以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明に係る熱変色性インクが収容された筆記具のリフィルの全体図であり、図1(a)は本発明に係る,熱変色筆記具の実施形態におけるリフィルを示す部分断面説明図であり、図1(b)はペン先の部分拡大断面図である。図1に示すように、リフィル10は、熱変色性インク11が充填される透明のインク収容管12と、このインク収容管12の先端部に連通して装着され、筆記時に軸本体1の開口した前部から突出する筆記部であるボールペンチップ14とから構成される。
熱変色性インク11は、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いたノック式筆記具1では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
熱変色性色材となる熱変色性マイクロカプセル顔料としては、摩擦熱等の熱により変色するもの、例えば、有色から無色、有色から有色、無色から有色などとなる機能を有するものであれば、特に限定されず、種々のものを用いることができ、少なくともロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、マイクロカプセル化したものが挙げられる。
用いることができるロイコ色素としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインクを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という。)用いることができる。具体的には、6-(ジメチルアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフラノン、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジメチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(N-フェニル-N--メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-ジ(n-ブチル)アミノ-6-メトキシ-7-アニリノフルオラン、3,6-ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン、メチル-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、クロロ-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリノキノリン、などが挙げられる。これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。
用いることができる顕色剤は、上記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものであり、例えば、フェノール樹脂系化合物、サリチル酸系金属塩化物、サリチル酸樹脂系金属塩化合物、固体酸系化合物等が挙げられる。具体的には、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1-フェニル-1,1-ビス( 4’-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ノナンなどの少なくとも1種が挙げられる。用いる顕色剤の使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、上述したロイコ色素1質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
用いることができる変色温度調整剤は、上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。より具体的には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート(C7H15)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジラウレート(C11H23)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジパルミテート(C15H30)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジベヘネート(C21H43)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエチルヘキシリデンジミリステート(C13H27)等の少なくとも1種が挙げられる。この変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、ロイコ色素1質量部に対して、1~100質量部程度の範囲内で使用するのが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、少なくとも上記ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、平均粒子径が0.2~3μmとなるように、マイクロカプセル化することにより製造することができる。マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、イソシアネート系樹脂溶液などを徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。これらのロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の含有量は、用いるロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の種類、マイクロカプセル化法などにより変動するが、当該色素1に対して、質量比で顕色剤0.1~100、変色温度調整剤1~100である。また、カプセル膜剤は、カプセル内容物に対して、質量比で0.1~1である。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、上記ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度(例えば、0℃以上で発色)、消色温度(例えば、50℃以上で消色)を好適な温度に設定することができ、摩擦熱等の熱により有色から無色となることが好ましい。熱変色性マイクロカプセル顔料では、描線濃度、保存安定性、筆記性の更なる向上の点から、壁膜がウレタン樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、あるいはアミノ樹脂で形成されることが好ましい。ウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネートとポリオールとの化合物が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂とアミンの化合物が挙げられる。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。マイクロカプセル色材の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性、安定性、インク中での流動性の点、並びに、筆記性への悪影響を抑制、後述する光変色性マイクロカプセル顔料との相用性などの点から、好ましくは、0.2~5μm、さらに好ましくは、0.3~3μmである。なお、ここで規定する「平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)〕にて、平均粒子径(50%径)を測定(屈折率1.8)した値である。この平均粒子径が0.2μm未満であると、十分な描線濃度が得られず、一方、5μmを越えると、筆記性の劣化、熱変色性マイクロカプセル顔料の分散安定性の低下、振動によるインクバックが発生しやすくなり好ましくない。さらには90%径が8μm以下、好ましくは6μm以下である。径が大きい粒子が一定割合以上存在すると、上述した影響がより顕著になる傾向がみられる。なお、上述した平均粒子径の範囲(0.2~5μm)となるマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により変動するが、水溶液からの相分離法などでは、マイクロカプセル顔料を製造する際の攪拌条件を好適に組み合わせることにより調製することができる。熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、0.9~1.3、好ましくは1.0~1.2の範囲である。比重がこの範囲外であると、マイクロカプセル顔料の分散安定性が低下しやすい。また、比重が1.3を超えるマイクロカプセル顔料は、振動によってインクバックが発生しやすい。
筆記具用水性インク組成物において、上記熱変色性マイクロカプセル顔料の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、その効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。これらのうち、インクバックによる筆記部でのインク固化を抑制する目的として、グリセリンを用いることが好ましく、その添加量はインク全量に対して1~10質量%であることが好ましい。グリセリンによる作用のメカニズムは不明だが、乾燥状態における顔料及びインク成分との凝集力を低下させる効果があるものと推察される。用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。これらのうち、多糖類を使用することが好ましい。多糖類はそのレオロジー特性から、振動による流動性への影響を受けにくい傾向があり、インクバックに起因する筆記不良等の不具合が生じにくい。特にキサンタンガムは、筆記具インクに要求されるその他の特性とのバランスに優れており好ましい。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
