JP6890511B2 - 触媒およびアルデヒド類の製造方法 - Google Patents

触媒およびアルデヒド類の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、カルボン酸類からアルデヒド類を製造するための触媒および当該触媒を用いてカルボン酸類から水素化によりアルデヒド類を製造する方法に関する。
アルデヒド類は、各種有機化学合成用の中間体等として、工業的に極めて重要な化合物であり、酢酸エチル、過酢酸、ピリジン誘導体、ペンタエリスリトール、クロトンアルデヒド、パラアルデヒドなどの原料として大量に使用されている。
現在、アルデヒド類は、工業的には主にエチレンや末端オレフィンの酸化又はヒドロホルミル化により製造されている。しかし、これらの原料は、いずれも石油由来の化合物であり、近年の石油類の高騰や資源枯渇問題から、より安定的かつ安価に入手可能な化合物を原料とする製造方法が望まれている。ここで、アルデヒド類の中でも特に工業的に大量に製造されているアセトアルデヒドに着目すると、過去にはアセトアルデヒドは、その酸化により酢酸を製造するための原料として利用されており、必然的に酢酸は、アセトアルデヒドより高価な化合物であった。しかしながら、1970年代に酢酸の製造方法が、メタノールのカルボニル化法(所謂モンサント法)に転換すると、酢酸とアセトアルデヒドの価格順位は逆転し、酢酸の水素還元によるアセトアルデヒドの製造が経済的に十分成立する状況となった。さらに、現在アセトアルデヒドは、上述のようにエチレンを原料として製造されているのに対し、酢酸は、メタノールと一酸化炭素といういずれも非石油原料から合成可能な原料から製造されているため、原料の安定確保、資源保護、地球環境保護の面からも酢酸を原料とするアセトアルデヒドの製造は好ましいと言える。
上述のような状況から、酢酸の水素還元によるアセトアルデヒドの合成が既にいくつかなされている。以下に列挙すると、ジェラルド・シー・タスティンらは、酸化鉄に2.5〜90重量%のパラジウムを添加した触媒を開示した(特許文献1)。ヴィクター・ジェイ・ジョンストンらは、シリカ及び炭素からなる担体上にパラジウムと第2成分として、鉄、銅、金、及びカリウムからなる金属群を担持したパラジウム担持触媒を開示した(特許文献2)。R.ペストマンらは、酢酸から水素化によりアセトアルデヒドを製造する方法として、白金担持酸化鉄触媒を用いることにより、高選択的にアセトアルデヒドが得られることを開示した(非特許文献1)。また、R.ペストマンらは、酢酸から水素化によりアセトアルデヒドを製造する方法として、酸化鉄触媒を用いることにより、高選択的にアセトアルデヒドが得られることを開示した(非特許文献2)。
特開平11−322658号公報 特表2011−529494号公報
JOURNAL OF CATALYSIS vol.168, 255-264 (1997) JOURNAL OF CATALYSIS vol.148, 261-269 (1994)
本発明者らは、上述の先行技術文献に基づき、カルボン酸類を気相中で水素化し、アルデヒド類を工業的に製造するための触媒について検証を行ったところ、従来のパラジウム担持酸化鉄触媒、特に、酸化鉄に対するパラジウムの量が少ない触媒では、反応初期は良好なカルボン酸類の転化率であるが、反応時間の経過により、カルボン酸類の転化率が悪化することが分かった。
したがって、本発明の目的は、カルボン酸類を気相中で水素化してアルデヒド類を製造する際に用いる触媒であって、長時間(例えば、100時間)反応経過後もカルボン酸類転化率およびアルデヒド類への選択率を高く維持でき、工業的に有用な触媒を提供することにある。また、本発明の目的は、長時間経過後もカルボン酸類転化率及びアルデヒド類への選択率を高く維持でき、工業的に有用なアルデヒド類の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、パラジウムを被覆する酸化鉄と、パラジウムの担体としての酸化鉄とを含む触媒において、パラジウムと酸化鉄、およびパラジウムを被覆する酸化鉄とパラジウムの担体としての酸化鉄の割合を特定の範囲にすることで、長時間経過後もカルボン酸類の転化率およびカルボン酸類の水素化におけるアルデヒド類の選択率を高く維持できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、カルボン酸類から気相中で水素化することによりアルデヒド類を製造するための触媒であって、前記触媒において、パラジウムを被覆する酸化鉄と、パラジウムの担体としての酸化鉄とが共に存在し、前記触媒に含まれるパラジウム(Pd元素換算)/前記触媒に含まれる酸化鉄(Fe23換算)のモル比が0.05〜0.6であり、且つ、前記のパラジウムを被覆する酸化鉄(Fe23換算)/前記のパラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23換算)のモル比が0.1〜2である触媒を提供する。
また、本発明は、前記パラジウムの直径が10nm以下である触媒を提供する。
また、本発明は、カルボン酸類から気相中で触媒を用いて水素化することによりアルデヒド類を製造する方法であって、前記触媒が、前記の触媒であるアルデヒド類の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記カルボン酸類が酢酸であり、前記アルデヒド類がアセトアルデヒドである前記のアルデヒド類の製造方法を提供する。
本発明の触媒は、カルボン酸類の水素化において、長時間(例えば、100時間)反応経過後もカルボン酸類の転化率およびアルデヒド類の選択率を高く維持することができる。また、本発明のアルデヒド類の製造方法は、カルボン酸類の転化率およびアルデヒド類の選択率に優れる。
