本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。
<1. 細胞培養容器>
本発明は、少なくとも1個の細胞培養基材と、該少なくとも1個の細胞培養基材が内部に配置された細胞培養容器とを有する、細胞培養器具に関する。本発明の細胞培養器具において、少なくとも1個の細胞培養基材は、複数の孔を有する第1の膜と複数の孔を有する第2の膜とを有する。
当該技術分野において、細胞培養用ディッシュ又はマルチウェルプレートのウェル等の細胞培養容器の内部に挿入して使用される小型の細胞培養基材又は細胞培養容器は、セルカルチャーインサート等の名称で知られている。セルカルチャーインサートを有する従来技術の細胞培養器具と、本発明の細胞培養器具とを図1に示す。図1Aに示すように、セルカルチャーインサートを有する従来技術の細胞培養器具は、セルカルチャーインサートとして使用される細胞培養基材と、該細胞培養基材が内部に配置された細胞培養容器とを有する。細胞培養基材は、複数の孔を有する膜を有する。セルカルチャーインサートの形状である細胞培養基材は、通常は複数の孔を有する膜が底面に配置されており、底面の内表面、すなわち該膜の内表面が細胞培養面として使用される。複数の孔を有する膜の孔は、栄養成分等の物質は透過するが細胞又は細胞残渣は通過できない孔径を有する。これにより、前記膜は、共培養における分離障壁として機能し得る。
前記構成を有する従来技術の細胞培養器具を用いる細胞の培養方法の概要を図3に示す。図3Aに示すように、従来技術の細胞培養器具は、例えば特許文献1に記載の方法のように、セルカルチャーインサートのような形状である細胞培養基材の底面の内表面上において対象細胞7を培養し、外側の細胞培養容器の底面の内表面上においてフィーダー細胞8を培養することによって使用される。前記形状である細胞培養基材は、複数の孔を有する膜が底面に配置されており、該膜の内表面が細胞培養面として使用される。フィーダー細胞8由来の栄養及びサイトカイン等の成分は、前記膜の孔を介して、細胞培養面である該膜の内表面上において培養されている対象細胞7に供給される。他方、フィーダー細胞8又はその細胞残渣9は、細胞培養基材の膜の孔を通過することはできないものの、該膜の外表面に付着する可能性がある(図3B)。培養終了後、細胞培養基材を外側の細胞培養容器の内部から取り出すことによって対象細胞7を回収する。ここで、細胞培養基材から、細胞培養面として使用された複数の孔を有する膜を取り外すことで対象細胞7を回収する場合、該膜の外表面に付着したフィーダー細胞8又はその細胞残渣9が対象細胞7に混入する可能性がある(図3C)。このように、従来技術の細胞培養器具を用いる細胞の培養方法において、複数の孔を有する膜の外表面に付着したフィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入する場合、それによって対象細胞の生化学的評価の結果に影響が出る可能性が存在した。或いは、フィーダー細胞が異種由来の細胞であった場合、結果として得られる細胞の安全性が損なわれる可能性が存在した。
これに対し、図1Bに示すように、本発明の細胞培養器具100は、複数の孔を有する第1の膜1と複数の孔を有する第2の膜2とを有する、少なくとも1個の細胞培養基材3と、該少なくとも1個の細胞培養基材3が内部に配置された細胞培養容器4とを有する。少なくとも1個の細胞培養基材3において、第2の膜2は、細胞培養基材3の細胞培養に使用される側に、第1の膜1は、第2の膜2に対して細胞培養に使用される側とは反対側に、それぞれ配置されている。また、第1の膜1の複数の孔の孔径は、第2の膜2の複数の孔の孔径以下である。
本発明の細胞培養器具を用いる細胞の培養方法の概要を図4に示す。図4Aに示すように、本発明の細胞培養器具100は、少なくとも1個の細胞培養基材3の細胞培養に使用される側の表面において対象細胞7を培養し、細胞培養容器4の底面の内表面上においてフィーダー細胞8を培養することによって使用される。図4Aに示す実施形態の場合、本発明の細胞培養器具100において、第2の膜2は、少なくとも1個の細胞培養基材3の底面の細胞培養に使用される側に配置されており、第2の膜2の内表面が細胞培養面として使用される。従来技術の細胞培養器具と同様に、細胞培養容器4で培養されているフィーダー細胞8由来の栄養及びサイトカイン等の成分は、第2の膜2の複数の孔を介して、細胞培養基材3の細胞培養面において培養されている対象細胞7に供給される。他方、フィーダー細胞8又はその細胞残渣9は、細胞培養基材3において細胞培養に使用される側とは反対側に配置されている第1の膜1の複数の孔を通過することはできないものの、第1の膜1の外表面に付着する可能性がある(図4B)。培養終了後、細胞培養基材3を細胞培養容器4の内部から取り出すことによって対象細胞7を回収する。ここで、対象細胞7と、フィーダー細胞8又はその細胞残渣9が付着した第1の膜1とを分離することにより、フィーダー細胞8又はその細胞残渣9が実質的に混入していない対象細胞7を簡単に得ることができる(図4C)。このように、フィーダー細胞を用いる共培養において本発明の細胞培養器具を使用することにより、対象細胞に対する生育促進効果を阻害することなく、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止することができる。
