本発明者らは、溶銑を酸化精錬して溶銑から溶鋼を製造する転炉での脱炭精錬において、脱炭精錬の後半の溶融鉄の炭素濃度の変化をリアルタイムに監視し、炭素濃度に応じて上吹き条件及び底吹き条件を制御し、スラグ中に含まれる酸化鉄を低減することを目的として、以下の検討を行った。即ち、溶銑を脱炭精錬して、溶銑から溶鋼を製造する転炉操業において、スラグ中の酸化鉄の生成に及ぼす、上吹きランスからの酸化性ガスの流量、上吹きランスのランス高さ及び底吹き羽口からの攪拌用ガスの流量の影響について鋭意検討した。尚、脱炭精錬に供する溶銑は、珪素及び燐の含有量がどの程度であっても構わない。
この検討では、上吹きランスから酸化性ガスを吹き付けるとともに、炉底部の底吹き羽口から攪拌用ガスを吹き込むことができる転炉(容量300トン規模)を使用した。上吹きランスからの酸化性ガスとしては、酸素ガス(工業用純酸素ガス)を使用し、底吹き羽口からの攪拌用ガスとしては、アルゴンガスを使用した。また、上吹きランスは、先端に設置される酸素ガス噴射ノズルの個数が5孔で、その噴射角度が15°のラバール型噴射ノズルを有する上吹きランスを使用した。尚、噴射ノズルの噴射角度とは、噴射ノズルの酸素ガス噴射方向と上吹きランスの軸心方向との相対角度である。
上記した転炉を用いて、炭素濃度が3.5質量%の溶銑の脱炭精錬を行った。上吹きランスからの酸素ガスの供給は、溶銑の炭素含有量が3.5質量%の時点から開始し、炉内の溶融鉄の炭素含有量が0.04質量%となる時点まで継続して行った。脱炭精錬の後半では、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹き羽口からの攪拌用ガスの流量を、それぞれ変更した。上吹き条件及び底吹き条件の変更は、変更時期を、脱炭精錬後半の脱炭反応(C+O→CO)の律速段階が、酸素供給律速から溶融鉄中炭素の物質移動律速に変化する時期を中心とし、その前後に種々変化させた。
上吹きランスからの酸素ガス流量の変更は、1000Nm3/minから833Nm3/minへと減少し、上吹きランスのランス高さの変更は、3.0mから2.5mへと低下し、底吹き羽口からの攪拌用ガスの流量の変更は、15Nm3/minから30Nm3/minへと増加した。ここで、「上吹きランスのランス高さ」とは、上吹きランスの先端から転炉内における静止状態の溶銑浴面までの距離である。
脱炭精錬の終了後、それぞれの脱炭精錬で発生したスラグを回収し、スラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)を蛍光X線分析法で測定した。上吹き酸素ガス流量、ランス高さ及び底吹きガス流量の変更時期を、下記の(2)式で定義される酸素吹錬進行度で整理した。
酸素吹錬進行度=(QO2C/QO2)×100……(2)
ここで、QO2Cは、上吹き条件及び底吹き条件を変更させた時点での積算酸素量(Nm3)、QO2は、酸素吹錬終了時の積算酸素量(Nm3)である。
図1に、酸素吹錬進行度(%)で示す変更時期と、脱炭精錬終了後のスラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)との関係を示す。図1から、上吹き条件及び底吹き条件を変更させた時点の酸素吹錬進行度が増加するとともに、脱炭精錬終了時のスラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)が増加することがわかる。つまり、酸素吹錬進行度が90%以上の時期に、上吹き酸素ガス流量、ランス高さ及び底吹きガス流量の変更を行うと、脱炭精錬終了後のスラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)が多くなることがわかった。
即ち、上吹き酸素ガス流量の減少、ランス高さの低下及び底吹きガス量の増加を、酸素吹錬進行度が大きくなる時期(脱炭精錬の末期)に行うほど、とくに脱炭精錬終了に近くなればなるほど、脱炭精錬終了時のスラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)が増加することがわかった。このことから、上吹き条件及び底吹き条件の変更時期が鉄損失に大きく影響しており、脱炭精錬終了時のスラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)を低減するためには、転炉内の炉内状況を把握して、上吹き条件及び底吹き条件の変更時期を決定することが肝要になることを、本発明者らは知見した。
そこで、本発明者らは、転炉の炉内状況を適正に把握するために、転炉の炉口燃焼火炎に着目し、脱炭精錬において、炉口燃焼火炎の発光スペクトルを測定することに思い至った。ここで「炉口燃焼火炎」とは、転炉の炉口から上方の煙道に向かって吹き出す炉内の火炎を指す。
炉口燃焼火炎の発光スペクトルには、転炉内で脱炭反応によって発生するCOガスや、このCOガスの一部と転炉炉口部分で吸引される空気とが混合して起こる自然発火によって生成するCO2ガスに関する情報や、炉内の火点から蒸発する鉄原子に由来するFeO*(中間生成物)に関する情報が含まれている。この発光スペクトルのうち、580〜620nmの範囲の波長について、その波長ごとの発光強度をリアルタイムに測定できれば、転炉の炉内状況が、リアルタイムに容易に推定できることを、本発明者らは想到した。
