[ピストン温度推定装置1の概要]
図1は、本実施形態に係るピストン温度推定装置1の構成を示す図である。ピストン温度推定装置1は、車両Vに搭載される内燃機関であるエンジンEが備えるピストンの温度を推定するコンピュータである。車両Vは、例えば、バスやトラック等の大型の車両である。ピストン温度推定装置1は、車両Vに搭載されており、車両Vに設けられている各種センサからエンジンEの状態を示すエンジン状態情報を取得する。ピストン温度推定装置1は、当該エンジン状態情報に基づいて、ピストンの温度を推定する。
ここで、エンジンEは、ディーゼルエンジンである。また、車両Vは、エンジンEの排気を吸気側に戻し、吸気と混合させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムを実装しているものとする。また、ピストンの温度は、ピストンの表面温度であるものとする。また、本実施形態では、各種センサからエンジンEの状態を示すエンジン状態情報を取得したが、これに限らない。ピストン温度推定装置1は、エンジンEの状態を算出したり、推定したりすることによってエンジン状態情報を取得してもよい。
図1に示すように、ピストン温度推定装置1は、記憶部2と制御部3とを備える。
記憶部2は、例えば、ハードディスクやメモリである。記憶部2は、制御部3が推定したピストン温度を記憶する。
制御部3は、例えば、ECU(Engine Control Unit)である。制御部3は、吸気温度選択部4と、ピストン温度推定部5と、ピストン温度補正部6とを備え、ピストン温度を推定する。
吸気温度選択部4は、ピストン温度の推定に適した位置において測定された温度を、ピストン温度推定部5に出力する吸気温度として選択する。これにより、ピストン温度推定部5は、吸気温度に基づいてピストン温度を精度良く推定することができる。吸気温度選択部4の詳細については後述する。
ピストン温度推定部5は、エンジン状態情報に含まれるエンジン回転数と、燃料の噴射量とに基づいて、ピストン温度を推定する。ここで、推定されるピストン温度は、ピストン温度の瞬時値であるものとする。ピストン温度推定部5は、エンジン状態情報と、推定されたピストン温度とに基づいて、ピストン温度の補正値を算出する。エンジンEの状態は、例えば、エンジンEが備える燃焼室への燃料の噴射量である燃料噴射量や、エンジンEが備えるクランクの単位時間当たりの回転数であり、回転速度に対応するエンジン回転数や、吸気温度である。ピストン温度推定部5は、算出した補正値に基づいて、推定されたピストン温度を補正する。このようにすることで、ピストン温度推定部5は、エンジンEの状態を示すエンジン状態情報に基づいて、精度良くピストン温度を推定することができる。ピストン温度推定部5の詳細については後述する。以下、ピストン温度推定部5によって補正されたピストン温度を、第1補正ピストン温度ともいう。
ピストンの実際の温度が、ピストン温度推定部5が算出した第1補正ピストン温度に変化するまでには時間がかかる。そこで、ピストン温度補正部6は、エンジンEの状態に対応する時定数を選択し、当該時定数に基づいて、ピストン温度推定部5が推定した第1補正ピストン温度を補正する。これにより、ピストン温度補正部6は、ピストンの実際の温度変化を反映して、第1補正ピストン温度をさらに補正することができる。
続いて、吸気温度選択部4、ピストン温度推定部5、及びピストン温度補正部6の詳細について説明する。まず、吸気温度選択部4の詳細を説明する。
[吸気温度選択部4の詳細]
図2は、本実施形態に係る吸気温度選択部4の構成の一例を示す図である。吸気温度選択部4は、選択部41と、取得部42とを備える。
選択部41は、エンジンEの異なる場所に複数備えられた、エンジンEが吸入した吸気の温度を計測する温度測定センサのうち、予め定められた1つの温度測定センサを選択する。
記憶部2には、温度測定センサを選択するパラメータとして0、1、2のいずれかが記憶されている。パラメータ0は、第1温度測定センサに対応するパラメータである。パラメータ1は、第2温度測定センサに対応するパラメータである。パラメータ2は、第3温度測定センサに対応するパラメータである。
エンジンEは、第1温度測定センサ、第2温度測定センサ、及び第3温度測定センサを有する。第1温度測定センサは、吸気を冷却するインタークーラーの出口に設けられた温度測定センサである。第2温度測定センサは、エンジンEが備えるシリンダーに吸気を分配するインテークマニホールドの出口に設けられた温度測定センサである。第3温度測定センサは、内燃機関に吸入される空気を圧縮するコンプレッサーよりも上流に設けられた温度測定センサである。
選択部41は、記憶部2に記憶されているパラメータに基づいて、第1温度測定センサ、第2温度測定センサ、及び第3温度測定センサのいずれかを、エンジンEが吸入した吸気の温度を計測する温度測定センサとして選択する。
取得部42は、エンジンEの吸気温度を示す情報を取得する。具体的には、取得部42は、選択部41が選択した温度測定センサが測定した温度を示す情報を、吸気温度を示す情報として取得する。例えば、取得部42は、選択部41が第1温度測定センサを選択した場合、吸気を冷却するインタークーラーの出口を通過する空気の温度を示す情報を、吸気温度を示す情報として取得する。
また、例えば、取得部42は、選択部41が第2温度測定センサを選択した場合、エンジンEを構成するシリンダーに吸気を分配するインテークマニホールドの出口を通過する空気の温度を示す情報を、吸気温度を示す情報として取得する。また、例えば、取得部42は、選択部41が第3温度測定センサを選択した場合、エンジンEに吸入される空気を圧縮するコンプレッサーよりも上流の空気の温度を示す情報を、吸気温度を示す情報として取得する。
ここで、予め定められた一の温度測定センサが故障等により吸気温度を測定することができなくなると、ピストン温度を推定することができなくなる。そこで、選択部41は、複数の温度測定センサのうち、正常に動作している1つの温度測定センサを選択するようにしてもよい。
図3は、本実施形態に係る吸気温度選択部4の構成の他の一例を示す図である。図3に示すように、選択部41は、第1温度測定センサの動作状態、第2温度測定センサの動作状態、及び第3温度測定センサの動作状態のうち、所定の順序に基づいて、正常に動作している1つの温度測定センサを選択する。所定の順序は、ピストン温度を推定する精度に基づいて定められる。
第1温度測定センサは、インタークーラーとエンジンEとの間に設けられているので、第1温度測定センサで測定される温度は、吸気がコンプレッサー作動点、及びインタークーラーで冷却された後の温度である。したがって、第1温度測定センサで測定される温度は、エンジンEに流入する吸気の温度に近い。
ただし、インタークーラーとエンジンEとの間において、インタークーラーから放出された吸気にはEGRガスが混合される。したがって、EGRガスが有する熱の影響により、第1温度測定センサで測定される温度と、ピストンに流入する吸気の温度との間に差が生じる。しかし、当該温度差は、後述する補正値算出部53が備える吸入空気量補正計算部57により算出される吸入空気量の補正値に基づいて補正することができる。したがって、第1温度測定センサで測定される温度が、ピストン温度を推定するために用いる吸気温度として最も適している。
