JP6970891B2 - 非水電解液の製造方法、非水電解液および非水電解液二次電池 - Google Patents
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Description
このような満充電時における非水電解液の酸化分解を抑制するために、非水電解液の非水溶媒の主成分をフッ素化溶媒にする技術が提案されている(例えば、特許文献1)。かかるフッ素化溶媒は高い耐酸化性を有しているため、高電位正極活物質を用いた場合であっても、満充電時の酸化分解を好適に抑制することができる。
このため、近年では、電解液よりも低い電位で分解してSEI膜を形成する被膜形成剤(例えば、LiBOB:リチウムビス(オキサラト)ボレートなど)を非水電解液に溶解させる技術が提案されている(例えば特許文献2)。これによって、非水電解液が分解される前に被膜形成剤に由来するSEI膜を形成することができるため、非水電解液の還元分解を抑制することができる。また、前述の特許文献1には、非水溶媒の主成分がフッ素化溶媒である非水電解液に、LiBOBなどの被膜形成剤を添加する技術が開示されている。
具体的には、フッ素化溶媒が主成分である非水溶媒は、高い耐酸化性を有している一方で耐還元性が低いという特徴を有しているため、初期充電時の還元分解を好適に抑制するには、多量のLiBOBを溶解させる必要があった。しかし、かかるフッ素化溶媒は、非常にLiBOBが溶解し難い(飽和溶解度が0.002M程度)ため、初期充電時の還元分解を抑制するために必要な量のLiBOBを存在させることが非常に困難である。このように、非水溶媒の主成分がフッ素化溶媒である非水電解液を用いた場合には、LiBOBの溶解量が不足し易く、初期充電時に多くの非水電解液が還元分解して電池容量が低下する恐れがある。
かかる非水電解液二次電池の製造方法は、フッ素化溶媒を準備するフッ素化溶媒準備工程と、比誘電率が40以上である高極性溶媒を準備する高極性溶媒準備工程と、フッ素化溶媒の飽和溶解量を超えるLiBOBを高極性溶媒に溶解させて高濃度LiBOB溶液を調製するLiBOB溶解工程と、フッ素化溶媒と高濃度LiBOB溶液とを混合する混合工程とを含む。
そして、かかる検討において、先ず、フッ素化溶媒と高極性溶媒とを混合した混合溶媒を使用することに思い至った。高極性溶媒とは、比誘電率が40以上の非水溶媒を指すものであり、フッ素化溶媒と比較して非常に多くのLiBOBを溶解させることができる。そして、実験を行った結果、本発明者は、高極性溶媒を含む混合溶媒は、フッ素化溶媒のみからなる非水溶媒よりも多くのLiBOBを溶解させることができることを見出した。具体的には、10%の高極性溶媒を含む混合溶媒では、0.02M程度のLiBOBを溶解できることが分かった。
このように、本発明者が種々の実験と検討を行った結果、非水溶媒の主成分をフッ素化溶媒にした場合には、上述のようなトレードオフの関係が生じるため、単に高極性溶媒とフッ素化溶媒とを混合するだけでは、満充電時の酸化分解と初期充電時の還元分解の両方を高いレベルで抑制することが困難であることが判明した。
具体的には、一般に、多量の溶質が溶解した高濃度の溶液と、かかる溶質の飽和溶解度が低い溶媒とを混合すると、混合直後に飽和溶解度を超えた分の溶質が析出する。しかし、本発明者は、実験の結果、多量のLiBOBを溶解させた高極性溶媒(高濃度LiBOB溶液)とフッ素化溶媒とを混合させた場合には、飽和溶解度を超えたLiBOBが非水溶媒に溶解している状態が長期間維持されることを発見した。これは、高濃度LiBOB溶液を調製した際に、LiBOB分子が高極性溶媒の分子に取り囲まれて溶媒和の状態になり、高極性溶媒とフッ素化溶媒とを混合して非水電解液を調製した後も、この溶媒和の状態が継続するためと考えられる。
上述したように、満充電時における電解液の酸化分解を好適に抑制するためには、充分な量のフッ素化溶媒が非水溶媒に含まれている必要がある。一方、フッ素化溶媒の容量が多くなり過ぎると、高極性溶媒の容量が少なくなるため、高濃度LiBOB溶液とフッ素化溶媒とを混合した際にLiBOBが析出し易くなる。この点を考慮すると、非水溶媒の総容量に対するフッ素化溶媒の容量は上述の範囲内に設定されていると好ましい。
