以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
本実施形態に係る非水電解質電池用無機粒子は、結晶構造中に、マンガンより小さい電気陰性度を有する金属元素を含み、かつ層間距離が0.40nm以上2.0nm以下であり、かつ層間に水素イオン以外の交換性陽イオンを有する層状化合物を含む。本明細書では、層状化合物は、層間の交換性陽イオンが水素イオン以外であるため、リン酸ジルコニウムは交換性陽イオンが水素以外に置換されていることが好ましい。本実施形態に係る無機粒子は、非水電解質電池の構成要素として使用されることができる。
上記で説明された実施形態における構成要素について以下に説明する。
[非水電解質電池]
非水電解質電池は、正極、負極、セパレータ、非水電解液、外装体等の電池構成材料を具備しており、かつ電池構成材料の少なくとも1つには、非水電解質電池の寿命特性又は安全性に影響する物質を吸着する非水電解質電池用無機粒子を含む。非水電解質電池用無機粒子は、非水電解質電池の寿命特性又は安全性に影響する物質を吸着することができる吸着剤としても、使用されることができる。
これらの電極構成材料については、例えば包材又は外装体にはアルミニウム等が、正極活物質にはニッケル、コバルト、マンガン、鉄、亜鉛、銅、アルミニウム等が用いられ、また集電箔には銅、アルミニウム等が用いられる。
非水電解質電池の構成材料に含まれる非水電解質電池用無機粒子は、マンガンよりも電気陰性度が小さい金属元素を少なくとも結晶構造に含み、層間距離が0.40nm以上2.0nm以下であり、かつ層間に交換性陽イオンを有する非金属性層状化合物である。
非金属性層状化合物は、電池性能を決める主体であるLiイオンに何ら作用を及ぼさない。
非水電解質電池用無機粒子の結晶構造については、層状構造を有することによって、リチウムイオン以外の微量の溶出した金属イオンを選択的に効率的に吸着することができる。具体的なメカニズムについては推察の域を出ないが、層状構造を持つことで、金属イオンにとっての比表面積が増大し、金属イオンの吸着サイトが増大することによるものであると考えられる。また、層状構造を有することによって、吸着したイオンの安定化に寄与しているものと考えられる。また、吸着する対象の溶出イオンが二価以上の金属イオンであり、一方で電池性能を決める主体であるLiイオンは一価であることから、Liイオンは対象の溶出イオンに比べて相対的に層状化合物へ吸着し難く、層状化合物は溶出イオンを選択的に吸着できるためであると考えられる。
特に、層状化合物の層間距離は、X線回折又は電子線回折によって測定される面間隔として定義され、その距離が0.40nm以上2.0nm以下であると、金属イオンを効率的に吸着することができることが分かった。その下限はLiイオンを吸着させ難くする観点から、0.50nm以上であることが好ましく、より好ましくは0.80nm以上である。また上限については、溶出イオンの吸着の観点から1.8nm以下であることが好ましく、1.5nm以下であることがより好ましい。その面間隔は、上記の範囲のうち、揃った面間隔を持つ必要はなく、ゆらぎがあってもよい。すなわち、X線回折又は電子線回折における層間距離の対応するピークはブロードである方が好ましく、ダブルピーク又はトリプルピークでもよい。このような面間隔にゆらぎのある層状化合物は、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡)像から層間距離を測定することができる。
また、層状化合物の層状構造については、結晶構造における複数の層の間に交換性陽イオンを保持した構造である。交換性陽イオンの元素としては、水素イオン、アンモニウムイオン、及び金属イオンを挙げることができる。金属イオンとしては、吸着剤から拡散する金属イオンが安定であることが好ましく、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンに属する元素がより好ましく、アルカリ金属とアルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられる。
これらの結晶構造における複数の層の間に保持された交換性陽イオンは一部、水で置換されていてもよく、イオン化していない有機分子で置換されていてもよい。
交換性陽イオンが上記の元素等であることによって、交換性陽イオンは陽イオンとして電解液へと拡散し、その吸着剤にできた空きサイトは負に帯電し、正極活物質や集電箔などの電池構成材料から溶出した金属イオンが吸着する。溶出金属イオンよりも相対的に電気陰性度が小さい交換性陽イオンが電解液へと拡散し、溶出金属イオンが吸着されるイオン交換が起きることによって、電池内部の系全体の電荷バランスは保たれる。すると、電池内部の系全体のポテンシャルは吸着後の方が安定になる。結果として電池構成材料から溶出した金属イオンが減少することになる。
さらに、層状化合物は、電池構成材料から溶出する金属イオンよりも電気陰性度が小さい金属元素を予め吸着剤の結晶構造中に含んでいればよい。それにより、万が一、層状化合物が交換性陽イオンをすべて消費しても、他の電池構成材料から溶出する金属を効率よく減少できる点で好ましい。これは、層状化合物の結晶構造中に含まれる上記金属元素の方が、他の電池構成材料から溶出する金属イオンよりも陽イオンとして安定であることに起因して、電解液中に拡散し易いためであると推測される。
電気陰性度が小さい金属元素としては、電池構成材料中で電気陰性度が最も小さいマンガンよりも電気陰性度が小さいものが好ましい。中でも、無機粒子の結晶構造に含まれる元素は、イオンになった際に二価以上であることが好ましい。それにより、マンガンよりも電気陰性度が小さい金属元素は、一価のリチウムよりも無機粒子の結晶構造に留まり易い。結果、交換性陽イオンのみがイオン交換に基づく吸着を起こし、電池構成材料からの溶出金属イオンだけを効果的に吸着することができる。
マンガンよりも電気陰性度が小さい金属元素としては、例えば、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Sc、Y、ランタノイド、Be、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。
ここで、電気陰性度とは、ポーリング(Pauling)の電気陰性度により定義されるものを意味する。
非水電解質電池は、5ppmのMn2+イオンと、1mol/LのLiPF6と、環状及び/又は鎖状カーボネートとの混合液100質量部に対し、0.035質量部を23℃の雰囲気下で6時間浸漬されたときのMn2+イオンの吸着率が5%以上である非水電解質電池用無機粒子を含むことが好ましい。
Mn2+イオンの吸着率は、混合液中の初期Mn濃度と、混合液に非水電解質電池用無機粒子を前記の条件で浸漬後濾過することにより得られる濾液中のMn濃度の差を、前記の初期Mn濃度で除してから、100を乗じることにより得られる値である。
寿命特性又は安全性に優れる非水電解質電池の構成は、上記で説明された非水電解質電池用無機粒子のように、Liイオンが過剰に存在する状況下においても極めて微量(例えば、ppmオーダーの濃度)なMn2+イオンを選択的に吸着できる非水電解質電池用無機粒子を電池内に含むことによって特定される。
5ppmのMn2+イオンと、1mol/LのLiPF6と、環状及び/又は鎖状カーボネートとの混合液100質量部に対し、0.035質量部を23℃の雰囲気下で6時間浸漬されたときのMn2+イオンの吸着率が5%以上である非水電解質電池用無機粒子としては、例えば、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Sc、Y、ランタノイド、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等の元素を含む材料が挙げられる。その中でも、ケイ酸カルシウム水和物、又はリン酸ジルコニウムが特に好ましい。
環状及び/又は鎖状カーボネートは、後述の非水電解質に用いられる非水溶媒として説明される通りである。
Mn2+イオンの吸着率を測定するための混合液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lとなるように溶解して、さらにトリフルオロメタンスルホン酸マンガン〔Mn(CF3SO3)2〕を、Mnの濃度が5ppmとなるように溶解することにより形成されることが好ましい。
非水電解質電池用無機粒子のMn2+イオンの吸着率を測定するための条件は、実施例で詳細に説明される。
加えて、非水電解質電池用無機粒子は、非水電解質の分解生成物であるフッ化水素(HF)を除去できることがより好ましい。HFを効果的に除去することによって、HFによる正極活物質や集電箔などの電池構成材料からの金属の溶出を抑制することができる。HFを吸着剤が効果的に除去するためには、マンガンよりも小さい電気陰性度を有する金属元素の中でも安定なフッ化物を作る元素がより好ましく、具体的な元素としては、Ti、Zr、Hf、Sc、Y、ランタノイド、Be、Mg、Ca、Sr、及びBaが挙げられる。
電解液中で安定して金属イオンの吸着やHFの除去をするためには、非水電解質電池用無機粒子は、結晶構造に酸素原子を含んでいることが好ましく、結晶構造に含まれるマンガンよりも電気陰性度が小さい金属元素が酸素原子と結合していることがより好ましい。
このような観点から、800ppmのHFと、1mol/LのLiPF6と、環状及び/又は鎖状カーボネートとの混合液100質量部に対して、無機粒子8質量部を23℃の雰囲気下で5分間浸漬したときに、混合液中のHF濃度が10%以上減少することが好ましい。
環状及び/又は鎖状カーボネートは、後述の非水電解質に用いられる非水溶媒として説明される通りである。HF濃度の測定に使用される混合液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lとなるように溶解して、さらにHFを800ppmの濃度となるように溶解することにより形成されることが好ましい。非水電解質電池用無機粒子を混合液に浸漬したときのHF濃度を測定するための条件は、実施例で詳細に説明される。
マンガンよりも電気陰性度の小さい元素は、無機粒子1モルに対してモル比として0.2〜0.8の割合で含まれることが好ましい。その下限は0.25以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.3以上であることが好ましい。その上限としては0.75以下であることが好ましく、0.7以下であることがさらに好ましい。
非水電解質電池用無機粒子は非金属性、すなわち半導体または絶縁体であることが好ましい。特にその電気抵抗率については103Ω・m以上であることが好ましい。電気抵抗率が103Ω・m以上の半導体又は絶縁体は、電池内における充放電特性又は安全性を悪化させないため好ましい。
また、非水電解質電池用無機粒子の平均二次粒子径(D50)については、0.05μm〜4.0μmであることが好ましい。その下限については0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上がさらに好ましい。また、その上限については3.5μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましい。平均二次粒子径を上記範囲内に調整すると、非水電解質電池のエネルギー密度が高まる傾向にある。なお、一次粒子径については特に制限されないが、10nm〜2.0μmが好ましい。
非水電解質電池用無機粒子は水と接触させた際、膨潤力が10ml/2g以下であることが好ましい。膨潤力は、100mlの精製水中で試料2gが吸水膨潤して占める、乱れていない沈降体積として評価する。膨潤力が10ml/2g以下であることによって、非水電解質電池用無機粒子は、電池内に存在する水分又は電解液を吸水膨潤して電池特性の低下を招くことなく、使用されることができる。
非水電解質電池用無機粒子の平均二次粒子径(D50)を0.05μm〜4.0μmの範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法、例えば、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、容器回転式圧縮剪断型ミル法、磁器乳鉢で粉砕する方法等が挙げられる。
非水電解質電池用無機粒子の形状は、球状、板状、針状などでよく、好ましくは板状又は針状であるが、アスペクト比に関しては問わない。
非水電解質電池用無機粒子のBET比表面積は、3m2/g以上であることが好ましい。BET比表面積が3m2/g以上であることによって、非水電解質電池の寿命特性又は安全性をより向上させることができる。また、BET比表面積は、3m2/g以上であり、かつ200m2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が200m2/gを超える場合には、ガスが発生し、電池が膨れる傾向にある。またBET比表面積は30m2/g以下であることが更に好ましく、20m2/g以下であることがより更に好ましく、15m2/g以下であることが特に好ましい。BET比表面積を上記の範囲内に制御することによって、より膨れを抑制し、非水電解質電池の寿命特性又は安全性をより向上させることができる。