第2温度測定センサは、インテークマニホールドとエンジンEとの間に設けられているので、第2温度測定センサで測定される温度は、インタークーラーで冷却された吸気と、EGRクーラーで冷却されたEGRガスとを混合した空気の温度である。したがって、第2温度測定センサで測定される温度は、エンジンEに流入する吸気の温度である。
ただし、ピストン温度を推定するために用いる吸気温度として第2温度測定センサで測定される温度を選択した場合、後述する補正値算出部53が備える吸気温度補正計算部56は、第2温度測定センサで測定される温度に基づいて、ピストン温度の補正値を算出する。また、後述する補正値算出部53が備える吸入空気量補正計算部57は、エンジンEに吸入される空気の流量に基づいて、ピストン温度の補正値を算出する。
ここで、EGRによって吸気と混合される排気の流量が増加すると、エンジンEに吸入される空気の量が増加するとともに、第2温度測定センサで測定される温度が上昇する。これによって、ピストン温度が高めに推定される。一方、エンジンEは、EGR流量の増加により酸素濃度が低下するため、燃焼効率が悪くなり、実際のピストン温度は低下することとなる。したがって、ピストン温度を推定するために用いる吸気温度として第2温度測定センサで測定される温度を用いる場合、第1温度測定センサで測定される温度を用いる場合に比べてピストン温度を精度良く推定することができない可能性がある。
第3温度測定センサは、コンプレッサーよりも上流に設けられているので、第3温度測定センサで計測される温度は、外気の温度である。外気の温度は、様々な要素の影響を受けるので、ピストン温度を推定するために用いる吸気温度として第3温度測定センサで測定される温度を用いる場合、第1温度測定センサ及び第2温度測定センサで測定される温度を用いる場合に比べてピストン温度を精度良く推定することができない可能性がある。
以上の優先順位に従って、選択部41は、第1温度測定センサが正常に動作している場合には、第1温度測定センサを選択する。また、選択部41は、第1温度測定センサが正常に動作しておらず、第2温度測定センサが正常に動作している場合には、第2温度測定センサを選択する。また、選択部41は、第1温度測定センサ及び第2温度測定センサが正常に動作しておらず、第3温度測定センサが正常に動作している場合には、第3温度測定センサを選択する。
このようにエンジンEに備えられた複数の温度測定センサに優先順序を予め定めておくことで、吸気温度選択部4は、予め定められた1つの温度測定センサが故障等により吸気温度を測定することができなくなった場合であっても、ピストン温度を推定する精度が高い順に、正常に動作している温度計測センサを選択することができる。
[ピストン温度推定部5の詳細]
続いて、ピストン温度推定部5の詳細について説明する。図4は、本実施形態に係るピストン温度推定部5の構成を示す図である。ピストン温度推定部5は、取得部51と、推定部52と、補正値算出部53と、補正部59とを備える。
取得部51は、外部から各種情報を取得するインターフェースである。取得部51は、各種センサ及び吸気温度選択部4からエンジン状態情報を取得する。具体的には、取得部51は、燃料噴射量を示す燃料噴射量情報と、エンジン回転数を示す回転数情報と、油圧を示す油圧情報と、油温を示す油温情報と、吸気温度を示す吸気温度情報と、吸入空気量を示す吸入空気量情報と、噴射時期を示す噴射時期情報と、吸入空気量検出状態とをエンジン状態情報として取得する。また、取得部51は、インタークーラー温度検出状態を示す情報と、インテークマニホールド出口温度検出状態を示す情報と、吸気出口温度検出状態を示す情報と、油温検出状態を示す情報と、チェックバルブ開閉状態を示す情報と、油圧検出状態を示す情報とをエンジン状態情報として取得する。
油圧は、エンジンEに供給するオイルの圧力である。油温は、エンジンEに供給するオイルの温度である。吸気温度は、エンジンEに供給する空気の吸気温度である。吸入空気量は、エンジンEに供給する空気の吸入量である。噴射時期は、エンジンEに供給する燃料の噴射時期である。
推定部52は、取得部51が取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量及び回転数情報が示すエンジン回転数に基づいて、ピストン温度、油圧、油温、吸気温度、吸入空気量、噴射時期を推定する。具体的には、推定部52は、記憶部2に予め記憶されている、ピストン温度マップ情報と、油圧マップ情報と、油温マップ情報と、吸気温度マップ情報と、吸入空気量マップ情報と、噴射時期マップ情報とに基づいて、ピストン温度、油圧、油温、吸気温度、吸入空気量、噴射時期を推定する。
ピストン温度マップ情報は、燃料噴射量と、エンジン回転数と、ピストン温度とを関連付けた情報である。油圧マップ情報は、燃料噴射量と、エンジン回転数と、油圧とを関連付けた情報である。油温マップ情報は、燃料噴射量と、エンジン回転数と、油温とを関連付けた情報である。吸気温度マップ情報は、燃料噴射量と、エンジン回転数と、吸気温度とを関連付けた情報である。吸入空気量マップ情報は、燃料噴射量と、エンジン回転数と、吸入空気量とを関連付けた情報である。噴射時期マップ情報は、燃料噴射量と、エンジン回転数と、燃料の噴射時期とを関連付けた情報である。
なお、本実施形態では、ピストン温度、油圧、油温、吸気温度、吸入空気量、噴射時期のそれぞれに対応する複数のマップ情報を有することとしたが、これに限らない。例えば、記憶部2は、複数のマップ情報の代わりに、燃料噴射量と、エンジン回転数と、ピストン温度と、油圧と、油温と、吸気温度と、吸入空気量と、噴射時期とを関連付けた1つのマップ情報を記憶してもよい。
推定部52は、記憶部2に記憶されているピストン温度マップ情報を参照し、取得部51が取得した燃料噴射量とエンジン回転数とに関連付けられているピストン温度を特定することにより、ピストン温度を推定する。推定部52は、推定したピストン温度を示す情報を、補正値算出部53及び補正部59に出力する。以下、推定部52が推定したピストン温度を推定ピストン温度ともいう。
同様に、推定部52は、記憶部2に記憶されている油圧マップ情報、油温マップ情報、吸気温度マップ情報、吸入空気量マップ情報、及び噴射時期マップ情報を参照し、取得部51が取得した燃料噴射量とエンジン回転数とに関連付けられている油圧、油温、吸気温度、吸入空気量、噴射時期を特定することにより、油圧、油温、吸気温度、吸入空気量、噴射時期を推定する。推定部52は、推定した油圧、油温、吸気温度、吸入空気量、噴射時期を補正値算出部53に出力する。
