本実施形態は、交流電流センサ値と各相のデューティ値から推定直流電流値を計算し、直流電流センサが出力する直流電流センサ値と推定直流電流値に基づいて直流電流センサの診断を行う。
バッテリからインバータ回路に流れる直流電流とモータに流れる交流電流との間での時間的な遅れは小さいため、直流電流センサが異常で無ければ推定直流電流値と直流電流センサ値の乖離は小さい。そのため、本方式では直流電流センサの診断が常時可能となる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。以下、図面を用いて実施例を説明する。
本実施例では、直流電流センサの異常を常時診断可能な電力変換装置の例を示す。
図1は、実施例1における電力変換装置および周辺回路の構成例を表した図である。
直流電源3はモータ2を駆動させるための電源であり、例えばバッテリなどが該当する。電力変換装置1は、直流電源3から得られる直流電力を交流電力に変換してモータ2を駆動する。また、電力変換装置1は、モータ2の動力を直流電力に変換して直流電源3を充電する機能も有する。
モータ2は内部に3個の巻き線を有した3相電動機である。また、このモータ2には、モータの回転角度を測定するための角度センサ(図示せず)が搭載されており、この角度センサは測定したモータ2の回転角度を角度センサ値7として電力変換装置1に出力する。
電力変換装置1は、インバータ制御装置16、インバータ回路9、交流電流センサ14aから14c、電圧センサ10、直流電流センサ12を有している。
インバータ回路9は、図2に示すように、モータ2の巻き線(=相)ごとに2個のパワー半導体を有している。このパワー半導体には、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが該当する。また、インバータ回路9は、パワー半導体ごとにパワー半導体のON/OFFを切り替えるための駆動回路を有している。モータ2の相は3相あるため、インバータ回路9は合計で6個のパワー半導体90aから90fと6個の駆動回路91aから91fを有している。なお、本実施例では上側のパワー半導体90a、90c、90eを合わせて上アーム、下側のパワー半導体90b、90d、90fを合わせて下アームと呼称する。その他、インバータ回路9は平滑コンデンサ92を有している。
駆動回路91aから91fは、インバータ制御装置16から出力されるPWM(Pulse Wide Modulation)信号22aから22fに基づいて、パワー半導体90aから90fのON/OFFを切り替える。
平滑コンデンサ92は、パワー半導体のON/OFFによって生じる電流を平滑化し、直流電源3からインバータ回路9へ供給される直流電流のリップルを抑制するためのコンデンサであり、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサが該当する。
交流電流センサ14aから14cは、モータ2の各相(U相、V相、W相)に流れる交流電流を測定するためのセンサである。交流電流センサ14aは、U相を流れる交流電流Iuを測定し、インバータ制御装置16に対して交流電流センサ値Iusを出力する。同様に、交流電流センサ14bはV相を流れる交流電流Ivを測定し、インバータ制御装置16に対して交流電流センサ値Ivsを出力する。交流電流センサ14cは、W相を流れる交流電流Iwを測定し、インバータ制御装置16に対して交流電流センサ値Iwsを出力する。
なお、本実施例では、インバータ回路9からモータ2に流れ込む電流を正の電流値として測定するように交流電流センサ14aから14cを設置しているが、逆向きの電流値を正の電流値として測定するように交流電流センサ14aから14cを設置しても良い。
電圧センサ10は、直流電源3の出力電圧を測定するセンサであり、測定した電圧値を電圧センサ値11としてインバータ制御装置16に出力する。
直流電流センサ12は、直流電源3とインバータ回路9の間を流れる直流電流Idcを測定するセンサであり、測定した電流値を直流電流センサ値Idcsとしてインバータ制御装置16に出力する。なお、本実施例では、直流電源3からインバータ回路9に流れ込む電流を正の電流値として測定するように直流電流センサ12を設置しているが、逆向きの電流値を正の電流値として測定するように直流電流センサ12を設置しても良い。
