本発明の一実施形態に係る挿耳部材は、熱可塑性樹脂組成物の成形体を、使用者の耳と接触する表面に有する。挿耳部材は、上記熱可塑性樹脂組成物の成形体を少なくとも使用者の耳と接触する表面に有すればよく、上記熱可塑性樹脂組成物の一体成型物であってもよいし、弾性を有する軟質部材からなる本体部と、上記本体部の表面を被覆する、シート状の上記熱可塑性樹脂組成物の成形体と、を有してもよい。
1.熱可塑性樹脂組成物
上記熱可塑性樹脂組成物は、以下の特性(I)〜(III)を有する。上記熱可塑性樹脂組成物は、以下の特性(IV)〜(VIII)をさらに有してもよい。
特性(I):
JIS K6253に準拠して、厚さ3mmのプレスシートの状態で測定される、押針接触開始直後のショアーA硬度の値と、押針接触開始から15秒後におけるショアーA硬度の値と、の間の変化量ΔHSが5以上50以下である。
ΔHSが5以上である熱可塑性樹脂組成物は、応力の印加によって変形させやすい。また、ΔHSが50以下である熱可塑性樹脂組成物は、応力を印加しても過剰に変形することがない。そのため、ΔHSが上記範囲である熱可塑性樹脂組成物は、形状追従性が高く、挿耳部材としたときに、外耳孔への挿入および取り出し時の変形が容易であり、かつ外耳孔内の形状に追従しやすくなる。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物のΔHSは5以上45以下であることが好ましく、10以上40以下であることがより好ましい。
特性(II):
JIS K7107に準拠して測定した40℃での圧縮応力緩和率が25%以上である。
上記圧縮応力緩和率が25%以上である熱可塑性樹脂組成物は、形状追従性および応力吸収性が高いため、挿耳部材としたときに、挿入後に外耳孔内で元の形状に復元しやすい。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物の上記圧縮応力緩和率は30%以上であることが好ましく、32%以上であることがより好ましい。
圧縮応力緩和率は、上記熱可塑性樹脂組成物から成形した厚さ2mmのプレスシートに、圧縮試験機(たとえば島津製作所製、AG−100kNX)を用いて、温度40℃で、試験片に500Nの圧縮量がかかるまで10mm/minで圧縮させて求めることができる。このとき、500Nの圧縮量がかかった状態で5分間保持させ、5分間保持した後の応力との差(緩和後応力:W5min)を圧縮量が500Nとなったときの応力(初期応力:W0)で除算して得られる値(単位:%)を、上記圧縮応力緩和率とする。
特性(III):
ガラス転移温度(Tg)が20℃以上45℃以下である。
Tgが15℃以上35℃以下である熱可塑性樹脂組成物は、人体に近い体温で適度に軟化しやすい。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物のTgは25℃以上40℃以下であることが好ましく、25℃以上38℃以下であることがより好ましい。
Tgは、上記熱可塑性樹脂組成物から成形した厚さ3mmのプレスシートに、動的粘弾性測定装置を用いて、昇温速度2℃/分、周波数1.6Hzの引張モードによる動的粘弾性測定により求めた貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の比である損失正接(tanδ)ピーク温度とすることができる。
特性(IV):
JIS K6262に準拠して測定した40℃での圧縮永久歪が50%以下である。
上記圧縮永久歪が50%以下である熱可塑性樹脂組成物は、加圧を止めた後に元の形状を回復しやすいため、挿耳部材としたときに、挿入後に外耳孔内で元の形状に復元しやすい。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物の上記圧縮永久歪は5%以上40%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましい。
特性(V):
1.6Hzの周波数で動的粘弾性測定して得られる損失正接tanδの0〜50℃の間にあるピーク値が0.5以上5.0以下である。
tanδのピーク値が5.0以下である熱可塑性樹脂組成物は、応力の印加によって変形させやすい。また、tanδのピーク値が0.5以上である熱可塑性樹脂組成物は、応力を印加しても過剰に変形することがない。また、tanδのピーク値が0.5以上である熱可塑性樹脂組成物は、応力吸収性が高い。そのため、tanδのピーク値が上記範囲である熱可塑性樹脂組成物は、形状追従性および応力吸収性が高いため、挿耳部材としたときに、外耳孔への挿入および取り出し時の変形が容易であり、かつ挿入後に外耳孔内で元の形状に復元しやすい。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物のtanδのピーク値は0.5以上3.0以下であることが好ましく、0.8以上3.0以下であることがより好ましい。
tanδは、上記貯蔵弾性率の測定時に得られる貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)との比(G”/G’:損失正接)から算出することができる。このとき、0〜50℃の範囲でtanδがピーク値(最大値)となる際の温度を、上記tanδがピーク値となる温度とし、その際のtanδの値を上記tanδのピーク値とする。なお、上記ピークは、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度に起因すると考えられる。
特性(VI):
23℃において、JIS K7161で測定される引張弾性率またはJIS K7171で測定される曲げ弾性率が1MPa以上600MPa以下である。
上記引張弾性率または曲げ弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂組成物は、挿耳部材としたときに、外耳孔への挿入および取り出し時の応力による破断が生じにくい。また、上記引張弾性率または曲げ弾性率が600MPa以下である熱可塑性樹脂組成物は、適度に軟いため、応力の印加によって変形させやすい。そのため、上記引張弾性率または曲げ弾性率が上記範囲である熱可塑性樹脂組成物は、挿耳部材としたときに、挿耳部材の破損を抑制しつつ、外耳孔への挿入および取り出し時の変形が容易である。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物の上記引張弾性率または曲げ弾性率は10MPa以上600MPa以下であることが好ましく、30MPa以上500MPa以下であることがより好ましい。
特性(VII):
ASTM D 1505に準拠して測定される密度が、830kg/m3以上950kg/m3以下である。
密度が830kg/m3以上である熱可塑性樹脂組成物は、強度および衝撃吸収性が高く、落下などによる挿耳部材の破損を抑制できる。密度が950kg/m3以下である熱可塑性樹脂組成物は、軽量であり、挿耳部材を搭載した音声認識装置などの持ち運びや取扱いを容易にする。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物の密度は840kg/m3以上950kg/m3以下であることが好ましく、850kg/m3以上945kg/m3以下であることがより好ましい。
特性(VIII):
融点(Tm)が、50℃以上160℃以下、または観測されない。
融点(Tm)が50℃以上150℃以下、または観測されない熱可塑性樹脂組成物は、成形が容易である。上記観点からは、熱可塑性樹脂組成物の融点(Tm)は70℃以上145℃以下であることが好ましく、80℃以上140℃以下であることがより好ましい。
融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)(たとえば、セイコーインスツルメンツ社製DSC220C)を用いて測定することができる。このとき、7〜12mg程度の熱可塑性樹脂組成物をアルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/分で200℃まで加熱し、完全融解させるために試料を200℃で5分間保持し、次いで10℃/分で−50℃まで冷却し、−50℃で5分間静置した後、10℃/分で200℃まで再度加熱する。この再度の(2度目の)加熱で測定されるピーク値温度を、融点(Tm)とする。
