以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の実施形態による筆記具1の斜視図であり、図2は、非筆記状態で且つ前端が下向きの筆記具1の縦断面図であり、図3は、筆記状態で且つ前端が下向きの筆記具1の縦断面図であり、図4は、前端が上向きの筆記具1の拡大縦断面図であり、図5は、筆記具1の後部の部分断面斜視図であり、図6は、非筆記状態の筆記具1の後部の斜視図であり、図7は、図6の筆記具1の反対側の斜視図である。
筆記具1は、筒状に形成され且つ前軸2及び後軸3を備えた軸筒4と、軸筒4内に配置され且つ一端に筆記部5aを備えた筆記体である複数のリフィル5とを有している。前軸2及び後軸3を一体に形成してもよい。なお、図6及び図7では、後軸3が省略して描かれている。
本明細書中では、筆記具1の軸線方向において、筆記部5a側を「前」側と規定し、筆記部5aとは反対側を「後」側と規定する。特に言及のない限り、中心軸線又は軸線方向とは筆記具1の中心軸線又は軸線方向をいう。
筆記具1は、操作部を前方に押圧するノック操作によってリフィル5が軸筒4から出没するノック式筆記具である。また、筆記具1は、複数のリフィル5を有する多芯式筆記具でもある。
筆記具1は、後軸3の後端部に取り付けられ且つクリップ28を備えた内筒20を有している。内筒20も含めて軸筒4と称してもよい。筆記具1は、軸筒4内において、スペーサ30と、スペーサ30の周りに配置されたカラー部材40と、カラー部材40の後方に配置された回転カム50と、内筒20とカラー部材40との間に配置された複数の摺動コマ60と、スペーサ30の後方に配置された操作部材70と、操作部材70の周りに配置された回転子80と、操作部材70の内部に配置されたブレーキロッド90と、回転子80の後方において操作部材70の周りに配置されたノックリング100とを有している。
操作部材70の後端部には、保持部材6を介して消去部材7が取り付けられている。保持部材6には、カバー部材8が着脱可能に取り付けられ、消去部材7はカバー部材8によって覆われている。消去部材7は、保持部材6に対して接着又は二色成形等によって一体的に設けられている。消去部材7は、保持部材6に対して着脱可能にしてもよく、保持部材6の一部を消去部材として機能させるようにしてもよい。取り付けられた状態のカバー部材8を、又は、カバー部材8が取り外された状態では消去部材7を、前方に押圧することによって操作部材70が前方へ移動し、ノック操作が行われる。言い換えると、筆記具1の後端、すなわち消去部材7又はカバー部材8が、ノック操作のための操作部として機能する。なお、操作部の全部又は一部を、筆記具1の筆跡を消去可能な消去部としてもよい。図4及び図5において、カバー部材8が省略して描かれている。
保持部材6は後スプリング10によって後方に付勢されている。したがって、筆記具1が筆記状態であっても非筆記状態であっても、保持部材6、消去部材7及びカバー部材8は、軸線方向において常に同一位置に配置される。なお、後スプリング10は省略してもよい。カラー部材40の前方には前スプリング11が配置され、カラー部材40は前スプリング11によって後方に付勢されている。前軸2と後軸3との間には、環状の表示部材12が配置されている。表示部材12の外面には、周方向において互いに逆方向を指し示す2つの三角形状の印が設けられている。
図2乃至図4において、上方は鉛直上方であり、下方は鉛直下方である。すなわち、重力が、各図において下方に向かって作用する。ブレーキロッド90は、後述するように、重力によって軸筒4内を前後方向に移動可能である。したがって、図2及び図3では、筆記具1の前端、すなわち軸筒4の前端が下向きであることから、ブレーキロッド90は、軸筒4内において前端側に寄っている。他方、図4では、筆記具1の前端が上向きであることから、ブレーキロッド90は、図2及び図3と比較して、軸筒4内において後端側に寄っている。
図1乃至図7を適宜参照しながら、主要な部品の構成について説明する。
図8は、後軸3の縦断面図である。後軸3は、筆記具1の組み立て状態では、図8において上方が筆記具1の後側となるように配置される。後軸3の内周面には、係止部として、略T字型の2つのT字突起13が設けられている。2つのT字突起13は、中心軸線回りに120度だけ離間して配置されている。後軸3の前端部の内周面には、軸線方向に離間した複数の環状溝14が形成されている。なお、T字突起13は、後軸3の内周面に設けられるのではなく、例えば別体の部材として設けてもよい。
図9は、内筒20の縦断面図である。内筒20は、筆記具1の組み立て状態では、図9において上方が筆記具1の後側となるように配置される。内筒20は、後軸3の後端部に対して嵌合又は圧入によって取り付けられる。内筒20の内周面には、後方に面した段部21が形成されている。段部21よりも前方の内筒20の内周面には、軸線方向に延びる6つの第1内側突起22が周方向に沿って等間隔に設けられている。第1内側突起22の各々の前端面には、周方向に傾斜した斜面22aが形成されている。6つの第1内側突起22は、第1外カム23を構成する。第1内側突起22の各々の後端部には、係止部として、第1内側突起22よりもさらに突出する第2内側突起24が形成されている。第2内側突起24の各々の後端面には、周方向に傾斜した斜面24aが形成され、第2内側突起24の各々の前端面の一部には、周方向に傾斜した部分斜面24b(後述する図18(A)参照)が形成されている。6つの第2内側突起24は、第2外カム25を構成する。内筒20の前端部には、矩形に切り欠かれた凹部26が形成されている。
図10は、スペーサ30の斜視図である。スペーサ30は、筆記具1の組み立て状態では、図10において上方が筆記具1の後側となるように配置される。スペーサ30は、筒状の本体部31と、本体部31の後端部から後方に向かって延びる3つのレール部32と、3つのレール部32の後端部を連結するように形成された連結部33とを有している。隣接する2つのレール部32及び連結部33によって、リフィル5を挿入可能な3つの溝が画成されている。すなわち、本実施形態では、筆記具1は3つのリフィル5を収容可能である。本体部31の外周面にはフランジ部34が形成され、フランジ部34によって、本体部31の外周面が前後に分割されている。フランジ部34の前端面には、前方に向かって延びる突起状のマーク部35が形成されている。マーク部35は、表示部材12の凹部に嵌合する(図1)。本体部31の前部には、雄ねじ部36が形成され、雄ねじ部36によってスペーサ30は前軸2と螺合する。本体部31の後部には、軸線方向に離間した複数の環状突起37が形成されている。
図11は、カラー部材40の斜視図である。カラー部材40は、筆記具1の組み立て状態では、図11において上方が筆記具1の後側となるように配置される。カラー部材40は、全体として筒状に形成されている。カラー部材40の外周面には、後軸3のT字突起13に対応する位置で且つ相補的な形状で、2つのT字凹部41が形成されている。2つのT字凹部41間に相当する後端面の部分は階段状に隆起した隆起部42が形成されている。カラー部材40の後端面の一部は、後端側から前方に向かって斜めに切り欠かれた切り欠き部43が形成されている(図7)。切り欠き部43の端面を含むカラー部材40の後端面は、第1カム面44を構成する。
図12は、回転カム50の背面図である。回転カム50は、筆記具1の組み立て状態では、図12において上方が筆記具1の後側となるように配置される。回転カム50は、中心軸線回りに環状に形成された環状部51と、爪形状の爪部52とを有している。環状部51は、爪部52の後端部の内面に取り付けられたように形成されている。爪部52の内面には、環状部51の前端面から前方へ延びるように突起状のガイド突起53が形成されている。図7に示されるように、爪部52の後部の外形は、内筒20の凹部26と相補的な矩形に形成されている。したがって、非筆記状態の筆記具1において、爪部52は内筒20の凹部26に嵌合し、回転カム50の外面が内筒20の外周面と面一となる。また、環状部51の外径は、内筒20の内径よりも僅かばかり小さく形成されている。爪部52の前部は、平坦に形成された平坦面54と、斜めに形成された端面55とを有している。爪部52の平坦面54及び端面55は、内筒20の前端面27(図9)と共に第2カム面56を構成する。
