本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
≪セルロース組成物≫
本発明の一態様は、セルロースナノファイバーを含むセルロース組成物であって、セルロース組成物を水中にセルロース濃度0.5質量%で含有させてなる試験用分散液を23℃及び標準大気圧にて静置する沈降試験において、下記式(1):
S0-10=(H0−H10)/10
(式中、H0は静置開始時の試験用分散液の液面高さであり、H10は静置開始10分後の試験用分散液の分離界面高さである。)
に従って求められる初期沈降速度S0-10が、0.1mm/分以上、10mm/分以下である、セルロース組成物を提供する。
本発明者らは、セルロースナノファイバーを含むセルロース組成物が特定範囲かつ比較的大きい初期沈降速度S0-10を有する場合、予想外にも、セルロースナノファイバーを樹脂中に容易かつ良好に分散できることを見出した。セルロースナノファイバーは、一旦乾燥されると、セルロース分子同士が水素結合によって極めて強固に相互作用してしまい、流体中で再び分散させようとしても均一な分散が困難である。流体が、樹脂モノマー、溶融樹脂等の疎水性流体である場合には、セルロースナノファイバーの分散が特に困難である。しかし、セルロース組成物が特定の初期沈降速度S0-10を有する場合、一旦乾燥されたセルロースナノファイバーを流体中に分散させた場合であっても、セルロースナノファイバーが容易かつ良好に分散する。その理由は定かではないが、セルロース組成物中にセルロースナノファイバーが相当量存在しながらも当該セルロース組成物中に存在するセルロース全体での比表面積が大きくなり過ぎていないことによって、セルロース同士の強固な凝集が抑制されており、結果的に、セルロース組成物中のセルロースナノファイバーが樹脂中での均一分散に適した存在状態を保持できているものと推測される。セルロース組成物の初期沈降速度S0-5又はS0-10を所望の範囲に制御する手段としては、セルロース組成物の製造時の解繊において、解繊装置の種類、解繊エネルギー、解繊時間等の1つ以上を制御することが挙げられる。
一態様において、初期沈降速度S0-10は、セルロースナノファイバーを樹脂中に容易かつ良好に分散させるという観点から、0.1mm/分以上であり、好ましくは、0.5mm/分以上、又は1.0mm/分以上、又は2.0mm/分以上であり、セルロースが適度に微細化されており樹脂に対する物性向上効果が高いという観点から、10mm/分以下であり、好ましくは、9.5mm/分以下、又は9.0mm/分以下、又は8.5mm/分以下である。
特に、上記沈降試験において、下記式(2):
S0-5=(H0−H5)/5
(式中、H0は静置開始0分後の試験用分散液の分離界面高さであり、H5は静置開始5分後の試験用分散液の分離界面高さである。)
に従って求められる初期沈降速度S0-5が、初期沈降速度S0-10として上記で列挙した範囲にあることが、セルロースの樹脂中での分散容易性と良好な物性向上効果との両立の観点から好ましい。
セルロース組成物は、一態様において分散体であってよく、一態様において乾燥体であってよい。一態様において、セルロース組成物は、セルロースナノファイバーと後述の粗大セルロース成分との両者を含む。セルロースナノファイバーと粗大セルロース成分との共存は、本開示で言及する沈降速度を本開示の範囲内に制御することに寄与し得る。
<セルロース>
セルロース組成物に含まれるセルロース(一態様において、セルロースナノファイバーと粗大セルロース成分とを含むセルロース)は、天然セルロース及び再生セルロースから選ばれる各種セルロース繊維原料から得られるものであってよい。セルロースは後述のように化学修飾されたものであってもよい。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体*の極細糸等を使用できる。これらの原料は、必要に応じて、グラインダー、リファイナー等の機械力による叩解、フィブリル化、微細化等によって、繊維径、繊維長、フィブリル化度等を調整したり、薬品を用いて漂白、精製し、セルロース以外の成分(リグニン等の酸不溶成分、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、等)の含有率を調整したりすることができる。
一態様において、セルロース繊維原料は化学修飾されてよく、硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル等の無機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化処理パルプ等をセルロース繊維原料として使用できる。
セルロースナノファイバーの繊維径は、一態様において2nm以上であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは100nm以上、特に好ましくは300nm以上である。一方、上限は、一態様において1000nm以下であり、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下である。繊維径が2nm以上であると、セルロースの結晶性が良好に保持され好ましい。繊維径が1000nm以下であると、樹脂組成物のフィラーとしての性能向上効果が良好である。一態様において、ナノファイバーは、繊維径1000nm超の粗大繊維から繊維径1000nm以下の微細繊維が分岐している構造を有する分岐セルロース繊維の当該微細繊維部位であってもよい。
セルロース組成物に含まれるセルロース(一態様において、セルロースナノファイバーと後述の粗大セルロース成分とを含む)の平均繊維径は、一態様において2nm以上であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは100nm以上、特に好ましくは300nm以上である。一方、上限は、一態様において1000nm以下であり、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下である。平均繊維径が2nm以上であると、セルロースの結晶性が良好に保持され好ましい。平均繊維径が1000nm以下であると、樹脂組成物のフィラーとしての性能向上効果が良好である。
セルロースの繊維径は、セルロースの水分散液を水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert−ブタノール等)で0.01〜0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものをSEM測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。平均繊維径は、少なくとも100本の繊維状物形状が観測されるようにSEMの倍率を調整し、無作為に選んだ100本の繊維状物形状の繊維径の数平均値として得られる。
一態様において、セルロース組成物に含まれるセルロースは、セルロースナノファイバーに加えて、繊維径1000nm超の粗大セルロース成分を含む。一態様において、粗大セルロース成分は、上記分岐セルロース繊維の粗大繊維部位であってもよい。このような粗大セルロース成分が多いほど沈降速度は大きくなる傾向がある。沈降速度を適度な範囲に調整する観点から、セルロース総量100%に対する、又はセルロースナノファイバーと粗大セルロース成分との合計100%に対する、繊維径1000nm超の粗大セルロース成分の比率は、本数基準(具体的には、上記SEM測定サンプルの倍率10000倍のSEM画像上で繊維状物形状として観察される本数単位であり、例えば上記分岐セルロース繊維では粗大繊維部位と微細繊維部位とが別個にカウントされる。)で、それぞれ、好ましくは、1%以上、又は3%以上、又は5%以上であり、好ましくは、30%以下、又は20%以下、又は10%以下である。繊維径1000nm超の粗大成分の比率は、上記SEM測定サンプル及び高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、任意に引いた直線上に1000本以上のセルロースが観察されるように倍率が調整された観察視野にて、当該直線に交わるセルロースの繊維径を計測して求める。具体的には、上記任意に引いた直線とセルロース繊維表面を示す線との交点からセルロース繊維内を通りセルロース繊維表面を示す別の線と交わるまで延ばした線分の最短距離を繊維径として計測する。繊維径1000nm超の繊維と繊維径1000nm以下の繊維との本数を数え、粗大成分の比率を算出する。
セルロースナノファイバーは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロースを加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の粉砕法にて解繊することによって得ることができる。
一態様において、セルロースナノファイバーを得る方法としては、セルロース繊維原料を微細化処理する方法を例示できる。微細化処理は公知の微細化処理方法により実施することができる。例えば、繊維径が1000nm超の繊維から繊維径1000nm以下(例えば2nm以上1000nm以下)のセルロースナノファイバーを得る場合は、水又は有機溶媒中で、例えば、マスコロイダー等の磨砕機、又は高圧ホモジナイザーを用いた処理を行うことで微細化を行うことができる。
微細化処理に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3〜6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1〜6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2〜5の低級アルキルエーテル;DMSO、DMF、DMAc、NMP、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、微細化処理の操作性の観点から、炭素数1〜6のアルコール、炭素数3〜6のケトン、炭素数2〜5の低級アルキルエーテル、DMSO、DMF、DMAc、NMP、コハク酸メチルトリグリコールジエステル、トルエン等が好ましい。
微細化処理における水又は有機溶媒の使用量は、微細化前の繊維を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、微細化前の繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは10質量倍以上、さらに好ましくは50質量倍以上であり、好ましくは2000質量倍以下、より好ましくは1000質量倍以下である。
また、微細化処理で使用する装置としては、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、リファイナー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ホモミキサー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、単軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。セルロースナノファイバーは、液体媒体中の分散体、又は乾燥体の形態で回収できる。分散体中の液体媒体は、水に加えて、任意に1種単独又は2種以上の組合せで他の液体媒体(例えば上記で例示した有機溶媒の1種以上)を更に含み得る。
粗大セルロース成分のサイズ及び量は、例えば上記微細化処理の条件設計によって調整され得る。例えば、コットンリンターパルプ1.5質量部に水を98.5質量部に加えて分散させ、相川鉄工(株)製ラボリファイナーSDR14型を用い、ディスク間のクリアランスをほぼゼロに近いレベルまで低減させた条件下で叩解を行うことで得ることができる。または、コットンリンターパルプ1質量部にジメチルスルホキシド19質量部を加え、みづほ工業製ホモミキサーTW−1−35を用い、ホモミキサー4500rpmで例えば4時間解繊することで得ることができる。
