JP7026903B2 - 赤色フッ化物蛍光体及びその母体結晶の製造方法 - Google Patents
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Description
ケイフッ化カリウムK2SiF6(組成式の頭文字をとって「KSF」とも呼ばれる。)は、鋳物用アルミニウムろう付けのフラックス、光学レンズ及び合成雲母の原料などに用いられている有用なフッ化物材料である。
KSFに4価のマンガン(Mn)を発光イオンとして加えた蛍光体(K2SiF6:Mn4+)は、LEDから出射される近紫外から青色領域の光によって励起可能であり、さらに励起状態から赤色光を発する。このような特徴により、Mn賦活KSF蛍光体は、近年、液晶ディスプレイ、携帯電話、及び携帯情報端末等のバックライト用光源として利用されている(例えば、特許文献1参照)。
次に、K2SiF6:Mn4+に関する従来の製造方法について説明する。従来の製造方法では、原料の一つにフッ化水素(HF)やフッ素ガスを用いることが一般的である(例えば、特許文献1~5参照)。特に、量産向きの従来の製造方法は、フッ化水素酸水溶液に他の原料を溶解し、KSFの沈殿を生成させるもの(溶液法とも呼ばれる。)である。
しかしながら、溶液法の一種である上記の方法は、人体に有害なフッ化水素を大量に使用するため、取扱いに細心の注意を要し、製造者の安全を確保することが困難である。
上記問題点を解決するために、近年、フッ化水素を使わない代替的な製造方法が提案されている。例えば、非特許文献1では、フッ化水素カリウムKHF2を用いてK2SiF6:Mn4+を製造する方法が開示されている。しかしながら、このKHF2は、毒性を有するだけでなく腐食性が強いため、上記代替法も真に製造者等の安全を確保できる製法とは言い難い。
(態様1)
カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
弱アルカリ性、中性、又は酸性の溶液を用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源と、前記溶液とを混合する工程と、
前記混合物を反応させて粉末状のK2SiF6を析出させる工程と、
を含み、かつ、
前記溶液を用意する工程では、HF及びKHF2以外の化合物で作られた酸性、中性、又は弱アルカリ性の溶液を用いることを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様2)
前記溶液を用意する工程では、HCl、H3PO4、CH3COOH、又はH2Oを用いることを特徴とする態様1に記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様3)
カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源とを気体中で接触させて混合する工程と、
前記混合物を反応させてK2SiF6を析出させる工程と、
を含み、かつ、
前記混合物にはHF及びKHF 2 を含まず、前記混合する工程は固相法により実施することを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様4)
カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源とを気体中で接触させ、少量の水又は酸性溶液を加えた後に混合する工程と、
を含み、かつ、
前記少量の水又は酸性溶液として、前記原料粉末の合計重量を1とした場合に、加える水又は酸性溶液の重量を、0.001~0.1に設定し、
前記混合物にはHF及びKHF 2 を含まず、前記混合する工程は低温固相法により実施することを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様5)
カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源と、水又は酸性溶液とを容器中に収容・密閉し、該容器内で接触させて混合する工程と、
前記混合物を反応させてK2SiF6を析出させる工程と、
を含み、かつ、
前記混合物にはHF及びKHF 2 を含まず、前記混合する工程は水熱法により実施することを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様6)
カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する前記工程は、前記フッ化カリウムに加えて、フッ化アンモニウムをさらに用意することを特徴とする態様1~5のいずれかに記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様7)
前記ケイ素源として、SiO2を選択することを特徴とする態様1~6のいずれかに記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様8)
前記ケイ素源として、非晶質のSiO2を選択することを特徴とする態様1~6のいずれかに記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
(態様9)
態様1~8のいずれかに記載の製造方法によって製造されたK2SiF6と、
K2MnF6、Mn(HPO4)2、Mn(CH3COO)2・4H2O、MnO(OH)2、Na2MnF6、又はKMnO4の少なくとも一つを含んだマンガン源と、
を混合し、K2SiF6:Mn4+を析出させる工程を含むことを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の製造方法。
Mn賦活赤色蛍光体の一種であり、本発明の製造方法の最終生成物であるK2SiF6:Mn4+について説明する。K2SiF6:Mn4+は、450nmの青色光励起により630nm付近でシャープな発光スペクトルを示すことから、三波長型白色LED用の赤色蛍光体として有望な材料である。
実施例1(実施例2~6も同様)のフッ素源及びカリウム源として、「フッ化カリウムKFのみ」を利用することが可能である。本発明(実施例1~6)のように、フッ素源及びカリウム源を単一の原料(化合物)だけで賄うことができれば、生産に係る工程が非常に簡素になり、生産コストや労力等を格段に抑えることができるようになる。
また、本発明のケイ素源としてSiO2を利用することが可能である。特に、非晶質状(アモルファス)のSiO2を選択することが好ましい。これにより、SiO2原料の表面上の水酸基が本発明の目的物の合成反応を起こしやすくなると考えられる。その他のケイ素源として、ポリシラザン(以下、「PSZ」とも呼ぶ。)、Si(OC2H5)4(以下、「TEOS」とも呼ぶ。)、ケイ酸カリウム(例えば、K2SiO3、K4SiO4)を利用してもよい。本発明者らは、SiO2に代えて上述のケイ素源を使用した場合も、K2SiF6を製造できることを確認済みである。
本発明のマンガン源として、例えば、K2MnF6、Mn(HPO4)2、Mn(CH3COO)2・4H2O、MnO(OH)2、Na2MnF6、又はKMnO4の少なくとも一つを利用することが可能である。
本発明者らは、先ず、マンガン源を用いずに、その他の原料のみ使用して蛍光体の母体結晶(K2SiF6)のみを合成できるかどうか検証することとした(実施例1)。図1(a)に、実施例1の母体結晶の製造方法のフローチャートを示す。
実施例1の製造方法は、各種原料を溶液中に溶解させて混合する点では従来法と変わらないため、溶液法(LSR(Liquid State Reaction)、液相法とも呼ぶ。)の範疇に属する。なお、蛍光体業界における従来の常識に依れば、母体結晶に4価のMnを賦活させるためには、必要な各原料を混合させるための溶液は酸性領域(特に強い酸性)に設定しておくことが望ましいとされていた。
本発明者らは、イオン交換水(8ml)に、HCl(関東化学株式会社製,36%)又はCH3COOH(関東化学株式会社製,36%)の酸を更に2ml添加した溶液を用意した。つまり、イオン交換水と酸を、重量比で4:1となるように全量10mlの酸溶液を調整した(図1(a)を参照)。なお、上記酸溶液に代えてイオン交換水(H2O)を更に2ml添加しただけの中性溶液も用意した(下記の表1を参照)。ここで、図示しないが、酸の例として、H3PO4、HNO3等の酸を添加しても良く、図示しないが、実施例1と同様の結果を得ることを確認している。
ここで、本発明の溶液法に用いる溶液は、HF及びKHF2以外の化合物で作られた酸性溶液のみならず、水等の中性溶液又は弱アルカリ性溶液を使用してもよい。言い換えれば、本発明の溶液にはPH≦11の液体を用いることが可能である。ここで、「HF及びKHF2以外」とは、これらの有害物質を完全に含まないか、ほぼ含んでいない状態(10重量%以下)であることを意味する。