本発明のアルデヒド類の製造方法の一例を示す概略フロー図である。 実施例における触媒原料組成比と反応24時間から反応100時間までのアセトアルデヒド転化率の低下率を示すグラフである。 実施例における触媒原料組成比と反応100時間経過時のパラジウム(Pd)重量に対する酢酸転化量(AC転化量/Pd重量)の関係を示すグラフである。 実施例における比較例1の触媒をTEM(透過型電子顕微鏡)で観測したときの画像である。 実施例における比較例2の触媒をTEM(透過型電子顕微鏡)で観測したときの画像である。 実施例における実施例1の触媒をTEM(透過型電子顕微鏡)で観測したときの画像である。 実施例の触媒のTRP(昇温還元反応法)による測定結果を示すグラフである。 実施例の触媒をXAFS(X線吸収微細構造解析)で局所構造を解析したときの動径分布関数のスペクトルである。
[触媒]
本発明の触媒は、カルボン酸類から気相中で水素化することによりアルデヒド類を製造するための触媒(アルデヒド類製造用触媒)であって、触媒において、パラジウムを被覆する酸化鉄と、パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)とが共に存在し、触媒に含まれるパラジウム(Pd元素換算)/触媒に含まれる酸化鉄(Fe23換算)のモル比[Pd/Fe23モル比]が0.05〜0.6であり、且つ、パラジウムを被覆する酸化鉄(Fe23換算)/パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23換算)のモル比が0.1〜2である。上記触媒中に含まれる酸化鉄は、パラジウムを被覆する酸化鉄とパラジウムの担体としての酸化鉄の両方を含む。なお、本発明の触媒は、カルボン酸類を水素化してアルデヒド類を製造する際に、水素化の化学反応の速度を速める働きをする物質である。
Pd/Fe23モル比は、0.05〜0.6であるが、好ましくは0.08〜0.55、より好ましくは0.1〜0.5、さらに好ましくは0.15〜0.45である。当該モル比が上記範囲であると、パラジウムの割合が少ない場合であっても、長時間反応経過後のカルボン酸類の転化率、カルボン酸類の水素化におけるアルデヒド類の選択率を高く維持できる。触媒におけるパラジウムの割合は、同程度のカルボン酸類転化率およびアルデヒド類への選択率であれば、コストの観点から少ないことが好ましい。なお、本発明では、パラジウム(Pd)は、主にパラジウム単体(Pd−Pd)を意味するが、パラジウム元素(Pd)を含むものであればよく、酸化パラジウム等のパラジウムの酸化物等であってもよい。上記モル比におけるパラジウム(Pd)は、全てPd元素に換算した割合である。
パラジウムを被覆する酸化鉄(Fe23換算)/パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23換算)のモル比は0.1〜2であるが、好ましくは0.12〜1.8、より好ましくは0.13〜1.6、さらに好ましくは0.14〜1.4である。当該モル比が上記範囲であると、パラジウムの割合が少ない場合であっても、十分な触媒活性を保ち、アルデヒド類等への選択率を高くすることができる。酸化鉄としては、FeO、Fe23、Fe34の形態が考えられるが、上記モル比においては、その全てがFe23であると仮定してFe23に換算した値である。
パラジウム(Pd元素換算)の含有量は、触媒(100重量%)に対して、例えば1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。また、パラジウムを被覆する酸化鉄(Fe23換算)の含有量は、触媒(100重量%)に対して、例えば10〜80重量%、好ましくは15〜70重量%、より好ましくは20〜60重量%である。
パラジウム(Pd元素換算)とパラジウムを被覆する酸化鉄(Fe23換算)の合計重量は、触媒(100重量%)に対して、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。パラジウムと酸化鉄の割合が一定以上であると、良好な触媒活性が得られる。
触媒としては、本発明の効果を損なわない範囲で、前記パラジウム及び酸化鉄以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの白金族金属、カリウム、ニッケル、スズ、亜鉛、モリブデン、セリウム、銅、銀、金などが挙げられる。上記その他の成分の合計重量は、触媒(100重量%)に対して、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
本発明の触媒におけるパラジウム粒子の直径は、例えば10nm以下、好ましくは9nm以下、より好ましくは8nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。また、上記パラジウム粒子の平均の直径は、例えば10nm以下、好ましくは2〜9nm、より好ましくは2〜8nmである。本発明の触媒において、このように微粒子化したパラジウム粒子は酸化鉄担体に担持されやすい。また、パラジウム粒子が微粒子かつ均一化されているため、パラジウムとそれを被覆する酸化鉄において、パラジウムと酸化鉄の界面(活性点)が増加すると考えられる。そして、パラジウムの粒子径が上記範囲である場合、長時間経過後もカルボン酸類の転化率およびカルボン酸類の水素化におけるアルデヒド類の選択率を高く維持することができると考えられる。なお、上記パラジウム粒子の直径は、パラジウムの一次粒子の直径のことを意味する。
本発明の触媒において、パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)の大きさ(粒子としたときの直径)は、例えば10〜100nm、好ましくは12〜80nm、より好ましくは15〜60nm、さらに好ましくは20〜40nmである。
パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)の含有量は、触媒(100重量%)に対して、例えば2〜40重量%、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは4〜20重量%である。また、パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)の含有量は、触媒中の担体(100重量%)に対して、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
本発明の触媒では、本願発明の効果を損なわない範囲で、パラジウムの担体としての酸化鉄以外にシリカ等の担体を用いたり、希釈剤を共存させたり、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化バナジウム、酸化亜鉛等の金属酸化物等を含有させたりすることができる。
上記パラジウム、パラジウムを被覆する酸化鉄、およびパラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)等の割合は、触媒製造時の仕込み量から算出することができる。パラジウムの調製原料としては、例えばPd(NO32硝酸溶液、酢酸パラジウムなどのパラジウム塩を用いることができる。パラジウムを被覆する酸化鉄の調製原料としては、例えばFe(NO32・9H2O、FeSO4・7H2Oなどの鉄化合物を用いることができる。パラジウムの担体としての酸化鉄は、例えばFe23を用いることができる。パラジウムを被覆する酸化鉄は、調製原料として酸化鉄ではない鉄化合物や鉄(Fe)単体を用いた場合であっても、後述の触媒の製造方法で述べるように焼成することにより酸化鉄として触媒中に存在することとなる。
本発明の触媒の構造(粒子径などを含む)の特定は、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡)、XAFS(X線吸収微細構造解析)などの機器を用いたり、COパルス吸着法にて触媒表面の金属の状態を観測したりすることで行うことができる。特に、TEM(透過型電子顕微鏡)では、触媒におけるパラジウム粒子の一次粒子の大きさや割合などを観測することができる。XAFS(X線吸収微細構造解析)では、パラジウムや酸化鉄等の触媒中の局所構造を解析することができる。
本発明の触媒の形状は、例えば、ペレット状(円柱状)、球状が挙げられる。触媒の大きさとしては、ペレット状である場合、長径が、例えば0.1〜20mm程度、好ましくは0.3〜15mm、より好ましくは0.5〜10mm、さらに好ましくは1〜8mmである。また、平均の長径が、例えば0.3〜10mm程度、好ましくは0.5〜8mm、より好ましくは0.8〜6mm、さらに好ましくは1〜4mmである。触媒の大きさとしては、球状である場合、直径が、例えば0.1〜15mm程度であり、好ましくは0.2〜10mm、より好ましくは0.5〜8mm、さらに好ましくは1〜6mmである。また、触媒の平均の直径が、例えば0.2〜10mm程度、好ましくは0.5〜8mm、より好ましくは0.8〜6mm、さらに好ましくは1〜4mm、特に好ましくは1〜3mmである。触媒が上記範囲でない場合や大きなサイズの板状やブロック状等のものである場合、適宜、適切な大きさになるように触媒を破砕や整粒をしてもよい。
本発明の触媒において、カルボン酸類とは、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基を有する有機酸である。カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、安息香酸などが挙げられる。前記アルデヒド類とは、分子内に少なくとも1つのホルミル基を有する炭化水素化合物である。前記アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、アクロレイン、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。
本発明の触媒では、カルボン酸類が酢酸であり、アルデヒド類がアセトアルデヒドであることが好ましい。
本発明の触媒は、例えば(1)パラジウム塩および鉄化合物と、パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)とを含む混合溶液を調製する工程、(2)(1)で調製した混合溶液を蒸発乾固および乾燥する工程、および(3)(2)で乾燥させた触媒を焼成する工程を含む方法により製造することができる。必要に応じて、上記以外に(2)で乾燥させた触媒を破砕および整粒する工程等の他の工程を含んでもよい。
(1)の工程では、例えば、パラジウム塩および鉄化合物(パラジウムおよびパラジウムを被覆する酸化鉄の調製原料)とFe23担体とを加え、撹拌することにより混合溶液を調製する。必要に応じて、溶媒を加えてもよい。(1)の工程では、パラジウムとパラジウムを被覆する酸化鉄の含有比または割合が適当となるように、パラジウム塩および鉄化合物を配合する。また、パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)も、その含有比または割合が適当となるように配合する。
パラジウム塩(パラジウムの調製原料)としては、例えばPd(NO32硝酸溶液、酢酸パラジウム等を用いることができる。鉄化合物(パラジウムを被覆する酸化鉄の調製原料)としては、例えばFe(NO32・9H2O、FeSO4・7H2Oを用いることができる。パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)は、Fe23を用いることができる。パラジウム塩、鉄化合物、およびパラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)としては、市販のものを用いることができる。なお、パラジウム塩や鉄化合物としては、1種を単独で、又は2種以上を組合せて使用することができる。