補正値算出部53は、エンジン状態情報が示すエンジンEの状態と、推定部52によって推定された推定ピストン温度とに基づいて、推定ピストン温度の補正値を算出する。補正値算出部53は、油圧補正計算部54と、油温補正計算部55と、吸気温度補正計算部56と、吸入空気量補正計算部57と、噴射時期補正計算部58とを備える。以下、油圧補正計算部54、油温補正計算部55、吸気温度補正計算部56、吸入空気量補正計算部57、及び噴射時期補正計算部58の詳細について説明する。
(油圧補正計算部54)
まず、油圧補正計算部54の詳細を説明する。油圧補正計算部54は、推定部52によって推定された油圧と、取得部51が取得した油圧情報が示す油圧との差分と、推定部52によって推定された推定ピストン温度と、エンジン回転数とに基づいて、油圧の差分に伴う推定ピストン温度の補正値である第1補正値を算出する。また、油圧補正計算部54は、取得部51が取得した油圧情報が示す油圧と、油圧検出状態と、チェックバルブ開閉状態とに基づいて、第1補正値を出力するか否かを制御する。
図5は、本実施形態に係る油圧補正計算部54の構成を示す図である。図5に示すように、油圧補正計算部54は、減算器54Aと、乗算器54Bと、乗算器54Cと、除算器54Dと、乗算器54Eと、加算器54Fと、調整器54Gと、スイッチ54Hと、OR回路54Iと、スイッチ54Jとを備える。
減算器54Aは、取得部51が取得した油圧情報が示す油圧から、推定部52が推定した油圧である油圧推定値を減算し、油圧の差分を算出する。
乗算器54Bは、第1油圧補正係数と、推定部52が推定した推定ピストン温度とを乗算する。
乗算器54Cは、減算器54Aから出力される油圧の差分と、第1油圧補正係数と推定ピストン温度との乗算値とを乗算する。
除算器54Dは、乗算器54Cから出力される、油圧の差分と第1油圧補正係数と推定ピストン温度との乗算値をエンジン回転数で除算することによって、第1油圧補正値を算出する。
乗算器54Eは、減算器54Aから出力される油圧の差分と、第2油圧補正係数とを乗算することによって、第2油圧補正値を算出する。
加算器54Fは、除算器54Dから出力される第1油圧補正値と、乗算器54Eから出力される第2油圧補正値とを加算する。これにより、第1補正値が算出される。
油圧補正計算部54は、調整器54G及びスイッチ54Hを備えることにより、油圧が第1油圧閾値を超える場合に第1補正値を出力し、油圧が前記第1油圧閾値以下の場合に第1補正値を出力しないように制御する。また、油圧補正計算部54は、油圧が第1油圧閾値を超えていない状態において、取得部51が新たに取得した油圧情報が示す油圧が第1油圧閾値よりも大きい第2油圧閾値を超えた場合に第1補正値を出力し、取得部51が新たに取得した油圧情報が示す油圧が第2油圧閾値以下の場合に第1補正値を出力しないように制御する。
調整器54Gは、取得部51が取得した油圧情報が示す油圧と、第1油圧閾値と、第1油圧閾値よりも大きい第2油圧閾値とに基づいて、第1補正値を有効にするか否かを判定するための判定値を生成する。具体的には、調整器54Gは、取得部51が取得した油圧情報が示す油圧が、第1油圧閾値以下である場合には、第1補正値を無効にすることを示す判定値0を出力する。また、調整器54Gは、取得部51が取得した油圧情報が示す油圧が、第2油圧閾値以上である場合には、第1補正値を有効にすることを示す判定値1を出力する。
調整器54Gは、油圧が第1油圧閾値と第2油圧閾値との間で変動することにより判定値にチャタリングが生じることを防止するために、以下のように動作する。調整器54Gは、取得部51が取得した油圧情報が示す油圧が第1油圧閾値を超えていない状態において、取得部51が新たに取得した油圧情報が示す油圧が第2油圧閾値未満である間は、判定値を0のままに維持する。また、調整器54Gは、取得部51が新たに取得した油圧情報が示す油圧が第2油圧閾値を超えた場合に、第1補正値を有効にすることを示す判定値1を出力する。
また、調整器54Gは、自身が出力する判定値が1である場合において、取得部51が新たに取得した油圧情報が示す油圧が第1油圧閾値を超えている場合には、継続して判定値1を出力し、第1油圧閾値以下の場合に判定値0を出力する。このようにすることで、調整器54Gは、取得部51が新たに取得した油圧情報が示す油圧が第1油圧閾値と第2油圧閾値との間で変動することによって、判定値にチャタリングが生じることを防止することができる。
スイッチ54Hは、調整器54Gが出力する判定値に基づいて、第1補正値を出力するか否かを切り替える。具体的には、スイッチ54Hは、調整器54Gが出力する判定値が1である場合には、加算器54Fから出力される第1補正値を出力する。スイッチ54Hは、調整器54Gが出力する判定値が0である場合には、0を出力する。すなわち、スイッチ54Hは、調整器54Gが出力する判定値が0である場合には、第1補正値を出力しないように制御する。
OR回路54Iは、ピストンへのオイルの噴射の有無を検出する検出部として機能する。OR回路54Iは、ピストンにオイルを噴射するオイルチェックバルブが閉弁であるか否かを検出することにより、オイルの噴射の有無を検出する。
具体的には、OR回路54Iは、油圧検出状態が示す値と、チェックバルブ開閉状態が示す値との論理積を出力する。ここで、油圧が検出可能な状態である場合には、油圧検出状態が示す値は0であり、油圧が検出できない状態である場合には、油圧検出状態が示す値は1であるものとする。また、チェックバルブが閉弁しており、ジェットが噴射されていない場合には、チェックバルブ開閉状態が示す値は1であり、チェックバルブが開弁しており、ジェットが噴射されている場合には、チェックバルブ開閉状態が示す値は0であるものとする。
スイッチ54Jは、OR回路54Iが出力する値に基づいて、スイッチ54Hが出力する値を出力するか否かを切り替える。具体的には、スイッチ54Jは、OR回路54Iが出力する値が1である場合には、0を出力する。スイッチ54Jは、OR回路54Iが出力する値が0である場合には、スイッチ54Hが出力する値を出力する。これにより、油圧補正計算部54は、推定された油圧と油圧情報が示す油圧との差分と、OR回路54Iにおいて検出されたオイルの噴射の有無とに基づいて、推定ピストン温度の補正値を算出する。
ここで、油圧の差分をdop、第1油圧補正係数をk
op1、第2油圧補正係数をk
op2、推定ピストン温度をT
ps、エンジン回転数をN
eng、第1補正値をdT
ps1とする。スイッチ54H及びスイッチ54Jによって、加算器54Fから出力された第1補正値が出力される場合、第1補正値dT
ps1は、以下の式(1)で表わされる。
(1)式に示すように、油圧補正計算部54は、推定ピストン温度の上昇に応じて補正値が大きくなるように第1補正値を算出する。また、油圧補正計算部54は、エンジン回転数の増加に応じて補正値が小さくなるように第1補正値を算出する。ピストンに設けられているクーリングチャネルでは、ピストンの挙動によってオイルが撹拌される。エンジン回転数が増加すればするほど、クーリングチャネル内のオイルが撹拌され、ピストン温度の上昇に伴う補正量が抑制される。これに対して、油圧補正計算部54は、推定ピストン温度をエンジン回転数で除算することによって、エンジン回転数の増加に対応してピストン温度の上昇に伴う補正量が抑制されるように補正値を算出することができる。