図13は、摺動コマ60の斜視図である。摺動コマ60は、筆記具1の組み立て状態では、図13において上方が筆記具1の後側となるように配置される。摺動コマ60は、リフィル5の後端部に挿入される挿入部61と、挿入部61の側面に形成された摺動子62とを有している。摺動子62は、後述するように第1カム面44に沿って摺動するため、摺動時の摩擦抵抗が少なくなるよう、摺動子62の前端面に微小突起63が形成されている。摺動子62は、第2カム面56に沿って摺動するため、摺動子62の後端面に同様の微小突起を形成してもよい。
図14は、操作部材70の斜視図である。操作部材70は、筆記具1の組み立て状態では、図14において上方が筆記具1の後側となるように配置される。操作部材70は、前端が開口し且つ後端が閉鎖された中空の部材である。操作部材70の外周面にはカムフランジ71が形成されている。カムフランジ71の前端面には、対称的且つ連続的な山部及び谷部からなる回転カム面72が形成されている。カムフランジ71の外周面には、軸線方向に延びる6つのガイド溝73が周方向に沿って等間隔に形成されている。カムフランジ71の後方の操作部材70の外周面には、中心軸線回りに180度だけ離間して軸線方向に延びる2つの矩形の貫通孔74が形成されている。操作部材70の外周面において、貫通孔74の後方には後方に面した段部75が形成され、段部75の後方には嵌合突起76が形成されている。保持部材6を操作部材70の後端部に取り付けられる際には、保持部材6に設けられた開口に対して嵌合突起76が嵌合する。
図15は、回転子80の斜視図である。回転子80は、筆記具1の組み立て状態では、図15において上方が筆記具1の後側となるように配置される。回転子80は筒状の部材である。回転子80の後端面には、操作部材70の回転カム面72と相補的に形成された回転カム受け面81が形成されている。回転カム受け面81は、操作部材70の回転カム面72と協働する。回転子80の外周面には、軸線方向に延び且つ周方向に沿って等間隔に配置された6つの突起82が形成され、突起82の後端面は第1内カム83を構成する。隣接する2つの突起82によって、前後方向に延びる6つの係止溝84が画成されている。突起82の各々の後端面には、係止部85が形成されている。
図16は、ブレーキロッド90の斜視図である。ブレーキロッド90は、筆記具1の組み立て状態では、図16において上方が筆記具1の後側となるように配置される。ブレーキロッド90は、中実の部材である。ブレーキロッド90の後端部には、小径部91が形成され、小径部91の前方には、より大径の大径部92が形成されている。小径部91及び大径部92は、テーパー面93によって接続されている。大径部92の外周面には、中心軸線回りに180度だけ離間して軸線方向に延びる2つの矩形の突起94が形成され、突起94の後部の一部が矩形に切り欠かれることによって、規制部95が画成されている。
図17は、ノックリング100の斜視図である。ノックリング100は、筆記具1の組み立て状態では、図17において上方が筆記具1の後側となるように配置される。ノックリング100は筒状の部材である。ノックリング100の内周面には、中心軸線回りに180度だけ離間して軸線方向に延びる2つの規制突起101が形成されている。ノックリング100の前端部の外周面には、直角三角形状の4つの第1外側突起102が形成されている。2つの第1外側突起102は、中心軸線回りに60度だけ離間して配置され、対応する他の2つの第1外側突起102は、互いに中心軸線回りに180度だけ離間して配置されている。第1外側突起102の各々の後方には、平行四辺形状の第2外側突起103が形成されている。第1外側突起102及び第2外側突起103は、第2内カム104を構成する。
次に、図1乃至図7を参照しながら、筆記具1における各部品の組み合わせ及び配置について説明する。
スペーサ30は、雄ねじ部36によって前軸2と螺合している。後軸3の前端部は、スペーサ30の本体部31の後部に挿入されている。このとき、スペーサ30の環状突起37の各々が、対応する後軸3の環状溝14に嵌合することによって、後軸3が、スペーサ30、ひいては前軸2に対して、容易に抜けることなく回転可能に接続されている。前スプリング11及びカラー部材40が、スペーサ30のレール部32の周りに配置されている。前スプリング11の前端はスペーサ30の本体部31の後端面によって支持され、前スプリング11の後端はカラー部材40の前端面と当接している。カラー部材40は、前後方向に移動可能であり、前スプリング11によって後方に付勢されている。後軸3のT字突起13の各々が、対応するカラー部材40のT字凹部41に収容されることによって、カラー部材40の中心軸線回りの回転が規制されている。したがって、後軸3を前軸2に対して回転させると、カラー部材40は後軸3と共に回転する。
3つのリフィル5の各々の後端部に摺動コマ60の挿入部61が挿入されることによって、リフィル5と摺動コマ60とが接続されている。この状態で、リフィル5の各々は、スペーサ30のレール部32間の溝内に挿入され、前後方向に移動可能である。このとき、摺動コマ60の摺動子62は、スペーサ30のレール部32から径方向外方に突出している。摺動子62は、レール部32の縁部に係止し、リフィル5がレール部32間から脱落するのを防止している。摺動子62、特に摺動子62の微小突起63は、カラー部材40の第1カム面44に当接している。このとき、3つの摺動コマ60の摺動子62の1つが、カラー部材40の切り欠き部43の第1カム面44に配置されており、残りの摺動子62は、カラー部材40の後端面の第1カム面44に配置されている。
カラー部材40は、前スプリング11によって後方に付勢されていることから、カラー部材40を介して摺動コマ60の各々も後方に付勢され、さらには摺動コマ60を介して回転カム50も後方へ付勢されている。カラー部材40、ひいては摺動コマ60の後方への移動は、摺動子62の後端面が、内筒20の前端面27を含む回転カム50の第2カム面56に当接することによって規制される。したがって、摺動コマ60の摺動子62の各々は、第1カム面44と第2カム面56との間に配置されている。回転カム50の爪部52は、内筒20の凹部26内で前後方向に移動可能である。このとき、回転カム50の環状部51は、内筒20の内周面に沿って摺動する。
操作部材70は、内筒20の第1内側突起22の各々が対応するガイド溝73に配置されるように軸筒4内に配置されている。それによって、ノック操作の際に、操作部材70が、回転することなく軸筒4内を前後方向に移動可能となる。後スプリング10の前端は、内筒20の段部21によって支持され、後スプリング10の後端は保持部材6に当接している。その結果、後スプリング10によって、保持部材6、ひいては保持部材6が取り付けられている操作部材70が後方に付勢されている。操作部材70の後方への移動は、カムフランジ71の後端面が内筒20の第2内側突起24の前端面と当接することによって規制される。
カムフランジ71の前方の操作部材70の外周面には、回転子80が前後方向に移動可能且つ回転可能に配置されている。このとき、回転子80の第1内カム83は、内筒20の第1外カム23と協働するように配置されている。非筆記状態の筆記具1において(図2)、回転子80の前端部は回転カム50の環状部51内に挿入され、回転子80の突起82の前端面が、回転カム50の環状部51の後端面に当接している。このとき、回転子80の後端面、すなわち回転カム受け面81は、操作部材70の回転カム面72に当接している。上述したように、回転カム50は、摺動コマ60を介して前スプリング11によって後方へ付勢されていることから、回転子80、ひいてはこれに当接する操作部材70も後方へ付勢されている。
ブレーキロッド90が、操作部材70、ひいては回転子80の内部に配置されている。ブレーキロッド90は、重力によって操作部材70内を前後方向に移動可能である。ブレーキロッド90の前方への移動は、スペーサ30の後端面、すなわち連結部33の後端面と当接することによって規制される。ブレーキロッド90の後方への移動は、ブレーキロッド90のテーパー面93が操作部材70の内面と係止することによって規制される(図4)。
操作部材70の貫通孔74の周りには、ノックリング100が回転可能に配置されており、ノックリング100は、操作部材70と共に一体的に前後方向に移動可能である。具体的には、ノックリング100は、操作部材70のカムフランジ71と、操作部材70に取り付けられた保持部材6との間に配置され、操作部材70に対する前後方向の移動が規制されている。このとき、図19を参照しながら後述するように、ノックリング100の規制突起101の各々は、操作部材70の対応する貫通孔74内に配置されていることから、ノックリング100は、貫通孔74内において所定角度の範囲内で回転可能である。さらに、ノックリング100の第2内カム104は、内筒20の第2外カム25と協働するように配置されている。