非水電解質電池用無機粒子は、非水電解質電池用材料として用いたときに、安定した吸着性能を示すために、電池の圧縮等の外力によって変形、破砕しないように一定以上の硬度が必要である。上記の観点から非水電解質電池用無機粒子のモース硬度は1を超えることが好ましい。
吸着材として使用されることができる具体的な非水電解質電池用無機粒子、すなわち、マンガンよりも電気陰性度が小さい金属元素を少なくとも結晶構造に含み、層間距離が0.40nm以上2.0nm以下であり、かつ層間に交換性陽イオンを有する非金属性層状化合物としては、特に制限されないが、例えば、リチウムイオン以外の微量の金属イオンを選択的に吸着する材料、フッ化水素(HF)の吸着能を有する材料がよく、より詳しくは、ケイ酸カルシウム水和物、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム、チタン酸塩、ニオブ酸塩、ニオブ・チタン酸塩等が挙げられる。
上記で説明された非水電解質電池用無機粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記で説明された非水電解質電池用無機粒子は非水電解質電池の特性を改善するために表面を化学的に修飾することがより好ましい。表面修飾を行うと、表面の親油性を変化させ、金属イオンの吸着性を高めることができる。また、水分の付着性も変化させるため、非水電解質電池の寿命特性又は安全性をより向上させることができるだけでなく、ガス発生による膨れを抑えることができる。
表面修飾方法としては、特に限定されないが、例えば、無機化合物、有機化合物等で無機粒子表面を被覆する方法、水・有機溶媒等の液に浸漬する方法、熱処理する方法等が挙げられる。
カップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ホスホン酸系カップリング剤等を用いることができ、これらのカップリング剤は、複合して用いてよい。シラン系カップリング剤を用いた場合は、無機粒子の表面に、ケイ素(Si)を含有する化合物で表面処理層が形成される。アルミネート系カップリング剤を用いた場合は、無機粒子の表面に、アルミニウム(Al)を含有する化合物で表面処理層が形成される。チタネート系カップリング剤等を用いた場合、無機粒子の表面に、チタン(Ti)を含有する化合物で表面処理層が形成される。また、ホスホン酸系カップリング剤等を用いた場合、無機粒子の表面に、リン(P)を含有する化合物で表面処理層が形成される。カップリング剤による表面改質は、公知の処理方法に従って適宜施すことができ、例えば、シラン系カップリング剤による表面改質としては、直接処理法(乾式及び/又は湿式)、インテグラルブレンド法、プライマー型の処理法等がある。また、市販される粉末製品の中から表面改質された無機粒子を適宜選択して用いてもよい。シラン系カップリング剤以外のカップリング剤として、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ホスホン酸系カップリング剤等を用いた場合にも同様の表面処理が可能である。また、非水電解質電池用無機粒子については、シリコーン変性樹脂、フッ素変性樹脂、変性ポリエチレン樹脂等による樹脂表面処理、シリカによる処理、SiO2−Al2O3による処理等で表面処理をしてもカップリング剤と同様の効果が付与される。これらの中で、非水電解質との親和性を高め、金属イオンの吸着性を高め、非水電解質電池の寿命特性又は安全性をより効果的に改善できるという観点から、カップリング剤によって無機粒子表面を修飾することがより好ましい。
〈シランカップリング剤〉
前記シランカップリング剤としては、特に制限されないが、ビニル系シランカップリング剤、アルキル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、スチリル系シランカップリング剤、(メタ)アクリロキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、クロロプロピル系シランカップリング剤、ポリスルフィド系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、トリアジン系シランカップリング剤およびイミダゾール系シランカップリング剤などが挙げられ、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤および(メタ)アクリロキシ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。シランカップリング剤は1種単独で、または2種以上を混合して使用できる。
このようなシランカップリング剤としては、従来公知の方法で製造したものを用いてもよく、または市販品を用いてもよい。
〈チタネートカップリング剤〉
前記チタネートカップリング剤としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、ブチルチタネートダイマー、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、テトラメチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクタンジオレート、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタントリエタノールアミネート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられ、市販品としては、KR38S、KR44、KR46B、KR55、KR9SA、KRTTS、KR41B、KR138S、KR238S、KR338X(全て味の素ファインテクノ(株)製)等が挙げられる。
このようなチタネートカップリング剤としては、従来公知の方法で製造したものを用いてもよく、または市販品を用いてもよい。
〈アルミネートカップリング剤〉
前記アルミネートカップリング剤としては、アルミニウムイソプロピレート、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキシモノオレイルアセトアセテート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレート等が挙げられ、市販品としては、プレンアクトAL−M(アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(味の素ファインテクノ(株)製)等が挙げられる。
このようなアルミネートカップリング剤としては、従来公知の方法で製造したものを用いてもよく、または市販品を用いてもよい。
〈ホスホン酸系カップリング剤〉
ホスホン酸系カップリング剤の具体例としては、ブチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、6−ホスホノヘキサン酸、11−アセチルメルカプトウンデシルホスホン酸、11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸、11−メルカプトウンデシルホスホン酸、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクタンホスホン酸、11−ホスホノウンデシルホスホン酸、16−ホスホノヘキサデカン酸、1,8−オクタンジホスホン酸、1,10−デシルジホスホン酸、1,12−ドデシルジホスホン酸、ベンジルホスホン酸、4−フルオロベンジルホスホン酸、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジルホスホン酸、4−ニトロベンジルホスホン酸、12−ペンタフルオロフェノキシドデシルホスホン酸、(12−ホスホノドデシル)ホスホン酸、16−ホスホノヘキサデカン酸、11−ホスホノウンデカン酸等を挙げることができる。また、[2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル]ホスホン酸等の化合物も対象表面に適用可能である。
このようなホスホン酸カップリング剤としては、従来公知の方法で製造したものを用いてもよく、または市販品を用いてもよい。
〈シリコーン変性樹脂〉
前記シリコーン変性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコーン変性ポリイミド、シリコーン変性ポリアミドイミド、シリコーン変性ポリアミド、シリコーン変性ポリカーボネート、シリコーン変性アクリル、シリコーン変性エポキシ、シリコーン変性ウレタン、シリコーン変性ポリエステル、シリコーン変性オレフィン、シリコーン変性ビニル、シリコーン変性フェノキシなどが挙げられる。
〈フッ素変性樹脂〉
前記フッ素変性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチエン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、ポリフッ化ビニルエーテル(PFVE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
〈変性ポリオレフィン〉
前記変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体及びその塩化物、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体及びその塩化物、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ブテン共重合体及びその塩化物、アクリル酸変性プロピレン系重合体及びその塩化物、アクリル酸変性エチレン−プロピレン共重合体及びその塩化物、アクリル酸変性プロピレン−ブテン共重合体及びその塩化物等が挙げられる。
[親水性パラメーターA]
本実施形態の非水電解質電池用無機粒子および表面処理を施した非水電解質電池用無機粒子は、下記式:
親水性パラメーターA=BET1/BET2
{式中、BET1は、無機粒子に水蒸気を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出された無機粒子の比表面積を意味し、BET2は、無機粒子に窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出された無機粒子の比表面積を意味する。}
で定義される親水性パラメーターAが、0.65より大きく2.0以下であることが好ましい。親水性パラメーターAは、より好ましくは0.65より大きく1.8以下、さらに好ましくは0.65より大きく1.6以下である。親水性パラメーターAが0.65より大きく2.0以下であると、上記で説明されたような金属イオンの吸着性能が得られる。
BET1は、無機粒子に対する水の化学吸着量を反映した値である。具体的には、所定の温度で、無機粒子に、水蒸気をその分圧を変更しながら供給することによって、無機粒子に水蒸気を吸着させる。この操作中の無機粒子への水蒸気の吸着量を測定することによって、吸着等温線が得られる。吸着等温線は、無機粒子に対する水の化学吸着量を反映していると考えられ、無機粒子の親水性に関する情報が含まれると考えられる。
BET2は、通常使用される窒素吸着法により測定される無機粒子のBET比表面積である。具体的には、所定の温度で無機粒子に、窒素をその分圧を変更しながら供給することによって、無機粒子に窒素を吸着させる。この操作中の無機粒子への窒素の吸着量を測定することによって、吸着等温線が得られる。
BET1をBET2で除することで、無機粒子単位比表面積当たりの水の化学吸着量を反映した値が得られる。親水性パラメーターAの値が大きい程、無機粒子表面の親水性が高いことを表す。
本実施形態の無機粒子は、非水電解質電池用無機粒子および表面処理を施した非水電解質電池用無機粒子に含まれ、親水性パラメーターA(=BET1/BET2)が、0.65より大きく2.0以下であることを満たしていれば、その材料は限定されない。上記親水性パラメーターA(=BET1/BET2)の値が、その下限(0.65)より大きいことによって、該無機粒子は金属イオンと良好な相互作用を示し、粒子の表面で効果的に金属イオンを吸着できる。また上記親水性パラメーターAの上限(2.0)以下であることによって電池の膨れを抑制することができる。
親水性パラメーターAを上記の範囲内に制御するためには特に方法は問わない。無機粒子の親水性基の数を制御、特に表面水酸基の数を制御することで、上記の値を概ね制御することができる。すなわち、上記の範囲における下限値を下回る物質に関しては、例えば、水と接触させた状態で粉砕等をすることによって上記の範囲内に収めることができる。また、上記の範囲における上限値を上回る物質に関しては、上記で示したカップリング剤等の表面処理を施すことによって、水酸基を減らすことでできる。また、例えば、800℃以上の高温で無機粒子を処理すると表面水酸基を減らすこともできる。
