図11に示すように、上記の特許文献1および特許文献2では、外嵌端部(外嵌部材)の外径が鋼管杭の外径に一致している。図11(A)は、特許文献1に記載された継手構造を模式的に示す図である。図示された継手構造は、内嵌部材70と外嵌部材80とを含み、外嵌部材80の外周面80Aが鋼管杭1および鋼管杭2の外周面に揃えられている。すなわち、外嵌部材80の外径は鋼管杭1および鋼管杭2の外径に一致する。図11(A)の例では、内嵌部材70を外嵌部材80の内側に嵌合させた組立体90の板厚t90が鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tよりも厚く、従って組立体90の板厚中心tc90は鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tの範囲から外れて内側に位置し、鋼管杭1および鋼管杭2の板厚中心tcから離れている。
一方、図11(B)は、特許文献2に記載された継手構造を模式的に示す図である。この継手構造では、外嵌部材80の外周面80Aが鋼管杭1および鋼管杭2の外周面に揃えられているのに加えて、内嵌部材70の内周面70Aが鋼管杭1および鋼管杭2の内周面に揃えられている。つまり、図11(B)の例では、内嵌部材70および外嵌部材80からなる組立体90の板厚t90が鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tに等しく、従って組立体90の板厚中心tc90は鋼管杭1および鋼管杭2の板厚中心tcに一致する。
ここで、組立体90の板厚中心tc90は、全体として管状の組立体90の管壁にあたる部分の板厚の中心、すなわち組立体90が構成されたときに内嵌部材70の内周面70Aと外嵌部材80の外周面80Aとを組立体90の径方向に結ぶ線分の中点によって形成される面である。板厚中心tc90は3次元的には円筒面であるが、図11のような断面図では組立体90の管壁にあたる部分の中心線として現れる。同様に、鋼管杭1および鋼管杭2の板厚中心tcも、鋼管杭1および鋼管杭2の内周面と外周面とを径方向に結ぶ線分の中点によって形成される円筒面であり、断面図では鋼管杭1および鋼管杭2の管壁の中心線として現れる。以下、本明細書において定義される他の部材の板厚中心についても同様である。
継手構造によって軸芯方向に連結された鋼管杭は、一般に杭基礎や鋼管矢板として利用される。杭基礎で十分な周面摩擦力を発生させる必要がある場合や、鋼管矢板で壁幅方向に隣接する鋼管杭との間の継手を取り付ける場合には、継手構造において外嵌部材が鋼管杭よりも外側に張り出すことは好ましくない。上記で図11に示した継手構造は、このような需要を反映して、外嵌部材80の外径が鋼管杭1および鋼管杭2の外径に一致するように設計されている。
しかしながら、例えば図11(A)に示した例の継手構造では、内嵌部材70および外嵌部材80からなる組立体90の板厚中心tc90が鋼管杭1および鋼管杭2の板厚中心tcから離れているために大きな偏芯曲げモーメントが発生し、これに対抗するために内嵌部材70および外嵌部材80の板厚を厚くする必要がある。必要とされる板厚は鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tに比例して増大するため、板厚tが特に厚い場合には、内嵌部材70および外嵌部材80の板厚が厚くなりすぎて材料費が膨大になったり、製造自体が困難になったりする場合があった。
また、例えば図11(B)に示した例の継手構造では、発生する偏芯曲げモーメントは小さいものの、内嵌部材70および外嵌部材80からなる組立体90の板厚t90が鋼管杭1および鋼管杭2の板厚t以下に制限されるため、内嵌部材70および外嵌部材80の板厚が薄くなる。継手構造は偏芯曲げ以外にも鋼管杭1と鋼管杭2との間の曲げや引張に対抗する必要があるが、内嵌部材70および外嵌部材80の板厚が制限されると曲げや引張に対する剛性も小さくなるため、施工条件によっては図11(A)のような構成をとらざるを得ない場合も多かった。
そこで、本発明は、内嵌部材を外嵌部材の内側に嵌合させることによって鋼管杭を軸芯方向に連結する継手構造において、部材の板厚を確保しながら偏芯曲げモーメントを低減することが可能な鋼管杭の継手構造を提供することを目的とする。
