JP2022169490A - 乾燥体及びその製造方法、並びに樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

乾燥体及びその製造方法、並びに樹脂組成物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】微細セルロース繊維が熱可塑性樹脂中に良好に分散することで当該微細セルロース繊維による補強効果が良好に発現するとともに、熱可塑性樹脂本来の物性も損なわれることなく良好に発現する樹脂組成物を形成できる、微細セルロース繊維を含む乾燥体及びその製造方法、並びに当該乾燥体と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法の提供。【解決手段】微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体であって、エタノール、アセトン又はトルエン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、フローファンクション値が3.0以上である、乾燥体。【選択図】なし

Description

本発明は、微細セルロース繊維を含む乾燥体及びその製造方法、並びに微細セルロース繊維を含む樹脂組成物の製造方法に関する。
樹脂材料は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されているが、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いことから、樹脂と各種フィラーとをコンポジットしたものが一般的に用いられている。近年、このようなフィラーとして、微細セルロース繊維(CNF)等のナノ繊維を使用することが検討されている。CNFをはじめとしたナノ繊維は、乾燥状態では凝集し易いという性質があるため、安定分散が可能な分散液として製造される。例えば、微細セルロース繊維を各種用途に適用する際には、上記分散液を一旦乾燥した後、分散媒中に分散し、又は乾燥体のままで、マトリクス樹脂中に再分散させる場合がある。しかし微細セルロース繊維において、セルロース分子間の水素結合による凝集は極めて強固であることから、従来、乾燥工程における微細セルロース繊維の凝集を抑制するための手法が種々提案されている。
例えば、特許文献1は、(A)粉末状のナノファイバーに対し、(B)分散剤を固形分換算で1~40重量%配合してなり、かつ嵩密度が90~200g/Lであることを特徴とする粉末状ナノファイバーを記載する。
特開2017-210596号公報
特許文献1に記載される技術は、分散剤を使用して、微細セルロース繊維等のナノファイバーの、樹脂等のマトリックス成分中での分散性を高めようとするものであるが、当該技術によってもなお、一旦乾燥された微細セルロース繊維の再分散性は十分ではなく、特に、微細セルロース繊維を乾燥状態のまま樹脂と混合した際にも当該微細セルロース繊維を樹脂中に良好に分散できるような技術は確立されていない。更に、特許文献1に記載されるような粉末状ナノファイバーを樹脂と混合すると、当該粉末状ナノファイバーの作用により、樹脂本来の物性が樹脂組成物で十分発揮されない場合がある。このように、従来の技術では、微細セルロース繊維による樹脂組成物への物性向上効果を満足できるレベルで実現できていない。
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、微細セルロース繊維が熱可塑性樹脂中に良好に分散することで当該微細セルロース繊維による補強効果が良好に発現するとともに、熱可塑性樹脂本来の物性(引張破断伸度、及び引張破断強度)も損なわれることなく良好に発現する樹脂組成物を形成できる、微細セルロース繊維を含む乾燥体及びその製造方法、並びに当該乾燥体と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法の提供を目的とする。
本開示は、以下の態様を包含する。
[1] 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体であって、
エタノール100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
フローファンクション値が3.0以上である、乾燥体。
[2] 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体であって、
アセトン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
フローファンクション値が3.0以上である、乾燥体。
[3] 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体であって、
トルエン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
フローファンクション値が3.0以上である、乾燥体。
[4] 目標荷重60Nにおける応力伝達率が70%以上である、上記態様1~3のいずれかに記載の乾燥体。
[5] 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体の製造方法であって、
微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程を含み、
エタノール100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
フローファンクション値が3.0以上である、方法。
[6] 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体の製造方法であって、
微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程を含み、
アセトン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
フローファンクション値が3.0以上である、方法。
[7] 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体の製造方法であって、
微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程を含み、
トルエン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
フローファンクション値が3.0以上である、方法。
[8] 微細セルロース繊維と、分散剤と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程と、
前記乾燥体と熱可塑性樹脂とを混合する工程と、
を含み、
エタノール、アセトン及びトルエンのうち前記熱可塑性樹脂と最も近接するSP値を有する溶媒100質量部に、前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
フローファンクション値が3.0以上である、方法。
[9] 前記熱可塑性樹脂がポリアミドであり、前記溶媒がエタノールである、上記態様8に記載の方法。
[10] 前記熱可塑性樹脂がポリブチレンテレフタレートであり、前記溶媒がアセトンである、上記態様8に記載の方法。
[11] 前記熱可塑性樹脂がポリアセタールであり、前記溶媒がアセトンである、上記態様8に記載の方法。
[12] 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、前記溶媒がトルエンである、上記態様8に記載の方法。
本発明の一態様によれば、微細セルロース繊維が熱可塑性樹脂中に良好に分散することで当該微細セルロース繊維による補強効果が良好に発現するとともに、熱可塑性樹脂本来の物性も損なわれることなく良好に発現する樹脂組成物を形成できる、微細セルロース繊維を含む乾燥体及びその製造方法、並びに当該乾燥体と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法が提供され得る。
破壊包絡線、単軸崩壊応力、及び最大主応力について説明する図である。
本発明の例示の態様(以下、本実施形態ともいう。)について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
≪乾燥体≫
本発明の一態様は、微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体を提供する。
一態様においては、エタノール100質量部に乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の分散剤の溶出量(g)を、浸漬に供した乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、一態様においては乾燥体のフローファンクション値が3.0以上である。
一態様においては、アセトン100質量部に乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の分散剤の溶出量(g)を、浸漬に供した乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、一態様においては乾燥体のフローファンクション値が3.0以上である。
一態様においては、トルエン100質量部に乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の分散剤の溶出量(g)を、浸漬に供した乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、一態様においては乾燥体のフローファンクション値が3.0以上である。
分散剤を伴った微細セルロース繊維が熱可塑性樹脂と混合されてなる樹脂組成物において、熱可塑性樹脂本来の物性が発揮されない原因について、本発明者が原因を検討したところ、溶融混練早期に、乾燥体に含まれる分散剤が過度に熱可塑性樹脂中へ移行することで、乾燥体の熱可塑性樹脂中へのマクロスケールの分散性(マクロ分散性ともいう)が悪化している可能性が示唆された。本発明者は更に、このような早期の熱可塑性樹脂中への分散剤溶出を抑制する手法を種々検討した結果、特定溶媒に対する分散剤のごく初期の溶出量を所定未満に制御した乾燥体が有利であることを見出した。すなわち、樹脂組成物の製造時に乾燥体と混合される熱可塑性樹脂(又は一態様においてはその原料モノマー)は、乾燥体との親和性が当該熱可塑性樹脂と類似する溶媒と比べると、乾燥体の空隙に浸入し難い。乾燥体を溶媒に浸漬した際の分散剤の溶出量の中でも、特に1分間というごく初期の溶出量が少ないことは、当該溶媒が乾燥体内部に浸入し難いか、浸入しても乾燥体から分散剤を脱離させ難いことを意味する。特定溶媒への浸漬時の分散剤の初期溶出量が低く抑えられた乾燥体は、当該溶媒とSP値が近接する熱可塑性樹脂と混合された際に、分散剤を過度に脱離させて熱可塑性樹脂中に移行させることがないため、効率的に乾燥体にせん断力が印加され、光学顕微鏡やX線-CTで観察されるようなマクロスケール(より具体的には直径5μm以上)の巨大凝集塊の生成が抑制されることによって(マクロ分散性に優れる、ともいう)、樹脂組成物の物性低下を生じさせ難い。
上記の溶媒はそれぞれ、樹脂成形体を形成するための樹脂組成物に用いられる代表的な熱可塑性樹脂と近接するSP値を有し得る。このような特定の溶媒に対する初期の溶出量が制御された分散剤を含む乾燥体においては、当該溶媒と近接するSP値を有する熱可塑性樹脂に対する当該乾燥体中の分散剤の移行が良好に低減され得る。エタノールのSP値は12.7であり、アセトンのSP値は9.9、トルエンのSP値は8.9である。乾燥体において、ある熱可塑性樹脂を浸入し難くするためには、上記3種の溶媒のうち、当該熱可塑性樹脂とSP値が最も近接する溶媒に対する分散剤の初期の溶出量を制御することが有効である。より具体的には、使用する熱可塑性樹脂のSP値が11.3以上の時はエタノール、11.3未満9.4以上の時はアセトン、9.4未満の時はトルエンを用いるのがよい。例えば、ポリアミド6、ポリビニルアルコール、及びポリ塩化ビニリデンのSP値はそれぞれ、12.2、12.6、12.2であるため、これらの熱可塑性樹脂との組合せが想定される乾燥体においてはエタノールに対する分散剤溶出量を評価するのがよい。また、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリオキシメチレン(ポリアセタール)のSP値はそれぞれ、10.0、10.8、11.1であるため、これらの熱可塑性樹脂との組合せが想定される乾燥体においてはアセトンに対する分散剤溶出量を評価するのがよい。また、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びポリエチレンのSP値はそれぞれ、8.1、8.9、8.0であるため、これらの熱可塑性樹脂との組合せが想定される乾燥体においてはトルエンに対する分散剤溶出量を評価するのがよい。
熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値(SP値)は、井出文雄著「実用ポリマーアロイ設計」(工業調査会 初版、1996年9月1日発行)に記載される値に基づいてよい。本開示では、上記文献に数値範囲として記載される熱可塑性樹脂のSP値についてはその平均値を当該熱可塑性樹脂のSP値として採用するものとする。例えば、ポリアミド6のSP値は上記文献で11.6~12.7の範囲と記載されるため、その平均値である12.2(小数点以下2桁で四捨五入)をポリアミド6のSP値として採用する。該書籍に記載されていない熱可塑性樹脂のSP値はJ.Brandrup、Edmund H.Immergut、E.A.Grulke編集「Polymer Handbook 4th edition」(Wiley-Interscience、1999年2月1発行)に記載される値に基づいてよい。
溶媒のSP値は、小林敏勝、色材、77、188、2004に記載される値に基づいてよい。
具体的には、乾燥体がエタノールへの1分間浸漬時に本開示の所定未満の分散剤溶出率を示す場合、当該乾燥体を上記のポリアミド、ポリビニルアルコール、又はポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂と混合した際に、分散剤の熱可塑性樹脂中への移行が所望の程度低減され得るため、分散剤の可塑剤効果による熱可塑性樹脂の物性低下を十分に抑制できる。アセトン及びトルエンと、これらにSP値が近接する熱可塑性樹脂とについても同様である。このように、特定溶媒に対する分散剤溶出率が所定未満に制御された本実施形態の乾燥体は、当該溶媒とSP値が近接する熱可塑性樹脂に対する分散剤の移行を所望の程度抑制でき、良好な物性の樹脂組成物を形成し得る。
溶媒がエタノールである場合、溶媒がアセトンである場合、及び溶媒がトルエンである場合の各々における分散剤溶出率は、それぞれの溶媒とSP値が近接する熱可塑性樹脂に対する分散剤の移行を抑制する観点から、一態様において、60質量%未満、又は50質量%以下、又は40質量%以下、又は35質量%以下、又は30質量%以下である。当該分散剤溶出率は低い方が好ましく、0質量%であってよいが、乾燥体の製造容易性の観点から、例えば、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上であってもよい。
乾燥体を粉体層せん断試験機で測定することで求められるフローファンクション値は、粉体流動性の指標であり、数値が高い程、粉体流動性に優れる。粉体流動性に優れることで溶融混練時の乾燥体のフィード量が安定化し、得られる樹脂組成物のペレットに含まれる微細セルロース繊維量並びに巨大凝集塊数が均一化する。巨大凝集塊は樹脂成形体の引張破断の起点となるが、その存在が不均一である場合、高濃度で存在する部分でより早期に破断する(すなわち、引張破断伸度が小さい)。巨大凝集塊数が均一化できれば、樹脂成形体の物性が均一化し、引張破断伸度を著しく増大させることができる。したがって、分散剤溶出率が60%未満の乾燥体であっても、フローファンクション値が低ければ、巨大凝集塊が不均一に存在するため、引張破断伸度の増大は困難である。
フローファンクション値を制御する手段としては、これらに限定されないが以下を例示できる。乾燥条件として、回転羽のずり速度、乾燥速度、乾燥温度、圧力(減圧度)、後述する第1媒体の溶媒種、第2媒体を添加するタイミング等を制御することが挙げられる。特に、回転羽のずり速度が高く、粉体に強せん断を与える機構を有していること、第1媒体の主たる溶媒種が水であること、及び/又は第2媒体を添加するタイミングがスラリー中の液体含有率が60質量%以下の時であることが好適である。
フローファンクション値は、引張破断伸度の増大の観点から、一態様において3.0以上であり、好ましくは、3.5以上、又は4.0以上、又は4.5以上、又は5.0以上、又は5.5以上であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは、10.0以下、又は9.0以下、又は8.0以下である。
分散剤溶出率を60質量%未満に制御する手段としては、これらに限定されないが、乾燥体の、平均粒径、BET比表面積、ゆるめ嵩密度、あつめ嵩密度、圧縮度、安息角、崩潰角、差角、内部摩擦角、粉体動摩擦角、応力伝達率、応力緩和率、単軸崩壊応力のうち1つ又は2つ以上を以下のように制御することが挙げられる。
<平均粒径>
乾燥体の平均粒径は、好ましくは、1μm以上、又は10μm以上、50μm以上、又は100μm以上、又は200μm以上、又は500μm以上であり、好ましくは、5000μm以下、又は4000μm以下、又は3000μm以下、又は2000μm以下である。上記平均粒径は、レーザー回折・散乱法で測定される値である。
<BET比表面積>
一態様において、乾燥体のBET比表面積は、微細セルロース繊維の樹脂組成物中のナノ分散性向上の観点から、好ましくは、1m2/g以上、又は3m2/g以上、又は5m2/g以上、又は8m2/g以上、又は10m2/g以上、又は12m2/g以上であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは50m2/g以下、又は40m2/g以下、又は30m2/g以下、又は25m2/g以下、又は20m2/g以下である。比表面積は、比表面積・細孔分布測定装置(Nova-4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)にて、乾燥体約0.2gを真空下で120℃、5時間乾燥を行った後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m2/g)を算出することで得られる値である。なお、微細セルロース繊維がナノ分散しているとは、樹脂組成物を透過型電子顕微鏡で観察した際の微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下であることを言う。ナノ分散していない場合は、凝集のため平均繊維径が1000nmを超える。樹脂組成物中の微細セルロース繊維の平均繊維径の測定は以下のように行うことができる。例えば、四塩化ルテニウム、又はリンタングステン酸等の重金属化合物を用いてサンプルを酸化染色し、ウルトラミクロトーム等で超薄切片を切り出す。その切片を透過型電子顕微鏡で観察して(例えば、倍率10000倍で観察)、任意の場所10点の画像を得る。つづいて、画像の対角線に線を引き、その近傍にある繊維をランダムに12点抽出し、最も太い繊維と最も細い繊維を除去した10点の繊維径測定値の平均を、その画像における平均繊維径とする。撮影した10枚の画像での当該平均繊維径の平均を樹脂組成物中の微細セルロース繊維の平均繊維径とする。
<ゆるめ嵩密度>
一態様において、乾燥体のゆるめ嵩密度は、乾燥体の流動性が良好で二軸押出機へのフィード性に優れる点、分散剤の樹脂への移行抑制の観点から、好ましくは、0.10g/cm3以上、又は0.15g/cm3以上、又は0.20g/cm3以上、又は0.25g/cm3以上、又は0.30g/cm3以上、又は0.35g/cm3以上、又は0.40g/cm3以上、又は0.45g/cm3以上であり、乾燥体が樹脂中で容易に崩壊して微細セルロース繊維が樹脂中に良好にマクロ分散できる点、及び、乾燥体が重質過ぎず乾燥体と樹脂との混合不良を回避できる点で、好ましくは、0.85g/cm3以下、又は0.80g/cm3以下、又は0.75g/cm3以下である。
<あつめ嵩密度>
乾燥体のあつめ嵩密度は、ゆるめ嵩蜜度及び圧縮度を本開示の範囲に制御するのに有用である範囲に制御され、一態様において、好ましくは、0.01g/cm3以上、又は0.1g/cm3以上、又は0.15g/cm3以上、又は0.2g/cm3以上、又は0.3g/cm3以上、又は0.4g/cm3以上、又は0.5g/cm3以上、又は0.6g/cm3以上であり、好ましくは、0.95g/cm3、又は0.9g/cm3、又は0.85g/cm3以下である。
<圧縮度>
圧縮度は、圧縮度=(あつめ嵩密度-ゆるめ嵩密度)/あつめ嵩密度、で算出される値である。ゆるめ嵩密度及びあつめ嵩密度は、本開示の[実施例]の項に記載した方法で測定される値である。