尚、発光スペクトルのうち、580〜620nmの範囲の波長は、FeO*(中間生成物)の生成及び消失に起因する「FeO orange system band」に相当し、炭化水素系ガスの中間生成物の波長域とは異なる。更に、本発明者らは、FeO*の生成時には、この波長域で吸光ピークが認められ、一方、FeO*の消失時には、同じ波長域で発光ピークが認められ、このうち、発光強度がFeO*の消失速度に連動していることを確認している。
ここで、監視しているのは、炉内の溶融鉄浴の火点で主に生成するFeO*の電子状態が遷移するときに発せられる或いは吸収される、特定の波長の電磁波である。FeO*は炉内から立ちのぼる火炎と一体になっているので、例えば、脱炭反応が終了に近づいたときはFeO*の発生量及びFeO*の反応量は減るので、この火炎の発光スペクトルを分光すれば、580〜620nmの波長の電磁波の強度は減少する。
即ち、脱炭反応速度が溶融鉄中の炭素の物質移動律速になると、FeOの還元よりもFeOの生成が支配的になり、580〜620nmの波長の発光強度は急落する。
そこで、上記した転炉での脱炭精錬中に、転炉の炉口燃焼火炎の発光スペクトルを測定した。転炉の炉口燃焼火炎の発光スペクトルの測定は、図2(図2の詳細説明は後述)に示すように、転炉2の正面に分光カメラ6を取り付け、炉口14と可動式フード15との隙間から見える炉口燃焼火炎12を撮影することによって行った。分光カメラ6により撮影された撮影画像を画像解析装置7に送信した。そして、画像解析装置7で画像を記録するとともに、入力された画像データの任意の走査線上を線分析し、発光波長の波長ごとの発光強度を解析した。尚、発光スペクトルの測定及び発光強度解析は、1〜10秒の一定の測定時間間隔Δtで行った。また、発光スペクトルの測定と同時に、転炉に備えられたサブランス(自動測温サンプリング装置)を用いて、脱炭精錬中に、1〜2回の頻度で溶融鉄試料の採取、及び、溶融鉄中の炭素濃度の分析を行った。
得られた発光スペクトルの測定結果から、脱炭精錬中に最も変化幅が大きかった610nmの波長を特定波長とし、この特定波長における、時刻Tnの発光強度Inと、そのΔt秒前の時刻Tn−1の発光強度In−1とから、下記の(3)式で定義される発光強度変化率を求めた。測定時間間隔Δtは、1〜10秒とした。
発光強度変化率=(In/In-1)−1……(3)
ここで、Inは、時刻Tnにおける特定波長の発光強度(a.u.)、In−1は、時刻TnのΔt秒前の時刻Tn−1における特定波長の発光強度(a.u.)である。
図3に、610nmの波長の発光強度変化率と溶融鉄中の炭素濃度との関係を示す。図3から、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%を境界として、発光強度変化率が大きく変化していることがわかる。つまり、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%以上では、発光強度変化率は1.6(図3中の点線)よりも増大していることがわかる。溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%以上では、610nmの波長の発光強度が大きく、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%未満では、610nmの波長の発光は殆ど観測されない。
図3から、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%未満となる時点、換言すれば、発光強度変化率が1.6以下を満たす時点が、脱炭精錬末期に上吹き条件及び底吹き条件を変更する時期の指標として最適であることがわかった。つまり、スラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)の増加による鉄歩留まりの低下を防止するうえで、発光強度変化率の「閾値」を1.6とし、上吹き酸素ガス流量減少などの上吹き条件及び底吹き条件を変更する時期の指標として、脱炭精錬の後半で、(3)式で算出される発光強度変化率が1.6より高い状態から1.6以下となる時点が最適であることを知見した。尚、発光強度変化率の「閾値」は、1.6に限るわけではなく、それぞれの転炉ごとに予め決定される。
本発明者らは更なる検討を行い、実際の脱炭精錬においては、発光強度スペクトル測定の光路に、クレーンや煙の障害物が侵入する場合があり、その場合には、測定される、(3)式で定義した発光強度変化率が、設定した閾値(1.6)以下を満たし、誤検知することがわかった。このようなことから、或る時刻Tnと、そのΔt秒前の時刻Tn−1における発光強度との比較(瞬時値の比較)だけでは、正確な判定ができない場合があることを知見した。
