次に、本発明による全方向車輪について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、同一の構成要素については、他の形態を採り得るものについても同一の記号を用い、重複する構成やその説明については、一部省略する場合がある。また、本発明の理解を容易にするために、全方向車輪を構成する主車輪やスパイクを表面に持つ車輪の大きさ、並びに、これらを構成する要素の大きさの比率や図面の縮尺等は、実際のものとは適宜変更して表現する場合が有る。また、本願において、回動とは軸を中心にして時計回り(正方向)又は反時計回り(逆方向)に回転運動を行うことを意味するが、これを回転と表記する場合も有る。
図2は、本発明の実施形態による全方向車輪1000を示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
また図3(A)は、同様に、本発明の実施形態による全方向車輪1000の全体像を示す斜視図であり、ここでは、本発明の実施形態による全方向車輪1000にモータ500とギヤボックス550とを接続して、ギヤボックス550側から蓋体570で封止した例を示している。また、図3(B)では、更に、図3(A)に示したような全方向車輪1000を側方から見た断面図(側断面図)を示している。なお、図3(B)においては、内部構造の一部を省略して表示している。
始めに、本発明の全体的な構成を概説すれば、例えば、図2及び図3に示したように、本発明の主要な構成要素は、駆動軸210の回動中心210Cを中心にしてその廻りを回動可能な主車輪200と、主車輪200の円形の外周に沿って、例えば、等間隔に配置された、複数個のスパイクを表面に持つ車輪300とからなっている。(なお、ここで、回動中心210Cは、図示した例では駆動軸210がリング状の形態であることから仮想的なものである。)
そして、主車輪200は、駆動軸210にモータなどの駆動源500が接続されて当該駆動軸210の回動中心210Cを中心にして回動が可能になっており、スパイクを表面に持つ車輪300は円板状であって、後述する受動軸310の回動中心(ここでは受動軸の中心軸(軸心))を中心にしてその廻りを主車輪の駆動等に伴って生じる外力に応じて受動的に回動可能になっている。
そのため、以上のような構成を有する本発明の実施形態による全方向車輪1000は、主車輪200の円形の外周の接線方向に対してはスパイクを表面に持つ車輪300を介して床面(移動面)に接触した上で、モータ500による駆動軸210の回動に伴って、スパイクを表面に持つ車輪300の車輪面に垂直な方向へ向けて、正逆方向に能動的に移動が可能であり、主車輪200の車輪面に垂直な方向に対しては、複数のスパイクを表面に持つ車輪300が、主車輪の駆動に伴って生じる外力に応じて受動的に回動することにより、床面上(移動面上)を滑らかに移動することが可能となっている。
次に、上記の全方向車輪1000の構成要素のうち、主車輪200は、上記のようにモータ等の駆動源500が接続されて回動することにより、全方向車輪1000を能動的に駆動させる機能等を有している。そのため、主車輪200は容易に変形しないように、金属合金などの剛体により形成された円形を基本形状としている。
そして、主車輪200は、その外周部分にスパイクを表面に持つ車輪のための接続部が形成されており、本実施形態の例では、主車輪200は、後述する図4(A)に示すように、スパイクを表面に持つ車輪のための接続部に、スパイクを表面に持つ車輪300の受動軸310を挟み込んで支持するために、主車輪構成円板200α及び主車輪構成円板200βの2枚の円板から構成されている。
また、かかる主車輪構成円板200αと200βとには、これらの円板を連通して一体化できるように設けた複数のねじ穴203、205が設けられており、これらの円板の外周部分にスパイクを表面に持つ車輪の受動軸を挟み込んだ上で、上記ねじ穴203、205を用いて、ねじ止めなどによりこれらの円板を結合して、一体の主車輪200として完成されるように構成されている。
また、主車輪200を構成する円板の中心部分には駆動軸210が設けられていて、主車輪200は、かかる駆動軸210にモータなどの駆動源500が直接的又は間接的に接続されることにより、駆動源500の駆動により、駆動軸210の回動中心210Cの廻りに回動可能になっている。
そのため、駆動軸210の具体的構成については、かかる駆動軸210が回動中心210Cの廻りに回動可能であれば、特に限定を設けるものではなく、例えば、文字通り軸状のものでも、或いはリング状のものでも構わない。そして、軸状に形成した場合の回動中心はその軸の中心軸となり、リング状に形成した場合には、上述した図2又は図3に示したように、その回動中心はそのリングの仮想的な中心軸となる。
また、本実施形態の場合には、駆動軸210は、上述したように、主車輪200の中心部分の回動中心210Cの廻りで、主車輪200を構成する円板の直径に対して比較的大きな口径を有するリング状に構成されている。
すなわち、図2に記載した構成例において、主車輪200の駆動軸210は、リング状の形態を有しており、当該駆動軸210を構成するリングは、主車輪200の中心部分を構成しており、更に、図2(B)に示すように、上記主車輪200を構成する円板200αの側から、その円板200αの板面から立設するように円板200αと一体的に構成されている。
また、本発明では、主車輪200の外縁部には、当該外縁部にスパイクを表面に持つ車輪300を取付けるためのスパイクを表面に持つ車輪のための接続部が形成されている。
そして、かかるスパイクを表面に持つ車輪のための接続部は、本実施形態では、主車輪の外縁側から当該主車輪の回動中心210C方向に設けられたU字状の凹部として形成されており、主車輪の外縁側に設けられた(後述する図4Bの)U字状の凹部230の内側近く迄の口径を有するように形成されていて、図2(B)に示すように、上記主車輪200を構成する円板200αの側から、その円板200αの板面から立設するように一体的に構成されている。
