以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、ノック式筆記具1の筆記状態で且つ前端が上向きの縦断面図であり、図2は、ノック式筆記具1の筆記状態で且つ前端が下向きの縦断面図であり、図3は、ノック式筆記具1の非筆記状態で且つ前端が下向きの縦断面図であり、図4は、ノック式筆記具1の非筆記状態で且つ前端が上向きの縦断面図である。また、図5は、図3のノック式筆記具1の後端部の拡大断面図である。図1乃至図4において、上方は鉛直上方であり、下方は鉛直下方である。すなわち、重力が、各図において下方に向かって作用する。
ノック式筆記具1は、筒状に形成された軸筒2と、軸筒2内に配置され且つ一端に筆記部5aを備えた筆記体であるリフィル5と、リフィル5を後方へ付勢する弾性部材であるスプリング6と、軸筒2の後端部に取り付けられ且つ物品を把持するクリップを備えた内筒10と、内筒10内に配置された中空の操作部20と、を有する。軸筒2は、前軸3及び後軸4を有している。内筒10、前軸3及び後軸4を総じて軸筒とも称する。
本明細書中では、ノック式筆記具1の軸線方向において、筆記部5a側を「前」側と規定し、筆記部5aとは反対側を「後」側と規定する。特に言及のない限り、中心軸線とはノック式筆記具1の中心軸線をいう。ノック式筆記具1では、スプリング6の付勢力に抗して操作部20を前方に押圧するノック操作によって、リフィル5が軸筒2内を前後方向に移動する。このとき、筆記部5aが軸筒2から突出した状態を筆記状態(図1及び図2)と称し、筆記部5aが軸筒2内に没入した状態を非筆記状態(図3及び図4)と称する。
ノック式筆記具1は、操作部20内に配置された係合部材である主回転子30と、操作部20内において主回転子30の前方に配置された減速回転子40と、操作部20の前方に配置され且つ筒状に形成されたノックロック部材50と、ノックロック部材50と係止する係止部60と、操作部20の後端部に取り付けられた消去部材70と、消去部材70を操作部20に取り付けるための保持部材80、消去部材70を覆うカバー部材90と、をさらに有する。
主回転子30は、内筒10の外カム11及び操作部20と協働し、減速回転子40は、内筒10の外カム11及び主回転子30と協働する。また、操作部20のロックカム面22と、ノックロック部材50のロックカム受け面51とが協働してノックロック部材50を中心軸線回りに回転させ、ノックロック部材50と係止部60とを係止状態にさせる。以下、詳細に説明する。
ノックロック部材50は、重力によって軸筒2内を前後方向に移動可能である。したがって、図1及び図2は、ノック式筆記具1の同じ筆記状態を示しているが、図1では、ノック式筆記具1の前端、すなわち軸筒2の前端が上向きであることから、ノックロック部材50は、軸筒2内において後端側に寄っている。他方、図2では、ノック式筆記具1の前端、すなわち軸筒2の前端が下向きであることから、ノックロック部材50は、図1と比較して、軸筒2内において前端側に寄っている。
同様に、図3及び図4は、ノック式筆記具1の同じ非筆記状態を示しているが、図3では、ノック式筆記具1の前端、すなわち軸筒2の前端が下向きであることから、ノックロック部材50は、軸筒2内において前端側に寄っている。他方、図4では、ノック式筆記具1の前端、すなわち軸筒2の前端が上向きであることから、ノックロック部材50は、図3と比較して、軸筒2内において後端側に寄っている。
図6は、ノック式筆記具1の後軸4の縦断面図である。図6において、上方がノック式筆記具1の前側である。後軸4の内面の中間部には、係止部60が設けられている。係止部60は、後述するノックロック部材50の第1突起部52に対する第2突起部として、周方向に沿って等間隔に配置された6つの第2突起部61を有する。第2突起部61は、横断面が略平行四辺形である。また、第2突起部61の後端面には、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した斜面62が形成されている。
図7は、ノック式筆記具1の内筒10の斜視図であり、図8は、ノック式筆記具1の内筒10の縦断面図である。図8において、上方がノック式筆記具1の前側である。内筒10は、軸筒2の後端部に嵌合している。内筒10の内面には、外カム11が設けられている。外カム11は、周方向に沿って等間隔に配置された3つの突起部12を有する。突起部12の各々の前端面には、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した斜面13が形成されている。斜面13は、第1カム面を構成する。突起部12の各々は、前後方向に沿って延びる規制面である縦壁面14を有する。なお、突起部12の各々は、内筒10の内面に対して、より横断面の面積の大きいガイド突起15を介して設けられている。
図9は、ノック式筆記具1の操作部20の斜視図であり、図10は、ノック式筆記具1の操作部20の別の斜視図であり、図11は、ノック式筆記具1の操作部20の縦断面図である。図9乃至図11において、上方がノック式筆記具1の前側である。
操作部20は、筒状の部材である。操作部20は、軸線方向の中央部分に、平滑な外周面を有する円筒部21を有する。円筒部21の前方は、僅かばかり大きい外径に形成され、その前端面には、鋸刃状のロックカム面22が形成されている。ロックカム面22は6つの山部22a及び谷部22bを有する。詳細には、ロックカム面22が、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した斜面である斜部22cと、前後方向に沿って延びる縦壁部22dとを有するように、山部22a及び谷部22bが構成されている。操作部20のロックカム面22の山部22aは、周方向に沿って非対称であるが、対称的な形状であってもよい。
円筒部21の後方には、ガイド部23が形成されている。ガイド部23の後端には、後壁23aが設けられている。ガイド部23には、軸線方向に沿って3つのスリット23bが形成されている。3つのスリット23bは、内部まで貫通するようにして、周方向に沿って等間隔に設けられている。したがって、3つのスリット23bによって、断面が略扇形の3つの柱部24が画成される。
柱部24の各々の内面には、後壁23aの内面から前方へ向かって延びる突起部24aが形成されている。突起部24aの各々の前端面には、前方へ向かって鈍角に開いたV字形に画成されたV字形カム面25が形成されている。すなわち、ガイド部23の内面には、3つのV字形カム面25が形成されている。ガイド部23の後端面、すなわちガイド部23の後壁23aの後端面には、後方に向かって延在する中空の嵌合部26が形成されている。嵌合部26の外周面には、径方向外方へ延びる嵌合突起26aが形成されている。
操作部20は、内筒10内に前方から挿入される。その際、内筒10のガイド突起15は、操作部20のスリット23b内に配置され、したがって、操作部20の柱部24は、内筒10のガイド突起15間に配置される。内筒10のガイド突起15が、操作部20のスリット23b内に配置されることによって、操作部20は、中心軸線回りの回転が規制されると共に、スリット23bに沿って前後方向に移動可能となる。また、ガイド突起15上に設けられた突起部12の各々は、スリット23bを介して操作部20のガイド部23内に突出し、その突出量は、柱部24の内面からの突起部24aの突出量と略同一である。したがって、内筒10の突起部12と、操作部20の突起部24aとは、協働して、後述する主回転子30の内カム32に作用する。
図12は、ノック式筆記具1の主回転子30の斜視図であり、図13は、ノック式筆記具1の主回転子30の別の斜視図であり、図14は、ノック式筆記具1の主回転子30の縦断面図である。図12乃至図14において、上方がノック式筆記具1の前側である。
主回転子30は、大径部30aと、大径部30aの後方に形成され且つ操作部20内に挿入されて芯合わせに使用される小径部30bとから成る。大径部30aは小径部30bよりも大きな直径を有する。大径部30aの外径は、挿入される操作部20の円筒部21の内径より僅かばかり小さく設定されている。
大径部30aの外周面には、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に沿って延びる3つの縦溝31が形成されている。縦溝31の深さは、大径部30aと小径部30bとの半径の差よりは浅い。大径部30aには、3つの縦溝31によって画成された3つの突起部32aからなる内カム32が形成されている。大径部30aの後端面には、全周に亘って、操作部20のV字形カム面25と協働するカム受け面33が形成されている。すなわち、内カム32はカム受け面33を有する。
カム受け面33は、鋸刃状に形成されており、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した12の斜面34を有する。3つの斜面34において1つおきの斜面34aは、上述した縦溝31によって切り欠かれている。隣接する縦溝31との間の隣接する斜面34は、前後方向に沿って延びる縦壁面35によって接続されている。すなわち、カム受け面33は、3つの縦壁面35を有する。主回転子30のカム受け面33は、非対称的な鋸刃状に形成されているが、対称的に形成してもよい。
大径部30aの平坦な前端面には、主回転子30の中心軸線と同心状の円筒の内面を有する穴36が形成されている。穴36には、減速回転子40が挿入される。穴36の円筒の内面は、2つの異なる径を有し、それぞれの径は減速回転子40の後述する中径部40b及び小径部40cよりも僅かばかり大きい。穴36において、後端側に配置された小径の部分の後端面には、第2カム面である減速カム面37が形成されている。
減速カム面37は、鋸刃状に形成されており、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した6つの斜面38を有する。減速カム面37の隣接する斜面38は、前後方向に沿って延びる縦壁面39によって接続されている。減速カム面37の斜面38とカム受け面33の斜面34とは、互いに逆方向に傾斜している。