そこで、本発明者らは、時刻Tnを基準として、時刻Tnと、時刻Tnから(Δt×1)秒前の時刻Tn−1と、時刻Tnから(Δt×2)秒前の時刻Tn−2と、時刻Tnから(Δt×3)秒前の時刻Tn−3と、・・・、時刻Tnから(Δt×S)秒前(Sは0以上の整数)の時刻Tn−Sとで、それぞれ発光強度を求め、得られた各発光強度の合計量(和)、即ち発光強度の移動平均を利用して発光強度の時間変化を求めることに思い至った。
このような発光強度の移動平均を利用すれば、発光強度のバラツキを或る程度平均化でき、したがって、発光強度の時間変化のバラツキが小さくなり、より正確な判定を行うことができることに想到した。
上記した発光スペクトルの測定結果から、酸素吹錬中に最も変化幅が大きかった610nmの波長を特定波長とした。そして、時刻Tnを基準とし、時刻Tn−iでの特定波長の発光強度In−iを、時刻Tnと、時刻Tnから(Δt×1)秒前の時刻Tn−1と、時刻Tnから(Δt×2)秒前の時刻Tn−2と、・・・、時刻Tnから(Δt×S)秒前の時刻Tn−Sとで、合計(S+1)回について求めた。そして、それらを合計(和)し、時刻Tnを基準とする発光強度の移動平均を、下記の(4)式を用いて算出した。尚、In−iは、時刻Tnの(Δt×i)秒前の時刻Tn−iにおける特定波長の発光強度(a.u.)である。
また、時刻Tnの(Δt×m)秒前の時刻Tn−mを基準とし、同様に、時刻Tn−m−iでの特定波長の発光強度In−m−iを、時刻Tn−mと、時刻Tn−mから(Δt×1)秒前の時刻Tn−m−1と、時刻Tn−mから(Δt×2)秒前の時刻Tn−m−2と、・・・、時刻Tn−mから(Δt×S)秒前(Sは0以上の整数)の時刻Tn−m−Sとで、合計(S+1)回について求めた。そして、それらを合計(和)し、時刻Tn−mを基準とする発光強度の移動平均を、下記の(5)式を用いて算出した。尚、In−m−iは、時刻Tnの(Δt×m)秒前の時刻Tn−mから(Δt×i)秒前の時刻Tn−m−iにおける特定波長の発光強度(a.u.)である。
得られた時刻Tnを基準とする発光強度の移動平均、及び、時刻Tn−mを基準とする発光強度の移動平均から、下記の(1)式で定義される、特定波長の発光強度移動平均変化率を求めた。
発光強度移動平均変化率=(In S−In-m S)/[(In S+In-m S)/2]……(1)
ここで、In Sは、加算数をSとし、時刻Tnを基準とする特定波長の発光強度の移動平均(a.u.)、In−m Sは、加算数をSとし、時刻Tnの(Δt×m)秒前の時刻Tn−mを基準とする特定波長の発光強度の移動平均(a.u.)、mは自然数、Sは移動平均の加算数(0以上の整数)、Δtは測定時間間隔(s)である。
求めた発光強度移動平均変化率と溶融鉄中の炭素濃度との関係を図4に示す。尚、ここでは、測定時間間隔Δtは1秒、自然数m及び移動平均の加算数Sは10とした。
図4から、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%を境界として、発光強度移動平均変化率が大きく変化していることがわかる。即ち、溶融鉄中の炭素濃度が0.45質量%以上では、脱炭精錬の進行に伴って発光強度移動平均変化率が増加していくが、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%未満では、発光は減少に転じる。
このように、図4から、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量%未満となる時点、つまり、発光強度移動平均変化率が予め設定された閾値(点線:ここでは1.8)以下を満たした時点が、脱炭精錬の後半に上吹き条件及び底吹条件を変更する時期の指標として、スラグ中の酸化鉄含有量(質量%FeO)の増加による鉄歩留まりの低下を防止するうえで、最適であることがわかった。尚、発光強度移動平均変化率の「閾値」は、1.8に限らず、各精錬炉ごとに予め決定される。
発光スペクトルの測定光路が、クレーンの移動、煙の発生などによって遮断された場合には、(3)式(瞬時値の比較)を用いた発光強度変化率では、発光強度変化率が低くなり、所定の条件(予め設定された閾値以下)を満足したと判定されることがある。これに対して、(1)式の移動平均を用いて算出された発光強度移動平均変化率では、そのようなトラブルがあっても、発光強度のバラツキが平均化され、変化は安定している。
このため、移動平均を用いて算出された発光強度移動平均変化率を用いれば、溶融鉄中の炭素濃度が約0.45質量未満となる時点、即ち発光強度移動平均変化率が閾値以下を満たす時点のバラツキが少なく、上吹き条件及び底吹き条件の変更時期を安定して決定できることを知見した。
ところで、転炉には、精錬した後の炉内の溶鋼を溶鋼保持容器に排出するための出鋼口が設けられており、通常、出鋼口は開口しているので、出鋼口からも炉内の火炎が観察される。本明細書では、この火炎を「出鋼口燃焼火炎」と称す。つまり、出鋼口を通して観測される出鋼口燃焼火炎或いは出鋼口で観察される出鋼口燃焼火炎の発光スペクトルを測定することで、上記の炉口燃焼火炎の発光スペクトルを測定した場合と同様に、転炉の炉内状況を把握することができる。