高濃度LiBOB溶液中のLiBOB濃度が低すぎると、所望のLiBO濃度の非水電解液を製造するために、高濃度LiBOB溶液の混合比を多くする必要がある。この場合、非水溶媒中のフッ素化溶媒の容量が少なくなるため、非水電解液の耐酸化性が低下する恐れがある。かかる点を考慮すると、高濃度LiBOB溶液には、可能な限り多くのLiBOBが溶解している(高極性溶媒の飽和溶解度までLiBOBが溶解している)と好ましい。かかる観点に基づくと、高濃度LiBOB溶液中のLiBOB濃度は、上述の範囲内に好ましく設定される。
このように高濃度LiBOB溶液と混合する前のフッ素化溶媒にリチウム塩を溶解させることによって、所望の量のリチウム塩を容易に溶解させることができる。
これらの高極性溶媒は、充分な量のLiBOBを溶解させることができると共に、溶解したLiBOBを好適に溶媒和の状態にすることができるため、充分な量のLiBOBが析出することなく溶解している非水電解液を容易に製造することができる。
これらのフッ素化カーボネートをフッ素化溶媒として用いることによって、非水電解液の耐酸化性を好適に向上させて、満充電時の酸化分解をより好適に抑制することができる。
ここで開示される非水電解液は、フッ素化溶媒を主成分として含む非水溶媒に、リチウム塩とLiBOBとが溶解している。かかる非水電解液では、非水溶媒に比誘電率が40以上である高極性溶媒が含まれており、非水溶媒の総容量を100vol%とした場合のフッ素化溶媒の容量が80vol%〜95vol%であり、かつ、LiBOBの溶解量が0.1M以上である。
ここで開示される非水電解液二次電池は、正極と負極とを有する電極体がケース内に収容されており、正極と負極との間に非水電解液が充填されている。そして、かかる二次電池では、非水電解液が、フッ素化溶媒を主成分として含む非水溶媒に、リチウム塩とLiBOBとが溶解している非水電解液であると共に、負極の表面にLiBOBに由来するSEI膜が形成されている。さらに、ここで開示される二次電池では、非水溶媒の総容量を100vol%とした場合の前記フッ素化溶媒の容量が80vol%〜95vol%であり、かつ、LiBOBに由来するSEI膜の成分量が0.1mg/cm2〜0.4mg/cm2である。なお、本明細書において、「LiBOBに由来するSEI膜の成分量」とは、当該LiBOBに由来するSEI膜の中心元素であるホウ素(B)の検出量を示すものである。
図1は本実施形態に係る非水電解液の製造方法を模式的に示すフローチャートである。本実施形態に係る製造方法は、フッ素化溶媒を主成分として含む非水溶媒にリチウム塩が溶解している非水電解液を製造する方法である。かかる製造方法は、図1に示すように、フッ素化溶媒準備工程S10と、リチウム塩溶解工程S20と、高極性溶媒準備工程S30と、LiBOB溶解工程S40と、混合工程S50とを備えている。
本実施形態に係る製造方法では、先ず、フッ素化溶媒準備工程S10を実施する。本工程において準備されるフッ素化溶媒は、カーボネート骨格(O−CO−O)を有するカーボネート化合物の一部をフッ素で置換した非水溶媒である。かかるフッ素化溶媒の具体例としては、フッ素化環状カーボネートとフッ素化鎖状カーボネートとが挙げられる。ここで、「フッ素化環状カーボネート」とは、C−C結合によって環状に閉じた化学構造を有するカーボネート化合物であって、一部がフッ素に置換されているものを指す。また、「フッ素化鎖状カーボネート」とは、非環式の(鎖状の)化学構造を有するカーボネート化合物であって、一部がフッ素に置換されているものを指す。これらのフッ素化溶媒は、高い耐酸化性を有しているため、非水溶媒の主成分にすることによって、満充電時における非水電解液の酸化分解を好適に抑制して、電池容量の低下を防止することができる。
次に、本実施形態では、フッ素化溶媒準備工程S10で準備したフッ素化溶媒にリチウム塩を溶解させるリチウム塩溶解工程S20を実施する。
かかるリチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI、LiN(FSO2)2などの1種または2種以上を用いることができる。
