(第1実施形態)
燃料供給システムの第1実施形態について、図1~図5を参照して説明する。
図1に示すように、燃料供給システム100は、燃料が貯留されている燃料タンク10を有している。燃料タンク10の内部には、燃料ポンプ20が配置されている。燃料ポンプ20は、燃料の中に沈んだ状態で配置されている。燃料ポンプ20は、燃料タンク10の底壁に載置されているストレーナ21と、該ストレーナ21に一端が連結されている導入管22とを有している。導入管22の他端は、ハウジング23に連結されている。ハウジング23は、その外径が円筒状に形成されている。ハウジング23の内部には、モータ24と、回転体としてのインペラ25とが収容されている。インペラ25は、モータ24の駆動軸に連結されていて、モータ24によって回転駆動される。インペラ25は円板状に形成されていて、円形の一対の端面25Aと、一対の端面25Aの周縁を繋ぐ周側面25Bとを有している。インペラ25の一対の端面25Aの各々には、図示しない突条が放射状に複数設けられている。インペラ25の外周面とハウジング23の内周面との間にはクリアランスが形成されており、該クリアランスには燃料が満たされている。ハウジング23には燃料供給配管30が連結されている。燃料供給配管30は、ハウジング23に一端が連結されている導出管31と、該導出管31の他端が連結されている高圧配管32とからなる。モータ24に電力が供給されてインペラ25が回転すると、該インペラ25の突条が燃料を回転方向へと押す。この作用によって、燃料タンク10内の燃料がストレーナ21及び導入管22を順に通過してハウジング23内に吸引されるとともに、ハウジング23内に吸引された燃料が導出管31に吐出される。
導出管31は、燃料タンク10の内部から外部へ延びている。導出管31の途中には燃料フィルタ35が設けられている。燃料フィルタ35は、燃料に含まれる異物を除去する。導出管31に吐出された燃料は、燃料フィルタ35を通過して高圧配管32に導出される。高圧配管32には、内燃機関200の燃料噴射弁110が複数並んで接続されている。燃料噴射弁110は、各々の先端部が内燃機関200の機関本体120に形成されている吸気ポート120Aにそれぞれ配置されている。高圧配管32に導出された燃料は、各燃料噴射弁110から吸気ポート120Aに噴射される。吸気ポート120Aに噴射された燃料は、吸気ポート120Aを流れる空気と混合気を構成し、機関本体120の図示しない燃焼室に供給されて燃焼する。
このように、燃料ポンプ20は、モータ24によりインペラ25を回転駆動することによって、燃料タンク10に貯留された燃料を吸引し、該吸引した燃料を燃料供給配管30に吐出する電動の燃料ポンプである。
燃料供給配管30の高圧配管32には、圧力センサ90が設けられている。圧力センサ90は、燃料供給配管30内の燃圧を検出する。燃料供給配管30内の燃圧と燃料ポンプ20の吐出圧とは略等しい。
燃料供給システム100は、燃料ポンプ20の制御装置としてのECU40、及び燃料ポンプ20の駆動を制御するドライバとしてのFPC80を有している。ECU40及びFPC80は、ECU40からFPC80へのPWM通信が可能なように構成されている。また、燃料供給システム100は、電源としてのバッテリ85も有している。ECU40及びFPC80は、バッテリ85と電気的に接続されており、これらECU40及びFPC80にはバッテリ85から電力が供給されている。バッテリ85の電力は、FPC80を介して燃料ポンプ20にも供給される。燃料供給システム100には、燃料ポンプ20に印加される電圧であるポンプ電圧Vpを検出する電圧計91が設けられている。また、燃料供給システム100は、報知ランプ86も有している。
ECU40には、圧力センサ90や電圧計91からの出力信号が入力される。また、ECU40には、内燃機関200のクランクシャフトの回転速度である機関回転速度NEを検出する回転速度センサ92、及びアクセル操作量Accを検出するアクセル操作量センサ93の出力信号も入力される。また、ECU40には、クランクシャフトの回転角度であるクランク角CAを検出するクランク角センサ94、及び内燃機関200の燃焼室に供給された混合気の空燃比を検出するA/Fセンサ95の出力信号も入力される。ECU40は、CPU40A、ROM40B、及びRAM40Cを備えている。ROM40Bに記憶されたプログラムをCPU40Aが実行することにより燃料ポンプ20の駆動量や、燃料噴射弁110から噴射される燃料量を制御する。
図2に示すように、ECU40は、機能部として、燃料噴射量制御部50、ポンプ駆動量算出部60、及び劣化状態判定部70を有している。燃料噴射量制御部50は、目標噴射量算出部51、目標燃圧算出部52、噴射時間算出部53、開始タイミング算出部54、及び噴射弁駆動部55を有している。
目標噴射量算出部51は、各燃料噴射弁110から噴射される燃料量の各々の目標値である目標燃料噴射量Qtを算出する。目標噴射量算出部51は、回転速度センサ92によって検出された機関回転速度NEと、アクセル操作量センサ93によって検出されたアクセル操作量Accとに基づいて目標燃料噴射量Qtを算出する。目標噴射量算出部51には、機関回転速度NE、アクセル操作量Acc、及び目標燃料噴射量Qtの関係が実験やシミュレーションによって求められて記憶されている。目標燃料噴射量Qtは、機関回転速度NEが高いときには低いときに比して多くなるように算出される。また、目標燃料噴射量Qtは、アクセル操作量Accが多いときには小さいときに比して多くなるように算出される。
目標燃圧算出部52は、燃料噴射弁110から燃料を噴射する際の燃料供給配管30の燃圧の目標値である目標燃圧Ptを算出する。目標燃圧算出部52は、回転速度センサ92によって検出された機関回転速度NEと、アクセル操作量センサ93によって検出されたアクセル操作量Accとに基づいて目標燃圧Ptを算出する。目標燃圧算出部52には、機関回転速度NE、アクセル操作量Acc、及び目標燃圧Ptの関係が実験やシミュレーションによって求められて記憶されている。目標燃圧Ptは、機関回転速度NEが高いときには低いときに比して高くなるように算出される。また、目標燃圧Ptは、アクセル操作量Accが多いときには小さいときに比して高くなるように算出される。