インバータ制御装置16は、電力変換装置1外部の電子制御装置(図示せず)と通信を行い、他の電子制御装置からモータ2の目標トルク5を受け取る。この目標トルク5と交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsに基づいて、PWM信号22aから22fを切り替え、インバータ回路9を制御してモータ2を駆動させる。また、インバータ制御装置16は、電力変換装置1内部に故障が発生したと判断した場合、外部の異常通知装置4に対して異常通知信号6を出力する。
このインバータ制御装置16は、内部に通信回路(図示せず)、目標電流計算部17、デューティ計算部19、PWM信号生成部21、モータ速度計算部23、直流電流センサ診断部25を有している。
目標電流計算部17は、目標トルク5、電圧センサ値11、モータ速度計算部23が出力するモータ速度値24を用いて、モータ2に流すべき電流値を計算し、この電流値を目標電流値18としてデューティ計算部19に出力する。この目標電流値18には、d軸目標電流値とq軸目標電流値の情報が含まれる。
デューティ計算部19は、目標電流計算部17が出力した目標電流値18と交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsに基づいてU相のデューティ値Du、V相のデューティ値Dv、W相のデューティ値Dwを計算し、PWM信号生成部21および直流電流センサ診断部25に出力する。Duはパワー半導体90aのON時間割合を示し、パワー半導体90aと対となるパワー半導体90bのON時間割合は1−Duで示される。同様に、Dvはパワー半導体90cのON時間割合を示し、パワー半導体90dのON時間割合は1−Dvで示される。Dwはパワー半導体90eのON時間割合を示し、パワー半導体90fのON時間割合は1−Dwで示される。
PWM信号生成部21は、内部にタイマ(図示せず)を有しており、このタイマ値とデューティ値Du、Dv、Dwに基づいて、PWM信号22aから22fを生成し、インバータ回路9に対して出力する。
また、PWM信号生成部21は、直流電流センサ診断部25から異常通知信号6が出力された場合には、モータ2が駆動しないようにPWM信号22aから22fを制御する。モータ2が駆動しない状態とは、例えば、インバータ回路9内の6個のパワー半導体をすべてOFFにする状態が挙げられる。その他の例としては、6個のパワー半導体のうち、上アームの3個をONにし、下アームの3個をOFFにする状態や逆に上アームの3個をOFFにし、下アームの3個をONにする状態が挙げられる。
モータ速度計算部23は、角度センサ値7の変化からモータ回転速度を計算し、計算したモータ速度値24を目標電流計算部17に出力する。
直流電流センサ診断部25は、直流電流センサ12の故障診断を行う部分であり、内部に推定直流電流計算部26と比較部28を有している。推定直流電流計算部26は、各相のデューティ値Du、Dv、Dwと交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsをもとに式(1)に基づいて推定直流電流値Idce1を計算する。推定直流電流計算部26は、計算した推定直流電流値Idce1を比較部28に出力する。
ここで、式(1)は以下の考えによって求められる。図2において、直流電流センサ12を流れる直流電流Idcは、平滑コンデンサ92と各パワー半導体間の電流Idcaの平均値である。この電流Idcaは、キルヒホッフの法則により、パワー半導体90a、90c、90eを流れる電流Iu1、Iv1、Iw1の和となる。パワー半導体90a、90c、90eがそれぞれONであるとき、電流Iu1、Iv1、Iw1はそれぞれ交流電流値Iu、Iv、Iwと等しくなる。パワー半導体90a、90c、90eがそれぞれOFFであるとき、電流Iu1、Iv1、Iw1はそれぞれ0となる。そのため、電流Iu1、Iv1、Iw1の平均値は、交流電流値Iu、Iv、Iwにパワー半導体90a、90c、90eのON時間の割合を掛けたものとなる。パワー半導体90a、90c、90eのON時間割合はそれぞれデューティ値Du、Dv、Dwであり、交流電流値Iu、Iv、Iwは交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsで置き換えることができるため、直流電流Idcは式(1)の計算によって推定することができる。