一態様において、圧縮度は嵩減りの程度を表す。一態様において、乾燥体の圧縮度は、乾燥体の流動性が高過ぎない点で、好ましくは、1%以上、又は5%以上、又は10%以上、又は15%以上、又は20%以上、又は25%以上である。また、乾燥体の流動性が良好で二軸押出機へのフィード性に優れる点、及び取扱い性に優れる(具体的には、飛散、浮遊、又は粉塵形成が生じ難い)点、熱可塑性樹脂中に乾燥体を良好にマクロ分散させる点、分散剤の樹脂への移行抑制で、圧縮度は、好ましくは、50%以下、又は45%以下、又は40%以下、又は35%以下、又は30%以下である。
<安息角>
一態様において、乾燥体の安息角は、好ましくは、60°以下、又は50°以下、又は45°以下、又は42°以下、又は40°以下、又は38°以下である。安息角が上記範囲である乾燥体は、流動性が良好で二軸押出機へのフィード性に優れる点、熱可塑性樹脂への分散剤の移行を抑制できる点で有利である。安息角は、取扱い性に優れる(具体的には、飛散、浮遊、又は粉塵形成が生じ難い)点、樹脂中での微細セルロース繊維のナノ分散性及びマクロ分散性が良好である点で、例えば10°以上、又は20°以上、又は30°以上であってよい。
<崩潰角>
乾燥体の崩潰角は、安息角及び差角を本開示の範囲に制御するのに有用である範囲に制御され、一態様において、10°以上、又は15°以上、又は17°以上、又は20°以上、又は25°以上、又は30°以上であってよく、一態様において、50°以下、又は45°以下、又は40°以下、又は35°以下、又は33°以下、又は32°以下であってよい。
<差角>
一態様において、乾燥体の差角(すなわち、安息角と崩潰角との差)は、好ましくは、1°超、又は5°以上、又は10°以上、又は11°以上、又は12°以上、又は13°以上である。差角が上記範囲である乾燥体は、粒子間の相互作用(摩擦力等)が比較的小さいことにより流動性が高く二軸押出機へのフィード性に優れるが、樹脂中では容易に崩壊して微細セルロース繊維を樹脂中にマクロ分散させることができる。差角は、乾燥体の製造容易性の観点から、例えば30°以下、又は25°以下、又は20°以下であってよい。
安息角及び崩潰角は、本開示の[実施例]の項に記載した方法で測定される値である。差角は安息角と崩潰角との差として算出される。
好ましい一態様においては、圧縮度、ゆるめ嵩密度及びかため嵩密度が、上記で例示した範囲内とされる。
また、好ましい一態様においては、圧縮度、ゆるめ嵩密度及びかため嵩密度と、安息角及び差角の一方又は両方とが、上記で例示した範囲内とされる。
<内部摩擦角>
一態様において、乾燥体の内部摩擦角は、粉体流動性の観点から、好ましくは、60°未満、又は55°未満、又は50°未満、又は45°未満、又は40°未満であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは、10°以上、又は20°以上、又は30°以上である。
<粉体動摩擦角>
一態様において、乾燥体の粉体動摩擦角は、粉体流動性の観点から、好ましくは、60°未満、又は55°未満、又は50°未満、又は45°未満、又は40°未満であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは、10°以上、又は20°以上、又は30°以上である。
<応力伝達率>
一態様において、乾燥体の押し込み最大荷重60N時の応力伝達率は、粉体流動性、及び、微細セルロース繊維の樹脂組成物中のマクロ分散性向上の観点から、好ましくは、40%以上、又は50%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは、95%未満、又は90%未満である。応力伝達率は粉体への応力の印加の程度を表す指標である。応力伝達率が高いと粉体に応力が印加されやすく、粗大な凝集塊の発生を抑制することができ、樹脂組成物の引張破断伸度及び引張破断強度が向上する。
<応力緩和率>
一態様において、乾燥体の押し込み最大荷重60N時の応力緩和率は、粉体流動性の観点、及び、微細セルロース繊維の樹脂組成物中のナノ分散性向上の観点から、好ましくは、55%以下、又は50%以下、又は45%以下、又は40%以下、又は30%以下であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは、10%以上、又は20%以上である。応力緩和率は、一定荷重で圧密化した乾燥体が再配列することで応力がどの程度緩和するかの指標である。応力緩和率が低いと、再配列が起きにくくなるため、溶融混練中に効率的に乾燥体にせん断力が印加される。そのため、樹脂組成物中の微細セルロース繊維のナノ分散性が向上する。
<単軸崩壊応力>
一態様において、乾燥体の押し込み最大荷重60N時の単軸崩壊応力は、粉体流動性の観点、及び、微細セルロース繊維の樹脂組成物中のナノ分散性向上の観点から、好ましくは、180kPa以下、又は150kPa以下、又は130kPa以下であり、乾燥体の製造容易性の観点から、好ましくは、50kPa以上、又は80kPa以上である。単軸崩壊応力は、圧密化した乾燥体が崩れるのに必要な応力であり、単軸崩壊応力が低いと乾燥体の粒子間の付着力が小さくなるため、乾燥体の破砕に必要なエネルギーが小さくなる。したがって、溶融混練中に効率的に乾燥体を破砕でき、樹脂組成物中の微細セルロース繊維のナノ分散性が向上する。
<測定>
なお、粉体動摩擦角、内部摩擦角、応力伝達率、応力緩和率、単軸崩壊圧力、フローファンクション値は、粉体層せん断試験機(株式会社ナノシーズ製 型式:NS-S300)を用いて以下のように測定される(図1参照)。
まず、側面に間隙があり、セルの上下間で乾燥体のせん断が可能な直径15mmの円筒形の試料セルに測定試料を入れて、その上に上杵を静かに載せる。その後、上杵を下降させて乾燥体に垂直方向に応力(垂直応力)をかける。この際に上杵にかかる応力を荷重センサで測定し目標とする応力まで到達したら(この時の上杵にかかった垂直応力の最大値を最大垂直応力U0とする)、上杵の下降を停止させる。この後、上杵の応力をモニタリングし続けると乾燥体の変形や移動により応力が緩和するので、変動が十分に小さくなった時の応力を緩和応力U1とする。また、変動が十分に小さくなった時の下杵に掛かる応力を伝達応力L1とする。
続いて、下部のセルを10μm/秒で上杵と水平方向に押し込み、セルの上下間の間隙にせん断をかける。この際に下部のセルにかかるせん断方向の応力(せん断応力)と、下部のセルにかかる上杵の垂直応力とを荷重センサで終始モニタリングする。せん断中に垂直応力とせん断応力が一定になる点を臨界状態点とする。臨界状態点に到達した後、せん断を継続させながら垂直応力がゼロになるまで徐々に減少させる(この時の垂直応力(横軸)とせん断応力(縦軸)のプロットを破壊包絡線という)。以上のサイクルを一測定とし、上杵の目標応力20N、40N、60Nの3条件について20Nから連続で測定する。尚、3回目に60Nの垂直応力をかけた際の緩和応力U1に対する伝達応力L1及び最大垂直応力U0に対する緩和応力U1から応力伝達率及び応力緩和率を求める。
(応力伝達率)=100×L1/U1
(応力緩和率)=100×(1-U1/U0)
粉体動摩擦角は、垂直応力(横軸)とせん断応力(縦軸)のプロットにおいて、目標応力20N、40N、60Nでの測定の3つの臨界状態点について、原点を通る線形近似線の角度である。
内部摩擦角は、目標応力20N、40N、60Nでの測定の3つの破壊包絡線の臨界状態点について、線形近似線の角度である。
単軸崩壊応力は、モール・クーロンモデルによる解析を行い、目標応力60Nにおける破壊包絡線について、原点を通り、かつ、破壊包絡線に接するモールの応力円を描き、X軸と交わる大きい方の値を単軸崩壊応力とする。
フローファンクション値は、まず各目標応力20N、40N、60Nでの単軸崩壊応力、最大主応力を算出した後、目標応力ごとに最大主応力を単軸崩壊応力で除することで各目標応力での個別フローファンクション値を算出する。つづいて、得られた3つの個別フローファンクション値の平均値をフローファンクション値とする。
単軸崩壊応力は前述の手法に従い、目標応力20N、40N、60Nの破壊包絡線それぞれについて算出する。
最大主応力はモール・クーロンモデルによる解析を行い、目標応力20N、40N、60Nの破壊包絡線それぞれについて、臨界状態点に接するモールの応力円を描き、X軸と交わる大きい方の値を最大主応力とする。
乾燥体の水分率は、好ましくは、30質量%以下、又は20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。水分率は、0質量%であってよいが、乾燥体の製造容易性の観点から、例えば、0.1質量%以上、又は1質量%以上、又は1.5質量%以上であってよい。水分率は、赤外加熱式水分計を用いて測定される値である。
以下、乾燥体の各成分の好適な態様を例示する。
<微細セルロース繊維>
微細セルロース繊維は、天然セルロース及び再生セルロースから選ばれる各種セルロース繊維原料から得られるものであってよい。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。これらの原料は、必要に応じて、グラインダー、リファイナー等の機械力による叩解、フィブリル化、微細化等によって、繊維径、繊維長、フィブリル化度等を調整したり、薬品を用いて漂白、精製し、セルロース以外の成分(リグニン等の酸不溶成分、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、等)の含有率を調整したりすることができる。
微細セルロース繊維は、セルロース繊維原料を高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の乾式又は湿式の微細化法により解繊した微細なセルロース繊維を指す。一態様において、微細セルロース繊維は数平均繊維径2nm以上1000nm以下である。微細セルロース繊維は後述のように化学修飾されたものであってもよい。
一態様において、微細セルロース繊維はスラリーとして得ることができる。セルロース繊維原料を水並びに/又は他の媒体(例えば、有機溶媒、無機酸、塩基及び/若しくはイオン液体)中に分散させて微細化することによって調製できる。例えば上記解繊の生成物を本開示で乾燥体の形成に使用される分散体として得てもよい。
前記微細化処理に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~4のアルコール;メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~6のグリコールエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~8のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~20、好ましくは炭素数3~6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1~20、好ましくは1~8の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;ギ酸、酢酸、乳酸等の炭素数0~20のカルボン酸;酢酸エチル、酢酸ビニル等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~6のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、微細化処理の操作性の観点から、炭素数1~6のアルコール、炭素数2~6のグリコールエーテル、炭素数2~8のエーテル、炭素数3~6のケトン、炭素数2~5の低級アルキルエーテル、炭素数0~8のカルボン酸、炭素数2~6のエステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が好ましい。
無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、ホウ酸等を例示できるが、解繊性の効率及び取り扱い性の観点から、好ましくは、塩酸、硫酸、リン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である。
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン等を例示できるが、解繊性の効率及び取り扱い性の観点から、好ましくは、水酸化物、炭酸塩及び有機アミンからなる群から選択される1種又は2種以上である。
本開示におけるイオン液体とは、カチオン部とアニオン部の少なくとも一方に有機イオンを含みイオンのみの融点が100℃以下の液体の塩を指す。イオン液体は、そのカチオン部がイミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルフォリニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、及びホスホニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも1つのカチオンを有することが好ましい。
中でも、イミダゾリウム骨格を有するイオン液体、例えば下記式(1):
Figure 2022169490000001
(式中、R1及びR2は各々独立に、炭素数1~8の、アルキル基、又はアリル基を表し、Xはアニオンを表す。)
で示されるイミダゾリウム系イオン液体は、他のイオン液体よりも比較的融点が低いことから、液体で存在する温度領域が広く、低温でも流動性を有し、熱安定性に優れる点でより好ましい。R1及びR2の炭素数は、それぞれ、解繊性の観点から、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が最も好ましい。
アニオン成分としては、ハロゲン化物イオン(Cl-、Br-、I-等)、カルボン酸アニオン(例えば総炭素数1~3のカルボン酸アニオン、例えばC25CO2 -、CH3CO2 -、HCO2 -等)、擬ハロゲン化物イオン(すなわち、一価でありハロゲン化物イオンに類似した特性を有するイオン、例えば、CN-、SCN-、OCN-、ONC-、N3 -等)、スルホン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン(メタンスルホン酸アニオン等)、リン酸アニオン(エチルリン酸アニオン、メチルリン酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン等)、ホウ酸アニオン(テトラフルオロホウ酸アニオン等)、過塩素酸アニオン等が挙げられ、解繊性の観点から、ハロゲン化物イオン、及びカルボン酸アニオンが好ましい。
イミダゾリウム系イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムホルメイト、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジメチルホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート、1,3-ジメチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムブロミド等を挙げることができる。
イオン液体のみでセルロース繊維原料を解繊処理することも出来るが、セルロースに対する溶解力が高すぎて微細セルロース繊維を溶解してしまう恐れがある場合、イオン液体に水並びに/又は有機溶媒を添加して使用することが好ましい。添加する有機溶媒種はイオン液体との相溶性、セルロースとの親和性、混合溶媒のセルロース繊維原料に対する溶解性、粘度などを考慮し適宜選択すればよいが、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルフォキサイド、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上が好ましい。
微細化処理における水並びに/又は他の媒体の合計使用量は、セルロース繊維原料を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、セルロース繊維原料に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは10質量倍以上、さらに好ましくは50質量倍以上であり、好ましくは10000質量倍以下、より好ましくは5000質量倍以下、さらに好ましくは2000質量倍以下、特に好ましくは1000質量倍以下である。
セルロース繊維原料は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしても良い。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、微細セルロース繊維の重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が適切な範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程によって微細セルロース繊維が低分子量化すること、及びセルロース繊維原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース繊維原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
一態様において、セルロース繊維原料は化学修飾されてよく、硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等をセルロース繊維原料として使用できる。
一態様において、微細セルロース繊維の数平均繊維径は、微細セルロース繊維による物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは2~1000nmである。微細セルロース繊維の数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、より好ましくは900nm以下、又は800nm以下、又は700nm以下、又は600nm以下、又は500nm以下、又は400nm以下、又は300nm以下、又は200nm以下である。
微細セルロース繊維の数平均繊維長(L)/数平均繊維径(D)比は、微細セルロース繊維を含む樹脂組成物の機械的特性を少量の微細セルロース繊維で良好に向上させる観点から、好ましくは、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下、又は3000以下、又は2000以下、又は1000以下である。
一態様において、本開示の微細セルロース繊維の数平均繊維径(D)、数平均繊維長(L)、及びL/D比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて以下の手順で測定される値である。微細セルロース繊維の水分散液をtert-ブタノールで置換し、0.001~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロース繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
微細セルロース繊維の結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、微細セルロース繊維を樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%以上、又は65%以上、又は70%以上、又は75%以上であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。微細セルロース繊維の結晶化度について上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
ここでいう結晶化度は、微細セルロース繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
また結晶化度は、微細セルロース繊維がセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースライン(2θ=8°及び15°を結ぶ線)からのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =(h0-h1) /h0 ×100
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示の微細セルロース繊維としては、構造上の可動性が比較的高く、当該微細セルロース繊維を樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有する微細セルロース繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上の微細セルロース繊維がより好ましい。
また、微細セルロース繊維の重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
加工性と機械的特性発現との観点から、微細セルロース繊維の重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