主回転子30は、操作部20内に前方から挿入される。主回転子30の内カム32は、ノック操作によって主回転子30が中心軸線回りに回転すると、外カム11と係合し又は係合解除する。すなわち、内カム32の突起部32aは、ノック操作によって主回転子30が中心軸線回りに回転すると、スリット23bを介して操作部20内に突出する外カム11の突起部12と係合し又は外カム11の突起部12間に配置される。内カム32が外カム11間に配置されるとき、外カム11の突起部12は内カム32の突起部32a間、すなわち縦溝31内に配置される。
操作部20のV字形カム面25及び主回転子30のカム受け面33は、内カム32が外カム11と係合し又は係合解除するとき、V字形カム面25とカム受け面33との位相がずれるように構成されている。このため、ノック操作によってV字形カム面25の斜面がカム受け面33の斜面34を押圧すると、この操作荷重及びスプリング6による付勢力に起因し、主回転子30は周方向の分力を受けて中心軸線回りに回転する。一方、操作部20は、上述したように、スリット23b内に内筒10のガイド突起15が配置されることによって、中心軸線回りの回転が規制される。
図15は、ノック式筆記具1の減速回転子40の斜視図であり、図16は、ノック式筆記具1の減速回転子40の別の斜視図であり、図17は、ノック式筆記具1の減速回転子40の縦断面図である。図15乃至図17において、上方がノック式筆記具1の前側である。減速回転子40は、主回転子30と同一の材料によって形成されるが、異なる材料で形成してもよい。
減速回転子40は、大径部40aと、大径部40aの後方に形成された中径部40bと、中径部40bの後方に形成された小径部40cとから成る。大径部40aは中径部40bよりも大きな直径を有し、中径部40bは小径部40cよりも大きな直径を有する。中径部40b及び小径部40cは、主回転子30の穴36内に挿入される。
大径部40aの外周面には環状の突起が形成され、環状の突起の前端面には第1カム受け面である第1減速カム受け面41が形成されている。第1減速カム受け面41は、鋸刃状に形成されており、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した6つの斜面42を有する。第1減速カム受け面41の隣接する斜面42は、前後方向に沿って延びる縦壁面43によって接続されている。
中径部40bの後端面には、主回転子30の減速カム面37に対向して配置され、且つ、減速カム面37と噛合するように相補的な形状の第2カム受け面である第2減速カム受け面44が形成されている。したがって、第2減速カム受け面44は、主回転子30の減速カム面37と同様に鋸刃状に形成されており、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した6つの斜面45を有する。第2減速カム受け面44の隣接する斜面45は、前後方向に沿って延びる縦壁面46によって接続されている。第1減速カム受け面41の斜面42と第2減速カム受け面44の斜面45とは、互いに逆方向に傾斜している。第1減速カム受け面41の斜面42は、外カム11の斜面13と同一方向に傾斜している。
大径部40aの後端面、すなわち減速回転子40の前端面には、平坦なリフィル支持面47が形成されている。リフィル支持面47は、スプリング6によって後方へ付勢されたリフィル5の後端面と常に当接している。したがって、減速回転子40は、リフィル5と共に前後方向に移動する。大径部40aの前端面には、平坦な回転子当接面48が形成されている。回転子当接面48は、主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とが噛合しているとき、主回転子30の後端面と当接している。
スプリング6の付勢力は、主として、減速回転子40のリフィル支持面47及び回転子当接面48を介して、操作部20及び主回転子30に伝達される。言い換えると、外カム11と内カム32とが係合しているとき以外は、操作部20、主回転子30及び減速回転子40は、一体となって移動する。
図18は、ノック式筆記具1のノックロック部材50の斜視図であり、図19は、ノック式筆記具1のノックロック部材50の別の斜視図である。図18及び図19において、上方がノック式筆記具1の前側である。
ノックロック部材50は、筒状の部材である。ノックロック部材50は、リフィル5によって貫通され、操作部20と軸筒2の係止部60との間を前後方向に移動可能である。ノックロック部材50の後端面には、操作部20のロックカム面22と相補的な形状のロックカム受け面51が形成されている。ロックカム受け面51は、操作部20のロックカム面22と同様に6つの山部51a及び谷部51bを有する。すなわち、ノックロック部材50のロックカム受け面51は、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した斜面である斜部51cと、前後方向に沿って延びる縦壁部51dとを有するように、山部51a及び谷部51bが構成されている。
ノックロック部材50の筒部50aの外周面には、6つの第1突起部52を有している。第1突起部52は、前後方向に延在し且つ周方向に沿って等間隔に配置されている。隣接する第1突起部52によって、前後方向に延在する6つのガイド溝53が画成されている。
第1突起部52の周方向における側面52a、特に前端部の側面52aには、周方向の凹部54が、それぞれ形成されている。凹部54の底面は、第1突起部52の周方向における側面52aと平行な側面55である。凹部54の後側の内面は、前後方向に対して垂直な平面に対して、周方向に傾斜した斜面56である。凹部54は、第1突起部52前方から後方に向かって見て、階段状に形成されている。第1突起部52の側面55はノックロック部材50の中心軸線回りの回転を規制する役割を果たしている。
ノックロック部材50のガイド溝53の各々は、対応する軸筒2の係止部60の第2突起部61をその内部に収容し、ガイド溝53内を前後に相対的に移動可能とさせている。
操作部20のロックカム面22及びノックロック部材50のロックカム受け面51は、係止部60の第2突起部61が、ノックロック部材50のガイド溝53内に収容されるとき、ロックカム面22の斜部22cが、周方向において、ロックカム受け面51の斜部51c上に位置するように構成されている。このため、例えば図1に示されるようにノック式筆記具1の前端を上向きにすると、ノックロック部材50が重力の作用によって操作部20に当接するが、ノックロック部材50の自重に起因し、ノックロック部材50は周方向の分力を受けて中心軸線回りに回転する。一方、操作部20は、スリット23b内に内筒10のガイド突起15が配置されることによって、中心軸線回りの回転が規制される。
第1突起部52の周方向における側面52aの後側には、周方向に突出する突起57が形成されている。突起57は、すべての第1突起部52の側面52aに設けられていてもよく、いずれか1つ又は複数の第1突起部52の側面52aに設けられていてもよい。突起57の前側は、平坦な係止面57aであり、それ以外の部分は曲面57bである。後軸4内にノックロック部材50を挿入する組み立て時に、突起57の曲面57bがあることによって、互いに係止することなく突起57又は第2突起部61が変形し、ノックロック部材50の抜けを防止しながら確実な挿入をすることができる。
図20は、ノック式筆記具1の消去部材70及び保持部材80の斜視図である。図20において、上方がノック式筆記具1の前側である。図20と共に図5も参照すると、消去部材70は、保持部材80の後端部に設けられ、保持部材80を介して操作部20の後端部に取り付けられている。言い換えると、操作部20の一部が消去部として機能している。消去部材70は、保持部材80に対して嵌合又は二色成形等によって設けられている。
消去部材70は、先端が半球状に形成された先細りの円柱状に形成されている。先端が半球状に形成されていることによって、擦過動作をする際のノック式筆記具1の把持の仕方(角度等)に依らず、略等しい面積を擦過することができる。なお、消去部材70の先端形状は、三角柱や四角柱等、その他の形状であってもよい。
保持部材80は、保持部本体81を有している。保持部本体81の前部は、前方に開口する筒状に形成されている。筒状の部分の外周面には、複数の矩形の開口82が形成されている。また、開口82より前方の外周面には、フランジ部83が形成されている。さらに、開口82より後方の外周面には、環状に形成され且つカバー部材90と嵌合する環状突起84が形成されている。保持部本体81の後部は、消去部材70と同様に先細りの円柱状に形成されている。
保持部材80は、操作部20の嵌合部26に対して嵌合によって取り付けられる。すなわち、操作部20の嵌合部26が保持部材80内に挿入されると、操作部20の嵌合突起26aが、保持部本体81の開口82内に嵌合する。
図21は、図1のノック式筆記具1のカバー部材90の斜視図であり、図22は、図21のカバー部材90の縦断面図である。カバー部材90は、外側部品であるスリーブ100と内側部品であるカバー本体110とを有し、全体として円錐台形状の外形を有している。図23は、図21のカバー部材90のスリーブ100の縦断面図であり、図24は、図21のカバー部材90のカバー本体110の縦断面図である。図21乃至図24において、上方がノック式筆記具1の前側である。カバー部材90は、保持部材80と着脱可能に嵌合している。保持部材80に設けられた消去部材70は、使用時以外は、カバー部材90によって覆われていることから、消去部材70の汚れを防止することが可能である。
図23を参照すると、スリーブ100は、前端及び後端が開口し、全体として先細りの筒状である。スリーブ100の前端部の外周面には、フランジ部101が形成され、スリーブ100の後端部の外周面には、フランジ部102が形成されている。スリーブ100の内径は、環状の斜面103を介して前端部から後方に向かって小さくなっている。環状の斜面103よりも後方のスリーブ100の内周面には、環状突起104が形成され、そのさらに後方のスリーブ100の後端部近傍の内周面には、環状突起105が形成されている。環状突起104及び環状突起105のそれぞれの前側には、スリーブ100の内径が前方に向かって大きくなるように、緩やかな斜面104a及び斜面105aがそれぞれ形成されている。環状突起104の後側には、平坦な係止面104bが形成されている。
