JP6954846B2 - 球状黒鉛鋳鉄 - Google Patents

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Description

本発明は、球状黒鉛鋳鉄、より詳細には、低温での衝撃強度に優れた球状黒鉛鋳鉄、及びその製造方法に関する。
従来、自動車のエンジン、足回り部品、又は駆動部品などに、球状黒鉛鋳鉄が採用されることがある。球状黒鉛鋳鉄は、鉄基地内に球状黒鉛粒子を含むので、他の鋳鉄に比べて優れた強度、延性を期待することができる。
例えば、特許文献1は、質量%で、C:3.3〜4.0%、Si:2.1〜2.7%、Mn:0.20〜0.50%、S:0.005〜0.030%、Cu:0.20〜0.50%、Mg:0.03〜0.06%、を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、引張強さが550MPa以上且つ伸びが12%以上である球状黒鉛鋳鉄について開示している。
特開2015−10255号公報
しかしながら、球状黒鉛鋳鉄は、高強度化すると、低温において伸びが低下し、衝撃入力に対して追従しにくくなることから、早期破断してしまう(脆化する)。したがって、低温脆化による衝撃入力に対する衝撃強度の低下が問題になる。
従来技術、例えば、特許文献1では、低温での衝撃値に関して検討されているものの、低温での衝撃強度に関して検討されていない。
ここで、衝撃値とは、衝撃吸収エネルギーであり、材料が破壊するまでに消費するエネルギー量のことである。衝撃値は、材料特性の強度と伸びの両方に影響される値である。
一方で、衝撃強度とは、衝撃的な入力に対する強度のことである。通常「強度」というと、静的強度、すなわち、非常にゆっくりとした速度(例えばひずみ速度が10−2〜10−3−1)で引張ったときの破断強度(本明細書等では、「引張強さ」ともいう)を指すが、衝撃強度は、速い速度(概ね静的の100倍以上の速度、例えば5秒−1)で引張ったときの破断強度を指す。衝撃強度は、部品の設計値になり得る。
したがって、本発明は、低温での衝撃強度に優れた球状黒鉛鋳鉄、及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、球状黒鉛鋳鉄を、一定の組成になるように調整した鋳鉄溶湯の冷却ステップにおいて、注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度までの冷却速度と、A1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度までの冷却速度とを一定の範囲になるように調整して製造したところ、得られた球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数、及びパーライト率が一定の範囲内に収まり、その結果、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度が向上することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)C:3.5質量%〜4.2質量%、
Si:2.0質量%〜2.8質量%、
Mn:0.2質量%〜0.4質量%、
Cu:0.1質量%〜0.7質量%、
Mg:0.02質量%〜0.06質量%、
Cr:0.01質量%〜0.15質量%、並びに
残部:Fe及び不可避的不純物からなり、
Mn+Cr+Cuが、0.431質量%〜1.090質量%であり、
黒鉛粒数が、230個/mm以下であり、
パーライト率が、30%〜85%である、
球状黒鉛鋳鉄。
(2)(i)鋳鉄溶湯を調製するステップと、
(ii)(i)において調製した鋳鉄溶湯を冷却するステップと、を含み、
(ii)の冷却ステップが、
(a)注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度までの冷却速度を、15℃/分〜25℃/分に調節する第1の冷却ステップ、及び
(b)A1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度までの冷却速度を、5℃/分〜20℃/分に調節する第2の冷却ステップ
を含む、(1)に記載の球状黒鉛鋳鉄を製造する方法。
本発明により、低温での衝撃強度に優れた球状黒鉛鋳鉄、及びその製造方法が提供される。
実施例及び比較例におけるYブロック形状を示す。 実施例2の製造における球状黒鉛鋳鉄の冷却時間(横軸)に対する鋳鉄温度(縦軸)の関係を示す。 実施例1〜6及び比較例1〜3の組織写真、パーライト率、黒鉛球状化率、黒鉛粒数、及び黒鉛平均粒径を示す。 実施例及び比較例のサンプル評価のための8つの試験片の切り出し位置を示す。 各実施例及び比較例の引張強さに対する−40℃衝撃強度又は室温衝撃強度の関係を示す。
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、C:3.5質量%〜4.2質量%、Si:2.0質量%〜2.8質量%、Mn:0.2質量%〜0.4質量%、Cu:0.1質量%〜0.7質量%、Mg:0.02質量%〜0.06質量%、Cr:0.01質量%〜0.15質量%、並びに残部:Fe及び不可避的不純物からなり、Mn+Cr+Cuは、0.431質量%〜1.090質量%である。