本発明のある観点によれば、内嵌部材および外嵌部材を含み、内嵌部材を外嵌部材の内側に嵌合させることによって第1の鋼管杭と第2の鋼管杭とを軸芯方向に連結する継手構造であって、内嵌部材は、第1の鋼管杭に接合される内嵌基端部と、内嵌基端部に続いて形成される少なくとも1段の内嵌段差部とを備え、内嵌段差部は、内嵌基端部に近い側に位置し、内嵌基端部または前段の内嵌段差部よりも小さい外径を有し周方向に形成される内嵌谷部と、内嵌基端部から遠い側に位置し、内嵌谷部よりも大きい外径を有する突出部が周方向について間欠的に形成される内嵌山部とを含み、外嵌部材は、第2の鋼管杭に接合される外嵌基端部と、外嵌基端部に続いて形成され内嵌段差部に対応する段数の外嵌段差部とを備え、外嵌段差部は、外嵌基端部に近い側に位置し、対応する内嵌段差部に形成される突出部の外径に対応する内径を有し周方向に形成される外嵌谷部と、外嵌基端部から遠い側に位置し、対応する内嵌段差部に含まれる内嵌谷部の外径に対応する内径を有する突出部が周方向について間欠的に形成される外嵌山部とを含み、外嵌部材の外径は、第1の鋼管杭および第2の鋼管杭の外径よりも大きい、鋼管杭の継手構造が提供される。
上記の構成によれば、内嵌部材または外嵌部材の板厚を厚くした場合であっても、外嵌部材の外周面が鋼管杭の外周面よりも外側に張り出すことによって内嵌部材を外嵌部材の内側に嵌合させた組立体の板厚中心を鋼管杭の板厚中心に近づけることができ、これによって偏芯曲げモーメントを低減することができる。
上記の鋼管杭の継手構造において、内嵌部材を外嵌部材の内側に嵌合させた組立体の板厚中心は、第1の鋼管杭または第2の鋼管杭の少なくともいずれかの板厚の範囲に含まれてもよい。さらにこの場合において、組立体の板厚中心は、第1の鋼管杭または第2の鋼管杭の少なくともいずれかの板厚中心に一致してもよい。
既に述べたように、内嵌部材を外嵌部材の内側に嵌合させた組立体の板厚中心を鋼管杭の板厚中心に近づけるだけでも偏芯曲げモーメントを低減させる効果は得られるが、組立体の板厚中心を鋼管杭の板厚の範囲に含め、さらには鋼管杭の板厚中心に一致させることによって、この効果を最大化することができる。
上記の鋼管杭の継手構造において、外嵌部材は、外嵌基端部から最も遠い外嵌段差部に続いて形成される周壁状の延長部をさらに備え、内嵌部材が外嵌部材の内側に嵌合した状態で延長部と内嵌基端部との間に形成される溝部に止水材が埋め込まれてもよい。
外嵌部材の外周面が鋼管杭の外周面よりも外側に張り出したことによって、外嵌基端部から最も遠い外嵌段差部において突出部の間に形成される非突出部と、対応する内嵌段差部の内嵌谷部との間に生じる間隙が外部に露出される場合がある。このような場合には、外嵌部材に延長部を形成し、延長部と内嵌基端部との間に形成される溝部に止水材を埋め込むことによって、間隙が外部に露出しないようにすることができる。
以上で説明したように、本発明によれば、内嵌部材を外嵌部材の内側に嵌合させることによって鋼管杭を軸芯方向に連結する継手構造において、部材の板厚を確保しながら偏芯曲げモーメントを低減することができる。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る鋼管杭の継手構造の斜視図である。図1(A)には連結前の状態が示され、図1(B)には連結後の状態が示されている。図2は、図1(B)に示す継手構造の断面図である。図示されているように、鋼管杭1(第1の鋼管杭)と鋼管杭2(第2の鋼管杭)とを軸芯方向に連結する継手構造3は、内嵌部材10および外嵌部材20を含み、内嵌部材10を外嵌部材20の内側に嵌合させることによって鋼管杭1と鋼管杭2とを連結する。