図24を参照すると、カバー本体110は、前端が開口し且つ後端が閉鎖し、全体として先細りの筒状である。カバー本体110の後端面である、緩やかなドーム状に形成された頂面には、カバー本体110の内部まで貫通する3つの円弧状の円弧開口111が、周方向に沿って等間隔に形成されている。カバー本体110の頂面に円弧開口111が形成されていることによって、カバー部材90を幼児等が誤飲したとしても、気道を閉塞することなく安全性を確保することが可能となる。
カバー本体110の外周面には、カバー本体110の内部まで貫通し且つ前後方向に延びる、4つの長孔、すなわちスリット状の貫通孔112が、周方向に沿って等間隔に形成されている。カバー本体110の前端部の外周面には、フランジ部113が形成されている。フランジ部113の後面に隣接したカバー本体110の外周面には、4つの係合突起114が、周方向に沿って等間隔に形成されている。また、係合突起114の各々に対応する後方のカバー本体110の外周面には、4つの別の係止突起115が形成されており、そのさらに後方のカバー本体110の外周面には、4つのさらに別の係合突起116が形成されている。係止突起115の後側には、カバー本体110の外径が後方に向かって小さくなるように、緩やかな斜面115aが形成されている。係止突起115の前側には、平坦な係止面115bが形成されている。係止突起115の各々は、4つの貫通孔112の間に配置されている。カバー本体110の内周面には、4つの嵌合凸部117が、周方向に沿って等間隔に形成されている。
カバー部材90は、スリーブ100の前端の開口からカバー本体110を押し込んで挿入し、嵌合させることによって組み立てられる。カバー本体110をスリーブ100内に挿入すると、カバー本体110の係合突起116は、スリーブ100の環状突起104を容易に越えられるが、カバー本体110の係止突起115は、スリーブ100の環状突起104に干渉する。そこで、カバー本体110をスリーブ100に対して強く押し込むと、カバー本体110の係止突起115の斜面115aの各々がスリーブ100の斜面104aから径方向内方の力を受けて、係止突起115が径方向内方へ移動する。
すなわち、カバー本体110の外周面には、スリット状の貫通孔112が形成されていることから、2つの貫通孔112によって挟まれたカバー本体110の部分は、各貫通孔112の前端部間及び後端部間に挟まれた部分を基端とした両持ち梁118を構成する。したがって、各貫通孔112間に配置された係止突起115は、両持ち梁118上に配置されていることになる。よって、カバー本体110の係止突起115に径方向内方の力が加わると、両持ち梁118が径方向内方に弾性変形し、係止突起115は、スリーブ100の環状突起104を乗り越えることができる。
カバー本体110の係止突起115は、スリーブ100の環状突起104を乗り越えると、元の位置に復帰する。その結果、係止突起115の係止面115bと、環状突起104の係止面104bが係止可能な状態になることから、カバー本体110をスリーブ100から容易に外すことができなくなる。
スリーブ100内にカバー本体110をさらに挿入すると、カバー本体110の係合突起114が、スリーブ100の斜面103に当接して弾性変形又は塑性変形すると共に、カバー本体110の係合突起116が、スリーブ100の環状突起105に当接して弾性変形又は塑性変形し、組み立てが完了する。すなわち、スリーブ100及びカバー本体110は、カバー本体110の係合突起114とスリーブ100の斜面103との係合及びカバー本体110の係合突起116とスリーブ100の環状突起105との係合によって、しっかりと嵌合する。
なお、このとき、スリーブ100の斜面103と環状突起104との間の内周面において、カバー本体110の外周面が当接又は嵌合するように、スリーブ100の内周面又はカバー本体110の外周面が形成されていることが好ましい。それによって、スリーブ100及びカバー本体110を、さらにしっかりと嵌合させることが可能となる。
カバー部材90は、カバー本体110の嵌合凸部117が、対応する保持部材80の環状突起84に嵌合することによって、保持部材80に対して取り付けられる。取り付けられた状態では、カバー部材90の前端面は、保持部材80のフランジ部83の後端面と当接している。スリーブ100のフランジ部101は、内筒10の内周面と僅かなクリアランスを保って配置されるように、その外周面の形状が決定される。スリーブ100のフランジ部102は、消去部材70を使用する場合等にカバー部材90を保持部材80から取り外す際に、指を引っ掛けることができるように形成される。したがって、指が滑ることなくカバー部材90の取り外しを容易に行うことができる。
上述した構成によれば、スリーブ100及びカバー本体110の2部品が、容易に外れることなく一体的となって確実に嵌合したカバー部材90を実現することができる。すなわち、スリーブ100に対してカバー本体110が前方に抜けてしまうことを、係止突起115の係止面115bと環状突起104の係止面104bとの係止が防止し、スリーブ100に対してカバー本体110が後方に抜けてしまうことを、カバー本体110の係合突起114とスリーブ100の斜面103との係合及びカバー本体110の係合突起116とスリーブ100の環状突起105との係合が防止している。
特に、カバー本体110に複数の貫通孔112が形成されていることによって、係止突起115近傍のカバー本体110の外面の弾性変形を容易にし、スリーブ100及びカバー本体110の嵌合を容易にしている。また、カバー本体110の係合突起114とスリーブ100の斜面103との係合によって、カバー本体110が過剰にスリーブ100内に挿入されることを防止し、カバー本体110の係合突起116とスリーブ100の環状突起105との係合によって、カバー本体110のスリーブ100に対する径方向の揺動を防止している。
したがって、カバー部材90によれば、スリーブ100及びカバー本体110を容易に組み立てることができると共に組み立てられたスリーブ100及びカバー本体110は容易に外れることがない。
上述したように、貫通孔112は、スリーブとの係止部である係止突起115近傍のカバー本体110の外面の弾性変形を容易にするために形成されることから、係止突起115近傍のカバー本体110の外面を弾性変形可能にする限りにおいて、任意の形状、配置及び数であってもよい。
したがって、カバー本体110に対して、貫通孔を1つだけ形成してもよく、3つ以上形成してもよく、係止突起を1つだけ設けてもよく、3つ以上設けてもよい。貫通孔の形状は、スリット状以外に、円形や矩形であってもよい。また、スリーブ100とのカバー本体110の係止部として、突起ではなく、凹部であってもよい。カバー本体110の係止部を凹部に形成した場合には、対応するスリーブ100には、突起が形成される。さらに、カバー本体110に対して、貫通孔を前後方向に延びるように配置するのではなく、周方向に延びるように配置してもよい。
こうした構成は、特に、硬質な材料から形成されたスリーブ100に対し、より軟質な材料、すなわちより低硬度の材料から形成されたカバー本体110を嵌合させる場合に有利である。例えば、スリーブ100をステンレス等の金属材料で形成し、カバー本体110をポリカーボネート樹脂等の樹脂材料で形成してもよい。カバー部材90の外観の主要部分を占めるスリーブ100を金属材料で形成することによって、その光沢のある質感に起因する高級感を得ることができる。
なお、消去部材70を覆うためのカバー部材90を用いて上述した構成は、スリーブ100に相当する外側部品、及び、カバー本体110に相当する外側部品内に挿入される内側部品から構成される任意の部品に対して適用可能である。例えば、鉛筆芯等の不揮発性の固形芯からなる筆記部を保護するキャップにおいて、同様に構成してもよい。
消去部材70及びカバー部材90は、ノック式筆記具1が筆記状態であっても非筆記状態であっても、常に図5に示されるような位置、すなわち後退限に配置される。これに関し、上述したように、消去部材70は保持部材80を介して操作部20に取り付けられていることから、操作部20、消去部材70、保持部材80及びカバー部材90は、一体となって移動する。
図5に示されるように、操作部20の中空の嵌合部26の内部には、弾性部材である付勢スプリング7が配置されている。付勢スプリング7の一端は、主回転子30の小径部30bの後端面によって支持され、操作部20を後方へ付勢している。それによって、消去部材70及びカバー部材90は、ノック式筆記具1が筆記状態であっても非筆記状態であっても、軸線方向において常に同一位置、すなわち後退限に配置される。言い換えると、主回転子30はノック式筆記具1の状態に応じて前方又は後方に配置されるが、いずれの位置にあっても常に操作部20を後方へ付勢するように、付勢スプリング7の長さやばね定数が設定される。
消去部材70が常に後退限位置にあることから、消去部材70の軸筒2の後端部からの突出量は、非筆記状態及び筆記状態のいずれの場合も同一である。したがって、消去部材70を用いた当該ノック式筆記具1による筆跡の消去時に、筆記状態であっても非筆記状態であっても、消去部材70を等しく視認することができる。その結果、意図した箇所を容易に狙うことができ、正確な擦過動作を行うことが可能となる。
図25はノック式筆記具1の各カムの関係を示す模式図である。すなわち、図25は、ノック式筆記具1の筆記状態で且つ前端が下向きの状態において、内筒10の外カム11と操作部20と主回転子30と減速回転子40とノックロック部材50と係止部60との位置関係を示す模式図である。より詳細には、外カム11を周方向に展開したものに対して、操作部20のロックカム面22及びV字形カム面25と、主回転子30のカム受け面33及び減速カム面37と、減速回転子40の第1減速カム受け面41及び第2減速カム受け面44と、ノックロック部材50のロックカム受け面51及び第1突起部52と、軸筒2の係止部60との位置を示したものである。
