以下図面を参照して、本発明に係るステータコア及びモータについて説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されない。
(実施形態に係るステータコアの概要)
本発明の発明者らは、分割ステータ構造においてステータコアのヨーク内部の磁束が不均一になることによる鉄損の増加を抑制するための種々の実験及び検討を重ねてきた。本発明の発明者らは、上記課題を解決するために分割ステータ構造において、ヨーク部の側壁部に表面及び裏面に直交する接触面を形成することで、隣接するステータ片のヨーク部の側壁部の接触面積率を向上させることを見出した。本発明の発明者らは、実施形態に係るステータコアを形成するステータ片のヨーク部の側壁部の接触面積率を向上させることで、ヨーク内部の磁束を均一化し、モータの鉄損を低減することを知見した。さらに、本発明の発明者らは、表面及び裏面に直交する接触面をシェービング加工及び切削加工等で形成することを知見した。
より具体的には、本発明の発明者らは、ヨーク部の側壁部の高さに対する接触面の高さの比率を90%以上とすることを知見した。通常、パンチとダイとを使用して鋼板を打抜き加工する場合、パンチにより打抜かれる打抜き部材の側壁部には、パンチの移動方向から順にダレ、剪断面、破断面及びカエリが形成される。分割ステータ構造において、パンチにより打抜かれたステータ片を円環状に並べるとき、ヨーク部の側壁部では剪断面が最も突出しているため、剪断面のみが互いに接触し、ダレ、破断面及びカエリは接触せずにダレ、破断面及びカエリの間はギャップとなる。ギャップの透磁率は電磁鋼板の透磁率より低いため、隣接するステータ片の間を通過する磁束は、接触している剪断面に集中する。剪断面に集中した磁束は、ヨーク部の側壁部から離れたヨーク内部においても剪断面に対応する位置を通過するため、ヨーク内部で板厚方向に亘って磁束密度が不均一になるおそれがある。磁束密度が不均一になると、磁束密度が不必要に高くなる部分が生じる。鉄損は磁束密度の略2乗に比例して増加するため、磁束密度が不必要に高くなる部分が生じることで、モータの鉄損は、全体として増加する。実施形態に係るステータコアでは、ヨーク部の側壁部の高さに対する高さの比率が90%以上である接触面を形成することで、ヨーク内部の磁束密度が均一になり、モータの鉄損を低減することができる。
(第1実施形態に係るステータコアの構成及び機能)
図1は第1実施形態に係るステータコアを有するモータの平面図である。図1において、矢印Aで示される方向は周方向であり、矢印Bで示される方向は径方向であり、ドットCで示される方向は回転軸方向である。
モータ100は、筐体101と、回転子とも称されるロータ102と、固定子とも称されるステータ103とを有する。筐体101は、円筒状の形状を有するアルミニウム等の金属で形成され、ロータ102及びステータ103を収容する。
ロータ102は、シャフト121と、ロータコア122と、複数の永久磁石123とを有する。シャフト121は、円筒状の筐体101の中心軸と同軸に配置され、不図示の軸受を介して回転可能に支持される。ロータコア122は、シャフト121の外周に配置され、シャフト121と一体的に回転するようにシャフト121に対して同軸に固定される。複数の永久磁石123は、モータ100の周方向に同一角度だけ位相をずらして配置される。複数の永久磁石123のそれぞれは、ロータコア122の内部を回転軸方向に貫通するように配置される。
ステータ103は、締結リング131と、ステータコア132とを有する。締結リング131は、筐体101に対して同軸に固定して配置されている。ステータコア132は、円弧状に配置され且つ重畳された複数のステータ片1により形成され、締結リング131に対して同軸に固定して配置される。
図2(a)はステータ片1の斜視図であり、図2(b)はステータ片1の部分側面図である。図2(a)において、矢印Aで示される方向は周方向であり、矢印Bで示される方向は径方向であり、矢印Cで示される方向は回転軸方向である。
ステータ片1は、電磁鋼板で形成され、ヨーク部10と、銅線が巻き回されるティース部20とを有する。ヨーク部10は、第1ヨーク面11と、第2ヨーク面12と、ヨーク外壁部13と、ヨーク内壁部14と、第1ヨーク側壁部15と、第2ヨーク側壁部16とを有する。ティース部は、第1ティース面21と、第2ティース面22と、ティース内壁部23と、第1ティース側壁部24と、第2ティース側壁部25とを有する。
第1ヨーク面11はヨーク部10の表面であり、第2ヨーク面12は第1ヨーク面11の反対のヨーク部10の裏面であり、それぞれ略矩形状に形成される。ヨーク外壁部13は第1ヨーク面11の径方向の外側の一辺から第2ヨーク面12の径方向の外側の一辺に延伸する面である。ヨーク内壁部14は、ヨーク外壁部13と対向するように第1ヨーク面11の径方向の内側の一辺から第2ヨーク面12の径方向の内側の一辺に延伸する面である。