本発明において、第1の膜及び第2の膜の複数の「孔」は、第1の膜及び第2の膜をそれぞれ貫通するように形成された開気孔を意味する。前記孔は、分岐構造及び/又は連結構造を有していてもよい。第1の膜及び第2の膜の複数の孔において、開孔部の形状は、特に限定されない。開孔部の形状は、円形(例えば真円形若しくは楕円形)、並びに三角形、四角形(例えば長方形若しくは正方形)、五角形若しくは六角形等の多角形からなる群より選択される形状であることが好ましい。なお、第1の膜及び第2の膜における複数の孔の開孔部の形状は、限定するものではないが、例えば、走査型電子顕微鏡等の手段によって開孔部の形状を観察することにより、決定することができる。
第1の膜において、複数の孔は、該膜の一方の面における孔の開孔部の外縁によって画定される図形の面積の合計が、該一方の面の総表面積に対して、通常は、0.1〜30%の範囲であり、典型的には、1〜10%の範囲である。また、第2の膜において、複数の孔は、該膜の一方の面における孔の開孔部の外縁によって画定される図形の面積の合計が、該一方の面の総表面積に対して、通常は、0.1〜30%の範囲であり、典型的には、1〜10%の範囲である。なお、第1の膜1及び第2の膜2における複数の孔の開孔部の外縁によって画定される図形の面積は、限定するものではないが、例えば、走査型電子顕微鏡等の手段によって該図形の面積を測定することにより、決定することができる。
第1の膜において、複数の孔の孔径は、フィーダー細胞又はその細胞残渣が通過できない範囲となるように選択される。すなわち、第1の膜において、複数の孔の孔径は、通常は、フィーダー細胞として使用される細胞又はその細胞残渣の最小直径以下である。第1の膜において、複数の孔の孔径は、10 μm以下であることが好ましく、5 μm以下であることがより好ましい。第1の膜の孔径は、0.1〜10 μmの範囲であることが好ましく、0.1〜5 μmの範囲であることがより好ましい。本明細書において、「細胞残渣」は、細胞培養の過程で生じ得る、死細胞自体又はその一部分を意味する。本明細書において、「細胞又はその細胞残渣の最小直径」は、細胞又はその細胞残渣を平面上に投影した最小面積の図形を内部に含む最小の円の直径を意味する。また、本明細書において、「孔径」は、孔の外縁部によって形成される図形を内部に含む最小の円の直径を意味する。第1の膜において、孔が複数個存在する場合、前記及び下記孔径の定義は、特に断らない限り複数個の孔の孔径の平均値を意味する。第1の膜の孔径が前記上限値以下である場合、細胞培養容器の内部で培養されるフィーダー細胞又はその細胞残渣は第1の膜の孔を通過することができない。これにより、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止することができる。また、第1の膜の孔径が前記下限値以上である場合、フィーダー細胞由来の栄養及びサイトカイン等の成分の移動を実質的に阻害することなく、対象細胞を培養することができる。
第2の膜において、複数の孔の孔径は、通常は、対象細胞の最小直径以下である。第2の膜において、複数の孔の孔径は、12 μm以下であることが好ましく、8 μm以下であることがより好ましい。第2の膜の孔の孔径は、0.1〜12 μmの範囲であることが好ましく、0.1〜10 μmの範囲であることがより好ましく、0.1〜8 μmの範囲であることがさらに好ましく、0.1〜6 μmの範囲であることが特に好ましい。第2の膜において、孔が複数個存在する場合、前記及び下記孔径の定義は、特に断らない限り複数個の孔の孔径の平均値を意味する。本発明の細胞培養器具において、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止する効果は、第1の膜における複数の孔を所定の孔径とすることによって達成される。このため、第2の膜における複数の孔の孔径の上限値は、対象細胞が該孔に進入しない範囲で適宜設定することができる。第2の膜の孔径が前記上限値以下である場合、対象細胞が該孔に進入することを実質的に防止することができる。また、第2の膜の孔径が前記下限値以上である場合、フィーダー細胞由来の栄養及びサイトカイン等の成分の移動を実質的に阻害することなく、対象細胞を培養することができる。
本発明の細胞培養器具において、第1の膜の複数の孔の孔径と第2の膜の複数の孔の孔径との差は、第2の膜の複数の孔の孔径に対して10%以内であることが好ましく、5%以内であることがより好ましい。この場合、第1の膜の複数の孔の孔径は、第2の膜の複数の孔の孔径と実質的に同一となる。第1の膜の複数の孔の孔径及び第2の膜の複数の孔の孔径が前記範囲の場合、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止しつつ、フィーダー細胞由来の栄養及びサイトカイン等の成分を対象細胞へ効率的に送達することができる。
なお、第1の膜及び第2の膜における複数の孔の孔径は、限定するものではないが、例えば、走査型電子顕微鏡又は細孔分布測定装置等の手段によって該孔径を測定することにより、決定することができる。
第1の膜及び第2の膜の厚さは、特に限定されないが、通常は、3〜50 μmの範囲であり、典型的には、5〜20 μmの範囲である。第1の膜及び第2の膜の厚さは、同一でもよく、異なっていてもよい。なお、第1の膜及び第2の膜の厚さは、限定するものではないが、例えば、断面サンプルを用いた走査型電子顕微鏡等の手段によって該膜の厚さを測定することにより、決定することができる。
第1の膜及び第2の膜の形状は、特に限定されない。第1の膜及び第2の膜の形状は、膜状だけでなく、所定の厚さを有する板状、フィルム状又はメッシュ状等の各種形状から適宜選択することができる。
