JP7026715B2 - 鉛蓄電池の正極合剤用混練物、鉛蓄電池の製造方法、鉛蓄電池 - Google Patents
鉛蓄電池の正極合剤用混練物、鉛蓄電池の製造方法、鉛蓄電池 Download PDFInfo
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Description
近年、国内で新規に販売される自動車の多くは、従来のエンジン車からアイドリングストップ車(以下、「ISS車」と称する。ISS:Idling Stop and Start)に代わりつつあり、今後、ISS車用の鉛蓄電池のニーズはより一層高まっていくものと予測される。
本発明の課題は、高容量で長寿命なISS車用鉛蓄電池を得ることである。
本発明の第二態様は、鉛粉と鉛丹とを主成分とする正極活物質原料および希硫酸を含む混練物を得る工程と、前記混練物を、鉛合金からなる格子状基板に充填した後、熟成および乾燥することで化成前の正極板を得る工程と、前記化成前の正極板を化成する工程と、を有し、前記混練物を得る工程では、前記鉛丹として、硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である鉛丹を用い、前記鉛丹を混練機に投入した後に前記鉛粉を前記混練機へ投入して乾式混合を行い、次いで、乾式混合された前記鉛丹と前記鉛粉との混合物に所望量の水を添加して練り合わせた後、所望量の希硫酸を更に添加して再度練り合わせることで前記混練物を得る鉛蓄電池用正極板の製造方法を提供する。
本発明の別の第一態様は、セル室と、前記セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、前記極板群は、交互に配置された負極板および正極板と、前記負極板と前記正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する鉛蓄電池の、前記正極板を製造するための一工程で使用するペースト状の混練物であって、前記一工程は、ペースト状の混練物を集電体の格子状基板に充填した後、熟成および乾燥する工程であり、鉛粉、鉛丹、硫酸、および水を含み、前記鉛丹の硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である正極合剤用混練物を提供する。
本発明の別の第三態様は、本発明の別の第二態様の方法で製造された鉛蓄電池であって、前記正極板を構成する正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下である鉛蓄電池を提供する。
本発明の別の第一態様の正極合剤用混練物を用いることにより、高容量で長寿命なISS車用鉛蓄電池が製造できるようになる。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
この実施形態の鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一個の極板群が配置されている。各セル室に電解液が注入されている。
各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
正極板は、格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、正極合剤(正極活物質を含む合剤)が保持されたものである。負極板は、格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、負極合剤(負極活物質を含む合剤)が保持されたものである。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。積層体を構成する負極板の枚数は正極板の枚数よりも一枚多くても良いし、同じでも良い。
負極合剤は、従来品と同様の構成である。具体的には、負極活物質である鉛と、補強繊維などを含む。
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。そして、負極板が入った袋状セパレータと正極板とを交互に重ねることで、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、正極板を袋状セパレータ内に収納して、負極板と交互に重ねてもよい。
実施形態の鉛蓄電池は、例えば以下の方法で製造することができる。正極板の製造方法以外は、従来公知の方法が採用できる。
先ず、化成前の正極板を作製する際に用いる混練物(正極合剤用混練物)として、鉛粉、鉛丹、硫酸、酸化ビスマス、および水を含む混練物を作製する。鉛丹としては、硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下のものを用いる。鉛丹の添加量は、鉛粉100質量部に対して10質量部以上20質量部以下の割合とする。
また、鉛丹を混練機に投入した後に鉛粉を混練機へ投入して乾式混合を行い、次いで、乾式混合された鉛丹と鉛粉との混合物に所望量の水を添加して練り合わせた後、所望量の希硫酸を更に添加して再度練り合わせることで、混練物(正極合剤用混練物)を得る。
次に、作製された混練物を集電体の格子状基板に充填した後、熟成および乾燥を行う。
以上が、化成前の正極板を得る工程である。
次に、化成前の積層体をCOS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、正極板の耳部同士を接続した正極ストラップおよび負極板の耳部同士を接続した負極ストラップを形成するとともに、正極中間極柱、負極中間極柱、正極極柱および負極極柱を形成する。それらを形成した後、前記積層体を電槽の各セル室に配置する。
この電槽化成により、集電体に保持された状態の鉛粉および鉛丹が正極活物質(PbO2)に変化し、正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下であり、β-PbO2の質量に対するα-PbO2の質量の比(α/β)が0.18以上0.43以下であり、α-PbO2の結晶子径は210Å以上260Å以下であり、β-PbO2の結晶子径は240Å以上380Å以下となる。
