以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)の条件で測定する。
本発明における一実施形態は、a)メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得、b)前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得、c)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し、d)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離し、e)前記有機層をアルカリでケン化して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し、f)前記粗製アルコール層を精製して第2級アルコールを得ることを有する、第2級アルコールの製造方法であって、前記反応器は、バッチ式および連続式に切り替え可能な2以上の反応器からなり、前記2以上の反応器の各反応器に飽和脂肪族炭化水素を添加することを有し、前記2以上の反応器の最も上流側の反応器にメタホウ酸を添加することを有し、前記最も上流側の反応器で前記酸化物をバッチ式で得ることを開始し、当該最も上流側の反応器の入口および出口における酸素濃度差のモニタリングを行って当該酸素濃度差が0.5体積%以上になったら、連続式に切り替えることを有する、第2級アルコールの製造方法である。かかる実施形態によれば、反応性が良好な、つまり、生産効率が良い連続式への立ち上げ方法を提供するができ、ひいては、生産効率が良い第2級アルコールの製造方法を提供することができる。
以下、各工程について仔細に説明する。
(工程(a))
((a)工程:酸化反応工程)
(a)工程では、メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素(本明細書中、単に「酸素」とも称する)を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を、分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得る。
本明細書中「飽和脂肪族炭化水素」は、特に制限しない限り、炭素数8〜30の飽和脂肪族炭化水素(ノルマルパラフィン)の混合物である。好ましくは、飽和脂肪族炭化水素は、炭素数10〜15の飽和脂肪族炭化水素(n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン及びn−ペンタデカン)を主成分として含む混合物であり、より好ましくは、炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素(n−ドデカン、n−トリデカン及びn−テトラデカン)を主成分として含む混合物である。ここで、「飽和脂肪族炭化水素を主成分として含む」とは、所定の炭素数の飽和脂肪族炭化水素を全飽和脂肪族炭化水素に対して90質量%超(好ましくは95質量%超)(上限:100質量%)の割合で含むことを意味する。また、飽和脂肪族炭化水素の平均分子量は、114以上422以下であり、好ましくは142以上212以下、より好ましくは170以上198以下である。飽和脂肪族炭化水素は、合成してもまたは市販品であってもよい。同様にして、メタホウ酸も、合成してもまたは市販品であってもよい。合成の方法の一実施形態を後述の<メタホウ酸の製造方法>の項で説明する。
(a)工程において、前記反応器は、バッチ式および連続式に切り替え可能な2以上の反応器からなり、前記2以上の反応器の各反応器に飽和脂肪族炭化水素を添加することを有し、前記2以上の反応器の最も上流側の反応器にメタホウ酸を添加することを有し、前記最も上流側の反応器で前記酸化物をバッチ式で得ることを開始し、当該最も上流側の反応器の入口および出口における酸素濃度差のモニタリングを行って当該酸素濃度差が0.5体積%以上になったら、連続式に切り替えることを有する。
図1は、酸素濃度を測定することが可能な反応器を示す概略図である。図1に示されるように、(複数の)反応器1は、2つの反応器(11,12)から構成されている。最も上流側の反応器(図1では反応器11)および必要に応じ1つ以上の反応器(図1では反応器12)の容積は、目的物の製造量に応じて適宜決定すればよい。かかる2つの反応器(11,12)は、配管2で連結されることによってバッチ式および連続式に切り替え可能となっている。各反応器(11,12)は、飽和脂肪族炭化水素およびメタホウ酸が添加される入口3と、分子状酸素を含有する反応ガスが導入される入口4と、分子状酸素を含有する反応ガスが排出される出口5とを備えている。
本発明の一実施形態では、反応ガスは、分子状酸素を含む。その他に、アンモニア等を含みうる。反応ガスは、循環ガスとともに、入口4を経由して、各反応器(11,12)に導入されうる。循環ガスとしては不活性ガスが挙げられ、例えば、窒素ガス等が好適である。本発明の一実施形態では、反応ガス中のアンモニアの濃度は、10体積ppm〜1000体積ppmでありうる。
本発明の一実施形態では、各反応器(11,12)における、入口4および出口5にはそれぞれ酸素濃度を測定できる測定器が備えられている(図示せず)。入口4および出口5は、それぞれ、ガス配管からなる。本発明の一実施形態では、反応器11の入口4(ガス配管)および出口5(ガス配管)にそれぞれ1つ酸素濃度を測定できる測定器が備えられ、反応器12の入口4(ガス配管)および出口5(ガス配管)にそれぞれ1つ酸素濃度を測定できる測定器が備えられ、それぞれ1つ酸素濃度を測定できる測定器が備えられている。