上記熱可塑性樹脂組成物は、その柔軟性および形体追従性などが高く、外耳孔に挿入したときに使用者への違和感を低減させるゲル様の触感を発現しやすいことから、発泡体であることが好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物は、上述した物性を満たすものであれば限定されないが、例えば、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)を含有する組成物とすることができる。また、上記熱可塑性樹脂組成物は、復元性付与の観点から、上記4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、オレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)と、を含有する組成物としてもよい。また、上記熱可塑性樹脂組成物は、上記4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、その他の熱可塑性樹脂およびゴムから選択される材料(C)と、を含有する組成物としてもよいし、上記4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、オレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)と、その他の熱可塑性樹脂およびゴムから選択される材料(C)と、を含有する組成物としてもよい。
上記熱可塑性樹脂組成物は、その全質量に対して10質量%以上100質量%以下の4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)を含有することが好ましい。このような組成比の上記熱可塑性樹脂組成物は、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)が有する後述の特性が十分に発現されて、熱可塑性樹脂組成物の形状追従性、復元性および柔軟性などがより適度に高まるため、挿入および取り出し時の変形が容易であり、かつ挿入後に外耳孔内で元の形状に復元しやすい。上記観点からは、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量は、上記熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、55質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂組成物は、上記4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、オレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)と、を含有する組成物であるとき、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、オレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)と、の含有量の合計を100質量%として、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)を10質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有することがより好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、50質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。上記4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量の上限は、特に限定されないものの、100質量%とすることができ、90質量%以下とすることが好ましい。
また、このとき、上記熱可塑性樹脂組成物は、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、オレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)と、の含有量の合計を100質量%として、オレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)を10質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有することがより好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、50質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。上記オレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)の含有量の上限は、特に限定されないものの、90質量%とすることができ、80質量%以下とすることが好ましい。
1−1.4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)
1−1−1.4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の構成
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、4−メチル−1−ペンテンから導かれる構成単位(i)および4−メチル−1−ペンテンを除く炭素原子数2〜20のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のα−オレフィンから導かれる構成単位(ii)を含む。4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、任意に、非共役ポリエンから導かれる構成単位(iii)を含んでもよい。4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、1種単独で、または2種類以上を組み合せて用いることができる。
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、構成単位(i)、構成単位(ii)および構成単位(iii)の合計を100モル%としたときに、構成単位(i)を55モル%以上85モル%以下、構成単位(ii)を15モル%以上45モル%以下、構成単位(iii)を0モル%以上10モル%以下含む。
なお、構成単位(i)の割合の下限値は、55モル%であるが、60モル%であることが好ましく、68モル%であることがより好ましい。一方、構成単位(ii)の割合の上限値は、85モル%であるが、84モル%であることが好ましく、80モル%であることがより好ましい。4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)が含む構成単位(ii)の割合が上記範囲であると、上記熱可塑性樹脂組成物のΔHSおよびTgを上述した範囲に調整しやすい。
当然ながら、このとき、構成単位(ii)の割合の上限値は、45モル%であるが、40モル%であることが好ましく、32モル%であることがより好ましい。一方、構成単位(ii)の割合の下限値は、15モル%であるが、16モル%であることが好ましく、20モル%であることがより好ましい。
構成単位(ii)を導くα−オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、および1−エイコセンなどを含む炭素原子数2〜20(好ましくは炭素原子数2〜15、より好ましくは炭素原子数2〜10)の直鎖状のα−オレフィン、ならびに、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4−エチル−1−ヘキセン、および3−エチル−1−ヘキセンなどを含む炭素原子数5〜20(好ましくは炭素原子数5〜15)の分岐状のα−オレフィンが挙げられる。これらの中でもエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。構成単位(ii)は、これらのうち1つの化合物から導かれてもよいし、2以上の化合物から導かれてもよい。
