以下、本発明の落石防護柵の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態の落石防護柵を斜面谷側から見た一部断面全体正面図、図2は、その一部断面側面図である。この実施の形態に係る落石防護柵は、既存の落石防護柵と同様に、斜面(法面を含む)Sを落下する落石による被害を防止することなどを目的に斜面正面視左右方向(横方向)に延設されるものである。この実施の形態では、一定の高さで斜面横方向に連続する土台状のコンクリート構造物12を落石防護柵の基礎として形成している。このコンクリート構造物12は、例えば図示しない躯体の周囲に例えばコンクリートを打設して構築される。
このコンクリート構造物12の上面からは、斜面横方向に予め設定された所定間隔を設けて複数(図では4本)の支柱10が立設されている。この実施の形態の落石防護柵は、これら支柱10でネット体14を支持しながら支柱10間にネット体14を張設し、このネット体14で落石を捕捉することで被害を防止しようとするものである。落石は、斜面Sに沿って転がり落ちるものだけではなく、斜面Sから離れて浮いた状態で落下するものもある。浮いた落石もネット体14で捕捉するため、そのネット体14を支持する支柱10も、或る程度の高さが必要である。また、落石は、斜面横方向のどの箇所で発生するか、予測することはできない。そのため、支柱10の高さは例えば2m〜5m、支柱10間の間隔は例えば3m〜5m、場合によっては10m程度であり、それらは、斜面Sの規模や状況に応じて適宜選択される。この支柱10には、例えば鋼製の角パイプなどの比較的剛性の大きいものが使用される。この支柱10では、例えば鋼製角パイプの内部にコンクリートを充填したものも使用できる。また、この支柱10には、樹脂製又は金属製の中空パイプ内にゴムを充填したものなども使用できる。
この支柱10は、前述した特許文献1のように、例えば支柱10の下端部にヒンジなどの可倒構造を設け、その部分から、例えば支柱10が斜面谷側に傾倒するようにすることも可能である。その場合、支柱10の上部をロープなどで支持する必要がある。しかしながら、この実施の形態では、ネット体14が落石を捕捉する以前の位置(設定張設位置)からのネット体14の変位量(変形量)、具体的には落石を捕捉したネット体14の斜面下方又は斜面Sから突出する方向への突出寸度を可及的に小さくすることを主眼としているので、支柱10は斜面谷側に傾倒しないのが望ましい。なお、支柱10に可倒構造を介装する場合には、支柱傾倒時に制動力を発生するブレーキ装置を介装し、支柱傾倒の際、その制動力で落石の運動エネルギーを吸収するようにすることが望ましい。
この実施の形態のネット体14には、例えば図3に示すような、網目が菱形の金属線材からなる菱形金網22が用いられている。この菱形金網22は、例えば特開2016−37773号公報に記載されるように、例えば金属線材24を曲げ加工して三角波状ワイヤとし、並列に配置された複数の三角波状ワイヤの山と谷を互いに編んで、それらの三角波状ワイヤを係合することで構成される。この三角波状ワイヤを構成する金属線材24には、軟鋼、硬鋼、 ばね鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。この金属線材24には必要により被覆処理がなされていてもよく、これにより三角波状ワイヤの接触部分の摩耗や、腐食等を防止することができる。被覆処理としては、例えば、亜鉛メッキ処理やポリエステル被覆処理が挙げられる。
この実施の形態では、ネット体14の最大変形量を小さくすることが重要なので、菱形金網22からなるネット体14を構成する金属線材24も変形量の小さい、比較的機械強度の高いものが望ましい。従って、金属線材24として具体的に好ましいものは、硬鋼製のワイヤ(単線)、特に、JIS G 3506に規定される硬鋼線材から作製されたワイヤ、例えば、硬鋼線(JIS G 3521)、亜鉛めっき鋼線(JIS G 3548)等である。ワイヤの引張強度は例えば800〜2500N/mm2、好ましくは1000〜2000N/mm2、特に1500〜2000N/mm2であることが有利である。