内嵌部材10は、内嵌基端部11と、少なくとも1段の内嵌段差部12とを含む。内嵌基端部11は、接合面11Aにおいて鋼管杭1に接合される。図1に示された例では、内嵌基端部11に続いて2段の内嵌段差部12A,12Bが形成される。それぞれの内嵌段差部12は、内嵌谷部121と、内嵌山部123とを含む。内嵌谷部121は、内嵌段差部12の内嵌基端部11に近い側に位置し、隣接する部分(内嵌段差部12Aの場合は内嵌基端部11、内嵌段差部12Bの場合は前段の内嵌段差部12A)よりも小さい外径を有し周方向に形成される。一方、内嵌山部123は、内嵌段差部12の内嵌基端部11から遠い側に位置する。内嵌山部123では、突出部122が周方向について間欠的に形成される。つまり、内嵌山部123では、内嵌部材10の周方向について、内嵌谷部121よりも大きい外径を有する突出部122と、内嵌谷部121と同じ外径を有する非突出部とが交互に形成される。
外嵌部材20は、外嵌基端部21と、少なくとも1段の外嵌段差部22とを含む。外嵌基端部21は、接合面21Aにおいて鋼管杭2に接合される。図1に示された例では、外嵌基端部21に続いて、内嵌段差部12に対応する段数、すなわち2段の外嵌段差部22A,22Bが形成される。それぞれの外嵌段差部22は、外嵌谷部221と、外嵌山部223とを含む。外嵌谷部221は、外嵌段差部22の外嵌基端部21に近い側に位置し、対応する内嵌段差部12(外嵌段差部22Aの場合は内嵌段差部12A、外嵌段差部22Bの場合は内嵌段差部12B)の突出部122の外径に対応する内径を有し周方向に形成される。一方、外嵌山部223は、外嵌段差部22の外嵌基端部21から遠い側に位置する。外嵌山部223では、突出部222が周方向について間欠的に形成される。つまり、外嵌山部223では、外嵌部材20の周方向について、対応する内嵌段差部12の内嵌谷部121の外径に対応する、外嵌谷部221よりも小さい内径を有する突出部222と、外嵌谷部221と同じ内径を有する非突出部とが交互に形成される。
上記のような継手構造3は、内嵌部材10と外嵌部材20とを互いに嵌合させた状態で軸芯回りに相対回転させることで、鋼管杭1と鋼管杭2とが軸芯方向に連結されるように構成されている。具体的には、内嵌山部123は突出部122の周方向長さが非突出部の周方向長さ以下になるように形成されており、外嵌山部223は突出部222の周方向長さが非突出部の周方向長さ以下になるように形成されている。従って、内嵌部材10を外嵌部材20の内側に挿入したときに、内嵌段差部12の内嵌山部123に形成された突出部122は、対応する外嵌段差部22の外嵌山部223の非突出部を通過して外嵌谷部221に嵌合することができる。逆も同様で、外嵌段差部22の外嵌山部223に形成された突出部222は、対応する内嵌段差部12の内嵌山部の非突出部を通過して内嵌谷部121に嵌合することができる。その後に内嵌部材10と外嵌部材20とを軸芯回りに相対回転させると、外嵌谷部221に嵌合した突出部122と内嵌谷部121に嵌合した突出部222とが互いに係合し合い、これによって鋼管杭1と鋼管杭2とが軸芯方向に連結される。
ここで、本実施形態に係る継手構造3では、外嵌部材20の外周面20Aが、鋼管杭1および鋼管杭2の外周面よりも外側に張り出している。すなわち、外嵌部材20の外径は、鋼管杭1および鋼管杭2の外径よりも大きい。本発明者らの検討によれば、既に述べたように継手構造において外嵌部材が鋼管杭よりも外側に張り出すことが好ましくない場合はあるものの、それがすべてではなく、外嵌部材が鋼管杭よりも外側に張り出すことが許容される場合もある。具体的には、例えば、鋼管杭を地中に打設した後で、地下空間を掘削して鋼管柱として利用する場合には、周面摩擦力を考慮する必要がないため外嵌部材が鋼管杭よりも外側に張り出していてもよい。また、鋼管杭をそのまま杭基礎として利用する場合であっても、周面摩擦力を確保しなくてよい区間があれば、その区間では外嵌部材が鋼管杭よりも外側に張り出していてもよい。また、杭周面にセメントミルク等の経時性固化材を充填する場合や原位置地盤と経時性固化材を混合させてソイルセメントなどで満たす場合は、外嵌部材が鋼管杭よりも外側に張り出していても周面摩擦力を確保できる。本実施形態では、このような場合を想定して、外嵌部材20の外径を鋼管杭1および鋼管杭2の外径よりも大きくすることによって、以下で説明するように、内嵌部材10および外嵌部材20の板厚を確保しながらも偏芯曲げモーメントを小さくすることを可能にしている。
