JP2022001631A - セルロース繊維の乾燥粉体の製造方法 - Google Patents

セルロース繊維の乾燥粉体の製造方法 Download PDF

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一文 河原
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Abstract

【課題】良好な再分散性を示すセルロース繊維の乾燥粉体の製造方法、及び当該方法で調製された乾燥粉体を用いることを含む樹脂複合体の製造方法を提供する。【解決手段】セルロース繊維の乾燥粉体を製造する方法であって、セルロース繊維及び水を含むスラリーを調製するスラリー調製工程、及び前記スラリーを減圧下で撹拌して、前記セルロース繊維の乾燥粉体を形成する造粒工程、を含み、前記造粒工程が、前記セルロース繊維の粒子を前記撹拌によって形成することと、前記粒子をチョッパ粉砕することとを含む、方法。【選択図】なし

Description

本発明は、セルロース繊維の乾燥粉体の製造方法、及びセルロース繊維と樹脂とを含む複合体(本開示で、樹脂複合体ともいう。)の製造方法に関する。
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されているが、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いことから、樹脂と各種フィラーとをコンポジットしたものが一般的に用いられている。近年、このようなフィラーとして、セルロースナノファイバー(CNF)等のナノ繊維を使用することが検討されている。CNFをはじめとしたナノ繊維は、乾燥状態では凝集し易いという性質があるため、安定分散が可能な分散液として製造される。セルロースナノファイバーを各種用途に適用する際には、上記分散液を一旦乾燥した後、分散媒中に再度分散させて再分散液を調製する場合がある。
特許文献1は、製造されたセルロースナノファイバー分散液を乾燥させて生成されたセルロースナノファイバーの粉粒体を再度水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー分散液を再分散する方法において、セルロースナノファイバーの粉粒体を水系溶媒に再分散させる際に、攪拌すると共に、機械的せん断力を付与することを特徴とするセルロースナノファイバー分散液の再分散方法を記載する。
特許文献2は、化学修飾されたフィブリルセルロースを処理する方法であって、化学修飾されたフィブリルセルロース材料を、ベルト(22)を含む熱乾燥装置(20)に導入し、フィブリルセルロース材料がベルト(22)上に少なくとも1つの棒状体を形成することと、少なくとも40℃の温度を有する加熱された空気流を用いて、化学修飾されたフィブリルセルロース材料をベルト(22)上において脱水し、熱乾燥装置(20)後にフィブリルセルロース材料の乾燥固体含有量が少なくとも10%であるように、化学修飾されたフィブリルセルロース材料を濃縮および/または乾燥させることと、を含むことを特徴とする方法を記載する。
特許文献3は、(A)粉末状のナノファイバーに対し、(B)分散剤を固形分換算で1〜40重量%配合してなり、かつ嵩密度が90〜200g/Lであることを特徴とする粉末状ナノファイバーを記載する。
特許文献4は、有機溶媒の存在下、セルロースナノファイバーをホモジナイズ処理した後、有機溶媒を除去し、水分含有量0〜1質量%の乾燥した微小繊維を製造する方法を記載する。
国際公開第2017/154568号 特表2015−512964号公報 特開2017−210596号公報 特開2012−224960号公報
セルロース繊維、特にセルロースナノファイバーを分散液の形態で貯蔵又は輸送する場合、セルロース繊維が湿潤環境下に置かれるために劣化(腐敗等)し易いこと、並びに、分散媒が余分な容積及び重量を占めることによる保管コスト及び輸送コストの増大が問題となる。セルロース繊維を乾燥状態で貯蔵及び輸送すれば、容積及び重量を低減できるとともに、用途に応じた他の材料との複合化が容易であるという利点も得られる。しかし、セルロース繊維を分散液の状態から一旦乾燥させてしまうと、その後分散媒中に再分散させても乾燥前のセルロース繊維の良好な分散状態を再現すること(すなわち良好な再分散性を得ること)は困難であった。
本発明は上記の課題を解決し、良好な再分散性を示すセルロース繊維の乾燥粉体の製造方法、及び当該方法で調製された乾燥粉体を用いることを含む樹脂複合体の製造方法の提供を目的とする。
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定乾燥条件でセルロース繊維の乾燥粉体を製造する場合、再分散性に優れるセルロース繊維の乾燥粉体を製造できることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち本発明は以下の態様を包含する。
[1] セルロース繊維の乾燥粉体を製造する方法であって、
セルロース繊維及び水を含むスラリーを調製するスラリー調製工程、及び
前記スラリーを減圧下で撹拌して、前記セルロース繊維の乾燥粉体を形成する造粒工程、
を含み、
前記造粒工程が、前記セルロース繊維の粒子を前記撹拌によって形成することと、前記粒子をチョッパ粉砕することとを含む、方法。
[2] 前記スラリーが、前記造粒工程の開始時に水を5質量%以上含む、上記態様1に記載の方法。
[3] 前記造粒工程において、水とは異なる液体媒体である追加の媒体をスラリーに添加する、上記態様1又は2に記載の方法。
[4] 前記造粒工程において、水とは異なる液体媒体である追加の媒体を2回以上の回数でスラリーに添加する、上記態様3に記載の方法。
[5] 前記追加の媒体が:沸点50℃〜170℃のアルコール;エーテル;カルボン酸;エステル;ケトン;及び含窒素溶媒からなる群から選択される、上記態様3又は4に記載の方法。
[6] 前記追加の媒体が、水と共沸混合物を形成する物質である、上記態様3〜5のいずれかに記載の方法。
[7] 前記追加の媒体を、水との共沸組成比よりも高い割合でスラリーに添加する、上記態様6に記載の方法。
[8] 前記追加の媒体を、スラリー中の水:追加の媒体の質量比率1:99〜90:10の範囲でスラリーに添加する、上記態様3〜7のいずれかに記載の方法。
[9] セルロース繊維の乾燥粉体を製造する方法であって、
セルロース繊維及び液体媒体を含むスラリーを調製するスラリー調製工程、及び
前記スラリーを減圧下で撹拌して、前記セルロース繊維の乾燥粉体を形成する造粒工程、
を含み、
前記造粒工程が、前記セルロース繊維の粒子を前記撹拌によって形成することと、前記粒子をチョッパ粉砕することとを含む、方法。
[10] 前記液体媒体が、沸点50℃〜170℃のアルコール;エーテル;カルボン酸;エステル;ケトン;及び含窒素溶媒からなる群から選択される1種以上である、上記態様9に記載の方法。
[11] 前記スラリー調製工程及び/又は前記造粒工程において、バインダーをスラリーに添加する、上記態様1〜10のいずれかに記載の方法。
[12] 前記バインダーが、ポリアルキレンオキシド、セルロースエーテル、及びセルロースエステルからなる群から選択される、上記態様11に記載の方法。
[13] 前記スラリー調製工程及び/又は前記造粒工程において、前記バインダーを媒体に溶解してスラリーに添加する、上記態様11又は12に記載の方法。
[14] 前記造粒工程を、撹拌羽根、チョッパ羽根及び減圧機構を備える造粒機内で行い、
前記造粒工程において、前記撹拌羽根を周速度0.5m/sec〜40m/secで回転させることによって前記撹拌を行うとともに前記チョッパ羽根を100rpm〜6000rpmで回転させることによって前記チョッパ粉砕を行い、
前記造粒機は、前記チョッパ粉砕された粒子が前記撹拌に更に供されるように構成されている、上記態様1〜13のいずれかに記載の方法。
[15] 前記造粒工程を、撹拌羽根、チョッパ羽根及び減圧機構を備える造粒機内で行い、
前記造粒工程において、前記撹拌羽根を周速度0.5m/sec〜40m/secで回転させることによって前記撹拌を行うとともに前記チョッパ羽根を周速度0.5m/sec〜40m/secで回転させることによって前記チョッパ粉砕を行い、
前記造粒機は、前記チョッパ粉砕された粒子が前記撹拌に更に供されるように構成されている、上記態様1〜14のいずれかに記載の方法。
[16] 前記チョッパ羽根の周速度が前記撹拌羽根の周速度以下である、上記態様15に記載の方法。
[17] 前記造粒工程を、温度20〜160℃、及び減圧度−100kPa〜−1kPaで行う、上記態様1〜16のいずれかに記載の方法。
[18] 前記乾燥粉体の嵩密度が、0.05g/mL〜1.0g/mLである、上記態様1〜17のいずれかに記載の方法。
[19] コットンリンター由来のセルロース繊維を用いる、上記態様1〜18のいずれかに記載の方法。
[20] 化学修飾されたセルロース繊維を用いる、上記態様1〜19のいずれかに記載の方法。
[21] 疎水性置換基で化学修飾されているセルロース繊維を用いる、上記態様1〜20のいずれかに記載の方法。
[22] 前記セルロース繊維の数平均繊維径が10nm以上1000nm以下である、上記態様1〜21のいずれかに記載の方法。
[23] セルロース繊維と樹脂とを含む複合体の製造方法であって、前記方法が、上記態様1〜22のいずれかに記載の方法で乾燥粉体を調製すること、及び前記乾燥粉体と前記樹脂とを混合すること、を含む、方法。
[24] 前記樹脂が熱可塑性樹脂であり、
前記乾燥粉体と前記樹脂とを溶融混練によって混合する、上記態様23に記載の方法。
本発明の一態様によれば、良好な再分散性を示すセルロース繊維の乾燥粉体の製造方法、及び当該方法で調製された乾燥粉体を用いることを含む樹脂複合体の製造方法が提供され得る。
IRインデックス1370及びIRインデックス1030の算出法の説明図である。 熱分解開始温度(TD)及び1%重量減少温度(T1%)の測定法の説明図である。
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
≪セルロース繊維の乾燥粉体の製造方法≫
本発明の一態様は、セルロース繊維及び液体媒体(一態様において、水を含む液体媒体)を含む分散液(スラリー)を調製するスラリー調製工程、及び該スラリーを減圧下で撹拌して、該セルロース繊維の乾燥粉体を形成する造粒工程、を含み、造粒工程が、セルロース繊維の粒子を撹拌によって形成することと、粒子をチョッパ粉砕することとを含む、セルロース繊維の乾燥粉体の製造方法を提供する。
<スラリー調製工程>
本工程では、セルロース繊維及び液体媒体(一態様において、水を含む液体媒体)を含むスラリーを調製する。セルロース繊維の原料としては、天然セルロース及び再生セルロースを用いることができる。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。高純度かつ高結晶化度のセルロース繊維を得られる点でコットンリンターから得られる非木材パルプが好ましい。
一態様において、セルロース繊維はセルロースナノファイバーである。セルロースナノファイバーとは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロースを加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の粉砕法により解繊した微細なセルロースを指す。一態様において、セルロースナノファイバーは数平均繊維径1nm以上1000nm以下である。セルロース繊維は後述のように化学修飾されたものであってもよい。
スラリーは、セルロース繊維(例えば上記解繊を経て得たセルロースナノファイバー)を液体媒体中に分散させることによって調製でき、分散は、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等を用いて行ってよく、例えば上記解繊の生成物を本開示のスラリー調製工程の生成物として得てもよい。スラリー中の液体媒体は、一態様においては水を含み、別の一態様においては水を含まないことができる。一態様において、液体媒体は、水、及び任意に、1種単独又は2種以上の組合せで他の液体媒体(例えば有機溶媒)を含み得る。有機溶媒としては、一般的に用いられる水混和性有機溶媒、例えば:沸点が50℃〜170℃のアルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等)、等を使用できる。なお、これらの有機溶媒が水と共沸混合物を形成する物質であると好ましい。特に共沸混合物の沸点が水及び有機溶媒のそれぞれ単独での沸点よりも低くなる極小共沸点を有すると、減圧度及び/又は温度が低い場合でも水分を乾燥しやすいのでさらに好ましい。典型的な態様においては、スラリー中の液体媒体は実質的に水のみである。