本発明に係る転炉の操業方法は、上記知見に基づき、更に検討を加えて完成されたものである。以下、本発明に係る転炉の操業方法の具体的な実施方法を、図面を参照して説明する。図2に、本発明を実施するうえで好適な転炉設備の構成の概略を模式的に示す。
本発明を実施するうえで好適な転炉設備1は、転炉2と、上吹きランス3と、転炉2の正面に配設され、炉口燃焼火炎12を撮影可能とする分光カメラ6と、該分光カメラ6で撮影された撮影画像を取り出し可能に記録し、該撮影画像を解析する画像解析装置7と、該画像解析装置7で解析されたデータに基づき、制御信号を発信する制御用計算機8と、を有する。更に、制御用計算機8から発信された制御信号により、個別に作動可能に構成される、上吹きランス3のランス高さを調整するためのランス高さ制御装置9、上吹きランス3から噴射する酸化性ガスの流量を調整し且つ流量を測定するための酸化性ガス流量制御装置10、及び、底吹き羽口4から吹き込む攪拌用ガスの流量を調整するための底吹きガス流量制御装置11を有する。酸化性ガス流量制御装置10からは、酸化性ガスの実際の流量が制御用計算機8に入力される。
また、炉口14の上部に設置される煙道27には、転炉2から排出される排ガスの組成(CO、CO2、O2など)分析するためのガス分析計24、及び、排ガスの流量を測定するための排ガス流量計25が設置されている。ガス分析計24及び排ガス流量計25によるそれぞれの測定値は、制御用計算機8に入力されている。また、制御用計算機8には、当該チャージで使用する溶銑5の組成(C、Si、Mn、P、Sなど)、温度、質量、当該チャージで使用する鉄スクラップの組成、質量、及び、当該チャージで使用する鉄鉱石の質量などのデータが、転炉プロセスコンピューター26から入力される。
制御用計算機8は、酸化性ガス流量制御装置10から入力される酸化性ガスの供給量、及び、転炉プロセスコンピューター26から入力される鉄鉱石の質量に基づいて、当該チャージにおける転炉内への酸素源の供給量を算出する。そして、算出した酸素源の供給量と、転炉プロセスコンピューター26から入力される脱炭処理前の溶銑5の炭素濃度と、ガス分析計24から入力される排ガス組成の測定値及び排ガス流量計25から入力される排ガス流量の測定値と、を用いて、脱炭反応における炭素及び酸素の物質収支計算を行い、炉内の溶融鉄中の炭素濃度を推定するように、制御用計算機8は構成されている。
本発明で使用する転炉2は、上吹きランス3から、炉内の溶銑5に向けて酸化性ガス噴流13を噴射すると同時に、炉底部の底吹き羽口4から、攪拌用ガスを吹き込むことができる構成とする。そして、転炉2の正面には、転炉の炉口燃焼火炎12の発光スペクトルを測定できる分光カメラ6が取り付けられる。取り付けられた分光カメラ6により、転炉の炉口14と可動式フード15との隙間から見える炉口燃焼火炎12を撮影する。該分光カメラ6により撮影された撮影画像(画像データ)は、逐次、画像解析装置7に送信される。画像解析装置7では、送られた撮影画像(画像データ)を記録するとともに、画像データの任意の走査線上を線分析して、発光波長及び波長ごとの発光強度を解析する。
解析された炉口燃焼火炎12の画像データは、その都度、制御用計算機8に送信される。制御用計算機8は、入力された解析画像データ、及び、前述した、物質収支計算によって推定した溶融鉄中の炭素濃度(以下、「物質収支計算による炭素濃度推定値」とも記す)に基づき、ランス高さ制御装置9、酸化性ガス流量制御装置10及び底吹きガス流量制御装置11を、個別或いは同時に作動させる制御信号を発信するように構成されている。図2中の符号16は、上吹きランスへの酸化性ガス供給管、17は、上吹きランスへの冷却水供給管、18は、上吹きランスからの冷却水排出管である。
本発明では、転炉設備1を用いて、転炉2に収容された溶銑5に、上吹きランス3から酸化性ガスを吹き付けて、或いは、更に底吹き羽口4から酸化性ガスまたは不活性ガスを吹き込んで、溶銑5を酸化精錬して、つまり、溶銑5を脱炭精錬して、溶銑5から溶鋼を製造する。
本発明に係る転炉の操業方法では、分光カメラ6で炉口燃焼火炎12を撮影し、得られた発光スペクトルを解析して、リアルタイムで転炉2における脱炭精錬中の炉内状況の変化を推定し、この推定した炉内状況の変化と、転炉2から排出される排ガスの流量及びガス組成の測定値から得られる情報と、に基づいて、炉内の溶融鉄の炭素濃度を推定する。
また、本発明に係る転炉の操業方法では、分光カメラ6で炉口燃焼火炎12を撮影し、得られた発光スペクトルを解析して、リアルタイムで転炉2における脱炭精錬中の炉内状況を監視し、且つ、脱炭反応における炭素及び酸素の物質収支計算によって溶融鉄中の炭素濃度を推定し、発光スペクトルの解析による炉内状況を監視と、物質収支計算による炭素濃度推定値とに基づき、酸素吹錬を制御する。尚、分光カメラ6による炉口燃焼火炎12の撮影、発光スペクトルの解析は、測定時間間隔Δtを1〜10秒の間隔で行うことが、生産性の向上及び鉄歩留まりの向上の観点から好ましい。