かような測定器が備えられることによって入口4および出口5における酸素濃度差のモニタリングを行うことが可能となっている。平たく言えば入口4から入った酸素の濃度が出口5で少なくなっていることは酸化反応が進んでいることを意味する。本発明の一実施形態では、最も上流側の反応器(図1では反応器11)および必要に応じその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)での入口および出口における酸素濃度差のモニタリングを行って当該酸素濃度差が0.5体積%以上になったら、連続式に切り替える。本発明の一実施形態では、前記2以上の反応器の各反応器の入口および出口における酸素濃度差のモニタリングを行い、当該酸素濃度差が0.5体積%以上になったら、連続式に切り替える。ここで当該酸素濃度差が0.5体積%未満であると、連続式での酸化反応の反応性が悪化し、生産効率が良い第2級アルコールの製造方法を提供することができない。なお、本明細書において酸素濃度差は、(入口における酸素濃度(体積%))−(出口における酸素濃度(体積%))で算出できる。
本発明の一実施形態において最も上流側の反応器(図1では反応器11)およびその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)での入口および出口における酸素濃度差は、それぞれ独立して、0.5体積%以上(好ましくは1.0体積%以上)。本発明の一実施形態において最も上流側の反応器(図1では反応器11)およびその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)での入口および出口における酸素濃度差は、それぞれ独立して、10体積%以下(好ましくは5.0体積%以下)である。かような実施形態であることによって酸化反応を安定的に行わせることができる。
本発明の一実施形態では、各反応器(図1では反応器11,12)に入口3を経由して飽和脂肪族炭化水素を添加する。
本発明の一実施形態では、反応器の最も上流側の反応器(図1では反応器11)にメタホウ酸を添加することを有する。本発明の一実施形態において、反応器の最も上流側の反応器(図1では反応器11)に含まれる飽和脂肪族炭化水素に対し、メタホウ酸を10質量%未満、7質量%以下、5質量%以下、あるいは3質量%以下の濃度で添加する。メタホウ酸を10質量%以上の濃度で当該反応器に添加すると、少なくとも最も上流側の反応器の入口および出口における酸素濃度差を0.5体積%以上とすることができない虞がある。本発明の一実施形態において、反応器の最も上流側の反応器(図1では反応器11)に含まれる飽和脂肪族炭化水素に対して、メタホウ酸を、例えば、0.1質量%以上の濃度で添加するがこれに制限されない。
本発明の一実施形態において、最も上流側の反応器(図1では反応器11)のみならずより好ましくはその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)にメタホウ酸を添加することを有する。このようにメタホウ酸を各反応器(図1では反応器11,12)に分割して添加することによってメタホウ酸による飛沫同伴量を抑制し配管閉塞を有意に抑制しひいては生産効率を向上させる技術的効果を有する。
本発明の一実施形態において、その他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)に含まれる各飽和脂肪族炭化水素に対してメタホウ酸をそれぞれ独立して10質量%未満、7質量%以下、5質量%以下、あるいは3質量%以下の濃度で添加する。かかる実施形態によれば、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。本発明の一実施形態において、その他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)に含まれる各飽和脂肪族炭化水素に対してメタホウ酸をそれぞれ独立して、例えば、0.1質量%以上の濃度で添加するがこれに制限されない。
本発明の一実施形態において、最も上流側の反応器(図1では反応器11)およびその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)の内温を、それぞれ独立して、140℃超200℃以下、150〜190℃、あるいは、160〜180℃に設定する。140℃以下であると、少なくとも当該最も上流側の反応器の入口および出口における酸素濃度差を0.5体積%以上とすることができない虞がある。また140℃超200℃以下にすることで安定的に酸化反応を行わせることができる。ここで「内温」は、反応器中に含まれる内容物に接触するように設置された温度計で計測される値を意味する。
本発明の一実施形態において、最も上流側の反応器(図1では反応器11)およびその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)に導入する反応ガスの温度をそれぞれ独立して、140℃超200℃以下、150〜190℃、あるいは、160〜180℃に設定する。かかる実施形態によって、酸素濃度差を効率的に0.5体積%以上とすることができる。また140℃超200℃以下にすることで安定的に酸化反応を行わせることができる。ここで反応ガスの温度は、反応ガスに接触するように設置された温度計で計測される値を意味する。また、反応ガスの風量は、それぞれ独立して、飽和脂肪族炭化水素1000g当り、100〜1000リットル/時間、好ましくは350〜600リットル/時間等である。
本好ましい実施形態において、最も上流側の反応器(図3では反応器41)およびその他の1つ以上の反応器(図3では反応器42)に、循環ガスを導入することを有する。なお、循環ガスの好ましい温度範囲は、反応ガスの好ましい温度範囲と同じである。