(油温補正計算部55)
続いて、油温補正計算部55の詳細を説明する。油温補正計算部55は、推定部52によって推定された油温と、取得部51が取得した油温情報が示す油温との差分と、推定部52によって推定された推定ピストン温度とに基づいて、油温の差分に伴う推定ピストン温度の補正値である第2補正値を算出する。また、油温補正計算部55は、取得部51が取得した油温検出状態に基づいて、第2補正値を出力するか否かを制御する。
図6は、本実施形態に係る油温補正計算部55の構成を示す図である。図6に示すように、油温補正計算部55は、減算器55Aと、乗算器55Bと、乗算器55Cと、乗算器55Dと、加算器55Eと、乗算器55Fと、乗算器55Gと、乗算器55Hと、加算器55Iと、比較器55Jと、スイッチ55Kと、スイッチ55Lとを備える。
減算器55Aは、取得部51が取得した油温情報が示す油温から、推定部52が推定した油温である油温推定値を減算し、油温の差分を算出する。
乗算器55Bは、第1油温上昇時補正係数と、推定部52が推定した推定ピストン温度とを乗算する。
乗算器55Cは、減算器55Aから出力される油温の差分と、乗算器55Bから出力される第1油温上昇時補正係数と推定ピストン温度との乗算値とを乗算することによって、第1油温上昇時補正値を算出する。
乗算器55Dは、減算器55Aから出力される油温の差分と、第2油温上昇時補正係数とを乗算することによって、第2油温上昇時補正値を算出する。
加算器55Eは、乗算器55Cから出力される第1油温上昇時補正値と、乗算器55Dから出力される第2油温上昇時補正値とを加算することにより、油温上昇時補正値を算出する。
乗算器55Fは、第1油温低下時補正係数と、推定部52が推定した推定ピストン温度とを乗算する。
乗算器55Gは、減算器55Aから出力される油温の差分と、乗算器55Fから出力される第1油温低下時補正係数と推定ピストン温度との乗算値とを乗算することによって、第1油温低下時補正値を算出する。
乗算器55Hは、減算器55Aから出力される油温の差分と、第2油温低下時補正係数とを乗算することによって、第2油温低下時補正値を算出する。
加算器55Iは、乗算器55Gから出力される第1油温低下時補正値と、乗算器55Hから出力される第2油温低下時補正値とを加算することにより、油温低下時補正値を算出する。
比較器55Jは、減算器55Aから出力される油温の差分が0以上であるか否かを判定する。比較器55Jは、油温の差分が0以上である場合に1を出力し、油温の差分が0未満である場合に0を出力する。
スイッチ55Kは、比較器55Jが出力する値に基づいて、油温上昇時補正値を出力するか、油温低下時補正値を出力するかを切り替える。具体的には、スイッチ55Kは、比較器55Jが出力する値が1である場合には、加算器55Eから出力される油温上昇時補正値を出力する。スイッチ55Kは、比較器55Jが出力する値が0である場合には、加算器55Iから出力される油温低下時補正値を出力する。
スイッチ55Lは、油温検出状態が示す値に基づいて、スイッチ55Kが出力する値を出力するか否かを切り替える。ここで、油温が検出可能な状態である場合には、油温検出状態が示す値は0であり、油温が検出できない状態である場合には、油温検出状態が示す値は1であるものとする。具体的には、スイッチ55Lは、油温検出状態が示す値が1である場合には、0を出力する。スイッチ55Lは、油温検出状態が示す値が0である場合には、スイッチ55Kが出力する値、すなわち、油温上昇時補正値又は油温低下時補正値を出力する。
ここで、油温の差分をdot、第1油温上昇時補正係数をkotu1、第2油温上昇時補正係数をkotu2、第1油温低下時補正係数をkotd1、第2油温低下時補正係数をkotd2、推定ピストン温度をTps、第2補正値をdTps2とする。スイッチ55K及びスイッチ55Lによって油温上昇時補正値が第2補正値として出力される場合、第2補正値dTps2は、以下の式(2)で表わされる。また、スイッチ55K及びスイッチ55Lによって油温低下時補正値が第2補正値として出力される場合、第2補正値dTps2は、以下の式(3)で表わされる。
(2)、(3)式に示すように、油温補正計算部55が、推定ピストン温度の上昇に応じて補正値が大きくなるように第2補正値を算出することが確認できる。
(吸気温度補正計算部56)
続いて、吸気温度補正計算部56の詳細を説明する。吸気温度補正計算部56は、推定部52によって推定された吸気温度と、取得部51が取得した吸気温度情報が示す吸気温度との差分と、推定部52によって推定された推定ピストン温度とに基づいて、吸気温度の差分に伴う推定ピストン温度の補正値である第3補正値を算出する。また、吸気温度補正計算部56は、インタークーラー温度検出状態と、インテークマニホールド出口温度検出状態と、吸気出口温度検出状態とに基づいて、第3補正値を出力するか否かを制御する。
図7は、本実施形態に係る吸気温度補正計算部56の構成を示す図である。図7に示すように、吸気温度補正計算部56は、減算器56Aと、乗算器56Bと、乗算器56Cと、乗算器56Dと、加算器56Eと、スイッチ56Fと、スイッチ56Gとを備える。
減算器56Aは、取得部51が取得した吸気温度情報が示す吸気温度から、推定部52が推定した吸気温度である吸気温度推定値を減算することにより、吸気温度の差分を算出する。
乗算器56Bは、第1吸気温度補正係数と、推定部52が推定した推定ピストン温度とを乗算する。
乗算器56Cは、減算器56Aから出力される吸気温度の差分と、乗算器56Bから出力される第1吸気温度補正係数と推定ピストン温度との乗算値とを乗算することによって、第1吸気温度補正値を算出する。
乗算器56Dは、減算器56Aから出力される吸気温度の差分と、第2吸気温度補正係数とを乗算することによって、第2吸気温度補正値を算出する。
加算器56Eは、乗算器56Cから出力される第1吸気温度補正値と、乗算器56Dから出力される第2吸気温度補正値とを加算することにより、吸気温度補正値を算出する。
スイッチ56Fは、吸気温度選択部4の選択部41において設定されている選択値と、インタークーラー温度検出状態と、インテークマニホールド出口温度検出状態と、吸気出口温度検出状態が示す値に基づいて、0又は1を出力する。ここで、インタークーラーの温度が検出可能な状態である場合には、インタークーラー温度検出状態が示す値は0であり、インタークーラーの温度が検出できない状態である場合には、インタークーラー温度検出状態が示す値は1であるものとする。また、インテークマニホールド出口温度の温度が検出可能な状態である場合には、インテークマニホールド出口温度検出状態が示す値は0であり、インテークマニホールド出口温度の温度が検出できない状態である場合には、インテークマニホールド出口温度検出状態が示す値は1であるものとする。また、吸気出口の温度が検出可能な状態である場合には、吸気出口温度検出状態が示す値は0であり、吸気出口の温度が検出できない状態である場合には、吸気出口温度検出状態が示す値は1であるものとする。
