JP6472601B2 - 細胞排除性を発現する溝構造 - Google Patents

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Description

本発明は、細胞の接着、増殖、伸展・移動を抑制することによって、長期に渡って安定に細胞排除性を発現する、細胞チップ及び細胞培養基材などの表面に加工される溝構造に関するものである。基材上の平滑な細胞親和領域の周囲に、上記の単一あるいは複数列のV字溝構造からなる細胞排除領域を隣接して配置することによって、細胞パターニングや細胞を用いた組織形成などの細胞工学的あるいは医学的応用に資するものである。
DNAチップやプロテインチップに代表されるように、生体分子をチップ表面のμmスケールの微小領域に固定化し、ハイスループット解析する技術が近年開発され、頻繁に利用されている。さらに最近では、チップ上に細胞をアレイ状に配列した細胞チップも開発され、細胞レベルでの遺伝子、タンパク質のハイスループット機能解析が医療診断分野などへ応用され始めている。
細胞の機能評価をハイスループット解析するためには、他のバイオチップと同様にチップ表面へ細胞をアレイ状に接着させて培養する必要がある。これまでに、基材上の微小な部分にのみ細胞を選択的に接着させ、配列させる培養技術がいくつか報告されている。このようなヒトや動物由来の培養細胞の安定な配列制御技術が確立されたならば、センシング機能を有する細胞チップや生体有用物質生産のためのバイオリアクターなどに産業応用することが可能になるばかりでなく、iPS細胞などの幹細胞培養のための培養基材への適用によって、再生医療やハイブリッド型人工臓器などの先端医療分野への応用も期待される。
培養細胞を配列制御する方法としては、従来、細胞に対して接着の容易さが異なるような表面が同一平面上でパターンをなしているような基材を用い、この表面で細胞を培養し、細胞が接着するように加工した表面だけに細胞が接着することによって細胞を配列させる方法がとられている。
例えば、特許文献1では、細胞非接着性あるいは細胞接着性高分子をフォトリソグラフィ法によりマイクロパターニングした表面上への培養細胞の配列を試みている。細胞接着性高分子としては、コラーゲン、フィブロネクチンなどの細胞接着性蛋白質、細胞非接着性高分子としては、ポリビニルアルコールやポリエチレングリコールなどの電荷を持たない親水性高分子が代表的な物質である。
特許文献2では、細胞の接着率や形態に影響を与えるコラーゲンなどの物質がパターニングされた細胞培養用基材と、この基材をフォトリソグラフィ法によって作製する方法について開示している。このような基材の上で細胞を培養することによって、コラーゲンなどがパターニングされた表面により多くの細胞を接着させ、細胞のパターニングを実現している。
特許文献3では、ポリエポキシ化合物からなる架橋剤を用いて処理した架橋アルブミンを基板上に塗布することで細胞非接着性表面を作製し、その一部にコラーゲン、フィブロネクチンなどの細胞接着性の細胞外マトリックスをインクジェット印刷技術によって配置することで、細胞のマイクロパターニングを可能としている。
特許文献4では、基材上にコーティングしたゼラチン、コラーゲンに対して、イオンビームを照射することによって照射部位が細胞非接着性となることを特徴とする細胞接着制御材料が報告されている。
しかし、現在知られているこれらの細胞配列方法は、基板表面にタンパク質性の細胞接着因子等を固定したり、化学的方法によって表面を疎水化・親水化したりした培養基板を用いているために、表面の安定性や均一性の問題から、培養期間中に細胞接着性等が変化してしまうという本質的な問題があり、長期間の細胞の培養や、細胞の接着・非接着を完全に仕分けてパターンニングすることは困難であり、細胞パターンニング,生体内外での組織形成等への応用には大きな制限があった。さらに、特許文献4のようなイオン注入による接着性の改変には、大型で高価なイオン注入装置が必要という欠点も伴う。
これらの問題を解決するため、培養中に基板表面から脱離し易い細胞非接着性の化学物質を用いることなく、細胞パターンを長期間維持出来るように、安定で堅牢な細胞排除性を発現する表面の創製が求められてきた。
特公平7−51061号公報 特開平5−176753号公報 特開2012−187072公報 特開平7−108060号公報 特開2011−155865公報 特許第4934360号公報