比較部28は、推定直流電流計算部26から出力された推定直流電流値Idce1と直流電流センサ値Idcsを比較し、その比較結果に基づいて直流電流センサ12が異常であるか判断する。直流電流センサ12が異常であると判定した場合には、比較部28は異常通知装置4に対して異常通知信号6を出力する。
なお、本実施例では、直流電流センサ診断部25をインバータ制御装置16内部に記載しているが、直流電流センサ診断部25はインバータ制御装置16の外部にあっても良い。また、直流電流センサ診断部25は、電力変換装置1とは別の電子制御装置に搭載されても良い。
異常通知装置4は、インバータ制御装置16からの異常通知信号6を受け付け、搭乗者に対して異常の発生を通知する。異常の通知方法としては、例えば、ランプを点灯させる、警告音を発生させる、音声で通知するなどの方法が挙げられる。
図3は、実施例1における直流電流センサ12の診断処理を表したフローチャートである。この診断処理は、インバータ制御装置16が任意のタイミングで実施する。
ステップS100において、インバータ制御装置16は、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsおよび直流電流センサ値Idcsを取得する。その後、ステップS101において、推定直流電流計算部26は、デューティ値Du、Dv、Dwと交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsを用いて、式(1)に基づいて推定直流電流値Idce1を計算する。
次に、ステップS102において、比較部28は、直流電流センサ値Idcsと推定直流電流値Idce1を比較し、その差分が閾値1以上であるか判定する。差分が閾値1以上である場合は、直流電流センサ12が異常であると判断し、ステップS103の処理に移る。差分が閾値1未満である場合には、インバータ制御装置16は診断処理を終了する。
ステップS103において、比較部28は、PWM信号生成部21および異常通知装置4に対して異常通知信号6を出力する。その後、ステップS104において、PWM信号生成部21は、モータ2が駆動しない状態となるようにPWM信号22aから22fを切り替える処理を行う。その後、インバータ制御装置16は診断処理を終了する。
なお、ステップS103におけるPWM信号生成部21への異常通知信号6の出力とステップS104でのPWM信号の制御は必須ではなく、直流電流センサ12が異常である判断した後、異常通知装置4への異常通知信号6の出力のみを行っても良い。
また、図3の診断処理においては、直流電流センサ値Idcsと推定直流電流値Idce1の差分が閾値1以上である場合に直流電流センサ12が異常であると判断しているが、別の尺度を用いて直流電流センサ12が異常であると判断しても良い。例えば、直流電流センサ値Idcsと推定直流電流値Idce1の差分が前回診断時の差分よりも一定値以上大きくなっているときに、直流電流センサ12が異常であると判断することもできる。
以上のように本実施例によれば、推定直流電流計算部26は、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsとデューティ値Du、Dv、Dwに基づいて推定直流電流値Idce1を計算する。そして、比較部28は、推定直流電流値Idce1と直流電流センサ値Idcsを比較して、直流電流センサの診断を行う。交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsと直流電流センサ値Idcsはどちらもインバータ回路9の動作に連動して変化するため、センサ間の時間的な遅れは小さい。そのため、推定直流電流Idce1と直流電流センサ値Idcsの間の差異は、目標トルクが変化した直後でも小さくなり、直流電流センサ12の診断が常時可能となる。
本実施例では、実施例1とは構成の異なるモータおよびインバータ回路においても直流電流センサの異常を常時診断可能な電力変換装置の例を示す。
実施例2における電力変換装置およびその周辺回路の構成例を図4に示す。なお、実施例1における構成例と同一の要素には同一の符号を付与しており、それら同一要素の説明は省略する。