そのため、上記主車輪200の駆動軸210の回動中心210Cは、上述のように、リング状の形態を有する駆動軸210のリングの中心軸を形成するようになっている。
そして、かかる駆動軸210を構成するリングと、モータなどの駆動源500とは、図3に示すように、略円筒形状のギヤボックス550の内部に構成されている(図示しない)ギヤ機構や当該ギヤボックスの蓋体570を介して接続されている。また、上記主車輪200は、少なくとも上記駆動軸210を構成するリングの内側面側から回動可能に支持されており、これによって、上記モータなどの駆動源500の回転軸の駆動によって、上記駆動軸210の回動中心210Cを回動できるようになっている。
したがって、主車輪200は、駆動源500を駆動させることにより、主車輪200の駆動軸210の回動中心210Cが回動することにより、駆動軸210を中心にして回動することが可能に構成されている。
また、上記構成例において、かかる駆動源500とギヤボックス550とは、主車輪200の円形の板面の両側面に近接して配置されている。そのため、主車輪200の駆動軸210を構成するリングの内側面の一部は、コロベアリング590等の軸受を介して、当該ギヤボックス550の円筒状の筐体の外側面の一部に回動可能に支持する構成を採用することも可能である。
したがって、そのような構成を採用した場合には、主車輪200の支持が、駆動軸210の回動中心210C乃至その周辺部分のみではなく、当該回動中心210Cの軸上から離れた、主車輪200の外周に近い部分である駆動軸210を構成するリングの内側面の部分で行われる事により、主車輪200を更に一層強固に支持することが可能である。
なお、本発明では、上記構成例では図示しないが、同様に主車輪200を強固に支持することを目的として、例えば、上記構成例に加え又はこれに代えて、主車輪200を主車輪200の円形の板面の片側側面乃至両側面から、駆動軸210の回動中心210Cから離間した位置で、上記駆動源500やギヤボックス550等により回動可能に支持する支持機構、を備える構成とすることも可能である。
また、上記主車輪200を構成する円板の外縁部分には、受動軸310を介して複数のスパイクを表面に持つ車輪300を配置するために、かかるスパイクを表面に持つ車輪300と同数の複数のU字状の凹部230が相互に等間隔で形成されている。そして、かかる凹部230は、主車輪200の外周部分から駆動軸210方向に形成された、主車輪の板面に垂直な方向から見て、略U字状の凹み形状を有している。
そして、かかる略U字状の凹み形状については、本発明では、特に形態を限定するものではないが、本実施形態では、外形上は、例えば、図4に示したように構成されている。
ここで、図4(A)は、主車輪を構成する円板の外縁部分の一部を拡大して示した斜視図であり、図4(B)は、主車輪を構成する円板の外縁部分の一部を主車輪の板面に垂直な方向から見た正面図である。
図4に示した例では、当該凹部230は、主車輪の板面に垂直な方向から見て、概ねU字形状の形態を有しており、図4(B)中に一点鎖線で示した凹部230の中央部分側面230Sが、かかる凹部230内に配置されるスパイクを表面に持つ車輪300を構成する円板の板面と平行になるように、概ね相互に平行に構成されている他、主車輪200の外周側方向では滑らかに広がるように形成され、主車輪200の内周側方向では、図4(B)中に二点鎖線で示したU字状の底部を構成する主車輪の円形の外周に沿った方向と略平行な方向に構成された辺230Iの両端部分が、中央部分側面230Sの下側部分から連続して滑らかに接続されるように構成されている。
また、主車輪200の凹部230の中央部分側面230Sを構成する平行な部分の一部には、かかる凹部230を構成している主車輪200の内側部分を相互に連続させるような方向(すなわち、主車輪の円形の外周に沿った方向と平行な方向)に向けて、スパイクを表面に持つ車輪300の受動軸310を収納して支持するための連続する窪みである受動軸支持部231が形成されている。そのため、後述するスパイクを表面に持つ車輪300は、かかる主車輪200の凹部230に設けられた受動軸支持部231に受動軸310の両末端を支持されて、受動軸310の廻りをベアリング370を介して回動可能に配置されている。
次に、本発明の実施形態による全方向車輪1000の構成要素のうち、スパイクを表面に持つ車輪300について説明する。
ここで、スパイクを表面に持つ車輪とは、いわゆるスパイク(爪)として、床面に作用する加工が表面に施された車輪を意味しており、かかる作用を有するものであれば、特に限定を設けるものでは無い。
そのため、例えば、車輪の表面に、爪状の突起を、等間隔乃至不等間隔で設けたものや、車輪の側面や外周面等の全部又は一部に、爪として作用する溝状の形態や突起等を設けたものなどでも構わないが、本実施形態では、例えば、次のように構成されている。
本発明の実施形態におけるスパイクを表面に持つ車輪300は、外形上は、例えば、図5(A)に示すような円板状をしており、外輪部300Wと、その内側に配置される受動軸部300Iとから構成されている。
このうち、外輪部300Wは図5(B)、(C)に示したように、外周面330に区分帯350が設けられたリング状をしており、受動軸部300Iは、図5(A)に示したように、更に、受動軸310とその廻りに配置されたベアリング370とから構成されている。そのため、受動軸部300Iを外輪部300Wの内周側に接続して組み合わせる事で、スパイクを表面に持つ車輪300は、全体的には円板状に構成されることになる。なお、ここで、図5は、本発明の実施形態によるスパイクを表面に持つ車輪300を図示したものであり、(A)はスパイクを表面に持つ車輪300の斜視図、(B)はスパイクを表面に持つ車輪300を構成する外輪部300Wの正面図、(C)は同じく外輪部の側面図である。
そして、本発明の実施形態によるスパイクを表面に持つ車輪300は、本発明の実施形態における全方向車輪1000と移動面との間で、荷重を支えると共に、かかる移動面との間で推進力を伝達する部分でもあるために、容易に変形しないようにステンレス合金などの金属材料等からなる剛体で形成される。