次に、筆記具1の動作について説明する。
筆記具1は、後スプリング10及び前スプリング11の付勢力に抗して、筆記具1の後端の操作部を前方に押圧するノック操作を行うことによって、筆記状態及び非筆記状態間の切り替えが行われるが、その基本的な動作について説明する。筆記状態及び非筆記状態間の切り替えは、操作部材70の回転カム面72及び回転子80の回転カム受け面81の協働によって、回転子80の第1内カム83及び内筒20の第1外カム23が協働することによって行われる。これらカム間の協働動作については、従来のノック式筆記具と同様なので、以下簡単に説明する。
非筆記状態では、回転子80は、突起82の各々が内筒20の第1内側突起22間に配置され、それによって回転子80の回転が規制されている。言い換えると、回転子80の係止溝84内に、内筒20の第1内側突起22が配置されている。したがって、回転子80の回転は規制されている。このとき、操作部材70の回転カム面72と回転子80の回転カム受け面81とは当接しているが、これらの位相は互いにずれている。
ノック操作によって操作部材70が前方へ移動すると、カムフランジ71に押圧されて回転子80が前方へ移動する。回転子80が前方へ移動すると、爪部52に押圧されて、カラー部材40の切り欠き部43に配置された摺動子62を備えた摺動コマ60と、さらにはカラー部材40とが前方へ移動する。結果として、この摺動コマ60に接続されたリフィル5が、軸筒4から突出する。
回転子80が前方へ移動し、前後方向において、突起82の後端が内筒20の第1内側突起22の前端を越えると、回転子80の回転の規制が解除される。その瞬間、操作部材70の回転カム面72と回転子80の回転カム受け面81とのずれていた位相を元に戻そうとする周方向の分力が作用し、この分力が回転子80を僅かばかり回転させる。
次いで、ノック操作を止めると、前スプリング11の付勢力によって、カラー部材40を介して、摺動コマ60、回転カム50、回転子80及び操作部材70が僅かばかり後方へ移動する。このとき、回転子80の第1内カム83及び内筒20の第1外カム23が協働し、回転子80をさらに回転させる。すなわち、互いに同一方向に傾斜した斜面である、内筒20の第1内側突起22の斜面22aと回転子80の突起82の後端面とが当接して周方向の分力が作用し、この分力が回転子80をさらに僅かばかり回転させる。この回転によって、操作部材70の回転カム面72と回転子80の回転カム受け面81との位相は再びずれた状態になる。回転子80の回転及び後方への移動は、内筒20の第1内側突起22が回転子80の係止部85に係止することで規制される。結果として、リフィル5は軸筒4から突出した状態が維持され、筆記具1は筆記状態となる。
筆記状態から非筆記状態にするためには、再びノック操作を行う。ノック操作によって、操作部材70が前方へ移動すると、カムフランジ71に押圧されて回転子80が前方へ移動する。回転子80が前方へ移動し、前後方向において、突起82の後端が内筒20の第1内側突起22の前端を越えると、回転子80の回転の規制が解除される。その瞬間、操作部材70の回転カム面72と回転子80の回転カム受け面81とのずれていた位相を元に戻そうとする周方向の分力が作用し、この分力が回転子80を僅かばかり回転させる。
次いで、ノック操作を止めると、前スプリング11の付勢力によって、カラー部材40を介して、摺動コマ60、回転カム50、回転子80及び操作部材70が僅かばかり後方へ移動する。このとき、回転子80の第1内カム83及び内筒20の第1外カム23が協働し、回転子80をさらに回転させる。すなわち、互いに同一方向に傾斜した斜面である、内筒20の第1内側突起22の斜面22aと回転子80の突起82の後端面とが当接して周方向の分力が作用し、この分力が回転子80をさらに僅かばかり回転させる。この回転によって、操作部材70の回転カム面72と回転子80の回転カム受け面81との位相は再びずれた状態になる。回転子80の回転は、回転子80の突起82の各々が内筒20の第1内側突起22間に再び配置されることによって規制される。回転子80の後方への移動は、操作部材70のカムフランジ71によって規制される。回転子80の後方への移動によって、前スプリング11によって付勢されたカラー部材40、摺動コマ60及び回転カム50も後方へ移動する。結果として、リフィル5は軸筒4に没入した状態となり、筆記具1は非筆記状態となる。
上述した筆記状態及び非筆記状態間の切り替えのためのノック操作は、筆記具1の前端が下向きの状態で行われる。他方、筆記具1の前端が上向きの状態では、ノック操作を行うことができない。すなわち、操作部を前方に押圧しようとしても、操作部材70の移動が阻止され、操作部材70を前方へ移動させることができない。これに関し、以下説明する。
図18は、ノックリング100の動作を説明する模式図である。図18は、第2外カム25を周方向に展開したものに対して、ノックリング100の第2内カム104の位置関係、すなわち、内筒20の第2内側突起24と、ノックリング100の第1外側突起102及び第2外側突起103との位置関係を示している。図18において、上方が筆記具1の後側であり、下方が筆記具1の前側である。図18(A)は、ノック操作を行う前の状態を示し、図18(B)は、ノック操作によって操作部が前方への移動を開始した直後の状態を示し、図18(C)は、ノック操作によって操作部が前方へ移動した状態を示し、図18(D)は、ノック操作の停止によって、操作部が元の位置に復帰する直前の状態を示している。
図18(A)を参照すると、ノック操作を行う前は、内筒20の第2内側突起24が、ノックリング100の第2外側突起103の前方に配置されている。この状態からノック操作を行うと、内筒20に対して相対的に操作部材70が前方へ移動し、したがってノックリング100も前方へ移動する。このとき、内筒20の第2外カム25及びノックリング100の第2内カム104が協働し、ノックリング100を回転させる。すなわち、互いに同一方向に傾斜した斜面を有する、内筒20の第2内側突起24の斜面24aとノックリング100の第2外側突起103の前端面とが当接し、周方向の分力が作用してノックリング100が前進しながら回転する(図18(B))。操作部材70がさらに前方へ移動すると、内筒20の第2内側突起24が、第2外側突起103の横を通過し、ノックリング100、ひいては操作部材70を十分に前方へ移動させることができ(図18(C))、ノック操作が行われる。
図18(C)に示された状態からノック操作を止めると、後スプリング10の付勢力によって、内筒20に対して相対的に操作部材70が後方へ移動し、したがってノックリング100も後方へ移動する。このとき、内筒20の第2外カム25及びノックリング100の第2内カム104が協働し、ノックリング100を先ほどとは逆方向に回転させる。すなわち、互いに同一方向に傾斜した斜面を有する、内筒20の第2内側突起24の部分斜面24bとノックリング100の第1外側突起102の後端面とが当接し、周方向の分力が作用してノックリング100が後退しながら回転する(図18(D))。その結果、ノックリング100、ひいては操作部材70が元の位置に復帰する(図18(A))。
以上より、筆記具1の前端が下向きの状態では、ノックリング100がノック操作に応じて回転することによって、操作部材70、すなわち操作部の前方への移動が阻止されることなくノック操作を行うことが可能となる。他方、筆記具1の前端が上向きの状態では、ブレーキロッド90によってノックリング100の回転が規制されることによって、操作部の前方への移動が阻止され、ノック操作を行うことができない。こうしたノックロック機構について、図19を参照しながら説明する。
図19は、ブレーキロッド90の動作を説明する横断面図である。図19(A)は、筆記具1の前端が下向きの状態である図3の線A-Aにおける断面図であり、図19(B)は、筆記具1の前端が上向きの状態である図4の線B-Bにおける断面図である。
図19(A)に示されるように、筆記具1の前端が下向きの状態では、操作部材70の貫通孔74内にはそれぞれ、ノックリング100の規制突起101が配置されている。図19(A)は、図18(A)と同様に、ノック操作を行う前の状態であり、このとき、規制突起101は貫通孔74の一方の端縁に寄っている。したがって、ノックリング100は、規制突起101が貫通孔74の端縁から受ける規制の範囲内において、所定角度の範囲内で回転可能である。
