JP6917051B2 - 既存構造体の補強構造 - Google Patents
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例えば、特許文献1に記載された補強構造は、図7に示すように、既存構造体である柱1の正面1aに、この柱1に沿った補強構造体2を接合したものである。
この補強構造体2は、コンクリート部4にH形鋼3を埋設した柱状の構造体である。H形鋼3は、ウエブ3aの両側に一対のフランジ3b,3cを備えた鋼材で、引っ張りや曲げなどの応力に対して高い耐力を発揮し、変形しにくいものである。このような強度の高いH形鋼3は補強筋として機能し、補強構造体2の強度が維持される。
このように、アンカーボルト5,6をウエブ3aに連結することによって、補強構造体2と柱1とが一体化され、補強構造体2と柱1とが一体となって耐力を発揮するようにしている。
コンクリート部4が崩れてしまえば、補強構造体2の形状が崩れてH形鋼3とコンクリート部4とが別々になってしまう。H型鋼3が、コンクリート部4で支えられていなければ、補強筋としての機能を発揮できない。
つまり、従来の補強構造では、高強度のH形鋼3を用いたのにもかかわらず、このH形鋼3の強度が活かされず、補強構造体2の強度は維持できない。このような補強構造体2を柱1に接合しても、補強効果を上げることはできなかった。
この発明の目的は、きわめて強度が高い形鋼の特徴を十分に活かして既存構造体を補強できる補強構造を提供することである。
そして、第1の発明は、上記補強構造体は、上記正面との間に空間を保って設けられた枠体と、上記空間内に設けられたウエブの両端にフランジを備えた形鋼と、上記枠体及び上記既存構造体で囲まれた空間内に充填され固化した充填材とからなり、上記形鋼のフランジが、既存構造体の上記正面とほぼ直交する向きに配置されるとともに、上記既存構造体には、上記正面から補強構造体内に一端を突出させた一対のアンカーボルトが埋め込まれ、これら一対のアンカーボルトの各突出端側が、上記形鋼の一対のフランジ間で、それぞれ別のフランジの近傍に配置され、上記各アンカーボルトとそれに近接したフランジとを上記充填材を介して互いに連係させるとともに、上記枠体が上記充填剤を拘束することによって上記形鋼と上記充填材とが一体化したたことを特徴とする。
なお、上記充填材には、モルタルやコンクリートのほか、それらに補強材として繊維などを添加したものなど、一般的に建築用に充填材として用いられるものが含まれる。
当該補強構造体内を貫通して上記側面部間を連結するタイロッドが、上記既存構造体と上記形鋼との間に設けられたことを特徴とする。
そのため、特に強度の高い形鋼が充填材と一体化した状態を維持でき、形鋼が補強構造体の補強筋としての機能を十分に発揮することができる。
その結果、補強構造体による補強効果も上がる。
なお、上記アンカーボルトとフランジとが連係するのは、これらを囲む充填材に枠体の拘束力が作用することによって、充填材がアンカーボルトとフランジとを同時に保持しているからである。
さらに、形鋼のウエブに多数の挿通孔を形成すれば、その分ウエブの強度が低下してしまうという問題も発生する。また、ナットによる連結に替えて溶接を行なった場合には、その熱でウエブが軟化して強度が落ちてしまうこともある。
これに対し、本願の発明によれば、作業性もよく、形鋼の強度も維持しながら、既存構造体と補強構造体との一体性を上げることができるため、さらに補強効果が上がる。
その結果、補強構造体の圧縮耐力が向上するとともに、固化した充填材と形鋼との一体化が保たれる。このように、強度が高い補強構造体と既存構造体とが一体化して耐力を発揮するため、より高い補強効果が得られる。
第3の発明によれば、外側面に接着された補強用シートによって、枠体の強度が向上し、充填材に対してより強い拘束力を作用させることができる。
上記補強構造体8は、柱1の正面1a側を、所定の空間を保持して囲った一対の枠板9,10と、これら枠板9,10及び正面1aで囲まれた空間内に配置されたH形鋼3と、上記空間内に充填されたコンクリートなどの充填材が固化した充填材部11とで構成される。