第1ヨーク側壁部15は、ヨーク外壁部13からヨーク内壁部14に向かって延伸する壁部であり、ダレ151と、接触面152と、破断面153と、カエリ154とを有する。ダレ151、破断面153及びカエリ154が形成されるメカニズムは、よく知られているので、ここでは詳細な説明は省略する。また、第2ヨーク側壁部16の構成要素の構成及び機能は、第1ヨーク側壁部15の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。接触面152は、第1ヨーク面11及び第2ヨーク面12に直交する方向に延伸する面であり、打抜き工程S101、及びその後で実行されるシェービング工程S102において形成される。接触面152は、ステータコア132において隣接するステータ片1の接触面152と接触する。接触面152の高さの側壁部の高さに対する比率は、90%以上である。
図3は、ステータコア132において隣接するステータ片1が接触する状態を示す図である。
隣接するステータ片1は、互いの接触面152が接触するように配置される。隣接するステータ片1の互いの接触面152が接触するとき、隣接するステータ片1の互いのダレ151、破断面153及びカエリ154は、離隔して配置される。
カエリ154の間の距離であるステータ片1の間の離隔距離は、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることが更に好ましい。ステータ片1の間の離隔距離が3μmを超えると、隣接するステータ片1の間を通過する磁束が接触面152に集中し、ステータコア132の鉄損の増加が大きくなる。ステータ片1の間の離隔距離を3μm以下とすることで、ステータコア132の鉄損の増加が抑制される。また、ステータ片1の間の離隔距離を2μm以下とすることで、ステータコア132の鉄損の増加が更に抑制される。なお、破断面153と、カエリ154がなく、ヨーク側壁部の高さに対する接触面の高さの比率が100%の場合の離隔距離は0μmとする。
第1ティース面21はティース部20の表面であり、第2ティース面22は第1ティース面21の反対のティース部20の裏面であり、それぞれ矩形状に形成される。ティース内壁部23は、ヨーク外壁部13と対向するように第1ティース面21の径方向の内側の一辺から第2ティース面22の径方向の内側の一辺に延伸する面である。第1ティース側壁部24及び第2ティース側壁部25のそれぞれは、ヨーク内壁部14からティース内壁部23に向かって延伸する壁部である。
(第1実施形態に係るステータの製造工程)
図4は、第1実施形態に係るステータの製造工程を示すフローチャートである。
まず、不図示のプレス加工装置は、電磁鋼板に打抜き加工を施すことで、打抜き片を形成する(S101)。次いで、不図示のプレス加工装置は、S101の処理で形成された打抜き片のヨーク部の側壁部にシェービンク加工を施してステータ片1を形成する(S102)。
図5(a)はS101の処理で形成された打抜き片の平面図であり、図5(b)はS101の処理で形成された打抜き片の部分拡大図であり、図5(c)はS102の処理で形成されるステータ片1の部分拡大図である。
打抜き片110は、ヨーク部111と、ティース部112とを有する。不図示のプレス加工装置は、矢印A及びBのそれぞれで示されるヨーク部111の側壁部にシェービング加工を施してステータ片1を形成する。不図示のプレス加工装置によるシェービング加工は、単一のシェービング処理で実行される。
S102に示すシェービング加工で切削されるシェービング幅LCは、打抜き片110の厚さLTの5%以上40%未満であることが好ましく、打抜き片110の厚さLTの25%以上35%以下であることが更に好ましい。シェービング幅LCを、打抜き片110の厚さLTの5%以上40%未満とすることで、ステータ片1の間の離隔距離を3μm以下にすることができる。シェービング幅LCを、打抜き片110の厚さLTの25%以上35%以下とすることで、ステータ片1の間の離隔距離を2μm以下にすることができる。
S102の処理で形成されるステータ片1の第1ヨーク側壁部15の接触面152及び第2ヨーク側壁部16の不図示の接触面のビッカース硬度は、複数のステータ片1の材料である電磁鋼板のビッカース硬度の1倍超1.9倍以下であることが好ましい。単一のシェービング処理で、シェービング加工を施すと、第1ヨーク側壁部15の接触面152及び第2ヨーク側壁部16の不図示の接触面のビッカース硬度は、複数のステータ片の材料である電磁鋼板のビッカース硬度の1倍超1.9倍以下になる。