噴射時間算出部53は、目標噴射量算出部51によって算出された目標燃料噴射量Qtと、目標燃圧算出部52によって算出された目標燃圧Ptとに基づいて、各燃料噴射弁110における燃料噴射の実行時間である噴射時間Fiを算出する。噴射時間算出部53には、目標燃料噴射量Qt、目標燃圧Pt、及び噴射時間Fiの関係が実験やシミュレーションによって求められて記憶されている。噴射時間Fiは、目標燃料噴射量Qtが多いときには少ないときに比して長くなるように算出される。また、噴射時間Fiは、目標燃圧Ptが高いときには低いときに比して短くなるように算出される。
開始タイミング算出部54は、目標噴射量算出部51によって算出された目標燃料噴射量Qtと、噴射時間算出部53によって算出された噴射時間Fiと、回転速度センサ92によって検出された機関回転速度NEとに基づいて各燃料噴射弁110から燃料噴射を開始するタイミングである噴射開始タイミングFsを算出する。燃料噴射弁110における各々の噴射開始タイミングFsは、内燃機関200の点火タイミングまでに目標燃料噴射量Qt分の燃料噴射が完了するように算出される。
噴射弁駆動部55は、クランク角センサ94によって検出されたクランク角CAに基づき各燃料噴射弁110を駆動する。噴射弁駆動部55は、開始タイミング算出部54によって算出された各々の燃料噴射弁110の噴射開始タイミングFsにおいて、該燃料噴射弁110からの燃料噴射が開始されるように燃料噴射弁110の駆動を制御する。噴射弁駆動部55は、燃料噴射を開始してから、噴射時間算出部53によって算出された噴射時間Fiの間において燃料噴射を継続すると、燃料噴射弁110からの燃料噴射を終了する。これにより、燃料噴射弁110から噴射される燃料量である吐出流量Qrが、目標燃料噴射量Qtと等しい量になるよう制御される。
また、ECU40のポンプ駆動量算出部60は、バッテリ電圧算出部61、デューティ比算出部62、フィードバック処理部63、及び駆動信号送信部64を有している。
バッテリ電圧算出部61は、バッテリ85の電圧であるバッテリ電圧Vbを算出する。バッテリ電圧Vbは、バッテリ85の充放電状況に基づいて算出することができる。
デューティ比算出部62は、燃料ポンプ20の駆動信号としてデューティ比Dutyを算出する。デューティ比算出部62は、目標噴射量算出部51によって算出された目標燃料噴射量Qtと、目標燃圧算出部52によって算出された目標燃圧Ptと、バッテリ電圧算出部61によって算出されたバッテリ電圧Vbとに基づいてデューティ比Dutyを算出する。デューティ比算出部62には、目標燃料噴射量Qt、目標燃圧Pt、バッテリ電圧Vb、及びデューティ比Dutyの関係を示すマップが記憶されている。このマップは、例えば実験やシミュレーションを行うことによって求められている。本実施形態では、次のようにしてデューティ比Dutyを算出する。
すなわち、図3に示すように、デューティ比算出部62には、目標燃料噴射量Qt及び目標燃圧Ptと、目標印加電圧Vtとの関係を示すマップが記憶されている。目標印加電圧Vtは、燃料ポンプ20に印加される電圧の目標値である。目標印加電圧Vtは、目標燃料噴射量Qtが多いときには少ないときに比して高くなるように算出される。また、目標印加電圧Vtは、目標燃圧Ptが高いときには低いときに比して高くなるように算出される。例えば、目標燃料噴射量Qtが第1噴射量Q1であり、目標燃圧Ptが第1燃圧P1であるときには、図3に示すマップから目標印加電圧Vtとして第2目標電圧V2が算出される。
こうして第2目標電圧V2が算出されると、デューティ比算出部62は、第2目標電圧V2とバッテリ電圧Vbとに基づいて、デューティ比Dutyを算出する。この処理では、デューティ比算出部62は第2目標電圧V2をバッテリ電圧Vbで除算した値に100を乗算してデューティ比Dutyを算出する(Duty=V2/Vb×100)。そのため、デューティ比Dutyは、目標印加電圧Vtが高いときほど大きくなり、バッテリ電圧Vbが低いときほど大きくなる。
フィードバック処理部63は、後述する燃圧偏差算出部74によって算出された燃圧の偏差ΔPに基づき、デューティ比算出部62において算出される目標印加電圧Vtをフィードバック制御する。偏差ΔPは、圧力センサ90によって検出された燃料供給配管30内の燃圧Prを目標燃圧Ptから減算した差である(ΔP=Pt-Pr)。フィードバック処理部63は、目標印加電圧Vtのフィードバック制御をPID制御で行う。フィードバック処理部63は、フィードバック制御に用いられるフィードバック補正量Kを、上記偏差ΔPを入力とする比例要素、積分要素、および微分要素の各出力値の和として算出する。フィードバック処理部63は、フィードバック補正量Kを算出すると、デューティ比算出部62に記憶されている図3に示すマップにフィードバック補正量Kを反映させることで該マップを更新する。
図2に示すように、駆動信号送信部64は、デューティ比算出部62が算出したデューティ比Dutyに応じた信号をPWM通信によってFPC80に送信する。
FPC80は、機能部として、駆動信号受信部81、及びポンプ駆動部82を有している。
駆動信号受信部81は、ECU40の駆動信号送信部64とPWM通信可能に構成されており、該駆動信号送信部64から送信されたデューティ比Dutyに応じた信号を受信する。
ポンプ駆動部82は、駆動信号受信部81が受信したデューティ比Dutyに基づいてバッテリ85から燃料ポンプ20に印加される電圧であるポンプ電圧Vpをデューティ制御する。ポンプ駆動部82は、スイッチング素子を有する電気回路から構成されている。ポンプ駆動部82は、スイッチング素子がON状態となる時間、すなわちバッテリ85と燃料ポンプ20とが通電状態となる時間をデューティ制御することで、ポンプ電圧Vpを目標印加電圧Vtに制御する。ポンプ駆動部82では、デューティ比Dutyが0%に設定されているときには、スイッチング素子をOFF状態に保持し、バッテリ85と燃料ポンプ20との間で通電を行わない。そのため、燃料ポンプ20に印加されるポンプ電圧Vpは0になり、燃料ポンプ20は駆動されずに停止状態となる。また、ポンプ駆動部82は、デューティ比Dutyが100%に設定されているときには、スイッチング素子をON状態に保持し、バッテリ85と燃料ポンプ20との間における通電を継続する。そのため、燃料ポンプ20に印加されるポンプ電圧Vpはバッテリ電圧Vbと等しくなる。ポンプ駆動部82は、デューティ比Dutyが50%に設定されているときには、単位周期において通電状態と非通電状態とが同じ時間継続するようにスイッチング素子のON状態とOFF状態とを繰り返し、バッテリ85と燃料ポンプ20との間で通電と通電の停止とを繰り返す。デューティ比Dutyが50%に設定されているときには、燃料ポンプ20に印加されるポンプ電圧Vpが、バッテリ電圧Vbの半分の電圧と等しくなる。このように、ECU40は、燃料ポンプ20への供給電力の制御信号としてデューティ比Dutyを出力し、FPC80は、ECU40から出力された制御信号に基づいて、ECU40によって指示された供給電力となるように燃料ポンプ20を駆動する。
