JP7008266B2 - 全固体電池およびその製造方法 - Google Patents
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Description
全固体電池は、液状の電解質(特に非水電解液)を使用しないため、非水電解液等の有機溶媒を取り扱う場合の煩雑な処理を行うことなく、正負極ならびに固体電解質層からなる積層構造の積層電極体を容易に構築することができる。また、電解液を使用しないことから電極体の構造がシンプルとなり、電池の単位体積あたりの電池容量の向上にも寄与し得る。このため、さらなる高容量が求められる車両の駆動用高出力電源として期待されている。例えば、特許文献1には、高いエネルギー密度と容量維持率とを実現するために好適な全固体電池用途の負極および負極材料(負極活物質)の一例が紹介されている。
かかる初回充電時における活物質の膨張に伴う固体電解質層内での隙間や亀裂の発生を防止するための手段として、固体電解質層に予め適当な空隙を設けておき、活物質(特に負極活物質)が膨張する際には、当該空隙が塞がることにより膨張応力を緩衝することが挙げられる。しかし、全固体電池を構築する過程における積層電極体を積層方向にプレスする際に当該空隙が潰れる虞があり、初回充電を行うまで空隙を安定的に保つことが困難である。このことについて、空隙が潰れないように、比較的弱い圧で上記プレスを行うことも考えられるが、積層構造体における固体電解質と正負極活物質との接合が十分に確保できずに電池抵抗が著しく増大する虞があり、現実的な解決策とはなり得ない。
ここで開示される全固体電池の固体電解質層には、少なくとも初回充電前において中空形状である絶縁性の無機フィラー粒子(以下、単に「中空粒子」ともいう。)が含まれている。
好ましい一態様では、少なくとも初回充電前において、上記中空粒子の平均粒子径(Fs)と上記負極活物質の平均粒子径(Ns)との比であるFs/Nsが、0.25以下である。
また、好ましい一態様では、初回充電前における単位面積当たりの上記固体電解質層に含まれる上記中空粒子による中空体積(Fp)と、単位面積当たりの上記負極活物質層における満充電後の体積と初回充電前の体積との差である膨張体積(Nv)との比をFp/Nvとしたとき、Fp/Nvが少なくとも0.1である。
その一方で、初回充電時において活物質(典型的には負極活物質)の膨張によって電極体水平方向に膨張応力が生じた際には、当該中空粒子が降伏して潰れることにより、当該膨張応力を緩衝し、固体電解質層に電池性能に影響を及ぼす重大な隙間や亀裂が生じるのを防止することができる。このため、ここで開示される全固体電池によると、初回充電時における活物質(典型的には負極活物質)の膨張による電池性能の低下を防止し、好適な電池性能(例えば、良好な容量維持率)を保持することができる。
ここで「初回充電」とは、対象とする全固体電池の充放電で使用されるSOC領域で行われる最初の充電をいう。また、ここで「満充電」とは、必ずしもSOCが100%である必要はなく、対象とする全固体電池において設定される実質的な上限SOCであり得る。典型的にはSOCが80~100%(好ましくは90~100%)の間で設定され得る。
なお、ここで開示される全固体電池の一態様は、初回充電が行われていない状態、換言すれば、初回充電前の電池組立体である。
かかる構成の全固体電池によると、固体電解質層の導電性を十分に確保して電池の内部抵抗を過度に上昇させることなく、固体電解質層に重大な隙間や亀裂が生じるのを防止することができる。
酸化チタンや酸化アルミニウムからなる中空粒子は、物理的強度が比較的高く、電池構築時におけるプレス処理に対しても形状を安定的に保つことができる。また、低コストで調達することができる。このため、上記目的の実現に好適な中空粒子である。
SiやSnを構成元素とする負極活物質は、充放電時における膨張収縮の度合いが大きい活物質として知られており、ここで開示される技術の実施に好適な活物質である。
正極活物質層と、負極活物質層と、固体電解質層とを有する積層電極体を形成する工程、
上記積層電極体を該積層方向にプレスする工程、
上記プレスした積層電極体に正極端子および負極端子を接続して電池組立体を形成する工程、および、
上記電池組立体に対して初回充電を行う工程、
を包含する。
そして、上記固体電解質層には、固体電解質と中空形状である絶縁性の無機フィラー粒子とが含まれており、該粒子の平均粒子径(Fs)と負極活物質の平均粒子径(Ns)との比:Fs/Nsが0.25以下であり、
初回充電前における単位面積当たりの上記固体電解質層の上記粒子による中空体積(Fp)と、単位面積当たりの負極活物質層の満充電後の体積と初回充電前の体積との差である膨張体積(Nv)との比:Fp/Nvが少なくとも0.1であることを特徴とする。
かかる構成の製造方法によると、上述したここで開示される全固体電池を製造することができる。