電磁鋼板のビッカース硬度は、例えばJIS Z 2244:2009に基づき測定する。測定に供する電磁鋼板は、打ち抜き端面を含むように切断し、切断面を平滑で、凹凸、酸化物膜(スケール)及び異物がなく、特に潤滑剤のない表面とする。切断面の仕上げは、過熱、冷間加工などによる表面硬さの変化が、できるだけ生じないようにする。硬度測定は打ち抜き端面近傍から一定距離間隔を置いて実行する。素材硬度、測定したい間隔及び板厚の小さい方に応じて測定荷重を決める必要がある。例えば、板厚0.5mmの50A350で、50μm間隔で硬度測定を行う場合、測定荷重は25gf程度が適している。50μmより狭い間隔で硬度測定を行う場合、図12に示すように打点を斜めにずらす等の工夫を行い、隣接する圧痕に影響を及ぼさないようにする必要がある。
鋼板を打ち抜き加工すると、打ち抜き端面近傍に高い加工歪みが導入され、端面近傍のビッカース硬度が上昇する。硬度上昇代、硬度上昇する打ち抜き端面からの距離は、鋼板の厚み、鋼板の機械強度、ダイとパンチ間のクリアランスによって変化するが、打ち抜き端面極近傍で2倍程度まで硬度上昇し、打抜き端面から鋼板内部に向かって連続的に硬度が変化する。硬度の上昇する領域は打抜き端面極近傍から板厚同等〜板厚の1/2程度までである。加工歪みが導入された領域は磁気特性が劣化し、鉄損が増加する。特許文献1,2,5では加工歪みが導入された領域をシェービング加工により除去することでモータ鉄損を低減している。この目的からは、シェービング加工後の打ち抜き端面近傍のビッカース硬度上昇はほぼ1倍になる。一方、本発明では必ずしも加工歪みが導入された領域を全て除去する必要はなく、加工歪みが残留しても接触面を増やすことで磁束密度を均一にし、モータ鉄損を低減する。この目的からは、接触面のビッカース硬度は、複数のステータ片の材料である電磁鋼板のビッカース硬度の1倍超1.9倍以下であることが必要である。1倍にすると加工歪み導入部分は除去でき、さらにモータ鉄損を低減できるが、シェービングで除去する幅が大きくなり歩留りが低下する上、金型寿命も低下する傾向である。本発明の目的であるモータ鉄損低減には、1倍超でも1.9倍までなら、接触面が増えることにより効果発揮できる。1.9倍超では接触面が増えることによるモータ鉄損低減効果より、加工歪み導入によるモータ鉄損増加影響が大きくなるため、接触面のビッカース硬度を、複数のステータ片の材料である電磁鋼板のビッカース硬度の1倍超1.9倍以下と規定する。歩留り向上の観点から、望ましくは接触面のビッカース硬度は、複数のステータ片の材料である電磁鋼板のビッカース硬度の1.02倍以上であり、さらに望ましくは1.04倍以上である。加工歪み除去の観点から、望ましくは接触面のビッカース硬度は、複数のステータ片の材料である電磁鋼板のビッカース硬度の1.8倍以下であり、さらに望ましくは1.7倍以下である。
尚、ヨーク側壁部の高さに対する接触面の高さの比率の制御は、以下のように行うことが出来る。
即ち、打ち抜いた鋼板を、除去する幅を変更してシェービング加工を行った際の、シェービング除去幅と接触面高さとの関係を、打ち抜き条件(ダイスとパンチのクリアランス等)毎にあらかじめ求めておいて、この関係に基づいて、接触面の高さを制御することが出来る。
また、接触面のビッカース硬度の制御も、シェービング除去幅と硬度の関係を打ち抜き条件毎に求めておいて、この関係に基づいて、行うことが出来る。
これらより、打ち抜き条件とシェービング除去幅を適宜選ぶことで、ヨーク側壁部の高さに対する接触面の比率は、接触面の硬度と独立に制御することが出来る。
次いで、不図示のステータ組立装置は、S102の処理で形成されたステータ片1を積層する(S103)。次いで、不図示のステータ組立装置は、S103の処理で積層されたステータ片1を円弧状に組付けする(S104)。そして、不図示のステータ組立装置は、S104の処理で組付きされたステータ片1を締結リング131に焼き嵌め処理を施すことで、固定する(S105)。
S105に示す焼き嵌め処理は、ステータコア132のヨーク部10の周方向の圧縮応力が2MPa以上20MPa以下になるように施される。ヨーク部10の周方向の圧縮応力が2MPa未満である場合、隣接するステータ片1の接触面152の間のギャップが大きく且つ不均一になりやすいため、磁束密度の不均一が生じ、モータ100の鉄損が増加するおそれがある。一般に、ヨーク部10の周方向の圧縮応力が増加するとモータ100の鉄損が増加する。ヨーク部10の周方向の圧縮応力が20MPaを超えるとモータ100の鉄損増加が無視できなくなるため、ヨーク部10の周方向の圧縮応力は、20MPa以下とする。なお、ヨーク部10の周方向の圧縮応力は、5MPa以上15MPa以下であることが更に好ましい。ヨーク部10の周方向の圧縮応力を15MPa以下にすることで、圧縮応力による鉄損増加を抑制することができる。また、5MPa以上にすることで、隣接するステータ片1の接触面152の間のギャップを小さく且つより均一にでき、磁束密度の不均一を抑制し、モータ100の鉄損増加を抑制することができる。
ヨーク部10の周方向の圧縮応力は、第1ヨーク面11に歪ゲージを配置することにより測定する。歪ゲージは、第1ヨーク側壁部15に直交する方向の圧縮応力を測定するように配置される。歪ゲージは、株式会社共和電業製の製品番号KFGS-10-120-D16-11、或いは相当品を使用する。