本発明の一実施形態において、最も上流側の反応器(図1では反応器11)および必要に応じその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)に反応ガスの導入および導入停止を繰り返す断続的供給を実施する。この際、前記断続的供給はモニタリングを行いながら実施する。つまり前記モニタリングは、前記反応ガスの導入および導入停止を繰り返す断続的供給で実施することを有する。具体的な操作方法を説明すると、例えば、最も上流側の反応器(図1では反応器11)およびその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)に前記反応ガスを任意の時間導入する。その後、前記反応ガスの導入を任意の時間、停止する。この1回の反応ガスの導入および1回の導入停止を1回行うことを1サイクルとして複数サイクルで前記反応ガスの供給を行っていく。このサイクルの回数にも特に制限はなく、前記モニタリングを行って酸素濃度差が0.5体積%以上となるまで行えばよいが、目安としては例えば、1〜10回程度、2〜7回程度、あるいは3〜6回程度であるがこれに制限されない。
本発明の一実施形態において、前記導入する際、最も上流側の反応器(図1では反応器11)およびその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)に導入される反応ガスにおける酸素濃度は、それぞれ独立して、0.5体積%(vol%)以上10体積%(vol%)以下、好ましくは0.5体積%(vol%)以上2.5体積%(vol%)以下等)程度である。
本発明の一実施形態において、前記導入する際、前記反応ガス中の分子状酸素の濃度を単調増加させる。また、本発明の一実施形態において、前記導入する際、前記反応ガス中の分子状酸素の濃度の変化における最小二乗法で計算した傾きが正である。このように断続的供給するにあたって時間の経過とともに反応ガス中の分子状酸素の濃度を(単調)増加させる(つまり減少させない、または、増加させる)、あるいは、濃度の変化における最小二乗法で計算した傾きが正となる(つまり、経時的な変化の中で濃度が減少する場合があってもよいが平均すると濃度は増加されている)ことによって反応性を良好としたまま連続式とすることができ生産量増加できる。
本発明の一実施形態において、前記断続的供給における1回の導入時間を0.5〜10分、0.5〜5分、あるいは0.5〜3分に設定する。かような実施形態であることによって効率的に所定酸素濃度差にせしめることができる。
本発明の一実施形態において、前記断続的供給における1回の導入停止時間を0.5〜10分、1〜10分に設定する。
本発明の一実施形態において、所定酸素濃度差となった後、反応ガスの断続的供給を連続的供給に切り替える。本発明の一実施形態において、図1中、反応器11,12の反応器11の入口4から反応ガスの連続的供給をする。
本発明の一実施形態において、前記連続式に切り替え後、飽和脂肪族炭化水素をさらに供給することを有する。本発明の一実施形態において、前記連続式に切り替え後、飽和脂肪族炭化水素を順次供給する。本発明の一実施形態において、反応ガスの断続的供給を連続的供給に切り替えた後、飽和脂肪族炭化水素を順次反応器11の入口3から供給する。
本発明の一実施形態において、最も上流側の反応器(図1では反応器11)およびその他の1つ以上の反応器(図1では反応器12)を連通させる。このようにしてバッチ式から連続式(連続流通式)を立ち上げて、酸化物を含有する反応液(酸化反応生成物)を得る。ここで、連続式に切り替え後に供給される飽和脂肪族炭化水素は、上記にて反応器(11,12)に添加される飽和脂肪族炭化水素と同じであってもまたは異なるものであってもよいが、同じであることが好ましい。
本発明の一実施形態において、酸化反応工程は、大気圧(常圧)下、加圧下または減圧下で行ってもよいが、通常、大気圧(常圧)〜30kg/cm2G下で行う。また、上記液相酸化反応は、攪拌しながら行ってもよい(反応器が撹拌機を備えていてもよい)。
本発明の一実施形態において、反応器の1以上は、例えば、撹拌槽式または気泡塔式であってもよい。
<メタホウ酸の製造方法>
本発明の一形態は、i)飽和脂肪族炭化水素の存在下でオルトホウ酸を脱水器で脱水し、メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および水を含む混合物を得(工程(i));ii)前記飽和脂肪族炭化水素の一部および水を前記混合物から留去した後、飽和脂肪族炭化水素と水とを分離し(工程(ii));iii)前記ii)で分離した飽和脂肪族炭化水素を前記i)に戻す(工程(iii))、ことを有し、前記i)において、前記飽和脂肪族炭化水素中のアルコール成分の含有量が、2質量%未満である、メタホウ酸の製造方法(第一の側面)である。
第2級アルコールを製造する方法として、a)メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素含有ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得(工程(a−1))、前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得(工程(a−2))(上記工程(a−1)および(a−2)を一括して「工程(a)」とも称する)、b)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し(工程(b))、c)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸を含む水層と有機層とに分離し(工程(c))、d)前記有機層をアルカリでケン化処理して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し(工程(d))、e)前記粗製アルコール層を精製する(工程(e))ことが行われている。上記方法において、未反応の飽和炭化水素がいくつかの工程(例えば、上記b)の工程)から回収でき、この未反応飽和炭化水素を反応系内で再利用することはプロセス上有用である(例えば、特開昭56−131531号公報)。このため、飽和脂肪族炭化水素の存在下でオルトホウ酸を脱水器で脱水してメタホウ酸を製造する際に、上記したような第2級アルコールの製造過程で回収される未反応の飽和脂肪族炭化水素(回収飽和脂肪族炭化水素)を再利用することを試みたが、回収された未反応の飽和脂肪族炭化水素のみをそのまま反応に用いると、内壁や配管に付着物が生成し、生産効率の低下や機器トラブルが発生し、メタホウ酸を安定して製造することができなかった。