次に、本実施形態では、上述したフッ素化溶媒準備工程S10とリチウム塩溶解工程S20とは別に、高極性溶媒準備工程S30を実施する。
本工程において準備する「高極性溶媒」とは、比誘電率が40以上(好ましくは40以上120以下、より好ましくは70以上100以下)の非水溶媒を指す。かかる条件を満たす高極性溶媒の具体例としては、EC(エチレンカーボネート、比誘電率:95.3)、PC(プロピレンカーボネート、比誘電率:64.4)、SL(スルホラン、比誘電率:44)、PS(1,3−プロパンスルトン、比誘電率:94)、PRS(1−プロペン1,3−スルトン、比誘電率:90)などが挙げられる。これらの高極性溶媒は、多量のLiBOBを容易に溶解させることができると共に、溶解したLiBOBを適切に溶媒和の状態にすることができるため、後述の高濃度LiBOB溶液を調製する際の溶媒に特に好適に用いることができる。また、ECは、高極性溶媒の中では、比較的に高い耐酸化性を有しているため、満充電時における非水電解液の酸化分解の抑制にも貢献することができる。
次に、高極性溶媒準備工程S30で準備した高極性溶媒にLiBOB(リチウムビス(オキサラト)ボレート)を溶解させて高濃度LiBOB溶液を調製するLiBOB溶解工程S40を実施する。LiBOBは、オキサラト錯体化合物の一種であって、非水電解液二次電池の初期充電において、電解液よりも低い電位で分解してSEI膜を形成する被膜形成剤としての機能を有している。このLiBOBに由来するSEI膜を好適に形成することによって、初期充電時の非水電解液の還元分解を生じさせることなく、負極を安定化させることができるため、電池容量の低下を好適に防止することができる。
ここで、本明細書中の「高濃度LiBOB溶液」とは、フッ素化溶媒の飽和溶解量を超えたLiBOBが溶解している高極性溶媒を指す。なお、高濃度LiBOB溶液のLiBOB濃度が低すぎると、所望のLiBOBが溶解した非水電解液を得るためにフッ素化溶媒の混合比を少なくする必要が生じるので、製造後の非水電解液の耐酸化性が低下する恐れがある。このため、高濃度LiBOB溶液には可能な限り多くのLiBOBが溶解している(高極性溶媒の飽和溶解量まで溶解している)と好ましい。例えば、かかる高濃度LiBOB溶液のLiBOB濃度は、1M以上4M以下が好ましく、1.5M以上4M以下がより好ましく、例えば2Mである。
本実施形態に係る非水電解液の製造方法では、次に、フッ素化溶媒と高濃度LiBOB溶液とを混合する混合工程S50を実施する。本実施形態に係る製造方法では、この混合工程S50を実施することによって、フッ素化溶媒および高極性溶媒が混合した非水溶媒に、リチウム塩とLiBOBが溶解した非水電解液が得られる。このとき、調製後の非水溶媒の主成分がフッ素化溶媒になるように、フッ素化溶媒と高濃度LiBOB溶液との混合比を調整すると好ましい。具体的には、非水溶媒の総容量を100vol%とした場合に、フッ素化溶媒の容量が80vol%〜95vol%(好ましくは85vol%〜95vol%、例えば90vol%)になるように、フッ素化溶媒と高濃度LiBOB溶液との混合比を調整すると好ましい。これによって、製造後の非水電解液の耐酸化性を好適に向上させて、満充電時の酸化分解による電池容量の低下を好適に防止することができる。
例えば、上述の実施形態に係る製造方法では、フッ素化溶媒にリチウム塩を溶解させるリチウム塩溶解工程S20を実施している。しかし、ここで開示される非水電解液の製造方法におけるリチウム塩を溶解させるタイミングは、上述の実施形態に限定されない。すなわち、フッ素化溶媒と高濃度LiBOB溶液とを混合して混合溶媒を調製する混合工程を実施した後に、当該混合溶媒にリチウム塩を溶解させてもよい。また、フッ素化溶媒ではなく、高極性溶媒や高濃度LiBOB溶液にリチウム塩を溶解させてもよい。
但し、リチウム塩の溶解を効率良く行うという点を考慮すると、上述の実施形態のように、高濃度LiBOB溶液と混合する前のフッ素化溶媒にリチウム塩を溶解させた方が好ましい。