(第1実施形態に係るステータコアの作用効果)
図6(a)は第1比較例に係るステータ片をカエリの突起方向が同方向になるように配置した状態を示す図であり、図6(b)は第1比較例に係るステータ片をカエリの突起方向が逆方向になるように配置した状態を示す図である。図6(c)は第2比較例に係るステータ片をカエリの突起方向が同方向になるように配置した状態を示す図であり、図6(d)は第2比較例に係るステータ片をカエリの突起方向が逆方向になるように配置した状態を示す図である。図6(e)は第3比較例に係るステータ片をカエリの突起方向が同方向になるように配置した状態を示す図であり、図6(f)は第3比較例に係るステータ片をカエリの突起方向が逆方向になるように配置した状態を示す図である。図6(g)は第1実施形態に係るステータ片をカエリの突起方向が同方向になるように配置した状態を示す図であり、図6(h)は第1実施形態に係るステータ片をカエリの突起方向が逆方向になるように配置した状態を示す図である。
第1比較例に係るステータ片901では、ヨーク部の側壁部の高さに対する高さの比率は25%であり、第2比較例に係るステータ片902では、ヨーク部の側壁部の高さに対する高さの比率は45%である。また、第3比較例に係るステータ片903では、ヨーク部の側壁部の高さに対する高さの比率は70%であり、第1実施形態に係るステータ片1では、ヨーク部の側壁部の高さに対する高さの比率は90%である。
第1比較例〜第3比較例に係るステータ片901〜903は、カエリの突起方向が同方向になるように配置した状態では、隣接するステータ片901〜903に剪断面が接触し、ダレ、破断面及びカエリは接触しない。第1比較例〜第3比較例に係るステータ片901〜903は、剪断面のみが接触し、磁束は、ヨーク部の側壁部の25%、45%及び70%の領域を通って隣接するステータ片の間を通過するので、磁束密度が不均一になるおそれがある。
第1比較例に係るステータ片901は、カエリの突起方向が逆方向になるように配置した状態では、ダレ、剪断面、破断面及びカエリの何れもが、隣接するステータ片901に接触しない。第2比較例〜第3比較例に係るステータ片902〜903は、カエリの突起方向が逆方向になるように配置した状態では、剪断面の一部のみが接触し、ダレ、剪断面の他の部分、破断面及びカエリは接触しない。第1比較例に係るステータ片901ではダレ、剪断面、破断面及びカエリの何れもが接触せず、第2比較例〜第3比較例に係るステータ片902〜903では剪断面の一部のみが接触するので、ステータ片901〜903の内部の磁束密度が更に不均一になる。
一方、第1実施形態に係るステータコアでは、接触面の側壁部の高さに対する接触面の高さの比率は90%以上であるので、カエリの突起方向が同方向になるようにステータ片1配置した状態では、隣接するステータ片1が互いに接触する領域が大きくなる。第1実施形態に係るステータコアでは、隣接するステータ片1が互いに接触する領域が大きくなるので、ヨーク内部の磁束密度が均一になり、モータの鉄損を低減することができる。
また、第1実施形態に係るステータコアでは、カエリの突起方向が逆方向になるようにステータ片1配置した状態においても、隣接するステータ片1が互いに接触する領域が大きくなる。第1実施形態に係るステータコアでは、隣接するステータ片1が互いに接触する領域が大きくなるので、ヨーク内部の磁束密度が均一になり、モータの鉄損を低減することができる。
(第2実施形態に係るステータコアの構成及び機能)
図7は第2実施形態に係るステータコアを有するモータの平面図である。図7において、矢印Aで示される方向は周方向であり、矢印Bで示される方向は径方向であり、ドットCで示される方向は回転軸方向である。
モータ200は、ステータ203(下記の第2実施形態に係るステータ)をステータ103の代わりに有することがモータ100と相違する。ステータ203は、ステータコア232をステータコア132の代わりに有することがステータ103と相違する。ステータコア232は、ステータ片2をステータ片1の代わりに有することがステータコア132と相違する。ステータ片2以外のモータ200の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付されたモータ100の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
図8(a)はステータ片2の斜視図であり、図8(b)はステータ片2の部分側面図である。図8(a)において、矢印Aで示される方向は周方向であり、矢印Bで示される方向は径方向であり、矢印Cで示される方向は回転軸方向である。