また、上記枠板9,10は、その上下方向の長さを、柱1の補強対象部分の長さを複数に分割した長さにし、これら枠板9,10は、柱1の長手方向に沿って積層して設けられている。このようにした枠板9,10がこの発明の枠体を構成するが、その外側面には、繊維シートなどの補強用シート12を接着している。この補強用シート12によって、枠板9,10で構成される枠体の靱性や引っ張り強度などが向上する。
さらに、上記正面1aには、先端をH形鋼3のフランジ3b,3c間に突出させたアンカーボルト5,6が打設され、各アンカーボルト5,6の突出端を、それぞれ上記フランジ3b,3cの近傍に位置させている。上記アンカーボルト5,6の突出端と上記フランジ3b,3cとの距離は、これらが充填材部11に埋設されたとき、アンカーボルト5とフランジ3b、アンカーボルト6とフランジ3cとが、充填材部11を介して互いに連係可能な距離である。
なお、上記アンカーボルト5,6はそれぞれ、柱1の長手方向に所定の間隔を保って複数打設されている。
このように、アンカーボルト5,6及びH形鋼3が配置された空間を、枠板9,10で囲い、補強用シート12を接着したら、その内部に充填材を充填して固化させれば、充填材部11が形成され、補強構造体8が構成される。
したがって、補強構造体8が、H形鋼3の高強度の特性を十分に活かした耐力を発揮することができる。
しかも、この第1実施形態では、アンカーボルト5,6とH形鋼3とを連係させるために、図7に示す従来のように、ウエブ3aに挿通孔3dを形成したり、ナット7を締めたりする必要がない。そのため、施工性が悪くなったり、ウエブ3aの強度が落ちてしまったりするという問題が発生することもない。
ただし、上記タイロッド13は必須ではない。例えば、しっかりした型枠などを用いて、充填材の充填時に枠板9,10が開かないようにすれば、タイロッド13が無くても、充填材部11への拘束力は維持できる。
なお、H形鋼3は、曲げ耐力に方向性があるため、H形鋼3の向きによって補強構造体8が発揮する曲げ耐力にも方向性がでることがある。この第1実施形態では、フランジ3b,3cを柱1の正面1aに対して直交させているため、図中のX方向の曲げに対する耐力の方が、Y方向の曲げ耐力よりも強くなる。
ただし、図1において柱1の左右両側に図示しない梁が設けられている場合が多い。このような梁が設けられている場合には、上記梁から柱1に作用する地震力に対して曲げ耐力を発揮するために、図示のようにX方向の曲げ耐力が強くなるような配置が好ましい。
したがって、補強構造体8が、H形鋼3の高強度の特性を十分に活かした耐力を発揮することができる。
また、アンカーボルト5,6及びタイロッド13の作用効果も、第1実施形態と同じである。
ただし、この第2実施形態では、枠板の側面部9b,10bが柱1の側面1b,1cにボルト15及びナット7によって固定されているため、補強構造体8と柱1との結合力をさらに強くすることができる。
また、各片16a,16bのそれぞれには、長手方向に間隔を保ってボルト15の挿通孔とタイロッド13を挿通するための孔が形成されている。
この第3実施形態においても、補強用シート12が接着された枠板9,10の拘束力が充填材部11とH形鋼3とを一体化して、補強構造体8にH形鋼3の特性が十分に活かされる。
さらに、この第3実施形態では、柱1に固定した上記ガイド部材16,16に枠板9,10を沿わせることでその位置決めが簡単にできるため、施工現場での作業性が向上する。また、枠板9,10の位置決めが容易にできるので、補強構造体8を柱1に対して正確に正対させることができる。補強構造体8と柱1とが正対すれば、地震力が作用したときに両者間にねじれが発生しにくく、補強強度を維持しやすいというメリットがある。
また、枠板9,10とガイド部材の他方の片16b,16bとの連結は、タイロッド13の代わりに、ボルトとナットなどで行なってもよいし、枠板9,10はガイド部材16に沿わせるだけでもよい。
そして、補強構造体8を接合する正面1a側にスラブが張り出している場合には、スラブを切り欠いて補強構造体8を上下に連続させることもできる。
梁17は柱1の両側に接続されたもので、この発明の既存構造体の特定の側面である梁17の正面17aに、補強構造体18が接合されている。そして、上記正面17aは、建物の外側面である。
また、柱1は、図1の第1実施形態の補強構造体8で補強されている。
