JP7380051B2 - 強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄 - Google Patents

強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄 Download PDF

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Description

本発明は強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄に関する。
球状黒鉛鋳鉄は優れた機械的特性及び良好な鋳造性を有するので、種々の機械や自動車の部品に広く使用されている。なかでも自動車のサスペンションアーム、ステアリングナックル等の懸架装置部品には、車体を支えるための静的強度及び疲労強度に加え、事故等による衝撃があった場合にも破損しないための耐衝撃性が要求される。このため懸架装置部品に用いられる球状黒鉛鋳鉄には、引張強さ及び耐力の他に、伸び等の靭性が求められる。このような要求を満たすため、従来から基地組織がフェライト相主体で靭性を備えた球状黒鉛鋳鉄として、JIS G 5502に規定されるFCD400、FCD450等が使用されている。
近年、地球温暖化防止のために自動車のCO2排出量の削減が強く求められているが、そのためには自動車の燃費性能の向上が必要であり、その対応技術の一つとして懸架装置部品等の軽量化が求められている。必要な強度を確保しつつ部品を軽量化するには、部品の小型化及び薄肉化が有効である。このためにFCD400、FCD450等より高強度のFCD600、FCD700等のパーライト系球状黒鉛鋳鉄を用いることも考えられるが、球状黒鉛鋳鉄では強度と靭性は相反する特性であるので、FCD600、FCD700等は靭性が低く、耐衝撃性が要求される懸架装置部品に適さない。強度及び靭性を確保しつつ懸架装置部品の軽量化を図るためには、強度及び靭性の両方に優れた球状黒鉛鋳鉄が要求される。
優れた強度及び靭性を有する球状黒鉛鋳鉄を得るために、従来より種々の提案がされている。例えば、特許文献1は、(a)質量比で、C:3.4~4%、Si:1.9~2.8%、Mg:0.02~0.06%、Mn:0.2~1%、Cu:0.2~2%、Sn:0~0.1%、(Mn+Cu+10×Sn):0.85~3%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、(b)面積率で2~40%の微細フェライト相と60~98%の微細パーライト相とからなる二相混合基地組織を有し、前記フェライト相の最大長さが300μm以下であり、(c)前記二相混合基地組織に分散した黒鉛の周囲に前記パーライト相が形成された強度及び靭性に優れた球状黒鉛鋳鉄を提案している。
ところで、球状黒鉛鋳鉄からなる種々の機械や自動車の部品は、鋳造した素材のままで機械や自動車に組み付けられることは稀で、素材に機械加工を施して組み付けられるのが一般的である。例えば懸架装置部品のステアリングナックルでは、鋳造後に車軸、緩衝装置、操舵装置及び制動装置などの周辺部品との取付け面、取付け孔等の連結部位や、高い寸法精度を要する部位等に切削等の機械加工を施した後、自動車に組み付けられるので高い被削性を有する必要がある。
ところが、高強度のFCD600、FCD700等のパーライト系球状黒鉛鋳鉄は難削材料であり、特にFCD700のように700MPa以上の引張強さを有する球状黒鉛鋳鉄は高強度と同時に高硬度であるため被削性に劣る。このため、引張強さ700MPa以上の球状黒鉛鋳鉄からなる部品を切削する場合、難削材料向けの比較的高価な切削工具を必要とし、かつ工具寿命も短いために工具交換の頻度が多く加工コストが上昇し、さらに低速での切削を余儀なくされ切削に長時間を要するために加工能率が低いなど、経済性及び生産性に劣るという問題がある。FCD600、FCD700等は靭性が低いのみならず、材料の硬さが高いことに起因して被削性に劣ることからも懸架装置部品に適さない。このように懸架装置部品を構成する材料には、強度及び靭性に加えて、低硬度であって高い被削性を有することが望まれる。特許文献1に記載の球状黒鉛鋳鉄は、優れた強度及び靱性を有するものの、高い被削性を得るための低硬度化についての検討は十分ではなく、改善の余地がある。