実施例2におけるモータ2aは、実施例1におけるモータ2とは異なり、3相6線式の電動機である。また、実施例2における電力変換装置1aは、実施例1とは異なるインバータ回路9aと実施例1とは異なるインバータ制御装置16aを有している。インバータ回路9aとモータ2aの配線は、U相、V相、W相で各2本、合計6本となる。交流電流センサ14aから14cは、各相の配線1本に1つずつ設置される。これは、各相の2本の配線には、電流の向きが反対の同じ大きさの電流が流れるため、両方の配線の電流値を測定する必要がないためである。そのため、インバータ回路9aとモータ2aの配線のうち、3本には交流電流センサは設置されない。その他、インバータ制御装置16aからインバータ回路9aに対して出力されるPWM信号も12本に増加している。
図5は、実施例2におけるインバータ回路9aの構成例を示した図である。なお、実施例1における構成例と同一の要素には同一の符号を付与しており、それら同一要素の説明は省略する。
モータ2aが3相6線式電動機であるため、インバータ回路9aは内部に12個のパワー半導体90aから90lと12個の駆動回路91aから91lを有している。駆動回路91aから91lは、インバータ制御装置16aが出力するPWM信号22aから22lに基づいて、パワー半導体90aから90lのON/OFFを切り替える。
実施例2のインバータ制御装置16aは、実施例1とは異なる目標電流計算部17a、デューティ計算部19a、PWM信号生成部21a、直流電流センサ診断部25aを有している。
目標電流計算部17aは、目標トルク5、電圧センサ値11、モータ速度計算部23が出力するモータ速度値24を用いて、モータ2aに流すべき電流値を計算し、この電流値を目標電流値18aとしてデューティ計算部19aに出力する。この目標電流値18には、d軸目標電流値、q軸目標電流値、0軸目標電流値の情報が含まれる。0軸電流とはU相、V相、W相の交流電流を総和したものを指す。
デューティ計算部19aは、目標電流計算部17aが出力した目標電流値18aと交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsに基づいてU相、V相、W相のPWM信号切り替えタイミング情報Cu、Cv、Cwを計算し、PWM信号生成部21aに出力する。3相6線式の場合、1回のPWM周期内でPWM信号の立ち上がりおよび立ち下がりが複数回発生することがあるため、デューティ値ではなくタイミング情報を出力する。
また、デューティ計算部19aはU相のデューティ値Du1およびDu2、V相のデューティ値Dv1およびDv2、W相のデューティ値Dw1およびDw2を計算し、直流電流センサ診断部25aに出力する。Du1はパワー半導体90aのON時間割合を示し、パワー半導体90aと対となるパワー半導体90bのON時間割合は1−Du1で示される。また、Du2はパワー半導体90gのON時間割合を示し、パワー半導体90gと対となるパワー半導体90hのON時間割合は1−Du2で示される。同様に、Dv1はパワー半導体90cのON時間割合を示し、Dv2はパワー半導体90iのON時間割合を示す。Dw1はパワー半導体90eのON時間割合を示し、Dw2はパワー半導体90kのON時間割合を示す。
PWM信号生成部21aは、内部のタイマ値とデューティ計算部19aから出力されたPWM信号切り替えタイミング情報Cu、Cv、Cwに基づいて、PWM信号22aから22lを生成し、インバータ回路9aに出力する。
また、PWM信号生成部21aは、直流電流センサ診断部25aから異常通知信号6が出力された場合には、モータ2aが駆動しないようにPWM信号22aから22lを制御する。モータ2aが駆動しない状態とは、例えば、インバータ回路9a内の12個のパワー半導体をすべてOFFにする状態が挙げられる。その他の例としては、12個のパワー半導体のうち、上アームの6個をONにし、下アームの6個をOFFにする状態や逆に上アームの6個をOFFにし、下アームの6個をONにする状態が挙げられる。
直流電流センサ診断部25aは、実施例1とは異なる推定直流電流値計算部26aおよび比較部28aを有している。
推定直流電流値計算部26aは、デューティ計算部19aが出力したデューティ値Du1、Du2、Dv1、Dv2、Dw1、Dw2と交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsをもとに式(2)に基づいて推定直流電流値Idce2を計算する。推定直流電流計算部26aは、計算した推定直流電流値27aを比較部28aに出力する。
