JP6681499B1 - 化学修飾されたセルロース微細繊維、及び化学修飾されたセルロース微細繊維を含む高耐熱性樹脂複合体 - Google Patents

化学修飾されたセルロース微細繊維、及び化学修飾されたセルロース微細繊維を含む高耐熱性樹脂複合体 Download PDF

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Abstract

【課題】車載用途、家電用途等の部材における成形及び使用に耐え得る、高い力学物性、及び熱エージング耐性(特に耐黄変性)を有するセルロース微細繊維及びこれを含む樹脂複合体を提供すること。【解決手段】重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維、及び該化学修飾されたセルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂複合体。【選択図】なし

Description

本発明は、化学修飾されたセルロース微細繊維、及び化学修飾されたセルロース微細繊維を含み、熱分解開始温度が高い樹脂複合体に関する。
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、家電筐体、家電部品、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種無機材料を複合化したものが一般的に用いられている。
熱可塑性樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ等の無機充填剤である強化材料で強化した樹脂組成物は、比重が高いため、得られる樹脂成形体の重量が大きくなるという課題がある。
近年、樹脂の新たな強化材料として、セルロース微細繊維(以下、セルロースナノファイバー(CNF)ともいう。)が用いられるようになってきている。
セルロース微細繊維は、その単体特性として、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率と、ガラス繊維よりも低い線膨張係数を有することが知られている。また、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的な熱可塑性樹脂の補強材として使用されるガラス(密度2.4〜2.6g/cm3)やタルク(密度2.7g/cm3)と比較し圧倒的に軽い材料である。
セルロース微細繊維は、樹木を原料とするもののほか、麻・綿花・ケナフ・キャッサバ等を原料とするもの等多岐にわたっている。さらには、ナタデココに代表されるようなバクテリアセルロース等も知られている。これら原料となる天然資源は地球上に大量に存在し、この有効利用のために、樹脂中にセルロース微細繊維をフィラーとして活用する技術が注目を浴びている。
セルロース微細繊維はセルロースが水酸基を有するために親水的であり、疎水的である樹脂の中では分散性が悪いため、セルロース微細繊維を化学修飾することで疎水化し、樹脂中での分散性を改善する検討がされている。
セルロース微細繊維と樹脂の複合体を、車載用途、家電用途等の部材における成形及び使用する際、一定の耐熱性が要求されるため、セルロース微細繊維の化学修飾は、セルロース微細繊維の耐熱性が改善されるという観点からも有効な検討である。耐熱性が悪い場合、セルロース微細繊維が熱によって劣化して力学的強度が低下する、変色する等外観を著しく損ねる等、実用上の問題が生じるため、耐熱性の向上が望まれている。
特許文献1〜3には、イオン液体を用いて繊維原料の解繊処理からセルロース微細繊維の化学修飾(誘導体化)までを行うことで、セルロース微細繊維の水酸基を化学修飾して耐熱性を向上させる技術が記載されている。
特許文献4には、リグニンを含むセルロース微細繊維を化学修飾して耐熱性を向上させつつ、リグニンにより樹脂とセルロース微細繊維との相溶性を高める技術が記載されている。
特許文献5〜7には、非プロトン性溶媒、セルロース微細繊維の化学修飾剤、及び化学修飾を促進する触媒成分を含む混合液中にセルロースパルプを加え、攪拌を続けることで化学修飾されたセルロース微細繊維を作製する技術が記載されている。
特開2013−44076号公報 特開2013−43984号公報 特開2010−104768号公報 国際公開第2016/148233号 国際公開第2017/073700号 国際公開第2017/159823号 特開2019−6875号公報
しかしながら、これらの従来技術では、樹脂に一定の物理特性を付与する効果がある程度期待できるものの、車載用途又は家電用途への使用に耐え得る耐熱性を得る観点からは、セルロース微細繊維、及び樹脂とセルロース微細繊維の複合体の力学物性及び耐熱性が不十分であり、依然として、より高耐熱性のセルロース微細繊維、及び樹脂複合体を提供する必要性があった。
本発明の一態様が解決しようとする課題は、車載用途、家電用途等の部材における成形及び使用に耐え得る、高い力学物性、及び熱エージング耐性(特に耐黄変性)を有するセルロース微細繊維及びこれを含む樹脂複合体を提供することである。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、化学修飾セルロース微細繊維において、重量平均分子量(Mw)が特定の値以上であり、Mwと数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が特定の値以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、一態様において表層が選択的かつ均一に化学修飾されていることが、車載用途等に望まれる高い力学物性と高耐熱性を有するセルロース微細繊維、及びセルロース微細繊維と樹脂の複合体の提供に有利であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維。
[2] 熱分解開始温度(T)が270℃以上であり、数平均繊維径が10nm以上、1μm未満である、上記態様1に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。
[3] エステル化セルロース微細繊維である、上記態様1又は2に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。
[4] 水酸基の平均置換度が0.5以上である、上記態様1〜3のいずれかに記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。
[5] 前記化学修飾されたセルロース微細繊維の繊維全体の修飾度(DSt)に対する繊維表層の修飾度(DSs)の比であるDS不均一比(DSs/DSt)の変動係数(CV)が50%以下である、上記態様1〜4のいずれかに記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。
[6] 化学修飾されたセルロース微細繊維の製造方法であって、
重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であるセルロース原料を、非プロトン性溶媒を含む分散液中で解繊してセルロース微細繊維を得ることと、
修飾化剤を含む溶液を前記分散液に加えて前記セルロース微細繊維を修飾することにより、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維を得ることと、
を含む、方法。
[7] 化学修飾されたセルロース微細繊維の熱分解開始温度(T)が270℃以上であり、数平均繊維径が10nm以上、1μm未満である、上記態様6に記載の方法。
[8] 前記非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドであり、かつ、前記修飾化剤が酢酸ビニル又は無水酢酸である、上記態様6又は7に記載の方法。
[9] 上記態様1〜5のいずれかに記載の化学修飾されたセルロース微細繊維0.5〜40質量%と、樹脂とを含む樹脂複合体。
[10] 前記化学修飾されたセルロース微細繊維が、分散安定剤と、前記分散安定剤中に分散された前記化学修飾されたセルロース微細繊維とを含む分散体の形態で前記樹脂複合体中に分散されており、前記分散体中の前記化学修飾されたセルロース微細繊維の含有率が10〜90質量%である、上記態様9に記載の樹脂複合体。
[11] 前記分散安定剤が、界面活性剤、及び沸点160℃以上の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記態様10に記載の樹脂複合体。
[12] 前記樹脂が、熱可塑性樹脂である、上記態様9〜11のいずれかに記載の樹脂複合体。
[13] 上記態様9〜12のいずれかに記載の樹脂複合体を含む自動車用部材。
[14] 上記態様9〜12のいずれかに記載の樹脂複合体を含む家電用部材。
本発明の一態様によれば、熱によるセルロースの分解が抑制され、黄変による外観不良が少なく、力学的強度が維持された、化学修飾されたセルロース微細繊維を提供することができる。このような化学修飾されたセルロース微細繊維と樹脂との複合体は、車載用途、家電用部品の成形、使用に耐え得る、高い力学物性を有する樹脂複合体であることができる。
熱分解開始温度(T)及び1%重量減少温度の測定法の説明図である。 セルロースの水酸基の平均置換度の算出法の説明図である。 化学修飾微細繊維1のSEM画像である。