国際公開第2013/100148号パンフレット
従って、本発明の目的は、強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄を提供することである。
上記目的に鑑み特許文献1の球状黒鉛鋳鉄をベースに鋭意検討した結果、本発明者らは、この球状黒鉛鋳鉄の合金組成のうちSi、Mn及びCuの含有量を比較的狭い適正範囲に制限するとともに、特許文献1の球状黒鉛鋳鉄の製造方法で提案された熱処理条件を適用することで、優れた強度及び靭性を確保しつつ低硬度を実現できることを発見し、本発明に想到した。
すなわち、本発明の強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄は、
質量比で、
C:3.5~3.9%
Si:2.45~2.85%
Mn:0.2~0.6%
Cu:0.70~1.20%
Mg:0.02~0.06%
P:0.04%以下
S:0.02%以下
残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
面積率で15~50%の微細フェライト相と50~85%の微細パーライト相とからなる二相混合基地組織を有し、
交線法により求められた基地組織の結晶粒数が250個/mm以上であることを特徴とする。なお本発明における結晶粒数とは、後述のとおり交線法により求められる単位長さ当たりの結晶粒界の数である。
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、強度の指標としての引張強さが700MPa以上であり、靭性の指標としての室温伸びが10%以上であり、かつ硬度の指標としてのブリネル硬さが210~240HBWであるのが好ましい。
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、引張強さが700MPa以上であって、引張強さとブリネル硬さが、下記式(1)を満足することが好ましい。
ブリネル硬さ≦(引張強さ/5)+82 ・・・(1)
ただし、式(1)において、ブリネル硬さは単位HBWの値を、引張強さは単位MPaの値を代入する。
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、強度及び靭性に優れており、自動車の部品、特に耐衝撃性を求められる懸架装置部品に好適であり、部品の軽量化による自動車の低燃費化に貢献する。加えて本発明の球状黒鉛鋳鉄は、低硬度を兼備することから高い被削性を有し、懸架装置部品の機械加工における経済性及び生産性を改善することができる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄を以下詳細に説明する。特に断りがない限り、合金の構成元素の含有量は質量%で示す。
[A]球状黒鉛鋳鉄の組成
(1)C:3.5~3.9%
Cは、凝固開始温度を下げて鋳造性を向上するとともに、黒鉛を晶出させ、パーライト相を析出させるのに必要である。C含有量が3.5%未満ではチル化しやすく靭性が低下し、また3.9%を超えると異常黒鉛を生じやすくなり、球状黒鉛鋳鉄の強度は低下する。このため、C含有量を3.5~3.9%とする。好ましいC含有量は3.6~3.8%である。
(2)Si:2.45~2.85%
Siは、黒鉛の晶出を促進したり、溶湯の流動性を高めたりするのに必要である他、特に本発明においてはパーライト相より軟らかいフェライト相の析出を促進して球状黒鉛鋳鉄の硬さを低下させて被削性を改善する効果がある。また、Siはフェライト相に固溶して基地組織を強化する作用があることから、フェライト相の増加にともなう球状黒鉛鋳鉄の強度の低下を抑制する。Si含有量が2.45%未満ではフェライト相の析出が不十分で球状黒鉛鋳鉄の硬さが低下しない。また2.85%を超えるとパーライト化の抑制作用が高くなり、フェライト相が過剰となって球状黒鉛鋳鉄の強度が低下するとともに、フェライト相の靭性も悪化する。このため、Si含有量は2.45~2.85%とする。好ましいSi含有量は2.50~2.85%であり、より好ましくは2.55~2.85%である。