このような硬鋼線を用いることにより、剛性が大きく且つ重量の小さいネット体14を得ることができる。金属線材24として、弾性変形性に優れる硬鋼製のワイヤを用いることも好適である。この種の単線金属線材24の太さは、例えば、2〜10mm、好ましくは2.6〜4mmである。従来の落石防護柵のネット体に用いられる線材は、軟鋼線、つまり鉄線であり、比較的容易に塑性変形してしまう。従って、軟鋼線材のネット体のエネルギー吸収量は小さく、前述した従来技術のように、ネット体の斜面谷側に配設された補助ロープ(この実施の形態における横方向補強ロープ26)が主として落石の運動エネルギーを吸収する。当然ながら、従来の軟鋼線材のネット体の最大変形量は大きい。これに対し、この実施の形態のように硬鋼線材で構成されるネット体14は、軽量ながら剛性が大きいので、ネット体14の変形に伴うエネルギー吸収量が大きい。従って、硬鋼線材からなるネット体14の変形によって落石の運動エネルギーを大きく吸収することができる。結果的に、硬鋼線材からなるネット体14は、落石捕捉時の最大変形量が小さく、設定張設位置からの変位量も小さい。
また、この金属線材24は、例えば特開2014−66054号公報に記載されるように、複数の素線を撚ることによって構成された撚線であってもよい。撚線として好ましいものは、素線(例えば直径2mm〜5mm)を複数本(例えば2〜5本)撚ることにより作製された撚線(直径6〜25mm)である。素線は、特に引張強度が400〜2000N/mm2、好ましくは800〜2000N/mm2であるものが使用される。このような素線としては、例えば前述した硬鋼線を用いることができる。撚線を使用することにより、金属線材24を屈曲させて三角波状とする場合に線材自体に損傷を与えることなく屈曲することができる。なお、素線は防食処理がなされていることが好ましい。防食処理は、例えば、亜鉛メッキ、アルミ亜鉛合金メッキ又は樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル)等で被覆処理することにより可能である。
このネット体14を構成する菱形金網22の菱形の網目の大きさは、例えば特開2013−19198号公報に記載されるように、菱形の内接円の半径が約4.5〜8.5cmの範囲となるような大きさで構成される。このような大きさに網目を構成することにより、ネット体14の網目を落石が通過することを防止しつつ十分に大きな網目を構成することができるので、ネット体14の変形性を適正なものとすることができ、ネット体14による落石の運動エネルギーの吸収がより促進される。この網目の大きさは、例えば、構成された菱形の短い方の対角線が10〜20cm、長い方の対角線が20〜30cm、小さい方の内角が50°〜70°の範囲とすることにより得られる。このように、網目を正方形(又は正多角形)ではなく、菱形にすることで、網目の一辺の長さが同一であっても内接円の半径を小さくとることができ、よって、落石を漏れなく捕捉することが可能となる。また、この実施の形態では、ネット体14は、構成された菱形の長い方の対角線の伸長方向が上下方向(縦方向)となるように設置されている。これにより、同じ形状の菱形の網目を形成したネット体14であれば、縦方向の引っ張り強度を最も強いものとすることができるので、斜面谷側に落下する落石をより効果的に受け止めることができる。
なお、ネット体14の網目の形状は、菱形に限られず、適宜多角形とすることができる。また、ネット体14には、後述するように、例えば前述の特許文献1に記載されるリング式ネットを用いることもできる。また、ネット体14の下端部は、コンクリート構造物12、即ち斜面にできるだけ接近させ、両者の間の隙間を可及的に小さくするのが望ましい。
この実施の形態では、図1に明示するように、隣り合う支柱10の上端部の間に横部材16が配置され、この横部材16が、所謂突っ張り棒として作用して両支柱10が互いに近接するのを規制する。この実施の形態では、横部材16の端部と支柱10の上端部は、図示しない連結構造によって堅固に連結されている。この横部材16により、後述するように落石がネット体14で捕捉された際、ネット体14で下方に引っ張られる支柱10同士が互いに近接するのを規制する。これにより、ネット体14の不要な撓みを抑制することができ、その結果、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量を小さくすることができる。そのため、この横部材16には、少なくとも支柱10と同程度の剛性が付与される。
