JP7026715B2 - 鉛蓄電池の正極合剤用混練物、鉛蓄電池の製造方法、鉛蓄電池 - Google Patents

鉛蓄電池の正極合剤用混練物、鉛蓄電池の製造方法、鉛蓄電池 Download PDF

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Description

本発明は、鉛蓄電池の正極板に関する。
鉛蓄電池には液式のものと制御弁式のものがあり、液式鉛蓄電池は、セル室を備えた電槽と、セル室に電解液とともに収納されている極板群と、を備え、その極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、正極板および負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
近年、国内で新規に販売される自動車の多くは、従来のエンジン車からアイドリングストップ車(以下、「ISS車」と称する。ISS:Idling Stop and Start)に代わりつつあり、今後、ISS車用の鉛蓄電池のニーズはより一層高まっていくものと予測される。
これまでのISS車用鉛蓄電池には、車両の燃費向上のための高い充電受入性と、部分充電状態における深い放電と充電の繰り返しに耐えられる高い耐久性が求められていたが、近年のISS車用鉛蓄電池には、それだけではなく、容量が高いことと高い容量を維持できる性能も求められている。その理由は、近年のISS車は、車両に装備される電装機器が多く、電池から取り出す容量が多くなったためである。しかし、ISS車用鉛蓄電池は、充放電の繰り返しが頻繁に行われることで、活物質の劣化は進行し易く、電池容量が低下し易い状態にある。
特許文献1には、正極板の性能において、耐久性を向上させることと活物質利用率を高くすることがトレードオフの関係にあることが記載されている。そして、これらを両立するために、化成後の活物質密度が4.5g3/cm以上の正極板を製造する際に、正極ペーストの混練時に添加される純硫酸量を鉛粉質量に対して2.0質量%以上4.5質量%以下にするとともに、正極ペーストに鉛丹を添加し、その添加量を鉛粉と鉛丹の合計量に対して5.0質量%以上25.0質量%以下にすることが記載されている。
特開2017-183283号公報
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、ISS車用鉛蓄電池として、高容量で長寿命な(正極板の耐久性と容量維持率が高い)鉛蓄電池を得るという点で改善の余地がある。
本発明の課題は、高容量で長寿命なISS車用鉛蓄電池を得ることである。
上記課題を解決するために、本発明の第一態様は、鉛粉と鉛丹とを主成分とする正極活物質原料および希硫酸を含む混練物(正極合剤用混練物)が、鉛合金からなる格子状基板に充填されて、化成されている鉛蓄電池用正極板であって、前記鉛丹の硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である鉛蓄電池用正極板を提供する。
本発明の第二態様は、鉛粉と鉛丹とを主成分とする正極活物質原料および希硫酸を含む混練物を得る工程と、前記混練物を、鉛合金からなる格子状基板に充填した後、熟成および乾燥することで化成前の正極板を得る工程と、前記化成前の正極板を化成する工程と、を有し、前記混練物を得る工程では、前記鉛丹として、硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である鉛丹を用い、前記鉛丹を混練機に投入した後に前記鉛粉を前記混練機へ投入して乾式混合を行い、次いで、乾式混合された前記鉛丹と前記鉛粉との混合物に所望量の水を添加して練り合わせた後、所望量の希硫酸を更に添加して再度練り合わせることで前記混練物を得る鉛蓄電池用正極板の製造方法を提供する。
本発明によれば、高容量で長寿命なISS車用鉛蓄電池が製造できるようになる。
〔本発明の別の態様〕
本発明の別の第一態様は、セル室と、前記セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、前記極板群は、交互に配置された負極板および正極板と、前記負極板と前記正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する鉛蓄電池の、前記正極板を製造するための一工程で使用するペースト状の混練物であって、前記一工程は、ペースト状の混練物を集電体の格子状基板に充填した後、熟成および乾燥する工程であり、鉛粉、鉛丹、硫酸、および水を含み、前記鉛丹の硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である正極合剤用混練物を提供する。
本発明の別の第二態様は、セル室と、前記セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、前記極板群は、交互に配置された負極板および正極板と、前記負極板と前記正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する鉛蓄電池の製造方法であって、本発明の別の第一態様の正極合剤用混練物を集電体の格子状基板に充填した後、熟成および乾燥することで化成前の正極板を得る工程と、化成前の正極板および負極板を化成する工程と、を含む鉛蓄電池の製造方法を提供する。