第1の膜及び/又は第2の膜は、細胞培養基材に対して取り外し可能に取り付けられていることが好ましい。取り外し可能な態様で第1の膜及び/又は第2の膜と細胞培養基材とが接合されていることにより、第1の膜及び第2の膜の取り付け時には、細胞培養基材との接合状態を維持することができる。また、第1の膜及び/又は第2の膜の取り外し時には、特別な器具を使用することなく簡単に第1の膜及び/又は第2の膜を取り外すことができる。前記特徴を有する場合、対象細胞の培養終了後、第1の膜を細胞培養基材から取り外すことにより、第1の膜の外表面に付着したフィーダー細胞又はその細胞残渣を対象細胞から容易に分離することができる。また、第2の膜の表面を細胞培養面として使用する実施形態の場合、第2の膜を細胞培養基材から取り外すことにより、対象細胞を容易に回収することができる。
細胞培養基材において、第2の膜の表面が細胞培養面として使用されることが好ましい。フィーダー細胞由来の栄養及びサイトカイン等の成分は、第2の膜の複数の孔を介して細胞培養基材の細胞培養面に供給されるため、本実施形態の場合、該成分を対象細胞へ効率的に送達することができる。また、本実施形態の場合、さらに第2の膜が細胞培養基材に対して取り外し可能に取り付けられていることにより、第2の膜を細胞培養基材から取り外すことによって、対象細胞を容易に回収することができる。
細胞培養基材の形状は、特に限定されない。細胞培養基材の形状は、膜状、板状、容器状又はフィルム状等の当該技術分野において通常使用される、細胞培養面を有する細胞培養基材の各種形状から適宜選択することができる。本発明の細胞培養器具においては、フィーダー細胞と対象細胞とを分離して共培養することから、細胞培養基材は、対象細胞を内部で培養し得る形状であることが好ましく、セルカルチャーインサート型の形状であることがより好ましい。前記形状である細胞培養基材は、通常は、側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する。この場合、細胞培養基材は、所望により、天部開口を閉じる蓋部をさらに有してもよい。特に好ましくは、細胞培養基材は、円柱状、円錐台状又は逆円錐台状であるセルカルチャーインサート型の形状である。細胞培養基材が前記特徴を備える形状である場合、細胞培養用ディッシュ又はマルチウェルプレートのウェル等の形状である細胞培養容器の内部に挿入して使用することにより、フィーダー細胞と対象細胞とを分離して共培養することができる。
細胞培養基材が、側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する形状である実施形態の場合、第2の膜は、細胞培養基材の底面の内表面の少なくとも一部、若しくは側壁面の内表面の少なくとも一部、又はそれらの部分の組み合わせに配置されていることが好ましく、細胞培養基材の底面の内表面の少なくとも一部に配置されているか、又は側壁面の内表面の少なくとも一部に配置されていることがより好ましい。第2の膜が、細胞培養基材の底面の内表面の少なくとも一部に配置されている場合、第2の膜の表面を細胞培養面として使用することができる。これにより、フィーダー細胞由来の栄養及びサイトカイン等の成分を対象細胞へ効率的に送達することができる。
細胞培養基材が側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する形状である実施形態の場合、第1の膜は、細胞培養基材の側壁面及び底面の外表面を包囲するように配置されているか、或いは細胞培養基材の底面の外表面の少なくとも一部、若しくは側壁面の外表面の少なくとも一部、又はそれらの部分の組み合わせに配置されていることが好ましく、細胞培養基材の側壁面及び底面の外表面を包囲するように配置されているか、細胞培養基材の底面の外表面の少なくとも一部に配置されているか、又は側壁面の外表面の少なくとも一部に配置されていることがより好ましい。第1の膜が、細胞培養基材の側壁面及び底面の外表面を包囲するように配置されている場合、フィーダー細胞又はその細胞残渣が細胞培養基材の側壁面及び底面の外表面に付着することを実質的に防止することができる。
細胞培養基材が側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する形状である実施形態の場合、第1の膜が細胞培養基材の底面の外表面の少なくとも一部に配置されており、且つ第2の膜が細胞培養基材の底面の内表面の少なくとも一部に配置されているか、又は第1の膜が細胞培養基材の側壁面の外表面の少なくとも一部に配置されており、且つ第2の膜が細胞培養基材の側壁面の内表面の少なくとも一部に配置されていることが好ましい。この場合、第1の膜及び第2の膜は、細胞培養基材の底面又は側壁面において、互いに対向するように配置されていることが好ましい。本実施形態の場合、第1の膜及び第2の膜は、互いに密着するように配置されていてもよく、互いに離間するように配置されていてもよい。第1の膜及び第2の膜は、少なくとも一部が互いに密着するように配置されていることが好ましい。本実施形態の場合、第1の膜の複数の孔及び第2の膜の複数の孔は、少なくとも一部が互いに連通するように配置されていることが好ましい。前記配置を有することにより、フィーダー細胞由来の栄養及びサイトカイン等の成分の移動を実質的に阻害することなく、対象細胞を培養することができる。