スイッチ56Fは、選択値が示す値が0の場合には、インタークーラー温度検出状態が示す値を出力し、選択値が示す値が1の場合には、インテークマニホールド出口温度検出状態が示す値を出力し、選択値が示す値が2の場合には、吸気出口温度検出状態が示す値を出力する。これにより、スイッチ56Fは、吸気温度が検出可能であるか否かを示す情報を出力することができる。
スイッチ56Gは、スイッチ56Fから出力された値に基づいて、加算器56Eが出力する値を出力するか否かを切り替える。具体的には、スイッチ56Gは、スイッチ56Fから出力された値が1である場合には、0を出力する。スイッチ56Gは、スイッチ56Fから出力された値が0である場合には、加算器56Eが出力する値を出力する。
ここで、吸気温度の差分をdat、第1吸気温度補正係数をkat1、第2吸気温度補正係数をkat2、推定ピストン温度をTps、第3補正値をdTps3とする。スイッチ56Gによって吸気温度補正値が出力される場合、第3補正値dTps3は、以下の式(4)で表わされる。
(4)式に示すように、吸気温度補正計算部56が、推定ピストン温度の上昇に応じて補正値が大きくなるように第3補正値を算出することが確認できる。
続いて、吸入空気量補正計算部57の詳細を説明する。吸入空気量補正計算部57は、推定部52によって推定された吸入空気量と、取得部51が取得した吸入空気量情報が示す吸入空気量との差分と、推定部52によって推定された推定ピストン温度とに基づいて、吸入空気量の差分に伴う推定ピストン温度の補正値である第4補正値を算出する。また、吸入空気量補正計算部57は、取得部51が取得した燃料噴射量及び吸入空気量検出状態に基づいて、第4補正値を出力するか否かを制御する。
(吸入空気量補正計算部57)
図8は、本実施形態に係る吸入空気量補正計算部57の構成を示す図である。図8に示すように、吸入空気量補正計算部57は、減算器57Aと、乗算器57Bと、乗算器57Cと、乗算器57Dと、加算器57Eと、乗算器57Fと、乗算器57Gと、乗算器57Hと、加算器57Iと、比較器57Jと、スイッチ57Kと、調整器57Lと、スイッチ57Mと、スイッチ57Nとを備える。
減算器57Aは、取得部51が取得した吸入空気量情報が示す吸入空気量から、推定部52が推定した吸入空気量である吸入空気量推定値を減算し、吸入空気量の差分を算出する。
乗算器57Bは、第1吸入量上昇時補正係数と、推定部52が推定した推定ピストン温度とを乗算する。
乗算器57Cは、減算器57Aから出力される吸入空気量の差分と、乗算器57Bから出力される第1吸入量上昇時補正係数と推定ピストン温度との乗算値とを乗算することによって、第1吸入量上昇時補正値を算出する。
乗算器57Dは、減算器57Aから出力される吸入空気量の差分と、第2吸入量上昇時補正係数とを乗算することによって、第2吸入量上昇時補正値を算出する。
加算器57Eは、乗算器57Cから出力される第1吸入量上昇時補正値と、乗算器57Dから出力される第2吸入量上昇時補正値とを加算することにより、吸入量上昇時補正値を算出する。
乗算器57Fは、第1吸入量低下時補正係数と、推定部52が推定した推定ピストン温度とを乗算する。ここで、推定された吸入空気量に対して、取得した吸入空気量が少ない場合、吸気側の流量に対し、EGRによって吸気と混合される排気の流量の比率であるEGR率が上昇する。EGR率が上昇すると、燃焼温度が低下するため、ピストン温度が下がりやすくなる。このため、第1吸入量低下時補正係数は、第1吸入量上昇時補正係数に比べて小さくなる。
乗算器57Gは、減算器57Aから出力される吸入空気量の差分と、乗算器57Fから出力される第1吸入量低下時補正係数と推定ピストン温度との乗算値とを乗算することによって、第1吸入量低下時補正値を算出する。
乗算器57Hは、減算器57Aから出力される吸入空気量の差分と、第2吸入量低下時補正係数とを乗算することによって、第2吸入量低下時補正値を算出する。
加算器57Iは、乗算器57Gから出力される第1吸入量低下時補正値と、乗算器57Hから出力される第2吸入量低下時補正値とを加算することにより、吸入量低下時補正値を算出する。
比較器57Jは、減算器57Aから出力される吸入空気量の差分が0以上であるか否かを判定する。比較器57Jは、吸入空気量の差分が0以上である場合に1を出力し、吸入空気量の差分が0未満である場合に0を出力する。
スイッチ57Kは、比較器57Jが出力する値に基づいて、吸入量上昇時補正値を算出するか、吸入量低下時補正値を算出するかを切り替える。具体的には、スイッチ57Kは、比較器57Jが出力する値が1である場合には、加算器57Eから出力される吸入量上昇時補正値を出力する。スイッチ57Kは、比較器57Jが出力する値が0である場合には、加算器57Iから出力される吸入量低下時補正値を出力する。
吸入空気量補正計算部57は、調整器57L及びスイッチ57Mを備えることにより、取得部51が取得した燃料噴射量情報が示す噴射量が第1噴射量閾値を超える場合に、吸入空気量情報が示す吸入空気量と、吸入空気量推定値とに基づく第4補正値を出力し、噴射量が第1噴射量閾値以下の場合に第4補正値を出力しないように制御する。また、吸入空気量補正計算部57は、噴射量が第1噴射量閾値を超えていない状態において、取得部51が新たに取得した燃料噴射量情報が示す噴射量が第1噴射量閾値よりも大きい第2噴射量閾値を超えた場合に第4補正値を出力し、取得部51が新たに取得した燃料噴射量情報が示す噴射量が第2噴射量閾値以下の場合に第4補正値を出力しないように制御する。
ここで、第1噴射量閾値は、燃料が未噴射であるか否かを判定する閾値である。燃料噴射量が第1噴射量閾値よりも低い場合、すなわち、燃料の未噴射時には、ピストン温度の変化に対するEGRの影響が少ない。このため、吸入空気量補正計算部57は、燃料噴射量が第1噴射量閾値よりも低い場合、吸入空気量に係る補正を行わないように制御する。
調整器57Lは、取得部51が取得した燃料噴射量情報が示す噴射量と、第1噴射量閾値と、第2噴射量閾値とに基づいて、第4補正値を有効にするか否かを判定するための判定値を生成する。具体的には、調整器57Lは、取得部51が取得した燃料噴射量が、第1噴射量閾値以下である場合には、第4補正値を無効にすることを示す判定値0を出力する。また、調整器57Lは、取得部51が取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量が、第2噴射量閾値以上である場合には、第4補正値を有効にすることを示す判定値1を出力する。
調整器57Lは、燃料噴射量が第1噴射量閾値と第2噴射量閾値との間で変動することにより判定値にチャタリングが生じることを防止するために、以下のように動作する。調整器57Lは、取得部51が取得した燃料噴射量情報が示す噴射量が、第1噴射量閾値を超えていない状態において、取得部51が新たに取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量が第2噴射量閾値未満である間は、判定値を0のままに維持する。また、調整器57Lは、取得部51が新たに取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量が第2噴射量閾値を超えた場合に、第4補正値を有効にすることを示す判定値1を出力する。