ただし、主回転子30の減速カム面37及び減速回転子40の第2減速カム受け面44は、その他のカムよりも径方向内方に配置されているため、便宜上、図25において、軸線方向の対応する位置に同様に示している。図25において、上方がノック式筆記具1の前側であり、下方がノック式筆記具1の後側である。また、図25において、ノック式筆記具1の前端は下向きであることから、重力は図中上方に向かって作用している。
ノック式筆記具1の筆記状態において、内カム32は外カム11と係合し、それによって筆記状態が維持される。すなわち、内カム32のカム受け面33の斜面34及び縦壁面35が、外カム11の突起部12の斜面13及び縦壁面14と係合することによって、主回転子30の後退及び回転が規制されている。このとき、主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とが噛合している。また、詳細は後述するが、ノック式筆記具1の前端が下向きであることから、ノックロック部材50は、前方へ移動し、係止部60と係止していない。すなわち、操作部20の移動が規制されることはなく、ノック操作を行うことができる。
図26は、ノック式筆記具1の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示す模式図である。主回転子30は、上述した操作部20のV字形カム面25と主回転子30のカム受け面33とのカム機構によって回転力を与えられ、ノック操作毎に図の左から右へ移動する。なお、図26の模式図は、便宜上、主回転子30の減速カム面37及び減速回転子40の第2減速カム受け面44を図中の下方にずらして表示している以外、図25の模式図と同様である。
図26(a)は、ノック式筆記具1の筆記状態で且つ前端が上向きの状態を示す模式図であり、図1に示されたノック式筆記具1の状態である。主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とは、噛合している。図25に示されたノックロック部材50の状態との違いは、ノックロック部材50の位置である。すなわち、図26(a)において、ノック式筆記具1の前端が上向きであることから、重力は図中下方に向かって作用している。
ノック式筆記具1の前端を上に向けることによって、ノックロック部材50は、後方へ移動して操作部20に当接する。ノックロック部材50は、上述したように、自重に起因する周方向の分力を受けて中心軸線回りに回転する。すなわち、操作部20のロックカム面22とノックロック部材50のロックカム受け面51とが協働してノックロック部材50を中心軸線回りに回転させる。その回転の結果、ノックロック部材50が係止部60と係止し、操作部20の前方への移動が阻止される。
詳細には、係止部60の第2突起部61が、ノックロック部材50の第1突起部52の凹部54内に収容されることによって、ノックロック部材50と係止部60とが係止状態になる。言い換えると、筆記状態において、係止部60の第2突起部61がノックロック部材50の第1突起部52の凹部54内に収容されるように、凹部54は、係止部60の第2突起部61の一部と相補的な形状となるよう構成される。したがって、第2突起部61の斜面62は、凹部54の斜面56と同じ傾きを有する。この状態で、操作部20を強く押圧して前方へ移動させようとしても、係止部60の第2突起部61がノックロック部材50の凹部54内に収容される方向の分力が強くなるだけであって、係止状態が解除されることはない。
図26(b)は、ノック式筆記具1の筆記状態で且つ前端が下向きの状態を示す模式図であり、図2に示されたノック式筆記具1の状態の模式図である。したがって、重力は図中上方に向かって作用している。ノック式筆記具1の前端を下に向けることによって、ノックロック部材50は、操作部20との関係において自由になる。他方、ノックロック部材50は、自重によって第1突起部52を介して係止部60を押圧する。すなわち、ノックロック部材50の自重に起因し、第1突起部52の凹部54の斜面56は、係止部60の第2突起部61の斜面62から周方向の分力を受ける。その結果、ノックロック部材50は、図26(a)の場合とは逆の中心軸線回りに回転し、第2突起部61がガイド溝53内に案内される。すなわち、ノックロック部材50と係止部60との係止状態が解除され、操作部20の前方への移動が可能な状態となる。ノックロック部材50の前方への移動は、第2突起部61が突起57の係止面57aと当接することによって、停止する。
図26(c)は、ノック式筆記具1の非筆記状態に移行中で且つ前端が下向きの状態を示す模式図である。したがって、重力は図中上方に向かって作用している。スプリング6及び付勢スプリング7の付勢力に抗して操作部20を押圧し、操作部20を前方へ移動させると、操作部20のV字形カム面25が、主回転子30のカム受け面33の斜面34と当接し、主回転子30及び減速回転子40が前方へ移動する。それによって、内カム32のカム受け面33の縦壁面35の後端部が前後方向において外カム11の突起部12の前端部を越える。このとき、主回転子30のカム受け面33の斜面34と外カム11の斜面13とが一致し、外カム11の突起部12の縦壁面14による、主回転子30の中心軸線回りの回転の規制は、解除される。主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とは、噛合している。
図26(c)の状態から操作部20の押圧を解除すると、操作部20、主回転子30及び減速回転子40は、スプリング6の付勢力によって後退する。このとき、主回転子30の中心軸線回りの回転は、外カム11の突起部12の縦壁面14によって規制されていない。そのため、リフィル5及び減速回転子40を介したスプリング6の付勢力によって、主回転子30のカム受け面33の斜面34が外カム11の斜面13又は操作部20のV字形カム面25を押圧し、主回転子30は周方向の分力を受けて中心軸線回り(ノック式筆記具1を前方から見たときに反時計回り)に回転する。
主回転子30は回転しながら後退するため、図26(d)に示されるように、内カム32の突起部32aが外カム11の突起部12間に配置され、外カム11の突起部12は内カム32の突起部32a間、すなわち縦溝31内に配置される。その結果、外カム11と内カム32との係合は解除される。
図26(d)の状態から、操作部20、主回転子30及び減速回転子40が一体となってさらに勢い良く後退すると、ノック式筆記具1の非筆記状態への切り替え終了の直前、すなわちリフィル5の後方への移動中、本実施形態ではリフィル5の後方への移動の停止の直前に、図26(e)に示されるように、減速回転子40の第1減速カム受け面41の斜面42が、外カム11の斜面13と当接する。
図26(e)の状態において、リフィル5を介したスプリング6の付勢力によって減速回転子40の第1減速カム受け面41の斜面42が外カム11の斜面13を押圧すると、減速回転子40は周方向の分力を受けて中心軸線回りに回転する。すなわち、外カム11の斜面13は、リフィル5の後方への移動中に、減速回転子40の第1減速カム受け面41と協働して減速回転子40を中心軸線回りに回転させる。言い換えると、減速回転子40の第1減速カム受け面41の斜面42が、外カム11の斜面13の斜面に対してスライドする。すなわち、減速回転子40は、リフィル5の後方への移動中に第1減速カム受け面41が外カム11と作用して減速回転子40が後方へ移動しながら回転運動する。また、このスライドと同時に、減速回転子40の第2減速カム受け面44の斜面45が、主回転子30の減速カム面37の斜面38に対してスライドし、主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44との噛合は解除される。
減速回転子40の回転は、第1減速カム受け面41の縦壁面43が、外カム11の突起部12の縦壁面14と衝突することによって停止する。なお、減速回転子40の回転方向は、主回転子30の回転方向と同一である。
図26(f)は、減速回転子40の回転が停止し、非筆記状態への切り替えが終了した状態、すなわちリフィル5の後方への移動が停止した状態を示す模式図であり、図3に示されたノック式筆記具1の状態の模式図である。このとき、第1減速カム受け面41の斜面42及び縦壁面43が、外カム11の突起部12の斜面13及び縦壁面14と係合することによって、減速回転子40の後退及び回転が規制されている。そのため、操作部20及び主回転子30の後退も同様に規制される。操作部20、主回転子30及び減速回転子40の後退が規制されるので、リフィル5の後退も規制される。その結果、ノック式筆記具1の非筆記状態が維持される。
図26(a)に示されたノック式筆記具1の筆記状態から、図26(f)に示されるように減速回転子40の斜面42が外カム11の斜面13と当接するまでの間、主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とは噛合している。他方、上述したように、リフィル5の後方への移動中に減速回転子40が回転することによって、主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44との噛合は解除される。
減速回転子40の回転、言い換えると、外カム11の斜面13に対する減速回転子40の第1減速カム受け面41の斜面42のスライド、及び、主回転子30の減速カム面37の斜面38に対する減速回転子40の第2減速カム受け面44の斜面45のスライドは、これら斜面同士の摩擦抵抗に抗して行われる。すなわち、非筆記状態への切り替えの際にリフィル5はスプリング6の付勢力によって勢い良く後方へ移動するが、その運動エネルギーの一部は、リフィル5の後方への移動中に、減速回転子40の回転による運動エネルギー及び上述した斜面のスライドによって発生した摩擦熱へと変換される。その結果、リフィル5の停止時に加わる衝撃は、回転による運動エネルギー及び摩擦熱へと変換された運動エネルギーの分だけ減少し、緩和される。