[吸着材]
吸着剤として使用される非水電解質電池用無機粒子は、非水電解質電池において、外装体、正極、負極及びセパレータを含む正極と負極の間の任意の位置に存在することで、より効果的に溶出した金属イオンの悪影響を低減できる。よって、非水電解質電池用無機粒子を含む吸着剤は、正極、負極及びセパレータに含有されることが好ましく、非水電解質電池の製造工程の汎用性に優れることから、セパレータに含有されることがより好ましい。
非水電解質電池は、上記で列挙された非水電解質電池用無機粒子の中でも、寿命特性又は安全性をさらに向上させるという観点から、ケイ酸カルシウム水和物又はリン酸ジルコニウムを電池内に含有することがより好ましい。
また、非水電解質電池は、正極、負極、非水電解質、セパレータ、及び外装体の少なくとも一つが、吸着剤又は吸着層とし非水電解質電池用無機粒子を含有することがより好ましい。
非水電解質電池用無機粒子は、これらの電池構成材料の1つのみに含有させてもよく、2つ以上に含有させてもよい。
[ケイ酸カルシウム水和物]
ケイ酸カルシウム水和物は、CaO−SiO2−H2O系の化合物と呼ばれる材料群である。
ケイ酸カルシウム水和物としては、結晶性のものとして、高温相を含めて約25種類が知られている。ケイ酸カルシウム水和物は層状構造を持つことがより好ましい。具体的な例としては、トバモライト系、ジャイロライト系等のケイ酸カルシウム水和物が挙げられる。
トバモライト系としては、トバモライト(9Å、11Å、14Å等)、タカラナイト、プロンビエライト、トバモライト前駆体としても知られる低結晶質ケイ酸カルシウム水和物(以下「CSH」という」等が挙げられ、ジャイロライト系としては、ジャイロライト、トラスコット石、ジャイロライト合成時に中間相として生成するZ相(Z−phase)等が挙げられる。これらの中で層状のケイ酸カルシウム水和物としては、トバモライト系が好ましい。
ケイ酸カルシウム水和物が、トバモライト系であることは、粉末X線回折の回折パターンにおいて、28〜30°(2θ)に(220)面の回折ピークを示すこと等から識別することができる。
また、トバモライト系の中でも、層間距離の秩序性が低い(結晶性が低い)ものがより好ましい。このような層状のケイ酸カルシウム水和物としては、特に限定されないが、低結晶質ケイ酸カルシウム水和物(CSH)等が挙げられる。CSHは、粉末X線回折の回折パターンで、29.1〜29.6°(2θ)付近に比較的ブロードな回折ピークを示すことから、存在の有無を識別することができる。CSHのような層間距離の秩序性が低い(結晶性が低い)層状のケイ酸カルシウム水和物が、前述の金属イオンの悪影響を低減できる理由は定かでないが、層間距離が或る分布を持つことで、様々な種類の金属イオンに対して作用するためと推定される。層間距離の秩序性(結晶性)は、例えば、粉末X線回折における(002)面由来の回折ピークの強度として現れる。より具体的には、層間距離の秩序性が高い(結晶性が高い)ほど回折ピークが明瞭となる。すなわち、層状のケイ酸カルシウム水和物において、粉末X線回折において、6〜9°(2θ)に現れる(002)面由来の回折ピークがより不明瞭であるものが、より好ましい。
より具体的には、粉末X線回折において、28〜30°(2θ)に現れる(220)面の回折ピーク強度I(220)に対する6〜9°(2θ)に現れる(002)面の回折ピーク強度I(002)の比〔I(002)/I(220)〕の値が好ましくは1以下であり、より好ましくは、0.5以下であり、更に好ましくは、0.35以下である。回折ピーク強度I(220)に対する(002)面の回折ピーク強度I(002)の比〔I(002)/I(220)〕を、このような値にすることで、非水電解質電池の寿命特性又は安全性はより優れる傾向がある。
また、ケイ酸カルシウム水和物は、結晶内に水分子を有している。結晶内に含まれている水分子の重量割合は、例えば、熱分析法、具体的には、TG−DTA(示差熱・熱重量同時測定)で、100℃〜300℃付近に、水和水を含む際の吸熱ピークと共に、確認される水分子の重量減少量から測定することができる。ただし、層間距離が0.40nm以上2.0nm以下である限り、吸着剤としての機能に何ら影響を与えないため、ケイ酸カルシウムの結晶中に存在する水分子の含有量について問わない。脱水の方法としては、例えば、溶媒による脱水又は熱処理による脱水が挙げられる。また、脱水によって空いたケイ酸カルシウム水和物の吸着サイトは、有機分子又は金属イオンで置換されていてもよい。
ケイ酸カルシウム水和物は、Ca又はSi元素の一部を他の元素で置換してもよい。置換元素については、特に制限されないが、例えば、トバモライト系において、一部のSi元素をAl元素に置換し、更に、電荷補償のためにNa、K元素等も同時に導入することができる。この場合、粉末X線回折の回折パターンにおいて、28〜30°(2θ)に(220)面の回折ピークが現れるものを用いることが好ましい。
他の元素への置換量は、結晶構造を保持するために、置換前のSi及びAl元素の合計量に対し、40モル%以下であることが好ましい。
また、ケイ酸カルシウム水和物の平均二次粒子径(D50)については、0.05μm〜4.0μmであることが好ましく、0.1μm〜3.5μmであることがより好ましく、0.2μm〜3.5μmであることがさらに好ましい。平均二次粒子径を上記範囲内に調整すると、非水電解質電池のエネルギー密度が高まる傾向にある。なお、一次粒子径については特に制限されないが、10nm〜2.0μmが好ましい。
ケイ酸カルシウム水和物の平均二次粒子径(D50)を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法、例えば、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、容器回転式圧縮剪断型ミル法、磁器乳鉢で粉砕する方法等が挙げられる。
また、ケイ酸カルシウム水和物は、特に限定されないが、酸やアルカリ処理などの方法で、後処理されてもよい。
また、ケイ酸カルシウム水和物は、特に限定されないが、他の成分を含有していてもよい。他の成分の含有量は、0〜50%の範囲であればよい。他の成分は、ケイ酸カルシウム水和物の化学構造又は結晶構造が維持されれば特に制限されないが、例えば、調湿のため、シリカゲル等の乾燥剤を含んでいてもよい。
ケイ酸カルシウム水和物のBET比表面積(上記で説明されたBET2)は、10m2/g以上であることが好ましい。BET比表面積が10m2/g以上であることによって、非水電解質電池の寿命特性又は安全性をより向上させることができる。また、BET比表面積は、10m2/g以上であり、かつ200m2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が200m2/gを超える場合には、ガスが発生し、電池が膨れる傾向にある。
ケイ酸カルシウム水和物の製造方法は、特に制限されることなく、従来公知の方法でよいが、例えば、珪酸質原料と石灰質原料とを水中に分散させた後、高温・高圧条件下で養生する水熱合成技術などが挙げられる。
珪酸質原料としては、その中のSiO2の含有量が50質量%以上の原料を言う。例えば、結晶質の珪石、珪砂、石英含有率の高い岩石等;又は珪藻土、シリカヒューム、フライアッシュ、及びカオリン質粘土、モンモリロナイト質粘土等の天然の粘土鉱物若しくはそれらの焼成物等である。珪酸質原料として、水ガラス等のケイ酸水溶液を用いることもできる。
石灰質原料とは、酸化物換算でCaOを50質量%以上含む原料であり、生石灰、消石灰等を言う。さらに、石灰質原料として、カルシウムを含む高純度な硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物等も利用できる。さらに、これらに加えて、カルシウム成分を主体とするセメント類、すなわち普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、ビーライトセメント、各種アルミナセメント等も石灰質原料として用いることができる。
トバモライト、ジャイロライト等の結晶質の層状ケイ酸カルシウム水和物を合成する際には、水熱合成条件として、150℃〜250℃付近の飽和水蒸気下での養生、すなわちオートクレーブを用いた養生を利用できる。低結晶質ケイ酸カルシウム水和物(CSH)を合成するための合成温度としては、150℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは室温付近である。
一般に、CSHはポルトランドセメント等を水和して得られるセメント硬化体の主成分であることが報告されている。すなわち、CSHとしてセメントを水和して得られる水和物をケイ酸カルシウム水和物として用いることもできる。この場合、十分に水和した硬化体を前述した方法で粉砕して、粉砕物をそのまま用いることができる。
次に、ケイ酸カルシウム水和物の珪酸質原料(SiO2)と石灰質原料(CaO)のCa/Si元素比(以下、単に「C/S比」という。)について説明する。
ケイ酸カルシウム水和物のC/S比は、0.3以上、2.0以下であることが好ましい。C/S比が0.3以上であることで、非水電解質電池の寿命特性又は安全性がより向上する傾向にある。また、C/S比が2.0を超えると層状構造が形成し難くなるため、溶出金属イオンの悪影響を除外する吸着能力が低下する傾向がある。また、C/S比は、0.6以上、2.0以下であることがより好ましい。
ケイ酸カルシウム水和物のC/S比は、一般的な元素分析法、例えば、硝酸等の酸で分解した後にICP発光分光分析を行うことで、測定することができる。
上記で説明されたケイ酸カルシウム水和物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、ケイ酸カルシウム水和物は、非水電解質電池において、正極、負極及びセパレータを含む正極と負極の間の任意の位置に存在することで、より効果的に析出した金属イオンの悪影響を低減できる。よって、ケイ酸カルシウム水和物は、正極、負極及びセパレータに含有されることが好ましく、非水電解質電池の製造工程の汎用性に優れることから、セパレータに含有されることがより好ましい。
[リン酸ジルコニウム]
リン酸ジルコニウムには、非晶質、層状構造および網目構造を取る結晶質のものがある。リン酸ジルコニウムとしては、これらの中でも金属吸着能力及びHF除去能力に優れることから層状構造を取る層状リン酸ジルコニウムであるZr2(HPO4)2・nH2Oが好ましい。
リン酸ジルコニウムは、Zr元素、P元素の一部、H元素の一部及び/または全部を他の元素で置換してもよい。置換元素については、層間距離が0.40nm以上2.0nm以下であり、かつ層間に交換性陽イオンが保持されれば、特に制限されないが、例えば、一部のZr元素をHf元素に置換することができる。一部のZr元素をHf元素に置換することで、金属吸着能力をより高くすることができる。また、H元素の一部及び/または全部をLiイオン等のアルカリ金属、アンモニウムイオン及びオキソニウムイオン等の1価の陽イオンに置換することができる。H元素をLiイオンで置き換えることで、非水電解質電池の寿命特性又は安全性をより向上することができる。
また、リン酸ジルコニウムは、結晶内に水分子を有している。結晶内に含まれている水分子の重量割合は、例えば、熱分析法、具体的には、TG−DTA(示差熱・熱重量同時測定)で、100℃〜300℃付近に、水和水を含む際の吸熱ピークと共に、確認される水分子の重量減少量から測定することができる。ただし、層間距離が0.40nm以上2.0nm以下である限り、吸着剤としての機能に何ら影響を与えないため、リン酸ジルコニウムの結晶中に存在する水分子の含有量について問わない。脱水の方法としては、例えば、溶媒による脱水又は熱処理による脱水が挙げられる。また、脱水によって空いたリン酸ジルコニウムの吸着サイトは、有機分子又は金属イオンで置換されていてもよい。
リン酸ジルコニウムの製造方法は、特に制限されることなく、従来公知の方法でよいが、例えば、原料を水中で混合後、常圧下で加熱して製造する湿式法、水中または水を含有した状態で原料を混合後、加圧加湿して製造する水熱法が挙げられる。
湿式法の製造方法は、具体的には、ジルコニウム化合物を含有する水溶液とリン酸及び/またはその塩を含有する水溶液とを混合して沈殿物を生じさせ、熟成することにより製造される。
製造工程において、所望により、シュウ酸化合物を添加してもよい。シュウ酸化合物の添加により、より速く、効率的に製造可能となる。
当該熟成は、常温で行ってもよいが、熟成を早めるため90℃以上の湿式常圧で行うことが好ましく、常圧よりも高い圧力雰囲気で100℃を超える条件である水熱条件で行ってもよい。水熱条件で層状リン酸ジルコニウムを製造する場合は、130℃以下で行うことが製造コストの面から好ましい。