(3)Mn:0.2~0.6%
Mnは原料から不可避的に混入する元素であるが、パーライト相安定化元素として強度向上に寄与するパーライト相を析出させる作用を有する。Mn含有量が0.3%未満では、パーライト相を十分に生成させることができず、引張強さ、耐力等の必要な強度が得られない。パーライト化を促進するMn含有量は1%まで許容できるが、0.6%を超えるとチル化が促進されて、球状黒鉛鋳鉄が高硬度になり被削性及び靭性を悪化させる。このため、Mn含有量は0.2~0.6%とする。好ましいMn含有量は0.3~0.6%である。
(4)Cu:0.70~1.20%
Cuは、パーライト相安定化元素として強度向上に寄与するパーライト相を析出させるのに必要である。また熱処理の際に、Cuは黒鉛と基地との界面でのバリア効果によりオーステナイト相から黒鉛粒子への炭素の拡散を抑制し、もってオーステナイト相からフェライト相への変態を遅延させて、フェライト相の析出と成長を抑制すると考えられる。加えてCuは熱処理の際に、基地組織よりCu析出物を析出させることでピン止め効果により、オーステナイト相の結晶粒の成長を抑制して結晶粒を微細化させる作用により球状黒鉛鋳鉄に必要な靭性を確保する。本発明の球状黒鉛鋳鉄において基地組織の結晶粒の微細化、即ち結晶粒数の増加は、上述したCuによるオーステナイト相の結晶粒の成長の抑制作用によって得られる。Cu含有量が0.70%未満では、パーライト相を十分に生成できず、またオーステナイト相の結晶粒の微細化が促進されず、球状黒鉛鋳鉄の引張強さ及び靭性が低下する。一方、Cuが1.20%を超えると上記特性の向上効果は飽和し、経済的に不利となる。このため、Cu含有量は0.70~1.20%とする。好ましいCu含有量は0.80~1.10%であり、より好ましくは0.80~1.00%である。
(5)Mg:0.02~0.06%
Mgは、黒鉛球状化に必要な元素であるが、その含有量が0.02%未満では黒鉛球状化の効果が不十分である。一方、Mg含有量が0.06%を超えるとチルが生成しやすくなり、球状黒鉛鋳鉄の被削性及び靭性が低下する。このため、Mg含有量は0.02~0.06%とする。好ましいMg含有量は0.03~0.05%である。
(6)P:0.04%以下、S:0.02%以下、
P及びSは、いずれも原料から不可避的に混入する黒鉛球状化阻害元素であるので、その含有量をそれぞれ、Pは0.04%以下、Sは0.02%以下とする。
[B]球状黒鉛鋳鉄の組織
本発明の球状黒鉛鋳鉄の基地組織は、微細フェライト相と微細パーライト相とが迷彩柄状に分布する(あるいは、微細なフェライト相がパーライト相中に島海状に分散した)二相混合基地組織である。基地組織中のフェライト相の面積率は15~50%、パーライト相の面積率は50~85%であるのが好ましい。フェライト相は後述する作用効果により微細分散して形成しているものの析出面積率としては特許文献1の球状黒鉛鋳鉄のフェライト相よりも比較的多く、その下限は15%である。基地組織中のフェライト相の面積率を15~50%とすることで、球状黒鉛鋳鉄の硬さが低下して被削性を改善できる。
微細なフェライト相は、熱処理におけるパーライト相安定化元素によるフェライト相の析出・成長の抑制及びCu析出物のピン止め効果によるオーステナイト相の結晶粒の成長抑制の作用によって、パーライト相の結晶粒界に沿って微細分散して形成されたものである。微細なフェライト相は網目状ではなく、パーライト結晶粒によって分断された細長い形状を有する。このようなフェライト相の形状を「樹枝状」と呼んでも良い。また、微細なパーライト相は、オーステナイト化熱処理により完全にオーステナイト化した基地の微細な結晶粒(オーステナイト結晶粒)が、降温により粗大化することなくパーライト変態したものである。