微細セルロース繊維の重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
なお、化学修飾された微細セルロース繊維の重合度に関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料の重合度を化学修飾された微細セルロース繊維の重合度とみなしてよい。
一態様において、微細セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は好ましくは、100000以上、又は120000以上、又は150000以上、又は180000以上、又は200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、微細セルロース繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性の微細セルロース繊維、及び微細セルロース繊維と樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。微細セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース繊維原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下、又は400000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は1.7以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。セルロース繊維原料のMw及びMw/Mnの各々は一態様において上記範囲内であってもよい。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、酵素処理、再生セルロース化、加水分解処理等を例示できる。
なお、化学修飾された微細セルロース繊維のMw,Mn,Mw/Mnに関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のMw,Mn,Mw/Mnを化学修飾された微細セルロース繊維のMw,Mn,Mw/Mnとみなしてよい。
ここでいう微細セルロース繊維の重量平均分子量及び数平均分子量とは、微細セルロース繊維を塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
微細セルロース繊維の重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、微細セルロース繊維内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース繊維原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上微細セルロース繊維を処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分が微細セルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース繊維原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
微細セルロース繊維のミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。
微細セルロース繊維が含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、微細セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、微細セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
一態様において、微細セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、溶融混練時の微細セルロース繊維の機械強度保持、及び黄変抑制の点から、微細セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。なお、化学修飾された微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾された微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類含有率を微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率とみなしてよい。
微細セルロース繊維が含み得る酸不溶成分は、植物(例えば木材)を溶媒抽出した脱脂試料を硫酸処理した後に残存する不溶成分として当業者に理解される。酸不溶成分は具体的には芳香族由来のリグニンであるが、それに限定されない。酸不溶成分はそれ自体が着色している場合が多く、樹脂組成物の外観を損なう、又、熱エージング時に黄変を引き起こすこと等の不都合を招来し得ることから、微細セルロース繊維中の酸不溶成分平均含有率は少ない方が好ましい。
一態様において、微細セルロース繊維中の酸不溶成分平均含有率は、微細セルロース繊維の耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、微細セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。なお、化学修飾された微細セルロース繊維の酸不溶成分平均含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾された微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類含有率を化学修飾された微細セルロース繊維の酸不溶成分平均含有率とみなしてよい。
微細セルロース繊維の熱分解開始温度(TD)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は310℃以下、又は300℃以下であってもよい。
微細セルロース繊維の1wt%重量減少時の温度(T1%)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、230℃以上、又は240℃以上、又は250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上、又は290℃以上である。T1%は高いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、330℃以下、又は320℃以下、又は310℃以下であってもよい。
微細セルロース繊維の250℃重量減少率(T250℃)は溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、15%以下、又は12%以下、又は10%以下、又は8%以下、又は6%以下、又は5%以下、又は4%以下、又は3%以下である。T250℃は低いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、0.1%以上、又は0.5%以上、又は0.7%以上、又は1.0%以上であってもよい。
本開示で、TDとは、窒素フロー下の熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である。後述する微細セルロース繊維の多孔質シートを窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、つづいて、そのまま450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温する。150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点として、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
微細セルロース繊維の250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、微細セルロース繊維を250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。後述する微細セルロース繊維の多孔質シートを窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持する。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求める。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃、及び後述するDS、DSs、DS不均一比、DS不均一比の測定は測定サンプルの形態によって数値が大きく変動することがある。安定した再現性のある測定をするために、測定サンプルは歪みのない多孔質シートを用いる。多孔質シートの作製方法は以下のとおりである。
まず、固形分率が10質量%以上の微細セルロース繊維の濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行う。微細セルロース繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整する。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過する。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させる。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得る。このシートの透気抵抗度Rがシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用する。
透気抵抗度Rの測定方法は23℃、50%RHの環境で1日静置した多孔質シートサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出する。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
樹脂組成物中の微細セルロース繊維の各種物性(数平均繊維長、数平均繊維径、L/D比、結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃、及び後述するDS、DSs、DS不均一比、DS不均一比の変動係数)は以下の方法で分析する。樹脂組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂組成物中の樹脂成分を溶解させ、微細セルロース繊維を分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒をtert-ブタノールに置換する。その後、微細セルロース繊維tert-ブタノールスラリーを前記手法と同様の測定法を用いて分析し、樹脂組成物中の微細セルロース繊維の各種物性を算出する。
(化学修飾)
微細セルロース繊維は、化学修飾された微細セルロース繊維(化学修飾微細セルロース繊維ともいう)であってよい。化学修飾微細セルロース繊維として、例えば硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等が挙げられる。化学修飾は1種類又は2種類以上修飾基を含んでいても良い。
微細セルロース繊維は、修飾化剤によって例えばセルロース繊維原料の段階、解繊処理中、又は解繊処理後に予め化学修飾されたものであっても良いし、分散体としてのスラリーの調製中又はその後、或いは乾燥・造粒工程中又はその後に化学修飾されてもよい。
微細セルロース繊維の修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、例えば、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤等が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化であり、特に好ましくはアセチル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、カルボン酸ビニルエステル、及びカルボン酸が好ましい。
酸ハロゲン化物は、下記式で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1-C(=O)-X
(式中、R1は炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式:
R-COO-CH=CH2
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。 アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
カルボン酸としては、下記式で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R-COOH
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニル、酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
乾燥体中の微細セルロース繊維が化学修飾(例えばアシル化等の疎水化によって)されている場合、乾燥体の樹脂中でのナノ分散性、及びマクロ分散性は良好である傾向があるが、本開示の乾燥体は、非置換又は低置換度であっても樹脂中で良好なナノ分散性、及びマクロ分散性を示すことができる。乾燥体中の微細セルロース繊維がエステル化微細セルロース繊維である場合、アシル置換度(DS)は、熱分解開始温度が高い、エステル化微細セルロース繊維及びこれを含む樹脂組成物を得ることができる点で、好ましくは、0.1以上、又は0.2以上、又は0.25以上、又は0.3以上、又は0.5以上であり、エステル化微細セルロース繊維中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた、エステル化微細セルロース繊維及びこれを含む樹脂組成物を得ることができる点で、好ましくは、2.0以下、又は1.8以下、又は1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下、又は0.8以下、又は0.7以下、又は0.6以下、又は0.5以下である。
化学修飾微細セルロース繊維の修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化微細セルロース繊維の反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する。エステル化微細セルロース繊維のDSは、後述するエステル化微細セルロース繊維の固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
固体NMRによるエステル化微細セルロース繊維のDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化微細セルロース繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
化学修飾微細セルロース繊維の繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂との複合化時の樹脂との親和性の向上、及び樹脂組成物の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2.0以上であり、化学修飾微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
DSsの値は、エステル化微細セルロース繊維の修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
化学修飾微細セルロース繊維のDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース繊維原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾微細セルロース繊維を得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース繊維原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾微細セルロース繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。
DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化微細セルロース繊維を2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
[分散剤]
一態様において、乾燥体は、微細セルロース繊維に加えて分散剤を含む。分散剤は、熱可塑性樹脂中での微細セルロース繊維のナノ分散性、及びマクロ分散性を向上させることに寄与する。分散剤は、1種の物質でも2種以上の物質の混合物であってもよい。後者の場合、本開示の特性値(例えば融点、分子量、SP値)は、当該混合物の値を意味する。
一態様において、エタノール、アセトン及びトルエンのうちの少なくとも1つの溶媒に対する分散剤の23℃での溶解度(すなわち、当該溶媒100gに対する溶解量(g))は、乾燥体への熱可塑性樹脂の浸入が良好に進行する点で、好ましくは、0.1g以上、又は1g以上、又は5g以上である。分散剤は、溶媒と任意の割合で混ざり合ってもよいが、分散剤が熱可塑性樹脂に対して可塑剤として作用することを回避する観点から、上記溶解度は、好ましくは、50g以下、又は20g以下、又は10g以下である。
分散剤は、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、樹脂中に微細セルロース繊維をより均一に分散させる観点で更に好ましい。両親媒性分子としては、炭素原子を基本骨格とし、炭素、水素、酸素、窒素、塩素、硫黄、及びリンから選ばれる元素から構成される官能基を有するものが挙げられる。分子中に上述の構造を有していれば、無機化合物と上記官能基とが化学結合したものも好ましい。親水性セグメントは、微細セルロース繊維の表面との親和性が良好であり、疎水性セグメントは、親水性セグメントを介して微細セルロース繊維同士の凝集を抑制し、更には樹脂と相溶し易い特徴がある。そのため分散剤において親水性セグメントと疎水性セグメントとは同一分子内に存在することが好ましい。
典型的な態様において、親水性セグメントは、親水性構造を含むことによって、微細セルロース繊維との良好な親和性を示す部分である。親水性構造としては、水酸基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸基、ボロン酸基、シラノール基、ソルビタン及びショ糖等の糖類に由来する基、グリセリンに由来する基、-OM、-COOM、-SO3M、-OSO3M、-HMPO4、及び-M2PO4(但し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。)で表される基、並びに、1~3級アミン及び4級アンモニウム塩等が挙げられる。上記4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、並びに、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェート、及びテトラフルオロボレート等からなる群から選ばれる1つ以上の親水性基が挙げられる。
親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールのセグメント(すなわち複数のオキシエチレンユニットのセグメント)(PEGブロック)、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンのソフトセグメント(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。好ましい態様において、親水性セグメントは、オキシエチレンユニットを含む。
疎水性セグメントとしては、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、PPGブロック)、また以下のポリマー構造を含むセグメント等を例示できる:
アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂。
好ましい態様において、分散剤は、分子内に、親水性基としてPEGブロック、及び疎水性基としてPPGブロックを有する。
分散剤は、グラフト共重合体構造、及び/又はブロック共重合体構造を有することができる。これら構造は1種単独でもよいし、2種以上でもよい。2種以上の場合は、ポリマーアロイでもよい。またこれら共重合体の部分変性体、又は末端変性体(酸変性)でも良い。