本発明の別の第三態様は、本発明の別の第二態様の方法で製造された鉛蓄電池であって、前記正極板を構成する正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下である鉛蓄電池を提供する。
本発明の別の第一態様の正極合剤用混練物を用いることにより、高容量で長寿命なISS車用鉛蓄電池が製造できるようになる。
〔実施形態〕
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
[構成]
この実施形態の鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一個の極板群が配置されている。各セル室に電解液が注入されている。
各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
正極板は、格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、正極合剤(正極活物質を含む合剤)が保持されたものである。負極板は、格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、負極合剤(負極活物質を含む合剤)が保持されたものである。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。積層体を構成する負極板の枚数は正極板の枚数よりも一枚多くても良いし、同じでも良い。
正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下であり、正極合剤を構成する正極活物質に含まれるβ-PbO2の質量に対するα-PbO2の質量の比(α/β)が0.18以上0.43以下であり、α-PbO2の結晶子径は210Å以上260Å以下であり、β-PbO2の結晶子径は240Å以上380Å以下である。
負極合剤は、従来品と同様の構成である。具体的には、負極活物質である鉛と、補強繊維などを含む。
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。そして、負極板が入った袋状セパレータと正極板とを交互に重ねることで、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、正極板を袋状セパレータ内に収納して、負極板と交互に重ねてもよい。
また、各極板群は、積層体の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱を有する。正極ストラップおよび負極ストラップは、正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結している。セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップには、それぞれ小片部を介して外部端子となる正極極柱および負極極柱が形成されている。
[製法]
実施形態の鉛蓄電池は、例えば以下の方法で製造することができる。正極板の製造方法以外は、従来公知の方法が採用できる。
先ず、化成前の正極板を作製する際に用いる混練物(正極合剤用混練物)として、鉛粉、鉛丹、硫酸、酸化ビスマス、および水を含む混練物を作製する。鉛丹としては、硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下のものを用いる。鉛丹の添加量は、鉛粉100質量部に対して10質量部以上20質量部以下の割合とする。
また、鉛丹を混練機に投入した後に鉛粉を混練機へ投入して乾式混合を行い、次いで、乾式混合された鉛丹と鉛粉との混合物に所望量の水を添加して練り合わせた後、所望量の希硫酸を更に添加して再度練り合わせることで、混練物(正極合剤用混練物)を得る。
次に、作製された混練物を集電体の格子状基板に充填した後、熟成および乾燥を行う。
以上が、化成前の正極板を得る工程である。
次に、得られた化成前の正極板と、通常の方法で作製された化成前の負極板と、セパレータと、を用いて、化成前の積層体を作製する。
次に、化成前の積層体をCOS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、正極板の耳部同士を接続した正極ストラップおよび負極板の耳部同士を接続した負極ストラップを形成するとともに、正極中間極柱、負極中間極柱、正極極柱および負極極柱を形成する。それらを形成した後、前記積層体を電槽の各セル室に配置する。
次に、隣接するセル室の正極中間極柱同士または負極中間極柱同士を抵抗溶接することで、隣接するセル間を電気的に直列に接続する。次に、電槽の上面と蓋の下面とを熱で溶かして蓋を電槽に載せ、熱溶着により電槽に蓋を固定する。なお、蓋を電槽に載せる際に、正極極柱および負極極柱を蓋にインサート成型されたブッシングの貫通穴に通す。その後、ブッシングの貫通孔からそれぞれ突出した状態の正極極柱および負極極柱をバーナー等で加熱しブッシングと一体化させることで、正極端子および負極端子を形成する。
その後、蓋を貫通する穴として設けた注液孔からセル室内に、アルミニウムイオンを20mmol/L以上200mmol/L以下の濃度で含有する電解液(硫酸に硫酸アルミニウムが添加された電解液)を注入した後、注液孔を塞ぐことなどの通常の工程を行うことにより、鉛蓄電池の組み立てを完成させる。その後、通常の条件で電槽化成を行うことで鉛蓄電池が得られる。