次に、本発明の他の態様として、上述した実施形態に係る製造方法によって得られた非水電解液が用いられた非水電解液二次電池について説明する。
図2は本実施形態に係る非水電解液二次電池を模式的に示す斜視図であり、図3は本実施形態に係る非水電解液二次電池に用いられる電極体を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、本実施形態に係る非水電解液二次電池100は、扁平な角形の電池ケース50を備えている。この電池ケース50は、上面が開放された扁平なケース本体52と、当該上面の開口部を塞ぐ蓋体54とから構成されている。また、電池ケース50の蓋体54には、正極端子70と負極端子72とが設けられている。
本実施形態に係る非水電解液二次電池100では、図2に示す電池ケース50の内部に、図3に示す電極体80が収容されている。かかる電極体80は、シート状の正極10と負極20とをセパレータ40を介して積層させ、当該積層体を捲回することによって形成された捲回電極体である。以下、電極体80を構成する各部材について説明する。
図3に示すように、正極10は、アルミニウム箔などの正極集電体12の表面(両面)に正極合材層14を付与することによって形成されている。なお、正極10の一方の側縁部には、正極合材層14が付与されておらず、集電体露出部16が形成されている。そして、捲回後の電極体80の一方の側縁部には、正極10の集電体露出部16が捲回された正極接続部80aが形成され、当該正極接続部80aに上述の正極端子70(図2参照)が接続される。
また、本実施形態において用いられる正極活物質は、リチウム金属基準(vs.Li/Li+)での作動上限電位(開回路電圧(OCV))が4.35V以上となる高電位正極活物質であると好ましい。かかる高電位正極活物質を用いた場合、入出力特性やエネルギー密度を向上させることができる一方で、満充電時に非水電解液が酸化分解され易くなるという問題も生じ得る。しかし、本実施形態では、主成分がフッ素化溶媒であって耐酸化性が高い非水溶媒が非水電解液に用いられているため、高電位正極活物質を使用したとしても、満充電時における非水電解液の酸化分解を好適に抑制することができる。
なお、高電位正極活物質としては、例えば、一般式:LipMn2−qMqO4+αで表されるスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物が好適例として挙げられる。ここで、かかる一般式におけるpは0.9≦p≦1.2であり、qは0≦q<2(典型的には0≦q≦1、例えば0.2≦q≦0.6)であり、αは−0.2≦α≦0.2で電荷中性条件を満たすように定まる値である。また、式中のMはMn以外の任意の金属元素または非金属元素から選択される1種または2種以上であり得る。より具体的には、Na、Mg、Ca、Sr、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Fe、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Zn、B、Al、Ga、In、Sn、La、W,Ce等であり得る。これらの中でも、Fe、Co、Ni等の遷移金属元素の少なくとも1種を好ましく採用することができる。
さらに、本実施形態における正極活物質には、上述したスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物の中でも、LiとNiとMnとを必須元素として含むリチウムニッケルマンガン複合酸化物を特に好ましく用いることができる。かかるリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、熱安定性が高く、且つ、電気伝導性も高いため、電池性能および耐久性を向上させることができる。このようなリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、例えば、一般式:Lix(NiyMn2−y―zM1z)O4+βで表される。ここで、M1は、存在しないか若しくはNi、Mn以外の任意の遷移金属元素または典型金属元素(例えば、Fe、Co、Cu、Cr、ZnおよびAlから選択される1種または2種以上)であり得る。