典型的な態様において、セルロース組成物に含まれるセルロースの結晶構造は、セルロースI型及び/又はII型を有する。セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型等が知られている。I型及びII型のセルロースは汎用されている一方、III型及びIV型のセルロースは実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。
結晶構造は、グラファイトで単色化したCuKα(λ=0.15418nm)を用いた広角X線回折より得られる回折プロファイルより同定することが可能である。セルロースI型は2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置にピークを有する。セルロースII型は2θ=10°〜19°に1つのピークと、2θ=19°〜25°に2つのピークとを有する。セルロースI型及びセルロースII型が混在する場合、2θ=10°〜25°の範囲で最大6本のピークが観測される。
セルロース組成物に含まれるセルロースの結晶化度は、好ましくは50%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロースの力学物性(特に強度及び寸法安定性)が高まるため、セルロースを樹脂に分散してなる樹脂組成物の強度及び寸法安定性が高くなる傾向にある。本実施形態のセルロースの結晶化度は、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%であり、最も好ましくは70%である。セルロースの結晶化度は高いほど好ましい傾向にあるので、上限は特に限定されないが、生産上の観点から99%が好ましい上限である。
結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10〜30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=[I(200)−I(amorphous)]/I(200)×100
I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%)=h1/h0×100
セルロースの重合度(DP)は、100以上12000以下であることが好ましい。重合度はセルロース分子鎖を形成する無水グルコース単位の繰返し数である。セルロースの重合度が100以上であることで、繊維自体の引張破断強度及び弾性率が向上し、セルロースを含む樹脂組成物の高い引張破断強度及び熱安定性が発現するため好ましい。セルロースの重合度に特に上限はないが、12000を超える重合度のセルロースは実質的に入手が困難であり、工業的な利用が難しい傾向がある。取扱性及び工業的実施の観点から、セルロースの重合度は、150〜8000が好ましい。
重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
セルロースの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100000以上であり、より好ましくは200000以上である。セルロースの重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロースの重量平均分子量が大きいのみでなく重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合、特に高耐熱性のセルロース、及びセルロースと樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。セルロースの重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、セルロースの製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、せん断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
ここで、セルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N−ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
本実施形態のセルロースはリグニン等を含む酸不溶成分及び/又はヘミセルロース等を含むアルカリ可溶多糖類を含んでいても良い。酸不溶成分及びアルカリ可溶多糖類の含有量はセルロースの耐熱性及び樹脂組成物中の分散性に影響を及ぼすため、目的に応じて調整すれば良い。一般的に酸不溶成分及びアルカリ可溶多糖類の含有量が多いと、セルロースの耐熱性低下及びそれに伴う変色、セルロースの力学的特性の低下等を誘起する。したがって、例えば、ポリアミド樹脂のような高温で溶融混練する樹脂を用いて樹脂組成物を製造する場合、セルロース中の酸不溶成分及びアルカリ可溶多糖類の平均含有率は少ない方が好ましい場合がある。
セルロースの酸不溶成分平均含有率は、好ましくは10質量%未満、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下、さらにより好ましくは6質量%以下、最も好ましくは5質量%以下である。酸不溶成分平均含有率は、0質量%であってよいが、セルロースの製造容易性の観点から、例えば0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
セルロース中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下、特に好ましくは8質量%以下、最も好ましくは5質量%以下である。アルカリ可溶多糖類平均含有率は、0質量%であってよいが、セルロースの製造容易性の観点から、例えば1質量%以上、又は3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。
本開示におけるアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β−セルロース及びγ−セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα−セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロースの強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロース中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
アルカリ可溶多糖類含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
セルロースは、修飾化剤によって化学修飾されていてよい。セルロースの修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、セルロースの水酸基と反応してアシル基を生成する化合物、例えば、カルボン酸ハロゲン化物、酸無水物(すなわちカルボン酸無水物)、カルボン酸ビニルエステル又はカルボン酸から選択される化合物を使用できる。好ましい一態様において、エステル化はアセチル化である。上記のカルボン酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステルの各々を構成するカルボン酸としては、飽和脂肪酸、不飽和(モノ不飽和、ジ不飽和、トリ不飽和、テトラ不飽和、ペンタ不飽和、ヘキサ不飽和等)脂肪酸、芳香族カルボン酸、アミノ酸、イミド化合物等を例示できる。カルボン酸は、単塩基酸でも多塩基酸でもよい。カルボン酸が低級(例えば炭素数1〜24)のアルカノイルオキシ基を有することが、エステル化セルロースの製造容易性の点で好ましい。
飽和脂肪酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸及びアラキジン酸等が好ましい。飽和脂肪酸としては、分岐鎖アルキルカルボン酸(例えば、3,5,5−トリメチルヘキサン酸等)、環式アルカンカルボン酸(シクロヘキサンカルボン酸、t−ブチルシクロヘキサンカルボン酸等)及び、置換若しくは非置換フェノキシアルキルカルボン酸(フェノキシ酢酸、1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノキシ酢酸、ボルナンフェノキシ酢酸、ボルナンフェノキシヘキサン酸等)も挙げられる。
モノ不飽和脂肪酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等が挙げられる。
ジ不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等が挙げられる。
トリ不飽和脂肪酸としては、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等が挙げられる。
テトラ不飽和脂肪酸としては、ステアリドン酸及びアラキドン酸等が挙げられる。
ペンタ不飽和脂肪酸としては、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等が挙げられる。
ヘキサ不飽和脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等が挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸(3,4,5−トリヒドロキシベンゼンカルボン酸)、ケイ皮酸(3−フェニルプロパ−2−エン酸)等が挙げられる。
多塩基カルボン酸としては、ジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等、が挙げられる。
アミノ酸としては、グリシン、β−アラニン、ε−アミノカプロン酸(6−アミノヘキサン酸)等が挙げられる。
からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を例示できる。
カルボン酸ハロゲン化物の好適例としては、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R1−C(=O)−X (1)
(式中、R1は、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数3〜24のシクロアルキル基、又は炭素数6〜24のアリール基を表し、Xは、Cl、Br又はIである。)
カルボン酸ハロゲン化物の好適例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、カルボン酸クロリドは反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。
酸無水物の好適例としては、酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸の無水物;シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸の無水物;安息香酸、4−メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸の無水物;二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;無水1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸;無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等、多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。反応効率の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、及び無水酪酸が好ましく、無水酢酸が特に好ましい。