ここで、式(2)は以下の考えによって求められる。図5において、直流電流センサ12を流れる直流電流Idcは、平滑コンデンサ92と各パワー半導体間の電流Idcaの平均値である。この電流Idcaは、キルヒホッフの法則により、パワー半導体90a、90g、90c、90i、90e、90kを流れる電流Iu1、Iu2、Iv1、Iv2、Iw1、Iw2の和となる。パワー半導体90a、90c、90eがそれぞれONであるとき、電流Iu1、Iv1、Iw1はそれぞれ交流電流値Iu、Iv、Iwと等しくなる。パワー半導体90a、90c、90eがそれぞれOFFであるとき、電流Iu1、Iv1、Iw1はそれぞれ0となる。また、パワー半導体90g、90i、90kがそれぞれONであるとき、電流Iu2、Iv2、Iw2はそれぞれ−Iu、−Iv、−Iwと等しくなる。パワー半導体90g、90i、90kがそれぞれOFFであるとき、電流Iu2、Iv2、Iw2はそれぞれ0となる。これより、電流Iu1、Iv1、Iw1の平均値は、交流電流値Iu、Iv、Iwにパワー半導体90a、90c、90eのON時間の割合を掛けたものとなる。また、電流Iu2、Iv2、Iw2の平均値は、−Iu、−Iv、−Iwにパワー半導体90g、90i、90kのON時間の割合を掛けたものとなる。パワー半導体90a、90c、90eのON時間割合はそれぞれデューティ値Du1、Dv1、Dw1であり、パワー半導体90g、90i、90kのON時間割合はそれぞれDu2、Dv2、Dw2である。交流電流値Iu、Iv、Iwは交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsで置き換えることができるため、3相6線式の場合、直流電流Idcは式(2)の計算によって推定することができる。
比較部28aは、推定直流電流計算部26aから出力された推定直流電流値Idce2と直流電流センサ値Idcsを比較し、その比較結果に基づいて直流電流センサ12が異常であるか判断する。直流電流センサ12が異常であると判定した場合には、比較部28aは異常通知装置4に対して異常通知信号6を出力する。
なお、本実施例では、直流電流センサ診断部25aをインバータ制御装置16a内部に記載しているが、直流電流センサ診断部25aはインバータ制御装置16aの外部にあっても良い。また、直流電流センサ診断部25aは、電力変換装置1aとは別の電子制御装置に搭載されても良い。
図6は、実施例2における直流電流センサ12の診断処理を表したフローチャートである。この診断処理は、インバータ制御装置16aが任意のタイミングで実施する。なお、実施例1における診断処理と同一の処理を行う部分については、同一の符号を記しており、それらの説明は省略する。
図6の診断処理では、実施例1のステップS101の処理の代わりに、ステップS110の処理を行う。また、実施例1のステップS102の処理の代わりに、ステップS111の処理を行う。その他、ステップS104の処理の代わりにステップS112の処理を行う。
ステップS110において、推定直流電流計算部26aは、デューティ値Du1、Du2、Dv1、Dv2、Dw1、Dw2と交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsを用いて、式(2)に基づいて推定直流電流値Idce2を計算する。
次に、ステップS111において、比較部28aは、直流電流センサ値Idcsと推定直流電流値Idce2を比較し、その差分が閾値2以上であるか判定する。差分が閾値2以上である場合は、直流電流センサ12が異常であると判断し、ステップS103の処理に移る。差分が閾値2未満である場合には、インバータ制御装置16aは診断処理を終了する。
ステップS112において、PWM信号生成部21aは、モータ2aが駆動しないようにPWM信号22aから22lの制御を行う。
なお、ステップS103におけるPWM信号生成部21aへの異常通知信号6の出力とステップS112でのPWM信号の制御は必須ではなく、直流電流センサ12が異常である判断した後、異常通知装置4への異常通知信号6の出力のみを行っても良い。
また、図6の診断処理においては、直流電流センサ値Idcsと推定直流電流値Idce2の差分が閾値2以上である場合に直流電流センサ12が異常であると判断しているが、別の尺度を用いて直流電流センサ12が異常であると判断しても良い。例えば、直流電流センサ値Idcsと推定直流電流値Idce2の差分が前回診断時の差分よりも一定値以上大きくなっているときに、直流電流センサ12が異常であると判断することもできる。