以下、本発明を実施するための形態(以下「本実施形態」という)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態は、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下である化学修飾されたセルロース微細繊維を提供する。一態様において、化学修飾セルロース微細繊維中のアルカリ可溶分は12質量パーセント以下である。一態様において、化学修飾セルロース微細繊維の結晶化度は60%以上である。一態様において、化学修飾セルロース微細繊維の熱分解開始温度(T)は270℃以上である。一態様において、化学修飾セルロース微細繊維の数平均繊維径は10nm以上1μm未満である。本実施形態はまた、上記の化学修飾されたセルロース微細繊維を0.5〜40質量%含有する樹脂複合体を提供する。
「化学修飾されたセルロース微細繊維」(本開示で、「化学修飾微細繊維」ということもある。)とは、セルロースの骨格中の水酸基の少なくとも一部が修飾されているセルロース微細繊維を意味する。典型的な態様において、セルロース全体は化学修飾されておらず、化学修飾微細繊維は化学修飾前のセルロース微細繊維の結晶構造を保持している。例えば、化学修飾微細繊維をXRDで分析したときに、セルロースI型とセルロースII型とのいずれか又は両者の結晶構造を確認できる。
樹脂複合体は、化学修飾微細繊維及び樹脂を含有する。樹脂複合体は、その他の成分(例えば無機充填材)をさらに含んでよい。本実施形態の樹脂複合体中の、化学修飾微細繊維の含有量は、耐熱性に優れる樹脂複合体を得るという観点から、一態様において、0.5〜40質量%、好ましくは2〜30質量%であり、より好ましくは3〜20質量%である。
樹脂複合体から、化学修飾微細繊維を取り出す方法としては、樹脂溶解剤を用いて樹脂成分を抽出した後、精製、洗浄を経ることで、化学修飾微細繊維を乾燥体又は水分散体として、その特性を損なうことなく取り出す方法が挙げられる。樹脂溶解剤としては、例えば、ポリオレフィンに対しては1,2,4−トリクロロベンゼンや1,2−ジクロロベンゼン、ポリアミドに対してはヘキサフルオロ−2−イソプロパノール、等が挙げられるが、樹脂溶解剤はこれらに限定されるものではない。
[化学修飾微細繊維]
本実施形態の化学修飾微細繊維、及び樹脂複合体中の化学修飾微細繊維の重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース微細繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでは十分な耐熱性が達成できず、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に高耐熱性のセルロース微細繊維、及びセルロース微細繊維と樹脂との樹脂複合体が得られる。化学修飾微細繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、化学修飾微細繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、せん断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
ここでいうセルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N−ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶分は、一態様において12質量%以下、好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。本開示におけるアルカリ可溶分は、ヘミセルロースのほか、β−セルロース及びγ−セルロースも包含する。アルカリ可溶分とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα−セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶分は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶分の含有量は少ない方が好ましい。化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶分の含有量は、最も好ましくは0質量%であるが、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。
セルロース微細繊維の化学修飾のために用いる修飾化剤がアルカリ可溶分との副反応で消費され、副反応物が化学修飾後のセルロース微細繊維中に残存することもあるため、セルロース原料中のアルカリ可溶分は少ない方が好ましい。このような観点から、セルロース原料中のアルカリ可溶分は、好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。セルロース原料中のアルカリ可溶分は、最も好ましくは0質量%であるが、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。
アルカリ可溶分は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なお、化学修飾微細繊維のアルカリ可溶分は、通常、化学修飾微細繊維の製造に使用したセルロース原料のアルカリ可溶分とほぼ同様である(すなわち、化学修飾の通常の条件(典型的には弱酸性〜中性のpH)下ではアルカリ可溶分の選択的な除去は実質的に生じないと考えてよい。一態様において、セルロース原料のアルカリ可溶分の値を化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶分の値とみなしてよい。
樹脂複合体中の化学修飾微細繊維の数平均繊維径は、樹脂複合体の耐熱性の観点から、一態様において10nm以上1μm未満であり、好ましくは10nm以上800nm以下、より好ましくは10nm以上500nm以下、さらに好ましくは20nm以上300nm以下、特に好ましくは50nm以上300nm以下である。化学修飾微細繊維の長さ/径比率(L/D比)は一態様において30以上であり、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらにより好ましくは300以上、最も好ましくは500以上である。
化学修飾微細繊維の熱分解開始温度(T)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において270℃以上であり、好ましくは275℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、化学修飾微細繊維の製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は300℃以下であってもよい。
本開示で、熱分解開始温度(T)とは、図1の説明図に示すように、熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である(なお、図1(B)は図1(A)の拡大図である。)。化学修飾微細繊維の150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度と2wt%重量減少時の温度とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度を熱分解開始温度(T)と定義する。
1%重量減少温度は、上記熱分解開始温度(T)の手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
化学修飾微細繊維の250℃重量減少率は、熱重量(TG)分析において、化学修飾微細繊維を250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。
本実施形態の化学修飾微細繊維は、一態様において結晶化度が60%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、化学修飾微細繊維自体の力学物性(特に強度及び寸法安定性)が高いため、化学修飾微細繊維を樹脂に分散してなる樹脂複合体の強度及び寸法安定性が高い傾向にある。また、結晶化度が高いことは非晶の量が少ないことを意味しており、非晶が熱による劣化の起点になりうることに鑑みれば、耐熱性の観点からも結晶化度が高い方が望ましい。
本実施形態の化学修飾微細繊維の結晶化度は、好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、最も好ましくは80%以上である。化学修飾微細繊維の結晶化度は高いほど好ましい傾向にあるので、上限は特に限定されないが、生産上の観点から99%が好ましい上限である。
ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10〜30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=[I(200)−I(amorphous)]/I(200)×100