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R−COO−CH=CH2 …(1)
(式中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数3〜16のシクロアルキル基、又は炭素数6〜16のアリール基を表す。)
カルボン酸ビニルエステルの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
これらカルボン酸ビニルエステルの中でも、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニルからなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
カルボン酸としては、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R−COOH …(1)
(式中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数3〜16のシクロアルキル基、又は炭素数6〜16のアリール基を表す。)
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ピバリン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
反応系全体に対するエステル化剤の質量比率の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上である。0.1質量%以上であるとエステル化剤量が少なすぎず、反応性が良好であり好ましい。一方、上記質量比率の上限は、好ましくは80質量%未満、より好ましくは50質量%未満、さらに好ましくは30質量%未満である。80質量%未満であると高DSセルロースの溶出が抑えられるため、好ましい。
一態様において、反応促進の観点から、水性媒体は触媒をさらに含んでもよい。例えば、カルボン酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として作用させると同時に、副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物が挙げられるが、これに限定されない。
酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、リン酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
カルボン酸ビニルエステルの反応においては、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1〜3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
1〜3級アミン(すなわち、1級アミン、2級アミン、及び3級アミン)としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、トリス(3−ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
イミダゾール及びその誘導体としては、1−メチルイミダゾール、3−アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
ピリジン及びその誘導体としては、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド等が挙げられる。
カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、リン酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)を1種又は2種以上添加してもよい。
エステル化は、撹拌下で行うことが好ましい。撹拌の方法は特に限定されないが、各種撹拌機(せん断式、摩擦式、高圧ジェット式、超音波式等のもの)、溶解機、乳化機、分散機、混練機、ホモジナイザー等を用いて実施することができる。反応終了後のエステル化セルロースは、必要に応じて濃縮、洗浄等を経て、分散体又は乾燥体として回収できる。
セルロースがエステル化セルロースである場合、アシル置換度(DS)は、一態様において1.0以下であり、好ましくは0.1以上1.0以下である。DSが0.1以上であれば、熱分解開始温度が高い、エステル化セルロース及びこれを含む樹脂組成物を得ることができる。一方、DSが1.0以下であると、エステル化セルロース中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた、エステル化セルロース及びこれを含む樹脂組成物を得ることができる。DSはより好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.25以上、特に好ましくは0.3以上、最も好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.7以下、特に好ましくは0.6以下、最も好ましくは0.5以下である。
エステル化セルロースの上記アシル置換度(DS)は、エステル化セルロースの反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC−Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図1参照)。エステル化セルロースのDSは、後述するエステル化セルロースの固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C−Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
固体NMRによるエステル化セルロースのDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロースについて13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1−C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、−CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
エステル化セルロースにおいて、セルロース全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対するセルロース表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は1.05以上が好ましい。DS不均一比は値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂組成物の製造時の樹脂との親和性の向上、樹脂組成物の寸法安定性の向上につながる。DS不均一比はより好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上、特に好ましくは1.5以上、最も好ましくは2.0以上であり、エステル化セルロースの製造容易性の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。
DSsの値は、エステル化セルロースの修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
エステル化セルロースにおいては、DS不均一比の変動係数(CV)が小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。
DS不均一比の変動係数(CV)は、エステル化セルロースの水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDS及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)より変動係数を算出する。
DS不均一比 = DSs/DS
変動係数(%)= 標準偏差σ / 算術平均μ × 100
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2−C6帰属されるピーク(289eV、C−C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO−C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
セルロースの熱分解開始温度(TD)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において270℃以上であり、好ましくは275℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、セルロースの製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は300℃以下であってもよい。
本開示で、TDとは、図2の説明図に示すように、熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である(尚、図2(B)は図2(A)の拡大図である。)。セルロースの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
樹脂組成物中のセルロースの250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、セルロースを250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。
一態様において、セルロース組成物100質量%に対するセルロースの比率は、0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
一態様において、セルロース組成物100質量%に対するセルロースナノファイバーの比率は、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよく、20質量%以下、又は10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
一態様において、セルロース組成物100質量%に対する粗大セルロース成分の比率は、0.005質量%以上、又は0.05質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、3質量%以下、又は2質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
<追加の成分>
セルロース組成物は、セルロース及び分散媒に加えて追加の成分を更に含んでもよい。追加の成分としては、例えば、≪樹脂組成物≫の項で詳述する分散剤等を例示できる。一態様において、セルロース組成物100質量%に対する追加の成分の比率は、0.1質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上であってよく、20質量%以下、又は10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
<分散体>
一態様において、セルロース組成物は、セルロースと分散媒とを含む分散体であってよい。分散媒は、一態様において水を含み、一態様において水及び有機溶媒を含む。有機溶媒としては、微細化処理の際に用いる溶媒として前述したような溶媒を例示できる。セルロース組成物100質量%に対する分散媒の比率は、80質量%以上、又は90質量%以上であってよく、99.5質量%以下、又は99.0質量%以下、又は98.5質量%以下であってよい。
<乾燥体>