図2に示すように、ECU40の劣化状態判定部70は、実行条件判定部71、吐出流量制御部72、ポンプ電圧制御部73、燃圧偏差算出部74、補正量積算部75、判定実行部76、及び報知部77を有している。
実行条件判定部71は、ECU40が燃料ポンプ20の劣化を判定するための劣化判定制御を実行するための実行条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態では、実行条件判定部71は、内燃機関200の運転状態がアイドル運転状態であるときに実行条件が成立していると判定する。内燃機関200がアイドル運転状態であるか否かは、回転速度センサ92によって検出された機関回転速度NE、及びアクセル操作量センサ93によって検出されたアクセル操作量Acc等に基づいて判断できる。
吐出流量制御部72は、実行条件判定部71によって劣化判定制御の実行条件が成立していると判定されているときに、燃料噴射弁110から噴射される燃料量である吐出流量Qrを劣化判定制御の実行中において規定燃料量Qkで一定となるように制御する。規定燃料量Qkは、実験やシミュレーションによって求められている燃料噴射量であって、内燃機関200がアイドル運転状態を継続するために必要な燃料噴射量として設定されている。吐出流量制御部72では、まず目標噴射量算出部51において算出される目標燃料噴射量Qtを規定燃料量Qkと等しい量に設定する。これにより、噴射時間算出部53では、吐出流量制御部72によって設定された目標燃料噴射量Qt(=規定燃料量Qk)と、目標燃圧算出部52によって算出された目標燃圧Ptとに基づいて、各燃料噴射弁110における燃料噴射の実行時間である噴射時間Fiが算出される。また、開始タイミング算出部54では、吐出流量制御部72によって設定された目標燃料噴射量Qt(=規定燃料量Qk)と、噴射時間算出部53によって算出された噴射時間Fiと、回転速度センサ92によって検出された機関回転速度NEとに基づいて各燃料噴射弁110から燃料噴射を開始するタイミングである噴射開始タイミングFsを算出する。その後、噴射弁駆動部55が、開始タイミング算出部54によって算出された各々の燃料噴射弁110の噴射開始タイミングFsにおいて、該燃料噴射弁110からの燃料噴射が開始されるように燃料噴射弁110の駆動を制御する。噴射弁駆動部55は、燃料噴射を開始してから、噴射時間算出部53によって算出された噴射時間Fiの間において燃料噴射を継続すると、燃料噴射弁110からの燃料噴射を終了する。これにより、燃料噴射弁110から噴射される燃料量である吐出流量Qrが規定燃料量Qkと等しい量に制御される。なお、吐出流量制御部72は、こうして吐出流量Qrを制御しているときに、A/Fセンサ95が検出した空燃比A/Fに基づいて目標燃料噴射量Qtをフィードバック制御することで、吐出流量Qrを規定燃料量Qkに一致させる。
ポンプ電圧制御部73は、実行条件判定部71によって劣化判定制御の実行条件が成立していると判定されているときに、劣化判定制御の実行中におけるポンプ電圧Vpを規定電圧Vkで一定となるように制御する。規定電圧Vkは、実験やシミュレーションによって求められているポンプ電圧であり、内燃機関200がアイドル運転状態を継続するために必要な燃料が燃料ポンプ20から燃料供給配管30に供給されるように設定されている。ポンプ電圧制御部73では、まず目標印加電圧Vtを規定電圧Vkと等しい値に設定する。そして、この規定電圧Vkとバッテリ電圧Vbとに基づいて駆動信号としてのデューティ比Dutyを算出する。そして、算出したデューティ比Dutyを駆動信号送信部64を通じてFPC80に送信する。ポンプ電圧制御部73が算出したデューティ比Dutyを受信すると、FPC80は、デューティ比算出部62によって算出されたデューティ比Dutyではなく、ポンプ電圧制御部73が算出したデューティ比Dutyに基づいて、バッテリ85から燃料ポンプ20に印加される電圧を制御する。ポンプ電圧制御部73は、こうして燃料ポンプ20に印加される電圧を制御しているときに、電圧計91が検出したポンプ電圧Vpに基づいて目標印加電圧Vtをフィードバック制御することで、ポンプ電圧Vpを規定電圧Vkに一致させる。
なお、吐出流量制御部72によって吐出流量Qrが規定燃料量Qkに設定され、ポンプ電圧制御部73によってポンプ電圧Vpが規定電圧Vkに設定されている状態を判定状態という。
燃圧偏差算出部74は、実行条件判定部71によって劣化判定制御の実行条件が成立していると判定されて上記判定状態となっているときに、偏差ΔPを算出する。判定状態のときには、吐出流量Qrが規定燃料量Qkとなり、ポンプ電圧Vpが規定電圧Vkとなっており、燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な上記情報のうち、燃料の吐出圧Pを除く他の情報である目標燃料噴射量Qt及びポンプ電圧Vpは各々一定である。
補正量積算部75は、判定状態であるときに燃圧偏差算出部74によって算出された偏差ΔPに基づいてフィードバック処理部63が算出したフィードバック補正量Kを積算して積算値ΣKを算出し、この算出した積算値ΣKを記憶する。