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、前述したフェライト相の析出・成長の抑制作用によって、フェライト相及びパーライト相が何れも微細に分散析出していることから、基地組織の結晶粒は微細化している。結晶粒の微細化の程度は結晶粒数により表すことができる。結晶粒数が多いほど靭性が向上する。具体的には、基地組織の結晶粒数は250個/mm以上であるのが好ましい。結晶粒数が250個/mm未満では、粗大な結晶粒が存在することから球状黒鉛鋳鉄は十分な靭性を有さない。基地組織の結晶粒数はより好ましくは270個/mm以上であり、最も好ましくは300個/mm以上である。
[C]球状黒鉛鋳鉄の特性
(1)強度及び靭性
懸架装置部品には高い引張強さ及び耐力の他に、高い伸び等が要求されるので球状黒鉛鋳鉄は優れた強度及び靭性を有するのが好ましい。具体的には、本発明の球状黒鉛鋳鉄は室温での引張強さが700MPa以上、室温での伸びが10%以上であるのが好ましい。
球状黒鉛鋳鉄の室温での引張強さが700MPa以上であれば、懸架装置部品は車体を支えるのに必要な強度を確保しつつ部品を軽量化するための小型化及び薄肉化への対応が可能となる。球状黒鉛鋳鉄の引張強さは、より好ましくは720MPa以上であり、最も好ましくは740MPa以上である。なお、引張強さの上限は特に限定されないが、800MPa以下であれば、後述する硬度が過剰とならず好ましい。
球状黒鉛鋳鉄の室温伸びが10%以上であれば、懸架装置部品は耐衝撃性を有して、衝突などの事故等による衝撃があった場合でも破損を抑制できる。球状黒鉛鋳鉄の室温伸びは、より好ましくは11%以上であり、最も好ましくは12%以上である。
(2)硬度
懸架装置部品は鋳造後に周辺部品との取付け面、取付け孔等の連結部位や、高い寸法精度を要する部位等に切削等の機械加工を施すので高い被削性を有することが望まれる。一般に引張強さ700MPa以上となる球状黒鉛鋳鉄は硬度が高いため被削性に劣る。引張強さ700MPa以上であって、しかも高い被削性を有するためには低硬度であることが好ましい。具体的には、本発明の球状黒鉛鋳鉄はブリネル硬さが210~240HBWであるのが好ましい。球状黒鉛鋳鉄のブリネル硬さは、より好ましくは210~235HBWである。
ここで、一般に球状黒鉛鋳鉄など鉄系の材料においては、強度と硬度は正比例の関係にあり、材料の強度の増加にともなって材料の硬度も増加する。強度の増加に対して硬度の増加の割合が少なければ強度を確保しつつ低硬度となって被削性に優れた材料といえる。本発明の球状黒鉛鋳鉄も強度と硬度は正比例の関係にあるものの強度の増加に対して硬度の増加は緩やかで、引張強さ700MPa以上の高強度材料でありながら低硬度を実現している。具体的には、本発明の球状黒鉛鋳鉄は引張強さが700MPa以上であって、引張強さとブリネル硬さが、下記式(1)を満足することが好ましい。
ブリネル硬さ≦(引張強さ/5)+82 ・・・(1)
ただし、式(1)において、ブリネル硬さは単位HBWの値を、引張強さは単位MPaの値を代入する。(1)式において右辺の切片値82は、より好ましくは80であり、最も好ましくは78である。
[D]球状黒鉛鋳鉄の製造方法
本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法は、
(1)前述[A]の球状黒鉛鋳鉄の組成を有する溶湯を鋳造し、凝固させた後、
(2)(i)基地全体がオーステナイト化する温度に保持することにより、微細なオーステナイト結晶粒(降温後にパーライト結晶粒に変態する)を生成する工程を有する熱処理、
及び、
(ii)共析変態を起こす温度域内の所定温度区間において、微細なフェライト相が生成する冷却速度で冷却する工程を有する熱処理を行い、
もって、
(a)面積率で15~50%の微細フェライト相と50~85%の微細パーライト相とからなる二相混合基地組織を有し、
(b)交線法により求められた基地組織の結晶粒数が250個/mm以上である組織を有する球状黒鉛鋳鉄を製造する。
なお、共析変態温度域より低い温度域では、常温まで通常に冷却する。