図19(B)に示されるように、筆記具1の前端が上向きの状態では、操作部材70の貫通孔74内にはそれぞれ、ノックリング100の規制突起101が配置されているが、貫通孔74の隙間を埋めるように、規制部95が配置されている。すなわち、筆記具1の前端を上向きにすると、重力によってブレーキロッド90が後方へ移動する。それによって、ブレーキロッド90は、操作部材70内においてより内部に挿入され、貫通孔74の隙間に規制部95が挿入される。その結果、ノックリング100の規制突起101が、ブレーキロッド90の規制部95と係止することで、ノックリング100の回転が規制される。
ノックリング100が回転できないと、図18(B)を参照しながら説明したように、内筒20の第2内側突起24の斜面24aとノックリング100の第2外側突起103の前端面とが当接しても、ノックリング100が回転することはない。その結果、内筒20の第2内側突起24とノックリング100の第2外側突起103とが係止し、操作部材70のこれ以上の前方への移動が阻止される。したがって、筆記具1の前端が上向きの状態では、操作部の前方への移動が阻止され、ノック操作を行うことができない。
なお、筆記具1の前端を、上向きの状態から下向きの状態にすると、ブレーキロッド90が前方へ移動し、ノックリング100の回転の規制が解除される。その結果、再びノック操作を行うことができるようになる。
筆記具1は、前端が上向き状態において操作部の前方への移動が阻止されることから、例えば、消去部材7を用いた当該筆記具1による筆跡の消去時に、安定した擦過動作を行うことが可能となる。すなわち、筆記具1を持ち替えて操作部を筆記面に対して押圧して擦過動作を行っても、操作部ががたつくことがない。筆記具1によれば、安定した擦過動作を、従来よりも簡単な機構で実現することができる。
例えば特許文献1(特開2016-107615号公報)に記載された従来のノックロック機構は、単一のノックロック部材を有するものであり、ノックロック部材の重力による前後方向の移動及び回転によって、操作部の前方への移動を阻止する構成であった。これに対し、筆記具1のノックロック機構は、ブレーキロッド90及びノックリング100を有している。したがって、ブレーキロッド90は重力により移動のみを行い、ノックリング100は回転のみを行うというように、移動及び回転を担う部材を分離している。その結果、筆記具1のノックロック機構は、特許文献1のノックロック機構よりも機構部としての全長を短くすることができ、軸筒の内周面近傍等の内部機構の部品形状や部品の配置場所について設計をより自由にすることができる。
ブレーキロッドは、重力によって軸筒内を前後方向に移動可能であれば任意の形状のブレーキ部材であってもよい。また、ノックリングは、完全な環状ではないC字形状であってもよく、操作部と共に移動し且つ中心軸線回りに回転可能であれば任意の形状の回転部材であってもよい。そして、軸筒の前端を上方へ向けるとブレーキ部材が後方へ移動し、回転部材の回転が規制されて回転部材が係止部と係止することによって、操作部の前方への移動が阻止される限りにおいて、ブレーキ部材及び回転部材は任意の形状を採用可能である。
ところで、筆記具1の前端が上向きの状態で、誤って筆記具1を落下させてしまうと、操作部に対して軸線方向の強い衝撃が加わる。このとき、内筒20の第2内側突起24の斜面24aとノックリング100の第2外側突起103の前端面とが衝突し、第2内側突起24が周方向に膨らむように変形する。そうすると、変形した第2内側突起24は、ノックリング100の隣接する第2外側突起103間を、図18(B)に示されるように通過することができず、ノック操作ができない虞がある。また、仮に、変形した第2内側突起24がノックリング100の隣接する第2外側突起103間を通過できたとしても、変形した第2内側突起24が第2外側突起103間に引っかかってしまい、操作部が元の位置に復帰できなくなってしまう虞がある。これに関し、図20を参照しながら説明する。
図20は、ノックリング100の動作を説明する別の模式図である。図20は、図18と同様の図であり、図20において、上方が筆記具1の後側であり、下方が筆記具1の前側である。図20に示されたノックリング100は、隣接する第2外側突起103のうち、隣接する第2外側突起103間を通過する第2内側突起24に対応する第2外側突起103、すなわち図中右側の第2外側突起103を、軸線方向においてより短く形成している。すなわち、図中右側の第2外側突起103の前端面を、他方の第2外側突起103の前端面よりも後方に配置されるように形成している。
図20(A)は、筆記具1の落下によって、隣接する第2外側突起103間を通過しない内筒20の第2内側突起24の後端面と、対応するノックリング100の第2外側突起103の前端面とが衝突した瞬間を示している。このとき、内筒20の他方の第2内側突起24は、対応するノックリング100の第2外側突起103の前端面がより後方に配置されていることから、この第2外側突起103とは衝突はしていない。図20(B)では、衝突の結果、隣接する第2外側突起103間を通過しない内筒20の第2内側突起24は、変形した変形部24cを有している。このとき、他方の内筒20の第2内側突起24は、変形をしていないことから、隣接する第2外側突起103間を通過することが可能となり、ノック操作に影響を与えることはない。
ところで、通常のノック操作において、内筒20の第2内側突起24の後端面とノックリング100の第2外側突起103の前端面とが当接したことをきっかけとして、内筒20の第2内側突起24とノックリング100の第2外側突起103とが互いに係合してしまい、ノックリング100が回転できなくなってしまう場合がある。これに関し、図21を参照しながら説明する。
図21は、ノックリング100の動作を説明する別の模式図である。図21は、図18と同様の図であり、図21において、上方が筆記具1の後側であり、下方が筆記具1の前側である。図21において、ノックリング100の第2外側突起103、特に図中左側の第2外側突起103の前端の鋭角部分の角度αを、45度~90度の範囲とすることによって、内筒20の第2内側突起24とノックリング100の第2外側突起103との意図しない係合を防止することができる。
上述したように、ノック操作を行うことによって、操作部材70、回転子80及び回転カム50が前方へ移動する。回転カム50が前方へ移動すると、爪部52に押圧されて、カラー部材40の切り欠き部43に配置された摺動子62を備えた摺動コマ60と、さらにはカラー部材40とが前方へ移動する。結果として、この摺動コマ60に接続されたリフィル5の筆記部5aが、軸筒4から突出する。所定のリフィル5を突出させる動作について、図22を参照しながら説明する。
図22は、ノック操作時のリフィルの動作を説明する模式図である。上述したように、摺動コマ60の摺動子62の各々は、第1カム面44と第2カム面56との間に配置されており、図22では、これらを周方向に展開して示していることから、各図において、左右は繋がっている。3つの摺動コマ60のうちの1つに付された○印は、摺動コマ60の特定のため便宜上描かれた目印である。図22において、上方が筆記具1の後側であり、下方が筆記具1の前側である。図22(A)は、筆記具1の非筆記状態におけるカラー部材40、回転カム50及び摺動コマ60を示しており、図22(B)は、ノック操作開始直後のカラー部材40、回転カム50及び摺動コマ60を示しており、図22(C)は、筆記具1の筆記状態におけるカラー部材40、回転カム50及び摺動コマ60を示している。また、図22において、後軸3の内周面に設けられたT字突起13が、模式的に示されている。
図22(A)に示された状態からノック操作を行うと、操作部材70の前方への移動によって、回転カム50も前方へ移動し、切り欠き部43に配置されている○印が付された摺動コマ60とカラー部材40とが前進する。このとき、残りの2つの摺動コマ60は、相対的に静止している後軸3の内周面に設けられたT字突起13に係止する(図22(B))。次いで、さらに回転カム50が移動すると、上述したように、回転子80の第1内カム83及び内筒20の第1外カム23が協働し、筆記具1は筆記状態となる(図22(C))。このとき、残りの2つの摺動コマ60は、後軸3の内周面に設けられたT字突起13に係止していることから、前方へ移動することはない。