そして、上記柱1の補強構造体8の上端を梁17の下面位置までにして、上記梁の補強構造体18で、柱1との交差部分を含んで両側の梁17の部分を連続して覆うようにしている。
一方、梁17の補強構造体18は、上記柱1の補強構造体8の長手方向を水平方向にして正面17aに接合したものである。そこで、この補強構造体18の構成要素において上記柱1の補強構造体8と同じ構成要素には、図1と同じ符号を用い、各要素の詳細な説明は省略する。なお、図中の符号19はスラブである。
なお、上記アンカーボルト5,6は、梁の長手方向に沿って複数打ち込まれている。
また、上記アンカーボルト5,6は、その先端をそれぞれH形鋼3のフランジ3b,3c間で各フランジ3b,3c近傍に位置させ、フランジ3b,3cと連係可能にしている。
また、このような補強構造体18が、アンカーボルト5,6及びフランジ3b,3cによって既存の梁17と強固に結合している。
そのため、この第4実施形態でも、上記第1実施形態と同様に、補強構造体18の充填材部11に亀裂が発生することがなく、梁17に対して、H形鋼3の強度を十分に活かした補強効果を発揮させることができる。
もし、Y方向の曲げ耐力の方を強くしたい場合には、フランジ3b,3cを上記正面17aと平行に配置すればよい。
また、この第4実施形態の梁17の補強においても、補強構造体18内のH形鋼3の向きや、タイロッド13の要否、アンカーボルト5,6の配置などは、必要に応じて決めることができる。
さらに、この第4実施形態において、梁17の正面17aと枠板9,10との間にも、第3実施形態と同様にガイド部材16,16を介在させ、このガイド部材16,16に枠板9,10を沿わせたり、ガイド部材16を介して正面17aと枠体9,10とを連結したりしてもよい。
また、上記側面部9bの先端側を折り曲げて梁17の下の図示しない壁面に固定するようにしてもよい。
なお、この第4実施形態では、柱1の正面1aに補強構造体8が設けられているため、梁17の前の補強構造体18は上記補強構造体8の上に載ったようになっているが、この補強構造体8を設けていない場合には、枠体9の側面部9bの先端を折り曲げて柱1に固定してもよい。要するに、枠体と既存構造体とをどのように連結してもよい。また、枠体は既存構造体に直接連結しなくても、既存構造体と補強構造体とを、アンカーボルト5,6などを介して間接的に連結することもできる。
この第5実施形態では、梁17の正面17aに、梁17の長手方向に沿った補強構造体20を接合している。
この補強構造体20は、枠板21で構成された枠体で囲われている。
上記枠板21は、鋼板を曲げ加工して構成された部材で、上記正面17aと対向する正面部21aと、これに直交して上記スラブ19と対向する下面部21bと、上記正面部21aから上記下面部21bとは反対側に曲げ加工された取付片21cとを備えている。
この第5実施形態では、梁17の正面17aに沿った補強構造体20を設ける側にスラブ19が張り出しているため、スラブ19側では枠板21を梁17側に曲げた部分を設けることができず、上記取付片21cをスラブ19に固定することで、H形鋼3を埋設した充填材部11は、上記枠体21と梁17とスラブ19とで囲まれた空間内に形成されることになる。
そのため、補強構造体20に外力が作用したときに、フランジ3b,3cの角から充填材部11に亀裂が発生するようなことがなく、補強構造体20はH形鋼3の強度を十分に活かした耐力を発揮できる。
したがって、Y方向の曲げ耐力の方を強くしたい場合には、フランジ3b,3cを上記正面17aと平行に配置すればよい。
また、この第5実施形態でも、柱1の正面1aには第1実施形態と同様の補強構造体8を接合している。したがって、柱1及び梁17が補強される。
この第5実施形態では、上記補強構造体20とスラブ19との結合に、枠板21の取付片21cを利用しているが、スラブ19にアンカーボルトを打設するなどして、充填材部11との結合力が維持できれば、取付片21cを利用しなくてもよい。
また、第4,5実施形態では、柱1に沿った補強構造体8を梁17の下で止めているが、補強構造体8の長さはこれに限らない。柱1と梁17との交差部分まで補強構造体8で覆うようにしてもよいし、上記交差部分から他の階層まで連続して補強するようにしてもよい。