この筆記具用水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記熱変色性、光変色性マイクロカプセル顔料の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。筆記具用水性インク組成物の粘度値は、25℃、剪断速度3.83/sにおいて、500~2000mPa・s、剪断速度383/sにおいて20~100mPa・sであることが好ましい。上記粘度範囲に設定することによって、筆記性と経時安定性に優れたインクとすることができる。さらに、S=αDn(但し、1>n>0)(Sは剪断応力(dyn/cm2)、Dは剪断速度(s-1)、αは非ニュートン粘性係数)で示される粘性式で求められる非ニュートン粘性指数nが、0.2~0.6であることが好ましい。上記粘度範囲に加えて非ニュートン粘性指数nを上記範囲とすることで、振動に対するインクの流動性を適切に設定することが可能となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。筆記具用水性インク組成物の表面張力は、25~45mN/m、さらには30~40mN/mであることが好ましい。この範囲内であれば、ペン先内部とインクの濡れ性のバランスが適切となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
インク収容管12は、合成樹脂等の所定の材料を使用して細長い中空の断面略凸字形に成形され、その内径が1.5~10mmのものが用いられ、また、光線透過率が30%~100%に設定されている。この先細りのインク収容管12は、材質、構造(単層又は多層)等が特に限定されるものではないが、熱変色性インク11の残量確認等に優れる観点から、ASTM D792による光線透過率30%以上が好ましい。
上記インク収容管(リフィル)12の材質としては、例えば、ASTM D792による光線透過率30%以上となるポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、環状ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ナイロン樹脂(ポリアミド)、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSU)、脂肪族ポリケトン、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、シリコーンエラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱変色性インクが修正液の場合は、耐溶剤性、視認性、経済性の観点から、単層又は複合層となるナイロン樹脂(ポリアミド)、EVOH等が望ましい。
インク収容管12は、その後部に上述の構成となるインク追従体13が充填され、末端部が開口して開放される。インク追従体13は、熱変色性インク11の後方に位置して追従し、熱変色性インク11の溶剤揮発を抑制防止するよう機能する。
インク追従体13を構成する材料としては、少なくとも、不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤と、増粘剤とにより構成することができる。インク追従体13に使用する不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、インク追従体13の基油として用いるものであり、例えば、流動パラフィンが用いられる。流動パラフィンには、鉱物油、化学合成油が用いられ、化学合成油としては、ポリブテン、ポリα-オレフィン、エチレンα-オレフィンオリゴマーなどを用いることができる。用いることができる具体的な鉱物油としては、例えば、市販品のダイアナプロセスオイルNS-100、PW-32、PW-90、NR-68、AH-58(出光興産社製)などが挙げられる。用いることができる具体的なポリブテンとしては、例えば、市販品のニッサンポリブテン200N、ポリブテン30N、ポリブテン10N、ポリブテン5N、ポリブテン3N、ポリブテン015N、ポリブテン06N、ポリブテン0N(以上、日本油脂社製)、ポリブテンHV-15(日本石油化学社製)、35R(出光興産社製)などが挙げられる。用いることができる具体的なポリα-オレフィンとしては、例えば、市販品のバーレルプロセス油P-26、P-46,P-56、P-150,P-350,P-1500、P-2200、(P-10000、P-37500)(松村石油社製)などが挙げられる。用いることができる具体的なエチレンα-オレフィンオリゴマーとしては、例えば、市販品のルーカント HC-10、HC-20、HC-100、HC-150、(HC-600、HC-2000)(以上、三井化学社製)などが挙げられる。これらの不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、1種または2種以上を合わせて使用することができる。インク追従体13に使用する増粘剤としては、例えば、リン酸エステルのカルシウム塩、微粒子シリカ、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、水添スチレン-ブタジエンラバー、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー及びアセトアルコキシアルミニウムジアルキレートなどが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上用いることができる。