ステータ片2は、ティース部30をティース部20の代わりに有することがステータ片1と相違する。ティース部30は、第1ティース側壁部34と、第2ティース側壁部35を第1ティース側壁部24と、第2ティース側壁部25との代わりに有することがティース部20と相違する。第1ティース側壁部34及び第2ティース側壁部35以外のステータ片2の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付されたステータ片1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。また、第2ティース側壁部35の構成要素の構成及び機能は、第1ティース側壁部34の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
第1ティース側壁部34は、ダレ341と、シェービング面342と、破断面343と、カエリ344とを有する。ダレ341、破断面343及びカエリ344が形成されるメカニズムは、よく知られているので、ここでは詳細な説明は省略する。
シェービング面342は、打抜き加工の後で、第1ティース側壁部34の高さに対する比率が5%〜25%に相当する領域を削除するシェービング加工を2回以上施して第1ティース側壁部34の高さの40%〜60%の高さを有するように形成される。
第1ティース側壁部34の高さに対する比率が5%〜25%に相当する領域毎にシェービング加工を施してシェービング面342を形成することで、シェービング面342の近傍に新たな塑性歪を導入されることなく、打抜き加工による塑性歪を除去される。
シェービング面342では、新たな塑性歪を導入されることなく、打抜き加工による塑性歪を除去されるため、特許文献1に記載されるように、モータ200の鉄損を低くすることができる。また、シェービング面342のビッカース硬度は、打抜き加工時の歪は全て除去するようにシェービングするので、単一のシェービング処理で形成される接触面152のビッカース硬度よりも低くなる。
(第2実施形態に係るステータの製造工程)
図9は、第2実施形態に係るステータの製造工程を示すフローチャートである。
S201及びS202の処理は、S101及びS102の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。次いで、不図示のプレス加工装置は、S202の処理でヨーク部の側壁部にシェービンク加工が施された打抜き片のティース部の側壁部にシェービンク加工を施してステータ片2を形成する(S203)。S203の処理では、シェービング面342は、第1ティース側壁部34の高さに対する比率が5%〜25%に相当する領域を削除するシェービング加工を2回以上施して第1ティース側壁部34の高さの40%〜60%の高さを有するように形成される。第2ティース側壁部35においても、第2ティース側壁部35の高さに対する比率が5%〜25%に相当する領域を削除するシェービング加工を2回以上施して第2ティース側壁部35の高さの40%〜60%の高さを有するシェービング面が形成される。
図10(a)はS202の処理で形成された打抜き片の平面図であり、図10(b)はS202の処理で形成された打抜き片の部分拡大図であり、図10(c)はS203の処理で形成されるステータ片2の部分拡大図である。
打抜き片210は、ヨーク部211と、ティース部212とを有する。不図示のプレス加工装置は、矢印A及びBのそれぞれで示されるティース部212の側壁部にシェービング加工を施してステータ片1を形成する。不図示のプレス加工装置によるシェービング加工は、複数回に亘るシェービング処理で実行される。
S203に示すシェービング加工で切削されるシェービング幅LCは、打抜き片210の厚さLTの5%以上40%未満であることが好ましい。シェービング幅LCを、打抜き片210の厚さLTの5%以上40%未満とすることで、シェービング加工によって新たに塑性歪をシェービング加工部の端面近傍に導入させることなく、打抜き加工が施された端面近傍から塑性歪を除去することができる。
S204〜S206の処理は、S103〜S105の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
(実施形態に係るステータコアの変形例)
ステータコア132及び232では、接触面152はシェービンク加工により形成されるが、実施形態に係るステータコアでは、ヨーク部の側壁部に形成される接触面は切削加工により形成されてもよい。
図11は、実施例で使用されるモータの部分平面図である。
モータ300は、無方向性電磁鋼板50A350を用いて電気学会Dモデルをベースとして作製されたIPMモータである。ステータコア332の外径は112mmであり、ロータ302の外径は54mmであり、ステータ片3の積み高さは100mmである。スロット数は24スロットである。ステータコア332はヨーク部を円周方向に24分割した。ロータ302の外径は54mmφであり、ステータコア332の内径は55mmφであり、ロータ302とステータコア332との間のギャップは0.5mmである。また、ステータコア332の外径は112mmφ(=54mm+0.5mm×2+28.5mm×2)である。