以上のように本実施例によれば、モータ2aおよびインバータ回路9aが3相6線式であっても、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsとデューティ値Du1、Du2、Dv1、Dv2、Dw1、Dw2に基づいて推定直流電流値Idce2を計算し、この推定直流電流値Idce2と直流電流センサ値Idcsに基づいて直流電流センサ12の診断を常時行うことができる。
なお、本実施例では、デューティ値Du1、Du2、Dv1、Dv2、Dw1、Dw2を用いて推定直流電流値Idce2を計算しているが、デューティ値の代わりにPWM信号切り替えタイミング情報Cu、Cv、Cwを用いて推定直流電流値Idce2を計算しても良い。
本実施例では、直流電流センサの異常を常時診断可能なことに加えて、診断精度を向上した電力変換装置の例を示す。
実施例3における電力変換装置およびその周辺回路の構成例を図7に示す。なお、実施例1における構成例と同一の要素には同一の符号を付与しており、それら同一要素の説明は省略する。
実施例3における電力変換装置1bは、実施例1とは異なるインバータ制御装置16bを有している。インバータ制御装置16bは、実施例1の直流電流センサ診断部25とは異なる直流電流センサ診断部25bを有している。
直流電流センサ診断部25bは、実施例1における直流電流センサ診断部25の構成に加えて補正値計算部29を有している。また、直流電流センサ診断部25bは、実施例1における比較部28とは異なる比較部28bを有している。その他、直流電流センサ診断部25bには、補正値計算部29が出力する補正値Icを推定直流電流値Idce1に加算し、補正後の推定直流電流値Idccを計算する機能が追加されている。
比較部28bは、推定直流電流値Idce1の代わりに、補正後の推定直流電流値Idccと直流電流センサ値Idcsを比較し、その比較結果から直流電流センサ12が異常であるか判断する。
補正値計算部29は、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsを用いて、式(3)に従って補正値30を計算する。式(3)においてKは補正係数を示し、0より大きく1未満の値を用いる。なお、Kを0.5に設定すると補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差を最も低減することができる。その理由は後述する効果例の部分で説明する。
なお、本実施例では、直流電流センサ診断部25bをインバータ制御装置16b内部に記載しているが、直流電流センサ診断部25bはインバータ制御装置16bの外部にあっても良い。また、直流電流センサ診断部25bは、電力変換装置1bとは別の電子制御装置に搭載されても良い
図8は、実施例3における直流電流センサ12の診断処理を表したフローチャートである。この診断処理は、インバータ制御装置16bが任意のタイミングで実施する。なお、実施例1における診断処理と同一の処理を行う部分については、同一の符号を記しており、それらの説明は省略する。
図8の診断処理では、実施例1の診断処理に加えてステップS120およびステップS121を追加している他、実施例1のステップS102の代わりにステップS122の処理を行う。
ステップS120において、補正値計算部29は、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsを用いて式(3)に基づいて補正値Icを計算する。その後、ステップS121において、直流電流センサ診断部25bは、推定直流電流値Idce1と補正値Icを加算して補正後の推定直流電流値Idccを計算する。
次に、ステップS122において、比較部28bは、直流電流センサ値Idcsと補正後の推定直流電流値Idccを比較し、その差分が閾値3以上であるか判定する。差分が閾値3以上である場合は、直流電流センサ12が異常であると判断し、ステップS103の処理に移る。差分が閾値3未満である場合には、インバータ制御装置16bは診断処理を終了する。
なお、図8の診断処理においては、直流電流センサ値Idcsと補正後の推定直流電流値Idccの差分が閾値3以上である場合に直流電流センサ12が異常であると判断しているが、別の尺度を用いて直流電流センサ12が異常であると判断しても良い。例えば、直流電流センサ値Idcsと補正後の推定直流電流値Idccの差分が前回診断時の差分よりも一定値以上大きくなっているときに、直流電流センサ12が異常であると判断することもできる。