リン酸ジルコニウムを製造するときの時間は、当該層状構造が得られれば特に制限されない。例えば、リン酸及び/またはその塩とジルコニウム化合物とを混合させて沈殿を生じさせた後、熟成させることでリン酸ジルコニウムが得られる。熟成の時間は温度により異なり、90℃の場合は4時間以上が好ましい。熟成時間は、生産性の観点から24時間以内であることが好ましい。
製造したリン酸ジルコニウムは、さらにろ別し、よく水洗後、乾燥、粉砕することで微粒子状のリン酸ジルコニウムが得られる。
リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるジルコニウム化合物としては、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、及びオキシ塩化ジルコニウムなどが挙げられ、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムが好ましく、反応性や経済性などを考慮すると、オキシ塩化ジルコニウムがより好ましい。
層状リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるリン酸またはリン酸塩としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸アンモニウムなどが例示され、リン酸が好ましく、質量濃度で75%〜85%程度の高濃度のリン酸であることがより好ましい。
リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるシュウ酸化合物としては、シュウ酸2水和物、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸水素アンモニウムなどが挙げられ、シュウ酸2水和物がより好ましい。
リン酸ジルコニウムの各種合成原料の配合割合について以下に述べる。
リン酸またはリン酸塩の配合割合は、ジルコニウム化合物に対する仕込みのモル比率で、2〜3が好ましく、2.1〜2.6であることがより好ましい。この比率にすることで、層状リン酸ジルコニウムが収率よく製造される。
シュウ酸の配合割合は、ジルコニウム化合物に対するモル比率で、2.5〜3.5であることが好ましく、2.8〜3.0であることがより好ましい。この比率にすることで、リン酸ジルコニウムの製造が容易になる。
リン酸ジルコニウムを製造するときの反応スラリー中の固形分濃度は、3質量%以上が好ましく、生産コストを考慮すると7%〜15%であることがより好ましい。
また、リン酸ジルコニウムの平均二次粒子径(D50)については、0.05μm〜4.0μmであることが好ましく、0.1μm〜3.5μmであることがより好ましく、0.2μm〜3.0μmであることがさらに好ましい。平均二次粒子径(D50)を上記範囲内に調整すると、非水電解質電池のエネルギー密度が高まる傾向にある。
リン酸ジルコニウムの平均二次粒子径を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、前述したケイ酸カルシウム水和物の平均二次粒子径を制御する方法が同様に適用できる。
また、リン酸ジルコニウムは、特に限定されないが、酸又はアルカリ処理などの方法で、後処理されてもよい。
また、リン酸ジルコニウムは、特に限定されないが、他の成分を含有していてもよい。他の成分の含有量は、0〜50%の範囲であればよい。他の成分は、層状リン酸ジルコニウムの化学構造又は結晶構造が維持されれば特に制限されないが、例えば、調湿のため、シリカゲル等の乾燥剤を含んでいてもよい。
リン酸ジルコニウムのBET比表面積(上記で説明されたBET2)は、3m2/g以上であることが好ましい。BET比表面積が3m2/g以上であることによって、非水電解質電池の寿命特性又は安全性をより向上させることができる。また、BET比表面積は、10m2/g以上であり、かつ200m2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が200m2/gを超える場合には、ガスが発生し、電池が膨れる傾向にある。
[第二の無機粒子]
非水電解質電池用無機粒子である第一の無機粒子を含む層には、さらに第二の無機粒子を含むことが好ましい。非水電解質電池用無機粒子は電池内の金属を吸着し、非水電解質電池の寿命を伸ばし、安全性を高めることができる。しかしながら、粒子が凝集している場合には、電解液との接触面積が減少し、良好な金属吸着特性を示すことが困難となる。これを防ぐため、第二の無機粒子を非水電解質用無機粒子と混合することが好ましい。第二の無機粒子を非水電解質用無機粒子と混合することで、非水電解質電池用無機粒子の凝集を防ぎ、吸着特性を最大限発揮し、良好な金属吸着特性を発現することが可能になる。
第二の無機粒子は非金属性、すなわち半導体または絶縁体であることが好ましい。特にその電気抵抗率については103Ω・m以上であることが好ましい。電気抵抗率が103Ω・m以上の半導体又は絶縁体は、電池内における充放電特性又は安全性を損なわないため好ましい。
上記で説明された層状化合物を含む第一の無機粒子と第二の無機粒子との混合物において、第一の無機粒子の分散性を向上させるという観点から、SEM観察により得られる第二の無機粒子の平均粒子径は、SEM観察により得られる第一の無機粒子の平均粒子径より大きい。
本明細書では、無機粒子の平均粒子径とは、n個の無機粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察において、個別粒子画像の中心を通って横断する最短線分の長さの和をnで除することにより得られる平均厚みを意味する。無機粒子の平均粒子径は、例えば、無機粒子の乾燥粉末のSEM観察、又は無機粒子を含む分散液をセパレータに塗工し、乾燥して得られる塗工層の断面のSEM観察において、20個の無機粒子の厚みを測定し、合計厚みを20で除することにより算出される。
なお、本明細書では、SEM観察により得られる「無機粒子の平均粒子径」は、無機粒子含有分散液の粒度分布測定により得られる「無機粒子の平均二次粒子径(D50)」と区別されるものである。
第一の無機粒子の分散性の観点から、第二の無機粒子の形状は、板状であることが好ましい。同様の観点から、第一の無機粒子と第二の無機粒子を含む混合物については、層状化合物と対応する第一の無機粒子の平均粒子径は、0.01μm以上2μm以下であり、かつ第二の無機粒子の平均粒子径は、0.1μm以上3μm以下であることが好ましく、第一の無機粒子の平均粒子径は0.02μm以上1μm以下であり、かつ第二の無機粒子の平均粒子径は0.5μm以上2μm以下であることがより好ましい。
また、第二の無機粒子の平均二次粒子径(D50)については、0.1μm〜5.0μmであることが好ましい。その下限については0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。また、その上限については4.5μm以下であることがより好ましく、4.0μm以下であることがさらに好ましい。平均二次粒子径(D50)を上記範囲内に調整すると、非水電解質電池のエネルギー密度が高まる傾向にある。なお、一次粒子径については特に制限されないが、10nm〜3.0μmが好ましい。
第二の無機粒子の平均二次粒子径(D50)を0.1μm〜5.0μmの範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法、例えば、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、容器回転式圧縮剪断型ミル法、磁器乳鉢で粉砕する方法等が挙げられる。
第二の無機粒子の形状は、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状などでよい。非水電解質電池用無機粒子である第一の無機粒子の分散性の観点からは、第二の無機粒子は、好ましくは板状又は針状であるが、アスペクト比に関しては問わない。
第二の無機粒子のBET比表面積(上記で説明されたBET2)は、0.1m2/g以上であることが好ましい。BET比表面積が0.1m2/g以上であることによって、第一の無機粒子の分散性をより向上させることができる。また、BET比表面積は、1m2/g以上であり、かつ20m2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が20m2/gを超える場合には、ガスが発生し、電池が膨れる傾向にある。
上記で説明された第二の無機粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
第二の無機粒子は、好ましくは、層状複水酸化物(Mg−Alタイプ、Mg−Feタイプ、Ni−Feタイプ、Li−Alタイプ)、層状複水酸化物−アルミナシリカゲル複合体、ベーマイト、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化鉄、オキシ水酸化鉄、ヘマタイト、酸化ビスマス、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの陰イオン吸着材、ヒドロキシアパタイトなどの陽イオン吸着材、ゼオライト、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、石膏、硫酸バリウムなどの炭酸塩および硫酸塩、アルミナ三水和物(ATH)、ヒュームドシリカ、沈殿シリカ、ジルコニア、イットリアなどの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、水酸化マグネシウム、シリコンカーバイド、タルク、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、アメサイト、ベントナイトなどの層状シリケート、アスベスト、ケイ藻土、ガラス繊維、合成層状シリケート、例えば、雲母またはフルオロ雲母、中性層状シリケート、例えば、ヘクトライト、サポナイト、またはバーミキュライト、ナノクレイ、インターカレーションおよび剥離を改善する改良剤を含有する天然または合成層状シリケート、ホウ酸亜鉛、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、SiO2−MgO(ケイ酸マグネシウム)、水酸化マグネシウム、SiO2−CaO(ケイ酸カルシウム)、ハイドロタルサイト、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ランタン、炭酸セリウム、塩基性酢酸銅および塩基性硫酸鉛からなる群から選択される無機粒子でよい。
特に第二の無機粒子が陰イオン吸着材および/または塩基性無機粒子であることが好ましい。第二の無機粒子が陰イオン吸着材であることによって、非水電解質電池用無機粒子の金属吸着能はさらに高まる。また、第二の無機粒子が塩基性無機粒子であることで、HFをより効率的に吸着することができる。
陰イオン吸着材としては、限定されないが、例えば、層状複水酸化物(Mg−Alタイプ、Mg−Feタイプ、Ni−Feタイプ、Li−Alタイプ)、層状複水酸化物−アルミナシリカゲル複合体、ベーマイト、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化鉄、オキシ水酸化鉄、ヘマタイト、酸化ビスマス、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。水分量が比較的少なく、電池の膨れを防ぐ観点から、陰イオン吸着材としては、ベーマイト、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化鉄、オキシ水酸化鉄、ヘマタイト、酸化ランタン、酸化ビスマス、酸化スズ、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等、塩基性無機粒子としては、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、SiO2−MgO(ケイ酸マグネシウム)、水酸化マグネシウム、SiO2−CaO(ケイ酸カルシウム)、ハイドロタルサイト、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ランタン、炭酸セリウム、塩基性酢酸銅および塩基性硫酸鉛が好ましい。陰イオン吸着材および/または塩基性無機粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、第一の無機粒子と、第二の無機粒子は、平均粒子径の異なる2種類以上の無機粒子に対して、X線又は電子線回折やTEM(透過型電子顕微鏡)を測定することで、平均粒子径が小さく、かつ、層状構造を有する第一の無機粒子と、平均粒子径が大きく、かつ、層状構造を有さない第二の無機粒子とに、明確に区別することができる。
[電池構成材料]
非水電解質電池を形成する電池構成材料は、正極、負極、電極端子、セパレータ、非水電解質、非水電解液、包材、外装体等である。上記で説明された非水電解質電池用無機粒子を含む電池構成材料及び上記で説明された非水電解質電池用無機粒子(第一の無機粒子)と第二の無機粒子の混合物を含む電池構成材料も本発明の一態様である。