液体媒体が水を含まない場合、当該液体媒体は、一般的に用いられる水混和性有機溶媒、例えば:沸点が50℃〜170℃のアルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等)や疎水性有機溶媒、例えば芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等);脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等);ハロゲン化炭化水素(テトラクロロメタン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロエタン等)等からなる群から選択される1種以上であってよい。
スラリーは、セルロース繊維と液体媒体とに加えて、添加剤(バインダー、分散剤、酸化防止剤、防腐剤、増粘剤等)を含んでもよい。
セルロース原料は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしても良い。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロースの重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が、適切な範囲から逸脱しない程度にコントロールされていることが望ましい。
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロース分子の分子量を低下させるため、これらの工程によって、セルロースが低分子量化すること、及びセルロース原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
一態様において、セルロース繊維の数平均繊維径(D)は、セルロース繊維による物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは2〜1000nmである。セルロース繊維の数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、より好ましくは500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下である。
一態様において、セルロース繊維の数平均繊維長(L)は、セルロース繊維による物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは100nm〜1000μmである。セルロース繊維の数平均繊維長は、より好ましくは200nm以上、又は500nm以上、又は1μm以上、又は10μm以上、又は100μm以上であり、より好ましくは500μm以下、又は300μm以下、又は200μm以下である。
セルロース繊維の平均L/Dは、セルロース繊維を含む樹脂複合体の機械的特性を少量のセルロース繊維で良好に向上させる観点から、好ましくは、50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下である。
一態様において、本開示のセルロース繊維の数平均繊維径(D)、数平均繊維長(L)、及びL/D比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて以下の手順で測定される値である。セルロース繊維の水分散液をt−ブタノールで置換し、0.001〜0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロース繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
別の一態様において、本開示のセルロース繊維の数平均繊維径は、窒素吸着によるBET法で得られる比表面積から算出される数平均繊維径である。平均繊維径1000nm以下は、比表面積が2.667m2/g以上に対応する。
窒素吸着による数平均繊維径の算出方法は以下のとおりである。すなわち、セルロース繊維の水分散体をt−ブタノールで置換した後、ろ過濃縮して乾燥させることで多孔質シートを作製し、その多孔質シートの比表面積を窒素吸着によるBET法を用いて測定する。セルロースを、繊維間の融着が全く起こっていない理想状態であり、かつセルロース密度がd(g/cm3)、繊維径がD(nm)である円柱とした時、比表面積と繊維径との関係は下記の式で表される。
比表面積(m2/g)=4000/(dD)
そして、セルロース密度を1.50g/cm3とした時、数平均繊維径は下記の式で表される。
D(nm)=2667/比表面積(m2/g)
したがって、Dが1000nmのときの比表面積は2.667m2/gである。
なお、後述の樹脂複合体中のセルロース繊維の長さ、径、及びL/D比は、樹脂複合体の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂複合体中の樹脂成分を溶解させ、セルロース繊維を分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、t−ブタノールで置換し、0.001〜0.1質量%分散液を調製し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)で再分散したものを利用する。
セルロース繊維の結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース繊維自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロース繊維を樹脂に分散した際に、樹脂複合体の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロース繊維の結晶化度についても上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
植物由来のセルロースのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。セルロース繊維中のリグニン等の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂複合体の変色を抑制する観点からも、セルロース繊維の結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
ここでいう結晶化度は、セルロース繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10〜30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]−[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
また結晶化度は、セルロース繊維がセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
なお、測定サンプルとしては、上述した多孔質シートを用いる。
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロース繊維としては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロース繊維を樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂複合体が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロース繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロース繊維がより好ましい。
また、セルロース繊維の重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロース繊維の重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
セルロース繊維の重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
一態様において、セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロース繊維、及びセルロース繊維と樹脂とを含む樹脂複合体が得られる。セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。
Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
ここでいうセルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N−ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
セルロース繊維の重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα−セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
セルロース繊維が含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β−セルロース及びγ−セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα−セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
一態様において、セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロース繊維の良好な分散性を得る観点から、セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、セルロース繊維の製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
一態様において、セルロース繊維中の酸不溶成分平均含有率は、セルロース繊維の耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロース繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
セルロース繊維の熱分解開始温度(TD)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において270℃以上であり、好ましくは275℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は300℃以下であってもよい。
本開示で、TDとは、図2の説明図に示すように、熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である(尚、図2(B)は図2(A)の拡大図である。)。セルロース繊維の150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
セルロース繊維の250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、セルロース繊維を250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。
本発明の工程に供するスラリー中のセルロース繊維の濃度は、後続の造粒工程におけるプロセス効率の観点から、好ましくは、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上であり、スラリーの粘度の過度な増大、及び凝集による固化を回避して良好な取扱い性を保持する観点から、好ましくは、60質量%以下、又は55質量%以下、又は50質量%以下、又は45質量%以下である。一般的にセルロースナノファイバーの製造は希薄な分散液中で行われることが多いが、このような希薄分散液を濃縮することで、スラリー中のセルロース濃度を前記好ましい範囲に調整してもよい。濃縮には、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心脱液、加熱等の方法を用いることができる。
<造粒工程>
本工程では、スラリー調製工程で得たスラリーを減圧下で撹拌して、セルロース繊維の乾燥粉体を形成する。造粒工程は、例えば、撹拌羽根、チョッパ羽根及び減圧機構を備える高速撹拌造粒機を用いて行うことができ、セルロース繊維の粒子を撹拌によって形成することと、該粒子をチョッパ粉砕することとを含む。