一態様において、セルロース組成物は乾燥体であってよい。一態様において、セルロースを含む乾燥体の含水率は、乾燥体の総量に対し、好ましくは50質量%以下、より好ましくは0.01〜40質量%、さらに好ましくは0.1〜30質量%、特により好ましくは0.1〜20質量%、最も好ましくは0.1〜10質量%に制御することができる。含水率は、ISO 15512に準拠した方法でカールフィッシャー水分計を用いて測定される値である。
≪セルロース組成物の製造方法≫
セルロース組成物は、例えば、
セルロース原料を、水及び任意成分として有機溶媒を含む分散媒に分散して分散体を得る工程、
分散体を機械解繊してスラリーを得る工程、及び
任意に、該スラリーを乾燥させて乾燥体を得る工程
を含む方法によって好ましく調製できる。セルロースの化学修飾をする場合には、機械解繊と同時又は機械解繊の後に、セルロースの化学修飾を行うことが好ましい。有機溶媒としては、DMSO、DMF、DMAc、NMP等、特に、DMSOが好適である。この場合、熱分解開始温度が高いセルロースをより効率的に製造することができる。この作用機序は必ずしも明らかではないが、非プロトン性溶媒中でのセルロース原料の均質なミクロ膨潤に起因するものと推察される。
セルロースの機械解繊に用いる装置としては、例えば、遊星ボールミル及びビーズミルのような衝突剪断が加わる装置、ディスクリファイナー及びグラインダーのようなセルロースのフィブリル化を誘因する回転剪断場が加わる装置、或いは各種ニーダー及びプラネタリーミキサーのような混練、撹拌、及び分散の機能を高効率で実施可能な装置を用いることができる。解繊装置の種類、解繊エネルギー、解繊時間等の1つ以上を制御することによって、セルロース組成物の初期沈降速度を制御できる。中でも、解繊エネルギーを制御することは、初期沈降速度の制御に有用である。解繊エネルギーは、セルロース組成物の初期沈降速度を容易に制御する観点から、セルロース固形分1kg当たり、好ましくは、30kWh以下、又は20kWh以下、又は18kWh以下である。上記エネルギーは、機械解繊を良好に進行させる観点から、セルロース固形分1kg当たり、好ましくは、5kWh以上、又は8kWh以上、又は10kWh以上であってよい。解繊エネルギーは、例えば、ディスクリファイナーを用いる場合のディスク間のクリアランスの調整の他、回転数を調整する等の方法で制御され得る。
一態様においては、機械解繊後のスラリーを乾燥させてよい。
≪樹脂組成物及びその製造方法≫
本発明の一態様は、本開示のセルロース組成物を用いて製造される、セルロースナノファイバーと樹脂とを含む樹脂組成物、及び当該樹脂組成物の製造方法であって、本開示のセルロース組成物と、樹脂とを混合することを含む方法を提供する。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、ゴム等を用いることができる。
樹脂組成物の総質量に対する樹脂の質量比率は、セルロース(特にセルロースナノファイバー)の良好な分散の観点から、好ましくは、50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上であり、樹脂組成物に対して、セルロース(特にセルロースナノファイバー)によって高弾性率化、熱膨張率の低減等の機能を付与する観点から、好ましくは、99.5質量%以下、又は90質量%以下である。
樹脂組成物の総質量に対するセルロースの質量比率は、セルロースによる物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は5質量%以上、又は10質量%以上であり、セルロースの樹脂中の良好な分散性を得る観点から、好ましくは、40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下である。
樹脂組成物中の、樹脂100質量部に対するセルロースの量は、樹脂組成物の物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量部以上、又は1質量部以上、又は2質量部以上、又は3質量部以上であり、樹脂組成物の製造時及び使用時の流動性の観点から、好ましくは、40質量部以下、又は30質量部以下、又は20質量部以下、又は10質量部以下である。
一態様においては、セルロースナノファイバーを含むセルロース成分が乾燥状態でベース樹脂に混入された後に高度に再分散するため、樹脂対比のセルロース量(特にセルロースナノファイバー量)が少なくても十分な力学的特性を実現することができる。一態様において、ベース樹脂100質量部に対し、セルロース量又はセルロースナノファイバー量は、それぞれ、好ましくは1質量部以上10質量部以下の割合とすることができる。特に、ベース樹脂100質量部に対し、1質量部以上5質量部以下であっても優れた力学的物性を実現することができるため、着色及び臭気と同時に組成物の吸湿性といった問題を極小化することができる。
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール等のビニル系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂等のニトリル系樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアミド;ポリウレタン;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸等のアクリル樹脂;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;液晶ポリマー;シリコーン樹脂;アイオノマー;セルロース(木材パルプ、綿等の天然セルロース;ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン及びテンセル等の再生セルロース);ニトロセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
熱可塑性樹脂の中でも、100℃〜350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、又は、100〜250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらの2種以上の混合物が好ましく挙げられ、取り扱い性及びコストの観点からより好ましくはポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂(特に結晶性樹脂)の融点は、樹脂組成物の耐熱性を高める観点から、好ましくは、140℃以上、又は150℃以上、又は160℃以上、又は170℃以上、又は180℃以上、又は190℃以上、又は200℃以上、又は210℃以上、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上である。
熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃〜190℃、又は160℃〜180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃〜350℃、又は230℃〜320℃、を例示できる。
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成形品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα−オレフィン類)やアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレン等α−オレフィンの共重合体等が挙げられる。
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。この際の酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及び、これらの無水物、並びにクエン酸等のポリカルボン酸から、適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下で融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。酸変性されたポリプロピレンは、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、0.5質量%〜50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。樹脂とセルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
酸変性されたポリプロピレンのISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)は、セルロース界面との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、更により好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特にないが、機械的強度の維持から500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、セルロースと樹脂との界面に存在しやすくなるという利点を享受できる。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂の例示としては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12や、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミン等のジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等のジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体、一例としてポリアミド6,T/6,I等の共重合体が挙げられる。
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、その末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、0.30〜0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロースの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等の末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7−228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H−NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003−055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H−NMRによる定量がより好ましい。
ポリアミド系樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6〜2.0dL/gであることが好ましく、0.7〜1.4dL/gであることがより好ましく、0.7〜1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7〜1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミドを使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。この粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。
これらの詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice−Hall,Inc 1994)の291ページ〜294ページ等に記載されている。