[セパレータ]
セパレータは、イオンの透過性が高く、かつ正極と負極とを電気的に隔離する機能を有するものであればよい。非水電解質電池に用いられる従来公知のセパレータを用いることができ、特に制限されない。
具体的には、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタンなどのように、電池中の非水電解質に対して安定であり、かつ電気化学的に安定な材料で構成された微多孔膜又は不織布などをセパレータとして用いることができる。なお、セパレータは、80℃以上(より好ましくは100℃以上)180℃以下(より好ましくは150℃以下)において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましい。よって、セパレータには、融解温度、すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が、80℃以上(より好ましくは100℃以上)180℃以下(より好ましくは150℃以下)のポリオレフィンを含む微多孔膜又は不織布を用いることがより好ましい。この場合、セパレータとなる微多孔膜又は不織布は、例えば、PEのみで形成されていても、PPのみで形成されていてもよく、さらには2種類以上の材料を含んでいてもよい。また、セパレータは、PE製の微多孔膜とPP製の微多孔膜との積層体(例えば、PP/PE/PP三層積層体など)などでもよい。
なお、上記の微多孔膜としては、例えば、従来から知られている溶剤抽出法、乾式又は湿式延伸法などにより形成された孔を多数有するイオン透過性の多孔質膜(非水電解質電池のセパレータとして汎用されている微多孔膜)を用いることができる。
上記で説明された吸着剤(すなわち、上記で説明された非水電解質電池用無機粒子及び非水電解質電池用無機粒子混合物)を含有する非水電解質電池用セパレータも本発明の一態様である。
セパレータに無機粒子を含有させる場合には、上記の微多孔膜又は不織布中に無機粒子を含有させて、単層構造のセパレータを形成することができるだけでなく、上記の微多孔膜又は不織布を基材として使用し、その片面又は両面に無機粒子を含有する多孔質層を配置して、多層構造のセパレータを形成することもできる。
上記で説明された多層構造のセパレータにおいては、基材となる微多孔膜又は不織布が、正極と負極との短絡を防止しつつ、イオンを透過するセパレータ本来の機能を有する層となり、無機粒子を含有する多孔質層が、正極活物質から非水電解質中に溶出した金属イオンを吸着する役割を担う。このような観点から、非水電解質電池用無機粒子又は非水電解質電池用無機粒子混合物が基材の少なくとも一面に製膜されているセパレータが好ましい。
また、上記の多層構造のセパレータにおいては、シャットダウン機能を確保するために、上記の基材が、上記の融解温度を有するポリオレフィンを主体とする微多孔膜又は不織布であることが好ましく、上記の融解温度を有するポリオレフィンを主体とする微多孔膜であることがより好ましい。すなわち、多層構造のセパレータは、無機粒子を含有する多孔質層と、上記の融解温度を有するポリオレフィンを主体とする多孔質層とを有していることが特に好ましい。
なお、上記の多層構造のセパレータにおいては、基材となる不微多孔膜又は不織布と、無機粒子を含有する多孔質層とは一体であってもよく、それぞれが独立の膜であり、電池内で重ね合わせられてセパレータを構成していてもよい。
無機粒子を含有する多孔質層と、上記の融解温度を有するポリオレフィンを主体とする多孔質層とを有する多層構造のセパレータにおいて、ポリオレフィンを主体とする多孔質層は、その構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中におけるポリオレフィンの含有量が、50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、100体積%以下であることが特に好ましい。
なお、無機粒子を含有する多孔質層と、上記の融解温度を有するポリオレフィンを主体とする多孔質層とを有する多層構造のセパレータについては、ポリオレフィンを主体とする多孔質層(特に微多孔膜)は、電池内が高温となることによって熱収縮を起こし易い。しかし、上記の多層構造のセパレータにおいては、熱収縮し難い無機粒子を含有する多孔質層が、耐熱層として作用し、セパレータ全体の熱収縮が抑制されるため、より高温下での安全性に優れた非水電解質電池を達成することができる。
上記の多層構造のセパレータを使用する場合、無機粒子を含有する層には、無機粒子同士を結着させるために、又は無機粒子を含有する層と基材(上記の不織布又は微多孔膜)とを結着するために、バインダーを含有させることが好ましい。
上記バインダーとしては、特に限定はないが、例えば、セパレータを使用する際に、電解液に対して不溶又は難溶であり、かつ電気化学的に安定なものが好ましい。このようなバインダーとしては、特に限定はないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン;フッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、樹脂製ラテックスバインダーが好ましい。なお、本明細書において「樹脂製ラテックス」とは樹脂が媒体に分散した状態のものを示す。吸着剤及び樹脂製ラテックスバインダーを含む層を有するセパレータのイオン透過性が低下し難く、高出力特性が得られ易い傾向にある。加えて、異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン性能を示し、また耐熱収縮性が高く、高い安全性が得られ易い傾向にある。
樹脂製ラテックスバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族共役ジエン系単量体又は不飽和カルボン酸単量体、及びこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られるものが挙げられる。このような樹脂製ラテックスバインダーを用いることにより、電気化学的安定性と結着性がより向上する傾向にある。なお、乳化重合方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。また、単量体及びその他の成分の添加方法についても、特に限定されず、一括添加方法、分割添加方法、又は連続添加方法の何れも採用することができる。また、一段重合、二段重合又は多段階重合の何れも採用することができる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。脂肪族共役ジエン系単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのモノ又はジカルボン酸(無水物)等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、及び/又はメタクリル酸が好ましい。不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
脂肪族共役ジエン系単量体又は不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられる。これらの中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、メチルメタクリレートが好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、上記で説明された単量体に加えて、様々な品質及び物性を改良するために、上記以外の単量体成分をさらに使用することもできる。
樹脂製ラテックスバインダーの平均粒子径は、50nm〜500nmが好ましく、60nm〜460nmがより好ましく、70nm〜420nmがさらに好ましい。平均粒子径が50nm以上であることにより、吸着剤及び樹脂製ラテックスバインダーを含む層を有するセパレータのイオン透過性が低下し難く、高出力特性が得られ易い傾向にある。加えて、異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、セパレータは、円滑なシャットダウン性能を示し、また耐熱収縮性が高く安全性により優れる傾向にある。また、平均粒子径が500nm以下であることにより、良好な結着性が発現し、セパレータを多層多孔膜として形成した場合に、熱収縮性が良好となり、安全性により優れる傾向にある。
樹脂製ラテックスバインダーの平均粒子径の制御は、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pHなどを調整することで可能である。
セパレータが無機粒子を含有する場合、セパレータにおける無機粒子の含有量は、その使用による効果を良好に確保する観点から、例えば、セパレータの面積当たりの量で、0.1g/m2以上であることが好ましく、0.5g/m2以上であることがより好ましい。ただし、セパレータにおける無機粒子の含有量が多すぎると、セパレータが厚くなって、電池のエネルギー密度の低下又は内部抵抗上昇の要因となり易い。よって、セパレータにおける無機粒子の含有量は、例えば、セパレータの面積当たりの量で、15g/m2以下であることが好ましく、10g/m2以下であることがより好ましい。
また、セパレータが、無機粒子を含有する多孔質層を有する場合、多孔質層における無機粒子の、多孔質層の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中における含有量は、その使用による効果を良好に確保する観点から、1体積%以上であることが好ましく、5体積%以上かつ100体積%以下であることがより好ましい。
さらに、セパレータには、第一の無機粒子と第二の無機粒子以外の無機微粒子(以下、「その他の無機微粒子」という)又は樹脂微粒子を含有させることもできる。セパレータが、これらの微粒子を含有することによって、例えば、高温下におけるセパレータ全体の形状安定性を更に高めることができる。
その他の無機微粒子としては、特に限定されないが、例えば、200℃以上の融点を有し、電気絶縁性が高く、かつ非水電解質電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。このような無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、タルク、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、無水ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維などが挙げられる。無機粒子は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、アルミナ、水酸化酸化アルミニウムなどの酸化アルミニウム化合物;又はディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライトなどのイオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物が好ましい。このような無機粒子を用いることにより、電気化学的安定性及び多層多孔膜の熱収縮抑制性がより向上する傾向にある。
また、樹脂微粒子としては、耐熱性及び電気絶縁性を有し、電池中の非水電解質に対して安定であり、かつ電池の作動電圧範囲において酸化還元され難い電気化学的に安定な樹脂で構成されたものが好ましい。このような樹脂微粒子を形成するための樹脂としては、スチレン樹脂(ポリスチレンなど)、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートなど)、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシドなど)、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデンなど)及びこれらの誘導体から成る群から選ばれる少なくとも1種の樹脂の架橋体;尿素樹脂;ポリウレタン;などが例示できる。樹脂微粒子には、上記で例示された樹脂を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、樹脂微粒子は、必要に応じて、樹脂に添加されることができる公知の添加剤、例えば、酸化防止剤などを含有してもよい。
その他の無機微粒子又は樹脂微粒子の形態は、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状などのいずれの形態であってもよい。上記形態を有する無機粒子は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。透過性向上の観点からは複数の面から成る多面体状が好ましい。