図2には、鋼管杭1の板厚t1および板厚中心tc1、鋼管杭2の板厚t2および板厚中心tc2、ならびに内嵌部材10を外嵌部材20の内側に嵌合させた組立体30の板厚t30および板厚中心tc30が示されている。なお、既に述べたように、本明細書において、管状の部材の板厚中心は、部材の内周面と外周面とを径方向に結ぶ線分の中点によって形成される円筒面であり、断面図では部材の管壁にあたる部分の中心線として現れる。本実施形態では、上述のように外嵌部材20の外径を鋼管杭1および鋼管杭2の外径よりも大きくすることによって、内嵌部材10および外嵌部材20の板厚が大きい場合、具体的には内嵌部材10および外嵌部材20からなる組立体30の板厚t30が鋼管杭1の板厚t1および鋼管杭2の板厚t2よりも大きい場合であっても、組立体30の板厚中心tc30を鋼管杭1の板厚中心tc1および鋼管杭2の板厚中心tc2に一致させ、これによって内嵌部材10および外嵌部材20にかかる偏芯曲げモーメントを低減することができる。ここで、板厚中心が一致することは、円筒面としての板厚中心、または断面における板厚の中心線が厳密に一致することには限定されず、例えば機能上許容される程度の誤差がある場合を含む。また、板厚中心が一致することは、板厚中心を一致させることが意図されている場合、具体的には例えば設計図面において円筒面としての板厚中心、または断面における板厚の中心線が一致している場合を含む。
なお、図示された例において、組立体30の板厚t30は、内嵌部材10の内周面10Aの内径、および外嵌部材20の外周面20Aの外径が一定である場合に、内嵌段差部12Aにおける内嵌谷部121の板厚t121、外嵌段差部22Aにおける突出部222の突出厚さt222、および外嵌谷部221の板厚t221を用いて、t30=t121+t122+t221によって求められる。組立体30の板厚中心tc30が鋼管杭1の板厚中心tc1に一致する場合、内嵌部材10の内周面10Aを基準にして外側にt30/2だけ離れた位置に、鋼管杭1の板厚中心tc1が位置する。
図3は、本発明の第1の実施形態の変形例を示す図である。図3(A)に示された例において、内嵌部材10および外嵌部材20からなる組立体30の板厚中心tc30は、鋼管杭1および鋼管杭2の内周面に一致する。図3(B)に示された例において、組立体30の板厚中心tc30は、鋼管杭1および鋼管杭2の外周面に一致する。本実施形態では、必ずしも、組立体30の板厚中心tc30が鋼管杭1の板厚中心tc1および鋼管杭2の板厚中心tc2に一致しなくてもよく、例えば図3に示された例のように、組立体30の板厚中心tc30が鋼管杭1の板厚t1および鋼管杭2の板厚t2の範囲に含まれていてもよい。例えば、鋼管杭の内側または外側で許容される張り出し量に制約がある場合や、内嵌部材10または外嵌部材20のいずれかにかかる偏芯曲げモーメントを優先的に低減したい場合には、鋼管杭1の板厚t1および鋼管杭2の板厚t2の範囲内の任意の位置に組立体30の板厚中心tc30が位置するように、内嵌部材10および外嵌部材20を設計してもよい。
図4は、本発明の第2の実施形態に係る鋼管杭の継手構造の断面図である。図4に示されるように、本実施形態では、内嵌部材10に4段の内嵌段差部12A,12B,12C,12Dが形成され、外嵌部材20にも4段の外嵌段差部22A,22B,22C,22Dが形成される。内嵌段差部12Aは外嵌段差部22Aに対応し、内嵌段差部12Bは外嵌段差部22Bに対応し、内嵌段差部12Cは外嵌段差部22Cに対応し、内嵌段差部12Dは外嵌段差部22Dに対応する。それ以外の点について、本実施形態は上記の第1の実施形態と同様に構成される。他の実施形態では、2段または4段以外の段数の内嵌段差部12および外嵌段差部22を形成することも可能である。
図5は、図4に示す継手構造に止水材を埋め込んだ例を示す図である。図5に示された例において、外嵌部材20には、外嵌基端部21および外嵌段差部22に加えて延長部23が形成される。延長部23は、外嵌基端部21から最も遠い外嵌段差部22(図示された例では外嵌段差部22A)に続いて形成され、内嵌部材10の内嵌基端部11の外径よりも大きい内径を有する周壁状の部分である。内嵌部材10が外嵌部材20の内側に嵌合したときに延長部23と内嵌基端部11との間に形成される溝部に、止水材24が埋め込まれる。止水材24は、例えば水膨張性を有するエラストマーであり、例えば天然ゴム、またはクロロプレンゴムに、澱粉系、セルロース系、ポリアクリル酸塩系、ポリビニルアルコール系などの高分子物質を配合したものである。
