JP6949385B2 - 細胞培養支持体、細胞培養装置、細胞培養キット、及び細胞シート - Google Patents

細胞培養支持体、細胞培養装置、細胞培養キット、及び細胞シート Download PDF

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Description

本発明は、メッシュ構造の細胞培養支持体、及びそれを用いて製造された細胞シート等に関する。
細胞は生物の基本構成要素である。生物から取り出した細胞を人工的に増殖、維持することを細胞培養といい、これを可能にするのが細胞培養技術である。この技術は、基礎研究や医療を支える重要な技術であり、産業的価値も高い。
線維芽細胞や上皮細胞などの接着性細胞の一般的な培養方法では、シャーレやフラスコ等の容器の底面上に細胞を播種して、十分な数まで増幅させる。このような培養方法では、細胞を播種する面が広く平坦であることが大きな特徴である。
シャーレやフラスコを用いて培養する場合、細胞の数が増えてコンフルエント状態になると、細胞の接触障害(コンタクトインヒビション)が生じる。それ以上培養を続けると細胞の状態が悪くなるので、コンフルエント状態の70%程度まで細胞が増えたら、細胞を継代、すなわち容器底面に接着した細胞を剥離し、新しい培養装置に移して培養するのが一般的である。特に増殖の速い細胞の場合、毎日継代しなければならないため手間がかかり、コストも非常に高くなる。
近年、培養した細胞を用いて様々な高次細胞構造を作製する方法が提案されている。その代表的な例として、細胞シートがあげられる。細胞シートとは、隣り合う細胞同士の相互結合により形成される、少なくとも単層のシート状の細胞集合体のことを言う。細胞シートは材料として再生医療などの分野で広く用いられ始めている(例えば特許文献1、2、非特許文献1、2)。
このような細胞シートを製造する方法として、従来、目的の細胞をシャーレ等の容器に播種し、増殖させる方法が用いられている。しかしながら、上述のとおり、コンフルエント状態になると、コンタクトインヒビションが生じるので、継代が必要となり、手間とコストの問題が生じる。また、コンタクトインヒビションによって細胞の状態が変化しやすくなるため、長期間(例えば1ヶ月以上)細胞シートを安定に維持することが難しい。
さらに、シャーレ等の容器を用いて培養する方法では、細胞が容器に接着するため、得られた細胞シートを容器から剥離させる必要がある。特に、細胞が容器に強く結合している場合、細胞シートを回収するために、機械的または化学的な操作を加える必要がある。
機械的な細胞シート剥離方法としては、流れを起こして流体力学的なせん断応力の効果で細胞シートを容器から剥離させる方法(例えば特許文献1)や、器具等を用いて力学的に細胞シートを剥離させる方法がある(例えば非特許文献3、4)。しかし、このような剥離操作は、細胞にダメージを与えるのみならず、細胞同士の接着も壊してしまうため、細胞シートの実用的価値が損なわれてしまう(例えば非特許文献3、4)。
化学的な細胞シート剥離方法としては、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)やコラーゲン分解酵素(コラーゲナーゼ)等のタンパク質分解酵素を作用させ、細胞と細胞培養支持体の結合を弱めて細胞シートを細胞培養支持体から剥離させる方法があげられる。しかし、これらのたんぱく質分解酵素の作用により細胞シートを形成する細胞同士の間の接着分子も分解されてしまう(例えば非特許文献3)。また、剥離に使われている一般的なタンパク分解酵素であるトリプシンは細胞毒性があることが明らかになっている(例えば非特許文献3、4)。よって、化学的な剥離を施した場合、細胞シートの破壊や品質の劣化による利用価値の低下が問題であった。
刺激応答性高分子を用いた新たな細胞シート剥離方法も提案されている。例えば、温度応答性材料や光応答性材料等の刺激応答性高分子材料で被覆した容器で細胞を培養して細胞シートを作製した後、温度や光等の刺激を付与することにより、親水性や疎水性等の高分子材料表面の特性を変化させて、容器から細胞シートを剥離させる方法がある(例えば特許文献3、非特許文献5)。しかし、この方法では、特殊な高分子材料が必要なため、コストが高くなる。また、剥離の際に付与される温度や光等の刺激が細胞培養環境を変化させてしまうのみならず、足場がなくなると細胞シートの強度を保つ細胞内骨格構造が壊され、シートが縮まってしまうなど、細胞シートの性質が低下する(例えば非特許文献6)。さらに、刺激応答性高分子は、細胞培養液の影響を受けやすく、培養液中では機能しなくなることがあるという問題もあった。
別の細胞シート作製手段として、培養容器表面に形成した凹凸の上や、培養容器に立てたマイクロピラーやナノピラーの上で細胞を培養する技術が提案されている(例えば特許文献2−4)。これらの方法は、細胞の剥離が容易で細胞へのダメージも少ないとされる。しかしながら、特許文献2および非特許文献7、8に記載されているように、細胞接着や接着した細胞の挙動は平面に接着する場合と凹凸表面に接着する場合とでは異なり、ナノピラー上では細胞の接着や伸展が遅くなったり、細胞表面から仮足が発生したりするという問題がある。また凹部が20μm以上の幅を有する場合には細胞が潜入してしまうという問題もある。凹部に細胞が隔離されると、細胞が隣の細胞と結合することが難しくなるため細胞シートを形成しにくい。また、凹部に細胞を高密度に播種すると、細胞同士が重なり合うため、均一な細胞シートの作製が難しい。
従来、スキャフォールド(足場)として、細胞を誘導、増殖させるため、金属多孔質体、チタン等の生体適合性の高い金属の線材を絡合した不織布状のものが用いられている。これ以外にも、例えば非特許文献7には、生体適合性の高い線材をコイル状に形成し集積したものが記載されており、特許文献8では、チタンの薄板をアルカリ水溶液に浸漬させることで、細胞を誘導、増殖させる網目状の浸食層を備えた足場が開示されている。さらに、細胞培養の際、多孔性ポリマーのシートを足場として培養する方法も提案されている(特許文献9)。しかしながら、これらのスキャフォールドは、いずれも細胞に比較して大きな足場を有し、その足場に細胞が乗るような状態で培養される。すなわち、不織布、コイル、網目構造の隙間から細胞が落ちないようなサイズに設計されている。例えば、特許文献9には、ヒトPVMC由来の単球が吸着して培養されるためには、多孔性ポリマーの孔径が2μm〜20μm程度であることが必要であり、孔径が2μm未満であると、培養足場として使用したとしても単球を効率的に吸着・培養させることができず、また、20μmを超える場合には、培養足場としての機能が低下すると記載されている。
さらに、細胞シートを再生医療に用いる場合は、安全性が重要となる。しかしながら、シャーレ等の容器表面で細胞シートを作製する従来の方法では、死細胞を選択的に駆除することはできず、生細胞と死細胞の混在した細胞シートしか作製できなかった。また、上述のとおり、コンタクトインヒビションによる細胞の劣化も生じるので、安全上、このような細胞シートは再生医療を目的とした用途には向かない。
特開2010−29680号公報 特開2004−261533号公報 特公平6−104061号公報 特開2008−11766号公報 特開2004−170935号公報 特開2005−168494号公報 特開2011−15959号公報 特開2007−277718号公報 特開2006−262782号公報
S. Ito et al.、 Biomaterials et al.、 33、 2012:5278-5286. H. Masumoto et al. Stem Cells、 30(6)、 2012、:1196-1205. H. E. Canavan et al.、 J. Biomed. Mater. Res. A 25A、 2005:1-13. K. Jung et al.、 Cell Physiol. Biochem. 5、 1995: 353-360. Y. Hong et al.、 Biomaterials 34(1)、 2013: 11-18. T. Okano et al.、 Biomaterials、 16(4)、 1995. M. J. Dalby et al.、 Biomaterials 25 (2004) 5415-5422. C. C. Berry et al.、 Biomaterials 25 (2004) 5781-5788.