この電槽化成により、集電体に保持された状態の鉛粉および鉛丹が正極活物質(PbO2)に変化し、正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下であり、β-PbO2の質量に対するα-PbO2の質量の比(α/β)が0.18以上0.43以下であり、α-PbO2の結晶子径は210Å以上260Å以下であり、β-PbO2の結晶子径は240Å以上380Å以下となる。
[作用、効果]
正極合剤の密度が高いほど、正極活物質同士あるいは正極活物質と格子状基板との密着性が向上するため、正極板の耐久性は向上するが、活物質の利用効率は低下する。正極合剤の密度が低いほど、活物質の利用効率は向上するが、正極活物質同士あるいは正極活物質と格子状基板との密着性が低下するため、正極板の耐久性は低下する。
また、電気化学的に不活性なα-PbO2が多いほど、耐久性(寿命性能)の点で有利になるが、活物質の利用効率の点では不利になる。電気化学的に活性なβ-PbO2が多いほど、活物質の利用効率(放電容量)の点で有利になるが、耐久性(寿命性能)の点では不利になる。
本実施形態の鉛蓄電池は、化成前の正極板が、硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下の鉛丹を含む正極合剤用混練物を用いて作製されたものであるため、化成後の正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下と高くても、容量低下が抑制されるとともに容量維持性能が向上する。
具体的には、β-PbO2の質量に対するα-PbO2の質量の比(α/β)が0.18以上0.43以下になることで、正極活物質の充放電による軟化が抑制されて、容量低下が抑制される。また、β-PbO2の結晶子径がα-PbO2の結晶子径に近いものになることで、充放電の繰り返しによる体積変化が小さくなって、容量維持性能が向上する。
[吸酸量(硫酸吸収量)の測定方法]
第一態様の正極合剤用混練物は、鉛丹の吸酸量(硫酸吸収量)が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である。この吸酸量は、以下の方法で測定された値である。
先ず、100mLの硫酸水溶液(濃度1.10g/mL)を三角フラスコに入れ、三角フラスコの温度を32℃に調整する。次に、この三角フラスコに測定対象となる鉛丹を25g入れて、この三角フラスコに30秒間振動を与えて、鉛丹を硫酸水溶液内に均一に分散させる。
次に、この三角フラスコ内の液体を32℃で10分間攪拌することで、鉛丹に硫酸を吸収させる。次に、この三角フラスコを室温で5分間静置し、三角フラスコ内の鉛丹を沈降させる。次に、三角フラスコ内の液体をフィルターでろ過することで、鉛丹と硫酸水溶液を分離する。
次に、ろ液として回収された硫酸水溶液を1mL、別の三角フラスコに入れ、水酸化ナトリウム溶液(濃度0.1mol/L)で滴定することで、ろ液として回収された硫酸水溶液に含まれている硫酸濃度M1を決定する。中和点の判定には、100mLのメタノールに375mgのフェノールフタレインを溶解した指示薬を使用し、赤色に変化したら終了する。
鉛丹に吸収させた硫酸水溶液と同じ硫酸水溶液を1mL、別の三角フラスコに入れ、水酸化ナトリウム溶液で滴定することで、ブランク(硫酸水溶液)の硫酸濃度M0を決定する。
この濃度差(M0-M1)の分だけ硫酸が鉛丹に吸収されているため、その値(硫酸の質量)を算出し、その算出値を25(使用した鉛丹のグラム数)で除算して、鉛丹1g当たりの硫酸吸収量を得る。
なお、鉛丹の硫酸吸収量は、例えば、鉛丹の製造時に焼成温度や焼成時間を変えて、得られる鉛丹の比表面積を変化させることで制御できる。
[試験電池の作製]
実施形態の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池として、サンプルNo.1~No.14の鉛蓄電池を、実施形態に記載された従来公知の方法で作製した。具体的には、定格容量が32AhのBサイズの鉛蓄電池であって、動作電圧が12Vの鉛蓄電池を作製した。
[正極板(化成前)の作製]
<No.1>
先ず、新東工業(株)の混練機「ミックスマラー」に、吸酸量(硫酸吸収量)が90mg/gである鉛丹を300g投入した後、この混練機に、蓄電池用の鉛粉(粒径が数μm~30数μmである鉛と酸化鉛との混合粉末で、質量比での混合比が鉛:酸化鉛=約25:75)2000gと、酸化ビスマス1gを投入して乾式混合を行った。
次に、この(乾式混合された鉛丹と鉛粉と酸化ビスマスの混合物が入っている)混練機に、水400gを添加して練り合わせた後、比重1.37の硫酸(希硫酸)172gを更に添加して再度練り合わせた。このようにして、正極合剤形成用ペースト(混練物)を得た。
次に、このペーストを、Pb-Sn系の鉛合金から成る鉛合金から成るBサイズ電池用集電体の格子状基板に充填したものを、温度40℃且つ湿度95%以上の環境下に48時間放置することで熟成し、その後60℃で24時間乾燥を行った。これにより、化成前の正極板を得た。