なお、鉄化合物として硫酸鉄等の非熱分解性の対イオンを有する化合物を使用する場合は、鉄化合物溶液の蒸発乾固法は使えず、例えば、硫酸鉄を使用する場合、アンモニア等のアルカリ沈殿剤を添加して不溶性の鉄化合物として沈殿させた後、沈殿を十分水洗して硫酸イオンを除去する必要がある。なお、鉄化合物は、焼成することにより酸化鉄として触媒中に存在することとなる。
上記溶媒としては、例えば水、アルコール、トルエン等が挙げられるが、中でも水が好ましい。溶媒の使用量は、加えた触媒を分散又は溶解できる分量であれば特に制限されないが、使用する触媒全量100重量部に対して、例えば100〜5000重量部、好ましくは300〜1000重量部である。また、パラジウム塩は、鉄、その他の卑金属塩と比較して析出し易いため、混合溶液にクエン酸、EDTA等のキレート剤を共存させることも、触媒活性向上に有効である。キレート剤の配合量は、溶媒100重量部に対し、例えば10〜1000重量部程度である。
(2)(1)で調製した混合溶液を蒸発乾固および乾燥する工程における蒸発乾固は、例えば50〜150℃の温度で3〜48時間行う。また、乾燥は、例えば50〜200℃の温度で1〜48時間行う。蒸発乾固と乾燥は、分けずに一度に行ってもよい。蒸発乾固と乾燥は、一般的な電気炉などを用いて空気雰囲気下で行うことができる。必要に応じて、乾燥後の触媒を適切な大きさになるように破砕や整粒などにより成形して、ペレット状又は球状にしてもよい。
(3)(2)で乾燥させた触媒を焼成する工程における焼成は、例えば100〜600℃の温度で1〜24時間行う。焼成は、一般的な電気炉などを用いて空気雰囲気下で行うことができる。また、焼成は、100〜600℃の温度範囲で適宜段階的に温度変化させて行ってもよく、例えば100〜300℃で1〜6時間、その後300〜500℃で2〜8時間焼成させてもよい。本発明の触媒では、特に急激な温度上昇による発熱を防ぎ、パラジウムの一次粒子径の肥大化を抑制するために、段階的に温度を上げることが好ましい。焼成は、(2)の蒸発乾固や乾燥と分けずに一度に行ってもよい。なお、パラジウムを被覆する酸化鉄は、酸化鉄ではない鉄化合物や鉄(Fe)単体であっても焼成することにより酸化鉄として触媒中に存在することとなる。以上のようにして本発明の触媒を製造することができる。
本発明の触媒は、パラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23)を含むため、微粒子化したパラジウムが酸化鉄に担持して存在する。そのため、本発明の触媒は、パラジウムの接触面(表面積)が大きい構造となり、パラジウムが効率的に触媒として作用する。更に、パラジウムは酸化鉄に被覆された構造としても存在するため、パラジウムと酸化鉄の接触面(界面)が大きくなっている。このパラジウムと酸化鉄の接触面(界面)においては、高温水素雰囲気下、Fe23がFe34やFeへ還元されていると考えられる。そして、実施例にて詳細に述べるとおり、このパラジウムと酸化鉄由来の鉄が反応して、パラジウム近傍にパラジウム鉄合金(Pd−Fe)が生成している。これにより、パラジウム鉄合金もしくはパラジウム鉄合金近傍の鉄が水素化反応における活性点として機能すると考えられる。以上より、本発明の触媒は、反応時間経過によるコーキング(炭素の沈着)を抑制することができ、長時間経過後もカルボン酸類の転化率およびカルボン酸類の水素化におけるアルデヒド類の選択率を高く維持することができる。
[アルデヒド類の製造方法]
本発明のアルデヒド類の製造方法は、上述の本発明の触媒の存在下、気相中でカルボン酸類から水素化によりアルデヒド類を製造する方法である。本発明のアルデヒド類の製造方法では、水素化は、水素(H2)ガスを用いることが好ましい。
カルボン酸類とは、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基を有する有機酸である。カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、安息香酸が挙げられる。アルデヒド類とは、分子内に少なくとも1つのホルミル基を有する炭化水素化合物である。アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、アクロレイン、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。なお、本発明のアルデヒド類の製造方法では、原料であるカルボン酸類に対応したアルデヒド類が得られる。
本発明のアルデヒド類の製造方法では、カルボン酸類が酢酸であり、アルデヒド類がアセトアルデヒドであることが好ましい。
図1は、本発明のアルデヒド類の製造方法の一例を示す概略フロー図である。特に図1は、アセトアルデヒドを目的物とする場合の概略フロー図である。
図1に示す例では、水素ガスは水素設備Pからライン1により供給され、コンプレッサーI−1で加圧され、バッファータンクJ−1を経て、ライン2の循環ガスと合流して、ライン3により蒸発器A(カルボン酸類蒸発器)に仕込まれる。蒸発器Aには、カルボン酸類タンクK−1からポンプN−1を用いてライン4よりカルボン酸類が供給され、気化したカルボン酸類が水素ガスと共に熱交換器(加熱器)L−1、L−2で加熱され、ライン5より本発明の触媒を充填した反応器Bに仕込まれる。蒸発器Aには循環ポンプN−2が備えられている。反応器Bでカルボン酸類は水素化され、主生成物のアルデヒド類やエタノール等のアルコール類のほか、非凝縮性のメタン、エタン、エチレン、二酸化炭素、凝縮性のアセトン等のケトン類、水などが生成する。また、他にプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2以上の炭化水素が生成する。