一般に、ノック式筆記具では、筆記状態から非筆記状態への切り替えの際にリフィルに加わる衝撃によって、リフィル内のインク中に気泡が生じてしまう場合がある。すなわち、筆記状態から非筆記状態への切り替えの際に、リフィルは、スプリングの付勢力によって勢い良く後方へ移動し、その停止時に衝撃が加わる。リフィル内に、特に、粘度の低いインクや剪断減粘性インクを収容している場合には、その衝撃によってインクが後退し、筆記部よりリフィル中に空気が混入する可能性がある。この場合、インク中に気泡が生じ、筆記不良を引き起こす虞がある。(なお、インクが後退することによってリフィル中に空気が混入する現象のことを、以下、「インクバック」という。)
そこで、上述したように、非筆記状態への切り替えの際のリフィル5の後方への移動中に、その運動エネルギーを減少させることで、リフィル5に加わる衝撃を常に緩和することができ、それによってインクバックの発生を防止することができる。
また、リフィル5に加わる衝撃の結果として生じるインクバックは、特にリフィル5の停止によって加わる前後方向の衝撃によって生じやすいが、それと異なる方向の衝撃を同時に加えることで、インクバックの発生を抑制することができる。具体的には、減速回転子40の回転を停止させる際の衝撃、すなわち、第1減速カム受け面41の縦壁面43が外カム11の突起部12の縦壁面14と周方向に衝突する際の衝撃を利用することができる。
さらに、主回転子30と減速回転子40とによって閉鎖された空間、すなわち略密閉された空間が画成されている。詳細には、主回転子30の穴36の内周面と、穴36に挿入された減速回転子40の中径部40b及び小径部40cとの間に空間Sが画成されている。上述したような、主回転子30に対する減速回転子40の回転、及び、減速回転子40の回転による主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44との噛合の変化に起因し、空間Sの体積の変化、すなわち圧縮及び膨張が行われる。空間Sの体積の変化によって内部の圧力が複雑に変化し、それによってリフィル5の後方への移動中に、リフィル5の移動速度を低減させるようなダンパー効果を生じさせる。結果として、リフィル5の停止時に加わる衝撃を緩和することができる。
ノック式筆記具1は、上述したように、操作部20の中空の嵌合部26の内部に、一端が主回転子30によって支持された付勢スプリング7を有しているが、付勢スプリング7も同様に、リフィル5の停止時に加わる衝撃を緩和する効果を奏する。
図27は、ノック式筆記具1の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す模式図である。図27の模式図は、図26と同様の模式図であり、図中、上方がノック式筆記具1の前側であり、下方がノック式筆記具1の後側である。
図27(a)は、ノック式筆記具1の非筆記状態で且つ前端が上向きの状態を示す模式図であり、図4に示されたノック式筆記具1の状態の模式図である。主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とは、図26(e)及び図26(f)を参照しながら上述したように、噛合していない。重力は図中下方に向かって作用している。そのため、図26(a)を参照しながら上述したように、ノックロック部材50は、係止部60と係止し、操作部20の前方への移動が阻止されている。すなわち、図27(a)の模式図は、ノックロック部材50が係止部60と係止している以外、図26(f)の模式図と同様である。
図27(b)は、ノック式筆記具1の非筆記状態で且つ前端が下向きの状態を示す模式図であり、図3に示されたノック式筆記具1の状態の模式図である。したがって、重力は図中上方に向かって作用している。ノック式筆記具1の前端を下に向けることによって、図26(b)を参照しながら上述したように、ノックロック部材50と係止部60との係止状態が解除され、操作部20の前方への移動が可能な状態となる。
図27(c)は、ノック式筆記具1の筆記状態に移行中で且つ前端が下向きの状態を示す模式図である。したがって、重力は図中上方に向かって作用している。スプリング6及び付勢スプリング7の付勢力に抗して操作部20を押圧し、操作部20、主回転子30及び減速回転子40を前方へ移動させると、減速回転子40が中心軸線回りに回転する。すなわち、操作部20の押圧前は、主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とは噛合していない、すなわち位相がずれていることから、減速回転子40の第2減速カム受け面44が、主回転子30の減速カム面37から周方向の分力を受ける。その結果、減速回転子40は、図26(e)を参照しながら上述した方向と逆の方向、すなわち主回転子30の減速カム面37と減速回転子40の第2減速カム受け面44とが噛合する方向に、減速回転子40が中心軸線回りに回転する。
この状態からさらに操作部20を押圧すると、内カム32のカム受け面33の縦壁面35の後端部が前後方向において外カム11の突起部12の前端部を越える。このとき、主回転子30のカム受け面33の斜面34と外カム11の斜面13とが一致し、外カム11の突起部12の縦壁面14による、主回転子30の中心軸線回りの回転の規制は、解除される。
図27(c)の状態から操作部20の押圧を解除すると、操作部20、主回転子30及び減速回転子40は、スプリング6の付勢力によって後退する。このとき、主回転子30の中心軸線回りの回転は、外カム11の突起部12の縦壁面14によって規制されていない。そのため、リフィル5及び減速回転子40を介したスプリング6の付勢力によって、主回転子30のカム受け面33の斜面34が外カム11の斜面13又は操作部20のV字形カム面25を押圧し、主回転子30は周方向の分力を受けて中心軸線回り(ノック式筆記具1を前方から見たときに反時計回り)に回転する。すなわち、主回転子30の内カム32は、外カム11の斜面13の斜面に沿って移動する。その結果、主回転子30の内カム32は外カム11と係合し、それによって筆記状態が維持される(図27(d))。なお、操作部20は、付勢スプリング7の付勢力によって後退し、元の位置に復帰する(図27(e))。
ところで、ノックロック部材を有する従来のノック式筆記具は、図29及び図30を参照しながら説明したように、一連の擦過動作において、ノックロック部材と係止部との係止が意図せず解除されてしまう場合があった。その原因を調査及び検証した結果、図29において、第1突起部152の斜面156又は第2突起部161の斜面162の傾斜角度と、ノックロック部材の斜部151c又はロックカム面122の斜部122cの傾斜角度との間の関係が、重要であることが判明した。
すなわち、従来のノック式筆記具では、図29に示されるように、ノック式筆記具の軸線方向に対する各斜面の成す角度が、同一の角度γとなるように形成されていた。そのため、図29において、斜面156、斜面162、斜部151c及び斜部122cは、互いに平行になるように形成されていた。その結果、ノックロック部材と係止部との係止が外れる方向のノックロック部材の意図しない回転が、発生しやすい状況にあった。これに対し、本実施形態の構成について、図28を参照しながら説明する。
図28は、図1のノック式筆記具1の各カムの関係を示す別の模式図である。図28(A)は、ノック式筆記具1の前端を上向きにして、ノックロック部材50が重力の作用によって操作部20に当接するときの図であり、図28(B)は、ノックロック部材50が、操作部20に当接してその中心軸線回りに回転した後の状態の図である。また、図28(C)は、ノックロック部材50が意図せず回転した場合の配置を明確にするための図である。すなわち、ノックロック部材50が意図せず回転した場合には、図30(A)から図30(C)に示されるように、各斜面が傾斜して係止することから、図28(C)のような配置は、実際に発生する状態ではなく、軸線方向の潜在的なクリアランスの関係を説明するため便宜上のものである。
本実施形態では、各斜面が互いに平行ではない。詳細には、対向する斜面は平行であるが、第1突起部52の斜面56又は対向する第2突起部61の斜面62の傾斜角度と、ノックロック部材50の斜部51c又は対向するロックカム面22の斜部22cの傾斜角度とは、同一ではない。すなわち、第1突起部52の斜面56及び第2突起部61の斜面62は、ノック式筆記具1の軸線方向に対して同一の傾斜角度αである。また、ノックロック部材50の斜部51c又はロックカム面22の斜部22cは、ノック式筆記具1の軸線方向に対して同一の傾斜角度βである。
傾斜角度α及び傾斜角度βは、同一ではなく、好ましくは、α>βの関係にある。傾斜角度α及び傾斜角度βがα>βの関係であることによって、ノックロック部材50と係止部60との係止が解除される方向のノックロック部材50の意図しない回転の発生が、抑制される。
詳細に説明すると、まずα=βの場合、すなわち傾斜角度γとして図29及び図30に示されるような従来のノック式筆記具では、擦過動作中に、ノックロック部材が意図しない方向に回転したとしても、ノックロック部材と係止部との係止が解除されるまで、前後方向のクリアランス(ノックロック部材と係止部とのクリアランス)は距離d3で一定である。よって、繰り返しの擦過動作によって、ひとたびノックロック部材の意図しない方向の回転が開始すると、それが継続して起こりやすい。
他方、本実施形態のようなα>βの場合、図28(B)に示された状態における、前後方向のクリアランスを距離d1とすると、ノックロック部材50が意図しない方向に回転するにしたがって、その潜在的なクリアランスは徐々に小さくなる。例えば、図28(C)では、前後方向の潜在的なクリアランスは距離d2であり、d1>d2の関係にある。よって、繰り返しの擦過動作によって、ノックロック部材の意図しない方向の回転が開始したとしても、それが継続して起こりにくい。すなわち、第1突起部52の斜面56と第2突起部61の斜面62との当接又はノックロック部材50の斜部51cとロックカム面22の斜部22cとの当接が、ひとたび点ではなく面で行われると、再び正しい位置(図28(B)に示された位置)に復帰する。