上記で説明した図1(B)に示されるように、外嵌基端部21から最も遠い外嵌段差部22Aの内径、および内嵌基端部11の外径の寸法によっては、内嵌部材10を外嵌部材20の内側に嵌合させたときに、外嵌段差部22Aの外嵌山部223の非突出部と、対応する内嵌段差部12Aの内嵌谷部121との間に生じる間隙が外部に露出される。このような場合でも、外嵌部材20に延長部23を形成しておき、例えば内嵌部材10と外嵌部材20とを互いに嵌合させた状態で軸芯回りに相対回転させて継手構造が完成した後に延長部23と内嵌基端部11との間に形成される溝部に止水材24を埋め込むことによって、間隙が外部に露出しないようにすることができる。なお、図5に示された例では第2の実施形態に係る継手構造において止水材24が埋め込まれているが、第1の実施形態に係る継手構造でも同様に止水材24を埋め込むことが可能である。
図6は、本発明の実施例における偏芯曲げモーメント低減の効果について説明するための図である。図6(A)には、内嵌部材10’および外嵌部材20’を含み、外嵌部材20’の外径が鋼管杭1および鋼管杭2の外径に一致する比較例に係る継手構造が示されている。図6(B)には、内嵌部材10および外嵌部材20を含み、外嵌部材20の外径が鋼管杭1および鋼管杭2の外径よりも大きい本発明の実施例に係る継手構造が示されている。なお、図6では第2の実施形態に係る継手構造が例として示されているが、第1の実施形態を含む他の実施形態でも同様の効果が得られる。
図示されているように、比較例では、内嵌部材10’の内嵌谷部の板厚中心tc10’から鋼管杭1および鋼管杭2の板厚中心tcまでの距離eが大きいため、継手構造に引張力Tが作用したときに大きな偏芯曲げモーメントMが発生する。一方、実施例では、内嵌部材10の内嵌谷部の板厚中心tc10から鋼管杭1および鋼管杭2の板厚中心tcまでの距離eが小さいため、継手構造に引張力Tが作用したときの偏芯曲げモーメントMは比較例に比べて小さくなる。この結果、上述のように、偏芯曲げモーメントMに対抗するために必要とされる内嵌部材10の板厚は、比較例の場合に比べて実施例では薄くなる。
図7は、本発明の実施例における継手構造の軸芯方向長さ短縮の効果について説明するための図である。図6と同様に、図7(A)には外嵌部材20’の外径が鋼管杭1および鋼管杭2の外径に一致する比較例に係る継手構造が示され、図7(B)には本発明の実施例に係る継手構造が示されている。なお、図7では第2の実施形態に係る継手構造が例として示されているが、第1の実施形態を含む他の実施形態でも同様の構成が可能である。
図示されているように、比較例では、鋼管杭1の内周面に対する内嵌部材10’の内周面10Aの張り出し量が大きいため、鋼管杭1と内嵌部材10’との接合面11A’から最初の内嵌段差部12A’までの間の内嵌基端部11’の板厚t11’が厚くなる。内嵌基端部11’には、鋼管杭1から内嵌部材10’に応力をスムーズに伝えるために30°〜45°程度の角度を有するテーパー形状が形成されているため、上記のように内嵌基端部11’の板厚板厚t11’が厚くなることによって内嵌部材10’の軸芯方向長さL’も長くなる。一方、実施例では、鋼管杭1の内周面に対する内嵌部材10の内周面10Aの張り出し量が比較例よりも小さいため、接合面11Aから最初の内嵌段差部12Aまでの間の内嵌基端部11の板厚t11を薄くし、内嵌部材10の軸芯方向長さLを短くすることができる。従って、実施例では、比較例よりも内嵌部材10の材料が節約され、また内嵌部材10の製造が容易になる。
図8は、本発明に係る継手構造の設計例について説明するためのグラフである。上述のように、本実施形態では、継手構造に引張力が作用したときの偏芯曲げモーメントを小さくすることができるため、偏芯曲げモーメントMに対抗しながら内嵌部材10の板厚を薄くすることができる。図8に示されたグラフは、図6(A)に示された比較例と図6(B)に示された実施例との間で、同じ引張力Tを想定した場合に必要とされる内嵌部材の最大板厚t10MAX(比較例の場合、内嵌基端部の板厚。実施例の場合、図4に示す内嵌段差部12Aの内嵌山部123の板厚t123)と、鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tとの関係を示す。なお、鋼管杭1および鋼管杭2の直径は1600mm、材質はSM570である。