なかでも、M1は、3価のFeおよびCoの少なくとも一方を含むことが好ましい。あるいは、半金属元素(例えば、B、SiおよびGeから選択される1種または2種以上)や非金属元素であってもよい。なお、上記一般式におけるxは0.9≦x≦1.2であり、yは0<yであり、zは0≦zである。また、y+z<2(典型的にはy+z≦1)であり、βは上記αと同様であり得る。好ましい一態様では、yは0.2≦y≦1.0(より好ましくは0.4≦y≦0.6、例えば0.45≦y≦0.55)であり、zは0≦z<1.0(例えば0≦z≦0.3)である。このような一般式を満たすリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一例としてLiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
負極20は、銅箔などの負極集電体22の表面(両面)に負極合材層24を付与することによって形成される。上述した正極10と同様に、負極20の一方の側縁部には、負極合材層24が付与されておらず、集電体露出部26が形成されている。そして、捲回後の電極体80の一方の側縁部には、この集電体露出部26が捲回された負極接続部80bが形成されており、当該負極接続部80bに負極端子72(図2参照)が接続される。
また、負極合材層24には、負極活物質以外に、バインダや増粘剤などの添加物が含まれていてもよい。かかる負極合材層24のバインダとしては、スチレンブタジエン共重合体(SBR)などが挙げられる。また、増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)などが挙げられる。
セパレータ40は、リチウムイオンを通過させる微細な孔を有した多孔質の絶縁シートである。かかるセパレータ40には、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ポリアミド等の絶縁性樹脂を用いることができる。また、セパレータ40は、一種類の樹脂シートからなる単層シートであってもよいし、二種類以上の樹脂シートを積層させた積層シートであってもよい。かかる積層構造のセパレータとしては、例えば、PPシートの両面にPEシートが積層された三層構造のシート(PE/PP/PEシート)などが挙げられる。
非水電解液二次電池100では、上述した電極体80の正極10と負極20との間に非水電解液が充填されている。ここで、本実施形態に係る非水電解液二次電池100では、上述した実施形態において製造された非水電解液が用いられている。すなわち、本実施形態において用いられる非水電解液には、フッ素化溶媒と、高極性溶媒と、リチウム塩と、LiBOBとが含まれている。各々の材料については、上述した実施形態において既に説明したため、ここでは詳細な説明を省略する。
そして、かかる非水電解液は、フッ素化溶媒を主成分として含む非水溶媒が用いられているにも関わらず、充分な量のLiBOBが溶解されている。具体的には、非水溶媒の総容量を100vol%とした場合のフッ素化溶媒の容量が80vol%〜95vol%であるにも関わらず、0.1M以上のLiBOBが溶解されている。このように、本実施形態に係る非水電解液二次電池で用いられる非水電解液には、フッ素化溶媒とLiBOBの各々が好適に含まれているため、満充電時の酸化分解と初期充電時の還元分解の両方を高いレベルで抑制することができる。
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例の説明は本発明を限定することを意図したものではない。
本試験例では、製造工程が異なる19種類の非水電解液を製造し、各々の非水電解液を用いてリチウムイオン二次電池(サンプル1〜19)を作製した。
サンプル1では、フッ素化溶媒のみからなる非水溶媒に、リチウム塩(LiPF6)とLiBOBとを溶解させることによって非水電解液を調製し、当該非水電解液を用いてリチウムイオン二次電池を作製した。