分散剤の構造は、特に限定されないが、親水性セグメントをA、疎水性セグメントをBとしたときに、AB型ブロック共重合体、ABA型ブロック共重合体、BAB型ブロック共重合体、ABAB型ブロック共重合体、ABABA型ブロック共重合体、BABAB型共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、AとBを含む4分岐型共重合体、AとBを含む星型共重合体、AとBを含む単環状共重合体、AとBを含む多環状共重合体、AとBを含むかご型共重合体、等が挙げられる。
分散剤の構造は、好ましくはAB型ブロック共重合体、ABA型トリブロック共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、又はAとBを含む4分岐型共重合体であり、より好ましくはABA型トリブロック共重合体、3分岐構造体(すなわちAとBを含む3分岐型共重合体)、又は4分岐構造体(すなわちAとBを含む4分岐型共重合体)である。微細セルロース繊維との良好な親和性を確保するために、分散剤の構造は上記構造であることが望ましい。
分散剤の好適例としては、親水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリエチレングリコール)、疎水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリブタジエンジオール等)をそれぞれ1種以上用いて得られる共重合体(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロック共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのブロック共重合体)等が挙げられる。分散剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した共重合体が変性されたもの(例えば、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたもの)も用いることもできる。
これらの中でも、耐熱性(臭気性)及び機械特性の観点から、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコールとポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)の共重合体、及びこれらの混合物が好ましく挙げられ、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
一態様として、分散剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用可能である。分散剤は、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等であってもよい。微細セルロース繊維との親和性の点で、カチオン性界面活性剤、及びノニオン系イオン系界面活性剤が好ましく、耐熱性の観点でノニオン性界面活性剤がより好ましい。
界面活性剤の親水基としては、微細セルロース繊維との親和性の点で、ポリオキシエチレン鎖、ソルビタン及びショ糖等の糖類に由来する基、グリセリンに由来する基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、-OM、-COOM、-SO3M、-OSO3M、-HMPO4、及び-M2PO4(但し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。)、並びに1~3級アミン及び4級アンモニウム塩等が挙げられる。上記4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、並びに、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びテトラフルオロボレートイオン等からなる群から選ばれる1つ以上のイオンが好ましい。親水基としては、ポリオキシエチレン鎖が特に好ましい。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほど微細セルロース繊維との親和性が高まるが、樹脂成形体の所望の特性(例えば機械特性)とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
界面活性剤の疎水基の構造としては、樹脂との親和性が高い点で、アルキル型、アルケニル型、アルキルエーテル型、アルケニルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型等が好ましい。疎水基のアルキル鎖、又はアルケニル鎖の炭素数(アルキルフェニル、又はアルケニルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、界面活性剤の炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まる。上記炭素数は、例えば30以下、又は25以下であってよい。
疎水基としては、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものがより好ましい。環状構造を有する疎水基としては、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、及びスチレン化フェニル型の基が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型(例えば硬化ひまし油エーテル)の基が好ましい。ロジンエステル型、及び硬化ひまし油型は特に好ましい。
好ましい態様において、界面活性剤は、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)共重合体である。
(親水性高分子)
一態様において、分散剤は、親水性高分子であることが好ましい。親水性高分子としては、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、カチオン化グアガム、水溶性ポリウレタン、4級アンモニウム塩構造を含むポリマー、アミド、アミン等からなる群から選択される1種以上を使用することができる。中でも、セルロース誘導体、ポリアルキレングリコールがより好ましい。セルロース誘導体はセルロース系物質であることからセルロースとの親和性が高い一方で、熱可塑性樹脂でもあることから、樹脂組成物中でのセルロースの分散安定性向上効果が高く好ましい。
ポリアルキレングリコールは炭素数2~4のアルキレンオキサイドの付加等により得られ、セルロースとの親和性の観点で炭素数2のポリエチレングリコールが好ましい。オキシアルキレンの繰り返し数は高温剛性を高くする点において、好ましくは、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上、又は20以上、又は30以上、又は40以上、又は50以上、又は60以上、又は70以上、又は80以上、又は90以上、又は100以上であり、加工性の観点から、好ましくは、1000以下、又は900以下、又は800以下、又は700以下、又は600以下、又は550以下、又は500以下である。
(液状ポリマー)
一態様において、分散剤は、液状ポリマーであることが好ましい。液状ポリマーとは、23℃において流動性を有しているポリマーを意味する。液状ポリマーの具体例としては、液状ゴム、液状ポリオレフィン、液状アクリルポリマー、流動パラフィンが挙げられる。液状ゴムとは、23℃において流動性を有しており、且つ架橋(より具体的には加硫)及び/又は鎖延長によってゴム弾性体を形成する物質を意味する。すなわち液状ゴムは一態様において未硬化物である。流動性を有しているとは、一態様において、シクロヘキサンに溶解させた液状ポリマーを23℃にて胴径21mm×全長50mmのバイアル瓶に入れた後乾燥させることによって、液状ポリマーを当該バイアル瓶内に高さ1mmまで充填して密閉し、当該バイアル瓶を上下逆にした状態で24時間静置したときに高さ方向に0.1mm以上の物質の移動が確認できることを意味する。
液状ポリマーは、一般的なポリマーの単量体組成を有してよく、取り扱いの容易性、及び微細セルロース繊維の良好な分散性が得られる観点から、比較的低分子量であることが好ましい。液状ポリマーは、一態様において、数平均分子量(Mn)が80,000以下であることによって液体形状を呈する。なお、本開示の各種ポリマーの数平均分子量及び重量平均分子量は、特記がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、クロロホルムを溶媒とし、40℃の測定温度にて標準ポリスチレン換算で求められる値である。
一態様において、液状ポリマーは微細セルロース繊維と組合されてマスターバッチを形成してよく、このようなマスターバッチを樹脂と組合せて本開示の樹脂組成物を形成してよい。
液状ポリマーの数平均分子量(Mn)は、熱安定性、及び樹脂中での微細セルロース繊維の分散性向上効果の観点から、好ましくは、1,000以上、又は1,500以上、又は2,000以上であり、微細セルロース繊維を液状ポリマー中に分散させる場合の良分散に適した高い流動性を有する点で、好ましくは、80,000以下、又は50,000以下、又は40,000以下、又は30,000以下、又は10,000以下である。
液状ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、熱安定性、及び樹脂中での微細セルロース繊維の分散性向上効果の観点から、好ましくは、1,000以上、又は2,000以上、又は4,000以上であり、微細セルロース繊維を液状ポリマー中に分散させる場合の良分散に適した高い流動性を有する点で、好ましくは、240,000以下、又は150,000以下、又は30,000以下である。
液状ポリマーの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)は、分子量がある程度ばらついていることによって、複数の特性の高度な両立(一態様において、微細セルロース繊維の樹脂中での良分散と樹脂組成物の良好な曲げ弾性率との高度の両立)が可能である点で、好ましくは、1.5以上、又は1.8以上、又は2以上であり、分子量のばらつきが過度に大きくなく樹脂組成物の所望の物性が安定して得られる点、例えば流動性と耐衝撃性との両立の点で、好ましくは、10以下、又は8以下、又は5以下、又は3以下、又は2.7以下である。
液状ポリマーは、良好な熱安定性を有することができる。液状ポリマーの熱分解開始温度(TD)は、良好な熱安定性の点で、一態様において、200℃以上、又は250℃以上、又は300℃以上である。熱分解開始温度は高い方が好ましいが、液状ポリマーの入手容易性の観点から、一態様において、500℃以下、又は450℃以下、又は400℃以下であってよい。
液状ポリマーのガラス転移温度は、良好な熱安定性の点で、好ましくは、-150℃以上、又は-120℃以上、又は-100℃以上であり、良好な流動性の点で、好ましくは、25℃以下、又は10℃以下、又は0℃以下である。
液状ポリマーは、一態様において、ジエン系ポリマーを含み、一態様において、共役ジエン系重合体若しくは非共役ジエン系重合体又はこれらの水素添加物を含む。上記の重合体又はその水素添加物はオリゴマーであってもよい。液状ポリマーを構成する単量体は、非変性物又は変性物(例えば酸変性物、水酸基変性物等)であってよい。一態様において、液状ポリマー、特に液状ゴムは、両末端に反応性基(例えば、水酸基、カルボキシ基、イソシアナト基、チオ基、アミノ基及びハロ基からなる群から選択される1種以上)を有してよく、したがって2官能性であってよい。これら反応性基は液状ポリマーの架橋及び/又は鎖延長に寄与する。
[共役ジエン系重合体]
共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の共役ジエン単量体の共重合体若しくは共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘプタジエン、及び1,3-ヘキサジエンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。
一態様において、共役ジエン系重合体は、上記の共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体である。
芳香族ビニル単量体としては、共役ジエン単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、スチレン、m又はp-メチルスチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン、及びジビニルベンゼンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。樹脂組成物の成形加工性、及び成形体の耐衝撃性の観点からは、スチレンが好ましい。
ランダム共重合体としては、ブタジエン-イソプレンランダム共重合体、ブタジエン-スチレンランダム共重合体、イソプレン-スチレンランダム共重合体、及びブタジエン-イソプレン-スチレンランダム共重合体が挙げられる。共重合体鎖中の各単量体の組成分布としては、統計的ランダムな組成に近い完全ランダム共重合体、及び組成分布に勾配があるテーパー(勾配)ランダム共重合体が挙げられる。共役ジエン系重合体の結合様式、すなわち1,4-結合、1,2-結合等の組成は、分子間で均一又は異なっていてよい。
ブロック共重合体は、2つ以上のブロックからなる共重合体であってよい。例えば、芳香族ビニル単量体のブロックAと、共役ジエン単量体のブロック及び/又は芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のブロックであるブロックBとが、A-B、A-B-A、A-B-A-B等の構造を構成しているブロック共重合体であってよい。なお各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はなく、例えば、ブロックBが芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体である場合、ブロックB中の芳香族ビニル単量体は均一又はテーパー状に分布してよい。また、ブロックBに、芳香族ビニル単量体が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数存在してもよい。さらに、ブロックBに、芳香族ビニル単量体含有量が異なるセグメントが複数存在してもよい。共重合体中にブロックA、ブロックBがそれぞれ複数存在する場合、それらの分子量及び組成は同一でも異なってもよい。
ブロック共重合体は、結合形式、分子量、芳香族ビニル化合物種、共役ジエン化合物種、1,2-ビニル含量又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量、芳香族ビニル化合物成分含有量、水素添加率等のうち1つ以上が互いに異なる2種以上の混合物でもよい。
共役ジエン系重合体における共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-又は3,4-結合)は、好ましくは、10モル%以上75モル%以下、又は13モル%以上65モル%以下である。
共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-結合量)は、13C-NMR法(定量モード)によって求めることができる。すなわち、13C-NMRにおいて下記に現れるピーク面積を積分すれば、各構造単位のカーボン量に比例する値を得ることができ、結果として各構造単位の質量%に換算することができる。
スチレン 145~147ppm
ビニル 110~116ppm
ジエン(シス) 24~28ppm
ジエン(トランス) 29~33ppm
共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体において、共役ジエン単量体と結合した芳香族ビニル単量体の量(本開示で、芳香族ビニル結合量ともいう。)は、共役ジエン系重合体の総モル100%に対して、好ましくは、5モル%以上70モル%以下、又は10モル%以上50モル%以下であってよい。
共役ジエン系重合体の水素添加物としては、上記で例示した共役ジエン系重合体の水素添加物が挙げられ、例えば、ブタジエン単独重合体、イソプレン単独重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の水素添加物であってよい。
好ましい態様において、液状ポリマーは、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、及びポリクロロプレンからなる群から選択される1種以上である。これらは誘導体(例えば無水マレイン酸変性物や、メタクリル酸変性物、末端水酸基変性物、水添化物、およびこれらの組み合わせなど)であってもよい。
[非共役ジエン系重合体]
非共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の非共役ジエン単量体の共重合体若しくは非共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。非共役ジエン系重合体としては、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、エチレン-αオレフィン共重合体等のオレフィン系重合体、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α,β-不飽和ニトリル-アクリル酸エステル-共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
エチレン-α-オレフィン共重合体において、エチレン単位と共重合できるモノマーとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、又はエイコセン-1、イソブチレンなどの脂肪族置換ビニルモノマー、及び、スチレン、置換スチレンなどの芳香族系ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステルなどのエステル系ビニルモノマー、アクリルアミド、アリルアミン、ビニル-p-アミノベンゼン、アクリロニトリルなどの窒素含有ビニルモノマー、ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレンなどのジエンなどを挙げることができる。
エチレン-α-オレフィン共重合体は、好ましくはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、更に好ましくはエチレンと炭素数3~16のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、最も好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン1種以上とのコポリマーである。
エチレン-α-オレフィン共重合体の分子量は、耐衝撃性発現の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定装置で、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒とし、140℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量(Mn)として、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~100,000であり、より好ましくは10,000~80,000であり、更に好ましくは20,000~60,000である。
また、エチレン-α-オレフィン共重合体のエチレン単位の含有率は、加工時の取り扱い性の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体全量に対し、好ましくは30~95質量%である。
エチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、特公平4-12283号公報、特開昭60-35006号公報、特開昭60-35007号公報、特開昭60-35008号公報、特開平5-155930号公報、特開平3-163088号公報、米国特許第5272236号明細書等に記載されるような従来公知の製造方法で製造可能である。
一態様において、液状ポリマーは、ジエン系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、及び多硫化ゴム並びにこれらの水素添加物からなる群から選択される1種以上を含む液状ゴムである。
液状ポリマーの25℃での粘度は、微細セルロース繊維を液状ポリマーに良好に分散させる観点から、好ましくは、1,000,000mPa・s以下、又は500,000mPa・s以下、又は200,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中での微細セルロース繊維の分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、100mPa・s以上、又は300mPa・s以上、又は500mPa・s以上である。