さらに、図5のように柱1の正面1a側にスラブ19が張り出している場合には、スラブ19の一部を切り欠いて補強構造体8を他の階層まで連続させてもよい。
いずれにしても、柱1に沿った補強構造体8や、梁17に沿った補強構造体18,20は、柱1や梁17において補強が必要な部分に対応する長さを備えていればよい。
また、第5実施形態では、枠板21の側面部21bの端部を、梁17の正面17aの位置までにしているが、上記第4実施形態の枠板9の側面部9bと同様に、様々な方法で既存の梁17や柱1、あるいは壁面などに固定してもよい。
また、図6に示すように、上記実施形態の枠板9,10の端部に既存構造体側に突出するリブ22,23,24を備えたものでもよい。
このような枠板9,10では、それぞれ既存構造体と対向する正面部9a,10aには、側面部9b,10bが連続する辺に平行な端部に沿ったリブ22と、このリブ22に直交する方向のリブ23を備えるとともに、側面部9b,10bにも、上記リブ23と面一となるリブ24を備えている。
これらのリブ22,23,24は、正面部9a,10aや側面部9b,10bの端部を折り曲げて形成してもよいし、別部材を取り付けて形成してもよい。
このような枠体9,10は、例えば柱1や梁17の長手方向に連続して配置する際に、上記リブ22,22同士、リブ23,23同士、リブ24,24同士を突き合せることによって、それらの位置決め作業を容易にできる。
なお、各側面部9b,10bには、図示のように、例えばタイロッド13(図1参照)や図示しない固定ボルトなどを挿入するための挿入孔9c,10cを設けてもよい。
枠板の形状は、充填材部11に対して拘束力を発揮できる枠体を構成できるものであればどのようなものでもよい。
そして、枠板の材質も鋼板のほか、強化プラスチック、木材など様々なものを用いることができる。
さらに、上記H型鋼3としては、補強構造体8,18,20の断面形状や大きさによって、ウエブ3aとフランジ3b,3cとの寸法の比率が様々な形鋼を用いることができる。
そして、上記実施形態1〜5は、H形鋼3の耐力が非常に大きいという特性を生かした補強構造体8,18,20を、既存の柱1や梁17の特定の側面側のみに設ける構造なので、外壁側のみを補強することができ、居住空間を狭くすることなく補強効果を発揮させることができるものである。
1a 正面
3 H形鋼
3a ウエブ
3b,3c フランジ
5,6 アンカーボルト
8 補強構造体
9 (枠体)枠板
9a 正面部
9b 側面部
10 (枠体)枠板
10a 正面部
10b 側面部
11 充填材部
12 補強用シート
13 タイロッド
17 (既存構造体)梁
17a 正面
18 補強構造体
20 補強構造体
21 枠板
Claims (3)
- 柱や梁などの既存構造体の特定の側面である正面に、この正面の長手方向に沿った補強構造体を接合した既存構造体の補強構造において、
上記補強構造体は、
上記正面との間に空間を保って設けられた枠体と、
上記空間内に設けられたウエブの両端にフランジを備えた形鋼と、
上記枠体及び上記既存構造体で囲まれた空間内に充填され固化した充填材と
からなり、
上記形鋼のフランジが、既存構造体の上記正面とほぼ直交する向きに配置されるとともに、
上記既存構造体には、上記正面から補強構造体内に一端を突出させた一対のアンカーボルトが埋め込まれ、
これら一対のアンカーボルトの各突出端側が、上記形鋼の一対のフランジ間で、それぞれ別のフランジの近傍に配置され、
上記枠体が上記充填剤を拘束することによって発生した拘束力で上記形鋼と上記充填材とが一体化されるとともに、
上記各アンカーボルトとそれに近接したフランジとを上記充填材を介して互いに連係させた既存構造体の補強構造。 - 上記枠体は、既存構造体の上記正面と対向する正面部と、この正面部の両端に連続し、上記正面部とほぼ直交する一対の側面部とからなり、
当該補強構造体内を貫通して上記側面部間を連結するタイロッドが、上記既存構造体と上記形鋼との間に設けられた請求項1に記載の既存構造体の補強構造。 - 上記枠体の外側面に補強用シートが接着された請求項1又は2に記載の既存構造体の補強構造。
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