本発明の細胞培養器具において、少なくとも1個の細胞培養基材の数は、1個でもよく、複数個でもよい。本発明の細胞培養器具が1個の細胞培養基材を有する場合、該1個の細胞培養基材は、第1の膜及び第2の膜からなる1個の組み合わせを有する。本発明の細胞培養器具が複数個の細胞培養基材を有する場合、該複数個の細胞培養基材は、第1の膜及び第2の膜からなる1個の組み合わせをそれぞれ有してもよく、1個の第1の膜のみ又は1個の第2の膜のみを別々に有してもよい。少なくとも1個の細胞培養基材が1個の第1の膜のみ又は1個の第2の膜のみを別々に有する実施形態の場合、第1の膜のみを有する細胞培養基材と第2の膜のみを有する別の細胞培養基材との組み合わせを、少なくとも1個の細胞培養基材として細胞培養容器の内部に配置することにより、フィーダー細胞と対象細胞との共培養を実施することができる。
細胞培養容器の形状は、特に限定されない。細胞培養容器の形状は、フィーダー細胞と対象細胞との共培養に通常使用される細胞培養容器の各種形状から適宜選択することができる。細胞培養容器は、通常は、側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する。この場合、細胞培養容器は、所望により、天部開口を閉じる蓋部を有してもよい。特に好ましくは、細胞培養容器は、円形若しくは角形等の細胞培養用ディッシュ、又はマルチウェルプレート等の形状から選択される。細胞培養容器が前記形状の場合、少なくとも1個の細胞培養基材を内部に配置することにより、フィーダー細胞と対象細胞との共培養を実施することができる。
細胞培養基材及び細胞培養容器の大きさは、特に限定されない。本発明の細胞培養器具を用いて実施する培養スケール、並びに互いに組み合わせて使用される細胞培養基材又は細胞培養容器の大きさ等に基づき、適宜設定することができる。
細胞培養基材及び細胞培養容器の材料は、特に限定されない。当該技術分野で細胞培養基材及び/又は細胞培養容器に通常使用される材料を使用することができる。また、細胞培養基材及び細胞培養容器の材料は、同一でもよく、異なっていてもよい。細胞培養基材及び細胞培養容器の材料としては、限定するものではないが、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂及び塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、並びにガラス及び石英等の無機材料を挙げることができる。前記樹脂材料は、所望により、1種以上のさらなる樹脂材料を組み合わせて使用してもよい。また、前記樹脂材料は、所望により、表面の親水化処理等の後処理を施してもよい。本発明の細胞培養器具において、細胞培養基材及び細胞培養容器を形成する材料は、前記群より選択される少なくとも1種の樹脂材料であることが好ましく、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることがより好ましい。ポリスチレン樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂は、安価で且つ細胞毒性が低い材料である。このため、細胞培養基材及び細胞培養容器を形成する材料として前記樹脂材料を用いる場合、本発明の細胞培養器具を低コストで製造し、且つ本発明の細胞培養器具の細胞毒性を実質的に減少させることができる。
第1の膜及び第2の膜の材料は、特に限定されない。当該技術分野でフィーダー細胞と対象細胞との共培養に通常使用される材料を使用することができる。また、第1の膜及び第2の膜の材料は、同一でもよく、異なっていてもよい。第1の膜及び第2の膜の材料としては、限定するものではないが、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン及びアクリル等を挙げることができる。また、前記樹脂材料は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸若しくはポリカプロラクタン、又はそれらの共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。第1の膜及び第2の膜を形成する材料は、ポリカーボネートであることが好ましい。ポリカーボネートは、細胞毒性が低い材料である。このため、第1の膜及び第2の膜を形成する材料としてポリカーボネートを用いる場合、本発明の細胞培養器具の細胞毒性を実質的に減少させることができる。
本発明の細胞培養器具において、少なくとも1個の細胞培養基材の細胞培養に使用される側の面の少なくとも一部に、所定の刺激に応答して細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な刺激応答性高分子層がさらに配置されていることが好ましい。この場合、少なくとも1個の細胞培養基材の細胞培養に使用される側の面に配置された第2の膜の内表面と、刺激応答性高分子層の表面とを、細胞培養面として使用することができる。図1Cに示すように、細胞培養基材3において、第2の膜2の内表面が細胞培養面として使用される実施形態の場合、刺激応答性高分子層5は、第2の膜2の内表面の少なくとも一部に配置されていることが好ましい。本発明の細胞培養器具が細胞培養面の少なくとも一部に刺激応答性高分子層を有することにより、対象細胞の回収をより容易に行うことができる。
本発明において、「刺激応答性高分子層」は、細胞を培養する条件(例えば、温度、pH、イオン強度又は光強度)では細胞接着性を示す状態であるが、所定の刺激に応答して細胞非接着性を示す状態に変化する高分子(以下、「刺激応答性高分子」とも記載する)を含む層を意味する。本発明において使用される刺激応答性高分子としては、温度応答性高分子、pH応答性高分子、イオン応答性高分子及び光応答性高分子を挙げることができる。刺激の付与が容易であることから、温度応答性高分子を含む、温度応答性高分子層を本発明の細胞培養器具に使用することが好ましい。