また、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子の粒子径としては、その平均二次粒子径(D50)が、0.1μm〜4.0μmであることが好ましく、0.2μm〜3.5μmであることがより好ましく、0.4μm〜3.0μmであることがさらに好ましい。このような範囲に平均二次粒子径(D50)を調整することで高温での熱収縮がより抑制される傾向にある。
その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を含有させる場合、これらの微粒子は、例えば、(i)吸着剤を含有する多孔質層に、又は(ii)吸着剤を含有する多孔質層及び基材となる不織布若しくは微多孔膜とは別の多孔質層(第一の無機粒子と第二の無機粒子以外の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層)に、含有させてもよい。
なお、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を、(i)吸着剤を含有する多孔質層に含有させる場合には、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子の含有量は、吸着剤の含有量が上記で説明された好適な範囲内にあるように、調整されることが好ましい。
また、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を、(ii)吸着剤を含有する多孔質層及び基材となる不織布若しくは微多孔膜とは別の多孔質層(その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層)に含有させる場合、これらの微粒子を含有する多孔質層は、例えば、基材となる不織布又は微多孔膜の片面(吸着剤を主体として含む多孔質層と接する面とは反対側の面)に接するように配置したり、吸着剤を含有する多孔質層と基材との間に配置したり、基材表面に配置した吸着剤を含有する多孔質層の、基材と接する面とは反対側の面に配置したりすることができる。
また、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層は、基材となる不織布若しくは織布、又は吸着剤を含有する多孔質層と一体化していてもよく、独立の膜として存在し、他の層(独立膜)と電池内で重ね合わせられてセパレータを構成していてもよい。
また、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を、(ii)吸着剤を含有する多孔質層及び基材となる不織布若しくは微多孔膜とは別の多孔質層(その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層)に含有させる場合、これらの微粒子を含有する多孔質層における、これらの微粒子の含有量は、かかる層の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中、5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることがさらに好ましい。
なお、その他の無機微粒子や樹脂微粒子を、(ii)吸着剤を含有する多孔質層及び基材となる不織布若しくは微多孔膜とは別の多孔質層(その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層)に含有させる場合、かかる多孔質層にはバインダーを含有させることが好ましい。よって、その他の無機微粒子や樹脂微粒子を主体として含む多孔質層における、これらの微粒子の含有量は、かかる層の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中、99.5体積%以下であることが好ましい。この場合のバインダーには、吸着剤を含有する多孔質層に用い得るものとして先に例示した各種のバインダーと同じものが使用できる。
また、非水電解質電池が、吸着剤をセパレータ以外の箇所に含有する場合、そのセパレータとしては、上記の不織布又は微多孔膜を基材として使用し、その片面または両面に、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層を有するセパレータを使用してもよい。
非水電解質電池に用いられるセパレータの空孔率は、非水電解質の保持量を確保してイオン透過性を良好にするために、セパレータの乾燥した状態で、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、セパレータの乾燥した状態で、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。なお、セパレータの空孔率P(%)は、セパレータの厚み、面積当たりの質量、及び構成成分の密度から、下記式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P={1−(m/t)/(Σai・ρi)}×100
{式中、aiは、全体の質量を1としたときの成分iの比率であり、ρiは、成分iの密度(g/cm3)であり、mは、セパレータの単位面積当たりの質量(g/cm2)であり、かつtは、セパレータの厚み(cm)である。}
セパレータの厚みは、単層構造と多層構造のいずれにおいても、2μm以上200μm以下が好ましく、5μm以上100μm以下がより好ましく、7μm以上30μm以下がさらに好ましい。セパレータの厚みが2μm以上であることにより、セパレータの機械強度がより向上する傾向にある。また、セパレータの厚みが200μm以下であることにより、電池内におけるセパレータの占有体積が減るため、非水電解質電池がより高容量化し、イオン透過性がより向上する傾向にある。
セパレータの透気度は、10秒/100cc以上500秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは20秒/100cc以上450秒/100cc以下であり、さらに好ましくは30秒/100cc以上450秒/100cc以下である。透気度が10秒/100cc以上であることにより、セパレータを非水電解質電池に用いた際の自己放電がより少なくなる傾向にある。また、透気度が500秒/100cc以下であることにより、より良好な充放電特性が得られる傾向にある。
また、セパレータが、吸着剤を含有する多孔質層と、基材となる不織布又は微多孔膜とを有する場合、吸着剤を含有する多孔質層の厚みは、1μm〜10μmであることが好ましい。
更に、セパレータが、吸着剤を含有する多孔質層と、基材となる不織布又は微多孔膜とを有する場合、又はこれらの層に加えて、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層を有する場合、基材となる不織布又は多孔質膜の厚みは、5μm〜40μmであることが好ましい。
また、セパレータが、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層を有する場合、かかる多孔質層の厚みは、1μm〜10μmであることが好ましい。
吸着剤を含有する多孔質層は、吸着剤、バインダーなどを水又は有機溶媒に分散又は溶解させて調製した組成物(例えば、ペースト、スラリーなど)を、かかる多孔質層の形成が予定される箇所に塗布し、乾燥する工程を経て形成したり、前記組成物を樹脂フィルムなどの基材に塗布し、乾燥した後に剥離して独立膜として形成したりすることができる。
また、その他の無機微粒子又は樹脂微粒子を主体として含む多孔質層も、これらの微粒子、バインダーなどを水又は有機溶媒に分散又は溶解させて調製した組成物(例えば、ペースト、スラリーなど)を、かかる多孔質層の形成が予定される箇所に塗布し、乾燥する工程を経て形成したり、前記組成物を樹脂フィルムなどの基材に塗布し、乾燥した後に剥離して独立膜として形成したりすることができる。
[正極]
正極は、正極活物質と、導電材と、結着材と、集電体とを含むことが好ましい。
正極に含まれ得る正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な公知のものを用いることができる。その中でも、正極活物質としては、リチウムを含む材料が好ましい。正極活物質としては、例えば、
下記式(1):
LixMn2−yMyOz (1)
{式中、Mは、遷移金属元素から成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0<x≦1.3、0.2<y<0.8、かつ3.5<z<4.5である。}
で表される酸化物;
下記式(2):
LixMyOz (2)
{式中、Mは、遷移金属元素から成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0<x≦1.3、0.8<y<1.2、かつ1.8<z<2.2である。}
で表される層状酸化物;
下記式(3):
LiMn2−xMaxO4 (3)
{式中、Maは、遷移金属元素から成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、かつ0.2≦x≦0.7である。}
で表されるスピネル型酸化物;
下記式(4):
Li2McO3 (4)
{式中、Mcは、遷移金属元素から成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。}で表される酸化物と下記式(5):
LiMdO2 (5)
{式中、Mdは、遷移金属元素から成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。}で表される酸化物との複合酸化物であって、下記式(6):
zLi2McO3−(1−z)LiMdO2 (6)
{式中、Mc及びMdは、それぞれ上記式(4)及び(5)におけるMc及びMdと同義であり、かつ0.1≦z≦0.9である。}
で表される、Liが過剰な層状の酸化物正極活物質;
下記式(7):
LiMb1−yFeyPO4 (7)
{式中、Mbは、Mn及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、かつ0≦y≦1.0である。}
で表されるオリビン型正極活物質;及び
下記式(8):
Li2MePO4 F (8)
{式中、Meは、遷移金属元素から成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。}で表される化合物が挙げられる。これらの正極活物質は、1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
上記で説明された正極活物質の中でも、より高い電位で作動させて電池のエネルギー密度を高められるものが好ましい。さらに、非水電解質電池は、正極活物質から溶出し、負極に析出することで電池特性を低下させたり短絡を引き起こしたりする金属イオンを効果的にトラップすることができ、これにより電池性能低下を抑制できるので、上記式(3)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、及び上記式(2)で表される層状化合物より成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
なお、正極を形成するために、本技術分野で既知の導電材、結着材及び集電体を使用してよい。
吸着剤を正極に含有させる場合には、特に限定されないが、従来公知の方法を用いることができる。例えば、正極合剤層中に吸着剤を含有させる方法、又は正極合剤層の表面に吸着剤を含有する多孔質層を形成する方法が挙げられる。後者の方法の場合、吸着剤を含有する多孔質層は、上記の多層構造のセパレータについて説明された吸着剤を含有する多孔質層と同じ方法により形成することができ、その構成も、上記の多層構造のセパレータに係る吸着剤を含有する多孔質層と同じ構成にすることができる。
正極が吸着剤を有する場合、正極における吸着剤の含有量は、その使用による効果を良好に確保する観点から、例えば、集電体を除く正極の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中、0.5体積%以上であることが好ましく、1体積%以上であることがより好ましい。しかしながら、正極における吸着剤の含有量が多すぎると、電池のエネルギー密度の低下又は内部抵抗上昇の要因となり易い。よって、正極における吸着剤の含有量は、例えば、集電体を除く正極の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中、10体積%以下であることが好ましく、6体積%以下であることがより好ましい。
また、正極に係る正極合剤層においては、正極合剤層が吸着剤を含有しない場合には、正極活物質の含有量を87質量%〜97質量%に調整し、導電助剤の含有量を1.5質量%〜6.5質量%に調整し、かつ/又はバインダーの含有量を1.5質量%〜6.5質量%に調整することが好ましい。
一方で、正極合剤層が吸着剤を含有する場合、正極合剤層における吸着剤以外の成分の合計量を100質量%としたときに、正極活物質の含有量を79.4質量%〜96.4質量%に調整し、導電助剤の含有量を1.4質量%〜6.5質量%に調整し、かつ/又はバインダーの含有量を1.4質量%〜6.5質量%に調整することが好ましい。