また、この実施の形態では、例えば前述の特許文献1と同様に、複数の支柱10のうち、少なくとも斜面横方向両端部の支柱10間に横方向補強ロープ26が架け渡されて固定され、この横方向補強ロープ26がネット体14に挿通又は連結され、これによりネット体14が補強されている。この横方向補強ロープ26は、落石を捕捉したネット体14を支持することで間接的に落石を支持し、合わせて落石の運動エネルギーを吸収する。この横方向補強ロープ26の図1の右方端部は、係止具28を介して図示右方端部の支柱10に堅固に固定され、図1の左方端部は、後述するブレーキ装置30を介して図示左方端部の支柱10に固定されている。この横方向補強ロープ26には、例えば高強度のワイヤロープなどが適用される。横方向補強ロープ26の線径は、例えば12〜30mm程度である。
この実施の形態では、上下に間隔を開けて複数(本実施の形態では6本)の横方向補強ロープ26が張架されている。この実施の形態ではネット体14の上辺部に最上部の横方向補強ロープ26−1が配置され、下辺部に最下部の横方向補強ロープ26−6が配置されている。これらの横方向補強ロープ26は、ネット体14を構成する菱形金網の網目を縫うようにして挿通されており、且つ、後述する伝達部材2と共に締結部材4によって堅固に締結されている。なお、横方向補強ロープ26は、ネット体14の斜面谷側に配設されてもよい。また、横方向補強ロープ26の配設本数は、前記に限定されるものではないが、少なくともネット体14のネット面の下辺部、好ましくは上辺部及び下辺部には横方向補強ロープ26を配設することが望ましい。また、横方向補強ロープ26の架け渡しは、必ずしも水平方向でなくてもよい。
実際の横方向補強ロープ26は、自重やネット体14の重みによってやや下方に弛んでいる。ネット体14による落石の運動エネルギー吸収効果は、ネット体14が変形することで発揮される。一方、横方向補強ロープ26は、ネット体14で落石が捕捉され、ネット体14が斜面谷側に膨出することでロープの弛みがなくなり、横方向補強ロープ26に張力が発生したときから、落石を捕捉したネット体14を支持することができる。このとき、横方向補強ロープ26の伸びを許容しながらその伸びに制動力が付与されれば、制動力を伴う横方向補強ロープ26の伸びによって落石の持つ運動エネルギーを吸収することができる。そのため、この横方向補強ロープ26の図示左方端部には、所定の制動力を伴ってロープの両固定部間の長さの伸びを許容するブレーキ装置30が設けられている。
図4には、ロープの伸びを許容しながら制動力を付与するブレーキ装置30の一例を示す。この図は、図1のブレーキ装置30を斜面山側から見た正面図である。このブレーキ装置30は、紙面垂直方向に幅を有する金属帯52を中実円柱部材54に巻き掛けて構成され、その金属帯52の長手方向の一方の端部、この場合は円柱部材54から短い方の端部に横方向補強ロープ26の端部を連結している。また、この金属帯52の他方の端部には、ストッパ58が設けられると共に、そのストッパ58の手前には、金属帯52の両表面に対をなして突出する緩衝用突起60が2か所に設けられている。また、このブレーキ装置30では、円柱部材54に巻き掛けられている金属帯52の外側に、その金属帯52を比較的緊密に抑える抑え部材56が取付けられており、この抑え部材56が、係止具28を介して、図1の図示左方端部側の支柱10の斜面山側面に固定されている。
このブレーキ装置30では、横方向補強ロープ26に張力が係り、図の矢印方向に引っ張られると、金属帯52も同方向に引っ張られる。このとき、金属帯52は円柱部材54と抑え部材56で形成される狭い通路内を通過しなければならず、その際、円柱部材54に巻き掛かっている部分が移動する。この金属帯52の円柱部材54への巻き掛け部分では、その巻き掛け部分の移動に伴って塑性変形が連続して発生する。この金属帯52の円柱部材54への巻き掛け部分の移動に伴う連続した塑性変形は変形抵抗であるから、この変形抵抗に抗して横方向補強ロープ26の両固定部間の長さが伸びる際、ブレーキング作用、つまり制動力が生じ、横方向補強ロープ26に作用する落石の運動エネルギーが大きく吸収される。なお、横方向補強ロープ26の伸び量は、ストッパ58の位置で規制される。