かかる製造方法によると、固体電解質層の導電性を十分に確保して電池の内部抵抗を過度に上昇させることなく、固体電解質層に重大な隙間や亀裂が生じない全固体電池が提供される。
好ましい一態様では、固体電解質層は前記粒子として中空形状である酸化チタン粒子及び/又は酸化アルミニウム粒子を含むように調製される。
また、好ましい他の一態様では、上記負極活物質層は、負極活物質としてSiまたはSnを構成元素とする活物質粒子を含むように調製される。
本明細書において「(正負極)活物質」とは、正極側または負極側において電荷担体(例えばリチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
なお、以下の説明では、ここで開示される技術の適用対象として全固体リチウムイオン二次電池を例にしているが、これに限られない。ここで開示される全固体電池の種類としては、他の金属イオンを電荷担体とするもの、例えば、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、等を構成する全固体電池であってもよい。
図示されるように、正極20は、アルミニウム箔等からなる正極集電体22と、その両面に形成された所定の正極活物質および固体電解質を含む正極活物質層24とを備えている。また、負極40は、銅箔等からなる負極集電体42と、その両面に形成された所定の負極活物質および固体電解質を含む負極活物質層44とを備えている。
固体電解質層30は、正負極活物質層24,44に含まれる固体電解質と同種の固体電解質を含む層であり、正負極間を絶縁するセパレータとしても機能する層である。次に、積層電極体10を構成する各層について詳細に説明する。
正極集電体22は、この種の電池の正極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の正極集電体が好ましく、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。正極集電体22の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
使用され得る固体電解質としては、種々の酸化物系固体電解質または硫化物系固体電解質が挙げられる。酸化物系固体電解質としては、NASICON構造、ガーネット型構造あるいはペロブスカイト型構造を有する種々の酸化物が好適例として挙げられる。
例えば、一般式:LixAOy(ここでAは、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、またはWであり、x及びyは正の実数である。)で表されるものを挙げることができる。具体例として、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4、等が挙げられる。あるいは、Li2O-B2O3-P2O5系、Li2O-SiO2系、Li2O-B2O3系、Li2O-B2O3-ZnO系、等のガラス若しくはガラスセラミックスも好適例として挙げられる。
また、より高いイオン伝導性を実現するという観点から、Li2Sとハロゲン化リチウム(例えばLiCl、LiBr、LiI)とから構成されるLi2Sベースの固溶体の利用が好ましい。好適例として、LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、等が挙げられる。
使用される固体電解質粒子のレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)としては、例えば0.5μm~10μm程度が適当であり、1μm~5μm程度が特に好ましい。
正極活物質のレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば0.5μm~20μm程度が適当であり、1μm~10μm程度が特に好ましい。
正極活物質粒子を被覆する固体電解質膜の厚さは、特に限定しないが、電子伝導性を大きく阻害しない程度の厚さが好ましい。例えば、平均膜厚が0.1nm~100nmであることが好ましい。また、正極活物質粒子の表面積にしめる固体電解質膜の被覆率が、30%以上、さらには40%以上であることが好ましい。
正極活物質層24における正極活物質と固体電解質との配合比は特に限定されない。典型的には、正極活物質(P)と固体電解質(S)との質量比(P:S)が、50:50~95:5程度であり得る。
正極活物質層24の厚みは、特に限定されない。典型的には、10μm~500μmであり得る。
負極集電体42は、この種の電池の負極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の負極集電体が好ましく、例えば、銅(例えば銅箔)や銅を主体とする合金を用いることができる。負極集電体42の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
負極活物質層44に含まれる固体電解質は、上述した正極活物質層24に含まれるものと同様のものでよく、重複した説明は省略する。