本発明は、安定で堅牢な細胞排除性を発現する表面を細胞親和表面の周囲に隣接して配することによって、基礎及び臨床医学、インプラント、再生医療分野において必要性が高い長期間安定な高感度細胞チップや、安全性の高い細胞シートなどの作製を可能とすることを目的とする。
従来の細胞接着あるいは非接着領域のマイクロパターン作製方法においては、フォトマスク加工法やスタンプ法で細胞非接着性の化学物質が使用され、ポリエチレングリコール(PEG)などがもっぱら細胞非接着領域を形成するために使用され、PEG修飾領域とPEG非修飾領域をそれぞれ細胞非接着領域、細胞接着領域としてパターン形成を行うという技術であった。
しかしながら、このような基板表面の化学的性質を利用する従来の細胞配列方法は、表面の安定性や均一性の問題から、培養期間中に接着性等が変化してしまうという問題があり、長期間の細胞の培養や、細胞の接着・非接着を完全に仕分けてパターンニングすることは原理的に困難であり、細胞パターンニング、組織形成等への応用には大きな制限があった。この問題を解決するため、培養中に基板表面から脱離し易い細胞非接着性の化学物質を用いることなく、細胞パターンを長期間維持出来るような、安定で堅牢な細胞排除性表面の創製が強く求められている。化学物質を用いなければ、培養液に化学物質が脱離することもないために培養細胞への影響も少なく、細胞チップでは解析精度が高くなり、再生医療に用いた場合には、生体への安全性の向上を図ることができる。
本発明は、細胞培養基板において、単一あるいは複数列のV字溝構造からなる、安定で堅牢な細胞排除性を発現する表面を細胞親和表面の周囲に隣接して配することによって、上記課題を解決するものである。
本発明者らは、従来の細胞非接着性の化学物質を用いた細胞培養方法による問題点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、基板表面に形成した細胞スケールの幾何構造(V字溝構造) に培養細胞が反応し、このV字溝構造の夾角と溝底面の曲率半径を適切に調整することによって、懸濁状態で播種された細胞のV字溝構造部分への初期接着が顕著に抑制され、さらに、V字溝構造部分に接着した小数の細胞は溝構造内の微小空間に閉じ込められることによって平面上とは異なった細胞形態に変化し、その結果として細胞増殖、伸展が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、細胞チップ、インプラント、再生医療に使用される細胞を培養する基板において、基板表面の細胞親和領域の周囲に隣接して適切な形状と寸法を有したV字溝構造からなる細胞排除性表面を配置することによって、基板上に播種された細胞の接着、増殖、伸展・移動などの動態を、従来用いられていたような細胞排除性の化学物質を用いることなくコントロール可能な培養基板を提供する。
本発明によるV字溝構造を設けた細胞培養基板の概念図を、図1に示す。本発明の基板は、細胞の接着、増殖、伸展・移動が阻害を受けない平滑な表面からなる細胞親和領域(図のB領域)と、その周囲に隣接して設けられる、細胞の接着、増殖、伸展・移動が阻害されるV字溝構造が加工された細胞排除領域(図のA, An-1, An領域)を構成単位とする。
細胞の移動性に応じてV字溝構造を複数列にする(右上図)ことによって、細胞接着性平面間の細胞移動の抑制を単一の列より高めることも可能である。
さらに、細胞接着性平面を凸の島構造から凹の穴構造にする(右下図)ことによって、細胞の移動性は一層抑制されることになる。
本発明に用いられるV字溝構造は、培養液等に懸濁した球状の細胞が完全に入る深さと幅を有し、かつ溝壁面がなす夾角が53度以下となる、V字形状の溝であることを特徴とする。
溝がこのような深さと幅を有することにより、細胞が当該溝をまたいで、基板表面上で直接増殖することを防ぐことができ、また、溝壁面がこのような夾角を有することにより、溝に入った細胞が、細胞親和領域とは異なる、溝壁面に挟まれた狭い空間に置かれることにより、当該細胞の正常な成長・増殖を妨げることができる。
このような観点から、本発明の溝構造は、溝底面の曲率半径が20μm以下で、細胞の曲率半径より小さいことが好ましい。