そして、かかるLiNi0.5Mn1.5O4の粉末と、導電材(AB:アセチレンブラック)と、バインダ(PVDF:ポリフッ化ビニリデン)とを87:10:3の割合で混合し、分散媒(NMP:Nメチルピロリドン)に分散させることによってペースト状の正極合材を調製した。この正極合材をシート状の正極集電体(アルミニウム箔)の両面に塗布し、当該正極合材を乾燥させた後、圧延することによってシート状の正極を作製した。
サンプル2、3では、フッ素化溶媒と高極性溶媒とを混合した混合溶媒を非水溶媒として用いたことを除いてサンプル1と同じ条件で非水電解液を調製し、当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池を作製した。
具体的には、サンプル2、3では、フッ素化溶媒であるFECおよびMTFCと、高極性溶媒であるEC(エチレンカーボネート)とを混合した混合溶媒を調製し、当該混合溶媒にリチウム塩とLiBOBとを溶解させた。なお、サンプル2とサンプル3とでは、FECとMTFCとECの混合比をそれぞれ異ならせた。そして、サンプル2の非水電解液のLiBOB溶解量は0.02Mであり、サンプル3の非水電解液のLiBOB溶解量は0.05Mであった。
サンプル4〜7では、上記した実施形態に係る製造方法のように、予め高濃度LiBOB溶液を調製した後、当該高濃度LiBOB溶液とフッ素化溶媒とを混合することによって非水電解液を調製した点を除いて、サンプル1と同じ手順でリチウムイオン二次電池を構築した。
具体的には、先ず、高極性溶媒であるECにLiBOBを溶解させて、LiBOB溶解量が2Mの高濃度LiBOB溶液を調製すると共に、フッ素化溶媒(FECおよびMTFC)にリチウム塩(LiPF6)を溶解させた。そして、高濃度LiBOB溶液とフッ素化溶媒とを混合することによって非水電解液を調製した。なお、サンプル4〜7では、高濃度LiBOB溶液とフッ素化溶媒との混合比をそれぞれ異ならせて、非水電解液へのLiBOB溶解量を異ならせた。詳しくは表1に示す。
サンプル8〜10では、高極性溶媒としてPC(プロピレンカーボネート)を用いたことを除いて、サンプル4〜7と同じ条件で非水電解液を調製し、当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池を作製した。なお、サンプル8〜10においても、表1に示すように、高濃度LiBOB溶液(LiBOB濃度が2MのPC)とフッ素化溶媒との混合比をそれぞれ異ならせた。
サンプル11〜13では、高極性溶媒としてSL(スルホラン)を用いたことを除いて、サンプル4〜7と同じ条件で非水電解液を調製し、当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池を作製した。なお、サンプル11〜13においても、表1に示すように、高濃度LiBOB溶液(LiBOB濃度が2MのSL)とフッ素化溶媒との混合比をそれぞれ異ならせた。
サンプル14〜16では、高極性溶媒としてPS(1,3−プロパンスルトン)を用いたことを除いて、サンプル4〜7と同じ条件で非水電解液を調製し、当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池を作製した。なお、サンプル14〜16においても、表1に示すように、高濃度LiBOB溶液(LiBOB濃度が2MのPS)とフッ素化溶媒との混合比をそれぞれ異ならせた。
サンプル17〜19では、高極性溶媒としてPRS(1−プロペン1,3−スルトン)を用いたことを除いて、サンプル4〜7と同じ条件で非水電解液を調製し、当該非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池を作製した。なお、サンプル17〜19においても、表1に示すように、高濃度LiBOB溶液(LiBOB濃度が2MのPRS)とフッ素化溶媒との混合比をそれぞれ異ならせた。
本試験では、各サンプルのリチウムイオン二次電池の容量維持率を測定した。
具体的には、先ず、各サンプルのリチウムイオン二次電池を1/5Cの電流値で4.5Vまで充電する定電流充電を行った後、60℃の高温環境下で20時間の定電圧充電を行うことによって各電池を活性化させた。