また、調整器57Lは、自身が出力する判定値が1である場合において、取得部51が新たに取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量が第1噴射量閾値を超える場合には、継続して判定値1を出力し、第1噴射量閾値以下の場合に判定値0を出力する。このようにすることで、調整器57Lは、取得部51が新たに取得した噴射量情報が示す噴射量が第1噴射量閾値と第2噴射量閾値との間で変動することによってチャタリングが生じることを防止することができる。
スイッチ57Mは、調整器57Lが出力する判定値に基づいて、スイッチ57Kが出力する値を出力するか否かを切り替える。具体的には、スイッチ57Mは、調整器57Lが出力する判定値が1である場合には、スイッチ57Kが出力する値、すなわち、吸入量上昇時補正値又は吸入量低下時補正値を出力する。スイッチ57Mは、調整器57Lが出力する判定値が0である場合には、判定値0を出力する。
スイッチ57Nは、吸入空気量検出状態が示す値に基づいて、スイッチ57Mが出力する値を出力するか否かを切り替える。ここで、吸入空気量が検出可能な状態である場合には、吸入空気量検出状態が示す値は0であり、吸入空気量が検出できない状態である場合には、油温検出状態が示す値は1であるものとする。スイッチ57Nは、吸入空気量検出状態が示す値が1である場合には、0を出力する。スイッチ55Lは、吸入空気量検出状態が示す値が0である場合には、スイッチ57Mが出力する値を出力する。
ここで、吸入空気量の差分をdmaf、第1吸入量上昇時補正係数をkmafu1、第2吸入量上昇時補正係数をkmafu2、第1吸入量低下時補正係数をkmafd1、第2吸入量低下時補正係数をkmafd2、推定ピストン温度をTps、第4補正値をdTps4とする。スイッチ57K、スイッチ57M及びスイッチ57Nによって吸入量上昇時補正値が第4補正値として出力される場合、第4補正値dTps4は、以下の式(5)で表わされる。また、スイッチ57K、スイッチ57M及びスイッチ57Nによって吸入量低下時補正値が第4補正値として出力される場合、第4補正値dTps4は、以下の式(6)で表わされる。
(5)、(6)式に示すように、吸入空気量補正計算部57が、推定ピストン温度の上昇に応じて補正値が大きくなるように第4補正値を算出することが確認できる。
(噴射時期補正計算部58)
続いて、噴射時期補正計算部58の詳細を説明する。噴射時期補正計算部58は、推定部52によって推定された噴射時期と、取得部51が取得した噴射時期情報が示す噴射時期との差分と、推定部52によって推定された推定ピストン温度とに基づいて、噴射時期の差分に伴う推定ピストン温度の補正値である第5補正値を算出する。また、噴射時期補正計算部58は、燃料噴射量に基づいて、第5補正値を出力するか否かを制御する。
図9は、本実施形態に係る噴射時期補正計算部58の構成を示す図である。図9に示すように、噴射時期補正計算部58は、減算器58Aと、乗算器58Bと、乗算器58Cと、乗算器58Dと、加算器58Eと、調整器58Fと、スイッチ58Gとを備える。
減算器58Aは、取得部51が取得した噴射時期情報が示す噴射時期から、推定部52が推定した噴射時期である噴射時期推定値を減算し、噴射時期の差分を算出する。
乗算器58Bは、第1噴射時期補正係数と、推定部52が推定した推定ピストン温度とを乗算する。
乗算器58Cは、減算器58Aから出力される噴射時期の差分と、乗算器58Bから出力される第1噴射時期補正係数と推定ピストン温度との乗算値とを乗算することによって、第1噴射時期補正値を算出する。
乗算器58Dは、減算器58Aから出力される噴射時期の差分と、第2噴射時期補正係数とを乗算することによって、第2噴射時期補正値を算出する。
加算器58Eは、乗算器58Cから出力される第1噴射時期補正値と、乗算器58Dから出力される第2噴射時期補正値とを加算することにより、噴射時期補正値を算出する。
噴射時期補正計算部58は、調整器58F及びスイッチ58Gを備えることにより、取得部51が取得した燃料噴射量情報が示す噴射量が第1噴射量閾値を超える場合に、噴射時期情報が示す噴射時期と、噴射時期推定値とに基づく第5補正値を出力し、噴射量が第1噴射量閾値以下の場合に第5補正値を出力しないように制御する。また、噴射時期補正計算部58は、噴射量が第1噴射量閾値を超えていない状態において、取得部51が新たに取得した燃料噴射量情報が示す噴射量が第2噴射量閾値を超えた場合に第5補正値を出力し、取得部51が新たに取得した燃料噴射量情報が示す噴射量が第2噴射量閾値以下の場合に第5補正値を出力しないように制御する。
ここで、第1噴射量閾値は、燃料が未噴射であるか否かを判定する閾値である。燃料噴射量が第1噴射量閾値よりも低い場合、すなわち、燃料の未噴射時には、ピストン温度の変化に対する噴射時期の影響が少ない。このため、噴射時期補正計算部58は、燃料噴射量が第1噴射量閾値よりも低い場合、第5補正値を出力せずに、噴射時期に係る補正を行わないように制御する。
調整器58Fは、取得部51が取得した燃料噴射量と、第1噴射量閾値と、第2噴射量閾値とに基づいて、第5補正値を有効にするか否かを判定するための判定値を生成する。調整器58Fの機能は、吸入空気量補正計算部57が備える調整器57Lと同じ機能であるので説明を省略する。
スイッチ58Gは、調整器58Fから出力された値に基づいて、加算器58Eが出力する値を出力するか否かを切り替える。具体的には、スイッチ58Gは、調整器58Fから出力された値が1である場合には、加算器58Eが出力する値を出力する。スイッチ58Gは、調整器58Fから出力された値が0である場合には、0を出力する。
ここで、噴射時期の差分をdsoi、第1噴射時期補正係数をksoi1、第2噴射時期補正係数をksoi2、推定ピストン温度をTps、第5補正値をdTps5とする。スイッチ58Gによって噴射時期補正値が第5補正値として出力される場合、第5補正値dTps5は、以下の式(7)で表わされる。
(7)式に示すように、噴射時期補正計算部58が、推定ピストン温度の上昇に応じて補正値が大きくなるように第5補正値を算出することが確認できる。
図4に説明を戻す。補正部59は、補正値算出部53が算出した補正値に基づいて、推定部52が推定した推定ピストン温度を補正する。具体的には、補正部59は、推定部52が推定した推定ピストン温度に、補正値算出部53が算出した第1補正値〜第5補正値を加算することにより、推定ピストン温度を補正する。補正部59は、補正後の推定ピストン温度を第1補正ピストン温度としてピストン温度補正部6に出力する。
[ピストン温度補正部6の詳細]
続いて、ピストン温度補正部6の詳細について説明する。ピストン温度補正部6は、エンジン状態情報に基づいて、ピストン温度推定部5が推定した第1補正ピストン温度を補正する。図10は、本実施形態に係るピストン温度補正部6の構成を示す図である。ピストン温度補正部6は、取得部61と、選択部62と、補正部63とを備える。