本発明者らは、様々な方法にて安定したメタホウ酸製造プロセスにつき、鋭意検討を行った。その結果、第2級アルコール製造過程で(例えば、酸化反応後に)回収された未反応の飽和脂肪族炭化水素(回収飽和脂肪族炭化水素)に含まれるアルコールが付着物の原因となるボレート化合物を生成するためであると推測した。このため、メタホウ酸の製造に使用される飽和脂肪族炭素中のアルコール含有量につき、鋭意検討を行った結果、オルトホウ酸の脱水反応に使用する飽和脂肪族炭化水素中のアルコール含有量を2質量%未満に制御することにより、付着物の原因となるボレート化合物の形成を抑制・防止できることを見出した。上記方法によれば、脱水反応中反応器や配管の内壁に付着物がつかないので、攪拌動力の増加や配管の閉塞を有効に防止できる。ゆえに、上記方法によれば、メタホウ酸を安定して製造できる。これに対して、上記特許文献1に記載の方法で回収された未反応炭化水素を上記脱水反応に循環する場合には、反応器や配管の内壁に付着物がつき、攪拌動力の増加や配管の閉塞を引き起こす可能性がある。これは、回収された未反応の飽和脂肪族炭化水素は飽和脂肪族炭化水素の少なくとも1個の水素原子が水酸基に置換されたアルコールを2質量%以上の割合で含むため、このアルコールが脱水工程でオルトホウ酸と反応してボレート化合物が生成し、これが付着物の原因となると推定される。なお、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは推定であり、本発明は上記推定に限定されるものではない。
以下、第一の側面の各工程について説明する。
(工程(i))
本工程では、脱水器に、飽和脂肪族炭化水素(本明細書では、飽和脂肪族炭化水素を、単に「炭化水素」とも称する)およびオルトホウ酸を仕込んで、スラリーを調製し、飽和脂肪族炭化水素の存在下でオルトホウ酸を脱水する。これにより、メタホウ酸が製造され、メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および水ならびに場合によっては未反応のオルトホウ酸を含む混合物(スラリー)が得られる。
本工程では、仕込まれる飽和脂肪族炭化水素(原料飽和脂肪族炭化水素)中のアルコール成分の含有量は、2質量%未満である。原料飽和脂肪族炭化水素中のアルコール成分の含有量が2質量%以上であると、オルトホウ酸の脱水反応中にボレート化合物が生成し、反応器内壁や配管の内壁への付着物の形成を誘発し、メタホウ酸を安定して製造できない。より安定したメタホウ酸の製造の観点から、飽和脂肪族炭化水素中のアルコール成分の含有量は、好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%未満(下限:0質量%または検出限界以下)である。すなわち、本発明の好ましい形態では、前記i)において、飽和脂肪族炭化水素中のアルコール成分の含有量が、1.5質量%以下である。本発明のより好ましい形態では、前記i)において、飽和脂肪族炭化水素中のアルコール成分の含有量が、1質量%未満である。本明細書において、飽和脂肪族炭化水素中のアルコール成分の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定された値を採用する。なお、上記「アルコール成分」とは、炭素数6〜30の飽和脂肪族炭化水素の水素原子が水酸基で置換されたアルコール(混合物)をいう。また、上記「アルコール成分」は、好ましくは炭素数8〜20の飽和脂肪族炭化水素の水素原子が水酸基で置換されたアルコールを主成分として含む混合物、より好ましくは炭素数10〜15の飽和脂肪族炭化水素の水素原子が水酸基で置換されたアルコールを主成分として含む混合物、特に好ましくは炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素の水素原子が水酸基で置換されたアルコールを主成分として含む混合物を意図する。
ここで、飽和脂肪族炭化水素は、炭素数8〜30の飽和脂肪族炭化水素(ノルマルパラフィン)の混合物である。好ましくは、飽和脂肪族炭化水素は、炭素数10〜15の飽和脂肪族炭化水素(n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン及びn−ペンタデカン)を主成分として含む混合物であり、より好ましくは炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素(n−ドデカン、n−トリデカン及びn−テトラデカン)を主成分として含む混合物である。ここで、「飽和脂肪族炭化水素を主成分として含む」とは、所定の炭素数の飽和脂肪族炭化水素を全飽和脂肪族炭化水素に対して90質量%超(好ましくは95質量%超)(上限:100質量%)の割合で含むことを意味する。また、飽和脂肪族炭化水素の平均分子量は、114以上422以下であり、好ましくは142以上212以下、より好ましくは170以上198以下である。飽和脂肪族炭化水素は、合成してもまたは市販品であってもよい。同様にして、オルトホウ酸も、合成してもまたは市販品であってもよい。
本開示において、飽和脂肪族炭化水素とオルトホウ酸との混合比は、特に制限されず、従来と同様の混合比が適用できる。具体的には、飽和脂肪族炭化水素とオルトホウ酸との混合比(飽和脂肪族炭化水素:オルトホウ酸の混合質量比)は、0.5〜5:1であり、好ましくは1:1を超え3:1未満である。また、オルトホウ酸の添加量は、混合物(スラリー)中、15〜90質量%、好ましくは25質量%を超え45質量%未満等であるが、これに制限されない。