C(炭素)の含有量は、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、3.5質量%〜4.2質量%、好ましくは3.5質量%〜3.9質量%である。
ここで、Cの含有量は、JIS G 1211に基づいたC−S計より測定される値である。
Cは、黒鉛組織となる元素であり、Cの含有量を前記範囲にすることによって、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数、及びパーライト率を下記で説明する適切な範囲にすることができ、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
Si(ケイ素)の含有量は、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、2.0質量%〜2.8質量%、好ましくは2.3質量%〜2.6質量%である。
ここで、Siの含有量は、JIS 1258:2014の規格に基づいて、ICP発光分光分析方法により測定される値である。
Siは、黒鉛の晶出を促進する元素であり、Siの含有量を前記範囲にすることによって、黒鉛の晶出が適度に促進され、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
Mn(マンガン)の含有量は、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、0.2質量%〜0.4質量%、好ましくは0.20質量%〜0.35質量%である。
ここで、Mnの含有量は、JIS 1258:2014の規格に基づいて、ICP発光分光分析方法により測定される値である。
Mnは、パーライト組織を安定化する元素であり、Mnの含有量を前記範囲にすることによって、パーライト率を下記で説明する適切な範囲にすることができ、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
Cu(銅)の含有量は、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、0.1質量%〜0.7質量%、好ましくは0.15質量%〜0.66質量%である。
ここで、Cuの含有量は、JIS 1258:2014の規格に基づいて、ICP発光分光分析方法により測定される値である。
Cuは、パーライト組織を安定化する元素であり、Cuの含有量を前記範囲にすることによって、パーライト率を下記で説明する適切な範囲にすることができ、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
Mg(マグネシウム)の含有量は、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、0.02質量%〜0.06質量%、好ましくは0.03質量%〜0.06質量%である。
ここで、Mgの含有量は、JIS 1258:2014の規格に基づいて、ICP発光分光分析方法により測定される値である。
Mgは、黒鉛の球状化に影響する元素であり、Mgの含有量を前記範囲にすることによって、黒鉛球状化率を一定に保つことができ、低温での衝撃強度を低減させ得る炭化物の生成を抑え、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
Cr(クロム)の含有量は、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、0.01質量%〜0.15質量%、好ましくは0.02質量%〜0.10質量%である。
ここで、Crの含有量は、JIS 1258:2014の規格に基づいて、ICP発光分光分析方法により測定される値である。
Crは、パーライト組織を安定化する元素であり、Crの含有量を前記範囲にすることによって、パーライト率を下記で説明する適切な範囲にすることができ、低温での衝撃強度を低減させ得る炭化物の生成を抑え、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
残部は、Fe(鉄)及び不可避的不純物からなる。
ここで、不可避的不純物としては、P(リン)、S(硫黄)が挙げられる。Pの含有量は、限定されないが、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、通常0.1質量%以下、例えば0.01質量%〜0.05質量%である。ここで、Pの含有量は、JIS 1258:2014の規格に基づいて、ICP発光分光分析方法により測定される値である。Sの含有量は、限定されないが、球状黒鉛鋳鉄の総質量に対し、通常0.02質量%以下、例えば0.005質量%〜0.015質量%である。ここで、Sの含有量は、JIS G 1215に基づいたC−S計により測定される値である。
P及びSの含有量を前記範囲にすることによって、低温での衝撃強度を低減させ得る副生成物、例えばステダイトの生成を抑制し、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
MnとCrとCuとを合わせた含有量(Mn+Cr+Cu)は、0.431質量%〜1.090質量%である。
Mn+Cr+Cuの含有量を前記範囲にすることによって、球状黒鉛鋳鉄のパーライト率を下記で説明する適切な範囲にすることができ、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄において、当該技術分野において考慮され得る値である、炭素当量(CE値=Cの含有量(質量%)+1/3×Siの含有量(質量%))は、限定されないが、通常4.1〜4.9、好ましくは4.3〜4.7である。