<No.2>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が100mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.3>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.4>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が200mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.5>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が210mg/gであるものを用いた以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.6>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を450gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.7~No.11>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を350gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.12>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた水の添加量を300gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.13>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を300gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.14>
正極合剤形成用ペーストを得る際に加えた鉛丹として吸酸量(硫酸吸収量)が150mg/gであるものを用い、水の添加量を280gとした以外は、No.1と同じ方法で化成前の正極板を得た。
[負極板(化成前)の作製]
正極合剤形成用ペーストの作製で使用したものと同じ蓄電池用の鉛粉2000gに、水400g、ポリエステル繊維(補強用繊維)1.8g、硫酸バリウム20g、導電性カーボン4g、リグニン4gを、それぞれ添加して混合した。このようにして得られた混合物に、20℃での比重Dが1.37である硫酸水溶液を228g加えて混練することで、負極合剤形成用ペースト(混練物)を得た。
このペーストを、Pb-Ca系の鉛合金から成るBサイズ電池用集電体の格子状基板に充填した後、通常の条件による熟成乾燥工程を行い、化成前の負極板を得た。
[鉛蓄電池の組み立て]
先ず、No.1~No.14の各鉛蓄電池用の極板群を作製するために、上述方法で作製したNo.1~No.14の化成前の正極板を各36枚と、上述方法で作製した化成前の負極板を588(14×42)枚と、化成前の負極板と同じ数の袋状セパレータを用意した。
次に、化成前の負極板を袋状セパレータ内に収納し、この化成前の負極板入りセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層することで、化成前の正極板を6枚、化成前の負極板を7枚有する積層体を、サンプルNo.1~14で六個ずつ得た。
次に、サンプルNo.毎に、得られた六個の積層体をCOS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、キャビティ内に溶融金属(鉛合金)を供給するとともに、耳部を下側に向けた状態で積層体の耳部を挿入することで、先ず、各耳部同士を接続する正極ストラップおよび負極ストラップを形成した。続いて、配列方向両端のセル室に配置された負極ストラップおよび正極ストラップには小片と極柱を形成し、それ以外の各正極ストラップおよび負極ストラップには、それぞれ正極中間極柱および負極中間極柱を形成した。それらを形成した後、SBA S0101規格の外形区分M42のポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ配置した。
次に、電槽のセル室同士を仕切る隔壁を挟んで対向する正極中間極柱および負極中間極柱を、隔壁に設けた貫通孔の部分で抵抗溶接することにより接続した。この状態では、電槽の各セル内に化成前の極板群が配置されている。
この状態の電槽と蓋を、実施形態に記載された方法で熱溶着することで、No.1~No.14の化成前の鉛蓄電池を得た。
次に、硫酸アルミニウムが20g/L添加された希硫酸電解液(アルミニウムイオン濃度は117mmol/L、希硫酸電解液の比重は1.230)を、No.1~No.14の化成前の鉛蓄電池の蓋の注液孔から、電槽の各セル室内へ注入した。
その後、下記の条件で電槽化成を行って、No.1~No.14の鉛蓄電池(20時間率定格容量35Ah)を得た。
<電槽化成条件>
電解液の温度を、No.1~7,No.12~14では50℃±1℃に、No.8では45℃±1℃に、No.9では40℃±1℃に、No.10では35℃±1℃に、No.11では30℃±1℃に、それぞれ制御した。これ以外は全て同じ条件とした。
[正極合剤用ペーストの流動性を調べる試験]
上記と同じ構成の正極合剤形成用ペーストであって、鉛丹の吸酸量が90mg/g、100mg/g、150mg/g、200mg/g、210mg/gである各ペーストを用いて、上記と同じ集電体の格子状基板に充填し、上記と同じ条件での熟成、乾燥を行うことで、それぞれ500枚の化成前の正極板を得た。得られた各化成前の正極板を目視で観察して、穴空きが発生しているかどうかを調べた。穴空きの発生が全くない場合を合格とした。