かかるスパイクを表面に持つ車輪300のうち、受動軸部300Iは、スパイクを表面に持つ車輪300を受動軸310の回動中心(ここでは受動軸の中心軸)廻りに、受動的に回動させる機能を有する部分である。そのため、本実施形態の例では、受動軸310の廻りにベアリング370を配しており、受動軸310を主車輪200の凹部の中央部側面230Sに形成された受動軸支持部231の内側に固定して、ベアリング370を介して、外輪部300Wの部分が自由に受動軸310の廻りを回動できるように構成されている。
但し、本実施形態ではこのような構成を採るものの、本発明では、スパイクを表面に持つ車輪300が受動軸310の廻りで回動可能であれば、特に構成に限定を設けるものではない。そのため、受動軸310の廻りにベアリング370を直接配置しない場合であっても、例えば、受動軸部300Iと外輪部300Wとを一体化した上で、主車輪200の受動軸支持部231の廻りにベアリング等の軸受を配して、それにより受動軸310を回動可能に構成し、スパイクを表面に持つ車輪300を回動可能にする構成等を採用するもの等であっても構わない。
また、スパイクを表面に持つ車輪300のうち外輪部300Wは、図5(B)、(C)に示したようなリング形状の部分である。そして、かかる外輪部300Wは、スパイクを表面に持つ車輪300の内側にある受動軸部300Iに対しては、その板面に沿ってその外縁の外側に接続されている。そのため、外輪部300Wは、スパイクを表面に持つ車輪300全体としては、外周部分を構成している。
そして、スパイクを表面に持つ車輪300の外輪部300Wの外周面330は、図5(C)に示したように、区分帯350により、外輪部300Wの外周面330を円周方向に沿って分割されている。
そのため、次に説明するように、本発明の実施形態による全方向車輪1000では、このような構造を採用することによって、床面(移動面)に対して、スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330及びその両側面が爪のように作用して、床面との摩擦を向上させ、接地面を引っ掛け、かつ容易に離反できる機能を実現するための形状に形成されている。
すなわち、本発明のスパイクを表面に持つ車輪300の外周面330は、更に詳細には、図5(C)に加えて図6(A)にも示したように、外周面330が区分帯350により分割されており、このように分割されることにより、外周面330には、図6(B)に示したように、スパイクを表面に持つ車輪300の板面の両側部分方向に該当する外側外周側面331に加えて、内側外周側面333が接するように構成されることになる。ここで図6(A)は、スパイクを表面に持つ車輪300の外輪部300Wの断面図であり、図6(B)は、図6(A)に鎖線で示したXの領域を拡大して示した図である。
そして、このように構成された外側外周側面331と内側外周側面333とは、外周面330に接する部分でその断面方向から見た場合には、外側外周側面331と外周面330との間には、角部Pを形成するようになり、内側外周側面333と外周面330との間には、角部Qを形成するようになる。そのため、本発明では、こうした角部P、Qを床面(移動面)に対する爪として利用することにより、スパイクを表面に持つ車輪300が主車輪200の回動に伴って板面に垂直な方向に移動する際に、例えば、移動面に対して直角又は1~2[°]程度の(後述する)すくい角をなす断面が形成されるようにして、床面との摩擦を向上させることが可能である。
また、図7は、このように構成される外輪部300Wの外周面330部分とその両側面である外側外周側面331と内側外周側面333との構成例を、図6と同様の断面方向から示したものである。
このうち、図7(A)は外周面を平面として、区分帯を1つ設けた例を示したものであり、図7(B)は外周面を平面として、区分帯を2つ設けた例を示したものである。そして、図7(A)及び(B)の例では、外周面と外側外周側面とが作る角部Pと外周面と内側外周側面とが作る角部Qとは共に直角に構成されているが、かかる角部の角度の選択や形態の選択は、本発明の実施形態による全方向車輪1000を用いる床面の形態を想定して、床面に対して最適なグリップを得ることを目的に、予め任意に構成しておくことが可能である。
そのため、例えば、図7(C)~(G)に示したように、スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330を、スパイクを表面に持つ車輪300の両側面側からその中央にかけて凸状となるように形成したり、或いは、図7(H)~(J)に示したように、スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330を、スパイクを表面に持つ車輪300の両側面側からその中央にかけて凹状となるように形成したり、することも可能である。
また、同様に、上記図7(D)、(E)のように、例えば、車輪の外縁の両側面を車輪面から相互に離れるように反らすことで、スパイクを表面に持つ車輪300の厚さを、受動軸310の周縁よりも外周面330側で厚く構成したり、或いは、図7(G)、(I)、(J)のように、例えば、車輪の外縁の両側面の車輪面を相互に接近させることや末端側の幅を減少させること等によって、スパイクを表面に持つ車輪300の厚さを、受動軸310の周縁よりも外周面330側を薄く構成したりすることで、外周面330と外側外周側面331とが作る角部Pと外周面330と内側外周側面333とが作る角部Qの角度を調整することも可能である。