以下、上記(1)及び(2)の球状黒鉛鋳鉄の製造方法と、それにより得られる上記(a)及び(b)の球状黒鉛鋳鉄の基地組織について詳細に説明する。
(1)オーステナイト化熱処理条件[工程(i)]
基地組織全体が完全にオーステナイト化する温度に保持することにより、微細なオーステナイト結晶粒(降温後にパーライト結晶粒に変態する)を生成する。このオーステナイト化温度は800~865℃が好ましい。この温度が800℃未満ではパーライト相が残留し、共析変態温度域に降温後にパーライト相からフェライト相が生成及び成長するので、結晶粒が粗大化し、強度が低下する。一方、この温度が865℃超になると、オーステナイト結晶粒(降温後にパーライト結晶粒に変態する)が粗大化し、靭性が悪化し、また熱処理ひずみが大きくなる。オーステナイト化温度に保持する時間は、保持温度に応じて変動するが、5~30分が好ましい。5分未満では完全にはオーステナイト化しにくくフェライト相が成長して強度が低下し、また30分超ではオーステナイト結晶粒が粗大化して、降温後に微細なパーライト相が得られず、靭性が悪化し、また熱処理ひずみが大きくなる。オーステナイト化熱処理温度は好ましくは800~860℃であり、より好ましくは800~855℃である。また、オーステナイト化熱処理時間は好ましくは10~25分である。
(2)共析変態温度域での熱処理条件[工程(ii)]
完全にオーステナイト化した球状黒鉛鋳鉄を、共析変態を起こす温度域内の所定温度区間においてフェライト相が微細に生成する冷却速度で冷却すると、本発明においては基地組織が面積率で15~50%の微細フェライト相と50~85%の微細パーライト相とからなる二相混合組織となり、交線法により求められた基地組織の結晶粒数が250個/mm以上の組織となる。ここで、共析変態を起こす温度域(共析変態温度域)は、熱処理における冷却過程で、オーステナイトからフェライトへの変態を開始する温度Arから、オーステナイトがフェライト又はフェライト及びセメンタイトへの変態を完了する温度Ar(共析変態温度)までの温度域をいう。共析変態を起こす温度域内の所定温度区間は670~750℃が好ましい。670~750℃の温度範囲において後述の所定冷却速度で冷却すると、二相混合組織及び結晶粒数250個/mm以上の基地組織が得られる。所定温度区間の上限を730℃としても良い。
共析変態を起こす温度域内の所定温度区間での冷却速度は、基地組織を二相混合組織とし、かつ基地組織の結晶粒数を250個/mm以上とするのに重要であり、具体的には5~20℃/分とするのが好ましい。冷却速度が5℃/分未満では、フェライト化が促進され、微細なフェライト相が得られず強度が低下し、また結晶粒数が減少して靭性が低下する。一方、冷却速度が20℃/分を超えると、パーライト結晶粒界におけるフェライト相の生成が不足し、衝撃特性が悪化し、十分な靭性が得られないほか、低硬度とならず高い被削性が得られない。より好ましい冷却速度は5~15℃/分である。なお、共析変態を起こす温度域内の所定温度区間における温度履歴は、パーライト結晶粒界に微細なフェライト相が過不足なく生成し、かつ基地組織の結晶粒数が250個/mm以上となるかぎり、一定速度の連続的な冷却でも断続的な冷却でも良い。共析変態温度域での熱処理後、常温まで冷却する。なお、オーステナイト化温度から共析変態温度域までの冷却速度は2~20℃/分であるのが好ましい。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらの実施例により何ら限定されるものではない。また特に断りがない限り、合金を構成する各元素の含有量を質量%で示す。
原材料となる銑鉄、鋼板屑、球状黒鉛鋳鉄の戻り屑を100kg容量の高周波溶解炉で溶解し、加炭材、パーライト相安定化元素及びFe-Si合金を添加して成分調整した溶湯を溶製した。この溶湯を黒鉛球状化剤としてFe-Si-Mg合金とこれを覆う鋼板屑からなるカバー材とを設置した取鍋に、約1500℃で出湯し、サンドイッチ法による球状化処理を行なった。球状化処理した溶湯を約1400℃で砂型に注湯し、供試材となる肉厚12mmの試験部を含む縦鋳込み段付きYブロックを複数個鋳造した。注湯の際、注湯の流れにFe-Si合金粉末を添加し、接種を行なった。このようにして、表1に示す組成を有する球状黒鉛鋳鉄を得た。実施例1~11は本発明の組成範囲内にある球状黒鉛鋳鉄であり、比較例1~9は本発明の組成範囲外の球状黒鉛鋳鉄である。また、比較例10はパーライト相基地を有するFCD700に相当し、鋳放しのままでは従来の球状黒鉛鋳鉄と同じである。