本発明において、「細胞接着性」及び「細胞非接着性」は、一の表面領域と他の表面領域とにおける細胞の接着度合いの相対的な強さを意味し、典型的には、「細胞接着性」は、細胞が接着しやすい表面特性を意味する。細胞接着性は、通常は、表面の化学的性質及び/又は物理的性質等に起因して、細胞の接着及び/又は伸展が起こりやすいか否かに基づき、決定される。細胞培養容器の細胞接着性を判断する指標としては、例えば、実際に該細胞培養容器で細胞を培養した際の細胞接着伸展率を用いることができる。本発明において、刺激応答性高分子層が細胞接着性を示す状態の場合、該刺激応答性高分子層の表面は、細胞接着伸展率が60%以上であることが好ましく、細胞接着伸展率が80%以上であることがより好ましい。刺激応答性高分子層の細胞接着伸展率が高い場合、効率的に対象細胞を培養することができる。また、刺激応答性高分子層が細胞非接着性を示す状態の場合、該刺激応答性高分子層の表面は、細胞接着伸展率が60%未満であることが好ましく、40%未満であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが特に好ましい。
なお、細胞接着性の指標となる細胞接着伸展率は、例えば、以下の方法で決定することができる。培養しようとする対象細胞を、4000〜30000 cells/cm2の範囲の初期播種密度で測定対象表面に播種した後、37℃、5%のCO2濃度の条件下で培養する。培養開始3時間後に、培地交換を行い、接着していない対象細胞を除去した後、対象細胞が接着している数箇所を観察する。細胞接着伸展率を、次の式:({(接着している対象細胞数)/(播種した対象細胞数)}×100(%))に基づき算出する。
前記温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子としては、アクリル系ポリマー及びメタクリル系ポリマーを挙げることができ、例えば、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)(Tc=32℃)、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド(Tc=21℃)、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド(Tc=32℃)、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド(Tc=約35℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(Tc=約28℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(Tc=約35℃)及びポリ-N,N-ジエチルアクリルアミド(Tc=32℃)等を挙げることができる。ここで、Tcは、下限臨界溶解温度を表す。温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子は、前記高分子を形成し得るモノマーの2種以上を共重合させることによって形成される共重合体であってもよい。温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子は、PNIPAAm、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド又はポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドであることが好ましく、PNIPAAmであることがより好ましい。前記温度応答性高分子は、細胞培養に通常適用される温度範囲のTcを有する。それ故、前記温度応答性高分子を含む温度応答性高分子層を少なくとも1個の細胞培養基材の細胞培養に使用される側の面の少なくとも一部に配置する場合、本発明の細胞培養器具から対象細胞を回収する際に、温度変化に起因する対象細胞の損傷を可能な限り少なくすることができる。
前記温度応答性高分子を形成するためのモノマーとしては、放射線照射によって重合し得るモノマーを用いることが好ましい。前記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-(若しくはN,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体及びビニルエーテル誘導体等を挙げることができる。前記モノマーを単独で使用して重合する場合、得られる温度応答性高分子はホモポリマーの形態となり、前記モノマーの2種以上を使用して共重合する場合、得られる温度応答性高分子は共重合体(コポリマー又はヘテロポリマー)の形態となる。いずれの形態の温度応答性高分子であっても、本発明の細胞培養器具に使用することができる。
前記温度応答性高分子は、前記で説明した1種以上のモノマーと、前記以外のさらなるモノマーとを共重合することによって形成される共重合体であってもよい。或いは、前記温度応答性高分子は、前記で説明した1種以上のモノマーを重合又は共重合することによって形成される重合体又は共重合体と、さらなる重合体又は共重合体とをグラフト重合又はブロック重合することによって形成される、グラフト共重合体又はブロック共重合体であってもよい。或いは、前記温度応答性高分子は、前記で説明した1種以上の重合体又は共重合体の混合物の形態であってもよい。温度応答性高分子がこれらの形態の場合、使用される材料を適宜選択することにより、結果として得られる温度応答性高分子のTcを所望の範囲に調整することができる。