判定実行部76は、補正量積算部75に記憶されている積算値ΣKが燃料ポンプ20の劣化を判定するための閾値T以上であることに基づいて燃料ポンプ20が劣化しているか否かを判定する。なお、閾値Tは、燃料ポンプ20が異常であるときの積算値ΣKtよりも小さい値である。例えば、燃料ポンプ20が異常となり、燃料ポンプ20からの吐出量が過度に小さくなると、燃圧偏差算出部74によって算出される偏差ΔPの値が大きくなる。そのため、フィードバック処理部63が算出するフィードバック補正量Kも大きくなり、結果として積算値ΣKが大きい値になる。燃料ポンプ20に異常が生じているときの積算値ΣKである積算値ΣKtは、実験やシミュレーションによって求められてECU40に記憶されている。閾値Tは、積算値ΣKtに0.8を乗算した値と同じ値として判定実行部76に記憶されている。
報知部77は、判定実行部76によって、燃料ポンプ20が劣化していると判定されたときに、報知ランプ86を点灯させて燃料ポンプ20の劣化を報知する。
ここで、発明者は、下記式(1)に基づいて式(2)を導き出した。
E=R×(TM+k×P)/KT+Ke×Q/η…式(1)
TM=KT×(E-Ke×Q/η)/R-k×P…式(2)
上記各式において、Eはポンプ電圧Vp(V)、Rは燃料ポンプ20の電気抵抗(Ω)、TMは燃料ポンプ20の機械損失(N)、kは所定の係数、及びPは燃料ポンプ20の燃料の吐出圧、すなわち燃料供給配管30内の燃圧Pr(kPa)を示している。また、KTはトルク定数(N×m/A)、Keは誘起電圧定数(V×s/rad)、Qは燃料ポンプ20の燃料吐出量、すなわち上記吐出流量Qr(L/h)、及びηはポンプ効率(%)を示している。発明者は、式(2)において、トルク定数KT、誘起電圧定数Ke、ポンプ効率η、及び電気抵抗Rは、燃料ポンプ20の劣化における影響が他のパラメータに比して相応に小さいことを見出した。kは一定の係数である。また、燃料ポンプ20の機械損失TMは燃料ポンプ20が劣化するほど大きくなる。こうしたことから、発明者は、式(2)に基づいて、燃料ポンプ20の劣化状態の判定には、燃料ポンプ20に印加される電圧であるポンプ電圧Vpに関する情報、燃料噴射弁110から噴射される燃料量である吐出流量Qrに関する情報、及び燃料ポンプ20から吐出される燃料の吐出圧Pに関する情報が必要であることを見出した。本実施形態では、この知見に基づき、ECU40ではこれらポンプ電圧Vp、吐出流量Qr、及び吐出圧P(=Pr)に基づいて燃料ポンプ20の劣化状態を判定する。
次に、図4のフローチャートを参照して、ECU40が実行する劣化判定制御に係る一連の処理の流れについて説明する。この一連の処理は、所定の周期毎に実行される。
図4に示すように、ECU40がこの一連の処理を開始すると、まず実行条件判定部71は、劣化判定制御を実行するための実行条件が成立しているか否かを判定する(ステップS400)。内燃機関200の運転状態がアイドル運転状態であり、実行条件が成立していると判定されると(ステップS400:YES)、ECU40はステップS401の処理に移行して劣化判定制御を開始する。ステップS401の処理では、吐出流量制御部72は、燃料噴射弁110から噴射される燃料量である吐出流量Qrを規定燃料量Qkで一定となるように制御する。また、ポンプ電圧制御部73は、燃料ポンプ20に印加される電圧であるポンプ電圧Vpを規定電圧Vkで一定となるように制御する。
こうしてポンプ電圧Vp(=E)及び吐出流量Qr(=Q)が一定に制御されている状態では、上記式(2)に示すように、燃料ポンプ20の機械損失TMと、燃料ポンプ20から吐出される燃料の吐出圧P(=Pr)とが互いに負の相関関係を有することとなる。すなわち、ポンプ電圧Vp及び吐出流量Qrが一定に制御されている状態では、吐出圧P(=Pr)が高いときほど機械損失TMの値が小さくなり燃料ポンプ20の劣化は少ないと判断できる。一方で、ポンプ電圧Vp及び吐出流量Qrが一定に制御されている状態では、吐出圧P(=Pr)が低いときほど機械損失TMの値が大きくなり燃料ポンプ20の劣化が進んでいると判断できる。
ステップS402の処理では、燃圧偏差算出部74が、圧力センサ90によって検出された燃料供給配管30内の燃圧Prを目標燃圧Ptから減算した差である偏差ΔPを算出する。すなわち、ステップS402の処理において算出される偏差ΔPは、ポンプ電圧Vp及び吐出流量Qrが各々一定であるときの偏差ΔPである。こうして燃圧偏差算出部74によって偏差ΔPが算出されると、フィードバック処理部63は、この偏差ΔPに基づいてフィードバック補正量Kを算出する(ステップS403)。
図5に示すように、フィードバック補正量Kは、目標燃料噴射量Qt及び目標燃圧Ptと、目標印加電圧Vtとの関係を示すマップの全体に反映される。図5に示す例では、フィードバック補正量Kを反映させることによって、図5に実線で示す補正前の状態から、図5に一点鎖線で示すように補正後の状態となるように目標燃料噴射量Qt及び目標燃圧Ptと、目標印加電圧Vtとの関係が変化する。例えば、目標燃料噴射量Qtが第1噴射量Q1であり、目標燃圧Ptが第1燃圧P1である場合では、補正前の図3のマップでは目標印加電圧Vtとして第2目標電圧V2が算出されたが、補正後の図5のマップでは目標印加電圧Vtとして第2目標電圧V2よりも高い目標電圧V2’が算出される(V2<V2’)。これにより、燃料ポンプ20の劣化が徐々に進行し、同一のポンプ電圧Vpを印加したときの吐出圧Pが劣化前の状態に比して低下しているときであっても、燃料ポンプ20の劣化度合いの影響を反映させた目標印加電圧Vtが算出されるため、燃料供給配管30内の燃圧Prを目標燃圧Ptに制御する上で適切なデューティ比Dutyが算出される。
また、図4に示すように、劣化判定制御では、ステップS403の処理においてフィードバック補正量Kが算出されると、次に補正量積算部75がフィードバック補正量Kを積算して積算値ΣKを算出する(ステップS404)。補正量積算部75は、算出した積算値ΣKを記憶する。補正量積算部75に記憶されている積算値ΣKが0であるときには、フィードバック処理部63によって算出されたフィードバック補正量Kと同じ値を積算値ΣKとして記憶する。その後は、ステップS403の処理においてフィードバック処理部63がフィードバック補正量Kを算出する度に、記憶されている積算値ΣKにフィードバック補正量Kを加算して新たな積算値ΣKを算出して記憶する。