図5は、ブレーキ装置30の他の例を示す斜視図である。このブレーキ装置30は、ループ管32と緊締部材とよりなっており、ループ管32には横方向補強ロープ26の中途部分が挿通されている。ループ管32の両端部は並列して重ね合わされており、この重畳部は緊締部材、例えば圧縮スリーブ34によって締固され、圧縮スリーブ34によって締固されている部分でループ管32の重畳部は相互に摩擦接触し、またループ管32と圧縮スリーブ34も摩擦接触している。ループ管32は鋼製管であることが好ましいが、他の金属材料やプラスチック材料で製作することもできる。
このブレーキ装置30では、横方向補強ロープ26に大きな張力が発生すると、ループ管32の径を縮小しようとする力が働き、ループ管32の両端部はロープに沿って互いに反対方向へ向かう力を受ける。ロープに加わっている張力が、圧縮スリーブ34による締固箇所におけるループ管32同士及びループ管32と圧縮スリーブ34との間の摩擦力を越えると、摩擦抵抗に抗して、相互間に滑りが生じ、この滑りによって、横方向補強ロープ26の両固定部間の伸びを伴いながら落石の運動エネルギーが吸収される。その際、ループ管32の変形によっても運動エネルギーは吸収される。ループ管32の直径、壁厚、材料を選択することにより、エネルギー吸収能力を種々に変更可能であり、様々な要求に対応することができる。なお、図では、ループ管32が一巻きである場合が示されているが、二重巻き又はそれ以上の巻き数であってもよい。
図1では、1本の横方向補強ロープ26に対し、1つのブレーキ装置30を設けているが、1本の横方向補強ロープ26に対し、複数のブレーキ装置30を設けてもよい。そして、1本の横方向補強ロープ26に対して複数のブレーキ装置30を設ける場合、それらのブレーキ装置30の制動力の大きさを互いに異なる大きさに設定してもよい。前述のように、ブレーキ装置30の制動力は横方向補強ロープ26の張力に依存している。このような制動力配分にすると、例えば1本の横方向補強ロープ26に2個のブレーキ装置30を設けた場合、落石を捕捉したネット体14を支持する横方向補強ロープ26の張力の増大に伴い、何れか一方のブレーキ装置30が先に作動して制動力を発揮し、その後から、他方のブレーキ装置30が作動して制動力を発揮する。こうすることで、落石を支持する横方向補強ロープ26が伸び続ける間、継続的或いは断続的に制動力を発揮する、つまり運動エネルギーを吸収し続けることが可能となる。
この実施の形態では、支柱10と支柱10の間の領域で、上下方向(縦方向)に長い(伸長する)伝達部材2をネット体14に当接又は近接するように配設している。この伝達部材2は、例えば鋼製の板材や棒材で構成され、少なくともネット体14よりも剛性が大きい。また、この伝達部材2は、支柱10よりも剛性が小さいことが望ましく、例えば伝達部材2の剛性を支柱10の剛性の1/10〜1/3、好ましくは1/6〜1/4とする。ここで、剛性とは、周知のように、例えばヤング率Eと断面二次モーメントIとの積値で表される。この実施の形態の場合、評価すべき剛性は、落石によって変位される方向、つまりネット体14の面と垂直な方向の剛性である。このネット体14の面と垂直な方向の伝達部材2の剛性を支柱10の剛性の1/10〜1/3、好ましくは1/6〜1/4とする。
この実施の形態では、支柱10と支柱10の真ん中に1本、その横方向両側に1本ずつ、所定の間隔を設けて計3本の伝達部材2を各支柱10間に配設している。これらの伝達部材2は、ネット体14に対して、斜面山側に配設されている。また、この実施の形態では、伝達部材2の長さは、ネット体14の上下方向(縦方向)長さと同じにしてあり、従って、伝達部材2はネット体14の上辺から下辺まで縦方向全域に接する。つまり、伝達部材2の上端部はネット体14の上辺に位置する最上部の横方向補強ロープ26−1に当接し、伝達部材2の下端部はネット体14の下辺に位置する最下部の横方向補強ロープ26−6に当接する。そして、この実施の形態では、伝達部材2と横方向補強ロープ26の交差する位置で、それらをネット体14の線材と共に締結部材4で締結している。