CE値を前記範囲にすることによって、鋳鉄溶湯の流動性を維持し、球状黒鉛鋳鉄におけるひけ欠陥を抑え、黒鉛の晶出を適度に促進し、黒鉛球状化率を向上させ、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数は、230個/mm以下、好ましくは200個/mm以下である。本発明の球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数は、限定されないが、通常150個/mm以上、好ましくは160個/mm以上、より好ましくは180個/mm以上である。本発明の球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数は、通常150個/mm〜230個/mm、より好ましくは160個/mm〜200個/mmである。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数は、光学顕微鏡の倍率を100倍〜200倍として観察箇所を画像として取り込み、画像解析システムにより2値化を行ない、1mm×0.6mmにおけるマトリクスより暗い部分(黒鉛に相当)の個数を測定することにより算出する。測定は、3箇所以上で行い、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数は、それらの平均値とする。
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数を前記範囲にすることによって、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の黒鉛平均粒径は、限定されないが、通常30μm以下、好ましくは27μm以下である。本発明の球状黒鉛鋳鉄の黒鉛平均粒径は、限定されないが、通常21μm以上、好ましくは22μm以上である。本発明の球状黒鉛鋳鉄の黒鉛平均粒径は、限定されないが、通常21μm〜30μm、好ましくは22μm〜27μmである。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛平均粒径は、光学顕微鏡の倍率を50倍〜200倍として観察箇所を画像として取り込み、画像解析システムにより2値化を行ない、マトリクスより暗い部分(黒鉛に相当)の粒径(円相当径)を300個以上、例えば450個〜500個測定し、それらを平均化することにより算出する。
本発明の球状黒鉛鋳鉄のパーライト率は、30%〜85%、好ましくは34%〜83%、より好ましくは40%〜60%である。
ここで、球状黒鉛鋳鉄のパーライト率は、鋳鉄の断面の金属組織写真から画像処理によって、(1)黒鉛を除いた組織を抽出し、(2)黒鉛及びフェライトを除き、パーライト組織を抽出し、(パーライトの面積)/(パーライト+フェライトの面積)によって算出する。
球状黒鉛鋳鉄のパーライト率を前記範囲にすることによって、球状黒鉛鋳鉄の硬さ及び伸びのバランスを良くすることができ、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化率は、限定されないが、通常75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化率は、JIS G 5502:2007の規格に基づいて測定される。
球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化率を前記範囲にすることによって、球状黒鉛鋳鉄の硬さや伸びのバランスを良くすることができ、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の室温(15℃〜30℃)での静的な引張強さは、限定されないが、通常490MPa〜750MPa、好ましくは550MPa〜700MPaである。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の引張強さは、JIS Z 2241:2011の規格に基づいて測定される。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の低温(−40℃)での衝撃強度(低温衝撃強度又は−40℃衝撃強度)は、限定されないが、通常630MPa〜850MPa、好ましくは700MPa〜850MPaである。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の低温衝撃強度は、JIS Z 2241:2011の規格の引張強さの測定条件において、温度を−40℃とし、ひずみ速度を5秒−1にすることで測定される。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の室温(15℃〜30℃)での衝撃強度(室温衝撃強度)は、限定されないが、通常600MPa〜800MPa、好ましくは650MPa〜780MPaである。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の室温衝撃強度は、JIS Z 2241:2011の規格の引張強さの測定条件において、室温で、ひずみ速度を5秒−1にすることで測定される。