また、このような観点から、本発明のV字溝の幅は、細胞がV字溝内にすっかり収まる大きさであり、たとえば、通常本発明の用途に用いられる5〜100μm程度の大きさを有するヒト、動物由来の真核細胞などのうち、5μm程度の大きさの細胞については15μm程度以上であることが好ましい。
そして、本発明は、上記手段を使用して細胞の動態をコントロールすることにより、細胞チップ、インプラント、再生医療分野において必要とされる細胞のパターンニング、ネットワーク化、 組織構築等を可能とするものである。
なお、基板材料としては、ガラスや結晶、 金属、 樹脂など、通常の細胞チップ、インプラント、再生医療用材料に用いられる種々の材料の基板を用いることができる。また、これら基板表面へのV字溝構造の加工方法としては、切削、集束イオンビーム、サンドブラスティング、射出成形、コンタクトインプリント、リソグラフィーなどの、基板の材質にあった既知の任意の方法を選択することが可能である。
細胞培養基板に幾何学的構造を設ける技術は、本発明以前にも、いくつか知られている。
たとえば、特許文献5では、本発明と同様に、細胞の移動、接着を阻害するための阻害領域として、リソグラフィー法で作製された複数の多角柱形状の構造物を設けることが記載されている。構造物の頂上面の一辺の長さは、3μm以上20μm以下で、構造物の間隔は0.5μm以上1.5μm以下を特徴としている。
特許文献5では、上記構造物の間隔を細胞の大きさよりも小さくすることにより、細胞が当該構造物に接着し、また、当該構造物の領域を越えて移動することを阻害している。
また、特許文献6では、天面を有する凸部と該凸部間に形成される凹部からなる、細胞シートを形成するための環境応答性ポリマーから構成される細胞支持体が報告されている。当該支持体は、当該凹部の開口部の幅を培養される細胞が潜入できない寸法の0.1〜10μmにすることによって、当該凹部をまたいで成長・増殖する細胞シートに対し、当該凹部を細胞非接着性とすることにより、得られた細胞シートを支持体からはがしやすくするものである。
これに対し、本発明は、細胞が潜入可能な幅を有するV字溝を設けることにより、細胞が当該V字溝をまたいで直接増殖することが防げるとともに、当該V字溝に潜入した細胞は正常な増殖が妨げられ、当該V字溝に沿った増殖も妨げられることを見出したものであり、特許文献5の方法よりも、より簡略な、作製も容易な構造により、細胞の接着、増殖、伸展・移動の阻害を実現するものである。
すなわち、本出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉細胞の接着、増殖、伸展・移動を阻害するV字形状の溝であって、培養液等に懸濁された球状の細胞が完全に入る深さと幅を有し、かつ溝壁面の夾角が53度以下となることを特徴とする細胞排除性溝構造。
〈2〉溝底面の曲率半径が20μm以下である、〈1〉に記載の細胞排除性溝構造。
〈3〉〈1〉または〈2〉に記載の細胞排除性溝構造が形成された、細胞培養基板。
〈4〉細胞排除性溝構造が細胞親和領域の周囲に形成された、〈3〉に記載の細胞培養基板。
〈5〉細胞排除性溝構造が単数の列、あるいは複数の列設けられた、〈3〉または〈4〉に記載の細胞培養基板。
〈6〉細胞親和領域が平滑な平面であることを特徴とする、〈3〉〜〈5〉のいずれかに記載の細胞培養基板。
〈7〉細胞親和領域が細胞接着性のタンパク質によって表面修飾されていることを特徴とする、〈3〉〜〈6〉のいずれかに記載の細胞培養基板。
〈8〉細胞培養基板が、細胞チップ、インプラント材料、細胞シート培養用基板として用いられることを特徴とする、〈3〉〜〈7〉のいずれかに記載の細胞培養基板。
〈9〉切削、集束イオンビーム、サンドブラスティング、射出成形、コンタクトインプリント、リソグラフィーのいずれかにより溝を加工することを特徴とする、〈1〉または〈2〉に記載の細胞排除性溝構造の製造方法。
本発明によれば、V字溝加工が施されていない平面の細胞親和領域(島構造あるいは穴構造)では細胞が正常に接着、増殖、分化する。一方、V字溝加工が施された細胞排除領域では、微小なV字空間によって細胞の接着、増殖、伸展・移動が顕著に抑制される。その結果、基板の表面上で、細胞の接着領域と非接着領域を明確に分けることができる。
周囲にV字溝加工が施された細胞排除領域を配した細胞親和領域をパターン化して配置させることにより、自在に細胞接着パターンを基板上に設定できる。これにより、細胞チップ、インプラント、再生医療分野において必要とされる細胞のパターンニング、ネットワーク化、 組織構築等が可能となる。