構成単位(iii)を導く非共役ポリエンの例には、1,4−ヘキサジエン、3−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、4,5−ジメチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、8−メチル−4−エチリデン−1,7−ノナジエン、および4−エチリデン−1,7−ウンデカジエンなどを含む鎖状非共役ジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン(VNB)、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−イソブテニル−2−ノルボルネン、シクロペンタジエン、およびノルボルナジエンなどを含む環状非共役ジエン、ならびに、2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエン、および4−エチリデン−8−メチル−1,7−ナノジエンなどを含むトリエンなどが含まれる。これらのうち、特に構成単位(ii)を導くα−オレフィンがプロピレンであるときは、架橋効率を高める観点からは、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)および5−ビニル−2−ノルボルネン(VNB)が好ましい。構成単位(iii)は、これらのうち1つの化合物から導かれてもよいし、2以上の化合物から導かれてもよい。
ただし、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、実質的に構成単位(i)および構成単位(ii)からなることが好ましい。
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、以下の特性(a)、(b)および(c)から選ばれる1以上の特性を満たすことが好ましい。
特性(a);
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の、デカリン中135℃で測定した極限粘度[η]は、0.1dL/g以上5.0dL/g以下であることが好ましく、0.5dL/g以上4.0dL/g以下であることがより好ましく、0.5dL/g以上3.5dL/g以下であるさらに好ましい。上記極限粘度[η]が上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、上記熱可塑性樹脂組成物としたときにシート状の軟質層への成形が容易である。また、上記極限粘度[η]が上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、特に発泡体としたときの機械強度、衝撃吸収性および柔軟性などが高いため、挿耳部材の衝撃吸収性を高めて破損しにくくしつつ、挿入および取り出し時の変形が容易である。
上記極限粘度[η]は、135℃でデカリン中に異なる量の4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)を溶解させたときの、それぞれの4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の単位濃度cあたりの粘度増加率ηspを求めて還元粘度ηradとし、ηradを4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の単位濃度cがゼロになるように外挿して、求めることができる。
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の上記極限粘度[η]は、重合による製造中に水素を添加して分子量や重合活性を制御して、上記範囲に調整することができる。
特性(b);
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布:Mw/Mn)は、1.0以上3.5であることが好ましく、1.2以上3.0以下であることがより好ましく、1.5以上2.8以下であることがさらに好ましい。上記Mw/Mnが上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、低分子量、低立体規則性ポリマーによる成形性の低下が生じにくく、上記熱可塑性樹脂組成物としたときにシート状の軟質層への成形が容易である。また、上記Mw/Mnが上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、機械強度、衝撃吸収性および耐摩耗性が高いため、挿耳部材の衝撃吸収性を高めて破損しにくくしつつ、成形時のべたつきを生じにくくして挿耳部材の手触りを良好にすることができる。
また、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、500以上10,000,000以上であることが好ましく、1,000以上5,000,000以下であることがより好ましく、1,000以上2,500,000以下であることがさらに好ましい。
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)のMw/MnおよびMwは、たとえばメタロセン触媒を使用することで、上記範囲に調整することができる。
特性(c);
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の、10rad/sの周波数で動的粘弾性測定して得られる損失正接tanδのピーク値は、1.0以上3.5以下であることが好ましく、1.3dL/g以上3.5dL/g以下であることがより好ましく、2.0dL/g以上3.5dL/g以下であるさらに好ましい。tanδのピーク値が上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、特に発泡体としたときの衝撃吸収性および耐衝撃性などが高いため、挿耳部材を破損しにくくすることができる。
なお、挿耳部材の常温での衝撃吸収性を高める観点からは、上記tanδがピーク値となる温度は5℃以上40℃以下であることが好ましい。好ましくは上記tanδがピーク値となる温度は10℃以上40℃以下、さらに好ましくは上記tanδがピーク値となる温度は20℃以上40℃以下である。tanδピーク温度が上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、人体に近い体温で適度に軟化しやすい。
また、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、以下の特性(d)、(e)および(f)から選ばれる1以上の特性をさらに満たすことが好ましい。
特性(d);
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の、13C−NMRにより測定した共重合モノマーの連鎖分布のランダム性を示すパラメータB値は、0.9以上1.5以下であることが好ましく、0.9以上1.3であることがより好ましく、0.9以上1.2以下であることがさらに好ましい。パラメータB値が上記範囲である上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、重合体中の組成分布が少なく、柔軟性、衝撃吸収性、および衝撃緩和性などが高いため、挿耳部材の挿入および取り出し時の変形を容易とする。
特性(e);
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の、ASTM D 1505に準拠して測定される密度は、810kg/m3以上850kg/m3以下であることが好ましく、820kg/m3以上850kg/m3以下であることがより好ましく、830kg/m3以上850kg/m3以下であることがさらに好ましい。上記密度が上記範囲である上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、軽量であり、かつ、衝撃吸収性が高いため、挿耳部材をより破損しにくくすることができる。
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の上記密度は、構成単位(i)〜構成単位(iii)の組成比によって適宜調整することができる。
特性(f);
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の、融点(Tm)は、110℃未満であるかまたは認められないことが好ましく、100℃未満であるかまたは認められないことがより好ましく、85℃未満であるかまたは認められないことがさらに好ましい。融点(Tm)が上記範囲である上記範囲である4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、柔軟性および靭性が高く、挿耳部材を破損しにくくしつつ、挿入および取り出し時の変形が容易である。