[正極合剤の密度、PbO2の結晶子径、比(α/β)の測定]
No.1~No.14の鉛蓄電池の正極板(化成後)について、以下の方法で、正極合剤の密度、α-PbO2およびβ-PbO2の結晶子径、α-PbO2とβ-PbO2の質量比(α/β)を測定した。
電槽化成後の各鉛蓄電池から正極板を取り出して、水で洗って乾燥させた後、正極板から正極合剤を掻き落として粉末にした。得られた粉末を水銀圧入式ポロシメーターにセットして、正極合剤の密度を水銀圧入法により測定した。
また、得られた粉末を電子顕微鏡で観察して、α-PbO2とβ-PbO2の結晶子径を測定した。さらに、得られた粉末をX線回折装置にセットして、X線回折チャートを得、β-PbO2の回折線とα-PbO2の回折線との強度比から、比(α/β)を算出した。
[放電容量を調べる試験:放電試験]
No.1~No.14の各鉛蓄電池について「SBA S 0101 2014」の試験を行い、放電容量(20時間率容量)を調べた。測定値が35Ah以上であれば合格とした。この値をサイクル試験前の容量とした
[充電受入性能を調べる試験]
No.1~No.14の各鉛蓄電池について「SBA S 0101 2014」の試験を行い、充電受入性能(10秒間積算充電量)を調べた。測定値が350A・s以上であれば合格とした。
[容量維持率を調べる試験]
No.1~No.14の鉛蓄電池の容量維持率を、以下の方法で調べた。
上述の放電試験後の各鉛蓄電池に対して、先ず、SOCを80%とする調整を行った後、「SBA S 0101:2014」の「8.4.5アイドリングストップ寿命試験」に記載された条件での放電および充電を3600回繰り返した。次に、制御電圧14.5V、最大電流50AでのCV充電を、25時間を行った。この調整からCV充電までを1サイクルとして、このサイクルを6回続けて行った。つまり、上記の放電および充電の繰り返しは21600(3600×6)回行った。
次に、上述の放電試験を行い、放電容量(20時間率容量)を調べた。この値をサイクル試験後の容量とした。
これらの測定、試験結果を、各サンプルの正極板の製造方法(正極合剤用ペーストの鉛丹の吸酸量、化成中の電解液の温度)と、化成後の正極合剤の構成とともに、下記の表1に示す。なお、No.6の鉛蓄電池は、放電および充電の繰り返しが19800回で寿命となったため、サイクル試験後の容量が測定できなかった。
Figure 0007026715000001
表1に示すように、本発明の実施例に相当する正極合剤用ペースト(鉛丹の吸酸量100mg/g以上200mg/g以下)を用いた方法で得られ、正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下であるNo.2~No.4、No.7~No.11、No.13の鉛蓄電池は、サイクル試験前の容量が35Ah以上と高く、アイドリングストップ寿命試験で21600回以上の寿命を有し、容量維持率が50%以上であった。つまり、高容量で長寿命な(正極板の耐久性と容量維持率が高い)ISS車用鉛蓄電池が得られた。
これに対して、No.5の鉛蓄電池は、正極合剤用ペーストに含まれる鉛丹の吸酸量が210mg/gと多すぎたため、ペーストの流動性が悪く、穴空きが発生した。
また、No.6の鉛蓄電池は、正極合剤の密度が4.1g/cm3と低すぎため、アイドリングストップ寿命試験での寿命が短かった。
また、No.1、No.12の鉛蓄電池は、正極合剤用ペーストに含まれる鉛丹の吸酸量が90mg/gと少なすぎたため、容量維持率が34%、44%と低かった。
また、No.14の鉛蓄電池は、正極合剤の密度が4.8g/cm3と高すぎたため、サイクル試験前の容量が33Ahと低かった。また、ペーストの流動性が悪く、穴空きが発生した。

Claims (5)

  1. 鉛粉と鉛丹とを主成分とする正極活物質原料および希硫酸を含む混練物が、鉛合金からなる格子状基板に充填されて、化成されている鉛蓄電池用正極板であって、
    前記鉛丹の硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である鉛蓄電池用正極板。
  2. 正極合剤の密度が4.2g/cm3以上4.7g/cm3以下である請求項1記載の鉛蓄電池用正極板。
  3. 請求項1または2記載の鉛蓄電池用正極板を備えた鉛蓄電池。
  4. 電解液が20mmol/L以上200mmol/L以下のアルミニウムイオンを含む硫酸水溶液である請求項3記載の鉛蓄電池。
  5. 鉛粉と鉛丹とを主成分とする正極活物質原料および希硫酸を含む混練物を得る工程と、
    前記混練物を、鉛合金からなる格子状基板に充填した後、熟成および乾燥することで化成前の正極板を得る工程と、
    前記化成前の正極板を化成する工程と、
    を有し、
    前記混練物を得る工程では、
    前記鉛丹として、硫酸吸収量が鉛丹1g当たり100mg以上200mg以下である鉛丹を用い、
    前記鉛丹を混練機に投入した後に前記鉛粉を前記混練機へ投入して乾式混合を行い、次いで、乾式混合された前記鉛丹と前記鉛粉との混合物に所望量の水を添加して練り合わせた後、所望量の希硫酸を更に添加して再度練り合わせることで前記混練物を得る鉛蓄電池用正極板の製造方法。
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