液状ポリマーの80℃での粘度は、微細セルロース繊維を液状ポリマーに良好に分散させる観点、及び加熱混練によって微細セルロース繊維を樹脂中に良好に分散させる観点から、好ましくは、1,000,000mPa・s以下、又は500,000mPa・s以下、又は250,000mPa・s以下、又は100,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中での微細セルロース繊維の分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上、又は300mPa・s以上である。
液状ポリマーの0℃での粘度は、微細セルロース繊維を液状ポリマーに良好に分散させる点から、好ましくは、2,000,000mPa・s以下、又は1,000,000mPa・s以下、又は400,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中での微細セルロース繊維の分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、200mPa・s以上、又は600mPa・s以上、又は1,000mPa・s以上である。
液状ポリマーの粘度の温度依存性が小さいことは、広範な混合温度範囲で、微細セルロース繊維を液状ポリマー中に良好に分散させることができる点で好ましい。この観点から、液状ポリマーの80℃、25℃及び0℃の全ての粘度が上記範囲内であることが特に好ましい。
液状ポリマーの粘度は、B型粘度計を用いて、回転数10rpmで測定される値である。
分散剤の融点は、微細セルロース繊維の周囲を分散剤がより均一にコーティングでき、微細セルロース繊維を樹脂中でより均一にナノ分散させることができる点で、300℃以下、又は250℃以下、又は200℃以下、又は150℃以下、又は100℃以下、又は80℃以下、又は70℃以下であってよく、-100℃以上、又は-50℃以上であってよい。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)で測定される値である。
分散剤の数平均分子量は、微細セルロース繊維の周囲を分散剤がより均一にコーティングでき、微細セルロース繊維を樹脂中でより均一にナノ分散させることができる点で、100以上、又は500以上、又は1000以上、又は2000以上であってよく、50000以下、又は20000以下であってよい。分散剤の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリスチレン換算で求められる値である。なお、化学式を完全に同定できる低分子の分散剤については、計算による求められる値である。
典型的な態様において、分散剤は曇点を有する。親水性部位としてポリオキシエチレン鎖等のポリエーテル鎖をもつ非イオン性界面活性剤の水溶液の温度を上昇させていくと、透明又は半透明であった水溶液がある温度(この温度を曇点という)で白濁する現象がみられる。すなわち、低温で透明又は半透明である水溶液を加温した際に、ある温度を境に非イオン性界面活性剤の溶解度が急激に低下し、それまで溶けていた界面活性剤同士が凝集・白濁して、水と分離する。これは、高温になると非イオン性界面活性剤が水和力を失う(ポリエーテル鎖と水との水素結合が切れ水への溶解度が急激に下がる)ためと考えられる。曇点はポリエーテル鎖が長いほど低い傾向にある。曇点以下の温度であれば、水に任意の割合で溶解することから、曇点は、分散剤における親水性の尺度となる。
分散剤の曇点は以下の方法で測定する事ができる。音叉型振動式粘度計(例えば株式会社エー・アンド・デイ社製SV-10A)を用いて、分散剤の水溶液を0.5質量%、1.0質量%、5質量%に調整し、温度0~100℃の範囲で測定を行う。この時、各濃度において変曲点(粘度の上昇変化、又は水溶液が曇化した点)を示した部分を曇点とする。
分散剤の曇点の下限値は、取扱い性の観点から、好ましくは10℃であり、より好ましくは20℃であり、最も好ましくは30℃である。また、当該曇点の上限値は、特に限定されないが、好ましくは120℃であり、より好ましくは110℃であり、さらに好ましくは100℃であり、最も好ましくは60℃である。微細セルロース繊維との良好な親和性を確保するために、分散剤の曇点は上述の範囲内にあることが望ましい。
分散剤としては、溶解パラメーター(SP値)が7.25以上であるものがより好ましい。分散剤がこの範囲のSP値を有することで、微細セルロース繊維の樹脂中でのナノ分散性、及びマクロ分散性が向上する。
SP値は、Fodersの文献(R.F.Foders:Polymer Engineering & SCienCe,vol.12(10),p.2359-2370(1974))によると、物質の凝集エネルギー密度とモル分子量の両方に依存し、またこれらは物質の置換基の種類及び数に依存していると考えられ、上田らの文献(塗料の研究、No.152、OCt.2010)によると、後述する実施例に示す既存の主要な溶剤についてのSP値(Cal/Cm31/2が公開されている。
分散剤のSP値は、実験的には、SP値が既知の種々の溶剤に分散剤を溶解させたときの、可溶と不溶の境目から求めることができる。例えば、SP値が異なる各種溶剤(10mL)に、分散剤1mLを室温においてスターラー撹拌下で1時間溶解させた場合に、全量が溶解するかどうかで判断可能である。例えば、分散剤がジエチルエーテルに可溶であった場合は、その分散剤のSP値は7.25以上となる。
分散剤(特に両親媒性分子)としては、水より高い沸点を有するものが好ましく、樹脂の融点よりも高い沸点を有するものが、樹脂中に微細セルロース繊維を溶融混練時に均一に分散させる観点でより好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
分散剤として水より高い沸点を有するものを選択することにより、例えば、分散剤の存在下で、液体媒体として水を含むスラリーを乾燥させて乾燥体を得る工程において、水が蒸発する過程で水と分散剤とが置換されて微細セルロース繊維表面に分散剤が存在するようになるため、微細セルロース繊維の凝集を大幅に抑制する効果を奏することができる。
乾燥体において、微細セルロース繊維100質量部に対する分散剤の量は、微細セルロース繊維を熱可塑性樹脂中に良好にナノ分散、及びマクロ分散させる観点から、好ましくは、5質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上であり、熱可塑性樹脂への分散剤の移行を抑制する観点から、好ましくは、100質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下である。
樹脂組成物において、分散剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物の破断片を用い、樹脂を溶解させる溶媒に破断片を溶解させたときの、可溶分1(樹脂及び分散剤)と不溶分1(微細セルロース繊維及び分散剤)を分離する。可溶分1を、樹脂を溶解させないが分散剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、不溶分2(樹脂)と可溶分2(分散剤)に分離する。また、不溶分1を分散剤溶解性溶媒に溶解させ、可溶分3(分散剤)と不溶分3(微細セルロース繊維)に分離する。可溶分2、可溶分3を濃縮(乾燥・風乾・減圧乾燥等)させることで分散剤の定量が可能である。濃縮後の分散剤について、前述の方法によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
[追加の成分]
乾燥体は、微細セルロース繊維及び分散剤に加えて、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては特に限定されないが、例えば、微細セルロース繊維以外の微細フィラー(例えば、アラミド繊維のフィブリル化繊維、セルロースウィスカー);相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;着色剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤、防腐剤、増粘剤等の追加の成分を更に含んでもよい。追加の成分の量は、乾燥体100質量%に対し、例えば0質量%~99質量%、又は0.1質量%~50質量%、又は0.5質量%~20質量%、又は1質量%~10質量%であってよい。
≪乾燥体の製造方法≫
本発明の一態様はまた、本開示の微細セルロース繊維と本開示の分散剤とを含む乾燥体の製造方法を提供する。一態様において、当該方法は、微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体を得る工程と、当該分散体から液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程とを含む。当該乾燥体は、エタノール、アセトン及びトルエンからなる群から選択されるいずれかの溶媒100質量部に乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の分散剤の溶出量(g)を、浸漬に供した乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満である。
<分散体を得る工程>
本工程では、例えば、微細セルロース繊維が液体に分散してなるスラリーを調製し、当該スラリーに分散剤を添加してよいが、分散剤の添加様式はこれに限定されない。液体としては、水、又は有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合媒体を好適に使用できる。液体が水と有機溶媒との混合媒体である場合、混合媒体中の水の質量比率は、50質量%超、又は60質量%以上、又は70質量%以上であってよく、95質量%以下、又は90質量%以下、又は85質量%以下であってよい。
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~4のアルコール;メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~6のグリコールエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~8のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~20、好ましくは炭素数3~6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1~20、好ましくは1~8の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;ギ酸、酢酸、乳酸等の炭素数0~20のカルボン酸;酢酸エチル、酢酸ビニル等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~6のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、乾燥・造粒工程の操作性の観点から、炭素数1~6のアルコール、炭素数2~6のグリコールエーテル、炭素数2~8のエーテル、炭素数3~6のケトン、炭素数2~5の低級アルキルエーテル、炭素数0~8のカルボン酸、炭素数2~6のエステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が好ましい。
スラリー中の微細セルロース繊維の濃度は、後続の乾燥時のプロセス効率の観点から、好ましくは、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上であり、スラリーの粘度の過度な増大、及び凝集による固化を回避して良好な取扱い性を保持する観点から、好ましくは、60質量%以下、又は55質量%以下、又は50質量%以下、又は45質量%以下、又は40質量%以下、又は35質量%以下である。例えば、微細セルロース繊維の製造は希薄な分散液中で行われることが多いが、このような希薄分散液を濃縮することで、スラリー中の微細セルロース繊維濃度を前記好ましい範囲に調整してもよい。濃縮には、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心脱液、加熱等の方法を用いることができる。
<乾燥体を調製する工程(乾燥・造粒工程)>
本工程では、微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含むスラリー(分散体)を、制御された乾燥条件で乾燥させることにより、乾燥体を調製できる。微細セルロース繊維以外の成分は、微細セルロース繊維スラリーの乾燥前、乾燥中、及び/又は乾燥後に添加してよい。乾燥機としては、特に限定はされないが、ニーダー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、プロペラミキサー、リボンミキサー、単軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー、凍結乾燥機、棚乾燥機、スプレー噴霧乾燥機、流動層乾燥機等が挙げられる。
乾燥体中に分散剤を均一に分散させる観点からは、押出機、ミキサー、スプレー噴霧乾燥機、流動層乾燥機等の動的な乾燥機が好ましく、生産性の観点から、高粘度のものであっても容易に攪拌、混練可能な押出機及びミキサー等が好ましく、所望の粉体特性(なお本開示で、粉体特性とは、平均粒径、BET比表面積、ゆるめ嵩密度、あつめ嵩密度、圧縮度、安息角、崩潰角、差角、内部摩擦角、粉体動摩擦角、応力伝達率、応力緩和率、単軸崩壊応力、及びフローファンクション値から選ばれる1つ以上の特性を意味する。)に制御された造粒を可能にする比較的高いずり速度での乾燥が可能なミキサー等が好ましい。
一態様において、乾燥は、ミキサーを用いたバッチプロセスで行う。ミキサーは市販品であってもよく、例えば、レーディゲミキサー(例えば(株)マツボー製)及びハイスピードバキュームドライヤー(例えば(株)アーステクニカ製)のような、缶体内に撹拌羽根とチョッパ羽根とを備える装置、ヘンシェルミキサー(FMミキサー)(例えば日本コークス工業(株)製)のような、缶体内に複数の撹拌羽根(典型的には上羽根及び下羽根)を備える装置等の流動式混合機等を例示できる。乾燥条件の中でも、ずり速度、乾燥速度、乾燥温度、及び/又は圧力(減圧度)を制御することは本開示の乾燥体の生成に有用である。
例えば、ミキサーが前述のレーディゲミキサー又はハイスピードバキュームドライヤーである場合には、スラリーを撹拌下で乾燥させて粒子を形成しつつ、当該粒子をチョッパ粉砕することで、所望の粉体特性の乾燥体を形成できる。当該造粒機は、典型的には、上方に材料投入口を有する縦型又は横型の缶体、缶体の底部に配置された低速回転の撹拌羽根と缶体の側部に配置された高速回転のチョッパ羽根との組合せ、減圧機構、及び任意に温度調節機構を備えてよい。計量されたスラリーを材料供給口から缶体内に投入すると、撹拌羽根による遠心力及び上昇推進力によりスラリーが缶体内を対流しながら減圧乾燥されて、粒子が生成する。粒子は缶体内を移動してチョッパ羽根に当たって粉砕され、その後撹拌羽根付近に戻って再び撹拌されて粒径が増大される。このように、粒子が撹拌とチョッパ粉砕とに繰り返し供される造粒操作を伴う乾燥操作によって、乾燥体の粉体特性を適切な範囲に制御できるため、樹脂中へのナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる乾燥体を形成できる。
また、機械撹拌式混合造粒機が前述のヘンシェルミキサーである場合には、当該ミキサーが有する上羽根及び下羽根の組合せによって乾燥体の粉体特性を適切な範囲に制御できるため、樹脂中へのナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる乾燥体を形成できる。ヘンシェルミキサーは、典型的には、上方に材料供給口を、側方に材料排出口を有する縦型の缶体、缶体の底部に配置された、下羽根及び当該下羽根の上に配置された上羽根、減圧機構、並びに任意に温度調節機構を備えてよい。計量されたスラリーを材料供給口から缶体内に投入すると、スラリーは、下羽根によって撹拌されて上昇し、更に上羽根によっても強力な剪断力を受けることで、撹拌されながら乾燥・造粒される。
乾燥時のずり速度(剪断速度)は、100sec-1以上、又は500sec-1以上、又は750sec-1以上、又は1000sec-1以上であってよく、20000sec-1以下、又は15000sec-1以下、又は12500sec-1以下、又は10000sec-1以下であってよい。ずり速度は、式:ずり速度(sec-1)=回転羽根の最大周速(単位:m/sec)/クリアランス(単位:m)で規定される値である。最大周速は、羽根径と回転数とから算出され、クリアランスは、羽根から槽壁(静止面)までの最短距離である。複数の回転羽を備える装置の場合は、最大のずり速度を発生させる回転羽で計算を行う。回転羽などの機構を実質的に持たず、乾燥体に対する剪断変形が発生しない装置による乾燥工程におけるずり速度は0sec-1として計算する。ずり速度は、ミキサーの構成に応じて、撹拌羽根の回転速度等で制御できる。微細セルロース繊維は、乾燥状態で極めて凝集しやすいことから、通常の乾燥体においては微細セルロース繊維同士が互いに強固に凝集しており、当該乾燥体を樹脂中に再分散させても容易にナノ分散、及びマクロ分散しない。しかし、スラリーを比較的高ずり速度での撹拌によって乾燥させることで、乾燥体の粉体特性を適切な範囲に制御できるため、樹脂中へのナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる乾燥体を形成できる。
上記範囲のずり速度をスラリーに付与できる条件としては、例えば、撹拌羽根とチョッパ羽根とを備えるミキサーを用いる場合、回転羽根の回転条件(周速度)を、0.5m/sec以上、又は0.7m/sec以上、又は1m/sec以上、又は3m/sec以上、又は6m/sec以上とし、100m/sec以下、又は70m/sec以下、又は50m/sec以下、又は40m/sec以下とすることが挙げられる。上記周速度は乾燥工程を通じて常に一定である必要はなく、好ましい範囲内で変化させてもよい。
またチョッパ羽根の回転数は、例えば、100rpm以上、又は200rpm以上、又は500rpm以上、又は1000rpm以上であってよく、例えば、10000rpm以下、又は7000rpm以下、又は5000rpm以下、又は4000rpm以下であってよい。
一方、例えば撹拌羽根として上羽根及び下羽根を備えるミキサーを用いる場合、羽根の回転速度を、10rpm以上、又は100rpm以上、又は300rpm以上とし、3000rpm以下、又は2000rpm以下、又は1500rpm以下とすることが挙げられる。上記回転速度は乾燥・造粒工程を通じて常に一定である必要はなく、好ましい範囲内で変化させてもよい。
スラリー100質量部当たりの液体媒体の1分当たりの脱離量(質量部)である乾燥速度は、乾燥効率、及び樹脂組成物中の微細セルロース繊維のナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる粉体特性の乾燥体を形成する観点から、例えば0.01%/分以上、又は0.05%/分以上、又は0.1%/分以上であってよく、スラリーの急速乾燥による乾燥体の過度な微粉化を回避する観点から、10%/分以下、又は5%/分以下、又は2%/分以下であってよい。乾燥速度は、下記式:
乾燥速度(%/分)=(乾燥開始時のスラリー水分率(質量%)-乾燥終点の乾燥体の水分率(質量%))/乾燥開始から乾燥終点までに要した時間(分)
に従って求められる値(すなわち、乾燥工程を通じての平均値)である。
ここで、乾燥開始とは、乾燥対象となるスラリーまたはケークを装置に供給して目的の乾燥温度、減圧度、ずり速度で乾燥する工程を始めた時点であり、乾燥温度、減圧度、ずり速度が乾燥工程とは異なる状態で予備混合をする時間は乾燥時間に含めない。
また、乾燥終点とは、乾燥開始から長くとも10分の間隔でサンプリングを行い、水分率が初めて7質量%以下になった時点をいう。
連続式の乾燥装置の場合、乾燥開始から乾燥終点までに要した時間は、滞留時間と解釈することができる。スプレードライヤーの場合、滞留時間は加熱風量と乾燥室の容積によって計算することができる。また、押出機を乾燥装置として用いる場合、滞留時間はスクリュー回転数とスクリューの総ピッチ数から計算することができる。
乾燥温度は、乾燥効率、及び樹脂組成物中の微細セルロース繊維のナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる粉体特性の乾燥体を形成する観点から、例えば20℃以上、又は30℃以上、又は40℃以上、又は50℃以上であってよく、微細セルロース繊維及び追加の成分の熱劣化を生じ難くする観点、及びスラリーの急速乾燥による乾燥体の過度な微粉化を回避する観点から、例えば160℃以下、又は150℃以下、又は140℃以下、又は130℃以下、又は100℃以下であってよい。
乾燥温度は、スラリーに接触する熱源の温度であり、例えば、乾燥装置の温調ジャケットの表面温度や、加熱シリンダーの表面温度、熱風の温度で定義される。