[負極]
負極は、負極活物質と、結着材と、集電体とを含むことが好ましい。
負極に含まれ得る負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な公知のものを用いることができる。このような負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛粉末、メソフェーズ炭素繊維、及びメソフェーズ小球体などの炭素材料;並びに金属、合金、酸化物及び窒化物が好ましい。これらは1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
負極に含まれ得る結着材としては、負極活物質、負極に含まれ得る導電材、及び負極に含まれ得る集電体のうち少なくとも2つを結着できる公知のものを用いることができる。このような結着材としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンの架橋ゴムラテックス、アクリル系ラテックス及びポリフッ化ビニリデンが好ましい。これらは1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
負極に含まれ得る集電体としては、特に限定されないが、例えば、銅、ニッケル及びステンレスなどの金属箔;エキスパンドメタル;パンチメタル;発泡メタル;カーボンクロス;並びにカーボンペーパーが挙げられる。これらは1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
吸着剤を負極に含有させる場合には、特に限定されないが、従来公知の方法を用いることができる。例えば、負極合剤層中に吸着剤を含有させる方法、又は負極の表面(負極合剤層または負極剤層の表面)に、吸着剤を含有する多孔質層を形成する方法が挙げられる。後者の方法の場合、吸着剤を含有する多孔質層は、上記の多層構造のセパレータについて説明された吸着剤を含有する多孔質層と同じ方法により形成することができ、その構成も、上記の多層構造のセパレータに係る吸着剤を含有する孔質層と同じ構成にすることができる。
負極が吸着剤を有する場合、負極における吸着剤の含有量は、その使用による効果を良好に確保する観点から、例えば、集電体を除く負極の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中、1.5体積%以上であることが好ましく、2体積%以上であることがより好ましい。しかしながら、負極における吸着剤の量が多すぎると、電池のエネルギー密度の低下又は内部抵抗上昇の要因となり易い。よって、負極における吸着剤の含有量は、集電体を除く負極の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中、25体積%以下であることが好ましく、15体積%以下であることがより好ましい。
また、負極に係る負極合剤層においては、負極合剤層が吸着剤を含有しない場合には、負極活物質の含有量を88質量%〜99質量%に調整し、かつ/又はバインダーの含有量を1質量%〜12質量%に調整することが好ましく、導電助剤を使用する場合には、導電助剤の含有量を0.5質量%〜6質量%に調整することが好ましい。
一方で、負極合剤層が吸着剤を含有する場合、負極合剤層における吸着剤以外の成分の合計量を100質量%としたときに、負極活物質の含有量を68質量%〜98質量%に調整し、かつ/又はバインダーの含有量を0.8質量%〜11.8質量%に調整することが好ましく、導電助剤を使用する場合には、導電助剤の含有量を0.9質量%〜5.9質量%に調整することが好ましい。
[非水電解質]
非水電解質としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液(非水電解液)が使用される。リチウム塩としては、特に限定されず従来公知のものを用いることができる。このようなリチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、Li2SiF6、LiOSO2CkF2k+1〔式中、kは1〜8の整数である〕、LiN(SO2CkF2k+1)2〔式中、kは1〜8の整数である〕、LiPFn(CkF2k+1)6−n〔式中、nは1〜5の整数であり、かつkは1〜8の整数である〕、LiPF4(C2O4)、及びLiPF2(C2O4)2が挙げられる。これらの中でも、LiPF6が好ましい。LiPF6を用いることにより、高温時においても電池特性及び安全性により優れる傾向にある。これらのリチウム塩は、1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
非水電解質に用いられる非水溶媒としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。このような非水溶媒としては、特に限定されないが、例えば、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
非プロトン性極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、2,3−ペンチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及び4,5−ジフルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート;γープチロラクトン及びγーバレロラクトンなどのラクトン;スルホランなどの環状スルホン;テトラヒドロフラン及びジオキサンなどの環状エーテル;エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロビルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート及びメチルトリフルオロエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;アセトニトリルなどのニトリル;ジメチルエーテルなどの鎖状エーテル;プロピオン酸メチルなどの鎖状カルボン酸エステル;並びにジメトキシエタンなどの鎖状エーテルカーボネート化合物が挙げられる。これらの1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
非水電解質中のリチウム塩の濃度は、0.5mol/L〜6.0mol/Lであることが好ましい。3.0〜6.0mol/lの濃厚電解塩の非水電解質の場合、リチウム塩の濃度が上記範囲内であることにより、金属イオンの溶出を効果的に防ぐことができるため好ましい。非水電解液の低粘度化の観点から、非水電解質中のリチウム塩の濃度は、0.9mol/L〜1.25mol/Lであることが好ましい。リチウム塩の非水電解質中の濃度は目的に応じて選択することができる。
なお、非水電解質は、液体電解質であってもよく、固体電解質であってもよい。
吸着剤を非水電解質に含有させる場合、非水電解質における吸着剤の含有量は、その使用による効果を良好に確保する観点からは、非水電解質1mL当たり、5mg以上であることが好ましく、10mg以上であることがより好ましい。
[非水電解質電池用塗料及び樹脂固形物]
非水電解質電池のために使用され、かつ上記で説明された吸着材を含有する塗料又は樹脂固形物も本発明の一態様である。
塗料は、電池の寿命特性又は安全性に影響する物質の吸着材に加えて、樹脂、分散剤、水、有機溶剤等の追加成分を含む液体塗料、又は吸着材に加えて樹脂等の造膜成分を含む粉末塗料でよい。塗料に含まれる樹脂としては、非水電解質電池の構成要素を形成するために上記で説明された各種の樹脂を使用してよい。塗料は、例えば、混合、撹拌、分散等の既知の方法により形成されることができる。
樹脂固形物は、電池の寿命特性又は安全性に影響する物質の吸着材に加えて、少なくとも1種の樹脂を含む。樹脂固形物に含まれる樹脂としては、非水電解質電池の構成要素を形成するために上記で説明された各種の樹脂を使用してよい。樹脂固形物は、例えば、混練、混合、押出、成形等の既知の方法により形成されることができる。
[非水電解質電池の追加の構成、形態及び用途]
非水電解質電池は、電池構成材料内部、表面の全面又は一面に、非水電解質電池用無機粒子を含む吸着層又は非水電解質電池用無機粒子(第一の無機粒子)と第二の無機粒子の混合物を含む吸着層を備えることが好ましい。
吸着層の配置と金属又はHF吸着能力の関係からは、非水電解質電池は、電池構成材料として正極、負極及びセパレータを含むことが好ましい。同様の観点から、吸着層は、少なくとも、セパレータの内部、正極とセパレータの対向面、及び負極とセパレータの対向面のいずれかに形成され、かつその形成された吸着層は、セパレータ内部の全体若しくはその一部、又は各対向面の全面若しくはその一部に形成されていることが好ましい。
非水電解質電池において、正極及び負極は、セパレータを介して積層した積層体の形態で、又は積層体を更に巻回した電極巻回体の形態で、使用されることができる。
非水電解質電池の形態としては、スチール缶、アルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(例えば、角筒形、円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体として使用して、非水電解質電池を形成することもできる。
非水電解質電池がリチウムイオン二次電池である場合には、正極、上記で説明された非水電解質用無機粒子を含有する吸着層、セパレータ、及び負極が、この順に積層されている積層体又はその捲回体と、非水電解質とが、リチウムイオン二次電池に含有されることが好ましい。このような順序でリチウムイオン二次電池の複数の構成要素を配列することによって、電池内でのリチウムイオンの移動を確保し、かつ電池の寿命特性又は安全性に影響する物質の吸着が顕著になる。無機粒子を含有する吸着層は、上記で説明された非水電解質電池用塗料及び樹脂固形物を用いて形成されるか、又は上記で説明された多層構造のセパレータの一部分として形成されることができる。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に記載のない限り各種測定および評価は、室温23℃、1気圧、及び相対湿度50%の条件下で行った。
[実施例1]
<リン酸ジルコニウムの作製>
ハフニウム2%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物を水に溶解後、シュウ酸2水和物を溶解させた。ここで、ハフニウム2%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物とシュウ酸2水和物のモル比は、1:2.9であり、これらに対する水の重量割合は、4.5であった。この溶液を撹拌しながらリン酸を加え、8時間撹拌還流した。ここで、ハフニウム2%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物とリン酸のモル比は、1:2.1となるようにリン酸を添加した。冷却後、得られた沈殿物を水で洗浄した後、0.1NのLiOH水溶液に8時間浸漬し、乾燥することでリン酸ジルコニウムAを得た。得られたリン酸ジルコニウムAをボールミルで粉砕し、BET比表面積を10m2/gとした。このBET比表面積は、上記で説明されたBET2であり、窒素による吸着等温線からBET法(多点法、相対圧約0.1〜0.2の範囲の5点)によって測定された。
<X線回折測定>
得られたリン酸ジルコニウムAについて、X線回折装置(ブルカー社製D2 PHASER)を用いて、Cu−Kα線を用いて、加速電圧30kV、管電流10mA、発散スリット1mm、ソラースリット4°、エアスキャッタースクリーン1mm、Kβフィルター0.5mm、計数時間0.15秒、0.02°ステップ、及び測定範囲5°〜40°の条件下で粉末X線回折測定を行った。なお、X線回折装置の補正には標準シリコン粉末を用いた。得られた回折パターンから13°(2θ)付近に(002)面由来の回折ピークが見られ、層状のリン酸ジルコニウムの構造であることを確認した。また、(002)面の平均面間隔は、0.7nmであった。
<表面修飾>
作製したリン酸ジルコニウムAを100質量部と、オクタデシルホスホン酸(ODPA、同仁化学研究所製)を2質量部とを、THFを混ぜて12時間撹拌した。その後、混合物からTHFを揮発させ除去した。更に、乾燥物を120℃で1時間真空乾燥して、無機粒子を得た。
また、水蒸気及び窒素による吸着等温線から、BET法(多点法、相対圧約0.1〜0.2の範囲の5点)によって、無機粒子のBET1及びBET2を算出した。BET1は8.2m2/gと算出され、BET2は10.2m2/gと算出された。よって、BET1/BET2の値は0.8と算出された。
<セパレータの作製>