融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)(たとえば、セイコーインスツルメンツ社製DSC220C)を用いて測定することができる。このとき、7〜12mg程度の熱可塑性樹脂組成物をアルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/分で200℃まで加熱し、完全融解させるために試料を200℃で5分間保持し、次いで10℃/分で−50℃まで冷却し、−50℃で5分間静置した後、10℃/分で200℃まで再度加熱する。この再度の(2度目の)加熱で測定されるピーク値温度を、融点(Tm)とする。
1−1−2.4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)の製造方法
4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)は、上記構成単位(i)〜構成単位(iii)を導くモノマーを、マグネシウム担持型チタン触媒またはメタロセン触媒などの適当な触媒の存在下で重合させて,製造することができる。重合は、溶解重合および懸濁重合などを含む液相重合法、ならびに気相重合法などから適宜選択して行うことができる。
液相重合法では、液相を構成する溶媒として不活性炭化水素溶媒を用いることができる。上記不活性炭化水素の例には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、および灯油などを含む脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、およびメチルシクロヘキサンなどを含む脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどを含む芳香族炭化水素、ならびにエチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、およびテトラクロロメタンなどを含むハロゲン化炭化水素、ならびにこれらの混合物などが含まれる。
また、液相重合法では、上記構成単位(i)〜構成単位(iii)を導くモノマー自身を溶媒とする塊状重合とすることもできる。
なお、上記構成単位(i)〜構成単位(iii)を導くモノマーの共重合を段階的に行うことにより、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)を構成する構成単位(i)〜構成単位(iii)の組成分布を適当に制御することもできる。
重合温度は、−50℃以上200℃以下が好ましく、0℃以上100℃以下がより好ましく、20℃以上100℃以下がさらに好ましい。
重合圧力は、常圧以上10MPaゲージ圧であることが好ましく、常圧以上5MPaゲージ圧であることがより好ましい。
重合の際に、生成するポリマーの分子量や重合活性を制御する目的で水素を添加してもよい。添加される水素の量は、上記構成単位(i)〜構成単位(iii)を導くモノマーの合計量1kgに対して、0.001NL以上100NL以下程度が適当である。
1−2.オレフィン系エラストマー(B1)
オレフィン系エラストマー(B1)の例には、オレフィン系ブロック共重合体から形成されるエラストマーを使用することができる。例えば硬質部となるポリプロピレン等の結晶性の高いポリマーを形成するポリオレフィンブロックと、軟質部となる非晶性を示すモノマー共重合体とのブロック共重合体が挙げられ、具体的には、オレフィン(結晶性)・エチレン・ブチレン・オレフィンブロック共重合体、ポリプロピレン・ポリオレフィン(非晶性)・ポリプロピレンブロック共重合体などが含まれる。オレフィン系エラストマー(C−2)の市販品の例には、JSR株式会社製DYNARON(「DYNARON」は同社の登録商標)、三井化学株式会社製タフマー(「タフマー」は同社の登録商標)、ノティオ(「ノティオ」は同社の登録商標)、ダウケミカル株式会社製ENGAGE(「ENGAGE」は同社の登録商標)、VERSIFY(「VERSIFY」は同社の登録商標)、エクソンモービルケミカル株式会社製Vistamaxx(「Vistamaxx」は同社の登録商標)などが含まれる。
オレフィン系エラストマー(B1)の具体例には、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]とポリオレフィン樹脂[II]とを含む混合物を動的架橋して得られる組成物が含まれる。
1−2−1.エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]は、エチレンから導かれる構成単位(I−a)と、α−オレフィンから導かれる構成単位(I−b)とを、(I−a)/(I−b)が50/50以上95/5以下であることが好ましく、60/40以上80/20以下であることがより好ましく、65/35以上75/25以下であることがさらに好ましい。
また、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]が含有する、非共役ポリエン量から導かれる構成単位(I−c)の含有量は、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]の全質量に対して2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
上記α−オレフィンは、炭素原子数3〜20のα−オレフィンであることが好ましい。このようなα−オレフィンの例には、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、および12−エチル−1−テトラデセンなどが含まれる。上記α−オレフィンは、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、および1−オクテンが好ましく、プロピレンがより好ましい。これらα−オレフィンは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記非共役ポリエンの例には、1,4−ヘキサジエン、3−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、4,5−ジメチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、8−メチル−4−エチリデン−1,7−ノナジエン、および4−エチリデン−1,7−ウンデカジエン等の鎖状非共役ジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン(VNB)、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−イソブテニル−2−ノルボルネン、シクロペンタジエン、およびノルボルナジエン等の環状非共役ジエン、ならびに、2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエン、および4−エチリデン−8−メチル−1,7−ナノジエン等のトリエンなどが含まれる。上記非共役ポリエンは、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)および5−ビニル−2−ノルボルネン(VNB)が好ましい。
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]は、非共役ポリエンから導かれる構成単位(I−c)の含有量の一指標であるヨウ素価が1以上50以下であることが好ましく、5以上40以下であることがより好ましく、10以上30以下であることがさらに好ましい。
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]は、デカリン中135℃で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上10dl/g以下であることが好ましく、1.5dl/g以上8dl/g以下であることがより好ましい。
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]は、その製造の際に軟化剤好ましくは鉱物油系軟化剤を配合した、いわゆる油展ゴムであってもよい。上記鉱物油系軟化剤の例には、公知の鉱物油系軟化剤、たとえばパラフィン系プロセスオイルなどが含まれる。