本開示において、飽和脂肪族炭化水素存在下でのオルトホウ酸の脱水条件は、特に制限されず、従来と同様の条件が同様にして適用できる。例えば、脱水温度は、100℃以上200℃未満であり、好ましくは130℃以上180℃以下である。脱水時間は、実質的にすべてのオルトホウ酸がメタホウ酸に変換される時間であり、他の条件(例えば、オルトホウ酸の仕込み量、飽和脂肪族炭化水素とオルトホウ酸との混合比、脱水温度など)に応じて適宜選択できる。脱水時間は、例えば、3〜7時間であり、好ましくは4〜6時間である。脱水時間が上記範囲であれば、脱水を適度に進行させて、メタホウ酸を効率よく製造できる。または、反応器内に生成するメタホウ酸量を定期的に測定して、実質的にすべてのオルトホウ酸がメタホウ酸に変換したかを判定して、所望量のメタホウ酸が生成した時点で脱水反応を終了させてもよい。ここで、「実質的にすべてのオルトホウ酸がメタホウ酸に変換する」とは、オルトホウ酸の仕込み量 1モルに対して、0.9モル超(好ましくは0.95モル超)(上限:1モル)のメタホウ酸が変換することを意味する。混合物中のメタホウ酸の量は、公知の方法によって測定できる。本明細書では、メタホウ酸の量は、X線結晶構造解析によって測定された値を採用する。
上記脱水反応は、大気圧下、加圧下または減圧下で行ってもよいが、通常、大気圧下で行う。また、上記脱水反応は、攪拌しながら行ってもよい(反応器が撹拌機を備えていてもよい)。ここで、脱水反応を攪拌しながら行う場合の攪拌速度は、特に制限されないが、例えば、20〜100rpm、好ましくは30〜60rpmである。このような攪拌速度であれば、原料(飽和脂肪族炭化水素とオルトホウ酸)が均一に混合できる(脱水反応を均質に行うことができる)。
脱水器(脱水反応を行うための反応器)は、いずれの材質で形成されてもよい。具体的には、鉄、銅、ステンレス(SUS)、ニッケル合金(例えば、ハステロイ)、インコネル、チタン、チタニアなどが挙げられる。これらのうち、ステンレス(SUS)、ニッケル合金(例えば、ハステロイ)、チタニアが好ましく、ステンレス(SUS)、ニッケル合金(例えば、ハステロイ)がより好ましい。以下に詳述するが、第2級アルコールの製造における加水分解工程後に分離されるオルトホウ酸を本工程で再使用することができる。この場合には、オルトホウ酸は有機物(脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム等の有機酸、有機酸塩、有機酸エステルなど)を含むが、この有機物が脱水反応中蒸発して、脱水器の腐食を招くことがある。このため、反応器の少なくとも気相部は、ニッケル合金、特に耐熱性、耐圧性および耐食性に優れるハステロイで形成されることが好ましい。すなわち、本開示の好ましい形態では、脱水器の少なくとも気相部はニッケル合金で形成される。本開示のより好ましい形態では、脱水器の少なくとも気相部は、ハステロイで形成される。また、本開示の好ましい形態では、脱水器全体が、ニッケル合金(より好ましくは、ハステロイ)で形成される。ここで、ハステロイとしては、ハステロイ C−22(組成:Ni 57.0質量%、Cr 20.5質量%、Mo 14.2質量%、Fe 2.3質量%、W:3.2質量%、V 0.25質量%、C 0.01質量%)、ハステロイ C−276(組成:Ni 57.0質量%、Cr 15.5質量%、Mo 16.0質量%、Fe 6.0質量%、W:4.0質量%、V 0.3質量%、C 0.01質量%)などが挙げられる。また、「脱水器の気相部」は、飽和脂肪族炭化水素、オルトホウ酸、水およびメタホウ酸の少なくとも一種の蒸気が接する脱水器の部分を意図する。具体的には、脱水器の気相部は、脱水器の頂上部から、脱水器の全高さに対して、好ましくは60%までの範囲(より好ましくは30%以上60%以下の範囲、特に好ましくは40%以上50%以下の範囲)までの部分である。すなわち、本発明の好ましい形態では、脱水器の頂上部から、脱水器の全高さに対して、60%までの範囲(より好ましくは30%以上60%以下の範囲、特に好ましくは40%以上50%以下の範囲)がニッケル合金で形成される。また、本発明は、メタホウ酸製造用の反応器であって、前記反応器の頂上部から前記反応器の全高さに対して60%までの範囲(好ましくは30%以上60%以下の範囲、より好ましくは40%以上50%以下の範囲)がニッケル合金で形成される、反応器をも提供する。さらに、「脱水器が材料Aで形成される」とは、脱水器が材料Aで形成される形態に加え、材料Bで形成された脱水器の内面が材料Aで被覆される形態を包含する。すなわち、例えば、「脱水器の少なくとも気相部はニッケル合金で形成される」は、脱水器全体がニッケル合金で形成される形態;他の材料(例えば、ステンレス)で形成された脱水器の気相部の内壁がニッケル合金で溶射またはライニング等により被覆される形態;他の材料(例えば、ステンレス)で形成された脱水器の全内壁がニッケル合金で溶射またはライニング等により被覆される形態を包含する。
本工程では、下記反応により、飽和脂肪族炭化水素の存在下でオルトホウ酸が分子内脱水して、メタホウ酸に変換される。メタホウ酸は、その結晶構造により、α型およびβ型があるが、熱安定性(クロッキング防止効果)などの観点から、β型メタホウ酸であることが好ましい。このようなβ型のメタホウ酸は、特公昭48−37242号公報に記載の方法や上記したような好ましい脱水条件によって製造できる。
(工程(ii))
本工程では、上記工程(i)で得られた脱水反応物から、飽和脂肪族炭化水素および水を留去した後、飽和脂肪族炭化水素と水とを分離する。
上記工程(i)の脱水工程中、飽和脂肪族炭化水素および水が蒸発する(飽和脂肪族炭化水素の蒸気および水蒸気の混合蒸気が発生する)。これらの混合蒸気を脱水反応器から抜き出して、分離する。ここで、混合蒸気を飽和脂肪族炭化水素と水とを分離する方法は、特に制限されない。例えば、これらの蒸気を脱水器の上部から系外に抜き出し、系外に抜き出された蒸気を液体に凝縮して、凝縮物をセトラー(分離槽)で水層(水)及び有機層(飽和脂肪族炭化水素)に分離する方法がある。このように分離された水層(水)及び有機層(飽和脂肪族炭化水素)のうち、水は系外に抜き出す。
(工程(iii))
本工程では、上記工程(ii)で分離した飽和脂肪族炭化水素を前記工程(i)に戻す。