用いることができるリン酸エステルのカルシウム塩の好ましい市販品としては、CrodaxDP-301LA(クローダジャパン社製)等が挙げられる。用いることができる微粒子シリカは、親水性微粒子シリカと疎水性微粒子シリカがあり、親水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-300、AEROSIL-380(日本アエロジル社製)等が挙げられ、また、疎水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-974D、AEROSIL-972(日本アエロジル社製)等が挙げられる。また、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGFG-1901X、クレイトンGG-1650(以上、シェルジャパン社製)、セプトン8007、セプトン8004(以上、クラレ社製)などが挙げられる。さらに、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGG-1730(シェルジャパン社製)、セプトン2006、セプトン2063(以上、クラレ社製)などが挙げられる。水添スチレン-ブタジエンラバーの好ましい市販品としては、DYNARON1320P、DYNARON1321P(以上、JSR社製)、タフテックHl041、タフテックHl141(以上、旭化成工業社製)などが挙げられる。スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON4600P(JSR社製)等が挙げられ、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON6200P、DYNARON6201B(JSR社製)等が挙げられる。アセトアルコキシアルミニウムジアルキレートの好ましい市販品としては、プレンアクトAL-M(味の素ファインテクノ社製)などが挙げられる。これらの増粘剤の中で、本発明の効果をさらに発揮させる点から、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーなどの熱可塑性オレフィン系エラストマーの使用が好ましい。
本発明では、さらに、インクバックの発生を防止するインク追従体13を得る点から、周波数領域1~63rad/sで指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることが好ましく、1.7~3.4とすることがさらに好ましい。ここで、tanδは、損失弾性率/貯蔵弾性率を意味する値であり、従来では、周波数領域「1~63rad/s」で指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以下のものが好ましいことが知られていた。本発明では、上記1~63rad/sで各周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることにより、振動を吸収してインクバックの発生を防止することが可能となる。なお、インク追従体13は、インク収容管12の内径が大きい場合には、上述の材料の中にポリプロピレン等からなる樹脂製のフロートが適宜充填することもできる。
ボールペンチップ14は、インク収容管12の細長い先端部に嵌着される先細りの先端カバー15を備え、この先端カバー15には、回転可能な筆記ボール16を出没可能に嵌合支持するホルダー17が内蔵される。このインク収容管12に連通したホルダー17の筆記ボール16には、弾発部材であるSUS製の押し棒16aが付勢スプリング16bにより後方から圧接され、この押し棒16aの圧接作用により、筆記ボール16がホルダー17の開口した先端部を未筆記時に閉塞するよう機能する。なお、押し棒16aと付勢スプリング16bを一体にして、付勢スプリング16bが筆記ボール16に直接当接する構造としてもよい。弾発部材の筆記ボール16への押し荷重は、後述する熱変色性筆記具の軸重より低く設定することで、老人や子供等の筆記圧の低い使用者でも、快適に筆記することができる。
ボールペンチップ14について、さらに詳細に説明する。図2は、ボールペンチップ14の要部断面図、図3は、筆記ボール16を取り除いた状態における図2のI-I線断面図、図4は、底面180、インク誘導孔150、インク溝160及びボール受座190の概念図である。
筆記ボール16は、筆記面にインクを塗布するためのものである。
この筆記ボール16は、超硬合金、ステンレス、焼入鋼、又はセラミックなどを用いて形成されている。
図2に示すホルダー17は、筆記ボール16を保持するためのものである。ホルダー17は、ステンレス製の線材を用いて形成されている。また、このホルダー17は、筆記ボール16を収納するためのボールハウス140と、ボールハウス140に収納された筆記ボール16にインクを供給するためのインク誘導孔150と、ボールハウス140に収納された筆記ボール16にインクが十分に供給されるようにするための3本のインク溝160と、ボールハウス140に収納した筆記ボール16が外部に飛び出さないようにするためのカシメ部100とを有している。なお、ホルダー17は、ステンレス製の線材を用いて形成される場合に限られず、例えば、ステンレス製のパイプ材を用いて形成することもできる。