そして、傾斜角度αと傾斜角度βの差(α−β)は、5°以下であることが好ましい。この差が大きいと前後方向のクリアランスがより大きくなり、擦過動作のために操作部20の消去部材70を筆記面に押し当てたときに、ノックロック部材50が係止部60と係止するまでの距離が大きくなる。その結果、安定した擦過動作等を行うことができなくなってしまうことから、上述の範囲が好ましい。
上述した実施形態では、互いに協働する外カム及び減速回転子の第1減速カム受け面の組み合わせと、互いに協働する主回転子の減速カム面及び減速回転子の第2減速カム受け面の組み合わせとを有していたが、いずれか一方の組み合わせのみを有するようにしてもよい。また、外カム及び減速回転子の第1減速カム受け面の対応するそれぞれの形状、及び、主回転子の減速カム面及び減速回転子の第2減速カム受け面の対応するそれぞれの形状は、リフィルの後方への移動中に、互いに協働して減速回転子を回転させることができる限りにおいて、任意に採用し得る。
さらに、上述した実施形態による構成を、その他のタイプのノック式筆記具に適用してもよい。例えば、上述した主回転子は、軸筒に設けられた外カムと係合し又は係合解除することで筆記状態と非筆記状態とが切り替えられたが、軸筒に取り付けられた別体の部材に設けられた外カムと係合し又は係合解除するようにしてもよい。また、上述した係合部材である主回転子は、ノック操作に応じて回転したが、これに代えて、回転しない係合部材を用いて、軸筒に設けられた外カムと係合し又は係合解除することで筆記状態と非筆記状態とを切り替えるようにしてもよい。まとめると、係合部材が軸筒側に設けられた外カムと係合し又は係合解除することで筆記状態と非筆記状態とが切り替えられるノック式筆記具に適用可能である。さらに、操作部とは別の解除部を押圧することで非筆記状態に切り替えられるノック式筆記具に対しても適用可能である。別の解除部とは、例えば、軸筒の外周面に設けられた解除ボタンである。
さらに、上述した実施形態では、減速回転子を、第1カム面としての外カムと協働させて中心軸線回りに回転させた。すなわち、主回転子と係合又は係合解除する係合部と、減速回転子を回転させる第1カム面とが同一であったが、それぞれ別体に設けてもよい。この場合、係合部及び第1カム面のいずれか一方又は両方を、軸筒側、すなわち軸筒の内面に設けてもよく、軸筒に取り付けられた別体の部材に設けてもよい。
要するに、ノック式筆記具1によれば、軸筒2と、該軸筒2内に配置されたリフィル5と、リフィル5を後方に付勢するスプリング6と、ノック操作の際にスプリング6の付勢力に抗して前方へ押圧される操作部20と、係合部材とを具備し、係合部材が軸筒2側に設けられた係合部と係合し又は係合解除することで筆記状態と非筆記状態とが切り替えられ、リフィル5と共に前後方向に移動する減速回転子40と、リフィル5の後方への移動中に減速回転子40と協働して減速回転子40を中心軸線回りに回転させる第1カム面とをさらに具備する。
係合部材がノック操作に応じて中心軸線回りに回転して筆記状態と非筆記状態とが切り替えられるようにしてもよい。第1カム面が軸筒2側の内面に形成され、減速回転子40が第1カム面と協働する第1カム受け面を有し、リフィル5の後方への移動中に第1カム受け面が第1カム面と作用して減速回転子40が後方へ移動しながら回転運動するようにしてもよい。係合部材が第2カム面を有し、減速回転子40が第2カム面と協働する第2カム受け面を有し、リフィル5の後方への移動中に第2カム受け面が第2カム面に対してスライドするようにしてもよい。第1カム受け面と、対応する第2カム受け面とが、互いに逆方向に傾斜した斜面を有するようにしてもよい。減速回転子40の回転が、軸筒2側の内面に設けられた規制面との衝突によって停止するようにしてもよい。第1カム面と係合部とが同一であってもよい。係合部材と減速回転子40とによって閉鎖された空間が画成され、リフィル5の後方への移動中に空間の体積が変化するようにしてもよい。
ノック式筆記具1がノックロック部材50を有することによって、筆記状態で且つ前端が上向き状態において、操作部20の前方への移動が阻止され、ノック操作ができない。したがって、消去部材70を用いた当該ノック式筆記具1による筆跡の消去時に、安定した擦過動作を行うことが可能となる。すなわち、ノック式筆記具1を持ち替えて消去部材70を筆記面に対して押圧して擦過動作を行っても、消去部材70ががたつくことがない。
ノックロック部材50は、重力によって軸筒2内を前後方向に移動可能であれば任意の形状であってもよい。ノックロック部材50の第1突起部52の数及び対応する係止部60の第2突起部61の数は、同じであってもよく又は異なっていてもよく、任意に設定可能である。それぞれ1つでもよく、2つ以上の複数であってもよい。また、ノックロック部材50の第1突起部52の一部及び対応する係止部60の第2突起部61の凹部の形状は、相補的でなくても互いに係止可能であれば任意の形状を採用可能である。また、係止部60、すなわち第2突起部61は、軸筒2側に設けられていればよく、したがって、軸筒2の内面に設けてもよく、軸筒2に取り付けられた別体の部材に設けてもよい。
ノックロック部材50について以上をまとめると、ノック式筆記具1によれば、軸筒2と、操作部20と、主回転子30とを具備し、操作部20を前方に押圧するノック操作を行うことによって、筆記状態と非筆記状態とが切り替え可能であり、重力によって軸筒2内を前後方向に移動可能なノックロック部材50と、軸筒2側に設けられ、ノックロック部材50と係止可能な係止部60とをさらに具備し、軸筒2の前端を上方へ向けると、ノックロック部材50が後方へ移動して係止部60と係止し、操作部20の前方への移動が阻止される。
ノックロック部材50は筒状の部材であってもよい。操作部20がノックロック部材50に対向するロックカム面22を有し、ノックロック部材50がロックカム面22と協働するロックカム受け面51を有し、ノックロック部材50が後方へ移動すると、ロックカム面22とロックカム受け面51とが協働してノックロック部材50を中心軸線回りに回転させ、ノックロック部材50と係止部60とが係止状態になるようにしてもよい。操作部20がノックロック部材50に対向するロックカム面22を有し、主回転子30が操作部20内に配置されるようにしてもよい。ノックロック部材50が第1の突起部52を有し且つ係止部60が第2の第2突起部61を有し、ノックロック部材50が中心軸線回り回転すると第1の突起部52と第2の第2突起部61とが係止することによって、ノックロック部材50と係止部60とが係止状態になるようにしてもよい。操作部20の全部又は一部が、当該ノック式筆記具1の筆跡を消去可能な消去部材70であってもよい。第1の突起部52又は第2の第2突起部61の側面には凹部が形成され、該凹部によって第1の突起部52と第2の第2突起部61とが係止するようにしてもよい。複数の第1の突起部52及び複数の第2の第2突起部61が、それぞれ周方向に沿って等間隔に配置され、第1の突起部52又は第2の第2突起部61の一方の突起部間に前後方向に延在するガイド溝を画成し、他方の突起部が、ノックロック部材50の前後方向の移動に応じてガイド溝内を移動するようにしてもよい。凹部が、係止する突起部をガイド溝内へ案内する斜面を有するようにしてもよい。
上述した実施形態では、操作部20及びノックロック部材50の両方が、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した第1斜面、すなわち斜部22c及び斜部51cを有していたが、いずれか一方のみが斜面を有するようにし、他方は当該斜面をスライド可能に受けるような形状であってもよい。また、ノックロック部材50及び係止部60の両方が、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した第2斜面、すなわち斜面56及び斜面62を有していたが、いずれか一方のみが斜面を有するようにし、他方は当該斜面をスライド可能に受けるような形状を形状であってもよい。
ノックロック部材50は、ユリア、メラミン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、フッ素等の樹脂材料で形成してもよい。ノックロック部材50を形成する材料の比重は、1.2g/cm3以上であることが好ましい。また、ノックロック部材50は、操作部20及び係止部60とのスライドをよりスムーズに行うため、樹脂材料により比重の高い物質、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、粒状無機フィラーを混合し、より重いノックロック部材50を形成してもよい。例えば、上述したポリアセタール(比重1.42g/cm3)に対し、ガラスビーズを25%添加したポリアセタール(比重1.59g/cm3)を用いてノックロック部材50を形成してもよい。その結果、微小なガラスビーズの一部が、ノックロック部材50の斜面の表面、すなわち斜部51c又は斜面56の表面に露出し、操作部20及び係止部60との間の摩擦抵抗が軽減されることからスライドがよりスムーズになる。したがって、ガラスビーズを含有する任意の材料で、ノックロック部材50を形成するのが好ましい。
さらに、ノック式筆記具1の全体重量を15g以下にすると、ノックロック部材を有さない他の筆記具と同等の重さであるため、同様の使用感が得られることから好ましい。
上述した実施形態におけるリフィル5は、熱変色性色材を含有する熱変色性インクを収容してもよい。この場合、ノック式筆記具1はノック式熱変色性筆記具であり、消去部材としての摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、ノック式筆記具1の筆跡を熱変色可能である。
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば−5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いたノック式筆記具1では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