少なくとも1個の細胞培養基材において、刺激応答性高分子層は、細胞培養に使用される側の面の略全面を覆うように配置されていてもよく、細胞培養に使用される側の面の少なくとも一部を覆うように配置されていてもよい。いずれの場合も、本発明の実施形態に包含される。
図1Cに示すように、本発明の細胞培養器具100において、細胞培養容器4の内表面の少なくとも一部に、細胞増殖抑制層6がさらに配置されていることが好ましい。この場合、細胞培養容器4の内表面と、細胞増殖抑制層6の表面とを、フィーダー細胞の培養面として使用することができる。本発明において、「細胞増殖抑制層」は、細胞の増殖を抑制し得る物質(以下、「細胞増殖抑制物質」とも記載する)を含む層を意味する。細胞培養容器の内表面の少なくとも一部に細胞増殖抑制層が配置されていることにより、細胞培養容器の内部で培養されるフィーダー細胞の増殖を所望の程度に抑制することができる。
細胞増殖抑制層に含まれる細胞増殖抑制物質としては、限定するものではないが、例えば、マイトマイシンCを挙げることができる。前記細胞増殖抑制物質を含む細胞増殖抑制層を有することにより、本発明の細胞培養器具は、フィーダー細胞の増殖を所望の程度に抑制することができる。
細胞培養容器において、細胞増殖抑制層は、該細胞培養容器の内表面の略全面を覆うように配置されていてもよく、該細胞培養容器の内表面の少なくとも一部を覆うように配置されていてもよい。いずれの場合も、本発明の実施形態に包含される。
以下、図2を参照しながら、本発明の細胞培養器具の好ましい実施形態についてさらに説明する。
本発明の細胞培養器具の好ましい一実施形態を図2Aに示す。本実施形態において、細胞培養器具100は、複数の孔を有する第1の膜1と複数の孔を有する第2の膜2とを有する少なくとも1個の細胞培養基材3と、該少なくとも1個の細胞培養基材3が内部に配置された細胞培養容器4とを有する。細胞培養基材3は、側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する形状である。細胞培養基材3は、円柱状又は逆円錐台状の形状であることが好ましい。
本実施形態において、少なくとも1個の細胞培養基材3は、第1の膜1及び第2の膜2からなる1個の組み合わせをそれぞれ有する。図中、細胞培養器具100は、1個の細胞培養基材3を有するが、複数個の細胞培養基材を有していてもよい。第1の膜1は、細胞培養基材3の底面の外表面の少なくとも一部に配置されており、且つ第2の膜2は、細胞培養基材3の底面の内表面の少なくとも一部に配置されている。本実施形態の場合、第2の膜2が細胞培養基材3の底面の内表面の少なくとも一部に配置されていることから、第2の膜2の内表面を細胞培養面として使用することができる。第1の膜1及び第2の膜2は、少なくとも一部が互いに密着するように配置されていることが好ましい。また、第1の膜1及び第2の膜2は、細胞培養基材3に対して取り外し可能に取り付けられていることが好ましい。このような構成により、第2の膜2を細胞培養基材3から取り外すことによって、対象細胞を容易に回収することができる。
本発明の細胞培養器具の好ましい別の実施形態を図2Bに示す。本実施形態において、細胞培養器具110は、複数の孔を有する第1の膜11と複数の孔を有する第2の膜12とを有する2個の細胞培養基材13と、該2個の細胞培養基材13が内部に配置された細胞培養容器14とを有する。2個の細胞培養基材13は、いずれも側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する形状である。細胞培養基材13は、円柱状又は逆円錐台状の形状であることが好ましい。
本実施形態において、2個の細胞培養基材13は、1個の第1の膜11のみ又は1個の第2の膜12のみを別々に有する。第1の膜11は、一方の細胞培養基材13の底面の外表面の少なくとも一部に配置されており、且つ第2の膜12は、他方の細胞培養基材13の底面の内表面の少なくとも一部に配置されている。本実施形態の場合、第2の膜12が1個の細胞培養基材13の底面の内表面の少なくとも一部に配置されていることから、第2の膜12の表面を細胞培養面として使用することができる。第1の膜11及び第2の膜12は、少なくとも一部が互いに密着するように配置されていてもよく、互いに離間するように配置されていてもよい。また、第1の膜11及び第2の膜12は、細胞培養基材13に対して取り外し可能に取り付けられていることが好ましい。このような構成により、第2の膜12を1個の細胞培養基材13から取り外すことによって、対象細胞を容易に回収することができる。また、本実施形態の場合、第1の膜11と第2の膜12とは別々の細胞培養基材13に取り付けられていることから、第2の膜12を有する一方の細胞培養基材13のみを細胞培養容器14の内部から取り出すことによって、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止することができる。
本発明の細胞培養器具の好ましい別の実施形態を図2Cに示す。本実施形態において、細胞培養器具120は、複数の孔を有する第1の膜21と複数の孔を有する第2の膜22とを有する少なくとも1個の細胞培養基材23と、該少なくとも1個の細胞培養基材23が内部に配置された細胞培養容器24とを有する。少なくとも1個の細胞培養基材23は、いずれも側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する形状である。少なくとも1個の細胞培養基材23は、円柱状又は逆円錐台状の形状であることが好ましい。