このとき濃度の異なるいくつかの測定溶媒の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。このとき、推奨される異なる粘度測定溶液の濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETと称することもある)、ポリブチレンサクシネート(脂肪族多価カルボン酸と脂肪族ポリオールとからなるポリエステル樹脂(以下、単位PBSと称することもある)、ポリブチレンサクシネートアジペート(以下、単にPBSAと称することもある)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、単にPBATと称することもある)、ポリヒドロキシアルカン酸(3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂。以下、単にPHAと称することもある)、ポリ乳酸(以下、単にPLAと称することもある)、ポリブチレンテレフタレート(以下、単にPBTと称することもある)、ポリエチレンナフタレート(以下、単にPENと称することもある)、ポリアリレート(以下、単にPARと称することもある)、ポリカーボネート(以下、単にPCと称することもある)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂は、PET、PBS、PBSA、PBT、PENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、PBTが挙げられる。
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率や末端安定化剤の添加の有無や量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、該ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロースの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3−ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3−ジオキソラン)由来構造の量としては0.01〜4モル%の範囲内がより好ましい。コモノマー成分由来構造の量の好ましい下限量は、0.05モル%であり、より好ましくは0.1モル%であり、さらにより好ましくは0.2モル%である。また好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、さらにより好ましくは2.5モル%、最も好ましくは2.3モル%である。
押出加工や成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
熱可塑性樹脂としては、アミド結合を有する化合物との親和性が良好である点で、親水性基(例えば、水酸基、アミノ基及びカルボキシ基から選ばれる1種以上)を有する樹脂が特に好ましい。親水性基を有する熱可塑性樹脂の好適例は、酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選択される1種以上である。中でもポリアミド系樹脂及びマレイン化ポリプロピレンが好ましい。
[熱硬化性樹脂]
熱硬化性樹脂の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂、エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル−1,3−ジグリシジルエーテル、ビフェニル−4,4’−ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールまたはプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、フェノキシ樹脂、尿素(ユリア)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環含有樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、ノルボルネン系樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアゾメチン樹脂、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
これらの熱硬化性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
[光硬化性樹脂]
光硬化性樹脂の具体例としては、特に制限されるものではないが、公知一般の(メタ)アクリレート樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、反応機構により、概ね光により発生したラジカルによりモノマーが反応するラジカル反応型と、モノマーがカチオン重合するカチオン反応型とに分類される。ラジカル反応型のモノマーには、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物(例えばある種のビニルエーテル)等が該当する。カチオン反応型としては、エポキシ化合物、ある種のビニルエーテル等が該当する。なお、例えば、カチオン反応型として用いることができるエポキシ化合物は、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の両者のモノマーとなり得る。
(メタ)アクリレート化合物とは、(メタ)アクリレート基を分子内に一つ以上有する化合物を指す。(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
ビニル化合物としては、ビニルエーテル、スチレン及びスチレン誘導体、ビニル化合物等が挙げられる。ビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。ビニル化合物としては、トリアリルイソイシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
さらに、光硬化性樹脂の原料として、いわゆる反応性オリゴマーを用いてもよい。反応性オリゴマーとしては、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、ウレタン結合、及びエステル結合から選ばれる任意の組合せを同一分子内に併せ持つオリゴマー、例えば、(メタ)アクリレート基とウレタン結合とを同一分子内に併せ持つウレタンアクリレート、(メタ)アクリレート基とエステル結合とを同一分子内に併せ持つポリエステルアクリレート、エポキシ樹脂から誘導され、エポキシ基と(メタ)アクリレート基とを同一分子内に併せ持つエポキシアクリレート、等が挙げられる。
光硬化性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
[エラストマー(ゴム)]
エラストマー(すなわちゴム)の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、改質天然ゴム(エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等)、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらのゴムは、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比は各種用途に応じて適宜選択されればよい。
<追加の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、その性能を向上させるために、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては特に限定されないが、例えば、セルロース以外のフィラー成分(例えば、アラミド繊維のフィブリル化繊維又は微細繊維);相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;着色剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等が挙げられる。任意の追加の成分の樹脂組成物中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01〜50質量%、又は0.1〜30質量%であってよい。
(分散剤)
分散剤は、樹脂組成物中でのセルロース(特にセルロースナノファイバー)の分散状態を向上、制御することによって、樹脂組成物の力学物性を向上させることができる。分散剤は、界面活性剤、沸点160℃以上の有機化合物、及びセルロースナノファイバーを高度に分散可能な化学構造を有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
樹脂組成物の総質量に対する分散剤の質量比率は、下限が、樹脂組成物の機械特性及び熱安定性の向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.01質量%以上、又は0.5質量%以上、又は0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上であり、上限が、樹脂組成物中の樹脂の所望の特性を良好に維持する観点から、好ましくは、20質量%以下、又は10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。
界面活性剤は、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有していればよく、食用、工業用等様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用できる。
界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロースとの親和性の点で、陰イオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
上述の中でも、セルロースとの親和性の点で、親水基としてポリオキシエチレン鎖、カルボン酸基、又は水酸基を有する界面活性剤が好ましく、親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)がより好ましく、非イオン系のポリオキシエチレン誘導体がさらに好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロースとの親和性が高まるが、コーティング性とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素鎖が5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。樹脂がポリオレフィンの場合、炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限はないが、上限は30以下が好ましく、25以下がより好ましい。
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましい。環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、及びスチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が好ましい。
これらの中でも、特にロジンエステル型、及び硬化ひまし油型がより好ましい。