本発明において、球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度が向上するということは、低温衝撃強度が、引張強さよりも大きくなることを指す。球状黒鉛鋳鉄の低温衝撃強度は、通常引張強さの7%以上、例えば10%〜30%、好ましくは20%〜25%大きくなる。
さらに、本発明では、室温衝撃強度もまた、引張強さよりも大きくなる。球状黒鉛鋳鉄の室温衝撃強度は、通常引張強さの6%以上、例えば7%〜20%、好ましくは13%〜20%大きくなる。
球状黒鉛鋳鉄の低温衝撃強度及び室温衝撃強度が引張強さよりも大きくなることで、衝撃荷重を受ける足回り部品などへの適用に際し、部品の更なる最適設計ができ、部品の軽量化や低コスト化に貢献できる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄のビッカース硬さは、限定されないが、通常180HV20〜250HV20、好ましくは190HV20〜240HV20である。
ここで、球状黒鉛鋳鉄のビッカース硬さは、JIS Z 2244:2009の規格に基づいて測定される。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の0.2%耐力は、限定されないが、通常320MPa〜440MPa、好ましくは330MPa〜410MPaである。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の0.2%耐力は、JIS Z 2241:2011の規格に基づいて、オフセット法により測定される。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の破断伸びは、限定されないが、通常5%〜21%、好ましくは8%〜20%である。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の破断伸びは、JIS Z 2241:2011の規格に基づいて、永久伸び法により測定される。
本発明の球状黒鉛鋳鉄のビッカース硬さ、0.2%耐力、及び破断伸びが前記範囲になることによって、球状黒鉛鋳鉄の物理的強度が確保される。
前記で説明した本発明の球状黒鉛鋳鉄は、低温での衝撃強度がより求められる、例えばステアリングナックルなどの部品への適用が可能となる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法は、(i)一定の組成になるように調整された鋳鉄溶湯を調製するステップと、(ii)(i)において調製した鋳鉄溶湯を冷却するステップと、を含み、(ii)の冷却ステップは、(a)第1の冷却ステップ及び(b)第2の冷却ステップを含む。
以下に(i)〜(ii)の各ステップについて説明する。
(i)一定の組成になるように調整された鋳鉄溶湯を調製するステップ
本発明の(i)のステップでは、C、Si、Mn、Cu、Mg及びCr、並びにMn+Cr+Cuの含有量を、前記の本発明の球状黒鉛鋳鉄において説明した含有量になるように鋳鉄溶湯を調製する。本発明の(i)のステップでは、好ましくは、C:3.5質量%〜4.2質量%、Si:2.0質量%〜2.8質量%、Mn:0.2質量%〜0.4質量%、Cu:0.1質量%〜0.7質量%、Mg:0.02質量%〜0.06質量%、及びCr:0.01質量%〜0.15質量%、並びにMn+Cr+Cu:0.431質量%〜1.090質量%になるように鋳鉄溶湯を調製する。
ここで、Cの含有量は、公知の黒鉛粉末やスクラップ鉄、銑鉄などの鉄原料などにより調整される。Siの含有量は、Si金属単体やスクラップ鉄、銑鉄などの鉄原料やFe−Si系接種剤、Fe−Si−Mg系球状化剤などにより調整される。Mnの含有量は、Mn金属単体やスクラップ鉄などの鉄原料やFe−Mn系添加剤などにより調整される。Cuの含有量は、Cu金属単体などにより調整される。Mgの含有量は、Fe−Si−Mg系球状化剤などにより調整される。Crの含有量は、スクラップ鉄、銑鉄などの鉄原料やFe−Cr系添加剤などにより調整される。
本発明の(i)のステップでは、鋳鉄溶湯に、球状化剤、カバー材、接種剤などの添加剤を加えることができる。
ここで、球状化剤とは、黒鉛を球状化させるための材料であり、限定されないが、例えばFe−Si−Mg合金を挙げることができる。
カバー材とは、鋳鉄溶湯と球状化剤との反応の開始時間を調整するための材料であり、限定されないが、例えばFe−Si合金を挙げることができる。
本発明の(i)のステップでは、鋳鉄溶湯は、限定されないが、通常1400℃〜1650℃、好ましくは1500℃〜1600℃で調製される。
本発明の(i)のステップでは、各材料の添加順序、添加温度、混合方法、混合時間などは限定されず、当該技術分野において公知の方法により実施される。例えば、本発明では、以下のようにして鋳鉄溶湯を調製することができる。
高周波誘導溶解炉において、鋳鉄の原料であるスクラップ鉄、銑鉄などや炭素及び添加元素を加えた後、1500℃〜1600℃で材料を溶解させる。その後約1550℃で出湯し、とりべ中で球状化処理を実施する。球状化剤に含まれるマグネシウムの反応が完了した後、鋳型に注湯する。
(ii)(i)において調製した鋳鉄溶湯を冷却するステップ
本発明の(ii)のステップでは、(i)において調製した鋳鉄溶湯を、(a)第1の冷却ステップ及び(b)第2の冷却ステップを含む冷却ステップにより冷却する。