本発明を適用した細胞チップにおいては解析だけでなく、細胞親和領域の別々に異なった細胞接着性物質に薬剤や遺伝子を混入することで、それぞれ独立して互いに混じり合うことのない導入エリアを設定することができるため、所望のクローン細胞が得やすくなる。よって、様々な細胞表現型(細胞運動・分化・細胞死・細胞増殖など) に基づく薬剤や遺伝子のスクリーニングや評価が可能となる。
本発明の方法によれば、従来のフォトマスク加工やスタンプ法と比べて簡便かつ低コストで細胞の接着領域のマイクロパターンを形成することができるため、培養基板のマイクロアレイ化ができ、これを用いて薬剤や遺伝子の評価を迅速、簡便、安価に行える。このように、本発明により、新たな医薬品開発や遺伝子解析ツール、再生医療用培養基材が提供される。
以上のように本発明の培養基板は、局所的な細胞の接着、増殖、伸展・移動などの動態を確実にコントロールでき、また基板材料を直接表面加工して形成したV字溝構造、即ち調整された形状及び幅と深さといった、物理的構造によりこのようなコントロールを行うものであるため、化学物質を用いた場合のような表面からの脱離や変性がなく、細胞排除性部位における細胞排除性は培養期間中維持され、長期間の生体細胞の培養や、パターンニングなどを容易に実現できるので、生体細胞ネットワーク形成, 組織形成等が可能である。また、本発明の培養基板は、化学物質を用いた場合のように化学物質の作用が細胞に及ぶことがないため、細胞チップとして用いた場合、被検試料の正確なチップ解析が可能となり、インプラント、再生医療用材料として用いた場合にも、化学物質のコンタミネーションが無く、より安全な治療を可能とするなどのメリットがある。
本発明による溝構造の概念図。 サンドブラスト加工によって、表面にV字溝加工を施したガラス基板(A-1:電子顕微鏡による鳥瞰像、A-2:共焦点レーザー顕微鏡による断面像)とU字溝加工したガラス基板(B-1:電子顕微鏡による鳥瞰像、B-2:共焦点レーザー顕微鏡による断面像)。 播種後1日目の接着した細胞の核の染色像(A-1,B-1:細胞親和領域、A-2, B-2:V字溝、U字溝)。白やじり:DAPI染色細胞核。 播種後14日目の増殖した細胞の核の染色像(A-1,B-1:細胞親和領域、A-2, B-2:V字溝、U字溝)。白やじり:DAPI染色細胞核。 播種後14日目の分化した細胞のアルカリフォスファターゼの染色像(A-1,B-1:細胞親和領域、A-2, B-2:V字溝、U字溝)。白やじり:アルカリフォスファターゼ陽性細胞、黒やじり:ヘマトキシリン染色細胞。
本発明は、基板において細胞の固定領域及び排除領域を制御するという目的を、簡便で、しかも精度も高い、優れた基板の表面幾何構造によって、細胞、基板の種類等に左右されないで実現した。ここで用いられる基板としては、平滑な表面をもつ固体材料であれば種類を問わない。例えば、細胞チップ、インプラント、再生医療用材料などの使用目的に応じて、ガラス、石英、プラスチックなどが挙げられるが、それらに限定されない。また、その表面形状としては、幾何構造を加工する方法に応じ、平面状あるいは曲面状表面のいずれでもよく、平板に限定されることはない。
本発明における対象となる「細胞」としては、典型的には付着性の株化あるいは癌細胞、哺乳動物の正常あるいはガン組織から分離された初代細胞、または、ES細胞やiPS細胞など人工的に操作された細胞などを含む。基板付着性を示さない血液細胞などの浮遊性の細胞は、その性質ゆえに本発明の対象からは除外される。
本発明において基板上に細胞を配置するプロセスとは、所望の配列パターンに基づいて、特定の細胞を接着させる工程を意味する。すなわち、複数の細胞のスポットを一定の領域内に整列させて固定化した細胞チップの作製、iPS細胞などの幹細胞からの増殖・分化誘導した再生組織の生体外での形成、あるいは生体内に埋入されたインプラント上での特定細胞の生着などが含まれる。設計したパターン上への細胞の配置が成功するには、細胞親和領域への細胞の接着だけでなく、それ以外の領域への細胞接着、増殖、伸展・移動が抑制されてはじめて可能となる。
細胞親和領域への細胞接着を確実とするためには、コラーゲン、フィブロネクチンなどの細胞接着性蛋白質などの表面コーティングが有効である。