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]のムーニー粘度[ML1+4(100℃)]は、10以上250以下であることが好ましく、30以上150以下であることがより好ましい。エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]は、単独で、あるいは二種以上のエチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体を用いてもよい。エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]は、従来公知の方法により製造することができる。
1−2−2.ポリオレフィン樹脂[II]
ポリオレフィン樹脂[II]は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどのα−オレフィンの単独重合体であるか、または、二種以上の上記α−オレフィンの共重合体であって、主たるα−オレフィンの含有量が90モル%以上の共重合体である。ポリオレフィン樹脂[II]は、融点(Tm)が70℃以上200℃以下で在ることが好ましく、80℃以上170℃以下であることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂[II]は、主鎖に不飽和結合を実質的に有さないことが好ましい。
ポリオレフィン樹脂[II]は、単独で、あるいは二種以上のオレフィン系重合体を用いてもよい。
これらのポリオレフィン樹脂[II]の中でも、プロピレン系重合体(II−1)、エチレン系重合体(II−2)が好ましい。
1−2−2−1.プロピレン系重合体(II−1)
プロピレン系重合体(II−1)は、プロピレンの単独重合体、プロピレンと10モル%以下の炭素数2〜10のα−オレフィンとのランダム共重合体、または、プロピレンの単独重合体と非晶性あるいは低結晶性のプロピレン・エチレンランダム共重合体とのブロック共重合体である。上記炭素数2〜10のα−オレフィンの例には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、および4−メチル−1−ペンテンが含まれる。プロピレン系重合体(II−1)は、融点(Tm)が120℃以上170℃以下であることが好ましく、145℃以上165℃以下であることがより好ましい。
プロピレン系重合体(II−1)は、ポリプロピレン樹脂として市販されているものとすることができる。
プロピレン系重合体(II−1)は、立体構造がアイソタクチック構造であるものが好ましいが、シンジオタクチック構造のものやこれらの構造の混ざったもの、あるいは、一部アタクチック構造を含むものであってもよい。
プロピレン系重合体(II−1)は、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)0.05g/10分以上100g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上50g/10分以下であることがより好ましい。
プロピレン系重合体(II−1)は、種々公知の重合方法によって重合される。
1−2−2−2.エチレン系重合体(II−2)
エチレン系重合体(II−2)は、エチレンの単独重合体、または、エチレンと10モル%以下の炭素数2〜10のα−オレフィンとのランダム共重合体である。上記炭素数2〜10のα−オレフィンの例には、プロピレン、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、および4−メチル−1−ペンテンが含まれる。エチレン系重合体(II−2)は、融点(Tm)が80℃以上150℃以下であることが好ましく、90℃以上130℃以下であることがより好ましい。
エチレン系重合体(II−2)は、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、または高密度ポリエチレンとして市販されているものとすることができる。
エチレン系重合体(II−2)は、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)0.05g/10分以上100g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上50g/10分以下であることがより好ましい。
エチレン系重合体(II−2)は、種々公知の重合方法によって重合される。
1−2−3.オレフィン系エラストマー(B1)の製造方法
オレフィン系エラストマー(B1)は、公知の重合方法でこれらを構成する構成単位を導くモノマーを重合することにより得られる。
オレフィン系エラストマー(B1)は、上述したエチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]とポリオレフィン樹脂[II]とを含む混合物、好ましくはエチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体[I]とポリオレフィン樹脂[II]とを[I]/[II](質量比)が90/10以上5/95以下、より好ましくは70/30以上10/90以下の範囲で含む混合物、あるいは、必要に応じて公知の軟化剤などを所定量含む混合物(前駆体)を動的架橋することにより得られる。動的架橋を行う際には、公知の架橋剤の存在下、あるいは上記架橋剤と公知の架橋助剤の存在下に、動的に熱処理するのがよい。ここに、「動的に熱処理する」とは、溶融状態で混練することをいう。
動的な熱処理は、非開放型の装置中で行われることが好ましい。また、動的な熱処理は、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。熱処理の温度は、ポリオレフィン樹脂[II]の融点以上300℃以下の範囲であり、150℃以上270℃以下が好ましく、170℃以上250℃以下がより好ましい。混練時間は、1分間以上20分間以下であることが好ましく、1分間以上10分間以下であることがよりこのましい。このとき、剪断速度で10sec−1以上50,000sec−1以下、好ましくは100sec−1以上10,000sec−1以下の剪断力が加えられることが好ましい。
混練装置としては、ミキシングロール、インテンシブミキサー(たとえばバンバリーミキサー、ニーダー)、一軸または二軸押出機等を用いることができるが、非開放型の装置が好ましい。
1−3.スチレン系エラストマー(B2)
1−3−1.スチレン系エラストマー(B2)の構成
スチレン系エラストマー(B2)の例には、硬質部(結晶部)となるポリスチレンブロックと軟質部となるイソプレンまたはブタジエンなどの共役ジエン系モノマーブロックとのブロック共重合体(SBC)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合(SBS)、スチレン・イソブチレン・スチレン共重合体(SIBS)、スチレン・イソブチレン共重合体(SIB)などが含まれる。スチレン系エラストマー(B2)は、1種単独で、または2種類以上を組み合せて用いることができる。これらのうち、スチレン系エラストマー(B2)は、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、であることが好ましい。
上記ブロック共重合体(SBC)またはスチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)は、共役ジエンがイソプレンである場合、中間ブロックがビニル−ポリイソプレンであることが好ましい。このとき、中間ブロックを構成する共役ジエン由来の構成要素は水素添加されていてもよい。そのようなスチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)の例には、株式会社クラレ製ハイブラー5127(「ハイブラー」は同社の登録商標)(スチレン含有量20wt%、tanδピーク値=1.1、ピーク値温度=19℃)」などが含まれる。
また、上記ブロック共重合体(SBC)またはスチレン・ブタジエン・スチレン共重合(SBS)は、共役ジエンがブタジエンである場合、ブタジエン由来の構成要素は水素添加されていてもよい。また、このとき、軟質部となるブタジエンブロックはブタジエンとスチレンとの共重合体であってもよい。このようなスチレン・ブタジエン・スチレン共重合(SBS)の例には、旭化成ケミカルズ株式会社製S.O.E.L609(「S.O.E」は同社の登録商標)(スチレン含量=67wt%、tanδピーク値=1.3、ピーク値温度=19℃)、S.O.E.L606(スチレン含量=51wt%、tanδピーク値=1.7、ピーク値温度=8℃)、S.O.E.S1605(スチレン含量=67wt%、tanδピーク値=1.5、ピーク値温度=17℃)などが含まれる。