本工程で分離された飽和脂肪族炭化水素は、付着物の原因となるボレート化合物を生成するアルコール成分(飽和脂肪族炭化水素の少なくとも1個の水素原子が水酸基に置換されたアルコール成分)をほとんど含まないまたは全く含まない。このため、オルトホウ酸の脱水反応中に蒸発した飽和脂肪族炭化水素をオルトホウ酸の脱水反応に使用しても、アルコール成分がオルトホウ酸と反応してボレート化合物を形成することがほとんどまたは全くない。ゆえに、反応器や配管の内壁への付着物の形成、ゆえに攪拌動力の増加や配管の閉塞を有効に防止できる。したがって、本開示の方法によれば、メタホウ酸を安定して製造できる。また、新鮮な炭化水素を別途添加する必要がないため、生産コストなどの観点からも好ましい。ここで、上記工程(ii)で分離した飽和脂肪族炭化水素中のアルコール成分の含有量は、上記工程(ii)で分離した飽和脂肪族炭化水素中、好ましくは2質量%未満であり、より好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%未満(下限:0質量%または検出限界以下)である。
((b)工程:エステル化工程)
(b)工程では、前記酸化物(酸化反応生成物)をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得る。(b)工程では、ボレート化合物が生成するが、それ以外にも未反応の脂肪族炭化水素、遊離のアルコール及びメタホウ酸が存在する。遊離のアルコールは、未反応の飽和脂肪族炭化水素と沸点が近いため、両者の分離が困難である。このため、エステル化工程(b)にて、このアルコールをオルトホウ酸エステル化してボレート化合物に変換する。
すなわち、上記工程(b)では、上記工程(a)で得られた酸化反応生成物に含まれる遊離のアルコールをエステル化(オルトホウ酸エステル化)してボレート化合物を得る。当該工程では、工程(a)で得られる酸化反応生成物中に存在する遊離アルコールをメタホウ酸と反応させてボレート化合物に変換するが、通常、酸化反応生成物中に余剰のメタホウ酸が存在するので、ここで新たにメタホウ酸を加える必要はないが、新しくメタホウ酸を加える場合もある。
ボレート化合物への変換の方法にも特に制限されないが、(a)工程で得られた酸化物を含有する反応液(酸化反応生成物)に対して減圧処理を施すことが好ましい。そうすることで、遊離のアルコールと、過剰に添加されていたメタホウ酸(あるいは新たに添加されたメタホウ酸)とでエステル化してボレート化合物を得ることができる。このエステル化の条件に特に制限はない。本発明の一実施形態において、(b)工程における圧力は、例えば、50〜200hPa、あるいは90〜170hPaである。本発明の一実施形態において、(b)工程における温度は、例えば、100〜220℃、あるいは160〜180℃である。本発明の一実施形態において、(b)工程における処理時間は、例えば、5〜80分、あるいは20〜60分である。なお、オルトホウ酸エステル化処理は、窒素気流中で行ってもよい。このような処理条件であれば、酸化反応生成物に含まれるアルコールがより効率よくオルトホウ酸エステル化できる(より高い収率でボレート化合物を生成できる)。
なお、上記(a)工程〜(b)工程において、以下の反応の発生が含まれる。
(工程(c):未反応の飽和脂肪族炭化水素の回収工程)
(c)工程では、上記工程(b)で得られたボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素(留出液)および蒸留残留物(塔底残留液)に分離して、未反応の飽和脂肪族炭化水素を回収する(未反応飽和脂肪族炭化水素回収工程)。留出液と塔底残留液とは沸点差が大きいため、蒸留により、容易に分離できる。
本工程において、ボレート化合物を蒸留方法としては、単蒸留(例えば、フラッシュ蒸留)、分子蒸留などの公知の方法が使用できるが、これに特に制限されない。蒸留圧力は、例えば、1〜50hPa、好ましくは3〜25hPaの減圧下で行われるが、これに制限されない。蒸留温度(特に塔底温度)は、130〜250℃、好ましくは150〜205℃等であるが、これに制限されない。蒸留時間は、1〜205分、好ましくは25〜120分等であるが、これに制限されない。
本工程で回収された未反応飽和脂肪族炭化水素は、上記酸化反応工程(a)に再利用(循環)してもよい。この場合には、例えば、留出液の飽和脂肪族炭化水素を除去した後そのまま上記酸化反応工程(a)に再利用しても;本工程で回収した飽和脂肪族炭化水素に含まれるカルボニル化合物及びオレフイン類を水素添加した後、酸化反応工程(a)に再利用しても;または、例えば、特開昭56−131531号公報に記載されるように、本工程で回収した飽和脂肪族炭化水素を、例えば、アルカリ水溶液と接触させて脂肪酸及び脂肪酸エステルを含む有機層と水層とに分離し、必要であれば有機層を熱水で洗浄し(アルカリ処理工程)、有機層に含まれる未反応飽和脂肪族炭化水素を水素処理した(水素処理工程)後、未反応飽和脂肪族炭化水素に含まれるアルコール成分をオルトホウ酸エステル化した(エステル化工程)後、酸化反応工程(a)に再利用してもよいが、上記に制限されない。なお、上記回収工程にて回収された飽和脂肪族炭化水素には、アルコール成分が2質量%以上(例えば、2〜5質量%程度)含まれる。
(工程(d):加水分解工程)
本工程では、上記工程(c)で分離された蒸留残留物を加水分解して、オルトホウ酸を含む水層と有機層とに分離する。
具体的には、蒸留残留物に熱水を添加して加水分解して、オルトホウ酸を含む水層と有機層とに分離する。ここで、熱水の温度(液温)は、70〜150℃、好ましくは90〜100℃等であるが、これに制限されない。また、熱水の添加量は、蒸留残留物に対して、1〜20質量倍、好ましくは2〜10質量倍等であるが、これに制限されない。加水分解時間は、5〜60分間、好ましくは20〜30分間等であるが、これに制限されない。このような条件であれば、蒸留残留物を十分加水分解して、オルトホウ酸を含む水層と有機層とをより効率よく分離できる。