本実施形態において、少なくとも1個の細胞培養基材23は、第1の膜21及び第2の膜22からなる1個の組み合わせをそれぞれ有する。図中、細胞培養器具120は、1個の細胞培養基材23を有するが、複数個の細胞培養基材を有していてもよい。第1の膜21は、細胞培養基材23の側壁面及び底面の外表面を包囲するように配置されており、且つ第2の膜22は、細胞培養基材23の底面の内表面の少なくとも一部に配置されている。第1の膜21は、その周縁部が細胞培養基材23の側壁面及び/又は底面の外表面に接合されることによって取り付けられている袋状の封止構造を有することが好ましい。本実施形態の場合、第2の膜22が細胞培養基材23の底面の内表面の少なくとも一部に配置されていることから、第2の膜22の表面を細胞培養面として使用することができる。第1の膜21及び第2の膜22は、少なくとも一部が互いに密着するように配置されていてもよく、互いに離間するように配置されていてもよい。また、第1の膜21及び第2の膜22は、細胞培養基材23に対して取り外し可能に取り付けられていることが好ましい。このような構成により、第2の膜22を細胞培養基材23から取り外すことによって、対象細胞を容易に回収することができる。また、本実施形態の場合、第1の膜21が、細胞培養基材23の側壁面及び底面の外表面を包囲するように配置されていることから、フィーダー細胞又はその細胞残渣が細胞培養基材23の側壁面及び底面の外表面に付着することを実質的に防止することができる。加えて、第1の膜21を細胞培養基材23から取り外すことによって、フィーダー細胞又はその細胞残渣と対象細胞とを容易に分離することができる。
本発明の細胞培養器具の好ましい別の実施形態を図2Dに示す。本実施形態において、細胞培養器具130は、複数の孔を有する第1の膜31と複数の孔を有する第2の膜32とを有する少なくとも1個の細胞培養基材33と、該少なくとも1個の細胞培養基材33が内部に配置された細胞培養容器34とを有する。少なくとも1個の細胞培養基材33は、いずれも側壁面及び底面と該側壁面の外縁部によって画定される天部開口とを有する形状である。細胞培養基材33は、円柱状又は逆円錐台状の形状であることが好ましい。
本実施形態において、少なくとも1個の細胞培養基材33は、第1の膜31及び第2の膜32からなる1個の組み合わせをそれぞれ有する。図中、細胞培養器具130は、1個の細胞培養基材33を有するが、複数個の細胞培養基材を有していてもよい。第1の膜31は、細胞培養基材33の側壁面の外表面の少なくとも一部に配置されており、且つ第2の膜32は、細胞培養基材33の側壁面の内表面の少なくとも一部に配置されている。第1の膜31及び第2の膜32は、少なくとも一部が互いに密着するように配置されていることが好ましい。また、第1の膜31及び第2の膜32は、細胞培養基材33に対して取り外し可能に取り付けられていることが好ましい。本実施形態の場合、第2の膜32が細胞培養基材33の側壁面の内表面の少なくとも一部に配置されていることから、細胞培養基材33の底面が、細胞培養面として使用される。この場合、細胞培養面として使用される細胞培養基材33の底面に、所望の処理を行うことができる。例えば、少なくとも1個の細胞培養基材33の細胞培養面の少なくとも一部に、所定の刺激に応答して細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な刺激応答性高分子層がさらに配置されていることが好ましい。この場合、細胞培養基材33の底面と、刺激応答性高分子層の表面とを、細胞培養面として使用することができる。本実施形態の場合、対象細胞を容易に回収することができる。
<2. 2種類の多孔膜を有する細胞培養基材>
本発明はまた、複数の孔を有する第1の膜と複数の孔を有する第2の膜とを有し、第2の膜が細胞培養に使用される側に、第1の膜が第2の膜に対して細胞培養に使用される側とは反対側にそれぞれ配置されており、第1の膜の孔径が第2の膜の孔径以下である、少なくとも1個の細胞培養基材に関する。
本発明の細胞培養基材は、前記で説明した本発明の細胞培養器具を構成する細胞培養基材と同一の特徴を有する。本発明の細胞培養基材を当該技術分野で通常使用される各種の細胞培養容器と組み合わせることにより、フィーダー細胞を用いる共培養において、対象細胞に対する生育促進効果を阻害することなく、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止することができる。
<3. 細胞培養方法>
本発明はまた、細胞の培養方法に関する。本発明の方法において使用される細胞培養器具は、前記で説明した特徴を有する本発明の細胞培養器具である。本発明の細胞培養器具を使用することにより、フィーダー細胞を用いる共培養において、対象細胞に対する生育促進効果を阻害することなく、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止することができる。
以下、図4を参照しながら、本発明の方法の各工程を詳細に説明する。
[3-1. 対象細胞播種工程]
本発明の方法は、本発明の細胞培養器具100の細胞培養基材3に対象細胞7を播種する、対象細胞播種工程を含むことが必要である(図4A)。