Mv700,000のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と、Mv250,000のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と、Mv400,000のホモポリマーのポリプロピレン5質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドして、ポリオレフィン樹脂混合物を得た。得られたポリオレフィン樹脂混合物99質量%に対して、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリオレフィン樹脂組成物を得た。
得られたポリオレフィン樹脂組成物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度:7.59×10−5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。二軸押出機で溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が66質量%(樹脂組成物濃度が34%)となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数100rpm、及び吐出量12kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1600μmのゲルシートを得た。次に、得られたゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.1倍、及び設定温度123℃であった。次に、二軸延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。最後に、乾燥後のゲルシートをTDテンターに導き、延伸及び熱緩和を行って、ポリオレフィン微多孔膜を得た。延伸温度は125℃であり、熱緩和温度は133℃であり、TD最大倍率は1.65倍であり、かつ緩和率は0.9であった。得られたポリオレフィン微多孔膜は、厚みが12μmであり、かつ空孔率が40%であった。
また、イオン交換水100質量部中に、リン酸ジルコニウムAの表面修飾により得られた無機粒子を29質量部と、ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製SNディスパーサント5468)0.29質量部とを混合した。混合後、ビーズミル処理を行い、平均粒径(D50)を1.5μmに調整し、分散液を得た。さらに、得られた分散液100質量部に対して、バインダーとしてアクリルラテックス懸濁液(固形分濃度40%、平均粒子径150nm)2.2質量部を混合して均一な多孔質層形成用組成物を調製した。なお、上記の分散液における無機粒子の平均粒子径は、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて粒径分布を測定し、体積累積頻度が50%となる粒径を平均二次粒子径(μm)とした。また、樹脂製ラテックスバインダーの平均粒径は、光散乱法による粒径測定装置(LEED&NORTHRUP社製MICROTRACTMUPA150)を用い、体積平均粒子径(nm)を測定し、平均粒子径として求めた。
次に、上記ポリオレフィン微多孔膜の表面にマイクログラビアコーターを用いて上記多孔質層形成用組成物を塗布し、60℃で乾燥して水を除去し、ポリオレフィン微多孔膜上に厚さ5μmの表面修飾したリン酸ジルコニウムA含有無機粒子を含む多孔質層を配置し、表面修飾したリン酸ジルコニウムA含有無機粒子を含む多層構造のセパレータを得た。なお、このセパレータの、表面修飾したリン酸ジルコニウムA含有無機粒子を含む多孔質層におけるリン酸ジルコニウムの体積割合は、97体積%であった。
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2と、導電助剤としてアセチレンブラックの粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン溶液とを固形分比で93.9:3.3:2.8の質量比で混合した。得られた混合物に、分散溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを固形分35質量%となるように投入して更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ10μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。この時、アルミニウム箔の一部が露出するようにした。その後、溶剤を乾燥除去し、ロールプレスで圧延した。圧延後の試料を塗布部の大きさが30mm×50mmであり、かつアルミニウム箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのアルミニウム製リード片をアルミニウム箔の露出部に溶接して正極を得た。
<負極の作製>
負極活物質としてグラファイト粉末と、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液とを、97.5:1.5:1.0の固形分質量比で混合した。得られた混合物を、固形分濃度が45質量%となるように、分散溶媒としての水に添加して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ10μmの銅箔の片面及び両面に塗布した。この時、銅箔の一部が露出するようにした。その後、溶剤を乾燥除去し、ロールプレスで圧延した。圧延後の試料を塗布部の大きさが32mm×52mmであり、かつ銅箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのニッケル製リード片を銅箔の露出部に溶接して負極を得た。
<非水電解質の作製>
アルゴンガス雰囲気下で、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lとなるように溶解して、非水電解質(非水電解液)を得た。
<非水電解質電池の作製>
上記正極と上記負極とを、上記セパレータを介在させつつ重ね合わせて積層電極体とした。なお、セパレータは、層状のケイ酸カルシウム水和物含む多孔質層が正極に対向するように配置した。この積層電極体を80×60mmのアルミニウムラミネート外装体内に挿入した。次に、上記非水電解質(非水電解液)を外装体内に注入し、その後、外装体の開口部を封止して、積層電極体を内部に有する非水電解質電池(リチウムイオン二次電池)を作製した。得られた非水電解質電池の定格容量は90mAhであった。
<金属吸着能力の測定>
(1)Mn吸着能力の測定
アルゴンガス雰囲気下で、上記非水電解質電池に用いた非水電解質に、トリフルオロメタンスルホン酸マンガン〔Mn(CF3SO3)2〕を、Mnの濃度が5ppmとなるように溶解した。アルゴンガス雰囲気下で、このMnを溶解した非水電解質100質量部と、表面修飾したリン酸ジルコニウムA0.035質量部とをポリプロピレン製の密閉容器に入れ、バリアブルミックスローターVMR−5R(アズワン社製)を用いて23℃の雰囲気下で、100rpmで6時間に亘って振とう撹拌した。その後、孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過した。このろ液中のMnの濃度(Mx)(単位:ppm)を測定し、以下の式から、吸着率(Ax)(単位:%)を算出した。
Ax=〔(5−Mx)/5〕×100
(2)Fe吸着能力の測定
トリフルオロメタンスルホン酸マンガンの代わりにトリフルオロメタンスルホン酸鉄(II)〔Fe(CF3SO3)2〕を用いたこと以外は、上記のMn吸着能力の測定と同様にして、Fe吸着率を算出した。
なお、Mnの濃度の測定は、ICP発光分光分析(ICP発光分光分析装置:Optima8300(パーキンエルマー社製))にて測定した。なお、測定試料の前処理には酸分解(マイクロウェーブ法)を行った。
<HF吸着能力の評価>
アルゴンガス雰囲気下で、上記非水電解質電池に用いた非水電解質に、蒸留水を添加後、23℃で2週間保存し、HFを800ppm含む非水電解質を調製した。この非水電解質100質量部と、表面修飾したリン酸ジルコニウムA8質量部とをポリプロピレン製の密閉容器に入れ、23℃で5分振とう撹拌した。その後、孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過した。このろ液中のフッ化物イオン濃度をイオンクロマト分析で定量し、HF濃度を算出し、HF濃度が10ppm未満であったものをHF吸着能:「有」、10ppm以上であったものをHF吸着能:「無」とした。
<寿命特性の評価>
・初期充放電
得られた非水電解質二次電池(以下、単に「電池」ともいう。)を、25℃に設定した恒温槽(二葉科学社製、恒温槽PLM−73S)に収容し、充放電装置(アスカ電子(株)製、充放電装置ACD−01)に接続した。次いで、その電池を0.05Cの定電流で充電し、4.35Vに到達した後、4.35Vの定電圧で2時間充電し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。なお、1Cとは電池が1時間で放電される電流値である。
・サイクル試験
上記初期充電後の電池を、50℃に設定した恒温槽(二葉科学社製、恒温槽PLM−73S)に収容し、充放電装置(アスカ電子(株)製、充放電装置ACD−01)に接続した。次いで、その電池を1Cの定電流で4.35Vまで充電し、4.35Vに到達した後、4.35Vの定電圧で1時間充電し、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。この一連の充放電を1サイクルとし、更に99サイクル充放電を行った。この時、放電容量維持率と微短絡の有無について評価した。なお、微短絡の有無については、1サイクル目から100サイクル目までの間で、充電容量が定格容量の2倍以上となった場合を、微短絡の有無:「有」とし、2倍未満であった場合を、微短絡の有無:「無」として評価した。また、サイクル試験の前後にアルキメデス法を用いて電池内のガス発生量を測定した。下記比較例1に記載の電池を基準とし、比較例1の電池よりもガス発生量が少なかったものを「○」、同等以上に多かったものを「×」として評価した。
[実施例2〜8]
表面修飾剤を変えたこと以外は、実施例1と同様にして、リン酸ジルコニウムAの表面修飾を行い、無機粒子を得た。また、実施例1と同様に測定、評価を行った。
[実施例9]
実施例1と同様に、イオン交換水と、実施例1で記した表面修飾したリン酸ジルコニウムAと、ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製SNディスパーサント5468)と、を混合した。その後、実施例9では、ビーズミル処理によって、平均粒径(D50)を1.0μmに調整し、分散液を得た。それ以外は、実施例1と同様に測定、評価を行った。
[実施例10]
表面修飾を行わずに、リン酸ジルコニウムAを600℃で3時間マッフル炉にて焼成し、実施例1と同様に測定、評価を行った。
[実施例11]
表面修飾を行わずに、実施例1と同様に測定、評価を行った。
[実施例12]
実施例1と同様に、イオン交換水と、表面修飾を行なっていない実施例1で記したリン酸ジルコニウムAと、ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製SNディスパーサント5468)と、を混合した。実施例12では、ビーズミル処理によって、表面修飾を行なっていないリン酸ジルコニウムAの平均粒径(D50)を0.3μmに調整し、分散液を得た。それ以外は、実施例1と同様に測定、評価を行った。
[比較例1]
無機粒子として、ケイ酸アルミニウム(Al2O3・2SiO2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、ケイ酸アルミニウムを含む多層構造のセパレータを得た。なお、このセパレータの、ケイ酸アルミニウムを含む多孔質層におけるケイ酸アルミニウムの体積割合は、97体積%であった。また、実施例1と同様の方法で、金属吸着能力の測定、HF吸着能力評価及び寿命特性評価を行った。
結果を表1に示す。
実施例1〜12に記載のリン酸ジルコニウムA含有無機粒子は、金属吸着能力は、Mn吸着率:23〜34%と良好な吸着特性を示した。また、これらの無機粒子は、HF吸着能が「有」と判定された。この無機粒子を含むセパレータを備えた電池の寿命特性も良好であり、微短絡は「無」と判定され、高い放電容量維持率を示した。また、実施例1〜9に記載の表面修飾したリン酸ジルコニウムAを用いた電池は、放電容量維持率との両立の難しい電池内部のガス発生量も「○」と判定された。また、実施例10も電池内部のガス発生量は「○」と判定された。一方、比較例1に記載のケイ酸アルミニウムは、金属吸着能力はMn吸着率:0%であり、HF吸着能は「無」と判定され、この無機粒子を含むセパレータを備えた電池の寿命特性は、放電容量維持率は5%であり、ガス発生量は「×」と判定された。