撹拌羽根とチョッパ羽根とは、互いに異なる又は同一の回転軸を有してよい。
撹拌羽根とチョッパ羽根とが異なる回転軸を有する造粒機は、例えば、上方に材料投入口を有する縦型又は横型の缶体、缶体の底部に配置された低速回転の撹拌羽根と缶体の側部に配置された高速回転のチョッパ羽根との組合せ、減圧機構、及び任意に温度調節機構を備えてよい。
撹拌羽根とチョッパ羽根とが同一の回転軸を有する造粒機は、例えば、上方に材料投入口を有する縦型又は横型の缶体、缶体の底部に配置された撹拌羽根と同一の回転軸の上方に配置されたチョッパ羽根との組合せ、減圧機構、及び任意に温度調節機構を備えてよい。
計量されたスラリーを材料供給口から缶体内に投入すると、撹拌羽根による遠心力及び上昇推進力によりスラリーが缶体内を対流しながら減圧乾燥されて、粒子が生成する。粒子は缶体内を移動して強力なせん断力を有するチョッパ羽根に当たって粉砕され、その後撹拌羽根付近に戻って再び撹拌されて粒径が増大される。このように、粒子が撹拌とチョッパ粉砕とに繰り返し供されることで、整粒された(すなわち粒径のばらつきが小さい)セルロース繊維の乾燥粉体を生成させることができる。
撹拌羽根は、2枚翼、3枚翼、4枚翼等の回転翼であってよく、複数の翼が輪状に繋がって一体化した回転翼であってもよい。また、回転翼が上羽と下羽の多段構造であってもよい。回転翼の翼面は、回転軸に対して垂直又は傾斜していてよく、平面若しくは曲面又はこれらの組合せであってよい。良好な撹拌効率を得る観点から、好ましくは、回転翼が缶体の底面及び側壁に沿うように配置されており、回転翼先端と缶体の底面及び側壁とのクリアランスが回転翼の回転に支障ない限度で最小とされている。撹拌羽根は、スラリーに対して遠心力及び上昇推進力を付与することで粒子を生成させる。
回転翼の回転条件としては、周速度の下限は好ましくは0.5m/sec、又は0.7m/sec、又は1m/sec、又は3m/sec、又は6m/secであり、上限は好ましくは40m/sec、又は30m/sec、又は20m/sec、又は15m/sec、又は14m/sec、又は13m/sec、又は12m/secである。
周速度は造粒工程において常に一定である必要はなく、好ましい範囲内で変化させてもよい。周速度を好ましい範囲にすることによって、再分散性に優れるセルロース繊維の乾燥粉体を得ることができる。周速度が上限以下であることは、セルロースの結晶性低下による物性劣化を防止する観点から好ましい。周速度が下限以上であることは、乾燥中のスラリーがチョッパ羽根で粉砕される効率を良好にする観点から好ましい。
撹拌羽根によってスラリーに掛かる剪断速度としては、50sec-1〜7000sec‐1、又は150sec-1〜5000sec‐1、又は250sec-1〜3500sec‐1を例示できる。
チョッパ羽根は、回転軸から外方に延びた1つ又は複数のチョッパ刃を有してよく、複数のチョッパ羽根が多段構造を有してもよい。回転軸は、缶体の側壁から片持ち状に内方に突き出していてよく、又は缶体を水平方向に貫いても(すなわち貫通型チョッパ羽根を構成しても)よい。チョッパ刃は回転軸方向に所定間隔で複数配列されていてもよい。
チョッパ羽根による粉砕条件としては、チョッパ回転数の下限は好ましくは10rpm、又は50rpm、又は100rpm、又は200rpm、又は500rpm、又は1000rpmであり、上限は好ましくは6000rpm、又は5000rpm、又は4500rpm、又は4000rpmである。チョッパ回転数を好ましい範囲にすることによって、再分散性に優れるセルロース繊維の乾燥粉体を得ることができる。チョッパ回転数が上限以下であることは、セルロースの結晶性低下による物性劣化を防止する観点から好ましい。チョッパ回転数が下限以上であることは、チョッパの粉砕効果を良好に得る観点から好ましい。
一態様において、チョッパ羽根の周速度の下限は好ましくは0.5m/sec、又は0.7m/sec、又は1m/sec、又は3m/sec、又は6m/secであり、上限は好ましくは40m/sec、30m/sec、20m/sec、15m/sec、又は14m/sec、又は13m/sec、又は12m/secである。チョッパ羽根の周速度を好ましい範囲にすることによって、再分散性に優れるセルロース繊維の乾燥粉体を得ることができる。チョッパ羽根の周速度が上限以下であることは、セルロースの結晶性低下による物性劣化を防止する観点から好ましい。チョッパ羽根の周速度が下限以上であることは、チョッパの粉砕効果を良好に得る観点から好ましい。
チョッパ羽根と攪拌羽根とが異なる回転軸にある場合、回転直径及び周速度のそれぞれのチョッパ羽根/攪拌羽根比は、所望に応じて任意に設定してよいが、例えば、1.0/1.0〜0.1/1.0、又は0.5/1.0〜0.1/1.0、又は0.5/1.0〜0.2/1.0、又は0.5/1.0〜0.3/1.0であってよい。一態様においては、チョッパ羽根の周速度が、撹拌羽根の周速度以下であり、又は撹拌羽根の周速度よりも小さい。チョッパ羽根の直径及び周速度が攪拌羽根の直径及び周速度以下である場合、攪拌羽根によるスラリーの対流が乱れず、粉体形状の制御が容易であり好ましい。チョッパ羽根の直径及び周速度が攪拌羽根の直径及び周速度の1/10以上である場合、チョッパ羽根による粉砕効果が高く好ましい。
一方、チョッパ羽根と攪拌羽根とが同一の回転軸にある場合、これらの回転数は同等であることが好ましい。また、チョッパ羽根の回転直径が攪拌羽根の回転直径に対して同等以下であることが好ましく、チョッパ羽根の周速度が攪拌羽根の周速度に対して同等以下であることが好ましい。チョッパ羽根の回転直径が攪拌羽根の回転直径よりも大きい場合、及びチョッパ羽根の周速度が攪拌羽根の周速度よりも大きい場合には、攪拌羽根による上昇推進力が減り、攪拌効率が低くなる傾向がある。チョッパ羽根と攪拌羽根とが同一の回転軸にある場合、回転直径及び周速度のそれぞれのチョッパ羽根/攪拌羽根比は、好ましくは、1.0/1.0〜0.5/1.0、又は0.95/1.0〜0.5/1.0、又は0.95/1.0〜0.6/1.0である。一態様においては、チョッパ羽根の周速度が、撹拌羽根の周速度以下であり、又は撹拌羽根の周速度よりも小さい。
チョッパ羽根と攪拌羽根とが同一の回転軸にある場合でも、撹拌羽根に相当する下羽根による遠心力及び上昇推進力によりスラリー又は粒子が缶体内を対流し、減圧乾燥されて粒子が生成する。その過程において、チョッパ羽根に相当する上羽根のせん断力により破砕され、粉砕した粒子が攪拌羽根付近に戻って再び攪拌されることで粒径が増大し、次第に造粒される。したがって、同一の回転軸に羽根が2枚以上あっても、下羽根は攪拌羽根の役割を、上羽根はチョッパ羽根の役割を有する。チョッパ羽根の直径及び周速度が攪拌羽根の直径及び周速度以下である場合、攪拌羽根によるスラリーの対流を発生させやすく、缶体の隅に滞留するスラリーが残存しにくく好ましい。チョッパ羽根の直径及び周速度が攪拌羽根の直径及び周速度の半分以上である場合、チョッパ羽根による粉砕効果が高く好ましい。
造粒工程における減圧乾燥の条件としては、乾燥速度を上げて生産効率を高める観点からジャケット温度の下限は好ましくは20℃以上、又は30℃以上、又は40℃以上、又は50℃以上であり、セルロース繊維及び添加剤の熱安定性の観点から上限は160℃以下、又は150℃以下、又は140℃以下、又は130℃以下である。減圧度の下限は好ましくは−1kPa以上、又は−10kPa以上、−20kPa以上、−30kPa以上、−40kPa以上、−50kPa以上であり、上限は好ましくは−100kPa以下、−95kPa以下、−90kPa以下である。圧力の調整は、適切な排気能力を有する減圧ポンプをフル稼働させてもよいし、真空レギュレーター、リークバルブなどを用いて大気及び/又は不活性ガスを意図的に導入してもよい。大気及び/又は不活性ガスを導入する場合は、缶体又は缶体の上流に取り込み部を設けると媒体蒸気を効率的に排気できるので好ましい。
セルロース繊維は、乾燥状態で極めて凝集しやすいことから、通常のセルロース繊維の乾燥粉体においてはセルロース繊維同士が互いに強固に凝集しており、当該乾燥粉体を分散媒中に再分散させても容易に再分散しない。本開示の方法の造粒工程では、撹拌によって造粒を行うことからスラリー及び生成した粒子に対して掛かる剪断力が比較的小さく、セルロース繊維が凝集して粗大粒子を生成する。生成した粗大粒子は、チョッパ粉砕によって微細化されるが、微細化後の粒子は更に撹拌に供されてその粒径を増大させる。この撹拌で粗大粒子が生じたならばチョッパ粉砕で再び微細化される。チョッパ粉砕では、粗大粒子が粉砕されるが元々微細化されている粒子はそれ以上粉砕されないため、撹拌による粒子生成とチョッパ粉砕とを繰り返すことによって、粒径のばらつきが低減された乾燥粉体を得ることができる。また、セルロース繊維の粒子をチョッパ粉砕することで粒子表面のセルロース繊維を毛羽立たせる(すなわち粒子表面に疎な構造を形成する)ことができ、このようなチョッパ粉砕を撹拌と繰り返すことで、所望の粒径を有しつつ疎な(すなわち嵩密度が小さい)乾燥粉体を生成できる。
造粒工程の開始時のスラリーは、液体媒体を5質量%以上、又は20質量%以上、又は40質量%以上、又は60質量%以上含むことが、撹拌効率の点で好ましい。造粒工程の開始時のスラリー中の液体媒体の量は、プロセス効率の点で、95質量%以下、又は90質量%以下、又は80質量%以下であってよい。
造粒工程の開始時のスラリーは、水を5質量%以上、又は20質量%以上、又は40質量%以上、又は60質量%以上含むことが、撹拌効率の点で好ましい。造粒工程の開始時のスラリー中の水の量は、プロセス効率の点で、95質量%以下、又は90質量%以下、又は80質量%以下であってよい。
スラリー中の液体媒体が水を含む場合の造粒工程においては、水とは異なる液体媒体である追加の媒体をスラリーに添加することが好ましい。追加の媒体としては、<スラリー調製工程>の項で例示したような各種有機溶媒を例示できる。追加の媒体は、好ましくは:沸点が50℃〜170℃のアルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);及び含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等)からなる群から選択される1種以上の媒体であり、t−ブタノール、s−ブタノール、i−ブタノール、アセトン等がより好ましい。なお、これらの有機溶媒が水と共沸混合物を形成する物質であると好ましい。特に共沸混合物の沸点が水及び有機溶媒のそれぞれ単独での沸点よりも低くなる極小共沸点を有すると、減圧度及び/又は温度が低い場合でも水分を乾燥しやすいのでさらに好ましい。添加のタイミングは、造粒工程の途中、例えば、スラリー中の水が80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下、又は50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下、又は10質量%以下まで進行した後のタイミングが好ましい。これらの割合で水が残留していることで追加の媒体が水と置換されてセルロース繊維の凝集を抑制し、所望の粒径を有しかつ再分散性が良好な乾燥粉体を形成できる。
好ましい態様においては、追加の媒体を、スラリー中の水:追加の媒体の質量比率1:99〜90:10の範囲でスラリーに添加する。当該質量比率は、より好ましくは1:99〜80:20、又は1:99〜70:30、又は5:95〜70:30、又は5:95〜60:40、又は10:90〜60:40である。上記範囲の比率で追加の媒体を添加することで、例えば10μm以下のような微視的レベルでのセルロース繊維間の強固な凝集は抑制しつつ、10μm超から1000μm以下のようなレベルでの造粒は促進できるため、造粒工程の良好な進行と、得られた乾燥粉末の良好な再分散性との両立が可能になる。追加の媒体が、水との共沸混合物を形成する物質である場合には、当該追加の媒体を、水との共沸組成比(すなわち、水と共沸混合物を形成し得る、追加の媒体の最低割合)よりも高い割合でスラリーに添加することが好ましい。
別の好ましい態様においては、追加の媒体を2回以上の回数でスラリーに添加する。造粒工程において追加の媒体の添加と乾燥とを繰り返すことで、水分と追加の媒体との置換が進み、バインダー等の添加物が均一にセルロース繊維と混合されて、得られた乾燥粉末の良好な再分散性とバインダーの機能の両立が可能になる。