さらに、これらの細胞外マトリックスは、DNAやRNAなどの核酸物質を混ぜることにより、細胞親和領域において培養された細胞への、細胞接着面を介する遺伝子導入に利用することができる。
細胞親和領域への細胞播種は、基板表面全体に細胞含有液を接触させたり、あるいは細胞含有液をインジェクタ等によって細胞親和領域へピンポイントで播種したりする従来技術の適応が可能である。
現在問題となっているのは、化学物質を用いた細胞排除面は経時的に不安定であり、短期間で細胞排除能が弱まり、細胞パターンが失われることである。本発明は、基板表面に構築された幾何構造に細胞排除能を持たせることによって、細胞の初期接着の抑制だけでなく、その後の増殖、移動の抑制にも有効であるため、長い期間にわたって細胞パターンが維持され、細胞チップ解析の精度向上、インプラントの生体適合性の向上、再生医療における幹細胞工学の高度化におおいに有効である。
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
マウス由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1細胞)の細胞接着、増殖、分化に対する表面粗さの影響に関する我々の研究結果から、基板表面のμmオーダーの幾何構造によって細胞増殖と分化を制御できると考えた。この考えに基づいて、基材表面に作製された幾何構造の形状と寸法がどのように細胞接着、増殖、伸展・移動に影響するかを調べる目的で、スライドガラス表面上に、サンドブラスト法で、幅50, 100, 150及び300μm、深さ100μmの4種類の溝を形成し、当該溝で周囲を囲まれた細胞接着領域の島構造を作製した。図2 A-1及びB-1に示すように、250μm四方の島構造がアレイ状に作製された。
溝深さが100μmで溝幅が300μm(アスペクト比=溝深さ÷溝幅=0.33)でサンドブラスト加工した場合、図2 B-2に示されるように溝の断面はU字形状で溝底面の曲率半径は206μmであった。溝深さが100μmで溝幅が150μm(アスペクト比=0.67)で加工した場合も、U字形状で曲率半径は51μmであった。一方、溝深さが100μmで溝幅が50μm(アスペクト比=2)で加工した場合、図2 A-2に示されるように、溝の形状は夾角=28度のV字形状になった。底面の曲率半径は8.5μmであった。溝深さが100μmで溝幅が100μm(アスペクト比=1)で加工した場合でも、夾角=53度のV字形状となった。この場合の、底面の曲率半径は16.2μmであった。
以下の細胞培養実験では、アスペクト比=2(V字溝)とアスペクト比=0.33(U字溝)の2種類の基板を用いて、細胞応答(細胞接着、増殖、分化)への溝の形状の影響を検討した。
実施例2
実施例1で作製したV字とU字の2種類の溝形状が形成された基板上へのMC3T3-E1細胞の初期接着性を調べた。
細胞を培養液alpha-Minimum Essential Medium(α-MEM)に懸濁した状態で基板に播種した。培養1日目に、核染色試薬のDAPI(6-diamidino-2-phenylindole dihydrochloride)を用いて、基板に接着した細胞の核染色を行い、接着細胞の分布を調べた。
図3 A-1及びB-1に、溝形状により周囲を囲まれた島構造の表面に焦点を合わせた顕微鏡写真像を示す。写真像中の微細な点が染色された細胞核である。V字溝で周囲を囲われた細胞接着領域の島構造(A-1)とU字溝で周囲を囲われた細胞接着領域の島構造(B-1)の上には、細胞が同じように接着していることが示される。
一方、溝部分に焦点を合わせ、溝部分の付着細胞を観察した図3 A-2及びB-2によれば、アスペクト比=0.33でU字溝構造の場合(B-2)、かなり多くの細胞が溝部分に初期接着しているが、アスペクト比=2でV字溝構造の場合(A-2)は、溝構造部分にはほとんど細胞が初期接着していないことがわかる。
これらの結果より、細胞懸濁液として播種した細胞はV字溝へはほとんど接着しないため、細胞接着領域の周囲にV字溝を配置することは、基板上に所望の細胞パターンを形成するのに都合が良いことが明らかになった。V字溝へ細胞が接着しにくい理由の一つとして、底に向かって狭くなる構造のため、V字溝を満たしている培養液と後から添加される細胞懸濁液の混合が起こりにくく、V字溝への細胞の接近が妨げられることが考えられる。
実施例3