ボールハウス140は、ホルダー17の一方側の端部近辺に設けられている。また、このボールハウス140は、筆記ボール16の直径よりも0.02mm~0.10mm大きい円筒状の側面部170と、そのインク誘導孔150側に位置し、インク誘導孔150側へ向けて内径を次第に小さくする円錐状の底面180とを有している。そして、このボールハウス140は、線材の一方側から他方側へ向けて、線材の軸心に回転軸を一致させたドリルで切削することによって形成されている。
底面180は、インク誘導孔150の開口部の周囲に、筆記ボール16のインク誘導孔150側が当接するボール受座190を有している。また、前記ボール受座190は、その表面を、筆記ボール16の曲率とほぼ同一の曲率を有する凹球面状に形成されている。そして、このボール受座190は、ボールハウス140に筆記ボール16を収納した後に、ハンマーで筆記ボール16をボールハウス140側へ向けて押圧することによって形成されている。
インク誘導孔150は、ホルダー17の反ボールハウス140側の端部からボールハウス140まで貫通している。また、このインク誘導孔150は、反ボールハウス140側からボールハウス140側へ向けて、内径を順次小さくする階段状に形成されている。そして、このインク誘導孔150は、線材の反ボールハウス140側の端部からボールハウス140側へ向けて、線材の軸心に回転軸を一致させたドリルで切削することによって形成されている。
インク溝160は、インク誘導孔150の最小径部分の内周面に、インク誘導孔150の中心からみて放射状に設けられている。また、このインク誘導孔150は、インク誘導孔150の最小径部分の内周面に、そのボールハウス140側から反ボールハウス140側まで貫通するように設けられている。そして、このインク誘導孔150は、線材のボールハウス140側から反ボールハウス140側へ向けて、ブローチ加工を施すことによって形成されている。なお、インク溝160は、ボールハウス140側から反ボールハウス140側まで貫通せず、インク誘導孔150の途中で係止してもよい。
カシメ部100は、ホルダー17のボールハウス140側の端部に設けられている。また、このカシメ部100は、その最小径部分の内径を、筆記ボール16の直径よりも小さく形成されている。そして、このカシメ部100は、ボールハウス140に筆記ボール16を収納した後に、線材のボールハウス140側の端部に圧延加工を施すことによって形成されている。
なお、図4(1)中の黒塗り部分は、ボールハウス140の底面180を、図4(2)中の黒塗り部分は、インク誘導孔150のボールハウス140側の開口部を、図4(3)中の黒塗り部分は、インク溝160のボールハウス140側の開口部を、図4(4)中の黒塗り部分は、ボール受座190を、それぞれ概念的に示したものである。また、インク溝160の本数は、3本が好適であるが、3本に限定されるものではなく、例えば、2本や4本とすることもできる。
ボールペンチップ14は、筆記ボール16の直径をA、インク誘導孔150のボールハウス140側の開口部の半径をB、ボール受座190の半径をC、インク誘導孔150の中心から前記インク溝160の最深部までの距離をD、インク溝160の幅をE、インク溝160のボールハウス140側の端部から反ボールハウス140側の端部までの長さをF、としたときに、(1)0.9≦A≦1.5、(2)0.95≦(2×D)/A、(3)0.50≦(2×C)/A≦0.60、(4)0.60≦E/(2×B)≦0.80、(5)F/A≦0.50、の(1)~(5)のいずれか、より好ましくは(1)~(5)全てを満たすように形成されている。
即ち、インク誘導孔150の中心からインク溝160の最深部までの距離の2倍は、筆記ボール16の直径に対して95%以上となるように形成されている。また、ボール受座190の直径は、筆記ボール16の直径に対して50%以上60%以下となるように形成されている。また、インク溝160の幅は、インク誘導孔150のボールハウス140側の開口部の直径に対して60%以上80%以下となるように形成されている。更に、インク溝160のボールハウス140側の端部から反ボールハウス140側の端部までの長さは、筆記ボール16の直径に対して50%以下となるように形成されている。
そして、上記(1)~(5)をいずれか、より好ましくは(1)~(5)全て満たすように形成することにより、筆記ボール16に熱変色性インク11が十分に供給されるようにしつつも、筆記具としての耐久性を向上させることができるのである。
また、0.95>(2×D)/Aにすると、即ち、インク誘導孔150の中心からインク溝160の最深部までの距離の2倍を、筆記ボール16の直径に対して95%未満にすると、インク溝160の加工はしやすくなるものの、筆記ボール16への熱変色性インク11の供給量が低下し、また、インク溝160に熱変色性インク11が詰まりやすくなってしまう。このため、描線がかすれやすくなり、最悪の場合には、筆記不能となってしまうのである。