別の態様において、造粒工程は、減圧乾燥を続けながら、追加の媒体を一定の単位時間当たり流量で添加する段階を含むことが、追加の媒体の使用量の削減、乾燥時間削減の観点から好ましい。当該段階では、スラリー中の総液体量(すなわち、水と追加の媒体との総量)が一定に維持されるように、追加の媒体を一定の単位時間当たり流量で添加することが特に好ましい。なお、追加の媒体の種類によっては、スラリー中の総液体量を増加させ、又は減少させても良い。このような段階の後、総液体量を減少させるように減圧乾燥を更に行って目的の乾燥粉体を得ることができる。
造粒工程において、ある任意の水:追加の媒体比のスラリーを形成する場合、追加の媒体を一度に全量投入するよりも、水を揮発させながら追加の媒体を添加すると、追加の媒体の総添加量を少なくできるため、プロセス上好ましい。また、造粒しながら追加の媒体を添加できるため、水と追加の媒体との置換が進みやすい他、再分散性が良好な粉体になりやすい。
追加の液体は、例えば、液滴状、霧状等で添加してよい。
造粒工程におけるスラリーの水分率は加熱乾燥式水分率計又はカールフィッシャ―水分計で計測できる。又、追加の媒体を添加した後のスラリー中の水と追加の媒体との質量比率は、例えば、
i)スラリー中の水分率をカールフィッシャ―水分計で計測すると共に、スラリー中の揮発成分(水及び追加の媒体)の液体率を加熱乾燥式水分率計で計測し、算出する方法
ii)スラリー中の追加の媒体を、当該追加の媒体を溶解できる異なる溶媒で抽出し、追加の媒体の含有率をガスクロマトグラフィで測定するとともに、スラリー中の揮発成分(水及び追加の媒体)の総液体率を加熱乾燥式水分率計で計測し、算出する方法
iii)スラリー中の水及び追加の媒体を重溶媒で抽出し、溶液NMRで算出する方法等が挙げられる。
また、スラリー調製工程で調製されるスラリー中の液体媒体が水を含まない態様において、造粒工程で追加の媒体を添加してもよい。追加の媒体としては、一般的に用いられる水混和性有機溶媒、例えば:沸点が50℃〜170℃のアルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等)や疎水性有機溶媒、例えば芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等);脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等);ハロゲン化炭化水素(テトラクロロメタン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロエタン等)等からなる群から選択される1種以上を用いてよい。追加の媒体の好ましい添加様式としては、造粒開始前又は開始後に、一度に又は複数回に分けて添加してよい。追加の媒体は、例えば、造粒中に減圧乾燥しながら液滴状、霧状等で添加してよい。
一態様において、セルロース繊維の乾燥粉体の平均粒径は、好ましくは、1μm以上、又は10μm以上、又は50μm以上、又は100μm以上、又は200μm以上、又は500μm以上であり、好ましくは5000μm以下、又は4000μm以下、又は3000μm以下、又は2000μm以下である。上記平均粒径はレーザー回折・散乱法、又は、乾式分篩法で測定される値である。
一態様において、セルロース繊維の乾燥粉体の嵩密度は、乾燥粉体の製造容易性及び運搬効率の観点から、0.05g/mL以上、又は0.06g/mL以上、又は0.07g/mL以上、又は0.08g/mL以上、又は0.09g/mL以上、又は0.10g/mL以上であり、乾燥粉末の再分散性が良好である点で、1.0g/mL以下、又は0.9g/mL以下、又は0.8g/mL以下、又は0.7g/mL以下、又は0.6g/mL以下である。
本開示の嵩密度は、ゆるみ嵩密度測定方法で測定される値である。
<化学修飾>
一態様においては、セルロース繊維として、化学修飾されたセルロース繊維を用いる。セルロース繊維は、例えば原料パルプ又はリンターの段階、解繊処理中、又は解繊処理後に予め化学修飾されたものであっても良いし、スラリー調製工程中、造粒工程中、又は造粒工程後に化学修飾されてもよい。好ましい態様において、化学修飾は、疎水性置換基による化学修飾である。
セルロースの修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステル、カルボン酸が好ましい。
酸ハロゲン化物は、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1−C(=O)−X (1)
(式中、R1は炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数3〜24のシクロアルキル基、又は炭素数6〜24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;安息香酸、4−メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(1):
R−COO−CH=CH2 …式(1)
{式中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数3〜16のシクロアルキル基、又は炭素数6〜24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1〜3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
1〜3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、トリス(3−ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
イミダゾール及びその誘導体としては、1−メチルイミダゾール、3−アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
ピリジン及びその誘導体としては、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド等が挙げられる。
カルボン酸としては、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R−COOH …(1)
(式中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数3〜16のシクロアルキル基、又は炭素数6〜16のアリール基を表す。)
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ピバリン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニル、酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
セルロース繊維が疎水化(例えばアシル化等の化学修飾によって)されている場合、乾燥粉体の再分散性は良好である傾向があるが、本開示の方法で得られるセルロース繊維の乾燥粉体は、非置換又は低置換度であっても良好な再分散性を示すことができる点で有利である。したがって、一態様において、セルロース繊維の乾燥粉体の平均置換度(DS)(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数)は、0.5以下、又は0.3以下、又は0であることができる。一方、平均置換度(DS)は、セルロース繊維の使用目的に応じて、0.2以上、又は0.4以上、又は0.6以上であってもよい。
化学修飾セルロース繊維の修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化セルロース繊維の反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC−Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図1参照)。エステル化セルロース繊維のDSは、後述するエステル化セルロース繊維の固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C−Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
固体NMRによるエステル化セルロース繊維のDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロース繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1−C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、−CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
化学修飾セルロース繊維の繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂との複合化時の樹脂との親和性の向上、及び樹脂組成物の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2.0以上であり、化学修飾セルロース繊維の製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
DSsの値は、エステル化セルロースの修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
化学修飾セルロース繊維のDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾セルロース繊維を得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾セルロース繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。 DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2−C6帰属されるピーク(289eV、C−C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO−C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
<バインダーの添加>
一態様においては、スラリー調製工程及び/又は造粒工程において、バインダーをスラリーに添加することができる。バインダーは、複合体中でのセルロース繊維と樹脂との親和性向上に寄与する。バインダーとしては、親水性基(例えば、水酸基、アミノ基等)を有するポリマー(例えば、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、多糖類(例えば、セルロース誘導体、デンプン、アルギン酸及びその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、グアーガム、ジェランガム、ゼラチン等)、ポリビニルアルコール等)、親水性基を有するモノマー(例えば、プロピレングリコール、N−ビニルアセトアミド等)が挙げられる。
ポリアルキレンオキシドのアルキレンオキシド単位としては、炭素数2〜4のアルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを例示できる。好ましい態様において、ポリアルキレンオキシドは、エチレンオキシド単位及び/又はプロピレンオキシド単位で構成される。特に好ましいポリアルキレンオキシドはポリエチレンオキシドである。
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)を例示できる。
バインダーの重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは5000以上、更に好ましくは10000以上であり、好ましくは5×108以下、より好ましくは1×108以下、更に好ましくは5×107以下である。
一態様において、バインダーは界面活性剤である。界面活性剤は、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有する。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロース繊維の良好な分散性を得る点で、非イオン系界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の親水基としては、セルロース繊維との親和性の点で、ポリオキシエチレン鎖、カルボキシル基、及び水酸基が好ましく、ポリオキシエチレン鎖が特に好ましい。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、1以上、又は4以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほど疎水性のセルロース繊維に対しては親和性が高まるが、樹脂複合体の特性(例えば機械特性等)とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