仮にT字突起13がない場合、軸筒4から突出するリフィル5以外の他のリフィル5も、重力によって前方へ移動する。そうすると、前軸2の前端のテーパー状の部分において複数のリフィル5が集合することとなり、突出させたいリフィル5の移動を阻害する虞がある。そこで、筆記具1では、T字突起13を設け、他のリフィル5をこれに係止させることで、他のリフィル5の不必要な前進を規制している。したがって、T字突起13は、リフィル5を係止させることができる限りにおいて、任意の形状とすることができる。
図22から明らかなように、ノック操作によって、3つのリフィル5の中で相対的に前進している摺動コマ60に接続されたリフィル5が、軸筒4の前端開口から突出し、筆記具1は筆記状態となる。したがって、筆記具1の非筆記状態において、相対的に前進しているリフィル5の筆記部5aが、軸筒4の前端開口の近傍に配置されるようにすることによって、より小さいノック操作量、すなわちより小さいノックストロークで、リフィル5を突出させて筆記状態とすることができる。また、ノック操作の際には、回転カム50の第2カム面56自体が前進し、摺動コマ60を押圧することから、部品間のがたつきを抑えることができる。また、回転カム50、特に爪部52は比較的大きな部品であることができ、強度を大きくすることができる。
図23は、出没可能なリフィル5の切り替え動作、すなわち筆記するリフィル5を変更するための動作を説明する模式図である。図23は、図22と同様の図であり、図23において、上方が筆記具1の後側であり、下方が筆記具1の前側である。スペーサ30は前軸2に対して固定されている。一方、内筒20、カラー部材40、回転カム50及び後軸3は、前軸2に対して回転可能であり、回転選択部材を構成する。言い換えると、前軸2は、後軸3に対して回転可能である。
図23では、説明の便宜上、前軸2に対する後軸3の回転を、後軸3を基準としていることから、後軸3の回転に応じて、摺動コマ60のみが図23において左右方向に移動する。実際は、摺動コマ60は、スペーサ30のレール部32間の溝内を前後方向に移動するだけである。また、説明の便宜上、3つの摺動コマ60を、摺動コマ60A、摺動コマB及び摺動コマ60Cとして区別する。上述したように、ノック操作の際、カラー部材40の切り欠き部43に配置された摺動コマ60に接続されたリフィル5、すなわち選択された位置に配置されたリフィル5が、爪部52に押圧されて軸筒4から突出する。したがって、選択された位置に配置されるリフィル5を変更することによって、所望のリフィル5を出没させることができる。
図23(A)は、非筆記状態の筆記具1において、摺動コマ60Aが前進した位置に配置された状態を示している。この状態でノック操作を行うと、上述したように、摺動コマ60Aに接続されたリフィル5が筆記状態となる。このとき、他の摺動コマ60B及び摺動コマ60Cは、図22を参照しながら説明したように、後軸3の内周面に設けられたT字突起13と係止し、前方への移動が規制されている。
図23(A)に示された状態で、前軸2に対して後軸3を、筆記具1の後方から見て時計回りに回転させると、摺動コマ60の各々は、図中右方向に相対的に移動する。このとき、後軸3の回転、すなわちカラー部材40の回転に伴い、前進した位置に配置されていた摺動コマ60Aが第1カム面44の斜面に沿って後方へ移動すると共に、摺動コマ60Bが前スプリング11の付勢力に抗して隆起部42上に乗り上げる(図23(B))。摺動コマ60Bが隆起部42上に乗り上げたことによって、カラー部材40は、図23(A)に示された状態と比べて、隆起部42の高さの分だけ前方へ移動している。
さらに、後軸3を回転させると、摺動コマ60Bは隆起部42に沿って相対的に周方向に移動すると共に摺動コマ60Cは回転カム50の端面55に沿って前方へ移動する(図23(C))。次いで、摺動コマ60Bが隆起部42の端部を超えた瞬間に、隆起部42の高さの分だけ前方へ移動していたカラー部材40が、前スプリング11の付勢力によって瞬間的に後方へ移動する(図23(D))。このとき、摺動コマ60Bはカラー部材40の後端面に衝突する。これと同時に、摺動コマ60Cはカラー部材40の切り欠き部43の端面に衝突する。またこれと同時に、摺動コマ60Aは、内筒20の前端面27と衝突する。その結果、摺動コマ60Cが、カラー部材40の切り欠き部43に配置され、リフィル5の切り替えが完了する(図23(E))。これら衝突は略同時に行われることから、後軸3を回転させていた使用者は、その衝撃及び衝撃に起因するクリック音を感じることができ、出没可能なリフィル5の切り替え動作が完了したことを認識することができる。なお、隆起部42は省略してもよい。
出没可能なリフィル5の切り替えのために後軸3を回転させ始めるのに必要なトルク、すなわち初動トルクは、階段状に隆起した隆起部42の高さや階段状の部分の形状等を変更することによって、所望の値に変更することができる。摺動コマ60の移動に伴う摩擦抵抗等を考慮し、初動トルクを適切に調整することによって、初動トルク以上のトルクを加えて回転させると、その後の慣性力によって瞬間的に隣接するリフィル5への切り替えが行われるようにすることができる。
図24は、別の実施形態におけるノック操作時のリフィル5の動作を説明する模式図である。図24は、図22と同様の図であり、上方が筆記具1の後側であり、下方が筆記具1の前側である。図24では、回転カム150の爪部152の軸線方向の長さを、爪部152の前端面が内筒20の前端面27と整列するように設定している。この場合、選択された位置にあるリフィル5は、前進した位置、すなわち切り欠き部43に配置された摺動コマ60に接続されたリフィル5ではなく、軸線方向において回転カム150の爪部152に対向した位置に配置された摺動コマ60に接続されたリフィル5である。本実施形態では、後軸3を回転させる際に、摺動コマ60と回転カム150とが接することがないことから、よりスムーズに出没可能なリフィル5の切り替えを行うことができる。
上述した実施形態では、後軸3は前軸2に対して自在に回転可能であったが、例えば、スペーサ30の複数の環状突起37又は後軸3の複数の環状溝14等に係止機構を設け、前軸2に対する後軸3の回転、すなわち回転選択部材の回転を所定角度の範囲に規制してもよい。このとき、例えば、図23(A)に示された状態から、後軸3を120度だけ回転させて摺動コマ60Cがカラー部材40の切り欠き部43に配置された図23(E)に示された状態に遷移した後、これ以上、後軸3を回転させることができないように構成する。したがって、摺動コマ60Bをカラー部材40の切り欠き部43に配置させるためには、後軸3を逆方向に240度だけ回転させる必要がある。
後軸3が回転可能な角度を所定の範囲(すなわち240度の範囲)に規制することによって、その時点でのノック操作によって突出するリフィル5を、一見して判別可能にすることができる。すなわち、図23(A)に示された状態のとき、図1に示されるように、内筒20のクリップ28と表示部材12に配置されたマーク部35とが整列するように構成する。クリップ28とマーク部35とが整列しているときは、ノック操作によって摺動コマ60Aに接続されたリフィル5が突出する。マーク部35は前軸2と一体で動くことから、前軸2の回転方向に応じて、クリップ28とマーク部35との位置関係が変化する。したがって、クリップとマーク部35との位置関係を見れば、いずれのリフィル5が選択された位置にあってノック操作によって筆記状態になるのか、判別することができる。このとき、リフィル5のインクの色で、マーク部35及び2つの三角形の印(図1)を着色することで、より判別しやすくしてもよい。
前軸2と後軸3とは、筆記具1が非筆記状態のときにのみ相対的に回転することができる。言い換えると、回転選択部材は、筆記具1が非筆記状態のときにのみ回転させることができる。すなわち、筆記状態の筆記具1では、図22(C)に示されるように、回転カム50が前方へ移動している。このとき、回転カム50は、対応する摺動コマ60を前方へ押圧していると共に、回転カム50のガイド突起53が、スペーサ30のレール部32間の溝内に挿入されている。そのため、回転選択部材を回転させようとしても、回転カム50のガイド突起53及びレール部32との係止によって回転が規制され、回転させることができない。したがって、筆記具1が筆記状態のときは、後軸3に対して前軸2を回転させることができない。よって、筆記中に、意図せず回転選択部材を回転させてしまい、リフィル5が変更されてしまうという誤動作が防止される。他方、筆記具1が非筆記状態のときには、回転カム50のガイド突起53は、レール部32よりも後方に配置され、レール部32と係止しないことから、回転選択部材を回転させることができる。