撮影して得られた発光スペクトルを、画像解析装置7に取り出し可能に記録する。そして、画像解析装置7では、得られた炉口燃焼火炎12の発光スペクトルのうち、580〜620nmの範囲の波長について、発光波長の特定と、波長ごとの発光強度を算出する解析とを行う。
尚、580〜620nmの範囲の波長は、前述したように、FeO*(中間生成物)の生成と消失に起因するFeO orange system bandに相当し、FeO*の生成時には、この波長域で吸光ピークが認められ、一方、FeO*の消失時には、同じ波長域で発光ピークが認められ、そのうちの発光強度がFeO*の消失速度に連動していることを、本発明者らは確認している。つまり、580〜620nmの範囲の波長は、転炉内での反応を反映し、転炉の炉内状況を容易に推定する手掛かりになることから、測定の対象とした。また、発光強度は、FeOが励起状態(FeO*)から基底状態に変化する際の発光エネルギーの大きさを表すものである。
そして本発明では、得られた波長ごとの発光強度の時間変化を算出し、該発光強度の時間変化から、炉内状況の変化を推定し、転炉操業の監視に利用する。具体的には、炉口燃焼火炎12を撮影して得られた発光スペクトルの発光強度の時間変化として、(1)式で示す特定波長の発光強度移動平均変化率を算出して利用する。
尚、発光強度移動平均変化率の算出に使用する特定波長は、580〜620nmの範囲の波長のうちで、脱炭精錬中の発光強度の変化量が最も大きい波長を予め測定して決定するか、または、当該脱炭精錬中に当該波長域内の複数の波長を監視して、発光強度の変化量が最も大きい波長を、その都度決定する。また、移動平均の加算数であるSは、0(ゼロ)以上の整数であり、特に限定する必要はないが、1チャージの転炉操業は10〜20分と短く、しかも吹錬進行度が、30秒程度で大きく変化することなどから、加算数Sを10〜30程度とすることが好ましい。また、発光スペクトル測定における阻害要因が少ないと考えられる場合には、(1)式におけるS=0とする発光強度移動平均変化率(瞬時値)を用いてもよい。
本発明に係る転炉の操業方法では、測定した発光スペクトルの580〜620nmの範囲の特定波長について、発光強度の時間変化を算出する。そして、脱炭精錬の後半に、物質収支計算による炭素濃度推定値が0.6質量%以下であり、且つ、上記(1)式で定義される発光強度移動平均変化率が予め設定した閾値(例えば、1.8)以下を満たす時点で、上吹きランスから吹き付ける酸化性ガスの流量減少、ランス高さの低下、底吹き羽口から吹き込む酸化性ガスまたは不活性ガスの流量増加のうちの1種または2種以上を実施する。ここで、「脱炭精錬の後半」とは、当該チャージで予定される総酸素供給量の1/2を供給した後の期間を指す。また、「予め設定された閾値」とは、各転炉ごとに、予備試験を実施し、予め求めた、溶融鉄中の炭素濃度がおよそ0.45%未満となる発光強度移動平均変化率をいう。
更に、この時点では、上吹きランスから吹き付ける酸化性ガスの流量を減少すると同時に、上吹きランスのランス高さを低下するか、或いは底吹き羽口から吹き込む酸化性ガスまたは不活性ガスの流量を増加させることが、より好ましい。このような調整により、脱炭酸素効率が向上し、転炉内の溶融鉄の過酸化状態が抑制され、スラグ中の酸化鉄濃度の過度の上昇が軽減され、鉄歩留まりを向上させることができる。
上記(1)式で定義される発光強度移動平均変化率が予め設定された閾値以下を満たす時点では、溶融鉄中の炭素濃度は臨界炭素濃度以下になっていると考えられる。尚、臨界炭素濃度は、上吹きガス及び底吹きガスによる溶融鉄の攪拌力と酸化性ガスの流量とによって変化するが、およそ0.45質量%以下である。脱炭反応が溶融鉄中の炭素の物質移動律速の場合には、吹き込まれた酸化性ガスの一部は、スラグ中に酸化鉄として蓄積され易い状態であるので、この期間における過剰の酸化性ガスの供給は、脱炭酸素効率の低下と鉄歩留まりの低下とを招く。
そのため、本発明に係る転炉の操業方法では、脱炭反応が溶融鉄中の炭素の物質移動律速になった状態の後に、つまり、物質収支計算による炭素濃度推定値が0.6質量%以下であり、且つ、発光強度移動平均変化率が予め設定された閾値以下を満たす時点で、上吹きランスから吹き付ける酸化性ガスの流量の減少、ランス高さの低下、底吹き羽口から吹き込まれる酸化性ガスまたは不活性ガスの流量の増加のうちの1種以上を調整するので、転炉内の溶融鉄の過酸化状態が抑制され、スラグ中の酸化鉄濃度の過度の上昇が軽減される。
尚、上吹きランスから吹き付ける酸化性ガスの流量の減少量、上吹きランスのランス高さの低下量、底吹き羽口から吹き込む酸化性ガスまたは不活性ガスの流量の増加量は、予め、溶融鉄の攪拌力と酸化性ガスの流量との比率などに基づき、決定しておくことが好ましい。
また、本発明を実施するうえで好適な転炉設備1では、物質収支計算による炭素濃度推定値が0.6質量%以下であり、且つ、上記(1)式で定義される発光強度移動平均変化率が予め設定した閾値以下を満たした時点で、その都度、制御用計算機8から、ランス高さ制御装置9へ、ランス高さを低下するように制御信号を発信するか、上吹きランス酸化性ガス流量制御装置10へ、噴射する酸化性ガスの流量を減少するように制御信号を発信するか、底吹きガス流量制御装置11へ、吹き込む酸化性ガスまたは不活性ガスの流量を増加するように制御信号を発信するか、或いは、それら制御信号の全てを同時に発信するように構成されることが好ましい。