I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型等が知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。化学修飾微細繊維としては、構造上の可動性が比較的高く、当該化学修飾微細繊維を樹脂に分散させることにより、線熱膨張率がより低く、引っ張り又は曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂複合体が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有する化学修飾微細繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が60%以上の化学修飾微細繊維がより好ましい。
本実施形態の化学修飾微細繊維において、硫酸不溶成分(リグニン等)の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、化学修飾微細繊維の硫酸不溶成分平均含有率はできる限り少ない方が好ましい。
本実施形態の化学修飾微細繊維は、セルロース微細繊維の表面のセルロース分子の水酸基がセルロース修飾化剤により化学修飾されたものである。かかる化学修飾は、好ましくはエステル化、より好ましくはアセチル化である。
以下、本実施形態の化学修飾微細繊維及びその製法、並びに樹脂複合体及びその製法について説明する。
化学修飾微細繊維の原料となるセルロースとしては、広葉樹又は針葉樹から得られる木材パルプ、非木材種からの精製パルプ(すなわち非木材パルプ)等の天然セルロース及び再生セルロースが使用できる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ(例えば精製リンター)、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプ等を使用できる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプは各々、コットンリント、コットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のものが多い)、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料から、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。また、天然セルロースとしては、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、微生物産生物等を起源としたセルロース繊維集合体も使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)のカット糸等、セルロース誘導体繊維のカット糸等、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。
前記木材パルプ、非木材種からの精製パルプ(すなわち非木材パルプ)は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしたものを用いることが望ましい。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロースの重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が、適切な範囲から逸脱しない程度にコントロールされていることが重要である。
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロース分子の分子量を低下させるため、これらの工程によって、セルロースが低分子量化すること、及びセルロース原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが重要である。
セルロースの修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。特にエステル化剤が好ましい。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステルが好ましい。
酸ハロゲン化物は、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
R1−C(=O)−X (1)
(式中、R1は炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアルキレン基、炭素数3〜24のシクロアルキル基、又は炭素数6〜24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4−メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又は金属塩化物、金属トリフラート等のルイス酸、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(1):
R−COO−CH=CH2 …式(1)
{式中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアルキレン基、炭素数3〜16のシクロアルキル基、又は炭素数6〜24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、1〜3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
1〜3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、トリス(3−ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
イミダゾール及びその誘導体としては、1−メチルイミダゾール、3−アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
ピリジン及びその誘導体としては、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド等が挙げられる。
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニルからなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
天然セルロース原料をセルロース微細繊維とするために最大繊維径を小さくする方法としては、特に制限はないが、解繊の処理条件(剪断場を与える方法、剪断場の大きさ等)をより高効率にすることが好ましい。特に、非プロトン性溶媒を含む解繊用溶液を、セルロース原料(例えばセルロース純度が85質量%以上のセルロース原料)に含浸させることで、セルロースの膨潤が短時間で起こり、わずかな攪拌と剪断エネルギーを与えるだけでセルロースが微細化していく。そして、解繊直後にセルロース修飾化剤を加えることにより、化学修飾微細繊維を得ることができる。この方法が、生成効率及び精製効率(すなわち化学修飾微細繊維の高セルロース純度化)、並びに樹脂複合体の物理特性の観点から好ましい。
非プロトン性溶媒としては、例えば、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類、ピロリドン類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
アルキルスルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のジC1−4アルキルスルホキシド等が挙げられる。
アルキルアミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド等のN,N−ジC1−4アルキルホルムアミド;N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド等のN,N−ジC1−4アルキルアセトアミド等が挙げられる。
ピロリドン類としては、例えば、2−ピロリドン、3−ピロリドン等のピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のN−C1−4アルキルピロリドン等が挙げられる。
これらの非プロトン性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非プロトン性溶媒(括弧内の数字はドナー数)のうち、DMSO(29.8)、DMF(26.6)、DMAc(27.8)、NMP(27.3)等、特に、DMSOを用いれば、熱分解開始温度が高い化学修飾微細繊維をより効率的に製造することができる。この作用機序は必ずしも明らかではないが、非プロトン性溶媒中での繊維原料の均質なミクロ膨潤に起因するものと推察される。
化学修飾微細繊維の原料が非プロトン性溶媒中で膨潤する際、非プロトン性溶媒が原料を構成するフィブリルに素早く浸透し膨潤することでミクロフィブリル同士が微解繊状態となる。この状態を作り出した後、化学修飾を行うことで微細繊維の全体で均質にアセチル化が進行し、結果として高い耐熱性を獲得しているものと推察される。さらに、このミクロフィブリル化された化学修飾微細繊維は高い結晶化度を維持しており、樹脂と複合したときに高い機械特性と優れた寸法安定性(特に、線熱膨張率の著しい低下)を獲得することができる。
微細化(解繊)及び化学修飾処理された微細繊維は、遊星ボールミル及びビーズミルのような衝突剪断が加わる装置、ディスクリファイナー及びグラインダーのようなセルロースのフィブリル化を誘起する回転剪断場が加わる装置、各種ニーダー及びプラネタリーミキサーのような混練、撹拌、及び分散の機能を高効率で実施可能な装置、或いは回転式ホモジナイジングミキサーを用いることで得ることができるが、これらに限定されるものではない。