本発明は、状態のよい細胞のみで形成された高品質で安全性の高い細胞シートを、継代を必要とせず作製及び維持できる細胞培養支持体、及びこれを使用して製造した細胞シート等を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、平面状メッシュ構造を有する細胞培養支持体であって、メッシュ構造の開口部が培養する細胞より大きい細胞培養支持体を用意し、この細胞培養支持体を培養液中に浮かせた状態で細胞を播種すると、細胞が自発的にメッシュ状構造の開口部に伸展し、接触した細胞同士が接着・連結してメッシュ構造の開口部を埋め、単層の細胞シートが形成されることを見出した。
また、このような細胞シートによれば、細胞がコンフルエント状態になることがなく、細胞が増殖しても死細胞や状態の悪い細胞は細胞培養支持体から自然に脱落するので、継代を行わずに長期間培養維持できること、状態の良い生細胞のみからなる安全性の高い細胞シートが得られることを確認した。
さらに、平面状メッシュ構造の細胞培養支持体を、培養容器内に垂直(鉛直)に設置することにより、細胞同士が重なり合うことなく、単層のシートを得られることを見出し、このような効果は、培養液に流れを生じさせることでさらに高められることを確認した。
得られる細胞シートは、細胞同士が連携して十分な強度を有する一方、適度な柔軟性を有しているので、1枚又は複数枚積層して様々な形状に成形することができ、各種の研究や再生医療に用いることができることを確認し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
〔1〕細胞培養を行うための細胞培養支持体であって、平面状メッシュ構造を有し、前記メッシュ構造の開口部は、培養する1個の細胞が通過できる大きさである、細胞培養支持体;
〔2〕前記メッシュ構造の開口部の最小径は、播種時の細胞の最大径より大きい、上記〔1〕に記載の細胞培養支持体;
〔3〕前記メッシュ構造のフレーム部の幅は、前記細胞培養支持体に接着した状態の細胞の最大径の半分以下である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の細胞培養支持体;
〔4〕前記細胞培養支持体の厚みは、前記細胞培養支持体に接着した状態の細胞の最大径より小さい、上記〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体;
〔5〕前記メッシュ構造の開口部が、三角形、四角形、六角形、又は多角形である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体;
〔6〕前記メッシュ構造は、形状的異方性を有する、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体;
〔7〕光硬化性樹脂、生体適合性材料、及び生体分解性材料からなる群より選択される少なくとも1つの材料を含む、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体;
〔8〕弾性変形可能な材料で作製されている、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体;
〔9〕上記〔1〕から〔8〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体を装着可能な細胞培養装置であって、
1又は2以上の前記細胞培養支持体を、培養液中に浮かせた状態で保持する部材を備える、細胞培養装置;
〔10〕上記〔1〕から〔8〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体を装着可能な細胞培養装置であって、
1又は2以上の前記細胞培養支持体を、垂直に保持する部材を備える、細胞培養装置;
〔11〕さらに、培養液に流れを生じさせる部材を備える、上記〔9〕又は〔10〕に記載の細胞培養装置;
〔12〕上記〔1〕から〔8〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体と、上記〔9〕から〔11〕のいずれか1項に記載の細胞培養装置とを含む、細胞培養キット;
〔13〕上記〔1〕から〔8〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体に細胞を播種する工程と、
前記細胞を培養する工程と、を含む細胞シートの製造方法;
〔14〕前記細胞を播種する工程の前に、細胞接着促進材料で細胞培養支持体をコーティングする工程をさらに含む、上記〔13〕に記載の方法;
〔15〕前記細胞を培養する工程において、繰り返し応力を印加することにより、細胞機能の強化及び/又は細胞の分化の促進を行う、上記〔13〕又は〔14〕に記載の方法;
〔16〕予め、前記細胞培養支持体を変形させてから、細胞培養装置に設置する、上記〔13〕から〔15〕のいずれか1項に記載の方法;
〔17〕前記細胞を培養する工程において、1又は2以上の前記細胞培養支持体を細胞培養装置内に垂直に設置し、培養液に、細胞培養支持体の主面と平行な方向の流れを生じさせる、上記〔13〕から〔15〕のいずれか1項に記載の方法;
〔18〕前記細胞を培養する工程において、1又は2以上の前記細胞培養支持体を細胞培養装置内に浮かせた状態で水平に設置する、上記〔13〕から〔15〕のいずれか1項に記載の方法;
〔19〕前記細胞を培養する工程において、複数の細胞培養装置を細胞装置内に設置し、細胞の大量培養を行う、上記〔13〕から〔18〕のいずれか1項に記載の方法;
〔20〕上記〔1〕から〔8〕のいずれか1項に記載の細胞培養支持体を含む細胞シート;
〔21〕上記〔9〕から〔12〕のいずれか1項に記載の細胞培養装置、上記〔12〕に記載の細胞培養キット、又は上記〔13〕から〔20〕のいずれか1項に記載の細胞シートの製造方法を用いて製造された細胞シート;及び
〔22〕上記〔20〕又は〔21〕に記載の細胞シートを変形又は積層して構成された細胞構造体、
に関する。