更に、この実施の形態では、伝達部材2の下端部をコンクリート構造物12に連結している。コンクリート構造物12は、斜面Sに固設されているから、伝達部材2の下端部は斜面Sに連結されているともいえる。コンクリート構造物12に代えて、斜面Sに固設された落石防護柵の基礎構造に伝達部材2の下端部を連結してもよい。この伝達部材2の下端部は、連結ロープ6を介してコンクリート構造物12に連結されている。具体的に、連結ロープ6の上端部は伝達部材2の下端部に直接的に固定され、コンクリート構造物12に埋設されたアンカー8に連結ロープ6の下端部が固定されている。なお、この連結ロープ6は、後述するようにネット体14の下端部と斜面(コンクリート構造物12などを含む)との間に、落石が通過する程度の隙間ができなければ、必ずしも要しない。また、図では、連結ロープ6には弛み、つまり余裕が与えられていないが、この連結ロープ6に余裕、具体的には弛みを与えてもよい。この余裕は、例えば支柱10間の距離の1/5〜1/10程度に設定するとよい。
そして、この連結ロープ6には、連結ロープ6に所定値以上の負荷が加えられたとき、つまり張力が所定値以上になったときに所定の制動力を伴いながら連結ロープ6自身の長さの伸びを許容するブレーキ装置30が設けられている。このブレーキ装置30には、図2に示すように、前述した図5のブレーキ装置が用いられている。このブレーキ装置30には、図4のブレーキ装置を用いることも可能である。従って、横方向補強ロープ26に用いられるブレーキ装置30と同様に、連結ロープ6の両固定部間の長さが伸びる際、ブレーキング作用、つまり制動力が生じ、連結ロープ6に作用する落石の運動エネルギーが大きく吸収される。連結ロープ6に弛み(余裕)が与えられている場合には、後述するように、ネット体14による落石の捕捉に伴って伝達部材2が変位し、連結ロープ6の弛みがなくなって連結ロープ6に所定の張力が作用した時点でブレーキ装置30による制動力が発生する。
図6は、この実施の形態の落石防護柵の作用を模式的に示した縦断面図である。何れも、最上部及び最下部の横方向補強ロープ26のみ図示し、その他の横方向補強ロープは図示を省略している。図6(A)は、伝達部材2も連結ロープ6もなく、支柱10間に菱形金網のようなネット体14が張設された落石防護柵である。ネット体14は、落石Rの衝突によって変形する。図6(A)のように、伝達部材2のない落石防護柵では、落石Rの当接部分だけ、ネット体14が斜面下方又は斜面Sから突出する方向に局所的に変形している。図6(A)のように、落石Rの当接部分のみネット体14が局所的に変形して落石Rの運動エネルギーを吸収する場合、ネット体14の最大変形量は大きい。また、このような落石捕捉による局所的なネット体14の変形は、支柱10に近いほど小さく、逆に支柱10から遠いほど、つまり支柱10と支柱10の中間が最も大きい。ネット体14の最大変形量が大きいと、落石Rを捕捉したネット体14の斜面下方又は斜面Sから突出する方向への突出寸度、つまり設定張設位置からの変位量が大きくなる。例えば、落石防護柵が人家や道路に近接している場合、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量が大きいと、落石防護柵として十分に機能しないおそれがある。
図7は、図6(A)と同様に、図1、図2の落石防護柵から伝達部材2や連結ロープ6を除去した落石防護柵に落石Rが捕捉された状態を模式的に示す説明図であり、図7(A)は平面図、図7(B)は斜面正面図である。ネット体14は、一部だけ図示している。
図7に示す横方向補強ロープ26の伸び、つまり図に表れるロープの撓み状態から、ネット体14が局所的に変形していることが分かり、その結果、ネット体14の局所的な最大変形量が大きいことが理解される。ネット体14の最大変形量が大きいことは、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量が大きいことを意味する。しかしながら、この例は、図1、図2の落石防護柵と同様に横部材16が配設されているため、後述するように、横部材がない場合に比して、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量が抑制されている。