カルボン酸類の水素化は、公知の方法で行うことができる。例えば、カルボン酸類を本発明の触媒の存在下で水素と反応させる。本発明のアルデヒド類の製造方法では、カルボン酸類の水素化に用いる前に、予め、水素と接触させることにより還元処理を施すことが好ましい。還元処理は、例えば200〜400℃、且つ0.1〜5MPaの条件下、水素(H2)ガスを30〜300ml/min流通させることにより行われる。
線速度は、例えば10〜20000mm/s、好ましくは50〜10000mm/s、より好ましくは200〜3000mm/sである。線速度が上記範囲であると、カルボン酸類の水素化においてアルデヒド類の選択率を向上させることができる。なお、線速度とは、反応圧力と反応温度による体積補正を行った体積流量を反応管の断面積で割った値を意味する。
反応器での反応温度は、例えば250〜400℃、好ましくは270〜350℃である。反応温度が高すぎるとアセトン等のケトン類の副生が増大し、アルデヒド類等の選択率が低下しやすくなる。反応器での反応圧力は、常圧、減圧、加圧下のいずれであってもよいが、例えば0〜10MPa、好ましくは0.1〜3MPaの範囲である。反応器での接触時間は、例えば0.1〜1sec、好ましくは0.1〜0.5secである。
反応器への水素とカルボン酸類の供給比(モル比)は、例えば、水素/カルボン酸類=0.5〜50、好ましくは水素/カルボン酸類=2〜25である。
反応器におけるカルボン酸類の転化率は80%以下(例えば5〜80%)であることが望ましい。カルボン酸類の転化率が80%を超えると、副生物(酢酸エチル等)が生成しやすくなり、アルデヒド類の選択率が低下する。したがって、反応器における滞留時間、水素の流通速度を、カルボン酸類の転化率が80%以下となるように調整することが望ましい。
カルボン酸類と水素との反応により、前述したように、主に、未転化のカルボン酸類、未転化の水素、反応で生成したアルデヒド類、アルコール類、水、及びその他の生成物(酢酸エチル等のカルボン酸類、アセトン等のケトン類)からなるガス状反応生成物が得られる。
ガス状反応生成物から非凝縮性ガスと凝縮性成分とを分離し、該凝縮性成分を反応液とすることができる。前記ガス状反応生成物から非凝縮性ガスと凝縮性成分とを分離する方法としては、例えば、カルボン酸類を水素化した反応流体を吸収塔に仕込み、該反応流体中の凝縮成分を吸収液で吸収することにより、凝縮性成分と非凝縮性のガスとを分離できる(吸収工程)。前記の副生する炭素数2以上の炭化水素の少なくとも一部は、吸収液で吸収される。本発明のアルデヒド類の製造方法においては、このような吸収液に吸収された凝縮性成分(凝縮性成分と吸収液の混合物)も「反応液」に含める。なお、前記吸収工程では、非凝縮性ガスの一部が吸収液に溶解するが、吸収塔の缶出液の圧力を減じることにより、吸収液に溶解した非凝縮性ガスを放散させ、該非凝縮性ガス放散後の液を吸収塔にリサイクルする工程(放散工程)を設けることにより、水素と他の非凝縮性ガス成分とを効率よく分離できる。
吸収工程では、例えば、カルボン酸類を水素化した反応流体を吸収塔に仕込み、該反応流体中の凝縮成分を吸収液で吸収するとともに、非凝縮性ガスを吸収液に溶解する。この吸収工程は、通常、反応工程で得られた反応流体と吸収液とを吸収塔に供給し、吸収塔内で両者を接触させることにより行われる。吸収塔としては、特に限定されず、公知乃至周知のガス吸収装置、例えば、充填塔、棚段塔、スプレー塔、濡れ壁塔を使用できる。
また、放散工程では、吸収塔の缶出液の圧力を減じて吸収液に溶解した非凝縮性ガスを放散し、該非凝縮性ガス放散後の液を吸収塔にリサイクルする。この放散工程は、通常、吸収工程で得られた吸収塔の缶出液(凝縮成分および非凝縮性ガスを吸収、溶解した後の吸収液)を圧力を減じた放散塔に供給し、非凝縮性ガスを放散することにより行われる。放散塔としては、特に限定されず、公知乃至周知のガス放散装置、例えば、充填塔、棚段塔、スプレー塔、濡れ壁塔、気液分離器を使用できる。
図1に示す例では、反応器Bから流出した反応流体はライン6により前記熱交換器L−1を経た後、熱交換器(冷却器)M−1、M−2で冷却され、ライン7より吸収塔Cの下方部に仕込まれる。吸収塔Cには、吸収液として、ライン9より後述する放散塔Dの缶出液(以後、「循環液」と称する場合がある)が仕込まれる。循環液は主に非凝縮性ガスである水素、メタン、エタン、エチレン、二酸化炭素を吸収、溶解する。また、循環液以外の吸収液(以後、「吸収塔補給液」と称する場合がある)として、ライン11より共沸溶剤(水と共沸する溶剤)を多く含む留出上相液を吸収液として仕込んでもよい。吸収塔補給液は非凝縮性ガスとともに低沸点の凝縮性成分であるアルデヒド類を吸収する。なお、留出上相液は、ライン15を通り冷却器M−3を経てライン11に供給される。放散塔Dの缶出液(ライン9)(循環液)及び留出上相液(ライン11)(吸収塔補給液)の吸収塔Cへの仕込位置は、アルデヒド類および非凝縮性ガスの吸収効率等を考慮して適宜選択できるが、前記循環液は吸収塔Cの中段部へ、吸収塔補給液は吸収塔Cの上方部へ仕込むのが好ましい。
吸収塔Cの缶出液は、反応液タンクK−2に供されるライン14と放散塔Dに仕込まれるライン8に分かれる。ライン14の缶出液は、反応液として反応液タンクK−2に貯留される。必要に応じてこの貯留された反応液を、精製工程に供してもよい。ライン8は放散塔Dで減圧され、ライン10より吸収液に溶解した非凝縮性ガスである水素、メタン、エタン、エチレン、二酸化炭素が放散され、該非凝縮性ガス放散後の液はライン9より吸収塔Cにリサイクルされる。Q−2はベントである。