先ず、図1(a)に示すように、フッ化カリウムKF(関東化学株式会社製,99.0%、後述の実施例も同様)と、SiO2(関東化学株式会社製,非晶質,99.9%、後述の実施例も同様)を以下の化学量論比に従って秤量した。KFを、K+の組成比に合せて秤量したものと、F-の組成比に合せて秤量したものとを用意した(表1も参照)。この表1は、酸性溶液の種類と、KFとSiO2との混合比との組合せを示しており、組合せの合計は6パターンであり、各組合せをサンプル1~6と名付けた。
上述した溶液に上記各原料を投与し、マグネチックスターラーを用いて室温で2時間、上述の混合物を攪拌し、吸引ろ過した。その後、80℃、5時間、乾燥させることで合成物(粉末)を得た。
図1(b)に、実施例1の上記サンプル1~6によって得られた試料(K2SiF6)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。実施例1の各試料のX線回折パターンと、シミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターン(同図の最下段を参照)とを比較すると、それぞれのピークが合致していることが観察された。従って、実施例1の各条件によって得られた粉末は、どれも目的物であるK2SiF6相(同図の最下段を参照)と同定された。
次に、本発明者らは、実施例1の乾燥条件を変えてKSFの母体結晶の製造を試みた(実施例2)。具体的には、実施例1の乾燥工程では80℃の熱を5時間加えたが、実施例2の乾燥工程では室温のみで3日間、合成物を乾燥させた。その他の製造条件は、実施例1のサンプル2と同様である。図2(a)に、実施例2のKSF母体結晶の製造方法のフローチャートを示す。
図2(b)に、実施例2によって得られた試料(K2SiF6)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。実施例2によって得られた試料も、目的物であるK2SiF6相(同図の下段を参照)と同定された。このことより、乾燥工程で熱を付与しなくても目的物を得ることができることから、熱の付与は乾燥時間の短縮にのみ寄与すると考えられる。
実施例1,2や従来技術の製造方法は上述の溶液法(LSR)を採用したが、本発明者らは溶液を用いない手法(後述の固相法、水熱法、及び低温固相法、図3も参照)でも、本発明の蛍光体を製造できないかを検討した(後述の実施例3~5)。
実施例3では、固相法(SSR(Solid State Reaction))により本発明の蛍光体の母体結晶を製造した。具体的には、実施例1と同様の方法で用意した各種原料粉末を気体中で接触させ(混合し)、200℃で6時間、上述の混合物を反応させて粉末を得た。
実施例4では、水熱法(HTR(Hydrothermal Reaction))により本発明の蛍光体の母体結晶を製造した。具体的には、実施例1と同様の方法で用意した各種原料粉末を混合し、0.1ml(目的物の10wt%)の水とともに上述の混合物を密閉容器に収容した。この密閉容器内の上記混合物を200℃で6時間、反応させて粉末を得た。
実施例5では、低温固相法(WASSR(Water Assisted Solid State Reaction))により本発明の蛍光体を製造した。具体的には、実施例1と同様の方法で用意した各種原料粉末を接触させ、少量0.1ml(目的物の10wt%)の水又は酸性溶液(例えば、酢)を加えて、室温で5分間、上述の混合物を混合(固相反応)させて粉末を得た。
前述の方法で合成した実施例1,3~5の試料(合成物)を、アルミナ乳鉢で粉砕した後、粉末X線回折装置により試料の同定を行なった。図3に、実施例1,3~4によって得られた試料(K2SiF6)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。どの方法で製造された試料も目的物であるK2SiF6相(同図の最下段を参照)と同定された。なお、図示しないが、実施例5の低温固相法(WASSR)で得られた試料でも同様のXRDパターンを得た。
次に、実施例1~5で製造された母体結晶に、マンガン源であるK2MnF6を添加して混合した(実施例6)。図4(a)に、実施例6の蛍光体の製造方法を示す。混合比は、母体結晶99.7%に対し、マンガン源を0.3%とした。その後、1ml(目的物の100wt%)の水を添加し、200℃で6時間、密閉容器中で混合物を加熱した。
図4(b)に、実施例6の製法によって得られた試料(K2SiF6)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。実施例6の上記試料は、目的物であるK2SiF6相(同図の下段を参照)と同定された。なお、図4(b)で同定された試料(蛍光体)は、実施例1のサンプル6の条件で得られた母体結晶を原料として使用して製造されたものである。