図8は、図7の落石防護柵から、更に横部材16を除去した落石防護柵に落石Rが捕捉された状態を模式的に示す説明図であり、図8(A)は平面図、図8(B)は斜面正面図である。ネット体14は、一部だけ図示している。落石Rがネット体14に衝突すると、その衝突部分の斜面横方向両側の支柱10は、落石Rを捕捉したネット体14によって斜面下方或いは斜面から突出する方向に引っ張られ、その際、それら隣り合う支柱10の上部が互いに近接しようとする。図8は、これを規制する横部材がないので、落石衝突部分の両側の隣り合う支柱10の上部が近接するように各支柱10が変形し、その変形に伴って各支柱10が斜面下方に傾倒している。このようにネット体14を支持する支柱10が変形したり傾倒したりしてしまうと、ネット体14が張設されなくなるために、ネット体14の横方向中央部が不要に弛み、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量が更に大きくなってしまう。なお、図8における支柱10の傾倒状態は、分かりやすいように誇張されたものであり、実際の支柱10の傾倒はもっと小さい。
これに対し、隣り合う支柱10間に横部材16が配設されている図7の落石防護柵では、ネット体14が落石Rを捕捉した際の支柱10の上部が互いに近接するのが規制される。その結果、ネット体14の不要な弛みが抑制され、その分だけ、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量を抑制することが可能となる。しかしながら、この変位量の更なる抑制が期待される。
図6(B)には、図6(A)の落石防護柵に図1、図2の伝達部材2を配設した落石防護柵に落石Rが捕捉された状態を模式的に示す。落石防護柵は、例えば斜面Sから離れて浮いた状態で落下する落石Rもネット体14で捕捉する必要があるので、斜面Sから或る程度の高さまで伸展して張り渡される。しかしながら、実質的に落石Rが当接するのはネット体14の下部が殆どである。そこで、支柱10と支柱10の間において、上下方向に長く且つネット体14よりも剛性の大きい伝達部材2をネット体14に当接又は近接して配設しておくと、例えば落石がネット体14の下部に衝突した際、落石Rの運動エネルギーが伝達部材2を介してネット体14の上方にも伝達され、伝達された部分もネット体14が変形する。即ち、上下方向に長い伝達部材2をネット体14に沿って配設することで、ネット体14の変形領域が上下方向に広がり、より効率よく落石Rの運動エネルギーが吸収される。結果として、ネット体14の最大変形量が小さくなり、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量が抑制される。
更に、この実施の形態では、伝達部材2の長さをネット体14の上下方向長さと同じにしてあるので、落石衝突時のネット体14の変形領域を上下方向全域に広げることができ、落石Rの運動エネルギーがより一層効率よく吸収される。そのため、ネット体14の最大変形量をより一層小さくすることができ、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量をより一層小さくすることができる。また、伝達部材2の剛性をネット体14より大きく且つ支柱10より小さくしているので、ネット体14が変形した後、支柱10が変形する前に伝達部材2が変形し、この伝達部材2の変形によっても、落石Rの運動エネルギーを吸収することができる。
ところで、上下方向に長い伝達部材2をネット体14に沿って配設すると、落石衝突時に、ネット体14の変形領域が上方に広がるが、それに伴って、ネット体14全体が上方に引き上げられる。ネット体14が上方に引き上げられた結果、ネット体14と斜面S、この実施の形態の場合は、ネット体14とコンクリート構造物12の間に隙間ができてしまうと、一旦、ネット体14に捕捉された落石Rが、その隙間から再び落下するおそれがある。また、ネット体14が上方に引き上げられる分だけ、落石Rを捕捉したネット体14の最大変形量も大きくなり易く、従って設定張設位置からの変位量も大きくなり易い。
この実施の形態の落石防護柵は、図1、図2に示すように、伝達部材2の下端部が連結ロープ6によってコンクリート構造物12に連結されているので、落石Rがネット体14に捕捉されても、図6(C)に示すように、ネット体14も容易には上方に引き上げられない。従って、この実施の形態の落石防護柵では、落石Rが衝突してもネット体14と斜面S(コンクリート構造物12を含む)の間に隙間ができず、捕捉された落石Rが隙間から再び落下するのを回避することができる。また、同時に、落石Rを捕捉したネット体14の最大変形量を小さくすることが可能となり、設定張設位置からの変位量も小さくすることが可能となる。