減圧度は、大気圧、又は減圧どちらでも良いが、乾燥効率、及び樹脂組成物中の微細セルロース繊維のナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる粉体特性の乾燥体を形成する観点から、-1kPa以下、又は-10kPa以下、又は-20kPa以下、又は-30kPa以下、又は-40kPa以下、又は-50kPa以下であってよく、スラリーの急速乾燥による乾燥体の過度な微粉化を回避する観点から、-100kPa以上、又は-95kPa以上、又は-90kPa以上であってよい。圧力の調整は、適切な排気能力を有する減圧ポンプをフル稼働させてもよいし、真空レギュレーター、リークバルブなどを用いて大気及び/又は不活性ガスを意図的に導入してもよい。大気及び/又は不活性ガスを導入する場合は、乾燥装置の缶体又は缶体の上流に取り込み部を設けると媒体蒸気を効率的に排気できるので好ましい。
乾燥・造粒工程において、スラリーの温度40℃~100℃での滞留時間は、好ましくは、30分間~600分間、又は45分間~300分間、又は60分間~200分間に設定してよい。このような条件での乾燥により、樹脂組成物中の微細セルロース繊維のナノ分散性、及びマクロ分散性に優れる粉体特性の乾燥体が良好に生成する。
乾燥・造粒工程の開始時のスラリーの固形分率は、乾燥効率の観点から、好ましくは、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上であり、スラリーの粘度の過度な増大、及び凝集による固化を回避して良好な取扱い性を保持する観点から、好ましくは、60質量%以下、又は55質量%以下、又は50質量%以下、又は45質量%以下、又は40質量%以下、又は35質量%以下である。
乾燥・造粒工程の開始時のスラリーは、有機溶媒を含んでいても良い。乾燥効率の観点から、スラリーは有機溶媒を1質量%以上、又は5質量%以上、又は20質量%以上、又は40質量%以上、又は60質量%以上含んでよい。スラリー中の有機溶媒の量は、プロセス効率の点で99質量%以下、又は95質量%以下、又は90質量%以下、又は80質量%以下であってよい。
乾燥・造粒工程の途中において、スラリー中の液体(第1媒体、ともいう)とは異なる第2媒体をスラリーに添加しても良い。第2媒体としては、前記分散体を得る工程に関して例示したような各種有機溶媒を例示できる。より好ましくは、沸点が100℃以上の有機溶媒、例えば、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、炭酸ジメチル、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、iso-ペンチルアルコール等を例示できる。
第2媒体の添加のタイミングは、乾燥・造粒工程の途中、例えば、スラリー中の液体が80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下、又は50質量%以下、又は40質量%以下まで進行した後のタイミングが好ましい。これらの割合で液体が残留していることで第2媒体が第1媒体と置換されて微細セルロース繊維の凝集を抑制し、所望の粉体特性を有しかつ樹脂組成物中でのナノ分散性、及びマクロ分散性が良好な乾燥体を形成できる。特に、スラリー中の液体量60質量%以下で添加した場合、ある程度造粒が進行した状態での添加となり、粉体流動性が向上し、粉体流動性を示す指標である安息角、崩潰角、差角、内部摩擦角、粉体動摩擦角、応力伝達率、応力緩和率、単軸崩壊応力、及びフローファンクション値が改善する。また同時に、第2媒体が有機溶媒であると、微細セルロース繊維の乾燥収縮が抑制され樹脂中でのナノ分散性も同時に向上する。一方、第2媒体の添加のタイミングは、微細セルロース繊維の凝集を抑制する観点から、スラリー中の液体が、10質量%以上、又は20質量%以上、又は30質量%以上であるタイミングが好ましい。
好ましい態様においては、第2媒体を、スラリー中の第1媒体:第2媒体の質量比率1:99~90:10の範囲でスラリーに添加する。当該質量比率は、より好ましくは1:99~80:20、又は1:99~70:30、又は5:95~70:30、又は5:95~60:40、又は10:90~60:40である。上記範囲の比率で第2媒体を添加することで、例えば10μm以下のような微視的レベルでの微細セルロース繊維間の強固な凝集は抑制しつつ、10μm超から1000μm以下のようなレベルで所望の粉体特性の造粒は促進できるため、乾燥・造粒工程の良好な進行と、得られた乾燥粉末の樹脂組成物中での良好なナノ分散性との両立が可能になる。第1媒体が水であって、かつ、第2媒体が水との共沸混合物を形成する物質(例えば、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、炭酸ジメチル、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、iso-ペンチルアルコール等からなる群から選択される1種以上)である場合には、当該第2媒体を、水との共沸組成比(すなわち、水と共沸混合物を形成し得る、第2媒体の最低割合)よりも高い割合でスラリーに添加することが好ましい。
別の好ましい態様においては、第2媒体を2回以上の回数でスラリーに添加する。乾燥・造粒工程において第2媒体の添加と乾燥とを繰り返すことで、第1媒体と第2媒体との置換が進み、微細セルロース繊維以外の成分が均一に当該微細セルロース繊維と混合されて、得られた乾燥体の樹脂組成物中での微細セルロース繊維の良好なナノ分散性と、微細セルロース繊維以外の成分の機能の両立が可能になる。
別の態様において、乾燥・造粒工程は、減圧乾燥を続けながら、第2媒体を一定の単位時間当たり流量で添加する段階を含むことが、第2媒体の使用量の削減、乾燥時間削減の観点から好ましい。当該段階では、スラリー中の総液体量(すなわち、第1媒体と第2媒体との総量)が一定に維持されるように、第2媒体を一定の単位時間当たり流量で添加することが特に好ましい。なお、第2媒体の種類によっては、スラリー中の総液体量を増加させ、又は減少させても良い。このような段階の後、総液体量を減少させるように減圧乾燥を更に行って目的の乾燥体を得ることができる。
乾燥・造粒工程において、ある第1媒体:第2媒体比のスラリーを形成する場合、第2媒体を一度に全量投入するよりも、第1媒体を揮発させながら第2媒体を添加すると、第2媒体の総添加量を少なくできるため、プロセス上好ましい。また、造粒しながら第2媒体を添加できるため、第1媒体と第2媒体との置換が進みやすい他、ナノ分散性が良好な粉体になりやすい。第2媒体は、例えば、液滴状、霧状等で添加してよい。
乾燥・造粒工程におけるスラリーの固形分率は加熱乾燥式水分率計で計測できる。又、第2媒体を添加した後のスラリー中の第1媒体と第2媒体との質量比率は、
i)スラリー中の第1媒体及び第2媒体が共に有機溶媒である場合は、良溶媒でそれぞれを同時に抽出し、ガスクロマトグラフィで測定し、算出できる。
ii)第1媒体が水の場合は、スラリー中の第2媒体を、当該第2媒体を溶解できる異なる溶媒で抽出し、第2媒体の含有率をガスクロマトグラフィで測定するとともに、スラリー中の揮発成分(水及び第2媒体)の総液体率を加熱乾燥式水分率計で計測し、算出できる。
≪樹脂組成物の製造方法≫
本発明の一態様はまた、本開示の乾燥体と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法を提供する。当該方法は、微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体を形成する本開示の乾燥・造粒工程と、当該乾燥体と熱可塑性樹脂とを混合する工程とを含む。上記乾燥体は、エタノール、アセトン及びトルエンのうち熱可塑性樹脂と最も近接するSP値を有する溶媒100質量部に、乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の分散剤の溶出量(g)を、浸漬に供した乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満である。
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂は、例えば、100℃~350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、100~250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂等であってよい。本開示で、融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。また本開示で、ガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも30秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成形品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
結晶性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂等が挙げられ、これらの2種以上の混合物も例示できる。取り扱い性及びコストの観点から、好ましくはポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられ、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリアセタール系樹脂はより好ましく、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂は特に好ましい。結晶性樹脂の融点は、樹脂組成物の耐熱性を高める観点から、好ましくは、140℃以上、又は150℃以上、又は160℃以上、又は170℃以上、又は180℃以上、又は190℃以上、又は200℃以上、又は210℃以上、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上である。
結晶性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃~190℃、又は160℃~180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃~350℃、又は230℃~320℃、を例示できる。
非晶性樹脂としては、ポリメチレンペンテン、環状ポリオレフィン等の非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の非晶性ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、アクリロニトリル・スチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等が挙げられる。
非晶性樹脂の成形温度は、樹脂組成物の耐熱性を高める観点から、好ましくは、130℃以上、又は140℃以上、又は150℃以上、又は160℃以上、又は170℃以上、又は180℃以上、又は190℃以上、又は200℃以上、又は210℃以上、又は220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上である。
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)及び/又はアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上50g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは、5g/10分、又は6g/10分、又は8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは、40g/10分、又は30g/10分、又は25g/10分、又は20g/10分、又は18g/10分である。MFRは、樹脂組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、樹脂組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
また、微細セルロース繊維との親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸変性に用いる酸としては、モノ又はポリカルボン酸を使用でき、例えば、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、並びにクエン酸等を例示できる。変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物が特に好ましい。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下でポリオレフィン系樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂をすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが特に好適である。酸変性されたポリプロピレン系樹脂は、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレン系樹脂に対する酸変性されたポリプロピレン系樹脂の割合は、好ましくは0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%、又は2質量%、又は3質量%、又は4質量%、又は5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%、又は40質量%、又は35質量%、又は30質量%、又は20質量%である。樹脂と微細セルロース繊維との界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
酸変性されたポリプロピレン系樹脂の、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は、樹脂と微細セルロース繊維との界面における親和性を高める観点から、好ましくは、50g/10分以上、又は100g/10分以上、又は150g/10分以上、又は200g/10分以上である。上限は特に限定されないが、機械的強度の維持から、好ましくは500g/10分である。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては:ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド(例えばポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等);ジアミン類(例えば1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン等)とジカルボン酸類(例えばブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等)との共重合体として得られるポリアミド(例えばポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等);及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体(例えばポリアミド6,T/6,I等)、が挙げられる。
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド、及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミドがより好ましい。
樹脂組成物の耐熱性を良好にする観点から、ポリアミド系樹脂の融点は、好ましくは220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上であり、樹脂組成物の製造容易性の観点から、上記融点は、好ましくは、350℃以下、又は320℃以下、又は300℃以下である。
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度に特に制限はないが、好ましくは、20μモル/g以上、又は30μモル/g以上であり、好ましくは、150μモル/g以下、又は100μモル/g以下、又は80μモル/g以下である。
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、微細セルロース繊維の樹脂組成物中でのナノ分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂組成物の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
ポリアミド系樹脂の末端基濃度は、公知の方法で調整できる。調整方法としては、ポリアミドの重合時に、所定の末端基濃度となるように末端基と反応する末端調整剤(例えば、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等)を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
ポリアミド系樹脂のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めることができる。この方法は、精度及び簡便さの点で好ましい。より具体的には、特開平7-228775号公報に記載された方法を用い、測定溶媒として重トリフルオロ酢酸を用い、積算回数を300スキャン以上とすることが推奨される。
ポリアミド系樹脂の、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]は、樹脂組成物を例えば射出成形する際に、金型内流動性が良好で成形片の外観が良好であるという観点から、好ましくは、0.6~2.0dL/g、又は0.7~1.4dL/g、又は0.7~1.2dL/g、又は0.7~1.0dL/gである。本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。固有粘度は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法で求められる。このゼロに外挿された値が固有粘度である。上記方法の詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。上記の濃度の異なるいくつかの測定溶媒における濃度は、少なくとも4点(例えば、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dL)とすることが精度の観点から望ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアリレート(PAR)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、PET、PBS、PBSA、PBT及びPENがより好ましく、PBS、PBSA、及びPBTが特に好ましい。
ポリエステル系樹脂の末端基は、重合時のモノマー比率、末端安定化剤の添加の有無及び量、等によって任意に変えることができる。ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、樹脂組成物中の微細セルロース繊維のナノ分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂組成物の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂としては、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましい。コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)由来構造の量は、押出加工及び成形加工時の熱安定性の観点から、好ましくは、0.01モル%以上、又は0.05モル%以上、又は0.1モル%以上、又は0.2モル%以上であり、機械的強度の観点から、好ましくは、4.0モル%以下、又は3.5モル%以下、又は3.0モル%以下、又は2.5モル%以下、又は2.3モル%以下である。
[追加の成分]
樹脂組成物は、その性能を向上させるために、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては、セルロース以外のフィラー成分;相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;着色剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;酸化防止剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等が挙げられる。任意の追加の成分の樹脂組成物中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01~50質量%、又は0.1~30質量%であってよい。
以下、各工程の好適例について説明する。
<乾燥・造粒工程>