図5は、実施例6の試料の蛍光特性(励起スペクトルおよび発光スペクトル)を示した図である。同図の横軸における短波長側の曲線が、実施例6の試料の励起スペクトルを示し、一方、長波長側の曲線が、前記励起条件に対応して発光した試料の発光スペクトルを示す。この図から、実施例6の試料は、約450nmの青色光を著しく吸収し、約630nm付近での最大ピークを有した赤色発光(Mn4+由来の発光)を示すことを確認した。
上述の実施例1~6ではフッ素源及びカリウム源としてフッ化カリウムKFのみを利用したが、後述の実施例7~12のように、「フッ化カリウムKFとともに」、別の化合物(例えば、フッ化アンモニウムNH4F)も使用してもよい。これにより、目的物(蛍光体及び蛍光体の母体結晶)の合成が促進する。なお、後述の実施例7~12では、フッ化アンモニウムNH4Fも原料に加えて、種々の条件を変えながら本発明の蛍光体や母体結晶が作製できるかを検討した。
図6は、実施例7の赤色フッ化物蛍光体の製造方法のフローチャートである。先ず、化学量論比に従って秤量したフッ化カリウムKF(関東化学株式会社製,99.0%、後述の実施例も同様)とフッ化アンモニウムNH4F(関東化学株式会社製,97.0%、後述の実施例も同様)とを用意し、イオン交換水8ml中に添加して溶解させた。
その後、HCl(関東化学株式会社製,36%)、H3PO4(関東化学株式会社製,85%)、HNO3(関東化学株式会社製,60%)、CH3COOH(関東化学株式会社製,36%)のいずれか、又はH2O(コントロール)を更に添加した(添加量2ml)。つまり、イオン交換水と酸を、重量比で4:1となるように全量10mlの酸溶液を調整した。
その後、マンガン源としてMn(HPO4)2を、後述のケイ素源中のSiと、該マンガン源中のMnが等モル量になるように添加した。
その後、ケイ素源であるポリシラザン(以下、「PSZ」とも呼ぶ。信越化学工業株式会社製,5%、後述の実施例も同様)を化学量論比に従って秤量し、添加した。
前述の方法で合成した実施例7の試料を、アルミナ乳鉢で粉砕した後、粉末X線回折装置により試料の同定を行なった。さらに、蛍光分光光度計を用いて、実施例7の蛍光体の蛍光特性を評価した。
図7(a)に、実施例7の各条件によって得られた試料(K2SiF6:Mn4+)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。図7(a)の最上段と、第2~5段は、それぞれ、酸無しの中性溶液(No acid(つまり、イオン交換水のみ)、酸性溶液(CH3COOH、HNO3、H3PO4、HCl)を用いて作製された試料のXRDパターンを示す。各条件によって得られた粉末は、どれも目的物であるK2SiF6相(同図の最下段を参照)と同定された。
図7(b)は、実施例7の各試料の蛍光特性(励起スペクトルおよび発光スペクトル)を示した図である。同図の横軸における短波長側の曲線が、実施例7の各試料の励起スペクトルを示し、一方、長波長側の曲線が、前記励起条件に対応して発光した試料の発光スペクトルを示す。この図から、実施例7の各試料はいずれも、約450nmの青色光を著しく吸収し、約630nm付近での最大ピークを有した赤色発光(Mn4+由来の発光)を示すことを確認した。
実施例7の実験結果より、製法に使用する溶液の酸性度による影響は観察されなかったことから、実施例8においては、実施例7に例示した酸性溶液を使用しない条件下(酸無し)で、添加するケイ素源の種類の違いを検討することにした。
図8は、実施例8の赤色フッ化物蛍光体の製造方法のフローチャートである。原料が添加・混合される溶液には、実施例7に例示したいずれの酸も使用せず、イオン交換水のみを使用した。つまり、実施例8の溶液は中性に調整された。実施例8における供試原料や製造工程は、ケイ素源以外は、実施例7の製造条件と同様である。実施例8のケイ素源としては、実施例7で使用したPSZの他、Si(OC2H5)4(以下、「TEOS」とも呼ぶ。)(和光純試薬工業株式会社製,95.0%、後述の実施例も同様)、SiO2(関東化学株式会社製,非晶質,99.9%、後述の実施例も同様)、K2SiO3溶液(和光純試薬工業株式会社製,50%、後述の実施例も同様)を用いた。
図9(a)に、実施例8の各条件(各ケイ素源の添加)によって得られた試料(K2SiF6:Mn4+)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。図9(a)の最上段~4段は、それぞれ、K2SiO3溶液、SiO2、TEOS、PSZを添加して生成された試料のXRDパターンを示す。各条件によって得られた粉末は、どれも目的物であるK2SiF6相(同図の最下段を参照)と同定された。これらの結果より、K2SiF6の合成には、添加するケイ素源の種類は余り影響を与えないことが判った。