界面活性剤の疎水基の構造としては、樹脂との親和性が高い点で、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型が好ましい。疎水基のアルキル鎖の炭素数(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、界面活性剤の炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まる。上記炭素数は、例えば30以下、又は25以下であってよい。
好ましい態様において、バインダーは、ポリアルキレンオキシド及びセルロース誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物であり、特に好ましくは、ポリアルキレンオキシド、セルロースエーテル、及びセルロースエステルからなる群から選択される1種以上の化合物である。
バインダーは、スラリー調製工程及び/又は造粒工程において、均一性よく混合することが容易になる観点から、媒体に溶解されてスラリーに添加されることが好ましい。用いる媒体は、水、及び本開示で追加の媒体として例示したものから選択できる。バインダーをスラリー調製工程で添加する場合には、スラリー調製工程で使用される媒体と同組成であることが好ましく、バインダーを造粒工程で添加する場合には、造粒工程で使用される媒体と同組成であることが好ましい。
バインダーの量は、セルロース繊維100質量部に対して、好ましくは、5質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上、又は30質量部以上、又は40質量部以上であってよく、好ましくは、100質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下であってよい。
本開示の方法で製造される、分散媒中への再分散性が良好な乾燥粉体は、例えばセルロース繊維と樹脂との複合化の際にも樹脂中に良好に分散できるため、セルロース繊維と樹脂とを含む樹脂複合体の物性向上効果に優れる。また一態様において、本開示のセルロース繊維の乾燥粉体は、チョッパ粉砕を経ていることで、粉体表面に繊維の毛羽が残り易い。このような粉体表面の疎な構造は、再分散時に分散媒の粉体内への浸入を促進でき、再分散性の向上に寄与する。
一態様において、乾燥粉体を、スラリー調製工程で製造したスラリーと同種同量の液体媒体中に分散してなる再分散液を調製したときに、当該再分散液のシェアレート100s-1における粘度は、スラリー調製工程で得たスラリーのシェアレート100s-1における前述の粘度の30%以上である。上記比率は、セルロース繊維の乾燥前の分散性が再分散後にどの程度再現できるか(すなわち再分散性)を示す指標である。上記比率は、好ましくは、40%以上、又は50%以上、又は60%以上である。上記比率は高い程好ましく、最も好ましくは100%であるが、セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、90%以下、又は80%以下であってもよい。
再分散液のシェアレート100s-1における粘度は、セルロース繊維が高度に分散している点で、好ましくは、6mPa・s以上、又は7.5mPa・s以上、又は9mPa・s以上であってよく、再分散液を例えば樹脂複合体の製造に好適に使用できる点で、好ましくは、13.5mPa・s以下、又は12mPa・s以下であってよい。
≪樹脂複合体の製造方法≫
本発明の一態様は、セルロース繊維と樹脂とを含む樹脂複合体の製造方法を提供する。該方法は、前述のような方法でセルロース繊維の乾燥粉体を調製すること、及び該乾燥粉体と樹脂とを混合することを含む。
<樹脂>
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂を用いることができる。樹脂はエラストマーであってもよい。成形性及び生産性の観点から、熱可塑性樹脂がより好ましい。
(熱可塑性樹脂)
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の当該熱可塑性樹脂の融点は、樹脂複合体の用途等に応じて適宜選択してよい。熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃〜190℃、又は160℃〜180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃〜350℃、又は230℃〜320℃、を例示できる。
熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα−オレフィン類)及び/又はアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレンとα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、樹脂複合体の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、樹脂複合体の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
また、セルロース繊維との親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸変性に用いる酸としては、モノ又はポリカルボン酸を使用でき、例えば、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、並びにクエン酸等を例示できる。変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物が特に好ましい。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下でポリオレフィン系樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂をすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが特に好適である。酸変性されたポリプロピレン系樹脂は、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレン系樹脂に対する酸変性されたポリプロピレン系樹脂の割合は、好ましくは0.5質量%〜50質量%である。より好ましい下限は、1質量%、又は2質量%、又は3質量%、又は4質量%、又は5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%、又は40質量%、又は35質量%、又は30質量%、又は20質量%である。樹脂とセルロース繊維との界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
酸変性されたポリプロピレン系樹脂の、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は、樹脂とセルロース繊維との界面における親和性を高める観点から、好ましくは、50g/10分以上、又は100g/10分以上、又は150g/10分以上、又は200g/10分以上である。上限は特に限定されないが、機械的強度の維持から、好ましくは500g/10分である。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては:ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド(例えばポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等);ジアミン類(例えば1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミン等)とジカルボン酸類(例えばブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等)との共重合体として得られるポリアミド(例えばポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等);及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体(例えばポリアミド6,T/6,I等)、が挙げられる。
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド、及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミドがより好ましい。
樹脂複合体の耐熱性を良好にする観点から、ポリアミド系樹脂の融点は、好ましくは220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上であり、樹脂複合体の製造容易性の観点から、上記融点は、好ましくは、350℃以下、又は320℃以下、又は300℃以下である。
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度に特に制限はないが、好ましくは、20μモル/g以上、又は30μモル/g以上であり、好ましくは、150μモル/g以下、又は100μモル/g以下、又は80μモル/g以下である。
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、セルロース繊維の樹脂複合体中での分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂複合体の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
ポリアミド系樹脂の末端基濃度は、公知の方法で調整できる。調整方法としては、ポリアミドの重合時に、所定の末端基濃度となるように末端基と反応する末端調整剤(例えば、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等)を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
ポリアミド系樹脂のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めることができる。この方法は、精度及び簡便さの点で好ましい。より具体的には、特開平7−228775号公報に記載された方法を用い、測定溶媒として重トリフルオロ酢酸を用い、積算回数を300スキャン以上とすることが推奨される。
ポリアミド系樹脂の、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]は、樹脂複合体を例えば射出成形する際に、金型内流動性が良好で成形片の外観が良好であるという観点から、好ましくは、0.6〜2.0dL/g、又は0.7〜1.4dL/g、又は0.7〜1.2dL/g、又は0.7〜1.0dL/gである。本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。固有粘度は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法で求められる。このゼロに外挿された値が固有粘度である。上記方法の詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice−Hall,Inc 1994)の291ページ〜294ページ等に記載されている。上記の濃度の異なるいくつかの測定溶媒における濃度は、少なくとも4点(例えば、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dL)とすることが精度の観点から望ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアリレート(PAR)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、PET、PBS、PBSA、PBT及びPENがより好ましく、PBS、PBSA、及びPBTが特に好ましい。