ボールミル等の強力な機械粉砕法を用いる場合、固体状態特有のメカノケミカル反応が起こるため、セルロースの分子鎖が切断される、結晶構造が破壊される、或いは、セルロースが溶解するといったことが避けられなくなる。その結果、得られる繊維のセルロース分子の重量平均分子量の低下、重量平均分子量と数平均分子量との比の増大又は減少、結晶化度の低下、収率の低下といった好ましくない効果が表れる場合がある。したがって、ボールミル等の強力な機械粉砕法を用いる場合は、セルロース分子の重量平均分子量、重量平均分子量と数平均分子量との比、及び結晶化度が適正な範囲から逸脱しないようコントロールされていることが望ましい。
化学修飾微細繊維の減衰全反射型赤外吸収スペクトルにおいて、化学修飾基の種類により吸収バンドのピーク位置は変化する。ピーク位置の変化から、そのピークが何の吸収バンドに基づくものかは確定でき、修飾基の同定ができる。また、修飾基由来のピークとセルロース骨格由来のピークのピーク強度比から修飾化率を算出することができる。例えば、修飾基がアシル基であれば、アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC−Oの吸収バンドのピークが1030cm-1に出現する。
減衰型全反射赤外吸収スペクトルの測定条件は例えば以下の通りである。
装置:JASCO社製 FT/IR−6200
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000〜600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
化学修飾微細繊維の化学修飾基がアシル基である場合、減衰全反射型で測定したIRスペクトルにおけるセルロース骨格鎖C−Oの吸収バンドのピーク強度(高さ)に対する化学修飾基に基づく吸収バンドのピーク強度(アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク高さ)の比率(化学修飾基に基づく吸収バンドのピーク高さ/セルロース骨格鎖C−Oの吸収バンドのピーク高さ)で定義される修飾化率(IRインデックス)から、平均置換度(DS)は下記式に従って算出される。
DS=4.13×IRインデックス
具体的には、図2を参照し、セルロース骨格鎖C−Oの吸収バンドである1030cm-1のピーク強度については、820cm-1付近と1530cm-1付近の他のピークがない位置を直線で結んだベースラインを引き、1030cm-1におけるベースラインの高さを1030cm-1のピーク高さから差し引いた値を読み取るものとした。化学修飾基に基づく吸収バンドである1730cm-1のピーク強度については、1550cm-1付近と1850cm-1付近の他のピークがない位置を直線で結んだベースラインを引き、1730cm-1におけるベースラインの高さを1030cm-1のピーク高さから差し引いた値を読み取るものとした。
化学修飾微細繊維の水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数)は、微細繊維径と化学修飾剤の種類とにより、変わり得る。平均置換度は、0.2〜1.5が好ましく、より好ましくは0.4〜1.2である。一態様において、水酸基の平均置換度は、0.5以上である。耐熱性の観点から、平均置換度は高い方が望ましいが、平均置換度が高すぎると、微細繊維の結晶化度が低下して微細繊維の力学的強度の低下につながる、又は収率が低下するおそれがある。
本実施形態における化学修飾微細繊維においては、繊維全体の修飾度(DSt)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)の変動係数(CV)が、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、化学修飾による耐熱性の向上及び樹脂複合時の樹脂との親和性の向上、樹脂複合体の寸法安定性の向上につながる。そして、このDS不均一比の変動係数が小さいほど、樹脂複合体の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。DSs及びDStのそれぞれの値は、化学修飾微細繊維の修飾度に応じて変わるが、一例として、DSsの好ましい範囲としては、0.2以上3.0以下、より好ましくは0.4以上2.8以下である。DStの好ましい範囲としては、0.2以上1.5以下であり、より好ましくは0.4以上1.2以下である。また、DS不均一比(DSs/DSt)は、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と、化学修飾による耐熱性の向上及び樹脂複合時の樹脂との親和性の向上、樹脂複合体の寸法安定性の向上との両立の観点から、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上であり、化学修飾微細繊維の製造容易性の観点から、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
DS不均一比の変動係数は、例えば、これに限定されないが、原料セルロースを解繊及び化学修飾して化学修飾微細繊維を製造する際に、まず解繊を行い、次いで化学修飾を行う方法等によって低減され得る。解繊、化学修飾をこの順で行う方法のより詳細な例については後述する。
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾微細繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)より変動係数を算出する。
DS不均一比 = DSs/DSt
変動係数(%)= 標準偏差σ / 算術平均μ × 100
DStの算出方法は、凍結粉砕した化学修飾微細繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1−C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DSt=(Inf)×6/(Inp)
たとえば修飾基がアセチル基の場合、−CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置:Bruker BioSin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
DSsの算出方法は、13C固体NMR測定で使用した化学修飾微細繊維の粉末サンプルを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2−C6帰属されるピーク(289eV、C−C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO−C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域 Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
典型的な態様の樹脂複合体において、樹脂はマトリックスを構成し、化学修飾微細繊維は樹脂中に分散配置されている。
一態様において、化学修飾されたセルロース微細繊維は、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分の含有量が12質量パーセント以下であるセルロース原料を、非プロトン性溶媒を含む分散液中で解繊してセルロース微細繊維を得ることと、修飾化剤を含む溶液を該分散液に加えて該セルロース微細繊維を修飾することにより得ることができる。得られる化学修飾微細繊維は、結晶化度60%以上を有することができ、更なる態様では、熱分解開始温度(T)270℃以上及び数平均繊維径10nm以上1μm未満を有することができる。このとき、解繊によるセルロース微細繊維の調製の後に化学修飾を行うことは、DS不均一比(DSs/DSt)の変動係数の低減の点で有利である。好ましい態様においては、非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドであり、かつ修飾化剤が酢酸ビニル又は無水酢酸である。
原料として、セルロースI型結晶の原料については、セルロース純度(α−セルロース含有率)85質量%以上であるセルロースを用いることが、化学修飾微細繊維の生産効率及び精製効率(すなわち化学修飾微細繊維の純度)、並びに樹脂複合化時の物理特性の観点から好ましい。セルロース純度は、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
セルロース純度は非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載のαセルロース含有率測定法より求めることができる。
セルロースII型結晶の原料については、前記αセルロース含有率測定法を使用すると低めのセルロース純度を示すことがある(元来、αセルロース含有率測定法はセルロースI型結晶の原料、例えば木材、の分析に開発された手法のため)。しかし、セルロースII型結晶の原料はセルロースI型結晶を原料にして加工・製造された製品(例えば、ビスコースレーヨン、キュプラ、リヨセル、マーセル化セルロース等)であるため、元来セルロース純度は高い。したがって、セルロースII型結晶の原料についてはセルロース純度が85質量%未満であっても、本発明の微細セルロース繊維の原料として好ましい。