また、ノック操作によって、筆記具1を筆記状態から非筆記状態にしたとしても、図23を参照しながら説明したように回転選択部材を回転させない限りは、同一のリフィル5が選択された位置にある。したがって、例えば黒色で筆記した後に、ノック操作をして非筆記状態にし、再度、黒色で筆記をしようとする場合には、各リフィルに対応する操作部の選択等をすることなく、単一の操作部をノック操作するだけで、再び黒色のリフィル5を筆記状態にすることができる。すなわち、毎回、複数の操作部の中から所望のリフィル5を突出させるために所定の操作部を探すということなく、単一の操作部をノック操作することで、同一のリフィル5の出没の繰り返しを簡単に行うことができる。一方、ノック操作によって筆記状態となるリフィル5を切り替えるには、上述したように、回転選択部材を軸線回りに回転させることで簡単に行うことができる。
また、回転選択部材を軸線回りに回転させることによって、摺動コマ60の各々は前後方向に移動することから、摺動コマ60に接続されたリフィル5の各々を個別に付勢する複数のスプリングを配置する必要がない。すなわち、単一の前スプリング11で以て、多芯式で且つノック式の筆記具を実現することができる。その結果、筆記具1は、軸線方向の全長に対して、出没機構やリフィル選択機構の占める割合を小さくし且つ筆記具1の外径をより細くすることもでき、しかも簡便な機構とすることができる。また、単一の前スプリング11をスペーサ30の外側、すなわち軸筒4の内周面近傍に配置することによって、リフィル5が前スプリング11と接触して損傷することを防止することができる。すなわち、スペーサ30のレール部32は、リフィル5の径方向外方に面した外周面の多くの部分を覆っていることから、リフィル5は前スプリング11に接触することがない。さらに、筆記具1の外周面に複数の操作部が配置されないことから、凹凸が少なく、絵柄をプリントしたり、装飾を施したりすることができる。
ノック操作によってどのリフィル5が筆記状態となるか、すなわちどのリフィル5が選択された位置にあるか判別可能なように、軸筒4の側面に開口を設けるか又は軸筒4を透明又は半透明にしてもよい。具体的には、軸筒4の側面に開口を設ける場合、摺動コマ60が前進した位置にあるときにのみ開口から視認可能なように、各摺動コマ60の対応する軸筒4の側面に開口を形成してもよい。摺動コマ60を、挿入されるリフィル5の筆記色と同一色で着色してもよい。
上述した実施形態では、筆記具1は、3つのリフィル5を有しているが、2つ又は4つ以上であってもよく、そのうちの1つを、ボールペン用リフィルの代わりにシャープペンシル、マーキングペン、タッチペン、消しゴム又は摩擦体等のその他種類のリフィルとした複式筆記具としてもよい。また、筆記具1は、その後端部に、筆記具1による筆跡を消去する消去部材7が設けられていたが、これに加え又これに代えて、筆記具1の異なる箇所に消去部材を設けてもよい。例えば、前軸2の一部、例えば前端部に消去部材を設けてもよく、クリップに消去部材を設けてもよい。
上述した実施形態では、突起や溝、カム構造等の具体例を示したが、同様の効果を有する限り、異なる数、形状又は独立した別部品で構成してもよい。
上述した実施形態におけるリフィル5の少なくとも1つを、熱変色性色材を含有する熱変色性インクを収容したリフィルとしてもよい。この場合、筆記具1は熱変色性筆記具であり、消去部材としての摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱等によって、筆記具1の筆跡を熱変色可能である。
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具1では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
熱変色性色材となる熱変色性マイクロカプセル顔料としては、摩擦熱等の熱により変色するもの、例えば、有色から無色、有色から有色、無色から有色などとなる機能を有するものであれば、特に限定されず、種々のものを用いることができ、少なくともロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、マイクロカプセル化したものが挙げられる。
用いることができるロイコ色素としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインクを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という。)用いることができる。
具体的には、6-(ジメチルアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフラノン、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジメチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(N-フェニル-N--メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-ジ(n-ブチル)アミノ-6-メトキシ-7-アニリノフルオラン、3,6-ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン、メチル-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、クロロ-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリノキノリン、などが挙げられる。
これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。
用いることができる顕色剤は、上記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものであり、例えば、フェノール樹脂系化合物、サリチル酸系金属塩化物、サリチル酸樹脂系金属塩化合物、固体酸系化合物等が挙げられる。
具体的には、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1-フェニル-1,1-ビス( 4’-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ノナンなどの少なくとも1種が挙げられる。
用いる顕色剤の使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、上述したロイコ色素1質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
用いることができる変色温度調整剤は、上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。
より具体的には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート(C7H15)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジラウレート(C11H23)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジパルミテート(C15H30)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジベヘネート(C21H43)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエチルヘキシリデンジミリステート(C13H27)等の少なくとも1種が挙げられる。
この変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、ロイコ色素1質量部に対して、1~100質量部程度の範囲内で使用するのが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、少なくとも上記ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、平均粒子径が0.2~5μmとなるように、マイクロカプセル化することにより製造することができる。マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、イソシアネート系樹脂溶液などを徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。
これらのロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の含有量は、用いるロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の種類、マイクロカプセル化法などにより変動するが、当該色素1に対して、質量比で顕色剤0.1~100、変色温度調整剤1~100である。また、カプセル膜剤は、カプセル内容物に対して、質量比で0.1~1である。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、上記ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度(例えば、0℃以上で発色)、消色温度(例えば、50℃以上で消色)を好適な温度に設定することができ、摩擦熱等の熱により有色から無色となることが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料では、描線濃度、保存安定性、筆記性の更なる向上の点から、壁膜がウレタン樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、あるいはアミノ樹脂で形成されることが好ましい。ウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネートとポリオールとの化合物が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂とアミンの化合物が挙げられる。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。マイクロカプセル色材の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性、安定性、インク中での流動性の点、並びに、筆記性への悪影響を抑制、後述する光変色性マイクロカプセル顔料との相用性などの点から、好ましくは、0.2~5μm、さらに好ましくは、0.3~3μmである。なお、ここで規定する「平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)〕にて、平均粒子径(50%径)を測定(屈折率1.8)した値である。
この平均粒子径が0.2μm未満であると、十分な描線濃度が得られず、一方、5μmを越えると、筆記性の劣化、熱変色性マイクロカプセル顔料の分散安定性の低下、振動によるインクバックが発生しやすくなり好ましくない。さらには90%径が8μm以下、好ましくは6μm以下である。径が大きい粒子が一定割合以上存在すると、上述した影響がより顕著になる傾向がみられる。なお、上述した平均粒子径の範囲(0.2~5μm)となるマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により変動するが、水溶液からの相分離法などでは、マイクロカプセル顔料を製造する際の攪拌条件を好適に組み合わせることにより調製することができる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、0.9~1.3、好ましくは1.0~1.2の範囲である。比重がこの範囲外であると、マイクロカプセル顔料の分散安定性が低下しやすい。また、比重が1.3を超えるマイクロカプセル顔料は、振動によってインクバックが発生しやすい。
筆記具用水性インク組成物において、上記熱変色性マイクロカプセル顔料の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、その効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
これらのうち、インクバックによる筆記部でのインク固化を抑制する目的として、グリセリンを用いることが好ましく、その添加量はインク全量に対して1~10質量%であることが好ましい。グリセリンによる作用のメカニズムは不明だが、乾燥状態における顔料及びインク成分との凝集力を低下させる効果があるものと推察される。
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
これらのうち、多糖類を使用することが好ましい。多糖類はそのレオロジー特性から、振動による流動性への影響を受けにくい傾向があり、インクバックに起因する筆記不良等の不具合が生じにくい。特にキサンタンガムは、筆記具インクに要求されるその他の特性とのバランスに優れており好ましい。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
この筆記具用水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記熱変色性、光変色性マイクロカプセル顔料の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
筆記具用水性インク組成物の粘度値は、25℃、剪断速度3.83/sにおいて、500~2000mPa・s、剪断速度383/sにおいて20~100mPa・sであることが好ましい。上記粘度範囲に設定することによって、筆記性と経時安定性に優れたインクとすることができる。さらに、S=αDn(但し、1>n>0)(Sは剪断応力(dyn/cm2)、Dは剪断速度(s-1)、αは非ニュートン粘性係数)で示される粘性式で求められる非ニュートン粘性指数nが、0.2~0.6であることが好ましい。上記粘度範囲に加えて非ニュートン粘性指数nを上記範囲とすることで、振動に対するインクの流動性を適切に設定することが可能となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
筆記具用水性インク組成物の表面張力は、25~45mN/m、さらには30~40mN/mであることが好ましい。この範囲内であれば、ペン先内部とインクの濡れ性のバランスが適切となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
リフィル内においては、インクのすぐ後方にインク追従体を配置してもよい。追従体を構成する材料としては、少なくとも、不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤と、増粘剤とにより構成することができる。インク追従体に使用する不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、インク追従体の基油として用いるものであり、例えば、流動パラフィンが用いられる。流動パラフィンには、鉱物油、化学合成油が用いられ、化学合成油としては、ポリブテン、ポリα-オレフィン、エチレンα-オレフィンオリゴマーなどを用いることができる。
用いることができる具体的な鉱物油としては、例えば、市販品のダイアナプロセスオイルNS-100、PW-32、PW-90、NR-68、AH-58(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリブテンとしては、例えば、市販品のニッサンポリブテン200N、ポリブテン30N、ポリブテン10N、ポリブテン5N、ポリブテン3N、ポリブテン015N、ポリブテン06N、ポリブテン0N(以上、日本油脂社製)、ポリブテンHV-15(日本石油化学社製)、35R(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリα-オレフィンとしては、例えば、市販品のバーレルプロセス油P-26、P-46,P-56、P-150,P-350,P-1500、P-2200、(P-10000、P-37500)(松村石油社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なエチレンα-オレフィンオリゴマーとしては、例えば、市販品のルーカント HC-10、HC-20、HC-100、HC-150、(HC-600、HC-2000)(以上、三井化学社製)などが挙げられる。
これらの不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、1種または2種以上を合わせて使用することができる。