その後、ステップS405の処理では、判定実行部76は燃料ポンプ20が劣化しているか否かを判定する。燃料ポンプ20が劣化しているか否かの判定は、補正量積算部75に記憶されている積算値ΣKが燃料ポンプ20の劣化を判定するための閾値T以上であるか否かに基づいて行われる。積算値ΣKが閾値T以上であり、判定実行部76によって燃料ポンプ20が劣化していると判定された場合(ステップS405:YES)、すなわち、燃料ポンプ20に異常が生じるおそれがあるほどその劣化が相応に進行していると判断できる場合、次にステップS406の処理に移行する。ステップS406の処理では、報知部77が報知ランプ86を点灯させて燃料ポンプ20の劣化を報知する。その後、ECU40は、劣化判定制御に係る一連の処理を終了する。
一方、ステップS405の処理において、積算値ΣKが閾値T未満であり、判定実行部76によって燃料ポンプ20が劣化していると判定されない場合(ステップS405:NO)、報知部77による報知ランプ86の点灯は行わない。その後、ECU40は、この一連の処理を終了する。
また、ステップS400において、内燃機関200の運転状態がアイドル運転状態ではなく、実行条件判定部71が実行条件は成立していないと判定した場合(ステップS400:NO)、ECU40は、ステップS401~ステップS406までの処理、すなわち劣化判定制御を実行せずに、この一連の処理を終了する。
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、ECU40は、ポンプ電圧Vp、吐出流量Qr、及び吐出圧Pを用いて燃料ポンプ20の劣化を判断している。ポンプ電圧Vpに関する情報は電圧計91からFPC80を介さずにECU40に入力される。吐出流量Qrは、ECU40の吐出流量制御部72によって算出される。また、吐出圧Pに関する情報は、圧力センサ90からFPC80を介さずにECU40に入力される。このように、燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な情報は、FPC80を介さずにECU40に集約されている。そのため、燃料ポンプ20の劣化状態を判定するために必要な情報をFPC80からECU40に送る必要がなく、本実施形態のようにECU40からFPC80への一方向の通信を行う通信システムを採用する構成であっても燃料ポンプ20の劣化状態を判断することが可能になる。したがって、ECU40とFPC80とで双方向に通信を行う通信システムを採用する場合に比して、燃料供給システム100の構成部品に係る費用の抑制が可能になる。
(2)ECU40は、目標燃料噴射量Qt、目標燃圧Pt、及びバッテリ電圧Vbに基づいてデューティ比Dutyを算出する。そして、FPC80は、ECU40によって算出されたデューティ比Dutyに基づいてポンプ電圧Vpをデューティ制御する。そのため、ECU40からFPC80へはデューティ比Dutyに相当する簡単な情報を送信すれば足り、ECU40からFPC80への通信を行う通信システムとしてPWM通信等を行う安価な通信システムの採用が可能になる。
(3)本実施形態では、劣化判定制御において、ポンプ電圧Vp及び吐出流量Qrが各々一定となっている判定状態であるときに、燃料供給配管30の燃圧Prを吐出圧Pとして算出し、この吐出圧P(=Pr)と目標燃圧Ptとに基づいてフィードバック補正量Kを算出している。判定状態においてFPC80がデューティ制御を実行したときの吐出圧Pと目標燃圧Ptとの差には、燃料ポンプ20の劣化度合いが反映されているということができる。本実施形態では、フィードバック補正量Kを算出し、これを用いて目標燃料噴射量Qt及び目標燃圧Ptと、目標印加電圧Vtとの関係をフィードバック制御している。デューティ比Dutyは、目標印加電圧Vtに基づいて算出されることから、フィードバック補正量Kはデューティ比Dutyに関するフィードバック補正量といえる。このように、燃料ポンプ20の劣化度合いの影響を反映させて目標印加電圧Vtを算出することで、燃料ポンプ20の劣化度合いの影響を反映したデューティ比Dutyの算出が可能になる。
(4)ECU40は、フィードバック補正量Kの積算値ΣKが閾値T以上であることに基づいて燃料ポンプ20が劣化していると判定する。この閾値Tは、燃料ポンプ20が異常であるときの積算値ΣKtよりも小さい値であることから、ECU40では、燃料ポンプ20の動作異常が発生する前の段階でその予兆を検知することができる。そのため、燃料ポンプ20の劣化予兆を検知可能な燃料供給システムを実現できる。
(第2の実施形態)
燃料供給システムの第2実施形態について、図6~図8を参照して説明する。本実施形態では、燃料ポンプ20の劣化を判定するために用いられるパラメータが第1実施形態と異なっている。第1実施形態と同様の構成については、共通の符号を付して説明を省略する。
発明者は、上記式(1)、並びに下記式(3)及び式(4)に基づいて式(5)を導き出した。
E=R×I+Ke×N…式(3)
E=R×(TM+TL)/KT+Ke×N…式(4)
TM=KT×I-k×P…式(5)
上記各式において、Iは燃料ポンプ20を流れる電流であるポンプ電流(A)、Nは燃料ポンプ20におけるインペラ25の単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数(rpm)、TLは燃料ポンプ20の出力(N)を示している。発明者は、トルク定数KTは燃料ポンプ20の劣化における影響が他のパラメータに比して相応に小さいため、式(5)に基づいて、燃料ポンプ20の劣化状態の判定には、燃料ポンプ20を流れる電流であるポンプ電流Iに関する情報、及び燃料ポンプ20から吐出される燃料の吐出圧Pに関する情報が必要であることを見出した。本実施形態では、この知見に基づき、ECU135ではこれらポンプ電流I及び吐出圧P(=Pr)に基づいて燃料ポンプ20の劣化状態を判定する。
図6に示すように、燃料供給システム300は、燃料ポンプ20を流れる電流であるポンプ電流Iを検出する電流計125を有している。ECU135には、電流計125からの出力信号が入力される。
図7に示すように、ECU135の劣化状態判定部130は、実行条件判定部71、ポンプ電流制御部131、燃圧偏差算出部132、補正量積算部75、判定実行部76、及び報知部77を有している。実行条件判定部71、補正量積算部75、判定実行部76、及び報知部77の機能は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