[樹脂複合体]
次に、本実施形態の化学修飾微細繊維と、樹脂とを含む樹脂複合体における化学修飾微細繊維以外の成分の例について説明する。
樹脂複合体においては、化学修飾微細繊維と共に、該化学修飾微細繊維を安定に分散させる機能を有する分散安定剤を用い、樹脂中での化学修飾微細繊維の分散状態を向上、制御することによって、樹脂複合体の力学物性を向上させることが有効である。好ましい態様においては、化学修飾されたセルロース微細繊維が、少なくとも一部の分散安定剤と、該分散安定剤中に分散された化学修飾されたセルロース微細繊維とを含む分散体の形態で樹脂複合体に分散されている。上記分散体の化学修飾微細繊維の含有率は好ましくは1〜90質量%である。分散安定剤の量がこれより少ない場合、化学修飾微細繊維の分散が悪く、力学物性の向上が不十分であり、分散安定剤の量がこれより多い場合、分散安定剤が樹脂を過疎化させるため、力学物性が悪化する。分散安定剤は、界面活性剤、沸点160℃以上の有機化合物、及び化学修飾微細繊維を高度に分散可能な化学構造を有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができ、好ましくは、界面活性剤、及び沸点160℃以上の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
界面活性剤としては、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有していればよく、食用、工業用等様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用できる。
界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロースとの親和性の点で、陰イオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
上述の中でも、セルロースとの親和性の点で、親水基としてポリオキシエチレン鎖、カルボキシル基、又は水酸基を有する界面活性剤が好ましく、親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)がより好ましく、非イオン系のポリオキシエチレン誘導体がさらに好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロースとの親和性が高まるが、樹脂複合体の所望の特性(例えばコーティング性)とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素数が5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、界面活性剤の炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限はないが、上記炭素数の上限は30以下が好ましく、25以下がより好ましい。
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましい。環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、及びスチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が好ましい。
これらの中でも、特にロジンエステル型、及び硬化ひまし油型がより好ましい。
また、樹脂の種類に依存するが、非界面活性剤系の分散媒体として、沸点160℃以上の有機化合物が有効であることがある。このような有機化合物の具体例として、例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合には、流動パラフィン、デカリン等の高沸点有機溶媒が有効である。また、樹脂がナイロン系樹脂及びポリアセテート系樹脂のような極性樹脂の場合には、化学修飾微細繊維を製造する際に使用できる非プロトン性溶媒と同様の溶媒、例えば、シメチルスルホキシドを使用することが有効な場合がある。
樹脂複合体は、化学修飾微細繊維に加え、セルロースウィスカーをさらに含んでもよい。セルロースウィスカーは、化学修飾微細繊維と混合されることで化学修飾微細繊維の分散性を向上させ、その結果として樹脂複合体の力学的特性を向上させる。セルロースウィスカーの主な特性として、これに限定される訳ではないが、例えば、L/Dが1以上30未満、好ましくはL/D=1〜20、より好ましくはL/D=1〜10である。セルロースウィスカーの結晶化度は、例えば70%以上、好ましくは80%以上である。セルロースウィスカーの重合度は、例えば600以下、好ましくは300以下である。セルロースウィスカーは市販のものを使用してもよいし、例えば、木材パルプを裁断し、塩酸水溶液中で加水分解処理を進めることで得ることもできる。
本実施形態の樹脂複合体には、その他の成分として、例えば、化学修飾微細繊維以外の高耐熱性の有機ポリマーからなる微細繊維フィラー成分(例えば、アラミド繊維のフィブリル化繊維又は微細繊維);相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;着色剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の樹脂複合体中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択される。
樹脂複合体中の化学修飾微細繊維では、水素結合による凝集が無修飾のセルロース微細繊維に比べて抑制されている。よって、化学修飾微細繊維と樹脂との混合工程において、化学修飾微細繊維同士の凝集が抑制され、化学修飾微細繊維が樹脂中で均一に分散され、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れた、化学修飾微細繊維を含む繊維強化樹脂複合体を得ることができる。
本実施形態の化学修飾微細繊維を含有する樹脂複合体は、力学的特性において、貯蔵弾性率といった剛性、及び衝撃試験等の動的特性がバランス良く向上されたものである。
本実施形態の樹脂複合体中の樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び/又は光硬化性樹脂を用いることができる。前記樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
また、好適に使用することができるポリアミド系樹脂の例示としては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド(例えばポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等);ジアミン類(例えば1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミン等)とジカルボン酸類(例えばブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等)との共重合体として得られるポリアミド(例えばポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等);及びこれらの2種以上が共重合された共重合体(例えばポリアミド6,T/6,I等)、が挙げられる。
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド、及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミドがより好ましい。
更により好ましくは、ポリアミド6、及びポリアミド6,6が挙げられ、ポリアミド6,6が最も好ましい。
樹脂複合体中の樹脂(マトリクス樹脂)の含有量は、60〜99.5質量%であることができ、80〜90質量%がより好ましい。樹脂含有量が60質量%以上であれば、熱安定性(線熱膨張率の低減、及び高温時の弾性保持)を発揮するのに有効であり、99.5質量%以下であれば、樹脂複合体に対して、高弾性率化、熱膨張率の低減等の機能を付与することが可能である。
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の当該熱可塑性樹脂の融点は、樹脂複合体の用途等に応じて適宜選択してよい。熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、125℃〜170℃、又は95℃〜140℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃〜290℃、又は170℃〜200℃、を例示できる。
樹脂複合体は、化学修飾微細繊維と樹脂とを混合することにより作製することができる。更に、その樹脂複合体を成形することにより成形体を作製することができる。化学修飾微細繊維と樹脂とを混合する場合、両成分を室温下で加熱せずに混合してから加熱しても、加熱しながら混合してもよい。加熱する場合、混合する温度は、使用する樹脂に合わせて調整することができる。
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ナイロン66(ポリアミド「PA66」ともいう。)では255〜270℃、ナイロン6(ポリアミド「PA6」ともいう。)では225〜240℃、ポリアセタール樹脂(POMともいう。)では170℃〜190℃、ポリプロピレン(PPともいう。)では160〜180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、化学修飾微細繊維と樹脂とを均一に混合することができる。