正極合剤の密度が高いほど、正極活物質同士あるいは正極活物質と格子状基板との密着性が向上するため、正極板の耐久性は向上するが、活物質の利用効率は低下する。正極合剤の密度が低いほど、活物質の利用効率は向上するが、正極活物質同士あるいは正極活物質と格子状基板との密着性が低下するため、正極板の耐久性は低下する。
また、電気化学的に不活性なα-PbO2が多いほど、耐久性(寿命性能)の点で有利になるが、活物質の利用効率の点では不利になる。電気化学的に活性なβ-PbO2が多いほど、活物質の利用効率(放電容量)の点で有利になるが、耐久性(寿命性能)の点では不利になる。
具体的には、β-PbO2の質量に対するα-PbO2の質量の比(α/β)が0.18以上0.43以下になることで、正極活物質の充放電による軟化が抑制されて、容量低下が抑制される。また、β-PbO2の結晶子径がα-PbO2の結晶子径に近いものになることで、充放電の繰り返しによる体積変化が小さくなって、容量維持性能が向上する。
第一態様の正極合剤用混練物は、鉛丹の吸酸量(硫酸吸収量)が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である。この吸酸量は、以下の方法で測定された値である。
先ず、100mLの硫酸水溶液(濃度1.10g/mL)を三角フラスコに入れ、三角フラスコの温度を32℃に調整する。次に、この三角フラスコに測定対象となる鉛丹を25g入れて、この三角フラスコに30秒間振動を与えて、鉛丹を硫酸水溶液内に均一に分散させる。
次に、ろ液として回収された硫酸水溶液を1mL、別の三角フラスコに入れ、水酸化ナトリウム溶液(濃度0.1mol/L)で滴定することで、ろ液として回収された硫酸水溶液に含まれている硫酸濃度M1を決定する。中和点の判定には、100mLのメタノールに375mgのフェノールフタレインを溶解した指示薬を使用し、赤色に変化したら終了する。
この濃度差(M0-M1)の分だけ硫酸が鉛丹に吸収されているため、その値(硫酸の質量)を算出し、その算出値を25(使用した鉛丹のグラム数)で除算して、鉛丹1g当たりの硫酸吸収量を得る。
なお、鉛丹の硫酸吸収量は、例えば、鉛丹の製造時に焼成温度や焼成時間を変えて、得られる鉛丹の比表面積を変化させることで制御できる。
実施形態の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池として、サンプルNo.1~No.14の鉛蓄電池を、実施形態に記載された従来公知の方法で作製した。具体的には、定格容量が32AhのBサイズの鉛蓄電池であって、動作電圧が12Vの鉛蓄電池を作製した。
<No.1>
先ず、新東工業(株)の混練機「ミックスマラー」に、吸酸量(硫酸吸収量)が90mg/gである鉛丹を300g投入した後、この混練機に、蓄電池用の鉛粉(粒径が数μm~30数μmである鉛と酸化鉛との混合粉末で、質量比での混合比が鉛:酸化鉛=約25:75)2000gと、酸化ビスマス1gを投入して乾式混合を行った。
次に、この(乾式混合された鉛丹と鉛粉と酸化ビスマスの混合物が入っている)混練機に、水400gを添加して練り合わせた後、比重1.37の硫酸(希硫酸)172gを更に添加して再度練り合わせた。このようにして、正極合剤形成用ペースト(混練物)を得た。
次に、このペーストを、Pb-Sn系の鉛合金から成る鉛合金から成るBサイズ電池用集電体の格子状基板に充填したものを、温度40℃且つ湿度95%以上の環境下に48時間放置することで熟成し、その後60℃で24時間乾燥を行った。これにより、化成前の正極板を得た。
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が100mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.3>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.4>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が200mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.5>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が210mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を450gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.7~No.11>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を350gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた水の添加量を300gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.13>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を300gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.14>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を280gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
正極合剤形成用ペーストの作製で使用したものと同じ蓄電池用の鉛粉2000gに、水400g、ポリエステル繊維(補強用繊維)1.8g、硫酸バリウム20g、導電性カーボン4g、リグニン4gを、それぞれ添加して混合した。このようにして得られた混合物に、20℃での比重Dが1.37である硫酸水溶液を228g加えて混練することで、負極合剤形成用ペースト(混練物)を得た。
このペーストを、Pb-Ca系の鉛合金から成るBサイズ電池用集電体の格子状基板に充填した後、通常の条件による熟成乾燥工程を行い、化成前の負極板を得た。