実施例8では、酸を付与しない溶液に各原料を添加しながらK2SiF6:Mn4+を合成したが、最終的にはマンガン源であるMn(HPO4)2を付与していたため、完全に酸を除去していたとは言い難い。そこで、実施例9では、マンガン源を用いずに、その他の原料のみ使用して蛍光体の母体結晶(K2SiF6)のみを合成できるかどうか検証することとした。
図10(b)に、実施例9の各条件(各ケイ素源の添加)によって得られた試料(K2SiF6)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。これにより、ケイ素源として、TEOS、PSZ、K2SiO3を使用した場合、蛍光体の母体結晶であるK2SiF6が合成できていることが確認された。なお、図中のSiO2を添加して生成された試料のXRDパターンはノイズが発生しているが、再実験した結果(再実験データは図示せず)、これらのケイ素源を添加した場合でもK2SiF6が合成できることが確認された。
図11は、実施例10の蛍光体の製造方法を示したフローチャートである。実施例10の製法でも、化学量論比に従って秤量したフッ化カリウムKFとフッ化アンモニウムNH4Fとを用意し、混合した。
図12(a)に、実施例10の各条件(水の付与量の違い)によって得られた試料の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。条件1~5で生成されたいずれの試料もK2SiF6の相が確認された。
また、図12(b)に、実施例10によって製造された試料の蛍光特性(励起スペクトルおよび発光スペクトル)を示す。どの試料も青色光励起により赤色発光(Mn4+由来の発光)を示すことが確認された。この結果より、添加した水の量は発光強度に影響しないことといえる。各条件における発光強度の違いは、MnとSiとのリン酸錯体溶液中のMn4+の濃度とSi4+の濃度との違いによるものだと考えられる。
実施例7~10の製法は、従来製法に必須であったHFを用いずとも、KSF蛍光体又はその母体結晶が合成できることを証明した。しかしながら、実施例7~10も、溶液法(LTR)である点では、従来法と共通していた。そこで、本発明者らは、固相法又は水熱法によっても、KSF蛍光体を合成できるかどうかについても検討した(図13を参照)。図13は、固相法(SSR)又は水熱法(HTR)によるKSF蛍光体の製造を示したフローチャートである。
図14(a)に、実施例11に示す各条件(固相法又は水熱法)によって得られた試料の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。この図から、いずれの固相法から得られた試料でも単相でK2SiF6の相が確認された。また、水熱法から得られた試料でも主相でK2SiF6の相が確認された。この結果から、従来から提唱されていた溶液法とは異なった合成手法でも、KSF蛍光体の合成が可能であることが見出された。
また、図14(b)に、実施例11の各試料の蛍光特性(励起スペクトルおよび発光スペクトル)を示す。どの試料も青色光励起により赤色発光(Mn4+由来の発光)を示すことが確認された。特に、水熱法により合成された試料で最も高い発光強度が観察された。なお、実施例11の固相法(SSR)の第1の例では、図中の蛍光特性が顕著に現れていないが、目視や別の試験でははっきりと発光することが確認されている。
次に、マンガン源としてK2MnF6を使用してKSF蛍光体を合成することを検討した(実施例12)。なお、K2MnF6には、立方晶構造を有するものと六方晶構造を有するものとが存在するが、どちらの種類を使用しても良い。但し、発光イオン(Mn4+)のイオン交換の促進の観点からすれば、目的物たる蛍光体の母体結晶(K2SiF6)の母体結晶が立方晶構造であることから、立方晶構造を有したK2MnF6の使用が望ましいと考えられる。以下の実施例では、マンガン源として、六方晶構造を有したK2MnF6を使用した。また、K2MnF6に代えて、Na2MnF6を使用した。
図15(b)に、実施例12に示す各条件(低温固相法又は水熱法)によって得られた試料の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。この図から、いずれの条件で得られた試料からでもK2SiF6が主相で確認された。なお、不純物の一つは、KHF2であると考えられる。