混合方法として、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機により混練する方法、攪拌羽により混合する方法、公転・自転方式の攪拌機により混合する方法等が挙げられる。
化学修飾微細繊維は、化学修飾処理により、樹脂中での分散性が促進されている。
得られた樹脂複合体を用いて、成形材料及び成形体を製造することができる。成形体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造等の各種形状が挙げられる。成形方法として、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いることができる。
化学修飾微細繊維と樹脂との混合工程において、化学修飾微細繊維同士の凝集が起こらず、化学修飾微細繊維は樹脂中で均一に分散されるので、力学的特性、耐熱性、寸法安定性、表面平滑性、外観等に優れた、化学修飾微細繊維を含む樹脂複合体及び成形体を得ることができる。更に、本実施形態の樹脂複合体では、力学的特性において、貯蔵弾性率などの剛性、及び衝撃試験等の動的特性をバランス良く向上できる。また、樹脂複合体の耐熱性においては、荷重たわみ温度の数十℃の向上を達成できる。また、樹脂複合体から得られる最終成形品である成形体では、化学修飾微細繊維の凝集塊は発生しておらず、表面平滑性及び外観に優れる。
特に、寸法安定性について、本実施形態の樹脂複合体の線熱膨張率(CTE)は、好ましくは80ppm/k以下、より好ましくは70ppm/k以下、さらに好ましくは60ppm/k以下、さらに好ましくは55ppm/k以下、最も好ましくは50ppm/k以下である。
貯蔵弾性率については、フィラー成分(すなわち化学修飾微細繊維及び他のフィラー)を含まない樹脂に対しての値の上昇率として評価したときに、本実施形態の樹脂複合体の貯蔵弾性率の上昇率は、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上、さらにより好ましくは1.6以上、最も好ましくは1.7以上である。そして、本実施形態の樹脂複合体の貯蔵弾性率の上昇率は、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上、最も好ましくは1.6以上である。
本実施形態の樹脂複合体は、高耐熱かつ軽量であることから、鋼板の代替、又は炭素繊維強化プラスチックの代替ができる。例えば、産業用機械部品(例えば、電磁機器筐体、ロール材、搬送用アーム、医療機器部材等)、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品(例えば外板、シャシー、空力部材、座席、トランスミッション内部の摩擦材等)、船舶部材(例えば船体、座席等)、航空関連部品(例えば、胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、座席、内装材等)、宇宙機、人工衛星部材(モーターケース、主翼、構体、アンテナ等)、電子・電気部品(例えばパーソナルコンピュータ筐体、携帯電話筐体、OA機器、AV機器、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品等)、建築・土木材料(例えば、鉄筋代替材料、トラス構造体、つり橋用ケーブル等)、生活用品、スポーツ・レジャー用品(例えば、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニスやバトミントンのラケット等)、風力発電用筐体部材等、また容器・包装部材、例えば、燃料電池に使用されるような水素ガス等を充填する高圧力容器用の材料となり得る。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1](化学修飾微細繊維1の作製)
タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で2時間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維1(数平均繊維径:88nm)の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。
図3は、化学修飾微細繊維1の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。SEM画像は、日本電子社製JSM−6700Fを用い、加速電圧5kV、倍率10000倍(図3の視野サイズは縦9μm×横12μmである)、WD7.1mmの撮影条件で得た。
[実施例2](化学修飾微細繊維2の作製)
実施例1のリンターパルプに代わり、高純度木材パルプを原材料とした以外は実施例1と同様に作製し、化学修飾微細繊維2(数平均繊維径:65nm)を得た。
[実施例3](化学修飾微細繊維3の作製)
実施例1のリンターパルプに代わり、精製リンターパルプを原材料として、タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、精製リンターパルプ0.5kg、DMSO9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数2500rpm、周速度12m/s、60℃で2時間運転を行った(修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維3(数平均繊維径:80nm)の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。
[実施例4](化学修飾微細繊維4の作製)
リンターパルプ210gを化学修飾微細繊維の原料とし、一軸撹拌機(アイメックス社製 DKV−1 φ125mmディゾルバー)を用いジメチルスルホキサイド(DMSO)5kg中で500rpmにて1時間、常温で攪拌した。続いて、ホースポンプでビーズミル(アイメックス社製 NVM−1.5)にフィードし、DMSOのみで2時間循環運転させ、解繊スラリー5.2kgを得た(解繊工程)。循環運転の際、ビーズミルの回転数は2500rpm、周速12m/sとし、用いたビーズはジルコニア製で、Φ2.0mm、充填率70%とした(ビーズミルのスリット隙間は0.6mmとした)。また、循環運転の際は、摩擦による発熱を吸収するためにチラーによりスラリー温度を40℃に温度管理した。つづいて、得られた解繊スラリーを防爆型ディスパーザータンクに投入した後、酢酸ビニル(VA)572g、炭酸水素ナトリウム85gを加え、タンク内温度を40℃とし、2時間撹拌を行った(修飾工程)。得られたスラリーを10Lの純水中に分散、撹拌した後、脱水機で濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去して化学修飾微細繊維4(数平均繊維径:140nm)を得た。
[実施例5](化学修飾微細繊維5の作製)
実施例1のリンターパルプに代わり、ろ紙を原材料とした以外は実施例1と同様に作製し、化学修飾微細繊維5(数平均繊維径:79nm)を得た。
[実施例6](化学修飾微細繊維6の作製)
実施例3のリンターパルプに代わり、別の精製リンターパルプを原材料とした以外は実施例3と同様に作製し、化学修飾微細繊維6(数平均繊維径:66nm)を得た。
[比較例1](化学修飾微細繊維7の作製)
実施例1のリンターパルプに代わり、木材パルプを原材料とした以外は実施例1と同様に作製し、化学修飾微細繊維7(数平均繊維径:58nm)を得た。
[比較例2](化学修飾微細繊維8の作製)
実施例1のリンターパルプに代わり、アバカを原材料とした以外は実施例1と同様に作製し、化学修飾微細繊維8(数平均繊維径:73nm)を得た。
[比較例3](化学修飾微細繊維9の作製)
実施例3の精製リンターパルプとは別の精製リンターパルプを用いた以外は実施例3と同様にして作製し、化学修飾微細繊維9(数平均繊維径:84nm)を得た。
[比較例4](化学修飾微細繊維10の作製)
実施例4記載の、ビーズミルをフィード後、DMSOのみで循環運転する時間を2時間から8時間にした以外は実施例4と同様にして作製し、化学修飾微細繊維10(数平均繊維径:64nm)を得た。
[比較例5](化学修飾微細繊維11の作製)
N,N−ジメチルアセトアミド300mlに、ろ紙50gと、イオン液体として塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム300gを加え、攪拌した。次に、無水酢酸270gを加え、反応させた後、ろ過し、固形分を水で洗浄した。これを高圧ホモジナイザーで処理することにより、化学修飾微細繊維11(数平均繊維径:44nm)を得た。
[比較例6](化学修飾していない微細繊維1の用意)
化学修飾していないセルロース微細繊維として、ダイセル社(株)製のセリッシュKY−100G(数平均繊維径:75nm)を用意した。
以下、実施例1〜6、比較例1〜6にある化学修飾微細繊維、或いは微細繊維を用いて樹脂と複合化した例を記載する。
[実施例7](樹脂複合体1の作製)