本工程においては、微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体を得る。乾燥体は、≪乾燥体の製造方法≫について前述した手順で調製してよい。
<乾燥体と熱可塑性樹脂とを混合する工程>
本工程では、乾燥体と熱可塑性樹脂とを例えば溶融混練により混合して樹脂組成物を得る。混合方法としては、
-樹脂モノマーと乾燥体とを混合し、重合反応を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と乾燥体との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と乾燥体との混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と乾燥体との混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法、
等が挙げられる。好ましい態様においては、単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と乾燥体との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る。
例えば、樹脂と所望の比率となるように搬送された乾燥体を樹脂中に投入して混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。
溶融混練には、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用できるが、二軸押出機が微細セルロース繊維のナノ分散性を制御する上で好ましい。押出機のシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dは、30以上が好ましく、特に好ましくは40以上である。また、混練時のスクリュー回転数は、50~800rpmの範囲が好ましく、より好ましくは100~600rpmの範囲内である。
押出機のシリンダー内の各スクリューは、楕円形の二翼のねじ形状の搬送スクリュー、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメント、等を組み合わせて最適化される。
熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ポリアミド66では255~270℃、ポリアミド6では225~240℃、ポリブチレンテレフタレートでは225~240℃、ポリアセタール樹脂では170℃~190℃、ポリプロピレンでは160~180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、微細セルロース繊維と樹脂とを均一に混合することができる。
樹脂組成物において、熱可塑性樹脂100質量部に対する乾燥体の量は、加工性と機械的特性のバランスの観点から、好ましくは、0.001質量部以上、又は0.01質量部以上、又は0.1質量部以上、又は1質量部以上、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下、であってよい。
樹脂組成物において、熱可塑性樹脂100質量部に対する微細セルロース繊維の量は、加工性と機械的特性のバランスの観点から、好ましくは、0.001質量部以上、又は0.01質量部以上、又は0.1質量部以上、又は1質量部以上、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下、であってよい。
樹脂組成物中の分散剤の量は、微細セルロース繊維を熱可塑性樹脂中に良好にナノ分散、及びマクロ分散させる観点から、好ましくは、0.3質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であり、多量に存在することで熱可塑性樹脂に対して可塑剤として作用することを回避する観点から、好ましくは、20.0質量%以下、又は15.0質量%以下、又は10.0質量%以下、又は5.0質量%以下、又は3.0質量%以下である。
≪樹脂組成物の形状≫
本実施形態の樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性及び運搬の容易性から好ましい。好ましい樹脂ペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、形状は押出加工時のカット方式により異なってよい。例えば、アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの好ましいペレット直径は、1mm以上3mm以下である。円柱状ペレットの好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用可能である。樹脂成形体の製造方法に特に制限はないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法などが使用可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性及びコストの観点から特に好ましい。
≪樹脂組成物の用途≫
本実施形態の方法で得られる樹脂組成物は、鋼板、繊維強化プラスチック(例えば炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等)、無機フィラーを含む樹脂コンポジット、等の代替品として有用である。樹脂組成物の好適な用途としては、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両・船舶・航空宇宙関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材、容器・包装部材、等を例示できる。
≪樹脂組成物の特性≫
<引張破断強度>
樹脂成形体の引張破断強度は、一態様において、ポリアミド系樹脂では70MPa以上、又は75MPa以上、又は80MPa以上、又は85MPa以上、又は90MPa以上、又は95MPa以上、又は100MPa以上、又は110MPa以上、ポリアセタール及びポリエステル系樹脂では50MPa以上、又は55MPa以上、又は60MPa以上、又は65MPa以上、又は70MPa以上、又は75MPa以上、又は80MPa以上、又は90MPa以上、ポリオレフィン系樹脂では15MPa以上、又は20MPa以上、又は25MPa以上、又は30MPa以上、又は35MPa以上、又は40MPa以上であることができる。引張強度が上記を満たす場合、樹脂成形体の機械強度が高く好適である。引張破断強度は、ISO294-3に準拠した多目的試験片をJIS K6920-2に準拠した条件で成形し、ISO527に準拠した方法で測定される値である。引張破断強度は、樹脂成形体の別の特性(例えば靭性等)とのバランスの点で、例えば、300MPa以下、又は280MPa以下、又は250MPa以下、又は200MPa以下であってよい。ポリオレフィン系樹脂においては、100MPa以下、又は80MPa以下、又は60MPa以下、又は50MPa以下であってよい。
<引張破断伸度>
樹脂成形体の引張破断伸度は、一態様において、5%以上、又は6%以上、又は7%以上、又は8%以上、又は9%以上、又は10%以上、又は12%以上、又は15%以上であることができる。引張破断伸度が上記を満たす場合、樹脂成形体の靭性が高く好適である。引張破断伸度は、ISO294-3に準拠した多目的試験片をJIS K6920-2に準拠した条件で成形し、ISO527に準拠した方法で測定される値である。引張破断伸度は、樹脂成形体の別の特性(例えば熱膨張係数等)とのバランスの点で、例えば、100%以下、又は50%以下、又は30%以下、又は20%以下であってよい。
<平均凝集塊数>
本実施形態の樹脂組成物の1g当たりに含まれる、円相当径の直径が5μm以上の巨大凝集塊の平均個数である平均凝集塊数は、好ましくは、10000個以下、又は5000個以下、又は3000個以下、又は2000個以下、又は1500個以下、又は1000個以下、又は900個以下、又は800個以下、又は700個以下、又は600個以下、又は500個以下である。この値が小さいと、微細セルロース繊維のマクロ分散性が良好である。樹脂組成物の平均凝集塊数は小さい方が好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、好ましくは、1個以上、又は10個以上、又は50個以上、又は100個以上である。平均凝集塊数は、本開示の[実施例]に記載のX線CTを用いた方法で測定される値である。但し、微細セルロース繊維と樹脂との電子密度差が小さい等、X線CTによる巨大凝集塊の観察が困難である樹脂組成物(一態様では、樹脂がポリ乳酸、ポリブチレンテレフタレート、ABS樹脂等である樹脂組成物)については、上記X線CTに代えて光学顕微鏡で平均凝集塊数を測定する。
<平均凝集塊数の変動係数(CV値)>
本実施形態の樹脂組成物の1g当たりに含まれる円相当径の直径が5μm以上の巨大凝集塊数の変動係数(CV値)は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、30%以下、又は25%以下、又は20%以下、又は17%以下、又は15%以下である。CV値が小さいと、樹脂組成物中の巨大凝集塊の局在化が抑制され、引張破断伸度並びに引張破断強度が良好である。CV値は小さい方が好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、好ましくは、1%以上、又は2%以上、又は3%以上である。CV値は、本開示の[実施例]の項に記載した方法で測定される値である。
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
≪用いた材料≫
各実施例及び比較例に係る樹脂組成物の製造に用いた材料は以下のとおりである。
<微細セルロース繊維(CNF)>
[CNF製造例1](微細セルロース繊維CNF-Aの製造)
コットンリンターパルプ3質量部を水27質量部に浸漬させて、パルパーで分散を行った。パルパー処理したコットンリンターパルプスラリー30質量部(内、コットンリンターパルプ3質量部)に水を170質量部入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で徹底的に叩解を行い、叩解水分散体(固形分濃度:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で10回微細化処理し、微細セルロース繊維スラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。そして、脱水機により固形分率20質量%まで濃縮し、微細セルロース繊維CNF-Aの濃縮ケーキAを15質量部得た。
[CNF製造例2](アセチル化微細セルロース繊維CNF-Bの製造)
NETZSCH Vakumix社製KAPPA VITA(登録商標)ホモミキサー(タンクサイズ35L)に、CNF製造例1の濃縮ケーキA(固形分率20質量%)5質量部とDMSO95質量部を加えて、ホモミキサー2500rpm(周速度12m/s)で分散させた後、DMSOスラリー(固形分率1.0質量%)100質量部を得た。つづいて、酢酸ビニル2質量部及び炭酸カリウム0.3質量部を加え、40℃で3時間攪拌した。反応を停止させるため、水100質量部を攪拌しながら加えた。つづいて、濾過により固形分を濾別した。得られた固形分に対して100質量部の水を加えてホモミキサーで分散させた後、濾過をする洗浄操作を6回実施し、アセチル化微細セルロース繊維CNF-Bの濃縮ケーキB(固形分率20質量%)5質量部を得た。
[CNF製造例3](微細セルロース繊維CNF-Cの製造)
ダイセルミライズ株式会社製セリッシュKY-100G(固形分濃度10質量%)を脱水機により固形分率20質量%まで濃縮し、微細セルロース繊維CNF-Cの濃縮ケーキCを得た。
[CNF製造例4](アセチル化微細セルロース繊維CNF-Dの製造)
CNF製造例2に用いた濃縮ケーキAをCNF製造例3の濃縮ケーキCに変更した以外は、CNF製造例2と同等の手法でアセチル化微細セルロース繊維CNF-Dの濃縮ケーキD(固形分率20質量%)5質量部を得た。
得られたCNFの特性を表1に示す。
<分散剤>
ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド共重合体(三洋化成製:GL-3000)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王製:エマルゲン102KG)
ソルビタントリオレエート(花王製: レオドールSP-O30V)
ポリエチレングリコール(三洋化成製: PEG-10000)
水素化ポリブタジエン(日本曹達製: GI-2000)
≪前駆体の製造≫
[前駆体製造例1~6、9~11]
(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS25)に濃縮ケーキA~Dの各々(固形分率20質量%)1質量部、及び、水1質量部、及び、表2に記載の分散剤を微細セルロース繊維に対し規定量添加し、アジテーター(周速度2m/s)で室温で5分間撹拌し、前駆体A~F、I~Kを得た。
[前駆体製造例7]
NETZSCH Vakumix社製KAPPA VITA(登録商標)ホモミキサー(タンクサイズ35L)に、濃縮ケーキB(固形分率20質量%)1質量部及びiso-ブタノール(iBuOHともいう)20質量部を添加し、ホモミキサー2500rpm(周速度12m/s)で分散させた。つづいて、濾過により固形分を濾別し、iso-ブタノールに置換された濃縮ケーキを得た(固形分率10質量%)。つづいて、(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS25)に濃縮ケーキと表2に記載の分散剤を微細セルロース繊維に対し規定量入れ、アジテーター(周速度2m/s)で室温で5分間撹拌し、前駆体Gを得た。
[前駆体製造例8]
濃縮ケーキD(固形分率20質量%)を固形分率1質量%になるように蒸留水で希釈し、ホモジナイザ(IKA製、T50 Ultra-Turrux)で分散させた後、表2に記載の分散剤を微細セルロース繊維に対し規定量添加し、ホモジナイザで再度分散させて前駆体Hを得た。
≪乾燥体の製造≫
[実施例1~11]ハイスピードミキサー:HM
微細セルロース繊維1.0kg相当の前駆体A~F、I~Kをハイスピードミキサー(型番:FS25、株式会社アーステクニカ)に入れ、ジャケット温度100℃、アジテーター(最大周速2m/sec)、チョッパ(最大周速18.32m/sec又は7.85m/sec、クリアランス10mm)で撹拌しながら、真空ポンプで-80kPaまで減圧し、品温が70℃に達し、かつ、残水分率が3質量%未満になるまで減圧乾燥を実施した。得られた乾燥体はそのまま使用した。ずり速度は下記式に従い、算出した。
ずり速度(sec-1)=回転羽根の最大周速(単位:m/sec)/クリアランス(単位:m)
[比較例1、5、9、14]
微細セルロース繊維1.0kg相当の前駆体B、E、F、Kをハイスピードミキサー(型番:FS25、株式会社アーステクニカ)に入れ、ジャケット温度100℃、アジテーター(最大周速2m/sec)、チョッパ(最大周速18.32m/sec、クリアランス10mm)で撹拌しながら、真空ポンプで-80kPaまで減圧した。水分率75質量%になるまで減圧乾燥を行った段階で追加媒体としてiso-ブタノール5kgを添加した。その後、減圧乾燥を再開し、最終的に品温が70℃に達し、かつ、残溶媒率が3質量%未満になるまで実施した。得られた乾燥体はそのまま使用した。
[比較例2、6、10]
iso-ブタノール5kgを添加する段階を水分率50質量%にした以外は比較例1と同様の方法を用いた。
[比較例3、7、11、13、15]プラネタリーミキサー:PM
微細セルロース繊維1.0kg相当の前駆体B、E、F、I、Kをプラネタリーミキサー(型番:ACM-5LVT:フック型、株式会社小平製作所製)に入れ、ジャケット温度100℃、307rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-80kPaまで減圧した。品温が70℃に達し、かつ、残水分率が3質量%未満になるまで減圧乾燥を実施した。クリアランスとしては、フック羽(径100mm、最大周速1.6m/sec)とジャケットとの間の最小距離を測定した(クリアランス10mm)。得られた乾燥体はそのまま使用した。
[比較例4]凍結乾燥:FD
微細セルロース繊維1.0kg相当の前駆体Bをバット上に幅500mm、奥行300mm、高さ10mmに広げ、冷却装置(HBC-6TB3、ホシザキ電機株式会社製)を用い、-40℃で前記濃縮ケーキを凍結した。つづいて、凍結真空乾燥機(FD-750R、東京理化器械株式会社製)を用い、初期温度:-40℃、最終温度:20℃、乾燥時間:48時間の条件で、前記凍結した濃縮ケーキを乾燥した。本装置におけるずり速度は、撹拌機構等を持たないため、実質的に発生しないものとした。得られた乾燥体の残水分率は3質量%未満であり、ハイスピードミル(HS-15、ラボネクト株式会社)で小分けにして粉砕した。粉砕条件は、サンプル750ccに対し、30秒間粉砕とした。
[比較例8]オーブン乾燥:OD
微細セルロース繊維1.0kg相当の前駆体Gをバットに入れて防爆乾燥機(エスペック(株)製、商品名「SPH301S」)により80℃で乾燥させた。本装置におけるずり速度は、撹拌機構等を持たないため、実質的に発生しないものとした。得られた乾燥体の残液体分率は3質量%未満であり、ハイスピードミル(HS-15、ラボネクト株式会社)で小分けにして粉砕した。粉砕条件は、サンプル750ccに対し、30秒間粉砕とした。
[比較例12]マイクロミストスプレードライヤー:MMSD
微細セルロース繊維1.0kg相当の前駆体Hを、マイクロミストスプレードライヤー(型番:MDL050-M、藤崎電気(株)製、入口温度200℃、給気風量1m3/min、ノズルエア流量80NL/min、スラリー50mL/min)で乾燥し、サイクロン式回収器にて乾燥粉を回収した。本装置におけるずり速度は、撹拌機構等を持たないため、実質的に発生しないものとした。得られた乾燥体はそのまま使用した。
≪評価≫
<微細セルロース繊維の評価>
[多孔質シートの作製]
まず、濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。微細セルロース繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過した。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させた。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
[アシル置換度(DS)]
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルより、IRインデックスを、下記式:
IRインデックス= H1730/H1030
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
[数平均繊維径]
濃縮ケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、Regulus8220)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の短径(D)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN、N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN、N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。微細セルロース繊維を溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N、N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
なお、アセチル化微細セルロース繊維であるCNF-B及びCNF-Dについては、アセチル化する前の原料であるCNF-A及びCNF-Cの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比を採用した。
[アルカリ可溶多糖類平均含有率]
アルカリ可溶多糖類含有率は微細セルロース繊維について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均を微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。なお、アセチル化微細セルロース繊維であるCNF-B及びCNF-Dについては、アセチル化する前の原料であるCNF-A及びCNF-Cのアルカリ可溶多糖類平均含有率を採用した。
[酸不溶成分平均含有率]