熱変色性色材となる熱変色性マイクロカプセル顔料としては、摩擦熱等の熱により変色するもの、例えば、有色から無色、有色から有色、無色から有色などとなる機能を有するものであれば、特に限定されず、種々のものを用いることができ、少なくともロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、マイクロカプセル化したものが挙げられる。
用いることができるロイコ色素としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインクを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という。)用いることができる。
具体的には、6−(ジメチルアミノ)−3,3−ビス[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1(3H)−イソベンゾフラノン、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジメチルアミノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジブチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−エチルイソアミルアミノフルオラン、2−メチル−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(N−フェニル−N-−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(3’−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メトキシ−7−アニリノフルオラン、3,6−ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン、メチル−3’,6’−ビスジフェニルアミノフルオラン、クロロ−3’,6’−ビスジフェニルアミノフルオラン、3−メトキシ−4−ドデコキシスチリノキノリン、などが挙げられる。
これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。
用いることができる顕色剤は、上記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものであり、例えば、フェノール樹脂系化合物、サリチル酸系金属塩化物、サリチル酸樹脂系金属塩化合物、固体酸系化合物等が挙げられる。
具体的には、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス( 4’−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナンなどの少なくとも1種が挙げられる。
用いる顕色剤の使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、上述したロイコ色素1質量部に対して、0.1〜100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
用いることができる変色温度調整剤は、上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。
より具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート(C7H15)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジラウレート(C11H23)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジミリステート(C13H27)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタンジミリステート(C13H27)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジパルミテート(C15H30)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジベヘネート(C21H43)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエチルヘキシリデンジミリステート(C13H27)等の少なくとも1種が挙げられる。
この変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、ロイコ色素1質量部に対して、1〜100質量部程度の範囲内で使用するのが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、少なくとも上記ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、平均粒子径が0.2〜5μmとなるように、マイクロカプセル化することにより製造することができる。マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、イソシアネート系樹脂溶液などを徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。
これらのロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の含有量は、用いるロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の種類、マイクロカプセル化法などにより変動するが、当該色素1に対して、質量比で顕色剤0.1〜100、変色温度調整剤1〜100である。また、カプセル膜剤は、カプセル内容物に対して、質量比で0.1〜1である。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、上記ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度(例えば、0℃以上で発色)、消色温度(例えば、50℃以上で消色)を好適な温度に設定することができ、摩擦熱等の熱により有色から無色となることが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料では、描線濃度、保存安定性、筆記性の更なる向上の点から、壁膜がウレタン樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、あるいはアミノ樹脂で形成されることが好ましい。ウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネートとポリオールとの化合物が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂とアミンの化合物が挙げられる。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。マイクロカプセル色材の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性、安定性、インク中での流動性の点、並びに、筆記性への悪影響を抑制、後述する光変色性マイクロカプセル顔料との相用性などの点から、好ましくは、0.2〜5μm、さらに好ましくは、0.3〜3μmである。なお、ここで規定する「平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320−X100(日機装社製)〕にて、平均粒子径(50%径)を測定(屈折率1.8)した値である。
この平均粒子径が0.2μm未満であると、十分な描線濃度が得られず、一方、5μmを越えると、筆記性の劣化、熱変色性マイクロカプセル顔料の分散安定性の低下、振動によるインクバックが発生しやすくなり好ましくない。さらには90%径が8μm以下、好ましくは6μm以下である。径が大きい粒子が一定割合以上存在すると、上述した影響がより顕著になる傾向がみられる。なお、上述した平均粒子径の範囲(0.2〜5μm)となるマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により変動するが、水溶液からの相分離法などでは、マイクロカプセル顔料を製造する際の攪拌条件を好適に組み合わせることにより調製することができる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、0.9〜1.3、好ましくは1.0〜1.2の範囲である。比重がこの範囲外であると、マイクロカプセル顔料の分散安定性が低下しやすい。また、比重が1.3を超えるマイクロカプセル顔料は、振動によってインクバックが発生しやすい。
筆記具用水性インク組成物において、上記熱変色性マイクロカプセル顔料の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、その効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
これらのうち、インクバックによる筆記部でのインク固化を抑制する目的として、グリセリンを用いることが好ましく、その添加量はインク全量に対して1〜10質量%であることが好ましい。グリセリンによる作用のメカニズムは不明だが、乾燥状態における顔料及びインク成分との凝集力を低下させる効果があるものと推察される。
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
これらのうち、多糖類を使用することが好ましい。多糖類はそのレオロジー特性から、振動による流動性への影響を受けにくい傾向があり、インクバックに起因する筆記不良等の不具合が生じにくい。特にキサンタンガムは、筆記具インクに要求されるその他の特性とのバランスに優れており好ましい。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