得られた化学修飾微細繊維1を2質量部(スラリー中の固形分量として、以下同様。)、樹脂1としてナイロン66樹脂(以下、単に、PA66と称す)(ユニチカ社製 A226)を98質量部加え、小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、260℃、100rpm(シアレート1570(1/s))で5分間循環混練後に、ダイスを経てφ1mmの複合樹脂組成物のストランドを得た。当該ストランドから得られた樹脂複合体ペレット(前記ストランドを1cm長さにカットしたもの)を、付属の射出成形機にて260℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片を作製し、評価に用いた。得られたダンベル状試験片の各形体とした樹脂複合体1を用いて適宜各評価を行った。
[実施例8](樹脂複合体2の作製)
化学修飾微細繊維1の量を10質量部、PA66の量を90質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、樹脂複合体2を得た。
[実施例9](樹脂複合体3の作製)
実施例7のPA66を樹脂2としてPA6(宇部興産製 1013B)(以下、単にPA6と称す)に変更し、小型混練機での混練温度と射出成形機の成形温度を250℃に変更した以外は、実施例2と同様に、樹脂複合体3を得た。
[実施例10](樹脂複合体4の作製)
実施例7のPA66を樹脂3としてポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製 プライムポリプロ J105G)(以下、単にPPと称す)とし96質量部に、更に小型混練機での混練温度と射出成形機の成形温度を160℃に変更した以外は、実施例7と同様にダンベル状試験片の各形体とした樹脂複合体4を得た。
[実施例11](樹脂複合体5の作製)
実施例7において、化学修飾微細繊維1の乾燥前の水分散体(固形分率:9質量%)における化学修飾微細繊維1の7質量部相当量に対して、分散安定剤としてポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル(青木油脂工業株式会社製 ブラウノンRCW−20(以下、単にRCW−20と称す)の3質量部を加えて前述の公転・自転方式の攪拌機を用いて30℃で30分間混練した後に約40℃で真空乾燥させることにより得られた、化学修飾微細繊維1とポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルとの混合固体(14質量部)(分散体として)、及びPA6の86質量部を用いて、実施例7と同様に、ダンベル状試験片の各形体とした樹脂複合体5を得た。
[実施例12](樹脂複合体6の作製)
実施例7において、化学修飾微細繊維1の乾燥前の水分散体(固形分率:9質量%)における化学修飾微細繊維1の7質量部相当量に対して、セルロースウィスカー(旭化成製,SC900)の2質量部、分散安定剤としてポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル(青木油脂工業株式会社製 ブラウノンRCW−20(以下、単にRCW−20と称す)の3質量部を加えて前述の公転・自転方式の攪拌機を用いて30℃で30分間混練した後に約40℃で真空乾燥させることにより得られた、化学修飾微細繊維1とセルロースウィスカーとポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルとの混合固体(17.1質量部)(分散体として)、及びPA6の82.9質量部を用いて、実施例7と同様に、ダンベル状試験片の各形体とした樹脂複合体6を得た。
[比較例7](樹脂複合体7の作製)
化学修飾微細繊維1を微細繊維1に変更した以外は、実施例9と同様にして作製し、樹脂複合体6を得た。樹脂複合体7は褐色に変色していた。
[比較例8](樹脂複合体8の作製)
化学修飾微細繊維1を化学修飾微細繊維7に変更した以外は、実施例9と同様にして作製し、樹脂複合体8を得た。樹脂複合体8は褐色に変色していた。
[比較例9](樹脂複合体9の作製)
化学修飾微細繊維1を化学修飾微細繊維9に変更した以外は、実施例9と同様にして作製し、樹脂複合体9を得た。樹脂複合体9はやや褐色に変色していた。
[化学修飾微細繊維又は化学修飾されていない微細繊維の評価]
実施例1〜6、及び比較例1〜6について、下記の項目について評価した結果を以下の表1に示す。
(1)測定サンプル作製
実施例1〜6、比較例1〜6の化学修飾微細繊維又は微細繊維は、多孔質シートを測定サンプルとして評価を行った。多孔質サンプルの作製は次の通りに行った。
まず、実施例1〜6、比較例1〜6の化学修飾微細繊維又は微細繊維の水分散体を遠心分離して濃縮物を得た(固形分率5質量%以上)。続いて、化学修飾微細繊維又は微細繊維0.5gを含む該濃縮物を濃度が0.2質量%となるように該濃縮物をtert−ブタノール中に分散させ、さらに超音波分散等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。得られたtert−ブタノール分散液100gをろ紙(5C,アドバンテック,直径90mm)上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、ろ紙を剥離してシートを得た。シートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
シート目付10g/m2あたりの透気抵抗度(sec/100ml)について、23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
(2)繊維径
まず、多孔質シートの表面の無作為に選んだ3箇所を、走査型電子顕微鏡(SEM)により、微細繊維の繊維径に応じて10000〜100000倍相当の倍率で観察した。得られた3つのSEM画像の各々において、画面に対しヨコ方向とタテ方向にラインを引き、ラインに交差する繊維の本数と、各繊維の繊維径とを拡大画像から実測して、1つの画像につきタテヨコ2系列の数平均繊維径を算出した。上記数平均繊維径の3画像での数平均を、対象とする試料の平均繊維径とした。
(3)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)
実施例1〜6、比較例1〜6の化学修飾微細繊維又は微細繊維の多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN、N−ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN、N−ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N−ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N−ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N−ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC−8120
カラム:TSKgel SuperAWM−H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N、N−ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
(4)アルカリ可溶分
アルカリ可溶分は非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載の手法より求め、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。
(5)比表面積
比表面積・細孔分布測定装置(Nova−4200e, カンタクローム・インスツルメンツ社製)にて、多孔質シート試料約0.2gを真空下で120℃、2時間乾燥させた後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m2/g)を算出した。
(6)結晶化度
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)−I(amorphous)]/I(200)×100
I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
用いた装置と測定条件は下記である。
装置:MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸:2θ/θ
線源:CuKα
測定方法:連続式
電圧:40kV
電流:15mA
開始角度:2θ=5°
終了角度:2θ=30°
サンプリング幅:0.020°
スキャン速度:2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
(7)DS不均一比の変動係数(CV)
化学修飾微細繊維の水分散体(固形分率10質量%)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕を行って粉末サンプルを10個作製した。粉末サンプル質量は、1g/個であった。10個の粉末サンプルについて13C固体NMR及びXPS測定を行い、それぞれDSt及びDSsを求め、各粉末サンプルのDS不均一比を算出した。そして、得られた10個のDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)より変動係数を算出した。
DS不均一比 = DSs/DSt
変動係数(%)= 標準偏差σ / 算術平均μ × 100