第1実施例に係るステータ片は、ダイ及びパンチによって打抜き加工した後に、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合が側壁部の高さの90%となるようにシェービング加工により成形した。第1実施例におけるシェービング加工量は、片側0.1mmである。第1実施例では、ステータは、24個のステータ片を円弧状に配置すると共に積層した後に、ヨーク部周方向の圧縮応力が10MPaになるように焼き嵌めすることで形成された。ステータコアは24スロットであり、ステータコアのティース部に巻き回す銅線の1相当たりの巻線数は35ターンであり、ロータの磁石の磁束密度Brは1.25Tである。接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率は1.35倍、離隔距離は2μmであった。
第2実施例に係るステータ片は、ダイ及びパンチによって打抜き加工した後に、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合が側壁部の高さの90%となるようにヨーク部の側面をグラインダで研磨して平滑化して成形した。第2実施例におけるグラインダ研磨量は、片側0.1mmである。第2実施例では、ステータコアは、第1実施例と同様に、24個のステータ片を円弧状に配置すると共に積層した後に、ヨーク部周方向の圧縮応力が10MPaになるように焼き嵌めすることで形成された。スロット数、ステータコアのティース部に巻き回す銅線の1相当たりの巻線数、及びロータの磁石の磁束密度Brは、第1実施例と同様である。接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率は1.35倍、離隔距離は2μmであった。
第1比較例に係るステータ片は、ヨーク幅が第1実施例及び第2実施例と同一になるように、ダイ及びパンチによる打抜き加工により成形した。第1比較例では、ステータコアは、24個のステータ片を円弧状に配置すると共に積層した後に、ヨーク部周方向の圧縮応力が10MPaになるように焼き嵌めすることで形成された。スロット数、ステータコアのティース部に巻き回す銅線の1相当たりの巻線数、及びロータの磁石の磁束密度Brは、第1実施例と同様である。接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率は2倍、離隔距離は2μm、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合は側壁部の高さの90%であった。
第1実施例、第2実施例及び第1比較例において、波高値3Aの巻線電流を位相角30度で流して、1500RPMの回転数で駆動した時のモータの鉄損を測定した。モータの鉄損は、入力電力と出力電力との差である全損失から、予め測定した機械損、及び巻線電流及び巻線の抵抗値から算出される銅損を減算して算出された。
表1は、算出された銅損をそれぞれのモータの重量で除算して演算された第1実施例、第2実施例及び第1比較例に係るモータの単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。表2は、また、巻線を施す前のステータ片のヨーク部にトロイダル巻線を施して、ヨーク部をリングと見なして測定した単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。
表1及び表2の双方で、第1実施例及び第2実施例の単位重量当たりの鉄損は、第1比較例の単位重量当たりの鉄損よりも小さい。第1実施例及び第2実施例は、ヨーク部の接触面を大きくすることで、鉄損が低減されている。
実施例1と同様に、無方向性電磁鋼板50A350を用いて電気学会Dモデルをベースとして作製されたIPMモータの単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を演算した。第3実施例、第4実施例及び第2比較例のそれぞれは、焼き嵌め工程でのヨーク部の周方向の圧縮応力以外は、第1実施例、第2実施例及び第1比較例と同様に形成された。第3実施例、第4実施例及び第2比較例のそれぞれは、ヨーク部の周方向の圧縮応力が50MPaになるように焼き嵌めすることで形成された。
第3実施例、第4実施例及び第2比較例において、波高値3Aの巻線電流を位相角30度で流して、1500RPMの回転数で駆動した時のモータの鉄損を測定した。モータの鉄損は、実施例1と同様に算出された。