負極活物質層24に含まれる負極活物質としては、この種の電池で従来から用いられている種々の化合物を使用することができる。例えば、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)のような炭素系の負極活物質が一例として挙げられる。
また、上述の目的を実現するという観点から、高エネルギー密度の負極活物質であるが充放電時の膨張収縮の度合は大きい負極活物質を好適に採用することができる。この種の負極活物質としてケイ素(Si)またはスズ(Sn)を構成元素とする負極活物質が挙げられる。
ケイ素系負極活物質のその他の例として、ケイ素とケイ素以外の元素とからなる合金材料が挙げられる。ケイ素以外の元素としては、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が挙げられる。
酸化物としては、SnOd(0<d<2)で表される酸化スズ、二酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。スズ含有合金としては、Ni-Sn合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金、Cu-Sn合金、Ti-Sn合金等が挙げられる。スズ化合物としては、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Sn等が挙げられる。
負極活物質のレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば1μm~20μm程度が適当であり、2μm~10μm程度が特に好ましい。
負極活物質層44における負極活物質と固体電解質との配合比は特に限定されない。典型的には、負極活物質(N)と固体電解質(S)との質量比(N:S)が、50:50~95:5程度であり得る。
固体電解質層30には、上述した正極活物質層24に含まれる固体電解質と同種のものを好適に用いることができる。重複した説明は省略する。
ここで開示される全固体電池では、固体電解質層に中空粒子、即ち中空形状である絶縁性の無機フィラー粒子を含むことを特徴とする。
中空粒子は、外殻部とその外殻部の内側に形成された中空部とを有するが、固体電解質層30に含まれる中空粒子としては、中空部に固体電解質粒子が進入することが困難な形状、サイズであるものが好ましい。従って、固体電解質層30に含まれる固体電解質粒子の平均粒子径(D50)よりも中空粒子の平均粒子径(D50)の方が小さくなることがよい。より好ましくは、レーザ回折・散乱法に基づいて測定される粒度分布における中空粒子の累積90%である粒子径(D90)が固体電解質層30に含まれる固体電解質粒子のD50よりも小さくなるように、使用する中空粒子のサイズを決定する。典型的には、レーザ回折・散乱法に基づいて測定される平均粒子径(D50)が、0.1μm~10μm程度が適当であり、0.2μm~5μm程度が特に好ましい。
図2に模式的に示すように、かかる膨張緩和率が0.1以上であると、初回充電時において負極活物質層44(即ち負極活物質)の膨張によって積層電極体10の水平方向に膨張応力が生じた際に中空粒子32が降伏して潰れることにより、当該水平方向の膨張応力を好適に緩衝することができる。よって、固体電解質層に電池性能に影響を及ぼす重大な隙間や亀裂が生じるのを好適に防止することができる。
かかる膨張緩和率が0.2以上、さらには0.3以上が特に好ましい。一方、膨張緩和率は、0.8以下が好ましく、0.72以下(例えば0.5以下)程度が内部抵抗を過剰に上げることなく電池性能を維持する観点から特に好ましい。
なお、かかる膨張緩和率は、後述する試験例2で説明するように、対象とする全固体電池に対して満充電を行うことにより、容易に測定することができる。
かかる目的にかなう中空粒子として、種々の絶縁性の無機化合物粒子が挙げられる。例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、等が典型例として挙げられる。なかでも、比較的低コストで、プレス圧によって割れ難い硬度を有することから、中空状の酸化チタン粒子や酸化アルミニウム粒子の使用が好ましい。
なお、固体電解質層30には、固体電解質および中空粒子の他に、従来のこの種の電池の固体電解質層と同様に種々の任意成分を含ませることができる。例えば、正負極活物質層と同様にバインダ等を含み得る。
次いで、積層電極体10を所定のプレス圧(例えば2~4トン/cm2)でプレスすることにより、積層電極体10の機械的強度と各層における導電性(換言すればイオン伝導経路)を向上させる。そして、外部接続用の正極端子および負極端子(図示せず)を積層電極体10の正極20および負極40にそれぞれ接続することにより、電池組立体を得ることができる。