本発明に係る細胞培養支持体によれば、細胞のサイズよりも大きな開口を有するメッシュ構造を埋めるように細胞が伸展し、細胞同士の接着により、強度及び柔軟性に優れた細胞シートを得ることができる。従来法のように容器の底面に接着させて細胞を培養しないため、得られた細胞シートを容器から剥離させる必要がなく、剥離によるダメージを受けることがない。
また、容器の底面で細胞を培養して細胞のコロニーを形成するという従来の細胞培養方法では、コロニーの内側まで酸素・栄養等が回りにくく、細胞の状態が悪くなるという課題があった。これに対し、本発明に係る細胞培養支持体によれば、細胞シートの両面が培地に接していることから、どの細胞にも平等に酸素・栄養等がまわる。
さらに、本発明に係る細胞培養支持体で培養すると、細胞がコンフルエント状態になることがなく、また死細胞や状態の悪い細胞は細胞培養支持体から自然に脱落する。したがって、細胞に変化や劣化が生じることなく長期間培養し維持することができるとともに、高品質で安全性の高い細胞シートを得ることができる。
また、細胞がコンフルエント状態にならないことから継代の必要もないので手間がかからずコストも低下する。さらに、一つの容器の中で多数の細胞培養支持体を設置して細胞シートを作製することができるので、大量生産にも適する。
本発明に係る細胞培養支持体を垂直方向に設置し、任意で培養液に流れを生じさせることにより、単層の培養シートをより短時間で得ることもできる。
本発明に係る細胞シートは、積層、変形等して所望の形状に成形してもよく、また予め細胞培養支持体を要望の形状に変形させて(丸める、折り畳むなど)おいてからその裏表に細胞をまいてもよい。したがって、本発明に係る細胞シートの成形により、更に高次細胞構造体を作製でき、各種の研究や再生医療に有用である。
図1は、本発明に係る細胞培養支持体の製造方法の一例を示す概略図である。 図2は、本発明に係る細胞培養支持体の一例を示す顕微鏡画像である。 図3Aは、本発明に係る細胞培養支持体及び細胞培養装置を用いる細胞シートの製造方法の一態様を示す概念図である。 図3Bは、本発明に係る細胞培養支持体に、細胞を播種した直後の様子を示す概念図である。 図4は、本発明に係る細胞培養支持体を用いて細胞シートが形成された様子を示す概念図である。 図5は、本発明に係る細胞培養支持体を用いてMEF細胞による細胞シートを作製した様子を示す顕微鏡画像である。 図6Aは、本発明に係る細胞培養支持体を用いて作製したTIG細胞による細胞シートの明視野顕微鏡画像である。 図6Aは、本発明に係る細胞培養支持体を用いて作製したTIG細胞による細胞シートの固定染色画像である。 図7は、マウスES細胞を培養ディッシュで培養した様子(A)と、本発明に係る細胞培養支持体を用いて培養した様子(B)を示す顕微鏡画像である。 図8は、本発明に係る細胞シートの応用例であり、細胞シートをマイクロ流体デバイスに設置した2層構造の組織モデルを示す。 図9は、本発明に係る細胞シートの応用例であり、2層の細胞シートを作製してから変形させて血管モデルを製造する方法を示す概念図である。 図10は、予め細胞培養支持体を変形させてから細胞を播種・培養して細胞シートを製造する方法を示す概念図である。 図11は、水平に置いた細胞培養支持体で細胞シートを作製したときに、細胞分裂でできた余分な細胞が積みあがった様子を示す。 図12は、細胞培養支持体を垂直に置いた状態で作製した細胞シートを示す。 図13は、細胞培養支持体を垂直に置き、スターラーによって培養液に流れを生じさせる細胞シート作製装置の概念図である。 図14は、図13の装置で作製した細胞シートを示す。
(細胞培養支持体)
本発明に係る細胞培養支持体は、平面状メッシュ構造を有し、メッシュ構造の各開口部が、培養する細胞が通過できる大きさであることを特徴とする。
本明細書において「細胞培養支持体」は、培養液中に設置するとその形状に沿って細胞が増殖する構造体をいう。本発明に係る細胞培養支持体では、従来のスキャフォールドのように細胞より面積の大きな足場に細胞が定着して増殖するのではなく、メッシュの開口部に細胞が自発的に伸展することを特徴とする。
従来は、一様な容器の底面で、あるいは、ポア等の細胞よりも小さい開口部を有する足場(スカフォルド)を培養支持体として用いていたため、細胞は足場に定着して増殖して組織を形成すると考えられていた。すなわち、従来は、細胞よりも大きい開口部に細胞が自発的に伸展して開口部を埋めるとはまったく考えられていなかった。これに対し、本発明者らは、細胞より大きな開口部を有するメッシュ構造の支持体を用いると、細胞同士が開口中心に向かって自発的に伸展して接着する結果、開口部を覆うように単層の細胞シートが形成されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
本明細書において「細胞が伸展する」とは、細胞が特定の方向に向かって変形、成長、又は増殖することをいう。
本明細書において「平面状メッシュ構造」とは、所定の形状の開口部が規則的または非規則的に繰り返し並んだ平面状の構造体を意味する。所定の形状の開口は、典型的には正三角形、正方形、正六角形などの正多角形であるが、円や楕円、その他の多角形であってもよい。また、開口部は、すべて同じ形状でなくてもよく、複数の開口部を1セットとして、かかるセットが規則的または非規則的に繰り返し並んだ平面状の構造体も、本発明に係る「平面状メッシュ構造」に含まれる。
本明細書においては、平面状メッシュ構造の開口部以外の部分を「フレーム」又は「フレーム部」と呼ぶ場合もある。
本発明に係る細胞培養支持体の開口部は、培養する細胞1個が通過できる大きさである。「開口部が培養する細胞1個が通過できる大きさである」とは、開口部と細胞のそれぞれの大きさが、細胞が変形して又はしないで、開口部を通過できる関係であることを意味する。開口部は、細胞が開口部に接触しないで通過できる大きさであってもよいし、開口部に接触して変形しながら通過できる大きさであってもよい。
「開口部が培養する細胞1個が通過できる大きさである」例として、メッシュ構造の開口部の面積が、播種時の細胞1個の最大面積より大きい場合が挙げられる。細胞1個の最大面積とは、断面積が最大になるように細胞を切断した場合の面積をいう。播種時の細胞の最大面積とは、細胞が播種された時の状態、すなわち細胞が支持体に接着して伸展する前の状態での最大面積を意味する。