また、樹脂の種類に依存するが、非界面活性剤系の分散媒体として、沸点160℃以上の有機化合物が有効であることがある。このような有機化合物の具体例として、例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合には、流動パラフィン、デカリン等の高沸点有機溶媒が有効である。また、樹脂がナイロン系樹脂及びポリアセタール系樹脂のような極性樹脂の場合には、セルロースを製造する際に使用できる非プロトン性溶媒と同様の溶媒、例えば、DMSOを使用することが有効な場合がある。
本開示の樹脂組成物は、セルロースナノファイバーの改善された分散性を有することができるため、セルロースナノファイバーを含む従来の樹脂組成物よりも低い線膨張性を示すことが可能となる。一態様において、樹脂組成物の温度範囲0℃〜60℃における線膨張係数は、好ましくは80ppm/k以下、より好ましくは70ppm/k以下、さらに好ましくは60ppm/k以下、さらに好ましくは55ppm/k以下、特に好ましくは50ppm/k以下、最も好ましくは45ppm/k以下である。線膨張係数は、低いほど好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば10ppm/k以上、又は15ppm/k以上であってよい。
一態様においては、引張降伏強度が、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂単独に比して飛躍的に改善する傾向がある。樹脂組成物の引張降伏強度の、セルロースナノファイバーを含まない組成物又は熱可塑性樹脂単独の引張降伏強度を1.0としたときの比率は、1.05倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.10倍以上、さらにより好ましくは1.15倍以上、特に好ましくは1.20倍以上、最も好ましくは1.3倍以上である。上記比率の上限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5.0倍であることが好ましく、より好ましくは4.0倍である。
一態様において、樹脂組成物は、セルロース組成物とベース樹脂とを混合し、熱溶融混練、熱硬化、光硬化、加硫等を行うことにより製造できる。更に、その樹脂組成物を成形することにより成形体を製造できる。なお、セルロース組成物を樹脂組成物製造において添加する際の形態は、特に限定されず、分散体又は乾燥体であることができる。例えば、セルロース組成物の製造時に、分散体の乾燥過程の途中で乾燥を中止する方法、一度乾燥させた後、水を添加する方法等によって調製した分散体を用いてもよい。
一態様において、樹脂組成物の製造方法は、セルロース組成物(乾燥体(例えば粉末)又は分散体(例えば水分散体)であってよい。以下同じ。)を、熱可塑性樹脂と溶融混練成型機の内部で混練し、次いで成形する工程を含む。
別の一態様において、樹脂組成物の製造方法は、セルロース組成物を熱硬化性樹脂と混合し、次いで成形し、次いで熱硬化処理を行う工程、又はセルロース組成物を光硬化性樹脂と混合し、次いで成形し、次いで光硬化処理を行う工程、を含む。
別の一態様において、樹脂組成物の製造方法は、セルロース組成物をゴムと混合し、次いで成形し、次いで加硫を行う工程を含む。
ベース樹脂が熱可塑性樹脂である場合の樹脂組成物の製法としては、特に制限はないが、例えば、
1.単軸又は二軸押出機を用いて、セルロース組成物と熱可塑性樹脂との混合物を溶融混練した後、
(1)ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、樹脂組成物のペレット状成形体を得る方法、
(2)棒状又は筒状に押出し冷却して、樹脂組成物の押出成形体を得る方法、若しくは
(3)Tダイより押出し、樹脂組成物のシート状又はフィルム状成形体を得る方法、又は
2.セルロース組成物と熱可塑性樹脂モノマーとを混合し、重合反応(具体的には固相重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等)を行い、得られた生成物を、上記(1)〜(3)のいずれかの方法で押出して、樹脂組成物の成形体を得る方法、
等が挙げられる。
樹脂組成物が追加の成分(例えば分散剤)を含む場合の樹脂組成物の製造方法としては、
1.ベース樹脂、セルロース組成物、及び追加の成分を所望の比率で混合した後、一括溶融混練する方法、
2.ベース樹脂及び追加の成分を溶融混練した後、セルロース組成物を添加して、更に溶融混練する方法、
等が挙げられる。
ベース樹脂が熱可塑性樹脂である場合、セルロース組成物とベース樹脂との混合物を溶融混練する際の加熱温度は、使用する樹脂に合わせて調整することができる。熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ナイロン66では255〜270℃、ナイロン6では225〜240℃、ポリアセタール樹脂では170℃〜190℃、ポリプロピレンでは160〜180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、混合成分を均一に混合することができる。
溶融混練には、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用できるが、二軸押出機がセルロースの分散性を制御する上で好ましい。押出機のシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dは、40以上が好ましく、特に好ましくは50以上である。また、混練時のスクリュー回転数は、100〜800rpmの範囲が好ましく、より好ましくは150〜600rpmの範囲内である。これらはスクリューのデザインにより、変化する。
押出機のシリンダー内の各スクリューは、楕円形の二翼のねじ形状のフルフライトスクリュー、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメント、等を組み合わせて最適化される。
一態様においては、押出機のシリンダーの途中部分に添加口が設置され、添加口に投入された原料はシリンダー内のスクリューに導かれる。一態様において、添加口の位置は、溶融混練ゾーンより下流に配置される。押出機を用いた通常の混練では、最初の樹脂溶融ゾーンが最も強く剪断がかかる領域であるため、搬送ゾーンを移動する未溶融状態の樹脂に対しフィラー成分を添加することにより、その後の加熱溶融下での剪断力でフィラーが微分散される。しかしながら、セルロースを強化フィラーとして樹脂に微分散させる場合、樹脂溶融ゾーンの手前でセルロースを添加すると、樹脂溶融ゾーンでの強い剪断力が原因でセルロースが劣化する場合がある。特に、セルロース単体での径がナノメートルサイズ(すなわち1000nm以下)であるセルロースナノファイバーを使用する場合、その表面積は極めて大きいため、通常のフィラー成分の樹脂に対する添加量比(具体的には、フィラー成分と樹脂との合計100質量%に対してフィラー成分20質量%以上)で強化樹脂組成を設計しようとした場合、上記剪断力によるセルロースナノファイバーの劣化が大きくなり、セルロースナノファイバーのもつ本来の強固な結晶構造の損失、強化樹脂としての力学的特性の低下、着色及び臭気といった問題が生じる場合がある。
本実施形態のセルロース組成物は、樹脂中で凝集せず良好に分散できるため、上記剪断下に長時間曝されることなく微分散が可能である。例えば、溶融された熱可塑性樹脂に対してセルロース組成物を添加した際、セルロース組成物は、既に溶融状態にある樹脂中で速やかに微分散し、その添加量が極めて微量、例えばベース樹脂である熱可塑性樹脂100質量部に対し10質量部以下であっても強化フィラーとして良好な機能を発揮し得、最終的に得られる樹脂組成物の力学的特性を確実に向上し、かつ着色及び臭気といった問題も良好に抑制することができる。
シリンダー内部を通過する際に受ける熱履歴の軽減を目的とし、添加口は、押出機の溶融混練ゾーンよりも下流側に設計することが好ましい。具体的には、シリンダーの全長(L1)に対し、シリンダーの出口から添加口までの長さ(L2)を1/2以下に設計することが好ましい。なおシリンダーの全長には混練に関与しない部分(例えば搬送ゾーン)も含まれる。
添加口からは、セルロース組成物が投入され、押出機内で溶融混練された熱可塑性樹脂中に混入される。本実施形態のセルロース組成物は再分散性に優れているため、押出機内の後工程で投入されても樹脂中で高度に分散させることができる。
熱可塑性樹脂が耐熱性に優れたエンジニアプラスチックであった場合、その溶融温度は非常に高温であるため、加工時には強い熱履歴がセルロースナノファイバーにもかかり、焼けによる着色及び臭気の問題が生じやすい。また、この強い熱履歴は、セルロース(特に天然セルロース)のもつ優れた力学的特性を部分的に失わせるため、熱可塑性樹脂にセルロースをフィラーとして添加したときの樹脂組成物の力学的特性の向上効果を低下させる。
本実施形態では、セルロースが、本開示の適度な沈降速度を呈し得るような形態を有しているため、溶融された樹脂に対して(好ましくは押出機の溶融混練ゾーンよりも下流、より好ましくはL2/L1が1/2以下、更に好ましくはL2/L1が1/3以下、最も好ましくはL2/L1が1/4以下に位置する添加口から)シリンダーにセルロース組成物を添加しても、セルロース(特にセルロースナノファイバー)が高度に分散した樹脂組成物を製造することができる。上記のような態様で投入されたセルロース組成物においては、熱履歴が緩和されているため、焼けによる着色及び臭気の発生が抑制される。また、本実施形態の方法によれば、熱履歴の緩和ととともにセルロース(特にセルロースナノファイバー)の高度な分散も実現できるため、樹脂組成物の高度な力学特性を実現することができる。
押出機の、添加口を含む部位(サイドフィーダー)の下流には、ガス抜きシリンダー、真空引きベント等を適宜設け、セルロース組成物投入時に混入した空気及び微量の水分(水蒸気)を脱気することができる。
また、二軸押出機は、先端排出部で樹脂に高圧がかかり、樹脂温度が上昇しやすい。この樹脂圧力を制御したり樹脂温度上昇を軽減する目的で、下流にギヤポンプを設置することができる。
本実施形態では、セルロース組成物が押出機内を搬送される距離を、熱可塑性樹脂と比較して短くできるため、セルロース組成物混入後のシリンダー内のスクリューの構成を工夫することで確実な均質分散を実現することができる。具体的には、これに限定するものではないが、進行方向と逆向きのフィードを作り出す反時計回りのスクリューを1箇所以上、添加口よりも下流側のシリンダー内に設けることにより、セルロース(特にセルロースナノファイバー)の高度な分散をより確実に実現することができる。
樹脂組成物の水分率は特に制限はないが、例えばポリアミドの場合、溶融時のポリアミドの分子量上昇を抑えるために、10ppm以上であることが好ましく、溶融時のポリアミドの加水分解を抑えるために1200ppm以下であることが好ましく、900ppm以下であることが更に好ましく、700ppm以下であることが最も好ましい。水分率は、ISO 15512に準拠した方法でカールフィッシャー水分計を用いて測定される値である。
ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いた樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられる。中でも、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型等が挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
一態様において、樹脂組成物は、セルロースから形成した不織布(単に不織布とも称す)と、熱可塑性樹脂との複合体であってよい。このような樹脂組成物は、特に限定されるものではないが、例えば以下のような操作によって製造できる。
(A)熱可塑性樹脂前駆体を不織布に含浸させて、該前駆体を重合させる方法。