また、外周面330を区分する区分帯350は、少なくとも1つを外周面側に設けることで、外周面330をスパイクを表面に持つ車輪300の円周に沿って分割して、外周面330の側面に、上述したような複数の角部P、Qを形成することを目的としたものである。そのため、かかる角部が形成されれば、区分帯350の形態や数は、特に限定を設けるものでは無い。したがって、区分帯350の形態は、例えば、図6(A)、(B)に示したように、外輪部300Wを側面方向から見た場合の断面が半円乃至曲面状の凹部を形成するものでも良いし、或いは、図7(A)等に示したように、かかる断面が略コの字型のものや、図7(D)等に示したように、かかる略コの字型のものが外周面330側で広がったり、逆に図7(I)で示したように、受動軸310側で広がったりするものであっても良い。また、かかる区分帯350は、予め、外周面330とは別体に構成しても構わない。そのため、そのように別体に構成する場合には、例えば、スパイクを表面に持つ車輪300自体を3枚の円板から構成して、径の小さな円板の両側の板面に径の大きな円板を接続して一体化し、径の小さな円板を実質的な区分帯350として用いるものであっても構わない。
また、外周面330の表面は、スパイクとしての作用を発揮させることを考慮して、多孔質の素材などを用いて摩擦力を向上させたものでも良く、表面形状については、表面が平面状であっても、或いは、図7(C)、(K)に示したように、外輪部300Wを側面方向から見た場合に、曲率を有する曲面状のものであっても良い。そして、かかる曲率の曲率半径Rは、本発明の実施形態による全方向車輪を用いる床面の形態を想定して、予め任意に構成しておくことが可能である。そのため、例えば、図8に概略を示したように、主車輪200の駆動軸210の回動中心210Cからスパイクを表面に持つ車輪300の受動軸310の回動中心までの距離r1にスパイクを表面に持つ車輪の半径r2を加えた大きさRであっても構わない。
また、同様に、外側外周側面331と内側外周側面333の表面形状についても、図6(A)、(B)に示したように、曲面状でも、或いは、図7(A)等に示したように平面状でも良く、これらの形態により角部P、Qが床面に対して爪として機能するための、床面(移動面)との摩擦や、スパイクを表面に持つ車輪300の強度等を考慮して決定される。
そして、上述の区分帯350の数や角部P、Qの角度などについては、床面(移動面)の形態を想定して、上記それぞれの構成要素の選択により、例えば、図7(K)~(M)に記載したように、区分帯350を2つ設けて、中央の外周面330を矩形としつつ、両側面の外周面330の角部Pが床面とグリップしやすいような鋭角や鈍角を採る形態とすることも可能である。
また、上記のような、スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330の形態とは別に、或いは、これらの形態と共に、外周面330に、外周溝335を設ける構成としても良く、その際には、図9(A)、(B)に示すように、スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330に、周方向に対して斜めに外周溝335を設けても良い。ここで、図9はスパイクを表面に持つ車輪300の外周面330に外周溝335を設けた例を図示したものであり、図9(A)は、かかる外周溝335が設けられた外輪部300Wの側面図であり、図9(B)は、その正面図である。なお、図9に示した例は、外周溝335を外周面330に周方向に対して斜め方向に相互に交差するように設けた例であるが、例えば、このように外周溝を設けることによって、スパイクを表面に持つ車輪300が周方向に回動する際の床面との摩擦を向上させて、スパイクを表面に持つ車輪300が受動軸310を中心として受動的に回動する際の応答性を向上させることが可能である。
また、実施形態として示した、上記図2等に記載した全方向車輪1000の例では、主車輪200に備えられるスパイクを表面に持つ車輪300の数は、24枚であるが、スパイクを表面に持つ車輪の数は、主車輪200の円周の大きさとスパイクを表面に持つ車輪300の幅などに応じて適宜選択することが可能である。そのため、例えば、12枚以上や、16枚以上等を用いるものであっても良い。
以上のように構成される本発明の実施形態による全方向車輪1000によれば、主車輪200の周囲に外周面330に沿って、多数の円板状のスパイクを表面に持つ車輪300を備えているため、当該スパイクを表面に持つ車輪300が床面(移動面)に対して食い込むようになることで床面との相互作用を増大させて、駆動力を強化させることが可能である。また、かかるスパイクを表面に持つ車輪300は円板状であり、一枚ずつが薄いことから、主車輪200の外周に多数配置することが可能であり、これによりスムーズな駆動を達成することが可能である。
更に、上記のような構成により、本発明の実施形態による全方向車輪1000によれば、従来の課題であった変則的な回転速度と駆動力の制限の課題を解決することが可能であり、軽量化を図ることも可能である。
なお、上述の例では、スパイクを表面に持つ車輪は主車輪の外周に沿って、基本的には等間隔に配置されているが、スパイクを表面に持つ車輪の配置はこれに限られず、次のような構成を採用することも可能である。
すなわち、例えば、図10(A)に記載したように、スパイクを表面に持つ車輪全てを主車輪の外周に沿って等間隔に配置せずに、一部のスパイクを表面に持つ車輪について相互の間隔を不等間隔にして配置することも可能である。
また、ここで、スパイクを表面に持つ車輪を配置する主車輪の外周については、例えば、上述のように、主車輪の外縁と等しい円周上の線のみならず、主車輪の外縁よりも内側の1又は複数の円周上の線として想定することも可能である。そのため、図10(B)に示したように、上記外周を主車輪の外縁と等しい円周上の線、又は、前記主車輪の外縁よりも内側の1又は複数の円周上の線とした場合には、スパイクを表面に持つ車輪を、主車輪の外縁と等しい円周上の線又はかかる主車輪の外縁よりも内側の円周上の線にそって、分散して配置することも可能である。
そして、スパイクを表面に持つ車輪の受動軸310についても、図11に示したように、主車輪の外周の接線方向に沿って配置したものに限らずに、その全部又は一部を、同図中の点線で示した接線に対して主車輪の中心から外方方向(+方向)へ45度[°]の範囲から、主車輪の中心方向(-方向)へ45度[°]の範囲内で、傾斜を設けて配置することも可能である。