また、本発明に係る細胞培養支持体は、開口部の最小径が、培養する細胞の播種時の最大径よりも大きいものであってもよい。開口部の最小径は、当業者が適宜測定することができるが、例えば、正多角形の場合、中心を通って辺上の二点を結ぶ直線のうち最短の直線の長さをいう。細胞の最大径は、細胞の周辺の二点を結ぶ直線のうち最長の直線の長さをいう。
開口部の形状が2種以上ある場合、いずれかの開口部においてのみ、開口部の最少径が培養する細胞の播種時の最大径より大きくてもよいし、すべての開口部において、開口部の最少径が培養する細胞の播種時の最大径より大きくてもよい。
開口部の最小径が、細胞の最大径より大きい場合、細胞培養支持体を水平に置いてその上方から細胞を播種すると、フレーム部に定着する細胞もあり、フレームに接触せずに下に落ちる細胞もある。フレーム部に定着した細胞だけでは、当初は開口部が埋まらないが、細胞が開口中心に向かって自発的に伸展していく結果、細胞シートが形成される。
本発明に係る細胞培養支持体は、開口部の最小径が、培養する細胞の最大径の2倍、3倍、4倍、5倍、7倍、10倍等であってもよい。かかる場合も、フレーム部に播種された細胞が自発的に開口部に伸展し、細胞同士が連結して開口部を埋め、細胞シートが形成される。
開口部が正多角形の場合、一辺の長さは特に限定されないが、例えば、30〜250μm程度とすることができる。一辺の長さを調節することにより、細胞シートが形成されるまでの時間や、細胞シートの強度、柔軟性を制御することができる。一辺の長さは、50μm以上、60μm以上、80μm以上、100μm以上としてもよく、200μm未満、180μm未満、150μm未満等としてもよい。
上述のとおりメッシュ構造の開口部は、三角形、四角形、六角形等とすることもでき、この形状によっても、細胞シートが形成されるまでの時間、細胞シートの強度や柔軟性などの物性を制御することが可能である。
本発明に係る細胞培養支持体のメッシュ構造のフレーム部の幅は、特に限定されないが、例えば、細胞の最大径の半分以下としてもよい。上述のとおり、従来のスキャフォールドでは、細胞が定着するよう細胞の最大径と同等か、より大きな幅の構造体が用いられていたが、本発明に係る細胞培養支持体では、細胞の大きさよりも細いフレーム部を有するメッシュ構造を用いてもよい。
本明細書において、「フレーム部の幅」は、フレームの長さ方向に垂直な方向の幅を意味する。フレーム部の幅は、細胞の最大径の3分の1以下、4分の1以下、5分の1以下、あるいはそれ以下であってもよい。
また、フレーム部の幅は、例えば1〜20μmとすることができ、2μm〜15μm、3μm〜10μm、4μm〜5μm等としてもよいがこれらに限定されず、細胞培養支持体の材料や、培養する細胞の大きさに合わせて、当業者が適宜決定することができる。フレーム部の幅を調節することによっても、細胞シートの強度や柔軟性を制御することができる。また、最初に細胞を播種する際、細胞はフレーム部に接着するので、フレーム部の幅を調節することにより、接着する細胞数も制御できる。
このように、比較的細いフレーム部と、比較的大きな開口部分を有するメッシュ構造を用いることにより、細胞が開口部に自発的に伸展し、隣り合った細胞が互いに接着して単層の細胞シートが形成される。
本明細書において「単層の細胞シート」とは、細胞が略二次元に並び、隣り合った細胞同士が略隙間なく接着した構造体をいう。細胞シートが単層であるか否かは、例えば細胞核を染色し、細胞核がほぼ平面的に並んでいることによって確認することができる。全体として単層と認められる形状であればよく、一部の細胞が層状に重なっていてもよい。
細胞培養支持体の厚みは、細胞培養支持体に接着した状態の細胞の最大径より小さくてもよい。例えば、例えば1〜20μmとすることができ、2μm〜15μm、3μm〜10μm、4μm〜5μm等としてもよいがこれらに限定されない。支持体の厚みは、得られる細胞シートの用途に応じて決定してもよい。
メッシュ構造は、形状的異方性を有するものであってもよい。後述する実施例に示すとおり、メッシュ構造を非対称な形状にすると異方性が生じ、細胞の配向性を制御することができるので、所望の秩序構造を有する細胞シートを得ることができる。逆に、メッシュ構造の形状によっては、細胞が等方性に伸展し、配向性を有しない細胞シートが得られる。
本発明に係る細胞培養支持体の材料は、細胞毒性を示さず、細胞シートが形成される限り特に限定されないが、例えば、光硬化性樹脂、生体適合性材料、生体分解性材料などを用いることができる。
光硬化性樹脂を用いれば、後述するようにフォトリソグラフィ法によって細胞培養支持体を作製することができる。光硬化性樹脂としては、例えば、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、チオール化合物、シリコーン系化合物などが挙げられる。これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。光硬化性樹脂の具体例としては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、エトキシ化ビスフェノールAアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル変性脂環式エポキシド、2官能アルコールエーテル型エポキシド、アクリルシリコーン、アクリルジメチルシロキサン等が挙げられるがこれらに限定されない。
生体適合性材料や生体分解性材料を用いて得られる細胞シートは、そのまま生体に移植するなど再生医療に好適に用いられる。
生体適合性材料としては、シリコーン、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリウレタン、シリコーン−ポリウレタン共重合体、セラミックス、コラーゲン、ヒドロキシアパタイト、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ゴアテックス(商標)などの超高分子量ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、その他生体由来材料などが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明に係る細胞培養支持体は、生体適合性材料以外の材料で形成し、表面を生体適合性材料で処理したものであってもよい。