図示されているように、比較例では、鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tに対して必要とされる内嵌部材の最大板厚t10MAXが大きい。例えば板厚tが30mmになった場合には最大板厚t10MAXが100mmを超え、このような厚い板厚の内嵌部材を製造することは困難である。一方、実施例では、鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tが24mmに達するまでは内嵌部材10の最大板厚t10MAXが60mm未満であり、板厚tが30mmになっても最大板厚t10MAXが80mm未満に抑えられる。このように、本発明の実施形態に係る継手構造を採用することによって、鋼管杭1および鋼管杭2の板厚tが厚い場合であっても内嵌部材10の最大板厚t10MAXを抑え、材料費を節減できる、または製造自体が困難であったものが可能になる場合がある。
図9は、本発明の実施形態に係る継手構造の設計例について説明するための図である。図9(A)には外嵌部材20’の外径が鋼管杭1および鋼管杭2の外径に一致する比較例に係る継手構造が示され、図9(B)には本発明の実施例に係る継手構造が示されている。それぞれの例において図中に示した寸法を、以下の表1に示す。表1に示されるように、実施例と比較例との間では、内嵌部材10および外嵌部材20の各部の板厚、突出部222の突出厚さt222および軸芯方向長さL222、ならびに内嵌段差部12および外嵌段差部22の各部の厚さt221A、t221D、t121D、t121Aおよび軸芯方向長さL1が同じであり、外嵌基端部21の軸芯方向長さL2および内嵌基端部11の軸芯方向長さL3が異なっている。具体的には、比較例では外嵌基端部21の長さL2が内嵌基端部11の長さL3に比べて顕著に長いのに対して、実施例では長さL2と長さL3とが同程度になっている。なお、鋼管杭1および鋼管杭2の直径は1500mm、板厚tは30mm、材質はSM570(JIS G3106 溶接構造用圧延鋼材)である。
図10は、図9に示す実施例および比較例における有限要素解析で算出された荷重と相当ひずみとの関係を示すグラフである。相当ひずみは、図9(A)および図9(B)にそれぞれ示された、外嵌部材20で外嵌基端部21に最も近い外嵌段差部22の外嵌谷部221と外嵌山部223との境界に位置する突出部222の付け根部分P(ひずみが最大になる部分)における値である。
グラフを参照すると、実施例では、同じ荷重に対する相当ひずみが比較例よりも小さいことがわかる。具体的には、鋼管杭1および鋼管杭2の全塑性耐力Mpに相当する荷重がかかった場合に、比較例の相当ひずみが4.8%であるのに対して、実施例の相当ひずみは3.0%である。この結果から、本発明の実施例に係る継手構造では、比較例に係る継手構造よりも剛性が向上するといえる。従って、同じ荷重が想定されている場合、実施例では比較例よりも内嵌部材10の板厚を薄くすることが可能である。これによって内嵌部材10の材料が節約され、また内嵌部材10の製造が容易になる。
なお、上記では継手構造によって連結される鋼管杭1および鋼管杭2の板厚t1,t2が同じである例について説明したが、板厚t1,t2は異なっていてもよい。この場合、内嵌部材10および外嵌部材20からなる組立体30の板厚中心tc30は、鋼管杭1の板厚中心tc1に一致してもよいし、鋼管杭2の板厚中心tc2に一致してもよいし、板厚中心tc1と板厚中心tc2との中間にあってもよい。この場合、組立体30の板厚中心tc30は、鋼管杭1または鋼管杭2の少なくともいずれかの板厚の範囲に含まれる。ここで、板厚の範囲は、鋼管杭1または鋼管杭2の内周面と外周面との間の範囲を意味する。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。