(工程(e):ケン化工程)
本工程では、上記工程(d)で分離された有機層をアルカリでケン化処理して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層とに分離する(ケン化工程)。これにより、有機酸や有機酸エステルが除去できる。
ここで、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが使用できるが、これに制限されない。また、上記アルカリによるケン化処理後に必要であれば、水洗してもよい。ケン化条件は、特に制限されず、従来と同様の条件が同様にして適用できる。例えば、ケン化温度は、120〜160℃であり、好ましくは135〜145℃等であるが、これに制限されない。ケン化時間は、30〜120分間、好ましくは50〜90分間等であるが、これに制限されない。このような条件であれば、ケン化処理がより効率よく進行できる。
(工程(f):アルコール精製工程)
本工程では、上記工程(e)で分離された粗製アルコール層を精製する。これにより、目的とする第2級アルコールが得られる。
ここで、精製方法としては、特に制限されず、公知の方法を同様にしてまたは適宜修飾して適用できる。例えば、粗製アルコール層を蒸留または分留することによって、精製できる。この際の精製圧力は、1〜45hPa、好ましくは4〜12hPa等であるが、これに制限されない。このような条件であれば、沸点範囲によって適切に(例えば、沸点範囲95℃以上120℃未満の留分および沸点範囲120〜150℃の留分に)分離できる。上記場合において、沸点範囲95℃以上120℃未満の留分は、通常、少量の飽和脂肪族炭化水素、カルボニル化合物および1価第1級アルコール(モノアルコール)を含む。また、沸点範囲120〜150℃の留分は、微量のカルボニル化合物および第2級アルコール(モノアルコール)を含み、この際、上記第2級アルコールの大部分は所望の1価第2級アルコールである。
なお、上記工程(e)と本工程(f)との間に、従来公知の方法に従って、重質分離工程、アルカリ処理工程(特に水酸化カリウム処理工程)および軽質分離工程から選択される少なくとも一工程を行ってもよい。
以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例および比較例に限定して解釈されるものではなく、各実施例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も本発明の範囲に含まれる。
(実施例1)
<(a):酸化工程>
図1に示されるように直列に繋いだ2つの反応器1の各反応器(11,12)に炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素の混合物(平均分子量が184であり、炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素(n−ドデカン、n−トリデカン及びn−テトラデカン)を混合物の全質量に対して95質量%を超える割合で含む)(以下、NPとも称する)をそれぞれ1000g、1000g張り込んだ。次いで、各反応器(11,12)にメタホウ酸をNPに対してそれぞれ1質量%、1質量%となるように張り込んだ。
各反応器(11,12)の内温を全て170℃に昇温した。その後、循環ガス(窒素ガス:170℃)を、入口4を経由して各反応器(11,12)に導入した。
次いで、各反応器(11,12)に対して反応ガスの導入および導入停止を繰り返す断続的供給を実施した。
より具体的には、各反応器(11,12)に導入する反応ガスの温度はいずれも170℃となるように調整した。またこの際の各反応器(11,12)に導入される反応ガスの酸素濃度は、それぞれ0.5〜10体積%、0.5〜10体積%となるように調整した。この際、各反応器(11,12)への反応ガスの1回の導入時間は1〜3分に設定した。また反応ガスの1回の導入停止の時間も1〜3分に設定した。なお、前記導入は、前記反応ガス中の分子状酸素の濃度の変化における最小二乗法で計算した傾きが正となるように行った。
そして、前記断続的供給は、各反応器(11,12)の入口4および出口5における酸素濃度差のモニタリングを行いながら実施した。各反応器(11,12)に反応ガスを最初に導入してから1.0時間で所定酸素濃度差が1.0体積%(つまり、0.5体積%以上)となったことを確認した。
上記の確認後、反応ガスの断続的供給を連続的供給に切り替え、NPを順次50mL/minで、反応器11の入口3から供給し、各反応器(11,12)を連通し、連続式(連続流通式)で酸化反応工程を行い、酸化物(酸化反応混合液)を得た。
<(b)〜(f)工程>
酸化反応後、酸化物を含有する反応液(酸化反応生成物)を減圧することでアルコールと、過剰に添加されていたホウ酸とでエステル化してボレート化合物を得た。このエステル化は105hPa、165℃、60分で行った(エステル化工程)。次に、このボレート化合物(ホウ酸エステル混合物)を200℃、7hPaで蒸留を行うことで未反応飽和脂肪族炭化水素を除去した(未反応飽和脂肪族炭化水素回収工程)。次いで、残留液を多量(残留液に対して2質量倍量)の95℃の熱水で20分加水分解し、オルトホウ酸を含む水層および有機層とに分離した(加水分解工程)。得られた有機層を水酸化ナトリウムを用いて140℃で70分間ケン化処理および水洗を行い、有機酸および有機酸エステルを除去した(ケン化工程)。この有機層を7hPaで分留し、第一留分として沸点範囲95℃以上120℃未満留分および第二留分として沸点範囲120〜150℃留分を得た。ここで、第一留分(沸点範囲95〜120℃留分)は、少量の飽和脂肪族炭化水素、カルボニル化合物および1価第一級アルコール(モノアルコール)の混合物であった。第二留分(沸点範囲120〜150℃留分)は、微量のカルボニル化合物および第2級アルコール(モノアルコール)の混合物であり、この際、第2級アルコールの大部分は1価第2級アルコールであった。