Figure 0007380051000001

注:(1)残部はFe及び不可避的不純物である。
上記の実施例1~11及び比較例1~10の球状黒鉛鋳鉄からなる供試材のうち、比較例10を除く全ての供試材に対して以下の熱処理を施した。即ちオーステナイト化熱処理条件として、保持温度850℃、保持時間20分で熱処理後、オーステナイト化温度から共析変態温度域まで冷却速度5℃/分で冷却後、共析変態温度域での熱処理条件として、670~750℃の温度範囲において冷却速度10℃/分で熱処理後、常温まで冷却した。また、比較例10の供試材は熱処理をしない鋳放しのままとした。各供試材に対して、下記の組織観察及び試験を行った。
(1)組織
後述する引張試験に供した試験片のつかみ部の切断面から、約φ10mm程度の試料を採取し、樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、基地組織のフェライト相の面積率及び基地組織の結晶粒数を測定した。フェライト相の面積率は、試料を腐食エッチングした後、倍率100倍で任意の5視野の光学顕微鏡写真を撮影し、撮影した各視野について画像解析装置により5視野の合計で4mmの領域における黒鉛を除いた基地組織のフェライト相の面積率を測定して求めた。
本発明の球状黒鉛鋳鉄の基地組織は、微細フェライト相と微細パーライト相とが迷彩柄状に分布した二相混合組織であり、しかもオーステナイト化熱処理及び共析変態温度域での熱処理によってオーステナイト相の結晶粒が多くの方位の異なる組織単位に分割しているため、通常の光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡による組織観察では、結晶粒の組織単位を明確に識別するのが困難であった。そこで、基地組織の結晶粒数は、電子線後方散乱回折法(Electron Back Scatter Diffraction pattern:EBSD)により結晶粒の結晶方位を求め結晶粒界を可視化して評価した。
基地組織の結晶粒数は、具体的には走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SU70型)に付属した電子線後方散乱回析法検出器(アメテック社製DigiView5型)を用いて、試料の任意の5視野について、45×45μmの領域を0.1μmの測定ステップ間隔で結晶方位マッピング像を撮影し、撮影した結晶方位マッピング像について隣接する測定点において結晶方位差が2°以上の境界を結晶粒界とみなして交線法により求めた。交線法はJIS-G-0551「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」に準拠して、視野毎に、黒鉛を避けてかつ目的の基地組織にかかるように描画した長さ30μmの2本のクロスした直線(対角線)からなる試験線と交差(試験線が捕捉)した結晶粒界の数を測定し、試験線の長さで除して単位長さ(1mm)当たりの結晶粒界の数を算出した。算出した5視野の単位長さ当たりの結晶粒界の数の算術平均値を求めて結晶粒数として評価した。フェライト相の面積率及び基地組織の結晶粒数の測定結果を表2に示す。
(2)引張試験及びブリネル硬さ試験
各供試材の縦鋳込み段付きYブロックの肉厚12mmの試験部から切り出して、JIS Z 2201の14A号の試験片を作製し、JIS Z 2241に従ってアムスラー引張試験機により室温での引張試験を行い、引張強さ及び室温伸びを測定した。また、各供試材の前記Yブロックの肉厚12mmの試験部の端面から約30mm以上離れた部位から切り出して表面を研磨して試験片を作製し、JIS Z 2243に従ってブリネル硬さ試験機により直径10mmの超硬合金球の圧子を用いて試験荷重29.42kNでブリネル硬さ試験を行ない、ブリネル硬さを測定した。引張強さ、室温伸び及びブリネル硬さの測定結果を表2に示す。