補正部59が出力する第1補正ピストン温度と実際のピストン温度との関係は、エンジンEの状態によって異なる場合がある。そして、エンジンEの状態によって、第1補正ピストン温度の変化の速度に対応する時定数が変化する。そこで、ピストン温度補正部6は、エンジンEの状態に基づいて第1補正ピストン温度を補正するために、エンジンEの状態に対応する第1補正ピストン温度の時定数に基づいて第1補正ピストン温度をさらに補正する。
取得部61は、外部から各種情報を取得するインターフェースである。取得部61は、例えば、エンジンEの状態を示すエンジン状態情報を取得する。具体的には、取得部61は、エンジン回転数を示す回転数情報と、エンジンEが備える燃焼室への燃料の噴射量を示す燃料噴射量情報と、油温を示す油温情報とをエンジン状態情報として取得する。また、取得部61は、ピストン温度推定部5が出力した第1補正ピストン温度を取得する。
選択部62は、第1補正ピストン温度の変化状況に基づいて、第1補正ピストン温度の温度変化の速さの度合いを示す時定数を選択する。具体的には、選択部62は、第1補正ピストン温度の変化状況とエンジン状態情報とに基づいて、時定数を選択する。より具体的には、選択部62は、第1補正ピストン温度の変化状況と、回転数情報と、燃料噴射量情報とに基づいて時定数を選択する。
補正部63は、選択部62が選択した時定数に基づいて、第1補正ピストン温度を補正する。具体的には、補正部63は、取得部61が新たに取得した第1補正ピストン温度と、1周期前に取得された第1補正ピストン温度との差分値を時定数で除算した値を1周期前の第1補正ピストン温度に加算することにより、第1補正ピストン温度を補正する。ここで、第1補正ピストン温度を補正した後の温度を第2補正ピストン温度ともいう。
第1補正ピストン温度の変化が早い場合には、選択部62は、相対的に小さい時定数を選択する。これにより、第2補正ピストン温度は、新たに取得した第1補正ピストン温度がより多く反映されたものとなる。また、第1補正ピストン温度の変化が遅い場合、選択部62は、相対的に大きい時定数を選択する。これにより、第2補正ピストン温度は、1周期前に取得した第1補正ピストン温度がより多く反映されたものとなる。補正部63は、この算出した値を1周期前の第1補正ピストン温度に加算することにより、実際のピストン温度変化の勾配に対応するピストン温度に補正することができる。
図11は、本実施形態に係る選択部62及び補正部63の構成の詳細を示す図である。図11に示すように、選択部62は、調整器62Aと、スイッチ62Bと、調整器62Cと、スイッチ62Dと、OR回路62Eと、スイッチ62Fと、1次遅れ演算器62Gと、比較器62Hと、スイッチ62Iとを備える。また、補正部63は、除算器63Aと、減算器63Bと、乗算器63Cと、加算器63Dとを備える。
調整器62Aは、取得部61が取得した回転数情報が示すエンジン回転数と、第1回転数閾値と、第1回転数閾値よりも大きい第2回転数閾値とに基づいて、エンジンEが停止しているか否かを判定するための判定値を生成する。具体的には、調整器62Aは、取得部61が取得した回転数情報が示すエンジン回転数が、第1回転数閾値以下である場合には、エンジンEが停止していることを示す判定値0を出力する。また、調整器62Aは、取得部61が取得した回転数情報が示すエンジン回転数が、第2回転数閾値以上である場合には、エンジンEが駆動していることを示す判定値1を出力する。
調整器62Aは、エンジン回転数が第1回転数閾値と第2回転数閾値との間で変動することにより判定値にチャタリングが生じることを防止するために、以下のように動作する。調整器62Aは、取得部61が取得した回転数情報が示すエンジン回転数が、第1回転数閾値を超えていない状態において、取得部61が新たに取得した回転数情報が示すエンジン回転数が第2回転数閾値未満である間は、判定値を0のままに維持する。また、調整器62Aは、取得部61が新たに取得した回転数情報が示すエンジン回転数が第2回転数閾値を超えた場合に、エンジンEが駆動したことを示す判定値1を出力する。
また、調整器62Aは、自身が出力する判定値が1である場合において、取得部61が新たに取得した回転数情報が示すエンジン回転数が、第1回転数閾値を超えている場合には、継続して判定値1を出力し、第1回転数閾値以下の場合に判定値0を出力する。このようにすることで、調整器62Aは、取得部61が新たに取得した回転数情報が示すエンジン回転数が第1回転数閾値と第2回転数閾値との間で変動することによって、判定値にチャタリングが生じることを防止することができる。
スイッチ62Bは、調整器62Aが出力する判定値に基づいて、第1補正ピストン温度低下、燃料未噴射かつエンジン駆動時の時定数を出力するか、第1補正ピストン温度低下、燃料未噴射かつエンジン停止時の時定数を出力するかを切り替える。具体的には、スイッチ62Bは、調整器62Aが出力する判定値が1である場合には、第1補正ピストン温度低下、かつ、燃料未噴射、かつ、エンジン駆動時の時定数を示す第2時定数を出力する。スイッチ62Bは、調整器62Aが出力する値が0である場合には、第1補正ピストン温度低下、かつ、エンジン停止時の時定数を示す第1時定数を出力する。
ここで、第1補正ピストン温度が低下し、エンジンEが稼動し、燃料が未噴射の場合、エンジンEに供給するオイル及び冷却水がエンジンEを循環するので、第1補正ピストン温度の変化は早くなる。第1補正ピストン温度が低下し、エンジンEが停止し、燃料が未噴射の場合、エンジンEに供給するオイル及び冷却水の循環が停止するので、第1補正ピストン温度の変化は遅くなる。したがって、第1時定数は、第2時定数よりも値が小さい。
調整器62Cは、取得部61が取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量と、第1噴射量閾値と、第2噴射量閾値とに基づいて、燃料が噴射されている状態か否かを判定するための判定値を生成する。具体的には、調整器62Cは、取得部61が取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量が第1噴射量閾値以下である場合には、燃料噴射が停止していることを示す判定値0を出力する。また、調整器62Cは、取得部61が取得した燃料噴射量情報が示す燃料噴射量が第2噴射量閾値以上である場合には、燃料噴射が行われていることを示す判定値1を出力する。調整器62Cの機能は、図8に示す調整器57Lと同じ機能であるので説明を省略する。
スイッチ62Dは、調整器62Cが出力する値に基づいて、第1補正ピストン温度低下かつ燃料噴射時の時定数を出力するか、第1補正ピストン温度低下かつ燃料未噴射時の時定数を出力するかを切り替える。具体的には、スイッチ62Dは、調整器62Cが出力する値が1である場合には、第1補正ピストン温度低下かつ燃料噴射時の時定数を示す第3時定数を出力する。スイッチ62Dは、調整器62Cが出力する値が0である場合には、スイッチ62Bが出力する値、すなわち、第1補正ピストン温度低下かつエンジン停止時の時定数を示す第1時定数、又は第1補正ピストン温度低下かつ燃料未噴射時の時定数を示す第2時定数を出力する。