(B)熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂前駆体を含む溶液を不織布に含浸又は塗布した後、乾燥し、加熱プレス等で密着させ、必要に応じて熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂前駆体を重合硬化させる方法。
(C)熱可塑性樹脂の溶融体を不織布に含浸し、加熱プレス等で密着させる方法。
(D)熱可塑性樹脂シートと不織布とを交互に配置し、加熱プレス等で密着させる方法。
セルロースから不織布を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、前述したようなセルロース水スラリーを抄紙又は塗布した後に乾燥する方法等を例示できる。
熱可塑性樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物は、種々の形状(例えば、フィルム状、シート状、繊維状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造等)の樹脂成形体に成形できる。樹脂成形体の製造方法に特に制限はないが、射出成形(例えば射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、及び超高速射出成形)、各種押出成形(コールドランナー方式又はホットランナー方式)、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、各種異形押出成形(例えば二色成形及びサンドイッチ成形)等を例示できる。例えば、シート、フィルム、繊維等の成形には種々の押出成形が好適である。シート又はフィルムの成形にはインフレーション法、カレンダー法、キャスティング法等も用いることができる。さらに、特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また、回転成形又はブロー成形等により中空成形品とすることも可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性とコストの観点より、特に好ましい。
ベース樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である樹脂組成物の製法としては、特に制限はないが、例えば、ベース樹脂溶液又はベース樹脂粉末分散体中にセルロース組成物を十分に分散させて乾燥する方法、ベース樹脂モノマー液中にセルロース組成物を十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、セルロース組成物から形成した成形体(例えば、シート、粉末粒子成形体等)にベース樹脂溶液又はベース樹脂粉末分散体を十分に含浸させて乾燥する方法、セルロース組成物から形成した成形体にベース樹脂モノマー液を十分に含浸させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法等が挙げられる。硬化に際し、種々の重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤等を配合することができる。
熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に特に制限はない。
熱硬化性樹脂の場合、板状の製品を製造するのであれば、押出成形法が一般的であるが、平面プレスによっても可能である。この他、異形押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等を用いることが可能である。またフィルム状の製品を製造するのであれば、溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができ、溶融成形方法を用いる場合、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。
また、未硬化又は半硬化のプリプレグと呼ばれるシートを作製した後、プリプレグを単層又は積層にして、加圧及び加熱して樹脂を硬化及び成形させる方法を用いてもよい。熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が挙げられるが、これらの成形方法に限定されない。
さらに、炭素繊維等の強化繊維のフィラメント又はプリフォームにベース樹脂硬化前の樹脂組成物を含浸させた後、当該ベース樹脂を硬化させて成形物を得る方法(例えば、RTM、VaRTM、フィラメントワインディング、RFI等の成形方法)が挙げられるが、これら成形方法に限定されない。
ベース樹脂が光硬化性樹脂である場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて成形体を製造する事ができる。
ベース樹脂がゴムである場合の樹脂組成物の製法としては、特に制限はないが、例えば、セルロース組成物とゴムとを乾式で混練する方法、セルロース組成物とゴムとを分散媒中に分散又は溶解させた後、乾燥させて混練する方法等が挙げられる。混合方法としては、高い剪断力と圧力とをかけ、分散を促進できる点で、ホモジナイザーによる混合方法が好ましいが、その他、プロペラ式攪拌装置、ロータリー攪拌装置、電磁攪拌装置、手動による攪拌、等の方法を用いることもできる。得られた樹脂組成物は所望の形状に成形され、成形材料として用いることができる。成形材料の形状としては、例えば、シート、ペレット、粉末等が挙げられる。
ゴムをベース樹脂とした樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に特に制限はなく、成形材料を、例えば金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等の所望の成形方法を用いて成形し、所望の形状の未加硫の成形体を得ることができる。未加硫の成形体は、必要に応じて熱処理等で加硫することができる。
≪成形体≫
本実施形態の樹脂組成物から得られる成形体は、用途によってどのような形状であってもよく、三次元の立体形状でも、シート状、フィルム状又は繊維状でも構わない。例えば、成形体の一部(例えば数箇所)を加熱処理する事により溶融させ、例えば樹脂又は金属の基板に接着して用いても構わない。成形体は、樹脂又は金属の基板に塗布された塗膜であってもよく、基板との積層体を形成してもよい。また、シート状、フィルム状又は繊維状の成形体につき、アニール処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理、シボ転写、切削、表面研磨等の二次加工を行っても構わない。
本実施形態のセルロース組成物及びこれを用いて得られる樹脂組成物は、低剪断下でも良好な流動性を有し得ることから、セルロースが配向している形状(すなわち異方性を有する形状)(例えば、棒状、繊維状等)を有する成形体の製造に好適に適用される。一態様において、成形体中のセルロースの結晶配向度は、好ましくは、0.01以上、又は0.1以上、又は0.2以上であってよく、好ましくは、1.0以下、又は0.95以下、又は0.9以下であってよい。なお上記結晶配向度は、X線小角散乱(SAXS)で測定される値である。
本実施形態の樹脂組成物は、高耐熱かつ軽量であることから、鋼板の代替、又は炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック、無機フィラーを含む樹脂コンポジット等の代替ができる。例えば、産業用機械部品(例えば、電磁機器筐体、ロール材、搬送用アーム、医療機器部材等)、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品(例えば外板、シャーシ、空力部材、座席、トランスミッション内部の摩擦材等)、船舶部材(例えば船体、座席等)、航空関連部品(例えば、胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、座席、内装材等)、宇宙機、人工衛星部材(モーターケース、主翼、構体、アンテナ等)、電子・電気部品(例えばパーソナルコンピュータ筐体、携帯電話筐体、OA機器、AV機器、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品等)、建築・土木材料(例えば、鉄筋代替材料、トラス構造体、つり橋用ケーブル等)、生活用品、スポーツ・レジャー用品(例えば、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニス又はバトミントンのラケット等)、風力発電用筐体部材等、また容器・包装部材となり得る。
以下に、本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
≪原料≫
<樹脂>
ポリアミド
ポリアミド6
宇部興産株式会社より入手可能な「UBEナイロン 1013B」
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.6
<セルロース組成物>
以下の製造例1〜8、比較製造例1〜2で調製したものを用いた。
[製造例1]
コットンリンターパルプ1.5質量部を水98.5質量部に入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほぼゼロに近いレベルにまで低減させて叩解処理し、合計50分叩解処理を行い、平均繊維径38nm、1000nm超の繊維比率1.1%、1000nm以下の繊維比率98.9%のセルローススラリー(固形分率1.5質量%)を得た。この時、セルロース1kg当たり19.4kWhの電力を用いた。
[製造例2]
製造例1のセルローススラリー100質量部に対し、DMSO200質量部を加えて十分に撹拌した後、遠心分離で固液分離し、セルロース/DMSOウェットケーキを得た。得られたセルロース/DMSOウェットケーキを再度、同様にDMSOを加え、分散、撹拌、遠心分離する操作を合計5回繰り返した後、セルロース5質量%になるようにDMSOを加えてセルロース/DMSOスラリーを調製した。得られたセルロース/DMSOスラリーに、セルロース1質量部に対し、重曹0.3質量部、酢酸ビニルモノマー1質量部を加え、50℃で1時間撹拌し、得られたアセチル化セルローススラリー100質量部に対して純水192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機で脱水、濃縮し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、同様に純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返し、アセチル化度0.94の表面アセチル化したセルロース(固形分率9質量%)を得た。
[製造例3]
コットンリンターパルプ1質量部をDMSO15.6質量部に入れて分散させ(固形分率6質量%)、みづほ工業製ホモミキサーVT−1H−25を用いて5,400rpmで4時間解繊し、セルローススラリー100質量部に対して純水192質量部を加えて十分に撹拌した後、脱水機で脱水、濃縮し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、同様に純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返し、平均繊維径83nm、1000nm超の繊維比率3.8%、1000nm以下の繊維比率96.2%のセルロースのセルローススラリー(固形分率11質量%)を得た。
[製造例4]
製造例3のセルローススラリーのセルロース1質量部に対して重曹0.3質量部、酢酸ビニルモノマー1質量部を加え、50℃で1時間撹拌し、得られたアセチル化セルローススラリー100質量部に対して純水192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機で脱水、濃縮し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、同様に純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返し、アセチル化度0.95の表面アセチル化したセルロース(固形分率13質量%)を得た。