また、0.50>(2×C)/Aにすると、即ち、ボール受座190の直径を、筆記ボール16の直径に対して50%未満にすると、筆記ボール16に熱変色性インク11が十分に供給されるようにすることはできるものの、ボール受座190が磨耗しやすくなってしまう。このため、使用開始から比較的早い時期に、筆記ボール16の引っ掛かりが感じられたり、あるいは筆記ボール16の回転が重く感じられたりするなどの不具合が生じてしまうこととなるのである。
一方、(2×C)/A>0.60にすると、即ち、ボール受座190の直径を、筆記ボール16の直径に対して60%超にすると、ボール受座190が磨耗しにくくはなるものの、筆記ボール16へのインクの供給量が低下してしまう。このため、描線が薄くなったり、あるいは描線がかすれやすくなってしまうのである。また、0.60>E/(2×B)にすると、即ち、インク溝160の幅を、インク誘導孔150のボールハウス140側の開口部の直径に対して60%未満にすると、ボール受座190が磨耗しにくくなり、また、インク溝160の加工もしやすくなるものの、筆記ボール16への熱変色性インク11の供給量が低下し、また、インク溝160に熱変色性インク11が詰まりやすくなってしまう。このため、描線がかすれやすくなり、最悪の場合には、筆記不能となってしまうのである。
一方、E/(2×B)>0.80にすると、即ち、インク溝160の幅を、インク誘導孔150のボールハウス140側の開口部の直径に対して80%超にすると、筆記ボール16へのインクの供給量を増加させることができ、また、インク溝160にインクが詰まりにくくなるようにすることはできるものの、ボール受座190が磨耗しやすくなってしまう。このため、使用開始から比較的早い時期に、筆記ボール16の引っ掛かりが感じられたり、あるいは筆記ボール16の回転が重く感じられたりするなどの不具合が生じてしまうこととなるのである。
また、F/A≦0.50にすることが望ましいが、F/A>0.50にすると、即ち、インク溝160のボールハウス140側の端部から反ボールハウス140側の端部までの長さを、筆記ボール16の直径に対して50%超にすると、使用可能ではあるものの、インク溝160の長さが比較的長くなることにより、インク溝160に熱変色性インク11が詰まりやすくなってしまうのである。
上記のリフィル10は、筆記ボール16の100回転あたりのインク流出量が1.5mg以上、4.5mg以下として形成されている。100回転あたりのインク流出量が1.5mg未満である場合、筆記した際に熱変色性インク11の色が薄くなってしまい力の弱い使用者では十分な筆跡の濃さを得ることができない。また、4.5mgより多くした場合、紙面等に書いた後の筆跡の乾きが遅く手が汚れてしまうことと、消去具を用いての消去の際にインクが消えにくくなるため熱変色性筆記具として不適である。
図5~図6は、リフィル10を軸筒に収容した熱変色性筆記具を示したものである。熱変色性筆記具は、二分割可能な細長い軸本体1と、この軸本体1内に交換可能に収容されてその軸方向に進退動可能なリフィル10と、軸本体1に設けられる所謂カーン式のノック機構20と、リフィル10とノック機構20の回転子22との間に介在する加圧機構40とを備え、この加圧機構による加圧力は内圧として外圧より50~300mmHgに高く設定されており、この熱変色性インク11の流出量は、通常の筆記においては、10秒間で3.5~10mgに設定されており、この流出量の熱変色性インク11により塗布されて使用に供される。
軸本体1は、図5や図6に示すように、相互に螺嵌する先軸2と後軸4とを備え、ポリカーボネート等からなる所定の合成樹脂を使用して中空の透明に成形され、気体である外気の流入を許容するよう機能する。軸本体1は、ASTM D792による光線透過率80%以上となる視認性に有する樹脂であるポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、環状ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)などを使用すれば、視認性に有するインク収容管14に充填される熱変色性インク11の残量が更に簡単に視認することができる。また、先軸2は、その開口した前部が先細りの円筒形に成形され、開口した後部が薄肉に形成されてその外周面には締結用の螺子溝3が周方向に螺刻される。
後軸4は、円筒形に成形され、前部内周面には、先軸2の螺子溝3と着脱自在に螺合する螺子溝3Aが周方向に螺刻されており、後部外周面には、クリップ5が軸方向に向けて一体成形される。この後軸4の内周面には、螺子溝3Aの後方に位置する略楕円形の脱落防止リブが半径内方向に向けて突設され、この脱落防止リブが所定の間隔で周方向に複数並設される。
ノック機構20は、図5、図6に示すように、軸本体1とインク収容管12との間に介在される復帰スプリング21と、インク収容管12の末端部に隙間を介しスライド可能に嵌入される回転子22と、この回転子22の外周面に間隔をおいて突設される複数のカム34と、軸本体1の内周面後部に間隔をおいて突設される複数の条体36とから構成される。また、本実施形態では、ノックのストロークは15mmに設定されている。