ここで、第1補正ピストン温度が低下し、燃料が噴射されている場合、エンジンEは燃料を燃焼しているので、第1補正ピストン温度が低下する。したがって、この場合、エンジンEが停止し、燃料が未噴射の場合と比べて、第1補正ピストン温度の低下速度は遅くなる。したがって、第3時定数は、第1時定数よりも値が小さい。
OR回路62Eは、調整器62Aが出力する値と、調整器62Cが出力する値との論理和を出力する。具体的には、OR回路62Eは、エンジン停止かつ燃料未噴射の場合には0を出力し、それ以外の場合には1を出力する。
スイッチ62Fは、OR回路62Eが出力する値に基づいて、取得部61が取得した第1補正ピストン温度を出力するか、取得部61が取得した油温を出力するかを切り替える。具体的には、スイッチ62Fは、OR回路62Eが出力する値が1である場合には、第1補正ピストン温度を出力する。スイッチ62Fは、OR回路62Eが出力する値が0である場合には、油温を出力する。
1次遅れ演算器62Gは、後述する加算器63Dが出力する第1補正ピストン温度のうち、1周期前の第1補正ピストン温度の値を出力する。ここで、1次遅れ演算器62Gは、1周期前の第1補正ピストン温度が取得できない初回の出力時には、取得部61が取得した油温を出力する。
比較器62Hは、スイッチ62Fから出力される値が、1次遅れ演算器62Gから出力される1周期前の第1補正ピストン温度以上であるか否かを判定することにより、第1補正ピストン温度が上昇しているか、低下しているかを判定し、判定値を出力する。比較器62Hは、スイッチ62Fから出力される値が、1次遅れ演算器62Gから出力される1周期前の第1補正ピストン温度以上である場合には、第1補正ピストン温度が上昇していることを示す判定値1を出力する。比較器62Hは、スイッチ62Fから出力される値が、1次遅れ演算器62Gから出力される1周期前の第1補正ピストン温度未満である場合には、第1補正ピストン温度が低下していることを示す判定値0を出力する。
スイッチ62Iは、比較器62Hが出力する値に基づいて、第1補正ピストン温度上昇時の時定数を出力するか、第1補正ピストン温度低下時の時定数を出力するかを切り替える。具体的には、スイッチ62Iは、比較器62Hが出力する値が1である場合には、第1補正ピストン温度上昇時の時定数を示す第4時定数を出力する。スイッチ62Iは、比較器62Hが出力する値が0である場合には、スイッチ62Dが出力する値、すなわち、第1補正ピストン温度低下時の時定数を示す第1時定数、第2時定数、又は第3時定数を出力する。
ここで、第4時定数は、第1補正ピストン温度が上昇しているため、第3時定数よりも値が小さい。
除算器63Aは、予め定められた所定値を、スイッチ62Iから出力される時定数で除算した値を算出する。ここで、所定値は例えばサンプリング間隔を示す値である。
減算器63Bは、スイッチ62Fから出力される値、すなわち、第1補正ピストン温度又は油温から、1次遅れ演算器62Gから出力される1周期前の第1補正ピストン温度を減算し、第1補正ピストン温度の差分を算出する。
乗算器63Cは、除算器63Aから出力される所定値を時定数で除算した値と、減算器63Bから出力される第1補正ピストン温度の差分とを乗算する。
加算器63Dは、乗算器63Cから出力される値と、1次遅れ演算器62Gから出力される1周期前の第1補正ピストン温度とを加算し、第2補正ピストン温度を算出する。加算器63Dは、例えば、算出した第2補正ピストン温度を示す情報と、時間を示す情報とを関連付けてピストン温度の変化を示す温度変化情報として記憶部11に記憶させる。
ここで、加算器63Dが算出した第1補正ピストン温度をTps、1周期前の第1補正ピストン温度をTpso、所定値をX、時定数をτとする。加算器63Dによって第1補正ピストン温度が出力される場合、第2補正ピストン温度Tpsは、以下の式(8)で表される。
(8)式に示すように、補正部63は、予め定められたサンプリング間隔に基づいて、1周期前に推定された第1補正ピストン温度を取得し、新たに推定された第1補正ピストン温度と、1周期前に推定された第1補正ピストン温度との差分値を時定数で除算して得られた温度を、1周期前に推定された第1補正ピストン温度に加算することにより、第2補正ピストン温度を補正する。
また、第4時定数は第3時定数よりも小さく、第3時定数は第1時定数よりも小さく、第1時定数は第2時定数よりも小さい。したがって、式(8)に示されるように、加算器63Dが算出した第2補正ピストン温度Tpsの影響の度合いは、第4時定数、第3時定数、第1時定数、第2時定数の順に大きくなり、温度変化の反応が早くなる。
このように、ピストン温度補正部6は、エンジンEの状態に対応して時定数を選択し、当該時定数に基づいて第1補正ピストン温度を補正するので、実際のピストン温度変化の勾配に対応するピストン温度に補正することができる。
[本実施形態に係る効果]
以上説明したように、本実施形態に係るピストン温度推定装置1は、エンジンEが備えるピストンの温度を示すピストン温度を推定し、エンジンEの状態を示すエンジン状態情報を取得し、エンジン状態情報が示すエンジンEの状態と、推定されたピストン温度とに基づいて、推定されたピストン温度の補正値を算出し、当該補正値に基づいて、推定されたピストン温度を補正する。このようにすることで、ピストン温度推定装置1は、エンジンEの状態をピストン温度に反映させ、ピストン温度を精度良く推定することができる。また、ピストン温度推定装置1は、時定数を用いて第1補正ピストン温度を補正することにより、ピストンの実際の温度変化を反映したピストン温度とすることができる。
また、補正値算出部53は、マップ情報に基づいて特定した各要素(油圧、油温、吸気温度、吸入空気量、噴射時期)の値と、測定された各要素の値との差分に基づいて各補正値(第1補正値〜第5補正値)を算出する。このようにすることで、補正値算出部53は、測定された各要素の値のみに基づいて補正値を算出する場合に比べて、精度良く補正値を算出することができる。これにより、ピストン温度推定装置1は、ピストン温度を精度良く推定することができる。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば、上述の実施形態では、油温補正計算部55において、油温上昇時、油温低下時とで異なる補正係数を用いて第2補正値を算出し、吸入空気量補正計算部57において、吸入量上昇時と、吸入量低下時とで異なる補正係数を用いて第4補正値を算出した。これと同様に、油圧補正計算部54、吸気温度補正計算部56、噴射時期補正計算部58においても、油圧、吸気温度、噴射時期の変化状況に応じて、異なる補正係数を用いて補正値を算出してもよい。このようにすることで、ピストン温度推定装置1は、補正値の特性が非線形の場合に、補正式が示す補正式の特性を非線形の特性に対応させることができる。