得られた電池組立体を初回充電処理、さらには初回放電処理を行い、所望によりさらに適当なエージング処理を施すことによって、目的の全固体電池(本実施形態では全固体リチウムイオン二次電池)1を製造することができる。
以下に説明するプロセスにより、サンプル1~9の計9種類の全固体リチウムイオン二次電池を製造した。
<サンプル1>
-固体電解質コーティング正極活物質の作製-
正極活物質として、レーザ回折・散乱法に基づいて測定される平均粒子径(D50)が、6μmのLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2粉体を使用した。そして、ゾルゲル法を用いて当該正極活物質の表面にLiNbO3を被覆した。
具体的には、エタノール溶媒に等モルのLiOC2H5およびNb(OC2H5)5を溶解して被覆用金属アルコキシド液を作製した。そして、大気圧下、転動流動コーティング装置(型式:SFP-01、パウレック社製品)を用いて被覆用金属アルコキシド液を上記正極活物質の表面にコーティングした。その際、コーティング膜の厚みが凡そ5nmになるように処理時間を調整した。次いで、上記コーティングされた正極活物質を350℃、大気圧下で1時間にわたって熱処理することにより、LiNbO3で表面が被覆されたLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2からなる正極活物質を得た。
上記得られた正極活物質と、硫化物固体電解質としてレーザ回折・散乱法に基づいて測定される平均粒子径(D50)が2.5μmの15LiBr・10LiI・75(0.75Li2S・0.25P2S5)ガラスセラミックスを使用し、正極を作製した。
具体的には、上記正極活物質と硫化物固体電解質との重量比率が活物質:固体電解質=75:25となるように秤量し、さらに活物質100部に対してPVDF系バインダを4部および導電材(アセチレンブラック)を6部ほど秤量し、これらを酪酸ブチルに固形分70wt%となるように調合し、攪拌機で混練することにより、正極活物質層形成用の組成物(正極ぺ-スト)を得た。
次いで、得られた正極ペーストを、市販のアプリケーターを用いるブレードコーティングによって、厚さ15μmのアルミニウム箔製の正極集電体上に目付量が25mg/cm2となるように均一に塗布した。その後、塗膜を120℃で3分間ほど乾燥処理し、アルミニウム箔製の正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を得た。
負極活物質としてレーザ回折・散乱法に基づいて測定される平均粒子径(D50)が6μmのSi(シリコン)粉末を使用し、固体電解質としては、正極と同じ硫化物固体電解質を使用し、負極を作製した。
具体的には、上記負極活物質と硫化物固体電解質との重量比率が活物質:固体電解質=55:45となるように秤量し、さらに活物質100部に対してPVDF系バインダを6部および導電材(アセチレンブラック)を6部ほど秤量し、これらを酪酸ブチルに固形分70wt%となるように調合し、攪拌機で混練することにより、負極活物質層形成用の組成物(負極ぺ-スト)を得た。
次いで、得られた負極ペーストを、市販のアプリケーターを用いるブレードコーティングによって、厚さ15μmの銅箔製の負極集電体上に目付量が5.6mg/cm2となるように均一に塗布した。その後、塗膜を120℃で3分間ほど乾燥処理し、銅箔製の負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を得た。
蒸留水に硫酸チタンおよび尿素を溶解し、硫酸チタン濃度が0.09mol/L、尿素濃度が2.3mol/Lとなる溶液を調製した。この溶液3000mL中に、レーザ回折・散乱法に基づいて測定される平均粒子径(D50)が0.7μmのFe2O3微粒子36gを添加した。次に、この懸濁液を攪拌機で攪拌しつつ、80℃で10時間ほど反応を継続した。次いで、懸濁液中の微粒子を蒸留水で希釈し、遠心分離を5回繰り返すことによって洗浄し、その後乾燥した。この処理によりFe2O3微粒子の表面にTiO2被膜を形成した。
次に、乾燥したFe2O3微粒子からなる粉末を、雰囲気炉を用いて700℃で3時間ほど水素還元を行い、Fe2O3からなるコア部分をFeに還元した。その後、コア部分がFeとなり、表面にTiO2膜が形成されている微粒子を、0.3mol/Lの塩酸水溶液800mLに投入し、80℃で5時間ほど攪拌し続けた。これにより、Feコア部分が溶解し、残存したTiO2被膜部分のみからなるTiO2中空粒子を作製した。次いで、遠心分離により、当該TiO2中空粒子を塩酸水溶液中から回収し、蒸留水を加えて遠心分離を5回繰り返すことによって洗浄し、120℃で1時間乾燥して本試験例に使用するTiO2中空粒子を得た。SEM観察に基づく平均粒子径は0.85μmであり且つTiO2からなる外郭部の平均厚みは0.7μmであった。