Figure 0007380051000002

注:(1) パーライト相の面積率は(100-フェライト相の面積率)%である。
表1及び2に示すように、本発明の組成範囲内の実施例1~11の供試材は、基地組織のフェライト相の面積率は15~50%であり、基地組織の結晶粒数は250個/mm以上であり、引張強さは700MPa以上であり、室温伸びは10%以上であった。これらのデータから、本発明の組成範囲内の実施例1~11の供試材は高い強度及び靭性を有することが分かる。
加えて実施例1~11の供試材は、ブリネル硬さが210~240HBWの範囲にあり、引張強さが700MPa以上と高強度でありながら低硬度である。これにより実施例1~11の球状黒鉛鋳鉄は高い被削性を実現し得る。
これに対して、本発明の組成範囲外の比較例1~10の供試材では引張強さ、室温伸び及びブリネル硬さのいずれかが、本発明で規定する値を満たさなかった。また、比較例1~10の供試材は、本発明で規定するフェライト相の面積率15~50%の範囲を満たさなかった。Si及び/又はCu含有量並びにMn含有量の少ない比較例1、4及び8は700MPa未満の低い引張強さしか有さなかった。また、Si含有量の多い比較例7も引張強さが700MPa未満であった。また、Si含有量の少ない比較例2並びにCu又はMn含有量の多い比較例5、6及び9は、700MPa以上の高い引張強さを有するものの、10%未満の低い室温伸びしか有さず、高い強度及び靭性を兼備するという要求を満たさなかった。また、パーライト相基地を有するFCD700に相当する鋳放しのままの比較例10は、780MPaの引張強さを有するものの、室温伸びは9.5%であった。
比較例のうち、700MPa以上の高い引張強さを有する比較例2、3、5、6、9及び10は、いずれもブリネル硬さが240HBWを超えており、引張強さ700MPa以上の高強度材料でありながら低硬度であるという要求を満たさなかった。
上記の通り、本発明の球状黒鉛鋳鉄は、強度及び靭性に優れるとともに、加えて低硬度を兼備する球状黒鉛鋳鉄であることが確認された。

Claims (3)

  1. 強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄であって、
    質量比で、
    C:3.5~3.9%
    Si:2.45~2.85%
    Mn:0.2~0.6%
    Cu:0.70~1.20%
    Mg:0.02~0.06%
    P:0.04%以下
    S:0.02%以下
    残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
    面積率で15~50%の微細フェライト相と50~85%の微細パーライト相とからなる二相混合基地組織を有し、
    交線法により求められた基地組織の結晶粒数が250個/mm以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄。
  2. 請求項1に記載の強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄において、引張強さが700MPa以上、室温伸びが10%以上であり、かつブリネル硬さが210~240HBWであることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄。
  3. 請求項1又は2に記載の強度及び靭性に優れ、かつ低硬度な球状黒鉛鋳鉄において、引張強さが700MPa以上であって、引張強さとブリネル硬さが、下記式(1)を満足することを特徴とする球状黒鉛鋳鉄。
    ブリネル硬さ≦(引張強さ/5)+82 ・・・(1)
    (ただし、ブリネル硬さは単位HBWの値を、引張強さは単位MPaの値を代入する。)
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