生体分解性材料としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、及びそれらの共重合体、PHB−PHV系ポリ(アルカン酸)類、ポリエステル類、デンプン、セルロース、キトサンなどの天然高分子やその誘導体などが挙げられるがこれらに限定されない。
また、本発明に係る細胞培養支持体を、弾性変形可能な材料で作製することも好ましい。
本発明に係る細胞培養支持体は、例えば周囲を補強して持ち運びしやすくするなど、各種の工夫を加えることができ、かかる工夫を加えた支持体も本発明に包含される。
(細胞培養支持体の製造方法)
本発明に係る細胞培養支持体は、その構造、用途、材料等に応じて、当業者が公知の方法やそれに準ずる方法で適宜作製することができるが、一例として、フォトリソグラフィ法によって作製する方法が挙げられる。
フォトリソグラフィを用いる場合、例えば、図1に示す方法で製造することができる。
まず電子線描画、レーザ線描画、写真印刷等の方法によりフォトマスクの表面にメッシュ構造を描く。フォトマスクの表面に犠牲層となるゼラチンをスピンコーティングにより塗布した後(1)、光硬化性樹脂をスピンコーティングする(2)。その後、光硬化性樹脂の種類等に合わせて適宜加熱、露光、現像を行って光硬化性樹脂をパターニングし(3)、熱湯中でゼラチンを溶かすことにより(5)、光硬化性樹脂薄膜によって形成された細胞培養支持体を得ることができる。
得られた細胞培養支持体は、周囲を補強することによって、細胞の培養に加え、移動や成形などの操作もしやすくなる。細胞培養支持体を補強する方法としては、例えばカプトンテープなどを周囲に貼る方法が挙げられる(4)。
図1の方法は、特に、フレーム部の幅が1μmより小さい場合や、フレーム部の幅を高精度に成形したい場合に有効である。
フォトリソグラフィを用いる場合、後述する実施例に示されるように、シリコンウェハー上にゼラチンと光硬化性樹脂を積層し、電子線描画などの方法によりメッシュパターンを描いたフォトマスクを介して露光及び現像してもよい。
(細胞培養装置)
本発明は、本発明に係る細胞培養支持体を用いて細胞を培養するための細胞培養装置も包含する。
一態様において、本発明に係る細胞培養装置は、細胞培養支持体を培養液中に浮かせた状態で保持する手段を備えることを特徴とする。
本明細書において「培養液中に浮かせた状態で」とは、細胞培養支持体の両面が、細胞培養装置の内壁や底面に接触しておらず、両面とも培養液と十分に接触できる状態をいう。細胞培養支持体は、細胞培養装置内において、水平に設置しても垂直に設置してもよい。
本明細書において「細胞培養支持体を培養液中に浮かせた状態で保持する部材」は、細胞培養支持体を安定に保持できる限り、どのような手段であってもよい。例えば、かかる部分は、細胞培養装置中に設置された台や、細胞培養装置の内壁や底に形成された溝とすることができる。
一態様において、本発明に係る細胞培養装置は、細胞培養支持体を垂直に保持する部材を備えることを特徴とする。「細胞培養支持体を垂直に保持する」とは、平面上の細胞培養支持体を立てて保持することを意味する。一般に、増殖能の高い幹細胞は、培養すると積み重なってコロニーを形成することが多く、コロニーの中心の細胞に栄養が回らないことから細胞が死んでいくことがある。しかしながら、細胞培養支持体を垂直に置いて培養すると、余分な細胞を落とし,コロニーの形成が抑制され、単層の細胞シートを効率よく得ることができる。
本発明に係る細胞培養装置は、細胞培養支持体を複数装着できるものであってもよい。例えば、細胞培養支持体の底面に平行な溝を複数形成しておけば、周囲を補強した細胞培養支持体を溝に差し込んで、底面に対し垂直になるように、複数の細胞培養支持体を平行に設置することができる。かかる構成によれば、少ないスペースで大量に細胞を培養することが可能となる。
また、本発明に係る細胞培養装置は、培養液に流れを生じさせる部材を備えていてもよい。例えば、スターラーで撹拌することによって流れを生じさせることができる。流れを生じさせる場合、流れの方向は特に限定されないが、例えば細胞培養支持体の主面と平行な方向としてもよい。これにより、単層の細胞シートを効率よく製造することができる。細胞培養支持体を垂直に設置して、且つ、培養液に流れを生じさせると、一様な単層の細胞シートを、より効率よく作製することができる。
(細胞培養キット)
本発明は、細胞培養支持体と細胞培養装置を備える細胞培養キットも包含する。かかるキットは、その他、粉末培地、培養液、細胞接着を促す材料(後述)、希釈用緩衝液等、使用説明書等を備えていてもよい。
(細胞シートの製造方法)
本発明は、本発明に係る細胞培養支持体を用いて細胞シートを製造する方法も包含する。
本発明に係る細胞シートの製造方法は、細胞培養装置に細胞培養支持体に細胞を播種する工程と、細胞を培養する工程とを含む。本発明に係る細胞培養装置を用いる場合は、細胞を播種する工程に先立って、細胞培養装置に細胞培養支持体を設置する。
細胞培養装置に細胞培養支持体を設置する工程に先立ち、細胞培養装置及び細胞培養支持体は、適宜滅菌しておくことが好ましい。また細胞培養支持体を設置する前に、細胞培養装置には、細胞培養支持体を浸漬できる程度に培養液を満たしておく。培養液は細胞の種類に合わせて、当業者が適宜選択、調製することができる。培養液その他の材料もオートクレーブまたはろ過により滅菌するとよい。
また、細胞培養支持体は、予め細胞接着促進材料でコーティングしてもよい。本明細書において「細胞接着促進材料」は、細胞を培養支持体に定着させて伸展や増殖をしやすくするために用いられ、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどの細胞外マトリックスタンパク質、ポリLリジンなどの陽性電荷物質などが挙げられるがこれらに限定されない。細胞接着を促す材料によるコーティングは、例えば、コラーゲンの場合、約0.1%溶液に細胞培養支持体を浸漬させて一定時間インキュベートすることにより行うことができる。フィブロネクチンの場合は、約10μg/mlの溶液、マトリゲルは1%溶液(氷温)等を用いることができるが、濃度や温度は、当業者が適宜調節することができる。