ポリエステル系樹脂の末端基は、重合時のモノマー比率、末端安定化剤の添加の有無及び量、等によって任意に変えることができる。ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、樹脂複合体中のセルロース繊維の分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂複合体の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂としては、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3−ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましい。コモノマー成分(例えば1,3−ジオキソラン)由来構造の量は、押出加工及び成形加工時の熱安定性の観点から、好ましくは、0.01モル%以上、又は0.05モル%以上、又は0.1モル%以上、又は0.2モル%以上であり、機械的強度の観点から、好ましくは、4モル%以下、又は3.5モル%以下、又は3.0モル%以下、又は2.5モル%以下、又は2.3モル%以下である。
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂、エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル−1,3−ジグリシジルエーテル、ビフェニル−4,4’−ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコール又はプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、フェノキシ樹脂、尿素(ユリア)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環含有樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、ノルボルネン系樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアゾメチン樹脂、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
(光硬化性樹脂)
光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリレート樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、反応機構により、概ね光により発生したラジカルによりモノマーが反応するラジカル反応型と、モノマーがカチオン重合するカチオン反応型とに分類される。ラジカル反応型のモノマーには、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物(例えばある種のビニルエーテル)等が該当する。カチオン反応型としては、エポキシ化合物、ある種のビニルエーテル等が該当する。なお、例えば、カチオン反応型として用いることができるエポキシ化合物は、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の両者のモノマーとなり得る。
(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート基を分子内に一つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレート化合物としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
ビニル化合物としては、ビニルエーテル、スチレン及びスチレン誘導体等が挙げられる。ビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。その他のビニル化合物としては、トリアリルイソイシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
光硬化性樹脂の原料として、いわゆる反応性オリゴマーを用いてもよい。反応性オリゴマーとしては、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、ウレタン結合、及びエステル結合から選ばれる任意の組合せを同一分子内に併せ持つオリゴマー、例えば、(メタ)アクリレート基とウレタン結合とを同一分子内に併せ持つウレタンアクリレート、(メタ)アクリレート基とエステル結合とを同一分子内に併せ持つポリエステルアクリレート、エポキシ樹脂から誘導され、エポキシ基と(メタ)アクリレート基とを同一分子内に併せ持つエポキシアクリレート、等が挙げられる。
(エラストマー)
エラストマー(すなわちゴム)としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、改質天然ゴム(エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等)、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、セルロース繊維(本開示の乾燥粉体、又はこれを分散媒中に分散させてなる再分散液の形態であってよい)を熱可塑性樹脂と溶融混練して樹脂複合体を製造できる。樹脂複合体のより具体的な製造方法としては、
−樹脂モノマーとセルロース繊維とを混合し、重合反応を行い、得られた樹脂複合体をストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
−単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
−単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法、
−単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法、
等が挙げられる。好ましい態様においては、単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る。
樹脂とセルロース繊維の溶融混練方法の具体例としては、樹脂と、所望の比率で搬送されたセルロース繊維とを混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ナイロン66では255〜270℃、ナイロン6では225〜240℃、ポリアセタール樹脂では170℃〜190℃、ポリプロピレンでは160〜180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、セルロース繊維と樹脂とを均一に混合することができる。
樹脂として熱可塑性樹脂を含む樹脂複合体は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
樹脂として熱可塑性樹脂を含む樹脂複合体は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に関しては特に制限はなく、いずれの製造方法でも構わないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法などが使用可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性とコストの観点より、最も好ましい。
樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、例えば、樹脂溶液又は樹脂粉末分散体中にセルロース繊維を十分に分散させて乾燥する方法、樹脂モノマー液中にセルロース繊維を十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、セルロース繊維の乾燥粉体に樹脂溶液又は樹脂粉末分散体を十分に含浸させて乾燥する方法、セルロース繊維の乾燥粉体に樹脂モノマー液を十分に含浸させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法等によって、樹脂複合体を製造できる。硬化に際し、種々の重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤等を配合することができる。
樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、未硬化又は半硬化のプリプレグと呼ばれるシートを作製した後、プリプレグを単層又は積層にして、加圧及び加熱によって樹脂を硬化及び成形する方法を用いてよい。加圧及び加熱の方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が挙げられる。
樹脂が光硬化性樹脂である場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて樹脂成形体を製造できる。
樹脂がエラストマーである場合、セルロース繊維の乾燥粉体と原料ゴムとを乾式で混練する方法、セルロース繊維と原料ゴムとを分散媒中に分散又は溶解させた後、乾燥させて混合する方法等によって、樹脂複合体を製造できる。混合方法としては、高い剪断力と圧力とをかけ、分散を促進できる点で、ホモジナイザーによる混合方法が好ましいが、その他、プロペラ式攪拌装置、ロータリー攪拌装置、電磁攪拌装置、手動による攪拌、等の方法を用いることもできる。エラストマーを含む樹脂複合体を、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等の所望の成形方法を用いて成形し、シート、ペレット、粉末等の所望の形状の未加硫の成形体を得ることができる。未加硫の成形体を、必要に応じて熱処理等で加硫して、樹脂成形体を得ることができる。
熱可塑性樹脂又はエラストマーを含む樹脂成形体は、その一部(例えば数箇所)を加熱処理して溶融させ、例えば樹脂又は金属の基板に接着して用いても構わない。また、樹脂成形体は、樹脂又は金属の基板に塗布された塗膜であってもよく、基板との積層体を形成してもよい。また、シート状、フィルム状又は繊維状の樹脂成形体には、アニール処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理、シボ転写、切削、表面研磨等の二次加工を行っても構わない。
樹脂複合体において、樹脂100質量部に対するセルロース繊維の量は、加工性と機械的特性のバランスの観点から、好ましくは、0.001質量部以上、又は0.01質量部以上、又は0.1質量部以上、又は1質量部以上であってよく、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下であってよい。
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
≪セルロース繊維のウェットケーキの製造≫
<セルロース繊維1>
ダイセルファインケム株式会社製セリッシュKY−100G(固形分濃度10質量%)をそのまま用いた。
<セルロース繊維2>
コットンリンターパルプを裁断後、水で洗浄して不純物を除去した精製パルプを、固形分率が1.5質量%になるように純水中に加え、叩解処理により高度に短繊維化およびフィブリル化させて解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃で2.5時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃を用いてさらに2時間叩解を実施し、スラリーをろ過濃縮して、得られたセルロース繊維(固形分濃度20質量%)を用いた。
<セルロース繊維3>
NETZSCH Vakumix社製KAPPA VITA(登録商標)ホモミキサー(タンクサイズ35L)に、リンターパルプ1kgとDMSO19kgを仕込み、ホモミキサー回転数6000rpm(周速度29m/s)で8時間解繊した。その後、重曹0.321kgと酢酸ビニル2.1kgを加えて60℃で4時間アセチル化を実施した。アセチル化時、循環ライン中の滞留を防ぐため、ホモミキサーの回転数は、せん断力が立ち上がる手前の2500rpm(周速度12m/s)とした。
反応混合物を水で洗浄後にろ過濃縮して、得られた置換度1.0のアセチル化セルロース繊維(固形分濃度15質量%)を用いた。
≪セルロース繊維の乾燥粉体の製造≫
[実施例1]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS10)
原料:セルロース繊維1(5kg)
条件:ジャケット温度70℃、アジテーター(周速度2m/s)、チョッパ(回転数3500rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで−70kPaまで減圧した。水分率50質量%になるまで減圧乾燥を行った段階でt−ブタノール(1kg)を添加し、品温が60℃に達し、水分率が5質量%未満になるまで減圧乾燥を実施した。