図9は、図1、図2に示す実施の形態の落石防護柵に落石Rが捕捉された状態を模式的に示す説明図であり、つまり、図9(A)は図6(C)の平面図、図9(B)は図6(C)の斜面正面図である。ネット体14は、一部だけ図示している。同図から明らかなように、この実施の形態の落石防護柵では、落石Rを捕捉したネット体14の設定張設位置、具体的には支柱10及び横部材16で構成される門型からの変位量が、図8、図7のものに比べて、著しく小さい。そのため、例えば道路際などへの設置が可能となる。なお、落石を捕捉したネット体14と斜面S、この実施の形態ではコンクリート構造物12との間に、落石が通過する程度の隙間ができなければ、伝達部材2の下端部を斜面に連結する必要はない。その場合でも、ネット体14と斜面S、この実施の形態ではコンクリート構造部12との間の隙間は可及的に小さくしておくのが望ましい。
前述したネット体14には、前述した特許文献1に記載されるリング式ネットを使用することもできる。このリング式ネット18は、例えば図10に示すように、1つのリング状部材20の周囲に4つのリング状部材20が均等に配置されるようにして、それらのリング状部材20の内周側同士が接触するように連結する。リング状部材20の連結構造は、様々な形態がある。
このリング状部材20は、例えば鋼線からなる線材を複数回(5〜20回)巻回し、周方向の数か所を締結具によって締め付けて構成されている。締結具は、例えば側面形状がC字状の略筒状の金具であり、巻回により重合された線材の外側に被せてから加締めることにより固定されている。このリング状部材20は、例えば、線材の材料、線材の線径、線材の巻回数、締結具による加締め力などを調整することで、後述する変形時の強度やエネルギー吸収力を調整することができる。
リング状部材20を構成する線材には、例えば硬鋼線材から製造される鋼線が好ましいが、例えば軟鋼線材から製造される鉄線でもよい。鋼線の場合、引張強度800N/mm2以上のものが好ましい。また、これらの線材にメッキや被覆を施したものも用いることができる。更に好ましくは、前述した菱形金網に用いられる硬鋼線材でリング状部材20を構成する。線材の線径は2.5〜5mm程度で、リング状部材20の直径は、捕捉対象の落石の大きさに合わせて設定する。リング式ネット18は、リング状部材20の直径を変更することで、捕捉対象の落石の大きさに容易に対応することができる。例えば、斜面Sの岩や礫の大きさを調査し、その大きさに合わせてリング状部材20の直径を設定すれば、落石発生時の落石を効果的に捕捉することができる。
リング状部材20を連結して構成されるリング式ネット18は、例えばネット面に垂直な力(負荷)が加わると、リング状部材20が互いに引っ張られるので、リング状部材20の形状そのものが変形すると共に、リング状部材20を構成する線材の巻回が緩むように変形する。これらの変形は、落石の運動エネルギー、具体的には落石が衝突してネット面に負荷が作用するときに生じ、リング式ネット18に負荷が加わるとリング状部材20が変形することで、落石の運動エネルギーが吸収され、結果としてリング式ネット18で落石を捕捉する効果が得られる。
従って、リング状部材20の変形に必要な力、換言すればリング状部材20の変形によって吸収可能な落石の運動エネルギーは、例えばリング状部材20を構成する線材の材料や線径、巻回数、或いは締結具による線材の加締め力で調整することができる。
このように、この実施の形態の落石防護柵によれば、斜面Sの正面視左右方向に所定の間隔を設けて複数の支柱10を立設し、それら複数の支柱10によって支持するネット体14をそれらの支柱10間に張設する場合に、ネット体14よりも剛性が大きく且つ上下方向に長い伝達部材2を支柱10の間の領域でネット体14に当接又は近接するように配設する。これにより、支柱10間に張設されたネット体14に落石が衝突したときのネット体14の変形領域が上下方向に広がる。従って、ネット体14の最大変形量を小さくすることが可能となり、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量を抑制することができる。その結果、大きな剛性のネット体14を使用する必要がなく、その分だけ、重量やコストを低減することが可能となる。また、ネット体14を支持する支柱10の斜面横方向の間隔を小さくする必要がないので、支柱10の数を低減することが可能となり、その分だけ、部品点数やコストを低減することが可能となり、施工も容易になる。また、ネット体14の変形領域を広げて落石を捕捉することにより、伝達部材2の変形を回避することができれば、落石捕捉後に伝達部材2を再利用することも可能となる。