[製造例5]
コットンリンターパルプ1質量部をDMSO15.6質量部に入れて分散させ(固形分率6質量%)、みづほ工業製ホモミキサーVT−1H−25を用いて5,400rpmで2時間解繊し、セルローススラリー100質量部に対して純水192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機で脱水、濃縮し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、同様に純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返し、平均繊維径82nm、1000nm超の繊維比率5.3%、1000nm以下の繊維比率94.7%のセルローススラリー(固形分率11質量%)を得た。
[製造例6]
製造例5のセルローススラリーのセルロース1質量部に対して重曹0.3質量部、酢酸ビニルモノマー1質量部を加え、50℃で1時間撹拌し、得られたアセチル化セルローススラリー100質量部に対して純水192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機で脱水、濃縮し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、同様に純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返し、アセチル化度0.98の表面アセチル化したセルロース(固形分率14質量%)を得た。
[製造例7]
コットンリンターパルプ1質量部をDMSO15.6質量部に入れて分散させ(固形分率6質量%)、みづほ工業製ホモミキサーTW−1−35を用いて4,500rpmで4時間解繊し、セルローススラリー100質量部に対して純水192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機で脱水、濃縮し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、同様に純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返し、平均繊維径198nm、1000nm超の繊維比率8.6%、1000nm以下の繊維比率91.4%のセルローススラリー(固形分率13質量%)を得た。
[製造例8]
製造例7のセルローススラリーのセルロース1質量部に対して重曹0.3質量部、酢酸ビニルモノマー1質量部を加え、50℃で1時間撹拌し、得られたアセチル化セルローススラリー100質量部に対して純水192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機で脱水、濃縮し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、同様に純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返し、アセチル化度1.1の表面アセチル化したセルロース(固形分率15質量%)を得た。
[比較製造例1]
コットンリンターパルプ1.5質量部を水98.5質量部に入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほぼゼロに近いレベルにまで低減させて叩解処理し、叩解水分散体(固形分濃度:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で10回微細化処理し、平均繊維径28nm、1000nm超の繊維比率0.1%以下、1000nm以下の繊維比率99.9%以上のセルロースウェットケーキを得た。
[比較製造例2]
コットンリンターパルプシートをメッシュ径φ1mmのフィルターを付けた石川総研製粉砕機ATOMZを用いて5Passさせることで、平均繊維径22464nm、1000nm超の繊維比率99.9%、1000nm以下の繊維比率0.1%のセルロースウェットケーキを得た。
≪樹脂組成物の製造≫
[実施例1〜8、比較例1〜2]
製造例1〜8、比較製造例1〜2で得たセルロース組成物をそれぞれ用い、以下の手順で樹脂組成物を製造した。セルロースウェットケーキに、セルロース固形分100質量部に対し43質量部のPEG−PPG(GL−3000 三洋化成製)を加え、密閉式プラネタリーミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT」、撹拌羽根はフック型)中、70rpmで80分間、25℃、大気圧で撹拌処理した後、−0.1MPaの減圧条件で、60℃の温浴をセットし、307rpmで5時間、減圧乾燥処理を行い、セルロース/PEG−PPG乾燥体を得た。得られたセルロース/PEG−PPG乾燥体と前述のポリアミド6とを、表1に示すセルロース/ポリアミド6比率となるように、小型混練機(Xplore Instruments社製 Xplore)に供し、付属の射出成形機にて後述の条件で多目的試験片を得た。
≪評価≫
<セルロース組成物>
[測定サンプル作製]
各製造例で得たセルロースウェットケーキをろ過することで固形分濃度10質量%に調整して得たセルローススラリー4gをtert−ブタノール96g中に分散させ、さらにホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)で処理条件:回転数25,000rpm×5分間で凝集物が無い状態まで分散処理した(固形分濃度0.4質量%)。得られたtert−ブタノール分散液100gをろ紙(5C,アドバンテック,直径90mm)上で濾過した。ろ過で得られた湿紙を、ろ紙が貼りついた状態で、かつ、直径150mmろ紙2枚に挟んで、かつ、湿紙の周囲を300g程度の円筒状(内径110mm)の重りで抑えた状態で、150℃にて5分間加熱し、多孔質シートを得た。この多孔質シートを測定サンプルとして使用した。
[セルロースの繊維径、平均繊維径及び粗大セルロース成分比率]
各製造例で得たセルロースウェットケーキをtert−ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャスト、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡で計測して求めた。繊維径は、100本のセルロースが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースについて測定した。またこれらの数平均を平均繊維径として得た。粗大セルロース成分比率は、上記[測定サンプル作製]の方法で作製した多孔質シートを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡で計測して求めた。任意に引いた直線上に1000本以上のセルロースが観察されるように倍率が調整された観察視野にて測定エリアを決め、その直線に交わるセルロースの繊維径を倍率5000〜30000倍の範囲の観察しやすい倍率で拡大しながら繊維径を計測した。具体的には、上記任意に引いた直線とセルロース繊維表面を示す線との交点からセルロース繊維内を通りセルロース繊維表面を示す別の線と交わるまで延ばした線分の最短距離を繊維径として計測した。繊維径1000nm超の繊維と繊維径1000nm以下の繊維との本数を数え、粗大セルロース成分比率を算出した。
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)−I(amorphous)]/I(200)×100
I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
[アシル置換度(DS)(アセチル化度)]
多孔質シートのATR−IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR−6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1、
測定波数範囲:4000〜600cm-1、
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(1):
IRインデックス= H1730/H1030(1)
に従って算出した。式中、H1730およびH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C−O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、平均置換度(DS)をIRインデックスより下記式(2)に従って算出した。
DS=4.13×IRインデックス・・・(2)
[1wt%重量減少温度]
多孔質シートの熱分析を以下の測定法にて評価した。
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、30℃になるまで冷却した。つづいて、そのまま30℃から450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温した。多孔質シートの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度を1wt%重量減少温度とした。
[250℃重量減少率]
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持した。
250℃重量変化率算出方法:250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求めた。
250℃重量変化率(%):(W1−W0)/W0×100
[初期沈降速度]
各製造例で得たセルロースウェットケーキを水で希釈して得た固形分率0.05質量%のセルロース水スラリー20mlを30ml容量のガラスバイアルに分取した後、ホモジナイザー(回転数10000rpm、1分間)で分散させ、その後素早く試験用分散液8mlをネジ口試験管(内径12mm)に入れて密封し、手動で振り混ぜて分散液を一様にした(液面高さ7cm)。このときの分散液の波長850nmにおける透過度(以下、初期透過度ともいう。)を、液中分散安定性評価装置 Turbiscan(三洋貿易(株)製)を用いて測定した。次いで、この試験管を23℃で静置し、上記液中分散安定性評価装置を用い、上記波長で透過度50%になる高さを分離界面の高さとして測定した。なお、上記の透過度50%になる高さが画定されない場合には、上記初期透過度よりも透過度が高い領域を上澄部、低い領域を堆積部とし、上澄部と堆積部との境界を分離界面と定義して高さを求めた。分離界面の高さを5分毎にプロットした。分散液を一様にした直後(すなわち時間0分)の分離界面の高さH0(単位:mm)と、上記静置の開始から5分後の分離界面の高さH5(単位:mm)及び10分後の分離界面の高さH10(単位:mm)とから、下記式に従って、初期沈降速度を算出した。
初期沈降速度S0-5(mm/分)=(H0−H5)/5
初期沈降速度S0-10(mm/分)=(H0−H10)/10
<樹脂組成物>
射出成形機を用いて、ISO294−3に準拠し、JIS K6920−2に準拠した条件で多目的試験片を成形した。なお、ポリアミド系材料は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
[引張破断強度]
多目的試験片について、ISO527に準拠して引張破断強度を測定した。
[線膨張係数]
多目的試験片を、3mm幅×25mm長に切断し、測定サンプルとした。SII製TMA6100型装置を用いて、圧縮モードでチャック間10mm、荷重5g、窒素雰囲気下、室温から120℃まで5℃/min.で昇温した後、25℃まで5℃/min.で降温し、再び25℃から120℃まで5℃/min.で昇温した。この際、2度目の昇温時における30℃〜100℃の間の平均の線熱膨張率を測定した。
結果を表1に示す。