図9は、U相交流電流センサ値Iusにオフセット誤差Ioffがある場合の補正による効果を表した例である。図9の上のグラフはU相、V相、W相のデューティ値Du、Dv、Dwを表しており、中央のグラフはU相、V相、W相の交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsと各交流電流センサ値の3相和の値を表している。下のグラフは、実際の直流電流値、補正前の推定直流電流値Idce1、補正後の推定直流電流値Idccを示している。補正値Icは式(3)に基づいて計算しており、補正係数Kはこの図では0.5としている。また、いずれのグラフも横軸はモータ2の電気角である。
図9において、実際の直流電流値は一定の値を示している。それに比べて、U相の交流電流センサ値Iusにオフセット誤差Ioffが入っているため、推定直流電流値Idce1には実際の直流電流値と比較して最大でIoff分の誤差が発生している。また、電気角1周期分の期間で推定直流電流値Idce1の平均値を取った場合、推定直流電流値Idce1の平均値は実際の直流電流値と比較してIoff×0.5の誤差を有している。それに対して、補正後の推定直流電流値Idccと実際の直流電流値との誤差はIoff×0.5に低減される。また、補正後の推定直流電流値Idccの平均を取ると実際の直流電流値と等しくなる。
図10は、図9の例において補正係数Kの値を変化させた場合に、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量を示したものである。図9の例では、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsの3相和はIoffとなるため、補正係数Kが0.1増加するに従って補正値Icは−0.1×Ioffだけ増加する。それにより、補正後の推定直流電流値Idccの値は0.1×Ioffだけ減少する。
図10より、補正係数Kが1となると補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量は補正係数Kが0(=補正無し)の場合と同じ値になる。また、補正係数Kが0.5のとき、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量は最も小さくなる。
図11は、U相交流電流センサ値IusおよびV相交流電流センサ値Ivsにオフセット誤差Ioffがある場合の補正による効果を表した例である。図11のグラフの並びは図9と同様であり、この図の補正係数Kの値は0.5である。
図11において、推定直流電流値Idce1には実際の直流電流値と比較して最大でIoff×1.5の誤差が発生している。また、電気角1周期分の期間で推定直流電流値Idce1の平均値を取った場合、推定直流電流値Idce1の平均値は実際の直流電流値と比較してIoffの誤差を有している。それに対して、補正後の推定直流電流値Idccと実際の直流電流値との誤差はIoff×0.5に低減される。また、補正後の推定直流電流値Idccの平均を取ると実際の直流電流値と等しくなる。
図12は、図11の例において補正係数Kの値を変化させた場合に、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量を示したものである。図11の例では、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsの3相和はIoff×2となるため、補正係数Kが0.1増加するに従って補正値Icは−0.2×Ioffだけ増加する。それにより、補正後の推定直流電流値Idccの値は0.2×Ioffだけ減少する。
図11の例においても、補正係数Kが1となると補正係数Kが0の場合と誤差量が同じになる。また、補正係数Kが0.5のとき、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量は最も小さくなる。
図13は、U相交流電流センサ値Ius、V相交流電流センサ値Ivs、W相交流電流センサ値Iwsにオフセット誤差Ioffがある場合の補正による効果を表した例である。図13のグラフの並びは図9と同様であり、この図の補正係数Kの値は0.5である。
図13の例の場合、推定直流電流値Idce1は電気角によらず、実際の直流電流値と比較して常にIoff×1.5の誤差を有している。それに対して、補正後の推定直流電流値Idccは実際の直流電流値と等しくなる。