上吹きランス3から吹き付ける酸化性ガスは、酸素ガスが一般的であるが、酸素ガスと、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの希ガス、窒素ガスとの混合ガス、空気、酸素富化空気などを用いることができる。尚、ここでいう「酸化性ガス」とは、酸素濃度が空気と同等或いはそれ以上である酸素含有ガスである。また、底吹き羽口4から吹き込むガスは、不活性ガスまたは酸化性ガスであり、酸化性ガスを吹き込む場合は、酸化精錬用の酸化性ガスとして機能するとともに、攪拌用ガスとしても機能する。
上記説明は、炉口燃焼火炎12を撮影して、転炉2における酸素吹錬中の炉内状況をリアルタイムで監視する場合を例としているが、転炉2の出鋼口から観測される出鋼口燃焼火炎20の発光スペクトルを測定することで、同様に、転炉2における酸素吹錬中の炉内状況をリアルタイムで監視することができる。
図5に、図2に示す転炉2を図2とは別の方向(図2とは直交する方向)から見た概略図を示す。図5に示すように、外殻を鉄皮21とし、鉄皮21の内側に耐火物22が施工された転炉2には、片側の側壁の耐火物22を貫通する出鋼口19が設置されている。転炉2を傾動することで、酸化精錬された炉内の溶融鉄を溶銑保持容器(図示せず)または溶鋼保持容器(図示せず)に出湯するように構成されている。
酸素吹錬中、転炉2の炉内圧は大気圧よりもわずかに低くなるように制御されており、出鋼口19から空気が炉内に進入し、出鋼口燃焼火炎20は出鋼口19からは噴出しない。したがって、この場合には、出鋼口燃焼火炎20の発光スペクトルを、出鋼口19を通して、分光カメラで測定することで、炉口燃焼火炎12を測定した場合と同様に、転炉2における酸素吹錬中の炉内状況をリアルタイムで監視することができる。
転炉2の炉内圧が大気圧よりもわずかに高くなるように制御した場合には、出鋼口燃焼火炎20が出鋼口19から炉外側に噴出し、出鋼口燃焼火炎20の測定が容易になる。図5中の符号23はスラグである。
また、本発発明を実施する際に、発光強度移動平均変化率が予め設定された閾値以下を満たす時点で、炉内にサブランスを投入して炉内の溶融鉄の炭素濃度及び温度を測定する、または、酸素吹錬の制御をスタティック制御からダイナミック制御に切り替えて脱炭精錬を継続することが好ましい。このようにすることで、酸素吹錬終点の溶融鉄中の炭素濃度をより一層正確に制御することが可能となる。
また、炉口燃焼火炎12のスペクトル解析による炉内状況の判定では、クレーンの通過や炉口への地金の堆積などによる視野の遮蔽などの状況の変化により誤検知となる場合がある。このため、前述した「予め設定された閾値」を、各チャージの転炉操業ごとに変化させることが望ましい。
具体的には、発光強度移動平均変化率の閾値を、酸素吹錬中の発光強度の推移、排ガス流量、排ガス成分、上吹きランスからの酸素ガス供給速度、上吹きランスのランス高さのうちの少なくとも一つ以上を用いて決定することが好ましい。
また、発光強度移動平均変化率の閾値を、酸素吹錬中の発光強度の推移、排ガス流量、排ガス成分、上吹きランスからの酸素ガス供給速度、上吹きランスのランス高さのうちの少なくとも一つ以上を用いて、機械学習によって決定することがより好ましい。
以上説明したように、本発明によれば、溶銑5を脱炭精錬する転炉2の炉内状況を、発光スペクトルの解析によってリアルタイムで監視することができ、また、このリアルタイムの監視に加えて、転炉から排出される排ガスの流量及びガス組成の測定値から得られる情報を用いて、炉内溶融鉄の炭素濃度を推定するので、脱炭精錬後半での溶融鉄の炭素濃度を正確に把握することが可能となる。
以下、実施例に基づき、更に、本発明について説明する。
[実施例1]
図2に示す転炉2と同様の形式を有する、容量300トンの上底吹き転炉(酸素ガス上吹き、アルゴンガス底吹き)を用いて、溶銑5の脱炭精錬を行った。上吹きランス3は、先端部に5個のラバールノズル型の噴射ノズルを、噴射角度を15°として、上吹きランスの軸心に対して同一円周上に等間隔に配置したものを使用した。尚、噴射ノズルのスロート径dtは73.6mm、出口径deは78.0mmである。
先ず、転炉内に鉄スクラップを装入したのち、予め脱硫処理及び脱燐処理を施した、温度が1310〜1360℃の300トンの溶銑を転炉に装入した。溶銑の化学成分を表1に示す。
次いで、底吹き羽口4から、攪拌用ガスとしてアルゴンガスを溶銑中に吹き込みながら、上吹きランス3から、酸化性ガスとして酸素ガスを溶銑浴面に向けて吹き付け、溶銑の脱炭精錬を開始した。尚、鉄スクラップの装入量は、脱炭精錬終了後の溶鋼温度が1650℃となるように調整した。