先ず、No.1~No.14の各鉛蓄電池用の極板群を作製するために、上述方法で作製したNo.1~No.14の化成前の正極板を各36枚と、上述方法で作製した化成前の負極板を588(14×42)枚と、化成前の負極板と同じ数の袋状セパレータを用意した。
次に、化成前の負極板を袋状セパレータ内に収納し、この化成前の負極板入りセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層することで、化成前の正極板を6枚、化成前の負極板を7枚有する積層体を、サンプルNo.1~14で六個ずつ得た。
この状態の電槽と蓋を、実施形態に記載された方法で熱溶着することで、No.1~No.14の化成前の鉛蓄電池を得た。
次に、硫酸アルミニウムが20g/L添加された希硫酸電解液(アルミニウムイオン濃度は117mmol/L、希硫酸電解液の比重は1.230)を、No.1~No.14の化成前の鉛蓄電池の蓋の注液孔から、電槽の各セル室内へ注入した。
その後、下記の条件で電槽化成を行って、No.1~No.14の鉛蓄電池(20時間率定格容量35Ah)を得た。
電解液の温度を、No.1~7,No.12~14では50℃±1℃に、No.8では45℃±1℃に、No.9では40℃±1℃に、No.10では35℃±1℃に、No.11では30℃±1℃に、それぞれ制御した。これ以外は全て同じ条件とした。
上記と同じ構成の正極合剤形成用ペーストであって、鉛丹の吸酸量が90mg/g、100mg/g、150mg/g、200mg/g、210mg/gである各ペーストを用いて、上記と同じ集電体の格子状基板に充填し、上記と同じ条件での熟成、乾燥を行うことで、それぞれ500枚の化成前の正極板を得た。得られた各化成前の正極板を目視で観察して、穴空きが発生しているかどうかを調べた。穴空きの発生が全くない場合を合格とした。
No.1~No.14の鉛蓄電池の正極板(化成後)について、以下の方法で、正極合剤の密度、α-PbO2およびβ-PbO2の結晶子径、α-PbO2とβ-PbO2の質量比(α/β)を測定した。
電槽化成後の各鉛蓄電池から正極板を取り出して、水で洗って乾燥させた後、正極板から正極合剤を掻き落として粉末にした。得られた粉末を水銀圧入式ポロシメーターにセットして、正極合剤の密度を水銀圧入法により測定した。
また、得られた粉末を電子顕微鏡で観察して、α-PbO2とβ-PbO2の結晶子径を測定した。さらに、得られた粉末をX線回折装置にセットして、X線回折チャートを得、β-PbO2の回折線とα-PbO2の回折線との強度比から、比(α/β)を算出した。
No.1~No.14の各鉛蓄電池について「SBA S 0101 2014」の試験を行い、放電容量(20時間率容量)を調べた。測定値が35Ah以上であれば合格とした。この値をサイクル試験前の容量とした
[充電受入性能を調べる試験]
No.1~No.14の各鉛蓄電池について「SBA S 0101 2014」の試験を行い、充電受入性能(10秒間積算充電量)を調べた。測定値が350A・s以上であれば合格とした。
No.1~No.14の鉛蓄電池の容量維持率を、以下の方法で調べた。
上述の放電試験後の各鉛蓄電池に対して、先ず、SOCを80%とする調整を行った後、「SBA S 0101:2014」の「8.4.5アイドリングストップ寿命試験」に記載された条件での放電および充電を3600回繰り返した。次に、制御電圧14.5V、最大電流50AでのCV充電を、25時間を行った。この調整からCV充電までを1サイクルとして、このサイクルを6回続けて行った。つまり、上記の放電および充電の繰り返しは21600(3600×6)回行った。
次に、上述の放電試験を行い、放電容量(20時間率容量)を調べた。この値をサイクル試験後の容量とした。
これらの測定、試験結果を、各サンプルの正極板の製造方法(正極合剤用ペーストの鉛丹の吸酸量、化成中の電解液の温度)と、化成後の正極合剤の構成とともに、下記の表1に示す。なお、No.6の鉛蓄電池は、放電および充電の繰り返しが19800回で寿命となったため、サイクル試験後の容量が測定できなかった。
また、No.6の鉛蓄電池は、正極合剤の密度が4.1g/cm3と低すぎため、アイドリングストップ寿命試験での寿命が短かった。
また、No.1、No.12の鉛蓄電池は、正極合剤用ペーストに含まれる鉛丹の吸酸量が90mg/gと少なすぎたため、容量維持率が34%、44%と低かった。
また、No.14の鉛蓄電池は、正極合剤の密度が4.8g/cm3と高すぎたため、サイクル試験前の容量が33Ahと低かった。また、ペーストの流動性が悪く、穴空きが発生した。
Claims (5)
- 鉛粉と鉛丹とを主成分とする正極活物質原料および希硫酸を含む混練物が、鉛合金からなる格子状基板に充填されて、化成されている鉛蓄電池用正極板であって、
前記鉛丹の硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である鉛蓄電池用正極板。 - 正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下である請求項1記載の鉛蓄電池用正極板。
- 請求項1または2記載の鉛蓄電池用正極板を備えた鉛蓄電池。
- 電解液が20mmol/L以上200mmol/L以下のアルミニウムイオンを含む硫酸水溶液である請求項3記載の鉛蓄電池。
- 鉛粉と鉛丹とを主成分とする正極活物質原料および希硫酸を含む混練物を得る工程と、
前記混練物を、鉛合金からなる格子状基板に充填した後、熟成および乾燥することで化成前の正極板を得る工程と、
前記化成前の正極板を化成する工程と、
を有し、
前記混練物を得る工程では、
前記鉛丹として、硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である鉛丹を用い、
前記鉛丹を混練機に投入した後に前記鉛粉を前記混練機へ投入して乾式混合を行い、次いで、乾式混合された前記鉛丹と前記鉛粉との混合物に所望量の水を添加して練り合わせた後、所望量の希硫酸を更に添加して再度練り合わせることで前記混練物を得る鉛蓄電池用正極板の製造方法。
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