[実施例2]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS10)
原料:セルロース繊維1(5kg)+三洋化成工業株式会社製サンニックスGL−3000(214g)
条件:ジャケット温度70℃、アジテーター(周速度1m/s)、チョッパ(回転数3500rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで−70kPaまで減圧し、品温が60℃に達するまで減圧乾燥を実施した。
[実施例3]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:中央機工(株)製レーディゲミキサー(型番:M20)
原料:セルロース繊維1(5kg)+三洋化成工業株式会社製サンニックスGL−3000(214g)
条件:ジャケット温度100℃、アジテーター(周速度4m/s)、チョッパ(回転数5000rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで−90kPaまで減圧し、品温が90℃に達するまで減圧乾燥を実施した。
[実施例4]
セルロース繊維1の代わりにセルロース繊維2(2.5kg)を用いた他は、実施例2と同様に減圧乾燥を実施した。
[実施例5]
セルロース繊維1の代わりにセルロース繊維3(3.3kg)を用いた他は、実施例1と同様に減圧乾燥を実施した。
[実施例6]
セルロース繊維1の代わりにセルロース繊維3(3.3kg)を用いた他は、実施例2と同様に減圧乾燥を実施した。
[実施例7]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS10)
原料:セルロース繊維3(3.3kg)+Eastman Chemical Company製CAB381−20(214g)の5質量%アセトン溶液
条件:ジャケット温度70℃、アジテーター(周速度1m/s)、チョッパ(3500rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで−70kPaまで減圧した。水分率50質量%になるまで減圧乾燥を行った段階でアセトン(1kg)を添加し、品温が60℃に達し、残溶媒分率が3質量%未満になるまで減圧乾燥を実施した。
[実施例8]
アジテーターの周速度を15m/sとした他は、実施例2と同様に減圧乾燥した。
[実施例9]
アジテーター撹拌の周速度を0.5m/sとした他は、実施例2と同様に減圧乾燥した。
[実施例10]
アジテーターの周速度を1m/sとし、チョッパの回転数を6000rpmとした他は、実施例3と同様に減圧乾燥した。
[実施例11]
チョッパの回転数を200rpmとした他は、実施例2と同様に減圧乾燥した。
[実施例12]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS10)
原料:セルロース繊維3(3.3kg)
条件:ジャケット温度70℃、アジテーター(周速度2m/s)、チョッパ(3500rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで−70kPaまで減圧した。水分率50質量%になるまで減圧乾燥を行った段階で1回目の追加媒体としてt−ブタノール(1kg)を添加して、さらに減圧乾燥を継続した。水分率20質量%になるまで減圧乾燥を行った段階で2回目の追加媒体としてt−ブタノール(1kg)を添加して、品温が60℃に達し、残溶媒分率が3質量%未満になるまで減圧乾燥を実施した。
[実施例13]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS10)
原料:セルロース繊維3(3.3kg)
条件:ジャケット温度70℃、アジテーター(周速度2m/s)、チョッパ(3500rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで−70kPaまで減圧した。水分率50質量%になるまで減圧乾燥を行った段階で1回目の追加媒体として1−メトキシー2−プロパノール(1kg)を添加して、さらに減圧乾燥を継続した。水分率10質量%になるまで減圧乾燥を行った段階で2回目の追加媒体としてt−ブタノール(1kg)を添加して、品温が60℃に達し、残溶媒分率が3質量%未満になるまで減圧乾燥を実施した。
[実施例14]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:(株)アーステクニカ製ハイスピードミキサー(型番:FS10)
原料:セルロース繊維3(3.3kg)
条件:ジャケット温度100℃、アジテーター(周速度2m/s)、チョッパ(3500rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで−70kPaまで減圧した。水分率75質量%になるまで減圧乾燥を行った段階で追加媒体としてi−ブタノール 2.0kgの滴下を30分かけて実施した。この間、減圧乾燥は継続しており、滴下終了時の総液体率(加熱乾燥式水分率計で測定した水及びi−ブタノール両方を合計した液体率)は72質量%であった。また、ガスクロマトグラフィーを用いて滴下終了時の水:i−ブタノールの質量比率を算出すると67:33であった。滴下終了後も減圧乾燥を継続し、最終的に品温が70℃に達し、かつ、残溶媒分率が3質量%未満になるまで実施した。
[実施例15]
i−ブタノール滴下量を3.0kg、滴下時間を45分とした以外は実施例14と同様に減圧乾燥を実施した。なお、滴下終了時の総液体率は74質量%であり、水:i−ブタノールの質量比率は31:69であった。
[実施例16]
i−ブタノール滴下量を4.0kg、滴下時間を60分とした以外は実施例14と同様に減圧乾燥を実施した。なお、滴下終了時の総液体率は73質量%であり、水:i−ブタノールの質量比率は4:96であった。
[実施例17]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:日本コークス工業(株)製ヘンシェルミキサー(型番:FM20)
原料:セルロース繊維1(5kg)
条件:ジャケット温度70℃、アジテーター(周速度8m/s)、チョッパ(周速度8m/s)で撹拌しながら、真空ポンプで−70kPaまで減圧した。水分率50質量%になるまで減圧乾燥を行った段階でt−ブタノール(1kg)を添加し、品温が60℃に達し、水分率が5質量%未満になるまで減圧乾燥を実施した。
[比較例1]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:プライミクス(株)製ハイビスミックス(型番:2P−1)
原料:セルロース繊維1(0.3kg)+三洋化成工業株式会社製サンニックスGL−3000(13g)
条件:ジャケット温度70℃、2枚のブレード(50rpm遊星回転)で撹拌しながら、真空ポンプで−95kPaまで減圧し、残存水分率が5質量%未満に達するまで減圧乾燥を実施した。
[比較例2]
アジテーターを停止してチョッパ撹拌のみを行った他は、実施例1と同様に減圧乾燥した。セルロース繊維の大部分がチョッパに接することなく乾燥され、後述の方法での再分散と粘度測定が困難であった。
[比較例3]
上記で調製したセルロース繊維ウェットケーキを用い、下記手順で乾燥粉体を製造した。
装置:エスペック(株)製恒温機(型番:SPH−201)
原料:セルロース繊維1(0.3kg)
条件:温度105℃、無撹拌、常圧で加熱し、残存水分率が5質量%未満に達するまで乾燥を実施した。
セルロース繊維が凝集して乾燥され、後述の方法での再分散と粘度測定が困難であった。
≪樹脂複合体の製造≫
上記で製造したセルロース繊維の乾燥粉体と、熱可塑性樹脂(宇部興産株式会社製 UBEナイロン 1013B)とを、セルロース繊維が樹脂複合体中の10質量%となる割合で配合し、下記手順で樹脂複合体を製造した。
小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、260℃、200rpm(シアレート1570(1/s))で5分間循環混練してトルクを確認した。熱可塑性樹脂中でのセルロース繊維の分散性が優れるほど、溶融粘度が高くなる。続いて、溶融樹脂を付属の射出成形機に直接移送してISO037−3規格のダンベル状試験片を作製し、評価に用いた。
[比較例4]
セルロース繊維の乾燥粉体を用いず、熱可塑性樹脂(宇部興産株式会社製 UBEナイロン 1013B)のみを混練した場合のトルクを観察した。
≪評価≫
<セルロース繊維の評価>
[多孔質シートの作製]
まず、ウェットケーキをt−ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。セルロース繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたt−ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、ろ紙を剥離してシートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
[アシル置換度(DS)]
多孔質シートの5か所のATR−IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR−6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000〜600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(1):
IRインデックス= H1730/H1030・・・(1)
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C−O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式(2)に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス・・・(2)
[DS不均一比(CV)]
上記のATR−IR測定を行った多孔質シートを凍結粉砕し、セルロース繊維の粉末サンプルを作製した。粉末を10枚の2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、それぞれXPS測定を行った。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2−C6に帰属されるピーク(289eV、C−C結合)の面積強度(Ixp)に対するアセチル基のO−C=O結合由来のピーク(286eV)の面積強度(Ixf)より各サンプルのDSsを下記式で求め、その平均をセルロース繊維のDSsとした。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
用いたXPS測定の条件は以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
上記のDS及びDSsに基づき、DS不均一比(CV)を下記式に従って算出した。
DS不均一比(CV)=DSs/DS
[比表面積相当平均繊維径]
比表面積・細孔分布測定装置(Nova−4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)にて、多孔質シート試料約0.2gを真空下で150℃、2時間乾燥を行った後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m2/g)を算出した。そして比表面積より比表面積相当平均繊維径を下記の式より算出し、セルロースの平均繊維径Dとした。
D(nm)=2667/比表面積(m2/g)
[電子顕微鏡画像に基づく平均繊維径]
ウェットケーキをt−ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、Regulus8220)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の短径(D)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN,N−ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN,N−ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N−ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N−ジメチルアセトアミドと固形分を分離し固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N−ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC−8120