復帰スプリング21は、コイルスプリングからなり、インク収容管12の先端部に嵌入されて軸本体1の開口した前部周縁に接触し、インク収容管12を軸本体1の後部方向に弾圧付勢する。
回転子22は、ポリアセタール、ポリオキシメチレン、ポリホルムアルデヒド等からなる合成樹脂を使用して略有底円筒形に成形され、閉じた底部には、軸本体1の開口した後部から露出するノック棒23が着脱自在・相対回転可能に嵌合されており、このノック棒23には、ノック操作用の天冠24が嵌着される。この回転子22は、拡径部25と縮径部26とを連続して備えた中空の略凸字形に形成され、内部が外気(空気)用の加圧室(体積減少空間)22aに形成されるとともに、内周面が開口方向から閉じた底部方向にかけて最拡径面27、拡径面28、縮径面29、及び最縮径面30に形成されており、軸本体1からの脱落が後軸4の脱落防止リブにより有効に規制される。回転子22の拡径部25と縮径部26との段差面には、連続した複数の鋸歯31が周方向に周設される。
ノック棒23は、ABS樹脂等を用いて円筒形に形成され、回転子22の段差面に接触する対向接触面に、鋸歯31と完全又は不完全に噛合する複数の駆動歯32が周方向に連続して周設される。このノック棒23の外周面には、複数のガイドリブ33が所定の間隔をおいて突設され、各ガイドリブ33が複数の条体36間にスライド可能に挿入されるとともに、軸本体1後部の内周縁に係合してノック棒23の軸本体1後部からの脱落を有効に規制する。各カム34は、回転子22の軸方向に略線条に形成され、末端面が周方向に直線的に切り欠かれて係合爪35に傾斜形成される。また、各条体36は、軸本体1の軸方向に向けてガイド機能を果たすよう略線条に形成され、先端面が周方向に切り欠かれて係合歯を形成しており、この係合歯がカム34の係合爪35と噛合する。
ノック操作用の天冠24は、熱変色性インク11を摩擦熱によって消去可能な摩擦部として機能することが好適である。その場合、天冠24は、JIS K7161に準拠する試験方法において、弾性率が700MPa未満かつ粘弾性を有しない樹脂材料とすることで、ノック操作の繰り返しによる天冠24への手指からの汚れを防ぎ、かつ保管時での天冠24への大気中からの汚れの付着を防ぐことができる。
このようなノック機構20は、図5や図6に示すように、筆記時には、ノック棒23の駆動歯32が回転子22の鋸歯31に圧接して駆動力を付与することにより、回転子22が複数の条体36に案内されつつインク収容管12方向にスライドして所定の角度(例えば、30°以下)で回転し、カム34の係合爪35と条体36の係合歯とが噛合し、軸本体1の前部から突出したリフィル10の筆記部14を後退不能とするとともに、回転子22の加圧室22aからインク収容管12に外気を導くよう機能する。これに対し、未筆記時には、回転した回転子22が所定の角度(例えば、30°以下)でさらに回転し、カム34が条体36の係合歯を乗り越えて噛合を解除し、回転子22が反インク収容管12方向にスライドして各カム34を複数の条体36間に位置させ、軸本体1の前部から突出した筆記部14を後退可能とする。
加圧機構40は、図5、図6、図7に示すように、ノック機構20の回転子22内にスライド可能に嵌入されてインク収容管12の末端面に対向するゴムホルダ41と、このゴムホルダ41と回転子22との間に介在する加圧スプリング42と、ゴムホルダ41の外周面に嵌合され、インク収容管12の末端面に接離可能に対向接触する気密確保用のシールゴム43と、ゴムホルダ41の外周面に嵌合され、筆記時には回転子22の内周面に密接して外気を回転子22内に流入不能とし、未筆記時には回転子22の内周面から離れて外気を回転子22内に流入可能とする気密確保用のOリング44とから構成され、その加圧力は内圧として外圧より50~300mmHg高く設定すること、または、加圧機構を用いて塗布液収容管中の空気を6.5~40%圧縮することが好適である。その際の熱変色性インク11の流出量は、筆記ボール14を押圧して、筆記ボール14が底面180に当接した状態における10秒間の流出量が3.5~10mgであることが好適である。
ゴムホルダ41は、ポリアセタール、ポリオキシメチレン、ポリホルムアルデヒド等からなる合成樹脂を使用して略円筒形に成形され、外周面には、複数の嵌合溝が周方向に切り欠かれる。加圧スプリング42は、弾発力が復帰スプリング21よりも大きいコイルスプリングからなり、ゴムホルダ41内と回転子22の縮径部26内とに取付リブを介し密嵌状態で接続されており、ゴムホルダ41をインク収容管12の末端部方向に弾圧付勢するよう機能する。
加圧スプリング42と復帰スプリング21とは、ノック機構20のノック操作終了後に軸本体1から突出した筆記部14のボール16を押圧してリフィル10を後退させる場合における反発力が3~15N、好ましくは5Nに設定される。これは、加圧スプリング42と復帰スプリング21の反発力が3~15Nの範囲内ならば、筆記時に筆記部14が筆記圧でフワフワすることがなく、しっかりとした筆記感を使用者に与えることができるからである。
シールゴム43は、弾性のシリコーンゴムやNBR等を使用してエンドレスのリングに成形され、ゴムホルダ41のリフィル10側の嵌合溝に嵌合される。このシールゴム43は、インク収容管12やゴムホルダ41に対する密着性、摺動性、耐磨耗性、耐ヨジレ性、耐クリープ性、耐亀裂性の観点から、JIS K6253に準拠するデュロメータA硬度が50~80に設定される。