また、伝達部材2の剛性を支柱10よりも小さくすることにより、ネット体14が落石を捕捉した後、支柱10が変形する前に、伝達部材2が変形する。従って、ネット体14の変形だけでなく、この伝達部材2の変形によっても落石の運動エネルギーが吸収されるので、落石の運動エネルギーを効率よく吸収することができる。また、支柱10の変形を回避することができれば、落石捕捉後に支柱10を再利用することも可能となる。
また、伝達部材2の長さをネット体14の上下方向長さと同じにしたことにより、落石が衝突したときのネット体14の変形領域が上下方向全域に広がるので、ネット体14の最大変形量をより一層小さくすることができ、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量をより一層抑制することができる。
また、伝達部材2をネット体14に対して斜面山側に配置したことにより、落石が衝突したときのネット体14の変形領域を可及的速やかに上下方向に広げることができ、その結果、ネット体14の最大変形量をより一層小さくすることができ、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量をより一層抑制することができる。
また、伝達部材2の下端部をコンクリート構造物12又は基礎構造に連結したことにより、落石が衝突したときに伝達部材2の下端部が斜面Sから離間してしまうのを抑制することができるので、落石をネット体14で確実に捕捉することができる。また、ネット体14の最大変形量をより一層小さくすることができ、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量をより一層抑制することができる。
また、伝達部材2の下端部を連結ロープ6で連結し、その連結ロープ6には所定値以上の負荷が加えられたときに所定の制動力を伴いながら連結ロープ6の長さの伸びを許容するブレーキ装置を設けた。これにより、ブレーキ装置の設置によって連結ロープの伸びに制動力が作用するので、落石が衝突して連結ロープ6が伸びるときの制動力により、ネット体14の変形に合わせて落石の運動エネルギーを吸収することが可能となる。
また、隣り合う支柱10の上部間に、その隣り合う支柱10の上部が互いに近接するのを規制する横部材16を配置したことにより、落石がネット体14に当接したときの隣り合う支柱10の上部間の近接が横部材16によって規制されるので、ネット体14の不要な弛みが抑制され、結果的に、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量を抑制することができる。
また、斜面左右方向両端部の支柱10間に架け渡されて固定され且つネット体14を補強する横方向補強ロープ26をネット体14に挿通又は連結した。これにより、落石が衝突したときのネット体14の変形領域を斜面左右方向(横方向)にも広げることが可能となり、ネット体14の最大変形量をより一層小さくすることができ、落石を捕捉したネット体14の設定張設位置からの変位量をより一層抑制することができる。
また、ネット体14による落石の捕捉と横方向補強ロープ26によるネット体14の変形抑止を調整することで、ネット体14が変形して落石の運動エネルギーを吸収する以前に横方向補強ロープ26によって落石の持つ運動エネルギーを受けることが可能となる。
以上、実施の形態について説明したが、本発明の構成はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。例えば、上述した横方向補強ロープ26や伝達部材2の本数や材質については現場の状況に応じて適宜選択されるものであり、また、それらのブレーキ装置は、上述の構成に限定されるものではなく、制動力を伴いながら横方向補強ロープ26や連結ロープ6の伸びを許容するものであれば如何なるものを用いてもよい。
また、前述の実施の形態では、ネット体14を1張だけ、斜面横方向両端部の支柱10間に張架したが、例えば各支柱10間毎にネット体14を張架してもよい。
また、本発明の適用は、新たに斜面Sに構築する場合だけでなく、既設の落石防護柵の基礎に対して支柱10やネット体14を本発明の構造によって設置することも可能である。