DStの算出方法は、粉体状の化学修飾微細繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1−C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対するアセチル基由来の−CH3の炭素原子に帰属されるシグナル(23ppm)の面積強度(Inf)よりDStを下記式で求めた。
DSt=(Inf)×6/(Inp)
用いた装置と測定条件は下記である。
装置:Bruker Biospin Avance500WB
周波数:125.77MHz
測定方法:DD/MAS法
待ち時間:75sec
NMR試料管:4mmφ
積算回数:640回(約14Hr)
MAS:14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
DSsの算出方法について、13C固体NMR測定で使用した化学修飾微細繊維の粉末サンプルを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、XPS測定を行った。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2−C6に帰属されるピーク(289eV、C−C結合)の面積強度(Ixp)に対するアセチル基のO−C=O結合由来のピーク(286eV)の面積強度(Ixf)よりDSsを下記式で求めた。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
用いたXPS測定の条件は以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域:Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
(8)熱分解開始温度(T)及び1wt%重量減少温度
多孔質シートの熱分析を以下の測定法にて評価した。
装置:SII社製 EXSTAR6000
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、30℃になるまで冷却した。つづいて、そのまま30℃から450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温した。
算出方法:横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた。化学修飾微細繊維の150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度と2wt%重量減少時の温度とを通る直線を得た。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度を熱分解開始温度(T)とした。
1wt%重量減少温度算出方法:前記T算出時に用いた1wt%重量減少時の温度を1wt%重量減少温度とした。
(9)250℃重量変化率
装置:SII社製 EXSTAR6000
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持した。
250℃重量変化率算出方法:250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求めた。
250℃重量変化率(%):(W1−W0)/W0×100
(10)熱エージング後のYIの変化(ΔYI)
多孔質シートをオーブンに入れ、150℃、大気下で3000時間運転を行い、熱エージングを行った。熱エージング前、熱エージング後それぞれの多孔質シートの黄変度合いをYI測定によって評価した。YI測定はコニカミノルタ社の分校測色計CM−700dを用い、反射型(SCI+SCE)、測定径3mmの条件で測定を行い、任意の5カ所のYIの平均値を求めた。熱エージング後のYIから熱エージング前のYIを減算し、ΔYIを得た。
(11)熱エージング後のシート強度
多孔質シートをオーブンに入れ、150℃、大気下で3000時間運転を行い、熱エージングを行った。熱エージング後の試料から幅1cm、長さ3cmの短冊状試料を切り出し、ピンセットで破断するまで引っ張った。引っ張った際に手に抵抗を感じて破断したものはシート強度が〇、引っ張った際に手に抵抗を感じずに破断したものはシート強度が△、引っ張った際にピンセットでつかんだ位置で試料が崩壊してしまうものをシート強度が×、とした。
[樹脂複合体の評価]
実施例7〜12、及び比較例7〜9について、下記の項目について評価した結果を以下の表2に示す。
(12)貯蔵弾性率変化
得られた樹脂複合体のダンベルを測定サンプルとした。貯蔵弾性率測定に用いた装置と測定条件は下記である。
装置:GABO社エプレクサー
測定モード:引張
周波数:10Hz
温度範囲:−130℃〜150℃
昇温速度:3℃/分
測定雰囲気:窒素
貯蔵弾性率変化は、下記式に従って算出した。
貯蔵弾性率変化=低温時の貯蔵弾性率/高温時の貯蔵弾性率
PA66、PA6については高温/低温の温度は150℃/0℃とし、PPについては100℃/−50℃とした。
一般に貯蔵弾性率は高温になるほど小さくなるため、貯蔵弾性率変化は1以上となる。この値が1に近いほど、高温での貯蔵弾性率変化が小さく、耐熱性が高いといえる。
(13)外観
混練後樹脂複合化後に得られたサンプルの外観について、明らかに褐色なものを×、変色が見られないものを○、やや褐色になっているものを△とした。
(14)線熱膨張率(CTE)
樹脂複合体1〜9を3mm幅×25mm長に切断し、測定サンプルとした。SII製TMA6100型装置を用いて、引っ張りモードでチャック間10mm、荷重5g、窒素雰囲気下、室温から120℃まで5℃/min.で昇温した後、25℃まで5℃/min.で降温し、再び25℃から120℃まで5℃/min.で昇温した。この際、2度目の昇温時における0℃〜60℃の間の平均の線熱膨張率を測定した。
以上の評価結果の通り、高Mw、低Mw/Mn、低アルカリ可溶分及び高結晶化度を有する化学修飾微細繊維を用いることで、樹脂複合体の外観に優れた耐熱性の高い樹脂複合体が得られることが分かる。一方、比較のセルロース微細繊維とPA6との樹脂複合体では変色度合いも大きく、外観で好ましくない結果であった。また、融点が高い樹脂を用いることで、より外観に優れ、貯蔵弾性率に優れた樹脂複合体を得られることが分かる。
本発明に係る樹脂複合体は、高Mw、低Mw/Mn、低アルカリ可溶分及び高結晶化度を有する化学修飾微細繊維を用いることで、車載用途、家電部品用途等に望まれる高耐熱の樹脂複合体として好適に利用可能である。

Claims (13)

  1. 重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維。
  2. 熱分解開始温度(TD)が270℃以上であり、数平均繊維径が10nm以上、1μm未満である、請求項1に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。
  3. エステル化セルロース微細繊維である、請求項1又は2に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。
  4. 水酸基の平均置換度が0.5以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。
  5. 化学修飾されたセルロース微細繊維の製造方法であって、
    重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であるセルロース原料を、非プロトン性溶媒を含む分散液中で解繊してセルロース微細繊維を得ることと、
    修飾化剤を含む溶液を前記分散液に加えて前記セルロース微細繊維を修飾することにより、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維を得ることと、
    を含む、方法。
  6. 化学修飾されたセルロース微細繊維の熱分解開始温度(TD)が270℃以上であり、数平均繊維径が10nm以上、1μm未満である、請求項に記載の方法。
  7. 前記非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドであり、かつ、前記修飾化剤が酢酸ビニル又は無水酢酸である、請求項又はに記載の方法。
  8. 請求項1〜のいずれか一項に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維0.5〜40質量%と、樹脂とを含む樹脂複合体。
  9. 前記化学修飾されたセルロース微細繊維が、分散安定剤と、前記分散安定剤中に分散された前記化学修飾されたセルロース微細繊維とを含む分散体の形態で前記樹脂複合体中に分散されており、前記分散体中の前記化学修飾されたセルロース微細繊維の含有率が10〜90質量%である、請求項に記載の樹脂複合体。
  10. 前記分散安定剤が、界面活性剤、及び沸点160℃以上の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の樹脂複合体。
  11. 前記樹脂が、熱可塑性樹脂である、請求項10のいずれか一項に記載の樹脂複合体。
  12. 請求項11のいずれか一項に記載の樹脂複合体を含む自動車用部材。
  13. 請求項11のいずれか一項に記載の樹脂複合体を含む家電用部材。
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