吸収塔Cに仕込まれる吸収液としては、吸収塔Cの缶出液(循環液)のみでもよいが、アルデヒド類が沸点20℃と低いアセトアルデヒドである場合は、アセトアルデヒドの回収率を向上させるため、アセトアルデヒドを含まない吸収液が好ましい。例えば、吸収液としては、未反応のカルボン酸類と副生した水とを共沸蒸留により分離する際に使用する共沸溶剤含有液のほか、吸収塔Cの缶出液からアルデヒド類を分離した後の液等の酢酸水溶液が好ましい。
吸収液として共沸溶剤含有液を用いる場合、共沸溶剤含有液中の共沸溶剤含有量は、例えば、10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは75重量%以上である。
共沸溶剤は、水と共沸混合物を形成して沸点を下げ、かつ、水と分液することでカルボン酸類と水の分離を容易にする。共沸溶剤の例としては、エステルとしては、ギ酸イソプロピル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソアミル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸イソプロピルなどが、ケトンとしては、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトンなどが、脂肪族炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどが、脂環式炭化水素としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどが、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
これらの中でも、酢酸エチルは、カルボン酸類の水素化の副生成物として存在しやすいため、共沸溶剤の回収工程を省略することができるので、共沸溶剤として好ましい。
また、酢酸プロピル(沸点102℃)、酢酸イソブチル(沸点117℃)、酢酸sec-ブチル(沸点112℃)、プロピオン酸イソプロピル(沸点110℃)、酪酸メチル(沸点102℃)、イソ酪酸エチル(沸点110℃)など、常圧における沸点が100℃から118℃のエステルは、水との共沸混合物の水の比率が高く、かつ、酢酸より沸点が低いため、カルボン酸類と水の分離をより容易にする。また、これらのエステルは、エタノールとも共沸しないか、または、エタノールとの共沸混合物のエタノールの比率が低く、共沸溶剤の分離・回収が比較的容易である。したがって、常圧における沸点が100℃から118℃のエステルも共沸溶剤として好ましい。
また、非凝縮性ガスとして存在しやすいメタンは、極性の高い酢酸水溶液よりも極性の低い共沸溶剤によく溶解するため、共沸溶剤は、非凝縮性ガスの吸収液に適している。
吸収塔Cに供給される吸収塔補給液(ライン11)の供給量と反応流体(ライン7)の供給量との比(重量比)は、例えば、前者/後者=0.1〜10であり、好ましくは前者/後者=0.3〜2である。また、吸収塔Cに供給される循環液(ライン9)の量と反応流体(ライン7)の供給量との比(重量比)は、例えば、前者/後者=0.05〜20であり、好ましくは前者/後者=0.1〜10である。
吸収塔Cの段数(理論段数)は、例えば1〜20、好ましくは3〜10である。また、吸収塔Cにおける温度は、例えば0〜70℃であり、吸収塔Cにおける圧力は、例えば、0.1〜5MPa(絶対圧)である。
放散塔Dにおける温度は、例えば0〜70℃である。放散塔Dにおける圧力は、吸収塔Cの圧力より低ければよく、例えば0.05〜4.9MPa(絶対圧)である。吸収塔Cの圧力と放散塔Dの圧力との差(前者−後者)は、非凝縮性ガスの放散効率やアルデヒド類のロス抑制の観点から適宜選択できるが、例えば0.05〜4.9MPa、好ましくは0.5〜2MPaである。
本発明のアルデヒド類の製造方法におけるアルデヒド類の選択率は、反応条件によっても異なるが、例えば30〜90%、好ましくは40〜80%である。なお、アルデヒド類の選択率や収率は、反応液をガスクロマトグラフィー等で分析することにより求めることができる。
本発明のアルデヒド類の製造方法により得られる、アルデヒド類の純度は、例えば90.0重量%以上、好ましくは95.0重量%以上、さらに好ましくは98.0重量%以上である。なお、得られたアルデヒド類は、必要に応じてさらに蒸留などにより精製し、純度を高めることもできる。
本発明のアルデヒド類の製造方法は、本発明のアルデヒド類の製造方法は、カルボン酸類の転化率およびアルデヒド類の選択率に優れる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
Fe(NO33・9H2O(関東化学(株)社製、製品No.16026-00)26.09mmol、Fe23(和光純薬社製、平均粒子径20〜40nm、商品コードNo.322-94283)13.05mmol、および無水クエン酸(和光純薬(株)社製、商品コード:030-05525)23.49mmolをPd(NO32硝酸溶液((株)フルヤ金属社製、Pd含有量4.5重量%)をPdの含有量が7.83mmolとなるように加え、均一な混合溶液とした。上記の混合溶液を70℃で12時間乾燥させて蒸発乾固した後、110℃で1時間、140℃で1時間、200℃で2時間、400℃で5時間焼成し、打錠成型することにより打錠ペレット型触媒を得た。Pd/Fe23モル比および原料Fe(NO33・9H2O由来のFe23 / 原料Fe23由来のFe23のモル比は、下記表1のとおりである。上記製造後の触媒において、原料Fe(NO33・9H2O由来のFe23はパラジウムを被覆する酸化鉄となり、原料Fe23由来のFe23はパラジウムの担体としての酸化鉄となる。よって、原料Fe(NO33・9H2O由来のFe23 / 原料Fe23由来のFe23のモル比は、パラジウムを被覆する酸化鉄/パラジウムの担体としての酸化鉄のモル比となる。
[実施例2−4および比較例1−5]
