置マウスの骨新形成を、組織画像(ImageJ(登録商標)ソフトウエア)上での新形成された骨の表面積の定量化により、評価した。新形成された骨の全表面積は、各分析レベルおよび各マウスに関して骨誘導および骨小結節表面積を合計することにより、決定した。
結果は、骨形成細胞B(n=7のマウス、図14において淡灰色で示す)は、MSC(n=6のマウス、図14において暗灰色で示す;表19)と比較して約2倍、細胞の投与の2週後に有意に骨新形成を亢進したことを示す。この差は、骨形成細胞Bにより示される高い骨形成特性およびMSCに関してはそのような特性がないことに起因していた。
さらに、組織学的染色を用いた経時的な骨新形成の評価では、骨形成細胞Bを投与されたマウスの頭蓋冠の上部で認められた小結節は、軟骨内骨化機序を通じて骨化していたことが明らかにされた。図15において、サフラニンオレンジ染色は、プロテオグリカン(軟骨に特異的)マトリックス(破線により囲まれた領域);核;骨組織;および細胞質を示す。膜内骨化により産生された骨誘導骨とは対照的に、骨小結節は軟骨内骨化を通じて産生され、投与の1週後~3週後の間に軟骨基質が生じた(図15)。
骨形成細胞Bの投与の4週後に行われたヒトI型コラーゲン、マウスI型コラーゲンおよびヒト核(すなわち、Ku80)を標的とした免疫組織化学染色では、小結節におけるヒト骨の存在が確認された。さらに、Ku80染色では、骨形成細胞Bは、骨基質(小結節)に生着し、in vivo投与後に骨細胞となったことが明らかにされた。
実施例7:実施例1の方法により得られた骨形成細胞Bにより修復されたin vivoマウス大腿区域性亜臨界サイズ欠損(サブCSD)
1.実験手順
1.1 大腿区域性亜臨界サイズ欠損(サブCSD)モデル
文献(Manassero et al., 2013, Tissue Engineering, Part C Methods, 19(4):271-80; Manassero et al., 2016, Journal of Visualized Experiments; (116): 52940)に従って、無菌条件下で外科手技を行った。簡単に述べれば、13週齢の雌NMRIヌード(nu/nu)マウス(n=27)を、デクスメデトミジン塩酸塩(Dexdomitor(登録商標)、Orion Pharma、1mg/kg体重)およびケタミン(Nimatek(登録商標)、Euronet、150mg/kg体重)の混合物の腹腔内注射により麻酔し、加温板に腹側位で置いた。左大腿骨の前側に対して6穴チタンマイクロロッキングプレート(RISystem AG(登録商標))を適用した後、ギグリ線鋸およびジグ(RISystem AG(登録商標))を用いて、2mm長の中骨幹大腿骨切り術を行った。予防薬として、抗生物質(Baytril(登録商標)、10mg/kg体重)を手術前日に投与し(飲料水中)および鎮痛薬(ブプレノルフィン塩酸塩、Temgesic(登録商標)、Schering-Plough、0.1mg/kg体重)を、手術前日および手術後12時間毎に少なくとも3日間投与した。MSC由来細胞(マウスあたり30μlの容量中2.25×106個)または賦形剤(対照群)を、手術日(縫合糸で創傷を閉鎖した直後)に、50μlハミルトンシリンジを用いて経皮注射により、骨欠損部位に局所投与した。マウスは、頸椎脱臼により、細胞または賦形剤投与の6週後に安楽死させた。各マウスの左大腿骨を解剖し、回収し、X線イメージングまで室温で0.9%NaCl中に保存した。
1.2 X線分析による骨修復の定量化