正負極の作製に使用した上記硫化物固体電解質を使用して固体電解質層を作製した。具体的には、硫化物固体電解質80重量部、上記中空粒子17重量部、BR(ブチレンゴム)系バインダ3重量部を秤量し、ヘプタン溶媒中に固形分70wt%となるように調合し、超音波分散装置(型式:UH-50、エスエムテー社製品)を用いて2分間ほど超音波分散処理することにより、固体電解質形成用の組成物(固体電解質ぺ-スト)を得た。
次いで、得られた負極ペーストを、上述した正極作製時と同様の操作により、厚さ15μmのアルミニウム箔上に目付量が8.5mg/cm2となるように均一に塗布した。その後、自然乾燥させ、さらに100℃で3分間ほど乾燥処理し、アルミニウム箔の一方の面上に固体電解質層を作製した。
上記固体電解質層をアルミニウム箔ごと3cm×3cmの正方形状に打ち抜き、1トン/cm2のプレス圧でプレスした。次いで、同形状に打ち抜いた上記正極を固体電解質層に重ね合わせ、1トン/cm2のプレス圧でプレスした。その後、固体電解質層に付いていたアルミニウム箔を剥がし、その面(固体電解質層)に同形状に打ち抜いた上記負極を重ね合わせ、3トン/cm2のプレス圧でプレスした。
こうして得られた積層電極体を予め正負極端子が付設されたアルミニウム製のラミネートフィルムからなる外装体で密閉し、サンプル1の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
固体電解質ペーストの作製において、配合比を硫化物固体電解質62重量部、上記中空粒子35重量部とした以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル2の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
中空粒子の作製において、使用するFe2O3微粒子を平均粒子径1.4μmのものに変更した以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル3の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
固体電解質ペーストの作製において、配合比を硫化物固体電解質87重量部、上記中空粒子10重量部とした以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル4の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
中空粒子の作製において、硫酸チタンに代えて硫酸アルミニウムを採用し、蒸留水に硫酸アルミニウムおよび尿素を溶解し、硫酸アルミニウム濃度が0.03mol/L、尿素濃度が2.3mol/Lとなる溶液を調製して使用した以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル5の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
固体電解質ペーストの作製において、中空粒子を用いずに、硫化物固体電解質97重量部とした以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル6の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
固体電解質ペーストの作製において、配合比を硫化物固体電解質92重量部、上記中空粒子5重量部とした以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル7の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
中空粒子の作製において、使用するFe2O3粒子を平均粒子径3μmのものに変更した以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル8の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
固体電解質ペーストの作製において、配合比を硫化物固体電解質49重量部、上記中空粒子48重量部とした以外は、サンプル1と同様の材料および工程により、サンプル9の試験用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。
上記作製した各サンプルの電池について、
(1)初回充電前における中空粒子の平均粒子径(Fs)と負極活物質の平均粒子径(Ns)との比であるFs/Ns、ならびに、
(2)初回充電前における単位面積当たりの固体電解質層に含まれる中空粒子による中空体積(Fp)と、単位面積当たりの負極活物質層における満充電後の体積と初回充電前の体積との差である膨張体積(Nv)との比であるFp/Nv(膨張緩和率)、
を算出した。
なお、上記中空体積(Fp)に関しては、上記固体電解質層のみをラミネートした後に各サンプルの電池の作製時と同じ3トン/cm2のプレス圧でプレスし、プレス後の厚みと各部材(材料)の重量比、真密度に基づいて中空体積(Fp)を導き出した。