本工程において使用される対象細胞7は、特に限定されない。生体に存在するあらゆる組織若しくは器官自体、又はそれに由来する各種の細胞を用いることができる。本工程において使用される対象細胞7は、接着性の組織又は細胞であることが好ましい。例えば、生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞若しくは内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、軟骨細胞、神経系を構成するニューロン若しくはグリア細胞、線維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞、又は脂肪細胞等を使用することができる。或いは、本工程において使用される対象細胞7は、胚性幹細胞(ES細胞)、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞、又は人工多能性幹細胞(iPS細胞)等であってもよく、分化が終了した細胞であってもよい。本工程において使用される対象細胞7は、前記組織又は器官から直接採取した初代細胞系でもよく、該初代細胞を何代か継代させた継代細胞系であってもよい。細胞が由来する動物も特に限定されず、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ又はヒツジ等の動物に由来する細胞を使用することができる。
本工程において、細胞培養基材3に対象細胞7を播種する手段及び条件は特に限定されない。当業者であれば、使用される対象細胞に基づき、好適な播種手段及び条件を適宜設定することができる。
本工程において、所望により内表面の少なくとも一部に所定の刺激に応答して細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な刺激応答性高分子層がさらに配置されている少なくとも1個の細胞培養基材3に、対象細胞7を播種することができる。本実施形態の場合、以下で説明する細胞回収工程において、対象細胞を容易に回収することができる。
[3-2. フィーダー細胞播種工程]
本発明の方法は、本発明の細胞培養器具100の細胞培養容器4にフィーダー細胞8を播種する、フィーダー細胞播種工程を含むことが必要である(図4A)。
本工程において使用されるフィーダー細胞8は、特に限定されない。対象細胞7と同様、生体に存在するあらゆる組織若しくは器官自体、又はそれに由来する各種の細胞を用いることができる。前記で例示した対象細胞7の群から選択されることが好ましい。この場合、フィーダー細胞8は、対象細胞播種工程で使用される対象細胞7と同一種であってもよく、異種であってもよい。
本工程において、所望により内表面の少なくとも一部に細胞増殖抑制層がさらに配置されている細胞培養容器にフィーダー細胞8を播種することができる。本実施形態の場合、以下で説明する培養工程において、フィーダー細胞の増殖を所望の程度に抑制することができる。
本発明の方法において、対象細胞播種工程及びフィーダー細胞播種工程を実施する順序は特に限定されない。対象細胞播種工程を実施した後でフィーダー細胞播種工程を実施してもよく、その逆の順序で実施してもよい。或いは、対象細胞播種工程及びフィーダー細胞播種工程を、実質的に同時に実施してもよい。例えば、対象細胞播種工程とフィーダー細胞播種工程とを実質的に同時に別々に実施し、然る後に、対象細胞7が播種された細胞培養基材3を、フィーダー細胞8が播種された細胞培養容器4の内部に配置することが好ましい。このような手順で対象細胞播種工程及びフィーダー細胞播種工程を実施することにより、本発明の方法を実施する時間を短縮することができる。また、対象細胞及びフィーダー細胞の培養条件を実質的に同一とすることができる。
[3-3. 培養工程]
本発明の方法は、前記対象細胞播種工程及びフィーダー細胞播種工程で播種された対象細胞7及びフィーダー細胞8を培養する、培養工程を含むことが必要である(図4A)。
本工程において、対象細胞7及びフィーダー細胞8を培養する手段及び条件は特に限定されない。当業者であれば、使用される対象細胞7及びフィーダー細胞8に基づき、好適な培養手段及び条件を適宜設定することができる。
[3-4. 細胞回収工程]
本発明の方法は、培養工程終了後の対象細胞7を回収する、細胞回収工程を含むことが必要である(図4B及びC)。
本工程において、対象細胞7を回収する手段は、使用される本発明の細胞培養器具100の特徴に基づき、適宜選択することができる。例えば、細胞培養基材3を細胞培養容器4の内部から取り出すことにより、対象細胞7を容易に回収することができる。第2の膜2の表面が細胞培養面として使用される実施形態において、第2の膜2が、細胞培養基材3に対して取り外し可能に取り付けられている場合、細胞培養面として使用される第2の膜2を細胞培養基材3から取り外すことによって、対象細胞7を容易に回収することができる。また、少なくとも1個の細胞培養基材3の細胞培養面の少なくとも一部に、所定の刺激に応答して細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な刺激応答性高分子層がさらに配置されている場合、所定の刺激を付与することにより、刺激応答性高分子層を細胞接着性から細胞非接着性へと変化させて、刺激応答性高分子層の表面から対象細胞を容易に回収することができる。
本発明の細胞培養器具は、外表面にフィーダー細胞又はその細胞残渣が付着した第1の膜を対象細胞から容易に分離することができる。それ故、本発明の細胞培養器具を用いて細胞培養を行うことにより、フィーダー細胞を用いる共培養において、対象細胞に対する生育促進効果を阻害することなく、フィーダー細胞又はその細胞残渣が対象細胞に混入することを実質的に防止することができる。これにより、安全性の高い対象細胞を提供することができる。