さらに、Oリング44は、ゴム弾性のシリコーンゴムやNBR等を使用してエンドレスのリングに成形され、ゴムホルダ41の回転子22側の嵌合溝に嵌合される。このOリング44は、回転子22やゴムホルダ41に対する密着性、摺動性、耐磨耗性、耐ヨジレ性、耐クリープ性、耐亀裂性の観点から、JIS K6253に準拠するデュロメータA硬度が50~80に設定される。このようなOリング44は、筆記時には、回転子22の拡径面28に変形密接して軸本体1内の外気を回転子22内に流入不能とし、この回転子22の加圧室22aからインク収容管12の末端部に対して圧縮された外気を流入させる。そして、未筆記時には、回転子22の拡径面28に隙間を介して対向し、外気を回転子22内に流入可能とする。
上記構成において、図5に示される筆記しない場合には、回転子22の拡径面28とゴムホルダ41のOリング44とが相互に離隔して外気の流通路を区画形成するので、軸本体1の内部と回転子22の加圧室22aとが相互に連通する。この連通作用により、回転子22の加圧室22aやインク収容管12は加圧されることがない。筆記する場合には、ノック機構20の天冠24をノック操作してノック棒23をスライドさせれば良い。すると、ノック棒23、加圧機構40を内蔵した回転子22、及びリフィル10が軸本体1の前部方向にそれぞれスライドする。このスライドの際、インク収容管12の末端部にゴムホルダ41がシールゴム43を介して密接しているが、回転子22の拡径面28とゴムホルダ41のOリング44とが未だ離隔して外気を流通させるので、軸本体1の内部と回転子22の加圧室22aとが相互に連通する。
次いで、図6に示されるようにインク収容管12が復帰スプリング21を圧縮しながら徐々に進出し、軸本体1の前部から筆記部14が突出し、熱変色性インク11による筆記が可能な状態となる。この際、軸本体1の前部にインク収容管12の先端部が接触して停止すると、ノック棒23、加圧機構40を内蔵した回転子22のみが軸本体1の前部方向にそれぞれスライドし、回転子22の拡径面28とゴムホルダ41のOリング44とが密接して外気の流通を遮断し、軸本体1と回転子22の連通が規制されて回転子22の加圧室22aが加圧可能な密閉状態となる。こうして軸本体1と回転子22の連通が規制された後、ノック棒23、加圧機構40を内蔵した回転子22のみが軸本体1の前部方向にさらにスライドすると、加圧室22aの外気が徐々に加圧され、圧縮された加圧室22aの外気がインク収容管12の末端部にゴムホルダ41内を経由して流入し、インク収容管12の内圧が増加する。この際、回転子22が複数の条体36よりも前方に位置して所定の角度で回転し、カム34の係合爪35と条体36の係合歯37とが噛合し、軸本体1の前部から突出した筆記部14が後退不能となる。
また、十分な濃さの筆跡を得られなくなった場合には、筆記面に筆記部14を圧接してインク収容管12と回転子22をさらに接近させれば良い。すると、インク収容管12が後退して嵌合した回転子22の加圧室22aにおける外気を加圧し、圧縮された加圧室22aの外気がインク収容管12の末端部にゴムホルダ41内を経由して流入し、インク収容管12の内圧が増加することとなる。
次に、熱変色性筆記具の使用を終了する場合には、ノック機構20の天冠24を再度ノック操作してノック棒23をスライドさせれば良い。こうすれば、熱変色性筆記具は、圧縮された復帰スプリング21の復帰作用、及びカム34の係合爪35と条体36の係合歯との噛合解除により、図6の筆記状態から図5の未筆記状態に復帰し、インク収容管12への加圧が解除される。
熱変色性筆記具のリフィル10を交換したい場合には、後軸4を回して先軸2と後軸4とを分離し、先軸2の中から使用済みのリフィル10を復帰スプリング21と共に取り出せば、リフィル10を簡単に交換することができる。また、インク収容管12の加圧に際し、加圧ガスを封入する必要が全くないので、製造設備を簡素化し、コスト低減を図ることができる。
また、インク収容管12を常時加圧する必要がないので、例え筆記部14のシール性に問題のある場合でも、未筆記時のインク漏れを招くおそれが実に少ない。また、熱変色性インク11を消費し、最後までインクの濃さを得たい場合には、筆記面に筆記部14を圧接してインク収容管12と回転子22を接近させれば、加圧室22aの外気を加圧することができる。これにより、加圧を十分に高めることができ、熱変色性インクの漏れを招くおそれを有効に排除することが可能になる。
また、使用者が遊び等で筆記に関係なくノック操作を繰り返す場合、ノック操作の度にインク収容管12が加圧されたり、加圧が解除されるので、インク収容管12が連続的に加圧されることがない。したがって、熱変色性インク11が未使用時に漏れ出すことなるという問題をきわめて有効に解消することが可能になる。さらに、ノック機構20の回転子22に加圧機構40が支持され、リフィル10の末端部に加圧機構40、嵌着部材、又は被覆部材等が何ら一体的に設けられることがないので、リフィル10が著しく安価となり、しかも、リフィル10の交換の容易化が大いに期待できる。