必要な前処理を行った細胞培養支持体は、「培養液中に浮かせた状態で」細胞培養装置に適宜設置する。細胞の播種は、公知の方法又はそれに準ずる方法で適宜行うことができる。例えば、培養液で細胞を懸濁し、ピペット等で細胞培養支持体に滴下すればよい。細胞数は、培養する細胞の種類や製造する細胞シートのサイズに応じて、適宜決定することができる。
培養の温度や環境も細胞の種類に応じて、適宜決定すればよい。
細胞を培養する工程では、培養液に流れを生じさせてもよい。細胞培養支持体の主面の近傍で、当該主面と平行な方向に流れを生じさせることにより、余分な細胞が積み重なってコロニーを形成するのを防ぐことができ、単層の細胞シートをより短時間で得ることができる。
このとき、細胞培養支持体を垂直に置くと、一様な単層の細胞シートをより短時間で得ることができる。
培養液の流れは、細胞を培養する工程の間、継続して生じさせてもよく、断続的に生じさせてもよい。例えば、細胞を播種してからしばらくは流れを起こさずに静置し、その後断続的に(例えば、5〜20時間ごとに)、流れを起こしてもよい。
培養液中に浮かせた状態で細胞培養支持体を設置することにより、すべての細胞が必要な栄養を培養液から取り込み、不要物を排出することができるので、細胞を良い状態で維持できる。また、本発明に係る細胞シートの製造方法では、細胞を継代、すなわち別の容器に移す必要がなく、必要に応じて細胞培養装置中に細胞培養支持体を設置したまま培養液を交換又は循環等すればよい。本発明に係る細胞培養支持体によれば、細胞シートが形成された後も細胞は分裂を繰り返し、死細胞や劣化した細胞は自然に細胞培養支持体から脱落するので、細胞培養装置中で、細胞シートを長期間培養及び維持することができる。
上皮細胞、筋細胞、軟骨細胞などを培養する場合、細胞シートに繰り返し応力を印加することにより、これらの細胞の機能を強化することができる。また、同様の操作で、上皮細胞、筋細胞、軟骨細胞への分化を促進することも可能である。
また、本発明に係る細胞シートの製造方法では、予め、細胞培養支持体を所望の形態に変形させてから、細胞を播種し培養してもよい。例えば、細胞培養支持体をチューブ状に成形し、培養液中に浮いた状態となるように培養装置内に配置し、これに細胞を播種して培養すれば、チューブ状のシートを得ることができる。
(細胞シート、細胞構造体)
本発明は、本発明に係る細胞シートの製造方法によって製造された細胞シートと、これを利用して製造される細胞構造体も包含する。
本発明に係る細胞シートは、細胞培養支持体を内包する。かかる細胞シートは、容器から剥離する工程を経ずに作製されるため、剥離によるダメージを受けず、また死細胞や劣化した細胞は製造過程で自動的に脱落するので、状態のよい細胞のみで形成されており、品質及び安全性が高い。また、保存性にも優れ、輸送もしやすい。
細胞培養支持体を生体適合性材料や生体分解性材料で形成すれば、そのまま移植に用いることもできる。
また、細胞シートは極性を持たないので、少なくとも1面に異種の細胞を播種して増幅させ、異種細胞の結合面を有する高次細胞構造体を製造することもできる。かかる構造体は、各種基礎研究及び再生医療に有用であり、例えば医薬品候補のスクリーニング等に用いることもできる。
また、本発明に係る細胞シートは、強度や柔軟性を自由に制御できるので、適当な強度及び柔軟性を有する細胞シートを作製し、これを変形させたり、積層させたりすることにより、所望の形状及び機能を有する細胞構造体を作製することもできる。一例として、細胞シートを丸めて血管様構造を作製することが挙げられる。
また、細胞シートを積層したり、細胞シート状で別の種類の細胞を培養したりすることもでき、かかるシートで細胞構造体を作製し、体内の組織や器官を模したモデルや病態モデルとすることも可能である。
また、上述のとおり、メッシュ構造に形状的異方性を持たせることにより、所望の配向性や秩序構造を有する細胞シートを作製することができる。かかる細胞シートは、例えば細胞配向性を有する心筋組織の再生等に応用することが可能である。
図8〜10に、細胞シートの応用例を示す。
図8は、2層に積層した平面状細胞シートをマイクロ流体デバイス600中に設置し、肺胞等の生体モデルを作製する例を示している。チェンバー601を備え、上下にマイクロチャネル602および603を備えたマイクロ流体デバイス600は、顕微鏡観察のできる透明な材料(例えばジメチルポリシロキサン(PDMS:Polydymethylsiloxane))により作製することができる。PDMSによるチェンバーの作製は一般的に知られる微細加工技術を用いることができる。具体的には光硬化樹脂SU−8より作製したモールドに十分に脱気したPDMS溶体を流し込み、120℃で15分加熱して固めてからモールドから剥離すればよい。
この方法で作った2つのPDMSを精密に合わせて接着剤でボンディングすることにより、上下にマイクロチャネルを有するPDMSチェンバー601を作製することができる。
ボンディングは細胞シート500が上下マイクロチャネルを仕切るように設置してから行った。
マイクロチャネル602および603は、例えば、奥行4mm〜8mm、チャネル高さ100μm〜200μm、そして長手方向の長さ2〜3cmとすることができる。
それぞれのマイクロチャネルに繋がるように管606を繋ぎ、市販の小型流体ポンプ607を用いてマイクロチャネル602に流体A、マイクロチャネル603に流体Bを充満させることができる。マイクロチャネル603への流体Bの供給は、例えば、ポンプ607を介して供給タンク605から行う。マイクロチャネル602への流体Aの供給も、同様にポンプを介して供給タンクから行うことができる(図中省略)。なお、流体Aおよび流体Bは同じであっても良く、異なってもよい。例えば、それぞれの流体に接する細胞に適した培地であっても良い。
図8に示すマイクロ流体デバイス600を、肺胞モデルとして利用する方法を説明する。