ポンプ電流制御部131は、実行条件判定部71によって劣化判定制御の実行条件が成立していると判定されているときに、劣化判定制御の実行中におけるポンプ電流Iを規定電流Ikで一定となるように制御する。規定電流Ikは、実験やシミュレーションによって求められている電流であり、内燃機関200がアイドル運転状態を継続するために必要な燃料が燃料ポンプ20から燃料供給配管30に供給されるように設定されている。ポンプ電流制御部131では、まず目標電流Itを規定電流Ikと等しい値に設定する。そして、この目標電流Itとバッテリ電圧Vbとに基づいて駆動信号としてのデューティ比Dutyを算出する。ポンプ電流制御部131には、目標電流It、バッテリ電圧Vb、及びデューティ比Dutyの関係を示すマップが記憶されている。このマップは、例えば実験やシミュレーションを行うことによって求められている。そして、算出したデューティ比Dutyを駆動信号送信部64を通じてFPC80に送信する。ポンプ電流制御部131が算出したデューティ比Dutyを受信すると、FPC80は、デューティ比算出部62によって算出されたデューティ比Dutyではなく、ポンプ電流制御部131が算出したデューティ比Dutyに基づいて、バッテリ85から燃料ポンプ20に印加されるポンプ電圧Vpを制御する。ポンプ電流制御部131は、こうして燃料ポンプ20に印加されるポンプ電圧Vpを制御しているときに、電流計125が検出したポンプ電流Irに基づいてデューティ比Dutyをフィードバック制御することで、ポンプ電圧Vpを調節してポンプ電流Irを規定電流Ikに一致させる。なお、ポンプ電流制御部131によってポンプ電流Irが規定電流Ikに設定されている状態を判定状態という。
燃圧偏差算出部132は、実行条件判定部71によって劣化判定制御の実行条件が成立していると判定されて上記判定状態となっているときに、偏差ΔPを算出する。判定状態のときには、ポンプ電流Irが規定電流Ikとなり、燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な上記情報のうち、燃料の吐出圧Pを除く他の情報であるポンプ電流Irが一定である。
次に、図8のフローチャートを参照して、ECU135が実行する劣化判定制御に係る一連の処理の流れについて説明する。この一連の処理は、所定の周期毎に実行される。
図8に示すように、ECU135がこの一連の処理を開始すると、まず実行条件判定部71は、劣化判定制御を実行するための実行条件が成立しているか否かを判定する(ステップS400)。内燃機関200の運転状態がアイドル運転状態であり、実行条件が成立していると判定されると(ステップS400:YES)、ECU135はステップS801の処理に移行して劣化判定制御を開始する。ステップS801の処理では、ポンプ電流制御部131は、燃料ポンプ20に流れる電流であるポンプ電流Irを規定電流Ikで一定となるように制御する。
こうしてポンプ電流Ir(=I)が一定に制御されている状態では、上記式(5)に示すように、燃料ポンプ20の機械損失TMと、燃料ポンプ20から吐出される燃料の吐出圧P(=Pr)とが互いに負の相関関係を有することとなる。
その後、ステップS402~ステップS406までの処理を実行する。これらの処理は、第1実施形態のステップS402~ステップS406の処理と同じである。すなわち、劣化判定制御では、判定状態において算出された偏差ΔPに基づいてフィードバック補正量Kが算出され、フィードバック補正量Kの積算値ΣKに基づいて燃料ポンプ20の劣化状態が判定される。
こうした第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
(第3の実施形態)
燃料供給システムの第3実施形態について、図9~図11を参照して説明する。本実施形態では、燃料ポンプ20の劣化を判定するために用いられるパラメータが上記各実施形態と異なっている。第1実施形態と同様の構成については、共通の符号を付して説明を省略する。
発明者は、上記式(1)、式(3)及び式(4)に基づいて下記式(6)を導き出した。
TM=KT×(E-Ke×N)/R-k×P…式(6)
発明者は、トルク定数KT、誘起電圧定数Ke、及び電気抵抗Rは、燃料ポンプ20の劣化における影響が他のパラメータに比して相応に小さいことを見出した。そして、式(6)に基づいて、燃料ポンプ20の劣化状態の判定には、燃料ポンプ20に印加される電圧であるポンプ電圧Vpに関する情報、燃料ポンプ20におけるインペラ25の単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数Nに関する情報、及び燃料ポンプ20から吐出される燃料の吐出圧Pに関する情報が必要であることを見出した。本実施形態では、この知見に基づき、ECU155ではこれらポンプ電圧Vp、ポンプ回転数N、及び吐出圧P(=Pr)に基づいて燃料ポンプ20の劣化状態を判定する。
図9に示すように、燃料供給システム400は、燃料ポンプ20のポンプ回転数Nを検出する回転数センサ140を有している。ECU155には、回転数センサ140からの出力信号が入力される。また、燃料供給システム400には、燃料ポンプ20のポンプ電圧Vp、すなわちモータ24の回転数に対する燃料ポンプ20のポンプ回転数Nを変化させるための回転数調節機構150が設けられている。回転数調節機構150は、例えば複数のギアを噛合させたギア機構であって、モータ24の回転数を減速または増速してインペラ25に伝達することで、一定のポンプ電圧Vpが燃料ポンプ20に印加されている場合においてポンプ回転数Nを変化させる。なお、回転数調節機構150は、劣化判定制御が実行されていないときには、ポンプ電圧Vpとポンプ回転数Nとの関係が比例関係となるように制御される。そのため、本実施形態では、第1実施形態と同様に、ECU155及びFPC80によってポンプ電圧Vpを制御することによって燃料ポンプ20の駆動量を制御する。
図10に示すように、ECU155の劣化状態判定部160は、実行条件判定部71、ポンプ電圧制御部73、ポンプ回転数制御部161、燃圧偏差算出部162、補正量積算部75、判定実行部76、及び報知部77を有している。実行条件判定部71、ポンプ電圧制御部73、補正量積算部75、判定実行部76、及び報知部77の機能は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