(a)第1の冷却ステップ
本発明の(ii)の冷却ステップにおける(a)第1の冷却ステップでは、注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度までの冷却速度が、15℃/分〜25℃/分、好ましくは20℃/分〜25℃/分に調節される。
ここで、冷却速度は、球状黒鉛鋳鉄の冷却時間(横軸)に対する鋳鉄温度(縦軸)の関係を表す図における、注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度までの温度差(℃)を注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度になるまでにかかった時間(分)で割ることにより決定される。
鋳鉄溶湯の溶解炉からの出湯温度は、限定されないが、通常1500℃〜1600℃、好ましくは1540℃〜1560℃である。
鋳鉄溶湯を鋳型に流し込む際の注湯温度は、限定されないが、通常1350℃〜1450℃、好ましくは1380℃〜1420℃である。
鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度は、環境条件により変わり得るが、通常720℃〜760℃、好ましくは730℃〜750℃である。
鋳鉄溶湯を流し込む鋳型は、限定されないが、例えばYブロック形状、ノックオフ形などを挙げることができる。
(b)第2の冷却ステップ
本発明の(ii)の冷却ステップにおける(b)第2の冷却ステップでは、A1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度までの冷却速度が、5℃/分〜20℃/分、好ましくは10℃/分〜15℃/分に調節される。
ここで、冷却速度は、球状黒鉛鋳鉄の冷却時間(横軸)に対する鋳鉄温度(縦軸)の関係を表す図における、A1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度までの温度差(℃)をA1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度になるまでにかかった時間(分)で割ることにより決定される。
球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度は、限定されないが、通常600℃〜400℃、好ましくは500℃〜450℃である。
(a)第1の冷却ステップ及び(b)第2の冷却ステップにおいて、注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度までの冷却速度及びA1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度までの冷却速度を前記範囲にすることにより、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数、及びパーライト率を前記で説明する適切な範囲にすることができ、得られる球状黒鉛鋳鉄の低温での衝撃強度を向上することができる。
なお、(a)第1の冷却ステップと(b)第2の冷却ステップとの間の時間は、限定されないが、通常40分〜70分、好ましくは50分〜60分である。
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
1.サンプル製造
実施例1
高周波誘導溶解炉に、球状化剤及びカバー材を入れ、さらに原料となるスクラップ鉄を加え、1550℃に加熱することにより材料を溶解させた。20分後、接種剤を加え、5分間静置後、鋳鉄溶湯を得た。得られた鋳鉄溶湯を、図1に示すYブロック形状の型に注湯し、第1の冷却ステップの冷却速度(注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度までの冷却速度)が20℃/分、第2の冷却ステップの冷却速度(A1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度までの冷却速度)が10℃/分になるように調節して冷却した。バラシ温度まで鋳型内冷却した後、鋳型内より鋳造品を取り出した。鋳造条件の詳細を表1に示す。
Figure 0006954846
実施例2〜6及び比較例1〜3
使用する原材料の量を変更すること以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜6及び比較例1〜3を製造した。
例として、図2に、実施例2の製造における球状黒鉛鋳鉄の冷却時間(横軸)に対する鋳鉄温度(縦軸)を示す。
2.サンプル組成評価
実施例1〜6及び比較例1〜3の球状黒鉛鋳鉄の化学成分を測定した。C及びSについては、JIS G 1211に基づいたC−S計により測定し、それ以外の元素についてはJIS 1258:2014の規格に基づいて、ICP発光分光分析方法により測定した。
結果を表2に示す。
Figure 0006954846
また、実施例1〜6及び比較例1〜3の組織写真、パーライト率、黒鉛球状化率、黒鉛粒数、及び黒鉛平均粒径を測定した。
各物性は以下のように測定した。
組織写真は、鋳鉄の断面の金属組織写真であり、光学顕微鏡(オリンパス社製)により撮影した。
パーライト率は、鋳鉄の断面の金属組織写真から画像処理によって、(1)黒鉛を除いた組織を抽出し、(2)黒鉛及びフェライトを除き、パーライト組織を抽出し、(パーライトの面積)/(パーライト+フェライトの面積)によって算出した。