この筆記具用水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記熱変色性、光変色性マイクロカプセル顔料の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
筆記具用水性インク組成物の粘度値は、25℃、剪断速度3.83/sにおいて、500〜2000mPa・s、剪断速度383/sにおいて20〜100mPa・sであることが好ましい。上記粘度範囲に設定することによって、筆記性と経時安定性に優れたインクとすることができる。さらに、S=αDn(但し、1>n>0)(Sは剪断応力(dyn/cm2)、Dは剪断速度(s-1)、αは非ニュートン粘性係数)で示される粘性式で求められる非ニュートン粘性指数nが、0.2〜0.6であることが好ましい。上記粘度範囲に加えて非ニュートン粘性指数nを上記範囲とすることで、振動に対するインクの流動性を適切に設定することが可能となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
筆記具用水性インク組成物の表面張力は、25〜45mN/m、さらには30〜40mN/mであることが好ましい。この範囲内であれば、ペン先内部とインクの濡れ性のバランスが適切となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
リフィル内においては、インクのすぐ後方にインク追従体を配置してもよい。追従体を構成する材料としては、少なくとも、不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤と、増粘剤とにより構成することができる。インク追従体に使用する不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、インク追従体の基油として用いるものであり、例えば、流動パラフィンが用いられる。流動パラフィンには、鉱物油、化学合成油が用いられ、化学合成油としては、ポリブテン、ポリα−オレフィン、エチレンα−オレフィンオリゴマーなどを用いることができる。
用いることができる具体的な鉱物油としては、例えば、市販品のダイアナプロセスオイルNS−100、PW−32、PW−90、NR−68、AH−58(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリブテンとしては、例えば、市販品のニッサンポリブテン200N、ポリブテン30N、ポリブテン10N、ポリブテン5N、ポリブテン3N、ポリブテン015N、ポリブテン06N、ポリブテン0N(以上、日本油脂社製)、ポリブテンHV−15(日本石油化学社製)、35R(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリα−オレフィンとしては、例えば、市販品のバーレルプロセス油P−26、P−46,P−56、P−150,P−350,P−1500、P−2200、(P−10000、P−37500)(松村石油社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なエチレンα−オレフィンオリゴマーとしては、例えば、市販品のルーカント HC−10、HC−20、HC−100、HC−150、(HC−600、HC−2000) (以上、三井化学社製)などが挙げられる。
これらの不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、1種または2種以上を合わせて使用することができる。
インク追従体に使用する増粘剤としては、例えば、リン酸エステルのカルシウム塩、微粒子シリカ、ポリスチレン−ポリエチレン/ブチレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマー、ポリスチレン−ポリエチレン/プロピレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマー、水添スチレン−ブタジエンラバー、スチレン−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマー及びアセトアルコキシアルミニウムジアルキレートなどが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上用いることができる。
用いることができるリン酸エステルのカルシウム塩の好ましい市販品としては、CrodaxDP−301LA(クローダジャパン社製)等が挙げられる。用いることができる微粒子シリカは、親水性微粒子シリカと疎水性微粒子シリカがあり、親水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL−300、AEROSIL−380(日本アエロジル社製)等が挙げられ、また、疎水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL−974D、AEROSIL−972(日本アエロジル社製)等が挙げられる。
また、ポリスチレン−ポリエチレン/ブチレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGFG−1901X、クレイトンGG−1650(以上、シェルジャパン社製)、セプトン8007、セプトン8004(以上、クラレ社製)などが挙げられる。さらに、ポリスチレン−ポリエチレン/プロピレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGG−1730(シェルジャパン社製)、セプトン2006、セプトン2063(以上、クラレ社製)などが挙げられる。
水添スチレン−ブタジエンラバーの好ましい市販品としては、DYNARON1320P、DYNARON1321P(以上、JSR社製)、タフテックHl041、タフテックHl141(以上、旭化成工業社製)などが挙げられる。
スチレン−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON4600P(JSR社製)等が挙げられ、オレフィン結晶−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON6200P、DYNARON6201B(JSR社製)等が挙げられる。
アセトアルコキシアルミニウムジアルキレートの好ましい市販品としては、プレンアクトAL−M(味の素ファインテクノ社製)などが挙げられる。
これらの増粘剤の中で、本発明の効果をさらに発揮させる点から、スチレン−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマーなどの熱可塑性オレフィン系エラストマーの使用が好ましい。
さらに、インクバックの発生を防止するインク追従体を得る点から、周波数領域1〜63rad/sで指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることが好ましく、1.7〜3.4とすることがさらに好ましい。
ここで、tanδは、損失弾性率/貯蔵弾性率を意味する値であり、従来では、周波数領域「1〜63rad/s」で指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以下のものが好ましいことが知られていた。本発明では、上記1〜63rad/sで各周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることにより、振動を吸収してインクバックの発生を防止することが可能となる。
摩擦体を形成する材料として、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等の熱硬化性ゴムやスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといったゴム弾性材料、2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物を用いることができ、これを、JIS K7204に規定された摩耗試験(ASTM D1044)で荷重9.8N、1000rpm環境下において、テーバー摩耗試験機の摩耗輪CS−17でのテーバー摩耗量が10mg未満となるように構成し、摩擦体を形成する。
また、摩擦体の材料に対して、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを添加してもよい。摩擦体が、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを含むことによって、紙面を傷めず且つ印刷文字等を掠れさせることなく、筆跡の消去が可能となる。さらに、摩擦体は、JIS K6203に規定されたデュロメータD硬度が30以上であることが好ましい。それによって、所定の硬さが確保でき、より安定した擦過動作が可能となる。なお、摩擦体は、タッチペン、スタイラスペンとしても適用可能であり、導電性を付与してもよい。
また、摩擦体は、ノック式筆記具1に収容された熱変色性インクの色よりも明度値が低い色で着色されていることが好ましい。すなわち、摩擦体の使用時にノック式筆記具1の熱変色性インクが変色することなく摩擦体の表面に転写した場合に、熱変色性インクの転写を目立たなくすることができる。特に、摩擦体の色を黒色又は明度値を50未満、好ましくは25未満とすることによって、摩擦体の使用に伴う表面の汚れも目立たなくすることができる。
明度値は汎用型色差計(TC−8600A、東京電色株式会社製)等の測定装置を用いてHSV色空間系を使用し、摩擦体の明度値は表面を測定し、熱変色性インクの明度値は、紙面(旧JIS P3201;化学パルプ100%を原料に抄造された上質紙、坪量範囲40〜157g/m2、白色度75.0%以上)上に筆記速度4.5m/min、ピッチ間隔0.1mmで筆記した描線上のインクを測定することによって求められる。