その後、脱炭精錬中に炉上ホッパー(図示せず)から、CaO系媒溶剤として生石灰を投入して、溶融鉄中の炭素濃度が0.05質量%となるまで脱炭精錬を行った。尚、生石灰の投入量は、炉内に生成されるスラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が2.5となるように調整した。
脱炭精錬中に、所定の測定時間間隔Δt:1〜10秒で、連続的に、転炉2のほぼ正面に設置した分光カメラ6により、転炉2の炉口と可動式フードとの隙間から見える炉口燃焼火炎12を撮影した。
得られた撮影画像から、画像解析装置7で、発光スペクトル(画像データ)を測定し、得られた発光スペクトルのうち、580〜620nmの範囲の波長について、各時点における発光波長の特定と、波長ごとの発光強度Inを算出する解析を行った。使用した波長(特定波長)は610nmとした。解析は、画像データの任意の走査線上を線分析して行った。
得られた各時点における特定波長の発光強度を用いて、発光強度の時間変化として、(1)式で定義される発光強度移動平均変化率を算出し、各時点における転炉内の炉内状況の指標とし、転炉操業を監視した。尚、発光強度移動平均変化率の算出は、(1)式でm=1、S=10とする移動平均を用いて行った。尚、使用した転炉では、(1)式で定義される発光強度移動平均変化率の「予め設定された閾値」は、m=1、S=10とした場合には1.8であった。
更に、脱炭精錬前の溶銑の炭素濃度、転炉内への酸素源供給量、排ガスの流量、排ガスの組成分析値を用いて、炭素及び酸素の物質収支計算を実施し、それぞれのチャージにおいて、炉内の溶融鉄の炭素濃度を推定した。
そして、物質収支計算による炭素濃度推定値が0.6質量%以下になった以降、(1)式による光強度移動平均変化率が1.8以下を満たした時点で、表2に示すように、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹きガスの流量のいずれか1種または2種以上を調整した。具体的には、上吹きランスからの酸素ガス流量の調整は、1000Nm3/minから833Nm3/minへと減少し、ランス高さの調整は、3.0mから2.5mへと低下し、底吹きガス流量の調整は、15Nm3/minから30Nm3/minへと増加させた。
このような調整は、発光強度移動平均変化率が表2に示す値になった時点で、直ちに制御用計算機8から、ランス高さ制御装置9、酸化性ガス流量制御装置10および底吹きガス流量制御装置11に、制御信号を発信して作動させた。
尚、比較例として、(1)式で定義される発光強度移動平均変化率に関係なく、ランス高さ、酸化性ガス流量及び底吹きガス流量の1種以上を、既存のプロセスコンピューターによる物質収支計算に基づき、溶融鉄中炭素濃度が0.45質量%と推定された時点で、上記した上吹き条件及び底吹き条件となるように調整する操業も実施した。
脱炭精錬終了後、炉内のスラグを回収し、スラグ中の全鉄分量(Total Fe)を、蛍光X線分析法を用いて調査した。得られた結果を、表2に併記した。
表2に示すように、本発明例は、いずれも比較例に比べて、スラグ中の全鉄分量が少なく、鉄歩留まりが向上した。尚、本発明例と比較例とは、精錬時間はほぼ同じであった。
[実施例2]
実施例1と同じ転炉設備(上底吹き転炉)を用いて、実施例1と同様に、溶銑5の脱炭精錬を行った。
脱炭精錬中に、測定時間間隔Δtを1秒として、実施例1と同様に、連続的に分光カメラ6により、転炉2の炉口と可動式フードとの隙間から見える炉口燃焼火炎12を撮影した。得られた撮影画像から、画像解析装置7で、発光スペクトル(画像データ)を測定し、得られた発光スペクトルのうち、580〜620nmの範囲の波長について、各時点における発光波長の特定と、波長ごとの発光強度Inを算出する解析を行った。使用した波長(特定波長)は610nmとした。解析は、画像データの任意の走査線上を線分析して行った。
得られた撮影画像から、上記(1)式で、移動平均の加算数S=10、自然数m=1とする計算式を用いて発光強度移動平均変化率を求め、求めた発光強度移動平均変化率を各時点における転炉内の炉内状況の指標として転炉の操業を監視した。
発光強度移動平均変化率の閾値に関しては、酸素吹錬中の酸素ガス流量の平均値の大小を基に、実施例1に記載する本発明例と同様の200チャージの操業データを4区分に分け、それぞれの区分の閾値を決定した。つまり、酸素ガス流量の平均値の大小に基づいて、(1)式の発光強度移動平均変化率の閾値を4種に設定した。
そして、実際の操業においては、酸素ガス流量の平均を逐次演算し、酸素ガス流量の平均によって定まる、前記4種のうちの1つの閾値を用いた。そして、物質収支計算による炭素濃度推定値が0.6質量%以下になった以降、(1)式による光強度移動平均変化率が、上記のようにして設定した閾値以下を満たした時点で、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹きガスの流量のいずれか1種または2種以上を調整した。具体的には、上吹きランスからの酸素ガス流量の調整は、1000Nm3/minから833Nm3/minへと減少し、ランス高さの調整は、3.0mから2.5mへと低下し、底吹きガス流量の調整は、15Nm3/minから30Nm3/minへと増加させた。