また、単位面積当たりの負極活物質層における満充電後の体積と初回充電前の体積との差である膨張体積(Nv)に関しては、各サンプルにおける上記固体電解質層における中空粒子部分の体積を全て固体電解質に置き換えた上記サンプル6の電池において、満充電(SOC≒100)を行い、その際に起こる厚み膨張部分を全て負極膨張とみなして算出した。
このようにして算出した各サンプルのFs/NsおよびFp/Nv(膨張緩和率)を表1の該当欄に示した。
各サンプルの電池についてサイクル試験を行い、容量維持率ならびに耐久性の指標として負極におけるひび割れの有無を目視にて確認した。
各サンプルの電池を100MPaで電極体の積層方向に定寸拘束した後、以下の条件で充放電サイクルを行い、1サイクル目の容量に対する100サイクル目の容量維持率を測定した。即ち、充電は、4.1V-CCCV充電、電流レート15mA、1mA電流カットとし、放電は、CC2.5Vカット、電流レート15mAとした。
そして、サイクル試験後に各サンプルの電池を解体し、負極に膨張収縮に起因するひびが入っているかどうかを目視で観察した
これらの結果を中空粒子の体積比率(vol%)とともに表1の該当欄に示した。
また、Fs/Nsが0.5であるサンプル8では容量維持率が50%を下回ってしまい不適であった。これは、中空粒子のサイズが負極活物質のサイズに近似すると、固体電解質層と負極活物質層との界面付近において負極活物質のLiイオンの授受が不均一となり、負極内の反応が不安定になるためと考えられる。他方、Fs/Nsが0.25以下である各サンプル(サンプル9は除く)では、十分な容量維持率を示した。
10 積層電極体
20 正極
22 正極集電体
24 正極活物質層
30 固体電解質層(セパレータ層)
32 中空粒子
40 負極
42 負極集電体
44 負極活物質層
Claims (7)
- 正極活物質および固体電解質を含む正極活物質層と、
負極活物質および固体電解質を含む負極活物質層と、
固体電解質を含む固体電解質層と
を有する積層構造の積層電極体を備える全固体電池であって、
前記固体電解質層には、少なくとも初回充電前において中空形状である絶縁性の無機フィラー粒子が含まれており、
少なくとも初回充電前において、前記フィラー粒子の平均粒子径(Fs)と前記負極活物質の平均粒子径(Ns)との比:Fs/Nsが、0.25以下であり、
初回充電前における単位面積当たりの前記固体電解質層に含まれる前記フィラー粒子による中空体積(Fp)と、単位面積当たりの前記負極活物質層における満充電後の体積と初回充電前の体積との差である膨張体積(Nv)との比をFp/Nvとしたとき、Fp/Nvが少なくとも0.1であり、
少なくとも初回充電前において、前記固体電解質層の全体積に占める前記フィラー粒子の占める体積比率(Fv)が、37%以下である、
全固体電池。 - 前記固体電解質層は前記フィラー粒子として少なくとも初回充電前において中空形状である酸化チタン粒子及び/又は酸化アルミニウム粒子を含む、請求項1に記載の全固体電池。
- 前記負極活物質層は、前記負極活物質としてSiまたはSnを構成元素とする活物質粒子を含む、請求項1または2に記載の全固体電池。
- 前記初回充電が行われていない状態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体電池。
- 正極活物質および固体電解質を含む正極活物質層と、
負極活物質および固体電解質を含む負極活物質層と、
固体電解質を含む固体電解質層と、
を有する積層構造の積層電極体を備える全固体電池を製造する方法であって、
前記正極活物質層と、前記負極活物質層と、前記固体電解質層とを備える積層電極体を形成する工程、
前記積層電極体を該積層方向にプレスする工程、
前記プレスした積層電極体に正極端子および負極端子を接続して電池組立体を形成する工程、および、
前記電池組立体に対して初回充電を行う工程、
を包含し、
ここで、前記固体電解質層には、前記固体電解質と、中空形状である絶縁性の無機フィラー粒子とが含まれており、
前記フィラー粒子の平均粒子径(Fs)と前記負極活物質の平均粒子径(Ns)との比:Fs/Nsが0.25以下であり、
初回充電前における単位面積当たりの前記固体電解質層の前記フィラー粒子による中空体積(Fp)と、単位面積当たりの負極活物質層の満充電後の体積と初回充電前の体積との差である膨張体積(Nv)との比:Fp/Nvが少なくとも0.1であり、
前記固体電解質層の全体積に占める前記フィラー粒子の占める体積比率(Fv)が、37%以下である、全固体電池製造方法。 - 前記固体電解質層は前記フィラー粒子として中空形状である酸化チタン粒子及び/又は酸化アルミニウム粒子を含む、請求項5に記載の全固体電池製造方法。
- 前記負極活物質層は、前記負極活物質としてSiまたはSnを構成元素とする活物質粒子を含む、請求項5または6に記載の全固体電池製造方法。
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