なお、スチレン系エラストマー(B2)も、上述した特性(a)、(b)および(c)から選ばれる1以上の特性を満たすことが好ましい。
1−3−2.スチレン系エラストマー(B2)の製造方法
スチレン系エラストマー(B2)は、重合体を構成する構成単位を導くスチレンおよびその他の共役ジエンなどを、アルキルリチウム化合物を開始剤とするアニオン重合により製造することができる。
上記アルキルリチウム化合物の例には、メチルリチウム、エチルリチウム、ペンチルリチウム、およびブチルリチウムなどの炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキルリチウム、ナフタレンジリチウム、ならびにジチオヘキシルベンジルリチウムなどが含まれる。
重合方法の例には、(1)アルキルリチウム化合物を開始剤としてスチレンに続いて共役ジエンを逐次重合し、次いでスチレンを逐次重合する方法、(2)スチレンに続いて共役ジエンを重合し、これをカップリング剤によりカップリングする方法、などが含まれる。上記カップリング剤の例には、ジクロロメタン、ジブロモメタン、ジブロモベンゼンなどが含まれる。
重合の際には、反応を適切に制御するために溶媒を使用することが好ましい。上記溶媒の例には、重合開始剤に対して不活性な有機溶媒、例えばヘキサン、へプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびベンゼン等の炭素数が6〜12の脂肪族高水素、脂環式炭化水素、ならびに芳香族炭化水素などが含まれる。
重合温度は−70℃以上80℃以下であることが好ましく、重合時間は0.5時間以上50時間以下であることが好ましい。
ブロック共重合体のtanδのピーク値やピーク値温度、ΔHSは、イソプレン、ブタジエンの3,4結合、又は1,2結合の数およびスチレンブロックとイソプレン、ブタジエンブロックの各分子量を調整する方法等により調整することが可能であり、共触媒としてルイス塩基を用いることにより比較的容易に調整することができる。ルイス塩基としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、トリエチルアミン、N,N,N‘N−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N−メチルモルホリンなどのアミン化合物などが挙げられる。これらのルイス塩基は、重合開始剤のリチウムのモル数に対して0.1〜1000倍用いることが好ましい。また、ピーク値温度やピーク値は水素添加の有無や水素転化率を調整することによっても調整可能である。
1−4.その他の熱可塑性樹脂およびゴムから選択される材料(C)
1−4−1.材料(C)の構成
材料(C)は、熱可塑性樹脂組成物の各種物性および成形性を調整するために添加される材料であり、上記4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)、オレフィン系エラストマー(B1)およびスチレン系エラストマー(B2)以外の熱可塑性樹脂またはゴムであればよい。
材料(C)は、10rad/sの周波数で動的粘弾性測定して得られる損失正接tanδがピーク値となる温度が、0℃未満であることが好ましく、−5℃未満であることがより好ましく、−10℃未満であることがさらに好ましく、−30℃未満であることが特に好ましい。tanδがピーク値となる温度の下限は特に限定されないが、例えば−100℃とすることができる。
熱可塑性樹脂組成物が含有する4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)またはスチレン系エラストマー(B2)と材料(C)との合計量を100質量部としたとき、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)またはオレフィン系エラストマー(B1)またはスチレン系エラストマー(B2)の含有量の上限値は、90質量部であることが好ましく、75質量部であることがより好ましく、60質量部であることがさらに好ましく、50質量部であることが特に好ましい。また、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)またはスチレン系エラストマー(B2)の含有量の下限値は、10質量部であることが好ましく、15質量部であることがより好ましく、25質量部であることがさらに好ましく、30質量部であることが特に好ましい。このような組成比とすると、熱可塑性樹脂組成物の形状追従性、復元性および柔軟性、成形性等をより適度に調整しやすい。
言い換えると、材料(C)の含有量の下限値は、10質量部であることが好ましく、25質量部であることがより好ましく、40質量部であることがさらに好ましく、50質量部であることが特に好ましく、上限値は、90質量部であることが好ましく、85質量部であることがより好ましく、75質量部であることがさらに好ましく、70質量であることが特に好ましい。
材料(C)は、オレフィン系樹脂(C1)であることが好ましい。また、材料(C)は、上記以外の熱可塑性樹脂(C2)であってもよい。これらの材料(C)は、1種類を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
1−4−1−1.オレフィン系樹脂(C1)
オレフィン系樹脂(C1)の例には、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の各種ビニル化合物をコモノマーとするエチレン系共重合体、プロピレンと炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンと炭素数4〜20のα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の各種ビニル化合物をコモノマーとするプロピレン系共重合体などが含まれる。オレフィン系樹脂(C1)は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ3−メチル−1−ブテン、環状オレフィン共重合体、および塩素化ポリオレフィンなどが好ましい。
1−4−1−2.その他の熱可塑性樹脂(C2)
材料(C)は、上記以外の熱可塑性樹脂(C2)であってもよい。このような熱可塑性樹脂(C−4)の例には、脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、およびナイロン612)などを含むポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系エラストマー、ビニル芳香族系樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、およびAS樹脂などを含むポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸アクリレート共重合体、公知のアイオノマー、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、フッ素系樹脂ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイドポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ならびにポリエーテルスルホンなどが含まれる。
1−5.その他の成分
熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、上述した以外の添加剤をさらに含んでいてもよい。
たとえば、熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、分解温度調整剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤、金属害防止剤、結晶核剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、および軟化剤等の添加剤を含んでもよい。