黒鉛球状化率は、JIS G 5502:2007の規格に基づいて測定した。
黒鉛粒数は、光学顕微鏡の倍率を100倍として観察箇所を画像として取り込み、画像解析システムにより2値化を行ない、1mm×0.6mmにおけるマトリクスより暗い部分(黒鉛に相当)の個数を測定することにより算出した。測定は、3箇所で行い、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数は、それらの平均値とした。
黒鉛平均粒径は、光学顕微鏡の倍率を100倍として観察箇所を画像として取り込み、画像解析システムにより2値化を行ない、マトリクスより暗い部分(黒鉛に相当)の粒径(円相当径)を100個以上測定し、それらを平均化することにより算出した。
結果を図3に示す。
図3より、実施例1〜6では、パーライト率が34%〜83%になり、黒鉛球状化率が84%〜95%になり、黒鉛粒数が160個/mm〜200個/mmになり、黒鉛平均粒径が22.5μm〜26.9μmになった。一方で、比較例1では、パーライト率が14%と小さくなり、比較例2では、パーライト率が89%と大きくなった。
3.サンプル評価
3−1.試験片の調製
実施例1〜6及び比較例1〜3について、1.サンプル製造において製造したYブロックの製品部分から、8つの試験片を切り出した。図4に8つの試験片の切り出し位置を示す。なお、図4中の寸法の単位はmmであり、Aは押し湯側を示す。
3−2.試験片の室温静的引張試験
8つの試験片から2つの試験片を取り出して、ビッカース硬さ、引張強さ、0.2%耐力、及び破断伸びを測定した。
各物性は以下のように測定した。
ビッカース硬さは、JIS Z 2244:2009の規格に基づいて、測定した。
引張強さは、JIS Z 2241:2011の規格に基づいて、測定した。
0.2%耐力は、JIS Z 2241:2011の規格に基づいて、オフセット法により測定した。
破断伸びは、JIS Z 2241:2011の規格に基づいて、永久伸び法により測定した。
結果を表3に示す。
Figure 0006954846
表3より、実施例1〜6では、ビッカース硬さが181HV20〜244HV20になり、引張強さが499MPa〜747MPaになり、0.2%耐力が321MPa〜431MPaになり、破断伸びが7.3%〜20.1%になった。それに対し、比較例1では、破断伸びが大きくなるものの、ビッカース硬さ、引張強さ及び0.2%耐力は小さくなり、比較例2では、ビッカース硬さ、引張強さ及び0.2%耐力が大きくなるものの、破断伸びは小さくなった。
3−3.試験片の低温衝撃試験
3−2.試験片の室温静的引張試験で使用した試験片とは別の2つの試験片を使用して、−40℃衝撃強度及び室温衝撃強度を測定した。ひずみ速度は5秒−1(sec−1)とした。
各物性は以下のように測定した。
−40℃衝撃強度は、JIS Z 2241:2011の規格に基づく引張強さを測定する条件において、温度を−40℃とし、ひずみ速度を5秒−1にすることで測定した。
室温衝撃強度は、JIS Z 2241:2011の規格に基づく引張強さを測定する条件において、温度を25℃とし、ひずみ速度を5秒−1にすることで測定した。
結果を図5に示す。
図5より、実施例1〜6では、球状黒鉛鋳鉄の−40℃衝撃強度は、引張強さの7%以上大きくなることが分かった。一方で、比較例1では、球状黒鉛鋳鉄の−40℃衝撃強度は、引張強さよりも大きくなるものの、実施例1〜6と比較して小さく、比較例2では、球状黒鉛鋳鉄の−40℃衝撃強度は、引張強さよりも小さくなった。
比較例2において球状黒鉛鋳鉄の−40℃衝撃強度が引張強さよりも小さくなったのは、比較例2は、破断伸びが小さいことから許容ひずみに達する前に破断する、所謂、低温脆化が極端に現われる領域であるためと考えられる。よって、衝撃強度に関しては、実施例1〜6までが工学的に利用されるべき領域と考えられる。

Claims (2)

  1. C:3.5質量%〜4.2質量%、
    Si:2.0質量%〜2.8質量%、
    Mn:0.2質量%〜0.4質量%、
    Cu:0.1質量%〜0.7質量%、
    Mg:0.02質量%〜0.06質量%、
    Cr:0.01質量%〜0.15質量%、並びに
    残部:Fe及び不可避的不純物からなり、
    Mn+Cr+Cuが、0.431質量%〜1.090質量%であり、
    黒鉛粒数が、230個/mm以下であり、
    パーライト率が、30%〜85%である、
    球状黒鉛鋳鉄。
  2. (i)鋳鉄溶湯を調製するステップと、
    (ii)(i)において調製した鋳鉄溶湯を冷却するステップと、を含み、
    (ii)の冷却ステップが、
    (a)注湯温度から鉄−炭素系状態図におけるA1変態点の温度までの冷却速度を、15℃/分〜25℃/分に調節する第1の冷却ステップ、及び
    (b)A1変態点の温度から球状黒鉛鋳鉄における鉄の変態がこれ以上起こることのない温度までの冷却速度を、5℃/分〜20℃/分に調節する第2の冷却ステップ
    を含む、請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄を製造する方法。
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