また、こうした構成を採用する場合には、図11で示したように、これらの構成を組み合わせて、例えば、スパイクを表面に持つ車輪の配置について、主車輪の外周に配置された(中心に対して対称又は隣接する)2つのスパイクを表面に持つ車輪の組を複数用いたものであって、当該2つのスパイクを表面に持つ車輪の間隔は、主車輪の回動中心から離れる側で狭く、主車輪の回動中心寄りで広く形成するような構成を採用することも可能である。そして、この場合であっても、これらのスパイクを表面に持つ車輪のうち、主車輪の回動中心から最も離れた部分は、当該主車輪の回動中心から等距離にある円周CO上になるように構成することも可能である。
そのため、こうした構成を採用することにより、スパイクを表面に持つ車輪のエッジが床面に対して鋭利な角度で当接することになるため、床面に対するスパイクを表面に持つ車輪のグリップ力を更に向上させることも可能である。
また、ここで、スパイクを表面に持つ車輪を配置する主車輪の外周とは、例えば、上述のように、主車輪の外縁と等しい円周上の線のみならず、主車輪の外縁よりも内側の1又は複数の円周上の線として想定することも可能である。
なお、上述した、表面にスパイクを持つ車輪の構成については、例えば、図12に示したように、従来型のオムニ車輪に活用することも可能である。
ここで、図12(A)は、従来型のオムニ車輪に設けられるビヤ樽型のバレルBaとして、スパイクを表面に持つものを配置した例を斜視図で示したものであり、図12(B)は、バレルBaの表面のスパイクを、複数の溝gにより形成した例を示し、図12(C)は、バレルBaの表面のスパイクを、直径が異なる複数の円板の組合せにより構成した例を示したものである。(なお、図中の溝gと円板Dの表示については一部省略して示している)
そして、これらの例による表面のスパイクは、図12(B)の例では、図示するように、バレルBaの断面をバレルの主軸Maに垂直な方向から見た場合に、当該バレルBaの表面をなぞるような仮想的な曲面Caの曲率中心方向(図示しない)に向けた一定の幅wdを有する複数の溝gが、バレルBaの主軸Maに対して垂直な方向に相互に平行に形成されている。
また、当該バレルBaが直径の異なる複数の円板Dから構成される図12(C)の例では、表面のスパイクは、図示するように、バレルBaの断面をバレルの主軸Maに垂直な方向から見た場合に、当該複数の円板の外縁部をなぞるような仮想的な輪郭線Cbが構成する曲面の曲率中心から外方へ向かって、当該円板の外縁部分が一定の幅wdで曲折されたようにすることで、複数の溝gが構成されることにより、表面のスパイクが形成されている。
そのため、このように表面にスパイクを持つ車輪を従来型のオムニ車輪に活用した場合であっても、床面との間のグリップを向上させることにより、従来よりも応答性能の良いオムニ車輪を得ることも可能である。
次に、上述したような本発明の実施形態による全方向車輪を用いた、全方向移動車両の例について、図面を用いて説明する。
図13は、本発明の実施形態による全方向移動車両2060の例を示した斜視図であり、図14(A)は、かかる全方向移動車両2060の上面図、図14(B)は、同じくその側面図である。
図13等に示した全方向移動車両2060は、上述した全方向車輪1000を、当該全方向移動車両の筐体900の底部側に設けられた支持板910の上に、支持台930を介して、6台配置した例を示したものである。そして、図14(B)に示したように、全方向車輪1000の主車輪200の外周部の一部が支持板910の下面から突出して、床面(移動面)に接触するように構成されている。また、筐体900の形態は、円の半径に比較して高さの短い略円筒形状を有しており、その内部には制御装置やバッテリーなどが内蔵されていて、これらは、図示しない操作装置により操作されるようになっている。
なお、ここで、全方向移動車両2060の筐体900は略円筒形状の形態を有しているが、他に、例えば、図1に示した全方向移動車両110のように、四角形状をベースとした台状のものを用いるなどしても良く、特に形態に限定を設けるものでは無い。
また、ここでは、全方向車輪を6台配置しているが、全方向車輪は少なくとも2台以上であれば、(図示しない)任意の補助輪等を用いたり、或いは、予想される荷重や用途を考慮して、任意の台数を用いることが可能である。
また、図15は、本発明の実施形態による全方向移動車両に全方向車輪を配置する際の配置方法を説明する図であり、図15(A)は、本発明の実施形態による全方向車輪1000を3台用いた全方向移動車両2030において、かかる全方向移動車両2030を水平面上に載置した場合の車輪配置を上面から見た場合の概念図である。また、図15(B)は、同様に、本発明の実施形態による全方向車輪1000を8台用いた全方向移動車両2080について、図15(A)の場合と同様に示した概念図である。なお、上記図15では、図14(A)に示したと同様の筐体を有する全方向移動車両2030及び2080を上面から見た場合の車輪配置を示しているが、かかる全方向移動車両の筐体部分は省略して表示しており、全方向車輪の数も異なった構成例を用いている。
また、図15(A)、(B)において、図中に点線で示した直線Sfは、全方向車輪1000の主車輪200の回動面及びその回動面の延長面上にある仮想的な面を表示したものである。
そして、かかる全方向車輪1000の主車輪200は水平面に対して垂直に配置されているため、図15上では、かかるSfは直線として表示されている。また、かかる全方向車輪1000の主車輪200の回動面及びその回動面の延長面上にある仮想的な面と床面との接線を車輪接線軸Wcsと定義すると、上記直線Sfと車輪接線軸Wcsとは図15から図17における上面図上では一致した線となる。