表3は、算出された銅損をそれぞれのモータの重量で除算して演算された第3実施例、第4実施例及び第2比較例の単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。表4は、また、巻線を施す前のステータ片3のヨーク部にトロイダル巻線を施して、ヨーク部をリングと見なして測定した単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。
表3及び表4の双方で、第3実施例及び第4実施例の単位重量当たりの鉄損は、第2比較例の単位重量当たりの鉄損よりも小さい。第3実施例及び第4実施例は、ヨーク部の接触面を大きくすることで、鉄損が低減されている。
実施例1と同様に、無方向性電磁鋼板50A350を用いて電気学会Dモデルをベースとして作製されたIPMモータの単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を演算した。第5実施例、第3比較例、第4比較例及び第5比較例のそれぞれは、第1実施例と同様に、ダイ及びパンチによって打抜き加工した後に、シェービング加工することで形成された。第5実施例では、シェービング加工は、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合が側壁部の高さの90%となるように施された。第3〜5比較例のそれぞれでは、シェービング加工は、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合が側壁部の高さの25%、40%及び70%となるように施された。第5実施例、第3比較例、第4比較例及び第5比較例のそれぞれの接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率は1.35倍、離隔距離は2μmであった。第5実施例、第3比較例、第4比較例及び第5比較例のそれぞれは、ヨーク部の周方向の圧縮応力が10MPaになるように焼き嵌めすることで形成された。
第5実施例は、第1実施例と同様に形成された。第3比較例、第4比較例及び第5比較例のそれぞれは、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合以外は、第1比較例と同様に形成された。
第5実施例、第3比較例、第4比較例及び第5比較例において、波高値3Aの巻線電流を位相角30度で流して、1500RPMの回転数で駆動した時のモータの鉄損を測定した。モータの鉄損は、実施例1と同様に算出された。
表5は、算出された銅損をそれぞれのモータの重量で除算して演算された第5実施例、第3比較例、第4比較例及び第5比較例の単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。また、表6は、巻線を施す前のステータ片のヨーク部にトロイダル巻線を施して、ヨーク部をリングと見なして測定した単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。
表5及び表6の双方で、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合が側壁部の高さの90%である第5実施例の鉄損は、ヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合が側壁部の高さの90%に達しない第3比較例、第4比較例及び第5比較例よりも非常に小さい。
実施例1と同様に、無方向性電磁鋼板50A350を用いて電気学会Dモデルをベースとして作製されたIPMモータの単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を演算した。第6実施例、第7実施例、第6比較例及び第7比較例のそれぞれは、打抜き加工を施すときに、ダイとパンチとの間のクリアランスを変化させることで、ステータ片の間の離隔距離が変化するように形成された。第6実施例、第7実施例、第6比較例及び第7比較例のそれぞれでは、ステータ片の間の離隔距離は、1μm、3μm、4μm及び5μmである。第6実施例、第7実施例、第6比較例及び第7比較例のそれぞれでは、接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率は1.04倍、1.35倍、1.55倍及び1.65倍であった。また、第6実施例、第7実施例、第6比較例及び第7比較例のヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合は側壁部の高さの90%であった。第6実施例、第7実施例、第6比較例及び第7比較例のそれぞれは、ヨーク部の周方向の圧縮応力が10MPaになるように焼き嵌めすることで形成された。
第6実施例及び第7実施例は、ダイとパンチとの間のクリアランスを変化させること以外は、第1実施例と同様に形成された。第6比較例及び第7比較例のそれぞれは、ダイとパンチとの間のクリアランスを変化させること以外は、第1比較例と同様に形成された。