このようにして(1)式による発光強度移動平均変化率の閾値を決定することで、脱炭精錬終了後のスラグ中の全鉄分量(Total Fe)は、実施例1に記載する本発明例と同等またはそれ以下になり、鉄歩留まりが向上することが確認できた。
[実施例3]
炉口燃焼火炎12のスペクトル解析による炉内状況の判定では、前述の通り、クレーンの通過や炉口への地金の堆積などによる視野の遮蔽などの状況の変化により誤検知となる場合がある。このため、前述した「予め設定された閾値」も、各チャージの転炉操業ごとに変化させることが望ましい。
そこで、炉口燃焼火炎12のスペクトル解析を行った2000チャージについて、サブランスによる測定値(炭素濃度、温度)、排ガス情報から算出した脱炭酸素効率、鉄歩留まりを基に、スペクトル解析で判定すべき時期を、各酸素吹錬ごとにオフライン解析して決定した。更に、スペクトル解析による判定すべき時期を検出できるように、「予め設定された閾値」を、各酸素吹錬ごとに決定した。
更に、上記の2000チャージのオフライン解析データを教師データとして、ニューラルネットワーク型の機械学習を行った。入力データは、溶銑質量、鉄スクラップ質量、脱炭精錬前の溶銑温度、副原料投入量、吹錬進行度ごとの送酸速度(上吹きランスからの酸素ガス供給速度)、底吹き流量、ランス高さ、排ガス流量、排ガス組成、可動式フード高さなどの30項目とし、隠れ層は5層とした。
上記のようにして機械学習した、スペクトル解析による判定の閾値の決定方法を用いて、実施例1と同じ転炉設備(上底吹き転炉)を用いて、実施例1と同様に、溶銑の脱炭精錬を行った。脱炭精錬の全吹練時間中に亘り、実施例1と同様に、所定の時間間隔Δt:1〜10秒で、連続的に、分光カメラ6により、転炉2の炉口から吹き出す炉口燃焼火炎12を撮影し、得られた撮影画像から、画像解析装置7で、発光スペクトル(画像データ)を測定して記録した。発光スペクトルの解析は、(1)式で定義される発光強度移動平均変化率を用い、m=1、S=10とした。使用した波長(特定波長)は610nmとした。
更に、脱炭精錬前の溶銑の炭素濃度、転炉内への酸素源供給量、排ガスの流量、排ガスの組成分析値を用いて、炭素及び酸素の物質収支計算を実施し、それぞれのチャージにおいて、炉内の溶融鉄の炭素濃度を推定した。
このようにして推定した溶融鉄の炭素濃度が、0.6質量%以下となった以降、機械学習により得られた閾値以下を満たした時点で、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹きガスの流量のいずれか1種または2種以上を調整した(本発明例2)。具体的には、上吹きランスからの酸素ガス流量の調整は、1000Nm3/minから833Nm3/minへと減少し、ランス高さの調整は、3.0mから2.5mへと低下し、底吹きガス流量の調整は、15Nm3/minから30Nm3/minへと増加させた。
比較のために、実施例1に記載される、物質収支計算による溶融鉄の炭素濃度の推定を行い、物質収支計算による炭素濃度推定値が0.6質量%以下になった以降、(1)式による光強度移動平均変化率が1.8以下を満たした時点で、ランス高さ、酸化性ガス流量及び底吹きガス流量の1種以上を、上記した上吹き条件及び底吹き条件となるように調整する操業(本発明例1)も実施した。
更に、比較例として、物質収支計算による溶融鉄の炭素濃度の推定を行わず、(1)式で定義される発光強度移動平均変化率の閾値が1.8以下を満たす時点で、ランス高さ、酸化性ガス流量及び底吹きガス流量の1種以上を、上記した上吹き条件及び底吹き条件となるように調整する操業(比較例1)も実施した。
また更に、(1)式で定義される発光強度移動平均変化率に関係なく、ランス高さ、酸化性ガス流量及び底吹きガス流量の1種以上を、既存のプロセスコンピューターによる物質収支計算に基づき、溶融鉄中炭素濃度が0.45質量%と推定された時点で、上記した上吹き条件及び底吹き条件となるように調整する操業(比較例2)も実施した。
本発明例1、本発明例2、比較例1、比較例2を、それぞれ100チャージ実施した。いずれの操業においても、上底吹き条件またはランス高さを変更する時点で、炉内にサブランスを投入し、炉内の溶融鉄の炭素濃度及び温度を測定し、また、脱炭精錬終了後、スラグ中の全鉄分量(Total Fe)を、蛍光X線分析法を用いて調査した。
これらの転炉操業において、サブランスによる溶融鉄の炭素濃度が0.30±0.08質量%範囲内であった場合の比率(「検知成功率」と称す)、吹錬時間の平均値及びスラグ中の全鉄分量(Total Fe)の平均値を表3に示す。
表3より明らかなように、本発明例2では、スラグ中の全鉄分量(Total Fe)を低減させる操業が可能である。また、発光強度移動平均変化率を用いた判定においても、本発明例2は、本発明例1及び比較例1よりも検知成功率が高く、鉄歩留まりの向上に寄与することが確認できた。また、本発明例1は、比較例1よりも検知成功率が高く、比較例1に比べて鉄歩留まりが向上することが確認できた。