また、図15(A)中に一点鎖線で示した直線Axは、全方向車輪1000の駆動軸210の回動中心210Cとその延長線を示したものである。そして、図15(A)、(B)中に一点鎖線で示した円C1は、本発明の実施形態による全方向移動車両2030乃至2080を平面上に載置した場合の重心Gを中心とした仮想的な第1の円C1を示しており、同じく点線で示した円C2は、同様に重心Gを中心とした仮想的な円C2を示している。
また、本発明の全方向移動車両において、上記直線Axは、重心Gを中心とした仮想的な第1の円C1の接線ともなっており、上記直線Sf(或いは、車輪接線軸Wcs)は、重心Gを中心とした仮想的な円C2の接線ともなっている。
本発明では、こうした構成を採用することにより、各全方向車輪1000の主車輪200の駆動軸210の回動中心210Cの回動を制御することで、上記全方向移動車両2030等を、床面(移動面)上を前後左右方向(すなわち、図1に示すX、Y方向)に移動させ、全方向移動車両2030等自体を、その場で、図1に示すZ軸廻りで回動させることも可能である。
すなわち、本発明の実施形態による全方向移動車両では、例えば、上述した図15(A)及び(B)に示したように、全方向車輪1000の主車輪200の車輪面の配置と、かかる主車輪200の駆動軸210の配置とが、全方向移動車両2030等の筐体に対して一定の方向になるように構成されている。
これを更に具体的に説明すると、上述した図15(A)又は(B)に示したように、全方向車輪1000は、全方向移動車両2030等を水平面上に載置した場合の重心Gの廻りに、主車輪200の回動面及びその仮想的な延長面Sf(或いは、車輪接線軸Wcs)が鉛直で等間隔(等角度)になるように複数配置されている。これは、かかる全方向移動車両2030等に係る荷重を全方向車輪1000により均等に支えるためである。
そして、このように配置された複数の全方向車輪1000の駆動軸210の回動中心210Cの軸線方向Axは、重心Gの廻りの仮想的な第1の円C1の接線方向に重なるように向けられており、全方向車輪1000の主車輪200の回動面の延長面Sf(或いは、車輪接線軸Wcs)は、重心G廻りの仮想的な第1の円C1よりも小さな仮想的な第2の円C2の接線方向に重なるように向けられている。すなわち、各AxはC1の接線になっていることから当該C1上にあり、各Sf(或いは、車輪接線軸Wcs)はC2の接線になっていることから当該C2上にあるように構成されている。
したがって、重心Gから放射状に引いた線Glに対して当該Sf(或いは、車輪接線軸Wcs)は、図15(A)に示すように、上記Axと交差する位置で、例えば、10~30[°]程度の角度(ねじり角)αを採るように配置されている。なお、ここで、ねじり角αは、90[°]にすると図16(A)に示した配置例と同様になり、0[°]にすると図16(B)に示した配置と同様になるため、これらの角度の範囲内で、希望する回動制御の大きさ等に応じて選択することも可能である。
そのため、このような配置を行うことで、本発明の実施形態による全方向移動車両2030等では、床面(移動面)上を前後左右方向に移動させることが可能であり、更に、全方向移動車両2030等自体を、その場で、図1に示すZ軸廻りで回動させることも可能である。
そして更に、本発明による実施形態では、全方向車輪1000をこのような配置にすることにより、全方向移動車両2030等の重心(或いは、動的重心)の移動に対する復原力を発生させて、安定な稼働を行うことが可能である。
すなわち、本発明の実施形態による全方向移動車両を地震動シミュレータとして用いる場合には、例えば、後述する図19に示したように、全方向移動車両2060等の筐体の上に設けられた椅子130に体験者を着座させた後に、全方向移動車両2060等を稼働させることになる。そうすると、当該全方向移動車両2060等の稼働による前後左右方向の移動に伴う加速度により、体験者と全方向移動車両2060等の筐体とを合わせた重心(動的重心)の移動面(床面)への投影位置(ZMP)が大きく変動することになる。
そして、このような場合には、地震動シミュレータが転倒しないように、動的重心の位置(ZMP)を元に戻す必要があるが、本発明の実施形態による全方向移動車両の全方向車輪の配置によれば、かかる復原力を容易に発生させることが可能である。
これを更に図16を用いて説明する。ここで、図16(A)は、本発明の実施形態による全方向車輪を、例えば、実公昭63-039164号公報(特許文献3)に記載されたような、全方向移動車両に一般的に用いられるオムニ車輪の配置に併せて配置した例を示した上面図である。また、図16(B)は、主車輪200の回動面Sfが重心G1の部分で交差するように配置した例を示した上面図である。
そして、図16(A)では、本発明とは異なり、4つの主車輪200の駆動軸の回動中心の延長線Axが筐体の重心G1の部分で交差しており、その結果、主車輪200の回動面Sfは重心G1と主車輪200の中心を結ぶ線に対して、垂直方向になるため、主車輪200の駆動による駆動力f1は、重心G1を中心とした円の接線方向に作用するようになっている。
そのため、図16(A)のような配置において、例えば、静止状態で中心にある重心G1が、全方向移動車両の稼働により前後左右に揺動し動的重心の投影位置(ZMP)がG3の位置に移動したときの運動を考えてみると、全方向車輪1、4を駆動すれば重心G1の位置を中心の位置に戻す力を出すことが可能である。
しかし、動的重心の投影位置(ZMP)がG2の位置に重心が移動したときは、実質的に全方向車輪1しか推力が出せず、これはf1の方向の推力しか出せないので、移動した重心の位置を、元の方向である重心G1方向の位置に戻す復元力が出せない状態になる。
そこで、これに対して、図16(B)に示したように、4つの主車輪200の回動面Sfが重心G1の部分で交差するように構成した場合には、動的重心の投影位置(ZMP)がG2、G3のように移動したとしても、元の重心G1の位置の方向に戻す復原力を全方向車輪により出しやすくなるが、全方向移動車両の車体を回動させることができないという欠点がある。
その一方、地震動シミュレータに使用することを想定した場合には、回転力(回動力)の生成機能はほとんど不要では有るものの、種々の原因により地震動シミュレータの姿勢が回転した際には、それを戻せる程度の若干の運動性能を有することが必要である。