図14は、図13の例において補正係数Kの値を変化させた場合に、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量を示したものである。図13の例では、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsの3相和はIoff×3となるため、補正係数Kが0.1増加するに従って補正値Icは−0.3×Ioffだけ増加する。それにより、補正後の推定直流電流値Idccの値は0.3×Ioffだけ減少する。
図13の例においても、補正係数Kが1となると補正係数Kが0の場合と誤差量が同じになる。また、補正係数Kが0.5のとき、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量は最も小さくなる。
図15は、U相交流電流センサ値にIgのゲイン誤差がある場合の補正による効果を表した例である。図15のグラフの並びは図9と同様であり、この図の補正係数Kの値は0.5である。U相交流電流センサにIgのゲイン誤差があるため、中央のグラフのIusの値は、本来のU相交流電流値をIuとしたとき、Iu×Igだけ増加している。この例では本来のU相交流電流値の最大値をImaxとしているため、Iusの最大誤差値はImax×Igとなる。
図15の例の場合、推定直流電流値Idce1には実際の直流電流値と比較して最大でImax×Igの誤差が発生している。また、電気角1周期分の期間で推定直流電流値Idce1の平均値を取った場合、推定直流電流値Idce1の平均値は実際の直流電流値と比較してImax×Ig×0.25の誤差を有している。それに対して、補正後の推定直流電流値Idccと実際の直流電流値との誤差はImax×Ig×0.5に低減される。ただし、補正後の推定直流電流値Idccの平均値は補正前の推定直流電流値Idce1の平均値と同じ値となり、平均値の誤差は低減されない。
図16は、図15の例において補正係数Kの値を変化させた場合に、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量を示したものである。図15の例では、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsの3相和はIu×Igとなるため、補正係数Kが0.1増加するに従って補正値Icは−0.1×Iu×Igだけ増加する。
図15の例においても、補正係数Kが1となると補正係数Kが0の場合と誤差量が同じになる。また、補正係数Kが0.5のとき、補正後の推定直流電流値Idccが有する誤差量は最も小さくなる。なお、補正後の推定直流電流値Idccの平均値が有する誤差は、補正係数Kの値に関わらず一定となる。
以上のように本実施例によれば、補正値計算部29は、交流電流センサ値Ius、Ivs、Iwsを用いて補正値Icを計算し、比較部は補正後の推定直流電流値Idccと直流電流センサ値Idcsを比較して診断を行う。交流電流センサ値14aから14cが持つ誤差によって生じる推定直流電流値Idce1のずれは補正値Icによって低減できるため、本実施例における異常検知閾値3は実施例1の閾値1と比べて小さく設定することが可能となる。それにより、直流電流センサ値Idcsが本来の値からずれた場合、少しのずれでも異常検知することが可能となり、直流電流センサ12の診断をより精度よく実施することが可能となる。
また、図9から図16に示した例より、補正後の推定直流電流値Idccの平均を取ることで実際の直流電流値との誤差をさらに低減できる。そのため、例えばローパスフィルタなどを用いて補正後の推定直流電流値Idccを平均化し、その平均化した補正後推定直流電流値と直流電流センサ値Idcsを用いて、直流電流センサ12の診断を行っても良い。
なお、電力変換装置の診断を行う上で直流電流センサ12の必要性は高いが、コストを考えると直流電流センサ12を除外したいという課題がある。本実施例で記載した推定直流電流の計算および補正値の計算は、直流電流センサ12を除外するという上記課題に対しても利用できる。本実施例の内容を用いて直流電流値を精度良く推定することで、直流電流センサ12がある場合と同等の精度を維持しつつ、直流電流センサ12を除外することでコスト低減を図ることが可能となる。
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。