酸不溶成分の定量は、微細セルロース繊維について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法で行った。絶乾させた微細セルロース繊維を精秤し、所定の容器に入れて72質量%濃硫酸を加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押した後、オートクレーブしてセルロース及びヘミセルロースを酸溶液中に溶解させた。放冷後に内容物をガラスファイバーろ紙で濾過し、酸不溶成分を残渣として得た。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とした。なお、アセチル化微細セルロース繊維であるCNF-B及びCNF-Dについては、アセチル化する前の原料であるCNF-A及びCNF-Cの酸不溶成分平均含有率を採用した。
[熱分解開始温度(TD)]
多孔質シートの熱分析を以下の測定法にて行った。
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、そのまま450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温した。
D算出方法:横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた。多孔質シートの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度と2wt%重量減少時の温度とを通る直線を得た。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度を熱分解開始温度(TD)とした。
[1wt%重量減少温度]
前記TD算出時に用いた1wt%重量減少時の温度を1wt%重量減少温度とした。
[250℃重量減少率]
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持した。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求めた。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
<乾燥中の評価>
[濃縮ケーキ及び乾燥体の水分率及び総液体率及び残溶媒率]
加熱乾燥式水分率計(エー・アンド・ディ社製、MX-50)を用いた。濃縮ケーキ及び乾燥体5gをアルミ皿に載せ、150℃で加熱し、水分率を測定した。濃縮ケーキ中に揮発性の有機溶媒が含まれる場合は水及び有機溶媒の合計として総液体率及び残溶媒率を測定した。
<乾燥体の評価>
[分散剤溶出率]
エタノールに対する分散剤溶出率は下記手順で評価した。エタノール40gを入れた容量50mlのプラスチックボトルに、乾燥体0.4gを入れ、マグネチックスターラーで、23℃及び300rpmで1分間撹拌した後、ろ紙(アドバンテック製、5A)で濾過して濾液を得た。この濾液をロータリーエバポレーターで濃縮して得た濃縮物の重量を計測した。下記式に従って分散剤溶出率を算出した。
[分散剤溶出率]=[濃縮物重量(g)]/[浸漬に供した乾燥体の重量(=0.4g)]×100(%)
アセトン及びトルエンの各々に対する分散剤溶出率は、上記エタノールをアセトン及びトルエンの各々に変更した他は上記と同様の手順で評価した。用いた溶媒は実施例1~4及び比較例1~4の乾燥体はエタノール、実施例5及び6及び比較例5~8の乾燥体はアセトン、実施例7及び8及び比較例9~12の乾燥体はトルエンを用いた。
[比表面積]
比表面積・細孔分布測定装置(Nova-4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)にて、乾燥体約0.2gを真空下で120℃、5時間乾燥を行った後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m2/g)を算出した。
[安息角、崩潰角、差角、ゆるめ嵩密度、あつめ嵩密度、圧縮度]
ホソカワミクロン株式会社製パウダーテスター(型番:PT-X)を用いて測定を行った。
(安息角)
水平に設置した直径80mmのステンレス製計測台の中心に、薬さじを用いて、乾燥体100gを約10g/分にて漏斗(ステンレス製、上側開口径70mm、下側開口径7mm、傾斜角60°)経由で漏斗の下側開口部と計測台の間が110mmとなる高さから静かに落とし、計測台上に乾燥体を円錐形状に堆積させた。円錐形状を真横から写真撮影し、円錐の母線と水平面との間の角度を測定した。3回の測定の数平均値を安息角とした。
(崩潰角)
安息角を測定した試料に対して、計測台と同じ台座上にある109gの分銅を160mmの高さから2秒の間隔で3回落下させた後、試料の円錐形状を真横から写真撮影し、円錐の母線と水平面との間の角度を測定した。3回の測定の数平均値を崩潰角とした。
(差角)
安息角と崩潰角との差を差角として算出した。
(ゆるめ嵩密度)
ステンレス製100mL(内径50.46mm×深さ50mm)有底円筒容器に乾燥体を薬さじを用いて10g/分にて溢れる量まで入れ、当該乾燥体をすり切り後、0.01gの位で重量を測定した。当該重量の3回の測定の数平均値を上記有底円筒容器の内容積で除して、ゆるめ嵩密度として算出した。
(あつめ嵩密度)
ゆるめ嵩密度で用いたのと同様の有底円筒容器の上部に、十分な容量の樹脂製アダプター(内径50.46mm×長さ40mm)を密着するように接続し、ゆるめ嵩密度の測定と同様の手順で乾燥体を溢れる量まで入れた後、アダプターを接続したまま有底円筒容器に回転軸に偏心錘を取り付けたモーターで振幅1.5mm、50Hzの振動を30秒間与えた。続いて、アダプターを除き、乾燥体をすり切り後、0.01gの位で重量を測定した。当該重量の3回の測定の数平均値を上記有底円筒容器の内容積で除して、あつめ嵩密度として算出した。
(圧縮度)
上記のあつめ嵩密度及びゆるめ嵩密度の値から、下記式:
圧縮度(%)=(あつめ嵩密度-ゆるめ嵩密度)/あつめ嵩密度×100
に従って圧縮度を算出した。
(内部摩擦角、粉体動摩擦角、応力伝達率、フローファンクション値)
株式会社ナノシーズ製粉体層せん断試験機(型式:NS-S300)を用いて測定を行った。
まず、側面に間隙があり、セルの上下間で乾燥体のせん断が可能な直径15mmの円筒形の試料セルに測定試料を入れて、その上に上杵を静かに載せた。その後、上杵を下降させて乾燥体に垂直方向に応力(垂直応力)をかけた。この際に上杵にかかる応力を荷重センサで測定し目標とする応力まで到達したら(この時の上杵にかかった垂直応力の最大値を最大垂直応力U0とする)、上杵の下降を停止した。この後、上杵の応力をモニタリングし続けると乾燥体の変形や移動により応力が緩和するので、変動が十分に小さくなった時の応力を緩和応力U1とした。また、変動が十分に小さくなった時の下杵に掛かる応力を伝達応力L1とした。
つづいて、下部のセルを10μm/秒で上杵と水平方向に押し込み、セルの上下間の間隙にせん断をかけた。この際に下部のセルにかかるせん断方向の応力(せん断応力)と、下部のセルにかかる上杵の垂直応力とを荷重センサで終始モニタリングした。せん断中に垂直応力とせん断応力が一定になる点を臨界状態点とした。臨界状態点に到達した後、せん断を継続させながら垂直応力がゼロになるまで徐々に減少させた(この時の垂直応力(横軸)とせん断応力(縦軸)のプロットを破壊包絡線という)。以上のサイクルを一測定とし、上杵の目標応力20N、40N、60Nの3条件について20Nから連続で測定した。そして、3回目に60Nの垂直応力をかけた際の緩和応力U1に対する伝達応力L1の割合を算出し応力伝達率を求めた。
(応力伝達率)=100×L1/U1
粉体動摩擦角は、垂直応力(横軸)とせん断応力(縦軸)のプロットにおいて、目標応力20N、40N、60Nでの測定の3つの臨界状態点について、原点を通る線形近似線の角度を求めた。
内部摩擦角は、目標応力20N、40N、60Nでの測定の3つの破壊包絡線の臨界状態点について、線形近似線の角度を求めた。
単軸崩壊応力は、モール・クーロンモデルによる解析を行い、目標応力60Nにおける破壊包絡線について、原点を通り、かつ、破壊包絡線に接するモールの応力円を描き、X軸と交わる大きい方の値を採用した。
フローファンクション値は、まず各目標応力20N、40N、60Nでの単軸崩壊応力、最大主応力を算出した後、目標応力ごとに最大主応力を単軸崩壊応力で除することで各目標応力での個別フローファンクション値を算出した。つづいて、得られた3つの個別フローファンクション値の平均値をフローファンクション値とした。
単軸崩壊応力は前述の手法に従い、目標応力20N、40N、60Nの破壊包絡線それぞれについて算出した。
最大主応力はモール・クーロンモデルによる解析を行い、目標応力20N、40N、60Nの破壊包絡線それぞれについて、臨界状態点に接するモールの応力円を描き、X軸と交わる大きい方の値を最大主応力とした。
≪樹脂組成物の製造≫
<樹脂>
ポリアミド6(宇部興産製:1013B)(SP値:12.2)
ポリブチレンテレフタレート(東レ製:1401X06)(SP値:10.0)
ポリプロピレン(プライムポリマー製:J105B)(SP値:8.1)
ポリオキシメチレン(旭化成製:テナックHC450)(SP値:11.0)
溶解度パラメータ値(SP値)については、井出文雄著「実用ポリマーアロイ設計」(工業調査会 初版、1996年9月1日発行)記載のSP値を参照した。この文献において、PA6は11.6~12.7の範囲とされる。本件ではその範囲の平均値をPA6のSP値として採用し、12.2(小数点以下2桁で四捨五入)とした。
上記で製造した乾燥体と、熱可塑性樹脂ペレットとを、微細セルロース繊維量が樹脂組成物中の10質量%となる割合になるよう二軸押出機中にそれぞれ別のフィーダーで供給し、250rpmの回転数で溶融混練してストランド状に押出し、水冷・切断しペレットとして得た。
[押出機の構成]
シリンダーブロック数が13個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=60)のシリンダー設定温度は表7に示すように樹脂によって変えて設定した。
スクリュー構成としては、シリンダー1~3を搬送スクリューのみで構成される搬送ゾーンとし、シリンダー4に上流側より2個の時計回りニーディングディスク(送りタイプニーディングディスク:以下、単にRKDと呼ぶことがある。)、2個のニュートラルニーディングディスク(無搬送タイプニーディングディスク:以下、単にNKDと呼ぶことがある。)を順に配した。シリンダー5は搬送ゾーンとし、シリンダー6に1個のRKD及び引き続いての2個のNKDを配し、シリンダー7及び8は搬送ゾーンとし、シリンダー9に2個のNKDを配した。続くシリンダー10は搬送ゾーンとし、シリンダー11に2個のNKD、引き続いての1個の反時計回りスクリューを配し、シリンダー12及び13は搬送ゾーンとした。なお、シリンダー1では乾燥体と樹脂ペレットを供給した。アジテーター(撹拌翼)を取り付けたホッパー容量10Lの重量式二軸フィーダー(フィーダー1、クボタ製、型番CE-W-0)に乾燥体を、アジテータのないホッパー容量10Lの重量式二軸フィーダー(フィーダー2、クボタ製、型番CE-W-0)に樹脂ペレットを投入し、集合ホッパーを通して乾燥体と樹脂ペレットをシリンダー1に供給した。フィーダー流量は表8に示すよう変えて設定した。シリンダー12にはシリンダー上部にベントポートを設置し減圧吸引できるようにし、真空吸引を実施した。
[引張破断強度及び引張破断伸度]
得られたペレットから、射出成形機を用いて、JIS K6920-2に準拠した条件で成形を行い、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。射出成形の成形温度は、PA6は260℃、PBTは250℃、PP及びPOMは200℃とした。
引張破断強度及び引張破断伸度について、ISO527に準拠して測定した。なお、PA6は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
[平均凝集塊数]
得られたペレットから10粒を任意に分取し、1g当たりに含まれる円相当径の直径が5μm以上の巨大凝集塊の個数(平均凝集塊数)を求めた。PA6、PP及びPOMについてはX線CT、微細セルロース繊維との電子密度差が小さい為X線CTで巨大凝集塊が観察できないPBTについては光学顕微鏡で測定した。
<X線CT>
得られたペレット10粒を、それぞれ約2mmサイズに切り出し、重量を計測した。つづいて、X線CT(ブルカージャパン社製、Skyscan1272)で測定を行った。測定条件は下記のとおりである。
管電圧:40kV
管電流:100μA
ピクセル分解能:1.2μm
検出器画素数:2452×1640 pixel
積算回数:4回
測定角度ステップ:0.2度
スキャン範囲:0~180度
なお、測定後のデータについて、3D方向に対して2画素にわたって桑原フィルターをかけてスムージングを行い、画質の向上を行った。このようにして得られた3Dデータについて、triangle法による自動二値化を行い、4/3π×2.5×2.5×2.5μm3以上の巨大凝集塊の画素を抽出し、巨大凝集塊の数を数えた。得られた巨大凝集塊数を測定サンプル重量で除し、各ペレットの1g当たりの巨大凝集塊数を算出した。最終的に10粒のそれぞれの1g当たりの巨大凝集塊数の平均を平均凝集塊数とした。
<光学顕微鏡>
得られたペレット10粒について、それぞれ流れに垂直方向にミクロトームで10枚切削し、平滑な面を削りだした。つづいて、得られた各々10枚の観察サンプルの合計重量を測定した後、光学顕微鏡(BX53M:オリンパス社製)を用いて写真撮影した。得られた写真に、triangle法による自動二値化を行い、4/3π×2.5×2.5μm2以上の巨大凝集塊の画素を抽出し、巨大凝集塊の数を数えた。得られた巨大凝集塊数を10枚の観察サンプル合計重量で除し、各ペレットの1g当たりの巨大凝集塊数を算出した。巨大凝集塊数の10粒での平均を平均凝集塊数とした。
[CV値]
上記方法で測定したペレット10粒の各々の1g当たりの巨大凝集塊数について、巨大凝集塊数の10粒での標準偏差並びに上記平均凝集塊数より、巨大凝集塊数の変動係数(CV値)を下記式に従って算出した。
CV値(%)=巨大凝集塊数の標準偏差÷平均凝集塊数×100
[乾燥体搬送性]
乾燥体2kgを、流量4kg/hに設定したフィーダー1に投入し、流量をキャリブレーションした後、4kg/hで20分運転した際の平均MV値が70%以下の場合を搬送性良好とし、70%を超える、及び/又は運転途中で流量異常アラームにより停止した場合は搬送性不良とした。平均MV値とは、スクリューの最大回転数に対して、20分間の平均回転数の割合をいう。平均MV値が小さい程、乾燥体の搬送性に優れ、二軸押出機での溶融混練の押出速度を速めることができ、生産性の観点で好ましいことを意味する。
樹脂組成物のマトリックス樹脂がPA6である実施例1~4及び比較例1~4について、比較例と比較し乾燥体の分散剤溶出率が低く、かつ、フローファンクション値が高い実施例は全て平均凝集塊数が少なく、引張破断伸度が大きいとともに、乾燥体搬送性にも優れ、平均凝集塊数のCV値が小さく、均一な樹脂ペレットが得られた。
PA6の樹脂組成物を外板などの構造体として成形する上で、引張破断強度は91MPa以上、又は引張破断伸度は8.0%以上、又は平均凝集塊数は500以下、又はCV値は16%以下であることで、実使用で優位な使用が可能となる。
マトリックス樹脂がPBTである実施例5及び6及び比較例5~8、並びにPPである実施例7~9及び比較例9~13、並びにPOMである実施例10~11及び比較例14~15においても同様の傾向が確認される。
PBTの樹脂組成物を外板などの構造体として成形する上で、引張破断強度は87MPa以上、又は引張破断伸度は6.0%以上、又は平均凝集塊数は1000以下、又はCV値は18%以下であることで、実使用で優位な使用が可能となる。
PPの樹脂組成物を外板などの構造体として成形する上で、引張破断強度は24MPa以上、又は引張破断伸度は6.2%以上、又は平均凝集塊数は1200以下、又はCV値は24%以下であることで、実使用で優位な使用が可能となる。
POMの樹脂組成物を外板などの構造体として成形する上で、引張破断強度は80MPa以上、又は引張破断伸度は5.0%以上、又は平均凝集塊数は892以下、又はCV値は20%以下であることで、実使用で優位な使用が可能となる。
また、比較例2、6、10はフローファンクション値が高いため乾燥体搬送性に優れ、CV値も低いが、分散剤溶出率が高いことにより平均凝集塊数が多く、結果として引張破断伸度は低い。また、比較例3、4、7、8、11~13,15は分散剤溶出率が低く、平均凝集塊数も低いが、フローファンクション値が低いことにより、乾燥体搬送性が悪く、CV値が低く、結果として引張破断伸度は低い。以上より、分散剤溶出率が低く、かつ、フローファンクション値が高いことによって引張破断伸度が優れた樹脂組成物が得られることが分かる。
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Figure 2022169490000003
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本発明が提供し得る乾燥体及び樹脂組成物は、種々の樹脂成形体用途に好適に適用され得る。

Claims (12)

  1. 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体であって、
    エタノール100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
    フローファンクション値が3.0以上である、乾燥体。
  2. 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体であって、
    アセトン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
    フローファンクション値が3.0以上である、乾燥体。
  3. 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体であって、
    トルエン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
    フローファンクション値が3.0以上である、乾燥体。
  4. 目標荷重60Nにおける応力伝達率が70%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の乾燥体。
  5. 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体の製造方法であって、
    微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程を含み、
    エタノール100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
    フローファンクション値が3.0以上である、方法。
  6. 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体の製造方法であって、
    微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程を含み、
    アセトン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
    フローファンクション値が3.0以上である、方法。
  7. 微細セルロース繊維と分散剤とを含む乾燥体の製造方法であって、
    微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程を含み、
    トルエン100質量部に前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
    フローファンクション値が3.0以上である、方法。
  8. 微細セルロース繊維と、分散剤と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
    微細セルロース繊維と分散剤と液体とを含む分散体から前記液体を除去して乾燥体を得る乾燥・造粒工程と、
    前記乾燥体と熱可塑性樹脂とを混合する工程と、
    を含み、
    エタノール、アセトン及びトルエンのうち前記熱可塑性樹脂と最も近接するSP値を有する溶媒100質量部に、前記乾燥体1質量部を23℃で1分間浸漬した際の前記分散剤の溶出量(g)を、前記浸漬に供した前記乾燥体中の分散剤総量(g)で除した値である分散剤溶出率が、60質量%未満であり、
    フローファンクション値が3.0以上である、方法。
  9. 前記熱可塑性樹脂がポリアミドであり、前記溶媒がエタノールである、請求項8に記載の方法。
  10. 前記熱可塑性樹脂がポリブチレンテレフタレートであり、前記溶媒がアセトンである、請求項8に記載の方法。
  11. 前記熱可塑性樹脂がポリアセタールであり、前記溶媒がアセトンである、請求項8に記載の方法。
  12. 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、前記溶媒がトルエンである、請求項8に記載の方法。
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