そこで本発明では、図15等に示したように、全方向車輪の駆動軸210の回動中心210Cの軸線方向は、重心Gの廻りの仮想的な第1の円C1の接線方向と上記Axの方向とが重なるように同一方向に向けられており、全方向車輪の主車輪200の回動面の延長面Sf(或いは、車輪接線軸Wcs)は、重心廻りの仮想的な第1の円C1よりも小さな仮想的な第2の円C2の接線方向と重なるように同一方向に向けられて構成している。そのため、本発明の実施形態による全方向移動車両2030等では、動的重心がG2、G3のような位置に移動したとしても、元の重心G1の位置に戻す復原力を全方向車輪1000により出しやすくし、同時に回動運動も生成できるために、動作中の動きの誤差の補正を行なうことを可能としている。
したがって、例えば、これを地震動シミュレータとして用いた場合には、車両が高速で移動することにより体験者の姿勢が変動し、これによって重心の位置が変動したとしても、回動運動を加えたりすることにより、重心の位置を復元し、安定性や安全性を向上させることが可能である。
以上の例は、全方向移動車両に配置する、全方向車輪の配置の一例を示したものであるが、更に汎用的には、例えば、図17に記載したような配置を行うことも可能である。ここで、図17は、全方向移動車両に配置する全方向車輪の、更に汎用的な配置例を示す上面図である。そして、図17では、全方向車輪1000の車輪接線軸Wcs(或いは、Sf)の交点Cpは、全てが同一の一点Gで交わらないように構成されている。
すなわち、上述したように、本発明では、主車輪の回動面及びその延長面と床面との車輪接線軸Wcsが中心(重心G、或いは、動的重心の投影位置(ZMP))の一点で交わると回動できなくなるため避けたいが、当該車輪接線軸Wcsが仮想的な第1の円C2に接するように構成されなくとも、或いは、全方向車輪1000の駆動軸中心の一点からそれぞれがある距離以上にばらばらにしなくとも問題が無い。
そのため、例えば、図17に図示したように、全方向車輪1000を用いる全方向移動車両において、当該全方向車輪1000は、全方向移動車両を水平面上に載置した重心Gの廻りに、少なくとも3台以上の複数が、主車輪の回動面が鉛直で等間隔になるように配置され、各全方向車輪の主車輪の回動面及びその延長面と床面との交線を示す車輪接線軸Wcsが全て同一の一点で交わらないように配置することによっても、本発明の目的を達成することが可能である。
また、更に言えば、図17においては、各全方向車輪1000の主車輪の駆動軸が仮想的な円(図中の一点鎖線で示すC1)の接線方向上にあるが、必ずしも、これらは当該接線方向上に無くとも機能し、また、各全方向車輪1000の間隔も、必ずしも等間隔上に無くとも汎用的に機能し得ることは、上記の事から当然である。
なお、本発明では、駆動力に寄与可能な全方向車輪の方向依存性を検討すると、どの進行方向にも等しく駆動力を生じるには、全方向車輪は多い方がよいが、確実な同時接地と車体空間内に組み込む設計を勘案すると、例えば、6輪程度が良いと判断される。そしてこの場合には、進行方向に若干依存するが、原理上は、最低3.4輪分以上4輪分まで駆動力に寄与することが可能である。
また、次に、上記のような全方向移動車両の制御を行うための数式モデルの例を図18を用いて説明する。ここで、図18は、全方向移動車両の制御を行うための数式モデルに示すパラメータを表示したものであり、重心を中心として床面上にX-Y座標を設定した場合に、図中Ψi、rは重心から各主車輪の中心までの距離、ωiは主車輪の角速度、αはねじり角を、それぞれ表している。
制御の目的は、目標となる本体中心のX、Y方向の速度および角速度の3自由度
を生成することを目標として、各車輪の出すべき角速度
を算出するものである。
全方向車輪の主車輪(車輪)直径は等しく全てdとし、車輪番号を添え字のiとおく。そのため全方向車輪を6輪設けた例では、iは1~6となる。車体中心の重心方向から放射方向に対する車輪接地中心位置の半径をr、角度をψ
i、ねじり角を-αとおき、車輪の駆動方向周速度をVai、これに直角な非駆動方向速度をVbiとおく。また、VaiおよびVbiで合成される速度はViである。
各車輪について平面の並進運動は、X-Y成分で、次の式(1)のように示される。
各全方向車輪(車輪)において、駆動軸が重心方向から見て右ねじ方向に回転したとき、上記Vai及びVbiは、次の式(2)、式(3)のように示すことができる。
式(1)~(3)より、各車輪接地点の駆動方向と受動方向から合成される速度ベクトルが一致していればよく、次の式(4)を満たす。
駆動輪の軸の速度制御であるため駆動方向の周速度のみが制御できるので、vaiについて解けば充分であり、式(5)のように各車輪の出すべき角速度は簡潔にまとめられる。
なお、実際の動作時は、接地状態による滑りにより、並進、回転とも誤差を生じるが、自己位置推定で修正すれば誤差の解消が可能である。
以上の様に、本発明の実施形態による全方向移動車両によれば、軽量で可搬性が高く、車両を駆動させる際の応答性に優れ、動作中の動きの誤差の少ない全方向移動車両を得ることが可能である。また、例えば、これを図19に記載したような地震動シミュレータ1300に用いた場合には、同様に、軽量で可搬性が高く、駆動させる際の応答性に優れ、動作中の動きの誤差の少ない地震動シミュレータを得ることが可能である。なお、ここで、図19は地震動シミュレータ1300の例を図示した側面図であり、図19では、全方向移動車両900として、図13に示したような、全方向車輪を6台搭載したものを用いており、その筐体900上に、椅子130を接続したものを示している。
また、このような地震動シミュレータは、例えば、図20で示したように、移動面の周囲乃至その一部に画像表示装置を設けて、そこに模擬する地震による振動に連動させて、動画を表示することも可能である。