細胞播種後1日目に形成された初期接着パターンが、その後発達・維持されているか調べるため、培養14日目にDAPIを用いて細胞の核染色を行い、基板上での細胞分布を調べた。
図4に示すように、V字溝で周囲を囲われた細胞親和領域の島構造(A-1)とU字溝 で周囲を囲われた細胞親和領域の島構造(B-1)上の細胞、さらにアスペクト比=0.33のU字溝部分(B-2)の細胞においては、核が染色されており、円形であることから細胞は正常であることが認められた。しかしながら、アスペクト比=2のV字溝部分(A-2)の細胞については、細胞質全体がDAPIによって染色され、「健康な」核がほとんどない細胞壊死の状態であることが観察された。
これらの結果から、狭いV字溝の空間に押し込められた細胞は、V字溝壁面から細胞膜に不均一な応力がかかることによって細胞が壊死し易く、一方、細胞親和領域の細胞は平面上で増殖することによって、初期接着パターンが培養経過とともに発達し、少なくとも14日間細胞パターンが維持されることが示された。
実施例4
細胞播種後7日目に、増殖用培地のα-MEMから分化因子が添加された分化培地に変更することによって、基板上のMC3T3-E1細胞は分化が進行し、アルカリフォスファターゼ(ALP)、オステオカルシン、副甲状腺ホルモンレセプターのような骨芽細胞の分化マーカー蛋白質を発現するようになる。14日目の基板上のMC3T3-E1細胞の分化の程度をALP陽性細胞染色によって調べた。
図5に示すように、V字溝で周囲を囲われた細胞親和領域の島構造(A-1)とU字溝で周囲を囲われた細胞親和領域の島構造(B-1)上の細胞はALP陽性を示し、骨分化が進んでいることが示された。
一方、アスペクト比=2のV字溝部分(A-2)の細胞はヘマトキシリン染色されず、細胞壊死の状態であることが解った。アスペクト比=0.33のU字溝部分(B-2)の細胞はヘマトキシリン染色され、分化の程度は低いものの、細胞機能を保っていることが解った。
これらの結果から、V字溝で周囲を囲われた細胞親和領域の島構造上の細胞は、正常に増殖し、分化する能力を保っていることが示された。
本発明の細胞親和領域とV字溝構造の細胞排除領域を配置した細胞基板は、V字溝構造により長期間、安定に細胞排除性を発現させることができ、これにより長期間安定な細胞パターンを形成することができるため、新しい細胞チップを作製するための有望なプラットフォームとなり、基礎及び応用生物学に適用可能である。更に、この細胞基板技術は細胞チップばかりでなく、インプラント材料表面、再生医療用細胞シート作製のための培養基板としても応用可能な技術であり、非毒性及び非汚染性のために生体外・生体内にある細胞と接触する様々なバイオ医学の装置製造にも応用可能である。

Claims (8)

  1. 細胞の接着、増殖、伸展・移動を阻害するV字形状の溝であって、培養液等に懸濁された球状の細胞が完全に入る深さと幅を有し、当該幅は15〜100μmであり、かつ溝壁面の夾角が53度以下となることを特徴とする細胞排除性溝構造が形成された、細胞培養基板。
  2. 細胞排除性溝構造の溝底面の曲率半径が20μm以下である、請求項1に記載の細胞培養基板。
  3. 細胞排除性溝構造が細胞親和領域の周囲に形成された、請求項1または2に記載の細胞培養基板。
  4. 細胞排除性溝構造が単数の列、あるいは複数の列設けられた、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞培養基板。
  5. 細胞親和領域が平滑な平面であることを特徴とする、請求項またはに記載の細胞培養基板。
  6. 細胞親和領域が細胞接着性のタンパク質によって表面修飾されていることを特徴とする、請求項のいずれか一項に記載の細胞培養基板。
  7. 細胞培養基板が、細胞チップ、インプラント材料、または、細胞シート培養用基板として用いられることを特徴とする、請求項のいずれか一項に記載の細胞培養基板。
  8. 切削、集束イオンビーム、サンドブラスティング、射出成形、コンタクトインプリント、リソグラフィーのいずれかにより細胞排除性溝構造の溝を加工することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の細胞培養基板の製造方法。
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