Fe(NO33・9H2O、無水クエン酸、および加えたPd(NO32硝酸溶液を下記表1のようにしたこと以外は実施例1と同様にして実施例2−4および比較例1−5の打錠ペレット型触媒を得た。Pd/Fe23モル比および原料Fe(NO33・9H2O由来のFe23 / 原料Fe23由来のFe23のモル比は、下記表1のとおりである。
Figure 0006890511
(触媒の反応性の評価)
上記の実施例1−4および比較例1−5の触媒を用い、下記の方法で酢酸を原料とし、気相中で水素化することによりアセトアルデヒドを製造した。なお、触媒の反応性の評価は、酢酸を気化し、水素ガスとともに気体として反応器に供給可能であり、触媒を取り付けることができ、加熱可能な反応管を有する反応系を用いて行った。また、反応管を通過した気体は、反応管の出口に設けたコンデンサーからの凝縮液および非凝縮成分からなるオフガスに分け、各々をガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。
内径10mmのSUS316製反応管に、上記で得られた触媒を1.0ml充填し、まず、反応管に水素ガスを2.4L/hr(0℃/1atm換算、以下同じ)で流通させながら、電気炉により触媒層の温度を300℃に昇温し、12時間保持して触媒を活性化した。次に、水素ガス流量12.57L/hr、酢酸を0.076ml/minとして反応管に仕込んだ(酢酸は触媒層の手前で気化され、水素ガスとの混合ガスとして反応管を通過させた)。反応管に仕込んだ後、電気炉の温度を315℃に昇温し、反応管の出口の背圧弁により反応管内圧力を0.4MPaに昇圧した。上記の反応条件で24時間反応を継続した後、凝縮液およびオフガスを分析し、反応評価をした。この評価結果を表2に示す。また、上記の反応条件で100時間反応を継続した評価結果を表3に示す。
Figure 0006890511
Figure 0006890511
図2は、上記表2および3の実施例1−4および比較例1−5における反応24時間から反応100時間までのアセトアルデヒド転化率の低下率を触媒原料組成比とともに示すグラフ(三角図)である。当該低下率とは、[(24時間反応後転化率)−(100時間反応後転化率)/(24時間反応後転化率)]を意味し、反応時間の経過とともに触媒がどれだけ劣化したかを示す指標である。当該低下率が低い程、触媒が劣化していないことを意味する。図3は、上記表2および3の実施例1−4および比較例1−5における触媒原料組成比と反応100時間経過時のパラジウム(Pd)重量に対する酢酸転化量(AC転化量/Pd重量)の関係を示すグラフ(三角図)である。
図2および3より、Pd/Fe23モル比が同程度である実施例1、2、4、および比較例1、2、5を比較した場合、原料Fe(NO3)3・9H2O由来のFe23/原料Fe23由来のFe23のモル比が小さいほど、酢酸転化率は向上する傾向があることが分かる。これより原料Fe23由来のFe23の割合が大きいほど酢酸転化率は向上し、パラジウム(Pd)効率も向上していることが分かる。これは原料Fe23を担体として使用することによりパラジウム(Pd)を微粒子かつ均一化することができ、PdとFeの界面(活性点)が増加していることが考えられる。ただし、図2から分かるとおり、比較例2のようにパラジウムの担体としての酸化鉄としての原料Fe(NO33を使用しない場合は、原料Fe(NO33を使用している実施例1、2および4と比較して酢酸転化率が低い。これはPd粒子を覆うFe(原料Fe(NO33由来のFe23)がないためパラジウム(Pd)粒子のシンタリング(焼結)が進行し、Pd粒子とFeの界面が減少していることが考えられる。これは表2および表3のアセトアルデヒド転化率の経時的な低下からも推測される。原料Fe(NO33由来のFe23は、水素下の高温処理によりFeに還元され、触媒の活性点はPdとFeの界面、パラジウム鉄合金(Pd−Fe)であると推測される。以上の結果から原料Fe23由来のFe23は、Pd粒子を微粒子かつ均一化するための担体として機能しており、また原料Fe(NO33由来のFe23はPd粒子を覆うFeであり、Pd粒子のシンタリング(焼結)を緩和していることが考えられる。
(Pd重量検討)
図2の比較例3、4、5、及び実施例2のように原料Fe23と原料Fe(NO33の比率が同等な領域でPd重量による活性への影響を比較した場合、Pd重量が多い程、アセトアルデヒド転化率が向上する傾向がある。ただし、Pd重量が多い程、Pd効率は低下している。これはPd過増量によりPdのシンタリング(焼結)が進行するためPdとFeの界面が増量し難くなったことが考えられる。
[TEM測定]
比較例1、2、および実施例1の触媒を試料とし、それぞれの試料の任意の箇所について、下記のTEM(透過型電子顕微鏡)により極微細構造の確認を行った。TEMで観測された、それぞれの触媒の画像を図4〜6に示す。図4が比較例1、図5が比較例2、図6が実施例1である。
装置の機種:日本電子(株)社製 「JEM−1400Plus」
加速電圧:120kV
図4〜6のTEM画像において、黒くなって見える部分がパラジウム(Pd)の一次粒子であり、少し透過して見える部分が酸化鉄である。比較例1(図4)では、5〜20nmの不均一径なパラジウム粒子を酸化鉄が覆っていることを確認した。比較例2(図5)および実施例2(図6)では、比較例1(図4)には見られない酸化鉄担体に担持された10nm以下のパラジウム粒子が見られた。比較例2(図5)および実施例1(図6)における酸化鉄担体に担持されたパラジウム粒径は5〜10nmであった。また、担体としての原料Fe23を使用した比較例2(図5)および実施例1(図6)では、20〜40nm程度のFe23粒子を確認した。比較例2および実施例1は、比較例1と比較してPd粒子径がより微粒子かつ均一径であるため初期24時間で高アセトアルデヒド転化率を示している。また、実施例1(図6)は、比較例2(図5)と比較してPd粒子が前駆体としての原料Fe(NO33由来のFe23で覆われていることが分かる。なお、図4〜6は、反応前(水素還元前)のTEM画像である。