ここで、図20は、上記のような地震動シミュレータを床面上で駆動させる例を示したものである。図20で示した例は、かかる地震動シミュレータを初期の位置として床面の略中央部分に載置している。そして、その正面側にプロジェクタとスクリーンとからなる画像表示装置を設けた上で、背面側にはスピーカを配置しており、床面の略3000mm四方の領域を駆動域とし、その周囲の4000mm四方の領域を駆動時の立ち入り禁止領域としている。(なお、ここでは、操作台を後方側に有線接続により配置しているが、操作台は有線接続に限らず無線接続で行っても良い。)
そのため、このような構成で、地震動シミュレータを駆動させると、かかる地震動シミュレータは、着座した体験者を乗せたまま、床面(移動面)を前後左右に移動することにより、体験者に地震動を体験させることが可能であり、併せて、かかる地震動に連動した動画を表示することにより、更に臨場感の向上した感覚を体験者に提供することが可能である。
次に、上記のような全方向移動車両や地震動シミュレータを、上記のような床面として特有な床面(移動面)を用いて使用する使用方法について、図21を用いて説明する。
ここで、図21(A)は、スパイクを表面に持つ車輪300の外輪部300Wと移動面1400Sとを、対比して例示した側断面図であり、(B)はスパイクを表面に持つ車輪と床面とのすくい角を表示した概念図である。
本発明の実施形態による、全方向移動車両を移動面を用いて使用する全方向移動車両の使用方法では、移動面1400Sは、市販のカーペット等の床用の敷物1400の上面に形成されている。そして、かかる移動面1400S上には、ブラシ状の繊維又は繊維束1400Pが、複数立設されている。
そして、それら複数立設されるうちの個々のブラシ状の繊維又は繊維束1400Pの太さ乃至幅wは、少なくともスパイクを表面に持つ車輪300の外周面330に形成される区分帯350の幅Wよりも小さく、また、これら個々のブラシ状の繊維又は繊維束1400Pが、スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330と有意な摩擦力を生じる程度に大きく、製作されている。なお、ここで、有意な摩擦力を生じる程度とは、例えば、上記スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330が、上記ブラシ状の繊維又は繊維束1400P上で、横滑り等を生じない程度の摩擦力を生じ得る大きさをいう。
また、これら、ブラシ状の繊維又は繊維束1400Pが立設された高さhは、少なくとも当該区分帯350の深さHよりも小さく製作されていると共に、上記太さ乃至幅の場合と同様に、スパイクを表面に持つ車輪300の外周面330と有意な摩擦力を生じる程度に大きく(例えば、当該区分帯350の深さHの3分の2程度に)、製作されている。
そのため、このような特有の形態を有する移動面を使用して、本発明の実施形態による全方向移動車両を使用する場合には、全方向車輪の区分帯350の内側に、ブラシ状の繊維又は繊維束1400Pが入り込み、外側外周面331と内側外周面333との間で、ブラシ状の繊維又は繊維束1400Pを挟み込んだりすることにより、床面との間の摩擦力の向上を図ることが可能である。
そして、スパイクを表面に持つ車輪300の側面がその板面に垂直な方向に、主車輪の回動に伴って移動する際などには、外側外周面331と内側外周面333とが、かかるブラシ状の繊維又は繊維束1400Pの上を横滑りすること無く、ブラシ状の繊維又は繊維束1400Pの側方に対して相互作用することが可能になる。そのため、外周面と外側外周側面とが作る角部Pと外周面と内側外周側面とが作る角部Qとが、ブラシ状の繊維又は繊維束1400Pの側方に対して爪のように作用して、本発明の実施形態による全方向車輪の運動性を向上させることが可能である。
すなわち、本発明では、例えば図21(B)に示すように、移動面に対して、スパイクを表面に持つ車輪の側面が、すくい角Raを設けるような断面が形成されるようにして、床面を引っ掻くようにして移動することが可能である。なお、ここで、すくい角Raとは床面からの垂線に対して、上記スパイクを表面に持つ車輪の側面が、回動に伴って床面と接触する際になす角度のことであり、すくい角Raの大きさについては特に限定を設けるものでは無いが、例えば、0~4[°]程度の範囲が効果的であり、1~2[°]程度の範囲が更に効果的である。
また、上記のように、ブラシ状の繊維又は繊維束1400Pを用いない場合には、表面状態により、上記の場合と同様に、スパイクを表面に持つ車輪の角部P、Qが爪のような効果を発揮できるゴムシート等を用いて、本発明の実施形態による全方向移動車両や地震動シミュレータを用いることも可能である。
以上のように、本発明による、全方向車輪及び全方向車輪を用いた全方向移動車両と地震動シミュレータ並びにこれらの使用方法によれば、本発明による全方向車輪では、主車輪の周囲に多数のスパイクを表面に持つ車輪を備えているため、当該スパイクを表面に持つ車輪が床面(移動面)に対して食い込むように作用することにより、床面との相互作用を増大させて、駆動力を強化させることが可能である。そして、かかるスパイクを表面に持つ車輪は円板状であり、一枚ずつが薄いことから、従来のオムニホイールにおけるビア樽車輪よりも主車輪の外周に多数配置することが可能であり、スムーズな駆動を達成することが可能である。
また、本発明の全方向車輪によれば、従来の課題であった変則的な回転速度と駆動力の制限の課題を解決することが可能であり、軽量化を図ることも可能である。
そして、かかる全方向車輪を用いることにより、軽量で可搬性が高く、車両を駆動させる際の応答性に優れた全方向移動車両と地震動シミュレータとを提供することが可能であり、これらの装置をスパイクを表面に持つ車輪との摩擦を向上させることが可能な特有の床面を用いて使用することにより、更に効果的な利用も可能である。
なお、上記に記載した構成例は例示であるため、同様の機能を達成できるものであれば、かかる構成に限定を設けるものでは無い。そのため、かかる構成例及びその構成要素は、本発明の趣旨の範囲で、他の形態の選択も可能である。