ポンプ回転数制御部161は、実行条件判定部71によって劣化判定制御の実行条件が成立していると判定されているときに、劣化判定制御の実行中におけるポンプ回転数Nが規定回転数Nkで一定となるように制御する。規定回転数Nkは、実験やシミュレーションによって求められているポンプ回転数であり、内燃機関200がアイドル運転状態を継続するために必要な燃料が燃料ポンプ20から燃料供給配管30に供給されるように設定されている。ポンプ回転数制御部161では、まず目標ポンプ回転数Ntを規定回転数Nkと等しい値に設定する。そして、回転数センサ140が検出したポンプ回転数Nrに基づいて回転数調節機構150を制御することで、ポンプ回転数Nrを規定回転数Nkに一致させる。なお、ポンプ電圧制御部73によって目標印加電圧Vtが規定電圧Vkに設定され、ポンプ回転数制御部161によってポンプ回転数Nrが規定回転数Nkに設定されている状態を判定状態という。
燃圧偏差算出部162は、実行条件判定部71によって劣化判定制御の実行条件が成立していると判定されて上記判定状態となっているときに、偏差ΔPを算出する。判定状態のときには、ポンプ電圧Vpが規定電圧Vkとなり、ポンプ回転数Nrが規定回転数Nkとなっており、燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な上記情報のうち、燃料の吐出圧Pを除く他の情報であるポンプ電圧Vp及びポンプ回転数Nrは各々一定である。
次に、図11のフローチャートを参照して、ECU155が実行する劣化判定制御に係る一連の処理の流れについて説明する。この一連の処理は、所定の周期毎に実行される。
図11に示すように、ECU155がこの一連の処理を開始すると、まず実行条件判定部71は、劣化判定制御を実行するための実行条件が成立しているか否かを判定する(ステップS400)。内燃機関200の運転状態がアイドル運転状態であり、実行条件が成立していると判定されると(ステップS400:YES)、ECU155はステップS1101の処理に移行して劣化判定制御を開始する。ステップS1101の処理では、ポンプ電圧制御部73は、燃料ポンプ20に印加される電圧であるポンプ電圧Vpを規定電圧Vkで一定となるように制御する。また、ポンプ回転数制御部161は、燃料ポンプ20におけるインペラ25の単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数Nrを規定回転数Nkで一定となるように制御する。
こうしてポンプ電圧Vp(=E)及びポンプ回転数Nr(=N)が一定に制御されている状態では、上記式(6)に示すように、燃料ポンプ20の機械損失TMと、燃料ポンプ20から吐出される燃料の吐出圧P(=Pr)とが互いに負の相関関係を有することとなる。
その後、ステップS402~ステップS406までの処理を実行する。これらの処理は、第1実施形態のステップS402~ステップS406の処理と同じである。すなわち、劣化判定制御では、判定状態において算出された偏差ΔPに基づいてフィードバック補正量Kが算出され、フィードバック補正量Kの積算値ΣKに基づいて燃料ポンプ20の劣化状態が判定される。
こうした第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第3実施形態では、燃料ポンプ20のポンプ電圧Vpに対する燃料ポンプ20のポンプ回転数Nを変化させるための回転数調節機構150を設け、ポンプ電圧Vpとポンプ回転数Nとを独立して制御可能に構成した。燃料ポンプ20において、ポンプ電圧Vpとポンプ回転数Nとを独立して制御することができるのであれば、回転数調節機構150を省略してもよい。また、ポンプ電圧Vpとポンプ回転数Nとを独立して制御するために回転数調節機構150とは異なる他の構成を採用することも可能である。
・上記各実施形態では、閾値Tを、積算値ΣKtに0.8を乗算した値と同じ値に設定した。閾値Tの設定態様はこれに限らない。例えば、閾値Tを積算値ΣKtと同じ値に設定することも可能である。この場合は、燃料ポンプ20に異常が生じる可能性が上記各実施形態よりも高い状態となったときに劣化判定制御において燃料ポンプ20が劣化していると判定される。なお、閾値Tの値を小さくするほど、燃料ポンプ20の劣化予兆を早期に検知することが可能になり、燃料ポンプ20の劣化判定タイミングを早めることが可能になる。
・劣化判定制御では、フィードバック補正量Kの積算値ΣKに基づいて燃料ポンプ20の劣化判定を行ったが、この構成は変更が可能である。例えば、燃料ポンプ20の劣化の進行度合いが徐々に大きくなる場合には、フィードバック補正量Kの変化量が判定値以上となったことに基づいて燃料ポンプ20の劣化判定を行うことも可能である。
・上記各実施形態では、図5に示すように、フィードバック補正量Kを目標燃料噴射量Qt及び目標燃圧Ptと、目標印加電圧Vtとの関係を示すマップの全体に反映したが、フィードバック補正量Kの反映態様はこれに限らない。例えば、こうした構成に代えて、図5に示すマップを、目標燃料噴射量Qt及び目標燃圧Ptに基づいた複数の領域に区画し、複数の領域のうちフィードバック補正量Kを算出したときの目標燃料噴射量Qt及び目標燃圧Ptが含まれる領域の目標印加電圧Vtのみに、該フィードバック補正量Kを反映させるようにしてもよい。この場合には、各領域毎に積算値ΣKを算出して記憶し、最も大きいΣKtが閾値T以上となったときに燃料ポンプ20が劣化していると判定することが望ましい。
・上記各実施形態では、判定状態における燃料供給配管30の燃圧Prを吐出圧Pとして算出し、この吐出圧Pと目標燃圧Ptとに基づいて算出したフィードバック補正量Kの積算値ΣKに基づき燃料ポンプ20の劣化判定を行った。燃料ポンプ20の劣化判定手段はこれに限らない。例えば、ECU40にポンプ電圧Vp、吐出流量Qr、及び吐出圧Pの各々に関する情報が集約されている第1実施形態の場合、ECU40において上記式(2)に基づき燃料ポンプ20の機械損失TMに相関する演算値を算出し、該演算値が閾値以上であることに基づいて燃料ポンプ20の劣化状態を判定することも可能である。また、ECU135にポンプ電流I及び吐出圧Pに関する情報が集約されている第2実施形態の場合、上記式(5)に基づき燃料ポンプ20の機械損失TMに相関する演算値を算出し、該演算値が閾値以上であることに基づいて燃料ポンプ20の劣化状態を判定することも可能である。また、ECU155にポンプ電圧Vp、ポンプ回転数N、及び吐出圧Pの各々に関する情報が集約されている第2実施形態の場合、上記式(6)に基づき燃料ポンプ20の機械損失TMに相関する演算値を算出し、該演算値が閾値以上であることに基づいて燃料ポンプ20の劣化状態を判定することも可能である。