第6実施例、第7実施例、第6比較例及び第7比較例において、波高値3Aの巻線電流を位相角30度で流して、1500RPMの回転数で駆動した時のモータの鉄損を測定した。モータの鉄損は、実施例1と同様に算出された。
表7は、算出された銅損をそれぞれのモータの重量で除算して演算された第6実施例、第7実施例、第6比較例及び第7比較例の単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。また、表8は、巻線を施す前のステータ片のヨーク部にトロイダル巻線を施して、ヨーク部をリングと見なして測定した単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示す。
表7及び表8の双方で、ステータ片の間の離隔距離が3μmである第7実施例の鉄損は、ステータ片3の間の離隔距離が4μm以上である第6比較例、第7比較例よりも非常に小さい。
実施例1と同様に、無方向性電磁鋼板50A350を用いて電気学会Dモデルをベースとして作製されたIPMモータの単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を演算した。第8実施例、第9実施例、第10実施例、第8比較例及び第9比較例に係るステータ片は、ダイ及びパンチによって打抜き加工した後に、ヨーク部の側壁部をシェービング幅がそれぞれ片側50μm、100μm、150μm、175μm、250μmになるようにシェービング加工により成形した。第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例及び第8比較例はシェービング加工後のヨーク幅が同一になるように、シェービング加工前の寸法を調整した。第9比較例に係るステータ片は、ヨーク幅が第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例及び第8比較例と同一になるように、ダイ及びパンチによる打抜き加工により成形した。
第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例、第8比較例及び第9比較例のそれぞれでは、離隔距離は2.5μm、2μm、1.5μm、1μm、0μm及び3μmであった。また、第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例及び第8比較例のヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合は側壁部の高さの90%であり、第9比較例のヨーク部の側壁部の接触面の高さの割合は側壁部の高さの70%であった。第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例、第8比較例及び第9比較例のそれぞれは、ヨーク部の周方向の圧縮応力が10MPaになるように焼き嵌めすることで形成された。
第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例、第8比較例及び第9比較例において、波高値3Aの巻線電流を位相角30度で流して、1500RPMの回転数で駆動した時のモータの鉄損を測定した。モータの鉄損は、実施例1と同様に算出された。
表9は、算出された鉄損をそれぞれのモータの重量で除算して演算された第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例、第8比較例及び第9比較例の単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)、接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率(単位:倍)及び打ち抜き歩留まりを示す。また、表10は、巻線を施す前のステータ片のヨーク部にトロイダル巻線を施して、ヨーク部をリングと見なして測定した単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)及び接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率(単位:倍)を示す。表9及び表10において、1段目が単位重量当たりの鉄損(単位:W/kg)を示し、2段目がビッカース硬度(単位:倍)を示し、3段目が打ち抜き歩留りを示す。
表9及び表10の双方で、接触面で測定したビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率(単位:倍)が1倍超1.9倍以下である第8実施例、第9実施例、第10実施例、第11実施例及び第8比較例の鉄損は、ビッカース硬度(荷重25gf)の材料である電磁鋼板のビッカース硬度に対する比率(単位:倍)が1.9倍超である第9比較例よりも小さい。第8比較例では、単位重量当たりの鉄損が第10実施例及び第11実施例とほぼ同等であるが、打ち抜き歩留まりが70%以下と大幅に劣化した。