上記架橋剤の例には、加熱により分解して熱可塑性樹脂を発泡させる有機過酸化物が含まれる。上記有機過酸化物の例には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどが含まれる。
上記有機過酸化物の含有量は、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5.0質量部以下であることがより好ましい。有機過酸化物の含有量が上記範囲内であると、上記熱可塑性樹脂組成物の架橋が進行しやすく、また、上記熱熱可塑性樹脂組成物を発泡して得られる発泡体中に残存する有機過酸化物の分解残渣の量を抑制することができる。
上記架橋助剤の例には、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、およびトリアリルイソシアヌレートおよびの1分子中に3個の官能基を持つ化合物、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、ジビニルベンゼンおよびネオペンチルグリコールジメタクリレート、などの1分子中に2個の官能基を持つ化合物、ならびに、エチルビニルベンゼン、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどの1分子中に1個の官能基を持つ化合物が含まれる。
上記発泡剤の例には、熱分解型発泡剤が含まれる。熱分解型発泡剤は、熱可塑性樹脂組成物を製造する際の混練温度より高い分解温度を有する化合物であればよく、例えば、分解温度が160℃以上270℃以下の有機系発泡剤および無機系発泡剤とすることができる。
上記有機系発泡剤の例には、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウムなどを含むアゾジカルボン酸金属塩、アゾビスイソブチロニトリルなどを含むアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどを含むニトロソ化合物、ヒドラゾジカルボンアミド、4,4'−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)およびトルエンスルホニルヒドラジドなどを含むヒドラジン誘導体、ならびにトルエンスルホニルセミカルバジドなどを含むセミカルバジド化合物などが含まれる。
上記無機系発泡剤の例には、酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、および無水クエン酸モノソーダなどが含まれる。
上記熱分解型発泡剤は、微細な気泡を得られ、かつ、安価であり安全性も高いことから、アゾ化合物およびニトロソ化合物が好ましく、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、およびN,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンがより好ましく、アゾジカルボンアミドがさらに好ましい。
上記熱分解型発泡剤の含有量は、発泡後の熱可塑性位樹脂組成物100質量部に対して0.5質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.7質量部以上25質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以上20質量部以下であることがさらに好ましい。熱分解型発泡剤の含有量が上記範囲内であると、上記熱可塑性樹脂組成物を十分に発泡させることができ、また、発泡により生じた気泡の破裂も生じにくい。
上記軟化剤の例には、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、石油アスファルトおよびワセリンなどを含む石油系物質、コールタールおよびコールタールピッチなどを含むコールタール類、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油および椰子油などを含む脂肪油、トール油、蜜ロウ、カルナウバロウおよびラノリンなどを含むロウ類、リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−水酸化ステアリン酸、モンタン酸、オレイン酸およびエルカ酸などを含む脂肪酸またはその金属塩、石油樹脂、クマロンインデン樹脂およびアタクチックポリプロピレンなどを含む合成高分子、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペートおよびジオクチルセバケートなどを含むエステル系可塑剤、マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエンまたはその変性物もしくは水添物、ならびに液状チオコールなどを含む公知の軟化剤が含まれる。
前記充填剤の例には、マイカ、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、グラファイト、ステンレス、アルミニウムなどの粉末充填剤;ガラス繊維や金属繊維などを含む繊維状充填剤、親水性の層状粘土鉱物、および公知の特定形状(層状を除く)の親水性無機化合物などが含まれる。
上記親水性の層状粘土鉱物の例には、2次元に広がる層が複数積層されたフィロ珪酸塩鉱物、たとえば、スメクタイトなどが含まれる。スメクタイトは、モンモリロン石群鉱物である。スメクタイトの例には、モンモリロン石(モンモリロンナイト)、マグネシアンモンモリロン石、テツモンモリロン石、テツマグネシアンモンモリロン石、バイデライト、アルミニアンバイデライト、ノントロン石、アルミニアンノントロナイト、サポー石(サポナイト)、アルミニアンサポー石、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、およびベントナイトなどが含まれる。
上記親水性の層状粘土鉱物の例には、バーミキュル石(バーミキュライト)、ハロイサイト、膨潤性マイカ、および黒鉛などが含まれる。このような親水性の層状粘土鉱物の市販品の例には、クニミネ工業社製クニピアシリーズ(モンモリロナイト)、ホージュン社製ベンゲルシリーズ(ベントナイト)、およびコープケミカル社製ソマシフMEシリーズ(膨潤性マイカ)などを含む天然品、ならびに、クニミネ工業社製スメクトン(サポナイト)、コープケミカル社製ルーセンタイトSWNシリーズ(ヘクトライト)、およびロックウッドホールディングス社製ラポナイト(ヘクトライト)などの合成品などが含まれる。一般に、合成品は天然品よりも最大長さが小さいため小さい油滴を得ることができるため、上記親水性の層状粘土鉱物は、合成品が好ましい。
前記難燃剤の例には、アンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ほう酸亜鉛、グァニジン系難燃剤、ジルコニウム系難燃剤等の無機化合物、ポリリン酸アンモニウム、エチレンビストリス(2−シアノエチル)ホスフォニウムクロリド、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド等のリン酸エステルおよびその他のリン化合物、塩素化パラフィン、塩素化ポリオレフィン、パークロロシクロペンタデカン等の塩素系難燃剤、ヘキサブロモベンゼン、エチレンビスジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、エチレンビステトラブロモフタルイミド、テトラブロモビスフェノールA誘導体、テトラブロモビスフェノールS、およびテトラブロモジペンタエリスリトール等の臭素系難燃剤、ならびにこれらの混合物が含まれる。
これら軟化剤、充填剤、難燃剤等、粘着付与剤以外の添加剤の使用量の合計は、4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、スチレン系エラストマー(B2)と、その他の熱可塑性樹脂およびゴムから選択される材料(C)と、の合計を100質量部として、0.001〜50質量部とすることが好ましい。
1−6.熱可塑性樹脂組成物の製造方法
上記熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。たとえば、上述した4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体(A)と、スチレン系エラストマー(B2)と、材料(C)と、任意に含まれる上記その他の成分と、を混合して、熱可塑性樹脂組成物とすることができる。このとき、上記各樹脂の溶融温度以上に加熱して混合してもよい。