インク追従体に使用する増粘剤としては、例えば、リン酸エステルのカルシウム塩、微粒子シリカ、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、水添スチレン-ブタジエンラバー、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー及びアセトアルコキシアルミニウムジアルキレートなどが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上用いることができる。
用いることができるリン酸エステルのカルシウム塩の好ましい市販品としては、CrodaxDP-301LA(クローダジャパン社製)等が挙げられる。用いることができる微粒子シリカは、親水性微粒子シリカと疎水性微粒子シリカがあり、親水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-300、AEROSIL-380(日本アエロジル社製)等が挙げられ、また、疎水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-974D、AEROSIL-972(日本アエロジル社製)等が挙げられる。
また、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGFG-1901X、クレイトンGG-1650(以上、シェルジャパン社製)、セプトン8007、セプトン8004(以上、クラレ社製)などが挙げられる。さらに、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGG-1730(シェルジャパン社製)、セプトン2006、セプトン2063(以上、クラレ社製)などが挙げられる。
水添スチレン-ブタジエンラバーの好ましい市販品としては、DYNARON1320P、DYNARON1321P(以上、JSR社製)、タフテックHl041、タフテックHl141(以上、旭化成工業社製)などが挙げられる。
スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON4600P(JSR社製)等が挙げられ、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON6200P、DYNARON6201B(JSR社製)等が挙げられる。
アセトアルコキシアルミニウムジアルキレートの好ましい市販品としては、プレンアクトAL-M(味の素ファインテクノ社製)などが挙げられる。
これらの増粘剤の中で、本発明の効果をさらに発揮させる点から、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーなどの熱可塑性オレフィン系エラストマーの使用が好ましい。
さらに、インクバックの発生を防止するインク追従体を得る点から、周波数領域1~63rad/sで指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることが好ましく、1.7~3.4とすることがさらに好ましい。
ここで、tanδは、損失弾性率/貯蔵弾性率を意味する値であり、従来では、周波数領域「1~63rad/s」で指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以下のものが好ましいことが知られていた。本発明では、上記1~63rad/sで各周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることにより、振動を吸収してインクバックの発生を防止することが可能となる。
摩擦体を形成する材料として、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等の熱硬化性ゴムやスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといったゴム弾性材料、2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物を用いることができ、これを、JIS K7204に規定された摩耗試験(ASTM D1044)で荷重9.8N、1000rpm環境下において、テーバー摩耗試験機の摩耗輪CS-17でのテーバー摩耗量が25mg未満となるように構成し、摩擦体を形成する。
また、摩擦体の材料に対して、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを添加してもよい。摩擦体が、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを含むことによって、紙面を傷めず且つ印刷文字等を掠れさせることなく、筆跡の消去が可能となる。さらに、摩擦体は、JIS K6203に規定されたデュロメータA硬度が60以上であることが好ましい。それによって、所定の硬さが確保でき、より安定した擦過動作が可能となる。なお、摩擦体は、タッチペン、スタイラスペンとしても適用可能であり、導電性を付与してもよい。
また、摩擦体は、筆記具1に収容された熱変色性インクの色よりも明度値が低い色で着色されていることが好ましい。すなわち、摩擦体の使用時に筆記具1の熱変色性インクが変色することなく摩擦体の表面に転写した場合に、熱変色性インクの転写を目立たなくすることができる。特に、摩擦体の色を黒色又は明度値が2.5以下とすることによって、摩擦体の使用に伴う表面の汚れも目立たなくすることができる。
明度値は汎用型色差計(TC-8600A、東京電色株式会社製)等の測定装置を用いてマンセル表色系を使用し、摩擦体の明度値は表面を測定し、熱変色性インクの明度値は、紙面(旧JIS P3201;化学パルプ100%を原料に抄造された上質紙、坪量範囲40~157g/m2、白色度75.0%以上)上に筆記速度4.5m/min、ピッチ間隔0.1mmで筆記した描線上のインクを測定することによって求められる。
また、上述した実施形態における複数のリフィル5の少なくとも1つを、シャープペンシル芯、鉛筆芯又は消しゴム消去性インクを収容するリフィルとし、残りのリフィル5の少なくとも1つを、熱変色性インクを収容したリフィルとしてもよい。この場合、消去部材7を、プラスチック字消し又は消しゴムとすることによって、シャープペンシル芯、鉛筆芯又は消しゴム消去性インクによる筆跡が消去可能となる。さらに、プラスチック字消し又は消しゴムを用いて熱変色性インクによる筆跡を擦過し、摩擦熱を生じさせることによって筆跡を熱変色させることもできる。
したがって、プラスチック字消し又は消しゴムは、異なる種類の筆跡のための消去部材として使用可能、すなわち、シャープペンシル芯、鉛筆芯又は消しゴム消去性インクによる筆跡を消去する消去部材、及び、熱変色性インクの筆跡を熱変色させる(消去する)摩擦体として使用可能である。なお、ここでいう、プラスチック字消し又は消しゴムを用いて筆跡を消去可能とは、プラスチック字消し又は消しゴムで筆跡を擦過することによって、筆跡の周囲の紙面等を汚すことなく筆跡を消去可能であることをいう。
シャープ芯又は鉛筆芯は、例えば、焼成前の配合組成物として無機顔料、有機顔料、染料から選ばれる少なくとも1種の微粒子(但し、ガラス粉体を除く)を分散又は内包させた平均厚さ0.1~2μm、アスペクト比5~150であり、且つ、平面度が200nm以下のフレーク状であるガラス粉体又は平均粒径0.1~50μm、真球度0.1~50μmの粒状であるガラス粉体を鉛筆芯全量に対して、3~80重量%含有することが好ましい。
消しゴム消去性インクは、平均粒子径が2~20μmであり、且つ、非熱可塑性である着色樹脂粒子をインク組成物全量に対して5~30重量%と、ガラス転移点が0℃未満である非着色粒子とを少なくとも含有することが好ましい。なお、ここで規定する「平均粒子径」は、上述したように、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)〕にて、平均粒子径(50%径)を測定(屈折率1.8)した値である。
この場合、摩擦体は、前述の摩擦体に加え、ガラス転移温度(Tg)の比較的高いシェルと、該シェルよりガラス転移温度(Tg)の比較的低いコアで構成されている一次粒径が20~80μmであるアクリル系熱可塑性樹脂粉末、可塑剤及び無機粉体と熱可塑性樹脂を含有し、その熱可塑性樹脂がポリ塩化ビニル樹脂又はその共重合体であり、無機粉体が炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウムであるものが、熱変色性インクの筆跡と消去可能なインクの筆跡を共に擦過により作用させることができるので好ましい。なお、「ガラス転移温度(Tg)」とは、アクリル樹脂粉末の非結晶部分の運動性が大きくなりゴム状態になる境目の温度をいう。