カラム:TSKgel SuperAWM−H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N,N−ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
[アルカリ可溶多糖類平均含有率]
アルカリ可溶多糖類含有率はセルロース繊維について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をセルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。
[酸不溶成分平均含有率]
酸不溶成分の定量は、セルロース繊維について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92〜97頁、2000年)に記載のクラーソン法で行った。絶乾させたセルロース繊維を精秤し、所定の容器に入れて72質量%濃硫酸を加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押した後、オートクレーブしてセルロース及びヘミセルロースを酸溶液中に溶解させた。放冷後に内容物をガラスファイバーろ紙で濾過し、酸不溶成分を残渣として得た。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とした。
[熱分解開始温度(TD)]
多孔質シートの熱分析を以下の測定法にて評価した。
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、30℃になるまで冷却した。つづいて、そのまま30℃から450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温した。
D算出方法:横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた。多孔質シートの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度と2wt%重量減少時の温度とを通る直線を得た。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度を熱分解開始温度(TD)とした。
[1wt%重量減少温度]
1wt%重量減少温度算出方法:前記TD算出時に用いた1wt%重量減少時の温度を1wt%重量減少温度とした。
[250℃重量減少率]
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持した。
250℃重量変化率算出方法:250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求めた。
250℃重量変化率(%):(W1−W0)/W0×100
<セルロース繊維の乾燥粉体の嵩密度>
ステンレス製100mL円筒容器にセルロース繊維の乾燥粉体を溢れる量まで入れ、乾燥粉体をすり切り後、重量を測定して算出した。
<セルロース繊維のスラリー及び再分散液の粘度>
乾燥する前のセルロース繊維、または乾燥粉体を0.5質量%の水分散液になるようにホモジナイザーで分散させて調整した試料液を、サーモフィッシャーサイエンティフィック社レオメーターHAAKE MARSを用いて共軸円筒型の配置にて粘度測定を行った。シェアレート100s-1の粘度を読み取るにあたり、データのばらつきを抑制するため、一定のせん断履歴を与えた後にシェアレート100s-1における粘度を読み取った。具体的には、0.5質量%の試料液を共軸円筒用カップに入れた後、レオメーターを用いて1s-1から100s-1まで100秒かけてせん断速度を上げ、その後、シェアレートを100s-1から1s-1まで100秒かけてせん断速度を減少させ、その後、再度、1s-1から100s-1まで100秒かけてせん断速度を上げ、100s-1に達した時点での粘度を読み取った。
<CNFスラリー及び乾燥粉体の水分率及び総液体率>
加熱乾燥式水分率計(エー・アンド・ディ社製、MX−50)を用いた。スラリー及び乾燥粉体5gをアルミ皿に載せ、150℃で加熱し、水分率を測定した。スラリー中に揮発性の有機溶媒が含まれる場合は水及び有機溶媒の合計として総液体率を測定した。
<CNFスラリーの水:i−ブタノール比率>
CNFスラリーをジメチルホルムアミド(DMF)で0.1質量%に希釈したDMF溶液を調製した後、0.2μmシリンジフィルターで固形物を除去した。得られたDMF溶液をガスクロマトグラフで測定した。得られたクロマトグラムのピーク面積からDMF溶液中のi−ブタノール質量%を、つづいてCNFスラリーの希釈率より各CNFスラリー中のi−ブタノール質量%を算出した。なお、ピーク面積からi−ブタノール質量%を算出するにあたり、濃度の異なるi−ブタノールを含むDMF標準溶液(i−ブタノール濃度は50質量ppm、100質量ppm及び500質量ppm)で検量線を予め作成した。最後に、CNFスラリーの総液体率(水及びi−ブタノール両方の合計)を加熱乾燥式水分率計で測定し、下記式より水:i−ブタノール比率を算出した。
水:i−ブタノール=(総液体率(質量%))−(i−ブタノール質量%):i−ブタノール質量%
ガスクロマトグラフィの測定は以下の条件で実施した。
装置:(株)島津製作所製 GC−2010
カラム:DB−WAX(30m×0.25mm、膜厚0.25μm)
カラム温度:40℃→15℃/minで100℃まで昇温→20℃/minで200℃まで昇温
カラム流量:1.0ml/min
注入口温度:200℃
注入法:スプリット法(1:50)
検出器温度:230℃
注入量:1μl
<樹脂複合体の引張強度及び破断伸度>
得られた試験片について、ISO527−1に準拠し、引張降伏強度及び破断伸度を測定した。降伏に至る前に破断した成形片については、その最大強度を代用した。
Figure 2022001631
Figure 2022001631
本発明によれば、良好な再分散性を示す乾燥粉体として提供され得ることによって、貯蔵、輸送コストに優れるとともに、樹脂複合体に対する物性向上剤として極めて有用なセルロース繊維の乾燥粉体を製造できる。

Claims (24)

  1. セルロース繊維の乾燥粉体を製造する方法であって、
    セルロース繊維及び水を含むスラリーを調製するスラリー調製工程、及び
    前記スラリーを減圧下で撹拌して、前記セルロース繊維の乾燥粉体を形成する造粒工程、
    を含み、
    前記造粒工程が、前記セルロース繊維の粒子を前記撹拌によって形成することと、前記粒子をチョッパ粉砕することとを含む、方法。
  2. 前記スラリーが、前記造粒工程の開始時に水を5質量%以上含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記造粒工程において、水とは異なる液体媒体である追加の媒体をスラリーに添加する、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記造粒工程において、水とは異なる液体媒体である追加の媒体を2回以上の回数でスラリーに添加する、請求項3に記載の方法。
  5. 前記追加の媒体が:沸点50℃〜170℃のアルコール;エーテル;カルボン酸;エステル;ケトン;及び含窒素溶媒からなる群から選択される、請求項3又は4に記載の方法。
  6. 前記追加の媒体が、水と共沸混合物を形成する物質である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記追加の媒体を、水との共沸組成比よりも高い割合でスラリーに添加する、請求項6に記載の方法。
  8. 前記追加の媒体を、スラリー中の水:追加の媒体の質量比率1:99〜90:10の範囲でスラリーに添加する、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. セルロース繊維の乾燥粉体を製造する方法であって、
    セルロース繊維及び液体媒体を含むスラリーを調製するスラリー調製工程、及び
    前記スラリーを減圧下で撹拌して、前記セルロース繊維の乾燥粉体を形成する造粒工程、
    を含み、
    前記造粒工程が、前記セルロース繊維の粒子を前記撹拌によって形成することと、前記粒子をチョッパ粉砕することとを含む、方法。
  10. 前記液体媒体が、沸点50℃〜170℃のアルコール;エーテル;カルボン酸;エステル;ケトン;及び含窒素溶媒からなる群から選択される1種以上である、請求項9に記載の方法。
  11. 前記スラリー調製工程及び/又は前記造粒工程において、バインダーをスラリーに添加する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 前記バインダーが、ポリアルキレンオキシド、セルロースエーテル、及びセルロースエステルからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
  13. 前記スラリー調製工程及び/又は前記造粒工程において、前記バインダーを媒体に溶解してスラリーに添加する、請求項11又は12に記載の方法。
  14. 前記造粒工程を、撹拌羽根、チョッパ羽根及び減圧機構を備える造粒機内で行い、
    前記造粒工程において、前記撹拌羽根を周速度0.5m/sec〜40m/secで回転させることによって前記撹拌を行うとともに前記チョッパ羽根を100rpm〜6000rpmで回転させることによって前記チョッパ粉砕を行い、
    前記造粒機は、前記チョッパ粉砕された粒子が前記撹拌に更に供されるように構成されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 前記造粒工程を、撹拌羽根、チョッパ羽根及び減圧機構を備える造粒機内で行い、
    前記造粒工程において、前記撹拌羽根を周速度0.5m/sec〜40m/secで回転させることによって前記撹拌を行うとともに前記チョッパ羽根を周速度0.5m/sec〜40m/secで回転させることによって前記チョッパ粉砕を行い、
    前記造粒機は、前記チョッパ粉砕された粒子が前記撹拌に更に供されるように構成されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 前記チョッパ羽根の周速度が前記撹拌羽根の周速度以下である、請求項15に記載の方法。
  17. 前記造粒工程を、温度20〜160℃、及び減圧度−100kPa〜−1kPaで行う、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
  18. 前記乾燥粉体の嵩密度が、0.05g/mL〜1.0g/mLである、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
  19. コットンリンター由来のセルロース繊維を用いる、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
  20. 化学修飾されたセルロース繊維を用いる、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
  21. 疎水性置換基で化学修飾されているセルロース繊維を用いる、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
  22. 前記セルロース繊維の数平均繊維径が10nm以上1000nm以下である、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
  23. セルロース繊維と樹脂とを含む複合体の製造方法であって、前記方法が、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法で乾燥粉体を調製すること、及び前記乾燥粉体と前記樹脂とを混合すること、を含む、方法。
  24. 前記樹脂が熱可塑性樹脂であり、
    前記乾燥粉体と前記樹脂とを溶融混練によって混合する、請求項23に記載の方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2023214638A1 (ko) * 2022-05-06 2023-11-09 주식회사 모빅신소재기술 생분해성 플라스틱의 기계적 특성 강화를 위해 cnf와 생분해성 고분자를 혼합한 복합체의 제조 방법

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