肺胞は胚の基礎ユニットであり、呼吸の際、酸素を血液に取り込み、逆に二酸化炭素を血液から排出する、重要な器官である。肺胞の構成は、血管の外側にあり空気に触れている肺上皮細胞と血管の内側にあり血液にさらされている血管内皮細胞からなる。
上記マイクロ流体デバイス600を用いた肺胞の生体モデルでは、マイクロチャネル602側に肺上皮細胞、マイクロチャネル603側に血管内皮細胞がくるように、それぞれの細胞で製造した2層細胞シート500を配置する。そして流体Aとして空気を用い、流体Bとして血管内皮細胞の培地(DMEMと10%血清)を用いる。流体Bの流速604を変化させることにより、血圧の変化を模すことができる。その際、空気に触れている上皮細胞の応答を、対物レンズ608を通して経時的顕微鏡観察を行うことにより評価する。細胞応答の評価指標には計測方法が一般的に知られる細胞内カルシウムイオン濃度変化を用いてもよい。
この肺胞モデルを用いれば、薬品検査を行うことも可能である。その場合、効果を調べたい薬品を例えばマイクロチャネル603の流体Bに異なる濃度で混合しておき、一定時間流体Bを流した後、それぞれの細胞への影響を顕微鏡観察により行う。同様に、マイクロチャネル602の空気にも目的の薬品を異なる濃度で混合して充満させ、一定時間作用させた後、細胞応答(細胞の形状や細胞の活動等)を計測することにより薬品効果を調べることができる。
以上のように細胞シートをマイクロ流体デバイスに組み込むことで簡単に生体モデルを作製でき、コストと手間のかかる動物実験を用いずに薬品検査や病気のメカニズムを調べることができる。
図9に、平面細胞シートを変形させて高次細胞シート構造体を作製する例を示す。SU−8でできた細胞培養支持体は薄膜でも強靭であり、かつ本発明に係る細胞シートは細胞同士の強い接着によってできているため、ピンセット等の道具を用いて丸めることができる。例えば、図9に示すように、異なる2種の細胞からなる2層細胞シートを丸めることにより、例えば血管のモデル700を作製できる。この場合は、メッシュ構造の細胞培養支持体にまず上皮細胞を播種して細胞シートを作製した後、その裏側または表側に血管内皮細胞を播種して2層目の細胞シートを作製する。
別の方法では、別の細胞培養支持体を用いてそれぞれの細胞の細胞シートをまず作製し、次に張り合わせて2層の細胞シートを作製しても良い。
次に、血管内皮細胞が内側に来るように2層の細胞シートを丸めることにより、外側に上皮細胞、内側に内皮細胞が存在し、内腔を有する血管モデルを作製できる。図9に示している血管モデルを、図8と同様のマイクロ流体デバイスに組み込み、流体を流して、血管に生じる様々な現象を模すことができる。
例えば、上皮細胞の周囲には培地を配置し、内皮細胞側の内腔に流体(培地)を流す。異なる流速で培地を流すことにより、血流(血圧)を模すことができるので、このような構成により、血圧の変化が血管細胞組織に及ぼす影響を調べることができる。上皮細胞側には、さらに他の細胞による層を形成してもよい。
図10には、別の細胞シート高次構造の作製方法を示す。この方法では、予め所望の形に変形した細胞培養構造体上に細胞を播種し、平面細胞シートの場合と同様に、細胞同士の伸展と連結により、変形された細胞培養支持体の表面上または内部に細胞シートを製造できる。
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
(細胞培養支持体の作製)
細胞培養支持体を、フォトリソグラフィ法を用いて作製した。まず、東京大学VDECの電子線描画装置を用い、電子線描画によりフォトマスクブランクに正方形のメッシュパターンを描いた。その後、4インチのシリコンウェハーの表面上に犠牲層となるゼラチンをスピンコーティングにより塗布した。続いて、ゼラチンの上に光硬化性樹脂SU−8を、厚みが2μmとなるようにスピンコーティングした。その後、65℃で1分、95℃で2分と段階的に加熱しソフトベークを行い、次に露光及び現像を行った。その後、メッシュパターンの周囲に厚み75μmのカプトンテープを貼って補強し(4)、次にウェハーを80℃の熱湯に浸してゼラチンを溶かし、ウェハー上に形成されたSU−8薄膜を回収し、細胞培養支持体を得た。
得られた細胞培養支持体の画像を図2に示す。
同様に三角形状、六角形状のメッシュ構造の細胞培養支持体も作製した。メッシュ領域は直径4mmの円とし、周囲を50μmのカプトンテープで補強した。
(細胞培養装置への細胞培養支持体の設置、及び細胞の播種)
細胞培養支持体は、まずフィブロネクチン溶液(濃度50〜100μg/mL)に1時間浸してコーティングした。
次に、図3Aに示すように、容器10に吊るし用基材101を設置した細胞培養装置を用意し、厚み50μmのカプトンテープ102で補強された細胞培養支持体100を、培養液11中に浮かせた状態でに設置した。
続いて、細胞培養支持体100の上に、矢印301の方向で、培養液11に予め懸濁した付着性細胞として、マウス胎児線維芽細胞(MEF)、ヒト胎児肺線維芽細胞(TIG120)、又はマウス胚性幹細胞(ES細胞)を載せるように播種した。
容器10には、一般的に用いられる培養ディッシュを用いた。細胞培養液には、Dulbecco's Modified Eagle Mediumに牛胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS)を10%加えたものを用いた。
細胞培養支持体100に細胞を播種した直後の概念図を図3Bに示す。
(細胞の培養、細胞シートの形成1)
細胞は37℃、5%CO2環境で培養した。
細胞21は、まず細胞培養支持体のフレーム部に付着するが、徐々に伸展し、細胞シートを形成した。形成された細胞シートの概念図を図4に示す。細胞培養支持体100のメッシュ間隔は、細胞21の最大径のおよそ3倍程度であるが、細胞はメッシュの開口部に自発的に伸展し、接触した細胞同士が連結して、細胞シート22を形成した。
図5に、MEF細胞が伸展して細胞培養支持体の開口部が埋められ、細胞シートが形成される様子を示す。図5の左側のパネルは細胞の播種から18時間40分後、右側のパネルは58時間20分後である。左側のパネルでは、メッシュの開口部が細胞で埋まっていなかったが、右側のパネルではかなりの開口部が細胞で埋まっていることが観察された。