手術直後に、Faxitron(登録商標)MX-20デバイスを用いて、各マウスの左大腿骨のin vivo X線イメージングを行い、プレート固定および区域性大腿欠損サイズを調節し、ベースライン値を得、また、MSC由来細胞または賦形剤の投与の6週後まで2週毎に行った。電圧を35kVに、照射時間を4.8秒に、輝度を4,300に、コントラストを7,100に設定して、手動モードにおいて倍率4倍で、中外方向および前後方向にてデジタル画像を撮影した。細胞投与の6週後に、安楽死時に回収した左大腿骨に対して、ex vivo X線イメージングを行った。電圧を26kVに、照射時間を15秒に、輝度を4,850に、コントラストを6,850に設定して、手動モードにおいて倍率5倍で、中外方向および前後方向にてデジタル画像を撮影した。ImageJ(登録商標)ソフトウエアを用いて、中外方向および前後方向のX線像上での3つの位置(欠損の右、中央および左)における骨欠損の2端間の距離(μm)を測定することにより、欠損サイズを各マウスに対して経時的に定量化した。6つの測定値の平均を、各時点において各マウスに対して算出した。
1.3 マイクロコンピュータ断層撮影(マイクロCT)分析
安楽死時に回収した後、左大腿骨を3.7%ホルムアルデヒドで固定し、マイクロCT分析のためにCenter For Microscopy and Molecular Imaging(CMMI、ULB、ゴスリ、ベルギー)に移送した。マルチモーダルマイクロPET/CT nanoScan(登録商標)PET/CTカメラ(Mediso)およびNuclineTM v2.01ソフトウエア(Mediso)を用いて、サンプルをスキャンした。スキャンは、半円スキャン、最大ズーム、管電圧35kVp、ガントリー回転あたり720回の投影、投影あたり照射時間300ms、検出器ピクセルビニング1×1を用いて行った。XおよびY次元におけるスキャン長さを、各取得に対して適合させた。マイクロCTスキャニングの全時間は、3分42秒であった。各マイクロCTスキャンは、シェップ・ローガンフィルタおよび8つの通常のサンプルのマルチサンプリングモードを用いて、一辺40μmの立方ボクセルで後再構成した。XおよびY像の次元を、各再構成に対して適合させた。Z像のサイズは、取得に関して定義されたスキャン長さに対応していた。Z軸(スキャナー軸)で骨を再配向し、Z軸上の大腿骨における一方の近位スクリューから他方の近位スクリューまでの画像をトリミングし、横断(X-Y)面においては可能な限り狭くトリミングした後、マイクロCT像上で骨修復の定性的評価を行った。次に、3D最大値投影法(MIP)レンダリングを行った。骨修復を定量的に評価するため、直径2mmおよび軸方向長さ2mmの仮想円柱を、マイクロCTスキャン上の欠損空間に入れ、1500HU以上の放射線強度でボクセルを閾値処理することにより、この円柱において平均骨容量を評価した。
2.結果
2.1 骨形成細胞Bはマウス大腿亜臨界区域性欠損の修復を改善した
NMRIヌードマウスにおける亜臨界サイズ区域性欠損(CSD)モデルにおいて、骨形成細胞B(n=12のマウス、2バッチ)は、投与の2~6週後において、賦形剤(n=11のマウス)、および骨形成細胞A(n=4のマウス)と比較して、骨欠損サイズの有意な低減により示されるように、骨折修復を改善した(図16A)。
D0および賦形剤、骨形成細胞A(示さず)または骨形成細胞Bの投与後6Wにおける区域性大腿欠損のX線像は、賦形剤(図16B)または骨形成細胞A(示さず)を投与されたマウスと比較して、本発明の一つの実施形態に従って骨形成細胞Bを投与されたマウスにおいて、骨欠損サイズの低減を示した。
賦形剤および骨形成細胞Bの投与後6Wにおいて、マイクロコンピュータ断層撮影(マイクロCT)分析により、区域性大腿欠損の骨修復容量を定量化した。結果は、骨形成細胞Bは、賦形剤と比較して高い骨修復を誘導したことを確認するものであった(図16C)。