次に、1/5Cの電流値で4.9Vまで充電する定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、充電後の状態を満充電状態とした。そして、1/5Cで3.5Vまで放電する定電流放電を行い、放電後の容量を初期容量とした。
そして、各々のサンプルを60℃の高温環境に配置し、2Cの電流値で4.9Vまで充電した後、2Cの電流値で3.5Vまで放電する充放電サイクルを1サイクルとし、当該充放電サイクルを1000サイクル繰り返した。そして、1000サイクル後の各サンプルの容量を測定し、1000サイクル後の容量を初期容量で除することによって容量維持率(%)を算出した。算出結果を表1に示す。
表1中のサンプル1〜3より、フッ素化溶媒のみからなる非水溶媒を用いた場合よりも、高極性溶媒(EC)を含む混合溶媒を用いた場合の方がLiBOBの飽和溶解度が上昇することが確認された。しかし、サンプル2とサンプル3とを比較すると、サンプル3の方が多くのLiBOBが溶解しているにも関わらず、容量維持率がサンプル2よりも低下していた。これは、フッ素化溶媒の混合比が少なくなった結果、非水電解液の耐酸化性が低下し、満充電時の酸化分解を抑制することができなくなったためと解される。
このことから、高濃度LiBOB溶液を予め調製し、かかる高濃度LiBOB溶液とフッ素化溶媒とを混合した場合、飽和溶解度を超えるLiBOBが溶解した非水電解液を調製することができ、かかる非水電解液を用いることによって優れた電池容量を有する非水電解液二次電池を構築できることが分かった。
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極
22 負極集電体
24 負極合材層
40 セパレータ
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
80 捲回電極体
100 リチウムイオン二次電池
Claims (8)
- フッ素化溶媒を主成分として含む非水溶媒にリチウム塩が溶解している非水電解液を製造する方法であって、
前記フッ素化溶媒を準備するフッ素化溶媒準備工程と、
比誘電率が40以上である高極性溶媒を準備する高極性溶媒準備工程と、
前記フッ素化溶媒の飽和溶解量を超えるLiBOBを前記高極性溶媒に溶解させて高濃度LiBOB溶液を調製するLiBOB溶解工程と、
前記フッ素化溶媒と前記高濃度LiBOB溶液とを混合する混合工程と
を含む、非水電解液の製造方法。 - 前記非水溶媒の総容量を100vol%とした場合の前記フッ素化溶媒の容量が80vol%〜95vol%である、請求項1に記載の非水電解液の製造方法。
- 前記高濃度LiBOB溶液における前記LiBOBの溶解量が1M以上4M以下である、請求項1または請求項2に記載の非水電解液の製造方法。
- 前記混合工程を実施する前に、前記フッ素化溶媒に前記リチウム塩を溶解させるリチウム塩溶解工程を実施する、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の非水電解液の製造方法。
- 前記高極性溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、スルホラン、1,3−プロパンスルトン、1−プロペン1,3−スルトンの何れかを含む、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の非水電解液の製造方法。
- 前記フッ素化溶媒が、フッ素化環状カーボネートとフッ素化鎖状カーボネートの何れかを含む、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の非水電解液の製造方法。
- 前記フッ素化環状カーボネートが、4−フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネートの何れかである請求項6に記載の非水電解液の製造方法。
- 前記フッ素化鎖状カーボネートが、メチル2,2,2トリフルオロエチルカーボネートである請求項6に記載の非水電解液の製造方法。
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