・上記各実施形態では、圧力センサ90、電圧計91、電流計125、及び回転数センサ140等からの出力信号がECU40,135,155に直接入力される構成を例示した。こうした構成に代えて、例えば、圧力センサ90、電圧計91、電流計125、及び回転数センサ140等からの出力信号が車載通信システムを通じて、該車載通信システムに接続されたECU40,135,155に送信される構成を採用することも可能である。こうした構成であっても、燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な情報をFPC80を介さずにECU40,135,155に入力することは可能である。
・燃料ポンプ20は回転体としてインペラ25を備えるものを例示したが、燃料ポンプ20の構成はこれに限らない。例えば、回転体としての歯車を有する内接歯車式の燃料ポンプを採用することも可能である。
・ECU40からFPC80へ通信する方法はPWM通信に限らず、他のパルス通信を採用してもよい。また、パルス通信に限らず、アナログ通信など他の通信方法を採用することも可能である。
・劣化判定制御では、吐出流量Qrを目標燃料噴射量Qtと等しい量として用いたが、燃料ポンプ20からの吐出流量Qrを検出する流量センサを新たに設けて、該流量センサからの出力信号に基づいて吐出流量Qrを算出するようにしてもよい。この構成では、例えば、燃料供給配管30内の燃料を燃料タンク10へ戻すリリーフ通路を備えている燃料供給システムにおいて、吐出流量Qrを算出することが可能になる。そのため、この構成では、リリーフ通路を備えている燃料供給システムに上記各実施形態と同様の構成を適用することができる。また、リリーフ通路を通じて燃料供給配管30から燃料タンク10に戻される燃料量と、燃料噴射弁110から噴射された燃料量とに基づいて燃料ポンプ20からの吐出流量Qrを算出してもよい。
・圧力センサ90が設けられる位置は、適宜変更が可能である。例えば、圧力センサ90を燃料供給配管30の導出管31に設けてもよいし、燃料ポンプ20に設けてもよい。
・燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な情報は、ポンプ電圧Vp、吐出流量Qr、ポンプ電流I、ポンプ回転数N、及び吐出圧P等に限らない。燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な情報として、例えば、これらのパラメータに相関する他のパラメータを採用することも可能である。また、燃料ポンプ20の劣化状態の判定に必要な情報であれば、ポンプ電圧Vp、吐出流量Qr、ポンプ電流I、ポンプ回転数N、及び吐出圧Pとは相関を有しない他のパラメータを採用することも可能である。
・上記各実施形態では、ECU40,135,155は、内燃機関200がアイドル運転状態となっているときに、実行条件が成立しているとして劣化判定制御を開始した。こうした構成に代えて、ECU40,135,155は、内燃機関200の運転状態に基づいた実行条件の成立判断を行わない構成としてもよい。この構成では、内燃機関200の運転状態に関係なく、劣化判定制御に係る一連の処理の実行周期で、劣化判定制御が繰り返し実行されることとなる。
・上記各実施形態では、ECU40は、燃料ポンプ20への供給電力の制御信号としてデューティ比Dutyを出力し、FPC80は、ECU40から出力されたデューティ比Dutyで燃料ポンプ20に印加されるポンプ電圧をデューティ制御した。FPC80におけるポンプ電圧の制御態様はこれに限らない。例えば、FPC80は、ECU40から出力されたデューティ比Dutyに固定値(例えば0.8等)を乗算した値を駆動デューティ比として算出し、該駆動デューティ比でポンプ電圧をデューティ制御してもよい。この場合であっても、ECU40に上記固定値の情報を予め記憶することで、ECU40は、FPC80からの信号を受けることなく上記駆動デューティ比を算出することができ、該駆動デューティ比に基づいてポンプ電圧を求めることはできる。
・上記各実施形態では、ECU40,135,155は、ROM40Bに記憶されたプログラムをCPU40Aが実行することにより、燃料ポンプ20の駆動量や燃料噴射弁110から噴射される燃料量を制御した。また、ECU40,135,155は、ROM40Bに記憶されたプログラムをCPU40Aが実行することにより、劣化判定制御を実行した。すなわち、ECU40,135,155は、燃料ポンプ20の駆動量及び燃料噴射弁110から燃料噴射量の制御や、劣化判定制御を実行するための全てのプログラムを記憶するROM40B等のプログラム格納装置と、該プログラムに従って処理を実行するCPU40A等の処理装置とを備える。そして、ECU40,135,155が、ソフトウェア処理を実行することにより、これらの制御を実行するようにした。ECU40,135,155は、このようにソフトウェア処理のみによって上記各種制御を行うものに限らない。例えば、上記各実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を実行する専用のハードウェア回路を備えるようにしてもよい。この構成は、例えば、上記各実施形態において実行される処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えることで実現できる。また、例えば、上記各実施形態において実行される処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備えることによっても実現することは可能である。このように、1または複数のソフトウェア処理回路、及び1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって上記各種制御に必要な処理を実行すればよい。