この方法で連続式(連続流通式)で立ち上げたことによって一日における第2級アルコールの生産量は4kgとなったため、酸化工程の反応性が良好と判断した。
なお、本実施形態では「直列」で実験を行ったが、「並列」にすることによっても同様の結果を得ることを確認している。
(実施例2)
前記反応ガスが空気の代わりに空気とアンモニアとを混合させたものであること以外は実施例1と同様の方法で行った。この時、各反応器(11,12)に導入される反応ガス中のアンモニア濃度は、それぞれ10体積ppm〜1000体積ppm、10体積ppm〜1000体積ppmとなるように調整した。
この方法で連続式(連続流通式)で立ち上げたことによって一日における第2級アルコールの生産量は4kgとなったため、酸化工程の反応性が良好と判断した。
(比較例1)
実施例1において各反応器(11,12)の内温を全て140℃に変更した。その結果、酸素濃度差が0.1体積%(つまり0.5体積%未満)であった。この方法で連続式(連続流通式)に立ち上げたことによって、一日における第2級アルコールの生産量は0.7kgとなったため、酸化工程の反応性が不良と判断した。
(比較例2)
実施例1において各反応器(11,12)にメタホウ酸をNPに対してそれぞれ11質量%、11質量%となるように張り込んだ。その結果、酸素濃度差が0.1体積%と、0.5体積%未満であった。この方法で連続式(連続流通式)に立ち上げたことによって、一日における第2級アルコールの生産量は0.7kgとなったため、酸化工程の反応性が不良と判断した。
(比較例3)
実施例1において、断続的供給を各反応器(11,12)に反応ガスを最初に導入してから0.5時間か行わなかった。その結果、酸素濃度差が0.1体積%と0.5体積%未満であった。この方法で連続式(連続流通式)に立ち上げたことによって、一日における第2級アルコールの生産量は0.7kgとなったため酸化工程の反応性が不良と判断した。
(実施例3)
図2に示される容量5Lの撹拌機2付き反応器1に、炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素の混合物(平均分子量:184、図2中では「NP」と示す)1700gおよびオルトホウ酸 1000gを仕込んで、オルトホウ酸混合物Mを調製した。なお、原料である飽和脂肪族炭化水素の混合物は、炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素(n−ドデカン、n−トリデカン及びn−テトラデカン)を炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素の混合物の全質量に対して95質量%を超える割合で含む。また、飽和脂肪族炭化水素の混合物中のアルコール成分の含有量をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、検出限界以下であった(アルコール成分を実質的に含んでいなかった)。反応器1として、全体がステンレス(SUS316)で形成され、反応器上部3(図2中の斜線部分;ハステロイ被覆部分の高さ/反応器の全高さ=45%)内壁がハステロイ C−22(組成:Ni 57.0質量%、Cr 20.5質量%、Mo 14.2質量%、Fe 2.3質量%、W:3.2質量%、V 0.25質量%、C 0.01質量%)で0.5mmの厚みでライニングされたものを使用した(脱水器の頂上部から脱水器の全高さに対して45%までの反応器上部がハステロイで被覆される)。
得られたオルトホウ酸混合物Mを、撹拌機2で45rpmの速度で撹拌しながら、蒸気により160℃まで加熱して、5時間、飽和脂肪族炭化水素の混合物の存在下でオルトホウ酸を分子内脱水させて、β型メタホウ酸に変換した。これにより、β型メタホウ酸630gおよび飽和脂肪族炭化水素1700gを含む混合物2330gを得た(β型メタホウ酸の収率:オルトホウ酸1モルに対して、1モル)(工程(i))。なお、β型メタホウ酸であることはX線結晶構造解析によって確認した。また、上記脱水反応中には水蒸気および飽和脂肪族炭化水素の蒸気(図2中の「水+NP」)が発生するが、これらの蒸気を反応器上部から配管4を通じて系外に抜出し、凝縮器5に導入して、蒸気を凝縮し、凝縮器で凝縮された水および飽和脂肪族炭化水素を分離槽(セトラー)6に導入し、水と飽和脂肪族炭化水素(NP)とを分離し(工程(ii))、水は系外へ抜出し、飽和脂肪族炭化水素(NP)は配管7を通じて反応器1に戻しながら上記脱水反応を行った。なお、分離槽(セトラー)6で分離した後の飽和脂肪族炭化水素(NP)中のアルコール成分の含有量をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、検出限界以下であった(アルコール成分を実質的に含んでいなかった)。
上記反応終了後、反応器内壁や配管内部を目視にて観察した。その結果、反応器内壁や配管内部には付着物はほとんど確認されなかった。また、反応器内壁(特に反応器上部内壁)には腐食は全く認められなかった。
図2に示されるように直列に繋いだ2つの反応器1の各反応器(11,12)に炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素の混合物(平均分子量が184であり、炭素数12〜14の飽和脂肪族炭化水素(n−ドデカン、n−トリデカン及びn−テトラデカン)を混合物の全質量に対して95質量%を超える割合で含む)(以下、NPとも称する)をそれぞれ973g、973g張り込んだ。次いで、各反応器(11,12)に先に合成したβ型メタホウ酸とNPの混合物をそれぞれ37g、37g(メタホウ酸がNPに対してそれぞれ1質量%、1質量%となるように)張り込んだ以外は実施例1と同様の方法によって第2級アルコールを生産した。この方法で連続式(連続流通式)で立ち上げたことによって一日における第2級アルコールの生産量は4kgとなったため、酸化工程の反応性が良好と判断した。なお、本実施形態では「直列」で実験を行ったが、「並列」にすることによっても同様の結果を得ることを確認している。