[TPR(昇温反応法)測定]
比較例1、2、および実施例2の触媒を試料とし、触媒分析装置を用いて試料に反応ガスを流通させながら連続昇温し、Fe23からFe34やFeへの構造変化(昇温還元反応)を確認した。この測定結果(TRPデータ)を図7に示す。
装置の機種:日本ベル(株)社製 「BELCAT−B」
図7を参照すると、比較例1では、約230℃にFe23からFe34への還元時のピークが見られた。一方、比較例2および実施例2では、このFe23からFe34への還元時のピークは約100℃であり、低温度側にシフトしていることを確認した。これはPdの微粒子化、均一径化によりPd粒子近傍のFe23の表面積が増加し、水素還元後の活性点であるFeが増加しているためと考えられる。
[XAFS測定]
比較例1、2、および実施例1の触媒を試料とし、それぞれの試料の任意の箇所について下記のXAFS(X線吸収微細構造解析)装置により、空気中および水素雰囲気下(水素中)で昇温しながらの局所構造の解析(in situ XAFS)を行った。解析により得られた動径分布関数のスペクトルを図8に示す。試料は、反応前の各触媒を1時間水素還元処理したものを用いた。
装置の機種:大型放射光実験施設SPring−8 「BL14B2」
図8を参照すると、比較例2は、比較例1ではあまり見られないPd−Feピークが見られ、パラジウム鉄合金(Pd−Fe)を形成していることを確認した。これは比較例2のPdが微粒子かつ均一径であるためPd近傍のFeの表面積が増加しFe23からFe34やFeへの還元が促進されていると考えられる。実施例1は、更にPd−Feのピークが大きくなっており、これは実施例1のPd粒子が前駆体としての原料Fe(NO33由来のFe23で覆われているためパラジウム鉄合金(Pd−Fe)が形成され易いことが考えられる。以上より、担体としてのFe23とパラジウムを被覆する酸化鉄としての前駆体Fe(NO33の比率を調整すること(触媒調製法)により活性点であるパラジウム鉄合金(Pd−Fe)の割合が変化することが分かった。そして、パラジウム鉄合金(Pd−Fe)の割合が多い程、表3から分かるように反応100時間経過後も高アセトアルデヒド転化率を示す(触媒の劣化によるアセトアルデヒド転化率低下を緩和、抑制する)ことを確認した。
[CHN元素分析]
100時間反応した比較例1、2および実施例1の触媒について、触媒を2mg秤量し、下記の装置を用いて、CHN(炭素、水素、窒素)元素分析を行った。標準試料にアンチピリンを用いて検量線を作成し、キャリブレーションとしてアセトアニリドを分析した。分析結果を表4に示す。
装置の機種:(株)ジェイ・サイエンス・ラボ マイクロコーダー 「JM10」
Figure 0006890511
表4のCHN元素分析の結果より、比較例1および比較例2に比べて、Pdが微粒子かつFeで覆われた触媒構造を有する実施例1が最もFe23に対するカーバイド(C)量(C/Fe23)が少ないことを確認した。Pd粒子が微粒子かつFeで覆われた実施例1は、Pdもしくはパラジウム鉄合金(Pd−Fe)近傍のFeの表面積が比較例1および2よりも多いためH2が活性化される。このため、パラジウムもしくはパラジウム鉄合金近傍の鉄は、適度な還元状態が維持されカーバイドが生成し難い環境が形成される、もしくは生成したカーバイドがメタン等に分解され易いことが考えられる。以上の結果から反応時間100時間経過後もアセトアルデヒド転化率の低下が見られないと推測する。
以上の結果から、本発明の触媒は、担体Fe23に対し微粒子かつ均一径であるPd粒子が担持されており、更にPdがFe23で覆われる触媒構造を有する。本発明の触媒は、Pdの表面積(接触面積)が大きく、更にPdとFe23の接触面が多い構造を効率良く形成する。この触媒構造により、Pdが触媒として効率的に作用し、高温水素雰囲気下において、パラジウム鉄合金、もしくはパラジウム鉄合金近傍の鉄が活性点として機能すると考えられ、高い酢酸転化率、アセトアルデヒド選択率を示すことが分かった。また、PdがFe23で覆われているため、Pd近傍のFeはPdにより活性化された水素による影響で反応時間経過によるコーキング化が抑制され反応成績が低下し難いことが分かった。
A 蒸発器
B 反応器
C 吸収塔
D 放散塔
I−1〜I−2 コンプレッサー
J−1〜J−3 バッファータンク
K−1 カルボン酸類タンク
K−2 反応液タンク
L−1〜L−2 加熱器
M−1〜M−4 冷却器(クーラー)
N−1〜N−3 ポンプ(送液ポンプ)
P 水素設備(水素ボンベ)
Q−1〜Q−2 ベント
1〜15 ライン

Claims (4)

  1. カルボン酸類から気相中で水素化することによりアルデヒド類を製造するための触媒であって、
    前記触媒において、パラジウムを被覆する酸化鉄と、パラジウムの担体としての酸化鉄とが共に存在し、
    前記触媒に含まれるパラジウム(Pd元素換算)/前記触媒に含まれる酸化鉄(Fe23換算)のモル比が0.05〜0.6であり、且つ、前記のパラジウムを被覆する酸化鉄(Fe23換算)/前記のパラジウムの担体としての酸化鉄(Fe23換算)のモル比が0.1〜2である触媒。
  2. 前記パラジウムの直径が10nm以下である請求項1に記載の触媒。
  3. カルボン酸類から気相中で触媒を用いて水素化することによりアルデヒド類を製造する方法であって、前記触媒が、請求項1又は2に記載の触媒であるアルデヒド類の製造方法。
  4. 前記カルボン酸類が酢酸であり、前記アルデヒド類がアセトアルデヒドである請求項3に記載のアルデヒド類の製造方法。
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