図6に、三角形状のメッシュ構造の細胞培養支持体を用いて、TIG細胞を3日間培養して形成された細胞シートの明視野顕微鏡画像(A)と、固定染色画像(B)を示す。固定染色は一般的に知られる方法で行った。まず、formaldehyde(使用濃度4% in リン酸バッファー)を細胞シートを含む容器10に加え、常温で5分間安置した後、リン酸バッファーで3回洗浄した。次に、界面活性剤TritonX100(使用濃度1% in リン酸バッファー)を加え、10分間安置した後、リン酸バッファーで3回洗浄した。次に、非特異的染色防止のため1%BSA(牛胎児血清)により30分間ブロッキング処理を行い、アクチン細胞骨格構造の蛍光染色試薬であるAlexa488-Phalloidin(Invitrogen社)によりメーカー指定濃度で1時間染色を行った。その後、リン酸バッファーで3回洗浄し、顕微鏡観察を行い、明視野顕微鏡画像(A)および固定染色画像(B)を取得した。
細胞培養支持体100の開口部を細胞21が満遍なく伸展し、細胞シート22が形成された。図6Bでは、細胞核23とアクチン細胞骨格構造24が観察された。細胞核の局在から、細胞シートは略単層で均一に伸展した細胞群によって形成されていることがわかった。
また、細胞骨格構造が横方向に伸びている様子から、細胞シートには細胞の配向性があることが確認された。
図7に、マウスES細胞を培養ディッシュで培養した画像(A)と、細胞培養支持体で培養した画像(B)を示す。図7Aに示されるように、マウスES細胞は、培養ディッシュの底で培養すると細胞が重なり合ったコロニーを形成する傾向があるため、従来法では細胞シートを形成するのが困難であった。一方、本発明の細胞培養支持体を用いれば、ES細胞でも細胞シートが形成できることが確認された。多能性幹細胞で形成された細胞シートは、再生医療や研究用途に特に有用であると考えられる。
(細胞の培養、細胞シートの形成2)
上記「細胞の培養、細胞シートの形成1」に記載したとおり、図3Aの方法でES細胞を培養して細胞シートを作製することが可能である。但し、この工程では、ES細胞を播種してから130時間で細胞シートが形成されるが、できあがったシートを長期的に維持しようとすると、細胞分裂でできた余分な細胞が段々積もってくる。この様子を図11に示す。
そこで、余分な細胞を落として単層な細胞シートを得るための対策として、細胞培養支持体を垂直に置いた状態で細胞シートを作製した。結果を図12に示す。
また、より効果的に余分な細胞を落とす方法として、細胞培養支持体を垂直に置き、且つ、スターラーによって培養液を撹拌しながら細胞シートを作製した。この方法を実施した時の装置の様子を図13に示す。細胞播種後、45時間静置培養した後、7時間流れを付加し、再度15時間静置培養した後、6時間流れを付加した。スターラーの回転数は250rpmとした。
播種から45時間後と140時間後の様子を図14に示す。図14Aは、播種から45時間後の様子であり、図14B及びCは140時間後の様子である。図14B及びCに示されるとおり、細胞が積もった部分がなく,、一様で単層の細胞シートを得ることができた。
10…容器、11…培養液、21…細胞、22…細胞シート、23…細胞核、24…細胞骨格構造、100…細胞培養支持体、101…吊るし用基材、102…補強剤、600…マイクロ流体デバイス、700…血管モデル

Claims (8)

  1. 付着性細胞培養を行うための細胞培養支持体であって、平面状メッシュ構造を有し、前記メッシュ構造の開口部の最小径が当該付着性細胞の播種時の最大径の2〜10倍である付着性細胞培養支持体。
  2. 細胞シートを製造する方法であって、
    1)付着性細胞の培養を行うための細胞培養支持体であって、平面状メッシュ構造を有し、前記メッシュ構造の開口部の最小径が当該付着性細胞の播種時の最大径の2〜10倍である、細胞培養支持体上に付着性細胞を播種して培養する工程と、
    2)前記付着性細胞が前記開口部に伸展・連結することで細胞シートを形成する工程と、
    を含む、方法。
  3. メッシュ構造のフレーム部の幅が、付着性細胞の最大径の半分以下である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記細胞培養支持体が培養液中に浮かせた状態で保持される、請求項2又は3に記載の方法。
  5. 高次細胞構造体を製造する方法であって、
    1)付着性細胞の培養を行うための細胞培養支持体であって、平面状メッシュ構造を有し、前記メッシュ構造の開口部の最小径が当該付着性細胞の播種時の最大径の2〜10倍である、細胞培養支持体上に付着性細胞を播種して培養する工程と、
    2)前記付着性細胞が前記開口部に伸展・連結することで細胞シートを形成する工程と、
    3)2)の工程で得られた細胞シートを変形又は積層する工程と、
    を含む、方法。
  6. 細胞シートにおける細胞の配向性を制御する方法であって、
    1)付着性細胞の培養を行うための細胞培養支持体であって、平面状メッシュ構造を有し、前記メッシュ構造の開口部の最小径が当該付着性細胞の播種時の最大径の2〜10倍である、細胞培養支持体のメッシュ構造に、形状的異方性を持たせる工程と、
    2)1)で得られた細胞支持体上に付着性細胞を播種して培養する工程と、
    を含む、方法。
  7. 付着性細胞の培養方法であって、付着性細胞の培養を行うための1又は2以上の細胞培養支持体であって、平面状メッシュ構造を有し、前記メッシュ構造の開口部の最小径が当該付着性細胞の播種時の最大径の2〜10倍である、1又は複数の2以上の細胞培養支持体と、当該細胞支持体を培養液中に浮かせた状態で保持する部材を備えた細胞培養装置において、付着性細胞を前記細胞支持体上に播種して培養する工程を含む、方法。
  8. 前記付着性細胞を培養する工程において、繰り返し応力を印加することにより、付着性細胞の機能の強化及び/又は付着性細胞の分化の促進を行う、請求項7に記載の方法。
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