また、図16(a)及び(b)に、実施例12で得られた試料のうちいくつかの試料の蛍光特性(励起スペクトルおよび発光スペクトル)を示す。詳しくは、図16(a)は、実施例12の第1の例の合成物の蛍光特性を示し、図16(b)は、実施例12の第2の例の合成物の蛍光特性を示す。どちらの場合でも、青色光励起により赤色発光(Mn4+由来の発光)を示すことが確認された。なお、Mn濃度を今後、最適化することにより、発光強度を更に増大させることが可能できるものと期待される。
Claims (9)
- カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
弱アルカリ性、中性、又は酸性の溶液を用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源と、前記溶液とを混合する工程と、
前記混合物を反応させて粉末状のK2SiF6を析出させる工程と、
を含み、かつ、
前記溶液を用意する工程では、HF及びKHF2以外の化合物で作られた酸性、中性、又は弱アルカリ性の溶液を用いることを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。 - 前記溶液を用意する工程では、HCl、H3PO4、CH3COOH、又はH2Oを用いることを特徴とする請求項1に記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
- カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源とを気体中で接触させて混合する工程と、
前記混合物を反応させてK2SiF6を析出させる工程と、
を含み、かつ、
前記混合物にはHF及びKHF 2 を含まず、前記混合する工程は固相法により実施することを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。 - カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源とを気体中で接触させ、少量の水又は酸性溶液を加えた後に混合する工程と、
を含み、かつ、
前記少量の水又は酸性溶液として、前記原料粉末の合計重量を1とした場合に、加える水又は酸性溶液の重量を、0.001~0.1に設定し、
前記混合物にはHF及びKHF 2 を含まず、前記混合する工程は低温固相法により実施することを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。 - カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する工程と、
ケイ素源として、ポリシラザン、TEOS、SiO2、ケイ酸カリウムから少なくとも一つを用意する工程と、
前記カリウム源及びフッ素源と、前記ケイ素源と、水又は酸性溶液とを容器中に収容・密閉し、該容器内で接触させて混合する工程と、
前記混合物を反応させてK2SiF6を析出させる工程と、
を含み、かつ、
前記混合物にはHF及びKHF 2 を含まず、前記混合する工程は水熱法により実施することを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。 - カリウム源及びフッ素源としてフッ化カリウムを用意する前記工程は、前記フッ化カリウムに加えて、フッ化アンモニウムをさらに用意することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
- 前記ケイ素源として、SiO2を選択することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
- 前記ケイ素源として、非晶質のSiO2を選択することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の赤色フッ化物蛍光体の母体結晶の製造方法。
- 請求項1~8のいずれかに記載の製造方法によって製造されたK2SiF6と、
K2MnF6、Mn(HPO4)2、Mn(CH3COO)2・4H2O、MnO(OH)2、Na2MnF6、又はKMnO4の少なくとも一つを含んだマンガン源と、
を混合し、K2SiF6:Mn4+を析出させる工程を含むことを特徴とする赤色フッ化物蛍光体の製造方法。
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