上記熱可塑性樹脂組成物は、発泡させることが好ましい。このとき、上記熱可塑性樹脂組成物は、組成物に化学発泡剤や炭化水素を中心とした溶媒、超臨界二酸化炭素や窒素ガスなどの気体を含ませることによって発泡体とすることが好ましく、さらに架橋させた後に発泡させることが好ましい。二酸化炭素を含む超臨界流体を発泡体として使用する際は、超臨界流体を供給して、超臨界流体を熱可塑性樹脂に溶解・含侵させる。ここで、超臨界流体は加圧または減圧した状態で注入する方法等が採用される。供給する超臨界流体は、臨界圧以上、好ましくは15MPa以上で、上記熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、0.1重量部以上20重量部以下、好ましくは0.5重量部以上10重量部以下の量を供給および浸透させる。このように、超臨界流体を含侵させた後、温度、圧力の低下により超臨界状態を解除して、発泡させる。例えば、射出成形機を用いて発泡させる場合には、熱可塑性樹脂を金型内に充填させることによる温度低下で、超臨界状態が解除され発泡する。超臨界流体の優れた溶解性・拡散性により、微細・均一な発泡セルを形成することができる。そのため、機械的強度に優れる軽量な樹脂発泡体を得ることができる。
上記架橋は、熱可塑性樹脂組成物に電離性放射線を照射する方法、および熱可塑性樹脂組成物を加熱して予め含有させておいた有機過酸化物を分解させる方法などにより行うことができる。これらの方法は併用されてもよい。
上記電離性放射線の例には、α線、β線、γ線、および電子線などが含まれる。これらのうち、電子線が好ましい。熱可塑性樹脂組成物に対する電離性放射線の照射量は、1.0Mrad以上10Mrad以下であることが好ましい。照射量を1Mrad以上とすることで、後述する発泡に必要な適切な大きさの剪断粘度を熱可塑性樹脂組成物に付与しやすくなる。照射量を10Mrad以下とすることで、上記剪断粘度が高くなりすぎず、発泡性を適度に調整することができる。上記観点から、電離性放射線の照射量は、2.0Mrad以上10Mrad以下であることがより好ましい。
また、電離性放射線により発泡体組成物を架橋する場合には、発泡体組成物は、架橋助剤を含有することが好ましい。架橋助剤を用いる場合の電離性放射線の照射量は、架橋助剤の量にもよるものの、0.3Mrad以上8Mrad以下であることが好ましく、0.5Mrad以上5Mrad以下であることがより好ましく、0.5Mrad以上2.5Mrad以下であることがさらに好ましい。
上記架橋は、熱可塑性樹脂組成物の架橋度が15%以上80%以下になるように行うことが好ましい。熱可塑性樹脂組成物の架橋度が15%以上であると、熱可塑性樹脂組成物が高温時に軟質化しにくくなり、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性がより高くなる。熱可塑性樹脂組成物の架橋度が80%以下であると、分子構造が適切に架橋固定されて高温時の伸長特性が高くなり、熱可塑性樹脂組成物の成形をより容易にすることができる。上記観点からは、上記架橋は、熱可塑性樹脂組成物の架橋度が20%以上78%以下になるように行うことがより好ましく、熱可塑性樹脂組成物の架橋度が25%以上70%以下になるように行うことがさらに好ましい。熱可塑性樹脂組成物の架橋度は、有機化酸化物の添加量や、電離性放射線の照射量等により適宜調整することができる。
上記発泡は、発泡剤を発泡させて行うことが好ましい。発泡剤の発泡は、公知の方法、たとえば、熱風により加熱する方法、赤外線により加熱する方法、塩浴による方法、オイルバスによる方法などにより行うことができる。これらの方法は併用されてもよい。加熱により発泡剤を発泡させるとき、加熱温度は、発泡剤(特には熱分解性発泡剤)の分解温度にもよるものの、通常は140℃以上300℃以下であり、150℃以上280℃以下であることが好ましい。
上記発泡は、熱可塑性樹脂組成物の発泡倍率が、1.1cc/g以上50cc/g以下となるように行われることが好ましい。発泡倍率が1.1cc/g以上であると、熱可塑性樹脂組成物の衝撃吸収性および柔軟性を十分に向上させることができる。発泡倍率が50cc/g以下であると、発泡体の機械強度などがより高くなる。衝撃吸収性、柔軟性および機械強度をいずれもより高める観点からは、発泡倍率は、3.0cc/g以上50cc/g以下であることがより好ましく、10cc/g以上45cc/g以下であることがさらに好ましい。
2.挿耳部材
2−1.挿耳部材の形状
挿耳部材の形状は、使用者の外耳孔に挿入および取り出し可能な形状であれば特に限定されない。
ただし、挿耳部材は、その外形が、使用者の外耳孔に挿入可能な形状であればよい。たとえば、挿耳部材は、スピーカや外部の機器からスピーカに音声情報を伝える導線などの周囲を被覆する形状であってもよいし、上記スピーカから再生された音声を使用者の鼓膜の方向に進行させるための孔を有する、筒状の形状であってもよい。
挿耳部材は、使用者の外耳孔に挿入可能な形状に上記熱可塑性樹脂組成物を成形した成形体により、その全体が構成されてもよい。あるいは、挿耳部材は、使用者の外耳孔に挿入可能な形状の軟質部材からなる本体部と、前記本体部の表面を被覆する前記熱可塑性樹脂組成物のシート状の成形体と、を有してもよい。
上記本体部を構成する軟質部材の材料は、使用者の外耳孔に挿入および取り出し可能な程度の柔軟性および弾性を有する材料であればよく、たとえば、ショアーA硬度が30以下の材料およびショアーC硬度が80以下の材料であればよい。上記軟質部材の材料の例には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)発泡体、合成ゴム(EPDM)発泡体およびウレタン発泡体、ならびにシリコーン樹脂およびスチレン系エラストマーを含む低硬度樹脂が含まれる。
上記熱可塑性樹脂組成物のシート状の成形体は、上記本体部のうち、使用者の外耳孔と接する少なくとも一部の表面を被覆すればよい。上記シート状の成形体の厚みは、50μm以上800μm以下とすることができ、100μm以上500μm以下であることが好ましい。
2−2.挿耳部材の製造方法
挿耳部材は、押出成形、プレス成形、射出成形、カレンダー成形、中空成形などを含む公知の方法で、予め取得した使用者の耳型と同じ形状に上記熱可塑性樹脂組成物を成形して、製造することができる。あるいは、各種サイズの、ヒトの外耳孔に挿入可能な形状に上記熱可塑性樹脂組成物を成形して、使用者が自分の耳に適合するサイズの挿耳部材を選択可能としてもよい。上記熱可塑性樹脂組成物から成形した挿耳部材は、形状追従性が高く、かつ復元しやすいため、挿入後に外耳孔に適合した形状に変形することができる。
また、上述した材料を予め使用者の耳型と同じ形状に作製してなる本体部の表面に、公知の方法でシート状に成形した上記熱可塑性樹脂組成物を、公知の接着剤または熱融着などにより被覆させてもよい。あるいは、上述した材料を予め使用者の耳型と同じ形状に作製してなる本体部の表面に、上記熱可塑性樹脂組成物の成形体を、押出コーティングにより積層させてもよい。あるいは、上述した本体部の材料と、上記熱可塑性樹脂組成物とを、共押出して、上記熱可塑性樹脂組成物のシート状の成形体を本体部の表面に被覆させてもよい。
挿耳部材は、成形後に、内圧調整などのための穴または切れ込みを側面に形成されてもよい。あるいは、経血収集部は、これらの穴または切れ込みを有する形状に成形されてもよい。
2−3.挿耳部材の用途
上記挿耳部材は、補聴器などの音声認識装置が有するイヤーモールドとして使用することができる。上記音声認識装置は、耳かけ型、耳あな型およびポケット型のいずれでもよい。
また、上記挿耳部材は、耳栓として使用することができる。このとき、上記挿耳部材は、耳の外部と鼓膜とを結ぶ方向に貫通する孔を有さない、内部充填された形状とする。
また、上記挿耳部材は、イヤホンなどの装着型音声出力装置のイヤーピースとすることができる。
上記挿耳部材は、使用者の外耳孔に挿入したとき、外耳孔の形状に追従して変形する。そのため、外耳孔の形状と挿耳部材の形状とのずれによる使用者の違和感が低減され、かつ、上記形状のずれによる音漏れなども低減することができる。
また、挿耳部材は、使用者の外耳孔の形状に追従して変形するため、使用者の外耳孔の形状を模して作製する必要がない。そのため、石膏またはシリコーン樹脂を使用者の外耳孔に挿入しての型取りや、挿耳部材の材料となる樹脂を使用者の外耳孔に挿入しての、当該外耳孔と同じ形状への挿耳部材の造形などが不要であり、製造時の使用者への負担も軽減される。